赤き力の世界にて・・・

 

 

 

 

 

第41話「因縁―――――過去の決着」

 

 

 

 

 

 

心配していた魔族の襲撃もなく、無事に一夜を過ごしたアキト達は、

一路、サイラーグに向かって歩を進めていた。

 

今度はルナの術による移動はない・・・少しでも、力を温存しておくことにしたのだ。

 

 

「ここまで来ると、覇王ダイナストの位置が確実にわかるわね・・・・」

 

 

サイラーグと手前の街との中間に差し掛かろうかというところで、ルナは足を止め、遠くを眺めた。

その視線は、遠くから感じる覇王ダイナストの気配を辿っていることを、アキト達は知っている。

 

かなり強い気配なのだ。それなりに気配を読むことが出来る人間ならば、間違いなく気がついただろう。

ただし・・・ある程度の覚悟、もしくは実力がないと、覇王ダイナストの気配に気圧されて身体が硬直するだろうが・・・

 

 

「手前の街からすでに方向はわかっていたがな・・・・・

今朝、町の門が開くと同時に気配を感じ始めるとは・・・・完全に私達を舐めきっているようだ」

 

 

ニースは鼻で笑いながら、機嫌が悪そうにしていた。それもそうだろう・・・・

覇王ダイナストは気配を絶たないことで、自分の所へとアキト達を招いているのだ・・・

 

アキト達に勝てる自信があるのか・・・・それとも、アキト達の実力も解らない馬鹿なのか・・・・

判断はつかないものの、覇王ダイナストまでたどり着くためには、その気配を辿らなくてはならない・・・・

と、いう状況が気に喰わないのだろう・・・・その点においては、ルナとニースは同意見だった。

 

 

「罠・・・と考えるのが普通よね」

「だろうな。そこまですんなりと・・・・行かせてくれるはずはない」

 

 

ニースはそこまで言うと、目の前の草原を鋭い目で睨んだ!

その目線の先には、草原の大地から黒い何かが湧き出していた。

 

その黒い何かは、爆発的に広がり、眼下の草原を瞬く間に覆いつくしてしまった!

 

 

「大地と空と・・・一体どんな歓迎をしてくれるのかしら?」

 

 

ルナは上空を眺めながら呟いた・・・上空にも、黒い闇が大きく広がっていたのだ!

そして、黒い闇の中から次々に何かが盛り上がってくる!

 

 

「下級魔族か・・・・・よくもまあ、ここまでそろえたものだな、逆に感心する」

 

 

大地には人間の出来損ないみたいなモノから、動物もどき・・・果ては人やら動物やらの生首の団体・・・・

空には、これもまた背中に羽をはやした人間もどきから、物理法則に反して浮いている黒い円盤まで・・・・

 

出来損ないの抽象画から抜け出てきたのでは?と、思えるようなものが山のように現れていた。

 

 

「下級だけじゃないみたいよ、奥には中級の団体さんまで居るみたいよ」

「その様ですね・・・さすがに、ゼロスクラスの魔族はいないみたいですけど・・・」

最上級魔族五人の腹心を除けば、ゼロスは最強だから・・・比べるだけ失礼よ、アキト君」

「そうなんですか・・・・アレでねぇ・・・」

 

 

アレ・・・とは言うものの、アキトはゼロスの強さをおおよそ把握していた。

まともに闘えば、どちらかが確実に死ぬ事になる・・・そう、感じていた。

 

ただ・・・ルナやリナにこき使われている姿と、実力とが結びつかなかっただけなのだ。

まあ、アキトとてそれをゼロスに言えるかどうかは疑問に思うところなのだが・・・

 

 

「それはいいけど・・・・ルナ姉さんにアキト兄さん、どうするの?全部相手にする?」

 

 

メアテナが両手に赤き光刃を創りながらアキト達に問う。

ニースなどは、両手に二振りの赤き魔剣を創り出している。

 

 

「相手の狙いは、私達の消耗させることか、からかって遊んでいるか・・・・どちらかなんだけどね・・・・

わざわざ、相手の思惑通りに動くのもなんだし・・・・・」

 

 

ルナは、まだまだ増えてゆく下級魔族を眺めながら、思案した・・・

 

どのように戦おうとも、最終的には絶対に勝てる・・・・その事に関しては確定事項も同然。

これは自信云々という以前の話であり、今さら考えることでもない。

しかし・・・塵も積もれば何とやら。これほどの魔族の大群相手に、消耗せずに勝つというのは、

さすがのゼフィーリア・最強チームルナ・アキト・ニース・メアテナの四人でも不可能。怪我はなくとも力と体力は確実に消耗する。

後の覇王ダイナスト戦を考えると・・・・出来るだけ消耗を抑えた方がいい。

 

 

(思ったよりも、相手の動きが早かったわね・・・ここは時間稼ぎをして・・・・・・)

 

 

そこまでルナが考えたとき・・・・アキト達の後方の空間がゆらぎ、そこから数人分の人影が現れた。

空間の揺らぎと、現れた人の氣を感じたアキトは、驚きに目を見開きながら後ろを振り向いた!

 

 

「みんな・・・・・一体どうして・・・・」

「やっほ〜♪応援に来たよ、アキト」

「遅くなりまして申し訳ありません。このエルネシア、微力ながらも皆様に助力するため馳せ参じました」

 

 

呆然とするアキトに、戦闘用のいつもよりごつい服を着込んだアリスが明るく返事をし、

先に透明な水晶球が付いた杖を持ったエルネシアが、恭しく一礼をする。

 

 

「レニスさんにガイウスさんまで・・・・・」

「我が主君のめいにより、ルナ殿とアキト殿の露払いに来ました」

「最近、体が鈍り気味でな・・・・運動がてらに手伝いに来てやったぜ」

 

 

エルネシアに負けず劣らず恭しく敬礼するレニスと、指をバキバキ鳴らしながら獰猛な笑みを見せるガイウス。

さらにその後ろには・・・・・・

 

 

「リナちゃんにガウリイ・・・・二人とも・・・・・」

 

「ま、珍しく姉ちゃんの頼みでもあるしね・・・・それに、覇王ダイナストとやりあうんでしょ?

彼奴にゃ一発喰らわさないと気が済まないのよ・・・色々と借りもあるしね」

 

「そう言うことだ。今回は、俺もあいつを叩き斬ってやりたい気分なんでな・・・・・」

「前に話してくれたルークとミリーナっていう人のためにか?」

 

「まぁね・・・・ゼロスの話だと、きっかけを作った魔族は、覇王ダイナストの配下らしいし・・・・

なんと言っても、ディルス王国での借りをあの程度で済ませる気分じゃないわ・・・」

 

「もしも、二人だけとかなら相手にはしたくないんだけどな・・・今回はアキト達がいるし・・・

俺達は完全にサポートに撤するから、好きなだけ戦ってくれ」

 

「ああ、頼むよ・・・・それよりも、リナちゃん達は良いとして・・・・

四人はここにいて大丈夫なのか?女王様とティシアちゃんの護衛は・・・・・」

 

「それなら大丈夫。代わりを強力な二人インバース夫妻に頼んだから。今頃、お茶でもしてんじゃないの?」

「ありえますね。四人とも、アキト様達の勝利を疑ってすらいませんでしたから」

 

 

事実、アナスタシア女王とアルテイシア王女、ロウファとレナは朝の紅茶を飲んでいた・・・・

それは、アキト達への絶対の信頼と、揺るぎない勝利の確信があったからだ。

 

ただし・・・・心の中では皆の無事帰還を心の底から祈っている事を、付け加えておく・・・・・・

 

 

「ゼロス、お使いご苦労様」

「いえいえ、この程度しか手伝えませんで・・・・後のことはよろしく御願いしますよ」

「なに?ゼロス、あんたまたとんずらする気?」

「これ以上は勘弁して下さいよ〜、リナさん。ボクは同族を大量虐殺して喜ぶ趣味はないんですから・・・・」

「その言い方だと、大量じゃなければ良いって言っているように感じるんだけど?」

「それはそれ、言葉のあやというものでして・・・・とにかく、後は頼みましたよ、アキトさん」

「わかった。アレは確実に破壊する」

「お願いします。では・・・・・」

 

 

ゼロスはアキトの返事に満足した表情を浮かべると、その姿を虚空へと消した。

ルナ達も、ゼロスに戦いを強制することはなかった・・・・

 

 

「さて・・・時間も少ないようだから簡単に話をするわよ・・・・・

私とアキト君、ニースとメアテナちゃん、リナとガウリイさんの六名はあの大群の中央突破。

そのまま真っ直ぐに覇王ダイナストの元へと行きます。

レニス、エル、アリス、ガイウスの四名は、残った魔族の駆除。わかった?」

 

「「「「了解」」」」

 

 

ルナの言葉に即答するアリス達四人。

そのやりとりに、端にいたリナは耳を疑い、本気で慌てる!

 

 

「ちょっ!ちょっと姉ちゃん!」

「なに?リナ。何か問題でも?」

 

「何か問題でも?じゃないでしょうに!残った魔族の駆除っても、無茶苦茶残るでしょうに!!

それをたった四人で対処しろって・・・・死ねっていっているようなものでしょうが!?

相手は魔族、そして残る四人は姉ちゃん達と違って純粋な人間なのよ?」

 

「だから?」

「ヘ?」

 

 

一気に捲したてるリナに、だからどうした・・・・という表情で返事をするルナ。

さも当たり前のような対応だったため、リナは勢いを削がれた・・・・・

 

 

「いや・・・でも・・・・・魔族って強いし・・・・これほど居るのに四人だけっていうのはちょっと・・・・」

「だって・・・・四人とも、リナの言う通り、この魔族の大群の相手はできない?」

 

 

ルナの問いかけに、そろって首を横に振るアリス達・・・・

その表情は、無理矢理に・・・といった感じはなく、大丈夫!といわんばかりの笑顔であった。

 

 

「リナさんの心配はもっともです。ですが、私達は竜王の名を冠した騎士団の長。

なんの勝算もなく、あの魔族の大群の相手をするわけではありません。

確かに・・・・私の魔力と魔力許容量キャパシティはリナさんに劣っていますし、

レニスにしろ、剣術はガウリイさんに後一歩の所で敗北しています・・・・

ですが、戦いというのは力だけではありません。知恵でそれらを補うことは可能なのです。

弱者の知恵は、時として強者の力を凌駕する・・・・・そう、お教えしたはずです」

 

 

エルネシアの説得・・・否、事実の言葉に、リナは反論の言葉を失った。

リナとて解っているのだ・・・自分とエルネシアの間には、力を超えた所に、大きな差があることを・・・・

 

 

「わかったわよ。エル先生にそこまで言われるとね・・・・」

「懐かしい呼び名ですね。では、納得したところでさっそく実行しませんか?ルナ様」

「そうね・・・準備はいい?良かったら結界を解除するわよ」

「いつでも・・・ルナ姉達は解除したらそのまま突っ切って行ってよ」

「解ってるわ」

 

 

ルナはそう言うと、魔族の侵入を拒んでいた隔離結界を解除した!

その途端、待ちかまえていた下級魔族が、雪崩れ込むように襲いかかってくる!!

 

 

「おらおら!主役のお通りだ!邪魔すんじゃねぇ!!」

「邪魔をする者は、我が剣の露となることを覚悟せよ!!」

 

 

雪崩れ込んできた下級魔族を次々に駆除するレニスとガイウス!!

だが、それでも圧倒的に数は多く、通り道が出来ることはない。

 

それは、ルナ達とて百も承知!

その為に、アキトの手には赤竜の力で創られた柄が握られており、その先には蒼き刃を輝かせていた!!

 

 

「全てを引き裂け!我が内にある竜の翼よ!秘剣 飛竜翼斬!!

 

 

アキトが昂気刃を横に一閃させる!!

その軌道に沿って発生した三日月形の蒼銀のエネルギーが、魔族を消滅させながら飛んで行く!!

 

 

「今の内に!」

「解ったわ!四人とも、後はお願いね!」

 

「後はお任せを!」

「駆除したらそっちに行くから。終わってなかったらの話だけど」

「違いねぇ。俺達が駆除し尽くすか、アキト達が事を終わらせるか・・・競争だな」

「こちらのことは心配なさらないで下さい。皆様、ご武運を!」

 

 

アキト達は後のことをアリス達四人に任せると、飛竜翼斬アキトの必殺技によって作られた道を疾走する!

だが、包囲網の半分も進まない内に、他の下級魔族がアキト達に再び押し寄せてきた!

 

 

「面倒くさいわね!黄昏よりも暗きもの 血の流れよりも赤きもの・・・・・・・

「リナ、ここで無駄な力を使うな。私達と違って、お前は回復が遅いのだからな」

「んな事言ったってね、ニース・・・・ならどうすりゃいいのよ!」

「私達がやるまでだ。ルナ、後ろは任せる!」

「いいわよ、ただし、一撃でやるわ」

「解っている。私達も、無駄な力を使うべきではないからな」

 

 

足を止めた一行の前に、二振りの魔剣を構えながら立つニース!

すでに二本の赤き魔剣は、眩いほどの明滅を繰り返している!!

 

ニースは眼前で腕を交差させるような構えをとった後、両腕を左右に広げる・・・・

それと共に移動する魔剣の軌跡には、無数の残光刃実体無き魔力の刃が発生している!

その数の余りの多さに、一目見ただけでは、ただ単に剣の魔力光が空に残っているようにしか見えない!

 

腕を限界にまで左右に広げたニースは、一旦制止した後、

二振りの魔剣を逆戻しするように、全力で同じ軌道で振るう!!

 

 

「魔影二式・・・・・夢幻 斬翔刃!!

 

 

ニースの前方の空間に、幾重もの赤い剣閃が放たれる!!

放たれた赤い剣閃は、広範囲の空間を縦横無尽に斬り裂きながら、前面に居た魔族達を消滅させる!!

 

赤き光の乱舞は行く手を阻む魔族を消滅させると、大地に爪痕を残して消えていった・・・・・・・

 

 

 

 

 

一方、後方を任されたルナは・・・・・両手に光の球を作り出していた!

 

右手にある蒼き光球には、風の精霊が!

左手にある黄金きん色の光球には、炎の精霊が集まって行く!!

 

 

「風と炎の精霊達よ・・・・その力、一つとなりて舞い踊れ!」

 

 

ルナは二つの光球を魔族の中央に向かって投げ放つ!!

二つの光球は絡まり合いながら一つとなり、そのエネルギーを解放する!!

 

 

炎の嵐ファイアー・ストーム!!」

 

 

巻き上がる蒼き炎は、巨大な渦を形成しながら、魔族を消滅させる!

その渦は地上だけに留まらず、上空にいた魔族ですらもその内に取り込み、跡形もなく消し去った!!

 

 

「これで少しは時間が稼げたな」

「ええ、魔族もほんの少しは減ったみたいだしね・・・」

 

 

ルナの言っている事は事実以外の何でもなかった。

大地と空に蔓延る魔族は、見た感じではまったく数を減らしたようには見えない。

 

ルナとニースによって空けられた空間でさえも、周囲の魔族が急速に埋めていった!

 

 

「悠長に話をしている暇はないわね!早く行くわよ!」

 

 

ルナの一言により、再び大地の上を疾走するアキト達!

行く手を阻もうと、空間転移してくる魔族もいたが、出現した瞬間、アキトとメアテナが一刀の元に斬り捨てた!

 

その後すぐ、アキト達の後方上空で大爆発が起こり、魔族達はそちらに向かって集まり始めた。

 

 

「今のは!」

「エル先生の竜破斬ドラグ・スレイブでしょ!速く走らないと、第二波に巻き込まれるわよ!」

 

 

リナの言葉が終わってすぐに、今度は地表で爆発が起きた!!

幸い、場所が遠かったので影響はあまりない・・・・・が、皆の足は自然と速くなった・・・・

 

 

 

アキトは、魔族達の包囲網を突破すると、そのままサイラーグの周囲に生えている森に入ろうとする・・・・

が、森の入り口に居た複数の人影が、アキト達の行く手を遮った!

 

その人影の内の二人・・・・女性と男性の顔を見たリナは、驚きに目を見開いた!

 

 

「マゼンダ!それにカンヅェル!」

「久しぶりだな、リナ・インバース。それにガウリイ・ガブリエフ」

 

 

冷笑と共に返事をするカンヅェルという男に、リナは戦闘姿勢に入る!

隣にいたガウリイも剣に手をかけて、すぐさま抜刀できる状態にいた!

 

 

「あんた達・・・・・ゼロスが倒したって言ってただけのマゼンダはともかく、

カンヅェル、あんたは『竜破斬ドラグ・スレイブ』を上乗せしたガウリイの光の剣によって確実に倒したはずよ!」

 

「確かに・・・・私はお前達の手によって、滅ぼされる一歩手前まで追い込まれた・・・・・

あのままであれば、元の姿には戻れず、醜い姿レッサー・デーモンとなって現世に現れていただろう。

だが、我は・・・・我らはさらなる力を得、現世に復活することができた。それも・・・・・・・」

 

覇王ダイナストの仕業ね」

 

 

カンヅェルの言葉を遮り、ルナの口が結論を紡ぎだした。

そのルナの言葉に、カンヅェルは笑みを深め、その手に魔力光を灯す!

 

 

「その通り・・・・そして、覇王ダイナスト様の命に従い、お前達を殺す!」

「悪いけど、そう言う事よ・・・・以前は撤退したけど。今度はそうはいかないわ」

 

 

マゼンダの号令に、後ろに居た十数体の甲冑がそれぞれ剣や槍等の武器を構えた!

リナはそれらを見たとき、動く鎧リビング・アーマーの類と考えたのだが、

甲冑から放たれる尋常ではないほどの濃い瘴気が、単なる動く鎧リビング・アーマーではないことを証明している。

 

ルナ達、精神世界面アストラル・サイドを見ることのできる者達は、すぐさまその正体を看破した!

 

 

「また悪趣味なことを・・・・今度は中級魔族を憑けたわね」

「ええ。数々の実験正解の一つよ。今度はそう簡単にはいかないわ!」

「・・・・・・・・・・・・リナ、ガウリイさん。二人は後ろに下がって。この者達の相手は私達でやるわ」

「姉ちゃんには悪いけど、それはゴメンよ」

「リナ!」

「私はこいつらと因縁があってね・・・きっちりと片をつけたいの」

 

「・・・・・・・・・・・・仕方がないわね。昔から一度言いだしたら聞かないんだから。

相手はマゼンダとその男魔族よ。他は私達が始末するからね」

 

「了解!」

「タイム・リミットは私達が全部を片づけるまで・・・良い?」

「う・・・・頑張ります」

 

「だったらよろしい。ということだから・・・アキト君にニース、メアテナちゃん。私達は後ろにいるヤツの始末。

あれは感じてのとおり、人と魔の融合体。精神世界面アストラル・サイドの攻撃を使用してくるから気をつけて」

 

「え!?ちょっと姉ちゃん、それってどういう・・・・」

「あなたは目の前の敵に集中しなさい。説明は後でしてあげるわ」

「わ、わかった・・・・・」

 

「こちらとしても好都合・・・その小娘は私の手で八つ裂きにしたかったからね・・・

お前達、あの小娘と金髪の男以外を相手にしな」

 

 

マゼンダの命を受けた甲冑達は、その身を屈ませ、襲いかかろうとする!

だが、それよりも先に、アキト達四人は忽然と姿を消した!

 

超高速移動による現象に戸惑いはしたものの、甲冑達はアキト達の気配を追って森の中へと姿を消した。

 

 

「あらあら・・・・本当に行くとはね。見捨てられたようね」

「見捨てられるっていうのはね、負けるのが確実な場合にだけ言うものよ、この場合は当てはまらないわ」

「面白い・・・・あの時、二人掛かりで圧倒された事を忘れたようだな・・・・」

「しっかりと憶えてるぜ・・・・」

「おっ!?ガウリイが憶えてるなんて珍しいわね」

「自分の力の無さで、リナが瀕死の重傷を負った時だからな・・・・否でも憶えてるよ」

 

「嫌な思い出だけどね・・・・ガウリイ、だったらあんたはカンヅェルの相手をしなさい。

私は、こっちのおばさん魔族の相手をするから」

 

「任しとけ!」

「しくじるんじゃないわよ」

「お前こそな・・・・」

 

 

ガウリイは腰に下げてあった妖斬剣ブラスト・ソードを音もなく抜くと、カンヅェルに向かって突き付けた!

リナもすぐさま詠唱に入れるように、意識を集中し始めた!!

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

ガウリイとカンヅェルは、戦闘の邪魔が入らないようにするため、リナ達から少し遠ざかった・・・

 

その間も、二人の視線が相手から外れることはない・・・・

ガウリイは、剣を突き付けたままだし、カンヅェルはいつでも魔力を集中できる状態だった。

 

そして、リナ達から少々離れた森の側で立ち止まった。

 

 

 

「私の相手は貴様か・・・・・前回、リナ・インバースの手助けがあったとはいえ、

最後に私を斬り刻んだのは貴様だったな・・・・今度は貴様の体を分解してくれる!」

 

「できるもんならやってみろ!その前にお前をまた斬るからな!」

「それこそできるのか?光の剣でさえ、私の前では役にたたなかったというのに・・・・・」

「そいつは・・・・・防いでから言え!!」

 

 

ガウリイは、体を少しだけ屈めると、凄まじいスピードでカンヅェルとの間合いをつめた!!

一気に間合いをつめたガウリイは、カンヅェルの胴めがけて剣を薙いだ!!

 

だが、後少しというところで、剣の軌道先に現れた黒い何か集束し、盾となって妖斬剣ブラスト・ソードの刃を受け止めた!

 

 

「おらぁーーっ!!」

「なにっ!?!」

 

 

受け止めたはずの黒い何かは、ガウリイの気合いを篭めた一撃で霧散する!!

慌てて後ろに避けるカンヅェル!しかし、その胴には一筋の傷があった!

 

 

「それは妖斬剣ブラスト・ソード・・・・・なるほど、私が作りだした盾の魔力を喰らったのか・・・

烈光の剣ゴルン・ノヴァと同じ様な考えをすれば、痛い目をみるのはこちらということか・・・」

 

「ゴチャゴチャうるさい!」

 

 

カンヅェルの推測を、ガウリイは大きな声で遮った!

聞いても解らないのだったら、聞くだけ無駄だ!と、考えての行動であった。

 

ガウリイは、またもや一足飛びにカンヅェルとの間合いをつめると、次々に剣を繰り出し始める!

 

 

「同じ手は通用しない!」

 

 

カンヅェルは、次々に繰り出される妖斬剣ブラスト・ソードを、空間に発生させた魔力の盾で受け流す

受け止めない限り、盾の魔力を喰われることはない・・・との判断によってだ。

 

しかし・・・・ガウリイはそんな事をまったく気にもしていない!

 

 

「んな事知ったことか!!」

 

 

ガウリイは妖斬剣ブラスト・ソードを強く握りしめる!それに伴い、妖斬剣ブラスト・ソードの刀身に紫色の光が発生する!

妖斬剣ブラスト・ソードが、周囲の魔力を急速に吸収し、破壊力と切れ味に転化しているのだ!

 

紫の光を纏った刃は、受け流そうとしていた魔力の盾をいとも簡単に斬り裂いた!!

 

 

「おのれ!人間風情が舐めたまねを!」

 

 

再び後退することによって剣を避けたカンヅェルは、ガウリイに向かって右手を突き出し、

その指より五条の魔力閃を撃ちだした!!

 

それを紙一重で避けようとしたガウリイは・・・・己の勘の警告に従い、大きく右に跳んだ!!

目標が居なくなり、そのまま通り過ぎるはずだった魔力閃は方向を変え、再びガウリイに向かって飛んで行く!!

 

 

「以前、リナ・インバースを貫いた攻撃だ。よく憶えていたな」

「ただの勘だ!」

 

 

ガウリイは迫り来る五条の魔力閃を迎撃するため、剣を右後ろに振りかぶる!!

カンヅェルはガウリイの意図を知り、冷笑を浮かべた!

 

目前まで迫った、魔力閃に斬りかかるため、ガウリイは身体を前に倒す!

それを見たカンヅェルは、魔力閃の軌道を曲げ、それぞれ別の方向に回避させようとする!

 

五本の内、一本でも残れば、それはガウリイの身体を貫き致命傷を与えることができる!

―――――だが、現実はカンヅェルの思惑をはるかに越えていた!

 

 

「ハッ!!」

 

 

裂迫の気合いと共に、ガウリイの剣を持っていた右腕が霞む!

その直後、方向を変えるはずだった魔力閃は、パンッ!という破砕音と共に五本全てが消滅した!

 

 

「―――――なっ!!」

 

 

カンヅェルは二重の意味で、驚きの声を上げた!

一つは瞬時にして五本の魔力閃を斬ったガウリイの剣技に・・・・

もう一つは、空中に紫の残光を描きつつ、高速で飛来する妖斬剣ブラスト・ソードに!!

 

 

「クッ!!」

 

 

頭部・・・それも額のど真ん中を正確に狙って飛来する妖斬剣ブラスト・ソードを、身体を捻って避けるカンヅェル!

何とか避けたのも直後、腹部に痛烈な衝撃が走る!

 

 

「―――――グフゥッ!!」

 

 

カンヅェルが前に向き直ると・・・そこには、突き上げるように拳を繰り出しているガウリイの姿があった!

 

 

「き、貴様・・・・・なぜ素手で・・・・・魔族にダメージを与えることができる!!」

「偶々じゃないのか!」

 

 

ガウリイはそう言うものの、実際は偶然でも何でもない・・・・拳に氣を集束していたのだ!

ニースとのリベンジ戦の時、拳に氣を纏わせることができたので、

それならば・・・・と考え、ガイウスに基礎を教えてもらっていたのだ。

 

しかし、正直言って、先程のガウリイの一撃は大したものではない。下級魔族にすらそれといって効果はない。

攻撃をさけ、ガウリイが武器を失った・・・と、油断していたからこそ、多少効いたにすぎない。

 

だが・・・その一撃はカンヅェルから正常な思考能力を奪うのには充分な攻撃だった!

 

 

「巫山戯るな!!」

 

 

カンヅェルは激高し、瞬時に右の掌に魔力弾を作り出した!

零距離でガウリイに魔力弾を叩きつけようと腕を振りかぶる!

 

 

「遅いぜ!!」

 

 

しかしガウリイは、その一撃をギリギリで避け、素早く後ろに回り込んだ!

 

 

「小賢しい!!」

 

 

カンヅェルは自分の後ろに魔力弾を作り出し、振り向くことなくガウリイの胸にめがけて飛ばした!

ガウリイはその攻撃を、思いっきり後方に飛びずさりながらやり過ごした!

 

 

「骨も残さず砕け散れ!!―――――ッ!!」

 

 

カンヅェルは握り拳大の魔力弾を無数に作り出し、ガウリイに向けて放とうとする!

が、振り向いたその先には、木の根本に深々と突き刺さっていた妖斬剣ブラスト・ソードを掴み、

すぐにでも飛び掛かろうとしているガウリイの姿があった!!

 

 

「人間風情がぁぁっ!消え去れ!!」

 

 

作り出した無数の魔力弾を放つカンヅェル!その魔力弾は高速で飛来し、ガウリイへと向かっていく!!

ガウリイはその魔力弾を睨むと、妖斬剣ブラスト・ソードを思いっきり振りかぶった!!

 

 

「オオォォォオオオオオーーー!!」

 

 

目の前の空間を十字に斬るガウリイ!!その軌跡より放たれる十字の黒い衝撃波!!

無数の魔力弾と十字の黒い衝撃波は正面からぶつかり合い、爆発して煙を巻き上げる!

 

その煙を突っ切り、妖斬剣ブラスト・ソードを振りかぶりながらカンヅェルとの間合いを詰めるガウリイ!!

カンヅェルはその太刀を受け止めようというのか、魔力の盾を作り出した!

その盾は今までにないほど分厚く、圧縮された魔力も段違いに見える!

 

だが!今まで以上に光り輝く妖斬剣ブラスト・ソードの前に、それは何の抵抗もなく斬り裂かれた!

その次の瞬間!妖斬剣ブラスト・ソードとそれを握っていたガウリイの腕が、またもや霞む!!

 

そして、突如として発生した六つの紫閃が、カンヅェルを斬り刻んだ!!

 

 

「グハァァァッッ!!!」

 

 

バラバラとなったカンヅェルの体が大地に転げる・・・・・

この状態になっても死ねないのは、更なる力を得た中級魔族ゆえだろうか・・・・

それとも、その前の十字の魔力衝撃波によって妖斬剣ブラスト・ソードの力が減少していた為なのか・・・・

 

どちらにせよ、こうなるとそれは苦痛もたらすもの以外の何でもない。

 

ガウリイは妖斬剣ブラスト・ソードの切っ先を、地面に落ちているカンヅェルの頭部を狙うように構えた。

 

 

「今、楽にしてやるよ・・・・・」

「お、憶えていろ・・・・・私が滅びようとも、覇王ダイナスト様が貴様等を葬ってくれるわ!」

「ああ、憶えておくよ・・・・もっとも、すぐ忘れるだろうがな」

 

 

そう言うと、ガウリイはカンヅェルの額を剣で貫き、トドメを刺した・・・・

貫かれた頭部は黒い砂となって地面に積もった・・・・他の体の部位も同様、同じく砂となって大地に積もっていた。

 

 

「さて・・・・リナは大丈夫なのか?」

 

 

自称・リナの保護者は、その保護対象の方に目を向けた・・・・・

 

 

 

 

(その2へ・・・・・・・)