目の前に懐かしい風景が広がった。

 見渡す限り広がる草原は、記憶の中にあるそれと同じだった。

 俺はゆっくりと後ろに倒れ、空を見上げた。

 地球の空ほど青くはないが、それでも澄んだ大気が太陽の光を通していた。

 記憶の中の風景よりも暗く見えるのは、俺がバイザーをしているからだろう。

 昔、ユリカと走った草原。

 俺たちの新婚旅行の目的だった場所。

 そこに、俺は一人でジャンプしてきた。

 せめて、最期はここで全てを終わらせたいと思ったからだ。



 火星での『火星の後継者』制圧から一ヶ月。

 連合軍と統合軍は粛々と事後処理を行っている。

 首謀者である草壁春樹の裁判もそのうち始まるだろう。

 クーデターは失敗に終わった。

 しかし、それで全てが終わるわけではない。

 そのクーデターの最中のコロニー襲撃事件。

 火星の後継者から入手したデータを統合軍が調べた結果、襲撃犯の全貌が解明されつつあった。

 白い戦艦と黒い機動兵器。

 そして火星での最後の戦いで、ナデシコCが確認した同じ型の戦艦と機動兵器。

 統合軍と連合軍はナデシコC艦長ホシノ ルリ少佐以下、ナデシコCのクルーの尋問を行った。

 同時に、オモイカネのメモリバンクの解析。

 さらにネルガルにまで捜査の手はおよび、結果一人の男の存在が浮上した。



 テンカワ アキト。



 俺を捕まえるために連合軍と統合軍は各方面に打診した。

 テレビ、ラジオ、ネット、掲示板、町内会の回覧板まで。

 いつしか俺には懸賞金までかけられていた。

 ほっといても、俺はどうせしばらくしたら死ぬ。

 火星の後継者の連中にされた人体実験の結果、俺の身体は蝕まれ、イネス フレサンジュの診断ではそんなに長くないという。

 具体的に尋ねてみたが、答えてはくれなかった。

 それでもしつこく尋ねたが、ただ涙を浮かべるだけで黙り続けるだけだった。

 それで十分だった。

 だから、俺はネルガルを出た。

 チューリップクリスタルでの単体ボソンジャンプ。

 そして一人でこの地に来た。

 軍が俺を捕まえたい理由も分かる。

 5つのコロニーを落としたテロリスト。

 そんな危険人物を野放しに出来るはずもない。

 そして、俺を追う別の連中。

 ナデシコのみんなだ。







「ふぅ―――――」


 俺は小さくため息をついて、バイザーの下の目を閉じた。

 実際、身体に変調を感じる。

 五感も一ヶ月前より鈍った感じがする。

 その上、左腕の感覚も薄れてきた気がする。

 しかし、気持ちよかった。

 風も草の匂いも感じないが、この草原には開放感があった。

 全てから逃げ出した場所。



 少し、眠気がした。

 こんな場所で寝ていたら、軍にでも見つかるかもしれない。

 だが、少し眠ることにしよう。















機動戦艦ナデシコ +α

   ――――― 遠くまで ―――――




第1話 『サーヴァイヴ ファンク』








 パチッ パチパチッ


 何か弾ける音のようなものが聞こえ、俺は目を覚ました。

 空を見るともう暗くなっていた。



「夜か。思ったより寝てたんだな」



 俺は身体を起こして音のする方を見た。

 そこにあるのは、焚き火だった。



 ―――――なぜ!?



 俺は慌てて周りを見た。

 そこはさっきまでいた草原ではなく、どこかの林の中のようだ。

 さらにいろいろ調べてみる。

 焚き火の周りには、レーションの空容器、寝袋、そして大きなリュックが置いてあった。



「誰かが、俺をここに運んだのか?」



 とんでもない事だ。

 寝ている間に、誰かが俺をどこかに運んだのだろう。

 誰だ、軍か? 警察か? それともナデシコのみんなか?

 でも、それならこんな林の中にいる説明がつかない。









「ほう、目を覚ましたか」



 突然、暗闇のほうから声がした。



「まさか、有名なテロリストがあんな場所で昼寝しているとはな。

 俺も探していたんだが、さすがにびっくりしたぞ」



 ほとんど足音を立てずに、相手はこっちに近づいてきた。

 俺は懐にある銃を掴んだ。

 聞いたことのない声だった。

 もし、敵であるならば応戦しなければならない。



「誰だ!?」



 やがて、相手は焚き火の明かりの届く場所まで来た。

 目の前に現れたのは、、、、、女性だった。

 赤い長髪をポニーテールでまとめ、凛々しい顔立ち、そして格好は木連の男性用制服。

 火星の後継者の残党か? しかし、それなら木連の白い学ランのような制服を着ているわけがない。



「ん、名前か? 名は北斗という」



 まるで待ち望んでいた獲物を見つけたかのように、北斗と名乗った女は「にぃ」と口元を歪めた。












「ひとまず、懐で握っている物騒なものを放せ。

 そんなものじゃ俺は殺せんが、気になるからな」



 焚き火の傍に座り込んだ北斗は手に持っていたたくさんの枝を脇に置いた。

 そして北斗は上着を脱いで赤いTシャツ姿になって俺を見た。



「そんなに警戒するなよ」


「こんな状況じゃ警戒するなっていうのも無理な話だろ」



 俺は座りなおして、北斗を見た。

 二十歳を越えたくらい、俺と同い年くらいだろうか。

 整った顔立ちと、綺麗な曲線を描いているしなやかそうな肢体。

 それだけ見ればただのとびっきりの美女だ。

 だが、押し殺している雰囲気は異質なものだ。

 目の前には獰猛な野獣がいる。

 俺のどこかがそう警鐘を鳴らす。



「俺を捜していたといっていたな。軍の人間か?」


「いや、貴様に殺された親父の娘だ」



 焚き火の炎の揺らめきのせいか、北斗の瞳がギラリと光る。

 ―――――なるほど、俺が殺した人間の遺族というわけか。

 それならば、俺を目の前にしてこのような雰囲気をしていても不思議じゃない。



「俺を殺しに来たのか? それとも軍に引き渡すか?」



 逃げるという選択肢は、俺の中にはなかった。

 俺の積み重ねてきた罪の当然の代償だ。

 復讐鬼が復讐のために殺される。

 滑稽かもしれないが、それでもいいと思った。

 しかし、北斗の答えは違った。



「そんな無粋な真似はしないさ。俺も軍から追われている身でね」


「なに?」


「名前だけじゃピンと来ないか?

 俺の親父は北辰。

 貴様が殺した、火星の後継者の暗部だった野郎さ」


「なんだと!??」



 俺は思わず立ち上がって銃を抜いた。

 こいつが北辰の娘だと?

 たしかに、それならこの獰猛なまでの雰囲気に説明がつく。

 噂は一度だけ聞いたことがある。

 木連時代に暗部で生きた北辰の子供『真紅の羅刹』。

 しかし、その人物はすでに北辰に殺されたと聞いていた。

 ところが生きていた。しかも、こんなに若い女だったとは!?

 火星の後継者の残党として俺を仕留めに来たのか?



 しかし、北斗は笑いながら小さくなった焚き火に枝を放り込んだ。



「だから警戒するな。貴様と殺しあうのも一興だが、今はそんな気分じゃない」


「ならば何故俺を捜していた?」



 無論、俺は警戒を解くことなく北斗に尋ねる。



「貴様に興味があったからさ、テンカワ アキト。

 A級ジャンパーであり、助け出されてからの復讐鬼としての数々の功績。

 そして、俺の親父を殺した実力。実に魅力的だ」


「・・・・・・・・・・」



 俺は無言で銃をしまい、腰を下ろした。



「少しは話を聞く気になったか?」


「ああ。まだ信用はできないがな」


「まぁそれでいいさ。

 ところで、世界最強のテロリスト殿はなんであんな場所にいたんだ?」



 北斗はにやにやしながら俺を見る。

 本当に楽しんでいるようだ。

 別に話してやる義理はないが、俺はなんとなく話した。



「おまえら、火星の後継者の連中のおかげで俺の余命は後少しってところなんだよ。

 死ぬ時くらい自分の好きな所にいたいだけさ」


「たしか貴様は家族がいただろ?

 そこに行かなくていいのか、それとも復讐で血の塗れた自分の姿を家族に見せたくないってタイプか?」


「そんなこと、おまえに関係ないだろ」


「はっはっは、たしかにな」



 なにがおかしいのか、北斗は豪快に笑い飛ばした。



「それで故郷の火星に逃げてきたのか」


「よく調べているな」


「まぁな。ほとんど幽閉され続けた生活だったから他にすることもないしな。

 貴様のことを調べると楽しくて仕方なかったな。

 普通の民間人がなんの因果か、一企業の全面バックアップの下で最強の復讐鬼となった。

 戦場で出会ったのなら真っ先に戦ってみたい相手だ」


「だから俺を捜したのか?」


「違う。そうじゃない」



 そういうと北斗は立ち上がって、俺の傍にしゃがんで顔を覗き込んだ。



「戦ってみたいとも思うが、とにかく見てみたかったんだよ。

 俺のように修羅の道を歩いている男がどんなヤツなのかをな」



 パチッと焚き火の音が聞こえた。

 至近距離で笑みを浮かべる北斗。
 いったい、こいつは何を考えているんだ?

 男に人生を狂わされた男と、その男に父親を殺された女。

 その2人が今、一緒にいる。

 しかもその女は笑っている。



「実はな、俺も追われている身なんだ。

 一応死んだことになってはいたんだが、電子の妖精がデータを全部吸い上げたおかげで俺が幽閉されていることがバレてな。

 まぁ、幽閉されていた牢に来た兵士を皆殺しにして今は放浪の身ってわけさ」



 それだけ言うと、北斗は俺から離れて元の場所に戻った。



「なぁ、テンカワ アキト」


「・・・・・なんだ?」



 北斗は極上の笑みを浮かべながら、予想もしていなかった事を言った。



「一緒に逃げないか?」




























「気が乗らねぇなぁ」


「あぁ?」



 ソファーの上で寝そべりながら答える俺に、相棒がとんでもない表情をする。



「だいたい、こんな事をするようなヤツってのは自分に都合が良い思想の塊みたいな野郎なんだよ」


「四の五のいってんじゃねぇよ。まぁ、情報はネルガルに操作されていて、しかもそれを実際にやってるのはマシンチャイルドらしいけどな」


「だったらますます無茶じゃねぇか。あいつだって、そんなバケモンみたいなヤツ相手にまともに勝負して勝てんのかよ」


「でもな、女はやる気みたいだぞ?」



 そう言いながら顎でしゃくる方を見ると、はねっかえりな女がガキにすがり付いていた。



「はにゃ〜〜〜〜ぁ」


「だーかーらー、アンタの得意なネットダイブでちゃちゃっと情報を集めてくれればいいのよ!」


「ちゃちゃっと集めて、ほいほいさがして、くるくるポイッってするんだね?」


「最後に捨ててどうするのよ、捨ててっ!!」



 女がガキのほっぺたを引っ張りながらがなりたてる。



「いいじゃねぇかよ。あいつらにがんばってもらえばよ」



 興味をなくした俺は、手をひらひらと振りながら相棒にかえした。



「そうかよ、なら俺はあいつらと組んで勝手にやるさ」


「おうー、勝手にやってくれ」


「しっかし、あんだけの賞金かかっているのに尻込みしやがってよぉ」


「あんだけの賞金?」




 そういえば、その賞金首の話を聞いただけでテレビも見ていないから賞金額を聞いてなかったな。




「なんだ、知らねぇのかよ」



 呆れた顔をした相棒は、組んでいた腕をほどいて義手である左手でワッカを作った。



「聞いて驚け。過去最高の賞金額、なんと4億5千万だ!」


「よ、4億!??」



 俺は飛び起きて相棒を見た。

 すると相棒はにんまりと笑って、そしてやれやれと言わんばかりに手を挙げて首を振った。



「まぁ、乗り気じゃねぇってんなら無理にってはいわねぇけどよ。じゃ、俺はあいつらとやってみるぜ」


「ちょっと待て! もうちょっと詳しく教えてくれ」


「なんだ、変な思想家野郎なんて嫌だったんじゃねぇのかよ」


「いや、その・・・・」



 バツ悪く頬を引っ掻いていると、女がこっちを見てにやりと笑った。



「どうせ賞金額聞いてやる気になったのよ。でもお生憎様、アンタたちじゃ役不足よ。

 こっちにはコイツがついているんだからね」


「ほえ?」



 勝ち誇った笑みを浮かべる女と、全然状況を理解していないような顔をしている軟体動物のようなチビ。



「まぁまぁ、いいじゃねぇか。3人で割っても1人1億5千万だ。

 これを逃す手は―――――ないわな?」



 俺は口元を歪めてから目の前のテーブルを見た。

 そこにはさっき食ったメシの残骸が残っている。

 メニューは、俺の相棒であるジェットの特製チンジャオロース。

 要は、タケノコとピーマンだけの肉の入っていないチンジャオロース。

 貧相なことこの上ねぇよな。

 人間にはたんぱく質が必要なんだよ。



「しゃーないな。んじゃ、俺がさっき言ったことは置いといてと」


「な〜にが置いとくのよ」


「うるせー! 俺だってなたまにはチャンとしたメシが食いたいんだよ!

 おいエド、ちょっとその賞金首を調べてくれ」


「あいあ〜〜〜い」


「ワンッ!!」



 余計なケダモノまで返事をしたが今はそんなモンは気にならねぇ。

 4億5千万、これだけありゃマシンのオーバーホールをしてもたんまり金が残る。

 たらふくメシ食って、どっかでのんびりバカンスして、夜に好きなだけ酒を飲む。



「すっかりやる気になっちゃって。今頃、頭の中がバラ色ね」


「いいじゃねぇかよ。フェイだってそんだけありゃ借金返せるだろ?」


「あ〜ら、お生憎様。わたしはそんな事に使わないわ。

 ギャンブルにつぎ込んでたんまりと稼いでからなら返してあげてもいいけど」


「ったく、女って生き物は。

 おい、スパイク! 、、、、、って、こっちもまだ夢の世界かよ」



 ジェットの言うとおり、俺は首から花輪をかけて煙草を咥え両手に酒とでっかい肉の塊を持っている自分を思い浮かべていた。



「わかったよ〜!」


「「「えっ!??」」」



 エドの一言に俺たちは振り返って、エドに猛然と襲い掛かった。



「「「で、ヤツはどこにいる!?(んだ!?)(のよ!?)」」」


「う〜んとね、火星のユートピアコロニーの近くでボソン反応が―――――」


「ちょっと、ジェット。さっさと船を火星に向けて!」


「うるせぇってんだよ、俺の船のことに指図するんじゃねぇ!!」


「んなこと言ってる場合じゃねぇだろ?

 4億5千万が俺たちを待ってんだ、さっさと出発だ、出発!!」


「まったく、おまえらは」


「ね〜、ね〜〜〜、も〜い〜の〜?」


「わん!」








 しばらくして、ビバップ号の両翼に取り付けられたエンジンが豪快に火を噴いた。

 ラッキーなことに、今は火星の近くの宙域にいる。

 うまいこといけば明日の朝までに火星に着くだろう。



 さぁ待っていやがれ、4億5千万!!!















「ところで、その賞金首の名前はなんて言うんだ?」


「・・・・・おいおい」





















次回予告

「おいおい、なんで俺たちが出てんだよ。大体ここはナデシコの世界だろ?」
「別にいいじゃねぇか。そんな固いこと言わなくてもよぉ」
「だからってな、版権だのなんだのって騒がれてるご時勢に、なんだってこんなゴチャゴチャしたもんを書くんだよ」
「そんなこと知るかよ。この作品は作者の気分次第なんだ。まっ、あきらめるこったな」
「ちくしょう、理不尽な世の中だぜまったく。次回、『ランナウェイ サンバ』」
「俺だって不安だよぉ」

 


どーも、こんにちは。きーちゃんです☆

すみません、一本長編を書いているくせに、こっちまでスタートさせちゃいました!(汗)
いやいや、これにはふか〜い事情がありまして・・・・・
ぶっちゃけ、もう一本のほうのネタを考えているうちに、まったく別のネタになってしまったんですよ!(理由浅ッ)
それで、思いついたことを適当に入力していたら・・・・・こうなりました(^▽^;

え〜、これは読んでもらえばわかるのですが、管理人Benさんの作品『時の流れに』から北斗のキャラをお借りした上に
COWBOY BEBOPを持ってきました。
とにかく、ノリだけで最後まで書いていこうと思います。
それと、あくまで自分の執筆の「いまのところの」目標は『OVERTURN The prince of darkness』の完結です。
なので、こっちのほうはその合間合間に書いていこうと思っていますので、更新がさらに遅いと思います。
まぁ、そんなに長い話にはしないつもりですが(汗)
そんなわけなので、あんまり期待しないで、でもちょこっとだけ楽しんで読んでください。

それと・・・・・これはおれっちの魂の叫びです。

ビバップの二次創作って難しいんだよ!(号泣)
ねぇ、そこのアナタ、わかるぅ? わかります!??(ハンカチ噛みながら)
おれっちはなんでこんなモンに手を出しちゃったのよ!!!(すでに後悔)
特に、
エドの台詞なんかどないせっちゅーーーーーねんっ!(激滝涙)

・・・・・あっはっは(遠い目)

それでは、またお会いしましょう。
では!!!

 

BGM:隣で彼女さんがやっている脱衣麻雀『月雀』・・・・・・・・・・これも十分イタイです(泣)

 

 

 

代理人の感想

・・・・まさかとは思ったけど、ビバップですかい!(爆)

北斗とアキトの道中は面白そうなんですが、こいつらが絡んでくるとなるとなぁ・・・。

この第一話だけではそれ以上取り立てて言うことも無いんですが、

ビバップ世界に比べてナデシコ世界はお上の力が強いようなので、それは頭の隅に置いておいた方がいいかなと。