「………紅月!」

 

 

突如現れた憎い仇にダガーを強く握りしめるリサ。ともすれば、その姿は歓喜しているように見える。

本人からすれば、ある意味そうなのかもしれないが…

 

だが、リサ以外―――――アキト達には最悪の展開だった。

 

 

「おいおい勘弁してくれよ…三つ巴の闘いってやつか? しかも一つが紅月なんてな……面倒ったらありゃしねぇ」

 

 

本気で面倒くさそうに顔を顰めながら愚痴る司狼。

三つ巴―――――公安、紅月、アキト達の三つなのだろう。

しれっと自分をアキト達に組み込んでいるあたり、ちゃっかりしている。(本人曰く、英断らしい)

 

しかし―――――アキトがそれを否定する。

 

 

「いや……最悪の”四つ巴”だ」

「なに―――――ああ、そう言う事ね」

 

 

司狼は質問しようとしたが、すぐに止めた。紅月とは別の、生々しい殺気を感じたからだ。

 

 

人狼ワーウルフが気がついたのか!? よりにもよってこんな時に!!」

「まぁ、強烈な目覚ましだからな。どんなヤツでも一発で目が覚めるぜ、紅月の殺気これならな」

 

 

アレフの言葉に、仕方がないさと云わんばかりに相づちを打つ司狼。

さも気楽に言っているような感じだが、放つ闘気は刀の如く研ぎ澄まされている。

 

 

「さて…アキトよ、一体どういう振り分けに「紅月!!」―――――っておい!」

 

 

とりあえずアキトに相談しようとした矢先、リサが紅月に向かって疾走する!

 

 

「チッ! あの馬鹿、前回の二の舞になるだけだぞ!」

「そうそう吹っ切れる事じゃないからな―――――むしろ、こうなると予想すべきだった」

 

 

前の時からリサも色々と考えていたとはいえ、そう簡単に割り切れるものではない。

いや、頭では割り切れていても、本人を前にして感情が理性を振りきってしまったのだろう。

 

 

「ガァァァッッ!!」

 

「こいつもか!」

 

 

目覚めた人狼ワーウルフは本能で危険を察知したのか、紅月に向かって襲いかかる!

さらに―――――

 

 

「大量虐殺犯、S級指名手配の紅月! それに人狼ワーウルフも揃えば失点を挽回できる!

幽鬼兵―――――あいつらを殲滅しなさい!」

 

 

パメラの命令に幽鬼兵がアキト達から紅月と人狼ワーウルフに標的を変え、襲いかかる!

 

 

「やばいっ! 司狼、リサさんを頼む。俺は人狼ワーウルフを!!」

「よっし、そうこなくっちゃな!」

 

 

ニッと口の端を歪める笑みを見せてリサ…その先にいる紅月に向かって走る司狼。

彼にとっても、これは前回の借りを返すまたとない絶好の機会チャンスなのだ。

 

 

「深雪、力を最小限に。紅月やつとは純粋にり合う」

リィィーーン……決して無茶をしないように

「わかっている、借りを返すだけだ!」

 

 

愛刀であり相棒、神刀『深雪』を強く握りしめ、紅月と闘っているリサに向かって走る!

 

 

「ハァァァァッッ!!」

 

 

二本の陶器のような白いダガーを手に、紅月に攻撃を繰り出すリサ!

その攻撃は半年前と比べて段違いに多彩で速い。

上かと思えば下、下かと思えば左右からの挟撃。

虚実を見事に使った見事な戦闘術―――――いや、”暗殺術”だ。

たとえ相手が一流の戦士でも、まともに正面からぶつかれば気づかぬ間に頸動脈を斬り裂かれているだろう。

 

そこまで己を高みに押し上げる為に、凄まじい努力と修練を積み重ねたのだろう。

 

―――――だが、

 

 

「クソッ! 当たれ、当たれ、当たれぇっ!!」

 

 

その努力を嘲笑うかの如く、リサの攻撃は紅月の服にすら掠りもしない!

 

(あたしはこんなにも弱いのか!? 弟の敵もとれずに…憎い仇が目の前にいるのに!!)

 

悔しさに強く歯を食いしばり、瞳に強く、暗い光を灯す。

 

 

「あたしの命をくれてやる。その代わり、あんたの存在イノチをもらう!! シルフィード・フェザー!!

 

 

リサは自分に精霊魔法を施した直後、左手のダガーを紅月の眉間に向かって投げる!

だが、そのダガーは紅月の刀の間合いに入った途端、甲高い音と共に粉々に砕け散ってしまう。

目にも止まらぬ剣速でダガーを打ち砕いたのだ。

 

それこそがリサの狙い。ナイフの投擲により注意をそらし、一瞬の隙を無理矢理に作り出したのだ。

その一瞬で紅月の後ろに回り込むことに成功したリサは、残ったダガーの先を心臓のある位置に当てる。

 

完全に有利な状況だが、リサは次の瞬間には殺されることを理解していた。

顔を横に向け、こちらを見ている死を感じさせる紅い瞳を見て―――――

 

(一緒に地獄に行こうじゃないか―――――紅月!)

 

紅月を貫こうと、ダガーを持つ手に力を篭め―――――ようとした瞬間、

飛び掛かった司狼に押し倒されるようにその場から転がる!

 

 

「何を「この馬鹿野郎がッ! チッとは冷静に状況を理解しやがれ!!」―――――!?」

 

 

司狼に怒鳴られて少しは冷静を取り戻したリサは、その時になってやっと気がついた。

先程、自分が居た場所よりも後方に幽鬼兵が斬馬刀を振り上げた状態でいることを。

そして、その幽鬼兵が音もなく縦に真っ二つに裂け、左右に分かれて倒れる様を―――――

 

もし、あのまま自分があそこにいれば、幽鬼兵もろとも縦に斬り裂かれていただろう。

振り返りもせず、一歩前にでて間合いを空けた紅月によって。ナイフを突き刺すよりも早く!!

 

 

「下がっていろ。あんたが敵う相手じゃない」

 

 

紅月に向かって刀を構える司狼。紅月も司狼に向かって刀の切っ先を向ける。

そして、司狼の視界のはしには真っ二つにされた幽鬼兵が再生して立ち上がっているのが見えた。

 

(紅月の攻撃でも再生するのか?)

 

紅月の刀…妖刀に斬られた者は、その邪気によって傷口が塞がることはない。

それなのに、幽鬼兵は平然と再生し、再び立ち上がったのだ。

 

(木偶の坊と紅月を同時に相手かよ…面倒だな)

 

 

チラッとアキト達の方に目を向けると、アキトは人狼ワーウルフの相手を、アレフ達は残る二体の幽鬼兵の相手をしていた。

こちらに戦力を回す余裕はないだろう。むしろ、これ以上こちらに来させてもらっては困る。

 

 

『司狼、あの人形を先に破壊してから紅月を相手にすることを薦めますが?』

「そうだな。それが一番賢いやり方か……やるぞ、深雪」

『はい!』

 

 

深雪が力を解放し、司狼の刀が極寒の霊気を纏い、周囲の大気の温度を急激に下げる。

氷結の女神たる深雪の力―――――その一部が顕現したのだ。

 

 

 

「力ある存在を秘めし剣…貴様、神代の者か」

 

 

自分を強く見据える紅月の言葉に、司狼は訝しげな視線を返す。

以前、紅月は司狼のことを『神代の者』と言ったのだ。

それなのに、今また初めて相対し、認識したようなその言葉…

 

 

「お前、まさか記憶が……前に闘ったことを忘れたのか!?」

 

「否…我は今まで闘った者のことを全て覚えている。

それが此度こたびで命を散らせた戦士達への弔い…礼儀だ」

 

 

そう言う紅月の目には嘘をついてる感じはない。

だが、その瞳に写るのは、数十年前…激戦時代の大戦の風景なのだろう。

 

彼は…紅月は『彷徨う霊』となる以前の時を未だに生きているのだ。それはなにより悲しく…虚しい。

紅月は、自分達のような戦士が命をかけて創り上げた『平和な時代』を知らずに彷徨っているのだ。

 

 

「リサ、アキト…お前達には悪いが、紅月はこの場で俺が眠らせる」

 

 

静かに刀を構える司狼。深雪も司狼の意思に賛同し、その力を遺憾なく発揮する!

 

 

「止めろ! あいつはあたしの手で―――――」

 

「無理だ。どこで手に入れたかは知らんが、その程度の武器じゃ話にもならない。

さっきも、俺がお前を突き飛ばさなきゃただの犬死にだった。紅月の存在を甘く見るな」

 

「クッ―――――」

 

 

白いダガーを握りしめるリサ。

そのダガーには魔力が秘められてはいるが、その力は紅月を滅ぼせるほどではない。

そもそも、憎しみを抱いているリサが側にいる限り、紅月は生半可なことでは滅びはしない。

 

だが、司狼と深雪には―――――可能だ。

 

 

「邪魔だ、木偶デク人形」

 

 

自分の横を通り過ぎ、紅月に向かおうとする幽鬼兵をすれ違い様に真っ二つに断つ!

上下の二つに別れた幽鬼兵は一瞬で真っ白に凍りつき―――――

 

 

「儚く消えろ―――――封神剣・霧氷月華」

 

 

その直後、二つの氷塊が微細なまでの欠片まで粉微塵に砕け散った!

微細に砕け散った氷の破片が月の光をキラキラと反射し、幻想的な風景を作り上げる。

ただし、『赤い月』故に赤い光の舞う、普通とは逆の意味での幻想だが…

 

 

キラキラと氷片が舞う中、司狼は刀身の冷気を集束させて正眼の構えをとる。

 

 

「相羽流 封神剣―――――相羽 司狼。そして…『相棒の深雪です』」

「我が名は紅月…月影心眼流の使い手なり」

 

「「いざ、尋常に勝負ッ!!」」

 

 

二人は数メートルもの間合いを一足でつめると激しく斬り合う!

入れ替わり立ち替わり、場所を縦横無尽に移動しながら相手を殺すべく必殺の一撃を繰り出す。

 

(クソッ―――――この前よりも強いだと!?)

 

以前は武器が自分の力や技に耐えられないため、全力を出せずに敗北した。

しかし、今回は神刀・『深雪』愛刀を所持し、百パーセントの実力を出しているのに関わらず、

司狼は決定打どころか掠り傷一つつけられない現状に驚愕していた。

 

 

(以前の紅月なら、互角以上の闘いに持ち込めると思ったのに)

〈焦らないで、司狼。動揺すればするだけ不利になるわ〉

(解っている―――――解っているんだが…クソッ!)

 

 

焦りと共に繰り出された斬撃をいとも容易く片手で受け止める紅月。

そしてそのまま―――――

 

「……ヌンッ!」

「なっ―――――」

 

空いている右手で司狼を殴り飛ばす。その先には木が―――――

 

「っの…野郎!!」

 

後方に殴り飛ばされた司狼は空中で体勢を整えると、そのまま迫り来る木に着地し、

そのまま下りることなく蹴り、再び紅月に飛び掛かる!

 

 

「おぉぉぉっっ―――――相羽流 封神剣ッ!」

 

 

刀を大上段に構え、紅月に迫る司狼。

その刀身には目に見えて凄まじい冷気を纏っている!

 

司狼のスピード、タイミングから回避不可能だと判断した紅月は刀を持ち上げ、その一撃を受け止め―――――

 

 

「なんてなっ!」

 

 

と言い、刀を振りかぶった体勢のまま蹴りをかまし、今度は紅月を蹴り飛ばす司狼。

しかし紅月は地面の上を滑るだけで、体勢をさほど崩さないまま止まる。

 

さすがは歴戦の戦士と云ったところか、決定的な隙はまったく作らせない。

 

 

「味な真似を……」

「それはこっちの台詞だ!」

 

 

再び激しく斬り合い―――――否、戦闘を開始する二人!

 

刀だけではなく拳は足まで使い、ただ勝つためだけに闘う二人。

騎士のような清々しい試合のような闘いではない。

獣のような相手の命を奪い、是が非にでも生き残る『死合しあい』という名の闘争だ。

 

 

『司狼、このままでは不利です』

「解っている…奴を見たらなありありとな」

 

 

一旦間合いを空けた時、深雪は軽く息切れを起こしている司狼に助言する。

司狼も深雪の言いたいことを理解していたのか、紅月を見ながら相づちを打つ。

 

肉体の束縛から解き放たれた幽霊ゴーストには”疲労”と云う概念はない。

故に、いくら闘おうとも、紅月は疲れることもなく、疲労から剣が鈍ることはない。

 

闘えば闘うほど、生きている司狼は不利になると云うことだ。

 

 

「こういったヤツとの闘いのセオリーを忘れていたよ……」

 

 

疲れを知らない悪霊ゴーストや邪霊と闘う場合の鉄則。

それは自分の体力を無駄に消費せず、隙をつき、一撃必殺をもって相手を倒す。

 

 

(紅月を倒せるほどの一撃と云えば…これしかねぇよな)

 

 

司狼は凍気を纏う刀を納刀する。そして、左足を後ろに引き、身体の重心を下げる。

 

 

「抜刀術の構え……初撃に全てを賭けるか」

「”最強の刀使いブレード・マスター”紅月…悲しみも憎しみも、この一撃で断つ。この街がお前の終着点だ」

 

 

言葉から感じる気迫とは裏腹に、司狼の身体から気配と闘気が急速に小さくなり……消える。

それは、司狼の最強の抜刀術―――――その発動体勢だ。

 

 

「行くぞ―――――」

「我の邪魔をするならば…斬る!」

 

 

司狼と紅月が同時に重心を下げ、大地を強く蹴る―――――直前!

 

 

「フム、どうやら少々遅れてしまったようだね」

 

 

この場にそぐわないほど落ち着いた、渋い男の声がその場に響き、二人は動きを止めた。

 

 

 


 

 

時は遡り―――――司狼が紅月に向かった直後。

アキトは紅月に向かって駆けている人狼ワーウルフに向かって走る!

 

その際に、

 

 

「みんなは幽鬼兵あれの相手を頼む!」

 

 

とだけ告げた。

それを聞いた皆は目配せをして頷くと、場所的に近い幽鬼兵二体に向かって駆けた。

本来ならもう一体も相手にしたいところだが、紅月を挟んで反対位置にいるためどうにもならない。

 

 

「アレフ様、あちらの一体はどうなさいます?」

 

「あれはほっといても良いだろ。リサには司狼がついている。

彼奴は強いからな、一体ぐらいは大丈夫だろ。紅月もう一人は元から心配する必要はないからな。

それよりも、自分達の心配をした方がいいぞ!」

 

 

突如、その場から左右に跳び退くアレフとクレア。その二人の居た場所を二条の魔力弾が貫く!

幽鬼兵が立ち塞がるアレフ達を邪魔をする者として認識、排除にかかったのだ。

 

 

「アレフ君どうする? 幽鬼兵あれには私達の攻撃が効かないし……」

「魔法もだよ。効かないって云うよりは吸い込まれたって感じだけど…」

 

 

シーラとマリアが困ったように問う。シーラの打撃もマリアの魔法も効果がないからだ。

特にマリアが問題だ。シーラの打撃は幽鬼兵を吹き飛ばせるが、マリアの魔法は完全に無効化されている。

それどころか、まるでカウンターのように、魔法を無効化した直後に左腕の砲門から魔力弾を撃ち出すほどだ。

 

 

「倒す方法を考えるのは後回しだ。今は幽鬼兵こいつらがアキト達の邪魔をしないように足止めする」

「ねぇ! マリアはどうするのよ、魔法は効かないんだよ!」

 

「それでしたら、マリア様はみんなのサポートをお願いします。

対象がわたくしたちの場合は無効化されないようですから」

 

「……うん、わかった」

 

 

一瞬だけつまらなさそうな顔をしたマリアだが、すぐに憤然とやる気を見せるとすぐに魔法の詠唱を始める。

 

マリアのやることはかなりある。アレフ達への精霊魔法、魔力弾に対する結界等の防護魔法。

通常時ならクリスやシェリルがいるため役割分担できるが、今回は一人だけなのでやることは多い。

それに気がついたのだろう。

 

 

「良し! みんなしくじるな「アレフ様! 後ろ!!」―――――ッ!?」

 

 

クレアの声に後ろを振り向くと、そこには斬馬刀を振り上げた幽鬼兵の姿があった!

 

 

「くそったれ!!」

 

 

自分の迂闊さを呪いながら、アレフはその場から飛びのこうとした矢先、

 

ドゴッ!!

 

重い打撃音と共に幽鬼兵が横てに向かって吹き飛ばされた!

 

 

「仲間の身を心配するのなら、少なくとも自分の身を守れるほど強くなるんだな。アレフ」

 

 

そう言いながら幽鬼兵の背後にいた人物…アルベルトがハルバートを構え直す。

今のは、アルベルトが幽鬼兵をハルバートで薙ぎ払った…いや、弾き飛ばしたのだろう。

 

 

「うるせぇ、大きなお世話だ。そもそも一体何のつもりだよ」

 

「俺は自警団員だからな。街の住民を守る義務がある。それだけだ。

それよりも早く構えろ。お喋りしている暇はないようだぞ」

 

「わかってるよ」

 

立ち上がる幽鬼兵を見ながらアレフが”朱雀”を構える。

 

 

「恥かかせてくれた礼はちゃんとしないとなっ!」

 

 

幽鬼兵に向かって”朱雀”を振るい、炎の波を放つアレフ。

炎の波は幽鬼兵に襲いかかるが、鎧の表面を灼くだけであっさりと消え去る―――――その直後!

波のすぐ後に迫ったアレフが”朱雀”を振るい、幽鬼兵の四肢を断つ!

 

 

「これで―――――どうだっ!!」

 

 

トドメと云わんばかりに幽鬼兵を唐竹割りに左右真っ二つにする!

合計六つのパーツとなる幽鬼兵。そのパーツも刀に秘めた炎の熱で未だに焼かれている状態にある。

 

普通ならここまでやれば片がついたと思うだろう。

しかし…炎に焼かれながらも元に戻り始めたパーツを見て、その考えはあっさりと霧散した。

 

 

「おいおい、ここまでやって壊れねぇのか? 非常識にも程ってもんがあるぞ」

「同感だ。いくら不死身でもここまで無節操だと驚くよりも呆れるな」

 

 

アレフとアルベルトが顔を引きつらせながら、ほとんど元に戻った幽鬼兵に向かって再び構えをとる。

 

 

「こちらも同じですわ。何をやっても効果がありません」

「斬っても壊しても、すぐに元に戻ってしまうわ」

 

もう一体を相手にしていたクレアとシーラが背中合わせになるように立つ。

 

 

「多少斬ってもダメ、壊してもダメ…となると、粉々にするしかないか」

 

「そうは言うがな、アレフ。どうやって粉々にするんだ? 魔法も効かないのに……

そもそも、非常識な再生速度だ。破壊するやるなら一瞬でやらないといけないんだぞ?」

 

「んな事言っても仕方がねぇだろうが。それ以外に俺達には手段がねぇんだからよ」

 

 

幽鬼兵を強い意志を秘めた目で睨むアレフ。

アキトの頼むと言われた以上、無様な真似をしたくないのだろう。

無論、それはアレフだけではない、シーラ達もだ。

 

 

「まったく…それで、一体どうやるつもりだ?」

 

 

再び襲いかかってきた幽鬼兵をあしらいながら、アルベルトはアレフに問いかける。

 

 

「とりあえず、すっごい攻撃で幽鬼兵それをぶっ壊す」

「だから、どうやってだって訊いてる―――――うわっ、あぶねぇ!」

 

 

かなり近距離で撃たれた魔力弾を紙一重でかわしながら、そのまま攻撃に転じるアルベルト。

ハルバートの斧の部分で幽鬼兵の首をとばすが、落ちた頭部がひとりでに浮かび、すぐに元に戻る。

 

幽鬼兵の速さが大した事無いため、未だに無傷なのだが、それが長時間続けばその限りではない。

 

 

「まったく。隊長なら奥義ファイナル・ストライクの一発で粉々にするんだろうが…」

「んな事俺達ができるわけねぇだろ。俺達は普通の人間だ」

「わかってる。俺だってできないんだからな。それで、本当にどうやって破壊するつもりだ」

 

「とりあえず、俺が考えつくのはただ一つ。

この神刀”朱雀”の力を限界まで溜めて、そのエネルギーで一気に破壊する」

 

「そんなことができるのか?」

 

「知らん。やったこともないし、できるかもわからん。できてもそれで破壊できるとはかぎらねぇし。

魔法が効くんだったら、マリアの最上級物理魔法ヴァニシング・ノヴァに頼るんだけどな。どうにも無理っぽいし……」

 

 

アレフがマリアの方に目を向けると、そこには魔法を放つマリアの姿が見える。

 

 

「え〜い☆ ル〜ンバレット!」

 

 

マリアが攻撃魔法ルーン・バレットを放つが、幽鬼兵はソレを無効化し、逆に魔力弾を撃つ。

その後もマリアが種類を変えて魔法を放つが、そのどれも同じように対処される。

 

 

「おいマリア! 無駄なことやってないでちゃんとサポートしろ!」

 

「ぶ〜☆ マリア無駄なことなんてやってないもん!!

アレフ達があーだこーだと言ってる間に、マリアはすっごいことに気がついたんだもんね〜!」

 

「気づいたって…何をだよ」

 

「へへ〜ん! あいつらってね、魔力が動力源なんだよ。

だから、魔法は効かないんじゃなくて、魔力を吸収して弾として撃ち出してるのよ」

 

「なるほど…そう言われてみれば、月が紅くなってからの方が動きが速いですわね」

 

 

幽鬼兵を相手にしながらでもマリアの推測を聞いていたクレアが、納得したように相づちをうつ。

月が紅く染まるのは、大気中の魔力マナの密度が一定以上に高まったときに起こる現象。

魔力マナを動力源にしているのであれば、月が紅く染まった後から動きが速くなることも納得できる。

 

 

「だから、魔法は無効化・吸収できても神通力である白虎や朱雀の力は吸収できなかったのですね」

 

「なるほど…それじゃ、魔力を無くせばあいつらは動けないし、再生できないと云うわけか……

マリア、それは一時的でもいいからできるか?」

 

「う〜ん……たぶん。やったこと無いけど、たぶんできると思う」

 

「頼りない言葉だけど…頼むぞ。それが勝負のキーだからな。

済まないが、シーラとアルベルトは幽鬼兵の動きを止めてくれ。

そしてマリアが奴等の魔力を枯渇させたら、俺とクレアがどでかい一発をかまして破壊する」

 

「わかった」

「わかりましたわ」

 

マリアとクレアが了解したと頷く。

 

「特に、シーラとアルベルトには負担をかけちまう…済まないが頼む」

 

「任せて。なんとか時間を稼ぐわ」

「お前に任せるなんて不安で仕方がないが…危ない橋を渡るのが自警団の務めだからな。

しっかりとやってやる代わりに、しくじるなよ、アレフ」

 

 

シーラとアルベルトは幽鬼兵の動きを止めると共に、

マリアの魔法の完成、及びアレフとクレアの神刀の力の蓄積時間を稼ぐ意味合いもある。

だからこそ、アレフは二人に謝ったのだが、二人ともそれを理解し、力強く引き受けた。

 

 

「行くぞ!」

「はい!」

 

アルベルトとシーラはそれぞれ幽鬼兵に向かって攻撃を仕掛ける。

 

幽鬼兵の攻撃力は確かに凄い。

その右手が操る斬馬刀は地面を穿ち、左腕の砲口から放たれる魔力弾は、人など容易に貫く。

だが、凄まじい攻撃力を維持するためか、その動きはさほど速くはない。

そしてもう一つ、幽鬼兵は再生時、復元を優先させているのかその動きは止まってしまう。

そこに、シーラとアルベルトは目を付け、息を吐かせぬ程の連撃を繰り出す!

 

 

「オオォォォッ!!!」

 

 

まるで暴風とも錯覚しそうなほどの連続攻撃を幽鬼兵に繰り出すアルベルト!

時間稼ぎは約一分近く。その間、余力も全て出し尽くすつもりなのだろう。

攻撃を繰り出すたびに速くなり、既に暴風から小さな嵐―――――

ハルバードの攻撃範囲内を容赦なく打ち砕く、破壊の嵐となる!

 

その圧倒的な攻撃に幽鬼兵の再生が追い付かず、動きが完全に止まってしまう!

 

 

もう一つの方―――――シーラが担当する幽鬼兵もほぼ同じ。

ただし、こちらの方は―――――

 

 

「ハァァァッ!!」

 

 

ガガガガガガガガッ!!

 

 

目にも止まらぬ速さの乱打!

 

シーラの氣に反応し、雷光を纏う手甲と足甲オリハルコンの武具が描く軌跡が空間を金に染めるほど速い!

余りの速さに打撃音も途切れることなく、その音もまるで空間を削っているかのような錯覚を受ける!

 

 

(体が軽い―――――この武具のおかげ?)

 

 

今までにないほどの身の軽さを感じるシーラ。

オリハルコンの武具が氣に反応し、自重を軽減―――――果てはシーラの体すら軽くしているのだ。

だが、攻撃魔で軽くなってはいない。纏う雷光が損なわれる威力を補って余りあるからだ。

 

ッ―――――砕ッ!!」

 

 

神速の乱打の後、幽鬼兵を蹴り上げたシーラは淀みない動作で全力の蹴りを放つ。

その一撃はまるで槍の如く、一際大きな打撃音の後、幽鬼兵の胴体に大きな風穴が空く!

 

シーラが学んだ格闘術の技の一つ『天槍』

天を貫く槍の如く―――――と云う名の通り、貫通力は技の中でダントツ。

過去、目薬茸を採りに行った際に岩の怪物モンスターに対して使ったのだが、その時とは威力が比ではない。

武具の力もあるのだろうが、シーラ自身の実力レベルが大幅に上がった為だ。

 

 

「シーラ、よくやった!」

 

 

風穴が空いて動きが止まった幽鬼兵に、飛んで来たもう一体の幽鬼兵が衝突する。

そして、その幽鬼兵が飛んできた方向からアルベルトがハルバードを構えながら突進してくる!

 

 

「行くぞ。複合奥義―――――ジ・エンド・オブ・バーストォッ!!

 

 

『連撃』と『ジ・エンド・オブ・スレッド』の複合技が幽鬼兵二体をバラバラに破壊する!

 

その威力、速さ共に大武闘会の時よりも洗練されているようだ。

アルベルトもまた、その技を自分のものとするべく相当な努力を積み重ねたらしい。

 

 

「まだか!」

「怒鳴らなくてもできたよ! いっくよ☆ 魔力をうち消せ デストラクト・マインド!

 

 

魔力とは逆の負のエネルギーが幽鬼兵の魔力マナと相殺、減衰させる。

その為、幽鬼兵の再生は目に見えて遅くなり―――――止まった!

 

これが一時的にしろ、最大級のチャンスには代わりはない!

 

 

「アレフ、クレア!」

「おうっ!」

「後はお任せください!」

 

 

刀身を紅く染め、さらには紅蓮の炎を纏った神刀”朱雀”を振りかぶったアレフが―――――

刀身を白く染め、その周囲の一定空間を超重力で歪ませる神刀”白虎”を構えたクレアが―――――

 

壊れた人形の如き姿となった幽鬼兵に向かって疾走する。

 

 

「轟け、炎の咆哮! フレイム・ハウル!!

「全てを滅ぼす重力の牙―――――白虎滅界!!

 

 

超重力の嵐が幽鬼兵の身体を空間もろとも歪ませ、粉々に砕く―――――いや、破壊する!

その粉々となった破片は、その重力空間を駆け巡る紅蓮の炎が塵すらも残さず焼滅させた!

 

 

存在という痕跡すら残さず消え去る幽鬼兵。

残ったのは、最後の技の余波によってできたクレーターのみだ。

 

 

「やっと終わった…ドラゴン以来だぜ、こんなに疲れる戦闘はよ……」

 

 

がっくりと項垂れ、身体全体で疲れたという意思表示をするアレフ。

皆も言葉には出さないが、無限に再生する相手に精神的な疲労は隠せないようだ。

 

 

「ところでクレア。最後のアレは何だ? 全てを云々ってヤツは」

「それを言ったらアレフ様こそ。わたくしはアキト様を真似ただけですので」

「俺も同じ。なにより技のイメージも固まりやすいしな」

「そうですわね」

 

 

なにも、技の名を口にするのは”恰好良いから”等という理由だけではない。

技の名を口にすることにより、技自体のイメージを強固にし、技の手順を即座に行えるようにしているからだ。

 

アキトを真似したと言うが、そのアキトにその事を強要したのがある少女だと…

それも、アニメの影響を受け手だと云うことを知れば、一体どんな顔をするのやら……

 

 

 

「即興で考えてやった割には結構様になっていたな…無茶苦茶疲れたけど…

って、んな事言ってる暇はないよな。さて、さっさと加勢に行かなくちゃな」

 

 

再び刀を持ち上げるアレフ。

 

と、その時―――――

 

 

 

「フム…少々遅れてしまったようだね」

 

 

 

壮年らしき男の声がその場に響き渡った。

さほど大きな声というわけではないが、不思議と皆の耳に入り、その動きを止める。

よく見れば、人狼ワーウルフすらも、その場に現れた三人を見て動きを止めている。

 

あれ程殺気立っていたのに、まるでそれが嘘のように呆然とした様子で………

 

 

「遅かったですね、リカルドさん」

 

 

人狼ワーウルフから間合いを空けたアキトが現れた三人のうちの一人…リカルドに声をかける。

 

 

「済まなかった。私なりに手をうっていたら少々時間がかかってしまってね」

「そうですか」

 

「んな事よりおっさん、なんでその二人がここにいるんだよ!」

 

 

慌てた様子でリカルドの後ろにいる二人の人物―――――アリサとトーヤを指差す。

幽鬼兵は倒したとはいえ、紅月と人狼ワーウルフが居るのだ。この場は危険極まりない。

 

だが、アレフの指摘にリカルドはさして気にした様子を見せない。

 

 

「必要だからだよ。この二人がね……」

「それじゃぁ、判ったんですか?」

「ああ。王都まで出向き、遅刻までした甲斐は十二分にあった」

 

 

そういうと、リカルドは横に避け、後ろにいたアリサが前にでた。

アリサの向かう先にはアキトが…そして人狼ワーウルフが居る。

 

 

「おいおっさん!」

「アリサ様、危険です!」

 

「大丈夫だ。君達は静かに見守っていてくれ」

 

 

アリサを止めようとするアレフやクレア達を制止しつつ、アキトに目配せをするリカルド。

そのリカルドの意志を理解したのか、アキトは小さく頷くとアリサの進行を邪魔しないように端に避ける。

 

ちなみに、一番騒ぐとはずのアルベルトは、問答無用で”い”の一番にアリサを止めようとしたのだが、

それを予期したリカルドの強い眼光に動きを止められていた。

 

 

「………」

 

 

辺りに沈黙が満ちる中、アリサは慈愛の微笑を浮かべつつ、一歩一歩人狼ワーウルフに近づく。

そして……すぐに、二人の距離が手を伸ばせば触れるほどとなった。

 

しかし、人狼ワーウルフはアリサをじっと見つめるのみ…

その瞳に害意は全く無い。むしろその逆だ。先程まで血走っていた瞳に、驚くほど穏やかな光が宿っている。

 

 

「もう大丈夫よ。安心して、もうあなたのことを虐める人はいないわ」

 

 

さらに一歩踏みだし三回りは大きい人狼ワーウルフを精一杯抱きしめるアリサ。

そんなアリサに人狼ワーウルフは顔を近づけて匂いを嗅いだ後、力が抜けたように地面に座った。

 

それでも人狼ワーウルフの頭はアリサの胸辺りの高さまであるが、

アリサは人狼ワーウルフの頭をかかえるように抱きしめると、あやすように頭を撫でる。

 

そして、静かに語りかける。

 

 

「思い出して…自分のことを…友達のことを。そして私のことを。

みんながあなたを待っているわ。優しく、元気で明るいあなたのことを……ピート君」

 

 

『―――――ッ!?!』

 

 

アリサの言葉に、公安とアルベルト、そして司狼が驚きに目を大きく広げる。

それと同時に、司狼とアルベルトはなぜアキトが必死になって人狼ワーウルフを守ろうとしていたのか、

その理由をこれ以上なく理解した。

 

 

「た、隊長。一体どう言うことなんですか!? あれがピートなんて……」

 

「信じられないのも理解できる。私も、アキト君から聞いていたとはいえ完全に信じられなかったのだが……

今のあれを見れば信じるしかないだろう。あれは…人狼ワーウルフはピート君だ。

いや、正確にはピート君が人狼ワーウルフ族の数少ない生き残りなのだ」

 

「そんな…確かに否定はできませんけど………」

 

 

ピートに両親はいない…孤児なのだ。

サーカスの一団と共にこの街に訪れ、そのサーカスがこの街に居着いたため街の住民となったのだ。

故に、彼の素性は不明…生まれも、故郷も、誕生日すらも正確には誰も知らない。

今の年齢、誕生日は、サーカスに拾われたときに便宜上付けられただけのもの。

 

街の住民のほとんどはその事を知っている。だが、誰も彼を避けたり、蔑ろにすることはなかった。

それもひとえに、ピートの持つ前向きな明るさと元気の良さがあったからだ。

 

確かに、言われてみればおかしな点は幾つもあった。

月齢に左右される体調、小柄な身体に不釣り合いな頑丈さと怪力。

しかし、その程度のことは、ピートの人柄の前にはちょっと変わった体質程度に感じられたのだ。

そこまで知ってんのなら気づけよ! と云う意見は禁止だ。

 

 

「それで…おっさん、あれでピートは元に戻れるのか?」

 

 

アルベルトに続いてリカルドとトーヤに近寄ったアレフが皆を代表して質問する。

その質問に、リカルドに代わってトーヤが返事をする。

 

 

「ああ。調べたところ、人狼ワーウルフ族は満月の夜に儀式を…獣化した子供の自意識に呼びかけ、覚醒を促すらしい。

儀式の詳しい内容は人狼ワーウルフ族がほぼ全滅したため失伝した。

……が、唯一その呼びかけるのが肉親、主に親の役目だということがわかったのだ」

 

「それで、親の代わりにアリサさん…というわけか。

間違っちゃいねぇよな、ピートにとってアリサさんは母親も同然なんだし。

それはそれで良いとして、満月の度にこんな事をやらなきゃいけないのか?」

 

「いや。人狼ワーウルフの状態で一度でも自意識を取り戻せば二度と理性を失うことはない」

 

 

そう言うとトーヤはアリサに抱きしめられているピートを見る。

云うなれば、この儀式はある意味ピートとアリサが親子の絆を結ぶ儀式ともいえなくもない。

 

 

「世間一般に伝わっている人狼ワーウルフの印象は、理性を取り戻せずに暴走してしまった者の成れの果てだ。

それを、とある国が大々的に公表し、それが全ての人狼ワーウルフだという印象を植え付けたのだ」

 

 

苦々しい表情で吐き捨てるように言うトーヤ。隣のリカルドも少々顔を顰めている。

ちなみに、その暴走した人狼ワーウルフのほとんどは、同族の手によって始末されている。

人に害なすと言っても、それは本当に百年に数回ある程度なのだ。

 

 

「なぜその様なことを……」

 

「戦争時、その国が人狼ワーウルフの強さに目を付け、洗脳などを施そうとしたからだ。

だが、逆に人狼ワーウルフの怒りに触れてしまった。人狼ワーウルフの逆襲を恐れた国王は、諸国に人狼ワーウルフは危険だと公表した。

先程ドクター・トーヤの言った『事実』と云う下地があったため、それは瞬く間に人々の常識となってしまった。

そして…その国が人狼ワーウルフに襲われ滅んだことにより、人間の危機意識は最高潮に達してしまい…」

 

 

淡々と…辛そうな顔を隠しつつ、クレアの質問に答えるリカルド。

 

それでも、一番の要因…深い闇の部分は上手く暈かしていた。

その国が人狼の子供をさらい、解剖など非道な実験を数多く行っていたことを……

そして、その国を直接(意味合いではなく地上から)消したのが、それを知ったリカルドであることを。

 

リカルドは意図的にではなかったにしろ、人狼ワーウルフが滅ぶ引き金を引いてしまったのだ。

だからこそ、リカルドはトリーシャの事大切な用事をおいてでも、人狼ワーウルフの事を優先させたのだ。

 

 

「それよりも、気を抜くんじゃない。まだ紅月と…公安がいる」

 

 

話を聞いて悲壮感を漂わせる皆に、リカルドは注意を促す。

リカルドの言うとおり、この場には疲れ知らずの”最強の刀使いブレード・マスター”紅月と、公安がいるのだ。

今のところ、紅月はなぜか沈黙したままアリサと人狼ワーウルフを見つめ、

公安は隠し球とっておきの幽鬼兵を倒され、さらにいきなりの展開についてゆけず、呆然としていた。

 

双方とも、何時動き出すか解らない。

紅月はもちろん、公安は人狼ワーウルフが危険だと云う『金看板』を掲げて攻撃しかねない。

 

前者はともかく…後者については手をうってあるのだが…思ったよりも時間がかかっているようだ。

 

そんなリカルドの内心の焦りをよそに、人狼ワーウルフの瞳に理性の光が灯る。

その光は、アリサの呼びかけるたびに、徐々に徐々に強くなって行く。

 

そして―――――

 

 

「お、おばちゃん……おれ………」

 

 

人狼ワーウルフの口から言葉が…ピートの声で言葉を紡ぐ。

ごつい見た目と少年の声音ピートの声はアンバランスだが、その口調は間違いなくピートだった。

 

 

 

 

 

―――――その3へ―――――