湖の中に姿を消したルナ・・・・・・

アキトはルナが着水した辺りを見ながら、湖の側に着地した。

 

 

(虎牙弾が当たる寸前、赤竜の力を集結させて威力を削いだ・・・・

その上、自ら後ろに跳び、衝撃を受け流した・・・か。完全に防がれたな)

 

 

元々、昂『氣』を完全に集束させる時間が無く、不完全な虎牙弾だった上に、

蒼き風の盾に半分以上、威力を削がれていた所為もあったが、

それらを差し引いても、あの一瞬の間に完全に対処したルナの技量は凄まじいの一言に尽きる。

 

 

「気配は完全に消している・・・か。氣を探ればいいだけだけど・・・ま、いいか。

この際、ついでだからあれも試してみよう」

 

 

アキトは氣を手に集束させながら、その手を水面にそっとつけた。

アキトの手に集束しつつある氣の光が強まるたびに、湖の水が淡く光りだす!

 

 

「(この程度の力でいいか・・・・・)地竜式 氣功闘方術 水破!!

 

 

水破・・・空破と地破の同系列の技で、名前からわかる通り、水の氣と自分の氣を呼応させる技。

アキトが今やったのは、その中でももっとも基本の技・・・・・

水中に氣の衝撃波を放ち、それを水氣と呼応させて増幅させるというもの。

使い様によっては、水中に潜む敵を一網打尽にも、魚を気絶させるのにも使える便利な技。

(全くの余談だが、この技を習ったガイウスは、真っ先に後者を実践したらしい・・・・)

だが・・・アキトの意志とは裏腹に、湖面全体が爆発したように、巨大な水柱を立ち上げた!

その絶景を見ながらアキトは、自分の二つの失敗に気がついた。

 

 

(力加減を間違えた・・・・空気中より、水中の方が衝撃波が伝わりやすいんだったな・・・

それに・・・炎、大地、風・・・・と続き、さらにこの状況下だったら・・・

ルナさんが次にどんな手を取るのかは、予測できるはずだった・・・・・)

 

 

湖面全体が爆発したように水柱を上げたのは、なにもアキトの所為だけではない・・・・

アキトの技に便乗して、ルナが精霊術を使ったのだ。

その証拠に、水柱は急速に集束して一本の巨大な水竜巻と化そうとしていた。

 

アキトはそれを確認しながら昂『氣』を練り上げる・・・・

しかし、それを待つことなく、水竜巻は龍の如くうねりながらアキトに向かって襲いかかる!!

 

アキトは大地を削りながら猛スピードで襲いかかる水竜巻から逃げつつ、右拳に昂氣を集束させる!

そして、その拳を手刀のようにして、頭上にかかげ・・・・・・・思いっきり振り下ろした!!

 

一束に集束された昂氣は、水竜巻をなんの抵抗もなく真っ二つに切り裂く!!

二つに裂かれた水竜巻は爆発したように四散し、辺りに水をまき散らす!

 

 

「やったか!?」

 

 

だが、その期待を裏切るように、まき散らされた水は小さく、細く引き伸ばされ、針のような形状になった!

白き輝きを放つ水針は、宙に一旦静止すると、次々にアキトに襲いかかる!!

その水針は、湖面の水量に比例して数が多く、一万は超えている!

 

迫りくる水針を避けるために、防護壁を展開しながら瞬時に後ろに下がるアキト!

つい先程までいた大地には、千数百の水針が突き刺さり、大地を容赦なく削って・・・否、えぐっていた!

 

 

「まともに喰らえば、人の体ぐらい残らず消滅するな・・・・・」

 

 

迫りくる水針を、蒼銀の防護壁で防ぎながら、アキトは呟いた・・・・

水針の嵐はほんの数秒ほどで止み、辺りには湿度が上がった空気と、人が埋まるほどのクレーターが残った。

 

アキトは気配を感じ、湖を見ると、そこにはルナが水面の上に立っていた。

水の中に入ったにもかかわらず、何一つ濡れていない状態で・・・・

 

 

「ちょっと頑張ってみた水芸なんだけど・・・・気に入ってもらえた?アキト君」

「ええ、ちょっとかどうかは疑問ですけど、術の凄さは実感しました」

「それは良かった。頑張った甲斐があったわ」

 

 

ルナは再び蒼き風を身に纏い、軽やかに飛翔した。

そして、アキトの傍へと音を立てることなく舞い降りる。

 

 

 

 

 

「どう?アキト君。もうちょっと続ける?」

「いえ、もういいです。そろそろ次に進みましょう」

「そうね。とりあえず・・・・・基本から行きましょうか」

 

 

ルナはそう言うと、手に赤竜の力を集束し、一本の赤い刃をもつ剣を創り出した。

アキトも、ルナに習うように、手に赤竜の力を集め、一振りの剣を創り上げる。

 

 

「赤竜の武具に決まった形状はない・・・・それは知っているわね」

「ええ、剣になったり盾になったりしましたからね」

 

「そうね。そして、その形状を決めるのが持ち主の意志・・・イメージが主ね。

形を剣から盾に変えたとき、アキト君は何を思ったの?」

 

「あの時は・・・ニースの技を防ぐために、剣を盾のように使おうと・・・・・だからですか・・・・」

「ええ、赤竜の力がアキト君の意志を感じ、盾へと変化したのね」

「そうだったんですか・・・・・」

 

 

アキトは、自分の手の内にある赤竜の力で創り出した剣を暫し眺めると、

剣をまっすぐに立てるように構える。

 

(イメージか・・・・とりあえず試してみるか・・・・盾となれ!)

 

赤竜の剣は、アキトの意志を受け、柄の埋め込まれた蒼銀の宝玉を輝かせて、瞬時にして盾へと変わった。

その盾は、以前ニース戦との際に使用したものと、まったく同じデザインの盾だった。

 

 

「結構すんなりといったわね、アキト君」

「そうですね。今までの経験上、想像イメージすることには、慣れていましたからね」

 

 

正確なボソンジャンプ、そして、エステバリスをIFSによって緻密な動きまで再現できるアキトなのだ。

ものなどを正確にイメージする事において、アキトの右に並ぶ者はいないと言ってもいいぐらいだろう。

 

 

「慣れているのなら話が早いわ。それが全てと言ってもいいぐらいだから・・・・・

強度や威力、切れ味を左右するのは、剣に込められる赤竜の力の量と、創り出した本人の意志力。

力の量云々はともかくとして、意志力という点なら、アキト君は問題ないわね」

 

「そうですか?」

 

「そうよ、純粋な意志力でいうなら、アキト君は私を超えているでしょうね。

・・・・あ、それと最後に、イメージ次第といっても限界はあるから」

 

「限界といっても・・・どういった限界なんですか?大きさですか?」

 

「それもあるんだけど・・・私が問題にしているのはもっと別の事。

以前、できるかどうか試したことあるんだけど、どうも精密なもの・・・機械などは創り出せないの。

ブローディアディアちゃんやブロス君の本体などは絶対に無理と考えた方がいいわ」

 

「大きいし、精密ですからね・・・・無理に創ろうとすればどうなるんですか?」

 

「同じ形をしたゴーレムもどきができるでしょうね・・・

もっとも、どれ程の力が必要かわからないけどね。剣とかを創り出すのとはわけが違うから・・・

いえ、それよりも先に、力の具現化に精神と肉体がもたないかも・・・・良くて廃人、悪くて肉体崩壊かな?」

 

「そんなに危険なんですか!?」

 

「まぁね。人間の体で神の力を扱うのだから、危険リスクと限界はあるわ。

でも、人が扱える程度の武具、もしくは道具ならばまったく危険性はないわ。それは私が保証するから安心して」

 

「解りました。扱いには十分に気をつけます」

 

 

強い力を得るには、それなりに危険性リスクが伴うのは当たり前だな・・・と、アキトは心の内で呟く。

その考えは、防御力を攻撃力に転化させる『DFS』を使っているからこそだろう。

 

 

「じゃあ、話はこれくらいで・・・後は実戦で練習してみましょうか」

「わかりました」

 

 

アキトとルナの二人は、やや間合いを広げて、得意の構えをとる。

 

 

「行くわよ、アキト君」

「いつでもどうぞ!」

 

 

そう言い終わるや否や、二人はその場から一足飛びに相手に飛び掛かり、斬りかかった!!

二人の赤い刃が触れると同時に、ギィン!というような不可思議な音と共に、

赤い光の波動が、波紋のように広がっていた!

 

見た目は少々違うものの、その光景はDFSと魔剣、魔剣と神剣がぶつかり合ったときとよく似ている。

 

 

「力のある武器同士だと、こうなるんでしょうかね?」

「そうじゃないかな?私もあまりやったことがないからわからないけど・・・・」

 

 

アキトとルナは剣を打ち合う。その二人の闘う姿は非常に優雅で美しかった。

まるで申し合わせたように剣がぶつかり、そして離れてはまたぶつかり合う・・・・・

それはまるで闘いというよりも、剣舞という方が正しいだろう。

 

 

「赤竜の武具・・・剣にしても、形は決まってはいないわ。このようにね」

 

 

そう言ったルナは、剣を持っていた右手を、まるで弓を引くように後ろに引いた。

その型から予想される攻撃方法は刺突・・・・アキトはそう予測した。

事実、それは大きくは間違ってはいない・・・・大きくは・・・・・・・・

 

 

「―――――ッ!!」

 

 

ルナがいざ攻撃を繰りだそうとする寸前、剣の宝玉が光を放ち、その刀身の形状を変化させた!!

より細く!より鋭く!風の抵抗すら貫くような形状・・・・それは細剣レイピアと呼ばれる剣であった!

 

アキトは高速で繰り出される突きを、右側に身を捩りながら剣で弾いてかわした!

だが、ルナはアキトの体勢が元に戻るを待つことなく、連続して二撃、三撃と突きを繰り出す!!

 

(連続三段突き!!体勢を立て直すことは不可能!なら・・・・・)

 

 

アキトは体を捻った事を逆に利用し、右足の先を軸点にして、屈みながら体を回転させる。

そのまま、体を回転させた勢いに、立ち上がる勢いを加えて、下から斬り上げる攻撃をルナに繰り出す!!

 

ルナは細剣レイピアの柄と刃の先に手を添え、斬り上げてくる攻撃を剣の腹で刃を横にして受け止める!

だが、攻撃の勢いは強く、細身の細剣レイピアは大きくたわむ!!

 

―――――刃が折れる!!

 

その光景を見ていたリナ達はそう思った次の瞬間!

ルナの体が突如として宙を舞った。まるで、バネか何かで弾き飛ばされたように・・・・・

 

 

「あんな無茶な体勢から流れるような動きができるなんてね。凄いわ!」

「ルナさんこそ・・・剣のたわみを利用して、後ろに跳びますか?普通・・・・・」

 

 

アキトは呆れたような目でルナを見ている・・・・

そう・・・ルナはたわんだ刀身が元に戻る時の力を利用して、後ろに跳んだのだ。

こうなると、対処した方法云々よりも、手品か大道芸にしか見えない・・・・

 

そんな視線の意味を悟っているのか、ルナは愉快そうに微笑んだ。

 

 

「気にしない気にしない。別に卑怯な手ってわけじゃないしね」

「それはそうですけど・・・・良く折れませんでしたね」

「かなり丈夫だから。でも、結構きわどかったのよ?後ちょっとで折れていたからね」

「そうなんですか・・・危なかったんですね」

「まぁね。今度はそうならないように気をつけるわ」

 

 

ルナ持っている剣の柄にある宝玉が輝くと、刀身がまたもや瞬時にして変化し、細剣レイピアから大剣グレート・ソードとなった。

大きくなったのにもかかわらず、ルナは片手でそれを二、三度振り回す。

 

 

「さ、次々行きましょうか!」

「お手柔らかに・・・・・」

 

 

ルナは大剣グレート・ソードを頭上にかかげ、赤い光を纏わせる。

そして、十メートルぐらい離れているアキトに向かって、軽いかけ声と共に、躊躇なく振り下ろした!

 

 

「よっこいしょっと」

「よっこいしょって・・・・ルナさん」

 

 

アキトはなんて言えばいいのかわからない・・・という顔をしながら、

衝撃波をまき散らしながら大地を切り裂く赤い剣閃を、半歩ほど体を横にずらして避ける。

その剣閃がアキトの横を通り過ぎた瞬間、真横に振るわれた赤い剣が、アキトの眼前に迫った!!

だが、アキトはそれを予測していたかのように、剣を使って斬撃を受け流した!

 

 

「剣閃の陰に隠れる考えは良かったですけど・・・残念でしたね。

剣閃が集束しすぎて、体が隠れきれてませんでしたよ」

 

「う〜ん、残念」

 

 

アキトはそう言うものの、実際のところ、先程の攻撃を見切れる人物は片手の指でも事足りる。

ほとんどの者が、ルナの斬撃以前に、先の剣閃で倒されているだろう。

 

 

「じゃぁ、次は変則な攻撃にいきましょうか・・・」

 

 

ルナは大剣グレート・ソードを大きく後ろに振りかぶると、先程と同じように振り下ろした!

だが、今度は振り下ろしている途中で宝玉が光り、突如として刀身が伸びた!!

 

 

「―――――な!?」

 

 

アキトは慌ててその場から飛び退く!

その先程までアキトがいた大地を、ルナが振り下ろした武器が、パン!という甲高い音と共にえぐった!!

 

 

ウィップ!?そういうのも有りですか!?ルナさん!」

「持ち手の意思次第っていったでしょ?アキト君」

 

 

ルナは鞭の先を手元に引き寄せると、再び振り上げて攻撃を繰りだす!

操られた鞭は、ヒュゴウ!!という、とんでもない風切り音と共に、アキトに襲いかかる!!

 

(さすがルナさん。半端な腕じゃないな・・・・)

 

アキトは鞭の範囲外へと一足飛びに後退する。

それを見たルナは、鞭に赤い光を灯らせ、横に一薙ぎする!

その一薙ぎは赤い閃光を放ち、空を切り裂きながらアキトに迫る!!

 

アキトは咄嗟に剣を盾に変え、赤い閃光を受け止める!

盾と衝突した閃光は、散り散りとなってかき消えた・・・・・

 

(防御一辺倒じゃキリがないな・・・なら、こちらから少し手を出すか!)

 

再び盾を剣に変えると、アキトは猛然とルナに向かって突進した!

ルナはその様子に幾分かは怪しみ、牽制を兼ねて鞭を振るった!

 

(今だ!!)

 

横から襲いかかる鞭を見ながら、アキトは剣を棒へと変化させ、棒高跳びの要領で鞭をやり過ごした!

流石のルナも、そんな行動にでるとは思ってはいなかったらしく、ほんの一瞬だけ、動きが鈍った!

予め、昂『氣』を練っていたアキトは、左手に力を集束させ、昂氣弾を作り出す!!

 

蒼銀の弾はかなりの速度でルナに襲いかかる!

ルナの鞭は、アキトが創り出した棒に絡まり、今から引き戻しても迎撃には間に合わない!

そう判断したルナは、左手にナイフを創り出し、昂氣弾に向かって投げつける!!

 

接触した二つは、軽い衝撃波を散らし、あらぬ方向へと弾き飛ばされた。

 

 

「あ〜・・・危なかった。まさかいきなりアレを使うなんてね・・・」

「あれ?いけませんでした?」

「ううん、別に。ただちょっとビックリしただけ・・・」

「そうなんですか・・・・なら、もう使わない方が・・・」

「気にしないで。その代わり、私も術を併用させるから」

「わかりました」

「じゃ、まず炎から・・・・」

 

 

ルナの周りに黄金きんの炎が発生し、その身にまとわりつく!

その炎を元に、ルナの目の前に十数個ほどの光球が創り上げられる!

 

 

火炎球ファイアー・ボールですか?」

「見た目と効果はね・・・でも、火炎球ファイアー・ボールよりは少し厄介かな?」

「・・・・・厄介?」

「まぁね。すぐに解るわ・・・・行け!!」

 

 

ルナの合図に、黄金きんの光球は一斉にアキトに襲いかかる!!

アキトは、手に持っている剣で斬ることを考えたものの、爆発する可能性を考慮し、避ける方法をとった。

だが、そんな考えを見透かしたかのように、黄金きんの光球はアキトの後を追う!!

 

 

「追尾式!?なるほど、これは厄介だ!!」

 

 

アキトは、剣閃で光球の群を迎撃しようと、赤竜の剣を横薙ぎする!!

ルナはそれを見て、ちょっと意地悪そうに口を開いた。

 

 

「残念。正解は半遠隔操作型。あれを避けろとか思ったら、勝手に避けてくれるのよ」

「無茶苦茶厄介じゃないですか・・・・」

 

 

アキトの放った剣閃を避けながら、光球の群はさらに迫りくる!!

 

 

「衝撃波といった動作が大きかったり速度が遅いものは避けられる、か・・・・なら」

 

 

アキトは光球の群を見ながら、身体を低くして剣を構える・・・・そして軽く息を吐いた・・・

次の瞬間!!アキトの身体から眩しいほどの閃光が放たれ、その場から消え去る!!

 

その直後!

 

 

ドドドドドン!!!

 

 

ルナの放った光球の群は連鎖して爆発し、黄金きんの炎を撒き散らした!!

 

アキトは、体内に蓄積した氣を一気に解き放ち、それによって得た驚異的な脚力を持って一瞬にして光球を斬り、

爆発の衝撃が発せられるよりも先にその場から離脱したのだ。

 

 

「やるわね。でも、これならどう?」

 

 

ルナは、アキトの左右に向かって手を向ける。

右手の先にある、先程の爆発から生まれた荒れ狂う黄金きんの炎から、数百もの炎の矢が生まれ、

左手の先の空間では、空気中の水分が集まり、数千もの水針が発生した!!

発生したと同時に、アキトの周りに展開したため、すでに脱出ルートはなくなっていた!

 

ルナが左右の腕を、隙間を閉じるように交差させる。

その動きに同調し、炎の矢と水針は、一気にアキトに襲いかかる!!

 

アキトのいた空間で炎と水がぶつかり合い、激しい水蒸気が発生して、辺りの視界を不鮮明に変えた・・・

ルナはそれを、風の精霊術を使い、腕の一振りにて吹き飛ばした・・・・・

 

鮮明となった区間にあったのは・・・・・・・派手に抉られ、大きなクレーターができた大地と、

右手に蒼銀の防護壁を・・・左手に赤竜の盾を構えたアキトの姿だった。

 

 

「さすがアキト君!私が見込んだだけはあるわね」

「それはどうも・・・・かなり危うかったですけど」

 

 

アキトの頬に、冷や汗が流れた・・・・・実際、本当に危なかったのだ。

昂『氣』を練り上げるのが間に合うかどうかわからなかったため、赤竜の盾を二つ創ろうとしたところ、

アキトの中にある赤竜の力の量が足らず、一つしか創り出せなかったのだ。

防護壁が間に合ったのは、本当にギリギリだったのだ。

 

 

「もう少し本気を出さないと、死ぬかもしれませんね・・・・」

「ごめんなさいね。アキト君相手に手を抜いたら、訓練にならないし・・・・」

「わかってますって。気にしないで下さい。でも・・・今度はこちらからも進んで攻撃します」

「ええ、いいわよアキト君」

 

 

アキトは手にしていた赤竜の剣に意識を集中させ、自分の望む武具へと変化させた。

赤竜の剣は、赤い光となって両腕の先に集結し、手甲となった。

 

名付けるならば、『赤竜甲』とでも言えばよいのか・・・・

赤い手甲の装甲は鱗のようなものが重なってできており、美しい金の装飾がされていた。

もちろん、蒼銀の宝玉が、手の甲辺りに埋め込まれていた。

 

拳を軽く握りしめながら、アキトは構えをとり、身体には蒼銀の光昂氣を纏っている・・・・

 

ルナも、手に持っている武器を剣に戻し、右手に持って自然体で立っていた。

その上、大地の精霊に干渉しているのか、ルナの周りの大地が銀色の光を放っている。

 

 

「ルナさん・・・・・行きます!!」

「ええ!」

 

 

アキトはルナに向かってもの凄いスピードで走る!

 

それに対してルナは、ただ一歩・・・・踏みだしただけ。

だが、その一歩でアキトとの距離、数メートルを詰めていた!!

 

アキトは目の前に現れたルナに、内心驚きつつも、拳を繰り出した!

ルナも、まさかアキトがこれほどの対応速度があるとは思っておらず、防御一辺倒となった。

 

(まさか、いきなり間合いに現れた私に対して、これほど素早く対処できるなんて!さすがね!)

 

ルナはアキトの攻撃の隙間に後ろに一歩下がる。

次の瞬間には、ルナの姿は忽然と消え、またもや数メートルほど後ろに現れていた。

アキトはその間合いを、一足飛びに詰め、再びルナに拳を繰りだす!

が、今度はルナの方も余裕があり、剣を繰り出していた!

 

 

「一体何なんですか?それは・・・素早く動いているわけでもないのに、もの凄いスピードで移動するなんて・・・」

「秘密。タネを明かしたらつまらないでしょう?」

 

 

そう言ったルナは、横に一歩踏み出し、また姿を消した!

何処に・・・・と、アキトが考えた瞬間、首の辺りに鋭い気配を感じ、反射的に身を屈める!

その判断は正解で、首のあった辺りに赤い刃が通り過ぎた!

 

 

「次から次と・・・術が多彩ですね!」

「そもそも、精霊術って、術者の意志通りに働くものだからね」

「ということは、それも精霊術ですか・・・・」

「あ、しまった・・・・・」

 

 

アキトは状況からルナの使っている術は、大地の精霊によるものと考え、

大地の氣の流れを感じるように気をつけながら、ルナに攻撃を続行した!

そして、ルナが再び姿を消した瞬間、大地の氣の流れが変わったことに気がついた!

 

 

「右!!」

 

 

アキトは、なにもなかった空間に向けて拳を突き出す!

すると、その場にルナが現れ、アキトの拳をかろうじて剣で受け止めていた!

 

 

「もう見切ったの?早いわね」

 

「大地の精霊に干渉して、地脈の流れに乗った・・・というところですか?

大地の氣の流れが急速になっていましたからね。先読みするのは簡単でした」

 

「結構奥の手だったんだけどね・・・・まあいいわ」

 

 

ルナは大地の精霊に意志を飛ばした!

その意志を受け取った精霊は、アキトの足元に銀色の光の柱を立てる!!

 

その寸前に、大地に力の集まりを感じたアキトは、その場から後ろに跳びずさっていた。

 

 

「大地の光・・・・純粋な大地の精霊力による攻撃よ。他にも、こういった術もあるわ」

 

 

ルナは、大地から銀色に輝く水晶の矢を、十数本ほど作り出し、アキトに向かって解き放つ!!

アキトは、その迫りくる水晶の矢から目を離さないまま、右手を前に差し出す。

 

 

(赤竜の武具はイメージ次第・・・ならば・・・・・)

 

 

アキトが身に付けていた赤竜甲は、赤い光へとなり、右手の内に集まった。

その光は、次第に形を整えながら、その手の内に姿を現した!!

 

 

「なんでもやってみるものだな・・・・・まさかブラスターまで創り出せるとは」

 

 

アキトは手の内に現れた赤竜の銃・・・・それは赤い色をした銃身で、やや大きめな装飾銃であった。

リボルバー式であれば弾を込めるところに、蒼銀の宝玉が埋め込まれてある。

 

赤竜の銃のグリップを握りしめたアキトは、迫りくる水晶の矢に照準を合わせ、引き金トリガーを引いた!

 

 

ガガガゥン!!

 

 

銃声と共に、銃口より吐き出される蒼銀の弾丸!!

しかも、銃声は三つにもかかわらず、放たれた弾丸は十数発!!神速の連続早撃ちクイック・ドロウだ!!

 

吐き出された弾丸は、一つも外れることなく、銀に輝く水晶の矢を打ち抜き、微塵に砕く!!

そして、昂氣で作られた弾丸はその程度で威力を落とすことはなく、そのままルナに向かって飛んでゆく!!

 

ルナは赤竜の剣を右手で強く握りしめると、大きく後ろに振りかぶった!!

 

 

「ハァァアアーーー!!」

 

 

ギギギギィィン!!

 

 

ルナの右手が霞むと同時に、後少しという所まで迫っていた蒼銀の弾丸が、

高速で繰り出される剣によって、甲高い音と共に弾き飛ばされた!!

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「ちょっと待てい!!」

 

 

リナは自分達に向かって飛んでくる蒼銀の弾丸数発を、焦ったように見た!!

いや、実際焦っているのだろう。

水晶の矢を砕いている時点で、その威力が人を貫いて余りあるということに気がついているのだから・・・・

 

(洒落になってない!あんなもんどうやって防げばいいのよ!!

しかも、きっちりと私に向かって飛んできてるし!

姉ちゃんも、どうせなら剣で弾くよりも斬ってくれればいいのに!!)

 

リナは自分に迫ってきている弾丸をなんとか避けようとするが、決定的に反応速度が足らず、

あと数瞬後、その弾丸が自分の胸元を射抜くであろう事を、何となく感じることしかできなかった・・・

 

・・・・が、その前に、蒼銀の弾丸とリナの間に割り込む凄腕の剣士がいた!

 

 

「おりゃぁ!!」

 

ガギィィン!!

 

ガウリイはかけ声と共に、上段に構えていた妖斬剣ブラスト・ソードを振り下ろし、蒼銀の弾丸を叩き落とした!

下へと軌道を変えられた弾丸は、なんの物音もさせずに大地にその身を隠した・・・・

地面には、弾丸が落ちたところにポッカリと黒い穴が開いていた。

 

 

「さんきゅ〜ガウリイ。おかげで助かったわ・・・・って、どうしたの?」

 

 

剣を振り下ろしたままの格好で固まっているガウリイ・・・・

その様子を不審に思ったリナは、下からガウリイの顔を覗き込んだ・・・・

すると、そこには何かに耐えるように歯を食いしばっている顔があった。

 

 

「ちょ、ちょっとガウリイ!何かあったの?」

「・・・・・・・・かってぇぇ〜〜!思いっきり手が痺れた〜!!」

「痺れただけかい!」

 

 

リナは思わず突っ込みをするものの、ガウリイの状態が一体何を意味するのか・・・・

それに気がつき、やや顔を強張らせる。

 

(つまり・・・・姉ちゃんは斬らなかったんじゃなくて、斬れなかったっていうこと?

アキトの奴、おっそろしい事するわねぇ・・・・・・)

 

 

リナは地面に空いた穴を見ながら、あの蒼銀の弾丸の前には、

人の身体など紙一枚分の抵抗力もないことを認識した。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

水晶の矢クリスタル・アローを全部撃ち抜いたアキトは、軽い眩暈に襲われていた。

 

(やはり、弾丸タマが昂氣を圧縮させたものだけあるな・・・フェザー並の威力はあるんじゃないのか?

しかし・・・使いすぎには注意しないとな・・・昂氣を使用しているだけあって、体力を削っているのも同じだからな。

一発だけなら大したことはないんだけど・・・・乱発は厳禁だな)

 

 

以前、アキトが昂気刃で咆竜斬を使った際に感じた眩暈と、今現在、感じている眩暈は本質的に同じだった。

昂氣の大量使用による急速な体力の減少・・・それによって引き起こされているのだ。

 

しかし、アキトは気がついていない事がある・・・・

もし、北に赴く前に同じ事をしていれば、アキトはもっと強烈な虚脱感に襲われていたであろうという事実を・・・・

 

アキトは、赤竜の銃を再び赤竜甲に変化させ装着する。

 

 

「面白い使い方を考えるわね、アキト君。威力、スピード共に驚異的なものがあるわね・・・・

ただ、惜しむべきは、途中で軌道が変化しない事かしら?」

 

「仕方がありませんよ。そういう機能ですから・・・それでも、叩き落とすなんて事ができる人物は、

知っている限りでも五人にも満たないですよ」

 

「褒めてくれてありがとう。御礼に、私の奥の手の一つを見せて上げるわ」

「それは・・・嬉しいのやら、遠慮したいのやら・・・・複雑な気分ですね」

「大丈夫、手加減しなくても、アキト君なら無事でしょうし・・・じゃ、行くわよ」

 

(それはつまり、手加減をしてくれないということですね)

 

アキトは少々冷や汗をかきながらルナを見る。

ルナはそんなアキトの心情を知ってか知らずか、気楽そうに微笑んでいた。

 

 

「今日はもの凄く調子がいいみたい。よく視える・・・わ」

 

 

ルナは、数秒ほど、遠いものを見るように目を細めると、

手に持っていた大剣グレート・ソード状の赤竜の剣を、思いっきり振り上げてから、大地に突き刺した。

刀身の半ばまで突き刺すと、ルナは力を集中させ、赤い光を剣を介して大地に注ぎ込む。

時間的には一、二秒ほど・・・ただそれだけで、赤い光は辺り一面の大地に染み渡った。

 

アキトはルナの行動を知るために、大地の氣の流れを探る。

が、辺り一面から強い力を感じ、異常なところを見つけることができなかった・・・・

正確には、強すぎる力が充満しているため、異常なものが隠れてしまっているというべきか・・・・

 

 

「何をしたんですか?」

「すぐにわかるわ」

 

 

ルナは、アキトの問いに答えることなく、地面に突き刺さっていた剣を引き抜き、

両手で握りしめると、アキトに向かって一足飛びに斬りかかった!

 

アキトはルナが斬りかかる寸前に、素早く一歩踏みだし、懐に入る!

剣も槍も、懐に入られるとその威力は激減する。しかもアキトは無手の状態・・・・

どちらが有利なのか・・・・いうまでもない!

 

至近距離で繰り出したアキトの拳を、ルナは大剣グレート・ソードの柄で受け止める!

 

 

「やっぱり、無手のアキト君と闘うには、大剣グレート・ソードはちょっと大きすぎるわね・・・・」

 

 

ルナはそう呟きつつ、大剣グレート・ソードを二本の短剣ダガーに変え、それぞれを両手で持ち、逆手に構える。

大剣グレート・ソードと違い、間合いが限りなく無手に近い短剣ダガーならば、隙を作ることもないと判断してのことだ!

実際に、小回りがきくようになったルナは、防御に幾分か余裕ができていた。

 

 

「すぐさま武器を変化させることができるというのは、かなり便利ですね」

「そうね。どんな闘いにもすぐに対応できるというのは、結構強みになるからね」

 

 

ルナの右から繰り出された短剣ダガーを、左の手甲で受け止めるアキト。

しかし、ルナはすぐさま左手に持っている短剣ダガーを、下から斬り上げるように繰り出す!!

 

斬り上げられる短剣ダガーを紙一重で避け・・・・ようとした瞬間、アキトの直感が危険信号を発した。

その直感に従い、アキトは大きく後ろに跳び下がった!

 

それから数瞬後、長剣ロング・ソード並に刃が伸びた短剣ダガーが、アキトのいた空間を切り裂いた!

もし、後ろに避けていなければ、アキトは股下から脳天まで、真っ二つに裂かれていただろう。

 

 

(瞬時にして刃のみを伸ばしたのか・・・・)―――――ッ!!

 

 

大地に着地した瞬間、足元から急速にせり上がってくる力の奔流を感じ、

アキトは反射的に横に向かって跳んだ!!

それと入れ替わるように、大地から銀色の光の柱が発生した!

 

それを横目で確認しつつ着地・・・・・しようと片足を地面に付けた瞬間、

今度は片足の力だけで後ろに向かって跳んだ。

すると、またもや大地から発せられた光の柱が、アキトのいた空間を銀色に染め上げた!

 

二本の銀色に輝く光の柱とルナ・・・・それらを視界におさめつつ、アキトは二度ふたたび、着地する。

今度は大地の精霊力が集まることもなく、アキトはその場に立った・・・・

 

 

(おかしい・・・ルナさんは術を発動させている気配はまったくなかった。だったらなぜ?)

 

アキトは二度ふたたび、大地の力の流れを感じるべく、集中する・・・が、

結果は先程と同じ、辺り一帯の大地から発せられている強い力の所為で、怪しいところがまったく判らなかった。

 

(俺が考えつくのは一つ・・・地面の至る所に一定の領域内に入ったものを自動的に排除する術をかけた・・・・

ようするに、機雷か地雷のようなものだと考えるのが普通だな・・・・

そう考えると、今、俺がこの場に立っていても無事なわけが説明できる・・・・・

だったら・・・・その術を消し去るか誘爆させればいい!!)

 

アキトは大地に手をつけると、軽く息を吐き、氣を集中させる。

 

 

「ハァッ!!」

 

 

烈迫の気合いと共に、大地に発剄を放つアキト!!

ドンッ!!という音と共に、アキトの身体を中心にして、氣の光が波紋のように地表を走る!

目には見えなくとも地中も同様、氣の波動が染み渡るように広がっていった!!

 

ルナの仕掛けた術は、氣の衝撃波に触発され、銀色の光柱を立ち上がらせていた!!

予想通りの結果に満足しようとしたアキトだが、おかしな事実に気がついた。

 

六つある銀色の光柱が、全部アキトから一定の距離に立ち上がっていたのだ。

前、後、右前、右後ろ、左前、左後ろ・・・・誤差は多少あれど、まったく同じ距離と言っても差し支えはない。

 

アキトは、いつも張り巡らせてある氣の結界で、それらがどんな意味を持っているのか、瞬時に悟った!

 

 

「俺を中心とした・・・・・六紡星!!」

 

 

銀色の光柱が同じ色をした雷光を纏う!

その雷光は光柱より触手のように光を伸ばし、他の光柱より放たれたものと結びつき、

大地にアキトを中心とした六紡星を描いた!

 

その次の瞬間!六紡星の魔法陣は一つの巨大な銀の光の柱となった!!

見ようによっては超巨大な崩霊裂ラ・ティルト・・・だが、内包するエネルギーは比較にならないほど強力!

 

 

六紡星の中心にいたアキトの姿は、眩しすぎる光によって見ることができなかった・・・・・・

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「ちょ、ちょっと・・・・あれって・・・・・」

「ああ、いくらアキトでもやばいんじゃないのか・・・・」

 

 

リナとガウリイは、銀色に輝く巨大な光柱を凝視しながら呟いた・・・・・

二人とも、かなりの実力をもつ故に、光柱の力を感じているのだ。

 

そんな二人とは裏腹に、ニースとメアテナは平然とした表情で光柱を見ていた・・・・

アキトが心配だとか、安否を気づかっているという感じは、まったく感じられない。

 

 

「あんた達・・・よくそんなに平然としていられるわね・・・・」

「え?だって・・・アキト兄さんなら大丈夫だよ。きっと」

「なんの根拠で・・・・・」

「根拠って言われても・・・・何となくかな?アキト兄さんなら大丈夫って思えるの」

「そうなの・・・・で?ニースはどうなのよ」

 

「余計な心配だな。確かにかなりの術だ・・・・中級魔族なら残滓すら残らず消滅するだろうな・・・・

だが、あれで死ぬ程度の男なら、私との闘いで何度も死んでいる。あまりアキトの力を見くびらないことだ。

それよりも・・・気になる事がある・・・・・・」

 

 

ニースはアキトのいた辺り・・・正確には銀色の光が発せられている大地を見ながら疑問を口にした・・・・

リナはそんなニースの様子に、思わず問い返してしまった。

 

 

「気になるって・・・・あの術?」

「ああ、正確には描かれた六紡星だ。なぜアキトを中心にして描くことができたのか・・・それがわからない」

「それは・・・・姉ちゃんがそう配置したからでしょ?」

 

「そうだ・・・予め配置したのだ。寸前に配置し、発動させたわけではない。

先の攻撃を避けたのは、反射的にすぎない。それなのに、避けた先は六紡星の中心・・・・・どういう事だ?」

 

 

リナは、ニースの言いたいことを悟った。

アキトほどの実力者なら、回避行動を読まれると言う迂闊な事はしない。例え、それが無意識であっても・・・

それが読まれれば、回避という行動自体の意味を無くすのだから・・・・・

それなのに、ルナはアキトの避けた先に罠を仕掛け、あまつさえ、六紡星の布陣をやってのけた。

 

それは、アキトの逃げた先を知っていない限りは有り得ないはず・・・・・

 

 

「私の言いたいことが解ったようだな。

もし、仮にルナが自分で術を起動させれば・・・・何かあると予測し、アキトはその場から逃げていただろう。

だが、六紡星はアキトの手によって・・・・・・・・・起動し、結果、あの術が発動した。

回避行動もさることながら、アキトの次の手を読まない限りは、ああいったことはできない・・・・」

 

「確かにそうだけど・・・そんな事、未来でも予見しない限りはできないんだからやっぱり気のせいじゃ・・・・・」

 

 

その時、リナの脳裏にある一つの可能性が思い浮かんだ。勘・・・といってもいい。

だが、勘というのは、今までの人生で得た知識、経験に基づいて導き出される場合が多い。

 

 

「ニース・・・どんな魔族にもできない、神族にのみ許された特権、ってわかる?」

 

「魔族にはできずに、神にのみできる・・・か。わからんな。基本的に、神も魔も力そのものには変わりはない。

属性、限界に差はあっても、同じ条件下なら、同等といえるだろう・・・・それがどうしかしたか?」

 

「神族・・・いえ、神にのみ許された能力・・・・未来予知・・・・

時に巫女といった神に仕える者が受ける託宣・・・・それは絶対に外れることがないもの。

姉ちゃんに宿る力は、この世界の神たる『赤の竜神フレア・ドラゴン・スィーフィード』。

予知や予見の類ができても不思議じゃないと思うわ・・・・」

 

「なるほど・・・そうかもしれないな。おそらくその予想は当たっているだろう・・・・・」

 

 

ただし、その能力はいつでも出せるというわけではないだろうが・・・・・・・と、ニースは心の内で言葉を付け足した。

もし、自由自在に扱えるのであれば、今までの闘いは、苦もなく終わっていただろう。そう考えたのだ。

 

 

そして、その考えは当たっている・・・・・

 

ルナの未来予知の力は、とんでもなく発動確率が低い。十数回戦って、一度見えるかどうかの確率なのだ。

その上、見えるのは一分から三分程度まで・・・・・・

挙げ句の果てに、自分の意志で扱えないのだから、まったく意味がない。

ニースの予想は、かなり核心をついていたのだ。

 

今回のアキトとの闘いで、二度も見えたのは、破格の確率といってもいい。

ルナ本人も、内心はもの凄く驚いているのだ・・・・・・

 

 

(テンカワ・アキト・・・・私が認めた唯一の男。お前なら、神の未来予知を超えたことをやってのけるかもな・・・・)

 

 

ニースは、今は銀の光で染まっているアキトの居た辺りを、期待のこもった目で見ていた・・・・・

 

 

 

(その3へ・・・・)