赤き力の世界にて

 

 

 

 

 

第23話「魔人と戦神・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かつて・・・・・カタート山脈は水竜王アクア・ロードという神が住まう場所だったらしい。

まだ水竜王アクア・ロードが健在のころは高山とは思えないほど木々が生い茂り、

かなりの人が礼拝といった目的で山を登っていたらしい。

 

 

だが・・・・約千年前。

冥王ヘル・マスターの目論見により、赤眼の魔王ルビーアイ・・・・その欠片の一部が目覚めた。

そして魔王は神の一柱である水竜王アクア・ロードと闘い・・・この地カタート山脈に封印された。

 

これが俗にいう『降魔戦争』といったものらしい。

 

 

 

俺はかつては神殿があり、魔王が封印されていただろう所を想像した。

今・・・この地には、その痕跡をうかがわせるものは、欠片も残ってはいない・・・・・

 

 

 

「本当に・・・なにもないな」

 

 

頂上で俺を待っていた光景は・・・・真っ平らに削られた台地であった。

三百六十度、俺の視界を遮るものはなにもない

洒落や冗談ではなく、文字そのままの意味だ。

 

この状況を・・・・人一人がなんの道具も使わずにやってのけたと思うと正直いって感心する。

あくまでこの状況は魔王を消滅させる余波でこうなったのだ。意識してやったものではないはずだ。

 

俺は・・・・・今度の敵の力を少々侮っていたのかもしれない。

 

 

「こうして改めて見ると・・・・相変わらず混沌の力は絶大なものだな」

「らしいな・・・・」

 

 

俺とニースは中央ぐらいの位置で対峙した。

見た目上はなんの変化もないが、ニースの闘氣は身体から溢れ出すほどに高まっている。

あまりに高密度の闘氣のためか、俺は身体に石のつぶてをぶつけられたかのような錯覚に陥っていた。

 

 

「では・・・・そろそろ闘おうか?」

「そうだな・・・・早めに勝負をつけたいからな」

「早めに勝負をつけてあの者達の加勢に行きたい・・・・とは言わないのだな」

「絶対に勝てるという自信はないからな」

「謙虚なのだな。それほどの実力を持ちながら・・・・」

「限りなく本音なんだけどな・・・・」

「どちらでも構わん。その答えは闘いの最後におのずとわかることだからな」

 

 

そう言い終えると、ニースは右腕を目の高さまで軽く持ち上げた。

そして何かを掴むかのように広げていた五指を握りしめると同時にその手の中に一振りの剣が現れた。

 

その剣は、ルナさんとの闘いに使用したような大剣グレート・ソードではなく、

リナちゃん達と戦った時の形状に近いものだった。

相違点といえば、以前よりも赤い色合いが強く、華美でないほど装飾されていることだろうか・・・

柄にある赤い宝玉の為か、ルナさんの剣に似た感じを受ける。魔気と神気の違いはあるが・・・・

 

 

俺もその剣に対抗するべく、腰に下げてあったDFSを掴み、起動させる。

刃はいつも通り、ディストーション・フィールドを集束させた光の刃だ。

本来なら、いくら破壊力があろうとも物理攻撃なので、魔族にはダメージを与えることはできないのだが、

ニースに限ってはその範囲に含まれないらしい。

 

ルナさんが言うには、

『ニースは私と同じように身体に宿った力を融合ではなく、意志の力で魂の内に取り込んだのだから、

普通の人間と同じように物理攻撃だけで十分致命傷を与えることができるはず』

・・・・ということらしい・・・・

 

早い話が、魔王の意志をはね除け、その力だけを受け継いだ・・・・ということだろう。

 

だが・・・物理攻撃が効くといっても、

下手な魔法では傷がつかないほどの力を普段から纏っているらしいからな・・・

俺のおぼえたての魔法などは牽制の役ぐらいにしかならないだろうな・・・・・

 

 

「それを見るのは二度目になるが・・・・・奇妙な武器だな。

以前に見た、『烈光の剣ゴルン・ノヴァ』に似ている様な気もするが・・・・」

 

「??・・・・もしかしてリナちゃん達が言っていた『光の剣』とかいうやつか?」

「そうともいっていたらしいな」

「刃の部分が光っているからだろうな・・・・威力はどっちが上なのかまでは知らないけど・・・・」

「ならば、どちらがより強力な武器なのか・・・調べてみるのも面白い」

 

 

ニースは剣を両手で握ると体の重心を落とした構えをとった。

その様は限界まで引き絞られたような弓矢といった雰囲気が感じられる。

 

俺もDFSを片手で構え、いつでも行動のとれるようにと軽く足を広げ、

さらに、体に昂氣を纏い、防御力と身体能力の強化をする。

 

ニースを相手に手加減だとかを考えている余裕はない。

最初から本気を出さないと負ける可能性が上がるだけだ。

 

 

 

「行くぞ!!」

 

 

ニースは放たれた矢の如く、一直線に俺に向かって跳んだ!

俺も対抗するように真正面から剣を合わせる形に斬りかかる!!

 

 

 

ギュイィィィーーーーン!!

 

 

ニースと俺の剣がぶつかり合った瞬間、まるで空間と空間が擦れあったかのような音が鳴り響く!

DFS同士が斬り合った時の音に似ているかもしれない。

 

俺はそこまで考えた後、思考を中断した。正確に言うと中断せざるをえなかった。

すぐさま二撃、三撃と繰り出すニースの剣の前に、余計な考え事は死に繋がる!

 

俺とニースは付かず離れず、お互いの間合いを維持したまま、

縦横無尽に場所を移動しながら激しく斬り合う!!

その度に衝撃波が大地を走り、空の彼方へと駆け抜けていった。

 

しかし、俺は闘えば闘うほど・・・・斬り合えば斬り合うほどに、強い違和感・・・・疑念を持ち始めていた。

 

最初に斬り合っていたときはそうは思ってはいなかったのだが、

二撃、三撃と回数を重ねるたびにその考えは強くなってくる。

 

 

(おかしい・・・・攻撃の手がゆるいというか・・・・全力を出していない?)

 

 

最初は思い過ごしかとも思えたのだが、どうやら違う・・・・

ニースから感じる実力と、今の剣撃には差がありすぎる。

 

防御に関しては完璧なのだが、攻撃には鮮烈さが欠けている感じがする。

 

 

(何を考えているのかはわからないが・・・・・本気でこないのなら一気に決めさせてもらう!!)

 

「ハァッッッ!!」

 

 

俺は気合いと共に、爆発的に力を増幅させてDFSを横薙ぎする!

ニースはその攻撃を受け止めたのだが、俺はそれをものともせずDFSを振り抜いた!

 

 

「くっっ!!」

 

 

ニースは吹き飛ばされながらも地面に剣を突き立て、体勢を立て直す。

さすがに隙を見せることはなかったが、俺は十分な間合いをとることができた!!

 

俺はDFSにエネルギーを集中させる!

それに応じて、DFSの刃は光り輝く白から、それを越える破壊力を秘めた、赤い色へと変わる!!

 

 

 

「全てを切り裂け!我が内に在る竜の翼よ!!秘剣 飛竜翼斬!!」

 

 

 

DFSから、5メートルはあろうかというほどの弧月型のエネルギーが発せられる!

携帯用とはいえ、DFSから放たれる飛竜翼斬はかなりの威力をもっている!!

 

しかし、ニースもまた、俺の考えを読んでいたのか、既に腰だめに剣を構えていた。

その赤い刀身からは、まるで振動しているかの如く、明滅していた!

 

その様は、以前ルナさんとの闘いに見せたときの構えに酷似している!

 

 

 

「魔影二式  残光翔裂破!!」

 

 

 

赤い魔力衝撃波が、ニースの振り切った剣の軌道と同じ三日月の型を描き、

飛竜翼斬に対抗するべく正面からぶつかり合った!!

 

その衝撃波・・・というにはかなり形がハッキリとしており、魔力の圧縮率が桁違いに高いのだろうが・・・・

全長は約二メートルといったところ、俺の放った飛竜翼斬の半分程の大きさしかない。

 

俺とニースの放った技は少しの間、拮抗した後、飛竜翼斬が押し切る!!

 

 

―――――次の瞬間!

 

 

ニースの放った魔力衝撃波のすぐ後ろに迫っていた二撃目と三撃目が、

一撃目を後押しするかのように融合した!!

 

 

 

(一撃目を放ってから二撃目を繰り出すほどの時間はなかったはず。

やはりルナさんの言っていたとおり・・・ニースの技は・・・・・・・)

 

 

 

三撃が融合した魔力衝撃波と飛竜翼斬は拮抗し、お互いを喰らいあうが如く相殺した!!

 

高エネルギー同士お互いの必殺技が相殺した余波で衝撃波がおこり、俺とニースに襲いかかる!

 

俺は吹き飛ばされながらも、何とか地面に指を突き立て、山から転げ落ちることを防いだ。

ニースも、再び大地に剣を突き刺し、爆風をやり過ごしたようだ。

 

 

やはり・・・・・そう簡単にはこの闘いの勝敗は決まりそうにもなかった。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

ズズ・・・・・ズ・・・・・・ズズズゥゥンン・・・・・・・・・

 

 

 

「どうやらアキト君とニースはかなり派手にやってるみたいね」

「派手にやってるのは良いんだが・・・・洞窟が崩れたりはしないのか?」

 

 

ゼルはやや不安げな目つきで天井をみる。

隣にいたアメリアも急に不安そうになって天井に目をやる。

 

 

「大丈夫じゃないのか?アキトもそれぐらいは考えて・・・」

「考えて戦えるほどニースは甘い相手じゃないことぐらい、リナとガウリイさんは知っているでしょ」

「「・・・・・・・・」」

 

 

私とガウリイは、お互い困った顔で目配せしながら溜息をつく・・・・

二人私とガウリイで戦っても、勝てる可能性が限りなく零の二人アキトとルナ姉が、口をそろえて強敵と言っている相手・・・・

私の認識はまだまだ甘いと言うことなのかも知れない。

 

 

「だったら、アキトの奴は大丈夫なのか?いくら強いといっても・・・・・」

「そうですね・・・・仮にも赤眼の魔王ルビーアイの力を持つ者に対して一人きりで戦うなんて・・・・」

 

 

確かに・・・今まで二度も魔王の欠片と戦っている者の意見として・・・

私なら、一人で戦うなんて真似は絶対にやりたくないし、したいとも思わない。

しかも、今度の相手は、人間としての意志で魔王の力を扱っているのだ。

今までの魔族のように、人間に対する禁忌タブーはないのだ。

 

 

「いくらアキトでも・・・・やっぱり荷が重かったんじゃあ・・・・」

 

 

私は知らず知らずの内に胸の内を呟いていた。

 

 

「アキト君なら大丈夫よ。私が保証するわ。

もし、残すのがリナだったら有無を言わさずに一緒に残っているけどね」

 

「ね、姉ちゃん・・・・」

 

 

私は不覚にも涙が出そうになった姉の優しい心遣いにふれて・・・・

そして・・・・次の言葉によって完全に涙が流れた。

 

 

「もちろん、逃げ出させない為だけどね。リナだったら、

『姉ちゃんならこれぐらい軽いから私はいなくても大丈夫』なんて言いそうだし・・・

ま、逃げ出したりなんかしたらスペシャルコースのお仕置き一年間だけどね」

 

「あう・・・・・」

 

 

よくご存じで・・・・まあ、借りのあるニース相手に逃げようとは思わないが・・・

これがゼロス辺りだったらあっさりと逃げているかもね。

 

だって姉ちゃんだったら笑って切り抜けられるだろうし・・・・

逆に、姉ちゃんの相手をするゼロスに同情しかねない。

 

 

「さすがリナさんの姉ちゃんなだけはあるな・・・・リナの行動を誰よりも読んでいるな」

「というか、そうでなければリナの姉はつとまらんと言うことか・・・」

「私、リナさんの姉妹きょうだいに生まれなくて本当によかったです」

「あんたらねぇ〜・・・・私のことよりアキトの心配でもしなさいっての!」

 

 

いい加減のこの話題から離れないと温厚な私の堪忍袋もいい加減切れそうだし・・・

思わず懐の愛用の武器スリッパに手が伸びるのがちょっといじらしい、わ・た・し☆

 

 

「ちょ、ちょっと待てリナ!俺達が悪かった!だからそれを持つのはやめろ!」

「あら?いつの間に・・・・私ったらおちゃめさん☆」

 

「リナのやつ・・・・『おちゃめさん』ですむ年頃だと思っているのか」

「年頃なんじゃないんですか?胸の辺りだけ」

「納得・・・だな」

「あんた達・・・・聞こえてるわよ。そんなにパワーアップしたスリッパさばきを見たいわけ?」

 

 

伊達にあんなくそ重い鉄球を長い間つけていたわけじゃない・・・

いやがおうにでも筋力とスピードは上がろうというものだ。

 

私は再びスリッパに手を伸ばし・・・・

 

 

「馬鹿なことはそこまでにしなさい。早く行くわよ。

それこそアキト君が残ってくれたことが無駄になったら、あわす顔がなくなるわよ」

 

「そうね・・・わかったわ、姉ちゃん」

 

「重ねていうけど、アキト君の事は心配無用よ。アキト君の実力はかなりのものなんだから。

戦闘に関しては私より強いわよ。確実にね・・・あくまで対等なのは『赤竜の力』を使ってなんだからね」

 

「それは初耳なんですけど・・・・」

「いってなかったからね。それにアキト君には万が一にそなえて『保険』もかけておいたしね」

「へ?保険ってなんなの?姉ちゃん」

「さあ、行くわよ」

「ちょ!待って姉ちゃん。保険っていったい・・・・」

 

 

しかし、いくら私が問いただしても、姉ちゃんはただ悪戯っぽい笑いをしたまま教えてはくれなかった。

 

 

(何かとんでもないことでもしたのだろうか・・・・)

 

 

しかし、そう考える反面、姉ちゃんなら『愛の力があれば大丈夫』なんて言いだしそうな気もしていた。

 

・・・・・・・本当に大丈夫か?アキトの奴・・・・・・

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「思っていたよりも強いな・・・・魔影二式あの技を完全に相殺されたのは獣王グレーター・ビーストと戦った時以来だ」

「それはどうも・・・だが本気も出していない相手に言われても嬉しくはないがな」

「やはり気付いていたか」

「気付かないとでも思っていたのか?はっきりいってあれじゃあルナさんが負けるなんてありえないからな」

「それもそうだな。あの時は大剣グレート・ソードだったから勘が狂うことがなかったが・・・この大きさだとどうもな・・・」

 

 

ニースは両手で持っていた剣を片手に持ち変え、二、三回ほど軽く振った。

その動作は、両手で持っていたときよりもなめらかになっていた。

 

 

「今までは・・・・相手の武器にあわせて戦ってきたのだが・・・・どうやらそんな余裕はないようだ。

私が一番得意としている武器で行かせてもらう」

 

 

ニースの何も持っていない左手に血の如き赤い光が発生する。

その光は瞬時にニースの手の中で物質化し、一振りの赤い剣となった。

 

二刀流・・・・この場合は双剣術とでもいえばいいのだろうか・・・・

 

 

「魔力を宿した剣・・・それを二本同時に扱うのが私の本来の戦闘姿勢闘い方だ」

「それがお前が本気で闘う時の武器なのか」

「そういう訳だ・・・・やはり一番扱い慣れている武器といえばこれだからな」

「ルナさんと闘ったときには使わなかったということは、本気ではなかったということだな」

 

「それはお互い様だ。『赤の竜神の騎士』スィーフィード・ナイトとて本気では闘っていなかったのだからな。

もし、ルナ・インバースがなんの気兼ねもなく全力で闘っていたのなら、

最初から得意な武器二刀剣技で闘っていた。頼まれ事をそっちのけにしてでもな」

 

「頼まれ事?」

「赤竜の力・・・微力でもいいから取ってきてほしいと頼まれたのでな」

 

 

なぜ赤竜の力を?そもそもあの力は扱いがかなり難しく、たいていの場合は拒否されるのがおち・・・・

いったい何のために・・・・

 

今回の混沌の力と何か繋がりでもあるのか・・・・それともまったく別の事柄なのだろうか・・・・

 

 

「話はここまでにしておこう。私達の闘いには関係のないことだからな。

だが・・・もし、お互いが最後まで生き残っていたのなら・・・・その時は私が知る全てをお前に話そう。

勝敗に関わらずにな・・・・・」

 

「生き残っていたら・・・・か・・・・・」

 

 

それが一番難しいそうだ・・・・

武器が武器だけあって、北斗との闘いの時より、死亡する確率ははるかに高い。

エステバリスでの闘いみたいに、腕を切られても平気なわけではないのだから。

 

 

(奥の手だとかなんだとか思っていたわけじゃないが・・・・全てをださないうちに負けるのは嫌だからな・・・)

 

 

俺は全てを出しきるために、DFSを停止させた。

機能が停止したのに従い、光り輝いていた刃も急速に小さくなり、かき消えた。

俺は刃が消えたのを確認すると、今度はDFSに蒼銀色の刃を発生させた。

 

 

「面白いな・・・貴方は本当に面白い。私は今まで見たことの無かったものばかりを見せる」

 

 

その光景をニースは面白そうに・・・・楽しそうに笑いながら見ていた。

その顔は、面白そうな物に興味を示す、無邪気な子供の笑顔といったような感じだった。

 

俺は、今まで戦士としての表情しか見ていなかったせいか、それがとても綺麗な笑顔に見えた。

 

 

「それが貴方の本気というやつか?」

「本気・・・といえば本気だが・・・色々と欠点もあってな」

 

 

DFSにディストーション・フィールドを集束させたものではなく、昂氣を使って刃を発生させる。

聞くだけなら便利そうに思えるかもしれない・・・

刃の元となっているのは昂氣だから、俺の体力が続く限り、

そして、闘志を失わない限り、常に刃を発生させることができる。

威力も昂氣刃こちらの方が桁違いに強力・・・・それは火星の遺跡での『D』との闘いの折に証明されたことでもある。

 

しかし、先程も言ったように欠点もある。

昂氣刃を発生させるのと同時に、体に纏っていた蒼銀色が薄くなっているのが自分でもハッキリとわかる。

体に纏っていた昂氣を刃に転換しているのだから当然ともいえるだろう。

そうなればどうなるか・・・答えは『防御力』と『身体能力』の強化を維持できなくなる・・・・ということだ。

防御を捨てて攻撃力をアップさせる。良くも悪くもDFSということなのだ。

 

不足分を補うほど、昂氣をだせばいい・・・そう思うかもしれないが、

一定を越えて昂氣を出すのはかなりの疲労がともない、長期戦となると確実に不利になる。

 

だが、俺とて欠点がわかったまま放っておいたわけではない。

昂氣が足りないと言うのであれば、他の何かで代用すればいい。

 

俺は体内の氣を今の自分ができる限界まで練り上げ、体の隅々まで行き渡らせる。

それにともない、身体がふたたび軽くなってゆくのがわかる。

 

 

「お互い準備が整ったな・・・・ではいくぞ!!」

 

「「オォォーーッッ!!」」

 

 

俺の昂氣刃とニースの二本の魔剣が交差する!

お互いの攻撃力が格段に上がっているためか、先程よりも発生する衝撃波が強い!

 

俺は二、三回、斬り結ぶと慎重に距離を取り、一撃離脱といった戦法を取る。

ニースもそのことに気がついたのか、付かず離れないようにと間合いを詰める!

 

 

二本の魔剣を自在に操るニースと斬り結ぶのはかなり分が悪い。

そもそも二刀流の基本は、片方が攻撃を受け流し、もう片方がその隙に攻撃を加えるといったもの。

どうしても、接近戦では一刀より、二刀使っているニースが有利となる。

 

別に一刀流より、二刀流の方が優れているといったわけではない。

この闘いは・・・自分が有利に闘える間合いを如何にして維持するか・・・その一点に限られてくる。

 

 

俺はニースの右上段からの剣撃を受け止め、すぐさま大きく飛びすさる!

それと同時に、俺の胴があった辺りに左手から繰り出される剣が通り過ぎた!

 

(なんて腕だ!スバル老リョーコちゃんのお爺さんと闘った経験がなかったら今頃死んでたぞ)

 

 

幸いというべきなのか・・・二刀流と闘うのは初めてではない。

だが、ニースの剣技はそれに比べて些かの見劣りもない上に、力と早さでは完全にそれを上回っている。

 

 

「まったく!二刀流というのは相変わらず厄介なものだな!!」

 

 

俺は一気に剣の間合いまで飛び込み、激しく斬りかかる!!

しかし、その連撃をニースは二本の魔剣で全て受け止め、捌いた!

 

俺の剣は、ニースに傷一つつけることはできていない!

 

 

「まったく恐ろしい早さだ!一本のままで闘っていたのなら、今のでやられていたな!!」

「完全に防いでおきながらよく言うじゃないか!!」

 

 

俺はニースの剣撃を受け流しながら反論する。

 

俺が詰めた間合いはそのままニースの間合いにもなる。

間合いを空けようとするものの、ニースの双剣による剣撃はその隙すら与えてはくれない!!

 

 

(これ以上は捌ききれない!!)

 

 

俺は一か八か、右から襲う剣を弾き飛ばし、至近距離まで間合いを詰める!

 

距離をつめると同時に強烈に左足を踏み込む!

俺は踏み込むことによって得た衝撃を右足から腰へ、そして左肩を通り腕に・・・・

全身のバネを使い、その衝撃を増幅させ、つきだした掌底からニースに伝える!!

 

 

 

ズダン!!

 

 

繰り出した掌底と共に踏みしめた大地が衝撃を吸収できずに大きく陥没する!!

 

 

「グッッ!!」

 

 

ニースは体勢を崩しながら大きく後ろに吹き飛ぶ!!

 

 

(手応えが浅い!?あたった瞬間に自分から飛んで衝撃を逃がしたのか!!)

 

 

俺の頬から血が流れているのを微かな痛みと共に感じた。

自分から跳んだ瞬間、ニースは反撃をし、浅く頬を切り裂いていった。

もし俺が反射的に身を引いていなければ、今頃は頭と体が別れていたかもしれない!

 

そこまでして得たチャンスを逃すわけにはいかない!!

 

 

(ニースが技を繰り出す為の時間を与えるわけにはいかない!!)

 

 

「(リョーコちゃん、技を借りるよ!)十文字!!

 

 

俺はリョーコちゃんが使う必殺技『二の太刀 十文字』を無断で借りる。

これが一番、攻撃力、速度共に適している!!

咆竜斬といった技では、時間がかかる。今はそんな僅かな時間ですら惜しい!!

 

 

蒼銀に輝く十文字の剣閃は体勢を立て直したニースに襲いかかる!!

 

しかし、すぐさま体勢を立て直したニースは、少しも慌てた様子も見せず、

自分に迫りくる十字を描く蒼銀の剣閃を静かに見据えた。

 

そして、右手に持った剣を上段に・・・・左手に持った剣を右脇にまわすような構えを取った。

そのまま剣を振れば、太刀筋が自然に十文字を描くだろうが・・・真正面から迎撃するつもりか!?

 

 

 

「―――――!!」

 

 

 

俺はニースの持つ剣を見て驚いた!

両手にそれぞれ持った魔剣に宿る光が眩いまでに振動していた!!

 

技を放つために必要な時間はなかった。

それなのにニースの持つ魔剣は、技を放つ準備を既に終えている!!

 

 

「魔影一式 残光刃!!」

 

 

俺の放った蒼銀の十文字は、ニースが描いた赤い十文字と重なり合い赤い残照と共に砕け散った!!

その残照と共に、俺に向かって衝撃波が襲いかかる。

 

幸いながら、隙をつくってしまうほど大したものではなかったが・・・・・

大地に残った衝撃波の爪痕は、ニースの位置から俺に向かって放射状に放たれている。

 

 

(俺の技がニースの技に完全に押されていたと言うことだな・・・・)

 

 

確かに速度を重視したため、威力は低いかもしれないが・・・・

仮にも昂氣の刃で放ったもの・・・生半可な威力ではなかったはずだ。

 

 

(こいつは・・・・思ったよりもやばいかもしれないな・・・・)

 

 

俺は若干の焦りと動揺を表情に出さず、DFSを構え直した。

ニースも表面上はなんの変化を見せず、二本の剣を構え直す。

 

 

「お前の使う技・・・残光刃とかいったかな・・・

刀身の魔力を、自らの意志で明滅させて残像を残す・・・・といったところか?」

 

 

残像といってもただの残像ではない・・・・想像を絶する程の高密度の魔力で創りだした残像だ。

それは元の魔剣と同等か、それに準ずるほどの威力をもっているはずだ。

 

 

「一撃に見えても実は連続攻撃・・・・それもまったく同じ軌道の・・・・

ただでさえ威力の高い技を三連撃で受ければ、ルナさんの剣赤竜の剣でも斬られるはずだよな」

 

「たった数回見ただけでそこまでわかるとはな・・・・」

 

「正確に言うなら、一度だな・・・ルナさんは薄々わかっていたみたいだからな」

俺はただ実際に闘ってみて、確証を得た・・・というだけだ」

 

 

ルナさんはニースの技を受けたとき、手応えがおかしかったといっていた。

まるで数回、剣を受け止めたような感触だったらしい・・・・

 

その事から俺とルナさんは一つの仮説を予想してみたのだが・・・・大当たりだったみたいだ。

 

 

「それでもだ。人、神、魔・・・・・種族を問わず、技を見切った者はほんの僅かしかいないからな」

「見切る前にやられてしまいそうだからな・・・・」

 

「そうだな・・・技を受けきる者も数えるほどしかいない・・・『赤眼の魔王ルビーアイ』の力が宿ってからはなおさらだ・・・・

故に、『赤い竜神の騎士スィーフィード・ナイト』ルナ・インバースや貴方との闘いは、久しく忘れていた心躍るものがある」

 

 

同じレベルに立つ者がいない孤独感・・・・そして戦士としての誇り故の孤高・・・・

それはかつて北斗が味わっていたモノに似ているのかもしれない。

 

純粋な格闘家と言えない俺でも、その気持ちはなんとなくわかる。

 

 

「まだまだ付き合ってもらうぞ。テンカワ・アキト!」

「心ゆくまで闘えるかどうかはわからないが・・・俺の全てをもって相手をしよう!」

「ありがたい。ではいくぞ!!」

 

 

ニースは再び斬り合うために神速で間合いをつめる!

俺はニースの繰り出す太刀を真正面から受ける!

 

どうしても剣の間合いはほぼ同じ・・・剣速と力なら俺の方にやや分がある。

ならば一気に接近戦で決着をつける!!

 

 

「一つ、言い忘れたことがある!」

 

 

ニースは斬り合いながら口を開く。

俺はその事に、何やら嫌な予感がする。

 

 

「私の技についての推察だが・・・あれは貴方が言ったとおりだ。ただし・・・一刀の場合だがな。

二刀の場合はいささか事情が異なる」

 

 

ニースのもつ二本の剣の刃がまったく同時に明滅しはじめる!

明滅する間隔も輝きもほぼ同じ・・・・まさか!!

 

 

「共鳴!!」

「その通りだ。まったく同じ魔剣を共鳴させ、明滅させる・・・・それが私の本来の闘い方だ!!」

 

 

ニースの魔剣が共鳴・・・いや、これはもう共振と言うべきなのか・・・

ニースの振る剣の軌道に魔力刃が発生し始める!

 

 

(―――――!!本気でやばい!!)

 

 

ニースの剣をさばいた後でも魔力で創りだした刃がまだ続いており、

それをまた捌いているあいだに、本来の剣は既に二撃目に入っている。

 

今の俺は六本の剣による攻撃を防いでいるといってもいい状況だ!

間合いを空けるために後ろに下がろうとしたが、その隙すら見つけられない!!

 

 

俺は防戦一方・・・どころか防ぐのさえ危うくなってきた!

既にさばききれなくなった斬撃によって浅い傷は身体の至る所にできていた!

 

 

「よくここまで防ぎきれるな!」

「くぐってきた修羅場が伊達じゃないからな!」

 

 

俺には軽口を言うぐらいにしか反撃の手がなかった!

刃を避けるどころか軽傷ですませているのが精一杯だ!!

 

 

「それならば・・・これならどうだ!!」

 

 

途端にニースの剣撃の拍子リズムが変わった!

先程までは烈火の勢いだった剣撃が今度は緩急をつけた攻撃へと変化した!

 

時に早く、そしてゆるく・・・・まったく違った拍子を織り交ぜて攻撃を繰りだす。

攻撃がゆるくなった瞬間を狙い、間合いをとろうともしたが、その瞬間に死角から神速の刃が襲ってくる。

 

今のニースは軽やかに、そして流れるような攻撃をしている。

それは踊りや舞を見ているかのように美しく、そして実践的な剣舞だった。

 

だが、俺にはそれをじっくりと観賞している暇はおろか余裕すらない!

 

―――――その時!!

ニースの繰り出す魔力刃が一斉に俺へと襲いかかる!!

 

 

(しまった!このタイミングを狙っていたのか!!)

 

 

緩急をつけた拍子リズムに気を取られすぎた!

拍子リズムをずらすことによって、残像の刃のタイミングを調整したのか!!

 

ニースの左手にもった剣が右から切り上げるのを最初に、複数の魔力の刃が同時に攻撃を繰り出す!

狙いは・・・・・DFSの刃!武器を先に封じるつもりか!

 

幾重もの斬撃がDFSから発している昂氣の刃に殺到する!

 

 

 

ガガガガガキィィィン!!

 

 

 

何とかDFSを放さずに斬撃を堪えることができたが、

実体のあるニースの剣撃によってDFSを握っていた右手ごと大きくはじき飛ばされる!

 

ニースは左に剣を振りきった反動を利用し、右の剣を勢いそのままに切り下ろす!!

 

 

(はじき飛ばされたDFSでの防御は時間的に不可能!

例え全身に昂氣を纏ったとしてもニースの剣なら切り裂いてしまう!)

 

 

俺は致命傷を受けるよりはと思い、素手の左手で剣を受け止めようとする!

体の方も、頭で考えるよりも早く、反射的に左手をかざそうとしていた。

 

だが・・・・既にタイミングが遅れていた!

このままでは左手を犠牲にするよりも早く、ニースの剣は俺を切り裂く!!

 

 

俺の目には死を運んでくる赤い刃の動きがひどく緩慢に見えた。

身体もそれに比例して動きが鈍い。まるで重りでもつけているかのように身体が動かない。

 

この一瞬・・・この時間を限りなく引き延ばしているかのようだ・・・・

 

 

(俺は・・・・ここで死ぬのか・・・・・)

 

 

俺は迫りくる赤い刃をひどく冷めた気分で見つめていた。

今まで死を身近に感じたことは幾度もある。死にかけたことですら一度や二度ではない。

 

しかし・・・・今はそのどれよりも濃厚な死という気配を感じた。

俺は斬られることを覚悟し、ニースに最後の一太刀を繰り出すために腕に力をこめ・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(アキトさん・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

脳裏に誰かの声が響いた。

 

それと同時にナデシコのみんなの声と顔が思い浮かぶ。

他にもメティちゃんやミリアさんといった俺が行く先々で出会った人達も・・・・・・

この世界に来てから知り合ったゼフィーリアの人達も・・・・・

 

そして・・・・俺のことを本当に心配していつも迷惑をかけている女性達のことを・・・・

 

涙目の・・・・悲しさを秘めた目で、俺を見つめてくる女性達を・・・・・・

 

 

 

(俺が・・・・泣かせているのか・・・・また心配をかけて・・・・・)

 

 

 

俺はそれを見て・・・・・体の中にある何かが爆発するのを感じた!

 

 

 

(俺は・・・・俺は・・・・俺はまだ死ねない!)

 

 

 

 

「―――――――――――!!」

 

 

 

 

俺の口から発したのは叫びだったのか・・・それとも何かの言葉だったのかは分からない。

だが・・・・これだけは覚えている。

 

 

俺の生きる意志に反応し、俺の体内にあった、昂氣とも違う・・・氣とも違う・・・もっと別の力が応えたことを・・・・

その力は左手に集い、死を運ぶ赤い刃を受け止めるため、一本の剣と化したことを・・・・

 

 

俺は驚きと共に、自分の身体から現れた力の化身たる剣を見つめた・・・・・・

 

暁のように眩く輝く、赤い刀身を・・・・・

 

 

 

 

 

(二十四話に続く・・・・)

 

 

 

 

 

―――――あとがき―――――

 

 

どうも、毎度お馴染みのディアちゃんで〜す!

今回の話はどうだった?あの作者、戦闘シーンは苦手だとか言っていたのに、無理して書いてたからね・・・

色々と変なところも多いの。気がついたら教えてやってね。

 

しかしまあ・・・展開が先読みしやすい話だよね〜。

読者の皆さんにバレバレというか・・・昂氣刃を出すことを読んでいた人もいたしね・・・

 

あ、そうそう。この話の中では、昂氣で作る刃だから、昂氣刃という形にしたって話だから。

別に刀でも良いような気もしたって言ってたけど・・・・どうなのかな?人それぞれだからね。

 

さて・・・次回はニースとの戦いの続き!一体どうやって勝つのやら・・・頑張れ、アキト兄!!

この戦いの最後の決め手は、作者がない頭を捻って考えてたから、

少しは読者の皆さんの予想を超えることができるのかな?

 

決め手を予想して、当たれば『貴方は予知能力者か!?』というメールでも送るって、

景品は・・・・試作段階の何かの作品だって。要らないよね、そんなの・・・

もし、最後に書いてある代理人さんが当てたらどうするつもりなんだろうね・・・・あの作者・・・・

 

 

最後に・・・K・Oさん、カインさん、ほたてさん、12式さん、T氏さん、watanukiさん。

下屋敷さん、YU−JIさん、ホワイトさん、失敗作さん、蒼夜さん、霞那岐さん。

ご感想、ありがとうね〜!やっぱり、根性のない作者に代わってお礼をいいま〜す!

 

 

では次回『赤と蒼・・・・』でまた会いましょうね〜

 

 

 

代理人の感想

いや、いや、いや、いや。

戦闘シーンだけで読ませてくれる作品と言うのはActionでも少ないですが、これは確かにその一つですよ。

まぁ、正確には戦闘シーンの面白さと合間の掛けあいの面白さが相乗効果を生んでるわけですが。

ニースの技も「理屈はよくわからないけど凄いな」というレベルになんとか達してるので

説明は不充分ながら力で押し切れてますし。

 

で、なんか期待されてるみたいなので一応予想しておきましょうか(笑)。

DFSと神剣の合わせ技で、ずばり、昔懐かしの「ヒートショック」(ウイングマン)と見た!

ま、合ってるか間違ってるかは次回の展開次第(笑)。