悠久を奏でる地にて・・・

 

 

第24話『神、宿りし剣……』

 

 

 

 

 

 

―――――十月二十八日―――――

 

 

十月最後の日曜日……

 

その昼下がり、大通りをアキトとパティが談笑しながら歩いていた。

その手には買い物袋があることから、二人して買い物の途中だというのがわかる。

ただ、それが『デート』と呼称できるものなのかまでは解らないが。

 

それはともかく…そんな時、二人は知っている声に呼び止められた。

 

 

「よう、そこのお二人さん」

「ああ、司狼。こんにちは」

「こんにちは」

「おう、ところでいきなりなんだが…今、暇か?」

「別に暇じゃないけど、どうかしたのか?」

「ああ、ちょっと手伝ってもらおうと思ってな」

 

 

司狼はそういうと、背後にある店…夜鳴鳥雑貨店を指差した。

アキト達がそちらに目を向けると、そこには、大勢の人が店に押し掛けている光景があった。

 

 

「なんというか…凄い光景だな」

「一体何があったのよ」

 

 

それに対する司狼の返事は、アキト達に一枚のチラシを渡すことだった。

そこには『夜鳴鳥雑貨店で、年に一度の各種・果物の缶詰、大特売!!』と真っ赤な文字で書かれてあった。

ついでに、その他には、原価ギリギリ!だの、お一人様十個まで!とも書かれてある。

 

それを見たアキト達は、司狼が何を頼むのかを察した。

 

 

「つまり…俺とパティちゃんに、あの人ごみに割って入って、缶詰を買ってこい、と」

 

 

半ば呆れ顔のアキトの言葉に、司狼はニッと笑いながら肯定した。

 

 

「そういうこと。もう俺は十個買ったからな。

もうちょっとほしいと思ってたところに、お前達が通ったんだ、頼むよ、買ってきてくれないか?」

 

「……どうする、アキト」

「う、う〜ん……」

 

 

思案顔で唸るアキト……

横目でチラッと店の方を見るが、そこは相変わらず、缶詰を奪い合って人がひしめきあっていた。

そんな中に割ってはいるのは、さすがのアキトでも躊躇するらしい。

 

 

「頼むよ、二個で一ゴールドなんてそうそうないんだから!」

 

「…わかった」

「アキト、あんた本気?」

「司狼にはちょっとした借りがあってね…で?果物の種類は?」

「なんでも良い。好き嫌いはないしな。それに、この状況下で種類まで望んだら罰が当たりそうだしな」

「わかった。それじゃ行ってくる」

「頼んだぞ!」

「できる限りは努力するよ」

 

 

それだけ言うと、アキトは人混みの中に突入した!(誇張にあらず)

それを見たパティは、

 

 

「まったく、仕方ないわねぇ…司狼!貸しだからね!」

「へいへい、今度アキトとの仲をとりもってやるよ」

「ば、ばか言ってんじゃないわよ!」

 

 

顔を真っ赤にしながら司狼に持っていた荷物を押しつけると、アキトに続いて店へと突入していった。

そんなパティに、司狼は白いハンカチを振りながら『頑張ってな〜』と応援していた…

 

そして…………

 

 

「いや〜、ホントすまなかったな。おかげで大助かりだ」

「ははははは…そう言ってくれると、俺も頑張った甲斐があったよ」

 

 

袋いっぱいの缶詰を持ったホクホク顔の司狼に対し、

やや疲れた表情のアキトが、これまた疲れたような声音で答えた。

隣で歩いているパティも同様、かなり疲労したような表情だった。

 

肉体的ではなく精神的だろうが、そちらの方が辛い場合が多い。

 

 

「ところで、二人は何やってたんだ?」

 

「見てのとおり、買い物だよ」

「ふ〜ん。何を買ったんだ?」

「服だよ、作業用と普段のね。その他に、色々と小物とかもね」

「パティも一緒にか?」

「ああ、パティちゃんに付き合ってもらったんだ」

「そうだったのか。良かったな、パティ」

 

「わ、私は、ここ一ヶ月、この棍の扱い方や練習に付き合ってくれた礼として付き合っただけよ。

それに、アキトって地味な服ばかり着てるから、見るに見かねて見繕っただけよ」

 

「ま、そう言うこと。パティちゃんには感謝してるよ」

 

 

パティの言い訳を肯定するアキト。

実際、アキトの買おうとしていた服は、暗色系の地味といわんばかりの服ばかりだった。

 

まあ、パティの言い分はどうであれ、司狼第三者からしてみれば、これは立派なデートとしか見えない。

 

 

「そうだったのか。で?パティも袋を持ってるってことは、ペアルックでも買ったのか?」

 

「馬鹿な事言うなよ。パティちゃんに失礼だろうが。その服は、今日のお礼として俺が選んで贈ったんだよ。

センスが良いのか悪いのかはわからなかったけど…」

 

「まったく。これじゃお礼にならないって言ってるのに、アキトったら無理矢理にね。

それにしても、アキトって自分の服にはてんで無頓着なんだけど、女ものの服は結構良い物選ぶのよ」

 

 

パティの言葉に、ははは……という乾いた笑いをするアキト。

過去の経験で、女性が服を変えた際など、誉めれば機嫌が良くなる!ということを学習したため、

アキトは女性ものの服の目利きができるように少しだけ勉強していたのだ。

 

更に本音を言えば、『ごく少数の女性達の機嫌をとるために』なのだが…

そんな事をパティと司狼が知るはずもなく、話は滞り無く続いた。

 

 

「それはともかくさ、あんた…というか、自警団員がアキトと一緒に歩いてて良いわけ?

色々と問題があるんじゃないの?そっちはアキトを犯人扱いしてるんだしさ」

 

「構うな構うな、今日は非番だ。自警団員じゃなく、相羽 司狼一人の人間として動いてるんだよ。

それに、上層部上の奴等はどうかしらねぇが、俺達みたいな下の連中で本気でそう思ってんのはいないよ」

 

「へ〜、そうなんだ」

 

 

パティは司狼の言葉の裏に、アルベルトもアキトを目の敵にしなくなった…という意味があることに気がついた。

ただ、これがまた個人的、特にアリサさん絡みだと、また話は別なのだろうが。

 

 

「ところで司狼、後ろのお客さんをいつまで放っておくつもりなんだ?」

「やっぱりお前さんも気がついたようだな」

 

「ああ、ちょっと前から、こっちを・・・というか、お前司狼を監視している。

まぁ、気配の消し方が雑だから、気づくのは簡単だな。

後五メートルも近づいていたら、パティちゃんも気がついていただろうな。

しかし、気配の消し方のわりには内包する氣が強い…十中八九かなりの確率で、挑発行為だな」

 

 

アキトは遠くからこっちを見ている人物を一瞬、それもチラッと見る。

その距離、約二十メートル少々。気配を感じるとか云々よりも、

それほどの距離があるのに気がついたアキトと司狼は並外れすぎているだろう。

 

 

「さすが氣功師。この距離でよくそこまでわかるもんだ」

「どちらかというと、今までの経験かな?」

「あんまり積みたくないな、そんな経験…俺は日々平穏で、適度に楽しかったらそれで良い」

「その意見には限りなく賛成だ」

 

 

司狼とアキトは顔を見合わせると、微苦笑を浮かべる。

 

 

「さて、とりあえずどうする?捕まえるか?」

「そうだな…面倒くさいから、挑発し返して反応を見るか」

 

 

そう言うと司狼は振り返り、こちらを見ている者に向かって殺気を放つ!

それに対する反応は、強い殺気と飛来する一本のクナイだった。

 

 

「おいおい、やけに物騒な返事だな」

 

 

司狼は飛んでくるクナイを無造作に掴んでとめる。

それと同時に、こちらを見ていた者の気配が遠ざかって行くのを、アキト達は感じていた。

 

 

「ふむ…意外とあっさり引いたな」

「だな。で、それには一体なんて書いてあるんだ?」

 

 

アキトは司狼の持つクナイに結んである紙を見る。

 

 

「また古風な手段を…こんなことする奴がまだいるんだな」

「しかし、渡す目的なのにかなり強い殺気だったな。心当たりでもあるのか?」

 

「さぁな?生まれてきてこのかた、そういった心当たりは有りまくりだ。

ま、わざわざ手紙を送るぐらいなんだ。読んだら相手ぐらいはわかるだろ」

 

 

そういいながら、司狼はクナイに結ばれていた文を外し、読み始める。

そして、書かれてある文字を目で追う事に、その表情は渋く…同時に面倒くさそうな顔となった。

 

 

「来るべき時が来たってやつか。覚悟はしていたが…」

 

 

重々しい溜め息を吐く司狼…

一方、事情がわからないパティは、少し怒ったような顔をしてアキトと司狼を見ていた。

 

 

「ちょっと、一体何がどうなってるの?

いきなり訳の解らない会話をしていたら、急に変なモノが飛んでくるし…事情を説明しなさいよ」

 

「パティちゃん、これは司狼の問題みたいだし、俺達がむやみに詮索するのも…」

「でもね、こんな状況下で見ないふり、知らないふりするのも嫌でしょうが」

 

「確かに…俺だって知らないふりはしたくないし、力になれるのなら手を貸すよ。

でも、個人的な事情で、言いたくない場合も…」

 

「いや、確かに個人的な事情なんだがな。別に構わないぞ。見るか?」

 

 

司狼は、持っていた手紙をアキト達に渡した。

 

 

「あ?なになに……

『神の怒り轟く山 その麓を断罪の場とする―――――神威 清十郎』

………何これ、何かの暗号文?」

 

 

 

訳の解らないといった感じに、首を傾げるパティ。

 

 

「雷鳴山の麓で待つって書いてあるんだよ」

「そうなの?」

 

「ああ、俺の故郷である東方では、雷などを神の怒りにたとえる場合があるんだよ。

そして、『轟く』というのは、鳴り響くって言う意味をもじったものだろうな。

つまり、最初の部分は、雷鳴山って言う意味になるんだ。

いちいち回りくどい書き方をするなんてな……相変わらず偏屈な野郎だ」

 

「なるほどな…それで?司狼。知っている相手みたいだけど、誰なんだ?」

 

「俺の親」

「あんたの親!?」

「ああ。ただし『元』が付くがな」

「たとえ『元』親でも、断罪するというのは穏やかじゃないな」

 

「ま、色々とあってな。それを罪と称されるのは正直むかつくが…

罪とか善悪ってのは、立場によって変わるからな」

 

「確かにその通りだな。で、どうする?手がいるのなら貸すけど?」

 

「すまないな、アキト。ちょっとばかり来てくれ。やってもらいたいことがあるんだ」

「わかった。そう言うことだから、パティちゃん、悪いけど…」

「あたしも行くわよ」

「しかし……」

 

「アキトの言いたいことは解るわ。司狼の様子から、結構危険そうな感じがするし。

でも、私もここ一ヶ月、無駄にアキトに付き合ってもらった訳じゃないんだからね。

その成果は―――――あんたが一番知っているでしょ?」

 

「……解った。良いか?司狼」

「別に構いやしないさ。何かあったら、アキトが護ってやればいいだけだしな」

「ああ、そうだな(必要だったらな。今のパティちゃんなら、大抵は大丈夫だろうけど・・・)」

 

 

「んじゃまあ、早速行くとするか、その『断罪の場所』とやらへな」

 

 

司狼がそう言うと、『深雪』から、《リィィ……ン》という音が静かに鳴り響いた。

アキトの耳には、深雪が司狼を心配している言葉が、はっきりと聞こえていた……

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

雷鳴山の麓に、腰に刀を下げた見た目が三十代前半の男と、

布を巻き付けた長い何かを持った、年の頃十五、六歳ぐらいの女性…いや、少女が立っていた。

 

 

「ようやく来たか」

 

 

屈強そうな男―――――神威 清十郎は、こちらに向かってくる司狼達に向かって、忌々しげに言い放つ。

 

司狼はともかく、買い物帰りですと言わんばかり紙袋を抱えたままのアキトとパティに、

清十郎の目つきは自然ときついものへとなる。

 

そんな清十郎の心情を察しているのかいないのか、司狼は嫌味なまでに爽やかな笑顔を浮かべながら、

 

 

「どうも、お久しぶりデスネ、オトウサン」

 

 

明らかに挑発しているとしか思えない言葉を吐く。

 

 

「人を待たせておいて、良い身分だな」

「ええ、おかげさまで。自警団なんていう立派な職業に就いていますよ」

 

 

巫山戯た態度をとる司狼を、殺気混じりの気迫をこめて睨む清十郎!

その凄まじいほど気迫のこもった視線に、傍にいたパティは無意識に一歩下がっていた。

 

それなりに激戦を潜り抜けてきたパティをも後ずさりさせる殺気。

だが、規格外のアキトと、自警団有数の実力者、司狼を怯ませるまでには到らない。

 

それどころか、アキトは平然と…司狼は飄々と受け流してすらいた。

 

 

「その巫山戯た口調を止めろ!」

 

「はいはい。しかし、そんなに待ったか?悪いな、約束の時間が書いてなかったんでな、のんびり来たんだ。

待つのが嫌なら、今度から待ち合わせの手紙にはちゃんと時間を書いておけよ」

 

 

本気なのか冗談なのかわからない司狼の言葉に、かつての父、清十郎は苛立たしげに顔を歪める。

 

 

「相変わらずだな…京志郎」

 

「俺の名前は相羽 司狼だ。神威 京志郎はもういない。

あんたが俺を捨てたとき、その名の男はこの世から消えた」

 

「そうか…では、相羽 司狼。

神代家の嫡子を始め、分家の子息達を再起不能にし、

あまつさえ神代家の秘宝である神器を奪うこと許し難し!

神の名を冠する一族として命ずる。奪い去った神器を返却し、潔く処罰を受けよ!」

 

「これはもう俺のモノだ。その証拠に、俺の相棒パートナーが宿っている」

 

 

司狼は腰に下げてある刀の柄を触りながら、キッパリと宣言する!

その意思、その視線からは一切の迷いを感じさせない。

 

 

「それに、あの糞馬鹿共を半殺しにした行為ことで処罰されるなんて冗談じゃねぇ。

殺さなかっただけでも、ありがたいと思ってほしいぜ」

 

「ありがたいと思ってほしい?巫山戯たことを言ってんじゃないわよ!」

 

 

清十郎が何かを言おうとする寸前、その隣にいた少女が怒声をあげる!

 

 

「あんたのせいで、お兄様は二度と剣を持てなくなったのよ!」

「お兄様?ってことは、そっちのはもしかして……」

 

「そうよ!あんたに四肢を潰された神代 一也の妹、神代 瑞穂よ!

お兄様を再起不能にしておいて、ありがたいと思え?よくそんなこと言えるわね!

上等だわ!この私、自らの手であんたに引導を渡してやる!!」

 

 

瑞穂がそう宣言すると同時に、手に持っていた何かに巻き付いていた布が散り散りに吹き飛ぶ!

それによってさらけ出された代物は、仲間の一人クレアが得意とする武器『長刀なぎなた』だった。

 

真っ白な刀身をした長刀なぎなた…そう、鋼の白銀ではなく、完全な白。

その上、長柄と刃をつなぐ部位にも、真っ白な宝玉らしきものが填め込まれていた。

それ以外にも、細かな装飾が成されていたが、大きく目を引くのはその二点だろう。

 

その二点を見た司狼は、目を少し細め、不愉快そうな顔つきをした。

 

 

「……神代家に伝わる四神の太刀が一つ、『白虎』か」

「そうよ!この力を持って、あんたに引導をくれてやるわ!覚悟なさい!!」

 

「―――――といっているが?あんたはどうするつもりだ?」

「素直に従うつもりはないのだろう?」

「当然」

「ならば、もう語ることはない…貴様には死んでもらう。神器は貴様が死んだ後、回収すればいいだけだ」

 

 

腰に下げてあった刀の鯉口を切る清十郎……

ほんの少し見えた刀身は、炎を凝縮したかのような真紅であった。

よく見ると、柄と刃の接続部には、先程の白虎と同様、刀身と同じ色をした宝珠が填め込まれていたりもする。

 

 

「神威 清十郎が持ちし、四神の太刀が一つ『朱雀』か…」

 

「貴様の奪いし神器に宿る存在がいかに強かろうと、所詮は貴様に従えられる程度の存在モノ

この『朱雀』と『白虎』二柱の神の前では塵芥にも等しい…覚悟しろ!!」

 

 

「四神のうち、二つまで揃えて来るとは。いやぁ〜、俺も随分評価されたもんだ」

 

「自惚れるな。二つ揃ったのは偶々だ。本来、貴様程度の相手など、私一人で充分だ。

本家である瑞穂殿が来られたのは、貴様の最期を見届ける為よ」

 

「へいへい、それは失礼しました」

 

 

ヘラヘラした笑みで返事をする司狼に、清十郎は厳めしい顔で『朱雀』を抜きはなった!

これ以上、司狼の巫山戯に付き合うつもりはない!という、意思表示でもあるのだろう。

 

 

「せめてもの情けだ。そこの二人と別れをすませるがいい。

それとも、加勢でも頼んで、不意打ちの相談でもするか?それが目的だったのだろう?」

 

「冗談!パティはともかく、アキトに加勢を頼んだら、俺の出番がなくなっちまう」

「下らぬはったりを…」

「アキト相手だったら、『四神』使いあんた達二人でも実力不足だ。俺が缶詰を食っている間に終わってしまうぜ」

「つまらん虚勢だな。脆弱な貴様と、その仲間程度の相手など、片手で充分だ」

 

「俺は充分本気なんだが…俺の相手は片手で充分ね。面白いな。やって見せてくれよ」

 

 

面白い芸でも見せてくれ…といわんばかりのにやけた笑みのまま、愛刀『深雪』を抜く司狼。

そんな表情とは裏腹に、内に秘めた闘氣や剣氣は凄まじいほど高まっていた!

 

 

 

 

「ねぇアキト。あのおじさんはあんな事言ってるけど、どれ程強いの?」

 

「そうだね…俺の見た限り、さほど強くはない。でも、決して弱い訳じゃない。

俺の知る限り、この街でもあの人に勝てるのは十人もいないよ」

 

「そんなに強いの!?」

 

 

パティは驚いたように大きく目を開く!

この街で強者十人といえば、リカルドやノイマン、アキトといった本当に凄まじい実力者ばかりだからだ。

それほどの人物でしか勝てない…それは、神威 清十郎が本当に強いという事になる。

 

しかし、パティは一つ勘違いしている。司狼の強さはその十強の内に入っていることに。

それに気がつかなかったパティは、不安になってアキトを見る。

そんな視線を感じたアキトは、安心させるように微笑んだ。

 

 

「心配しなくても大丈夫。司狼の方が相手よりも遙かに強いから。

それに相棒パートナーの深雪ちゃんもいるんだからね。それよりも、俺が気になるのは……」

 

 

アキトは清十郎が持つ赤い刀と、瑞穂が持つ白い長刀を見る。

その視線には、先程の司狼ほどではないが、不愉快そうなモノが混じっていた。

 

 

 

 

「セイッ!!」

 

 

両手で刀を持った司狼は、次々に清十郎に斬りかかる!

しかし、清十郎は片手…右手だけで持った刀で、司狼の斬撃を全て受け止めていた!

 

 

「その程度か……本当に下らぬ。攻撃する気もおきん」

「あ〜そうかい。なら、これならどうだ!」

 

 

司狼はひとまず後ろに下がり、距離をとると、右手側に刀を大きく振りかぶった!!

 

 

「剣衝・風牙!!」

 

 

振るわれた刀より放たれた衝撃波が、真っ直ぐ清十郎に襲いかかる!

清十郎はがっかりしたと言わんばかりに溜息を吐くと、刀を上段に構え、衝撃波に向かって振り下ろした!!

 

目に見えぬ衝撃波は、その一振りにより真っ二つとなり、空気を震わせて消滅する!

 

 

神代かみしろ流、剣衝・風牙か・・・そんな初伝の技が通用すると」

「思ってねぇよ、風牙・三連!!

 

 

言葉を言い終える前に、次の攻撃…三連続の衝撃波を放つ司狼!!

 

 

「この愚か者がっ!!」

 

 

しかし、清十郎はその三つの衝撃波を、たった一振りで斬り裂いた!

 

―――――だが!

三つ目の衝撃波の中に混じっていた土や小石が、本体を斬り裂かれてもなお、清十郎に襲いかかる!

 

清十郎は反射的に身体を動かし、土塊を避けようとしたが、

無数に飛来する土塊を完璧に避けることなど出来るはずがなく、顔や腕などに浅い怪我を負った!!

 

 

「ふん…先の三発で無意味という先入観をもたせ、最後の一撃をわざと斬らせたか。

一矢報いるだけの浅知恵だけは身に付いたようだな。最も、この程度の傷、すぐに癒えるがな」

 

「知ってるよ。その刀…神刀を持っている限り、かすり傷程度はあっと言う間に治ることはな」

 

 

清十郎の言葉通り、無数についていた傷は、見る見るうちにふさがり、跡形もなくなってゆく様子を

嫌悪感を微かに表した表情で、吐き捨てるように呟く司狼。

その司狼の言葉に、アキトはなるほど…と、胸中で呟いた。

 

アキトの目には、清十郎の怪我が治る際、刀から力が流れ込んでいる様が見えていたのだ。

ただ、その流れは、治療のための供給というよりは、清十郎の一方的な吸収…といった感が強かったが。

 

 

「しかし、出来損ないの貴様が私を傷つけたのだ。褒美に、少しだけ本気を出してやろう」

 

 

清十郎が持つ神刀《朱雀》の刀身より、真紅の炎が巻き上がる!

あまりの凄まじい温度か、それとも秘めたる力の所為か、空気が微弱に震える!!

 

 

「四神相応の地にて、南方を守護する神獣《朱雀》の炎か」

「二割程度の力だがな…貴様には充分すぎるほどだ」

「あ〜そうかい。その強がりが、いつまで持つか楽しみだよ」

 

「ほざけ!痴れ者が!!」

 

 

清十郎は刀を薙ぐように振り、炎の衝撃波を放つ!

それを司狼は大きく跳躍して避け、お返しといわんばかりに、そのまま空中で風牙衝撃波を放つ!!

しかし、放たれた衝撃波は、清十郎が纏う朱雀の炎に阻まれ、あっさりと霧散する!!

 

 

「その程度の技で、朱雀の炎の鎧が貫けると思ったか」

「確認したかっただけさ。本当に、深雪の力を借りるほどなのかをな」

 

「力を出さないまま死ぬのは本意ではあるまい。見せてみるが良い、その力を…

刀に封印された神や魔をどれ一つとして使役できなかった貴様が、やっとできたシモベをな」

 

「間違うなよ、俺は使役なんてしてねぇし、シモベなんてもんでもねぇ・・・

俺と深雪は相棒パートナーであり、共に歩む者だ!行くぞ、深雪!!」

 

《ええ。司狼、貴方の思うまま、私の力を存分に……》

 

 

深雪の答えと共に、司狼の持つ刀の刀身から、冷気が発せられる!

 

 

「冷気を操るか…どのような存在かは知らぬが、偶然にも相対する属性か。

しかし、我が朱雀の前には、その程度の冷気など朝露も同然。消し去ってくれるわ!」

 

「単純な力の差が戦いを決めるわけじゃねぇぜ?」

「減らず口を!ならば、思い知れ!己の非力さと、その存在の矮小さをな!!」

 

 

再び清十郎が司狼に向かって刀を一閃させる!

それだけで、五つもの炎の衝撃波―――――いや、剣閃が、同時に司狼に襲いかかる。

 

 

「遊んでねぇで本気できやがれ!!」

 

 

そう言うと、司狼は襲いかかる炎の剣閃を全て紙一重で避け、清十郎に向かって疾走する!

本当なら、紙一重で避けようとも、剣閃から生じる熱気で火傷を負うのだが、

司狼が身に纏う深雪の冷気が、その熱気を完全に遮断していた。

 

そして、間合いをつめた司狼は清十郎に斬りかかる!!

司狼の刀は、刀身に纏う冷気で炎の鎧を貫き、清十郎に襲いかかる!!

 

清十郎はその剣撃を神刀『朱雀』で受け止めながら、少々感心した顔をする。

 

 

「ほう、この炎から身を護る程度の力はあるようだな…」

「その程度で充分だ。さぁ、さっきの続きをしようか!!」

 

 

清十郎に向かって再度斬りかかる司狼!

その様子に、清十郎は鼻で笑いながら、刀を両手で構える!

 

 

「フン…もうこれ以上、貴様に付き合ってやるのも飽きたところだ。

剣で戦いたいのであれば相手をしてやろう。本気でな!!」

 

 

先程の戦いでは、清十郎は右手のみで司狼の攻撃をさばいた。

刀とは本来、両手で扱うのモノ…それゆえに、清十郎が本気で闘えば、司狼に勝ち目はない!

 

そう、パティは…そして、黙って戦いを見ていた神代家次期宗主、瑞穂はそう思っていた。

 

しかし、司狼と清十郎が二手、三手と攻撃を交わすうちに、その考えは消え去った。

清十郎の攻撃はまったく当たることなく、司狼は全て避けきっているのに対し、

司狼の攻撃を清十郎は避けることができず、受け止めなければならなかったのだ!

 

力を発揮する前の戦いとは、まるで逆の状況にあせる清十郎!

そんな事は顔に出すことなく、不適な笑みで口を開く。

 

 

「どうやら、この数年で腕を上げたようだな…」

「さっきと言ってることが違うな」

「ふん…先程のは、どうせ私の力を見定めようと、態と手を抜いていたのだろうが!」

「当然。どうやら、あんたは俺が家を出て以来、まったく腕を上げてねぇな。情けないったらありゃしねぇ」

「ほざくな、小僧が!!」

 

 

朱雀の刀身に、凄まじいまでの真紅の炎が発生する!

清十郎は朱雀を振り上げると、司狼に向かって袈裟懸けに斬りかかる!!

 

司狼は横に跳んで避けるが、振り下ろされた先の大地は斬られ、

あまつさえ、その起動の延長上の地面までもが、真っ二つに裂かれる!

 

 

「そんなに、見下していた若造に剣術で負けるのが悔しいか?

なら・・・力の扱い方でも、あんたに負けてねぇって事を教えてやるよ」

 

 

司狼はそう言うと、大地に深雪を突き刺す。

すると、深雪より放たれていた冷気が更に増え、周囲を覆いはじめた!

 

例外なのは、炎を纏っている清十郎の周囲のみ。

 

ただ、周囲を覆う霧…といっても、視界が遮られるほど凄いものではなく、

せいぜい、大地から十数センチ程、漂っている程度だった。

 

その時点までは!!

 

 

「相羽流・封神剣、冬幻鏡とうげんきょう…」

 

 

大地より冷気が一斉に吹き上がり、周囲を濃いめの霧で覆い隠す。

だが、アキト達からでも司狼達が見える程度の濃さなので、戦闘の妨げにはならないだろう。

 

 

「ア、アキト…あれ……」

 

 

パティが驚いた表情で司狼を指差すと、そこには、五人になった司狼の姿があった。

おそらくは、空気中の水分を凍らせ、光を屈折させて幻影を生み出したのだろう。

 

通常ではありえない現象だが、この霧は司狼・・・深雪が作り出した尋常ならざるモノ。

幻影を創り出すことなど、容易いことなのだろう。

 

しかし、それだけだったら、アキトをはじめ、清十郎も脅威に思うことはない。

いくら精巧な幻影といえど、それ自体には気配はない。

本当の司狼の気配さえ探れば、本物を見分けることなど雑作もない。

 

―――――はずだった。だが…

 

 

「見事な穏行だ。気配を完璧に消している。俺も気配だけで・・・居場所を察知するのは難しいな」

 

 

そう言いながら、アキトは五つの司狼の分身を見る。

本物の位置がわからない以上、取れる手段は限られている。

 

清十郎は、その中でも最も安易な方法を選んだ!

 

すなわち、

 

 

「つまらぬ小細工だ。察知できないのであれば、全てを灰にするまでだ!!

神威流・封神剣・・・朱雀・炎衝閃!!

 

 

五人の司狼に向かって特大の炎の衝撃波を放つ清十郎!

その衝撃波が、司狼の幻影もろとも大地に衝突し、劫火と爆風を撒き散らす!!

 

 

「力を使っている以上は死ぬまいが…無傷ではあるまい」

 

『ところがどっこい、無傷なんだな、これが…』

 

「何っ!?!」

 

 

全方位から聞こえる司狼の声に、清十郎は居場所を特定しようと周囲を見回す!

だが、辺りには相変わらずの霧…少なくとも、見える範囲には司狼の影もなかった。

 

 

「貴様…隠れていないで姿を現せ!この臆病者め!!」

 

「俺が臆病者なら、この技にはまったあんたは間抜けだな。いいぜ、姿を現してやるよ」

 

 

そう声が響くや否や、清十郎の周囲に五人の司狼が再び姿を現せる。

清十郎を中心にして、それぞれが取り囲むように立っていた。

 

 

「行くぜ!!」

 

 

五人の司狼は刀を水平に持ち、刺突の構えをとると、一斉に清十郎に襲いかかる!!

対し、清十郎は刀を目の高さまで持ち上げると、半眼になり、意識を集中させる!

 

 

「ならば、今度は炙り出してくれる…朱雀・轟炎陣!!

 

 

朱雀の赤い刀身より放たれた炎が清十郎を中心に旋回し、炎の竜巻を形成する!

そしてそれは爆発的に広がり、周囲の全てを焼き払う!

 

五人の司狼は、その炎に焼かれるよりも先に、姿を大きく揺らめかせ、一つ残らずかき消えた!!

 

 

「五つとも幻影だと?朱雀・轟炎陣今の技で周囲は全て灼いた。ならば本物は…上かっ」

 

 

その考えと共に、真上から闘氣を感じた清十郎は、

すぐさま視線を上に向け、刀を突き上げるような、刺突の構えをとる!

 

その刃の先には、刀を振り下ろしつつ降下する司狼の姿があった!!

 

 

「甘いわ!!」

「甘い…」

 

 

偶然か、それとも必然か、清十郎の怒声とアキトの呟きが一致する。

 

 

「これで、終わりだ!!」

 

 

そして、清十郎が繰り出した朱雀が音もなく、司狼の身体を―――――心臓の位置を正確に貫いた!!

司狼の背中から、朱雀の赤い刀身が姿を現し、完璧に貫いたことを周囲に知らしめた。

 

 

―――――次の瞬間!!

 

 

 

パキーーーンッ!!

 

まるで高純度の水晶クリスタルガラスが割れたような澄んだ音と共に、

朱雀に貫かれた司狼の身体が粉々に砕け散った!!

 

 

「なっ!?!」

 

 

今起こった現象が信じられず、驚きに大きく目を見開いたまま、呆然とする清十郎!

 

そんな清十郎の肩に、冷気を発する刀身が、音もなく背後から置かれた。

 

 

「相羽流・封神剣、氷顕精繰ひょうけんせいそう…『深雪』の氷で作った傀儡だ。

それにしても、闘刃と組み合わせたとはいえ、こうもあっさりとひっかかるとはな。

あんたが弱くなったのか、それとも俺が強くなりすぎたのか…少々失望したぜ、神威家当主殿」

 

 

一体いつからそこにいたのか、清十郎と背中合わせで立った司狼が、嘆息混じりに呟いた……

 

 

 

 

「よ、よかった…司狼、無事だったんだ」

 

 

司狼の偽物が朱雀に貫かれてから、息をすることすら忘れていたパティは、

司狼の無事な姿を確認し、ホッと息を吐き、強張っていた身体の力を抜いた。

 

そんなパティの様子を、アキトは優しく微笑みながら見た後、視線を司狼と清十郎に戻した。

 

(思っていたよりも司狼は強い。いや、力の使い方が上手い、と言った方が適切だな。

自分の武器の特性を上手く使って戦闘を有利に進めている)

 

「……それに、闘刃か。司狼の奴、結構隠し手が多いな」

「そういや、アキト。司狼も言ってたけど、闘刃ってなに?」

 

 

アキトのふとこぼした呟きが聞こえたパティは、先程から自分も気になっていた『闘刃』について質問する。

 

 

「『闘刃』…文字通り『闘気の刃』。といっても、氣の刃のように攻撃できるわけじゃないらしいよ。

攻撃する意思ってヤツなのかな、それが相手に襲いかかるらしいんだ。

俺も昔、武術を習った人にチラッと聞いただけで、詳しいことは知らないんだけどね。

でも見ている限り、襲いかかる方向は一定じゃないみたいだね……」

 

 

背後に司狼がいたのに、真上から清十郎が闘気を感じていた様子から、『闘刃』の特質を予測するアキト。

 

 

「『みたい』とか『らしい』って…アキトはできないの?」

「さっぱり。逆に、司狼に教えてほしいぐらいだよ」

「へぇ〜……」

 

 

パティはその事実に軽く驚きながら、視線を司狼達に戻した……

 

 

 

 

「五年…俺が家を出て、今に至るまでの年月だ。

そのたった五年で、俺とあんたの力は逆転した。

朱雀を隷従し、神威の名の意味に違わぬ力を持ったと言われたあんたは、

何一つ、下級の魔ですら従えられなかったと言われていた俺に圧されている…無様だな」

 

「黙れ小僧!!」

 

 

清十郎の『朱雀』より凄まじい炎が吹き上がり、爆発するように広がって周囲の空間を灼く!!

すぐ背後にいた司狼は、寸前でその場から跳び、冷気で身を護りながら範囲外に退避した。

 

だが!!

 

 

「京志郎!覚悟っ!!」

 

 

後方に跳んでいる司狼に向かって、長刀なぎなたを振りかぶった瑞穂が飛びかかってきた!!

その長刀なぎなたは内包する存在モノの力を使っているのか、刃の周りの空間が歪み、何らかの力場を形成していた!!

 

(チッ!良いタイミングで襲いかかってきやがる!

迎撃しようにも、白虎の力を打ち破るほどの力を溜める暇もない。普通じゃ避けられねぇ!)

 

着地する瞬間を狙っての攻撃に、このままでは無傷では避けられないことを悟った司狼は…

着地地点に向かって、深雪を振るい、冷気の衝撃波を放った!!

 

(何をするつもりか知らないけど、この一撃で叩き潰してやる!!)

 

大地に着地した司狼に、白き長刀なぎなた『白虎』を振り下ろす瑞穂!

体勢を整える暇もないため、司狼は完璧な防御は出来ない!!

 

(決まった!!)

 

勝利を確信する瑞穂!!

 

しかし!!

 

着地した司狼は、あろう事か大地の上をそのまま滑り、瑞穂の攻撃を避けた!!

正確には、大地に張られた氷の上・・・を、だったが。

 

 

「そんなっ!!」

 

 

驚愕の言葉と共に、白き長刀なぎなたを振り下ろす瑞穂。

その一撃は、一定範囲の大地とその上の氷を潰し、クレーターのような穴を作り上げた!!

 

 

「うおっ!おっかねぇな…正直に受け止めてたら、本気マジでぺちゃんこだったな」

 

 

氷の上を滑り、瑞穂と清十郎から距離をとった司狼は、穿たれた穴を見ながら呟く。

確かに、この一撃を受け止めようものなら、防御など関係なく、潰されていただろう。

 

 

「瑞穂殿!手出しは無用!!」

 

「何が無用よ!そのまま冷静さを欠いたまま戦ったら、確実に負けるわよ。

わかっているわよね、神代家に連なる者に、勝利以外は許されない…敗北は絶対の禁忌」

 

 

瑞穂の言葉に、清十郎の顔から怒りの感情が消えてゆく……

正確には、心の内に押し込められたのだろうが。

 

 

「そう言う訳よ。貴方も、かつては神威家の嫡子なら、その事は知っているはずよね」

 

「ああ、知ってるよ。神の名を関する一族の、飽くなきまでの勝利への執念をな。

勝つことこそ全て…子供ガキの頃から骨の髄まで叩き込まれていたよ。

二体一なんて常識のうち、だから、いつお前が襲いかかってくるかと思っていたんだがな…

なかなか良いタイミングで来たじゃないか。結構やばかったぜ」

 

「それはどうも。あんな非常識な避け方する人に誉められて嬉しいわ」

 

 

無表情のまま、それでいて皮肉をたっぷりと含ませた言葉を吐く瑞穂。

 

完全にとらえたと思った一撃を避けられたのが余程悔しかったのだろう。

長刀なぎなたを持ち上げ、幾度か回転させると、再び司狼に向かって刃先を向けた。

 

 

「白き長刀なぎなた『白虎』…四神相応の地にて、西方を守護する神獣。

神代家に伝わる四神刀にまつわる伝承には、

『その白き神獣の加護を受けし者、地のことわりを意のままに操り、相対するモノ全てを潰し、打ち砕く』

って書いてあったな。その内容から白虎の力を薄々と予想していたが…やっぱ重力操作だったか。

朱雀の炎や玄武の水に比べて、厄介と言えば厄介な力だな」

 

「今さら泣き言?でも、もう遅いわ…貴方の未来は二つ。

朱雀の炎で灰となるか、白虎の力で跡形もなく潰れるか…選ばせてあげるわ」

 

 

瑞穂の持つ長刀なぎなた『白虎』の刃の周りが奇妙に歪み始める!

強い重力操作のため、空間が歪んでいるのだろう。

 

重力空間を圧縮させたその一撃は、人など押し潰してしまうほどの威力があるだろう!

 

 

前方には白虎を持つ瑞穂が……

後方には、朱雀を持つ清十郎が……

 

強大な神の力を宿す武器を持つ二人を相手に、司狼は無意識の内に、深雪を強く握りしめた。

 

 

そんな司狼の様子を見てとったアキトは、

 

 

「司狼、手伝いはいるか?」

 

 

まるで料理とか掃除などの手伝いでもしようか?みたいな口調で声をかけた。

そんなアキトに、司狼は微苦笑を浮かべながら、左手をヒラヒラと振った。

 

 

「い〜や、結構だ。最初も言ったが、アキトがでばると俺の出番がない。

だから、パティと一緒に俺の缶詰でも食っててくれ」

 

「全部食べて良いの?」

「んな訳あるか!一人一個だ!」

「何よ、ケチねぇ」

「パティちゃん、さすがにそれは……」

「冗談よ冗談」

 

 

パティはそれだけ言うと、アキトの持つ司狼の買い物袋から缶詰をあさり始める。

 

 

「アキト、何が良い?」

「ん〜…桃にしようかな?」

「そう、じゃぁ、私も桃にしよっと」

 

 

などと、場違いな会話を交わすアキト達に、司狼は更に苦笑する。

ただし、司狼はアキトの注意が少しもこちらから外れてないことを感じていた。

 

(ありがとよ、おかげで余計な力も抜けたぜ)

 

司狼は態と場違いに声をかけたアキトに感謝しつつ、再び深雪を構え、

 

 

「さあ、どっからでもかかってきやがれ!!」

 

 

不適な笑みで、瑞穂と清十郎の二人を挑発した!!

 

 

(その2へ・・・)