機動戦艦ナデシコ  OVERTURN The prince of darkness

第十四話『みんなの航海日誌』












 漫画の締め切りも無事に間に合い(アシの子とかには泣いてもらったけど)、わたしは懐かしいナデシコの艦内を歩いていた。

 復活といえど、もう一度作り直したともいえる艦内は新しい匂いがしている。

 真新しいお馴染みのパイロット用の制服に着替えたわたしは、廊下を歩いている。

 しばらくして、ゆったりとできるソファーのある休憩所に差し掛かった。

 すると、そこにはダンボールを持つ黒い人影を見つけた。



「あ、、、、、お〜い、シバヤマ、、、さん?」



 わたしは彼に声を掛けるのをためらってしまった。

 なぜか、身体が動かない。

 少しうろたえたわたしは数歩分離れたシバヤマさんを見た。




 ―――――――――――――――な、なに? この禍々しいような気配は!?




 なんか、漫画に出てくるような黒いのオーラのようなものを纏った感じのするシバヤマさんはある一点を凄い形相で睨んでいた。

 それこそ長年の宿敵と対峙しているように。

 その異常なまでに近寄りがたい雰囲気に、わたしは一呼吸ついて声を掛けた。



「あの、、、どうしたんですか?」




 ギロッッッ




「ひいぃぃぃぃぃぃぃぃっっっっっっっっっっっっ!!!!!」


「・・・・・静かにしろ」



 一瞬、視線をわたしに向けられただけだったが、それだけで強烈な殺気がわたしを押しつぶしかけた!

 いったい、なにが彼をそうまでさせているんだろうか!??

 わたしは恐る恐る近づき、彼の視線の先にあるものを見た。

 そこにあったのは、、、、、、、、、、、




「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・禁煙マークの看板???」




 わたしの声が引き金になったのか、シバヤマさんは目をカッ!と見開いた。

 そしてすばやく目標(禁煙マーク)に近づき、そして目にも留まらぬ速さで目標を掴み・・・・・




 ―――――――ベキッ!!! (看板を剥がす音)

   メキョッ!! ベキッバキッボキッ!! (素手で看板を破壊する音)

                   キョロキョロ・・・・・・・・・・・・・ポイッ♪




「ふぅぅぅぅぅ―――――――――――――――」



 一瞬で目標の息の根を止め、備え付けのゴミ箱に亡骸を葬り去ったシバヤマさんは自分の仕事に満足したように息をついた。

 そして持ってきていたダンボールから、オフィスの片隅にありそうな灰皿を取り出しソファーの傍に設置し始めた。



「あ、あの〜〜〜、、、なにしてるんですか?」


「シッ!」



 もはや緊張もなにもなくなり声を掛けてみたが、シバヤマさんは自分の口元に人差し指を立ててわたしを制する。

 そして無言のままに灰皿を設置し終えると、ダンボールもゴミ箱に押し込んでわたしに近づいてきた。



「アマノ=ヒカル君、、、、、だな?」


「そうですけど、あのぉ・・・・・・」


「君は何も見なかった。OK?」


「、、、、、はぁ」


「それでいい。だいたい、ナデシコ内に一ヶ所も喫煙スペースがないなんて拷問以外のなにものでも――――――――――!??」



 スパーーーーーーーン☆



 突然、心地良いほど透き通った打撃音が響いた。


「お、おのれカツミ、後ろからとは卑怯な・・・・・」



 ・・・・・・・・・・ぱたりこ



「ごめん。彼のこと、かわいそうな人なんだって思って良いから」



 無表情で言うヒサイシさんに向かってわたしは必死に首を縦に振った。


 わたしが納得すると、ヒサイシさんはなぜか持っていた某黄色い電話帳を床に捨て、床で伸びているシバヤマさんを引き摺って行った。





 結構、パワフルな人なんだなぁ〜〜〜〜〜。



















 カシャッ <スポットライト点灯




 ・・・・・おい、俺達をどうしようっていうんだ?



「今回の議題は、被告テンカワ=アキト両名の呼び名をどうするかと言うことです」



 なんだよ、
被告って?

 俺と未来の俺は展望室に設置された裁判所のようなセットの中心に座らされ、暗闇の中、真上からスポットライトを浴びていた。

 ご丁寧にも手には手錠まで嵌められ、しかも椅子にしっかりと固定されている。

 なんでこんなにも犯罪者扱いされないといけないんだ?

 俺はため息をついて、隣に座る俺を見た。

 すると、隣の俺も俺を見ていた。



「なんだよ?」


「いや、なんだかナデシコっぽくて懐かしいと思ってな」



 不貞腐れ気味の俺とは対照的に、未来の俺はどこか達観したかのように笑っていた。



「しっかし、確かにみんなの疑問もわかるよな。

 俺だって、アンタのことを『未来の俺』って呼び名しかないからな。

 『ぷりんすおぶだーくねす』だっけ? 未来での二つ名は」


「そうは滅多に呼ばれなかったけどな」


「そこっ! 私語は慎みなさい!!」


「「はいはい・・・・・」」



 裁判長(イネスさん)に一喝され、俺達はため息混じりで返答した。




「では、これより開廷します。

 まず始めに、検事の答弁をどうぞ」



 裁判長の言葉に、新たに明かりのついたスポットライトに照らされながら検事(プロスさん)が立ち上がった。



「そうですなぁ。

 まずはじめに当法廷では便宜上、現代のテンカワさん、未来のテンカワさんと呼称させていただきます。

 みなさん、よろしいですね?」



 誰からも、反論は出なかった。

 っていうか、ここにはいったい誰がいるんだよ!?

 暗闇の上にスポットライトを浴びていると、ホントに周りが見えないんだぞっ!



「さて、被疑者未来のテンカワさんは未来では『The prince of darkness』と呼ばれていたそうです。

 そこでその呼び名を使ってもよろしいのですが、現代では当代『The prince of darkness』であるシバヤマさんがいるわけで。

 しかも、日常からこんなに長い名前を使いたくもありませんからねぇ」



 なるほど、たしかに呼びにくいよな。

 でも、だったら他にどういう呼び名があるんだろうか?



「よって、手っ取り早い方法といたしまして、我々は現代のテンカワさんたちに対して結婚を繰り上げてもらうことを提唱いたします」


「「「「「「「・・・・・はぁ?」」」」」」」



 周りで同時に疑問の声があがった。



「異議あり! 裁判長、それは問題の解決になるとは思えません」


「異議を認めます。検事はどういうつもりなのかを説明しなさい」



 みんなの気持ちを代表して弁護人(ルリちゃん)が異議を唱えた。

 それを承認した裁判長の声を合図に、全員の視線がプロスさんに集まった。


 すると、プロスさんは眼鏡を光らせて、不敵に笑みを浮かべた。



「もちろん私も適当に答弁しているわけではありません、はい。

 お話は最後まで聞いてただかないといけませんねぇ。

 要は、同じ本名が2つあることが問題なんですよ」



「だから〜、その問題を解決するためにこの裁判があるんじゃないの?

 結婚したって、なにも変わらないじゃん」


「傍聴人は静かにッ!」



 台を叩きながら、裁判長は傍聴人M(ミナトさん)を黙らせた。

 でも、ミナトさんの言う通りだ。

 ユリカとの結婚を早めたからって、なにか変わるわけではない。



「ですから、話は最後まで聞いてください。

 ただ結婚するのではありません。

 現代のテンカワさんに、ミスマル家の婿養子となってもらうわけです。



 そうすることによって、現代のテンカワ=アキトはミスマル=アキトとしての呼び名を手に入れるのです!!」




「「「「「「「「おお〜〜〜〜っ!!!」」」」」」」





 ・・・・・いや、ちょっと待てよ!

 婿養子!?

 俺がミスマル=アキトになる〜〜〜〜〜???



「馬鹿いうなよ!!

 なんでそうなるんだよ、呼び名のために俺達の結婚を利用するな!!」


「おや、テンカワさん。

 あなたは婿養子になるのが嫌なんですか?

 そんなことでは、世界中のマスオさんなみなさんの顰蹙を買ってしまいますよぉ?」


「検事さん。別にマスオさんは婿養子というわけではありません」


「そうなんですか?

 いや、それは私の勘違いでしたね」



 弁護人から修正される検事。

 いや、そんなことはどうでもいいっ!



「なぁ、ユリカ!!

 ここにいるんだったら、おまえからもなんか言えよ!!」


「そうね、確かに当事者の意見も貴重だわ。

 では参考人、前へ」



 裁判長が参考人(ユリカ)を召喚した。



「それでは参考人、シキタリなので一応お伺いします。

 あなたは、この場で嘘偽りない答弁をすると誓いますか?」



「誓っちゃいます!!」




 いつものユリカらしく、元気よく宣誓したユリカは俺の方をチラッと見え、ウインクをした。

 頼むぞ、ユリカ。俺の運命はおまえに懸かっているんだ!!



「では、伺います。

 参考人、あなたは被告、現代のテンカワ=アキトにミスマル家に婿養子になることをどう思いますか?」


「はい、大賛成です♪

 絶対にお父様も喜んでくれると思います♪」




 なぬ!??




「もちろん、アキトも賛成だよね?」


「被告人、答えなさい!」


「ちょっと待て!

 ユリカ、おまえわかってんのか!?

 いきなりミスマル家に婿入りなんて!!」


「それでしたら、すでに私の方からミスマル提督に進言済みです。

 すると提督は『おおっ、それは素晴らしい。名実共にワシの息子になってくれるのか!!』と喜んでおられましたよ」


「勝手に話を進めるな!!!」



 検事の無情な一言に、俺は思わず叫んだ。

 そうだ! こういうときのための弁護人じゃないか!!

 俺は一欠けらの希望を求めて、ルリちゃんを見た。



「わたしはテンカワラーメンの名前が残るのであれば構いません」


 待て、ルリちゃん!!

 なんで俺の弁護をしてくれないんだ!!



「アキト・・・・・そんなに嫌なの?」



 うっ、ユリカが涙目で俺を見る。

 その瞳で見られると俺も弱いが・・・・・・・・・・それとこれは、話が別だ!!



「なぁ、未来の俺! なんか言ってくれよ!!」


「・・・いや、結婚は君達の問題だろ?」



 俺は将来こんな冷たい男になるのか!!





「とにかく、先ほどの弁護人の発言を最終弁論として結審とします。

 判決は次回の法廷で。

 これにて、閉廷!!!」



 ガンッ  ガンッ  ガンッ



「俺の話を聞けーーーーーーーーーーーーーーーーっっっ!!!!!」


























「アキト君がミスマル家にマスオさん・・・・・ごめん、無理がある」


「だれも無理矢理ギャグにしろなんていってねーよ!」



 リョーコに冷たくあしらわれながら、わたし達は食堂に向かった。

 いっとくけどね、リョーコ。お笑いの世界って奥が深いのよ。


 そうこうしている内に、わたし達は食堂についた。



「おっ、ヒカル。おめぇは傍聴しなかったのか?」


「うん。まぁ、興味なかったからね。

 それに面白いものも見れたし」



 先に食堂にいたヒカルは、奥に座る黒い男を見た。

 ・・・・・シバヤマさんね。

 でも、なんでテーブルに身体を預けてけだるそうにしているのかしら?





「ちょっと、アンタ。

 刺身盛と黒糖焼酎あがったよ」


「・・・・・すんません。そこに置いといてください」


「なんだい、元気ないね。

 そんなんでお酒なんか飲んでもおいしくないよ!」


「ういっす・・・・」





「・・・・・・・・・・・なんだ、ありゃ?」


「ずいぶん憔悴しきっているわね」


 まだ話もしたことも無かったわたしは、シバヤマさんに近づいてみた。




「なんか元気ないわね?」


「・・・ああ、マキ=イズミ君ね」



 かなり疲れきった顔でシバヤマさんはわたしを見た。



「大した事じゃないさ。大した事じゃね・・・・・ふっふっふ」



 ああ、どうやらアッチの世界に逝っちゃっているわね。



「えへへ〜。ヒサイシさんに負けたんだよね、シバヤマさん?」



 ピクッとシバヤマさんの身体が反応した。

 どうやら図星みたいね。



「どういうことなの、ヒカル?」


「実はねぇ、シバヤマさんが喫煙所を勝手に設置しようとしたのよ。

 すると、ヒサイシさんがそれを見つけてシバヤマさんの頭をバシッと!!」



「だーーー!! もういい、飲む!!

 カツミが怖くて飲酒喫煙ができるかっ!!」



 ヒカルの話に焚きつけられたのか、シバヤマさんは突然起き上がって手酌でコップに焼酎を注ぎ始めた。



「さて、いただきます」



 お箸を親指で挟みながら両手を合わせて、そういうシバヤマさん。

 なんか、ちょっと意外ね。



「でね、その後ヒサイシさんはせっかく設置した灰皿を撤去していったの」



 ヒカルが話す都度に微妙に箸が止まるシバヤマさんがおもしろいわね。



「なんだよ、天下の『The prince of darkness』も彼女には形無しか?」



 リョーコの参戦で、シバヤマさんはコップに残っていた焼酎を一気に飲み干した。



「んぐ、んぐ――――――

 ふぅ、、、、、事態はそんな簡単な話じゃないんだよ」



 少し落ち込んだように、そして暗く話し始めた。



「どうかしたの?」



 ちょっと深刻な話なのか、わたしたちまで真剣に耳を傾けた。



「ああ、実はな・・・・・

 カツミが嫌がるから、俺の部屋も
禁煙令を言い渡されたんだ。

 なぜか知らないが、ナデシコクルーには喫煙者がいないから喫煙所が一ヶ所も無いし。

 俺にどうしろっていうんだよ」



 そうして、シバヤマさんは再び手酌で焼酎をついで一気に煽った。



 そしてわたしたちは―――――――――――――――



「「「・・・・・ぷっ

   あはははははは!! あ〜〜〜ははははははははは!!!」」」




「笑うんじゃねぇ!!!」



 シバヤマさんはそういうが、そんなのは無理。

 まさに身体を張った笑いだわ、これは。




「ったく、話すんじゃなかった」


「あははは、、、、、おもしろいわね、あなた」


「冗談じゃない。絶対にカツミの目を盗んででも―――――――――」


「・・・・・わたしの目を、なに?」




 ピキーーーンッ




 あ、シバヤマさんが固まった。

 そして、油の切れたロボットのように回転が悪そうに振り返るとそこには。



「いったわよねリョウジ、お詫びにユーチャリス乗船まで禁煙するって。

 あれ・・・・・うそなの?」




 ダラダラダラダラ・・・・・・・・・・・・・・(汗汗汗)




「いや、別に、その、、、、、ゴメンナサイ」


「別に良いわよ。ただ、ちょっと付き合ってもらうから」



 そういってカツミさんは無表情でシバヤマさんの耳を引っ張っていった。



 この人には逆らってはいけない!!

 わたしたちは直感でそう感じた。女のカンってやつね。



「それと、あなたたち?」


「「「はいっ!」」」



「そのお刺身とお酒、食べて良いわよ」



 少しだけ微笑みながらそう言い残して、ヒサイシさんはシバヤマさんを引きずって食堂から出て行った。





「カツミ、待て!

 せめて刺身くらいはいいだろっ!??」


「一人で晩酌までしておいて、よく言えるわね?」


「それくらいいいだろ!?

 嗚呼、俺のマグロ〜〜、ヒラメ〜〜、タイ〜〜・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」





















 あ、これおいしいわね。











次回予告(ウリバタケ=セイヤ口調)



『さらば地球よ』と誰かが言った
『なぜ!?』と聞かれりゃ『未来のために!』

そしえ2隻並ぶ純白の戦艦の姿を、ああ、君は見たか!?

大学の学園祭の準備で頭を悩ます作者が送る次回、機動戦艦ナデシコ OVERTURN The prince of darkness
『僕たちが見上げた宇宙』を、みんなで見よう!!


こんちは、きーちゃんです!

さてさて、今回はミナサマにお願いがございます・・・・・・・・・


どなたか、現代アキトと未来アキトの上手な区別の仕方をご教授ください!!!
平に、平にお願いつかまつりまするぅぅぅぅぅぅぅぅ(哀願)

・・・・・・・・コホン
ところで、みなさん見ましたか?
『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!!』
なにを隠そう、おれっちは織田裕二ファンでして、しかも『踊る』にハマリまくりなんですよ(笑)
そんなわけで、映画館に行ってみました!


えがった〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜♪(悦)


うんうん、すばらしいですよ。ホントにもうっ♪(感涙)
見ていない人は、是非とも見てください!!
もし、面白くなかったら・・・・・・・泣きますよ、おれっち?


それでは、またお会いしましょう♪
では!!!

BGM:Mr.Children『ニシエヒガシエ』

 

 

 

 

代理人の感想

誰かがこれをやらねばならぬ、期待の人が俺たちならば!

 

そんなノリになってきましたねー。

まぁ、元々ナデシコは『アレ』のパロディ・オマージュという面も強いので順当といえば順当な展開ですがw

 

 

しかし、やっぱり婿養子ってのは抵抗があるのかなぁ。

私はあまり気にならないんですが。

(苗字を変えるのは確かに面倒臭いですが)