赤き力の世界にて

 

 

 

 

 

第31話「それぞれの常識・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

北での事件が終わり、一応、インバース家に平穏が訪れた。

 

・・・・・・・はずだったのだが・・・・

 

アキトの身の回りに、平穏が訪れることは、ごく僅かな時間でしかない。

例えばこんな風に・・・・・

 

 

 

 

ゼルガディスとアメリアが帰ってその日の夕食時・・・・

アキトは苦難に出会っていた。(ただし、本人にとってのみ・・・・)

 

 

「はい、アキト君」

「ひ、一人で食べられますって、ルナさん」

 

 

夕食のおかずの肉を、ルナは箸で掴み、アキトの口元に運ぶ。

今時、恋人同士でもやらないのでは?と思えるような光景だ。

 

 

「そんな腕で箸を使うなんて無理でしょう?動かすことすら難しいのに・・・・」

「そ、それはそうですけど・・・・無理をすれば」

「激痛が走るんでしょう?完治がそれだけ遅れるのだから、無理はしないで」

「で、でも・・・・・・・・・」

 

 

これが二人きりならば・・・・アキトは恥ずかしさを我慢したかも知れない。

だが、この場はインバース家の食卓、レナにロウ、リナといったメンバーはもちろん、

居候の身であるガウリイ、ニース、メアテナがいる。

その上、いつの間にやら、ちゃっかりと御飯を食べに来ているアリスとエルネシアまでいる。

 

アキトがオロオロする姿が面白いのか、皆、一様にニヤニヤしながら見ているので、

本人にとってはさぞかしたまらないだろう。

 

 

「アキト君も何を今さら・・・朝もお昼も同じ事をしたでしょうに」

「でもですね!あの時はみんながいなかったじゃないですか!」

「気にすることはないわよ。ねぇ?」

 

 

ルナが周りの人達に同意を求める。

皆は申し合わせたように、そろって頷く。

 

 

「私達のことは気にせず、思う存分どうぞ」

「そうだぞアキト。俺達のことは『路傍の石』とでも思えばいい」

 

 

一番ニヤニヤしている二人・・・インバース夫婦が、なんとも爽やかな笑顔を見せながらルナを応援する。

この二人に、ルナを止めるという考えは、頭に浮かんですらいない。

 

 

「ルナはね〜、今まで恋人の一人もできなかったから、母親として心配していたのよ。それが今では・・・・」

「親の私達すら見たことないような笑顔を見せる男性が出来るなんてな・・・長生きするもんだな」

「そうですねぇ。あなた」

 

 

見た目が二十代後半から三十代前半に見えるこの若作りの夫婦がそんなことを言っても、

全くの説得力・・・というか、信憑性すらない。

 

 

「そうよねぇ〜、あの姉ちゃんがね〜・・・・はいアキト、あ〜ん」

「パク・・・ングング・・・美味しいよ、ルナ」

「まぁ、アキトったら・・・・な〜んて事をやるとはねぇ」

 

 

リナとガウリイが、二人の行動を再現・・・と、いうには行き過ぎた表現ばかりしているが・・・・していた。

どうでもいいが、真似をするだけでも恥ずかしい行為なのに、

それをなんの打ち合わせもせず、やってのけるこの二人・・・・実はやり慣れているのだろうか?

 

 

「なんでしたら、わたくしがお代わりいたしましょうか?」

「あたいでもいいよ?」

「勘弁してよ、二人とも・・・・・」

「ダメよ、二人とも。明日の朝と昼を譲ってあげるからそれで我慢しなさい」

「は〜い」

「わかりました。ではわたくしが昼ということで」

「んじゃあたいが朝?それで良いか」

「俺の意見は?」

「一人で食えないのに贅沢いえると思ってんの?」

「それとも・・・・ダメなんですか?」

「うっ・・・・」

 

 

エルネシアの泣き落とし的な表情に、アキトは何もいえなくなる。

その時、意外な人物・・・・・・メアテナが意外なことを言いだした。

 

 

「ねぇねぇ、ルナ姉さん。それって面白いの?」

「う〜ん・・・面白い・・・というか、楽しいわね」

「本当?じゃぁ、私もやってみたい!!」

「そう?ならちょっとやってみる?」

「わ〜い!!」

(俺の意見は二の次なんですね・・・・)

 

 

アキトはちょっと寂しさを感じて、ルルルー・・・というような感じで涙を流す。

 

 

「ニース、何とかしてくれないか?」

「ん?」

 

 

アキトに声をかけられるまで、黙々と食べていたニースが顔を向ける。

がつがつと食べていたわけではないのだが、そのペースは恐ろしく早い。

そして、メアテナとルナに顔を向け、アキトの要求を察した。

 

 

「メアテナ」

「なに?ニース姉さん」

「何事もいい経験だ。頑張れ」

「うん!」

 

 

ガン!!

 

心温まるメアテナとニースの会話に、アキトは脱力し、テーブルに頭をぶつけた。

そして、ニースに対する認識を改める必要性を感じた。

 

 

(ニースって・・・・こういう奴だったのか?)

 

「アキトの腕がそうなったのも、半分は私の所為ともいえる。

メアテナ。私の代わりにアキトに食べさせてやるといい」

 

「は〜い」

「そうじゃなくてさ・・・・こういったことは、そう軽々しくするものじゃないんだ。わかる?メアテナちゃん」

「アキト兄さんは・・・・嫌なの?」

「嫌っていうかなんというか・・・・わかりました」

 

 

メアテナの上目づかいの表情に、こぼれ落ちそうなほど涙をたたえた瞳。

その組み合わせにより、アキトの意志はいともあっさりと負ける。

しょせん、女性に弱いアキトの抵抗など、砂の防波堤にも等しい。

 

 

「じゃ、は〜い。大きく口を開けて」

 

 

アキトは抵抗を完全に諦め、言われたとおりに大きく口を開けて、メアテナに食べさせてもらった。

ルナのアドバイスに従い、水を飲ませたり、御飯を食べさせたりと、結構甲斐甲斐しい。

 

元々、料理の半分以上はルナに食べさせてもらっていた後なので、

メアテナがアキトに食べさす時間は、そうたいして長いものではなかった。

それでも、メアテナはアキトの役に立てたのが嬉しいのか、

それとも初めての経験で楽しかったのか、本当に嬉しそうな笑顔を見せていた。

 

それを見たアキトは、意固地に嫌がっている自分がくだらなく思え、まあ、いいか・・・と、考え直したらしい。

 

 

「楽しかったか?メアテナ」

「うん!とっても!アキト兄さんの役にたってるって思うと嬉しかったの!」

「そうか。よかったな」

「ニース姉さんもやってみたらいいのに・・・・」

「いや、それは私には似合わないだろうからな」

「そう?残念だな〜」

 

(よかった!この上ニースまで加わったらどうしようと思ったんだが・・・よかった!!)

 

 

ちょっとだけ感涙にひたるアキト。

そんなアキトに、ニースはチラッと視線を向け、メアテナに向き直る。ニヤッとした顔つきで。

 

 

「それでも、先程言った通り、アキトが腕を怪我した責任は、半分ほど私にある。

やはり、私も手伝いなどをするのが筋というものだろう。一緒に手伝ってくれるか?メアテナ」

 

「は〜い!頑張ってアキト兄さんのお世話を頑張りま〜す!!」

 

(嫌がらせなのか?嫌がらせなんだな!?)

 

 

アキトは呪詛か何かのように、ニースに対してブツブツ言っていたのだが、

ニースの本音は、メアテナが楽しそうにしていたので、もっとやらせてやりたい。という気持ちが主だった。

それだけなのかは・・・・本人しか知らないことだ。

 

 

「なんで俺だけこんなに恥ずかしい目にあわなくちゃなんないんだ?俺は重病人か?」

「ん。自覚がないのはよくないな、アキト。お前は立派な重病人だ。腕だけはな」

「・・・・・・・絶対に、一日でも早く完治させてやる」

 

 

アキトは一日も早く完治させることを決意する。

・・・・が、それまではやっぱり、誰かから食べさせてもらわなければならないという現実に、涙を流した・・・

 

 

 

 

 

そして食事も終わり、女性陣が食事の片づけ、及び入浴の時間となった。

その間、ロウ、ガウリイ、アキトの三人は、居間で食後のお茶を楽しむのが通例となっていた。

といっても、昨日までは、食事の片づけをアキトが手伝っており、代わりにゼルガディスを含めた三名だったが・・・

 

今のアキトは、手伝おうにも両手が不自由なため、逆に足手まといになるので台所を追い出された。

ちなみに、腕が使えないアキトは、ストローを使ってお茶(冷えたもの)を飲んでいた。

 

そんな様子を眺めていたロウは、ふと疑問を抱き、アキトに尋ねた。

 

 

「アキトよ、その腕の怪我、やっぱ魔法じゃ治んないのか?」

「ええ、今日の昼、ルナさんに魔法医の所へと連れていってもらったんですが、やっぱり無駄でした」

 

 

魔法医・・・その名の通り、魔法による治療をする者の総称。

簡単にいえば、治療魔法を使う医者といったところか・・・・

凄腕の魔法医ならば、治癒魔法と他の魔法の掛け合わせで、失った腕を再生することすら可能。

そしてゼフィール・シティの魔法医の腕は、世界でもトップクラス。

アナスタシア女王の意向で、高度な設備や人員なども、かなり取りそろえられている。

以前に起こった襲撃事件で、死者がでなかった要因の一つがこれ。

 

その魔法医達の技術をもってしても、アキトの腕の即日完治は不可能と判断し、

長期に渡る自然治癒による療法しかないと結論を出した。

 

 

「なんでまた・・・魔法が効かないなんて始めて聞いたぞ」

 

「ルナさんが、力を使って診たところ、俺が使った力の残滓が魔法をうち消しているらしいんです。

だから、魔法が効果を現すのは、その残滓が全て無くなってから・・・・ということらしいです。

しかも、肉体的なものより、精神体アストラル・ボディの方が重症らしくて・・・・・

仮に、魔法で腕の怪我が治ったとしても、腕が動くのはさらに先だって言われました」

 

 

さらに付け加えるのであれば、紫竜の力はナノマシンの働きさえも邪魔をしている・・・・

アキトの腕の回復力は、並より少々上・・・・程度にしか発揮されていないのだ。

 

一ヶ月・・・というのも、それを見越してのこと。怪我の度合いがわかるというものだろう。

 

 

「へ〜・・・しかしまぁ、生き残っただけでもよかったじゃないか」

「それはそうだけど・・・・食事ごとにあんな事やられたら身が持ちませんよ・・・」

「なに、冥利に尽きるというやつじゃないか。男ならその状況を楽しまんとな」

「それに、傍で見ているだけだなら、結構面白いしな」

「それはいえてるね、ガウリイ君」

 

「「はっはっはっはっは〜〜〜」」

 

 

声をそろえて、さも楽しそうに高笑いをする二人。完全にお気楽極楽といった風情だ。

こういった性格でないと、インバース家の女性達とは、とうてい付き合いきれないということなのだろうか・・・

 

性格などは違うものの、その根っ子の所で妙に似ている二人だった。

 

 

「なんなら二人も同じ目にあわせましょうか?」

 

 

アキトの体から、怒気が漏れ出ていた。ギョッ!っとした感じでガウリイとロウはアキトの方を見ると、

そこには蒼銀の輝きを身に纏い、座った目で二人を見ていたアキトがいた。

 

 

「じょ、冗談だって。だからそんな顔をしないでくれ、アキト君」

「暴れると腕の完治が遅れるから、やらない方が良いと思うぞ、アキト」

 

 

全身から冷や汗を出しながら、二人は必死にアキトをなだめる。

今のアキトならやりかねないことを悟ったのか、結構本気でなだめている。

アキトも、一応怒りを静め、お茶をすすり始める。

二人も、ほっとした表情を浮かべ、アキトにならってお茶に口を付けた。

 

その時、三人の耳に、奇妙な音が耳に入ってきた。

 

 

 

ペタペタペタ・・・・・・・

 

 

 

まるで、裸足で廊下を歩いているというか・・・それにしては水音が混じっているような足音。

三人は、何事かと思い、音のが聞こえてくる方向・・・廊下につながる扉の方向に目をむける。

 

 

 

ペタペタペタペタ・・・・・・

 

 

 

その足音・・・・らしきものは、徐々にこちらに近づいているらしい。

音が徐々に大きく、鮮明に聞こえてくる。

 

そして、その音が最大に近づき、アキト達にその姿を見せた!!

 

 

ブーーーッッ!!

 

 

アキト達三人は、それを見た瞬間、口の中にあったお茶を盛大に吹き出す!

 

 

「ん〜?な〜に??どーしたの?」

 

 

濡れた足音をさせていた張本人・・・・メアテナはおそらく風呂上がりなのだろう。

一糸纏わぬ姿で廊下を歩いていた。

 

アキトとガウリイは、衝撃のあまり、メアテナを凝視したまま硬直している。

ロウはといえば、年長者の貫禄か、メアテナの体つきを観察する余裕があった。

 

 

ヒュッ・・・・・・ゴィィン!!

 

 

軽い風切り音と共に飛来したフライパンが、ロウの顔面に直撃し、かなり嫌な音を立てる。

 

 

「貴方達!見るんじゃありません!!」

「アキト君!あっち向いてて!!ガウリイさんも!!」

 

「「は、はい!!」」

 

 

台所から飛び出してきたルナさんが、メアテナちゃんを再び風呂場へと連れていった。

一緒に出てきたレナさんは、ロウさんの顔面にめり込んだフライパンを回収すると、再び台所へと戻っていった。

 

 

「あいたたた・・・むち打ちになるところだった・・・」

「なんで平気なんだよ。おっちゃん」

「当たる前にな、あごを引いて首に力を入れるのがコツだな。そうすればむち打ちになりにくい」

「しかも、衝撃を逃がすために、自分から後ろに下がってましたね」

「さすがアキト君。気がついたか」

 

 

簡単に言ってはいるが、誰もがそう簡単にできることではない。

といっても、こんな才能の使い方をしていたら、才能の方が嘆くかもしれないが・・・・

 

 

「ま、この程度のことすらできないと、レナの相手なんかできやしないさ。

それにしても、メアテナちゃんは結構いい体つきをしていたな。良い目の保養にな・・・・・」

 

 

ヒュンッ!!

 

 

二度、風切り音が部屋に響く。アキトは、その優れた動体視力で、飛んできた物がまな板だと看破する。

 

 

「まったく、冗談が通じないな・・・・」

 

 

ロウは今度はまともに受けるつもりはないのか、飛んできたまな板を白刃取りの要領で掴む。

しかし、掴んだまではよかったのだが、洗っていた最中だったのか、まな板には洗剤がついたままだった・・・・

その状況で、白刃取りなどやるとどうなるのか・・・・・結果は、

 

ヌルッ―――――ガンッ!!

 

 

洗剤により、摩擦係数が極端に少なくなったため、ほとんど勢いそのまま、ロウの顔面へとぶつかることになる。

さすがに今度のは効いたのか、顔面を押さえて悶絶するロウ・・・・

アキトとガウリイは、その光景を戦々恐々とした眼差しで見ていた。

 

 

「ガウリイさん?すみませんけど、まな板持ってきてくれますか?」

「はい!ただいま!!」

 

 

ガウリイは、普段使わないような言葉遣いで、レナの元へとまな板を運ぶ。

残されたアキトは、今だ悶絶するロウを見ながら、

レナを・・・・ひいては、インバース家の女性陣を怒らせないようにしよう・・・と、固く心に誓った。

 

 

 

 

その頃の脱衣所では・・・・・・・

 

 

「メアテナちゃん!どうして裸なんかで出てきたの?」

「熱かったから・・・・いけないの?」

 

「ダメよ。女の子は、好きな人以外に体を見せちゃいけないの。

ニース。貴方も一緒に入ってたのだから、教えればよかったじゃない」

 

「すまないな。私は長風呂が好きなのでな。まだ入っていたのだ。

メアテナが無理に付き合おうとして、のぼせていたから先に出したのだが・・・・こんな事になるとは・・・

どうやらあいつアーウィンの教えていた知識はどこかぬけているらしいな・・・・」

 

「そうみたいね・・・・あ、ほら、メアテナちゃん。しっかりと髪も乾かして・・・・

替えの下着は新しいのがあるから良いとして、寝間着パジャマは・・・リナのを借りましょうか。ちょっと待っててね」

 

 

そう言うと、ルナは二階へと上がり、リナの部屋から予備の寝間着パジャマを取りに行く。

 

 

「リナ、ちょっと入るわよ?」

「・・・・・なに?姉ちゃん」

 

 

ベッドで仮眠していたリナが、目をこすりながら起きあがる。

体力と魔力の使いすぎで、今だ体が本調子でないのだ。

 

 

「メアテナちゃんの寝間着パジャマを買うのを忘れててね。リナのをちょっと借りたいのよ」

「わかった。ついでだから私もお風呂にはいるわ」

 

 

リナはのそのそと起きあがり、タンスの中から予備の寝間着パジャマと、自分の寝間着パジャマを取り出す。

そして予備をルナに渡し、二人そろって脱衣所へと向かった。

 

 

「これに着替えて、メアテナちゃん。明日になったらちゃんとしたものを買いに行くから我慢してね」

「ううん。とっても嬉しい。ありがとう」

 

 

メアテナは、渡してくれた下着を付け、寝間着パジャマを着込んだ。

寝間着パジャマのズボンをはいたまではよかった・・・が、上を着ようとして、問題が発生した・・・

 

 

「お胸がきつい・・・・」

「どやかましい!それは自慢?自慢のつもり?つまり私に喧嘩を売っているというわけね!!」

「だって・・・・」

 

 

リナのあまりの剣幕に、メアテナは怯え、目に涙を浮かべた。

スリッパをかまえたリナは、鬼か夜叉のようにも見える。(メアテナ・後日談)

 

 

「こら!メアテナちゃんを泣かすんじゃないの。御免なさいね」

「ううん。別にいいの」

「ありがとう。上だけ、私の物を持ってくるから我慢してね」

「うん」

「ほら、リナはもういいから、さっさとお風呂に入りなさい」

「わかったわよ・・・・まったく、最近の若い娘は・・・・」

 

 

リナは、えらく婆むさいことをブチブチと愚痴りながら、風呂場へと向かった。

そう言う本人は、まだ二十歳にもなってはいないのだが・・・まったく気がついていない。

 

 

 

明後日・・・ルナとレナは、メアテナに一般の常識を教えることから始めた。

高い記憶力と知能もあいまって、すぐに覚えることができはしたが・・・・

偶に、とんでもないことをやらかすこともあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

それはともかく、次の日の朝・・・・

 

 

食事も終わり、少々暇な時間帯・・・アキトとルナ、リナとガウリイは、居間にそろってくつろいでいた。

それ以外のメンバーは、それぞれ用事があると言い、食事が終わると同時に出かけた。

といっても、ロウとレナは、店の準備なので、店の方に出ているだけなのだが・・・・

 

そんなくつろいでいる中、不意にアキトが口を開いた。

 

 

「そうだ・・・ルナさん。赤竜の剣を返してませんでしたね」

「別に構わないわよ。アキト君、あのDFSってやつ、壊れたんでしょ?」

「ええ、でも、俺には過ぎた力のような気もしますし・・・」

「そんな事もないと思うけど・・・・アキト君がそう言うのなら」

 

 

ルナは、アキトの体に触れると、目を瞑り、精神を集中させる。

すると、アキトの体から赤い光が溢れ出し、ルナの手に向かって集束し始める。

 

そして、赤い光はルナの手の内で変化し、一本の赤い剣となった。

 

それを眺めていたリナとガウリイが、思っていた疑問を口にする。

 

 

「やっぱり同じね。アキトが出したやつだから、形ぐらい変化あると思ったんだけど・・・」

「それはそうよ。赤竜の剣・・・というか、赤竜の力自身が、ある程度型を決めるからね」

「それじゃぁ、同じ大きさの剣でも、違う形状はできないのか?」

「いいえ、持ち手がイメージをすれば、ほぼその通りになってくれるわ」

 

 

ルナはそう言うと、手元の剣を水平に持ち、じっくりと眺める。

そして、柄本にある蒼銀の宝玉に視線が移ると、なにやら納得したように頷いた。

 

 

「やっぱり・・・そういうことなのね」

「どうかしましたか?ルナさん」

「アキト君・・・剣を返すわ」

「返すって・・・・一体どういう事なんですか?」

「この・・・アキト君を気に入ったようね。すでに、アキト君を主としているのよ」

「主って・・・その力はルナさんの力の一部なのでは?」

「元は・・・ね。今は、アキト君を主とし、その身に宿っているわ。だから・・・・」

 

 

ルナは手に持っていた赤い剣を、テーブルの上にそっと置いた。

すると、赤竜の剣はすぐさま赤い光の球となって宙に浮き、アキトの体内へと消えていった。

 

 

「ほらね?」

「でも・・・ルナさんは武器が無くていいんですか?」

 

「その点は気にしなくてもいいわ。剣はあくまで力を形にしたもの。

それにアキト君に譲ったのは、ほんの一欠片にすぎないわ。

その程度の力の損失なら、半日もせずに元に戻るわ。霊峰・カタート山脈でならあっという間だけどね」

 

「そうなんですか・・・・でも、これで一欠片ですか?」

 

「そう、一欠片。竜に例えるなら爪一本というところかしら・・・・

そして、その力はフェアリー・ソウルみたいに、儚い燐光でしかないわ・・・・いまはね。

でも、これからどうなるかはわからないわ。

アキト君の中に宿った赤竜の力は、アキト君の意志力を糧にして育ってゆくのよ」

 

「糧にしてって・・・姉ちゃん、植木や野菜の栽培じゃないんだからさ・・・・」

 

「それは言い得て妙よ?アキト君の器が大きければ大きいほど、赤竜の力は育ってゆくわ。

最終的に、何処まで力を得るかは・・・・私にもわからないわ。

儚い燐光が星の輝きとなるか、それとも太陽の光となるか・・・それはアキト君の器次第ですもの」

 

「俺の器・・・ですか。神の力を持つなんて、結構、責任重大ですね」

「そんなに気負うことはないと思うけどね。所詮、人間が扱える程度の力ですもの」

(なぁにが『人間が扱える程度』なんだか・・・普通の人間がそんな事できますかって・・・・・)

「なに?リナ。何か言いたそうだけど・・・」

「いえ、なにも・・・」

 

 

ルナが訝しげな目つきでリナを見る。リナはその視線に耐えられず、目をそらし大量の脂汗を流し始める・・・

その時、考え込んでいたアキトが、不意に口を開いた。

 

 

「・・・・・ルナさんから貰った力ですからね。大切に使わせてもらいます」

「アキト君に宿ったも、きっと喜んでアキト君の助けになってくれるわ」

「もう、何度も命を救ってくれましたよ。ありがとう、ルナさん。」

「私だって、アキト君のおかげで助かってるんですもの。こちらこそありがとう。アキト君」

 

 

二人は、お互いの顔を見ながら、微笑みあった。

・・・・その横で、ルナの視線から逃れたリナは、アキトに感謝しつつ、ほっと胸をなで下ろしていたが・・・

 

 

 

 

 

 

それからしばらく後・・・・ルナとアキトは、リア・ランサーに向かって歩いていた。

ルナはともかく、アキトは腕がこの調子なので、しばらく休むと言ったのに、

それでもいいからと、呼び出されたのだ。

 

 

「店長・・・どうしたんでしょうかね?腕が使えない俺が行っても、足手まといにしかならないのに・・・」

「さあ・・・・・・とにかく来てくれ。としか言わなかったから・・・・客寄せかな?」

「俺は見せ物小屋の珍獣ですか・・・」

「まあ、客寄せは冗談としても・・・・何か考えがあるんじゃないかな?」

「そうでしょうか・・・・」

 

 

アキトは、色々な仮説を頭の中で構想してみたが、結局、これだという答えは見つからなかった。

 

(どちらにしろ・・・店につけば答えはわかるか)

 

ちょうど、店も見えてきたところだったので、アキトは思考するのをやめた。

アキトは、今さらどうこうした所で結果が変わるわけでもない・・・と、結論づけたのだろう。

 

 

「「おはようございます」」

「おお。二人とも、おはよう。アキト君、腕を怪我しているのに無理矢理悪かったね」

「いえ、別に構いませんが・・・・今日は一体どういった用件で呼んだんですか?」

「なに、ちょっと頼みたいことがあってね」

「頼みたいこと・・・ですか?」

 

 

この店長が、改まって頼み事を言うという事態に、アキトは何やら妙な胸騒ぎを覚える。

悪い予感ではないのだが・・・・一波乱あるのでは?そんな感じの予感だった。

 

 

「そんなに大したことじゃないよ。だからそんな顔は止してくれ」

「そんな顔って・・・・もしかして考えていたことが表に出てますか?」

「思いっきり」

「ふふふっ。アキト君、普段は考えてることが表に出やすいから」

「そうなんですか・・・・そのつもりはなかったんですけどね・・・・」

 

 

アキトは、しきりに首を捻りながら、今までのことを思い返していた。

心なし、表情が青ざめているということは、かなり心当たりがあるということなのだろう。

 

 

「まぁ、それはいいとして・・・・今日、アキト君を呼んだのは、

新しいアルバイトに、仕事のイロハを教えてもらいたいからなんだ。

普段なら、私が教えてもいいんだが・・・アキト君がそんな様子じゃぁ、私が料理をするしかないしね」

 

「すみません」

「なに、責めているわけじゃないさ。あまり気にしないでくれ」

「それより店長。新しいアルバイトって、いつ雇ったんですか?」

「昨日だ。ちょっとした縁でな。働き口を探していたようなので、それならと思ってな」

「そうなんですか・・・・それで?どういった人なんですか?」

「それは本人達を見てからの方が早いな。お〜い、こっちに来てくれ」

 

「わかった」

「は〜い!」

 

 

物静かな・・・それでいて、どんな喧噪の中でもよく響き渡りそうな凛とした声と、

可愛らしい声音を、元気いっぱいに出した・・・・・明るく無邪気な返事が、店の奥から聞こえてきた。

 

アキトとルナは、聞き覚えのあるに種類の声に、思わず顔を見合わせる。

そして同時に、店の奥へと続く入り口に目を向ける。

予想通り・・・・というべきなのだろう。そこから、アキトとルナにとって見覚えのある二人がでてきた。

 

 

「よろしく頼む」

「よろしくお願いしま〜す!」

 

 

ニースとメアテナが、アキトとルナに向かって挨拶をする。

二人の服装も、普段着ではなく、ルナが仕事時に着ているような、

リア・ランサーのウェイトレス服に似ている服を着ていた。

 

 

「店長・・・・なんで二人は・・・というか、ルナさんをあわせて三人ですけど・・・・

なんで、それぞれデザインが違うんですか?」

 

「気にしないでくれたまえ」

「思いっきり気にしますって・・・・」

 

 

そういって、アキトはニースとメアテナの服装を見なおす。

ルナ、ニース、メアテナの服装のデザインは違うというものの、基本的にメイド服みたいな感じになっている。

 

ルナは、以前にも述べた通り、赤い色を基準とした、落ち着いた感じのする、清楚な服装。

 

ニースは、ルナのものとガラッと印象が変わり、きっちりと着込むような感じの、スマートな服装だった。

怜悧な感じのするニースの表情に、妙に似合っているといえば似合っている。

 

最後に、メアテナの服装は、ルナと似通った部分があるものだった。ただ、ルナのものよりもフリルが多く、

些か子供っぽさがあるが、それがメアテナの愛らしさとあいまってる様であった。

 

結論からいえば、三人ともよく似合っているのだ。それはアキトも認めている。

だが・・・アキトが気にしていることは、

なぜ、昨日の今日なのに、二人の仕事着があるのか・・・・その事であった。

アキトは当然知らないが、実はサイズまでピッタリだったりする。

 

 

「アキト兄さん。似合ってない?」

「そんな事はないよ、メアテナちゃん。よく似合ってるよ」

「ありがとう!!」

 

 

メアテナが向日葵のような笑顔でアキトに御礼を言った。

その笑顔を見たアキトは、メアテナが気に入っているから、別にいいか・・・と思った。

 

 

 

 

 

時は移って・・・・昼食時より少し前。

店内にもチラホラと客が増え、これから忙しくなる前兆を感じさせる。

 

午前中の仕事は、店長とルナに任せ、アキトはメアテナに仕事を教えていた。

ニースは、別に聞かなくても大体のことは分かるといい、ルナと一緒にウェイトレスの仕事を手伝った。

 

意外・・・・というべきなのだろうか、ニースの仕事ぶりは、一流と言っても差し支えないほど熟練した動きだった。

アキトが、どうして手慣れているのかと質問したところ、ニースはただ一言・・・

 

 

「実家がレストランだったのでな。よく手伝ったものだ」

 

 

・・・・・と言った。なんだか妙な気もしないでもなかったアキトだが、

ルナの実家も雑貨屋だし、自分の親に至っては科学者だったことを思いだし、そんなものか・・・と納得した。

納得しようがしまいが、今、目の前の現実は変わるわけではない・・・と、思ったのが正解なのだろう。

 

 

アキトは隣にいるメアテナに声をかける。

 

 

「メアテナちゃん。仕事は覚えた?」

「うん。でも・・・・ちょっと不安があるかな・・・・」

「そうか・・・初めてだからね。不安になるのも仕方がないか・・・・ルナさん」

「なに?アキト君。何かあったの?」

 

「メアテナちゃんですけど、昼からウェイトレスの仕事をさせようと思うんです。

でも、初めてやることだから、ルナさんにフォローを頼みたいんです」

 

「なるほどね・・・わかった。でも一つだけ条件があるわ」

「・・・・??なんですか?条件って」

 

「アキト君もフォローをすること。ウェイトレスの片手間にやる私より、

傍にいて助言する方が、何かと安心できるしね」

 

「そうですね・・・わかりました。メアテナちゃん。俺はこの席に座っているから、

わからなくなったり、困ったことがあったりしたらすぐに聞いてね。

もちろん、俺もメアテナちゃんを見ているから、困ったことがあればすぐに行くから安心して」

 

「うん。ありがとう」

「それじゃぁ、頑張って」

「は〜い!!」

 

 

しかし、アキトの心配を余所に、メアテナはテキパキとウェイトレスの仕事をこなしていった。

どことなく、幼い雰囲気をもつメアテナが一生懸命頑張る姿は、

子供がお手伝いをしているような、愛らしさを感じさせ、男女問わず人気の的となった。

 

対するニースは、怜悧な表情のまま、ウェイトレスをしていた。

その凛とした態度や行動に、憧れる男女が続出。(七対三で、女性の比率が多いが・・・・)

メアテナとは別の意味で、人気がかなりでたらしい。

 

 

(二人とも、美人だからな・・・人気がでると思ったが・・・予想以上だな・・・・

それに、これをきっかけにゼフィーリアの人達と打ち解けてくれたらいいんだけどな・・・・)

 

 

アキトは、二人のこれからの生活に心配していたが、そういったことは杞憂にすぎないだろう。

この街の人間・・・とくに、ルナやアキトの身の回りにいる人間にとって、過去はさして重要ではなく、

今現在・・・そして、これから何を成そうというのか、それが大切のなのだ。

 

例え過去に重大なことを犯したとしても、償い、前を向いて歩こうという人達に、

ルナをはじめとする、ゼフィーリアの住人は、手を差しのべようとするだろう。

 

お人好し・・・そういえば身も蓋もないかもしれない。

だが、それが皆から好かれる一因であり、アキトもこの国の人達を好きになった要因でもあった。

 

そして・・・アキトが心配するまでもなく、この人物がメアテナやニースといった美女を目の前に、

なにも行動を起こさないということはない。

 

 

「よう、アキト!ニースとメアテナちゃんに手を出してないだろうな」

「出すはず無いでしょう?いきなりなに言ってるんですか、シンヤさん・・・・・」

「なに、挨拶ってやつだ」

「・・・・シンヤさんが俺のことをどう思っているかよく分かる挨拶でした」

 

 

アキトは疲れたような顔をしながら深く溜息を吐いた。

 

 

「それで・・・なにをしに来たんですか?」

「もちろん、昼食を食べにな。それに、あの二人が働いてるって聞いたもんでな。大急ぎでやって来たってわけよ」

「そうですか・・・・」

「ニースは美人だし、メアテナちゃんは可愛いし。また楽しみが増えたな」

「・・・・・・シンヤさん。二人の事情を知っているんでしょう?」

 

「もち!だがそれがどうしたってんだ。二人とも良い子じゃないか。

アキトよ、今さら俺を試そうなんてすること自体、間違ってるぜ」

 

「そうですね。すみません」

 

「なに、それだけお前が心配性だってことだ。気にしちゃいね〜よ。

んなことよりも・・・二人に早くもファンがついたみたいだな」

 

「そうなんですか?」

「そうなんだよ。相変わらず、お前はそう言った方面には鈍いんだからな・・・客をよく見てみろ」

 

 

アキトは、シンヤに言われて客の顔や、見ているものなどをそれとなく追ってみた。

客の視線は、ルナ達三人の後を、追いかけるように見ている人が大半だった。

中には、俺のことを見ている女性もいたが・・・仕事をしない俺を不審にでも思ったのだろう。

 

 

「なるほど・・・なんとなくわかります」

(これがわかって、自分のがわからないんだからな・・・)

「二人に害とかがなければいいんですけど・・・・」

 

「それについてはまかせておきな。俺がそれとなく、まとめておいてやるよ。

下手な行動にでようとする奴がいたら、目も当てられないからな・・・」

 

「ええ、確かに。あの二人は手加減というものを知りませんから・・・・」

 

 

アキトとシンヤが心配しているのは、ニースやメアテナではなく、

それを襲おうとするとち狂ったバカな連中のことだった。

 

万が一、そんな事態になろうものなら、命まではとらないかもしれないが、

文字通り、腕の一本や二本は遠慮なく斬りとばすだろう。そういった二人なのだ。

 

ニースに至っては、最大の譲歩だともいえる。不埒なことを考える連中には容赦しない性格なのだ。

メアテナに至っては・・・・アーウィンの教育が(娘愛しさゆえ、だろうが)過激だったと言わざるをえない。

 

 

「お願いします。一応、二人には手加減するように言っておきますけど・・・」

 

「なに、襲った奴らの腕が無くなろうとどうでもいいんだ。自業自得だしな。

ただ、二人が平穏に暮らせるように手配するだけだ。

それに、せっかくの美女二人だ。彼女達には笑っていてほしい」

 

「ありがとうございます。シンヤさん」

「そう、改まって言われると照れ臭いが・・・ま、気にするな」

 

 

シンヤはそれだけ言うと、空いてる席に座り、昼食を頼んだ。

アキトは、照れているシンヤに、心の中でもう一度、礼を言った。

 

メアテナは、楽しそうにウェイトレスの仕事を一生懸命頑張っていた。

ニースも、真面目な顔で仕事をしていたが、どこか楽しそうな表情をしていた。

 

この二人が・・・ゼフィーリアにとけ込める日も、そう遠くないだろう。

 

アキトは二人の楽しそうな表情を見ながら、そう思った。

 

 

 

(第三十二話に続く・・・・・)

 

 

―――――あとがき―――――

どうも、ケインです。

ようやく、『赤き力の世界にて・・・』の第二部的なものが始まりました。

そんなに長引かせないつもりです。よろしければ最後までお付き合い下さい・・・・・

 

それはともかく・・・・後二話ほど、ほのぼの?とした話が続きます。

次回は、とある人からのリクエスト作品みたいなものです。スペシャルで出てきた人が登場する予定です。

それと、ちょっとした事件でも書こうかな?(注・アキトの女難関係ではありませんので・・・・)

 

では最後に・・・・K・Oさん、JINGさん、watanukiさん、アッシュさん、ホワイトさん、下屋敷さん、

霞那岐さん、軍神さん、工藤さん、持山さん、失敗作さん、堕竜さん、真咲和葉さん、

GPO3さん、ノバさん、憂鬱なプログラマさん、ナイツさん、感想ありがとうございます!!

 

次回もよろしければ読んでやってください!では!!

 

 

追伸・・・悠久の後に跳ぶ世界の有力候補は、今のところ『棄て・プリ』です・・・・

     それは良いんですけど、『火魅子伝』を推してくる人もぼつぼつと・・・済みません、知らないんです。

     ストーリー自体知りません。面白いんですか?

 

追伸その二・・・感想をメールでくれる人は、題名か中身に名前を書いて下さい。

         あとがき最後で感謝を伝えられませんので・・・・・では・・・・・

 

 

 

 

 

 

代理人の感想

四六のガマのごとく、アキトの顔から油汗がたら〜りたらりと(爆)。

 

ま、世の中には足の指だけでナイフとフォークを操って器用に食事する特異な人種もいない事はないので

(ex.「なりゆきダンジョン」及び「ZOIDS/0」の主人公たち(爆))

アキト君もそうした修練を積んでみるのも有効だったかもしれません(笑)。

 

 

・・・しかし、ニースって結構いい性格してるのな(爆)。