軌道上のチューリップが破壊されたとはいえ、火星の地表では相当数のバッタが稼動していた。無人と化した市街地を闊歩するバッタの姿は街の雰囲気と相まって不気味さを増し、おそらくは見知った木連の人間ですら恐怖を覚えるだろうと思われた。

 我が物顔で道路を徘徊していたバッタが6つばかり、一瞬にして切断された。

 『ハイパークロックオーバー!』

 ハイパークロックアップしたハイパーカブトが通行の邪魔になるバッタを斬り捨てたのだ。ボソンジャンプフィールドの安定を保つためにボソンプレートを展開したままの活動を余儀なくされているハイパーカブトにとって、少しでも脅威であると判断したのなら確実に仕留めておく必要がある。ボソンプレート部分は通常の装甲に比べても脆く、なお悪いことにここに過大な衝撃が加えられるとシステムダウンを起こしてしまう危険性が高い。それに後続の部隊の安全確保も重要な仕事だ。交戦を避けるに越したことは無いが、出来うる限り排除しておく方が好ましいはずだ。何しろ起動後は破壊されるまで停止する事が出来ないというまだまだ。

 隣には、一瞬送れてクロックアップを終えたガタックが立っていた。通常のクロックアップしか対応していないガタックではハイパーカブトには完全についていけないため、ハイパーカブトの方が加減して動く羽目になった。この場合、単純に装備のバランスが取れていないだけである。幸いなことにガタックのシステムは北斗と相性が良く、本人も喜んで働いてくれている。菫も自分よりも明らかに武術の才能に恵まれている北斗に嫉妬しつつも素直に譲っている。どうせ機動兵器の操縦なら自分が圧倒しているのだから、この方がバランスが良くて良いと考えたのも事実だが、無用に事を構えるようなことをしたくなかったのだ。。

 ストレリチアから回収したデータディスクとGコントローラーはとっとと木連本国に送り返しておいた。今頃ヤマサキ辺りが嬉々としてデータの回収と今後のプランに役立てようと走り回っている頃だろう。まあ、喜び過ぎて血圧が上がり過ぎなければいいが。

 「光輝、シェルターの位置を知ってるのか?」

 北斗が周囲を警戒しながら訪ねてくる。久しぶりの出番とあって精神的な高揚は否めないが、かなり落ち着いている。相当場馴れしているようだ。生前は一体何をやっていたのやらと、訪ねたことがない光輝は少々気になったが、ここでは無視することにした。

 「役所の類の施設なら、案内があってもおかしくないと思うんだがな。キット、凡その場所を調べられないか?」

 『ハイパーゼクターの空間解析能力を最大限に活用すれば、大規模なシェルターを探すことは困難ではありませんが、何分ユートピアコロニーの地理情報が全くありませんので、スキャンを行います。少々お時間を下さい』

 そう言うなり分析を開始した。空間スキャンのために電力の大半がセンサー類に回されたため運動能力が著しく低下する。この状況下で無防備になることだけは避けたかったが目的地どころか地理がわからない状態で歩き回るより格段にマシだろう。

 「来た! 迎撃行動に入るぞ!」

 カブトが動けない状態での敵襲に冷静かつ素早く即座に迎撃態勢に入る。飛び道具がまともに使えないガタックだが、それでも2振りの剣がある。両手にダブルカリバーをそれぞれ構え、一気に駆け抜ける。

 ≪北斗、頑張ってね!≫

 脳裏に菫の檄が飛び、それに応えるかのようにガタックが剣を振り回し、危なげなくバッタ達を切り捨ていく。

 「ふん、ちょろいぜ!」

 ≪すごい、北斗って本当に光輝並みだね。あたしもそれくらい出来たら良かったのに≫

 「才能があったからって幸せとは限らないぞ。現に俺はとっくの昔に死んでて、無念があったからこうしてお前にとり憑いてるわけだからな。それに比べて、求めたものを手に入れられなかった代わりに、良い旦那手に入れたじゃねぇか。要は、本人が幸せならそれで良いのさ」

 目の前でバチバチとスパークしながら手足をワキワキと動かしているバッタを見ながら北斗は菫にそう言った。望んだものが手に入ったからといって必ずしも幸せとは限らない。手に入れてしまったが故に後々不幸になることだってたくさんある。北斗の言いたいことが伝わった菫は、「ありがとう」と礼を言って話を切り上げた。肉体を共用してしまっているとはいえ、赤の他人である自分に優しくしてくれる彼の存在が嬉しかった。しかし、見方を変えれば生涯の愛を誓った旦那以外に体を許しているともとれなくはないので、知らぬ内に自分の体を手に入れた彼にちょっぴり殺意が湧いた。

 「所在がわかったぞ、ついて来い」

 そう言うとカブトは返事を待たずに走り出す。

 「よっしゃ! 早く助けに行こうぜ」

 剣を両手に握りしめたままガタックが続く。その背後を敵対行動を認知したバッタの群れが追いかけてくる。なまじライダーがヒーローな姿なので、悪役テイスト満点なバッタから逃走する姿は非常に滑稽と言えた。傍から見ると悪党に戦いを挑んだが数の暴力に負けて逃げ帰る情けないヒーローでしかなかった。
 少なくとも子供達が見たらさぞかし嘆くだろう。









 一方アキトは、ユーチャリスの艦内に舞い戻っていた。ブラックサレナを降り、艦内を走り回って携行火器をありったけ集める。何しろ白兵戦を全く想定していないわけは無いし、施設への侵入を考慮してそこそこの重火器も少しくらいは積んでいた。と言っても、懸架して使うような大型火器は積んでないし、そもそも容易に持ち運び出来ないということを考えるとあっても無用の長物だろう。ユーチャリスを拠点として籠城戦を行うのなら話は別だが。後は火星の人々をどうやって生き残らせるかだが、どうやらアスマ(光輝)のおかげでチューリップの落下は防げたようだし、コロニーも壊滅には至っていない。これなら、シェルターもかなりの確立で無傷のはず。
 備え付けられていたタクティカルベストを羽織り、筆箱大の医療セットをポケットにしまいこみ、9mm口径の自動拳銃を右太腿のホルスターに収め、予備のマガジンを2本腰のベルトに差し込む。こんなものではバッタは倒せないが、無いよりはマシだと思う。相手のカメラアイを一時的に混乱させる目的で閃光手榴弾を5つ程やはりベルトに吊るす。そして本命、携行可能な銃器の中で最も威力の高い軽機関銃をベルトを使って肩から吊るし、ドラムマガジンの予備を5つ程強引に持っていくことにする。発射の際には2脚を使って安定性を高めた射撃も可能だ。本当ならこんな弾薬の消耗が激しい武器では無く弾持ちが良くて高火力な武器を保有したいところだが、高火力の火器ほど1人では持ち運びが困難で発砲そのものが無理に近い(ほぼ固定して使用しなければならないほど反動が大きい)のは今も昔も変わらない。対戦車ロケットと呼ばれたロケット弾でも持っていけばそれなりに安心出来るが、かさばる上にバッタの運動性の前ではあまり命中率が高くない上に、そもそも数を持ち運べないし基本的に使い捨てのものが多く、ますます1人では運用し難い。

 「それに、アイちゃんのジャンプを誘発しないといけないしな」

 無意識下のボソンジャンプのトリガーが強い生存本能にあるのなら、適度に怖がらせれば跳ぶかもしれない。駄目だったら抱えて自ら適当に跳ぶだけだ。最悪それで見知らぬ土地に出てしまっても構わないだろう。帰ることは出来ると思う。あの時とは違う、絶対に死ねない。元の世界に戻れる方法を見つけるまでは、これ以上ユリカを悲しませるような真似は絶対にしない。

 「とりあえず、その時のためにCCは多めに持っていこう」

 いそいそとケースにCCを収めて緊急事態に備える。早くアスマ達と合流しないと、アキトは装備を担いでユーチャリスを後にした。幸い、シェルターはここからそう遠くない。






 『マキシマム! ハイパー、サイクロン!』

 パーフェクトゼクターから放たれた巨大な粒子ビームの奔流がバッタたちを容赦なく飲み込み、ついでに建造物を巻き込んで消滅させる。しかしエネルギー供給が不安定なためか、木星で使用した時よりも出力が低く効果範囲も小さかった。

 「ちっ。こんなところで使わされるとはな」

 あまりに多いバッタの数に、光輝は超必殺技を使わざるを得なかった。北斗に人格を交代したガタックは予想以上に頑張っていたが、ライダーフォームでの戦闘に限られると双剣――ガタックダブルカリバーに攻撃手段が限定されて殲滅力が低くなる。しかもハイパーカブトとは足が違い過ぎてどうしても進行のペースが遅くなっている。その分敵も集合してしまうので今度は数の暴力に押されてしまっている。後先のことを考えていられるほどの余裕が無くなったので仕方なくマキシマムハイパーサイクロンで蹴散らしたが、これも最善の手とは言い難かった。
 市街地にもバッタは多数潜り込んでいる。光輝がパラレルワールド(草壁らにとっては生まれ育った世界)から帰艦した後、火星攻撃の干渉内容がより明確に決定され、ストレリチアとライダーで市街地に紛れ込んだバッタを襲撃し市民の安全を確保した後、木星から部隊を派遣して制空権を確保した後、火星の市民に事情を説明して木連の人間を一部こちらに移しつつ、発見されたナデシコCとユーチャリスを回収しようということになった。が、肝心のストレリチアが失われてしまった今、とにかくシェルターにいるであろう市民の無事を確認し、予定を繰り上げて救助部隊に来てもらう他無い。ボソンジャンプで一気に移動してもよかったのだが、その場合シェルター内部でバッタの群れと交戦するという最悪なシナリオが想定されたので、表で騒ぎを起こしてシェルターへの進行を阻害しつつ数を減らし、突入する時は一気に市民の元へと駆け参じる腹積もりだ。今となってはそれすらも怪しくなってきたが。

 「すまん光輝、足引っ張った」

 「気にするな、ハイパーカブトが武器に恵まれてるだけだ。消耗には気をつけろ、クロックアップの連発は肉体的にもエネルギー的にもキツイ。控えろ」

 「了解、気をつける」

 パーフェクトゼクターはこれで暫く使い物にならない。一応ヤマサキの研究室に送り届けたのでメンテナンスはしてもらえるだろうが、最低でも1時間はかかるだろう。それも超特急でやってもらえれば、の話だ。一対多数向きで殲滅力の高いガタックバルカンを使いたくてもガタックはマスクドフォームに戻れない(エネルギー供給問題)。元々高火力を売りにするガタックダブルバルカンは燃費が悪い上にマスクドフォーム自体ボソンジャンプフィールドの安定度が低い。エネルギーラインが不安定になっている今は安定度の高いライダーフォームを使うしかない。おまけにクロックアップ出来ず重装甲で足の遅くなるマスクドフォーム自体がハイパーカブトの相方として不向きなのだ。

 「しかし、早いとこエネルギー問題を解決してくれねぇと、光輝の負担ばっか増えるな」

 北斗が率直な感想を述べる。確かに無視出来ない問題だ。格闘戦を挑まざるを得ないガタックは遠距離攻撃が出来るカブトに比べて間合いが狭い。カブトからあまり離れられない以上それが際立って活躍の幅がかなり狭くなっているのが現状だ。いざとなればあの忌々しい“能力”を使って強引にねじ伏せることが出来なくもないが、流石に命を天秤にかけるのは本末転倒だ。あの“能力”封じるために付けているバンダナは、ライダーシステムを使用している現在も頭に巻いている。こいつは人の脳に直接働きかけて精神的な操作を行う、本来は“洗脳操作”に使われるような結構ヤバい代物だ。これのおかげで精神的にかなり高揚し難くなっているから熱くなって冷静さを失うということはまずありえない。流石にこれが無いと熱くなってしまいがちなのだが。
 本当はこのバンダナは下着ではない(当然装飾品)であるため本当ならシステム起動時に排除されてしまうのだが、つけている理由が理由なのでカブトゼクターに予め言い含ませて残している。これを外すとあのとんでもない“能力”が何時発動してしまうかわからなくなるし、あんな“能力”を使う気にはなれない。体力の消耗が著しいばかりか使った後の反動が大き過ぎて死にかけたこともあったし。開祖はよくもまあ平然と使えたものだと感心するほどにヤバい。

 「確かにな、早くしてもらわないと困るな」

 光輝も同意してから新しい武器――カブトクナイガンが取り出す。……否、瞬間構成する。パーフェクトゼクターのような例外を除けば、ライダーの装備は変身の度に生成されている。本来はマスクドフォームとライダーフォームで使用するクナイガンも、必要に応じてハイパーフォームでも使用出来る。逆に、パーフェクトゼクター等は使用に必要なシステムの幾つかがハイパーフォームでしか構成されないので他のフォームでは使用する事すらままならない。

 正面にいたバッタにクナイガンを3連射。粒子ビームにカメラを破壊されたバッタは一時的な混乱状態に陥る。カブトはそのまま接近してグリップ部分のバヨネットアックスを叩きつけ、装甲を切り裂いて内部構造までも破壊する。粒子ビームによって強化された刃には容易い芸当だ。刃物としての切れ味ではクナイカッターに劣るが、重量があり力を加えやすい形状から装甲などの破壊性能に優れるバヨネットアックスなら、戦闘用のバッタの装甲相手に有効な打撃を繰り出せる。

 「くっ、ここで少し数を減らす必要があるか。このまま進んだとしても雪崩れ込まれる可能性がある!」

 カブトはクナイガンを握りなおしてバッタに襲い掛かる。増援が来る前に跳躍門を叩き、ストレリチアの尊い犠牲のおかげで地表に辿り着いたバッタの数はそう多くない。艦船だけが気がかりだが、詳細な位置も知らずに艦砲射撃を行いはしないだろう。ライダーは目印にするにはあまりにも小さく、脅威としてみるにはあまりにも脆弱だ。仮に発見されても、艦砲射撃はありえないだろう。

 カブトはクナイガンを連射してバッタのカメラを破壊し、バヨネットアックスを叩きつける。時にハイパーフォームでさらに強化された拳や蹴りを見舞い、バッタを空中に踊らせる。パンチで10t、キックならライダーフォームのライダーキックにも迫る15tもの衝撃力を誇る。如何に戦闘用兵器であってもこれほどの衝撃に耐えきることは難しい。しかもバッタは元から装甲が極端に厚くない。構造上の欠点もちゃんと予習済みだ。問題無く素手でボコれるが、その場合武器を使うよりも効率が悪いのが欠点か。

 「このっ、このっ、このっ!」

 対照的にガタックは一切の銃撃を行わず(行えない)ひたすらダブルカリバーでバッタを切り裂き、蹴り飛ばして始末している。カブトに比べて明らかに効率面で後れを取っている。牽制手段が無いとこうも違いが出るものなのか!

 『エネルギー供給源を確定させました。他のフォームも解禁です。思う存分にどうぞ』

 ようやくキットがエネルギー源からの供給を安定させることに成功したようだ。やれやれと言わんばかりに北斗が叫ぶ。

 「っしゃぁーー! 行くぜバッタ共! プットオン!」

 『プット、オン!』

 全身のプロテクターが再構成されマスクドフォームに逆戻りする。この状態なら両肩に射撃武器であるガタックバルカンが出現する。こういう状況なら、マスクドフォームの方が有利だ。

 「さっきまでと一緒だと思うなよ!」

 北斗は雄たけびを上げてガタックバルカンから粒子ビームの弾丸を撃ちだす。

 上下連装の銃口から発射された粒子ビームは連続してバッタの群れに命中し、あっという間に撃ち砕いていく。
 最大出力ではパーフェクトゼクターのハイパーキャノン(ハイパーシューティング)に匹敵するとあって凄まじい勢いで敵を減らしていく。ようやく戦いの神らしい活躍を見せてくれた。

 「よし、行くぜ。ここまで来たら必殺技も解禁だ」

 言うが早いかゼクターホーンを開いてライダーフォームにチェンジする。そしてガタックゼクターの尻の部分にあるスイッチを3回連続で押してホーンを閉じる。

 『1! 2! 3!』

 電子音声が発せられ、ベルトが急速にエネルギーを集め始める。

 「ライダーキック!」

 ゼクターホーンを開放してチャージアップしたエネルギーを一気に開放! 頭部のガタックホーンを経由して右足に集まる。

 『ライダー、キック!』

 衝撃波エネルギーに変換された全エネルギーを込めた飛び回し蹴りがバッタにヒット。一撃で粉微塵に砕いた。

 「おい、必殺技を連続で使用するなよ。エネルギー供給源が確立したとしても、システムへの充填が間に合わなくなることはありえるんだぞ」

 光輝が念のために注意を促す。放っておくと暴走しかねないとの判断だが、あながち間違いではないところに付き合いの深さを感じる。

 「わかってるよ! そこまで馬鹿じゃない!」

 言いながら光輝はバッタ達の数がだいぶ減ってきたと見て一気に畳みかけることにした。こうなったらこの場にいる奴らだけでも殲滅してやると言わんばかりの勢いだ。

 「ハイパークロックアップ」

 『ハイパークロックアップ!』

 ハイパーゼクターのスラップスイッチを叩き、ハイパークロックアップを作動させる。装甲はすでに展開されているが、ボソンジャンプフィールドの安定度がさらに向上する。ゼクターホーンを倒してマキシマムライダーパワーを発動させ、カブトゼクターのフルスロットルを操作する。

 『マキシマム……ライダー、パワー! 1! 2! 3!』

 カバーを右側に押し込みホーンを左側に戻す。

 「ハイパー……キック」

 ゼクターホーンを右側に倒す。カバーが開放されハイパーゼクターから送り込まれた大量のエネルギーを開放する。

 『ライダーキック!』

 通常のライダーキック以上のエネルギーがカブトゼクターから開放され頭頂のカブトホーンを真紅に輝かせて右足のハイパーステップに送り込む。ハイパーカブトの右足首はハイパーキックに対応して強化されている。ハイパーステップと称される右足首のユニットに送り込まれた衝撃波エネルギーは通常のライダーキックの1.5倍に相当する。はっきり言うと、旧世紀の戦車の装甲にだって貫通孔を開けるような一撃である。

 背中のボソンプレートからエネルギーを噴射して飛び上がると飛び蹴りの姿勢をとって一気にバッタの群れに突っ込む。時速200km近い速度で飛翔したハイパーカブトはバッタを次々と蹴り砕いていく。物理衝撃30tにも及ぶ強力なキックだ。しかも対ワームとの戦いで改良され、証拠隠滅などの目的から対象に打ち込まれた衝撃波エネルギーは対象全てに伝播して粉々に粉砕するようになった。ワームの表皮は確かに硬く、粒子ビームなどの兵器に対する耐性も強い。だがこのライダーキックなら問答無用で蹴り砕ける上に対象を殆ど塵にしてしまうためワームの体組織を残して第三者に勘繰られるということも防ぎやすくなった。無論、バッタと言えど塵にならないだけで殆どパーツ単位で破壊されること間違いなしの一撃だ。5つものバッタをハイパーキックで粉砕すると、ハイパーカブトは土煙を上げながら着地し、数m滑走する。すでにフィールド安定の必要がなくなったためハイパークロックオーバーの電子音声と共に装甲も閉じられている。

 『クロック、アップ!』

 「俺も続かせてもらうぜ!」

 こちらもクロックアップ状態に移行して加速し、両手に携えたダブルカリバーを結合して振りかぶる。

 『ライダー、カッティング!』

 結合されたダブルカリバーは巨大なハサミとなり、刃を覆い延長するかのように形成された粒子ビームの刃を持って触れたバッタを一気に溶断する。パーフェクトゼクターのハイパーブレイドにも匹敵する切れ味だ。基本装備に関してはカブト以上の攻撃力を持つガタックならではの攻撃と言える。攻撃終了と同時にクロックアップを解除して通常速度に戻ったガタックは改めてその数を減らしたバッタの群れに向き直る。

 その時、ガタックの側面から銃弾がバッタに襲い掛かった。明らかに徹甲弾のような装甲貫通を目的としたタイプの弾頭だった。ガタックの視覚能力は高速で飛翔する銃弾を視認させた。もっとも、見えたからといって避けられるかどうかは装着者の反応速度に依存するのだが(クロックアップ中でもなければ見てから回避するのは無理だろう)。

 「テンカワ・アキト、か」

 その様子を見ていたカブトが言った。その声には呆れとも安堵とも取れる響きがあった。結果的には邪魔しに来ただけに終わったが、一応救援の手を差し伸べてくれたのだ、感謝の念が無いわけでない。ただそれ以上にそのKYさがイラつくだけだ。タイミングが悪いだけで心象とは変わるものである。

 「その声、お前アスマか!?」

 路地裏から飛び出してきたアキトが驚いて大声を上げる。再会出来たと思った弟の変わり果てたというか、どこの特撮から飛び出してきたと形振り構わず尋ねたくなる出で立ちを見て、驚かない方がむしろおかしいだろう。復讐に燃えていたときとは違い幾分本来の性格を取り戻していたアキトは声を抑えることが出来ない。当然、自己主張した結果となりバッタ共の注意がアキトに集中する。思わずアキトもたじろぐが、好機と見なしたカブトとガタックの動きは素早かった。

 『ハイパークロックアップ!』

 『クロックアップ!』

 カブトがハイパーゼクターのスラップスイッチを叩き、ガタックが腰のスラップスイッチを押す。加速したカブトとガタックがバッタを纏めて弾き飛ばす。
 倒したのではなく弾き飛ばしたのだ。そのまま加速した状態でアキトの体を掴んでカブトはビルの天井に飛び上がり(アキトが「ぐえっ!」と悲鳴を上げたが勿論無視だ)、ガタックも力の限り跳躍して後に続く。そのまま屋内に飛び込んで効果が切れる。

 『ハイパークロックオーバー!』

 『クロックオーバー!』

 「お、お前ら、少しは……考えろ……」

 アキトがグラグラと揺れる感覚の中で2人に文句を言う。装備も無し、事前の警告も抜きにして人外の速度で動かされたのだ。ムチ打ちになったり間接がおかしくならなかったのが奇跡だ。普通なら急加速や急減速でどこかを痛めてもおかしくないというか、死んで当たり前なくらいなのだが。
 苦しむアキトを階段の踊り場に放り出してから光輝はちょっと感心していた。

 「ほぅ、運が良い奴だな。てっきりムチ打ちは確実と思っていたのだがな」

 「って確信してやったのかよ!!」

 思わず突っ込みを入れてしまう。ああアキトよ。君はとことん悪運が強いらしい。普通の運が無いくせに。
 そこで限界が来たアキトはその場にしゃがみ込んでしまった。

 ライダーシステムを解除して素顔をさらした光輝は(かなり意図的に)冷めた視線でアキトを見下ろした。別に素顔で話したかったというわけではなく、ハイパーフォームで長時間戦闘を行って疲れたから休憩を兼ねてこの男と話してみようと思っただけである。

 「いきなり戦場に飛び込んでくる方が悪い。強化服をつけていないお前は足手まといだ。全く無茶にもほどがある。本当に俺の血縁者か?」

 心底疑わしげにアキトを見下す。実に態度がデカイ。アキトはむっとしたように反論した。

 「お前がそんな装備を持ってるなんて予想出来ないだろうが。第一、俺はそんな装備の存在自体知らなかったんだ。俺だって出来る限りの重装備で来たんだぞ!」

 そう言って手放さなかった装備を掲げてみせる。

 「数機のバッタならともかくそれだと10機以上のバッタは相手に出来ないだろう。撃ち尽くした後どうするつもりだったんだ?」

 嫌味でも何でもなく率直に尋ねたのだが、アキトは「うっ」と呻いて言葉を詰まらせた。確かに、これではたいした戦力にはならない可能性が高い。元々人間感覚で重装備でなければ倒すに倒せないのがバッタなのだ。屋内活動を前提とした小型のものならもっと軽装備で倒せるのだが……(実際にフクベが拳銃で行動不能にしている)。

 「だが、戦力としては何とか当てに出来るか……。地形に詳しい人間に出くわせたのは運が良い。ここからシェルターまでの道筋と戦闘で優位と言えるような地形は無いか?」

 「それより先に聞きたいことがある」

 こめかみを引き攣らせながらアキトが言った。心なしか言葉が震えている。勿論、この場合怒りでだ。

 「何だ、早く済ませろ」

 そんなアキトの様子を例によって冷めた視線で見下し、先を促す。見事なまでに相手の神経を逆撫でする振る舞いである。この場合、アキトで遊んでいるというのが正しい。
 光輝の態度にアキトは深呼吸して心を落ち着かせ、本題を切り出した。

 「お前は俺と初対面だと言った。だがそのキットとか言うAIは俺を知っている。そして、お前が乗っていた機動兵器は明らかにブラックサレナよりも後に造られたものだ。初対面だというのならお前はこの時間の人間だと見るのが正しいと思うが、なら何故、明らかに未来のものを所有しているんだ? しかもこの戦いに乱入するなんて、お前はこの時点では草壁と仲違いしていないと思うんだがな」

 なるほど、多少はこちらの事情を知っているらしい。光輝はそう解釈すると好都合と話を続けることにする。この手の説明は面倒だから後にした方が良いのだが、先程も言った通り土地勘のある人間を放置するのは損はすれど特にはならない。戦闘はこっちが負担すれば良いのだし、こいつも自衛程度は出来るだろう。

 「簡単なことだ。俺は未来の俺から一部の記憶とその役割を引き継いだこの時代の人間。それだけのことだ。それと、春樹ならこの時代に来ているし、俺の行動も春樹に頼まれてのことだ。それ以上でも以下でもない」

 どきっぱりと言い切った光輝にアキトはわずかに表情を曇らせた。草壁春樹。すでに過去の物になったとは言え、忌々しい記憶の象徴の一つとも言える名前だ。

 「春樹から聞いた話ではお前の女房とネルガルの会長も共同戦線を承諾したそうだ」

 アキトは思わず手で顔を覆って空を仰いだ。神よ、本当にいるのだとしたら何と悪戯好きなのだ。まさかユリカとアカツキが草壁に協力するとは。一体何があったのだろうか。もしかして、草壁が更生したのだろうか。ありえそうとも言えるしありえないとも思うのだが、一応確認を取っておこう。

 「まさかとは思うけど、草壁が改心したとか言うんじゃないんだろうな?」

 「お前の視点から見ればその通りだろうな。詳しくは本人から聞け。ただ、この世界は近い将来地球外知的生命体から攻撃されるらしい。それに対抗するための戦力を欲してネルガルと手を組んだとは聞かされたがな」

 「地球外、知的生命体……?」

 アキトはついキョアック星人を思い浮かべてしまった。

 「多分お前が予想したようなものだろうとは思うが、な」

 表情から察したのだろうが、光輝にそう言われてアキトは顔を背けた。幼稚な発想をしてしまった自分を恥じているのだ。同時に突っ込みも生まれてくる。






 結局お前も見てるんだな、ゲキガンガー。しかも苦もなく察したところからすると、以外と好きだろお前。






 「お前がこの時代でどのような行動をするかは俺の知ったことじゃない。だが、邪魔をするのなら排除する。それだけだ」

 光輝はそう言うとアキトから離れて北斗の方向に向かおうとする。北斗と今後の方針を話し合いたかったからでもあり、同時にアキトに整理の時間を与えるつもりだった。

 「待てよ」

 しかし当のアキトがその行為を押し留める。

 「俺はユリカとアカツキの判断を信じる。情報が少な過ぎて判断しづらいが、アカツキもユリカもそうそう自分の意見を曲げてまで敵に協力するような人間じゃない。特に、ユリカは被害者だ。俺のこともある。それなのに草壁に協力したということは、相応の理由があったんだっていうことぐらい、俺でも予想がつく。
 それにだ、俺の復讐はもう終わったんだ。掘り返してどうこう言うつもりは無い、そこんところは勘違いすんなよ」

 今度は光輝が驚く番だった。詳しく聞いたわけではないが嫁さんと無理やり引き裂かれ、自分も嫁さんもモルモットにされ、おまけに夢まで奪われたというのにこの発言。もしかしたら、思った以上に大物かもしれないぞこいつ。ほのかな期待を胸に秘めて光輝は訪ねてみる。返答次第ではさらに評価を上げるしかあるまい。

 「なら場合によっては春樹との共同戦線もやぶさかではない、というこか? それで本当に納得出来るのか?」

 「そうだ」

 アキトは即答した。これはこれは嬉しい誤算だ。実戦経験豊富で優秀なパイロットでもあるテンカワ・アキトが仲間に加われば、それだけ助かるし、何より絶対にミスマル・ユリカは離反しなくなる。アカツキ・ナガレもおそらく大丈夫だろう。よし、さらに揺さぶってみて本音を聞き出そう。

 「信用出来ない。あれだけのことをしでかすだけの激情を、そう簡単に抑える――いや捨て去ることは並大抵のことじゃない。それに、聞いた話だとお前は訓練を、非道な行いを重ねてなお感情的な面を残していたらしいが?」

 光輝はますます険しい視線でアキトを見下す。ころころと意見を変える奴ほど信用出来ない者はないと考えているからこその態度だ。そういう奴ほど裏切りやすく、いざと言う時に頼れない。まあこの場合は演技でしかないが、アキトの反応を見る限りばれていないようだ。将来役者でも食っていけるかもしれないと場違いな思考が脳裏をかすめるが、アキトは全く気付かない。

 「そりゃ、確かに草壁や北辰やヤマサキには恨みがある。今だって憎くんでないと言えば嘘になる。だけど、もう終わったんだ。それに、俺はもう一度やり直すってユリカに誓った。俺の犯した罪は決して消えない。例えこの世界ではまだ何も起こっていないとしても、俺が覚えている限り決して消えない。そして、忘れちゃいけないってこともわかってる。
 だけど、俺があれほどの犠牲を出してまで取り戻したユリカだ。一時は迷ったが、俺はその罪を背負った上でユリカと、ルリちゃんとラピスと一緒に生きる。そしてみんなで幸せになる。そう決めたんだ。
 俺が直接殺していなくても、俺の行動で命を落とした人は大勢いる。だけど、俺がそこまでの対価を払って手に入れたのに、それを手放しちゃ本末転倒だ。それこそ殺した人達に申し訳が立たない」

 「勝手な言い草だ。それで本当に誤魔化せるのか?」

 光輝はアキトの意思を(かなり嫌味ったらしく)嘲笑う。だがアキトは全く気にしていなかった。あの時誓ったと、自分に言い聞かせて言葉を紡いだ。

 「誤魔化す必要なんて無いさ、全部事実だからな」

 アキトは正面から光輝の目を見て言った。冷ややかな視線が変わらずアキトを貫いている。

 「確かに遺族は納得しない。俺も本当に納得しているとは思わない。だけど、もう迷わない。迷いたくない。
 俺はやってはいけないことをした。だからと言って、幸せになる権利はまだ手放していない。逆に、俺が自分を責めるだけ責めて、命を投げ出すわけにはいかない。そんな安易な方法で断罪なんか出来やしない。それを教えてくれたのはお前だろう?

 言ったよな、“死ねばそこで全部終わりになる。終わりにしてチャラにしようとするのは最も愚かしい行為だ。どんなに苦しくとも、どんなに世間からはじき出されても、自分から命を絶つような真似だけはするな。お前を裁いて命を奪う権利を持つのは、遺族だけだ”、って。

 この世界に来てしまった以上、誰も俺を裁くことは出来ない。だから俺は生きることで自分を裁く。忘れずに生きることが俺の償いだ。俺が幸せになればなるほどその罪は重く圧し掛かる。そして俺はそれと戦いながら自らと家族を幸せにしていかなきゃならない。それが俺なりの断罪だ。十分過ぎるほど苦行だと思うけどな」

 アキトはまっすぐ光輝を見たまま言い終えた。言いたいことは言った。これ以上何も言うことはない。それでも駄目だと言うのならお前が裁くか。視線でそう問いかけた。ふと、光輝の視線が和らいだ。冷たさも消え、どこかおかしそうに小さく笑った。

 「全く、面白い奴だよ」

 くくく、と笑い、光輝は頭の中で告げた。合格だ、お前ほど立派な漢は滅多にいない。良いだろう、認めてやる。おまえは信じるに足る最高の漢だ。

 「良いだろう。お前の生き様、俺なりに見せてもらおう。だが最後に一つ聞かせろ。春樹とは対立する可能性はあるのか?」

 「さあな。また俺の幸せを壊そうというのなら徹底的に戦うだけだ。だが、もし本当に改心して、今度こそもっと良い世界を創るために尽力するのなら、協力するさ。俺だってあんな未来は御免だからな。さっきも言ったろ? もう終わったんだよ、俺の復讐は。俺はこの世界で第3の人生を始めなきゃならないんだ。そこに第2の人生を持ち込むわけにはいかない。持ち込むのは、そこで勝ち得た教訓と役に立つかどうかわからない経験だけさ」

 アキトは苦笑しながら立ち上がり、光輝に握手を求めた。

 「改めてよろしく。この世界じゃどうか知らないけど、お前の血縁上の兄、テンカワ・アキトだ」

 光輝はアキトの手を握り返して言った。

 「俺は天の道を往き、光の如く輝く男。天道光輝だ」

 さりげなく左手の親指と人差し指を伸ばし、中指薬指小指を軽く折り曲げて天を指す。定番のポーズだ。

 「……言ってて恥ずかしくないか?」

 と、頬を引き攣らせたアキトから突込みが入るが、

 「決まれば十分に格好良い」

 「つか、それ本名なのか? 滅茶苦茶偽名っぽいんだけど」

 「最近名乗り始めた新しい名前だ。元の名前よりは響きが良い」

 と全くアキトの突っ込みを気にしていない。と、光輝の背後から禍々しいオーラが漂ってくる。思わずアキトは後退り、光輝は後ろを振り向く。

 「んで、何時まで人を放っておく気だ」

 後ろで事の成り行きを見守っていた北斗が地の底から響くような声で抗議する。無視されていたのが相当気に食わなかったらしい。しかしだな、あそこでお前に話を触れるわけ無いだろうが。と、心の中で言い訳してみるが、聞こえるはずもない。表面上は冷静にアキトに紹介する。

 「紹介しよう。俺の女房とその別人格の菫と北斗だ」

 そう言って北斗を指差す。本当は北斗の怒気と殺気に冷や汗が出そうなのだが、根性で抑える。

 「……は?」

 怒気に当てられて怯えていたアキトは鳩が豆鉄砲食らったような顔をして光輝の隣に移動した女性を見る。
 腕組みして不機嫌そうにアキトを睨み付けているが、大層な美人である。

 (容姿はユリカと並べても遜色ないな。だが、性格では絶対にユリカの勝ちだ)

 と、ついつい自分の女房と比較してしまう。何だかんだで一度惚れると惚気るのはアキトも同様のようだ。というか結構な“バカップル”の素質があるのだろう。

 「北斗だ。まあ、多重人格症の人間だと解釈してくれればいい。ただ、病気と呼ぶほどの障害は無いから、病気扱いだけはするなよ。……今本来の人格に代わるから、仲良くな」

 言うなり目を閉じる。一瞬虚脱したかと思うとすぐに目を開けてアキトに微笑みかけてきた。

 「えーと、一応主人格で北斗の姉の天道菫と申します。どうもよろしくお願いします。主人の身内の方ですか?」

 驚くほど雰囲気が変わるのでアキトは驚いた。

 (こっちならユリカと互角だな)

 と、またしても比べてしまう。復讐を終えて以来、変なところで性格が変わったものである。というより、この世界のアキトと融合した結果、性格が丸くなったのだろう。この世界のアキトは、まだ殺したいほど相手を憎むといった経験をしていないのだから。

 「そうです。こっちではどうなってるのかは良くわかりませんが、一応元いた場所では血の繋がった兄でした」

 そう言って握手を求める。菫もそれに答えて握手を返し、にっこりと微笑む。

 「それにしてもあす、じゃなくて光輝も立派なお嫁さん貰ったもんだなぁ。周りから散々からかわれたんじゃないか?」

 「勿論。だが、本気で嫌味を言う奴はまずいないし、そんな奴は大抵実力で納得させてやるからな。木連全体で見ても喧嘩で俺に勝てる奴はホンの一握りだからな」

 心成しか胸を張って言い切る光輝にアキトは言った。実際“喧嘩”なら大抵勝てる。最近徒手空拳の武術全般で自分を上回った親友にだって勝てる(でもたまに完敗する)。そもそも喧嘩にルールなど無用。要は勝てばいいのだ。殺したり入院沙汰にならないように手加減しても、勝つためにあらゆる手段を惜しまない光輝に勝てる奴の方が珍しい。戦い方次第では戦力差があっても覆せたりするのは歴史が証明している。

 「つまり、お前強いのか?」

 「そうだ。経験の差で及ばないが北辰さんに次ぐ腕前を自負している。昔から武道には素質があったらしくな。相応の修行も積んだが同年代でも頭二つ三つ抜きん出ている。趣味で鍛えた料理もなかなかいけるぞ。今度喰ってみるか? 木連の食糧事情を知る良い機会だろう?」

 光輝の提案にアキトはすぐに頷いた。

 「そうだな。木連のことを知っていた方が、今後の俺の方針にも役立つだろうしな。それと、俺の修行に付き合ってくれ。体を鍛えなおさないと思い通りに動けそうになくてさ」

 「良いだろう。だがそれ相応の見返りとしてパイロットの修行に付き合ってもらうぞ。俺は軍関係者ではないからパイロットとしては完全な素人だ。訓練時間も足りていない。もし俺に相応の腕があったなら、アルフォンスをあそこで自爆させることもなかった」

 悔しそうに語る光輝にアキトは納得といった表情で了承した。あの新型は間違いなくブラックサレナどころか自分が知るあらゆる機体よりも優れた性能を示していた。にも拘らずまだ経験値が浅く動きの拙い無人機にいいようにやられてしまったのも、パイロットとしての経験の少なさが原因だろう。

 「あ、ついでにあたしと北斗もお願い。あの機体の背中と胸に合体してた補助兵装のパイロットなんだ、一応」

 と横から菫もお願いする。

 「別に構わないさ。断る理由もないよ。何せ身内だからね。例えこの世界で血が繋がっていなくても俺にとっては家族みたいなもんだし。パイロットのイロハは俺が責任を持って教える。約束するよ」

 「休憩はこれくらいで良いだろう、早速移動を開始しよう。シェルターの安全を確保しつつ増援を待つ。段取りではそろそろ本国が動くはずだ」









 その頃木星の草壁は増援の出撃準備をほぼ終えていた。全て火星の後継者で共に戦ったメンバーが中心の非公式部隊だ。ボソンジャンパー処理は流石に時間が足りず、揚陸艇にディストーションフィールドを装備してのボソンジャンプになったが、火星への移動の準備を終え、出発の時を今か今かと待ち構えていた。

 「しかし、時間を飛び越えて遡って、人助けをすることになるとは思ってなかったぜ」

 隊員の1人が感慨深げに言う。まさか時間を飛び越えた先で本気で地球と仲良くすべく暗躍することになるとは全く想定外だった。無論、賛同したからこそ彼らはここにいるわけなのだが、全く不服がなかったわけではない。何せ散々悪であると教え込まれ、自分達を受け入れようとはしなかった連中だ。客観的に見てみれば自分達の行いにも非があるということは計画開始の時草壁春樹の演説で理解したつもりだ。それに、

 「そう言うなよ。もし本当に人類の危機なら、木星も地球もないぜ。俺達はゲキガンガーのように人類の危機を乗り越えなきゃならないんだ。それで、地球と仲良く出来ればなお良いじゃないか。戦争で苦しむのは結局力のない市民なんだからな。それを失念してた俺たちだって悪いさ」

 「でもなあ、まさか俺達のこと蜥蜴呼ばわりしてたなんて。知らされてなかったからショックだったよな」

 「でも今度は大丈夫だろ。ネルガルとも裏で手を結んだって言うし、あそこが遺跡絡みのシェアを利用して連合軍にコネを作って行けば、良識派の軍人達と結託して自分たちの利益しか考えない馬鹿な高官どもを少しでも駆逐して政治的にも配慮された和平が結べるかもしれないぜ」

 「そうだなあ。遺跡絡みの技術を普及させるための戦争なんて気乗りしないけど。この時の地球みたいに異星人に攻撃されて抵抗も満足に出来ないで侵略されるよりはマシなのかな」

 「馬鹿! どっちにしろ木連の人間は地球側への恨みが募りに募って爆発しかけてたんだ。それにたった半年じゃ、パイプの確保も難しかったしな。ここは一度膿を出す意味でもやっておくべきだと俺は思うぞ。そうでなきゃ、苦しい生活の中で生きてきた俺達は絶対に納得出来ないさ。

 さあ、ごちゃごちゃ言ってないで出撃の準備を終えちまおうぜ。そろそろのはずだ」

 「ああ。それにしても、俺たちがこうも簡単に受け入れる気になったのも、やっぱり影護――いや、今は天道か……。あいつの影響もデカイよな」

 「全く、お喋りは終わりだと言ったろうが……。しかし、確かにな。同じ木連出身であそこまで第一印象と実際に付き合った時の印象の差が大きい奴は滅多にいないからな。まあ、そのおかげで人間外見だけで判断出来ないってことがわかったんだけどな。
 ぶっちゃけあいついなかったら今でも抵抗があっただろうな、地球人と仲良くするっていう考えに」

 しみじみと思い返す。最初は絶対に相容れないタイプだと思っていたが、その印象を一気に変えたのは実際に付き合ってみてからだった。困っていた時には尊大な態度ながらもそれを感じさせない細やかな気配りで助けてくれた。必要以上に責めることも無く、場合によっては庇ってさえくれた。今思えば、あの態度は必要以上に頼られたり利用しやすいと思わせない為の防衛措置だったのかもしれないし、こちらの反骨心を煽ってさらなる精進を期待していたのかもしれない(素という可能性も否定出来ないが)。軍属ではなかったが時には白兵戦の訓練にも講師として招かれることがあったし、そういう時は必ず自ら手料理をご馳走してくれた(本人としては無理を聞き入れてもらった礼のつもり)。教えは厳しかったが決して人を無能呼ばわりしなかったし、教え方は懇切丁寧だ。訓練で疲れた体に上手い飯は最高の至福を味合わせてくれた。同年代と言うこともあって次第に打ち解け、誰もが彼の在り方を何時しか認めていた。

 「そうだな。良い教師になってくれたよ。
 にしても、あいつも本当に付き合いづらかったよな。俺なんて最初は――」

 準備の手を休めず何時しか光輝に対する話題に移っていった。他の隊員も話しに加わり最終的には彼に対する不満や苦情などを題材にした笑い話へと発展して言った。それでも出発の時刻が全く狂わなかったのは彼らの優秀さを示す指針と言って――良いのだろうか。






 「それでは、頼んだよユリカさん」

 草壁は隣に立つユリカに向かってそう言った。極普通に、友人に話しかけるような至ってフレンドリーな声色だった。視線も物を見るような冷めた視線ではない。かつての彼なら、ナデシコに苦しめられた経験等から冷徹な視線を注いでいただろう。

 「わかっていますよ草壁さん。私も、早くアキトに会いたいですし」

 ユリカはそう言って軽く微笑んだ。わずかに硬さが残っているが、草壁を見る視線に憎しみや怒りといった感情は含まれていない。その心中にどのような葛藤があったのかは定かではないが、アキト辺りに言わせれば「ユリカらしい」と言って終わらせてしまうのだろう。

 「そうだな。まずは久方ぶりの再会を楽しんできてくれたまえ。――――ユリカさん、本当に……」

 すまなかったと続けようとした草壁の言葉を、ユリカは指を唇の前で立てて遮った。

 「言いっこなしです。あの時言ったはずですよ、全部チャラにして再出発しようって。
 そうでないと、全然前に進めないじゃないですか……」

 ユリカは悲しそうに言った。彼女とて口で言うほど簡単な問題ではないと身を持って知っていたが、もう全て終わってしまったことだ。これからの行動はそもそも歴史の改編であってそうではない。言うなれば運命への抗いだ。事情を知る者からは都合の悪い歴史を改編しに来た自分勝手な集団と映るだろう。そう呼ばれても一向に構わない。だが自分たちが知っているのはあくまで異星人の襲来とその結果地球人が“滅亡するかもしれない”という事だけであり、この世界に来た理由もテンカワ・アキトなどの関係者がこの世界に漂着してしまい、元の世界に連れ戻すには都合が悪かったから、彼らへの贖罪と救済のためには、この世界への干渉以外に術がなかった。

 「もう過去のことなんです。うじうじと思い出してもしかたありません! 私達が記憶の片隅に残しておけばそれで良いんです。この世界の人達には関係ないことですから。今後一切、アキトとの和解の時以外は絶対に異世界から来た、何て口にしないで下さいよ。もう私達が生きる世界は、故郷と呼べる世界はこの世界なんです。それに、そんなことを持ち出したらこの世界で集める仲間の人が信じてくれませんよ」

 ユリカはきっと草壁を見据えて言い切った。しかしその表情はどちらかというと子供を叱る母親と言った感じで、「めっ!」という吹き出しが似合いそうな情景だ。

 ああ、この女性は強いな。草壁はそう感じた。前を向いて全力で走れるのはいいことだ。後ろばかり振り向いていても結局無駄に時間を過ごすだけだ。だが、前を向いて走ればいつか必ず結果が出る。それが良から否かはその時になってみないとわからない。だが、走るのは決して無駄じゃない。こうして暗躍するようになって半年になるが、本当に救われる思いだ。この前向きさ、。

 「とにかく、私が協力出来るのは学校の休日だけですから、早く行かないと課題の残りが……」

 そう言えばまだ学生だったな。と草壁は忘れてはいけないことを思い出した。この時点ではまだミスマル・ユリカは連邦大学を出ていない。協力者であるが付き合わせ過ぎて私生活に影響が出てしまっては問題だ。

 「うむ。今日の所は部隊の移動のみだから、それ程の負担にはならないと思う。ハイパーゼクターもあることだしな」

 そう言ってユリカの右手に握られたハイパーゼクターの2号機を見る。自分の知らぬ間に外装がリニューアルされていただけでなく、名称まで変更されてしまったのには首を傾げたが、自分にはあのヤマサキの思考は読めるとは思えないので気にしないでおこう。光輝も使っているのだから恐らく安全だと思う。……たぶん。

 「この子には、まだ明確な自我が無いんですよね」

 「ああ、キットのようなオモイカネ級と組み合わさって本来の性能を発揮するらしい。というか、そのような高性能AI、特に人間の思考を模写出来るものを搭載して初めて本来の性能を発揮するらしい。

 キットを搭載したハイパーゼクターは初期の頃はカタログスペック通りの性能を発揮していたが、最近では精度と速度の向上が著しいそうだ。この分では遠くない未来に独立したボソンジャンプ演算ユニットに進化してしまうのではないかとヤマサキ君が期待していたな」

 ヤマサキの持ってきた報告書を読む限り、ハイパーゼクターのボソンジャンプ制御能力は徐々に増していて、場合によってはA級ジャンパー以上のナビゲートを可能にするまでになっている。ボソンジャンプと人間の思考形態というのは密接な関係があるのかもしれないが、今はまだ検証不足で断言は出来ないでいる。が、もしこのままハイパーゼクターが進化してしまった場合、遺跡演算ユニットとの競合が起こるのだろうか。それともどちらかが取りこまれてしまうのだろうか。先は全く見えていない。

 「オモイカネとダッシュ、無事だと良いんですけど……」

 「ナデシコとユーチャリスのAIのことか。……気持ちは察するが、イレギュラージャンプでどのような影響を受けているか皆目見当がつかない。もしかしたらデータバンクや自我を構成する部分に障害を受けている可能性もある。とにかく、早急に回収して検査してみなければ」

 草壁はそこで座礁しているであろう2隻の戦艦に思いを馳せた。その2隻があれば異星人の侵略があったとてそう容易くは敗北しないだろうと思っていたからだ。何しろ自分たちが知る限り最も高性能な艦船だからだ。特にナデシコCのハッキングシステムは敵に通用しさえすれば何よりも強力な武器となろう。



 現実にはその2隻の内1隻は修復されること無く廃棄され、使える部品は後に伝説にまでなった宇宙戦艦に使用された。もう1隻は常にその戦艦の傍らで支え続けた僚艦として伝説に名を残すことになる。その2隻が老朽化によって退役した後も、代々名前を受け継いだ後継艦が起工され、竣工するほど地球人類にとって希望の象徴として名を残すことになる。



 だがはっきりと言えることは唯一つ。ナデシコCとユーチャリスでは人類の希望の象徴にはなりえなかったということだ。出会って初めてわかった事だが、完全に技術レベルで敗北していたため、ハッキングシステムが決定打とは言えないとわかったからだ。



 そう、あの艦が漂着したからこそ、そして、ほんのささやかな抵抗があったからこそ人類は真に希望を掴むことが出来たのだ。



 我々の宇宙戦艦ヤマトが。2隻の宇宙戦艦ヤマトが一堂に会したからこそ、人類は明日を掴んだのだ。









 「お話は終わりかな?」

 移動を開始しようと準備を始めた時、突然声をかけられた。はっとして3人が身構えると、下から男性が上ってきた。まるでマジシャンを連想させるマントにシルクハットを身に纏い、下には光沢のある紫色のシャツを着ていた。顔立ちは線が細いようだがどこか気障ったらしく見える。右手に持ったステッキを突きながら悠々と階段を上り、踊り場で立ち止まる。全く気がつかなかった。迂闊だった、バッタには警戒をしていたがワームへの警戒を怠っていた。そうでなければキットが接触前に気づいていたはずだ。

 「これはこれは、本当に君だとは思わなかったよ。確か、カブトと言ったね? 手合わせ願おうか」

 言うなりボソンジャンプ特有の虹色の輝きを発し、一瞬で異形の怪物へと変化する。全身が甲冑のような紫色の甲羅に覆われ、右手には鋸の様な棘の生えた太い針が生えている。その頭の形とその右手の針からカブトガニがベースになっているのではないかと思われる。

 「ワームか。なら倒すまでだ。――来いっ!」

 『ヘンシン!』

 カブトゼクターがゼクターホーンを移動させ、カバーを展開させてから自分からバックルに合体し、マスクドライダーシステムを起動させる。数瞬の間にナノマシンが装甲服を構築し、カブトへと変身する。マスクドフォームを経由せず一足飛びでライダーフォームに変身した。裏技の一つであるが、マスクドフォームを経由するのは変身直後の各種センサーとのコネクトに生じる僅かな隙をその防御力で凌ぐという目的もあるため、防御力で格段に劣るライダーフォームへの直接変身はリスクが大きいのだが、この場合は正解と言わざると得なかった。
 キャストオフする間が惜しい。そう思わせるほどのプレシャーを感じていた。

 『ハイパーキャストオフ! チェンジ、ハイパービートル!』

 一気にハイパーフォームに変化すると、ハイパーカブトは戦闘態勢に入った。

 「ふん。お手並み拝見といこうか、カブト」

 カブトとカブトガニワームはじりじりと間合いを計って隙を窺う。菫とアキトは邪魔にならないよう階段を上って2人から距離をとっていた。完全に出遅れてしまった今となってはこの場で変身するよりも距離を射てからの方がいいと判断したからだ。それに、恐らくハイパーフォームを使用したのはワームの実力を警戒してだろう。脳裏で直接話しかけてくる北斗が先ほどから警告を発し続けている。だが、その北斗が使える最強形態はライダーフォーム止まりで、ハイパーフォームには届かない。ここは、アキトを守りつつ後退するのが最良だった。

 『ヘンシン! チェンジ、スタッグビートル!』

 せめてもう1つのハイパーゼクターが使えればと思わずにはいられないが、登録が済んでいないため使用出来ない。仮に使えたとしても、ぶっつけ本番でハイパーフォームを使いこなせるとも思えない。
 厳しい状況である。






 (こいつ、手強い……)

 システム越しに感じる強烈なプレッシャーに光輝は冷や汗を止められなかった。恐らく自分と同等かそれ以上の強さを感じる。ワームでこのプレッシャーともなれば、恐らく実戦経験では自分以上。技術の差は僅かでも経験の差がどれほど実際の結果に影響するのか、わからないほど無知ではない。

 (一気に決めるしかない。ハイパークロックアップで通用するか?)

 ワームの最高スピードがどれほどなのか、光輝には想像もつかなかった。もしかしたら、ハイパーカブトのボソンプレートのような器官を保有していて、それによる超加速が行えるのかもしれない。もしそうだとしたら、どちらの限界が早いか、もしくは運命がどちらに味方するのかで勝負が決まる。

 (やるしかない!)

 『ハイパークロックアップ!』

 決断した光輝はハイパーゼクターのスラップスイッチを叩いてハイパークロックアップを作動させる。僅かなラグで装甲が展開して超加速状態に移行する。

 ワームはまだついてきていない。

 『マキシマム……ライダー、パワー! 1! 2! 3!』

 念のためすぐにでも必殺技を撃てるようにハイパーゼクターのホーンを一度倒し、カブトゼクターのフルスロットルスイッチを操作してカバーを閉じてホーンを左側に倒す。そのままの状態で操作を停止してワームに接近して拳を振るう。

 「その程度のスピードか、“カブト君”?」

 背筋がぞっとした。超加速状態で会話出来るのは同じ速度で動くもの同士のみ。つまり、ついてきている。ハイパーカブトの拳は易々と受け止められる。
 ついてきているとわかった時点でカブトはすぐに通常の戦い方に切り替えた。ワームの繰り出してくる拳や蹴りを避け、時には受け止めてカウンターを行い、自分からも攻める。拳と蹴りの応酬を繰り広げながらカブトとワームは屋上に飛び出す。ハイパーゼクターの発する信号の感覚が短くなってきている。タイムリミットが近い。お互いに放った上段回し蹴りがぶつかり合って弾き飛ばされ、距離が開く。

 「ハイパーキック!」

 『ライダーキック!』

 すぐさま必殺技を発動させて宙に跳ぶ。ワームが頭上で右拳を掲げる。何のつもりかは知らないが、一気にに決着をつける。

 すぐさまボソンジャンプして正面に出現し、ワームを蹴り砕く。……はずだった。

 (消えた!?)

 出現したハイパーカブトがワームを蹴り砕こうと構えた時、ワームが掲げた右手を握り締め、消え失せた。伸ばされた右足は虚空を蹴るだけに留まり、本来砕くはずだったワームを砕くことはなかった。
 空しく空振りしたハイパーカブトは勢いを殺しながら着地する。限界時間を迎えたハイパークロックアップが終了し、加速状態が終わりを告げた。

 直後、眼前に突然現れたワームの強烈な一撃がハイパーカブトの胸部、ボソンプレートに直撃した。加速したその動きに加速の終わったカブトが対応出来るはずもなかった。装甲の閉鎖も間に合わない。

 「うわぁっ!」

 装甲強度の低いボソンプレートを狙ったピンポイント攻撃。装甲の耐久力を凌ぐ衝撃に砕けたボソンプレートが宙を舞い、その下のサインスーツが受け止めるが、衝撃を殺せず内部の人体にまで相当な衝撃が抜けた。
 成す術なく弾かれたハイパーカブトは空中で縦に1回転してシステムが解除される。一度に大きなダメージを受けたため、装着者を保護するために自ら分解して衝撃を和らげたのだ。システムそのものに破損が無かった為か、解除と同時に異空間に収納されていた衣服が吹き飛ばされた光輝の体に着せられる。弾かれた勢いのままに屋上の床に叩きつけられそうになった光輝を危ういところでガタックが掬い取る。

 意識は手放さないで済んだがダメージが大きすぎる。すぐには動けない。それを悟った北斗とアキトがすぐさまカバーに入るが、その表情は厳しい。

 カブト・ハイパーフォームですら太刀打ち出来なかった敵を、生身の人間とそれよりも劣る戦闘能力のガタック・ライダーフォームで倒せるとは思えない。もっと情報があればスペックの差などものともしない戦い方が出来るだろうが、如何せん情報が少な過ぎる。このままではいとも容易く倒されてしまう。

 「そんなに警戒するな。今日は挨拶に着ただけだ」

 そう言うとワームは人間の姿へと変貌した。先程と全く同じの男性の姿だ。

 「しかし、人間になってしまうとここまで弱くなるものなのか……。いや、実戦から遠ざかりすぎた事が原因かな?」

 男がさらりと言った言葉が、3人(とAI1人と憑依霊1人)を動揺させた。

 「何だと……?」

 その反応を楽しむように男は続けた。

 「おや、自覚が無かったのかな? 君のことだよ天道光輝君。君は元々は我々の仲間。君達がワームと呼ぶ生物兵器だったのさ。まあ、君は完全に人間に帰化してしまったみたいだけどね」

 「どう言う事だ……光輝がワームだと!?」

 動揺も露に北斗が叫ぶ。男はその反応にいたく満足したようだった。

 「どうもこうも無いよ、事実だ。ワームと言っても完全じゃない。時折攻撃対象である知的生命体――この場合君達人類に感化されて人間として生きたいという戯言を言うワームもいる。君はその代表格みたいなものさ。

 ワームとして最高の戦闘能力と感覚を持ちながら人間として生きたがった。そして10年前、君は今の体の本当の持ち主である人間の死に際に立ち会った。人の目にも触れぬ町の外れで重傷を負い、助けを呼ぶことも出来ずただ死に行くしかなかった。
 だが、そこに君が現れた。常々人になりたいと願って止まなかった君はその人間に“完全に”擬態――いや“同化”した。ワームにとってそれは禁忌だ。そんなことをすれば本来の姿に戻るために必要な遺伝子鍵もボソンジャンプ器官も、それどころか自分の自我さえも完全に消えてしまう恐るべき手段だ。まあ、君のように完全に自覚が無いパターンは珍しいがね。

 ――だが、君はそれを犯してサイトウ・アスマという人間の人生を引き継いだ。いや、命を救ったというべきかな。何せ体が入れ替わっただけで人格も記憶も遺伝子さえも完全に、寸分の狂いも無く引き継がせたんだ。まさに奇跡の生還を遂げたわけだ。もっとも、その直後に事故に巻き込まれて何処かへ消えてしまったがね。

 君のおかげでワームも二分してしまった。君のように人生を事故で終えようとしている人間――特に人生に先のある若者を助けることで自らの本懐を成し遂げようとする愚か者がね」

 心の底から忌々しく語る男に5人は返す言葉も無かった。光輝はアキトの肩を借りてようやく立ち上がることが出来た。

 「……お前達の都合など知ったことか。もう少し喋ってもらおうか、ワームの生態についてな」

 光輝は何とか自分の足で立ち、カブトゼクターを右手に握り締める。2人同時にかかれば何とかなるかもしれない。せめてパーフェクトゼクターがあれば、ハイパーシューティングで牽制出来るのだが……。

 「おっと、今日はもう止めておこう。決着は次回に持ち越させてもらうよ。どうせ君達は私には勝てない。実力の差はすでにわかっているはずだろう?」

 そう言われては光輝も菫もアキトも引くしかなかった。何しろ最後の攻撃は反応どころか見ることすら叶わなかったのだ。ここで徹底抗戦したところで結果は見えている。

 「それでは御機嫌よう、裏切り者の天道君。今度会った時は決着を付けてあげよう」

 そう言って男はボソンの輝きを残して消え去った。



 その場に沈黙が訪れる。

 『今、ライダーシステムを介して検査してみましたが、間違いなく、100%人間です。本当にあの男の言ったことは正しいのでしょうか?』

 「だが無視出来ない。俺は戦闘技能に優れた才能を発揮した。まだまだ修行不足の身でありながら北辰さんに手が届きそうなくらいの強さを持っている。身体能力が常人離れしているのも修行のためだけでなく、元から高かったのなら頷ける。

 それにだ、俺が機械の声を聞くことがあるのも、もしかしたら人であって人でない特殊な人間であることが原因かもしれない」

 光輝は勤めて冷静に自分なりの見解を示した。いきなり自分の存在を揺るがされたにしては落ち着いていると言える。表面的には。……もしかしたら、“あの能力”を体得してしまったのはこの特殊な出自が影響しているのだろうか。

 「まあ、なんだ」

 変身を解除してぼりぼりと後頭部を掻きながら北斗は、

 「俺は別に気にしないぞ。今更変えられるような浅い付き合いはしてないつもりだしな」

 と言うと菫にバトンタッチして引っ込んだ。菫はつかつかと光輝に歩み寄ると顔を両手でガシッと掴んで無理やり自分の顔に近づけてじっと見詰めた。

 「あれだけ熱烈に口説いておきながら今更離れるなんて言わないでよね? あたしは、今更そんなことを告げられたって、離れられないよ。もう光輝のいない人生なんて考えられないんだから」

 と一方的に告げるとそっぽ向いて行ってしまった。ガタックに変身しながら飛び降りたところをみると、単独でバッタの群れに戦いを挑むつもりらしい。じっとしていられなくて向かったのか、自分が回復するまでの時間を稼いでくれているのか、判断はつきかねた。

 「光輝」

 アキトに呼ばれてそちらに顔を向けた。アキトは険しい表情でこう言った。

 「ワームって何だ?」

 「……」

 まずはそこから説明せねばならないらしい。考えてみれば極めて当然の流れだが、明らかに空気を無視してしまっているため光輝の眉間に皺が寄った。









 光輝がワームだった。その情報はキットによってすぐに草壁らの下に届けられた。

 「ヤマサキ、光輝の健康診断データを入手出来る範囲で調べて人間との相違を様々な角度から検証してみてくれ。ただし、あいつが帰還したからといって――」

 「本人を弄くるな、でしょ。僕としても貴重な友人をこんなことで弄りませんよ。もう一度データを採取する必要はあると思いますがね。必要なら毛髪や爪、皮膚なんかも採取出来ると検証しやすいと思いますよ。

 まあ、マスクドライダーシステムを渡した後、人体への影響を知るために検診自体はしているので、結果は変わらないと思いますけどね」

 ヤマサキはそう言って手元の資料を草壁に渡した。それはマスクドライダーシステムを運用した後(正確には草壁らが元いた時間軸から帰還した後)の検査データだった。
 時間が空いてしまったので正確なデータは取れなかったが、脈拍や体温、筋繊維の状況や脳波、さらには元々保有しているナノマシンに何らかの影響を与えていないかなど、多種多様の検査項目のデータがずらりと並んでいる。
 その全ての数値が、人間と大差ない。鍛えているため常人を上回る数値を数値しているが、それでも個体差で済まされる程度の誤差だ。DNAのデータも人間と全く同じだという結果が出ている(ジャンパーであるが故の誤差は生じているが、元よりジャンパーの研究に関してはどの機関よりも進んでいる彼らが今更そのような誤差を見逃すとは思えない)。

 「うむ……。今後の影響を考えると、頭が痛いな」

 これから先、その事実を隠すにしろ公にするにしても、彼の人生に影を落とさなければいいが。心配事は尽きなかった。









 「……大体わかった。生物兵器、ね」

 キットから懇切丁寧に説明されてアキトは何とか理解に成功した。この間にも動ける北斗は暴れまわっていた。光輝はまだダメージが抜けず、戦えないためアキトの隣に腰を下ろして休んでいた。一応アキトが持ってきた医療キットを使って簡単な手当てはしてもらった。幸いなことに動けなくなるほどの怪我は無かった。

 「まいった。まさか俺がワームだったとはな。……同胞を殺したわけだ」

 表面的には至って冷静だが、声には若干影が落ちていた。アキトもそれに大しては掛ける言葉が思い浮かばなかった。自分でも、無意識に同胞を殺していたなどと知ったら、平常心ではいられないだろう。意識してやるのとはまた別なのだ。

 しかし、立ち止まっていては何も出来ないことは、アキトが良く知っていた。だから、アキトは言う。

 「……俺の意見を言わせて貰えば、もし和解可能ならワームとも共存していきたい。それが夢物語だとしてもそう言いたい」

 「ああ。だが少なくとも――」

 「お前みたいに人間に帰化したワームもいる。それだけわかれば十分だな。せめてそいつらとだけでも共存していける」

 「不幸中の幸いということだな」

 アキトと光輝は言葉を交わしながら今後の方針の概要を固めていく。

 「とにかく、人を殺めたことがわかっているワームには相応の報いを受けさせる」

 「話し合いの余地がありそうなら説得して帰化させる。しばらくは監視もつけなきゃならないだろうが、無駄なことじゃない」

 「話し合いの余地が無ければ、倒すだけだ。もっとも、擬態を解除して人間を襲うワームに話し合いの余地など無いだろうがな」

 「……かもな。しかしもし非好戦的なワームで、かつ人間として生きようとしているのがわかりきっているのならその意見を尊重する。それしかないよな?」

 アキトと光輝は決まりだと拳を軽く打ちあわせた。

 「そして今すべきことは一つ」

 光輝は行くぞと言わんばかりに言った。

 「火星の人々の安全を確保すること、だな」

 アキトはにやりと笑って立ち上がった。

 「ブラックサレナはまだ持つ。バッタを引き付けることくらいなら出来る。装甲にも機密保持用の爆薬が付いてるし、いざとなったらそれを起爆させてなんとか数を減らす。シェルターは任せたぞ」

 アキトはCCを取り出してボソンジャンプの体勢に入った。

 「軽機関銃は置いていくから使ってくれ。パーフェクトゼクターとか言う装備が回復するまでの繋ぎくらい出来るだろう?」

 「ああ。助かる。気をつけてな」

 光輝はカブトゼクターを右手に掴み、アキトを見送る。

 「お前こそ、ダメージが大きいんだろ? 死ぬなよ」

 アキトがボソン粒子を残して消え去ると、光輝はカブトゼクターをベルトに装着した。

 「変身!」

 『ヘンシン!』

 瞬時にマスクドライダーシステムが構築され、全身を強力な鎧とスーツで覆い隠す。

 『キャストオフ!』

 ライダーフォームにフォームチェンジしたカブトは、ハイパーゼクターを左腰に付け、ホーンを倒してハイパーキャストオフする。

 『チェンジ、ハイパービートル!』

 アキトが残した軽機関銃を拾い上げると、肩に担いでビルの屋上から飛び降りた。全身のカブテクターが展開してエネルギーを噴射、減速して地上に降り立つ。着地と同時にカブテクターが閉じてボソンプレートが格納される。
 ハイパーカブトは担いでいた銃を構え、バッタに向けて撃ちまくる。注意がガタックに向いていたバッタ達は素早く反応出来ず、あっという間に穴だらけになる。バッタ達も反撃を開始するが、アキト持参の銃の威力は素晴らしく(一体どんな弾頭を使っているのかちょっと見当がつかなかったが)、またカブトも自分に対して攻撃準備を整えつつあるバッタから優先して倒しているためなかなか反撃出来ないでいた。だが、バッタを倒すためには強力な銃器でも数発撃ち込まなければならない。元々の装弾数が多くない以上、あっという間に弾が切れるのも当然だった。カブトは弾切れになった銃を捨てるとクナイガンを装備しバヨネットアックスを振るってバッタの装甲を切り裂く。

 その時、虚空から出現したパーフェクトゼクターがカブトの手に収まる。

 『メンテナンスを終えたようです。今度は大切に使えとの伝言も預かっています』

 と、キットがヤマサキからのメッセージを伝える。

 「言われなくても大切にするさ。こいつがいないと締まらないしな」

 カブトはそう言うとパーフェクトゼクターをガンモードに切り替えた。そしてザビーゼクターを呼び出してパーフェクトゼクターに合体させた。
 貫通力を強化された高収束率の光弾がパーフェクトゼクターの銃口から発射される。フルスロットルの操作無しでもパーフェクトゼクターの能力は変化する。フルスロットルの操作は必殺技を使用するための増幅である。
 ザビーゼクターの力で貫通力を増した粒子ビームは用意にバッタの装甲を貫き内部を破壊する。実弾ではないが徹甲弾に近い攻撃だった。

 確実にバッタを破壊していったが、数機のバッタがミサイルを発射した。あまりに手強いライダーを確実に倒すために使用を決断したのだろう。
 カブトは舌打ちしつつザビーゼクターを外してサソードゼクターを装備してフルスロットルを操作する。

 『サソードパワー! ハイパーウェーブ!』

 広範囲に及ぶ渦巻状のエネルギーがミサイルを飲み込み、撃墜する。だが、数の多さとその範囲の広さに比べてハイパーウェーブの効果範囲はあまりにも小さかった。迎撃が間に合わないと判断した瞬間、カブトは取るべき行動を決めていた。

 『ハイパークロックアップ!』

 すなわち全力逃走である。しかもボソンジャンプを使って。

 様子を見てガタックも遅れてクロックアップでその場から離脱する。直後にミサイルが着弾、爆発による粉塵が舞い上がり、道路を抉り、建造物を破壊する。僅かな間をおいて安全圏に離脱したカブトとガタックが出現する。

 「間一髪か」

 やれやれと言わんばかりに首を横に振るカブトに

 「ああ、何とか無事に済んだな。つーか、間に合わないと思うなら初めから撃ち落すな!」

 とガタックが突っ込む。

 「実験だ。パーフェクトゼクターであの手の迎撃が行えるかどうかのな。ワームの動きを追える程のセンサーだから、小型ミサイルの動きなら追えるだろうとは思ったが」

 「そういう問題じゃねえ! 大丈夫だと思わせといて逃げ出すなと言うとるんじゃ!」

 「誰が大丈夫だと言った。大体人を当てにして任せようなんて図々しいぞ。文句言う前に逃げるか迎撃に加わるかしろ。昔からお前は大雑把過ぎるんだ」

 遠慮なく言い返すカブトにガタックもキレた。

 「言いやがったな! そう言うお前だって繊細と言えるほど繊細じゃないだろうが! 実力があるのは認めるが、言うことやること大袈裟なくせに!」

 「言うな……。それで何時も何時も最後の詰めを誤って俺やお義父さんに敗北するんだよな? もっと頭を使って戦えば十分勝てるくせに」

 光輝も一切の容赦を捨てて反撃に出る。

 そのまま状況も考えずに口喧嘩を始める。売り言葉に買い言葉、どんどんエキサイトしていく。ミサイル発射の影響でセンサーが混乱しているバッタ達がすぐに追撃には入れなかったのがさらに状況を悪化させていた。つまり、邪魔がすぐに入らないからどんどん加熱していくのだ。ゼクター達も菫も止めに入るには入れないほど白熱化していく。キットは初めからこの手の口喧嘩に付き合うつもりはないので黙っていた。
 そこへ、(ようやく)バッタがカブトとガタックに接近する。

 「邪魔をするな!」

 と、同時に吼えてカブトがパーフェクトゼクターから粒子ビームを撃ち出し、ガタックがダブルカリバーの片割れを投げつける。とばっちりの攻撃を受けたバッタはあたふたと回避行動に移るが、機械では感じ得ないはずの殺気に怯んだのかあっという間にバラバラにされてしまう。他のバッタもじりじりと距離を詰めるが、どこかへっぴり腰である。八つ当たりを恐れているのだろうか。

 その時、上空からブラックサレナが飛来して上空からハンドカノンでバッタを狙い撃ちする。

 「お前ら何口喧嘩してるんだ! とっととシェルターの安全を確保しろ!!」

 外部スピーカー全開で叫ぶ。明らかに怒っていた。まあ信じて地上の制圧を任せたのに口喧嘩にかまけていたのだから当然だろう。

 「ちっ。続きは今度だな」

 「ああ、首を洗って待っていろ」

 くくく、と不気味な笑いを発しながらゆらゆらと立ち上がる。仮面越しで見えないのだが、その瞳に剣呑な光りが灯っているのは想像に難くない。おそらくアキトの乱入が無ければ口喧嘩から物理的な喧嘩に変わっていただろう。それも、マスクドライダーシステムを使用しての大喧嘩だ。傍迷惑極まりないことは確実である。



 これでもコミュニケーションの一環である。この光景を地元で展開したら誰もが(それこそ北辰やさな子ですら)こう思う。



 今日も夫婦円満でよかよか、と。






 一方アキトはブラックサレナでバッタの駆除を始めていたが、状況が芳しくなかった。アキトはブラックサレナの性能を引き出すことは出来ない、弾薬もエネルギーも残り少ない。もって数十分がやっとだが、ブラックサレナのレーダーで確認して見るとバッタの数が先程よりも増えている。それに戦艦が降下してきている。このままではバッタの駆除どころではなくなってしまうことは明白だった。

 「くそ。せめて弾薬があればな……」

 胸部のバルカン砲はすでに残弾0、ハンドカノンのエネルギーも残り僅かだ。推進剤の残りもすでに40%切っている。バッテリー残量も残り30%。エネルギー供給を受けられない現状ではかなり厳しい状態だ。

 「装甲をパージして爆破すれば、1隻ぐらいはいけるか? このまま見逃してシェルターを攻撃されたら――」

 アキトの脳裏にナデシコのフィールドで押し潰され、同時に無人艦隊の艦砲射撃で完全に破壊されてしまったシェルターの光景が浮かぶ。

 「絶対に回避してみせる! もうあんなことはたくさんだ!!」

 アキトは気合も新たに戦艦に突進する。しかしちょっと気合を入れすぎてしまったようだ。中和限界を超えた加速度で体が軋み、内臓が圧迫される。血が背中の方に流れ、視界が霞む。鍛えていない腕は加速度の影響で思うように動かないばかりか後ろに下がりかけている。IFSの端末を放してしまえば操縦出来なくなってしまう。アキトは根性でIFS操作盤を掴もうと足掻いたが、手が離れてしまった。左手もスティックから離れ、スイッチやレバーによる操作も絶望的になった。せめて対Gスーツを着ていれば防げた事態だったが、急いでいたのが裏目に出た。

 (だ、駄目か!?)

 アキトは死を覚悟した。

 (アキト! 死んじゃ駄目!!)

 突然頭に浮かんだユリカの泣き顔と悲痛な叫び。

 「――ゆ……ユリ……カ……っ……!」

 アキトは必死で手を伸ばす。もう距離が無い。激突は必死と思われた。それでも生きるために手を伸ばす。絶対に死なない、アキトは鉄の意志で腕を伸ばす。



 その時。

 突然緑金の輝きに包まれ、ブラックサレナのアサルトピットが忽然と消滅した。
 そしてブラックサレナは戦艦の横っ腹にまともに激突し、大破した。ブラックサレナの体当たりを受けた戦艦は、右舷側に大きな損傷を受け、大穴を空けていたが健在だった。艦砲も生きているし機関部に損傷を受けた跡も無い。ブラックサレナは無駄死に同然だった。



 一方その光景を地上から目撃したカブトは、

 「派手な花火だ。今日は本当に特攻日和だな。アキトは脱出したが、一体あれは何だ? どう見ても自発的にボソンジャンプしたとは思えないが――」

 (ついに見つけたぞ、我が力を託すに相応しい者を。絶望の中から希望を見出し、己が罪を意識し、なお希望と共に生きようとする者を。私の名はジェネシック……)

 突然頭に響いた“声”に、カブトは思わず動きを止めた。バッタの機銃がカブトに放たれ、弾丸が胸部プロテクターに命中して火花を散らす。カブトはよろけながらも回避行動に移り、物陰に隠れて攻撃をやり過ごす。胸部プロテクターに重度の損傷が発生したが、幸いにも装着者である光輝には大きなダメージは無い。出来て痣程度だろう。ナノマシンで構成されているプロテクターは損傷部を凄まじい速度で修復していく。気密確保、耐久性低下防止等様々な観点からこの能力は大事だ。そのためマスクドライダーが傷ついても、システムに損傷が無い限りどれだけ攻撃されても無傷に見える。これはハッタリにも有効だが、味方が勘違いして無茶を要求してくるという弊害も生まれてしまった。

 「ジェネシック? それが、お前の名前なのか」

 『ちょっと待って下さい! ジェネシック、と言いましたか?』

 光輝の独り言にキットが過剰に反応する。

 「ああ。確かに聞こえた。だがこれは誰かに話しかけたものじゃない。独り言だ。どうもアキトが絡んでそうだな」

 『ジェネシック。それは古代太陽系文明が残したカウンターの一つです』

 「何だと?」

 『手短に話しますと、我々のように自分達の残した技術に接して、暴走して自らを滅ぼしかけたり、もしくは無人兵器の暴走による文明の破壊を防ぐために残された遺産です。ジェネシックガオガイガーと真ゲッターロボ。それが遺産の名前です。
 もしかしたら、アキトさんはジェネシックの資格者に選ばれたのかもしれません』

 「カウンターだと? あいつにしては大層なものに選ばれたな。元凶悪犯罪者にはこの上ない皮肉であり、同時に贖罪の機会というわけか」

 光輝はパーフェクトゼクターをソードモードに切り替え、ドレイクゼクターを呼び出しながら話を続ける。

 『ええ。確かに皮肉です。何故ジェネシックガオガイガーはアキトさんを選んだのでしょうか?』

 「さあな。だが、あいつが受け入れるのであれば、俺から言うことは無い」

 物陰から飛び出し、銃撃の雨を転がり、時には跳ねながら避け、フルスロットルを操作してトリガーを絞る。

 『ドレイクパワー! ハイパー、アックス!』

 ドレイクゼクターの羽からエネルギーが指向性を持って放出され、剣速を加速させる。勢いを得たパーフェクトゼクターはドレイクゼクター自身の重み(パーフェクトを除くと最も重い)と加速によってバッタの装甲を強引に叩き割り、内部機構までを破壊する。斧の名に恥じぬ豪快な一撃だった。

 光輝はバッタの残骸に目もくれずにガンモードに切り替え、ドレイクゼクターの羽を折りたたんでスコープを形成したパーフェクトゼクターの引き金を引く。マシンガンのように小さな弾が断続的に発射され、一撃必殺ではなくなったものの、大量の銃撃にさらされたバッタが徐々に穴だらけのボロボロになっていく。

 「さて、あいつは天の道を往けるのかな?」

 光輝はポツリと呟くと、そのまま手短なバッタに向かってパーフェクトゼクターを振るった。シェルターの入り口は目前だ。
 しかしキットは気になっていた。今の状況は、はたしてカウンターの目覚めるべき状況なのだろうか……。並行世界では、見過ごしているというのに。








 アキトは光りに満ちた空間で目を覚ました。計器類は全て沈黙しているのにモニターだけは活きて、不思議な世界を映し出していた。深緑の光りに包まれて、心地よい浮遊感を感じる不思議な空間だった。ブラックサレナのシートに座っていても、その心地良い感覚がアキトの心を癒していく。

 「ここは、一体何処なんだ? 俺は、死んだのか?」

 天国と言うのはこういう世界のことなのかもしれないと、アキトは呆然と考えた。余りに心地良く、高揚した気分を妨げるものなど存在しない神聖な空間で、アキトはまどろむ。そして、自分の過去を振り返る。

 少年時代から開戦まで、地球にやってきてからの生活、ナデシコでの生活。ナデシコ長屋から新婚旅行までの記憶が浮かんでは消えていく。
 そして、火星の後継者のラボでの悪夢。復讐に燃え、ユリカ奪還に奔走した毎日。

 その全てが、他人事のように感じられる。

 「色々あった。だけど――」

 ――まだ足りない。

 アキトは強くそう思った。
 まだ生きていたい。もっと友人や家族と馬鹿騒ぎしたい。例え争いに巻き込まれても、懸命に生きていきたい。極悪人と罵られようと、大勢の人々に避けられようと、友人や家族が良いと言ってくれるなら生きれるまで生きたい。そう思うと、力を失っていたはずの手足に力が戻り、自分の生を実感するようになった。

 「俺は、生きたい」

 呟いて、アキトは拳を握り締めた。
 こんなところで終わってられない。計器に目を走らせ、何とか生きている部分を見つける。本体は大破してしまったようだが、アサルトピットはまだ生きている。上手くいけば、生きられる。

 『テンカワ・アキト』

 突然名を呼ばれて、アキトは顔を上げた。モニターに映る光の中で、大きな翼を広げた黒色の巨人が現れていた。怪物かと思った。だが、違う。ロボットだ。胸にメカニックな獅子の顔を持ち、猛禽類の爪を思わせる足や、巨大な翼、そして燃えるような赤髪。既存のあらゆる兵器とも違う印象的な意匠。そう、まるでゲキガンガーの親戚のような、科学的根拠や実用性を度外視に、ヒーロー的な意匠をふんだんに余すことなく使用したら、こんなデザインになるのではないだろうか。

 『私は待っていた。お前のような人間を』

 「待って、いた?」

 『お前は知っている。同胞をその手で殺める罪の重さ、痛み、苦しみを。そして、絶望の中から希望と言う光を見出す生物の強さを。
 お前は知っている』

 「何のことだ……」

 『テンカワ・アキト。私と共に戦おう。お前になら私の力を、存在を託せる』

 成り立たない会話にアキトは苛立ち、感情を一気に爆発させる。

 「お前は一体誰だ! 俺に一体何をしろと言うんだ! て言うか状況を説明しろよまず!」

 激昂したアキトの態度に気がつかないはずもないはずだが、ロボットは構わず続けた。

 『私は、お前達が触れた文明の残した安全装置』

 「安全装置、だと?」

 『そうだ』

 ようやく噛み合った会話にアキトは怒りを沈め、冷静に話すことにした。

 「その安全装置が、何故俺のような危険人物を選ぶ。もっとマシな奴は五万といるはずだ」

 『答えは否だ。お前しかいない』

 「何故!?」

 『お前は、知っている。命を奪うことの重さを。同時に、生きることの重さも知っている。お前がこの世界に現れてからずっと見てきた。
 お前は自分から生きることを選んだ。大罪を犯したことを背負い、その上で自らの幸福を求めることを選んだ。

 自らを大切に出来ない者は誰かを大切にすることはおろか、生きることすらままならない。だがお前は生きることを選んだ。例え茨の道であろうと、自らの幸せと他者の幸せを願っている。だからこそ選んだ。
 一度は絶望の淵に落ちながらも這い上がってきたお前だからこそ私の主に相応しい』

 「勝手な言い草だ。……でも、悪くない。そう言う難しいことは良くわからないが、誰かのために戦うっていう選択肢はなかなか燃えるじゃないか」

 アキトは随分とやる気になっていた。正直カウンターだとか資格云々には興味が無い。だが、言い返せばこれはとてつもない罪滅ぼしであるのではないだろうか。このロボットだけで状況を打破することは出来ないだろうが、それでも貴重な戦力だ。ブラックサレナも失ってしまったところだし、乗り換えたところで誰も文句を言わないだろう。



 それに―――

 「お前のデザインはカッコいいしな。気に入った」

 やっぱりスーパーロボットの魔力はアキトには効果抜群だったようだ。結局根っこから変わるのは相当難しいことらしい。

 『デザインに関しては比較対照が無いのでわからないが、気に入ってもらえたのなら私も嬉しい。アキト、まずはあの無法者を薙ぎ払うとしよう。そして、私を構成する技術を渡すのだ。事態は君達の予測の上をいっている』

 「技術を渡すって、どうしてだ?」

 『私と、もう1台。真ゲッターロボと呼ばれるカウンターが存在するが、それ単独で、共闘したところで全ての無人兵器や今後襲い掛かる敵と戦うことは出来ない。
 私も機械である以上手入れが必要だ。万が一にも私自身が暴走しないように活動時間には厳格な制限が設けられている以上、人の手が加わらないと何も出来ないのだ。何よりそのようなことが可能であったとして、資格者に苦難の道を歩ませるわけには行かない』

 「苦難の道? 一体どうして……」

 『強過ぎる力は災いと共に扱うものに必要以上の責任を要求される。ましてや私を本当の意味で所有するのは組織ではなくアキト、君個人だ。
 今の組織がどのようなものかは判断出来ないが、必ず君を忌避する。個人で自分達を殲滅出来るかもしれない存在を野放しには絶対にしないだろう。
 私達は君達ほどではないだろうが自我や感情を持ち合わせている。自らの主であり友である者を苦しめるような事は出来ない。

 スペックのみで語るのなら恐らく後先考えなければ我々を造った文明の兵器くらいは消滅させることが出来るだろう。だがそれでは意味が無い。私は決して君に必要以上の重石を背負わせるわけには行かないのだ』

 アキトにはロボットの苦渋が良くわかった。
 自分たちもA級ジャンパーという特異な力を保有していなければあのような目に遭うことも無く平穏無事に過ごせたはずだ。ただでさえマイナス要素が大きいのに、さらに上乗せするのは確かに馬鹿らしい。

 「わかった。とりあえずネルガル辺りにお前の技術を渡すよ。上手くいけば、お前のメンテナンスや改良をやってくれるかもしれなししな」

 アキトはアカツキ・ナガレのニヤケ顔を思い出しながら言った。そう言えば随分と世話になった。今度例も兼ねて料理でもご馳走してやるか。もっとも、あいつが食ってそうな高級料理の味は出せないが。
 軍隊を選ばなかったのは好き嫌いもあるが単純に考えてこのロボットのことと話しやすさからだ。アカツキが本当に自分と面識のあるアカツキなら、多分話がわかるだろうし自分の意見も少しは尊重してくれるだろう。だが、今の軍にジェネシックを渡そうものならテストや調査と称してこのロボットをビスの1本まで分解されかねないし自分自身の身の安全も全く保障されない可能性がある(この時のアキトはとことん軍隊に対する印象が悪かった)。
 この判断があながち間違っていないのが今の腐敗した組織の恐ろしいところである。
 
 (お義父さんみたいな人が大多数の軍人なら、俺もここまでは嫌わないんだけどな)

 思い起こすのは親馬鹿を体現しているとしか言えないパワフルなコウイチロウの姿だった。結婚をかけたラーメン勝負が懐かしい。

 今度はもっとスムーズに結婚をしたいものだが、やっぱり障害となるのだろうか。

 アキトは思考が逸れたと頭を振って思い直し、改めてロボットに話しかけた。

 「早速そっちに移らせてもらっても良いか? 操縦のレクチャーもしてもらいたいし」

 『必要ない。すでにアキト、君は私の中にいる』

 「へ?」

 『資格者が最も扱いやすい操縦系を得るため、私は君がブラックサレナと呼んでいた機動兵器のコックピットを丸ごと取り込んでいる。むろん幾らか改修させてもらったが。
 装備の扱いはIFSを通して直接教えよう。誤爆防止のため音声入力制御が主体となっている。羞恥心を捨てて叫んでくれ』

 ロボットはそれだけ言うとモニターから消え失せた。代わりに映ったのは出来ればもう見たくないと思っていた演算ユニットと、それが収められている遺跡の中枢だった。

 「こ、こんなところに収められていたのか? でも、あの時は――」

 思い出すのはナデシコでここに突入した日の事。演算ユニットにしか目が行っていなかったとは言え、これほどのものを見逃すだろうか。

 否。

 ということは、あちらの世界には無かったのだろうか。それとも巧妙に隠されていたか。恐らく後者だろう。この機体の重要性から鑑みるに、容易く発見出来ないようにカモフラージュされていたはずだ。恐らく、ここを占拠していた火星の後継者でも発見出来ないような方法で。

 「よし! 無人機どもを蹴散らして、火星の人達を奴らの恐怖から解放してやるぞ!!」

 アキトは意気込んでIFSボールを握り締める。途端にこの機体の扱い方が全て頭の中に流れ込む。不快感は無い。強引に覚えさせられた感じは全く無い。むしろ乾いた土に水が染込むかのごとく、自然と吸収されていった。

 『言い忘れていた』

 コックピットにジェネシックの声が響く。

 『私の名はジェネシック、ジェネシックガオガイガーだ』

 ジェネシックガオガイガー。アキトは口の中でその名を転がしてみる。



 悪くない。いや、いけますね。
 アキトはそう思うと腹の底から叫んだ。



 「行くぞガオガイガー! 火星の皆を救うんだ!!」

 『了解!』

 かくしてジェネシックガオガイガーは数千、数万年の時を越えて現世に帰ってきた。漆黒の翼を開き、まるで真理の目を模したかのような赤い装飾を顕にし、深緑の輝きを発して上昇する。ブラックサレナはおろか、ストレリチア・ハイパーフォームでさえも上回る猛烈なスピードで飛翔する。翼の形が大きく広げられた鳥の羽にも見え、両足にある巨大な3つの鉤爪の存在から猛禽類を連想させる姿だ。

 Gは殆ど感じない。強力な慣性相殺装置が積まれているのだろう。ジェネシックガオガイガーはアキトの意思を受け取り一寸の狂いもなく飛び上がり、遺跡を抜ける。

 幾重にも張られたフィールドは無かった。ジェネシックガオガイガーを送り出すために解除したのだろうということはわかった。

 アキトは今強大な力を得た。望んでも手に入らなかった力を得た。大いなる使命と共に。高揚感が身を包み、思わず唇を舐める。

 (こいつとなら、戦える。こいつとなら、きっと皆を守れる!)

 アキトは心地良い興奮と使命感を感じ、一路ユートピアコロニーに向けてジェネシックを向かわせる。






 カブト・ハイパーフォームとガタック・ライダーフォームは全力でシェルターのハッチを開き、また全力で閉じた。危険度が高い、安全が確保されていない状況でのシェルターの開放は通常の手段では出来ない。だからキットがクラッキングしてロックを解除し、ライダーのパワーに物言わせて力技でこじ開け、バッタ達が入ってこないよう牽制しながらまた力技で閉じた。

 「よし、中の様子を確かめるぞ」

 「了解!」

 カブトとガタックは駆け足で通路を移動し、ハッチを通り抜けて人が集まっている区画へと向かう。途中何処からか進入したバッタを蹴散らしながらの進撃は急く気持ちと真逆に遅くなる。内部に入り込んでいるバッタは無視出来ない。全て破壊しなければ。

 「光輝! ここは俺と菫でやる! 急いで行け!」

 「わかった。無理だと思ったらハイパーゼクターを呼べ! こっちはハイパーフォームを解除してもやって見せる!」

 カブトはガタックにバッタの処理を任せると、全力でシェルターの主要区画に走る。途中接触したバッタを通りすがりに切り払う。サソードゼクターによって強化された斬撃――ハイパースラッシュの切れ味は鋭く、バッタをバターの様に抵抗も無く切り裂いた。

 『突き当りを右です』

 キットの誘導に従ってカブトが通路を曲がると、主要区画を保護するハッチが僅かだか開放されていた。強引に開放された形跡が見て取る。散らばっている破片は体当たりしたバッタの部品だろう。ミサイルを使用したのか焼け焦げた跡もある。しかし、損傷はまだ新しい。付いてそれほど時間が経っていない。まだ間に合う可能性がある。

 「くそっ」

 毒吐いてカブトが飛び込むと中にはバッタが3機、非難していた住民やシェルターの防衛に当たっていた軍人達と対峙していた。軍人達が軽機関銃を使用してバッタに攻撃するが、装甲に弾かれて終わっている。バッタの1機がミサイルを1発撃つ。ここに来るまでに殆ど使い果たしてしまったのだろう。その1発目掛けてカブトはパーフェクトゼクターの粒子ビームを撃つ。

 外れた。誤差を即座に修正、間髪いれずにもう一発。当たった。
 ミサイルは空中で爆発し、衝撃波と金属片をばら撒いて住民と軍人に襲い掛かる。同時にバッタも機関砲による射撃を開始するべくチェンバーに弾を装填した。

 『ボース粒子反応検地、誰かがボソンジャンプを行ったようです』

 キットが報告してくるが構っている暇は無い。全てのゼクターをパーフェクトゼクターに合体させ、

 「ハイパークロックアップ!」

 『ハイパークロックアップ!』

 装甲を展開してボソンジャンプ、出現と同時に超加速状態に。
 加速したハイパーカブトはパーフェクトゼクターとパーフェクトゼクターのフルスロットルを操作。

 『ソードモード! マキシマム……ライダー、パワー! カブト、ザビー、ドレイク、サソード、パワー! オールゼクター、コンバイン!』

 パーフェクトゼクターをパーフェクトモードに移行させて剣に戻し、人々とバッタの間に割り込んだ状態でパーフェクトゼクターを両手で握り締め、腰を落として大きく左に振りかぶる。
 バッタの放った銃弾は凄まじい速度で目標に向かって突き進む。カブトの最高移動速度はこの状態でほぼ音速。その他動作速度も軒並みに短縮されている。常人には決して踏み込むことが出来ない超加速状態だ。
 特殊な装置の干渉で衝撃波の発生は抑制しているため周辺被害は完璧に抑えている。だが銃弾――それも機銃――の初速には敵わない。バッタと人間の距離が遠く、かつ跳躍と加速の実行が早かったからこそ割り込めたのだ。何しろ機銃弾はハイパークロックアップの3倍の速度で飛翔しているのだ。拳銃弾ならともかくライフル並みの初速を持つ機銃弾を上回れと言うのは酷な話だ。

 『マキシマム! ハイパー、タイフーン!』

 トリガーを引き絞って必殺技を発動させる。パーフェクトゼクターから極太で長大な真紅に輝く粒子ビームの刀が発生、先端が2つに割れカブトホーンを模した全てを切り裂く刃となった。カブトはそのまま体全体を使ってパーフェクトゼクターを右に向かって振りぬく。
 横薙ぎに振るわれた刃はバッタのみならず放たれた銃弾さえも飲み込んで消滅させる。人間の胴体ほどもある刀身は接触した全てを崩壊へと導く。強力な粒子ビームによって分子レベルで構造物を破壊されたバッタはあえなく消滅し、放たれた弾丸も同じ末路を辿った。
 扇状に100度の範囲に振るわれた破壊の力は人間たちの脅威を全て飲み込んで排除した。

 『ハイパークロックオーバー!』

 加速状態が終了し、パーフェクトゼクターから発生した刀身も消滅し、本来の姿を見せている。超必殺技の影響下微かに白煙を上げているのが気にかかる。しかし優先順位はパーフェクトゼクターよりも彼らにある。カブトは突然現れて驚き戸惑っている人々に向かって尊大な態度で問いかけた。

 「大丈夫か?」

 とても心配しているとは思えない声色だった。






 ガタックは快調にバッタを駆逐していた。
 ガタックバルカンが解禁したとあって攻撃力と手数の不足に悩まされることはなくなった。おまけに狭い通路とあれば敵の来る方向も限定されてさらに戦いやすい。実戦の空気を掴むには丁度良い実習とさえ言えるほどに余裕があった。

 「さて、最後は必殺技で派手に行きたいところだが、先が長そうだし止めておくかな」

 ≪う〜ん。同じ体なのにここまで差があるなんて……。やっぱり嫉妬しちゃう≫

 菫が悔しそうに言うと、北斗は笑いながらこう言い返した

 「俺から言わせればあんな複雑な機械を意のままに動かすお前に嫉妬しちゃうよ。1度くらい思いのままに機動兵器を操縦してみたい!」

 ライダーとして戦うのも面白い事は面白いが、やっぱり巨大ロボットに対する憧れは強い。生前は男の子だったからだろうか。

 ≪そうだね。操縦オンチの北斗と違って、あたしにはパイロットとしての素養があったんだっけ。なら良いかな?≫

 「調子の良い奴」

 北斗は苦笑しながらさらにバッタを切り刻む。ライダーフォームとマスクドフォームだけで比較すれば、カブトよりもガタックの方が断然上だとわかったのも収穫だ。向こうは好きにハイパーフォームを使える上にパーフェクトゼクターもあるが、こっちはハイパーフォームに自由になれないばかりか、パーフェクトゼクターなんて便利な武器は持っていないのだ。ちょっと劣等感を感じずにはいられなかった。



 後にハイパーフォームになるとダブルカリバーの強化や任意でガタックバルカンを再構築して使用出来るのばかりか必殺技まで追加され、パーフェクトゼクターが無くてもハイパーカブトに全く引けを取らない存在になると知ったことで劣等感を完全に克服したのは蛇足である。



 ひとまず近くにいるバッタ全てを片づけてやれやれと一息ついた。さっきから戦いっぱなしでだいぶ披露している
 そこに、大量の人の気配が押し寄せてきた。

 ≪何?≫

 「さあな。もしかしたらシェルターから締め出された人間かも知れねぇな。――備えておくか」

 ガタックは両肩につけ直していたダブルカリバーを両手に握り、油断なく構える。だが目の前に現れた人影を見て剣を下して大きく息を吐いた。

 「へっ、ようやく来たみたいだぜ」

 木連軍の制服に身を包んだ武装兵が慌しくこちらに接近してくる。四方を警戒しながら迅速に移動するさまは良く訓練されていると評して良いだろう。一度こちらにも銃口を向けたが、ガタックだと確認するとすぐに下ろした。

 北斗は一応変身を解除して出迎える。ガタックゼクターのホーンを閉じて、バックルの(本人から見て)左側にある変身解除スイッチを上下同時に押してガタックゼクターをベルトから外す。スーツやプロテクターは全て分解消失し、代わりにボソンの輝きを伴って変身前に付けていた衣服が戻される。決して裸が見えないようにこれらの作業は瞬間的に行われる。装着者が女性の場合も想定してこの辺はかなり気を使っているようだ。

 「菫殿、状況は?」

 「この奥のシェルターには光輝が行ったよ。制圧に成功したそうだ。……念のためそのまま防衛に当たるとさ」

 何時もと様子が違うので兵士は僅かに首を傾げたが、話を聞くとすぐに突入部隊の状況を説明に入った。

 「我々も他のシェルターの制圧に入っています。防衛に当たっていた軍人の武装は解除させましたが、市民に負傷者はありません。ここが最後です」

 「へえ、だとすると結構前から来てたのか?」

 「いえ、ユリカ殿がシェルターの近くにそれぞれ送り込んでくれたのでシェルターの制圧が早く済んだだけです。地表の制圧はまだ出来ていません」

 「アキトは、黒い機動兵器はどうなってる? 気を配る余裕が無かったから、知らないんだけど」

 「……残念ですが部下が特攻を確認しています。パイロットの生死は不明です。ただ光輝殿の弁によると、死んではいないとのことですが……」

 返答を聞いて北斗は顔を顰めた。全く聞いていなかった。しかしどうやってあいつはそれを知ったのだろうか。まあ、恐らく機械の気持ちがわかるという能力が関係しているのだろう。それならアサルトピットの有無程度はわかるだろうし。

 「隊長、コロニー上空に未確認機が接近中。形式不明、地球、木星ともに該当する機種はないそうです」

 北斗は直感的に悟った。その機体に乗っているのがアキトだと。光輝は何らかの方法で知ったのだろう。おそらくは、ハイパーゼクターが関わっているはず。

 「さて、アキトの戦いを見せてもらうとするか――」

 北斗はいそいそとシェルターの外へと駆けていった。とは言っても、天下無敵の方向音痴の彼女がそう易々と辿り着けるわけはないのだが。






 アキトは極冠遺跡からユートピアコロニーまで数分という驚異的な速度で到達していた。ジェネシックガオガイガーの機能にはまだいくつかプロテクトが掛かっているため使用出来ない機能も多いが、パイロットであるアキトが慣熟するまで特殊な機能が働かないようにするためのセーフティーだろう。
 ジェネシックガオガイガーは人類にとって未知の存在である。例え資格者と言えど人類である以上一度にジェネシックガオガイガーの全てを把握することは出来ない。しかし、それでもこのジェネシックなら単独で戦艦1隻に匹敵する火力と防御力、機動兵器としても突出した機動力を併せ持つ攻・防・速の3つが揃った非常に優秀な機動兵器だ。不意打ちさえ決まればこの程度の敵なら一網打尽に出来る。問題はエネルギー残量だ。
 万が一の暴走を抑止するためにこの機体は相転移エンジンのような半永久機関に該当するようなエンジンを積んでいない。同程度の出力を生み出す高出力ジェネレーターを搭載しているが、燃料ペレットの消耗が激しく最大出力では3時間ほどしか稼動出来ない。兵器としては失格としか言えない活動時間の短さだ。
 長期任務や補給無しでの活動など想定していないと言わんばかりの両極端な機体だった。

 「見えたぞ……!」

 アキトはレーダーに映る艦影と機影を見つけてにやりと笑った。かつての復讐者の時に見せた笑いとは違う、影のない笑みだった。

 「ガオガイガー、回り込むぞ」

 『了解』

 アキトは地表近くを大地の隆起や山陰に隠れながら距離を詰める。こちらからもレーダーでは敵を捕らえなくなるが、それは向こうも同じだ。使えるあらゆる手段を使って敵の動向を探るが、こちらを見つけた様子はない。ジェネシックガオガイガーの索敵能力が敵を上回っているのか、それとも運良く見つからなかったのかはわからないが、ついている。

 そのままぎりぎりまで距離を詰めた状態でアキトは攻撃準備を整える。

 「ガジェットツール」

 アキトの音声入力とIFSによる思考入力によってジェネシックガオガイガーの尾を形成する楔型のパーツ、その二節目と三節目が分離して左腕に拡大変形しながら連結して被さり、開放された先端から深緑の棒が生える。ボックスドライバーに似た先端、開放され尾だった頃の2倍から3倍はありそうな巨大な楔形のパーツが前後に連結して末広がりなっている。特に左側の山は大きく張り出し、レベルゲージが出現してその周囲が赤く染まっている。
 それは、左腕に装着される広域破壊、または広域防御に使用される万能ツールだ。先端に三種類のアタッチメントボルトを装着することで効果を変化させることが出来る。

 「ジェネシックボルト」

 アキトの音声入力に応じて胸部の獅子の口の中でネジの切られていない釘のような鋭いアタッチメントボルトが生成され、飛び出す。左手に装着したドライバー状のツールを前方に突き出すとその先端に曳かれるように飛び出したボルトの後端がドライバー先端に合体する。

 アキトはそのままタイミングを窺った。岩陰からそっと頭を覗かせて敵の動きを見る。脅威目標を探し、鎮圧しているであろう無人機が自分に背を向ける瞬間を。

 「今だ……!」

 その時は来た。アキトはジェネシックの可変翼、ガジェットフェザーの出力を最大にして噴射、一気に距離を詰めて叫び、左手のツールを作動させる。

 「くらえっ!! ボルティングゥ! ドライバァーーーッ!!」

 大きく突き出した左手のツール――ボルティングドライバーの左外側にあるレベルゲージが後ろから先端方向に向けて次々と点灯し、先端が点灯した瞬間、ドライバーヘッドに合体したジェネシックボルトから黒い水のような流れの奔流が発生し、正面にいた戦艦を1隻、丸々飲み込んで崩壊させていく。

 ジェネシックボルトは広域型グラビティブラストだ。左腕に装備された防御装置プロテクトシェードと呼ばれるディストーションフィールドの力をドライバー部分で増幅、ボルト部分を解放部として強力な重力波の奔流を持って敵を破壊する広域破壊モードだ。戦艦の主砲にも匹敵する重力波が完全に不意を突かれた無人機たちを大勢飲み込んで崩壊させる。強力な潮汐力によって分子結合を強制的にバラバラにされて、時には電子さえも弾き飛ばして原子へと還していく。

 広域破壊とはいっても所詮は機動兵器レベル。威力はともかく艦船搭載型ほどの攻撃範囲は無い。連射速度だってかなり遅い。アキトは攻撃範囲の不足を機体を旋回させることで賄った。高低差は攻撃範囲内、横に薄く広く広がっていたからこそ可能だった攻撃だ。
 不意さえつけば、フィールドを強化されて防がれる恐れは全く無いと言って良い。常時最大防御出力では装置が持たない上索敵機能などに割くエネルギーさえも残らなくなってしまう。
 その点を突いた奇襲というのは非常に有効だった。一撃で相手を倒せる火力を保有していようと正面から戦えば互角以上の戦いとなることも珍しくない。だが、相手を全く対応出来ない状況を作り出せば、それが生きる。かの戦艦大和もその主砲の破壊力はもとより、アウトレンジ戦法を想定しての長距離狙撃を行いかつ効率良く相手を沈めるために45口径46cm砲を装備したのだ。当時の艦船の装甲でこれをまともに防げるのは大和型戦艦のみ。相手(米国)はある事情から艦を大型化出来ず46cm砲など想定もしていない。直撃すればあっという間に装甲を抜かれ、浸水による戦闘能力喪失を期待出来る程だったという。

 アキトが行ったのはアウトレンジ攻撃ではないが、回避不可能な距離での一撃必殺の攻撃は非常に効果的であることは誰でもわかることだろう。



 アキトはジェネシックを翻して生き残った左翼の敵部隊に向かって突進する。完全に不意を突かれたがそこは無人機。熟練した兵士にも匹敵する速度で反撃を開始してくる。人間と異なり計器が拾ったデータを即時分析して戦術を組み立てる機械ならではの速度だ。尤も、拙い戦術AIでは宝の持ち腐れとも言えたが。

 事実、反撃こそしてきたものの大半が直撃コースを外れ、散漫な対空砲であった。中にはジェネシックを捕らえた攻撃もあったが、ジェネシックの常識外れの運動性の前には無力であった。
 ほぼ光速で飛来するビームを機体を捻って避け、追尾する対空ミサイルはわざと追いつかせ、近接信管が作動するまであと少しというところで急加速・急旋回を組み合わせた回避行動で無力化する。本来直進する物体が方向を変えるのには直進に使用する以上の力が必要なため、速度が速い機体というのは総じて針路変更に時間がかかるものなのだが、それを感じさせない小回りをもって軽くミサイルをいなし、速度を上げて接近を続ける。

 「ブロウクンッ! マァグナムッ!」

 アキトの叫びに応じてジェネシックの右手が高速回転。強力なディストーションフィールドに包まれて赤く輝き、白煙を伴って右腕から射出される。
 射出された右手は猛烈な勢いで戦艦の横っ腹に突き刺さる。フィールドなど無いと同じと言わんばかりに難なく貫通し、そのまま本体をも突き抜ける。そのまま拳は反転して今度は艦尾のノズルに突入し、艦首から抜ける。ジェネシックに向かうついでと言わんばかりに今度は反対側から突入して突きぬけ、空中でくるりと反転してジェネシックの右手に収まる。
 全高10mほどのジェネシックの腕の大きさがいかが物か、想像は難しくないだろう。手首と後ろについている小型の推進装置。それだけで構成されているというのに長時間にわたる高密度・高出力のフィールドの展開、使い捨てにしかならないはずの拳を回収するだけでなく目標を追尾し、かつ追撃まで行う驚異的な制御能力。方向転換はフィールドによる推進力を使用したのだろうが、人類には到底及びもつかない超技術の塊だった。それでも有効射程は短く右手が戻るまでウィルナイフは使えず必殺技も使えない。万が一にも帰還に失敗したり破壊されてしまっては、ジェネシックの攻撃性能はがた落ちする。それを考えると、常用すべき攻撃手段ではないだろう。

 「ガジェットツール!!」

 尾の先端、翼竜の頭部のようなパーツが切り離されてジェネシックの右手に被さる。拡大変形をしたパーツが被さる。

 「ウィル! ナイフ!」

 叫びに呼応してくちばしが回転、反対側から深緑の刀身が生成される。刀身が鮮やかに輝く。ジェネシックは進路上に現れたバッタを容赦なくウィルナイフで切り裂く。まるで熱したナイフでバターを切るかのようにすっと切り裂かれ、綺麗な断面を覗かせたバッタは数拍置いてショートによる弾薬や機関部の火災によって炎上、爆発した。

 ウィルナイフは高密度のフィールドコーティング技術の結晶だ。素材そのものがディストーションフィールドを表面に誘導し、定着させる性質を持つのみでなく、それによってもたらされる空間歪曲によって性質を変化させ、強度を出力に応じて上げていくという驚異的な素材で構成されている。

 そう、ボルティングドライバーもウィルナイフも、ボルトと呼ばれるツールも全てナノマシン技術の結晶だ。
 基本となる骨組みは存在するが当然拡大すれば表面の装甲が足らなくなる。その不足分を急激に増殖させてナノマシンによって補うだけでなく、収納の邪魔になる部分を瞬時に構成させることすら可能としている。人類が手にしたIFSなどを初めとするナノマシンが玩具にしか見えないほど高性能で人知を超えたをテクノロジーの産物だ。



 アキトはバッタを切り裂くとそのまま直進して最後の戦艦を撃破すべく接近する。戦艦のフィールド出力が急激に上昇していくが、気にしない。ボルティングドライバーならこの距離なら十分抜けるし、ジェネシックの武装なら全てこのフィールドを苦も無く突破して血祭りに上げるに十分だ。なら、試験運用をしても良いだろう。そう思えるほどアキトには余裕が感じられた。負けるはずが無い。稚拙な無人機に後れを取るなどありえないと、漠然とアキトは感じる。ブラックサレナに乗っていた時はひしひしと感じられていた死の恐怖が地平線の彼方まで吹き飛んでしまったようだった。

 「ストレイトォッ! ドリルッ!!」

 左膝に装備された銛のような刃がついた鋭いドリルが唸りを上げて回転。高密度のフィールドコーティングの影響で真紅に染まる。そのまま膝蹴りの要領でフィールドに突き立て、難なく突破。そのまま装甲に食い込ませる。抵抗も無く装甲を抜けたが大きな打撃は与えていない。それもそうだ、このドリルを貫通力を極限まで追及した装備。精密破壊・局所破壊には絶大な効果を発揮するがこういう巨大な物体を破壊するには力不足だ。内部から破壊するにもジェネシックの体が支えて内部には入り込めない。だから、これを使うのだ。

 「スパイラル! ドォリルッ!!」

 今度はお馴染み螺旋状の刃を持った右膝のドリルを高速回転、真紅の渦を巻きながら装甲に突き立てる。すると、波紋のように戦艦内部を高密度のフィールドが巻き起こす重力衝撃波とでも言うべき重力干渉が徘徊し、内部から戦艦を破壊していく。突き刺さった対象を内部からズタズタに破壊する破壊力重視のドリルだ。これの直撃を受けてはディストーションブロックでも装備していない限り被害の拡大は防げない。

 ジェネシックが突撃したのは機関部。当然、エンジンはずたずたに破壊されている。

 突きたてたドリルを引き抜くとジェネシックは猛スピードで離脱。戦艦の爆発から逃れる。

 「ボルティング! ドライバァーーー!!」

 再チャージを完了したジェネシックボルト装備のボルティングドライバーから放たれた重力波が群がるバッタを次々と崩壊に導いていく。逃れて接近したバッタはウィルナイフと両膝のドリルで貫き、時には足の鉤爪で掴んで他のバッタに投げつけて、チャージ完了と同時にボルティングドライバーの重力波砲で撃破していく。驚異的な戦闘能力をまざまざと見せ付けたジェネシックガオガイガーは、敵を見事全滅させて火星の地表に降り立った。所要時間はわずか10分。驚異的な速さだった。

 壊滅的な被害を被った地区は少ない。時間は掛かるだろうが、以前の歴史と異なり復旧は十分可能だろう。

 「守れた……俺守れたんだ!」

 アキトは歓喜に沸き立った。エステバリスともブラックサレナとも違う圧倒的な性能と、自分の感覚に寸分の狂いも無く追従する追従性能。初めて人機一体というのを肌に感じることが出来た。

 「これが、ジェネシックガオガイガーの力か……!」

 『そうだ。と言っても、まだ全ての機能を使っているわけではない。それは今後アキトの成熟次第で開放していこう。

 うむ? ボソン反応増大。何か出てくるぞ』

 アキトはセンサーが捕らえたボソン反応増大地点カメラを向ける。
 見慣れてしまったボソンの輝きが収束し、徐々に形を取り始める。

 「さっき壊れた光輝の機体?」

 それは先程特攻して果てたストレリチアに酷似した機体だった。

 白い四肢と頭部を持ち、厳つそうで案外スリムなシルエットを持つ。脛と腕の外側にはカバーのような装甲が施され、シルエットのバランスを崩すか崩さないかという大型の肩、緑色の透明なシールドを施された胸部のセンサーは突き出たコックピットブロックに装備され、中央で仕切られる形で長方形状に上下に配置されている。胸部インテーク(または逆噴射スラスター)の下にはライフルほどの口径を持つバルカンと思しき装備があり、肩口にも同口径と思われるバルカンが装備されている。白い四肢と反し、暗い青で塗装された胴体と肩とカバー状の装甲とつま先、インテークや腹などは黄色や赤などで塗り分けられ非常にアニメチックな色合いとなっている。
 格好良さと品性を考えた、ゲキガンガーのようなスーパーロボットとは異なる落ち着いた色合いだ。

 だが何より特徴的なのはフェイスと背中の装備だ。
 エステバリスと似た形だが、への字のスリットが縦に2つ並び、口(顎?)の部分と隈取の部分は赤く塗装され、明るい緑のカメラアイを引き立てている。4本に分かれたV字のブレードアンテナも特徴的で、エステバリスには無いトサカのような部分にセンサーが装備されている。そして何より頬に装備された髭のような突起がブレードアンテナと合わさってアルファベットのXを構成した面白いシルエットを形作っている。
 そして背中の翼のようなプレートと巨大な砲身によって構成される巨大なX字を作っている。

 右手に長銃身のライフル、左腕に小型のシールドを接続している。
 機体も装備も非常に綺麗な状態だ。塗装も小奇麗で煤や埃を被った形跡すらない。工場から出荷した直後のように見受けられる。

 「Xが2つ……。まさかこれでツインエックスとかダブルエックスとか言う名前だったりして」

 アキトが冗談半分で言った台詞が本当に正解だったとは、この時はジェネシックガオガイガーですらわからなかった。

 その隣には寄り添うように戦闘機が存在している。ストレリチアと合体していた支援戦闘機に似ているが、細かな造形は異なり、単独で見るとL字型のブースター兼コンテナユニットがデルタ型の翼の下に装備されている。翼の中央は膨らんでいて、先端部分は細長いドーム状に膨らんでいる。
 翼の両端には薄い長方形状の砲身が取り付けられ、基部には円筒状のジェネレーターが装備されている。
 機首は分離可能な小型機になっているようで、明らかにドーム状部分との間に不自然な隙間が開いている。どう見ても普通の戦闘機には見えない。
 コンテナの内側にはハッチが装備されていて正面から見ると“ロ”のように空間が開いている他、コンテナ兼スラスターユニットの直下には機体の全長にも匹敵するような大型のタンクが装備されている。エネルギータンクだとしても、非常識な大きさと言わざるを得ない。

 セットで現れたことを考えると、あのロボットの支援装備の一種なのだろう。

 2機はそのままゆっくりとユートピアコロニーのシェルター入り口に降下すると、動力を停止した。

 「なあ、ガオガイガー」

 『何だ?』

 「あれってもしかして、光輝への贈り物だったりするのかな? あいつ、機体無くした直後だし」

 『だとしても、あまりに対応が早過ぎると思わないか? 撃破されてからまだ3時間しか経っていない』

 「だけど、あまりに似てないか? ストレリチアに。ジェネシックなら軌道上での戦闘はモニターしてただろう?」

 『無論だ。確かに似ている。むしろ余計な装飾が消えてすっきりしたみたいだな。後継機なのだろうか?』

 実は原型だったりするのだが、やはりジェネシックガオガイガーには与り知らぬことだった。

 「とにかく、一度合流した方が良いよな」

 『そうだな。機能を停止したようだが傍についていれば不測の事態にも対応出来るだろうし』

 アキトはジェネシックを新型機の隣に着陸させると、コックピットから出ようとする。

 『待てアキト』

 「なんだよ」

 『このまま外に出ると、お前の立場が悪くなるぞ。木連側にはばれても大丈夫だろうが、火星の駐屯軍にばれると事だぞ。
 民間人の戦闘行為は犯罪だし、何より私が接収されて研究所送りにされる可能性がある』

 「あ、そうか」

 確かに自分は調理師見習いであり、軍人でもなければ企業所属のテストパイロットというわけでもない。しかも、ジェネシックガオガイガーは全く未知のテクノロジーの塊だ。さぞかし目の色を変えて襲い掛かってくるだろう。

 「んじゃこのまま待機するか。一応光輝に連絡を取ってくれ」

 『了解、回線を繋げるぞ』

 ジェネシックは苦もなくハイパーゼクターにアクセスし、キットの了承を得た上で通信を繋げた。

 「こっちは制圧完了したぞ。残存勢力は確認されず、そっちは?」

 一応サウンドオンリーで話しかけたし、変声機を通して声も変えているから地元の人間にもばれないだろう。

 「了解。こっちも制圧完了した。住民の大半は無事だ」

 返事は予想通り、しかしほっと胸を撫で下ろす内容だった。心成しか焦っているような気がするのは考え過ぎだろうか?

 「わかった、このまま警戒体勢を維持して待機する。何かあったら伝える」

 「了解した。木連軍のほうには俺から伝えてあるから、遠慮なく申し出てくれて構わない。以上、交信終わり」

 と、向こう側からぷっつり通信を切った。






 「……軌道上での戦いと言い、本当に間の悪い奴だ……」

 心底うんざりした光輝は乱暴に通信を切ると、視線を恐る恐る火星の市民に向ける。

 「おいサイトウ、生きてたんならどうして連絡の一本でも寄越さなかったんだよ!」

 と言うのは序の口だった。この星の出身者だと言うのは間違いないようだ。自分の生まれ故郷を知ることが出来たのは嬉しいところだが、まさか覚えられていたとは。

 おかげでややこしい事態に遭遇してしまったようだ。

 「お兄さん! あたしのこと、ほんっとうに覚えてないの!?」

 これには参った。

 目の前には薄い桃色の髪を腰まで伸ばした美少女が金色の眼に涙を溢れさせて詰め寄っている。ほっそりした身体つきだが、出るところはそれなりに出ている背の高い女の子。年は15,6と言ったところか。

 光輝に火星の時の記憶は全く無い。ヤマサキに言わせればイレギュラーボソンジャンプの影響で記憶に障害を負ったのではないかということだが、真相は定かではない。草壁に拾われ、北辰宅に住み込むようになってかれこれ10年が経つが、記憶は一向に回復せず、光輝自身も全く気にしていなかった問題だ。

 それがこんな形で向き合うことになろうとは。

 「そう言われても、記憶障害でな。8つ以前の記憶が無いんだよ。だから君の事はわからないんだ」

 光輝は必死に妹を名乗る女の子を宥める。子供を泣かせるのは男女問わず大人のすることではないと公言して憚らない彼だが、それでも子供を泣かせることなく付き合っていくのは難しい。というか無理である。何しろ大人の常識で測れる存在ではないのだ。

 「そんなあ〜……」

 ついにはめそめそと泣き始めてしまった。周りからの視線も痛い。

 どうやら思った以上に印象の強い子供だったらしい。良くも悪くも。

 「あ〜あ。あんなに大事にしてた妹泣かせちまったよ。こりゃ本当に記憶喪失みたいだな。真正のシスコンだったくせに」

 「でもその割には何か扱い慣れてないか? そりゃ、ラピスちゃん泣かせちまったけどあやし方とか随分と手馴れてるって言うか――」

 と外野が騒いでいるが光輝はそれどころではなかった。
 真贋は別としても妹を名乗る女の子を泣かせてしまうとは。非常に不味い。人として、否、兄として失格だ。

 「2人だけで話がしたい。ついて来てくれ」

 光輝はラピスという少女の手を引いて出口に向かう。――が、立ち止まると他の面々に振り返ってこう言い放った。実はこの時結構感情的になっていたとは本人の弁だ。何の為に新しい名前を名乗ったのか、意味を無くすくらい。

 「それと言っておくが俺の名前はサイトウ・アスマじゃない。

 天の道を往き、光の如く輝く男。天道光輝だ!」

 と心の底から訴えると呆然としているラピスを引っ張って今度こそ室内を後にした。



 直後、市民はおろかその場にいた軍人までもが大爆笑したことを、彼らは知らなかった。
 半数近い人数が腹を抱えて蹲ったことも、当然知らない。






 光輝はそのまま地上に出ると半分倒壊した建物の影に落ち着いた。途中で木連軍人に呼び止められたが、顔を確認させて事情を説明すると盗み聞き出来ない程度の距離を保って護衛に付いてくれた。
 脅威の殆どは排除したとは言ってもまだ安全を確保しきれていないのが現状。次元跳躍門の殆どは完全に破壊したはずだが、何が起こるかは誰にも予想出来ない。何しろ本来ならありえない状況のオンパレードというのが現状だからだ。

 ストレリチアによるユートピアコロニー壊滅の回避、ライダーの活躍、ジェネシックガオガイガーの覚醒、さらにはナデシコCとユーチャリスという艦船の存在、入念に準備され導入の早まった有人部隊(誤字に有らず)の存在。

 ボソンジャンプに耐えうる高出力ディストーションフィールドを展開可能な揚陸艇、さらにはミスマル・ユリカを味方につけたことで可能になった部隊の投入。さらには謎の機動兵器と戦闘機の乱入などなど。

 ついでにワームの存在などがある以上、多少今後の展開を知っている(というか予測出来る)と言っても様々な出来事を想定して動かないとかえって事態を悪化させかねないとは専門家の意見も一致している。

 まして、ライダーは貴重な歩兵戦力だ。間違っても失うわけにはいかない。それに、先程現れたストレリチアに良く似た機体というのも、気になるところではある。光輝は待機しているジェネシックと謎の新型機を視界に納められるような場所に移動して、話を始めた。

 「詳しく聞かせてくれ、俺がこの街にいた頃の話を」

 「いいよ」

 ようやく泣き止んだラピスはポツポツと話し始めた。

 それによると、自分はかなりの悪ガキだったことがわかる。理屈っぽくて年の割りに頭が良く回り、同年代だけでなく中高生くらいの相手を言い負かしたり、時には大人だって言い負かしたことがあるらしい。
 恨みもその分買ったが同年代なら打ち負かし、明らかに格上の相手からはのらりくらりと器用に逃げていたらしい。

 しかし妹にだけは甘く、手を出そうものなら何時もの3倍の報復をしていたらしく、ある意味恐れられていたようだ。

 「……」

 「にしても記憶失ってるとは思えないほど変わってないなあ。まあ“妥協”と“社交性”は身に着けたみたいだけど」

 酷い言われようだが反論出来そうも無いので黙っている。

 「それでも、あたしには良いお兄ちゃんだったよ」

 てへっ、と笑いながらラピスは光輝に抱きつく。ついでに頬擦りまでしてくる。

 (情報が少な過ぎる……)

 表面上は照れた振りをしながら光輝は思考を巡らせた。火星の住民票を確認すれば、自分の家族構成を知るのは容易い。死亡届が出ていようと調べることは出来る。ましてや自身の本名が確認出来たのだ。親類を含めて全て探ることが出来る。

 (しかし、仮に戸籍上本物の妹だとして、俺の戦いに巻き込んでいいのだろうか?)

 一番の問題はそこだった。真贋の有無よりも自分の戦いに巻き込んで良いのか悪いのか、それだけが重要だった。
 枝織もすでに家族であり妹だが、戦いには絶対に巻き込みたくなかった。彼女に血生臭い戦場は似合わない。平和で穏やかな世界で生きて欲しい。そう願って止まない。

 出来ることなら、女房だってそうさせてやりたいものだが、貴重な戦力であり得がたいパートナーだ。菫だけなら力ずくでも降ろしただろうが、北斗の存在がネックになった。
 北斗は強い。経験値さえ補えば生身では自分とタメを張る数少ない戦士だ。それに軌道上での戦いから機動兵器関連の適正も菫より高いことが窺える。それに失われてしまったとは言え今後確実に造られるであろうストレリチアの後継機、それがGファルコンのような人が乗れる補助兵装であるのならなおさら息の合ったパートナーが必要不可欠だ。それを考えると出来れば降りて欲しくは無い。それに、先に死なれたくないという妻の願いを無視は出来ない。出来る事なら共に戦っていきたいという気持ちもだ。今更ではあるが、戦場から退いて一般人として生きて欲しいというのは所信自分の要望に過ぎない。相手がそれを拒否するのであれば実現はしないし自分の意見を押し付けるようなことはしたくない。
 最悪枝織は自分が居なくても守ってくれる人物が居る。その内男を作ってそいつと一緒に生きていくことになるだろう。しかし、菫には、北斗には自分しかいない。あの愛らしい幼馴染でも、支えきれないかもしれないのだから。



 逃げられないジレンマが光輝を苦しめる。そんな彼の思考を知ってか知らずか、ラピスはとんでもないことを言い出した。

 「木連に居たお兄ちゃんが出てきたってことは、何か理由があるんでしょう! 包み隠さず教えて! あたし、情報収集ならお手の物だよ!」

 「おまっ……」

 これにはホトホト困り果ててしまった。そうだ、彼女は確か強化IFS体質の――。
 そこまで思考が巡って、彼ははっとした。






 (何故、俺はそのことを知っている?)

 妹の事だって覚えていないというのに、何故、彼女が特異体質であることを知っているのだ。

 「ラピス、何故情報収集ならお手の物なんだ?」

 動揺を抑えきれず、わずかに声が震える。

 「あれ? 知ってると思ったんだけど?」

 おかしいなあ、と彼女は首を傾げる。

 「だって、お兄ちゃんも未来からの影響を受けてるんでしょ?」

 にっこりと微笑んで彼女は言った。それはとてつもない爆弾を含んでいた。

 「どういう意味だ?」

 「だってさっきの強化服、あんなのこの時代の科学力じゃ作れないよ? というか、技術と発想が足りないっていうのが正しいかな?
 
 もしその装備を簡単に作れるだけの技術力が木連にあるのなら、バッタももう少しマシな性能になって出てくるでしょうし。

 だってそうでしょう? 確かに全く異なる系統の装備だけど、人が扱える大きさと重量であれだけの破壊力を生み出す技術。それが全く反映されていないなんておかしな話じゃない?
 あれ、フィールドコントロールで生み出した粒子ビームの刃でしょ。あれだけの粒子ビームを制御するのもそうだけど、発生させるジェネレーター出力にそれだけの負荷に耐えられるデバイスの強度、いずれもバッタとかに反映させる事が出来無いとは思えないし、出来るのならバッタの性能だってきっと物凄いことになってるだろうから、さっきの強化服の攻撃力じゃたぶん破壊不可能だよね?」

 やるな、光輝は素直にそう感じた。

 確かにマスクドライダーシステムの使用する火器はエネルギーこそボソンジャンプを利用したシステムで見かけ以上の出力を持っている。
 そして、バッタの大きさがあれば相転移エンジンは不可能でもかなりの出力のジェネレーターに換装可能だ。そうすれば、パーフェクトゼクター以上の攻撃力を付加出来る。超必殺技の完全防御は流石に不可能だが、それでも一網打尽はありえない。

 ライダーの快進撃の最大の理由は攻撃力と運動性能で勝ることが出来たからだ。相手はライダーに対して効果的な攻撃が出来なかった。
 バッタの火器管制システムで捕らえるには拙かった。経験不足も関係していたが、基本的には対艦戦闘と施設制圧を主眼に投入されていたことが原因だった。
 施設制圧である以上対人戦闘も考慮されているが、機動力や攻撃力は元より、機銃の掃射にも短時間なら防ぐプロテクターにそれを支えるスーツの防御力も大きい。
 攻撃を完全に回避しつつ戦うのは難しい。だが、時には思い切った行動に出られたことがライダーにとって優位となった。勿論、クロックアップによる機動力の異常な高さも忘れてはいけない要素だが。

 ライダーを作れるのなら、同時にそれに対する対応策が採られていない方がおかしい。彼女の指摘はそれだった。

 「あの特撮ヒーロー然とした強化服は絶対に未来からの贈り物。いえ、もしかしたらあたしみたいに人格や記憶と言った、言わば精神と言うべき情報がこの時代の――いえ、この世界の肉体に上書きされた人間の作品なんじゃない?」

 「ほう……随分と発想が豊かなんだな。将来は小説家か? それともシナリオライターにでもなるつもりか?」

 「誤魔化さないで。見る人が見たらすぐわかるよ。お兄ちゃん、天道光輝なんて名乗ってるけど、テンカワ・アスマの情報や一部の財産を受け継いでるんじゃないの?

 あたしが知ってるアスマとは性格とか言動が異なり過ぎてるから、多分人格は上書きされず、一部の記憶のみがダウンロードされたんじゃない?」

 さて、どう対応したものか。この調子では誤魔化しきるのは不可能そうだ。むしろ引き込んでしまって保護した方が情報漏洩も防げて妹を名乗るこの少女の安全を確保出来るだろう。

 「正解だよ。俺は未来の、平行世界の俺からこのハイパーゼクターと先程失った機動兵器、ストレリチアを受け継いだ。だけど人格は受け継がなかったから一部の記憶しか受け継いでいない。その記憶にしても他人の日記を読んだみたいに自分の経験とは感じる事の出来ないものだから、殆どこの世界の人間と言っても良い」

 そう言って左掌を上に向けて差し出すと、その上にハイパーゼクターが出現する。

 『呼ばれて飛び出て、と、ネタなんでしたっけ?』

 「知るか。ふざけてないで自己紹介でもしろ」

 光輝は冷たく返すとキットに自己紹介を促した。

 『始めまして。私はキット、このハイパーゼクターに搭載されたオモイカネ級AIの一種です。主に人間の良き理解者、家族になるべく作られたため、オモイカネ兄さんに比べて演算能力や管理能力よりも自我の確立や人間に酷似した感情パターン及び思考形態の成長を目指しているタイプです。

 そのため、以前のボディであるスーパーカーナイト2000、機動兵器ストレリチアの制御装置としての運用は本分では有りません』

 「へえぇ〜〜。変わってるのね。ダッシュとの性能比較は?」

 『単純なコンピューターとしての能力は本体の大きさを鑑みてもダッシュ兄さんの方が遥かに優れています。ですが、人間とのコミュニケーション能力は私の勝ちです。私の存在意義が掛かっていますから、戦艦のオペレーションを主眼に置いたダッシュ兄さんとオモイカネ兄さんと、将来的には介護やお友達ロボット的なものに搭載される予定のAIのプロトタイプである私では全く異なる存在です。

 ですから、ベースが同じと言うだけの存在です』

 「じゃああたしの家族にもなってくれるんでしょ」

 『勿論。光輝の妹なら大歓迎です』

 ラピスはハイパーゼクターを包み込むように持ち上げると、胸元に抱えて嬉しそうに飛び跳ねる。その光景を微笑ましげに眺めていた光輝は突如として沸いて出た気配に一瞬で思考を戦闘モードに切り替えると、ラピスを掻っ攫うように抱えて気配から遠ざかる方向に距離を取ってから振り返る。懐に忍ばせていたナイフを握り締め、構える。急な事にラピスは困惑し、続いて義理の兄とは言え異性に抱きしめられているという状況に赤面する。

 「流石に反応が早いな。とても同一人物だとは思えないよ」

 『声紋が……一致?』

 キットが驚いた声を上げるのを光輝は殆ど聞こえていなかった。

 声の主は気配の殺し方は不完全だし、足の運びもプロと言うには拙いとしか言えなかった。しかし、何処か他人とは思えないこの気配は一体何だ。

 「へえ、そのカブトムシがキットなのか。シルエットと名前が違うみたいだけど。流石は関わりのある平行世界、技術水準は近いものがあるのかな?」

 建物の影から現れたのは、光輝に良く似た人物だった。いや、今年で18(ということにしてある。実年齢は不明だったのだから仕方がない)になった光輝に比べると幾分年を取っている。最低でも23,4と言った所だろう。右目が深緑に輝いていることを除いては、殆ど同一人物と言って良い顔立ちだった。右手に抱えているのは、百貨辞典ほどもある巨大なプラスチック製の箱だった。コネクターが見えることからして、外付けHDのようなものなのだろうか。

 手で監視役に“そのまま待機”という指示を出して光輝は改めてナイフを男に向ける。逆手に握り替えて腰を落として関節を僅かに曲げて備える。殺す気満々も姿勢だ。

 「渡したい物があって来た。

 俺は、俺は――――似て非なる平行世界から来たお前、テンカワ・アスマだ」

 「平行世界? 本当に何でもありな世の中になったもんだな」

 警戒は解いていないが明らかに呆れと憂いを含んだ声色で光輝は感想を述べた。まあ自分が言うのもあれだが、まあ突っ込まないでおこう。とりあえず構えていたナイフはしまっておく。

 「……言いたいことはわかるがこれもこの世界の運命だ。許されないことだと思う。正直こうして対面したことを今凄く後悔してる。
 でも、俺はお前に、この世界の人間にこのデータを渡さなきゃならない」

 「データ?」

 「ああ。これは俺達の戦いの証、地球人類にとって唯一残された希望を具現化した存在。
 俺達の船、宇宙戦艦ヤマトの全運用データとその改良型に関する全てが収められている」

 「ヤマト? 確か、旧日本海軍の戦艦の名前……」

 この単語に反応したのはラピスだった。
 聞いたことがある名前だった。確か、第二次世界大戦で大日本帝国の海軍が生み出し、運用した宇宙戦艦誕生までの間まで最大最強を誇った戦艦の名前だ。
 94式45口径46cm砲を搭載した始めての戦艦。これは宇宙戦艦が誕生して久しい現在に至っても最高クラスの口径の大砲だ。三連装の砲塔を3基、計9門装備した当時としては最強の大砲を搭載した戦艦――大和。

 日本国を意味するその名を冠した世界最高の戦艦。左舷側に集中的に魚雷を受けておきながら9発も耐えた破格の耐久力。同型艦の武蔵に居たっては20発近い魚雷と爆弾に晒されてようやく沈没したと言う空前絶後の被害を受けている。しかも、それでも5時間近く浮かんでいたのだ。
 大和攻撃に当たって片側の対空装備を薙ぎ払い、魚雷を集中させることで撃沈したのは武蔵撃沈に手間取ったという教訓からの攻撃だと言われている。

 その後も開発されたミサイルを初めとする装備を持ってしても、集中防御方式を採用したバイタルパートの部分に関しては突破が困難と言われるほどの防御力と、最大射程(多少内側に入られても)ならどの国の艦船の装甲をも貫くとされた46cm砲を搭載していた。しかも、旋回性能に関して言えばその巨体に似合わない驚異的な数値を記録し、巨艦であるが故の舵の効きの悪さはあったものの、その運動性能は高いものだったと言う。最高速度こそ平均的なものだったが、大和という戦艦の性能の高さは当時最強であったと言っても過言ではないだろう。

 「そう、その大和をモデルベースにナデシコの後継艦として開発された当時最強の宇宙戦艦、ヤマトだ。
 建造はナデシコが火星から消失した空白の8ヶ月間の間に設計と起工が行われ、1年という短い間に竣工した。収束率の極めて高い46cm重力波砲を9門搭載し、対空砲火とミサイル装備を充実し、艦首に戦略兵器相転移砲、後に主機関の換装に伴って艦首波動砲を搭載した極めて強力な戦艦だ。

 もっとも、沈んだ年にはヤマト以上の戦艦が竣工してたけどな」

 アスマは悲しそうに目を伏せた。

 「お前、乗艦していたのか?」

 「……ああ。アキト兄さんもユリカ姉さんも、たまたま乗り込めなかった北斗とルリちゃんを除けば、家族と言える人も、得がたい友人達だった同僚も殆どが戦死した。

 生存者は俺を含めて18名。ヤマトは、最後の賭けに出て敵の母艦、超巨大戦艦に体当たりして自爆。後は同行していた戦艦アンドロメダがヤマトの作った破損部に波動砲を撃ちこむことで決着を付けた。



 でも、俺たちは、俺たちは――」

 アスマは堪えきれなって嗚咽を漏らした。

 「――大切な仲間と、共に苦難を乗り越えてきた、や、ヤマトを……ヤマトを失ってしまった……!」

 涙が頬を流れ落ち、地面に染みを作る。

 「ずっと一緒だと思ってた! へ、平和になった、地球で――ゆっくり休ませてっ、退役したら皆で、皆で運送業でもやろうかって! ……っ! 失いたくなかった!」

 アスマは押さえきれない感情を爆発させた。強く握り締められた拳から血が滴り、大地に沁み込んでいく。

 「ヤマトも! 乗組員の皆も! みんな、みんな!!」

 光輝は米神を僅かに引き攣らせるとつかつかと歩み寄って思いっきりアスマを殴り飛ばした。勢い良く吹っ飛ばされたアスマはごろごろと地面を転がる。土煙を上げて軽く3mは飛ばされていた。技術もへったくれもない、力任せにぶん殴っただが周りが見えていなかったアスマには痛い一撃となったようである。

 「あわあわあわ……」

 後ろでラピスが青くなって慌てふためいているが、光輝は気にも留めなかった。妹の事が頭から吹き飛ぶくらいに彼はイラついていた。

 「お涙頂戴話に付き合ってやれるほど暇じゃない……! 用件を済ませてとっとと帰れ! 邪魔だ!!」

 一喝とはまさにこのこと。と言わんばかりの裂帛の気合と共に容赦ない言葉をもう1人の自分に向かって叩き付ける。

 「……少しくらいは、同情してくれても罰は当たらないと思うけど、な」

 よろよろと立ち上がるアスマを睨みつけて光輝は容赦なく切り捨てた。

 「お前がどのような目に遭おうと、そしてそれがそのまま俺の未来に直結していようと関係ない! 
 俺は俺だ! 未来は俺が、俺自身がこの手で掴み取る! そう! 誰の指図も受けない! 必要とあれば、俺は世界にだって喧嘩を売ってやる!!」

 あまりに傲慢な物言いにアスマは気分を害したのか全力で反論を開始した。

 「そんなに上手くいくものか!! 俺にだって力はあったさ! だが流れを変えることなんて人一人の力じゃ出来っこない! それが現実だ! どれだけ吼えようが鼻で笑おうが、変えられないものは変えられっこないんだ!」

 「ならば! 俺が今すぐにでも変えてやる! 案内しろ、お前の世界に!」

 「なっ!」

 「案内しろと言った。人一人の力では何も変えられないと言ったな。ならば、俺が変えてやる! お前の世界の流れ、歴史を変えて見せようじゃないか!」

 「しょ、正気か!? そんな反骨心で歴史を一つ捻じ曲げるなんて!?」

 「何が悪い! 歴史とは人の行動の積み重ねのことだ! そこに平行世界のとは言え、人間が介入して新たな行動を積み重ねたとして、何がいけないというんだ!」

 傲慢な言い草だ。アスマはそう思った。しかし、この自信の裏付けとは一体何なんだ、と、平行世界のとは言え自分自身に対して興味を覚えた。

 「身一つで戦うつもりか? 幾らお前が俺より強くても、絶対に無理だ」

 「身一つじゃない! ――あそこにある新型を使う」

 そう言って片膝をついた姿勢のダブルエックスを指差す。

 「あれは、先程大破したストレリチアという機動兵器の原型にして後継機、ガンダムダブルエックスだ」

 キットがマスクドライダーシステムを介して直接脳裏に送り込んでくれた情報のおかげで、あの機体の原典に関しては殆ど把握していた。流石に現物の性能は無理だったが。

 「あの機体には、スペースコロニーをも一撃で大破させるツインサテライトキャノンが搭載されている。それだけじゃない。ストレリチアの運用データから最適化された設計のはずだ。つまり、完成されたストレリチアである可能性が高い。だとすれば、そのスペックは現状では最強レベル。あのジェネシックガオガイガーに太刀打ち出来るかは流石にやってみないとわからないがな」

 そう言って隣に立ち尽くしているジェネシックガオガイガーを指差す。

 「しかるべき条件下においては、ダブルエックスに敵う機動兵器は存在しない。そして、そのヤマト程の火力はなくとも、ある程度までなら施設内で活動出来る、言わば歩く核爆弾。その性能を持ってすれば、敵を内側から破壊することが出来る。楽勝だ」

 何処からその自信が沸いてくるのか、アスマは呆然と聞くしかなかったが、同時に強く惹かれ始めている自分を感じていた。平行世界の自分自身だというのに、何故こうも強く惹かれる。

 「……本当にどうにか出来ると思っているのか?」

 「当然だ」

 「相手はアンドロメダ銀河を手中に収め、本拠地を兼ねた要塞1基で地球防衛軍の殆どを撃退し、壊滅に追い込んだ相手だぞ? 残ったのは傷だらけのヤマトとアンドロメダだけだ」

 「お前たちはそのヤマトとアンドロメダとかいう戦艦2隻と、僅かな航空戦力だけで戦い、運もあっただろうが倒して見せたのだろう?
 推測だが、お前が平行世界の俺であり、ダブルエックスのサテライトキャノンのことを聞いても驚かなかったことからすると、お前の機体にも同様の装備が搭載されていたな? そして、戦闘中の損傷でそれが機能しなくなり戦局の悪化を招いた。……違うか?
 恐らく外からは破壊することが出来ず、内部から破壊しようとした。しかしその時にはすでにサテライトキャノンを破壊されていた。よって生身で突入して動力炉の爆破を決行し、犠牲を増やす結果になった、そうだな」

 「……その通りだよ」

 確かにあの時、ツインブラストキャノンを使用出来れば無理に要塞に侵入して白兵戦を挑むこともなかっただろう。確かに使えたとしても倒せる保障はなかった。しかし、しかし撃てれば少なくともウリバタケらが残って死ぬこともなかったはずだ。

 「ダブルエックスの性能をすぐに確認する。宣言通り俺1人で介入する。キットはダブルエックスの制御AIとして連れて行く」

 「まあ、それくらいは宣言の範囲内だな。しかしこの時期だと俺は機動兵器の扱いなんて習ってないぞ? 知ってるんだぞ、お前が未来の自分から受け継いだのは一部の記憶のみで、技術に関しては全くの素人だって」

 図星だったが、光輝はおくびにも出さず言い返した。

 「関係ない。要は近づいて撃つだけだ。それに俺の経験値は確かに足りないが、キットは経験を積んでいる。
 ボソンジャンプを使えば戦場の突破も容易だ。お前の時は恐らく内部の構造が全くわからなかったからボソンジャンプでの突入は難しかっただろうが、データさえあれば十分に可能だ! 後は内部でサテライトキャノンを撃ち込めば決着がつく。どんなに強かろうと所詮は彗星、ガンダムで粉微塵に砕いてくれる。

 お前の話を聞く限り、敵はその要塞内部に超巨大戦艦とやらを格納していた、当然知らないお前たちは要塞の機能を停止、後は外から崩すのみと言うところで予想もしない隠し玉の出現、結果としてヤマトは特攻することになった。

 しかし随分とまあ強大な敵だな? 地球なんぞが抵抗出来たのが不思議なくらいだな」

 「未も蓋も無い言い方をするな……」

 アスマはげんなりとした表情で突っ込みを入れる。しかし、念を押しておかなければならないと思い直して思い切って言った。

 「しかし気持ちだけ頂いておく。この先、お前たちも戦うことになる。先のことはわからないが、少なくとも異星人との交戦に関しては俺たちと同じ相手だと言うことはわかってる。

 その戦いの結果はわからないが、俺は、姉さんの遺言に従って干渉可能な世界、すなわち俺達の世界に限りなく近いこの世界を選んだ。勿論そうでなければ干渉出来ないというのもあったんだけど……。
 だから、俺達の世界では実現出来なかったヤマトの強化改装案のデータを渡しに来たんだ。
 この世界には、異世界から別の宇宙戦艦ヤマトが漂着する。後4時間ほど先のことだ。大量の水も同時に現れるから気をつけてくれ。ユートピアコロニーからは離れているから問題は無いはずだ。

 スクラップに近い代物だけど、このデータがあれば再建は可能だ。地球の北極の氷の下5kmの地点、そこにヤマトの再生と強化を施すために必要なドックがある。そこならかなり工期を短縮出来るだろうし、このオーバーテクノロジーを完全に再現することも出来るはずだ」

 「……何故ヤマトに拘る。技術さえ同じならヤマトでなくても強力な戦艦は造れる。何故ヤマトを託そうとする」

 光輝は今まで疑問に思っていたことをぶつけた。ヤマトでなくても、同じ技術で造られた戦艦なら同じ働きが出来るはずだ。ヤマトである必要は皆無としか言いようが無い。

 「ヤマトは、希望なんだよ」

 アスマは空を見上げて言った。そろそろ日も暮れかけている。薄っすらと朱に染まりつつある空を見上げて彼は言った。

 「ヤマトは知っての通り、戦艦大和だ。ヤマトはそれをモデルベースに建造された宇宙戦艦。

 大和も日本の希望と期待を込めて建造された最強の戦艦。アカツキが言ったんだ。大和をベースとした理由は、一度沈んだ戦艦なら、二度は沈むまいって。そして、正確には武蔵だけど、大和の同型艦なら、なかなか沈没しない驚異的な耐久力を誇る大和型戦艦なら決して沈まないだろう、って。
 ナデシコに変わる純粋な戦闘力を追求した新造艦で、ナデシコに繋げる名前ならヤマトの方が良いだろうって、そういう意味だったんだ。

 ヤマトは人類の希望だった。竣工して最初の戦役は蜥蜴戦役だった。俺は草壁さんの意図が良くわからなくて、ただひたすらに無人兵器たちと戦うしかなかった。
 ナデシコが改造のために長期にわたるドック入りになって、ヤマトが俺達の新しい居場所になった。
 結果、ナデシコの代わりにヤマトが中心となって木連と地球の和平がなった。

 その後、異星人が地球に攻め込んだ時もヤマトが先頭になって徹底抗戦した。地球人類を救うため、大マゼラン雲に行かなきゃいけなくなった時も、ヤマトが成し遂げた。ただ1隻で、ヤマトは地球人類に希望を繋いだ。

 確かにヤマトは沈んでしまった。だけど、ヤマトの魂はまだ滅んじゃいない。

 このデータは、ヤマトの生きた証、ヤマトの全て」

 アスマは改めてデータディスクを差し出す。

 「受け取ってくれ。お前の言う通り、ヤマトでなくても良い。だけど、このデータを活かしてくれ。そうすれば、きっと連中にだって引けを取らない。このデータがあれば、地球の戦力も俺達の世界の水準を超えるはずだ。そうすれば、勝てる。必ず勝てる。
 旧式化していたヤマトと、最新鋭とは言えアンドロメダの2隻で勝てたんだ。異世界のヤマトから拾えるデータも最大限に活用すればきっと、きっと」

 光輝はふんっと鼻を鳴らしてデータディスクを引っ手繰るように受け取った。

 「良いだろう。このデータを、ヤマトを受け継いでやる。その異世界のヤマトとか言う奴をこのデータを元に強化・再建すれば良いんだな? 丁度異星人相手の戦力を欲していたところだ。実績のあるデータなら役に立つ。
 そして、俺たちが見事お前たちを壊滅に追い込んだ敵勢力を打ち倒したら、このデータの礼として“俺達のヤマト”が助けに行こう。

 約束する。必ずだ。必ず助ける。だから時空間座標を教えろ」

 「……わかった。しかし今は駄目だ。年号は知っているから、戦いが終わった頃合にまた来る。その時に生き残っていたら、座標を教える。

 だから、生き延びろよ、ヤマトと共に」

 「ああ。……だが一つ聞かせろ、何故この強化改装案を実現しなかった」

 「ヤマトは記念艦にされるところだったんだ。廃艦処分が下ってさ。アンドロメダという後継ぎが誕生し、かつての栄光の艦、ヤマトは後世に伝えるべきと保管されることになったんだ。

 だけど、宇宙からの謎のメッセージに対して反応の芳しくない防衛軍の尻拭いに、反逆者の汚名を着て旅立ったんだ。緊急発進だったから正規の乗組員も何人かは乗れなかったけどな」

 「だから改装出来なかったのか。記念艦になる以上、性能の強化は必要ないと」

 「それにヤマトのスペースでも問題無く使用可能で出力アップを見込める新型波動モノポールエンジン、大幅に強化された艦砲に艦首波動砲、どれもまだ図面も出来ていない状態だったし、お金も新造艦1隻造れるだけかかるから、それなら新しく造った方が優秀な物が出来るだろうって、無視されちゃったんだよ。それがアンドロメダだったわけだけど」

 本当に残念だ、とアスマは言った。

 「なるほど。最初からその状態なら、問題は無いと考えた訳か。短慮ではあるが確かに理に適っている。

 だがその前に教えて貰おう。そのヤマトの欠点とやらをな。勿論、改装案ではない本物のヤマトの、だ」

 光輝の問いにアスマはすぐに答えた。

 大和を模したヤマトは艦底部には第三艦橋と呼ばれる予備の発令所が設置されていたり艦載機の発着口のハッチがあるだけで、武装が無く真下からの攻撃には対応が遅れ気味であったこと。
 想定されていない新技術。異星の技術である波動エンジンの設計図がトラブルで欠損し、苦肉の策で相転移エンジンを組み込んだ結果誕生した新型機関、波動モノポールエンジンが、ヤマトに限ってはベストな状態ではなかったこと。
 各種センサーがやや旧式化していることもあり、電子戦に弱かったこと。
 防御をフィールド関連の技術の応用に頼りきったため、出力低下時は打たれ弱かったこと。
 などを手短に伝えた。

 「それで、異世界のヤマトに関しては何か知っているのか?」

 「ああ。可能な限り調べてみた。その気になればそのハイパージャンパー――いや、ハイパーゼクターからでも閲覧可能だぞ」

 アスマは知りえた限りの情報を伝えることにした。

 モノポールエンジンは無く、改良を加えられた地球製の新型波動エンジンに主機関を換装したこと。
 主砲がグラビティブラストではなく粒子の粗いビームであり、螺旋構造の誘導レールで過大な運動エネルギーを込めて発射される“ショックカノン”と呼ばれるものであったこと。
 その主砲を初め多彩なオプション装備を多数備えていたこと。
 各種装備が同年代の最新鋭戦艦に勝るとも劣らないものにバージョンアップされていたことなどを伝えた。

 「ただし、ヤマトは地球を護る為に自爆したらしく、全ての技術を手に入れることは出来ない。
 だけど、主機関は何とか生きてるから、連続ワープ技術を改めて研究することにすれば、俺達のヤマトの波動エンジンよりも格段に優れたエンジンが手に入る。それにちゃんとした形で完成させたモノポールエンジンを接続すれば、推定では俺達の想定していた新ヤマトの以上の出力を得られる。
 ただこの情報はこの世界の、漂着したヤマトの調査内容を遺跡を通して簡単に調べた程度だから、ちゃんと調べてくれよ。

 ああ、言い忘れてたけどヤマトの航海日誌や交戦相手のデータは全て抹消させて貰ったよ。俺達が渡すのはあくまでもヤマトの技術と魂のみ。それ以外は流石に渡せない」

 「構わない。技術さえあれば良い。敵のデータは邪魔だ。油断の元になる」

 光輝は特に気にしていなかった。確かに敵のデータがあれば攻略は容易だ。しかしまだ見ぬ敵のデータを渡されて安心してしまって、予想外のものが出てきてしまうと混乱の元になる。ならば、最初から知らなければ常に用心して戦うことが出来る。戦いでは、臆病な方が敵を知ることが出来る。癖も、その兵器の特徴も。

 「用件は済んだ。じゃあ、俺そろそろ行くわ」

 そう言ってアスマは腰につけていたハイパージャンパーのスイッチを押した。

 「健闘を祈る。ヤマトの勝利も、な」

 光輝は黙って頷き、ボソンの輝きが強くなる頃を見計らって言った。

 「お前は救えないが、必ず過去のお前は救う。確約するよ」

 アスマは驚いたように目を見開くと、薄く笑って掻き消えた。
 残されたのはヤマトのデータディスクのみだった。



 「何か、夢でも見てたみたい」

 完璧に置いてきぼりを食らったラピスが隣でキットとじゃれていた。持っていたハンカチでハイパーゼクターを磨いてみたり、呼び出されたカブトゼクターを撫で回してみたりと、暇を持て余していた。カブトゼクターも特に必要性も無いのに呼び出されたわりには好意的で文句を言うわけでもなくされるがままになっていた。パーフェクトゼクターとそれに合体するゼクターはメンテナンス中で身動き出来ないでいるが、同じカブトムシでありながらデザインがこうも違うカブトゼクターとハイパーゼクターの比較するだけでも面白かった。案外愛嬌のある性格をしているし。

 「そうだな。だが、約束を違えるわけにはいかない。必ず生き残って、勝って、あいつらが託してくれたヤマトで“過去の”あいつを救済して見せるさ」

 「それが気になってた」

 ラピスがトコトコと隣に歩み寄って尋ねる。

 「どうして、あのお兄ちゃんは救済不可能なの?」

 「平行世界の定義は簡単に言うと“IF”。つまり、“あの時こうだったら”というものだ。
 掻い摘んで言うと、あいつ自身がこちらにデータを持って来るか否かというだけでも分岐だ。あいつ自身は他の次元に干渉することに抵抗が強く、ここに来るだけでも一大決心だったはずだ。
 そして、こちらで新型ヤマトを完成し、運用に成功しても向こうの敵よりもこちらの敵が強大であり、健闘も空しく敗れ去り救済に行けなかった、という結末も用意されている。その場合、あいつが経験した通りの結果になることは想像に難くない。また、救済に行ったはいいが同じ結末になる可能性も否定出来ない。

 そして、そもそも俺達が本当に行くか行かないかはまだわからない。俺は良くても他のクルーにもう一度とんでもなく強い敵と戦えと強要は出来ないからな。こればかりはこの世界の経過次第だろう。これも分岐になる。

 つまり、どう足掻いても“俺達が救済に行き、成功した世界”と“救済に行かなかった、もしくは行ったが同じ結末になった”という表裏一体の世界が常に存在することになる。だから、すでに終わってしまったあいつを救済することは出来ない。何故なら、あいつがあの経験をして、かつ干渉することをどのような理屈であっても承諾しないとこのデータが俺達の手に来ないからだ」

 そう言って右手に抱えたディスクを持ち上げてみせる。

 「確かに直接の過去を変え、何らかの手段で“俺達が救済に行き成功した世界”のみを存在させ、最悪の結末であるあいつの歴史を消滅させた場合、何らかの方法でこのデータを寄越し、同時に俺達が向こうに干渉する理由を作らなければならない。

 もっとも、そっちは簡単なのだがな」

 「どうするの?」

 「決まっている。芝居をさせれば良い。今の会話は全てキットが記録したはずだ。それを元に俺達が救済に行き、交戦する前にあいつをこっちに一時的に寄越してデータを渡しつつ芝居をして俺達を救援に向かわせる流れを作り出せばそれで良い。

 ふ、簡単なことだ」

 「うげっ……」

 ラピスは精神的にも物理的にも一歩引いた。我が兄ながら何と傲慢な思考回路をしているのだ。

 「でも、どうして救済を確約したの? わざわざ命を危険に晒してまで」

 強敵であることはすでに十分に伝わっている。にも拘らず、わざわざ死地に飛び込むようなことをしてまで助けに行こうとする理由とは一体何か、ラピスは気になっていた。

 この兄のことだ。絶対に“善意”ではないと思うのだが……。

 「気に入らないからだ。あの屑が」

 「は?」

 「平行世界とはいえこの俺であるにも掛からず、人前で無様に喚きやがって。あんな無様な姿を晒すくらいなら、そんな歴史、叩き潰してやる!」

 「おぅっ」

 兄の発する得体の知れない気に押されてラピスはさらに一歩退いた。

 「それにな、ラピス。俺は天の道を往き、光の如く輝く男。すなわち太陽と言うべき存在だ。わかるか、太陽なんだ」

 「……」

 そこまではっきり言われると恥ずかしい通り越して痛いのだが、そこは出来た妹であるラピスは突っ込まなかった。

 「そして太陽が本当に素晴らしいのは、“塵さえも”輝かせるからなんだぞ」

 「うわっ……!」

 言うにかいて平行世界の自分自身を“塵”呼ばわり。

 一体何処からこの自信が沸いてくるのか、本当に不思議だった。

 光輝はラピスの手を引くと、ダブルエックスに向かって歩き始めた。
 ラピスはされるがままになりながらも少し兄に幻滅していた。子供の頃よりも酷くなっている気がする。良くこれで嫁を貰えたものだ。妹でありまだ1人暮らしをするには若いのだから、一緒に暮らさねばなるまい。果たして精神衛生上問題ないだろうか。

 ラピスが真剣に悩んでいると光輝がポツリと言った。

 「俺としても、本気で苦しんでいる人間を無視してはいられない。例え気休めでも、あいつにとってせめてもの慰めになるというのなら、戦うには十分な理由だ。
 それが、天の道を往く俺の役目だ。
 言ったろ、あの屑が気に入らないと。あの屑が生まれてしまうような世界など、俺が壊してくれる」

 ラピスには、光輝の言葉に嘘偽りが無いことがはっきりと汲み取れた。

 そうか。

 ラピスは自分から光輝の左腕に抱きついて身を寄せる。

 傲慢な態度と言葉で相手を見下したりしていても、本気で自分を偉いと思っていても、他者への気配りを全く忘れているわけではないのだ。

 いや、自らを優れた人間だと本気で考えているからこそ、自分より劣る人間に対して手を差し伸べるのだろう。やはり傲慢な考え方には違いないが、“自分には出来る、相手には出来ない、だったら、出来る人間が手を貸すのは止むをえない事”とでも考えているのだろう。そして、成長させるためには優しく甘い言葉でなく、時には厳しい言葉を叩きつけなければいけない事も、知っているのだ。
 ラピスへの返答も決して自分が情でのみ動く様な人間でないと宣言するために不可欠なものだったのだろう。宣言したからにはやり遂げる、やり遂げられるだけの力があると自覚している以上、情で動いてしまってはそれこそ世界を壊しかねない。ハイパーゼクター、ガンダムダブルエックス、いずれも世界を崩壊させるに十分な力だ。それを扱うが故に冷酷で傲慢で、自己中心的と言われるような態度でいなければならない。そう、“必要以上に頼られない為に”そして“利用されない様に”。

 天の道を往き、光の如く輝く男。人類を照らす太陽。

 それは、“特別であるからこそ、そうでない者に手を差し伸べるべき”という意味を自分自身で当てはめたのだろう。しかし、それは他人に甘いということと同意義では無い。特に強大な力を持ってしまった者ほど考えて使わねばならない。自分の為のみに使うにしても、他人の為に使うにしてもだ。度を超えて利己的に、利他的に力を振い続ければやがて身を滅ぼすだけでなく、場合によっては自分を滅ぼしかねない。求められうのは常に冷静かつ客観的な視点。そして場合によってはその力を捨てる覚悟だと、ラピスは思った。
 力あるもが無きものに救いの手を差し出すのは容易だ。しかし手を差し伸べることが必ずしも相手にとって救いになるとは限らない。ならば“救われることが苦痛に感じるように振る舞えば良い”。これが彼の出した結論なのだろう。救いを屈辱とし、自らの成長の糧とすることを望んでの振る舞いと言うのなら、まあわからなくはない(実際それで木連軍の質は上がった)。

 しかし、もう少し言い方があるのではないだろうかと思うが、まあ良しとしよう。

 「ラピス、何か食いたい物はあるか? 作ってやるぞ」

 ラピスに笑顔を向ける光輝には先程の高圧的な印象が全く残っていない。このギャップは、なかなか面白いかもしれない。というか身家には甘いという人間性は変わっていないようだ。しかし、やっぱり先程の態度は気に入らない。だから……

 「チョコパフェ」

 と無理な注文をしてやった。光輝の顔が僅かに引き攣ったが当然だ。木連にそのようなデザートは存在しない。というか、普通に食うにも困っているような国で、あのような贅沢な料理を出す店などありはしないだろう。まあ、ちょっとした嫌がらせだ。キットがついてるからきっとすぐに作ってもらえるだろうけど。

 「……ちょこぱふぇ? 地球の料理なのか?」

 小声でブツブツ言っているのが微かに聞こえる。ラピスは笑いを噛み殺しながら付いて行く。まあ、こんな兄貴でもきっと立派に思える日が来るだろう。

 「キット、Gコントローラーを呼び戻してくれ。おそらく必要だろう」

 『はい只今』

 キットは了承するとすぐに消えた。

 こういう時、ハイパーゼクターは身軽で助かる。すぐに戻ってくるだろう。

 「お兄ちゃん、本当にあれ使えるの?」

 「使えるか否かではなく使うんだ。何、駄目なら操縦系統を改装してもらうさ」

 光輝はそう言うとダブルエックスに取り付いていた兵士に声をかけた。
 兵士たちは突如として現れたダブルエックスとGファルコンを警戒しつつ、慎重に調査を進めていた。接近しても特に自衛行動に出ないと結論付けた兵士が機体に取り付き、コックピットハッチを開けている。構造がストレリチアとGファルコンに似ているからか(厳密にはストレリチアとGファルコンが似せられているのだが)割と簡単に開けていた。ハッチ開放のパスコードまで同じだったようで、あんぐりと口を開けているのが見える。

 「ご苦労さま。どんな具合だ?」

 「ああ、天道さん。お話はお済ですか?」

 「終わったよ。彼女は間違いなく俺の妹だ。地球圏の人間だが、仲良くしてやってくれ」

 そう言うと兵士は苦笑して言った。

 「誰も貴方の家族を傷つけたりしませんよ。そんなことをしたら命が幾つあっても足りませんよ」

 と、かなり真剣に訴えた。実際に、恋人関係になって以降北斗(現・菫)を馬鹿にした連中は相応の報復を受け、それなりに痛い目をあった(もっとも、嫌がらせの内容が男の名前に関してや努力しても一向に上達しない技量を皮肉ったものが多いため、悪戯程度の報復だったが)。
 それ以外にも北斗(現・菫)との縁で知り合った紫苑零夜が自分絡みで嫌がらせを受けた時の報復も凄まじいものだった。妹・枝織の時も、姉と慕う舞歌の時だって(自分でやり返すことは分かっていたので必要性を光輝自身は実は直接手を下していないが、手助けとして一応手を貸しておいたら何故か誤解された)それはそれは言葉では言い尽くせないほどの報復を見舞った。一部の被害者はトラウマを抱えて名前を聞いただけで真っ青になってガクガクブルブルと震えだす始末である。と言ってもやはり命に関わったりするようなことは一切やっていないというか、肉体的に損傷はさせていないのだが、流石に北辰の弟子である。肉体を損傷させずとも相手に苦痛を味わわせる方法はしっかりと学んでいた。

 「そうだな、せいぜい食事が不味くならない様に気をつけてくれ」

 光輝がそう切り返すと、兵士は大きく笑い、光輝も笑った。昔はこいつに嫌がらせを受けていたのだが、今となっては思い出に過ぎず、友人としての関係を構築している。まあ程度が幼稚だったのでそこまで真剣にやり返さなかったからこその関係なのだが。本気でやり返した場合の結果は先の通りである。

 「お前の補佐に結構苦労させられたからな、今晩の食事は大盛りで頼む。勿論ここの調理場を借りてな」

 「そうだな。皆苦労してるだろうし思いっきり幸せな気分を味わせてやるよ。文字通りな。それで、この機体の――ガンダムダブルエックスの調査は進んでるのか?」

 「は? どうして名前を……」

 「こいつはストレリチアのモデルベースとなったロボットアニメそのままのデザインで造られているんだ。デザインが同じなら名前も同じだろう」

 「なるほど、そりゃ盲点だ」

 兵士は納得すると光輝をダブルエックスの傍に連れて行く。念のためラピスはその場に置いていく。これは単純に危ないからだ。防犯目的の対人兵器が装備されている可能性は高い。機密保持目的の自爆装置だってありあえる。そんな物の傍に無力に近い妹は連れて行けない。しかし本人はアキトに会いたいらしく護衛を頼まれた兵士の袖を引っ張ってアキトの方に移動している。

 光輝は兵士の案内を受けてコックピットに入ってみる。幸い対人防衛装置の類は無いようだった。シートの上に封書と透明なプラケースが置かれていた。プラケースから覗いている部品は、形状からするとGコントローラ―の付属品無いし拡張目的のパーツだろうか。やや暗い赤を主体に部分によってグレーとクリアグリーンの半透明な部品が見える。ハイパージャンパーにおけるハイパーゼクターのボディの様な組換え用の外装パーツだろうか。

 開放スイッチの隣のコンソールを操作してシートを上昇させて封書を手に取る。磁石で封書の金属反応を探り、探査機で爆発物の有無を検査すると、思い切って中身を取り出してみた。かさりと軽く乾いた音を立てて薄い紙切れを広げる。そこには美しい文体でこう綴られていた。

 「……請求書」

 封書の中身は請求書だった。ご丁寧にこの機体のお値段が記載されているが、数字が大き過ぎて光輝の理解を一気に飛び越えた。余程の資産家でもない限り、個人で支払うのは無理だろう。それこそ一生かかっても。宛名は“アカツキ・ナガレ”となっている。

 「……後でネルガルの会長さんに届けておいてくれ」

 「了解しました」

 投げやりに請求書を待機していた兵士の1人に渡して改めてコックピットを見下ろす。光輝の呟きを拾った兵士は同様に頬を痙攣させて手紙を受け取ると、ダブルエックスのボディから降りてケースに手紙を収める。

 「驚いた。コックピットのレイアウトはオリジナルのままだな。綺麗に再現されている。でも、このメインモニターの上側にあるスフィアは何だろうな?」

 ハッチの横にあるコンソールを操作してシートを降下させる。そうすると先程から気になっているスフィアが丁度メインモニター、いや、大型のターゲットスコープの上縁に設置されているのが見える。シートが定位置に着くとスコープの位置によらず見上げる位置にあることがわかる。後で確認したらGファルコンのコックピットにも同様のスフィアが存在することが判明した。

 「コンソールの配置やスティック・べダルの配置、重さはストレリチアと同じだな。こいつで起動するかな……」

 ハイパーゼクターと合体して出現したGコントローラーを、そのまま右の操縦桿の付け根に当たる部分に差し込んでみる。

 「あっ。はまりましたね」

 上で作業を見守っていた兵士が感想を述べた。ストレリチアの事を知っているだけに納得している節があるが、元々このような起動装置を備えている機動兵器は珍しい。

 「……驚きだな」

 しかしメインモニターはうんともすんとも言わない。完全に沈黙を保っている。

 「コネクターは共通だが、システムには対応していないということか……」

 もうこれしかないともしかしたら、先程のパーツが必要なのだろうか。光輝はすぐさま待機している兵士に工具と先程のパーツを持ってこさせて作業を開始する。シートを一端上げてダブルエックスの外でGコントローラーの組み替え作業を行う。

 開封したパーツを広げて、Gコントローラーも一度バラバラに分解する。ちゃんとヤマサキにデータの引き出しが終わっている事を確認しての作業だ。ついでに通信越しとは言え必要な手順を教わりながら作業する。基本的には外装の組み替えだが、それ以外にも装置の追加を少なからず行う必要があるようだ。今までのGコントローラーよりも大型化しているのも装置の追加があるからだろう。以前のGコントローラーと違ってガンダムダブルエックスの胸部を模したデザインをしている。中央のパーツは赤、両サイドの膨らみはグレーに彩られ、クリアグリーンのカバーが前部の上下に施されている。以前のコントローラーと違ってシステムの展開に関わらずレンズ部分が覗いているという違いがある。そしてGコントローラーの上部に角の様な装飾が施されている。以前のツインブラストキャノンの展開に使ったスライドスイッチは赤から黄色に変更された他、搭載位置もコントローラーの真後ろから左側面の後ろ側に移動し、前方にスライドさせることで起動させるようになっている。スイッチを入れてもコントローラーに外見上変化は無いようだ。右側には以前通り拡張ユニット装備の為のコネクターが備えられている。ハイパーゼクターは変わらず取り付けられそうだから、今付けておくことにする。

 組み替えたたGコントローラーを片手に再びダブルエックスに搭乗した光輝は、すぐにGコントローラーを接続させた。今度は問題無くダブルエックスは起動した。

 同時に画面にいきなり女性の姿が映し出された。

 《あら、思ったよりも遅かったわね》

 「エリナ・キンジョウ・ウォン……」

 画面に映っている女性は間違いなくエリナ・キンジョウ・ウォン。つい先日ハイパーゼクターの暴発で邂逅を果たしたネルガルの新会長だ。しかし、あの時に比べると幾分顔に皺が目立つし(女性に対しては失礼にあたるので、直接口には出さなかったが)、トップとしての風格が恐ろしく増している。とすれば、

 「一体俺と会ってからどれくらいの時間が経過している」

 《最初の出会いからなら丁度12年、2度目の出会いからなら9年と10ヶ月かしら》

 「2度目?」

 《そう、2度目よ》

 エリナはそう言うと髪を肩に掛かっていた髪の毛を後ろに払った。

 《今貴方が乗っている機体、ガンダムDXとその支援装備Gファルコン、ついでにもう1機ガンダムと新型エステバリスの製造を注文してきたのよ。
 で、ダブルエックスとGファルコンだけはどうしてもその時間に届けて欲しいって頼まれたから、請求書とGコントローラーの拡張ユニット込みで届けさせてもらったわ
 請求書は後でアカツキ君に渡しておいて。大分割引してあげたから払えない額じゃないはずよ》

 「……この金額で割り引き済みかよ……わかった。しかし、その俺は何と言っていた。この時間にダブルエックスを届けることについて」

 《早いうちから乗って慣れたいからだそうよ。後、完成された新型エステバリスのフレームの実戦データが早い段階で欲しいからとも言ってたわよ。

 そのダブルエックスはね、実はエステバリスの新型フレームをベースにして強化・発展させた機体なのよ》

 「何だと……?」

 これには驚いた。ストレリチアの後継機であろうこのダブルエックスが、量産機をベースにしているとは。もしかして、生産性というか整備性を追及して性能を犠牲にしているとでも言うのか。ガンダムと言ったら生産性無視して極限まで性能を高めた機体と言うのが一般論だというのにこの女は――。やっぱりアニメを知らない一般人にはあの良さがわからんか。

 《勘違いしないで。その新型フレームはエースパイロット用の少数量産を目的とした高性能フレーム、エースカスタム仕様をベースとしているのよ。エステバリスと共通部分を増やすことで整備性を向上させると同時に信頼性を保持したかったのよ。幸い、ガンダムの基本的な構造は量産に耐えうる物だったから、ありがたくこちらでも使わせてもらうわ。
 それにそのガンダムは、ありとあらゆる面でストレリチア・ハイパーフォームを凌駕するどころか、ジェネシックガオガイガーにすら勝つことが出来る程ハイスペックな機体よ。もっとも、装備さえ拡張してあればエステバリスカスタムでも可能な芸当だけどね》

 「本当なのか?」

 《カタログスペックの参照と実際に扱って確認してみて。ちゃんと試験を重ねて造ったから動作は保障するわ。実際完成までに相当時間をかけてるからね。予備のパーツは指定通りラボに送っておいたから。ついでに要請のあったジェネシックと真ゲッターとかいうロボットのものね。凄い技術の塊だったけど複製するだけなら何とかなったわ。そっちのラインが確立するまでは持つはずよ、大破しなければね》

 「そうか。ありがとう」

 《礼には及ばないわ。そっちの状況は知ってるし、こっちとしても概念図だけで作業するよりもちゃんと完成された設計図がある方が楽出来るし、技術も得られるからね。

 ちなみにうちに頼んだ理由は時間の流れの異なる世界に委託することで開発の短縮と、それによる戦場への早期投入よ。残りのガンダムは木星のラボに送っておいたわ。ガンダムとスーパーロボットを優先したから量産品のエステバリスはともかく、その強化型のエステバリスカスタム4機とその仕様変更型のアルストロメリアとスーパーエステバリスと、その拡張ユニットはまだなの。後2ヶ月以内に完成させて送り届けて見せるから、期待して待っててね。
 しかしこちらに依頼して正解だったと言わせてもらうわ。実用化した技術を過去に持っていたったとは言っても、全体的な技術レベルで上回るこちら側でも10年近くかかったわけだから、そっちで1から開発してたんじゃきっと間に合わなかったはずよ。引き受けてやったんだから感謝なさい》

 光輝はエリナの言葉に苦笑して頷いた。

 「ありがとうエリナ会長。本当に助かるよ。それじゃあ、後で俺がダブルエックスとGファルコン、ジェネシックに真ゲッターの解析データ、そしてもう1機のガンダムと新型エステバリスの製造を注文すれば良いんだな?」

 《そうよ。ただし、新型のエンジンを含めた基礎設計はもうそっちで行っていたみたいだから、家でやったのは部品の製造から組み立てと、予定の性能を発揮出来るかどうかの試験よ。ただ、そっちの設計に穴が多かったというか、実物を組んで改定していった設計じゃなかったから大分手直しさせられたけどね。特に新型エンジンは1つ作るだけで1年もかかるとんでもない品だから、ウチで商品化出来そうにないけどね》

 「本当に迷惑をかけてしまったみたいだな、すまない。それで、残りのガンダムが何なのか知りたいんだが、ヒントは?」

 《俺達のガンダムだ。楽しみにしているのね。家としても開発に使った全ての資料と技術を好きに使っていいっていう条件を提示されなかったら断ってたわよ。ネルガルもだいぶお金を使ったから、これからがっつりと稼がせてもらうわ。ああ、エンジンは全部で5つだからね、あんたの機体で2つ、もう1機で1つだから、2つ余りがあるはず。好きに使うと良いわ》

 「……わかった。後で確認するよ」

 そう言うとエリナ「また今度」と言っては通信を切った。光輝はやれやれと頭を振ると、シートの昇降スイッチに手をかけた。

 「アキトのところに行って機動兵器戦のイロハを教えて貰いに行って来る。留守番を頼んだぞ」

 『了解しました』

 「じゃあ後を頼む。ゼクターはそのままにしておいてくれ」

 これはキットとハッチで様子を窺っていた兵士両方に向けた言葉だった。光輝はシートを操作して上昇させると、上部ハッチに設けられた昇降用ワイヤーを使って地上に降り立ち、ジェネシックが待機している場所に向けてゆっくりと歩き出した。






 アキトは周りに木連軍人以外が居ないことを確認してコックピットから出ていた。ジェネシックの胸部、ライオンの口がコックピットハッチを兼ねていた。顎が外れたかのように下顎が腰まで下がった姿は非常にシュールだった。

 「ラピス! いや、見違えちゃうな」

 「あははは! やっぱり驚いた!」

 アキトは無事を確認したラピスと微笑ましい会話を交わしていた。

 「凄く驚いたみたいだけど、あたしの場合アキトの知ってるラピスは人格がやや弱くて、記憶だけがこの世界のラピスに吸収される形になっちゃったみたい。ある意味、光輝お兄ちゃんと似たようなものだよ。
 それに、生きた年数、年齢がこっちのあたしの方が長いからね」

 「そうなのか。じゃあ俺の場合は未来から来た人格が強くて上書きされたようなもんなのか」

 ラピスの言葉を受けて自分なりに分析してみる。しかし、それだと違和感が残るような気がするのだが。

 「アキトの場合、この時代の自分を吸収した事でまだ激しい憎しみを殆ど知らない穏やかな人格の影響を受けて、丸くなったんじゃない?
 だって事故る前のアキトよりも断然話しやすいもん。これで事故前のアキトだったらあたしまともに話せないよ。怖くて」

 「うっ……。正直に言わなくても良いじゃないかよ」

 言葉に詰まるアキトを見てラピスはけらけらと笑っている。ふと、顔を横に向けて硬直した。

 「ん?」

 ラピスの視線を追って振り向くと、その先には一人の女性が立っていた。長い髪を風に靡かせて、落ち着いた品のある衣服を纏った美しい女性が。
 アキトの表情が徐々に驚きと喜びで彩られていく。声を出すことももどかしげに、転げるように駆け出す。女性もまた、アキトに釣られるように走り出した。彼女がこの場にいるはずがない。だというのにここにいる。だとしたら、もしかしたら。

 2人は殆どぶつかるように抱き合い、アキトは女性を抱き締めてくるりと一回転した。そしてその身を折らんばかりに強く抱き締めた。

 「―――会いたかった……ユリカ―――」

 「―――私も、アキト―――」

 2人は抱擁を緩めると、どちらともなく唇を重ねあうのであった。











 あとがき

 え〜と、お久しぶりのKITTです。

 結局長くなり過ぎて前後編で収まらずにまたしても分割と相成りました。

 今回詰め込みすぎが原因でした、読み難くてごめんなさい。



 今回は少し原作付きで登場しているロボットたちについて触れておきたいと思います。

 まず最初に、ジェネシックガオガイガーと真ゲッターロボ共に、原作におけるジェネシックオーラーとゲッター線は無関係の独自の存在です。よって、遊星主やゲッター線に纏わる敵は存在しません。
 あくまでこいつらは古代太陽系文明の残した遺産という扱いです。よって基本的な装備とデザインは変更ありませんがサイズ及び各種装備の解釈が全く異なる場合があります。
 真ゲッターに関しては出展が多いので作者の好みで装備および機能は設定しています。あるマシンの登場に伴い変形機能を回復しました。。

 基本的に設定は後付けで“このロボットを使いたい”という作者のエゴ優先でありますので、文句は受け付けますが今後の改善に役立つとは思いません。

 なお、ゴルディオンクラッシャーは一応設定されています。ただし、原作のような兵器ではないので予めご了承を。



 そしてガンダムの方です。ダブルエックスはすでに確定していますが、もう1機はまあもうお分かりかと思います。名前は伏せておきますが(ほぼ意味ないですが)。

 今回ガンダムの選択で悩んだことはいくつかあります。初期の頃の物です。

 1.ダブルエックスと役割が被る機体は排除

 2.明らかにダブルエックスを上回る機体も排除

 3.ダブルエックスの穴を埋める性能が欲しい

 です。

 最初の候補は最強とその(悪)名も高きストライクフリーダム+ミーティアでしたが、試作3号機と共にサイズの大きさと非合体状態での活躍が低下せざるを得ないシステム上の都合からあえなく削除(設定の返還で問題無くなったものの、やっぱり格納庫の占有スペースが大き過ぎるので却下)。
 次がウイングゼロ。ジェネレーターの搭載スペースが微妙過ぎて削除。
 最後がΖ。当時確定した機体よりも強い(スパロボでは)ことが多い機体ですが、変形システムの都合を解決出来てもやっぱりジェネレーターの搭載位置と好みの問題から最終候補にて脱落。当時確定した機体も好みの変化と運用上の問題などを考えた結果、今回脱落しました。
 で最終的に今の機体に決まったわけです。

 1の理由は補助兵装の着脱という点です。Gファルコンはガンダムの支援戦闘機ですがミーティアもオーキスも広義では似た様な物です(3号機は基本的に合体して運用する物ですが)。よって排除しました。まあ、サイズが大き過ぎて単純に“ダブルエックスよりも強いんじゃね?”という考えが浮かんだのも確かですが(2の理由)。

 異なる世界観で登場するガンダムは一概に比較出来ないのですが、フルスペックを発揮したGファルコンダブルエックスを上回るガンダムは意外と少ないのではないかと結論が出ました(ああ、∀は例外です。色んな意味であれに勝るガンダムはいません。あれはあれで素晴らしいガンダムです。勿論に良い意味で)。数少ない戦略兵器持ち、(Gファルコンとの合体ありなら)通常のMS戦闘を十分有利に進められるだけのスペックと武装を保有する等(DX単体ではどう頑張っても対MS戦闘は不利が付いて回る)、ゲームバランスの様な調整を一切抜きにして考えたら劇中の印象ほど弱いガンダムでは無いという答えに行きつき、同時にエステバリスサイズに縮小した場合、Gファルコンがある分機体の内部スペースに余裕がある為に性能がさらに過剰気味になりました。はっきり言って贔屓になりました。それでもどこぞの攻撃自由みたいな扱いをするつもりは欠片もありませんが。ロボットってのは、大きく損傷しなくても被弾したり煤汚れたり1つ2つでもパーツを脱落させることで味が出るんですよ。ヤマトみたいに煙を吹き続けるのは無理ですが。やっぱり被弾無しは強さと関係なく燃えません。傷つきながらも頑張る姿が美しいというか格好いいんです。まあ、ダブルエックスの場合迂闊に壊すと最大の長所であり特徴であるサテライトキャノンの使用に支障をきたすので、壊し具合が難しい機体なんですがね。

 またヤマト艦載で運用するには大き過ぎる点も見逃せませんでした。ガンダムをエステバリスと同じ6.5m前後に換算してもオーキスで全長が40m越え、ミーティアは裏技を使って短縮しても20mほど。明らかにでか過ぎです。ヤマトの格納スペースの圧迫が酷くなってしまいます。今回のヤマトはその他装備の充実のために搭載機の格納スペースを減らしているのに大型機を積んでどうするんだ、という結論に至ったわけです。

 3の理由は今回無視しました。スーパーロボットは殆どの機体がインファイトを主体としていますし、ジェネシックガオガイガーも真ゲッターも本質的にはインファイトが主体です。となると、この作品においてはスーパーロボットとは逆の戦術的思想を持って造られているガンダムは、射撃戦に偏った機体が望ましいという判断からこうなりました(というかダブルエックスに入れ込み過ぎた結果なんですけどね)。一度は落選したのですが結局こいつくらいしかエンジンの設定とか活かせてエステのフレーム使ってる機体が無かったと言いますか、かなり無茶ですけど。ツインサテライトキャノンのおかげである設定に物凄い余裕が出来たので何とかなったという口ですね、こいつも。現状では劇場版の後継かTV版の前型かは未定です。出来る事なら最新型にしちゃいたいのですが、ヤマトの例もありますし。

 武装の性能さえ弄くれば対艦・対機動兵器戦両方こなせますしね。以前のガンダムことΖΖはエステバリスとの接合性を考えた結果脱落しました。






 一応ですけど、エステバリスも劇場版のものですが外見・基本装備はそのままで登場しますよ。
 性能は当然飛躍的な向上を遂げていますので状況によっては一機でガンダムやスーパーロボットと対等に渡り合えるほどに。無論状況によっては一方的に撃破されてしまいますが、相手の間合いで戦って勝てないのは当然なので性能の優劣を語れる物ではないと思います(それを言ったらガンダムやスーパーロボットだって間合いを外された一方的にやられる代物ですし)。

 ただし、オリジナル要素の追加により(外見が変わらない癖に)ハードポイントによる拡張装備が可能になり、先述の様にガンダムタイプからの武装を移植して使用する(無論拡張装備として)ので面がエステバリスなだけで実質ガンダムタイプに近いスペックになります。立場的にはジムに近い物でしょうけど、同じジムはジムでもジム・カスタムくらいの位置だと思います(要は立派に活躍するか否か)。拡張装備はいずれも今回参加させたガンダムの原作からのみ流用します。場合によっては創作で追加しますが。

 壊れてしまいましたがブラックサレナにもまだ出番はありますので、一応。

 あとプロフェッサー圧縮氏様のヤマト解説の間違いを訂正しておきます。



 ヤマトの改装は劇場版3作目「永遠に」にて完成され、劇中時間では「新たなる旅立ち」と「永遠に」までの間に行われました。よって、「新たなる〜」までのヤマトはテレビシリーズ経由なので「2」の冒頭で行われた
「波動エンジンのコンパクト化」
「それに伴う省スペース部分に雷撃艇の搭載」
「主砲の射程延長」
「艦首バルバスバウのメインレーダーを撤去してタイムレーダーの装備」などで、劇的な強化はされておらず、主要メンバーの生死と結末以外は「さらば〜」と殆ど同じ結果となっています。
 そしてその一ヵ月後、修理を完了したヤマトは発進し「新たなる〜」の物語となります。ちなみにゲーム版では多少の改良を加えたとの台詞があります。
 余談ですが、ヤマトの艦体色(青味がかったグレー)と艦橋の窓の色(緑)は「さらば〜」から確定し、以後完結編で艦橋の窓の色がオレンジに変わった以外は変更ありません。

 で、ゴルバとの戦いを終えて地球に帰還したヤマトは、技師長真田志郎に預けられて旧式化していた装備をイカロス天文台にて隠されながら大強化。
「波動エンジンを地球製の新型に換装(スーパーチャージャー付き。同一エンジンをパワーアップしただけという説もあり)」
「連続ワープ機関の実装(スーパーチャージャーはこのための装備)」
「主砲のエネルギーのカートリッジ化」
「主砲のデザイン変更」
「タイムレーダーを撤去して三次元センサーの搭載」
「艦尾上甲板に波動爆雷の発射管を搭載」
「波動カートリッジ弾の採用」
「主砲に参戦章(ガミラス、白色彗星帝国、ゴルバの3つの戦いのこと。ただし以後変更無しのまま沈没に至る)」
「新生ヤマトの象徴として錨マークを艦首と舷側、第二主砲の上部にペイント(完結編にて消去)」
「内装(主に制御室など)のリニューアル」
「波動砲の強化」
「補助エンジンの補佐無しで波動エンジン始動可能」等となります。
 外見上の変化は殆どありませんが一作目から変化の無かった資料がここに来て一新されたこともあり、細部にわたる仕様の変更はかなり多いです。再販されているメカニックモデルは全て「永遠に」にて確定した資料に基づいています。ただし、近年のメカニックモデルは独自解釈が混じっているため定まっていないのが現状です。

 以後も任務に応じた改装及び機能の強化は行われていますが以後はこれが基本です。なお“当時の最新鋭艦並の性能を有している”との事です。つまり、アンドロメダと同等かそれ以上の戦艦となったわけですね(ヤマトが改修された当時アンドロメダはすでに亡く、それを凌ぐ艦が出ていないとも限らないため)。
 で、最終的に自沈した後復活編にて回収、復元強化されて現在に至ります。まあこれ改定している段階ではPVが配られたのみで公開は年末というか正月映画ですが。現状分かっているのは新型の六連リボルバー式波動エンジンによる六連波動砲の追加が判明しています。昔の製作情報を乗せたビデオでは内部に小型の宇宙艇を格納していましたが、あれは正直削除を希望しています。内部構造の余裕が欠片も無くなる設定なので……とか言ってたら本当に削除されたみたいです。めでたい事に。



 なおヤマトのデザインは近年PSゲーム用にリニューアルされ(それでも10年前)、
「艦体分割線廃止」
「代わりに補強版(大和では排水パイプ)のような装飾の追加」
「艦首を細く、中央と艦尾を太くして立体にしても特徴的なパース表現を再現出来るように細部の調整」
「フィンなどに電子戦装備を意識した装飾の追加」
「各部をテレビ版よりもマッシブに」
「ノズル部分は艦体色よりも濃い色に」
 といった具合に変化しています。比べてみるのも一興かと。また正式名称も幾つか追加されています。

 改定後のあとがき

 フォントサイズが違っていたのでそれだけ修正するつもりが見直してみると誤字にまだまだ消えてなかった電王絡みの記述に誤表記、おかしな文法。とりあえず気付いた範囲で修正しました。うっかり設定をど忘れして見直したりしたらこの有様。推敲が足らないのもそうですが作者の癖に設定を忘れたり後になって変更したりが多いのが原因だったりもします。うーむ、救いようが無いですね(笑)。2010.6.6修正。

 

 

 


プロフェッサー圧縮inイスカンダル跡地(嘘)の「日曜劇場・SS解説」


新たな〜顔と〜新たな〜決意〜新たな〜ヤーマートが〜旅に〜立つぅ〜(゜▽゜)

・・・ハイ、またまた失礼しました。プロフェッサー圧縮でございマス(・・)

今回は白兵戦がメインでしたねー(゜゜)

スゴいですね、ランボーですね、コマンドーですね(・・)

とは言うものの、敵の数は圧倒的。流石に「空が青く見えない!」ほどでは無いようでしたが(謎)味方は実質歩兵が二人きり。

いくら初期バッタと言えどもIFV(歩兵戦闘車)程度の防御力はあるでしょうから、普通なら逃げの一手でしょうが・・・・・・そこはヒーロー(装備的な意味で)
なんだかんだのどうにかこうにかで見事ミッションコンプリートしました。

・・・と言いますか、和製ヒーローで面制圧攻撃持ちてほとんどいないんですよねー(゜゜)
ゲストとか敵役ならいるんですが。それこそTVテレサとか(ぉ

まぁあそこまで逝くと無限増殖対消滅砲装備おポンチダメ娘とかバスターアホ毛とか連れてこいってー話になりかねないので何ですが(爆)

精々某エキスパートくらいが妥当でしょうか(絶対違)


さて、今週のビックリドッキリメカ(違)ですが。

GGGGは相も変わらず無体な強さを誇っているようで(゜゜)フル改造したらラスボスの攻撃でも何ともないぜ(違)

真ゲを一人乗りにするならブラックゲッターを出した方がいいような気もしますが(爆)まあ誰を乗せるかにもよりますけど(゜゜)

それから未登場の新ガンダムですが・・・・・・何時の間にやら拡散波動砲にされてたアレですね分かります(ぉ
本編でそんな広域破壊したことないんですけども!(爆)

まあ単機で対多数雑魚兵装持ちつつ普通のガンダムぽい戦闘出来るのは確かにアレくらいのものでしょう(゜゜)某ヘビーアームズなんて装甲紙の癖して避ける気ないですし!(爆)


そして本格的に変わり始めた現在と未来。

まだまだしこりやらわだかまりやらが残ってはいますが、彼ら彼女らは前を向いて歩くことを決めました。

その決意が試練に挫けるか、打ち勝って裏付けを得るか。

今後に注目デスネ(・・)



さあ、次回作が楽しみになってまいりました(゜▽゜)機会があったら、またお逢いしましょう(・・)/

いやーSSって、ホント〜に良いものですねー。

それでは、さよなら、さよなら、さよなら(・・)/~~


                By 故・淀川長治氏と宮川泰氏を偲びつつ プロフェッサー圧縮

#・・・・・・をや?(゜▽゜;)>ヤマト解説
 「新たなる〜」って、地球破壊爆弾(違)送り込まれて二重銀河系に殴り込みに逝く話じゃありませんでしたっけ(゜゜;)
 前半でイスカンダル星が(ry ったりその時赤ん坊だったスターシャの娘が唐突に成長して登場したりとか(爆)えらい波瀾万丈な筋だった記憶が。
 でも歌だけはガチでしたええ(爆)




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