一方、ヤマト周囲を固めるコスモタイガー隊にも破片が襲い掛かる。しかし機動力に富んだ艦載機たちはその破片を易々と回避する。もちろん編隊を維持したままだ。
 万が一にも破片が命中しようものなら一撃で終了してしまう小型機動兵器ではあったが、そのぶん小回りが利いて運動性に富んでいる。ヤマトからのデータリンクで遅滞なく届けられた位置情報を参照して、危なげない動きで破片を次から次へと回避していく。
 伊達に今日という日まで生き残りヤマトのクルーとして選抜されたわけではない。ベテラン揃いの彼らにとって、この程度の芸当は朝飯前であったのだ。

 第三主砲と第二副砲は休む間もなく砲撃を続け、次々とミサイルを沈めていく。
 艦尾ミサイルによるミサイルの迎撃と、ピンポイントミサイルでの防御を使い分けてヤマトへの損害を抑えた。
 超大型ミサイルの猛攻を全力で凌ぐ。もう少しですべて撃墜というとき、航法補佐席のハリが叫んだ。

「重力振、ヤマト周囲に多数! 包囲されます!」

 ハリの報告と同時に、小ワープでヤマトの周囲にガミラスの駆逐艦隊が出現、包囲された。
 総数一二〇隻にも及ぶ艦隊だ。その数にレーダーを睨んでいたハリはもちろん、電算室でルリ達オペレーターも声もない悲鳴を上げる。
 初手からこの数とは……敵は本気で、恥も外聞もなく全力でヤマトを沈めつもりだ。
 驚くクルーの中でほぼ唯一冷静さを保っていたユリカは、すぐにその意図が波動砲の封殺であることを看破する。
 予想どおりといえばそのとおりだが、やはり類似した装備であるグラビティブラストや相転移砲に対応しただけのことはある。すぐに運用上の欠点に気付いたか。
 さすがにこれだけの数が来るとは予想していなかったが、だからといって引けはしない。
 祖国の運命を背負っているのはこちらとて同じこと。押しとおるのみ!

「全砲門開け! 主砲とミサイルは距離がある敵を、副砲は近くの敵を優先! パルスブラストは対空防御に集中! 各砲ターゲットの選定はこちらで行います!」

 ユリカが各砲室に向けて指示を飛ばす。
 それまで沈黙していたヤマトの第一主砲と第二主砲、第一副砲が、艦橋の両脇を固めるように装備された連装から四連装までの一二.七センチ対空重力波砲――通称パルスブラスト砲が、その下側に設置された両舷八連装六一センチミサイル発射管が、艦橋後方にある八連装六一センチ上方迎撃ミサイル――通称煙突ミサイルが、艦首喫水付近の六門の六一センチ魚雷およびミサイル発射管が、それぞれ起動する。

「コスモタイガー隊はヤマトの死角の敵に向けて攻撃開始!……全砲門、迎撃開始!」

 ユリカの号令でヤマトの全兵装が一斉に放たれる。
 ほぼ同時に、ヤマトを取り囲むコスモタイガー隊が各々に定めた獲物に食い付いていく。
 そして、負けじとガミラス駆逐艦もヤマトに向かって主砲とミサイルを次から次へと叩き込んできた。

「増速、第二戦速! 進路三-三-七、降下角七度で水平降下、右に八度ローリング!」

 命令を復唱しながら操縦桿を捻りスロットルレバーを押し、ヤマトの艦体を動かしていく。
 装甲表面を覆うディストーションフィールドに敵艦の重力波が命中して発光、迎撃を免れたミサイルが命中して爆炎を上げる。しかしヤマトに目立ったダメージはない。
 強固で避弾経始を意識した装甲と表面に施された防御コート、その表面に沿うようにガミラス艦の推定八倍出力で展開されるディストーションフィールドの威力はすさまじく、数十発もの被弾を凌ぎきり致命的なダメージを受け流していたのだ。まさに難攻不落の要塞と形容するに相応しい威容をもって、ガミラス艦隊を威圧する。
 これだけの数の攻撃を苦もなく突破したヤマトの無事な姿にガミラス艦隊が一瞬怯んだのを肌に感じた。

(攻撃が一時的に止まった。ヤマトの実力に怯んだみたいね。でも、まだまだこれからだよガミラス。ヤマトの実力はこんなものじゃないから!)

 超大型ミサイルの処理を終えたヤマトの猛攻は一層激しくなった。時に身を捩って敵艦を主砲の射界に捉え、攻撃を受け流して、ヤマトは一歩も引かぬ戦いを続ける。
 主砲も副砲も敵の駆逐艦を一撃で葬り去る威力を見せつけた。特に副砲は主砲を上回る旋回速度と連射速度で接近してきた敵艦に追従して葬る。配置上砲撃の妨げになってしまうフィンやアンテナマストは、引き込まれたり根元から回転して射線を塞がないように小刻みに動いていた。
 飛び交うミサイルは互いに迎撃し合うため決定打にはなり難いが、ひとたび命中すれば確実に損傷を与え、撃沈を免れても一度姿勢が崩れれば、主砲や副砲が射貫く。
 連続発射のできないミサイルに変わって主砲は四秒に一発、副砲は二秒に一発のペースで次々と火を噴く
 対空砲であるパルスブラスト砲は、隣り合う砲身から交互にパルス状に青白く発光して見える重力波を吐き出しつつ旋回、迫り来るミサイルを撃ち落とし、時には敵艦の横っ腹に片舷三八門の集中砲火を浴びせる。その火力や凄まじく、駆逐艦程度ならそのまま押し切れてしまうほどだ。
 主砲や副砲では真似できない高密度の弾幕と合わせ、対空防御と対艦攻撃をシームレスに切り替えての大活躍。射程距離も副砲に迫るほど長く、ミサイルや敵航空戦力の早期撃墜を図るに十分なスペックを持つ。
 六連波動相転移エンジンの大出力を存分に活用し、両用砲(対艦と対空の兼用砲)として使えるように改造された結果だ。
 しかしさすがに一二〇もの艦艇を一度に相手にしているだけあって、標的の数の多さに砲身の冷却が追い付かなくなってきた。このままではオーバーヒートしてしまう。発射間隔の調整やローテーションを組んで使用するなど、あの手この手で対処してなんとか持たせる。
 いまは火力も手数も落とせない状況なのだ。ヤマトはありったけのミサイルとエネルギーを駆使して必死の猛攻撃を継続した。

 このかつて経験したことのない大接戦にヤマトクルーたちはまったく余裕がなくなっていた。
 電算室のルリたちは敵艦の位置、エネルギー反応、射撃レーダーを照射した艦の割り出し、ミサイルの目と耳を誤魔化す電子妨害にと大忙しだった。
 ルリ達オペレーターは縁の下の力持ち。彼女らが解析したデータがなくては各部門のプロフェッショナルたちもその実力を発揮しきれない。逆に電算室との連携さえうまくいけばヤマトは以前のそれを凌ぐ戦闘力を発揮できる。
 そう確信できるほどルリを頂点としたオペレーターたちのデータ捌きは神懸かっていた。
 その彼女らが解析したデータを受け取ったハリが、ゴートが、ユリカが、それを参照してリアルタイムで状況を判断していく。
 ハリは敵の行動に応じた回避行動データを作成しては操舵席に送り付け、大介のサポートに徹する。
 ゴートは敵の正確な位置データと敵の種類に合わせて最適な武装を選択して攻撃指示を出す。さらにミサイルの諸元データの入力や各武装のコンディション管理、さらにはフィールド担当班と連携してフィールド強度の維持と出力分配を行う。
 ユリカは敵艦隊の行動データなどを読み取って脅威度の高い敵に優先して攻撃するように指揮すると同時に、コスモタイガー隊との連絡を取り合ってヤマトと密に連携できるように心掛け、コスモタイガー隊が弱らせた敵へのトドメや、優先攻撃目標の指示、損耗具合に応じた交代指示などを出し続ける。
 艦内管理席の真田は被弾個所ごとに必要なダメージコントロールの指示を次々と飛ばした。部下たちを手際良く分担させ、ヤマトの機能を落とさないよう、戦闘班にも迫る大活躍であった。
 通信席のエリナもコスモタイガー隊や艦内通話の回線を次々と操作、指示漏れが発生しないようにする。彼女の手際のよさに助けられ、ヤマトとコスモタイガー隊の連携が破綻することも、艦内の状況報告を漏らすこともなかった。
 機関制御席のラピスも主砲や副砲、パルスブラストにディストーションフィールドと、凄まじい勢いで消費されていくエネルギー管理を徹底し、ヤマトが息切れしないように細心の注意を払ってエネルギー分配を制御していた。
 エンジンの出力を落とさないように機関室に檄を飛ばすことも忘れない。全力戦闘中のヤマトのエネルギー消耗は予想以上に激しく、推力に分配する出力が落ち込み機動力が鈍りつつあった。
 技術的背伸びを承知で改造された六連波動相転移エンジンは、予想を超える激戦で不安定になりつつある。
 機関室もエンジンのコンディションを保つため、コンピューター制御やエンジンの直接管理と八方手を尽くしていた。
 副長席に座るジュンはユリカが戦闘指揮で手一杯になっているため、代わりに各部署の情報を統括してヤマトの状況を正確に把握し、敵部隊の動きを解析して全体の戦況把握のために尽力する。
 合わせてヤマトの進路の修正案をいくつも提示する。
 それになんとかユリカが目を通しては理想に近いものを採用してはハリと大介に送り、ヤマトの進路を細かく修正していく。
 クルー全員がとにかく必死の顔で、額に汗を浮かべながら刻一刻と変化していく状況に対応し、確実にガミラスの艦隊を駆逐していく。

 熾烈極まる激戦。
 以前よりも強化されたヤマトであっても少しづつ傷ついていった。
 たび重なる被弾で弱ったフィールドを抜けた重力波が、ミサイルがヤマトの装甲に傷を刻んでいく。それでも反射材混入の装甲と表面コートの頑強さ、そして装甲の空間に張り巡らされたディストーションブロックの不可視の隔壁で、内部へ貫通されることだけは防いでいる。
 だが衝撃までは完全に防ぎきれず内部構造にダメージが生じる。被弾のたびに艦体が軋む音が耳に入り、クルーたちの不安を煽った。
 ヤマトの威力は凄まじいが、回避行動や被弾の衝撃で主砲も副砲も照準がずれて命中を逃すことも多く、すでに五〇隻あまりを撃沈せしめたとはいえ、危機を脱したとは言い切れない。
 第一艦橋にも各所から被害報告が引っ切りなしに届くようになり、数を減らすガミラス艦隊とヤマトの戦いは一進一退の様相を見せつけているのであった。



「あの時の借りを返しに来たぜ! ガミラス!」

 コックピットで吠えるリョーコは、愛機を巧みに操って狙いを定めた敵艦に接近する。ヒカルとイズミもそれに続く。

「相変わらず熱いねぇ〜リョーコは。でも、私も漫画家廃業の危機に追い込まれて、怒ってるんだからね!」

「山の頂上、それは、いっただき〜」

 全機右腕のクローを展開し、左手にはハイパーバズーカを携え、機動力を増した愛機を駆ってガミラス駆逐艦に接近する。
 まともに撃ち合っても防御を抜けることは困難なので、三人娘は比較的防御が薄く、破壊すれば指揮系統を混乱できるブリッジに狙いを定めて急接近。散発的な対空砲火を潜り抜けて装甲表面を覆うフィールドに右手のクローをを突き立てた。
 クローのフィールド中和機能をフル稼働。急激にエネルギーを消耗しながらも周辺のフィールドを押し分けて、わずかな穴を開けていく。
 そこに至近距離からハイパーバズーカの弾頭を撃ち込んでさらにフィールドを押し広げ、Gファルコンの拡散グラビティブラスト(収束モード)を撃ち込んでブリッジを破壊する。
 ブリッジを破壊されたガミラス艦は制御を失って蛇行し始める。そのまま味方の射線に入り込んで、ヤマトを襲うはずだった重力波を代わりに受け止め、撃沈する。

「よっしゃぁ! この調子でいくぜ! ヒカル、イズミ!」

「いいよ、いいよぉー! たまりにたまった鬱憤をぶつけちゃんだからぁ〜」

「同感。いままでのツケ、たっぷりと払って貰うよ!」

 気合たっぷりの三人娘は新しい獲物へと襲い掛かる。ハイパーバズーカの予備弾倉もまだいくつか残されている。
 Gファルコンのカーゴスペースには予備弾倉のほかにも大型レールカノンも懸架され、補給に戻らなくても火力を維持できるように備えていた。
 根本的に火力不足を解決できていないアルストロメリアが火力を維持するには多数の武器を懸架してひたすら手数を増やすしかないのだ。

「よっしゃっ! 頂きだぜ!!」

 威勢のいい掛け声と共に、サブロウタのアルストロメリアが敵艦に肉薄する。重爆装備で出撃していたサブロウタだったが、機動性の低下を感じさせない巧みな操縦でガミラス艦の機関部に大型爆弾槽を叩きつける。
 二基の大型爆弾槽、計五三六発の高性能爆弾の破壊力の前にガミラス艦も耐え切れなかった。フィールドを貫通した爆発によって装甲に大穴を開けられ、損傷して暴走した機関部が弾け飛んで爆発炎上、そのまま味方艦にあわや衝突しかける。

「その隙――逃さん!!」

 月臣は叫びながら愛機を最大戦速で突っ込ませる。目標は大破した味方艦との衝突を避けるために横っ腹を見せた艦。
 両腕部のクローを展開して機関部周辺のフィールドに突き立て、中和を図る。単機では出力がまったく足りない。しかしすぐにサブロウタの機体がフォローに入れば状況は変わってくる。
 二機分の出力で強引に弱らせたフィールドを最大出力の拡散グラビティブラストで強引に打ち抜き、辛うじて機関部にダメージを与えることに成功した。

「くっ、ダブルエックスがいないと火力が足りんな……っ」

 さすがの月臣も弱音が口を吐く。
 短距離ボソンジャンプを駆使しながら的確に弱点を攻撃しているはずなのに、アルストロメリアの火力では中々致命傷を与えられない。
 相転移エンジン二基で動くGファルコンDXは、とにかく火力がアルストロメリアとは段違いに上だ。サテライトキャノンを抜きにしてもその絶大な戦闘能力はこういった戦場にこそ欲しいものなのだが、より適した任務に導入されているのだから文句は言えない。

「たしかにキツイっすね。でも、負けてられませんよ少佐! この戦いの果てに人類の未来が掛かってるんです! くぅ〜っ! 卒業したはずの熱血が疼くぜぇ!」

 サブロウタは勢いを緩めずに敵艦に食い付く。右手に担いだハイパーバズーカと両肩の連射式カノンとマイクロミサイル、Gファルコンの火砲と持てる火力のすべてを出し惜しみせずにぶつけていく。
 まさに動く弾薬庫の様相を呈していた。

「……たしかにな。だがこんな熱血なら悪くない! これこそが本当の木連魂だ!」

 月臣も弱気を振り切るようにさらに勢いを増して攻撃に転ずる。
 短距離ボソンジャンプを駆使してかく乱しつつ、腕のクローを突き立ててフィールドを弱らせ、拡散グラビティブラストや大型レールカノンをしこたま撃ち込んでダメージを与える。
 コスモタイガー隊は当初の指示通り、ヤマトの砲撃が届き難い位置にある敵艦を優先して攻撃しているが、その攻撃力からヤマトほど効率的に敵艦を駆除することができていない。
 それでも小規模ながら要点を抑えた改修の恩恵で以前よりも決定打が増しているのが救いであり、部隊全体で一〇隻も屠った。重爆装備の機体が何機かまだ爆弾槽を使っていないので、もう二、三隻程度なら撃沈が望めそうだった。
 以前の装備なら五隻程度が限界であっただろうが、いままでの戦闘データを反映した機体と戦術の確立、そして不退転の覚悟で挑む指揮の高さに後押しされて、いままで敗走を重ねてきた地球とは思えない奮戦であった。

 一進一退の攻防が続く。双方余裕などない熾烈極まる激戦が、静寂の宇宙に喧騒をもたらしている。



 その頃、慣性飛行で冥王星に向かうGファルコンDXもパッシブセンサーでヤマトの状況はおおよそ捉えていた。

「苦戦してるな……。と言うか、戦艦一隻にこんな仰々しい戦力をぶつけてくるなんて……流石のガミラスも、波動砲は怖いんだな……」

 アキトはGファルコンのコックピットの中で唸る。
 わずか一年で地球を散々に打ちのめしてきたガミラスだけある。波動砲の存在があれど、単艦のヤマト相手にまったく容赦してくれない。
 地球との技術力の差やこれまでの戦績を鑑みれば驕っていても不思議はないと淡い希望を抱いていたのだが、甘かった。

「くそぅっ! これじゃあ俺たちが基地を潰す前にヤマトが沈んじまう!」

 進はダブルエックスのコックピットで操縦桿を握り締める。元が血気盛んなので、こういう時に冷静さを失い易いのが、進の欠点だろう。

「落ち着くんだ、進君。ヤマトを、ユリカを信じるんだ」

 アキトは平静を保った声で進を宥める。
 実際はアキトも気にはなっているが、作戦を台無しにするわけにはいかない。ここは、ヤマトのタフネスとユリカの采配にすべてを託すしかない。
 最初からヤマトとユリカを信じて挑んだ航海だ。いまは自分が成すべきことを成せばいい。






「ヤマト、冥王星に依然接近中! 艦隊の半数以上が撃破されました!」

 司令室のオペレーターが驚愕の声を上げる。
 まさか一二〇隻にも及ぶ艦隊と真っ向からやり合えるとは、非常識にもほどがある。
 艦も凄いが、こちらの艦隊行動を読み切り最小限の被害で最大の効果を上げる指揮官の采配も見事だと、シュルツは敵ながら天晴れと内心称賛した。

「攻撃の手を緩めるな! 超大型ミサイルを追加で撃ち込め! ありったけだ!」

 シュルツの指示を受け、副官のガンツはすぐに自らオペレートして基地に用意されている超大型ミサイルをありったけ発射する。
 先発してヤマトに送ったミサイルと合わせて計四〇発。
 ――たった一隻でここまで戦える。正真正銘の化け物相手に出し惜しみなんてしていられない。

「ワシは反射衛星砲の管制室に行く。ガンツ、ここは任せたぞ」

 そう言うとシュルツはエレベーターに乗り込み、基地の下層にある反射衛星砲の管制室に向かった。






「レーダーに感! 冥王星から超大型ミサイルが接近! 数二〇!」

 ルリの悲鳴に近い報告にユリカはギリッと歯噛みする。まだそれだけの余力があるか。一筋縄ではいかないと覚悟はしていたが、大した戦力だ。
 おもしろい、我慢比べで早々に負けるつもりはない。こちとらこの一年、毎日のように死を覚悟しながら抗い続けてきたのだ。
 ユリカの闘志がさらに燃え上がった。

「進路変更、面舵三〇、ピッチ角プラス五、左に一〇度傾斜!」

 ユリカは大介に操艦の指示を出すと、続けざまに艦砲制御室に怒鳴りつけるようにして指示する。

「火力を左舷に集中、目標超大型ミサイル! 左舷ミサイル発射管は全門通常弾頭発射、発射後バリア弾頭に切り替えて防御幕を形成!」

 ヤマトはその巨体を捩るようにして回頭。超大型ミサイル迎撃の構えを取る。
 巻き込まれることを恐れてか、ガミラス艦隊はヤマトから距離を取ろうと動き出した。そのおかげで攻撃の手がわずかに緩んだ。

「大介君、信濃で出撃してコスモタイガー隊と連携、ガミラス艦隊に当たって! 操舵はハーリー君が変わって! ゴートさんも同乗して攻撃を担当してあげてください!」

「了解!」

 三人はすぐに指示に従って行動開始、持ち場を移動する。
 ハリの体格では操舵席のコンソールは少々持て余し気味だが、シートの設定を弄って調整して、無理やり合わせた。
 ユリカは戦闘指揮で手一杯で操舵を変われないし、ジュンはバックアップにてんてこ舞いで余裕がないのだから、ハリに頑張ってもらう。

 ここが温存しておいた信濃の使いどころだ。
 信濃とコスモタイガー隊との連携は新生ヤマトの戦術の要だが、信濃は性能上の問題から正面から敵艦隊と相対できない。
 二四発の波動エネルギー弾道弾以外に武装を持たず、生産性の悪さから補充が困難で継戦能力が極端に低く、小型ゆえに耐久力でヤマトに劣り、波動エンジン未搭載だから最高速と防御力で劣る。このような性能ではむやみに出しても戦果を挙げられないのだ。
 信濃の強みは小型艇特有の運動性能の高さにあって、それを活かせなければなんの役にも立たない。
 今回のように敵艦隊が隙を見せ、かつヤマトが別に注力しなければならない状況こそ、信濃が活きる場面である。
 ミサイルの迎撃態勢を整えたヤマトの主砲と副砲が同時に斉射され、ひとつ、二つと超大型ミサイルを破壊していく。
 続け様に左舷八連装ミサイル発射管から対艦ミサイルが放たれ、直後にバリア弾頭を装備したミサイルが速やかに再装填される。
 少しでも破片を撃ち落とすためにとパルスブラスト砲も大量の弾を吐き出して懸命の弾幕を張った。
 ヤマトの火器もいくらか被弾して機能障害を発生しているため、開戦直後に比べると攻撃の密度が薄くなっていた。
 それでもヤマトの攻勢はまったく緩まない。すべては帰りを待つ人々のため。ヤマトに失敗は――敗北は許されないのだ。

 黙々と迎撃を続けるヤマトの艦底部から信濃が発進、ミサイルの迎撃に全力を注いでいる無防備なヤマトを攻撃しようと態勢を整えようとしているガミラス艦隊に猛然と突っ込んだ。
 小柄な体格が生み出す小回りを活かし、回避行動を取りながら二四発の波動エネルギー弾道弾を次々と放つ。
 大介の巧みな操縦技術と、冷静沈着なゴートの正確な照準と完璧な発射タイミングの組み合わせは絶妙で、迎撃の隙を極力与えず、そして敵の迎撃を巧みに掻い潜って肉薄、確実な攻撃を加えていく。
 波動エネルギー弾道弾の威力は折り紙付きで、一発で容易くガミラス艦を粉砕し、余波だけでも損傷を与えることに成功している。
 信濃の攻撃でさらに一九隻のガミラス艦が轟沈し、弱った艦を最後の力を振り絞ったコスモタイガー隊が喰っていく。――消耗が激しいコスモタイガー隊には、もう満足に対艦攻撃できるだけの弾薬は残されていない。これが正真正銘のラストアタックであった。
 この攻撃で残存わずかとなったガミラス艦隊は、これ以上の戦闘継続は無理と悟ってか、冥王星へと下がって行く。
 ヤマトも危ういところでミサイルの迎撃に成功し、艦体を覆うフィールドを突き抜けた破片の衝突で傷を負ったが、戦闘能力を保つことには成功していた。
 弾薬を使い果たして戦闘継続が困難になった信濃とコスモタイガー隊が次々とヤマトに帰艦していく。
 ヤマトも収納が完了するまでは迂闊に動けず、不本意ながら無防備な姿を晒すことになる。
 ……それは冥王星前線基地が待ち望んだ、決定的な隙であった。






 反射衛星砲の管制室に到達したシュルツは、モニターに映るヤマトの姿に不敵な笑みを浮かべる。
 敵ながら見事な戦いぶりだ。これほどの戦いは、軍歴の長いシュルツとてそう経験できるものではない。
 ――そしていまからその強敵を討ち取れるのだ、頭脳で地球人に勝るガミラスの叡智の結晶によって。

「ヤマトはいま、こちらに脇腹を見せています」

 部下の報告に笑みをますます深める。

「よぉし……反射衛星砲発射用意」

 静かに命令を下す。雌雄を決する時が来たのだ。

「反射衛星砲、制御装置準備完了!」

「エネルギー充填、一五〇パーセント」

 冥王星基地が誇る反射衛星砲が目覚めていく。
 海底に走ったエネルギーチューブの中を膨大なエネルギーが駆け巡り、反射衛星砲に集中する。
 驚異の艦ヤマトを屠るため、目一杯のエネルギーが充填されていく。通常時の一.五倍ものエネルギーを投入したのだ、その威力はわが軍の指揮戦艦級すら一撃で仕留める威力。
 これならヤマトがどれほど強力であろうと、確実に息の根を止められるはずだ。

「ヤマト、おまえは素晴らしい強敵だ。その実力に敬意を表して、わが冥王星前線基地の切り札をもって仕留めさせてもらう」

 シュルツは獲物が刻一刻と罠に近づくのを待ちかまえながら、祖国のために決死の覚悟で挑んで来たヤマトに最大限の敬意を表した。
 願わくば、敵としてではなく戦友として会いたかったと、柄にもなく考える。
 きっと彼らとは、美味い酒が交わせただろう。
 ……いや、妙な感傷はよそう。この強敵を沈めぬ限り、ガミラスに安寧はないのだ。
 そう、地球とガミラスは相容れない、相容れるわけがないのだ。残念なことに。

「発射用意!」

 シュルツは発射装置を右手に構えてヤマトに照準が合う瞬間を待つ。
 モニター上のヤマトは着々と反射衛星砲の射程に近づいてくる。あと少し……。

「反射衛星砲、発射!」

 シュルツは発射ボタンを押し込んだ。
 その瞬間に、チューリップを彷彿とさせる砲身から強力なエネルギービームが撃ち出される。
 砲を保護している透明な保護ドームはこのエネルギービームを透過するため、砲を保護したまま発射できる。
 この仕様が原因で重力波砲を採用できなかったのだが、基地施設と直結した大出力砲の威力は、決して重力波砲に引け劣らない。
 海中を突き進むビームは、凍り付いた海面をぶち破って天に向かって飛び去って行く。砕かれた氷はすぐに凍り付いて、僅かな痕跡を残すのみとなる。
 そのまま宇宙へと飛び出したビームは、真っすぐに無防備なヤマトの横っ腹めがけて突き進んだ。






 その頃ヤマトはようやく信濃とコスモタイガー隊を格納し、体勢を立て直そうとしていた。
 ガミラスの艦隊が離れたわずかな隙に、ユリカはポケットに忍ばせておいたタブレットケースを振って、錠剤を二つほど口の中に放り込む。
 薬の吸収効率のよい舌下で舐めて、コンディションが悪化しないように気を配る。つい先日の反省が活きていた。
 戦闘指揮で熱くなり過ぎた。頭がズキズキと痛み始めてきたし、胸も苦しくて動悸が収まらない。指先がかすかに痙攣をするようになった。
 このままでは指揮を執れなくなる。承知していたこととはいえ、弱り切った体に憤りを感じずにはいられない。

「艦長、大丈夫ですか?」

 隣のハリが気遣わし気に尋ねてくるが、ユリカは笑顔と右手のVサインを作って応える。
 正直余裕はない。だが引けない。――この戦いだけは絶対に、散って逝った仲間たちのためにも。

「左舷方向! 強力なエネルギーが接近中っ!」

 悲鳴染みたルリの報告にユリカは即座に反応した。

「フィールド左舷に集中展開! 右ロール二〇度!」

 命令が下るとフィールド制御担当は、即座にヤマトの左舷に集中展開して被弾に備える。ハリもすぐに反応してヤマトを右にロールさせる。
 対応がギリギリで間に合ったと思った直後、強烈な一撃がヤマトの横っ腹に突き刺さった。
 ヤマトの艦体が激しく揺れる。集中展開したフィールドの妨害に遭い、曲面装甲に一部が受け流されながらもフィールドを抜けて複合装甲と、装甲下のディストーションブロック数枚をも貫通し、内部構造を露出する大打撃を受けてしまった。
 幸い装甲貫通までで威力を失ったが、もしもフィールドの集中展開が遅れていたら、艦をロールして装甲面に垂直に命中させないようにしなかったら、機関部にまで達してヤマトは終わっていたかもしれない。
 ヤマトは左舷錨マークの前付近、左舷搭乗口部分に直径七メートルにも達する大穴を開けたまま、冥王星に向かって墜落していった。

「左舷ミサイル発射管付近に損傷。装甲をすべて貫通されました!」

 真田の報告に第一艦橋の全員が顔を青くする。
 強力な要塞砲の存在は考慮していたが、まさかヤマトの防御をいとも簡単に突破するほどとは。

「艦長、推進器の出力制御装置に損害発生、出力の制御が効きません!」

 ラピスが機関制御席で悲鳴を上げる。機関部近くまでダメージが及んだため、各ノズルへの出力制御装置を破損してしまったのだ。

「――駄目です! このままだと冥王星に突っ込んでしまいます!」

 ハリは半泣きになりながらも懸命に立て直しを図るが、舵がいうことを聞いてくれない。
 出力制御系が破損したので逆噴射にうまく出力が回らない。メインノズルへの供給は停止できたが、これではやがて冥王星に墜落してバラバラになってしまう。

「艦長! 右上方一五度方向に冥王星の衛星らしき天体があります!」

 ルリの報告にユリカが視線を向けると、そこには冥王星の衛星らしい小天体を認めた。
 地球からの観測データには無い非常に小さな、最も長い所で二〇キロ程度の楕円状の岩石。
 冥王星にかなり近い軌道を回っているようだ。ロシュ限界のわずか手前といったところだろうか。その不自然な軌道からするに、彗星かなにかが一時的に冥王星の軌道を回っているだけで、衛星ではないのだろう。
 だが、使える。

「ロケットアンカーを使います! ハーリー君は左舷スラスター全力噴射の準備をして!」

「は、はいっ!」

 ユリカは戦闘指揮席からの制御でロケットアンカーの目標を入力、衛星に最接近したタイミングで発射した。
 洋上艦を模したヤマトはその姿に偽らない主錨を艦首の左右に備えている。海上停泊時に投錨する本来の使い方はもちろん、このような状況下で天体に撃ち込むことで艦を固定する目的でも使用可能だ。
 各部を変形させて鋭い銛となった右舷ロケットアンカーは、ロケット推進で岩石に向かって突き進み、その表面に深々と突き刺さる。
 同時にヤマトはアンカーを起点に振り子のように振り回された。遠心力が生み出す激しい横Gに、艦内の全員が近くの物にしがみついて耐える。
 そのままあわや衛星に激突しようとしたところで、機関士たちの懸命な努力で最大噴射を果たした左舷スラスターが寸でのところでヤマトを停止させる。
 噴射の圧力で衛星表面に生じた粉塵が、ヤマトがどれほど接近していたのかを如実に表していた。

「はぁ〜……もう駄目かと思った」

 とハリが弱音を漏らし、

「機関室のみなさん、お疲れさまでした」

 ラピスが青い顔で部下に感謝の意を表する。感謝の言葉に汗と油で汚れた機関士たちがニッと笑って親指を立てて応えた。

「あ、危うく交通事故だったね。ペチャンコにならなくてよかったぁ〜」

 疲労でシリアスモードが解除されたユリカがボケると、「シャレにならない例えは止めて!」と艦橋のクルーから総突っ込みを受けて「ふみぃ〜……」とへこむ。
 そこでようやく信濃から戻ってきた大介とゴートが、それぞれの席に戻っていく。

「変わろうハーリー。よく頑張ったな」

「ぬうぅ、これが冥王星基地の切り札か。恐ろしい威力だ……!」

 砲術補佐席で武装の稼働状況を調べながらゴートが呻く。
 駆逐艦とはいえ、それまで容易く地球艦を破壊してきたガミラスの砲撃に対して圧倒的な防御力を示したこのヤマトが、これまでのダメージがあるにせよ、たった一発でここまで追い込まれるとは。
 やはりガミラスは油断ならない敵だと、全員が気持ちを引き締める。

「艦長、補修作業を指揮します」

 真田がユリカに告げた。この損傷はすぐにでも応急処置しないと、艦の機能への影響はもちろん、防御性能にも影響が大きいと暗に訴えた。

「わかった。でも気を付けて、必ず追撃が来る。船外作業は最小限に留めて内側の応急処置を優先して。いま迂闊に外に出ると、犠牲者を増やしかねないから」

 ユリカの言葉に真田も応じて第一艦橋を飛び出していく。
 そのまま真田は被弾個所周辺の隔壁の閉鎖を指示しつつ、いまの攻撃でダメージを負ったフィールド発生装置の応急処置を始めた。
 幸いにも機能停止には至っていないが、それまでの被弾と合わせて相当な負荷が溜まっている。
 艦の各所に分散されたフィールド発振装置のコイルやヒューズなど、フェイルセーフ用の交換部品を部下たちと協力して手早く交換していく。
 ヤマトの技術班の大部分は、ヤマトの再建作業に携わった技術者が多い。勝手知ったるなんとやら。驚異的なスピードでヤマトの機能を回復させていった。
 地味にここで大活躍するのがナデシコが誇る名メカニック・ウリバタケ・セイヤその人で、出航からずっと艦内を駆けずり回って色々探求していたことで蓄えた知識と持ち前の技術力を思う存分披露して、真田でもすぐには手が付けられないような、破損の大きな部位を瞬く間に応急処置していく。
 頭脳では真田が勝るが、技術ではウリバタケが勝る。
 似た者同士で互いに多くを語らずとも、この手の作業で相手がなにを求めているのかがわかるので、最小のコミュニケーションで最大の効果を挙げる、地味ながらも頼もしい名コンビが生まれていたのである。
 ――なお、一部からは「あ〜あ。出会っちまったよ」と嘆きの声が聞こえたとかいう噂が流れたらしいが、真偽のほどは定かではない。






「ヤマト、冥王星の反対側に隠れたからといって、安全ではないぞ」

 反射衛星砲の、しかもオーバーチャージの一撃を耐え抜いたばかりか致命傷すら与えられなかったことに内心計り知れない衝撃を受けているシュルツであったが、動揺を表に出さず次の指示を出す。
 強力な反射衛星砲の一撃からヤマトを保護したのは、同じ反射衛星砲から生まれた保護メッキ技術であることを、幸か不幸かシュルツが知ることはなかった。

「次弾装填急げ。反射衛星、反射板オープン。目標、ヤマト!」

 シュルツの指示に従って部下達がヤマトを狙うために必要な反射衛星を選択する。

 「反射衛星二号、一〇号、一一号、六号、用意。微動修正開始」

 司令室の命令を受諾した軌道上の反射板搭載衛星――通称反射衛星の稼働状態になった。
 花弁とも表現出来る四枚の反射板を展開し、角度を微調整してヤマトへの射線を確保していく。
 基地の所在が判明し難いよう、一直線ではなく数回に屈曲させることも忘れない。万が一にも所在が露見して、ヤマトの直接攻撃に晒されることだけは避けなければならないからだ。

「反射衛星、準備完了!」

 部下の報告にシュルツは笑みを深くする。

「さあヤマト、冥王星基地が誇る反射衛星砲の真の威力、とくと味わうがいい――発射!」

 シュルツが発射ボタンを押し込むと、反射衛星砲から放たれたビームが再び天を貫き、軌道上の反射衛星に命中してその進路を屈曲させていく。反射衛星は起動と同時に反射フィールドを展開し、それを利用して屈曲させるのだ。
 数回の屈曲を経たビームが、ヤマト目掛けて突き進む。状況を飲み込めず無防備なままのヤマト目掛けて。






 戦闘指揮席でユリカが呻く。さすがにこの遠心力はなかなか辛かった。安全ベルトこそ装着していたが、腹部に食い込んだベルトが痛いし、視界が揺れる。大激戦で消耗激しいとはいえ、本当に弱った体が恨めしい。
 自分がしっかりしなければ、艦長がぶれたらヤマトは駄目になってしまうというのに。

「艦長、これを飲んでください。栄養ドリンクです」

 と、いつの間にか第一艦橋に上がっていた雪が栄養ドリンクのビンを差し出しているではないか。キャップは開封されていて、すぐに口を付けられるように配慮されているのがニクイ。ユリカは礼を言って受け取るとぐいと一気に煽る。

「……ぷはぁっ! くぅ〜、五臓六腑に染みわたる〜!」

 大袈裟なリアクションを取るユリカに雪が苦笑している。
 ……でも最近は水といつもの栄養食くらいしか口にしていないのだから、こんな栄養ドリンクでも立派な嗜好品なのだ。雪もわかっているのだろう、表情に少し陰が差した。

「ほかのみんなには?」

「もう配りました。それじゃあ、私も負傷者の手当てに戻りますね」

 そう言って足早に艦橋を立ち去る雪。もちろん空き瓶を全部回収して持ち帰ることも忘れない、プロの鑑だ。
 忙しい中第一艦橋の面々、すなわちヤマトの首脳たちを激励するために抜け出してきたのだろう。
 ――良いお嫁さんになりそうだ、ますます進を任せたいと、ユリカはちらりと考えた。

「……ここで停泊すると、的にならないかしら?」

 栄養ドリンクでいくらか気力を回復したエリナがもっともな疑問を口にする。停泊した艦艇など、たしかに的にしかならない。

「ここはさっきの砲撃予想地点から冥王星を挟んでちょうど反対側ですよ? 発射地点付近が基地周辺だとするのなら、星の反対側にまでは――」

 設置されていないだろう、と大介が暗に心配いらないだろうと言った直後だった。

「右舷より高エネルギー反応! 同型の大砲です!」

 というルリの無慈悲な報告が第一艦橋に響き渡る。

「フィールド右舷に集中展開! 右ロール急いで!」

 慌てて指示を飛ばすユリカに応えたフィールド制御担当の早業と大介の反射神経により、ヤマトの右舷に命中した反射衛星砲の一撃はまたしても致命傷にならずに済んだ。
 しかしそれでも右舷展望室の直下付近に直径八メートルにもなる大穴が空き、内部構造が露出する大損害を被る。この威力、間違いなく同じ兵器だ。
 悪いことは重なるもので、被弾の衝撃でロケットアンカーが抜けてしまい、ヤマトは再び冥王星に向かって墜落を始めてしまったのだ。
 エンジンの出力制御系がまだ回復していないため、逆噴射は最低限しか使えず、メインノズルの点火もままならない。ヤマトは再び冥王星の地表目掛けて艦首から突っ込んでいった。

「もう! 大介君が余計なフラグ立てるから!」

「お、俺のせいですか!?」

 ユリカのボケに悲鳴に近い声で大介が反応する。
 その顔は「理不尽だ!」と強く訴えていたが、コントに付き合う余裕のないほかのクルーは、それぞれの部署の損害確認に加え、衝撃で投げ出されないように体を固定することに全力を注ぐのであった。

「くそっ、減速しきれない……!」

「――っ! 主翼展開! タキオンフィールドで少しでも減速掛けて! ハーリー君、冥王星の海洋の位置を大介君に! 着水させれば耐えられるかも!」

「は、はい!」






 冥王星に墜落を始めたヤマトを見て、司令室に喜びの歓声が上がる。
 あれほど手強かった強敵が、冥王星基地の切り札を前に右往左往している。そして、確実にダメージを与えているのだ。――しかし、本来なら木っ端微塵になっていなければおかしい攻撃を二発も耐えたという現実からは、微妙に目を逸らしていた。

「ヤマトは赤道付近の海に向かっています」

「よし、もう一息だ。完全に息の根を止めてやる。反射衛星砲発射用意!」






 主翼を展開したヤマトは主翼から放たれる空間歪曲場に乗る形でなんとか減速をかけていた。艦内では破損個所付近の隔壁をすべて閉鎖して浸水に備える。

「島さん、出力制御装置が一部回復しました、逆噴射できます!」

 ラピスの報告に応じると大介はすぐに姿勢制御スラスターの噴射制御を行う。
 ヤマトの艦首下部スラスターがタキオン粒子の奔流を噴き出す。噴射圧が高まるに従いヤマトの落下速度が低下し、艦首が持ち上がる。だが墜落までは防げそうにない。主翼を畳んで着水の体勢に入る。
 減速できたとはいえそれでも相当な速度が出ている。操縦桿を握る大介の手にも力が入り、額に汗が浮かぶ。
 眼下には凍り付いた海面がぐんぐん迫ってきていた。

「着水するぞ! 全員、衝撃に備えろ!!」

 着水まであと少しというところで大介が艦内通信機に向かって叫んだ。それから一〇秒もしない内に、凄まじい衝撃と共にヤマトが着水する。
 艦内に衝撃音と乗組員の悲鳴が轟く。
 ヤマトは氷を砕き、激しい水飛沫を上げながら数キロに渡って海面を滑走し、一度は完全に水中に没してから大きく艦首を跳ね上げて水面から飛び出し、再び着水してようやくその勢いを失った。
 艦内の慣性制御機構をフル稼働してもこの衝撃、慣性制御機構がなかったり破損していたら、乗員は残らずミンチになっていただろう。
 派手な着水の影響もあって、被弾個所から浸水が続いている。
 隔壁で閉鎖されているため広範囲の水没は免れているが、被弾箇所は完全に水没してしまった。
 無事着水できたことに喜びも露にする第一艦橋の面々ではあったが、はっとして戦闘指揮席の様子を伺う。
 戦闘指揮席のユリカはぐったりとした様子でコンソールに突っ伏していた。

「艦長! 大丈夫!?」

 すぐに通信席から駆け出したエリナがユリカの肩を掴む。

「うぅ……」

 突っ伏したユリカから呻き声が聞こえると全員の顔が青褪める。いまの衝撃で容態が悪化してしまったのではないだろうか。
 もしもそうだとしたら、これからの航海はどうなる。無傷で済まないのは承知のうえとはいえ、もう少し自分たちに力があれば。
 などと思考が混乱しているとユリカが小さな声で「気持ち、悪いぃ……吐き、そう〜……」と呻いていた。
「え?」という感じでエリナがユリカを抱き起すと、両手で口を押えて青白くなっているのが確認できた。こころなしか頬が膨らんでいる。

「ちょ! え、エチケット袋どこ!?」

 エリナが慌てる。こんなところでリバースされたら堪ったもんじゃない。

「え〜と、ってその前に各部署は被害状況報告を!」

 ジュンが副長としての仕事を果たす。
 艦長が指揮できないのだから当然の振る舞いなのだが、想定外の事態に声が上ずり気味でやや頼りなく感じるのが玉に瑕だろうか。

「ユリカ、大丈夫? エリナ、後ろのトイレ!」

 ラピスが浮足立ってエリナを促す。
 第一艦橋の後方、左右のエレベーターの内側には艦橋要員用のトイレが設置されていた。通常勤務中に催してもすぐに用を足して戻って来れる、欠かすことのできない必須の設備だ。
 いまにも吐きそうなユリカはすぐにエリナと手伝わされたゴートに連れられて、艦橋後部のトイレに連れ込まれた。
 すぐに「おえぇっ〜!」と思い切り嘔吐する声が聞こえる。
 固形物を食べていないからだろう、先程飲んだドリンク剤と少量の胃液を吐くに留まったが、もの凄くしんどそうだった。

「うぅ……。ベルトでお腹をぐってされたし、滅茶苦茶揺れたから、耐えられなかったよぉ〜。うぷっ……」

 青褪めた顔でわざわざ報告する。正直そんな詳細に言わないでほしいと思う。
 ひとまず落ち着いたユリカを戦闘指揮席に戻した直後。

「真上から来ます!」

 ルリの絶叫が響き渡る。

「え? 金ダライ?」

 相次ぐ不調ですっかり平常モードのユリカに対して、

「んなわけあるかぁ〜!!」

 全員でノリ突っ込みしながらもフィールドだけは上部に集中展開して備えた。
 凄まじい衝撃音と共に第二副砲横、右舷搬入口付近に着弾。
 そばにあった連装対空砲ひとつを全壊させながら大穴が空くと、ヤマトはバランスを崩して左に傾き始める。

「ああっ、ヤマトがボケた!……じゃなくて傾斜が止まりません!」

 大介が操舵席で必死にバランスを取ろうとするが操縦系にも支障をきたしたのか、いうことを聞いてくれない。
 ――ユリカのせいでヤマトが本当にボケたのかと一瞬真剣に考えてしまったのは毒された証だろうか。

「島君、なんとかならないの!?」

 戦闘指揮席のシートにしがみ付いて傾斜に耐えるエリナに、「駄目です!」と大介が操縦桿とスイッチ類を操作しながら答える。
 完全にコントロールを失ってしまっている。

「金ダライなんて落ちてくるものなんですか!?」

 パニックに陥ってピントがずれた問いかけをするラピス。

「大昔のコントですよ! 専用のタライを使って――」

 こっちもパニックに陥ったのか律儀に答えるハリ。

「お前たち落ち着かんか!」

 ゴート叱責するも効果なし。

「ああもう滅茶苦茶だぁ〜!!」

 溜まらず絶叫するジュン。
 そうこうしている内にヤマトは完全にひっくり返り、艦尾を天に向けてそのままゆっくりと冥王星の海に沈没した。



 ヤマト、どうしたのだ?

 かつては切り抜けた苦難に屈してしまうのか?

 それとも本当にボケを体得したと言うのか!?

 しっかりするのだヤマト!

 人類絶滅と言われる日まで、

 あと三五七日しかないのだ!



 第七話 完



 次回 新宇宙戦艦ヤマト&ナデシコ ディレクターズカット

    第八話 決死のヤマト! 冥王星基地を攻略せよ!



    勝て、地球の明日のために

第八話 決死のヤマト! 冥王星基地を攻略せよ! Aパート







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代理人の感想 
前もそうでしたが「それとも本当にボケを体得したと言うのか!?」はクッソワロタw
卑怯だよそれは!w



>ガミラスはいずこからやって来たのか。ヒューマノイドタイプの宇宙人なのかすらもまだわかっていない。

そう言えばキムタクヤマトでは精神生命体か鉱物生命体みたいな感じでしたなあ。
ガミラスの全意識を統率するのがデスラーという名の意識って感じで。







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