時は遡り・・・

眠らせたメロディを抱えた蛮、銀次、卑弥呼の三人は、

エンフィールドの北にある森の中・・・依頼人クライアントとの約束の場所へと向かっていた。

 

 

「ねぇ蛮ちゃん・・・」

「あ?なんだ?」

 

 

蛮は走り続けたまま、相棒・・・天野銀次に向かって振り向く。

そして、銀次の表情を・・・悲しそうな、それでいて辛そうな顔を見て、眉をひそめる。

 

 

「銀次・・・おめぇ、何を考えてやがる」

「うん・・・今回の俺達、正しいのかなって・・・」

 

「「・・・・・・」」

 

 

銀次の言葉に対し、蛮・・・そして卑弥呼は何も言えなかった。

それは、二人が言わずとも、考えていたことだからだ・・・

 

銀次の足が自然と止まる・・・それにつられ、蛮と卑弥呼も止まった・・・

 

 

「あの人・・・必死に護ろうとしていた・・・その前も、本を読んであげてた・・・

このも・・・嬉しそうにしてた・・・俺には、聞いた通りの人にはどうしても思えないんだ」

 

 

銀次達が、仲介屋を通して得ていたアキトの情報・・・

それは、逃げ出した実験動物が、とある人物に捕まってしまった。

その理由は、他人の研究成果を奪うため、その実験対象であるメロディを捕獲した・・・であった。

しかも、人当たりが良いように芝居をする曲者くせもので、表立ってはこちらが不利になる・・・

だから、奪還屋『Get Backersゲット バッカーズ』に依頼をした・・・というのが、蛮達に教えられていた情報だった。

 

蛮は軽く溜め息を吐くと、痒くもない頭をガシガシと掻き・・・

 

 

「見た目が良く、家族につくし、知り合い全てに優しい・・・

だが、それは上辺うわべだけ・・・本性はとんでもねぇ極悪人・・・

そういった奴がいることは、奪還屋こんな仕事をしている間に何人も見てきただろうが・・・」

 

「うん・・・でも、見た目は怖くても、本当は子供にも優しく、暖かい感じがする人もいたよ・・・

俺は・・・あの人からも、同じ感じを受けたんだ・・・決して、理由もなく酷いことをする人じゃない」

 

「・・・確かにね・・・私も奪い屋とか運び屋やっていた経験上、色々な人を見てきたけど、

あのアキトって奴が悪人には見えなかったわね・・・あくまで、感じは・・・だけど」

 

「そんなこたぁ、俺だってわかってるよ。ヘヴンの奴が持ってきたこの仕事がうさんくさいって事もな・・・

だがな、いったん仕事を請け負った以上、やり遂げるのがプロだ」

 

 

蛮は銀次達に背を向け、再び森に向かって歩き始める。

銀次と卑弥呼は、遅れまいとすぐに蛮の後を追い、歩き始めた・・・

 

そして、振り向かないまま、蛮は銀次達に向かって先程の言葉の続きを言い始める・・・

 

 

「それにな、いつも言っているだろう?

奪還っていうのは、ピースの欠けたパズルみたいなものだ・・・

奪還を成功させて、その最後の一ピースをはめて絵が完成したとき、はじめて一枚の絵が完成する。

今回も、仕事をやり遂げたとき、全てが解るさ・・・」

 

「・・・・・・」

 

「そして、それが気にくわなかったときは、その時に考えるまでだ。

奪い返して、元にあるべき場所に返すも良し・・・全てを見なかったことにするも良し・・・

アフターケアも万全・・・それが俺達『Get Backersゲット バッカーズ』だろ?」

 

「うん!」

 

 

最初、蛮の言葉に納得しきれなかった銀次だが、後の言葉に笑みを取り戻す。

その様子に微笑んだ蛮は・・・

 

 

「良し、だったらさっさと依頼を果たすぞ」

「了解、蛮ちゃん!」

「卑弥呼、その嬢ちゃん、落とすんじゃねぇぞ」

「余計なお世話よ!」

「そいつはすまな―――――ッ!!跳べ、お前ら!!」

 

 

 

蛮の言葉を言い終える前に、三人は真横に跳んだ!

その直後、三人・・・というよりも、銀次と蛮が居た所に、十数本の光の矢が通り過ぎた!!

 

 

「今のは一体何!?」

「俺が知るか!魔法かなんかだろ!」

 

 

素早く立ち上がる蛮達・・・

その頭上を蒼銀に光る何かが飛び越し、蛮達の前・・・森へと続く道に立ちふさがった・・・

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「約束の時間より、十分の遅れだな・・・奪還屋」

「すまなかったな。途中で邪魔が入ってな・・・これでも早く来た方だ」

 

 

蛮、銀次、そしてメロディを背負った卑弥呼が、受け渡し場所・・・エンフィールドの北の森の空き地に到着すると、

すでに依頼人クライアント・・・ひ弱そうな数名の科学者達と、その護衛であろう、十名近くの黒服達が居た。

 

先程、言葉を発したのは科学者ではなく、黒服のリーダーっぽい男だった。

他の黒服とは違い、体躯は小さいが・・・逆に、触れば切れるような、日本刀の如き雰囲気を纏っている。

おそらくは、切れるのは雰囲気だけではなく、思考もなのだろう・・・

でなければ、雇い主であろう科学者達をさしおいて、交渉をすることはないはずだ。

 

その男は、蛮の邪魔・・・という言葉に、眉をピクッと動かす・・・心当たりがあるのだろう。

 

 

「テンカワ アキトだな・・・」

「ああ、仲介屋を通して聞いたあんた達の情報よりも、遙かに洒落になんねぇ奴だったぜ・・・」

「なら、その洒落にならない奴を倒した君達は、もっと洒落にならない連中だな」

「ヘッ、それは誉めてんのかよ」

「もちろん・・・一番の障害であり、厄介者であるテンカワ アキトを倒したのだ。称賛に値・・・」

 

「そんな事よりも、早くその実験体を!」

 

 

いつまで経っても本題に入らないことに業を煮やしたのか、科学者の一人が金切り声を上げる。

他の科学者は何もいわなかったが、睨むような視線が、言葉よりも明白に意志を伝えていた。

 

黒服の男は、一瞬、そんな科学者達を煩わしそうに見た後、すぐに表情を元に戻し、蛮達に向き直った。

 

 

 

「では、ソレをこちらに渡してもらおうか・・・」

「ああ・・・ただし、報酬と引き換えだ」

「わかった・・・おい!」

 

「はっ!」

 

 

男の声に、後ろに控えていた連中の一人が、何か重たそうなものが入った袋を、三つ持ってくる。

間違いなく、報酬の金貨ゴールドだろう・・・ジャラジャラと、やたら重たい音がする。

 

 

「一袋につき五千だ」

 

「三つで一万五千か・・・多すぎやしねぇか?

確か、聞いた話だと、前金五千、成功報酬一万の計一万五千ゴールドじゃなかったか?

もう前金は貰ってるんだ、合計すると、二万になっちまう・・・」

 

「今回の成果に見合った金額を出すだけだ。気にすることはない・・・」

「へぇ・・・まぁいい、もらえるもんは貰っとくぜ。卑弥呼」

「わかってるわよ、いちいち指図しないで」

 

 

卑弥呼から眠ったままのメロディを受け取った蛮は、男達に向かって歩み寄ろうとする・・・

だが、それよりも先に、リーダー格の男は三つの袋を持ち、逆に蛮達に接近した。

 

 

「ほぅ・・・わざわざそっちから来るとは、なかなか礼儀をわきまえてるじゃねぇか」

「フッ・・・皮肉にしか聞こえんな」

「おう、そのつもりだ・・・」

 

 

メロディと金貨を交換した男は、再び先程居た位置まで下がった。

男はメロディを後ろに居た者に渡すと、早く渡せ等と言っている科学者に向かい、黙るように一睨みした後、

元の通り、蛮達に向き直った・・・・

 

蛮達はそれを確認すると、それぞれ一つずつ袋を持ち、中身を確かめる。

 

 

「うっわー!凄い数の金貨だね、蛮ちゃん!」

「確かに・・・五千枚はあるかもしれないわね・・・」

 

「安心しろ。枚数を誤魔化すような真似はしない」

 

「確かにな・・・枚数はあるかもしれねぇが・・・これは一体、どういうつもりだ」

 

 

袋の中から取り出した一枚の金貨を、人差し指と親指でつまみ、男達に見えるように持つ蛮・・・

それを見た男は、眉をピクッと動かすが、それ以外は無表情ポーカー・フェイスのままだった

 

 

「どういうつもりとは?」

とぼけてんじゃねぇ・・・こんな鉄屑を渡して、一体どう言うつもりだって聞いてんだ」

 

 

蛮は金貨を挟んでいた指を摺り合わせるように動かす・・・するとどうか!

表面がはげ、中から黒っぽい鉄のような何かが姿を現した!

 

つまり、金貨に見えていたものは、鉄に金メッキを張った偽物だったのだ・・・

 

 

「こうもあっさりと見破るとはな・・・」

「あいにくと、金に関してはうるさいんでな」

 

「蛮、それ言葉の使い方間違ってるわよ・・・」

 

「・・・・・・一体どういうつもりか、説明して貰おうじゃねぇか」

 

 

卑弥呼のつっこみを黙殺しながら、男に詰問する蛮・・・

そんな様子に、男は下らんと言わんばかりに一笑する。

 

 

「フッ・・・これから死ぬ者に、金は必要ないだろう?」

 

 

男は右腕を掲げる。その直後、周囲の森から十数人の人が姿を現す。

老人、若者、男女の入り交じった者達・・・共通するのは、魔術師らしき服装のみ。

 

 

「てめぇ・・・最初はなからそのつもりだったな・・・」

「機密保持のためだ。恨むなら、逃げ出したこの実験動物を恨め・・・」

「純真そうな女の子恨むぐらいなら、あんた達を恨むよ」

 

 

銀次がやや険のこもった声で男達にキッパリという。

隣にいる蛮、卑弥呼も、まったくその通り・・・と言いながら頷いている。

 

 

「せめてもの情けだ。苦しまないよう、一瞬で消し炭になるようにしてやれ」

 

 

男の命令に、魔術師達は魔術の詠唱を始める。

蛮達は、風に乗って聞こえてくる詠唱から、皆が皆とも、高位の魔術・・・それも炎系だというのを理解する。

 

本当に、文字通り消し炭にするつもりなのだろう・・・

 

 

「おーおー、たった三人の人間相手に随分だな、おい」

「先程も言ったとおり、それだけ君達を評価していると思ってほしい」

「ヘッ!嬉しくて涙が出るね・・・だが、この距離じゃあ、あんた達まで死ぬぜ。それでも良いのかよ」

「心配無用・・・ちゃんとそれ相応の準備はしてある」

 

 

その直後、男達の周囲・・・五箇所の地面から、宝珠オーブみたいな物がせり上がる!

すると、その宝珠オーブはお互いを光の線で結び、大地に五紡星を描く!

そして、半透明状の天蓋ドーム・・・結界を展開した!!

 

それを見た蛮は、嫌悪感に表情を歪めながら舌打ちする・・・

 

 

「チッ・・・結界かよ。そいつは大戦の遺物だな・・・」

「ほぅ、博識だな・・・」

「蛮、あんた何を知ってるのよ」

 

「ああ、あの結界を作ってるヤツが、どっかの滅びた国が考えて作った魔導器だって事ぐらいだよ。

その国が滅びた際、それらの道具は全て壊されたって聞いたんだがな・・・」

 

「その通りだよ、君」

 

 

蛮の台詞に、科学者の一人が何やら優越感に満ちた顔をしながら一歩前に出る。

 

 

「この魔導器は、それの設計図から復元された物さ・・・それも、数倍に高めてね。

これなら、高位の魔術師が何十人集まろうとも、決して破られることはない、素晴らしい一品なのだよ。

きっと、今だ戦い続ける国は、こぞって購入・・・」

 

「無駄な話はそれまでだ!」

 

 

男が科学者の言葉を途中で遮る!

あまり聞かせたくない話なのだろうが・・・もう遅い。

 

 

「てめぇら・・・死の商人のお抱えか何かか・・・」

「お喋りがすぎたようだな・・・」

 

 

男は下ろしていた右手をもう一度を上げた・・・それが振り下ろされたとき、周囲の魔術師が魔術を放つのだろう。

それは、蛮達にも容易にわかった。

 

だが・・・蛮達は、少しも慌ててなかった。諦めたのか・・・それとも・・・・

 

 

「おい、一つだけ言っておくぜ」

「な、なんだ・・・」

 

 

蛮の強烈な視線に怯みながら、男はなんとか声を上げる・・・

 

 

「勝利を確信した瞬間、人ってのは油断するもんだぜ・・・気をつけな。

鼠だって、ピンチに陥ったら猫を噛むことだってあるんだからよ」

 

「心しておこう。それでは・・・消えろ!」

 

男の合図と共に、魔術師達は蛮達に向かって魔法を放つ!!

それと同時に、結界の出力も上がり、外界との繋がりを完全に遮断する!

 

空き地の中央に、突如凄まじい火柱が立ち上がり、

その中に居た蛮達は、苦痛の声を上げる間もなく・・・灰すらも残さず消滅した・・・

 

男達の居た辺りも効果範囲内だったが、強化した結界は熱どころか、爆音すら遮断していたため、

音のない映像ヴィジョンを見ているぐらいにしか認識はない・・・

ここまで完璧に遮断していると、逆に現実味が無くなっているらしい・・・

 

男は徐々に鎮まってゆく劫火の柱を眺めながら、胸の中で呟く・・・

 

 

(これで全てが終わったか・・・もう一人の・・・テンカワに負けたという運び屋の始末も終わっているだろう・・・

問題であったテンカワ アキトも、奪還屋が倒した後、部下がトドメを刺したとの報告が入った・・・

これで、あの方の目的を邪魔する一番の障害は消え去った、後は・・・)

 

 

そこまで男が考えた―――――次の瞬間!!

最初の半分以下まで鎮火した火柱が、突如、爆発的に増加する!!

 

 

「(チッ・・・術の相互作用か、それとも術自体の失敗か・・・役立たず共が!)

おい、お前達、早くこの炎を消・・・・・・!!」

 

 

言葉を途中でとぎらせる男・・・

その不自然な態度を、気にする者は誰一人としていない・・・

 

皆、男と同じもの・・・人の形をとる炎の塊・・・・・・・・・を凝視していたのだから!!

 

 

「一体何なんだ、あれは・・・」

 

 

黒服の一人が呟く・・・それは、この場にいる全員の共通の考えだった。

炎の巨人・・・いや、その禍々しい形容から炎の悪魔と呼ぶべきか・・・

その炎の悪魔は、両手を持ち上げると・・・同じく呆然と見ていた魔術師達に向かって薙ぐ!

 

それだけ・・・たったそれだけで、魔術師達全員は、灰すら残らず消滅する!

といっても、完全にではない・・・腕が通り過ぎた部分だけが消滅したのだ・・・

その範囲外である魔術師達の足元・・・膝から下は、消滅せずに残っていた・・・

 

そして・・・魔導師を消滅させた炎の悪魔は、今度は結界内にいる者達に向かって腕を振るう!

だが、さすがの悪魔も結界を破るほどの力はないのか、何度も何度も結界を殴りつけていた!

 

 

「う、うわぁぁぁあああーーーーっ!!」

 

 

科学者の一人が恐慌におちいったかのように悲鳴をあげる!

先程も、蛮達が死んだところを見たというのに、何を今さら・・・と思うかもしれないが、

蛮達と魔術師・・・同じ焼死でも、まったく状況が違う。

 

一つは、その行為をおこなった存在が、自分にも襲いかかってくるという状況・・・

そして・・・焼け残った魔術師達の足が、これからの自分の死を強く意識させたことだった。

 

 

「落ち着け、結界が破られることは無い!」

 

 

男の一喝に、恐慌に陥った科学者・・・そして、陥りかけた者も、正気を取り戻す・・・

だが・・・その安堵感も、一瞬だけ・・・今度は、黒服の一人が絶叫を上げた!!

 

 

「ギャァァァッッ!!!」

「チッ、次から次と・・・今度は一体なん・・・」

 

 

悲鳴の発生源に振り返った男の表情が、一瞬で凍りつく・・・その光景と、凄まじい殺気に・・・

 

その光景とは・・・悲鳴をあげたと思われる黒服の男が、

パックリと切れた首から、血を噴水のように撒き散らしている姿と・・・

その血を浴び、身体全体を真紅に染め上げている実験体・・・メロディの姿だった・・・

 

幽鬼のようにフラリと立ち、黄金色に変化した瞳孔を爛々と輝かせるメロディ・・・

男を凍りつかせた殺気は、もちろんメロディのもの・・・

しかも、その殺気は相手を『殺す』というものではなく『狩る』という意味合いが強いことを、男は悟った・・・

 

 

「こ・・・殺せ!その実験体を始末しろ!!」

 

「なっ!?!馬鹿なことを言うんじゃない!唯一成功した貴重な実験体を!!

こいつを調べると、あの実験が飛躍的に進むんだぞ!」

 

「なら、ここでその実験体に殺されるつもりか!!構わん!お前達、早く殺せ!!」

 

 

男の命令に従い、懐の忍ばせてある銃を掴む黒服達!

 

―――――その次の瞬間!!!

 

メロディの姿がぶれて消えるのと同時に、黒服達の首が引き裂かれ、先程と同じく、周囲に血を撒き散らす!

その返り血でさらに身体を赤く染めたメロディは、長く伸びた牙と爪から血を滴らせながら、ゆらり・・・と立つ。

 

これで、生き残っているのは、黒服のリーダーであった男と、十名近くの科学者のみ・・・

 

 

「うわぁぁぁあああっ!!」

「に、にげろ!!」

 

 

メロディの放つ生々しい獣の殺気に恐慌におちいる一人の科学者が、我先にと逃げ出す!

それにつられ、他の科学者も逃げ始めるが、そこは結界に隔離された閉鎖空間・・・

見えない壁にぶつかり、すぐに退路はなくなった・・・

 

 

「だ、出してくれ!!殺される!」

 

 

無意味に障壁を叩く科学者・・・他の者も同じく・・・

第三者から見れば『滑稽な姿』・・・辛辣に言えば『不様な姿』・・・だが、当人からすれば笑い事ではない。

 

そんな科学者達に、メロディは一歩・・・また一歩とゆっくりと迫る。

 

後数歩で手が届くほどまでメロディが近づいたとき、科学者の一人が表情を輝かせる!

 

 

「そ、そうだ!結界を解けば良いんだ!」

「なっ―――――!?!止めろバカ者!」

 

 

メロディの殺気に身動きがとれなかった男は、科学者に止めるように声を上げる!

 

だが、そんな男の声など聞こえていないのか、科学者は懐から銀色のプレートを懐から取り出し、

その表面に描かれている文字を震える指でなぞった。

 

おそらく、それが結界発生器の操作盤なのだろう。

五つの宝珠オーブから光が失われ、結界が消え去った・・・

それはつまり・・・外にいる、炎の悪魔に対し、身を晒したのと同義語だった!!

 

 

ゴァァアアアアアーーーーーッッッ!!

 

 

それは、凄まじい煉獄の炎が空気を震わせて発生した音・・・

だが、男達にはそれは悪魔の雄叫びに聞こえた!!

 

炎の悪魔は、その場に居る全ての者を抱くかのように、腕を大きく広げて大地に倒れ込む!

科学者、そして男は、仲間が作りだした劫火の炎に身を包まれ、声にならない絶叫を上げる!!

 

普通なら、狂ってしまうほどの激痛・・・なのに、頭の中は冷静に状況を理解している。

髪や服が燃える匂い、肉が焼け爛れて中の骨が見え始める自分の腕、水分を失う眼球・・・

恐ろしいまでに、自分に起こる出来事を認識していた。

狂いたいのに狂えない・・・半ば、拷問のような状況だった。

 

 

「いっそのこと、俺を殺してくれぇぇぇーーーーっ!!」

 

 

醜く焼け爛れた男の口から絶叫がほどばしる!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジャスト一分だ」

 

 

空間が・・・否、世界に亀裂が生じ、ガラスのごとく砕け散った!!

 

 

悪夢ユメは見れたかよ?」

 

 

その砕け散った世界の向こうにあったのは・・・何事もなかったかのような光景・・・

誰一人死んでおらず、先程まで猛威を振るっていた劫火など、微塵もなかった。

 

まるで、時が巻き戻ったかのごとく、何一つとして変わっていなかった・・・

 

いや、違いは幾つもある・・・

一つは、魔術師達が皆、地面に倒れ伏している事・・・

そしてもう一つ・・・男達全員が、茫然自失とし、へたりこんでいること・・・

最後に・・・蛮達の傍に、メロディを抱き抱えたテンカワ アキトの姿があったこと!!

 

 

「あ・・・な・・・なんで・・・お前達が生きている・・・

なんで、テンカワ アキトがここにいるんだ!俺は確かに、死んだと聞いたぞ!!」

 

「さぁな・・・大方、白昼夢ユメでも見たんじゃねぇのか?」

 

 

ニヤッとしながら、外していた丸眼鏡風のサングラスを着ける蛮。

それを見た男の脳裏に、ある情報が浮かび上がった・・・

 

 

「い、今のが『邪眼』か・・・」

「少しは俺のことを知っているみたいだな」

 

 

『邪眼』・・・魔の力が宿る瞳・・・通称『魔眼』の一種で、蛮はその所有者・・・

蛮の邪眼は、相手に一分間の幻影(夢)を見せる力を持っている。

その力はかなり強力で、見せる夢、そして込める力によっては相手を廃人にしかねない程だった。

 

ちなみに、制限時間の一分は、現実の時間であり、かけられた本人の体感時間とは異なっている場合もある。

先程、男達にかけたときも、現実では一分しか経ってはいないが、

男達の体感時間はゆうに数分は経っている。

 

 

 

「なぜだ・・・なぜ、お前達はそいつの味方をする!俺達以上に金を積まれたのか!?

ならば、私達はその三倍払う!今度こそ本当に!!だから・・・」

 

「そんなんじゃないよ。俺達は、この人を信じたんだ。

一生懸命、このを助けようとした、この人をね!」

 

 

銀次はそう言いながら、此処に来る途中・・・アキトに追い付かれた時のことを思い出していた・・・

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「そのを・・・メロディちゃんを返してもらうぞ・・・」

 

 

昂氣蒼銀の光を纏いながら蛮達の前に立つアキト・・・

治療する暇もなく走ってきたのか、数カ所ある怪我からは、未だに血が流れ続けていた。

 

その中でも、右肩から袈裟懸けに走る大きな斬り傷は酷い・・・

それは、赤屍が吹き飛ばされる際に繰り出した、反撃の一撃だった。

 

(特殊な力だったのか、治癒リカバリィの効果が薄い・・・すぐには治らないな)

 

そんな思いとは裏腹に、アキトは怪我を気にする様子もなく蛮達に対峙する。

そんなアキトに対し、蛮達もそれぞれ警戒したように身構える。

 

 

「蛮ちゃん、この人がここにいるって事は・・・」

「ああ、赤屍の野郎、られたようだな」

「どうするの、蛮ちゃん・・・」

「銀次・・・お前と卑弥呼は先に行ってろ。奴の相手は俺がする」

「そんな無理だよ!赤屍さんを短時間で倒す人だよ!?」

「それがどうした。それとも何か?銀次、お前は俺が負けるとでも思ってんのか?」

「そ、そう言う訳じゃあ・・・」

 

「良いからさっさと行け、本当だったら、時間も圧しているから二人掛かりで行きたいんだが・・・

卑弥呼を一人で待ち合わせ場所に行かせるのは不安があるからな・・・」

 

 

これは別に、卑弥呼を信頼していないから出た言葉ではない。

むしろ、信用できないのは依頼人クライアントの方なのだ。

 

そんな相手の所に、卑弥呼を一人で行かせたくない・・・それが蛮の考えであり、優しさだった。

しかし、卑弥呼当の本人は、その気遣いを『子供扱い』と解釈したのか、それとも言葉そのままに受け取ったのか、

メロディを背負った格好のまま、憮然とした表情をしていた。

 

 

「でも蛮ちゃん・・・」

「良いから行け。奴の相手は俺がしてやるよ」

 

 

そう言うと同時に、蛮はアキトに向かって疾走する!!

 

 

(どういう手段を使ったのかはともかく、奴が赤屍を倒してここに来たのはおそらく事実。

まともにりあえば、さすがの俺でもかなり手こずる・・・

だったら・・・隙をみて邪眼をかまし、その後、本気の一撃で気絶戦闘不能にさせる!!)

 

 

蛮は右手の五指を大きく広げ、アキトに向かって突き出す!!

 

 

蛇咬スネーク・バイト!!」

 

 

蛇咬スネーク・バイト・・・それは美堂 蛮独特の必殺技!

その様は、技の名称通り、獲物を噛み殺そうとする大蛇の大口を彷彿させる迫力がある!

 

常人が行うのであれば、ただの掴み・・・良くてアイアン・クローだが、

握力が二百を余裕で越える蛮が行えば、これ以上とない脅威の技!!

人の身体・・・肉はもちろん、骨程度、簡単に握りつぶせる!!

 

それほど恐ろしい手が、アキトの左肩に向かって伸びる!

 

(左肩の肉を少々引きちぎって、痛みに怯んだ隙に、濃いめの邪眼をかます!!)

 

後少しで、蛮の右手がアキトの左肩にかかる・・・寸前!

アキトの右手が蛮の右手首を掴み、捻るようにして投げ飛ばされる!

 

冗談か何かのように飛ばされた蛮は、空中で身を捻り、地面に激突することなく着地する!

 

 

「この野郎!」

 

 

手加減していたとはいえ、いとも容易く投げ飛ばされたことにむかついた蛮は、

一瞬で真剣な顔つきになると、突如、前触れもなくその場から姿を消し、アキトの前に現れた!!

 

 

「喰らえ!スネーク・・・」

青魔烈弾破ブラム・ブレイザーッ!!」

 

 

蛮が再び蛇咬スネーク・バイトを繰り出そうとするよりも先に、

アキトが蛮に向けた掌より、指向性の青い光の衝撃波が放たれる!!

 

蛮はその早すぎる対応に驚きながらも、瞬時に大地をけり、横に跳んだ!

 

急激な方向転換にも関わらず、なんとか倒れないように着地をした蛮。

 

―――――だが!!

 

 

「―――――ッ!!」

 

 

ズガン!!

 

そんな蛮に向かって、一瞬で間合いを詰めたアキトが蹴りを繰り出す!!

それに対し、蛮は無理に受け止めず、腕を交差させ、後ろに跳んで攻撃を受け流そうとしたが、

あまりの威力に、着地した後も、地面の上に靴痕をつけながら数メートルほど滑った!!

 

 

「・・・・・・」

「・・・・・・・・・・」

 

 

双方とも、大小はあれど、驚きに目を見開いた。

 

 

(あのタイミングで防御するなんて・・・それに、昂氣ではなく、氣を使った一撃とはいえ、受け流すなんて・・・

赤屍先程の人といいこの人といい、なんて戦闘センスなんだ・・・)

 

(この野郎・・・無茶苦茶な力を持っている上に、技のキレが半端じゃねぇ・・・

それに、戦闘慣れした動きだ・・・かなり修羅場くぐってやがる・・・)

 

 

((この人こいつ本気マジ強い強えぇ!!))

 

 

蛮は防御を解くとその場に立ち上がり、息を整えながら精神を集中させる・・・

アキトも、体内の氣を練り上げ、身体能力の向上、及び右手に氣を集束させる!

 

両者とも、相手の次の攻撃が本気であることを悟っているのだ。

 

 

「その呪わしき命運尽き果てるまで 

     高き銀河より下りきたもう蛇使い座アスクレピオスを宿す者なり・・・」

 

 

蛮が何かの呪文チカラあるコトバを唱えると、その身体より強大な力の波動が放たれ始める!

アキトの目には、その波動が長くうねる存在・・・蛇のように蛮の身体にまとわりついてるように視えた!

 

 

(氣や魔力の類じゃない、俺の中にある赤竜の力に近い・・・けど、どこか違う・・・

どちらかというと、人を越えた力・・・いや、人を越えた存在・・の力・・・それを秘めているという感じだ。

これ程の力を相手に手加減なんて考えていたら、やられるのは俺の方だ!)

 

 

アキトは決意を促すかの如く、身体より蒼銀の光が立ち上る!

それとほぼ時を同じくして、蛮の詠唱も終わろうとしていた。

 

 

「されば我は求めうったえたり 

  喰らえ―――――その毒蛇の牙をもって!!」

 

 

 

その言葉と共に、大地を疾走・・・いや、高速移動する蛮!

何かを掴むように構えられたその右手は、まさに獲物に喰らいつく大蛇の如き迫力がある!

否、アキトの目には、その右手に重なるように存在する、不可視の大蛇が視えていた!!

 

アキトも、蛮に向かって大地の上を駆ける!!

その右手には、昂氣と氣が融合させた闘氣が集束し、一際強く輝いていた!!

 

 

両者は、ほぼ一瞬で間合いを詰めると、躊躇無く攻撃を繰りだす!!

 

 

蛇咬スネーク・バイト!!」

全てを噛み砕け、虎牙弾!!」

 

 

全てを噛み砕かんとせんばかりに広げられた蛮の右手と、

彗星の如く、空間に蒼銀の光の軌跡を描くアキトの右手が、真正面からぶつかり合う!!

 

 

―――――と思われたその時!!

 

 

二人は弾かれるように、その場から後方に跳びずさった!

直後!横手から現れた数条の稲妻が、空間と大地を灼きながら駆け抜ける!!

 

二人はその稲妻の軌跡を逆にたどると・・・そこには、右の掌を蛮達に向けてかざした、銀次の姿があった!

稲妻の放ったのは銀次なのだろう、その右腕には先程の残滓だろうか、

幾重もの弱い雷が、バチバチと音をたてながらまとわりついていた。

 

 

「何しやがる、銀次!!」

 

 

蛮は額に青筋を作って銀次に怒鳴る!

それもそうだろう、まかり間違ってあの電撃を喰らおうものなら洒落になっていない。

感電死、もしくは電気ショックによる心臓麻痺など・・・死んでいた可能性が高い。

 

アキトは昂氣を身に纏っていたため、仮に直撃しても多少痺れる程度だったが、

それでも、あまりいい気分ではないのだろう、多少冷や汗が出ていた。

 

そんな二人の気持ちとは裏腹に、

銀次は少し悲しげな表情で、アキト達に向けていた手を下ろし、構えを解いた。

 

 

「駄目だよ、蛮ちゃん・・・俺達、やっぱり間違ってるよ」

 

 

銀次はそう言うと、隣に居た卑弥呼からメロディを受け取り、アキトに歩み寄って渡した。

 

 

「銀次、お前・・・」

「ごめんね、蛮ちゃん・・・でも、俺はこれが一番正しいと思うんだ」

「チッ・・・」

 

 

蛮は舌打ちすると、イライラを抑え込むかのように頭を乱暴に掻いた。

 

 

「だがな・・・依頼はどうするつもりだ?このままじゃ、奪還屋『Get Backersゲット バッカーズ』の信用・・・いや、プライドに傷がつく」

「でも・・・」

「卑弥呼もなんとか言えよ。お前だって、失敗は嫌だろうが」

 

「確かに嫌だけど・・・蛮みたいに、固執してないし。

それに、私も今回の一件、納得できないしね」

 

「そうは言うがな・・・」

 

「ちょっと良いかな・・・」

 

 

メロディを抱き抱えたままのアキトが、蛮達の会話に口をはさむ。

 

 

「良かったら、今回の一件に関して、詳しく聞かせてくれないかな?」

 

 

赤屍とは違い、銀次達に信用できるような感じを受けたアキトは、今回の出来事に関しての説明を求める。

何をどうするにしても、まず、事情を知らなければ動きようも、身の振りようも判らないからだ。

 

 

「・・・どうする?蛮ちゃん」

 

「・・・・・どうするもこうするも、こうなった以上、話す方が妥当だろうな。

良いぜ、あらかたのことは話してやる。ただし、そっちの知っていることも話せよ」

 

「わかった・・・俺の知っている限りの事は話す」

「それで良い。じゃ、俺達からだな」

 

 

アキトが了承したのを確認した蛮は、今回の一件・・・奪還の依頼内容を説明した。

 

曰く、逃げ出した実験動物・・・メロディを勝手に確保し、調べて、自分達の研究成果を奪おうとする者が居る。

その者達から、実験動物を奪い返してほしい。

その際、テンカワ・アキトという人物が邪魔をするはず・・・相手側の首謀者にして、厄介な相手。

戦う場合、倒すのはもちろん、何かの拍子に殺してしまっても、責任はこちらが持つ。

 

要約すると、そんな感じの話だった。

実験動物云々のくだりの所で、アキトは一瞬だけ目を細めたが、それ以外はなにも変化はなかった。

 

蛮達の話が終わると、今度はアキトがメロディについて、知っていることを話し始めた。

 

曰く、メロディは以前、森で隠れていた所を自警団に捕獲された。

その時には、名前など無く、メロディ・シンクレアという名は、後になって付けられたもの。

猫耳、尻尾がついてはいるが、猫人ワー・キャットと呼ばれる種族とはどこか違う。

そして、メロディは白衣を着た人や注射などを、異常に怖がったりする。等々・・・

 

 

それらの情報を交換した蛮達とアキトは、ある程度、今回の一件の背後関係が予測できた。

 

 

「となると、依頼人の所からその嬢ちゃんが逃げ出したというのは、あながちフカシじゃねぇかもな。

俺達が聞いた話は嘘半分だと考えても、状況的にはそう考えるのが妥当だ」

 

「そう・・・だろうな」

 

 

言葉をとぎらせながら喋るアキトから、弱い・・・それでいて、濃い殺気が放たれる。

過去の出来事から、人体実験など命をもてあそぶようなことに関し、アキトは異常に反応する傾向があった。

 

 

「でも変よね・・・」

「ん?卑弥呼ちゃん、なにが変なの?」

 

 

卑弥呼がポツリと呟いた言葉に反応する銀次。

 

 

「そのが逃げ出したのは、かなり前なんでしょ?」

「たぶん。俺がこの街に来る前だから・・・少なくとも、半年以上前になるはずだと思う」

 

 

アキトがこの街エンフィールドについたのが、約半年前。

その時点で、メロディはエンフィールドの住人として、違和感無く溶け込んでいた。

その点から察すると、早くともアキトが来る前よりも数ヶ月前から居ることとなる。

 

実際、メロディが由羅の家に引き取られたのは、アキトが来る更に半年前・・・つまり、一年以上前となる。

 

 

「だったら、なんで一年以上もほったらかしのままだったのか。

そして、今になって取り戻す必要が出てきたのか・・・それが変なのよね。

それに、アキトって言ったわね、あんたが勝手に利用しようとしているのなら、訴えでもすればいいのよ。

街で情報を集めた際に聞いたんだけど、今の貴方は住民からの信用が下がっているらしいし・・・

裁判でも起こせば、一発で勝てるわよ。きっと・・・」

 

「確かにな・・・俺も、それは疑問に思っていたところだ。

そもそも、実験動物が逃げ出したんなら、その時点で自警団に言えば良かったんだ。

そうすれば、余計な手間は省けるし、早い段階で確保ができる。

だが、それができない上に、わざわざ高い金を払って俺達を雇ったっていうのは・・・」

 

「それができない理由がある・・・なんだね、蛮ちゃん」

「ああ、その通りだ・・・どうやら、そこそこやばい仕事だったみたいだな・・・」

 

 

実際、『そこそこ』どころか『かなり』危険な状況だ。

 

えてして、研究という代物は金がかかる。それも、莫大な・・・と付く程。研究成果はその集大成。

故に、それを守るためには、どんな手段を使う場合も多い。合法、非合法を問わず・・・

今回は非合法・・・蛮達『奪還屋』に頼んだのだが、それだけで終わるはずはない。

 

それが、この場にいる全員の総意であった。

 

 

「それで・・・あんた達は一体どうするつもりだ?」

「どうするもこうするも・・・依頼された仕事はきっちりこなす。プロとしてな」

「でも蛮ちゃん!」

「まぁあわてるな。俺に考えがある」

 

 

ケッケッケッケッ・・・と、意地の悪い笑い方をする蛮。

銀次と卑弥呼には、その時、蛮に悪魔の尻尾と角が見えたらしい・・・

 

 

「俺達を騙して利用しようとしたんだ。コケにされた以上、借りはきっちりと返してやる。倍返しでな!

つー訳で、あんたの協力がほしいんだが・・・良いか?」

 

「ああ・・・だが、メロディちゃんに傷つけるような行為をすることなら、断固拒否する。

メロディちゃんは、絶対に俺が護るからな・・・」

 

 

アキトの言葉を視線に強い意志を感じた蛮は、好意的ともとれる笑みを浮かべる。

 

 

「上等だ。本気でそう断言する奴なら、こっちとしても信用できるからな。

ま、こっちに来いよ。とりあえず、作戦会議だ。気に入るか気に入らないかは、聞いてからでもいいだろ?」

 

「・・・わかった」

 

 

そうして、蛮達とアキトは、今回の黒幕に対して、大がかりな茶番劇を演じることにした。

 

こちらを監視していた連中は、卑弥呼の暗示香で偽の記憶を植え付け、黒幕の元へと帰し、

蛮達はメロディを運んできたかのように見せかけ、依頼人クライアントの元へと向かった。

そして、アキトは気配を消し、森の中から蛮達の様子を見守っていた。

赤竜の銃を創り出し、いつでもメロディを・・・そして蛮達を守れるように照準を合わせたまま・・・

 

 

 

結果は・・・知ってのとおり、魔術師達が攻撃する前にかかった邪眼によって、

男達は一分間の間、滑稽な見せ物となり、身を護るために張った結界を、自らの手で解除してしまった。

その解除された瞬間、先に魔導師達を蹴散らしたアキトが、メロディを奪還したのだった。

 

 

(その3ヘ・・・)