赤き力の世界にて・・・

 

 

 

 

 

第45話「黒の激突・・・」

 

 

 

 

 

 

 

サイラーグ近郊の上空に、二体のくろがねのゴーレムが激しい戦闘を繰り返していた!!

 

一体は、圧倒されるほどの禍々しき存在感を撒き散らす悪魔の如きゴーレムブラック・サレナ・・・

そしてもう一体は、背に翼を持ち、雄々しく飛翔するゴーレムブローディア・・・

 

天空を舞う二体のゴーレムエステバリスは、目まぐるしく動きながら攻撃していた!!

 

 

ガガガゥゥンッ!!

 

 

ブラック・サレナの両手に装着されているハンド・カノンより、赤いエネルギー弾が撃ち出される!!

撃ち出された三発のエネルギー弾は、空に赤い軌跡を微かに残しながら、

凄まじいスピードでブローディアに襲いかかる!!

 

しかし、その凄まじい速さで撃ち出されたエネルギー弾を、アキトが操るブローディアは余裕で避ける。

だが・・・その余裕ブローディアの動きとは裏腹に、操縦者アキトは何か苦しそうな表情をしていた。

 

 

「ディア!ブロス!ブローディアの反応速度が異常に高い!どうなっているんだ!!」

 

 

そう・・・ブローディアの動きが鋭敏すぎるのだ。

アキトは、ほんの少しだけでも過剰に反応する機体に振り回され気味だったのだ。

 

 

『機体の性能は以前より二割ほど上がっているけど?』

「二割も上がっていたのか・・・だが、機体の問題じゃない。イメージの伝達率が異常に高いんだ!」

「え〜、それは変わってないはずなのに・・・ちょっと待って!」

 

 

宙に映し出されている画面からディアの姿が消え、変わりに検索中の文字が出てくる・・・・

その間にも、アキトはブローディアを操り、ブラック・サレナの放つ光弾を絶えずかわしていた!

 

 

「・・・・・・わかった!私達ブローディアじゃなくて、アキト兄のIFSの伝達率が上がってるんだ!」

「俺の!?」

「うん!ルリ姉やラピ姉には遠く及ばないけどね。でも、以前の倍以上になってるよ」

「なるほど・・・」

 

 

アキトは目を細め、荒ぶる感情を鎮めて精神を集中させる・・・・・・

それに応じて、ブローディアの動きが徐々にではあるが、流れゆく水の如く、なめらかなものへと変化する!

 

 

(・・・・・慣れればやりやすいのかも知れないが・・・・それまでが大変だな・・・・

だけど、伝達速度が上がった所為か、まるで本当の体のように動かせるのは利点だな!)

 

 

ブラック・サレナが放ったエネルギー弾を、ブローディアはDFSで防ぐ。

それも、斬ったり弾いたりではなく、エネルギー弾の横にDFSの刃をそっと押し付け、進路を逸らしたのだ。

 

DFSのエネルギー量が高かったり、押し付ける度合いが強かった場合、

その時点でエネルギー弾は切れるか、エネルギーの反発で暴発するだろう・・・

アキトのやっている行為は、絶妙な力加減で成り立つ、正に神業とも云うべきモノだった。

 

 

「凄い・・・・アキト兄、機体をセンチ単位・・・ううん、ミリ単位で操っている・・・・・」

『その上、DFSの出力からエネルギーの収束まで、完全に制御しているよ!!』

 

 

ディアとブロスは、アキトの行為を信じられないと言わんばかりに絶句した・・・・

 

 

「そんなに驚くほどのことなのか?俺には当たり前のように感じるけど・・・・・」

「『驚くことなの!!』」

「そ、そうか・・・・・」

 

 

アキトはディアとブロスの剣幕に驚きながらも、

なぜ自分が機体のエネルギーを自在に操れるかに薄々気がついていた。

 

 

(ブローディアの中から感じるエネルギーの流れ・・・・それを操る感覚と、

身体に流れる氣を操る感覚が似ているからだろうな・・・・おかげで、流れを微妙に調整できるようになった)

 

 

それは、アキトのIFS伝達率の上昇に伴うブローディアとの一体感と、

氣功術師として、一流と云っても過言ではない実力とが合わさることによって発現した技術スキルだろう。

 

様々な要因があったとはいえ、アキト以外には成し得ることのできない『技』といっても過言ではないだろう。

 

 

「でも、アキト兄。なんでわざわざ面倒臭いことして斬らずに弾いているの?」

「これ以上、地上に被害をだすわけにもいかないからな・・・・」

「なるほど・・・・さっきまで避けてた弾、全部地面に落ちてるしね」

『何もないところだったから良かったけどね。街に落ちたら大変かも・・・・』

「そういうわけだ」

 

 

とは言うものの、アキトは他にも考えがあった・・・・ブローディアの操作に慣れようととしているのだ。

アキトがこちらの世界に来てから半年以上・・・アキトはブローディアどころか、エステバリスすら動かしていない。

 

ブランクがある上に、今回のIFS伝達率の急上昇・・・・いきなり戦闘するのは無茶も良いところだろう。

だが、それは腕が超一流のアキト。急速にブローディアの操作に馴染んでゆく!

事実、ブローディアの動きはさらに精密となり、今やぎこちなさはどこにも見られない!

 

 

 

 

「さすがにこの程度では倒せませんか・・・なら、これはどうです?」

 

 

単調な攻撃では意味がないと思ったのか、グロウは魔力によって空間歪曲場ディストーション・フィールドを発生させ、

DFSなどの媒介も無しに集束させ、赤いエネルギー球を十数個ほど作りだす!

 

 

「アキト兄!急速なエネルギーの集束を感知!とんでもないエネルギー量だよ!」

『エネルギーの総量だけなら、アキト兄の咆竜斬を超えてるよ!!』

 

「だろうな・・・・だが、当たらなければ意味がない」

 

 

確かに・・・ブローディアといえども、光球一つでスクラップ、全部当たって消滅だろう。

・・・・・・だが、それも『まともに当たれば』と付く。

どんな高威力の攻撃であろうとも、当たらなければダメージは零。全く意味がない。

 

 

「そうでしょうね。確かに、私も貴方に当たるとは思えません・・・ですが、こうすればどうでしょうか?」

「―――――ッ!!」

 

 

 

グロウが操るブラック・サレナは、後方の地表に向かって右手の掌を向ける!

その先には、魔族との戦いが終わったばかりのエルネシア達がいた!!

 

ディアが気をきかせ、その一点を拡大し、エルネシア達の姿を映像に映し出す。

拡大映像のため詳細までは確認できないが、四人とも疲労していることは一目でわかった。

 

 

「貴様ッ!!」

「見捨てるか、それとも危険を承知で助けるか・・・・さぁ、貴方の選択肢はどちらなんでしょうね」

「―――――ッ!!」

 

 

グロウの作りだした十数個の赤い光球が、エルネシア達に向かって放たれる!!

 

 

「アキト兄!」

「わかっている!!」

 

 

アキトは光球を追いかけるべく、ブローディアを全力で飛ばす!!

先に飛ぶ光球の先にエルネシア達が居るため、迂闊な迎撃は出来ない!

 

それが解っているからこそ、グロウはあの位置から光球を放ったのだ!

 

 

『駄目だよ、アキト兄!こっちが追いつく前に四人に当たる方が僅かに早いよ!!』

「・・・・・・・・・!!」

 

 

アキトは歯を食いしばりながら、現段階で限界近くまでブローディアを飛ばす!!

だが、まだ足りない!光球をDFSで斬っても、爆発の余波を考えるとかなり早めに迎撃しなくてはならない!

 

 

「光球までの距離、200!!間に合わないよ!!」

「いや、それだけ近づけられれば充分だ!!」

 

 

アキトの意志を受け、ブローディアは右手に持ったDFSを横に振りかぶる!!

それと同時に、DFSにエネルギーがそそぎ込まれ、光の刃を巨大化させる!!

 

その大きさは、ゆうに200メートルを超えている!!

 

 

「消えろ!!!」

 

 

繰り出された超巨大な光の刃は、赤い光球のほとんどを斬り裂く!!

残った光球もその爆発に巻き込まれて誘爆する!!

 

アキトは、DFSの刃を消し、球体状にディストーション・フィールドを発生させて爆発の余波を防ぐ!

 

 

「どうやら、間に合ったようだな・・・・」

 

 

間に合ったことにホッと安堵するアキト・・・

 

―――――その次の瞬間!

 

 

「それはどうでしょうか?」

 

 

「『あ!!』」

「―――――ッ!!しまった!!」

 

 

爆発している所より少し先の空間に黒い穴が開き、そこから光球が飛び出した!!

それは、エルネシア達に向かってもの凄い勢いで飛翔する!!

 

光球一つだけでも、竜破斬ドラグ・スレイブクラスの破壊力がある!!

普通の人間などは、塵どころか周りの大地ごと消滅するだろう!!

 

 

「光球を一つだけ、異空間に退避させたのです。さぁ、どうしますか?」

 

「クッ!!絶対に死なせはしない!!させてたまるか!!」

 

 

アキトはブローディアを急降下させる!!

自らの位置を変え、ラグナ・ランチャーのグラビティー・ブラストで迎撃するつもりなのだ!!

 

十数個もある状態なら、グラビティ−・ブラスト一発での迎撃はかなり難しかったが、

一つだけならば、ラグナ・ランチャーをもちいたグラビティーブラストで迎撃できる!!

 

だが、今迎撃しても、エルネシア達四人はすでに爆発の影響範囲内に入っている・・・・

それでも・・・アキトは引き金を引かざるをえない・・・・

 

あの四人なら、あの爆発をなんとかしのいでくれる・・・そう、信じて!!

 

(あの四人は大丈夫だ!!ゼフィーリアの戦士達は、誰よりも生き抜く意志が強いのだから!!)

 

ブローディアがラグナ・ランチャーを構え、ほぼ一瞬で照準を光球に合わせる!!

そして、アキトがグラビティ・ブラストを発射しようとした・・・・その時!

 

突如、強力な暴風がブローディアの動きを止めた!!

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

時は少し遡り・・・・グロウが十数個の光球をエルネシア達四人に向かって解き放った時・・・・

四人は、自分達に迫り来る光球を睨んだ。

 

 

「おい、こいつはやばいぞ!!」

 

 

倒れている場合じゃないと感じたガイウスは、重く感じる身体を無理矢理にでも立たせる。

すぐさまこの場を離脱しようと云う意思表示なのだろうが・・・他の三人は動こうともしなかった。

 

 

「確かにやばいね・・・でも、あのスピードにとてつもない破壊力・・・

とてもじゃないけど、全員の体調が完全であっても、逃げ切れるとは思えないよ」

 

「話によると、エルメキア帝国の首都を完全に消滅させたらしいですからね・・・」

 

 

アリスとエルネシアは冷静に事実を述べる。

だが、冷静な声音とは裏腹に、その瞳は強い意志を秘めて輝いている。

 

二人の頭にある思いはほぼ同じ・・・・

 

((自分達がアキトの足手まといになり、今、また迷惑をかけている・・・・・・))

 

そう、考えているのだ・・・・

 

 

「かといって、このまま座して死ぬのを待つつもりはない!!」

 

 

レニスは迎撃しようとでもいうのか、火竜の剣ヴラバザード・ソードを構え、刀身に炎を纏わせる!

 

 

「もちろん、わたくし達もそうです・・・・死ぬつもりはありません」

 

 

エルネシアも迎撃をしようというのか、竜破斬ドラグ・スレイブの詠唱を始める!

これでどこまで迎撃できるのかは解らないが、何もしないよりはましだと考えたのだ・・・・

 

だが、詠唱が終わると同時に、十数個の光球はブローディアのDFSによって斬り裂かれる!!

 

 

「アキトに助けられちまった様だな・・・・」

「―――――ッ!!まだ、一つ残ってる!!」

 

 

空間を渡って姿を現せた一つの光球が、猛スピードでエルネシア達にせまる!!

逃げようにも最初から間に合わない上に、すでに迎撃しても爆発の影響圏内に入っていた!!

 

一瞬でそれらの状況を把握したエルネシアは、仲間達に向かって急いで声をかける!

 

 

「レニスは迎撃を!!アリスは風で光球の動きを止めて!ガイウスはそのサポートを!

爆発による暴風などからの防御はわたくしが何とかします!!」

 

 

エルネシアの声に、アリス達三人は少しの疑問ももつことなく、反射的に行動に移した!

 

 

「空と大地を渡りしものよ 永遠とわを吹き行き過ぎ去る風よ 我が手に集いて嵐となれ!!風魔咆裂弾ボム・ディ・ウィンッ!!」

 

 

アリスが『力ある言葉カオス・ワーズ』を言い放つと同時に、アリス達から光球に向かって激しい風が吹き荒れる!!

それに同期して、ガイウスは吹き荒れる風に含まれる『大氣』と、自分の氣を呼応させ、

今だ動きを衰えさせない光球に向かって掌を向ける!!

 

 

「止まりやがれぇ!!地竜式 氣功闘方術 空破 絶風衝!!

 

 

吹き荒れる風が、ガイウスの空破によって増加され、大型台風並の暴風を巻き起こす!!

それにより、先に起こっていた爆発は跡形もなく消え去り、光球もまた、その勢いを完全に相殺された!!

 

 

「今だ!!」

 

 

迎撃を任されたレニスは、発生させていた炎を刀身に集束させ、光球に向かって刺突の構えをとる!!

 

 

「火竜式 護法剣術 刺炎閃!!」

 

 

刀身に集束した炎のエネルギーは、レニスが繰り出した神速の突きによって、

針の如く鋭く尖った閃光となり、動きの止められた赤い光球に突き刺さった!!

 

限界まで空気が入った風船に、針が突き刺さって破裂するが如く、

炎の閃光が突き刺さった光球は、その身に蓄えられたエネルギーを放出する!!

 

怒濤の如く放出されたエネルギーは、爆発という形によって周囲に猛威をふるう!!

無論、エルネシア達にも!!

 

アリスとガイウスがおこした轟風に威力は多少削がれたものの、

それでも竜破斬ドラグ・スレイブに近い程の破壊力が残っていた!!

 

だが、アリス達は焦らない・・・それは、防御は任せろと言ったエルネシアの言葉があったからだ。

それを裏付ける様に、三人の耳には、ずっとエルネシアの呪文詠唱が聞こえていた!!

 

 

「輝き燃える赤き炎よ  空と大地を吹き行く風よ 

   母なりしもの 無限の大地よ  優しき流れ たゆとう水よ

      始まりの時より全てを包む  強き光よ  深き闇よ 

 

 世界を形成せし六つの元素にして  全ての力の源よ

    その大いなる力もて 我らを守る障壁とならん事を!!六精導封結界エレメンタル・ディス・シールドッ!!

 

 

エルネシアを中心とした周囲に、赤、青、黄、緑、黒、白の六色の光球が発生する。

それらの光球は自らを光の線で結び、六紡星を形成し、半透明な天蓋ドームを作りだした!!

 

それより数瞬遅れで、爆発のエネルギーが大地を蹂躙し、ありとあらゆるものを破壊し、吹き飛ばす!!

だが、その半透明のバリアとも言うべきモノは、竜破斬ドラグ・スレイブにも匹敵しそうな爆風を完全に遮断している!!

 

それは風や熱だけではなく、激しく起こっているであろう轟音ですら遮断していた!

 

 

「大したものね・・・この魔術。この爆発を完全に防ぐなんて・・・」

 

「地・水・火・風に、光と闇を加えた、世界を形成する六精霊による防御結界ですからね。

烈閃槍エルメキア・ランスなどの精神世界面アストラル・サイド系の魔術は素通りですが、物理的な防御魔術の中では最強堅固・・・

理論上、爆心地より、一定以上の距離を離れれば、竜破斬ドラグ・スレイブの爆発を防ぎますからね。

といっても、今回はアリス達の風が、爆風をそれなりに相殺していてくれたおかげもありますが・・・」

 

「あってもなくても、同じだったような気もするがな・・・」

「それは同感・・・」

 

 

ガイウスは結界外で猛威をふるっている爆風に目をやりながら、呆れたような声を出した・・・

大地すら破壊されている光景を見れば、そんな気持ちになるのは解らないわけでもないだろう・・・

三人とも、風など無くともエルネシアの結界術だけでも防ぐことが出来たのではないのか?と、本気で思っていた。

 

 

「確かに、八割方、防げると思いましたが・・・あの風のおかげで、九割以上になりましたよ」

 

 

そういうと、エルネシアは結界越しに、変わり果てた周りの光景を見回した・・・・

元は草原だったという面影すらも、既に無くなっている光景を・・・・・

 

光球の真下辺りなどは、そこそこのクレーターができている。

エルネシア達からは百メートル以上離れてはいたが・・・あの光球がもし、至近距離で爆発すれば・・・・

そう思うと、四人は少々冷や汗をかいた・・・・

 

 

「今回は何とか防ぎました・・・・後は、アキト様にお任せしましょう」

「そうだね・・・・」

 

 

アリス達は、自分達を助けようとしてくれたアキトのブローディアに目を向けた・・・・勝利を信じて・・・

天に飛翔するその姿を、いつまでも見つめていた・・・・・

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

爆発がおさまった後・・・・六紡星の結界内で無事にいる四人を見たアキトは、安堵の溜息を吐いた・・・・

 

 

「良かった・・・・四人とも無事なようだ・・・・・」

「見た目には怪我もないようだよ、アキト兄」

『かなり疲れているようだけどね・・・・』

「そうだな・・・・・」

 

「おやおや・・・生き残っていますね。しぶといことで・・・・・」

 

 

グロウの声が、ブローディアのアサルトピット内に響いた・・・・

それを聞いたアキトは、歯を強くくいしばり、拳を強く握りしめる!!

 

 

「貴様!!」

 

 

ブローディアがブラック・サレナに向き直ると同時に、ラグナ・ランチャーよりグラビティ・ブラストを撃ち放つ!!

放たれたグラビティ・ブラストは、虚空に黒い閃光を描き、瞬時にブラック・サレナに迫る!!

 

ブラック・サレナは、魔力で作りだしたディストーション・フィールドで受け止め、弾く!!

 

 

「おっと、危ない危な―――――ッ!!?!」

 

 

グロウは驚きの声を上げる!!

それもそのはず!!グラビティ・ブラストのすぐ後に、真紅の竜が迫っていたのだ!!

 

真紅の竜はその巨大な口を大きく開き、ブラック・サレナに喰らいつく!!

 

ブラック・サレナは寸前で、ディストーション・フィールドを強化したため、噛み砕かれることはなかったが、

その威力と勢いに押され、遙か天空へと圧し上げられてゆく!!

 

ブラックサレナは抵抗する間もなく、成層圏を超え、宇宙に押し出される!!

 

 

「グォォォオオオッッ!!」

 

 

グロウが操るブラック・サレナは、噛みつこうとしている竜の口を掴むと、そのまま力任せに二つに引き裂いた!!

咆竜斬には及ばないほどの低威力ではあったが、決して、易々と引き裂けるものではない・・・・

 

 

 

「アレを力業で引き裂く・・・か。とんでもないな・・・・・」

 

「そうだね〜。両手にディストーション・フィールドを集束したからだとしても、ちょっとね〜。私はやりたくないな〜」

 

『ボクもそう思う・・・失敗したら痛そうだし』

「その点は、さすが魔族といったところだな」

 

 

ブラック・サレナの後を追うように、宇宙空間へと飛翔してきたブローディアの内部で、

アキト達は、冷静にブラック・サレナの行為を分析した。

 

 

「いきなりとはまた随分ですね・・・・・この機体ブラック・サレナを壊すつもりですか?」

「最初からそうだと言っている」

「酷いですねぇ・・・・人間というのは、そこまでして大量虐殺の過去を消したいのですか?」

「―――――!?なぜその事を!」

 

「私は半ばこの機体ブラック・サレナと融合しているのですよ?この中にある情報は全て知っています。

なかなか凄いじゃないですか。これほどの数の人間を殺すなんて・・・魔族の私が見習いたいほどです」

 

「・・・・・・・・・・・・・・」

 

「それより何より・・・・この機体に染みついている『憎悪負の感情』!これがなんとも素晴らしい。

普通、物に染みつく感情などの残滓など微々たるものなんですが・・・・これについては全くの例外ですね。

まあ、そのおかげで、私とこの機体ブラック・サレナの融合が思ったよりも容易だったんですけどね」

 

 

普通の剣などの物質の塊とは違い、ブラック・サレナは精密な機械・・・それも異世界製のもの・・・

高位に位置するグロウとはいえ、簡単には融合できるものではない。

 

だが・・・グロウは、ブラック・サレナに染みついたアキトの執念や憎悪といった負の感情を媒介にして、

本来、困難であった融合の難易度をかなり下げることに成功したのだ。

 

簡単に言えば、水と油を混ぜるのに、石鹸水を使うようなものだろうか・・・

 

魔族と融合したものは、以前とは比べものにならないほどの力を有する・・・

ならば、元々高性能であったブラック・サレナの力は、計り知れないものへと変貌するだろう。

 

 

それはアキトとて知っている・・・・だが、一歩も退く気はない。

過去を清算する為ではなく・・・過去を肯定し、それも自分の一部だということを証明するために・・・・

 

今もなお、望まぬ虐殺をすることとなった、かつての相棒を安らかに眠らせるために!!

 

 

「お前が何といおうとも、ブラック・サレナは破壊・・・いや、安らかに眠らせる」

「勝手ですねぇ・・・人間というのは」

 

「そうだ。勝手だ・・・・それは否定しない。俺の勝手で生まれてきたものなんだ・・・・・

だからこそ、俺がこの手でやらなければならないんだ」

 

「できるのであれば・・・やってもらいましょうか!!」

 

 

ブラック・サレナのハンド・カノンより、次々の光弾が放たれる!!

放たれた光弾は、真っ直ぐにブローディアに迫る!!

 

ブローディアは、それらの光弾を大きく回避する!!

 

 

「ディア、相転移エンジンの調子はどうだ?」

「うん、いい感じ!全力でいけるよ!!」

『やっぱり宇宙だと調子がいいよ!!』

「そうか、ならいくぞ!!」

 

 

アキトの声と共に、ブローディアはブラック・サレナに向かって飛翔する!!

それを見たブラック・サレナことグロウは、ブローディアに向かってハンド・カノンを連射するが、

ブローディアは速度をゆるめることなく、それら全ての光弾を捌き、弾いた!!

 

そして、一気に間合いを詰めたブローディアはDFSに灯った光の刃でブラック・サレナを斬り裂く!!

 

と、思われた寸前!!

 

 

「―――――ッ!?」

「アキト兄!左右からエネルギー反応!!」

 

 

ディアの警告とほぼ同時に、アキトはブローディアを後退させる!

そのすぐ後、ブローディアのいた辺りを数発の光弾が左右から貫いた!!

 

 

「ディア!どうなっている!」

「わからない!いきなり発生したの!!」

「グロウ以外の敵影は!」

「無いよ!少なくとも、レーダーの範囲内には!」

 

「(となると、レーダー外からの超ロングレンジ攻撃・・・・なはずはないな。一体・・・・・)―――――ッ!!」

 

 

アキトの直感が警告を発する!!アキトはその警告に即座に従い、すぐさまその場から離脱する!!

その直後、今度は四方八方から、光弾が襲いかかってきた!

 

 

「アキト兄!!ブラック・サレナから放たれた光弾以外、全部何もないところから出現しているよ!!」

 

「・・・・・・・・・・・空間を越えている・・・いや、それだけじゃない・・・・

さらに、空間をねじ曲げて、すでに放った光弾の進路を変えているのか?」

 

「正解です。さすがですね、あっさりと見破るとは・・・・ですが、解っただけではどうしようもありませんよ」

 

 

ブラック・サレナのハンド・カノンより、連続して光弾が放たれる!

それらはハンド・カノンより少し先の空間に空いた黒い穴に姿を消した・・・

 

それを見たアキトは、ブローディアを前方に向かって飛ばす!!

その後ろを、空間を超えて出現した光弾が通り過ぎる!!

 

 

「次々に増えますよ・・・・一体いつまで避けるのでしょうね」

 

 

グロウが操るブラック・サレナは、次々に光弾を撃ち放つ!!

アキトも、襲いかかってくる光弾をDFSで斬るなどして数を減らそうとしているが、

斬る手前で異空間に逃げ込むため、思ったように数が減らない!!

 

 

(クソッ!十個の内、破壊できたのは四つ、良くて六つか!

グロウの奴、最初からどの光弾を異空間に転移させるか決めているな!!)

 

 

相手の動きを見てから、どれを転移するか・・・そういう行動をとっているのであれば、

虚をつくなりタイミングをずらすなりして、相手の予想を上回ればいい・・・

だが、最初からどれを転移するかを決めてさえいれば、被害を最小限に抑えることはさほど難しくない。

 

類い希な動体視力や勘など、必要ない・・・

ブローディアがDFSを振るおうと、腕を動かした瞬間、転移させればいいのだから。

 

 

「一向に数が減らない・・・・というか、増える方が早い・・・・か」

 

 

アキトが十個の光弾を斬る間に、グロウは二十の光弾を撃ち出しているのだ!

しかも、光弾の元は純粋なエネルギーではなく、魔力で作られているためか、

一番最初に撃った光弾でさえ、速度は落ちることなく、当初のスピードを保っていた!

 

 

「防御一辺倒ではやばいな・・・・」

 

『アキト兄!あの程度の攻撃、避けなくてもディストーション・フィールドで弾けるよ!!

ディストーション・フィールドを展開したまま、ブラック・サレナに向かえば!!』

 

「それは俺も考えていたんだけどな・・・・それをすれば、グロウは間違いなく、フィールド内に光弾を出現させる。

逃げ場がないフィールド内で光弾が出現すればどうなるか・・・わかるだろう?」

 

「『あっ!なるほど・・・・・』」

 

 

四方八方から光弾が襲いかかってくるため、ディストーション・フィールドを展開する場合、

ブローディアをスッポリと覆いつくすように、完全な球体状にしなければならない。

 

その中に、光弾を転移させるとどうなるか・・・・・

 

答えは、密閉空間で光弾が跳弾し続ける・・・・ということになる。

一発、もしくは二発程度であれば、転移した瞬間にどうとでも迎撃できるが、

同時に数十発も転移させられれば、いくらアキトといえど、対処しきれるものではない・・・・・

 

この戦いが、生身での戦闘ならば、至近距離でも迎撃は可能なのだろうが・・・・・

いくらブローディアが高性能で、アキトのIFS伝達率が上がったとはいえ、

アキトの肉体そのままの動きを正確に再現することはほぼ不可能なのだ。

 

そしてこれが、アキトがマイクロ・ブラックホール弾を使用しない・・・否、できない理由でもある。

万が一、ブラックホール弾を転移して返されれば・・・結果は洒落にならない・・・

 

 

「だけどこのままじゃぁ・・・・それに、これ以上後退すると、隕石の群に突っ込んじゃうよ」

『距離的にはまだあるけど・・・・・』

 

「そうだな・・・・・

(だが、それはグロウにとっても面白くはないはずだ。この戦術は、広い場所でこそ威力を発揮する。

隕石群などの遮蔽物があれば、グロウにとっても邪魔なはずだ・・・となると、一気に勝負をかけてくるか?)

ディア、周囲の状況に気を配ってくれ、ブロスはディストーション・フィールド、及びフェザーの準備だ」

 

「『わかった!!』」

 

 

その間にも、ブローディアは光弾を少しずつ撃破しながら、後退していた。

そして、徐々に隕石が多くなってゆく辺りで、攻撃が不意に止んだ!!

 

 

「え!?何!?一体どうしたの??」

『巨大なエネルギー集束を感知!発生源はブラック・サレナ』

 

 

アキトに見えやすいように、スクリーンの一角に拡大された映像には、

十個近いエネルギー球を作りだしているブラック・サレナの姿が表示されていた!!

 

 

「大きい攻撃が来るぞ!気をつけろ!!」

「うん・・・―――――ッ!!空間の異変を感知!!発生場所はブローディアを中心とした全方位!!!」

『脱出ルートはないよ!』

「だろうな!」

「アキト兄!早くディストーション・フィールドを!!」

「駄目だ、今展開すれば、グロウはあのエネルギー球をブローディアのすぐ傍に転移させるつもりだ」

 

(どうする!?ディストーション・フィールドは展開できない。かといって、全てを迎撃するのは不可能。

ボソン・ジャンプは無理だ、時間がかかりすぎるし、ディアとブロスが動かなくなる。

周囲の光弾を一気に迎撃する方法は・・・・・・・・・・・何か無いのか・・・・・・

ブローディアの武器は、ラグナ・ランチャーにDFS、そしてフェザー・・・

この場をしのぐことだけを考え、フェザーで迎撃するか・・・・・・フェザー?)

 

 

その時、アキトの脳裏に、ルナと模擬戦闘をした時のことがよぎった・・・・

アキトが解き放った烈閃矢エルメキア・アローを、ルナが赤い光翼で一掃した時のことを・・・・

 

 

(あの時は、一方方向からの攻撃だったが・・・使い方次第では、全方位からの攻撃でも防げるはずだ。

だが・・・光翼はフル・バーストをした時にしか使えない・・・・フェザーでできた翼ならあるんだが・・・・・・)

 

「―――――ッ!できるか!?」

「どうしたの!?アキト兄!」

 

 

その時、全ての空間の穴という穴から、ほぼ同時に光弾が吐き出され、ブローディアに殺到する!!

ブラック・サレナの周りにある赤いエネルギー球も、今まさに転移されようとしていた!!

 

 

「考えている暇はない!」

 

 

ブローディアのDFSに灯っていた光の刃が消える!

それと同時に、背中にある翼・・・大量のフェザーが真紅の光を灯した!!

 

 

『ディストーション・フィールドが、背中のフェザーに集束している!?』

「アキト兄!一体何をやる気なの!?」

 

「ハアァァァァァッッッ!!!」

 

 

アキトはディアとブロスの言葉に答える余裕がないほど、精神を集中させる!

DFSなどのシステムも使わず、ディストーション・フィールドを集束させようとしているからだ!!

拳や足といった人にある部位ならいざ知らず、翼といった本来人間が持ち得ない器官に、

ディストーション・フィールドを集束、集中するのはかなり難しい!

 

だが、アキトの並はずれた集中力と、すぐさまサポートを始めたブロスのおかげで、

ブローディアの背中にあるフェザーが、赤い光を放ちながら大きく広がる!!

 

 

「やってみるものだな!何とかなった!!」

「アキト兄!!光弾が!!」

「わかっている!!」

 

 

アキトはブローディアの赤い光翼を身体を覆いつくすように一旦たたむと、

次の瞬間、大空に飛び立つ鳳凰の如く、赤き光翼を一気に広げた!!

 

 

「薙ぎ払え!真紅の翼よ!!」

 

 

目前にまで迫っていた光弾が、真紅の光翼によって全て破壊される!!

その際に生じた数多あまたの爆発により、ブラック・サレナの視界からブローディアが見えなくなる!!

 

 

「まさかその様な行動にでるとは・・・背中の翼は飾りじゃなかったようですね!!」

 

 

グロウは予想外の出来事に驚きながらも、思惑通りにエネルギー球をブローディアの居た場所に転移させる!

一つは、ブローディアの身体の中心辺りに。その他は、その近辺の周囲に!

 

転移したエネルギー球は、すぐさまその内に秘めた力を解放し、

先の爆発を消し飛ばすかのように、さらに規模の大きい爆発を巻き起こす・・・直前!!

 

光翼を大きく広げたブローディアが爆発の中から勢いよく飛び出した!!

 

その直後、ブローディアの背後で大きな爆発が巻き起こされる!!

 

 

「タイミングバッチリ!!」

「ナイス!アキト兄」

 

 

爆発による圧力を光翼に受けたブローディアは、もの凄い急加速でブラック・サレナに迫る!!

 

 

「ハァァアアッ!!」

 

 

光翼に使っていたディストーション・フィールドを、再びDFSに戻すと、

アキトはブラック・サレナに向かって振り下ろす!!

 

DFSの刃は、エネルギー圧縮によって真紅に輝いている!!

戦艦クラスは元より、バースト・モードも備えていない旧型ブラック・サレナでは防げるはずのない攻撃!!

 

――――――――――だが!!

 

 

 

「―――――ッ!!」

 

 

 

ブラック・サレナの右拳から発せられた赤い光の刃が、ブローディアの光の刃を受け止めた!!

 

 

「面白い発想ですね。本来、防御用である空間歪曲障壁ディストーション・フィールドを集束させ、刃と成して攻撃するとは・・・・

下手な攻撃より、よっぽど効果がありそうです・・・」

 

 

ブラックサレナは、ブローディアの光の剣を受け止めつつ、

左手に装備したままのハンド・カノンをブローディアに向かって構え、引き金を引いた!!

 

アキトは直感で危険を悟り、剣を打ち合わせた状態・・・・いわば至近距離にも関わらず、

ブラック・サレナのハンド・カノンより放たれた光弾を寸前で避ける!!

 

 

「クッ!!」

 

 

アキトはブローディアを後退させながらラグナ・ランチャーを構え、グラビティー・ブラストを放つ!

だが、その強力な一撃グラビティー・ブラストも、ブラック・サレナの赤い光の剣の前にあえなく真っ二つに斬り裂かれた!

 

 

「ほぅ?思った以上に使い勝手が良いですね。これは良い事を学びました。

ありがとうございます、テンカワ・アキトさん・・・」

 

 

戦いは・・・・アキトの予想していたよりも遙かに厄介で・・・・長期戦になりそうだった。

 

 

 

 

(第四十六話に続く・・・・・・)

 

 

 

―――――あとがき―――――

 

 

どうも、ケインです。

今回は、始めてのエステバリスでの戦闘シーンを書くことになりました。

色々とおかしな所がありますでしょうが・・・笑って見過ごしてください。

実際、わかりづらいんですよね・・・イメージしにくいですし。

 

無茶苦茶なことも書いていますし・・・特に、ブローディアの光翼とか・・・

DFSで撃ってきた光弾を弾くとか・・・これはまあ、神業的な微妙な力加減と考えてください。お願いします・・・

 

それと、酷いつっこみは勘弁して下さい。本気で落ち込みますので・・・

 

最後に・・・15さん、1トンさん、Dahliaさん、hiroさん、K−DAIさん、Kouさん、TAGUROさん、

       tomohiroさん、ナイツさん、ホワイトさん、やんやんさん、逢川さん、下屋敷さん、

       時の番人さん、堕竜さん、大谷さん、津村さん、耶麻さん、遊び人さん、

       ノバさん、Dark−Asasssinさん、GPO3さん。

 

感想、誠にありがとうございます。

 

それでは、一週間後に投稿予定の、四十六話『覇道を極めんとする王』(仮)で会いましょう。

 

 

 

 

代理人の感想

う〜〜ん、なんかおなか一杯というか。

戦闘シーンばかりで。

ボスキャラとの闘いという意味ではまだ納得もいくんですがそれにしてもおなか一杯です。