機動戦艦ナデシコ  OVERTURN The prince of darkness

第十話『真剣勝負は卓上で!』












 いやがったな、オレの今の目標が。

 俺の目の前にはロングコートを丸めて傍に置き、喫煙所の長椅子に横たわりながら煙草を咥えているシバヤマを見つけた。

 そう、俺はコイツにどうしても聞きたいことがある。


「なんか、用ですか?」


 向こうも明らかに意識したような言葉だった。

 無理も無いだろうな、さっき俺たちの目の前でルリルリとケンカしやがったからな。

 まぁ、それがなかったにしろ俺はシバヤマに聞かなきゃならねぇ事がある!


「アンタ、今ヒマかぃ?」

「ヒマですよ」

「んじゃ、俺の質問に答えてくれるよな?」

「………どうぞ」


 そういって、シバヤマは目を閉じながら深く煙草を吸い込んだ。

 俺も決意を固めて、口を開いた。







「おまえ、、、首のキスマークはカツミちゃんの仕業かぁ?」



「!?? ゲホッゲホッッッ!!!」



 あ、煙が吸い込んではいけないところに入ったらしいな。

 あの『The prince of darkness』が椅子の上で横向きになって涙目で小刻みに震えている。



 コイツ……………プライベートではおもしれぇな。



 少し回復したシバヤマは頭を上げて俺を睨んだ。


「あのさ、それが聞きたいことなのか?」

「おうよ!」


 俺が胸を張って認めると、起き上がったシバヤマはガックリと項垂れた。


「なんだ、にぃちゃん。さっきは堂々としてたくせにこの手の会話は苦手か?」


 両手を腰に当てて高らかと笑いながら、煙草を灰皿に捨てるシバヤマを見た。


「いや、こんな話をするような友人がいない身の上なんですよ」


 少し照れながらシバヤマは頭を掻いた。


「だろうな。あんたはどうも人付き合いってのが苦手そうだからな。

 見た感じは結構修羅場を潜り抜けてきたんだろうけど、どうも情操教育が欠けてるみたいだしな」


 ちょっとキツイ事を言っていると自覚しながらも、俺はシバヤマに言葉をぶつけた。

 しかし、シバヤマは特に反論もせずにそれを受け止めた。

 なかなか、素直なやつじゃねぇか。




「なぁ、アンタはなんでルリルリを焚きつけるようなことをいったんだ?」

「………さぁね」



 そういってシバヤマは立ち上がりコートを手にした。



「さてウリバタケさん、おたくも今からヒマかい?」

「あん? まぁ、しばらくしたらナデシコのほうにも戻らねぇといけねぇけど、、、どうしてだ?」

「カツミがいないんで、ちょっと一人じゃ不安なんでね。一緒に来てもらえませんか?」

「おいおい、なにしようってんだ?」



「会いたくないですか? ラピス=ラズリに、、、、、、、、、、」
























「………いわれちゃったね」

「ああ、そうだな」



 再び宇宙を彷徨っているユーチャリスの中でわたしたちはシバヤマさんの言葉を思い出していました。



『無駄な感情なんて持ち込むな。奴等を追い込むためには、そしてナデシコがナデシコである為にはこの時代のおたくらが必要なのはわかっているはずだ。そっちの気持ちもわかる、だが現実の前に理想は夢でしかない。覚悟を決めろ、テンカワ』


「ったく、好き放題言いやがって」



 でも言葉とは裏腹に、アキトはスッキリした表情をしている。

 そして、わたしも、、、、、





「ねぇアキト。わたしね、甘いって言われてもこの時代のわたし達を巻き込みたくなかったんだ」

「俺だってそうさ」

「でも、それってやっぱり甘いのかな?」




 今、わたし達は談話室にいる。

 そして、正座して座っているわたしの膝の上にアキトの頭が乗っかっている。

 そのアキトの髪を撫でながら、ポツリとわたしは言葉を零した。




「でも、俺はなんかムカツクな」

「なにが?」

「たしかにあいつが言っている事は正しいけど、その通り動くってのは癪じゃないか?」




 でも、アキトは笑みを浮かべながらそう言った。

 そっか。アキトも覚悟を決めたんだね。

 それだったら、ユリカも同じ気持ちだよ。






「ねぇ、今度ラーメン食べに行こうよ」

「そうだな。一緒に行ってみるか」




 アキトは目を閉じて懐かしそうな顔をした。

 わたしも一緒に目を閉じる。




 行ってみよう。あの懐かしい屋台へ。





























「ところでよ、なんでコート着ないんだ?」




 話題を見つけようと、俺の先を歩くシバヤマに声をかけた。

 すると、シバヤマは振り返らずに苦笑した。



「この季節にコートってのは暑いモンですよ」

「だったらなんでコートなんて羽織るんだよ」

「仕事着なんですよ。俺にとってのね」


 なるほどな、と俺は納得した。

 俺がいつも着ているツナギも俺の大事な仕事着だ。

 もっとも、どうも家族には受けが悪い。

 オイルで汚れたままで食卓に行くと俺だけ茶碗が出なかったりな、、、、、ふっ。



 しかし、ラピス=ラズリねぇ。


 俺が知っている事といえば、未来の世界でテンカワと共にユーチャリスを駆ったIFS強化体質の少女。

 ………おいおい、俺が知っている事と言えばそのくらいじゃなねぇか。

 えっと、向こうでは11歳だったってことは、今は8歳か。

 はは〜ん、コイツ、ちいさい子との接し方がわかんねぇから誘ったのか?




 っと、そんなことを考えているうちに、とある部屋の前についた。

 そこは、、、応接間?

 重たそうな扉を開くと、そこにはリョーコちゃんと見知らぬ少女、、、、、

 肌は色白で、背中まで伸びた流れるような金髪、そしてルリルリと同じく金色の瞳。

 この子がラピスちゃんか。


























「ありがとう、連れてきてくれて」


 俺の言葉にスバルは明らかに邪険そうな目で睨みつけた。


「おまえ、この子のいた場所の事知っていただろ?」

「ああ、知ってたよ」

「ッ、、、このぉ!!」


 突如、スバルが怒りの浮かんだ表情のまま右腕を振りかぶった。


 ガシッ!


「お、おいリョーコちゃん!!」


 俺の横でウリバタケさんが声をあげた。


「だったらなんで助けてやらなかったんだ! ったく、いつまで握ってんだよ、放せ!」

「まったく、なにが不満なんだ?」


 手を放して、俺はため息混じりに尋ねた。


「不満でわりーかよ! あんな研究所っぽいところに一人で入れられて、俺が見つけたのは変なカプセルの中に入れられていたんだぞ!」


 明らかに爆発寸前のスバルが俺を睨む。


「はじめっから知っていたんなら、どうしてすぐに助け出そうとしなかったんだ! 今までほうっておいた理由を聞かせやがれ!」


 俺は黙って首を横に振り、近くのソファーにコートを投げた。

 そして向側のソファーに座る少女、ラピスの傍に立った。


「おい、無視するな――――――ッ」


 俺を詰め寄ろうとしたスバルはウリバタケさんに肩を掴まれ振り替える。

 そこにあったいつものおちゃらけた表情ではなく真面目で無言な表情に、ただ黙るしかなかった。

 俺はウリバタケさんの心遣いに片眉だけ上げて礼の代わりをし、ラピスの前でしゃがんだ。





「ラピス=ラズリ、、、だね?」


 コクン、と少女は頷いた。


「俺はシバヤマ=リョウジ。君も知っているヒサイシ=カツミの仲間だよ」


 カツミの名前に反応したのか、ラピスは少しだけ顔を上げて俺を見た。

 カツミはラピスと同じ研究所の生まれだ。名前くらいは知っていると思っていたが正解だったな。

 北欧の研究所出身のホシノ=ルリとは違い、カツミとラピスは日本の研究所の出身である。

 ちなみに俺も建物は違えど、同じ敷地内の研究所出身だけどな。


 俺は、ラピスの頭の上に手を置いて髪を撫でた。


「間に合って良かった。研究所が安全とは言い切れなくなったからな、これからの君の面倒は俺とカツミがみることにしたよ。

 もうちょっとしたらカツミもこっちに来る。

 もう、君が苦しむ必要なない」


 ラピスはただ俺の顔を見るだけだった。

 特に、嬉しいとか悲しいとか、そんな表情はまったくみせてくれない。

 まぁ、そんなモンだろうと思う。

 俺だって研究所から初めて外の世界に連れ出されたときにはクソ生意気なガキだったと覚えているからだ。


 立ち上がって、俺は呆然としている二人を見た。

 スバルは、なんかバツ悪そうに明後日の方を向いている。

 ウリバタケさんは苦笑しながら髪を掻いていた。


「そんなわけで、よろしく」

「おまえさんがラピスちゃんの親代わりになるってわけか? 勤まるもんなのかねぇ」

「俺の妹分みたいなもんだからな。せいぜいがんばってみるさ」


 その俺の言葉に少しだけラピスが反応したがそれを無視した。

 まだ全てを知る必要はないだろうし、知った所でどうすることもないしな。


「ところでラピス、おなかすいてないか?」




















 シバヤマが応接間に備え付けられていた電話をしてから数分後……………


 ガラガラガラガラ……………

              ガチャン!!!


「おっまたせ〜〜〜〜〜♪

 屋台テンカワラーメン到着でーす!!」



 応接間で待っていた俺たちの目の前に現れたのはエプロン姿の艦長、調理着を着たテンカワ、そしてチャルメラを持ったルリルリだった。


「まさかネルガルで出張屋台をするとは思いませんでした。こんなところにもアキトのラーメンのファンがいるなんてちょっとうれしいね」


 ウキウキ気分でテンカワを見る艦長。

 しかし、当のテンカワは息切れ状態でうずくまっていた。


「だからってなユリカ、、、、、全力疾走で、、、屋台を引っ張らせるのはどうかと思うぞ、、、」


 ゼェゼェ言いながらも、テンカワはラーメン作りのためにコンロに火をつけていた。

 勤労精神は大事だと思うが、少しくらい休憩したってバチは当たらんぜ、テンカワ。


「あ、リョーコちゃん。おひさしぶり〜〜〜♪」

「、、、ああ、久しぶり。艦長」


 さすがのリョーコちゃんもちょっと驚いたらしく、返答に間があったな。

 しかも、手に持ったトランプを持ったまま。










 テンカワ達を待っている間、俺たちはシバヤマがどこからともなく取り出したトランプをしていた。

 どうやらトランプというものを知らないらしく、ラピスがカードとにらめっこしているのを見ながら絵柄などを教えていった。

 ハート、ダイヤ、スペード、クローバー各13枚、ババ1枚。

 シバヤマが計53枚のトランプを説明しながらラピスの反応を見ていた。


「これで、なにをするの?」


 トランプを興味深そうに見ながら、ポツリとラピスが呟いた。


「さぁ、これで何をすると思う?」

「………わからない」

「これはゲームをするためのアイテムさ」

「ゲーム?」

「そう。たとえば、、、ふたりともちょっと参加してくれないか?」


 シバヤマに誘われ、俺とリョーコちゃんもソファーに座って参戦する事となった。

 ラピスはスピーディーにカードをシャッフルするシバヤマの手元を熱心に眺めていた。


「今からするゲームはババ抜きっていって、最初に全部のカードをみんなに配るんだ」


 しゃべりながらもシバヤマはテーブルの上に一枚一枚カードを投げる。

 カードは器用に俺たち一人一人の目の前で止まり、どんどん溜まってゆく。

 その光景をずっと眺めていたラピスに、カードを配り終えたシバヤマがラピスのカードの山を集めて渡した。


「えっと、それでな。こんな感じで同じ数字のカードが2枚あったら手元のカードから捨てるんだ」


 ずっと黙っていたリョーコちゃんが、突然ラピスに自分のカードを2枚見せながら説明した。

 その行動にシバヤマがスバルを見て、少し嬉しそうに笑った。


「なっ、なんだよ!」

「いやぁ、なんでもない」


 笑いながらシバヤマは自分のカードを手に取った。


「たとえば、これとか?」


 ラピスは自分のカードから2枚のカードを手に取ってリョーコちゃんに見せた。


「そう、そんな感じで2枚ペアのカードを捨てていくんだ」

「でも、わたしババを持ってるよ」

「ああ! それは教えちゃいけないんだ!!」


 あわてながらも説明するリョーコちゃんを見ながら、俺は自分の手札からペアカードを捨てていった。

 チラッと隣に座るシバヤマを見ると、すまなそうに軽く手を挙げた。

 なぁに、こういうつきあいだったらいくらでもオッケーさ。


 そんなこんなでババ抜きのルールを教えながら、俺たちはゲームをしていたのだ。












「おっ、来たな。ラピス、ちょっとゲームはやめて食事にしようか?」

「………だめ」


 さっさと残り2枚のカードを捨てようとしたシバヤマをラピスが止めた。


「リョウジ、ビリ目前で逃げるの卑怯だよ?」

「くっ」



 そう、1回戦はリョウジがダントツ1位で勝ち抜き、ラピスはビリだった。

 それを笑いながら諭していたリョウジを、ラピスが残念そうに見ていたのだ。

 それで今は第2回戦。

 今回はラピスが1位勝ち抜けで、今はシバヤマが持ち札2枚、リョーコちゃんが1枚のバトルだった。



「そーゆーことだから、覚悟決めろよ!」


 ラピスに意識が行っていたシバヤマの持ち札からリョーコちゃんがカードを一枚引き抜いた!


「さぁこれで、、、、、ああっ、ババかよ!!」


 子供の手前ということもあるのか、地なのか、リョーコちゃんが明らかにガックリした表情でカードを見つめる。


「なになに? ババ抜きしているの?」


 艦長が興味深そうに覗いてきた。


「ああ。ここにいるラピス=ラズリちゃんにババ抜きを教えていたところなんだ」

「ラピスちゃん? ああっ、この子? かわいいねぇ♪」


 そういいながら艦長は満面の笑みでラピスに近づいていった。


「はっはっは、日頃の行いでも悪いんじゃないのか?」


 こっちではシバヤマがただがトランプに熱くなっている。


「だめだよ、リョーコ。リョウジなんかに負けたら」

「おい、リョウジなんかってなんだよ」

「わかってるって、ラピス。こんな悪趣味黒ずくめなんかに負けるかよ!」


 こっちも熱くなっているリョーコちゃんがシャッフルした2枚のカードをシバヤマに突き出した。

 シバヤマはものすごく真剣な目で2枚のカードを睨んでいる。

 おいおい、これが『The prince of darkness』の本性かよ。


「う〜〜〜む、、、、、こっちだ!」


 シバヤマが抜き取ったカードは、、、、、ババだった。


「あはははは! そっちのほうこそ日頃の行い悪いみたいだな!」


 少し不貞腐れていたシバヤマの隙を、リョーコちゃんは見逃さなかった。

 シバヤマがババを持ち札に戻した瞬間、シャッフルする前のカードをリョーコちゃんが引き抜いた。


「へっへっへ、これであがりーーーっ!」


 豪快にペアカードをテーブルに捨てながら、リョーコちゃんが勝利の雄たけびをあげた。


「ちょっとまて! いまの反則だろ!!」

「なにいってんだよ、勝負の世界で気を抜いた方が悪いんだろ?」

「いや、今のは絶対卑怯だろ! なぁ、ラピス?」

「、、、、、リョウジの負け」


「うそっ!?」



 艦長に抱きつかれていたラピスの無情な一言に、白く燃え尽きたシバヤマの手から零れるババのカード。

 まぁ、勝負の世界は厳しいってことだよな。



 しかし…………………………………











 嗚呼、ルリルリの視線が痛いッ!



 たしかにあの後、俺たちは真実を語らなかった。

 まだ時期尚早だと思ったからだ。

 確かにルリルリの心境を考えればすぐにでも教えたくなる。

 頭のいいルリルリのことだ、もしかしたら真実に近い所まで予想しているかもしれない。

 それでも、俺たちはシバヤマの言った言葉を信じたい。

 今、ルリルリは俺を忌まわしげな目で見ているのが背中で感じる気配でわかる。

 だが、それに俺は耐えなければならない。



 ルリルリに対しては、未来のあいつ等から真実を伝えなければならない。



「ところで、注文はどうするの?」


 テンカワがシバヤマに向かって尋ねた。


「そうだな、、、、、6つ用意してくれ」

「6つ?」


 思わず、俺は聞き返した。

 ここにいるのは俺、シバヤマ、リョーコちゃん、そしてラピスの4人だ。

 あと2つはどうするんだ?




 すると、シバヤマはにぃっと口元を歪めた。



「今から、来客があるのさ」























次回予告(アカツキ=ナガレ口調)


こまったなぁ、僕が予告を言うときには作者が予告を裏切ったときだけかい?
しかも、今回は題名まで変更だなんて、、、やってられないね

次回はテンカワラーメン大活躍! って、僕の出番は?

そんなわけで4年間常温放置されていた日本酒を飲む作者が送る次回、機動戦艦ナデシコ OVERTURN The prince of darkness
『二杯のラーメンは感動の秘訣?』を、みんなで見てくれよぉ!!


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい、ごめんなさい(平謝り)
きーちゃんです

またやっちまったよぉぉぉぉぉぉぉ(号泣)


そんなわけで、前回の予告を裏切ってしまいました
あうぅぅぅ、予定していたネームよりもだいぶ文章が多くなってしまったのでここで区切るしかなかったんです(言い訳)
まぁ、まだまだ甘ちゃんだということです。はい

私生活では、相変わらず貧乏です
どーしよ、マジで!!!
しばらくは借金生活で頑張っています
ああ、給料日が待ち遠しい・・・・・

それでは、これからも頑張りますので見捨てないで下さい!!!!!(懇願)
では!!!



BGM:TM NETWORK『BEYOND THE TIME〜メビウスの宇宙(そら)を越えて』

 

 

代理人の感想

・・・・・ラピス、結構情操は発達してるじゃないか(笑)。

表面には出さなくてもちゃんと悔しがってるようだしw

で。

結局メインは次回に持越しですか(爆)。