機動戦艦ナデシコ  OVERTURN The prince of darkness

第十七話『インターバル』












『はじめましてですね、ラピス』


「・・・・・(ぺこり)」



 ハンニバルの表示したウインドウに向かって頭を下げるラピス。

 俺が未来で初めてラピスをハンニバルに会わせた時には特に反応はなかった。

 でも、ここにいるラピスは素直に頭を下げている。

 それだけで、俺の教育が明らかに足りなかったことを痛感しつつ、ここにいるラピスは自分の知っているラピスではないと実感した。



『私はユーチャリスに搭載されているAIハンニバルです。

 館内で困ったことがあったらいつでも声をかけてください』


「うん。ハンちゃん」



 思わずズッコケそうになった。

 出会ったばっかりのハンニバルに
ニックネームですか!?

 どうやらシバヤマたちの教育はかなり進んでいるようだ。

 元々、2人ともラピスのような立場を経験しているらしいからそれを基に教育したのだろう。



『ハンちゃん? それは私のことですか?』

「(こくん)」





『・・・・・・・・・・・・・・・素晴らしいです! サイコーです!!

 ああ、まさかラピスにニックネームをつけられる日が来るとはっ!!

 テンカワさんの教育だったら、絶対に有り得ないことが起きています!!!(感涙)』



 もしハンニバルに実体があるのならシバキ倒したい。

 どうせ俺の育て方は問題あっただろうさ。

 俺はふつふつと燃え上がる怒りをなんとか抑えながら、ラピスの肩に触れた。



「まっ、悪い奴じゃないから仲良くしてやってくれ」

「うん」

「さぁラピスちゃん、ちょっとこっちにおいで」



 ユリカがラピスを呼んで、トコトコと歩いていたラピスを抱き上げる。



「うわ〜、重たいね。

 この調子でどんどん大きくなったら、すっごい美人さんになれるよ!

 ユリカ、保障する!!」



 そんなことを言いながら、ユリカはラピスを抱いたままブリッジから出ていった。



「それじゃアキト、またあとでね♪」



 そして、俺は一人でブリッジに残った。

















「ハンニバル、俺はナデシコに乗ることにした」


『そうですか』



 ポツリと零した言葉に、ハンニバルが短く返した。



「以降、ユーチャリスの艦長はシバヤマが勤めることになる。

 コロコロと艦長が変わってすまない」


『大したことじゃありません。

 データをちょっと改編するだけです』


「そうか」



 俺はバイザーをとった。

 それがハンニバルに対するせめてもの礼儀だと感じたからだ。



『テンカワさん、ひとつだけ聞いてもいいですか?』


「なんだ?」


『テンカワさんが初めてユーチャリスに乗ったときの願いは達成されたのですか?』



 その言葉に、俺は目を閉じて上を向いた。

 月臣とゴートの下、死ぬ物狂いで訓練を積み重ね俺は復讐鬼となった。

 完成されたユーチャリスとブラックサレナを目にしたときには胸の奥から乾いた笑いが出た。



 その時の俺の願い―――――



 それはユリカを助けたかったのだろうか?

 それとも、火星の後継者たちに復讐をしたかったのだろうか?

 歪み、荒みきっていた俺の心はなにを願ったのだろうか?

 ユーチャリスを駆り、ブラックサレナを操り、ラピスを従えて破壊と殺戮を続けた日々。

 もしかしたら、願いなんてなかったのかもしれない。

 擬似的な目標を打ち立てて、狂っていただけかもしれない。



「正直、わからない。

 その時、俺がなにを願っていたのかもな」



 俺は目を開いて正面を見た。




 するとメインスクリーンに一人の穏やかそうな青年が映し出された。




「私は、ずっとテンカワさんを見ていました」


「!―――――しゃべれたのか?」



 ブリッジにだけ響く自分のものでない声。

 初めて見るハンニバルの姿と、初めて聞くハンニバルの声だった。



「特別です。

 感情を素直に伝えるためには音声のほうがいいですから。

 あ、画像はオマケです。

 これって案外メモリを食うので普段は絶対にやらないのですが」


「そうか」



 俺はゆっくりとキャプテンシートに座った。



「今、そこはテンカワさんの席じゃないですよ?」



 スクリーンの青年、いや、ハンニバルが笑いながら注意する。



「いいじゃないか、固いことを言うな」


「そうします。あんまり言うと、口うるさい姑みたいになってしまいます」



 すると、ハンニバルも突然現れた俺が座るキャプテンシートと同じシートに座った。



「これでお相子ということで」


「はっはっは、それはいいな」





「―――――テンカワさんが私に向かって笑うのをはじめて見ました」


「そういえば、そうかもしれないな」


「雑談をしても、いつもプリプリ怒っていました」


「それはおまえのせいだ!」


「ほら、今みたいに」



 ハンニバルの指摘で俺は 何も言えなくなった。


 ―――――そして、2人でいっしょに笑った。


















「結局、俺はおまえになにもしてやれなかったな」


「そんなことはありません。これでも結構楽しくやっていましたよ。

 私の最初のマスターがテンカワさんだったことは本当によかったと思っています」


「へぇ、それはまたどうして?」


「おかげで、人間のことを好きになることが出来たからです」


「・・・・・そうか」








 しばらくしてから、俺はキャプテンシートから立ち上がった。



「そろそろ行くよ」



 俺はバイザーをかけた。



「待ってください。

 最後に、一言だけいいですか?」



 スクリーンを見ると、ハンニバルも立ち上がっていた。



「どうやら、私の願いは叶ったようです」


「おまえの?」


「そうです。

 いつか、テンカワさんがこの艦を降りるとき、その時には幸せになっていてほしいという願いです」



 真摯な表情で俺を見るハンニバル。

 俺はもう一度バイザーを外して、ハンニバルを見た。




「ありがとう、ハンニバル」


「こちらこそ、『艦長』」



 フッ、とブリッジ全体の明かりが消え、スクリーンの映像も消えた。





 これで終わり。





 俺はバイザーをかけ、マントを翻してブリッジを後にした。









 ―――――たまには遊びに来るからな。






















 ブリッジを出ると、ルリちゃんとカツミさんが立っていた。



「どうしたの?」


「・・・・・ハンニバルが入れてくれなかったんです」



 ちょっとすねた感じでルリちゃんが教えてくれた。

 まったく、AIの割にはいろいろと気を使う奴だ。



「もう大丈夫だよ。

 ところで、なにしにきたの?」


「今日のところは、ハンニバルに挨拶ってところです」


「わたしは付き添い」



 2人の言葉に笑って返し、ルリちゃんは俺に笑い返してからブリッジに入っていった。

 扉が閉まると、カツミさんが俺に向かって声をかけた。



「今までお疲れ様でした、テンカワ艦長」


「ああ、ありがとう」



 そしてカツミさんもブリッジに入っていった。




























「別れの挨拶は済んだか?」


「ああ。ユーチャリスとハンニバルのことよろしく頼む」



 さっきまで来ていなかったロングコートを纏ったシバヤマに俺は言葉を返した。



「頼まれなくてもよろしくやるさ。

 そっちもナデシコでがんばるんだな」


「ああ」





 それだけ言うとお互いに歩き始めた。

 そしてすれ違い、離れていく。



「シバヤマ」



 俺の声にシバヤマは足を止めた。

 シバヤマは振り返らない。

 そして、俺も振り返らない。


















「始まりだ」








「ああ。俺たちのな」



















 そして俺たちは歩き出す。



 お互いの目的のために――――――――――
























次回予告(ウリバタケ=セイヤ口調)


別れとは恒久なものではない。
それでも二人は過去に別れを告げたのかもしれない。

インターバルを越えて物語りは動き出す。進むナデシコの前に立ちはだかるモノを、ああ、君は見たか?

最近、制限速度22キロオーバーで切符を切られた作者が送る次回、機動戦艦ナデシコ OVERTURN The prince of darkness
『どうせ私は気ままな女』を、みんなで見よう!!


こんちは、きーちゃんです!

え〜〜〜、予告に書いたとおりです。

白バイにつかまった!!!(号泣)

罰金、1万5千円。痛い・・・・・・・・・・・
はい、自業自得です。わかってますよぉ(おろろ〜ん)

さてさて、最近ナデシコのTV版と劇場版を見ました。
それを見てのおれっちの感想・・・・・

『おれっちの作品ってナデシコっぽくないなぁ(しみじみ)』

こう思った次第です、はい。
まぁ、これからも精進しますが、おそらく『ご〜いんぐ まい うぇい』状態になると思いますので、あきらめて読んでください。

あ、それと、メルアドが変更になりました。
keytyan_judecca@hotmail.com
みなさん、よろしくお願いします。

それでは、またお会いしましょう♪

では!!!

 

BGM:TAK MATSUMOTO featuring 中村由利『私は風』

 

 

管理人の感想

きーちゃんさんからの投稿です。

駄目ですよ、第六感で白バイの存在を感じないと(苦笑)

私なんて逆走しようがスピードオーバーしようが・・・ほら、見事にゴールド免許(爆)

と、きーちゃんさんを追い込む話はここまでにしておいて。

ハンニバルって本当にAIですかね?

もう何ていうか、オモイカネ如きじゃ太刀打ちできない性能を持ってそう(汗)

もしかしたら、ハーリーなんかがオペレーターだと、弄ばれそうですね(苦笑)