悠久を奏でる地にて・・・

 

 

 

 

 

 

第三話『エンフィールドへようこそ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはようございます!アリサさん!」

「おはよう、アルベルトさん。こんな朝早くからご苦労様です」

「そうっす!!朝早くきてなんのようっすか!!」

 

 

朝一番から来たアルベルトに刺々しいテディ。

元々、テディはご主人であるアリサにつきまとうアルベルトにいいあまり感情を持ってはいない。

これは先日、自警団本部にいかず、さくら亭に直行したことの要因となっている。

ただこの場合、朝食がまだの状態なので食い扶持が増えることを心配しているのも一因だが・・・・

 

 

「そんな事言ってはだめよテディ。

アルベルトさんは目の見えない私のことを心配してきてくれているのだから」

 

「う〜〜・・・・ごめんなさいっす・・・・」

 

 

しかし、その言葉とは裏腹に視線は『早く帰れっす』とものがたっていたが・・・・・

そんな視線はアリサを前にしたアルベルトにとっては蚊ほどに感じるものではない。

 

 

「先日のオーガーに襲われた件についての事情聴取をとりたいので

後ほどでかまいませんから自警団本部にお越し願えますか?アリサさん」

 

 

本来なら昨日のうちにとっておくものなのだが、現場検証が思いのほか時間が掛かり、

事情聴取などが後回しにされていたのだ。

二名の身元がハッキリしており、残る一名は通りがかりで助けただけというのも理由の一つだったが・・・・

 

 

「ええ、かまいません。ということはアキト君も?」

「アキト?ああ、黒ずくめの怪しい男ですね。あいつにも連絡したいのですがどこにいるやら・・・・」

「呼びましたか?」

 

 

ちょうどその時、タイミング良く(悪く?)フライパン片手に台所から顔を出すアキト。

一宿一飯の恩・・・・というヤツで、朝食の準備をアキトが代わりにやらせてもらっていたのだ。

 

 

「な!なんで貴様がここにいるんだ!!」

「え?昨日はここに泊まらせてもらったんだけど?」

「ええ、泊まるところがないと言っていたので家に来てもらったんです」

 

 

その言葉を聞いたアルベルトの顔は真っ赤になり、額に青筋が幾重にもうかぶ!

対するアキトはアルベルトが何を怒っているのかさっぱりわかって無く、首を傾げていた。

 

 

「それよりアリサさんにテディ。朝食ができましたよ」

「ういっす!美味しそうな匂いがするっす!!」

「ありがとう。味の方は食べてみてからほめてくれよ」

「僕は厳しいっすよ」

「ははは、お手柔らかにね。アリサさんもどうぞ」

「ええ、わかったわ。そうだ、アルベルトさんもいかが?」

「じ、自分もですか!?」

 

 

アルベルトとしてはアキトの料理を食べる以前に叩き出してやりたいところなのだが、

アリサの手前、手放しそうな理性を必死に掴み、グッと我慢していた。

その上、アリサのお誘いを無下に断るわけにもいかず、思考が膠着状態に陥っていた。

 

 

「忙しいのでしたら無理には・・・・」

「いえ、構いません!ご馳走になっていきます」

 

 

アリサの申し訳なさそうな顔を見てアルベルトは腹をくくった。すなわち、

『これで不味かったら闇討ちしてでも追い出してくれる!!』だった。

 

こういうのが自警団員でトップクラスの戦闘力の持ち主なのだから困りものだ。

 

結果は・・・・・アキトのお手製料理の完勝だったのはいうまでもなかった。

 

アリサもテディも大満足だったらしい。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

朝食後、アルベルトから言われた通りにアキトとアリサ、そしてテディは自警団事務所に足を伸ばした。

そこには先に事情聴取を取り終えていたクレアが待っていた。

 

 

「アキト様にアリサ様、テディ様もおはようございます」

「おはようクレアちゃん」

「おはようっす!!」

「うん、おはようクレアちゃん。もう怪我はいいのかい?」

「はい。アキト様の魔法のおかげですっかり治りました」

 

 

クレアはアキト達に一通り挨拶をすると、端にいたアルベルトに気が付き、顔を変えた。

それは『いかにも怒っています』といわんばかりの表情でアルベルトに詰め寄った。

 

 

「兄様!朝食もとらずに何をなさってたのですか!」

「見ての通り、アリサさんに事情聴取のことを伝えにいってたんだ」

 

 

ここでアキトのことを欠片も言わないあたりがアルベルトらしい。

アルベルトにとってアリサに近づく男はみんな敵という認識がある。

 

 

「それにしても朝食ぐらいはとるべきです。そもそも朝食というのは一日の始まりで・・・・」

「あ〜!うるさい!子供じゃないんだからそんなこと言われなくても大丈夫だ!」

 

「では大人らしくしっかりとして下さい!

それに男性がお化粧などという趣味を持つのはおやめ下さい!」

 

 

アルベルトは別にその気の趣味があるわけではないが、

男も美しくするべきだという考えの持ち主で、それゆえに化粧などをしていた。

 

クレアはそんな兄の趣味がイヤでしかたないらしく、

昨日から口うるさく、再三やめてくれと言っていた。

 

 

「それとこれは関係ないだろうが!それに朝食ならちゃんと食べた!」

 

「もしかしてアリサ様の所でですか!?

そんな朝早くから余所様の家に迷惑などをおかけして!申し訳ありませんアリサ様」

 

「いいのよクレアちゃん。何時も何かと心配して下さっているのだから。

それに朝食のことならアキト君にお礼をいってちょうだい。今朝はアキト君が作ってくれたのだから」

 

「アキトさんの料理は美味しかったっす!!」

「それは羨ましいですわね・・・・・・」

 

 

クレアは羨ましいそうにアリサとテディを見た。

アキトは自分の料理を食べたがってもらえて嬉しく思えた。

 

 

「クレアちゃん。今度よかったらご馳走するから」

「まあ!それはありがとうございます。楽しみに待っていますわ」

 

 

話に置いてけぼりにされたアルベルトはそんな様子を見て苛立った。

あの料理を不味かったといいたかったのだが、本心から美味かったと思っており、言うに言えなかったのだ。

どうこう言っても根は単純で、基本的にいい人なのだ。思いこみが激しいが・・・・

 

 

「おい、アル。アリサさんはまだなのか?」

 

 

事情聴取をとるために部屋で待っていた人物が、いつまで経っても来ないので探しに来たようだ。

 

 

「あ、すみません。リカルド隊長」

 

 

リカルド・フォスター。自警団第一部隊隊長。アルベルトの直属の上司である人だ

 

名字からわかるように先日のトリーシャの父親である。

かつてこの大陸でおこった戦争のおり、英雄の一人にまで数えられていた豪傑で、

一般の戦士からは『剣神』もしくは『剣聖』と崇め、恐れられていたりする。

 

現在は五十を越えた年齢でありながら、衰えを感じさせない力強さを持っている。

事実、技の冴えは年をとるごとに磨きがかかっているとまで言われていた。

 

間違いなく、エンフィールドで最強と呼ばれる人物の一人としてあげられる人物だ。

 

 

「おはようございます。リカルドさん」

 

「ああ、おはようございます。アリサさん。

先日の件は申し訳ない。私達がしっかりとしておけばあんな事はおきなかったのに・・・・」

 

「頭を上げて下さい、リカルドさん。あれは事故だったんです。

別に自警団の人達に感謝するならともかく、謝罪していただくことなんてありませんわ」

 

「そういっていただけるとありがたい。それと、御手数をお掛けしますが事情聴取に協力をしてくれませんか。

今後の対策も考えなくてはなりませんので」

 

「ええ、わかりました」

「感謝します。アル、ご苦労だったな。自分の仕事に戻ってくれ」

「・・・・・・はい」

 

 

アルベルトはアリサが気になるらしいが、リカルドの命に逆らうわけにはいかず、

渋々と返事をしながら仕事に戻っていった。

 

 

「そこの君・・・・アキト君だったね?」

 

「はい。クレアちゃんから聞いたのですか?」

 

「ああ、彼女の事情聴取の時にね。

すまないが君は後にしてもらえないかな?君には色々と聞きたいこともあるのでね」

 

 

リカルドの眼光が、スゥッ・・・・と鋭くなる。しかしそれは瞬きすると同時に元に戻るほどの刹那の間だったが・・・

アキトもリカルドが言いたいこと、聞きたいことがなんとなくわかったので特に何も言わず了承した。

 

 

 

 

アリサが事情聴取を受けている間、アキトはクレアと色々な話をしていた。

クレアはアキトの魔法についてやオーガーを仕留めた方法などを質問したり、

自分について話したりもした。

 

曰く、この街に来たのは先日のアルベルトの会話通り、遠くに住んでいる兄が心配なために、

今まで通っていた全寮制の学校(俗に言うお嬢様学校)を卒業して両親の元に帰る前に、

兄の所に寄ったのだ。

 

その兄のあまりの所業ぶりに頭を痛めたクレアは、

兄を更正させるべく同じ部屋に住み、あれこれと指導していたりするのだ。

結果、色々と意見の衝突が昨日から繰り返された。化粧の件もその一つに過ぎない・・・・

 

 

 

 

一通り話し終えると同時に、アリサの事情聴取が終わったらしく、

部屋からアリサとテディがでてきた。

 

 

「アキト君。リカルドさん呼んでいるわ」

「はい」

「それと・・・・私は早急な仕事があるから家に戻らなくてはならないから今の内に話しておくけど・・・・」

「何ですか?」

「アキト君はこれからどうするつもりなの?」

 

「この街に捜し物があるんです。見つかるまではこの街にいるつもりなので・・・・・

とりあえず、職と宿探しから始めるつもりです」

 

「泊まる場所なら私の所にいればいいわ。部屋も余っているし」

「しかしいつまでも御厄介になるわけには・・・・」

「気にしないで。テディがいると言っても二人だけでは寂しいから」

「そうっす!気にしなくていいっす!アキトさんのご飯は美味しいっすから大歓迎っす!」

「テディったら・・・・でもアキト君。本当に遠慮しないでね」

「何だか餌付けしたみたいで後味悪いですけど・・・・よろしくお願いします」

 

 

アキトはそれでも断ろうかと思ったのだが、

もしも長期滞在するはめになれば宿代も馬鹿にならないと思い、申し出を受けた。

 

 

「その代わりといってはなんだけど・・・私のお仕事も手伝ってくれない?」

「アリサさんの仕事ですか?そういえば何をやっているんですか?」

 

「ジョートショップっていってね。要するに何でも屋なの。

私はこのとおり目が悪いから・・・・ちょうど人手がほしいと思っていたの。ちゃんとお給料も払うわ」

 

「俺にできることは料理と少々の格闘技ぐらいしかありませんけど・・・・いいんですか?」

 

「ええ、それで構わないわ。できる仕事からやればいいのだし・・・

それに他の仕事は追々おぼえていけばいいのよ」

 

「・・・・・・わかりました。ご迷惑をお掛けするかもしれませんがよろしくお願いします」

「そんな、こちらこそお願いするわね、アキト君」

「よろしくお願いするっす!」

 

「じゃあ、あまりリカルドさんをお待たせすると悪いから私は帰るわね・・・・

仕事は明日からでいいから、今日はテディに街を案内してもらうといいわ」

 

「でもアリサ様。家まではどうやってお帰りになられるのですか?」

 

「この街の大体の所ならテディがいなくても何とかなるわ。

お昼御飯は挨拶に寄ったときにさくら亭でとるといいわ。でも夕飯までには戻ってきてね」

 

「はい。わかりました」

 

 

アリサはアキトの返事を聞くと満足げに頷き、入り口の方に向かって歩き始めた。

 

アキトが一人で帰ることに何も言わなかったのはアルベルトが入り口の外でアリサを待っていたからだった。

アルベルトなら無理矢理にでもアリサを案内しながら帰るだろうと予想したのだ。

 

 

「じゃあテディ。俺は話をしてくるけど・・・・悪いけど待っていてくれるかな?」

「ういっす。ここで待ってるっす」

「あ、あの!アキト様」

「何?クレアちゃん」

「よろしければ街の案内に私も同行してもよろしいでしょうか。私もこの街は初めてなもので・・・・」

「ああ、いいよ。じゃあクレアちゃんも待っててね」

「はい!いつまでもお待ちします!」

 

 

嬉しそうに返事をするクレア。

その返事に笑顔で答えるとリカルドの待つ部屋の扉をくぐった。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

リカルドの事情聴取はつつがなく進んだ。

先にアリサの事情聴取があったことがアキトにとって幸いしたのだ。

 

クレアの質問に対する回答がリカルドの質問にもほぼ使うことができたのだ。

 

 

「なるほど・・・・つまり、君はシャドウと名のる男に大事な物を盗られ、この街に来いといわれた。

そしてその途中にテディと会い、アリサさん達を助けてほしいと頼まれたわけか・・・・」

 

「要約するとそうなります」

 

 

アキトの答えにリカルドはしばしの間、考え込んだ。

それは悩んでいるようにも見えるし、答えを探すべく考えているようにも見える。

 

 

「その大事なものだが・・・捜索届けは出さなくてもいいのかね?」

「ええ、説明しても信じていただけるかわかりませんし・・・」

 

「それは我々の方で判断する・・・・と言いたいところだが君がそう言うのならそうなのだろうな。

では別の質問になるが・・・・君はオーガーを見逃したそうだね」

 

「ええ、必要以上に殺さなくても良いと思いまして」

「しかしあの時見逃したモンスターが他で人を襲ってもいいと言うのかね?」

「そうとは言いません。俺が言いたいのは、それは俺の役割ではない。ということです」

「というと?」

                                                      ル ー ル
「俺はあくまで通りがかりです。この土地にはこの土地の決まり事があるはずです。

それを俺の独断で乱したりやぶったりしたくなかっただけです」

 

「そうなのかね・・・・」

「といっても、結局はあまり殺したくないという自分勝手な偽善なんですけどね」

「そこまでわかってるのなら、私には立派な信念だと思えるがね」

「そう言っていただけるとは思ってませんでした」

 

「これでも伊達に年を重ねているわけではないからね。

それはそうと・・・君はこれからどうするつもりかね?」

 

「捜し物が見つかるまではこの街にいます。

アリサさんの所に厄介になりながら仕事を手伝うつもりです」

 

「そうかね。君も気が付いているだろうが彼女・・・アリサさんは先に旦那さんを亡くされててね。

しかも生まれつき目が悪い。見えないわけではないがかなりの弱視らしい。

良ければ何かと彼女の手助けをしてあげてほしい」

 

「それはいわれなくても。でもいいんですか?俺のような流れてきた者にそんな話をして・・・・・」

 

「この街に居るものならほとんどの者が知っている。参考程度に話しただけさ。

それに先に言っただろう?君は気が付いているはずだと」

 

 

それは確かにアキトも感じていた。アリサの家に何かが無くなったという喪失感を・・・・

アキトも大体の所の見当は付いていたのだが、立ち入ったことは聞かずにいたのだ。

 

 

「知り合ったばかりなのに立ち入ったことを聞くのもなんですしね・・・・

それで話は終わりですか?人を待たせているのであまり長話は・・・・・」

 

「ああ、それは悪かったね。もう構わんよ。

これから何かあるかもしれない。その時はよろしく頼む」

 

「あまり自警団のお世話になるのもなんですが・・・・こちらもその時にはお願いします。

では俺はこれで失礼します」

 

 

アキトはリカルドに軽く挨拶をすると扉をくぐり部屋を出ていった。

残されたリカルドはオーガーの解剖結果の報告書を読みながら一人考え事をしていた。

 

 

(あの大型のオーガーは突然変異種・・・低いながらも知能を有し、身体能力でいうなら普通の三倍以上。

死因は不明・・・・毒物性の反応はおろか裂傷さえ見あたらない。

突然の心臓停止か自然死としか思えない。か・・・・・・・

アキト君本人は習った氣功術の奥義の一つだと言ったが・・・・

一体どれほどの達人になればこの様なことができるのか見当も付かんな。

謎が多い・・・・いや、すべてが謎の青年だな。

もしあの大戦時に生まれていれば英雄の一人として名が残っていたかもしれんな・・・・・)

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

時は過ぎてお昼頃・・・・

アキトとクレア、テディの二人と一匹はすでにおおまかな場所をまわっていた。

それなりに大きめの街とはいえ、案内してもらう箇所というのは自然と限られてくる。

その上この街の区画などはわかりやすく、道もハッキリしていることも時間短縮の要因となっていた。

 

 

二人と一匹はアリサに言われたとおり、昼食のためにさくら亭に向かった。

 

 

カラン カラ〜ン

 

 

アキト達が扉を開けるとドアに付いていたベルが軽快な音を出しながら客を出迎える。

 

 

「いらっしゃい!ってあんた達は昨日の」

「こんにちは。パティ様」

「こんにちは。昼食をとりに来たんだけど・・・・・」

「今日はお客様ね。ちょうど三人分カウンターが空いたからそこに座って」

 

 

アキト達はパティに言われたとおりに空いたカウンターの席に座り、注文を待った。

やはり昼食時は混んでいる。

パティは一人で厨房の中をいったり来たりして目まぐるしく忙しそうだ。

 

しかし、何か様子がおかしいと思ったアキトは前を通ったパティを呼び止め質問した。

 

 

「パティちゃん。いつもこんなに忙しいの?」

「いつもこんなんじゃないわ。今日は両親がちょっと出かけてて人手が足りないのよ」

 

 

パティは忙しさのあまり、ちゃん付けで呼ばれたことには反応せず、忙しそうに言った。

アキトはあまりに忙しそうだったため、一つの提案をしてみることにした。

 

 

「忙しいのだったら手伝おうか?」

「客に手伝ってもらいたくはない・・・・・と言いたいところだけど・・・できるの?」

「少し前までレストランでアルバイトしてたから少しぐらいは役に立てると思うよ」

 

 

パティは店の忙しさと得体の知れない男に手伝わすという危険性を天秤に掛け・・・・・

 

 

「アキトさんの料理なら大丈夫っす!ご主人様も美味しいって言ったっす!」

 

 

というテディの一言により、アキトに手伝わせることとなった。

 

パティは当初、アキトに接客をさせて自分が厨房と考えていたのだが、

アキトの包丁さばきやスープなどの出汁の取り方などを見て引き下がることにした。

 

本来のさくら亭で出す料理の味とはかけ離れてしまうかもしれないが、

まだまだ未熟な自分が作る料理を考えれば今日一日ぐらいは目をつむることにしたのだ。

 

 

客の反応と言えば・・・・・・・

 

 

「おう、パティちゃん。料理の味付けが変わったみたいだがなんかあったのか?」

「やっぱりわかる?おじさん」

「まぁな。長年この店に来ているんだ。それくらいは一口でわからぁな」

「ごめん!今日は両親が急用で隣町に行ってて!今日のコックは臨時なの」

「そうだったのか。なんかあったのかと思って心配したよ」

「で?料理の感想はどうなの?」

「いつもの味付けと変わってたんで吃驚したが、悪くないよ。毎日でも食べたいぐらいだ」

「そう、良かった」

「かなりいい腕のコックを見つけたんだな」

 

 

というように不評はほとんどなかった。

あったとしても味が少々変わって吃驚したとか、そう言った些細なものだけだったのでおおむね好評といえた。

 

問題があるとすれば、座る位置によって女性の食事ペースにばらつきがあることぐらいだろうか・・・・

ちなみに余談だが・・・・それらの女性達の席からは厨房が見える角度にあったとかなかったとか・・・・・

 

クレアに至っては一番の特等席を素早くキープ(といっても最初の席より右隣ではあるが)していたりする。

 

 

 

 

 

やがて昼の時間帯をすぎ、ようやく客もまばらになったころ・・・・・

 

 

「え〜と、アキト・・・・だったかな?」

「ん?何?パティちゃん」

「あのね〜・・・パティちゃんって言うのやめてくれる?なんか男にそう呼ばれるのってなんかむず痒くてさ」

「ごめんごめん!癖みたいなものでさ。ついつい・・・・」

「まったく・・・・」

「で?何か用だったの?パティちゃん」

 

「あんたね・・・・まあいいわ。(なんの邪気もない顔をしてたら文句を言う気にもならないわ・・・・)

それより、手伝ってくれてありがとう。お客もそろそろ引けてきたからもういいわ」

 

「そう?じゃあ最後に自分の分を作って最後にするよ。昼食がまだなんでね」

「待って。手伝ってくれたお礼に私が作るわ。もちろんただでね」

「別に良いよ。パティちゃんも昼食がまだなんだろ?俺が作るからパティちゃんこそ座って待っててよ」

「う〜〜ん・・・・まぁいっか、私もアキトの料理を食べてみたいしね」

「わかった。クレアちゃんの隣にでも座って待ってて」

「わかったわ」

 

 

そう言うとパティはクレアの隣に座り、アキトの料理が来るまで雑談をしていた。

そのうちアキトの料理もでき、三人と一匹そろって(クレアとテディはデザート)食事をした。

 

アキトの料理に関してのパティやクレアの感想は『美味しかった』だそうだ。

アキトはその返事を聞いて嬉しそうに微笑んだ。

 

それを見ていた二人の顔が赤いのは気のせいではないだろう。

アキトの笑顔はどの世界においても女性に対しては効果が絶大だ。

(そこまでいっても本人に自覚は全くないのがやはり問題だが・・・・)

 

 

 

 

カランカラ〜ン・・・・

 

 

「お〜〜っす」

「ど、どうも」

「うみゃ〜!パティちゃん、こんにちわ〜」

 

 

パティが食器の片づけをしていると休憩中の札にも関わらず中に入ってきた一団があった。

アレフやクリスといった顔なじみ達だ。

パティも一団を確認すると特に気にしたふうはなく、手早く食器を片づけた。

 

 

「いらっしゃい。でもみんなそろって一体どうしたの?」

 

「なに、昨日の事をみんなに話していたら実際に会いに行こうと言うことになってな

アリサさんに聞いたらさくら亭に行ってみたらといわれてきてみたんだ。そうしたらビンゴ!!ってわけさ」

 

 

アレフはパティに片目をウィンクをしながらそう言った。その仕種は練習でもしているのか、結構様になっていた。

まあ、相手は顔なじみのパティだったからなんの効果もありはしないが・・・・

 

 

「いきなり押し掛けて悪かったな。たしか・・・テンカワとか言ったっけ?」

「アキトで構わないよ」

「そうか?じゃあアキト。アリサさんから聞いたんだが・・・しばらくこの街に滞在するんだってな」

「ああ、しばらくこの街に厄介になることになったからよろしく頼む」

「おう、こちらこそよろしく頼むぜ。どうだ?お近づきに一緒にナンパでも・・・・」

「遠慮しておくよ。もてない俺が居ても邪魔になるだけだろうしね」

「やってみたらわかるよ。だから・・・」

「ちょっとアレフ。後がつかえてんだから下手なナンパの講習は余所でやってくれないか?」

「ちょっと待て!下手なナンパってのは・・・はい、わかりました〜・・・・」

 

 

アレフは後ろからでてきた若葉色の髪をしたエルフの女性に一睨みされるとすごすごと後ろにいった。

 

 

「あたしの名前はエル・ルイス。この街で唯一の武器店で働いてる。アリサさんとは仲がよくてね、

アリサさんの所に居候するのなら何かと縁があるだろうからよろしく頼むよ。

それと、そっちのお嬢さんはアルベルトの妹だってね。これからよろしく頼むよ」

 

「俺の方こそ何かと迷惑をかけるかもしれないけどよろしく頼みます」

「わたくしの方こそよろしくお願いいたします」

「あの・・・・」

 

 

次に声をかけてきたのは、十五、六歳くらいで、眼鏡をかけ、後ろで二つに髪を束ねた女の子だった。

 

 

「私・・・・シェリルといいます。エンフィールド学園の魔法学科に在籍しています。

アキトさんは今まで旅をしていたんですよね」

 

「まあ、旅といえば旅になるのかな?」

「よければその時のお話を聞かせてくれませんか?小説を書いてるので、色々と参考にしたいんです!」

「うん、俺の話でよければ今度の機会にね」

「はい!よろしくお願いします」

「今度はマリア!マリアの番だよ☆」

 

 

今度はハチミツ色の髪をした少女が話しかけてくる。

話し方そのままにかなり元気のいい少女だ。

 

 

「マリアはこの街で一番の魔法使いなの!」

「『一番』の前に『自爆と失敗率が』がつくけどね」

「うるさい!エルフのくせに魔法も使えないからってマリアに嫉妬しないでよ!」

「誰が嫉妬しているだって!下手の横好きが生意気いってんじゃないよ」

 

 

マリアとエルは自己紹介そっちのけで口喧嘩を始めた!

回りの皆も『またか・・・』といった顔で二人を見ていた。

 

その様子からしてこの二人の喧嘩は今に始まったことではないのだろう。

 

 

「もしかして・・・二人は仲が悪いの?」

 

「まぁね。魔法至上主義のマリアとなぜか魔法が使えないエルフのエルが近寄れば

こうなるのは火を見るのよりあきらだけどね。

そんな事より・・・まだ自己紹介終わってないんだから二人とも静かになさい!

それ以上続けるんだったらさくら亭出入り禁止にするわよ!!」

 

「チッ・・・騒いで悪かったねパティ」

「ぶ〜〜☆」

 

 

パティの言葉により二人は渋々といった感じで引き下がる。

いつもこうなのならパティ達も手慣れてしまうのは仕方がないことなのかもしれない。

ただ、蛇足的に付け加えるのであれば、後一分でも遅ければマリアの魔法が炸裂し、

さくら亭は大惨事に見舞われることになった。まあ、これも偶にあることの一つに分類されることだったりする。

 

 

(しかし・・・・さっきからこの視線は結構気圧されるものがあるな)

 

 

アキトは先程から自分に注がれる強烈な興味の視線に耐えられなくなり、

じっとこちらを見つめる猫耳と尻尾のついた少女に話しかける。

 

 

「どうかしたのかな?何かそんなに珍しいかい?」

 

 

アキトはその少女に対して優しい声と笑顔で話しかける。

その感じはラピスといった年下の子供に対するものと通じた感じがある。

 

 

「うん!アキトちゃんから暖かいお日様のような匂いがするの〜!」

「そ、そうなんだ・・・・(ア、アキトちゃんって始めての呼ばれ方だな・・・・)」

「お日様のポカポカとした感じがして、メロディはとっても好きなの〜!」

「ありがとう、メロディちゃん」

「ふみゃぁ〜☆」

 

 

メロディはアキトのことを気に入ったのか、アキトにじゃれついたりして遊び始める。

アキトも、小さな子供に向けるような暖かい眼差しでその行動を見ていたりする。

 

クレアは、アキトにじゃれついているメロディを羨ましそうに見ていたりするが・・・

 

 

その時、視線の端にいたアレフと、水色の髪をした小柄な少年が何かを言い争っているのが聞こえてくる。

 

 

「ほれ、クリス!男相手に怖じけついてんじゃねえよ」

「だってアレフ君!」

「それとも・・・まさかお前そっちの気があるのか?だとしたらおれ友達やめさせてもらうぞ」

「そんな事あるわけないじゃないか!!」

「アレフ、どうかしたのか」

「いやなに、いつまで経ってもこいつが挨拶しないからハッパかけてたんだが・・・・」

 

「ど、どうも・・・クリストファー・クロスと言います。クリスと呼んで下さい。

シェリルさんと同じでエンフィールド学園の学生です。

よ、よろしくお願いします。テンカワさん。コーレインさん」

 

「こちらこそよろしく。クリス君。俺のこともテンカワじゃなくて、アキトでいいから」

「わたくしの方もよろしくお願いいたします。クリス様。それと私のこともクレアで十分ですので」

「はい」

 

それなりに人見知りをするクリスだったが、

アキトの優しそうな雰囲気をクリスも感じ、ようやく緊張が解けてくる。

 

といっても、、クリスが緊張していた理由は七割方、アキトの側にいた女性であるクレアによるものなのだが・・・

 

 

「よし、これでみんなも挨拶をしたな。いつもならシーラやトリーシャちゃん。

それにピートやリサがいるんだけど・・・・」

 

「昨日会った人達だな。憶えてるよ」

「それならいいんだが・・・まあ、明日あたりにでも会うだろうからその時にでも挨拶するといいさ」

 

「ああ、そうさせてもらうよ。それと・・・改めて言うけど、

俺はしばらくの間アリサさんの所で世話になることになったので・・・よろしくお願いします!」

 

「「「「「「「「こちらこそよろしく!!」」」」」」」」

 

 

それが・・・・アキトがこの街でしばらく暮らす事を決意した言葉だったのかもしれない。

アキトの言葉に、みんなもそれぞれに心地よく返事をしてくれた。

 

アキトはその言葉に嘘がないことを感じ、

見ず知らずだった自分を受け入れてくれる人達に知り合えたことを嬉しく感じた。

 

 

アキトは心の中で厄介ごとばかり押しつけてくる運命の神に今の状況を恨み・・・・

いい人達が居る街に着くことができたことをささやかながら感謝した・・・・・・・

 

 

 

 

 

―――――あとがき―――――

 

どうも、ケインです。

こうして自分自身があとがきをやるのはけっこう久しぶりな様な気がしますが・・・・気にしないでください。

 

キャラがそれなりに立ちはじめたら、座談会風にあとがきを書いても良いかな?とも思っております。

 

それで、今回の話は、前半部分がエンフィールドに在住するために住居と職確保。

後半部分が主要なキャラとの顔合わせと言うところでしょうか。

 

ファンの人からは出せ出せと言う声がありましてね。ちょい役として出ました。

これからは、それぞれのイベントで活躍することになるでしょう。

 

次回はアキトの初仕事風景・・・・かな?まだネタが固まっていないのであやふやです。

○○関係でこんな事をしてほしい。ということがあれば言ってみてください。考えてみますので・・・

例(イブ関係の仕事で、旧王立図書館の本の整理)といった感じです。

要望があればそれも書いておいてください。ただし、過激なものは無しです。というか、勘弁してください・・・

 

 

さて・・・・〈WILD ARMS 3〉はクリアしましたし・・・・次はゼノサーガだ!!

 

 

代理人の感想

・・・・・多過ぎて覚え切れん(苦笑)。

まぁ、こう言うのはエピソードで覚えてもらうしかないんですが。