進とラピスはエレベーターに乗りながら、真剣な表情で意見を交わしていた。

「ラピスちゃん、いま波動砲を使ったとしたら、エンジンに問題が出る可能性ってどのくらいだと思ってる?」

「……難しい質問ですね。エンジンの改修と再調整を行ってから、波動砲は一度も使っていません。エンジンの整備には自信がありますが、やはり実際に使ってみないことには具体的な意見は言えませんね」

 顎に手を当てながら問いに答えるラピスに、進も「そうか……」と頷く。
 幸運なことに木星での試射以降波動砲を撃つ機会には恵まれていない。心情的な問題もそうだが、そもそも波動砲を積極的に使用する局面というのはヤマトにとって窮地ということであるので、撃つ機会がないイコール苦境に立たされていないということなので、幸運なのだ。

「改装を訴えたユリカ姉さんには悪いと思いますが……やはりこの改装は無茶だったとしか考えられません。エンジン制御はまだなんとかなります。実際多少の不具合こそ起こしましたが、冥王星海戦では最後まで戦い抜くことができました。しかし、ワープに比べて波動砲の負担は大き過ぎます」

 波動砲発射後の波動エンジンの惨状を思い出してラピスは身震いしている。
 だが無理もない。ワープの時もエネルギー伝導管が溶ける被害を被ったが、比較的修理は簡単だった。その後の改修も上手くいっているようで、このプロキシマ・ケンタウリ星系へのワープでもトラブルを起こしていない。
 しかし、波動砲はもっと酷かった。
 エネルギー伝導管どころかコンデンサーも複数破損してしまった。それに波動砲口周辺の装甲板にも亀裂が入る被害――自損としては最大の被害を被った。
 幸いにも航行中の修理が困難なライフリングチューブやふたつの収束装置は損害を免れたが、波動砲の使用に不安を覚えたことは事実だ。
 一応、あの時の経験を基にした改修を行い微調整を繰り返しているが、やはり撃ってみないことには確たる自信を得ることは難しい。

「単発での発射なら問題ないと思います。――でも、連射の反動に耐えられるかどうかは保証しかねます……ユリカ姉さんは、いったいどうして波動砲の連射なんて考えたんでしょうか? 冥王星基地攻略作戦でヤマトが耐えられたのは、波動砲と密接に関わった連装エンジンの力が大きいとは思います。ですが、そもそもあれほどの過剰戦力をぶつけられたのはトランジッション波動砲のせいだと考えると、メリットよりもデメリットが目立つ気がしてならないんです」

 ラピスの意見はもっともだと思う。
 しかし波動砲は一発限りの必殺兵器であったとしても、想像を絶する超兵器であることに変わりない。
 結局、波動砲の存在が敵を刺激したには違いないだろう。だが波動砲なしでヤマトの航海が成功するかと問われれば、進は黙って首を横に振るだろう。
 しかし、

(ガミラスはやけに必死だった。波動砲が怖いのはわかる。だがそれでも……たかが一隻に過剰戦力も辞さないなんて、自分たちの優位性を信じて疑わなかったガミラスにしては、やけに切り替えが早くないか?)

 そこが気掛かりだった。いかにヤマトが強力でも戦力としては戦艦一隻に過ぎない。
 直接戦闘指揮を執る機会はなかったが、冥王星海戦の敵艦の数は些か大袈裟に思える。
 進が知るガミラスだったら、自分たちの優位性を疑うことなく、それこそゲーム感覚で適当に叩こうとするのが常だと思う。
 それなのに、いきなり形振り構わない全力を尽くしてきた。
 冥王星前線基地にとっては目の前の脅威だからわからないでもないが――それだけでは説明がつかない必死さを感じた気がする。
 進はアキトと共に、ヤマトに恐れを抱いている基地要員の姿を直接見ているのだ。
 あれではまるで、ヤマトがガミラスそのものにとっても脅威になると言わんばかりの慌てようだった。
 ――彼らはヤマトがガミラスそのもの――つまり本星に直接害を与える可能性を現実的に受け止めるなにかを知っていたのだろうか。そうでもなければ波動砲を過剰に恐れる理由にはならない気がする。

「たしかにトランジッション波動砲は過ぎた力だと思う。だけど、その存在が俺たちの航海の安全を守ってくれている気もしてるんだ。あれだけの超兵器、向けられたくないのは誰だって一緒だろうしな」

 進は努めて冷静に自分の意見を語る。
 いくら機関長の任を拝命しているとはいえ、まだ一三になったばかりの少女なのだ。それに進にとっては可愛い妹分。いたずらに不安がらせることは言いたくない。

「そうだとよいのですが……」

 それからは特に会話も弾まず、目的地である機関室に到着した。
 艦首側にあるドアを潜れば、眼の前にはワープエンジンを含めれば全長が一六〇メートルにも達する長大な六連波動相転移エンジンの威容が眼前に迫る。
 機関室にある部分だけなら一一〇メートルといくぶん短くなるが、相転移エンジン採用以降のユニット化が進んだ宇宙艦艇とはまったく異なる大型機関だ。
 その先端部分が波動砲の薬室と突入ボルトを兼ねている六連相転移エンジン。
 回転弾倉式拳銃のスピードローダーを彷彿とさせる、実包のような配置の小相転移炉心。中央にあるのが動力伝達装置とも呼ばれる波動砲の薬室部分。
 小炉心と直結した大炉心はエネルギーの収束と波動エンジンへの供給用なので除外するが、この部分だけでナデシコCの四倍もの出力のある機関だ。
 だがこの部分だけでは前座も同然の扱いである。

「いつ見ても凄いよなぁ……このエンジン」

「ええ。ナデシコCと比較しても二四倍以上ですからね、最大出力になると」

 ラピスの言葉に改めてこのエンジンの力を認識する。
 ナデシコCの四倍もの出力が、波動炉心で波動エネルギーとして変換・出力されると六倍化されて二四倍もの大出力となる。
 三〇〇メートル弱の宇宙戦艦には、あまりにも過大な出力だろう。

「でも、この出力もまだまだ理解も技術も追いついていない現段階の話です。もっと理解が進んでポテンシャルを引き出せるようになったらきっと……」

 もっと増える。ラピスは暗にそう告げた。
 いまの段階でもガミラスの主力であろう駆逐艦クラスと比較しても、八倍越えの絶大な出力差を生み出している。
 そのパワーを利用した攻撃力と防御力、そして機動力。
 それらを最大限に活かしたヤマトは戦いの常識である多数有利という絶対的な不利を覆し、勝利を掴ませるだけのポテンシャルを有している。
 もしもこのエンジンを採用していなければ……仮に主砲を重力衝撃波砲に換装しようが、ディストーションフィールドを搭載しようが、ヤマトは勝てなかったかもしれない。
 もちろんラピスが懸念するようにデメリットも多い。
 このエンジンもまだ掌握したとは言えないほど使いこなせていないし、出力増大による負荷に耐えられる完成度に、ヤマト自身が至っているとは言い難い。
 総合的な戦闘能力は強化されたと断言できても、完成度という点では再建以前に見劣りしていると、進はデータ比較で断定せざるをえなかった。
 ……だっていまのヤマトは連続ワープを失っているのだから。

「最初に出航したときはこれでガミラスに勝てるって……単純に浮かれてたんだよな」

「はい。あのときはそれが当然だったと、いまでも思います。でも、浅はかだったとも思い始めています」

 あのときはようやく対等になれたと喜ぶばかりで、その力がなにをもたらすのかまでは考えていなかった。
 たぶん、ユリカ以外は同じだったはずだ。

「あ、機関長! それに古代さんも!」

 眼前で相転移エンジンと波動エンジンを繋ぐエネルギー整流・増幅装置――スーパーチャージャーに取り付いていた太助が、並んで歩く進たちに気付いて敬礼と挨拶。
 その陰になるところで整備作業を手伝っていた山崎も、油汚れで黒くなった手をウエスで拭いながら太助同様に敬礼と挨拶を送った。

「機関長、ワープ後の確認作業ですか?」

「はい、山崎さん。第一艦橋の計器だけでは全貌がわかり難くて……」

 進はラピスが、機関制御席だと全体のエネルギー管理やエンジンの自己診断システムによる状況はわかっても、実際のメカニズムの具合はわかりにくいとぼやいていたことを思い出した。

「古代さんはどうしたんですか? 戦闘班長が機関室に用ってことは……」

「ああ、察しのとおり波動砲に用があるんだ、徳川」

 大介が面識あるように進も太助と面識があった。
 当然進のほうが先輩ということになるのだが、ユリカに毒されきった進は割とフレンドリーな対応をしていた。修理作業の際に波動砲絡みで何度か機関室に足を運んだことがあり、ある程度この場で求められるものを心得ているため、嫌な顔はされていない。
 波動砲が問題児であることは周知のことで、その引き金を任されている進ともなれば、この場に足を運んでいろいろ知りたがるのも無理はないだろうと理解されている、というのもあるのだろう。
 ただしラピス絡みで『進お兄さん』と笑われることがあるのが癪に障るが。

「なあ徳川。おまえから見てトランジッション波動砲のメカニズムになにか疑問とかはないのか? ほら、イスカンダルからデータが送られて来たんだろ? そこになにかよくわからないものがあったとか」

 そう言われて太助は答えに窮していた。
 ――この顔はなにかを知っている顔だ。だが立場的に言えないのかもしれない。なにしろ太助はまだ下っ端の機関士だ。

「……古代さん、疑問に思われているとおり波動砲には……正確には、それも含めたエンジンの制御システムには、ハード・ソフト両方にブラックボックスが存在しています」

 太助の隣にいた山崎がそう答える。どうやらラピスがアイコンタクトで話すように促したらしい。

「ブラックボックス?」

「ええ。トランジッション波動砲や六連波動相転移エンジンの制御システムには、普段は機能していない正体不明のシステムが組み込まれています――例の通信カプセルを覚えていますか?」

「ええ。ユリカさんが、サーシアさん――イスカンダルの人から受け取った、あのカプセルですよね?」

 進の答えに山崎も太助も頷く。

「古代さん、実はその通信カプセルがエンジンの制御装置に組み込まれてるんです。提供された図面に、必ず制御装置に組み込むようにと指示が書かれていたんですよ」

 太助が困惑気な表情で告げると、進は大層驚いた様子で「あのカプセルが?」と少々間抜けな声を出してしまう。

「そうなんです。私も組み込む前にルリ姉さんに解析を依頼したんですけど、プログラムの中に解析できない部分があると報告を受けて初めてブラックボックスの存在が判明したんです。とは言っても無理に抉じ開けて駄目にしてしまっては本末転倒でしたし、いまの私たちの技術力では、このエンジンの完全な制御プログラムを完成させられなかったので……」

 悔しそうなラピスに「仕方ないじゃないか、未知のエンジンなんだから」とフォローをしながらも、進はさらに追及してみる。
 すると組み込んだ通信カプセルはたしかに通常時にはエンジンの制御装置として機能していて、膨大なエネルギーを生み出すエンジンを細やかに制御しているのだという。
 しかしエンジンに組み込んだあと判明したことがあった。てっきり制御に必要と思われていたブラックボックス部分は、まったく動作していないことが判明したのだ。
 また、トランジッション波動砲にも使われていないハードウェアが組み込まれていて、それも波動砲を発射するまでは存在が知れないようにと、実に巧妙に隠蔽されていたと言う。
 撤去しようにもシステム全体への悪影響を考えると撤去できず、不安を抱えながら日々エンジンを管理しているのが、いまの機関部門だという。

「ユリカさんには報告したのか?」

「ええ、でも艦長が放っておいていいと取り合ってくれなくて……まあヤマトの再建に最初から関わっている人ですし、僕たちには知らされていない秘密のひとつやふたつあるのかもしれないですけど、ちょっと不安ですよ」

「それどころかイスカンダルが不必要なものを提供したりしない、むやみに外したしないようにと釘まで刺されてしまって……正直困惑しています」

 ラピスの補足に進も「ふむ」と頷く。

「わかった、とりあえずこれ以上の追及は無意味そうだし止めておくよ――とにかく、現状波動砲に目立った問題はない、と考えて大丈夫なんだよな?」

 進の言葉にラピスは頷く。どうやらエレベーターでのやり取り以上の報告はない様子。

「ただ、繰り返しますが連射の反動に耐えられるかは不安が残ります。それにワープ直後の使用は艦体に大きな負荷が掛かって損傷する可能性があります。余程の緊急事態でない限り、連射とワープ前後すぐの使用は避けてください」

 ラピスに念を押されて「わかった、気を付けるよ」と朗らかに答え、進は機関室をあとにする。だが機関室を出る時にエンジンを一瞥することは忘れなかった。

 機関室を出た進は第一艦橋には戻らず、格納庫で機体の整備作業をすると断りを入れてから格納庫に。愛機であるコスモゼロのコックピットに滑り込んでハッチを閉鎖、簡単な整備作業――も兼ねた熟考時間を取る。

「……なるほど。波動砲とエンジンにブラックボックスか……となると、これがユリカさんとイスカンダルの秘密に繋がってると見て間違いないな」

 なぜ波動砲のデータ、それも旧ヤマトを凌ぐトランジッション波動砲を地球に提供したのか。それと密接に絡んだ六連波動相転移エンジン。
 そしてハードとソフトの双方に仕込まれた、ブラックボックス。
 進は着実に答えに近づいていると感が囁くのを感じた。すべての謎が解けた時、はたして真実を受け止められるのかはわからない。
 だが、漠然といかなる真実であっても受け入れなければならないと感じ取っていた。



 一〇時間後、ヤマトはプロキシマ・ケンタウリ星系に接近していた。
 ちょうど第三惑星である褐色矮星が進路上にあるが、あれは木星などと同じくガスの塊の天体、と言うより太陽のなりそこないと言われることもある天体なので、ヤマトが欲する資源を得ることはできないこともあり、詳細な調査は日程の都合もあって見送られた。

「なんか、太陽に比べると可愛らしい大きさだね」

 メインパネルに映るプロキシマ・ケンタウリの映像と、比較として表示された太陽の大きさを見て率直な感想を漏らすユリカ。
 真田は少し補足しようかと思って口を開きかけたが、エリナに先を越されてしまった。

「たしかプロキシマ・ケンタウリは赤色矮星だから、恒星としては特に小さい部類に入るんじゃなかったかしら? ヤマトに乗る前に少し天文学を少し齧ってみた程度で申し訳ないけど」

「説明しましょう!」

 やっぱりか。と真田は心の中で呟いた。

「調査時間を減らしたくないから手短に済ませるわね。プロキシマ・ケンタウリは現在確認されている限りでは地球から最も近い位置にある恒星で、赤色矮星という主系列星と呼ばれる時期の恒星としては最も小さい部類に入る星よ。大きさは大体太陽の七分の一で、質量は八分の一程度、平均密度は四〇倍と言われているわ。ヤマトでの観測結果も大体合ってたわね。磁気活動によって不規則かつ急激に明るさが変化する爆発型変光星――くじら座UV型変光星の一種でもあるわ。赤色矮星は質量が小さく核融合反応が緩やかに行われるため、私たちがよく知る太陽よりもずっと寿命が長く、それこそ宇宙創成からすぐに誕生した星ですら、まだ寿命を迎えていないと言われているわ。プロキシマ・ケンタウリは、地球から最も近いこともあって、しばしばSFを含めた恒星間航行の目的地として挙げられているわよ。これ豆知識。以上、簡易だったけれど、イネス・フレサンジュでした」

 空気を呼んだのか至ってシンプルな説明で終わらせてイネスの放送は終わった。
 というよりも、自分がさらに調査したくて早々に打ち切ったのだろうと、付き合いの長いエリナと趣味が似ている真田は感付いていた。
 人類がこういった天体に近づいたのはもちろん初めて。
 地球から観測されていた岩石型惑星のほかに、それよりも少し外側の軌道に褐色矮星がひとつ、それよりも内側の軌道に地球より少し小さいサイズの岩石型惑星がひとつ確認された。
 褐色矮星はともかく、岩石型惑星はなんらかの鉱物資源を得られる可能性があるため、今後のことを考えれば調査と採掘作業をしておきたいところだ。これからの旅路で必ず必要になる行程なのだから。
 欲を言えば資源採掘目的以外での天体観測を含めた調査もしたいのが本音だ。
 兵器開発とは無関係にその知的探求心を満たす行為――なんと満たされる行為だろうか。
 しかし今回の旅路では時間が足りない。諦めるしかない。
 だがヤマトの旅が成功すれば、地球は必ず波動エンジンを搭載した艦艇を量産するだろう。いずれこの広大な宇宙を気ままに探査する機会もあるだろうし、タキオン粒子を使用した超長距離測定技術が誕生したのだから、太陽系からでもいままでよりもずっと精度の高い観測が可能にはなるだろう。
 せめていまは、現物を生で見るというこれ以上なく素晴らしい出来事の感動を胸に刻みつつ、果てなき航海のストレスを癒すとしよう。

「艦長、第一惑星と第二惑星は岩石型惑星ですので、もしかしたら資源を得られるかもしれません。地表近くに鉱脈があれば、短時間で採集が可能でしょう。――とにかく時短を求めるのなら、乱暴な手段にはなりますが、ヤマトの砲撃や艦載機の砲撃で適度に地表を吹き飛ばして採掘することも、視野に入れるべきかもしれませんが」

 さらっと怖いことを言った。隣の席のハリはその光景を想像したのか、顔を引き攣らせている。
 砲撃で巻き起こる粉塵に飛び散る大地。
 自分で言っておいてなんだが、自然を大切にね。という謳い文句が脳裏を過った。

「……まあ時短の為にはそれくらいしないとどうにもならないこともありえるよねぇ……悠長に発破なんてしてられないし、さっさと回収しようとしたらそれしかないんだよねぇ〜」

 ユリカは憂鬱そうな顔で真田の意見を肯定する。
 惑星の環境破壊などを考慮すると過剰手段にもほどがあるし、生命の存在を考慮するなら不必要に惑星に立ち寄ること自体が問題行為なのだが、ヤマトはその目的の都合から、航海の成功に必要であるのなら必要分だけの作業は政府から許可されている(もちろん知的生命体のいない星に限定した地球側の身勝手な言い分であることは、疑いようがないが)。

「とにかく接近しましょう。ガミラスへの警戒は怠らないでね。太陽系に一番近い恒星系だから、ガミラスも中継地にしている可能性があるし。もしかしたら、希少資源とかがあって、ガミラスが採掘してるかもしれないしね」

 あははは、と笑うユリカに真田はルリに改めて解析と警戒を求めた。

 真田の要請を受けてハリも航行補佐席で周辺宙域の不審な動きを探査すべく、探知機を最大稼働させる。
 航行補佐席は航路探査にも不可欠な、周辺の重力異常や空間歪曲、天体の動きなどを探知するのに向いている部署だ。

「赤色矮星とは言え恒星系だものね。さしものタキオン光学測定も、惑星の近海まで接近しないと鉱物資源の探査が無理なのが残念だわ」

 エリナが自社で形にした新しい探査システムの数少ない弱点に嘆息しているのを耳にした。
 光学測定の名のとおり、タキオン粒子が発する光を使っている超光速探査システム。だが光を使っている以上、恒星の発する光などによって阻害されるため、地表探査や鉱物探査と言った才を穿つような探査活動は、惑星の軌道上からでもなければ実施できないことが多い。
 実際太陽系の場合、太陽から遠くほとんど恩恵に与れない土星以降の天体でもなければ、離れた距離からの詳細な探査はできなかったというデータがあるほどだ。
 赤色矮星のプロキシマ・ケンタウリは太陽の七分の一程度の大きさであるが、密度的には太陽の八倍の恒星風出している。それに、閃光星の都合から安定した光量を保っていないため、ことさら観測が難しい。
 いまプロキシマ・ケンタウリは急激に増光しては元に戻る、という活動を数回繰り返している。
 この状況に威力を発揮したのは、ヤマトの窓に備わっている減光フィルター機能であった。
 波動砲もそうだが、恒星に接近すればその強烈な光が窓から飛び込んで内側を焼き尽くしかねないという事情から、ヤマトの窓という窓にはすべてこの処置が施され、ある程度自動的に光量の調整がされている。
 しかし恒星に最大接近したり、波動砲発射時の強烈な閃光は防げない(完全な遮光はシャッターに任されている)ため、シャッターなしでは対閃光ゴーグルの着用が義務付けれていた。

 ヤマトはガミラスの存在に警戒しながら、静かにプロキシマ・ケンタウリ第二惑星の重力影響圏内に入った。
 地球よりもほんの少しだけ大きな岩石型惑星の姿が見える。だが植物や水の存在は、軌道上からではまったく伺えない。

「真田さん、ルリちゃんとハーリー君と協力して、プロキシマ・ケンタウリ第二惑星の調査を継続してください。有用な資源があるようなら確保していきます」

「ガミラスの動きは常に警戒するように。採掘作業中はヤマトも無防備になる」

 ジュンは念を押すことを忘れなかった。ハリも当然とばかりに頷いてレーダーに目を凝らす。
 ガミラスがどこから来てどこに帰っていくのかわからないのだ。それに連中は確実に地球人よりも宇宙に詳しい。
 自分たちでは見落としてしまうような影に潜んで、ヤマトを狙っていてもおかしくはない。

「――やみくもに戦って勝てる相手だとは思われてないでしょうから、仕掛けてくるとしたら艦隊戦よりもトラップの類かもね。そっちは艦隊よりも見つけ辛いから注意して」

 ユリカは波動砲をもったヤマトに正面から艦隊が挑んでくる可能性は低いと、言外に断言した。
 たしかに言うとおりかもしれない。
 冥王星での戦いでは、彼らは波動砲を恐れ、使われないようにするための行動に終始していた。よほど自信を持てる戦力を用意するか、ヤマトが不利を被るような空間でもないと、そうそう正面からぶつかっては来ないというユリカの意見は的外れとは思えなかった。

 見えない不安を払拭しきることは出来なかったが、それでも資源を求めて惑星の探査作業を開始した。
 ルリはいい加減慣れたフリーフォールで第三艦橋に移動、電算室の探査システムの準備を始める。
 ヤマトは探知装置をフル活用して惑星の組成や鉱物資源に関しての調査を開始すべく、第三艦橋の探査プローブ(小)のハッチを二つ開放、小サイズの探査プローブを射出する。
 こちらは惑星の地表探査に特化したもので、タキオン工学測定器を内蔵している。ヤマトのシステムと組み合わせれば、星ひとつを調べ上げるのもそう時間はかからない。
 タキオン粒子の放つ光は付随する空間波動の影響なのか、物体を透過しやすい性質がある。だから惑星の上空を隅々まで飛び回って探査機を動かす手間がいくぶん短縮され、鉱脈を上空から探査するという無茶すら実現できたのだ。
 その反応を見てどのような資源が得られるかを見極めるのは、結構難しいが。

 プローブが取得したデータが第三艦橋でノイズなどを除去された状態で艦内管理席に送り込まれる。
 電算室との連動で情報処理能力が格段に向上したヤマトであるが、電算室だけですべての情報処理を賄っているわけではない。
 首脳陣が詰める第一艦橋の各々の座席には、それぞれの役割に特化した情報や処理能力が与えられており、双方に補完し合うことで初めてヤマトはその優れた情報処理能力を活かしきれる構造になっている。
 ヤマトのマンパワー信仰の一端でもあり、専門家の意見を確実に加えることでより精度の高い情報処理を実現するための方式でもあった。

「……うーむ。どうやらこの星には目ぼしい資源はないようです。鉄にケイ素と、ありふれた資源のみで足しにもなりません」

「そっか……。じゃあ第一惑星の方に向かおうか。その程度の資源に時間は割けないし」

 ユリカの言葉を受けて、大介はすぐにヤマトを第二惑星近海から発進させる――前にもったいないからと、プローブをアルストロメリアで回収して再利用することは忘れない。。
 発進したヤマトの航路を指示すべく、ハリは大介に第一惑星への最短コースの情報を届けてくれた。
 それを参照して大介はヤマトの航路設定を行い、自動操縦でヤマトはプロキシマ・ケンタウリ第一惑星の周辺に到達した。
 そこで改めて回収したプローブを使って惑星の探査を開始する。

 そして――

「艦長! 大変なことがわかりました!」

 興奮も露に大声を出す真田にユリカも表情を強張らせる。

「なにか不審なものでも!?」

 一気に緊迫した空気が生まれる。
 ユリカはこの星系でガミラスがなにかしら仕掛けてくる可能性が高いと考えていたが、やはり的中してしまったのか。
 資源を諦めるのは今後を考えると好ましくはないが、余計な被害を被るよりは――。

「いえ、この惑星にはいままで見たこともない変わった組成の金属資源が埋蔵されているようです! おそらく主星に近く、惑星表面が非常に高温なことが要因で形成された可能性があります!」

 報告を受けてユリカ含め第一艦橋のクルーは「ああ、だからそんなに興奮したのか」と納得すると同時に、人騒がせな報告に自然と視線が険しくなる。
 その視線にわれに返った真田は、コホンと咳払いをして続けた。

「っと、失礼しました……回収して調べてみないことにはどのような特性があるのかはわかりませんが、うまく活用できればヤマトの機能を向上させることができるかもしれません」

「それは素晴らしい。――しかしガミラスはそれを知っているのだろうか。もし知っているのなら、ガミラスもこの資源を採掘するために部隊を派遣している可能性があるのでは? もしかしたら、拠点を備えている可能性も」

 最近影が薄い印象のあるゴートが率直な感想を漏らした。
 まあ自分と共犯者を除外すれば、ガミラスの母星がどこにあるのかわからないのだから当然の懸念だろう。
 それでも太陽系への侵入方向から、このプロキシマ・ケンタウリがガミラスの予想進路上に存在することは容易に判断できる。
 ユリカとしてもゴートの懸念はおそらく的中しているだろうと思う。

「どう思いますか、真田さん?」

「……可能性はあります。しかしその資源があるのは恒星を向いた面です。あの第一惑星は潮汐力の影響もあって、自転と公転が同期して常に同じ面を恒星に向けています。ちょうど地球の月を想像して頂けるとわかり易いかと。そちら側は表面温度が一五〇〇度を超えていますし、主星が閃光星であることも影響して不安定な環境にあります。ガミラスの技術力に関しては詳細がわかりませんが、仮に採掘しているとしてもこの環境下に施設を造るのは困難でしょう。――採掘をしているとして、工作船の類で乗り付けて作業するという方法に留まっていると考えられます」

 真田の推測に少し悩んだユリカは、

「――ちょっとリスクがあるけど、惑星に降下して資源を採掘しましょう。貴重な資源なら欲しいし、採掘作業の経験ももう少し積んでおきたいしね」

 採掘作業の実施を決意した。
 今回の大規模修理と補給は、地球の協力でいくぶん楽になったが、それでもヤマトの懐事情は厳しいの一言だ。もしガミラスが採掘したのなら、その跡を使わせてもらえば作業は迅速に済むだろう。
 おそらくヤマトが経由するのを見越して罠を張っているはずだ。
 太陽系から最も近い恒星系ともなれば、恒星間航行のテスト地点として都合がいいのは考えればすぐにわかる。
 ガミラスが見落とすとは思えない。連中はそんなに甘くない。
 艦隊戦を挑まれる可能性は低いと思う。ならばトラップの類が濃厚だが……。

「ルリちゃん、ハーリー君。センサーの探査範囲におかしな動きってある?」

「いまのところ不審な動きは見られません。ただ星の影をうまく使われると、レーダーでは捕捉できないと思われます」

「こちらもです。タキオンスキャナーを使って周辺を探査してみましたが、不審な動きは見られませんでした。引き続き探査活動を続けます」

 ルリとハリが各々報告する。ヤマトの目と耳であるセンサー類を扱う立場にあるだけに、回答も慎重なものだった。
 ヤマトのセンサーシステムは恒星間航行を可能とする宇宙船としては十分過ぎる性能を有しているが、どうしてもガミラスのものには劣っていると、ユリカは考えている。
 ヤマトが搭載しているタキオンスキャナーやコスモレーダーは、数千光年もの距離を跳躍するワープシステムのために開発された、タキオン波を使用した超長距離探査システムだ。
 ワープ航路の選定に不可欠な天体の位置情報――つまり重力場の情報を取得するために使われ、タキオン波による探査であっても生じてしまう距離による情報の時差を修正するシステムとセットになって初めて機能する(それでも見落としが生じることがあるため、ワープシステムにはワープ航路上に『障害物』を検知すると自動で『停止』する安全装置が組み込まれている)。
 だが地球人はそのシステムの扱いに慣れていない。どうあがいても経験値の分だけガミラスには負ける。
 それに連中は宇宙での戦に慣れている。おそらく事前に罠を回避することは、難しいだろう。

「じゃあこのまま行きましょう。仮に罠が張られていたとしても、それを喰い破って突き進むのがヤマトです。真田さん、現宙域で戦闘になった場合、艦への影響はありますか?」

 ユリカの質問に真田は即答した。

「ヤマトは問題ありません。熱と放射線は強烈ですが、ヤマトの装甲なら十分に耐えられる熱量ですし、強力な放射線シールドに除去装置も用意されています。ディストーションフィールドもありますから、仮に赤色超巨星に接近したとしても、極短時間なら持ちこたえられるはずです。ただ、ミサイルは自爆の危険があるため使用は控えるべきだと具申します。信濃も厳しいですね。艦体は耐えられても、波動エネルギー弾道弾がもたないでしょうし」

「なら、艦載機はどうなりますか?」

 今度は進から質問が飛んだ。

「ダブルエックスなら耐えられるだろう。……それ以外の機体はなんとか活動はできるが戦闘は少々厳しいだろうな。恒星が近いし、保護のためにフィールドを最高強度で保ち続けるくらいしないと、熱で機体がやられてしまうだろう。ダブルエックスはヤマトと同じ構造材で造られているし、ヤマト艦載が前提で開発された唯一の機体だ。当然ヤマトと同じく極限環境での運用も視野に入っている。放射線対策も万全だから、仮にフィールドを喪失してもパイロットがすぐにやられることはない。ただ、戦場が惑星の裏側なら放射線も熱も遮られるから、アルストロメリアでも問題なく戦える」

「わかりました。ではダブルエックスはGファルコン装備で格納庫で発進準備をさせて、いざというときは出撃してもらいましょう。艦長、よろしいですか?」

 進の提案にユリカは頷く。
 ダブルエックスの威力はすでに証明されている。状況的にサテライトキャノンの使用は厳しくとも、この機体が戦えるだけでも戦力的にはいく分違う。
 ――地球で積み込んだほかの機体はまだ完成に至っていない。
 エアマスターとレオパルドはまだフレームのみで完成度は三割、エックスも結局先の二機の開発とギリギリまで搭載を試みた単装型サテライトキャノンに足を引っ張られて、ディバイダー仕様で組み立て途中にあり、完成までもう少しかかる。
 投入できるのは、もう少し先になる。

「古代、武装の選択には十分に注意してくれ。恒星風の影響をもろに受ける場所での戦いの場合、ビーム砲の類では影響を受けて射程距離の減退や砲撃の屈曲が起こる可能性がある。実体弾もミサイルと同じ理由で使用が制限される可能性がある。――惑星の影ならその限りではないが、グラビティブラスト以外はあまりあてにできんぞ」

「わかりました」

 マイクを掴んで真田のアドバイスをもとに準備を進めさせる進。いまできることはこれくらいだろう。



 ヤマトは慎重にプロキシマ・ケンタウリ第一惑星に接近し、改めて惑星表面の探査を行う。目当ての資源の採掘ポイントを探ると同時に、ガミラスの痕跡の有無を探る必要ためだ。
 大気はないが、安定性を高めるために安定翼を開いた姿でヤマトは第一惑星の引力圏に侵入した。高空を飛行しながら探査装置を全開にする。
 ガミラスが採掘したらしい痕跡は、いまのところ見当たらない。
 資源のある恒星に面した地表は、鉄をも溶かす高熱に晒されマグマのように赤熱化してドロドロになっている。これではちょっとした隠ぺい工作で痕跡を消せてしまうだろう。

 それからしばらく探査を続け、ようやく採掘地点を定めた。目的となる鉱脈は恒星に熱せられた表面と裏の境付近にあるようで、ありがたいことに比較的地表に近い位置にあるようだった。
 だがそれでも周囲の温度は優に数百度を超え、ヤマトは問題なくても作業艇や作業員の活動は難しい状況にある。
 そこで、煙突ミサイルから改良された防御装備を放出して日傘を作ることにした。
 この新装備は反重力感応基の成功と、ガミラスから接収した反射衛星のアイデアを組み合わせることで完成した、待望の自由制御型防御兵装である。
 通称『リフレクトディフェンサー』の誕生であった。
 ヤマトが採用している六一センチ空間用対艦ミサイルは、従来の魚雷型・ロケット型のままであったが、リフレクトディフェンサーの配備と共に新型に更新されていた。
 中央が太く尾部と先端が細く、尾部には推進ノズルと姿勢制御ノズルの集合体、先端は黒い円筒状で弾頭は交換式。発射後は中央部に装備された受信アンテナ兼用の安定翼四枚を開き、ヤマトから重力波ビームの受信を受けることで重力波推進を使用した高機動を実現している。もちろん内蔵コンデンサーでも飛翔できる構造で、その出力を活かしたアンチフィールド機能も有していた。
 そして肝となるのは弾頭の交換機能である。
 先端部分は換装可能な造りになっていて、通常の対艦弾頭と今回の新装備リフレクトディフェンサーを交換して使用できるようになっている。
 リフレクトディフェンサーは発射後先端を花弁のように開放して、ディストーションフィールドを展開。反重力感応基が生み出すアステロイドリングと似たような動作で敵の攻撃を弾くことで防御する。
 オリジナルの反射板と同等の反射フィールドはこのサイズでは再現できなかったが、元来空間歪曲で攻撃を『逸らす』ディストーションフィールドでもある程度の代用ができた。
 反重力感応基と異なり使用できる局面が多いのも特徴である。
 リフレクトディフェンサーはヤマトの頭上ですぐに弾頭のフィールド発生器を展開、強力なディストーションフィールドをヤマトの頭上に展開して日光を遮る。
 周囲の温度に変化が表れた。だが日傘だけでは足りない。地表の温度が下がるまでにかなりの時間がかかってしまう。
 そこで出番となったのがすっかりお馴染みのダブルエックス。
 手早く地表をビームと重力波で砕いて目当ての金属資源を見つけ出す。
 高温環境下にあるためか、鉱石ではなく溶け固まった金属の状態で発見され、精錬の手間がいくらか省けそうだと喜ばれた。


「――土木作業、板についたな」

 アキトは誰に向かってというわけでもなく独り言ちた。
 アルストロメリアでも活動可能な程度の温度にまでは下がっているが、やはりダブルエックスのほうがパワーも耐久力も上である。とするとこのまま作業を手伝うべきかどうかを問わねばなるまい。
 さっそく通信機に向かって問うと、すぐにユリカから返事があった。

「アキトご苦労さま! ダブルエックスは戦闘待機だから戻っていいよ。そしたらパイロット室で待機してて」

「了解」

 アキトはすぐに機体を翻して、採掘作業に従事すべく出撃したアルストロメリアとすれ違ってヤマトに帰艦する。
 機体を駐機スペースに戻し、再出撃に備えてカタパルトへの接続に使用されるロボットアームに固定する。もちろんGファルコンと収納形態で合体してからだ。
 Gファルコンのコンテナの下部ハッチ両脇には四ケ所のハードポイントが装備されていて、ロボットアームは四つに分かれた先端をそこに差し込むようにして接続する。
 機体はアームに支えられたまま宙に浮いて固定された。これでアキトがコックピットに乗り込み次第すぐにでもカタパルトに接続され出撃可能になったというわけだ。
 コントロールユニットは接続したままスタンバイ状態に設定、アキトは機体に異常がないことを確認してからコックピットハッチを開放。ハッチの裏に備えられた昇降用ワイヤーの端にある足掛けに右足を乗せ、左足でスイッチを操作して立ち乗りの姿勢で床に降り立つ。

「お疲れアキト。適当に体を休めながら待機しててくれ。――これ、ハーリーのやつから預かってるこの周辺の地形と環境のデータな」

 リョーコはパイロット待機室に入ってきたアキトにそう声を掛けて、ブリーフィング用のモニターにデータを映した。

「ありがとうリョーコちゃん。しっかり目を通しておくよ」

 アキトは一番前の席にどかっと腰を下ろすと、モニターに表示される地形データと周辺環境のデータにしっかりと目を通す。
 ――やはりこの星の上で戦うのは避けたいな。
 アキトは率直な感想を思い浮かべる。
 高温なのもそうだが、万が一地表に叩き落されるとマグマ同然の地表に埋まってしまうかもしれない。
 この状況下でまともに使える武器は、拡散グラビティブラストくらいだろうが、冷却システムのキャパシティを考えると普段の感覚では使えない。ビーム兵器は論外。恒星風で散らされてしまう。

(……ハンマー、あまり使いたくはないんだけどな)

 この状況ではむしろ有効だろうと思うが、対空戦闘になったら役に立たない。
 アキトはできるだけ惑星の陰で戦いたいと、真剣に思っていた。


 それからしばらくは黙々と採掘作業が続いた。
 作業に駆り出されたヒカルやイズミ、サブロウタも工作班の指示に従って資源を運んだり掘り起こしたりと、人型ロボットのパワーと器用さ、特にIFSの柔軟性を存分に活かして手際よく進めていく。
 いつこのような作業に駆り出されても大丈夫なようにと、工作班に出向いて講習を受けているだけあって、経験値が高くない割に作業は淀みなかった。
 人員の補充が効かず、自前でやりくりしなければならないヤマトの厳しい事情が如実に反映されている場面と言えよう。
 そういった苦労を経て採掘された未知の金属資源は、そのまま艦内工場区の機械工作室に運び込まれ、真田とイネスの手によって解析された。

「艦長、例の金属資源の解析が終了しました!」

「早いですね。結果はどうでした?」

 採取してまだ一時間程度しか経っていないのにもう解析できたのか。
 雪が気を利かせて持ってきてくれた栄養ドリンクをストローでチューっと吸いながら、結果を聞くユリカ。
 食の娯楽が乏しいので、すっかり栄養ドリンクがジュース替わり。
 ……なんかわびしい。アキトのご飯が食べたい。

「この金属は単体ではあまり役に立たないのですが、チタン系の素材とコスモナイトで合金化すると、耐熱性を大幅に引き上げられることが判明しました。ヤマトの装甲に反映するには時間と労力が足りませんが、エンジンやスラスター、武装など耐熱性が求められる部分の部品をこの素材で作って置き換えることで耐久性や信頼性の向上が図れます。特に波動砲やワープ機関、長時間の使用が想定されるパルスブラストやディストーションフィールド発生機には、率先して改良を加える価値があると断言できます」

 真田の報告に進とラピスは「おお〜」と驚きながらも思わず拍手。
 ただでさえ問題児のエンジンと波動砲が改善を果たせるのなら、作業に伴う多少の時間ロスも惜しくないと感じてしまう。
 それに主砲や副砲は発射サイクルの関係でそれほど深刻ではないが、弾幕形勢が役割であるパルスブラストは、冥王星での戦いで冷却が追い付かない場面があった。それを考えると、可能であれば改修したいところだ。

「作業にはどれくらいかかりますか?」

「採取と並行して部品の製造と置き換えですから、そうですね……エンジンだけなら一日貰えればなんとかなります。それ以外の部位は、航行しながら作業するしかないでしょう。あまりここで足止めを食らうと、ただでさえ遅れている航行スケジュールへの影響が懸念されます」

 真田の提案を受けて視線で大介に問うユリカ。その意味を汲み取った大介は、

「真田さんの言うとおりです。一日くらいならともかく、一気に改修を進めて二日も三日も足止めされると、航行スケジュールの修正が効かなくなります。ただでさ当初の予定から一五日以上も遅れているのです。ただ、ワープの信頼性を高めるためにもエンジンの改修は必要でしょう。その程度の時間なら、航海班の名に懸けて必ず取り返してみせます」

 大介の意見にユリカはうんうんと頷き、「じゃあ作業しましょう。エンジンの補強は大事ですし」と改修作業を許可する。
 一応カイパーベルト内でも再調整はしているが、複合大炉心と化したエンジンの動作には常に不安が残っている。あれ以来不具合を起こしていないが、もっぱら波動砲のせいで不安が残っているのだし、思い切って作業してしまっていいだろう。
 交換する部位もエンジンの中枢ではなく周辺機器に等しいので、作業も艦内から行える範囲で収まっているのだから、万が一の時は補助エンジンで航行すれば移動も可能だ。
 もっと大規模な作業の場合は――メインノズルごとエンジンを抜き出して分解しなければならないだろうが、できればそのような機会には恵まれないでほしいと、切に願った。

 工作班と航空科は、交代しながら資源の採掘と運搬、部品の製造と置き換え作業を続ける。エンジン関係だけあって機関班も総動員しての作業となった。
 制作に必要なコスモナイトは、カイパーベルトでの長期修理中に再度採掘された品が使われている。
 取り外した部品は工場区に運び込まれ、解体後に再び資源化されて予備部品に早変わりする。いろいろと懐の寂しいヤマトだ。壊れた部品や交換した消耗品であってもまた使えるようにでもしなければ立ち行かないのが実情であった。
 そういう意味では規模こそ小さいが、資源の加工から複雑な部品まで製造可能なヤマトの艦内工場は、まさに航海の生命線と言え、航行に不可欠なエンジンと並んでヤマトの心臓部のひとつと言えた。
 この区画を守るため、ヤマトは艦底部への武装増設すらも諦めて重厚な装甲を採用することを継続したほどである。

 それからも作業は順調に進み、真田の言葉どおり一日でエネルギー伝導管とコンデンサーの交換作業を終了し、テスト結果も良好であった。
 短くも密度の濃い時間を過ごしたためか、思ったよりも経験値が蓄えられていたらしく、部品の製造も取り換え作業も、前回よりも格段に早く済み、そこそこの時間をかけて再調整することができた。
 あとは飛びながらでも調整できる範疇にある。
 武装や推進装置の部品も作り始めているので、少しずつ交換していけばヤマトの信頼性が格段に向上することだろう。
 また今回の採掘作業は思わぬ成果ももたらしていた。
 真田によれば、高熱に晒され続けたゆえに変質した構造の解析ができたそうで、ヤマトの工場区でも少々難易度が高いが、類似した金属を精錬できるようになるというのだ。
 つまり今後も改良した部品の製造は一応可能ということになり、採取した金属が尽きたあとでも性能が逆戻りすることは避けられるらしい。
 本物には若干及ばないらしいが類似品が作れるというだけで上々の成果と言えよう。

 
 作業を終えたヤマトは重力圏を離脱すべく惑星の裏側に回り込むようにして飛行していた。イスカンダルへの航路に復帰するにはそちらの方角が正しいからである。
 そうして星の裏側から引力圏を離脱した直後だった。
 ルリが異変に気付いた。ヤマトの惑星間航行用計器が障害物を検知していることに。
 レーダーにはなにも映っていないので誤作動を疑ったが、念のために制動を掛けてヤマトを停止させることを進言した。
 大介は念のためとルリの要求を承諾し、ヤマトを軌道上に停止させるべく逆噴射のスイッチを入れる。
 電算室に移動して改めて情報解析を行った結果が表示されると同時にルリがさらなる警告を発し、大介は緊急制動スイッチに切り替えて回避しようとしたが、遅かった。
 ヤマトはガミラスが設置した宇宙機雷の群れの中に突入してしまっていたのだ。
 すぐに逆進で抜け出そうとするが、機雷が動いている。これでは迂闊に動けない。機雷に接触したら、連鎖爆発を起こしてしまうだろう。

「なるほど。やっぱりこの星の存在を知っていて、ヤマトが補給に立ち寄ることを想定して罠を張ってたのか。艦隊戦をしたくないから機雷でドカン、か……」

 世の中そう甘くないね、と真剣そのものなユリカの言葉にヤマトは緊張に包まれる。

「艦長! 前方から航空機多数! ガミラスの戦闘機と爆撃機の編隊です!」

 電算室から発せられたルリの絶叫に、事態はますます悪くなる。ヤマトの火砲での迎撃は不可能だった。
 その中、ユリカは焦りを表に出すことなく静かに指示を発した

「進、コスモタイガー隊出撃よ。敵航空部隊を迎撃」

「了解! コスモタイガー隊緊急発進だ!」

 進も動じず答えた。

「さて、ガミラス自慢の罠を喰い破りましょうか!」

 艦内に戦闘配備を告げる警報が鳴り響いた。
 戦闘開始を告げるゴングが鳴り響いた。



 ガミラスの巧妙な罠に囚われたヤマト。

 だが屈するな、そして旅路を急ぐのだ!

 地球は刻々と最後の日に近づきつつある。

 ヤマトよ、君が戻る日はいつか。

 人類絶滅と言われる日まで、

 あと、三二七日。



 第十一話 完


 次回、新宇宙戦艦ヤマト&ナデシコ ディレクターズカット

    第十二話 機雷網と灼熱の星を越えろ!



    試されるは強き想い。

 

第一二話 機雷網と灼熱の星を超えろ! Aパート







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代理人の感想 
>「ガミラスに下品な男は不要だ」
やっぱりデスラーといったらこれですなあw
さすがにボッシュートはなかったけどw


>艦砲で発破作業
まー艦砲ってぶっちゃけでかい火薬の塊ですしおすし。
昔の戦争では旧式鈍足戦艦でも、上陸作業の火砲支援には大変重宝されたという話を思い出しましたわw


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