機動戦艦ナデシコ  OVERTURN The prince of darkness

第十一話『二杯のラーメンは感動の秘訣?』












『そんなわけで済まなかったな。

 別に悪気はなかったんだが、俺に言わせて見れば逃げているようにしか見えなかったからな』


「………なにが悪気がなかっただ!!

 あんた、絶対に確信犯だろうが!」


『まぁ、そんなに気にするな。

 巻き込んでしまったんだからしかたないだろ?』


「―――ったく」



 コミュニケに繋がった通信で、シバヤマがルリちゃんを巻き込んだことを謝ってきた。

 俺としてはせっかくのユリカの膝枕を邪魔された上に、謝罪なのか開き直りなのかわからんことをほざかれ流石に頭に来る。

 だからといって、無碍に扱う気はなかった。

 完璧とは言わないが、シバヤマの言う事もわかるからだ。



「で、なんの用だ?

 用件っていまの話だけか?」


『いや、今日はこの後オフなんだ。

 それでおたくらとカツミと4人でたまには息抜きでもしないかな? 
 
 って思ってな。ナデシコの完成まで後1週間ある。

 たまにはいいだろ?』


「あのなぁ、人に一日何回ジャンプさせる気だ?

 知らないかもしれないが、結構疲れるんだぞ?」


『だったら、こっちで泊まっていけばいいじゃないか。

 それともなにか、二人っきりのところを邪魔されたくないのか?』


「ばっ、、、馬鹿なことを言うな!

 それに、それならそっちも同じようなもんだろ!?」


『別に、俺たちはいつも二人でいるからな。

 俺たちの事知っているんならわかるだろ?

 あんまり友人とかいない身分でね、こういうこともしてみたいのさ』



 開き直ったように言うシバヤマに返す言葉が思いつかなかった。

 ユリカとのことを担がれ、こっちがカツミさんの事を出すとすんなり認められるとしてやられた気分だ。



「いいじゃない、アキト。今回はシバヤマさんにお世話になったんだし、せっかくのお誘いなんだから」



 隣でユリカに言われると俺も弱い。

 俺は大きくため息をついて答えた。



「わかったよ。でも、飯くらいはおごってくれよ」


『へいへい。なら、さっさとこいよ?

 今は誰もいない所にいるからハンニバルにコミュニケの場所でも捜させて来てくれ』


「………もし誰かいたら殴るからな」


『なるほど、それでおたくと格闘戦してみるのも面白そうだな』



 物騒な事を言い捨て、シバヤマは通信を切った。



「まったく、人の事を好き勝手に振り回しやがって。

 ハンニバル、シバヤマの居場所を検索しておいてくれ。

 ユリカ、準備しよう」


「う〜〜〜ん、何を着ていこうかな?

 あ、アキトもオシャレしないとダメだからね。

 ジャンプするためにマントは必要かもしれないけど、せめてスーツとかでいかなくちゃ」



 ユリカがとんでもないことを言う。

 確かにネルガルで諜報活動をしていたときに必要そうな衣類は多少保管してある。

 もっとも遊びにいけるような服はないが、、、スーツですか!?



「まぁ、ネクタイ締めなかったらラフに動けるからいいか」


「よし、それなら久しぶりにデートにいっちゃいましょう♪

 ダブルデートなんて初めてだなぁ」



 そういってユリカは談話室を出て行った。

 一人残された俺は、なんとなく床に寝そべった。



『艦長………じゃなくて、テンカワさん』


「どうした?」


『私もデートしてみたいです』


「無茶を言うな!!」


『ううっ、ちょっとしたコンピュータの茶目っ気なのにぃ(涙)』



 細かくウインドウを揺らしながらオレに訴えるハンニバル。

 なんだか会話だけで疲れるな、最近……………



『だったらデートのこと、後から教えてくれませんか?』


「わかったよ、帰ってきたらな」


『それなら事細かに、隅から隅まで、詳しく鮮明にじっくりと教えてくださいね!!』



 ………なんか、ハンニバルの言い方がイヤだ、、、、、


















 パシュゥゥゥゥゥ――――――――――――――――――



「………遅い」



 憮然とした顔でシバヤマがごねた。



「だったら急に呼び出すな!

 ついさっき、久しぶりに真剣勝負したばかりでこっちも疲れているんだ。

 しかも、ユリカの準備には時間がかかるし」


「だってぇ、アキトの奥さんとして常に綺麗でいないといけないんだから。

 これぞまさに内助の功よ」


「ユリカ、それは意味が違うって」



 ネルガル施設の応接間にジャンプしてきた俺はシバヤマ以外の人間がいないことを確認してバイザーとマントを外した。



「マントの下は黒シャツに黒ジャケットかよ。

 人の格好をパクるな」


「うるさい!!」



 いきなり帰りたい気分になったが、とりあえず来た手前そういうわけにもいかない。

 というか、帰るといったら絶対にユリカが拗ねるからな。

 そんなわけで、俺たちはシバヤマの向かい側のソファーに腰をかけた。

 ちなみにシバヤマも俺と似たような格好で、ユリカも女性用の黒スーツを着ている。

 なんでも、俺の格好に合せたらしい。

「OLみたいでしょ?」といっていたが、これではただの黒装束集団ではないか。



「ところで、カツミちゃんは?」


「ああ、もう少ししたら来るよ。

 ちょっとオシリスの事でドタバタしているみたいでね。

 大体、どっかの得体の知れないヤツが機動実験中にケンカ吹っ掛けてくるから色々ガタが来たみたいでな」



 明らかに俺のせいだと言わんばかりに俺を見ながらシバヤマが説明する。



「あはは、、、わたしもさすがに出来上がったばっかりのエステにケンカするのは反対したんだけどね」



 少し責任を感じているのか、ユリカが笑いながら言い訳をする。



「まぁいいや。ところで飯おごれって言ってたけど、あれから何も食べていないのか?」


「こっちもブラックサレナの整備とか忙しいんだ。

 さすがに人手がいなくてハンニバルに任せているけどな」



 とはいえ、ヘタなメカニックが束でサレナを整備できるわけもない。

 それならコンピュータ管理で整備した方が俄然いいに決まっている。

 さすがにウリバタケさん率いる整備班のほうが腕は上だけどな。



「なるほど。悪いんだけど、こっちは先に済ませてしまったんだ。

 でも、飯なら用意してある。食うか?」


「え、ここでですか?」



 ユリカが疑問の声をあげるが、シバヤマは気にせず立ち上がって部屋から出て行った。

 そして一分も立たないうちに戻ってきた。



 ガタッ!!



「ッ、、、おまえ、それは!!!」


「お気に召しませんか、お客様?」



 音を立てて立ち上がった俺に向かって、シバヤマはどこかのウエイターの用に一礼しながら言葉を返した。

 シバヤマの手に持っているお盆の上には、ラップで蓋をされた二つのドンブリが乗せられていた。



「『おもてなし』と言うのは、相手の心に訴えなければならない。って本で読んだ事があってね」



 そんなことを言いながら、シバヤマは俺たちの目の前のテーブルにドンブリと割り箸を置いた。

 もちろん中身は、、、、、ラーメンだった。



「さっき初めて食べたけど、うまかったぞ。個人的にはシナチクの味が特に気に入ったね」


「あの………シバヤマさん、これって、、、、、」



 少し震えた声でユリカが尋ねる。

 無理もない、俺だってそのラーメンから目を放せないでいる。

 だって、このラーメンは……………俺たちのラーメンだからだ。



「とりあえず座れよ、テンカワ」



 その言葉で自分が立ったままだということを思い出して俺は腰をおろした。

 しかし、それでも割り箸を持つ事も、ラップを剥がすこともできない。



「……………おい、あんまりほっとくと麺が延びるぞ」



 テーブルに乗っていた大き目の灰皿を持ってシバヤマが扉の所まで移動して煙草を咥えた。

 普段なら食事をするものに対するマナーのつもりかと気付くだろうが、今の俺たちにはそんな余裕がなかった。



「シバヤマ。あんた、なんてもんを―――――」



 でも、それ以上の言葉が口から出なかった。

 固まっているユリカに向かって一度だけ頷いて、俺はラップに手をかけた。



 ピリィィィィィィィィィ―――――――――――――――



 ラップは中途半端に破けてしまったが、その開いた部分から濛々と湯気が立ち昇った。




 懐かしい匂いが、忘れていた味が、あの頃の想い出が、、、、、、、、、、頭の中で爆発した!




 それを見ていたユリカも急いでラップを取った。

 そして二人同時に割り箸を取った。


 ぱきん、と心地よい音を鳴らして割り箸が綺麗に真っ二つに割れた。

 俺とユリカは「いただきます」も言わずにドンブリを手にとってスープを啜った。

 その瞬間、舌にある全ての味蕾が開いたような感覚が襲ってきた。


 もう、止まらない。


 俺たちはすぐに割り箸で麺を掬って口にする。




 そして、お互いに一言も言わずに食べ続けた―――――――――――――――――――――――――――――
















「……………どうでしたか、お味は?」



 最後のスープの一滴まで飲み干し、どんぶりを置いた俺たちにシバヤマは煙草の煙を吐きながら尋ねた。



「まずいわけなんか、ないだろ」



 俺はおもわず目を真っ赤にして答えた。

 隣に座るユリカは自分のハンカチで目元を押さえながら俯いている。



「まぁ、まずかったらそんだけ未熟だってことなんだろうけどな」



 笑いながらシバヤマが戯言をいうが、俺はなにも言わず天井を見上げた。

 食べている間、頭の中にいろいろな光景が思い浮かんだ。



 ナデシコでホウメイさんの下で修行したこと。

 アパートで試行錯誤しながら研究したこと。

 昔の仲間が揃う公園の屋台のこと。



 一杯のかけそばじゃあるまいし、たった一杯のラーメンでこんなにも心が動くとは。

 あの日、ユリカとユーチャリスの中で再会した時のような気持ちが胸の中で広がっていた。



「さて、、、食べ終わったみたいだから片付けないとな」



 不意にシバヤマが煙草を消しながらそんなことを言った。

 俺がシバヤマの方を見ると、シバヤマは真面目な表情で俺の方を見ていた。



「言っただろ? 覚悟を決めろよ、テンカワ」



 シバヤマが静かに扉を開いた。

 そこには、懐かしい顔があった。



「……………セイヤさん、、、、、それに、、、」



 俺の言葉にユリカが顔を挙げた。



「、、、、、、、、、、ルリ、ちゃん?」




























「………ほら、ルリルリ」



 ウリバタケさんから背中を押され、わたしはお盆を胸に抱きながらゆっくりと近づいた。

 テンカワさんとユリカさんが、、、いる?

 さっきまで、屋台用の格好をして一緒にいたのに………



 黒い格好をしたお二人が立ち上がってわたしの方にゆっくりと近づいてきました。

 突然の事に、わたしは思わず立ち止まってしまいました。

 これ以上踏み出したら、なにか戻れないような気がして。



「ルリ、ちゃん………」



 ただ立ち止まっただけで、テンカワさんはひどく悲しんだような顔をしました。

 そのテンカワさんに黙って寄り添うように立つユリカさん。



 後数歩、これだけの距離なのになぜこんなに遠く感じるのか?



「ルリルリよぉ、その程度があの時に言っていた君の覚悟なのか?」



 その声に振り返ると、ウリバタケさんが真面目な表情でわたしたちを見ていました。

 そしてすぐにテンカワさんたちの方を向きます。



「、、、テンカワさん?」


「そっか、そういえば昔はテンカワさんって呼ばれていたもんな」



 ひどく懐かしそうに、テンカワさんが顔をほころばせました。

 でも、その表情でテンカワさんだということがわかりました。

 テンカワさん、そしてユリカさん。

 二人の表情一つでもわたしは暖かい感情を教えていただきました。

 それが、ナデシコに乗ってからわたしが一番学んだ事なんですから!



「テンカワさん!!!」



 足は勝手に進み、そしてテンカワさんの胸の中に飛び込んでいきました。



「ルリちゃん!」



 テンカワさんもわたしを抱きしめ返してくれました。

 ちょっと苦しいくらいでしたが、それでもなんともいえない嬉しさがこみ上げてきました。

 そしてユリカさんもわたしとテンカワさんを包み込むように腕をまわしてきました。

 いつもそばにいてくれたはずなのに、、、それでも、なぜか懐かしい。



 不思議と、そんな気がしました。



















 横目でウリバタケさんが涙目で三人の様子を見ているのを見て、俺は誰にも悟られずに部屋を出た。

 そして廊下に置いてあったロングコートを羽織る。

 ここから必要なのは理性だ。

 無駄な感情は枷にしかならない。



 俺は隣の応接間の扉をゆっくりと開いた。





「ふざけるなっ!!!」



 応接間に入った瞬間、部屋全体を震わせんばかりの声が響いた。



「そんな訳わかんねぇ事言って、また俺たちに戦争させようっていうのか!!」


「ちょ、ちょっとアキト、言い過ぎだって」



 どうやら、現在を生きるテンカワが騒いでいるらしい。

 正直、うるさい。



「カツミ、説明はしたのか?」


「さわりだけね」



 カツミはため息混じりに答えた。



「いいやユリカ、ネルガルはわかっていないんだ。

 前のスキャパレリプロジェクトでさえ最初は隠されていたし、戦争の目的は遺跡の利権争いだったじゃないか!

 それなのにネルガルはまだジャンパーである俺たちを巻き込もうとしているんだ!!」



 俺は周りを見た。

 部屋の中にはカツミ、そして今の時代のテンカワとミスマル=ユリカがいる。

 ラピスはスバルが面倒を見ているんだろう。

 だから俺はテンカワに、、、いや、テンカワ君に近づいた。



「だれだよ、あんた?」


「今回の黒幕だよ」


「あんたか、あんたが俺たちを巻き込もうってしているのか!?」



 バキッ!!



 ある程度は加減したつもりだが、それでもテンカワ君は床に沈んだ。



「なにする――――――――――――――――」



 顔をあげたテンカワ君が言う文句を遮って、俺は懐から瞬時に取り出した銃を向けた。




「守るべき正義は厳然として存在する!!

 そしてそれを阻もうとする悪もまた然り!!」



 一瞬でテンカワ君の顔から怒りの表情が消えた。

 そう、これはまだ彼らの心の中にいるであろうナデシコの副提督の遺言のようなものだからだ。



「正義は人の数だけ存在する、それを君は先の大戦で学んだはずだ。

 だが真実から目を背ける人間に、正義を貫く事が果たして出来るのか?」


「そんなのは関係ない!

 俺はもうゲキガンガーを捨てたんだ!

 普通に生きて何が悪いっていうんだよ!!!」



「普通に生きられると、本当に思っているのか?

 まず、真実を知ってからでも遅くはない。

 君たちは間違いなく、歴史上初の未来の自分から真実を知ることが出来るんだからな」



 しばらく俺とテンカワ君は睨み合い、そして俺は銃を仕舞った。



「今すぐに結論を出せとは言わない。

 だが時間はそうは残っていないんだ。

 それだけは、覚えておいてくれ」



 それだけ言い捨て、俺はコートを翻して部屋から出た。

 カツミも後を追ってきたが、俺たちは無言で廊下を歩いた。

















 これで役者は揃った。

 いや、駒が揃ったのほうが正しいだろうか。

 利用する者とされる者。

 後は誰がそれを動かす者になれるかということだけだ。



「………ワクワクするねぇ」



 誰もいないユーチャリスのブリッジでの言葉を、もう一度呟いた。






















次回予告(リュウ=ホウメイ口調)


なんだい、わたしの出番はまだなのに予告やれってね?
まったく人使いが荒いんだから。もし、ルリ坊を泣かせることになったら許さないからね、作者!

なになに〜? おっ、次回は今度こそナデシコが復活するんだね?
次も嘘だったら承知しないよ!!

ってなわけで、稲葉浩志の歌で『AKATSUKI』で極楽トンボを思い出した作者が送る次回、機動戦艦ナデシコ OVERTURN The prince of darkness
『ボクたちの戦争が再びはじまる』を、みんなで見てちょうだいね?


どもども、2話同時アップのきーちゃんです。
これで、更新が滞っていたのを許してくださいっ!(哀願)

さてさて予告でも触れましたが、6月11日に発売された稲葉浩志NEWマキシシングル『KI』の第1曲目『AKATSUKI』♪
これを見て極楽トンボを思い出した人、ナデシコファンならいるはず!!

どうでしょうか、おれっちだけでしょうか?
いいや、そんな事はないはずだ!!!

あ、それともう一言
ビバ、ADSL!!!

さて、次回こそ必ず予告通りにナデシコを復活させます。
みなさん、まだ見捨てないでくださいっっっ!!!
では!!!



BGM:稲葉浩志『AKATSUKI』

 

 

 

代理人の感想

・・・・・・なんか、今回のシバヤマはズレてるかな?

アキトは「ネルガルが利潤追求のために自分たちをだまそうとしている」と思ってるのに

いきなり正義だのなんだの持ち出しても納得させられるとは思えないんですが。

 

ルリちゃんのところはいいシーンだと思いましたけど、

欲を言えばもう少し納得させてもらえるような描写なり説明なりが欲しかったかなと。