ヤマトが衝撃の事実に揺れていた頃、バラン星では。

「なに? ヤマトが正体不明の艦隊と遭遇して交戦しただと?」

「はい。ヤマトの動向を調べていた偵察部隊によりますと、ヤマトはビーメラ星系で修理と補給を開始しましたが、五日後に報告にあったイスカンダルからの宇宙艇と接触、その直後に司令が気にかけていた、あの黒色艦隊の一派と思われる艦隊と遭遇し交戦、撃退したとのことです」

 ゲールの報告に「ふむ」と頷いてドメルは思案する。
 大マゼランの外縁で度々目撃され、ガミラスの大マゼラン外縁の守備艦隊にちょっかいを掛けてきていた黒色艦隊がヤマトにも手を出した。
 その意図はおそらく――ヤマトの鹵獲だろう。
 連中が対ヤマト用に準備を進めていた瞬間物質転送器とドリルミサイルを手に入れたのなら、その過程で試験艦を運用していたクルーを捕獲して口を割らせた可能性がある。
 栄光あるガミラスの戦士だとしても、拷問に屈せず情報を護りきれる保証はない。
 だとしたら、ドリルミサイルの用途も知ったはずだ。そうであるならば、ヤマトのタキオン波動収束砲の存在を知り、手に入れようと考えたというところだろう。
 ガミラスにちょっかいを出してきたということは、目的はガミラスへの侵略とみて間違ってはいないだろう。大マゼランへ勢力を伸ばすことが最終目標であると考えても、当たらずとも遠からずか……。
 それならば、ドメルがいままで遭遇した星間国家の中でも類を見ない破壊力を持つあの砲を欲したとしても、なんら不思議はない。
 そしてただの一隻と侮って返り討ちにあったというところか。
 バカメ。そのような連中がどうにかできるほど、ヤマトはやわな相手ではない。

「報告ご苦労だったな、ゲール。――周囲に展開中の部隊に厳命しろ。もしもあの黒色艦隊がヤマトに再び手を出したのなら、ヤマトよりも黒色艦隊への攻撃を優先しろ、とな。連中の狙いはおそらくヤマトのタキオン波動収束砲だ。連中に技術を渡す危険を冒すくらいなら、ヤマトを助太刀したほうがわが軍には得だ」

 塩を送るのはあのマグネトロンウェーブ発生装置とビーメラの資源採取が最初で最後と考えていたが、これは止むをえない措置だ。
 あの超兵器を、ガミラスに対して敵意ある勢力に渡すわけにはいかない。


「はっ! 厳命いたします!」

 ドメルの指示にゲールも素直に応じた。たしかに、第三勢力にあの大砲を渡すのはリスクが高い。
 あのヤマトに事実上の助太刀をするのは心底嫌なのだが、ヤマト以上にあの黒色艦隊に渡すほうが厄介だ。
 ――ヤマトだけなら一艦で済むが、連中の手に渡って量産でもされたら……!
 ゲールは不満を押し殺してドメルの命令を部下に伝えた。
 正体不明の黒色艦隊からヤマトを護れ、タキオン波動収束砲を敵に渡してはならない、と。



 新宇宙戦艦ヤマト&ナデシコ ディレクターズカット

 第二十話 三つ巴? バラン星の攻防!



 それから二日が過ぎて。
 ドメルはバラン星基地を離れ、今後の作戦で共に戦うことになる部下たちと合流していた。
 合流先は対ヤマトを前提とした少数先鋭の機動艦隊。
 先日の瞬間物質移送器搭載艦失踪事件の影響もあって、直接顔を合わせたミーティングが必要になったのも事実だが、ドメルとしては『万が一のため』に呼び寄せた感が強い。
 正直な気持ちを言えば、無駄に終わってほしいのだが……。

「ようやく合流できましたね、ドメル将軍」

 そう喜んだ部下に敬礼で応えながら、ドメルは対ヤマト用にと引っ張り出してきた試作の戦闘空母の艦内に足を踏み入れた。

 この戦闘空母は、戦艦の砲撃力と空母の航空機運用能力を両立する目的で開発された試作艦で、タキオン波動収束砲の有無を除外すれば、コンセプト的にはヤマトのそれに近いといっても過言ではないだろう。
 ただ、ヤマトが戦艦をベースに航空機運用能力を与えた艦とするならば、本艦は空母に戦艦の砲撃力を与えた艦だ。
 最大の特徴は飛行甲板の可変機構で、空母として使うときは後部にある艦橋基部のシャッターも開放し、全通式の飛行甲板と格納庫を解放して航空機を運用する設計になっている。
 砲撃戦に移行するときは装甲シャッターの閉鎖と合わせ、飛行甲板の一部を反転させ、左右に分割された複数の砲塔とミサイルランチャーを露出した攻撃モードに移行することで機能を使い分ける。
 同様の構造が艦底にも備わっているので、下方向からの攻撃にも備えがあるのはヤマトにはない特徴であろう。
 両者の機能を統合した結果、ヤマトよりも大型で全長四〇〇メートルもあるが、それでもドメルの乗艦するドメラーズ三世に比べれば小型である。
 最新鋭艦である両者を比較した場合、あくまで戦艦・艦隊旗艦としての性能を追求したドメラーズIIIが火力と装甲に特化した分足回りに難を抱えているのに対し、空母としての性能を求めた結果、戦闘空母は意外と足回りが軽快であるというのも特徴であった。
 ……総合的な性能は、現状ガミラス最強と言っても過言ではない新造艦。
 ――が、構造の複雑化によって生産コストが増大したり、空母としてみれば艦載機の数が物足りず、戦艦としてみると装甲シャッターで閉鎖されているとはいえ格納庫の耐弾性が――といった欠点が見られるのが玉に瑕。
 機能は保証されているが、それぞれの用途に特化したほうが却って運用しやすい、総コストも抑えられるといった意見に押されがちで、既存戦力に足すとしても新鋭艦は保守性に劣り信頼性が……といった理由もあってあまり着目されているとは言い難かった艦だ。
 構造的な比較で言えば、空母としての機能を下部に、戦艦としての機能を上部に集中したヤマトのほうが完成されていると言えるのかもしれない。
 実際その評価相応の戦果を挙げている。
 単艦にあれだけの機能を詰め込み破綻をきたさないばかりか、度重なる戦争で研鑽されたガミラスの艦艇に対してワンサイドゲームを展開できる、あの優れた性能。
 中途半端な段階で放置されていた戦闘空母が着目されたのは、その性能をより研究するのが目的であった。そうでなければこの大事な時期に余計な労力を割いてまで完成させる理由はない。
 基本的に堅実な兵法を重んじるドメルがこの艦を所望した最大の理由は、機動部隊を率いてヤマトと対峙するにあたり、少数先鋭を実現しつつ航空戦力と砲撃力を少しでも底上げするためである。
 また試作艦艇ということは、言い換えれば損失しても全体としてはさほど懐が痛くないということの裏返し。
 移民船団護衛のため、実績のある堅実な艦艇の大半はそちらに回したいのが実情であり、ヤマトとの戦いで損失してもまったく痛くなく、それでいて必要十分の性能を満たしていたのが、この半端物と称された戦闘空母だったのだ。

 ヤマトには、七色混成発光星域――通称七色星団で決戦を挑む予定となっている。
 事前にデスラーから承認を得て、『ガミラスの地球侵攻とヤマトの航海の安全を掛けた最後の艦隊決戦』と銘打ち、文字どおりガミラス最後の対ヤマト戦として挑む。
 前時代的だが決闘状も叩きつける。互いに引けない戦いだと認識させて絶対に戦うのだ。
 勝っても負けてもガミラスの未来を守るために。
 数ですり潰せないのなら、少数戦力でも戦える環境を整えてやればいい。そのための七色星団だ。
 搭載数に優れた多層式宇宙空母三隻に自身のドメラーズ三世とこの戦闘空母、あとは指揮戦艦級二隻の計七隻で挑む。
 ――駆逐艦が含まれていないのは、ヤマトの防御性能に対して火力が足りず、移民船団護衛には足が速く多用途に使える駆逐艦を一隻でも多く回してやりたいからだ。
 この戦力に瞬間物質移送器による航空機の転送戦術で撹乱と消耗を図りながら、ドリルミサイルを搭載した重爆撃機を送り込んでタキオン波動収束砲を封じ、そのあとは航空部隊と連携した砲撃戦にもつれ込んで降伏を図るか、撃沈して終わらせるという考えだった。
 ワープで送り込まれる航空部隊の猛攻を合わせれば、あの戦略砲持ちの人型とてそうそう発砲できまい。
 ボソンジャンプを使える彼らのことだから、すぐに持ち直して対応してくるだろうが、初撃で打撃を与えれば十分。
 その初撃でレーダーを確実に潰して目暗ましを図る。
 そうやって混乱を誘い、航空戦力を消耗させ、防空能力が一時的に衰えた瞬間を狙ってドリルミサイルでタキオン波動収束砲を封じてしまえば、一発逆転の手段を一つ奪える。
 あとは例の戦略砲持ちを警戒しつつ消耗戦にもつれ込む。そこから先は根気の勝負。どちらが勝っても不思議はない戦いとなろうが、それ以外に勝算はないと、ドメルは考えていた。
 しかし、要の瞬間物質移送器とドリルミサイルがまさか行方不明になるとは……テストなしには使えないと現場に出したのが失策だったか。
 だが荒れた宙域である七色星団で確実に動作することを確認しないことにはこの戦術は意味を成さない。テストは必要だった。
 移民のための行動が目立つからか、最近は異星人の敵対的行動が散見されていたので注意を払わせていたのだが……。
 やはり、ヤマトの脅威や移民政策の遅滞に焦りがあったのだろう。それが油断を招き、致命的な失態に繋がってしまったのだろう。
 兵器局にデータが残っているので、物質移送器もドリルミサイルも再生産自体は可能だが、はたしてヤマトを七色星団誘導するまでに間に合うかどうか。
 ヤマトのワープ性能が日増しに向上しているのも気になる。どの程度で頭打ちになるのかが読めないので、技術漏洩と合わせて、手痛い損害だった。


「ドメル司令、お久しぶりです」

 そう声をかけてきたのは紫色の多層式宇宙空母――『第二空母』の航空隊隊長のバーガーだった。紫色の髪で細面の男だが、頬に大きな傷があるのが印象に残る男である。
 まだ二七歳と比較的若く非常に血気盛んで直情的な性格だが、切り込み隊長としてこれ以上の存在をドメルはまだ知らない。

「久しぶりだな、バーガー。元気そうでなによりだ」

 しばらくぶりの対面だが、共に戦場を駆けたことのある戦友であり、ドメルが信を置く凄腕のパイロットだ。
 特に爆撃機の運用に長け、まだロールアウトされて日が浅い新型爆撃機――『ドメル式DMB-87型急降下爆撃機』を早くも物にして、戦果を挙げている。
 ドメルは前線に立つ将として、兵器開発局に積極的に現場の意見を届ける機会が多い。その要望に応えるように開発された兵器は評価も高く、正式化される機会が多いのだ。
 ドメラーズ級と名付けられたガミラスが誇る最新鋭宇宙戦艦も発案者はドメルで、艦隊旗艦に求める機能を彼なりに追求していった結果、ああいう形になった。
 最新鋭の空間戦闘機――『ドメル式DMF-3高速戦闘機』と呼ばれる機体も彼の意見を参考にして開発され、正式化された主力戦闘機である。
 高速十字空母に搭載されている専用搭載機を上回る性能を有し、ガミラス全体での機種更新も進んでいる。
 ほかにも、対ヤマト用にと考案した『ドメル式DMT-97型雷撃機』も存在している。
 発想自体は前時代的な宇宙魚雷を装備した航空機で、巨大な魚雷を包み込むようなボディを持ち、宇宙魚雷を縦列に二本搭載。自衛用の四連装ビーム機関砲も胴体下とキャノピー後部とエンジンノズルの上下に四基、計一六門も搭載している、青色に塗装された機体だ。
 機動性が劣悪だが優れた攻撃力を持ち、宇宙戦艦としては破格の耐久力を有するヤマトに対して有効打を得るために、要塞攻撃用の機体を改修してなんとか間に合わせた機体である。
 自衛装備の多さも、急速に強化されたヤマトの艦載機から可能な限り身を護りつつ、確実にヤマトに魚雷を撃ち込むために増設された装備。多少のバランスの悪さは目を瞑るしかない。
 これらを搭載した空母はバーガーの乗る第二空母のほか、ガミラス標準カラーの緑に塗られた『第一空母』と青色に塗られた『第三空母』。
 搭載機はそれぞれの機体の色と空母の色を一致させることで識別を容易にして、母艦を間違えないように配慮されている。
 普段ならここまで気を遣う必要はあまりないのだが、七色星団内ではレーダーが利き辛く電子機器に頼り切っていては間違いが生じないとも限らない。おまけに多層式宇宙空母はすべて同型艦で塗装やマーキング、電子情報による識別を除くと区別が付きづらい。
 それに七色星団の環境下では、この派手な色彩でも迷彩を期待できるので、元々識別のために色を塗り分けていた塗装がDMF-3で緑、DMB-87で紫、DMT-97であったことから、空母の塗装も合わせることで迷彩と識別を兼ね備えた一石二鳥の処置となった。
 この内、七色星団の決戦を考案される前にDMF-3とDMB-87はプロキシマ・ケンタウリ星系でヤマトと交戦している。
 その戦闘では著しく強化されていた敵人型軍団相手に手痛い敗北を喫してしまったと聞かされている。
 自信をもって提出したアイデアが、時代遅れとされている人型に後れを取ってしまったのはショックであった。それも現実と受け止めるには、さすがのドメルも時間を要したくらい。
 そういえば、その戦闘にはたしか――。

「ドメル将軍と一緒に戦えて光栄ですよ。しかも、相手はあのヤマトって言うんですから――これで、あのときの借りを返せるってもんですよ。あの戦略砲持ちの人形め……」

 やはりそうだったか。
 あの戦闘では、あの戦略砲持ちの人型の砲撃で部隊の半分が消し飛ばされ、後方で待機していたはずの空母の至近を掠めて危うく撃沈されるところだったのだ。
 至近と言ってもビームの光軸から五〇〇メートルは離れていたはずなのに、四〇万キロもの距離を超えて届いた砲撃は、三隻の空母の真下を通過しながら艦底部を焼き、溶解させた。
 軽装甲の空母とはいえ、規格外の威力には違いない。
 それだけでも厄介なのに、あの機体は強化されて十分な脅威となったほかの人型とは一線を画した性能で部隊を翻弄。桁違いの実力を見せつけた。
 正直、あれほどの機体は初めて見た。
 地球人も侮れないものだと、ヤマトと並んで彼らの底力を痛感させられた一件であろう。

「バーガー、貴様の実力でも苦戦を強いられるとは……やはり無視できない存在だな。よく無事に帰ってきた。その経験が、きっと役に立つだろう」

 バーガーの腕前は知っている。
 それにあのDMB-87は爆装を使い切ったあとに限れば、DMF-3には劣るが空戦を可能とするだけの運動性能を持っているのだ。
 ヤマト登場以前の敵人型機動兵器相手なら、一方的とまではいかないにしても、十分通用する性能を有しているはず。
 にも拘らずあの戦闘結果。あの大砲で先手を取られたにしても、ヤマトの航空隊の実力は目を見張らんばかり。
 あの大砲こそ装備していないようだが、類似した特徴を有する新型も追加されていたことを鑑みると、戦術を一から見直さなければ連中を消耗させるより先にこちらが全滅させられてしまうかもしれない。
 ドメルは改めて、そう考えた。

 それからは金髪で細面で眉がなく、冷静沈着でDMF-3のパイロットとしても優れた技量を有するゲットー、全体的に角ばった顔つきで口数は少ないが、すでに前時代的になった雷撃機を意のままに操るクロイツ、そして負傷して視力を失った片眼を眼帯で隠した歴戦の勇士、ハイデルンと顔を合わせた。
 いずれも、共に幾度もの死線を潜り抜けた経験のある、ドメルが信頼する戦士たちだ。
 ドメルがルビー戦線で手腕を振るっていた頃は、軍全体の戦力向上と移民船団護衛の際の連携確認も兼ねて、それぞれ別部隊に転属してその技術を振るっていたが、ヤマトという驚異の前に再び集うときがきた。

 近況報告を済ませたあとは、彼らが乗ってきた戦闘空母、第一空母、第二空母、第三空母、二隻の指揮戦艦級の状態を確かめ、それが終わると大マゼランからはるばるやって来た彼らをゆっくりと休ませるため、日を改めてからミーティングを行った。
 盤上のシミュレーションではあったが、七色星団での戦いを想定した編隊行動の確認、レーダーや通信機器の調整、状況の変化を考慮した部隊運用などなど、細かく確認する。
 本当なら実機を使った演習もしたい気持ちがあったのだが、胸騒ぎを覚えて指示を飲み込んだ。
 ヤマトが通過するまでの間、バラン星周辺で艦隊を動かすわけにはいかない。
 黒色艦隊との戦闘を終えたヤマトがさらに四日ほどビーメラに停泊していたまでは確認されているが、その後の動向は不明のままだ。
 ワープ距離の延伸に成功したのだと睨んでいるが、どの程度の跳躍を可能にしたかの予測が立たず、追尾できていない。
 ――もしかしたら、もうバラン星付近に到達しているのだろうか。
 そう考えたからこそドメルは『万が一』に備えて基地を立ち、無理なくワープ一回で速やかに帰還できる場所に艦隊で陣取っているのだ。
 本当なら基地の防衛艦隊同様、バラン星の環の中に隠したかったのだが、ヤマトの動きが掴めないので迂闊に戻れなくなってしまったのである。
 ドメルがその『万が一』について説明を終え、戦闘配備のまま待機するよう命じて二日が経過、バラン星に残してきたゲールから緊急連絡が届いた。


「バラン星基地が襲撃を受けているだと!?」

「はい! 行方不明になった瞬間物質移送器を使用しているのか、それとも艦載機単独でのワープ技術があるのかは判別できませんが、突如としてワープアウトしてきた爆撃機部隊による奇襲を受け、基地に打撃を受けました! 民間人居住区にも損害が発生していて、いま避難を急がせています! 民間船にも護衛を付けて退避させるべく準備を進めているところです!」

 慌てふためきながらも臨機応変に現場対応して必死に堪えているのが、通信越しでも伝わってくる。
 ――『万が一の事態』が起こってしまった。ヤマトよりもドメルが懸念していたのは、例の黒色艦隊の襲撃だ。
 最悪の事態だ。あそこを失ってしまえばガミラスは――。

「あっ!? ド、ドメル司令! 黒色艦隊が接近してきています! いま、艦隊に出撃を指示しましたが、敵艦隊の規模が大きく、基地と民間船を護衛しながらでは長くは持ちません! 至急救援を!」

「すぐに戻る! それまではなんとしてでも踏み止まるんだ!」

 ゲールを叱咤しながら、ドメルは身振り手振りで緊急発進の準備を整えさせる。
 ドメラーズ三世こそ持ってきたが、ほとんどの戦力は基地に残している。基地の防備が特別薄くなったわけではない。
 ――敵が上手だった。
 いくらゲールがやり手であっても、完全に虚を突かれた状態では限度がある。
 すぐに救援に向かわなければ!

「し、司令! や、ヤマトがワープアウトしてきました!」

 ゲールの報告にさすがのドメルも一瞬思考が止まった。なんという――最悪の展開だろうか。
 ヤマトはドメルの策でバラン星の状況をおおよそ察したはず。事前に探査プローブの類で確認だって済ませただろう。隠蔽が間に合わなかったことは、この襲撃が証明してしまっている。
 ――それでもドメルが見込んだ通りの相手だとしたら、後願の憂いを抱えたままであっても素通りすると踏んでいた。
 もしもヤマトがバラン星の襲撃を知ったうえでワープしてきたのなら、その目的は二つに一つ。
 便乗してバラン星基地を攻略するか、それとも――。
 ドメルは後者であってほしいと、心の底から願った。そうでなければこれからガミラスがたどり着く未来は――。

「ドメル司令! ヤマトが――ヤマトが基地に攻撃中の航空隊と交戦を開始しました! わが軍を無視して……いえ、一時休戦を訴え、共通の敵の排除に協力すると打電してきました!」

 驚愕に歪むゲールの表情と報告に、ドメルは自分とデスラーのヤマトに対する認識が決して間違っていなかったと、つい安堵の笑みを浮かべてしまう。

 やはりヤマトは気高き戦士であった。
 たとえ祖国を滅ぼさんとしている相手であっても、滅ぼすのではなく最期の瞬間まで平和的解決を模索する、大きな器と高潔な精神を持つ戦士たちであったのだ。
 これで、デスラー総統も決断できるだろう。
 恥を承知のうえで、ヤマトとの和平の道を。
 地球との共存の道を。
 ようやく、ようやく選び取ることができるのだ。






 バラン星宙域にワープアウトしたヤマトは、『意図的に』バラン星基地と暗黒星団帝国と思われる航空部隊の間に割って入った。
 傍から見ればワープアウトの勢いで突っ込んだように見えるかもしれないが、当然ながら計算ずくの進路である。
 連中のやり方ならすぐにでも――。

「敵航空部隊からのビーム攻撃! 左舷後部に二発命中!」

「フィールド出力安定、被弾による被害はありません」

 ルリと真田からの報告に進は会心の笑みを浮かべる。
 航空戦力との戦闘は初めてだったが、すでに一度戦った相手。ある程度の推測も可能だし基地への攻撃を確認している以上、それに合わせた備えもできるというものだ。
 ヤマトの改修は伊達ではない。小ワープならば、ワープアウト直後でも十分に戦闘可能な調整が行われている。
 進は念のため定型文な勧告を行うように指示したが、応答はなかった。
 ……これで大義名分は立った。
 ガミラスはともかく、『黒色艦隊には反撃できる』。もう遠慮はいらない。

「よし! 全砲門開け! 黒色艦隊に向けて応戦する! 対空戦闘開始! 敵機を近づけるな! コスモタイガー隊は全機発進! エリナさん、バラン星基地に一時休戦と基地防衛に協力すると打電願います」

「了解!――こちらヤマト、ガミラス・バラン星基地に告げます。現在ガミラスと交戦中の敵艦隊は、わがほうにとっても脅威であり、基地の民間人居住エリア防衛のためにも、共通の脅威を取り除くまでの間は一時休戦を求めます」

 エリナが進の指示を受けてバラン星基地に向けて通信を送った。
 ガミラスがこれに応えてくれるならよし。駄目でもあの黒色艦隊を突破して逃げるだけだ。
 見殺しにしないと決めた以上、戦うのみ。
 バラン星基地に駐屯しているガミラスの艦艇はヤマトが捉えた限りでは推定二〇〇隻。環の中にあとどれくらい隠れているかは不明だ。
 対して敵艦隊の総数は約五〇〇隻。この差を覆すのは、並大抵のことではない。
 しかし、やると決めたからにはやるのがヤマトだ。無茶は最初からわかりきっている。
 改良されたコスモレーダーがフル稼働を始める。
 イスカンダルの部品を組み込んだ上側のレーダーアンテナは、大きさこそ変わっていないが表面がフラットな形状に変化し、最大稼働すると赤い光が端から端まで伸びては縮む、という動きで往復運動する機能が付加されている。左右対称に動く高精度スキャナーの機能が追加され、目立つ代わりに索敵範囲が延伸されていた。
 強化されたレーダーが暗黒星団帝国艦隊――略して黒色艦隊の動きを捉える。
 応戦開始。
 増設分も含めたパルスブラストが素早く旋回、ヤマトとバラン星基地を襲い掛かる敵の大規模航空部隊を視界に捉え、煙突ミサイルと両舷ミサイル発射管も開放する。

「対空戦闘――開始!」

 ゴートの命令を受け、パルスブラストと各ミサイルが一斉に火を噴いた。
 増設されたことで密度を増した重力波の雨あられが敵航空部隊に浴びせられる。撃ち出された計二四発のミサイルも複雑な機動を描きながら敵機に食いついて、次々と火だるまに変えていく。
 同時に改修されてより逞しくなったショックカノンが旋回。砲身が波打つように向きを変え、遠方に座している敵黒色艦隊に向けて狙いを定めた。

「照準誤差修正。エネルギー充填一〇〇パーセント、安全装置解除確認」

「ショックカノン、発射!」

 ゴートの補佐を受けながら戦闘指揮席に座る守が発射を指示する。
 合流してからずっと、進やゴートのレクチャーを受けたことで、ヤマトの戦闘能力はほぼ理解した様子だった。
 知れば知るほどに冥王星のときに――いやそれ以前に欲しかった艦だと呻いていた。
 そして最後にはこういっていた。

「――さすがは最後の希望の艦だ、ミスマル艦長が必死になっていた理由が身に染みたよ」

 と。
 ヤマト正面方向の敵艦に放たれた六発の重力衝撃波は、最大射程での砲撃にも拘らず敵駆逐艦の一隻に食らい付き、その身を打ち砕いて宇宙の藻屑と変えた。
 改修で威力を増した主砲は、最大射程もわずかではあるが延伸されている。以前の主砲であれば、この距離だと届いても有効打にならなかったかもしれない。

「どうだ! 口径換算で四八センチ砲相当に強化したショックカノンの威力は!! くぅ〜っ!! 俺様にかかればこんな――」

 進は突然割り込んできたテンションMAXのウリバタケの通信を容赦なく切断した。
 うるさい、戦闘指揮に集中させてくれ。
 まだまだ新米指揮官の進はこめかみを抑えながら指揮を続けた。

「ハッキングプローブを発射。ガミラス基地の情報取得を開始しろ!」


 進の命令を受けて、第三艦橋の小型プローブ発射管に装填していたハッキングプローブをバラン星基地に向かって撃ち込まれ、システムへの干渉と情報の引き出しを開始した。
 以前ハリが指摘したように、無線でガミラスのシステムに干渉して掌握することは未だに難しい。
 ヤマト本体の通信機器の改修が必要であるし、それ専用に特化したナデシコCに比べると、どうしてもヤマトのコンピューターと無線容量の規模が足りない。
 だが、補助端末を搭載してヤマトとの通信を確立したデバイスを打ち込めば話は別だ。
 負担が大きく完全掌握は望めないまでも、こういった状況で情報収集したり部分的に相手を掌握することは、不可能ではない。

「プローブの打ち込みに成功。ガミラスのシステムに侵入して情報の取得を始めます」

 ワープ前からECIに降りていたルリが、システムと自身の技能をフル稼働させて早速情報取得にかかる。と言っても機密情報には目もくれない。
 欲しい情報は民間人の規模と避難状況。ヤマトが救助活動をするべきか、それともこのまま戦い続けた方がいいのかの判断材料だけだ。
 ――念のため、波動砲は識別が容易な派手なオレンジ色の封印プラグを差し込んで封鎖している。
 封印プラグは文字どおり波動砲を封印するための装備。
 かつてヤマトがアクエリアスの水柱を断ち切るために使用した閉鎖ボルトと違って、外部から発射口を完全に閉鎖して密閉状態にしてしまう。
 外部から差し込んでいるのと、緊急事態を想定して強制排除できるようにはしてあるし、嵌めたまま発砲しても暴発のリスクはさほど大きくない仕様になっているが、これは急増品ゆえそこまで徹底して作りこめなかったことと、決意表明として取り付けただけの代物であり、本当に波動砲を封印する目的の装備ではないからだ。
 こうやって波動砲をわかり易く封印すれば、バラン星基地にとって――ガミラスにとって最も恐れられている最終手段をヤマトが行使するつもりがないというパフォーマンスができる。
 そうすれば、少しはこちらの誠意が伝わるはずだ。
 しかし敵艦隊の規模が予想よりも大きい。波動砲なしでこの局面を打開するのはかなり厳しいが、ヤマト側の判断で波動砲を解禁すれば誠意もへったくれもない。
 凌ぐしかない!
 ルリは情報収集に神経を集中させた。


「コスモタイガー隊、発進開始するぞ!」

 解析作業開始と同時に、やはりワープ前に発進準備を整えていたコスモタイガー隊の発進が始まる。
 あらかじめカタパルトレーンに待機していたアルストロメリアは、装備の確認を完了したあと、発進準備完了の合図を出す。
 それを受け取った管制室の操作でカタパルトレーンが傾斜してスロープを造り、格納庫と区切るシャッターが閉鎖され、減圧を開始。
 減圧完了後、発進口が開いて四機の人型機動兵器が宇宙空間に踊り出す。
 ただ、今回発進にあたって一つの注意点があった。ヤマト下方に位置するバラン星基地である。
 うっかり勢いよく発進し過ぎると、基地に衝突してしまう危険性があるのだ。
 現在ヤマトは基地上空一五〇〇メートルの地点を飛んでいる。基地の規模を考えると、至近距離と言って差し支えないだろう。
 勢いあまって激突してしまえば、支援に来たのか攻撃に来たのかがあやふやになってしまう。慎重さが求められた。

 逆に衝突を気にしなくてもよかったのが、上甲板のカタパルトから発進するGファルコンDXであった。
 その姿はまさにフル装備。専用に用意されたオプションをすべて満載した姿は、徹底抗戦の姿勢としてはわかりやす過ぎるほどわかりやすい。
 この戦いで使用する予定がないサテライトキャノンには、ヤマトと同じオレンジ色の封印が施されて使用を禁じられている。
 砲身を取り外してしまうほうがわかりやすくていいのだが、機体バランスが崩れると戦いづらいというアキトの意見が汲み取られ、封印に留められていた。
 切り札を使えないのは不安といえば不安だが、もともとサテライトキャノンに頼り切った軟弱な思想で戦っていないので、意外と気持ちは落ち着いている。
 いざとなればありったけの弾薬をぶん撒いてどうにかするだけだ。
 GファルコンDXを乗せたカタパルトが旋回してヤマトの斜め前方に指向する。任務はもちろん、基地の防空戦闘だ。

「さて、後ろから撃たれないことを祈っておくかな」

 そんな独り言を呟く。
 発進許可のサイン。
 アキトはGファルコンのメインスラスターを点火、カタパルトの勢いも借りて機体を一気に加速させる。
 目標は基地施設への爆撃を目論む航空編隊。
 広域防御であることを考慮され、あの一角の敵部隊はダブルエックス単機で受け持つことが決まっている。
 ものすごくしんどいが文句を言ってはいられない。

「――おまえたちは知らないだろうけどな。サテライトキャノンがなくったって、ダブルエックスは最強なんだってことを、いやでも教えてやるよ」

 アキトは最近では本当に、本当に珍しいことに、どう猛な笑みを浮かべて機体を操った。

 次々と艦載機を放出しながら、ヤマトは基地上空から決して離れず、外部からの探査で民間人居住区だと判断したグラスドームを有する区画を中心に防空戦に挑んでいる。
 ヤマトに敵の目を引きつけて基地への攻撃を軽減すべく誘導を試みたが、数で勝るからか、それともヤマトが一隻と舐められているのか、あまり食い付いてこない。
 それならば足を止めた殴り合いだと言わんばかりに、増設に加え拡散モードの追加で弾薬投射量が桁違いに増えたパルスブラストを撃ちまくり、とにかく敵爆撃機(用途からそう分類した)の進路を阻み、煙突ミサイルや舷側ミサイル発射管からも迎撃ミサイルを次々と撃ちだして応戦を続けた。
 ――敵の爆撃機は航空機と言ってもかなりの巨体であった。それゆえか出力が高く、触覚とも触腕とも形容できる形状をしたビーム砲を主兵装とし、強力なビーム攻撃を加えてくる。形状から推測はできていたが、想像どおりフレキシブルに動いて機体の向きとは無関係に放たれる砲撃は、なかなかに厄介であった。
 しかしビーム兵器には違いない。重力波砲のパルスブラストなら射線を逸らすことができるし、衝突したさいは一方的に打ち消せる。
 改修によって増えに増えた弾幕は、相手の攻撃を捌くのに有益であった。この相性のよさもあって、ヤマトは一隻でありながら数十はあろうかという敵航空機の攻撃を捌くことができ、基地への被害を目に見えて軽減させることに成功していた。






 そんなヤマトの姿を見て、ゲールはギリリと歯を鳴らす。
 自分に恥を掻かせたヤマトをこの場で討ち取ってやりたい衝動に駆られるも、ドメルからの命令もそうだが、いまヤマトと敵対してもなんのメリットもないという事実にストップをかけられる。
 ――ヤマトが庇ってくれなければ、あの居住区は長くは持たない。
 襲撃を警戒して強固に造られているとはいえ、本来攻撃を凌ぐはずの防御シャッターや防御フィールドの展開も間に合わぬタイミングでの攻撃を受け、防御能力をほとんど活かせていない。
 何度司令室からシャッターを操作しようとしても、構造材が歪んだのか大半が動作不良で使い物にならない。現場に工作隊を送り込んで応急処置したくても火災のせいで遅々と進まず、辛うじて展開したディストーションフィールドも出力が上がり切らないときたもんだ。
 出撃させた防空部隊をもってしても被害をどれだけ抑えられるか……。
 ゲールとて誇りあるガミラスの軍人。総統への忠誠心に誓っても、民間人に犠牲を出すわけにはいかない。
 正直な話、ヤマトが助太刀してくれて大助かりだった。
 民間施設の防衛に手を貸す、などと断言していたことから察するに、こちらの通信を傍受して解析したのであろう。
 ――解析できたということは、ヤマトも相当ガミラスに対する理解が進んでいると見える。おまけになんか武装も強化も実現しているらしく、ただでさえハリネズミだった対空砲がさらに増えているではないか!
 さらなる脅威となる前にここでヤマトも沈めたい気持ちをぐっと抑え、ゲールは防空戦闘機や黒色艦隊を迎え撃つために出撃した艦隊に対しても「ヤマトには絶対に攻撃するな! いまヤマトに心変わりされたお終いだ!」と厳命せざるをえなかった。
 敵はおそらくヤマトも狙う。
 敵の攻撃が少しでも分散してくれればこちらとしては儲けものだ。
 それに……ヤマトは最大の武器であるはずのタキオン波動収束砲を塞いでまで休戦を訴えてきた。
 ……こうなってはこの場に限っては共闘するしかない。やけっぱちだ! 

「ゲール副司令、第一五区画と繋がる隔壁が損傷していて、民間人と救助に向かった兵たちが取り残されています!」

 部下からの報告にゲールはすぐに対処するようにと工作班を向かわせることを指示。
 しかし、そこに至るまでの通路も多くがガレキと炎で塞がれ、このままでは間に合わない。
 ドックには近いのだが、港内には避難に使う予定だった民間船が敵弾によって損傷し座礁してしまった。構造材に食い込んでしまっていて、撤去して別の艦を入れるのにも時間が掛かる。
 非常にまずい状況だ。
 額に青筋を浮かべながらゲールは必死に頭を巡らせる。
 だが残念なことに、この難局をひっくり返す妙案は一向に浮かんでこない。結局地道な努力を重ねる以外の手段は、ゲールにはなかったのであった。







「艦長代理、どうやら第一五区画に大勢の民間人と救助に向かった兵士が取り残されているようです。総数は不明ですが、基地の自己診断システムや無線・有線含めた報告を傍受する限り、救助活動が難航しているようです」

 ルリからの報告に、進はさらに詳細な情報がないかを問い質した。
 ルリも心得たもので、ハッキングで得られた詳細な情報を足して詳細を報告、それを聞いた真田は難しい顔で唸った。

「……むぅ。このペースでは手遅れになるやもしれん。――艦長代理、ヤマトで近くのドックに入港して救助活動をしなければダメだ。ロケットアンカーを上手く使えば、座礁した艦を引き抜いてヤマトが入れるだろう。われわれなら、小バッタを駆使して迅速に障害物を除去して救出が可能だ。やる価値はあるぞ」

「エアロックの制御システムへの干渉は可能です。接舷さえできればヤマトに避難させることは難しくはありません――乗ってくれれば、ですが」

 ルリが基地内部の大気成分などを調べてくれたが、ヤマト艦内とさほど変わりない、地球型の大気であった。これなら、接舷してガミラス人を艦内に入れてもヤマトクルーに悪影響を及ぼす危険は小さい。
 しかし兵も入れるとなれば内側から制圧される危険性も十分に出てくる。ヤマトクルーは半分民間で構成されている都合、白兵戦となれば存外脆い。
 ハイリスクではあるが――。

「やるしかない。見殺しにするくらいなら最初から来たりしなかったさ……。ヤマト、第一五区画最寄りのドックに向けて全速前進! コスモタイガー隊は全力を挙げて防空に努めるんだ! バラン星基地にもその旨を伝えて協力を要請してくれ!」

「了解! ヤマト、第一五区画最寄りのドックに向けて、全速前進!」

 大介はすぐさまヤマトをドックに向けて進ませた。
 本当に救助活動をすることになるとは思わなかったが、これもなにかの天命であろう。
 幸いと言うか、実にいいタイミングでガミラスの艦隊がワープアウトしてきた。
 これならこの場は任せても大丈夫だろう。
 それにヤマトが動き出す頃になってようやく脅威と認めたか、敵航空部隊もヤマトを追尾して攻撃を仕掛けてきている。
 正直、いまはありがたくないが来たものはしょうがない。丁重に迎撃させて頂くまでだ。

 ヤマトは全速力でドックに向かいながら、追いすがってくる敵に応戦を継続。
 大量の散弾を吐き続けるパルスブラストの、数百にも及ぶ重力波の砲弾が雨あられと敵航空部隊に襲い掛かる。
 ヤマトとて、この航空攻撃に晒され続けたことで多少ではあるが損害を被っている。
 並みの戦艦であったなら数隻は沈められているであろう猛攻を凌いでいるのだ。損害警備で済んでいるほうが奇跡であろう。
 敵がヤマトに攻撃を集中しなかったことと、散弾モードによる圧倒的な弾幕を形成できるようになったパルスブラストの活躍のおかげでもある。が、一番の要因はやはり常軌を逸した頑強さを誇るヤマトの装甲強度だ。
 しかしそのヤマトですら、装甲表面に浅い傷が刻まれ、構造的に脆弱なアンテナやマストが欠ける程度の損害を被っている。より強力な重力波兵器に対応するヤマトの防御でありながら、ビーム兵器主体の敵の攻撃でこれだけの損害を与えらえる火力は軽視できない。
 収束モードを迎撃に折り混ぜつつ、コスモタイガー隊と連動してできるだけ基地の遠くで迎撃したいのだが、敵はなおもワープで送り込まれており、ヤマトとコスモタイガー隊、そしてバラン星基地を翻弄している。
 それでも食らい付けているのは、単機性能でこちらが勝っていることが要因だ。特にガンダムは彼らに対しても圧倒できるほどのスペックを有しているらしく、孤軍奮闘の最中だ。
 エアマスターとレオパルドは最終調整中でまだ出せないが、それもあと少しで終わる。そうしたらこの二機も追加投入して当たらせれば、もう少し戦局がこちらに傾けられるかもしれないと、進は漠然とだが考えていた。



 月臣はアルストロメリアのコックピットの中で迫り来る敵機を見据え、最速で撃墜していく。
 敵はガミラス戦闘機の軽く三倍を誇る大型の機体、火力と射界の広さに攻め難さを感じるが、喰らいつく。
 改修を重ねて強化された機体に、各種オプションが生み出す威力。そして異星人の宇宙戦闘機の性能にいい加減慣れてきたこともあいまって、冥王星くらいまで常に感じていた非力さはもう感じない。
 そしていまは、なによりも心構えが違う。

 思い返すのは自身の分岐点となった、白鳥九十九の暗殺。
 戦争の行く末をめぐってすれ違いが生じた結果、月臣は草壁春樹の思惑通り、無二の親友だった彼の命を奪ってしまった。
 ――幾度後悔しただろうか。
 なぜもっと理解を示してやれなかったのか。
 あの情勢下において九十九の考えは決して浮世離れしていたわけでもない。地球との和平を模索する声はほかにもあったのだ。
 だが、徹底抗戦を訴え遺跡を手に入れさえすれば勝てると考えていた草壁一派と――なんの疑問を抱かず、いや、現実と理想の間で苦しんでいたにもかかわらず、それを押し殺して『木星の正義』に固執してしまった自分の、なんと愚かしいことか。
 そのせいで取り返しのつかない過ちを犯してしまった。
 その罪悪感に苦しみ、罪滅ぼしをしたくて――アキトとユリカが火星の遺跡上空での(なぜか生放送された)痴話喧嘩からのラブロマンに心打たれて――熱血クーデターを起こして木星を改革した――つもりだった。
 結局一番の危険分子である草壁を取り逃がし、火星の後継者の蜂起を未然に防ぐことは叶わず、そのせいでまた血が流れてしまった。

 あのときとはいろいろと情勢が変わったが、敵国との和解を求めて戦うという状況が、過去の記憶を呼び起こす。
 まさか、自分があの時の九十九と似たような立場に立とうとは考えもしなかった。だが、だからこそ……。

「過ちは、繰り返さん……!」

 月臣は眼前の敵機に両腕を射出した。フラッシュシステムで制御されたワイヤードフィスト、機体とは違う位置、角度からの内臓ビームライフル。これにアトミックシザースを足した十字砲火。
 被弾、炎上した敵機に拡散グラビティブラスト収束モードを撃ち込み粉砕。
 次の機体。アトミックシザースで敵機の触腕型ビーム砲を掴んで向きを変える。敵は予想外のアクションに対応できないまま発砲。近くを飛行していた味方に命中。
 それを見届けるなりフルパワー。アトミックシザースでビーム砲を引きちぎりつつ、離脱ついでにビームと重力波を叩きこむ。

(九十九。俺は二度と過ちを繰り返さない。この戦いの果ての結果が決裂であったとしても、そう断言できるまでは和平の道を模索する。おまえの――親友だった男としてのけじめだ)

 決意を胸に月臣はアルストロメリアを駆る。この戦いの果てに、よき結果がもたらされることを願って。



 アキトは仲間たちとは少し離れたところで、次々と襲い掛かるビームを避け、ときには盾で受け止めながら激戦を繰り広げていた。
 基地施設は広大で、たった二六機のコスモタイガー隊だけで全域をカバーするのは不可能だった。
 おまけに敵機が巨大な分頑丈で、ディストーションフィールドとは異なる偏向フィールドの類まで完備、ガミラス機よりも全体的に打たれ強いことも向かい風となっていた。
 さらに防空隊が出てきたことを察知してか、戦闘機と思しき比較的小型で小回りの利く機体も参加するようになってきて、戦況がさらに悪化する始末。
 だがそれでもアキトは任されたエリアの防衛を成し遂げていた。
 単独で最も優れた戦闘能力を持つGファルコンDX。単独での作戦行動に慣れているアキトの組み合わせは強力である。
 ガミラス以上に生物的で、黒一色の敵機は虫嫌いなら悲鳴を上げたくなるほどに気味が悪く、強力だった。
 だがアキトは一歩も引かずに応戦し、すでに十数機もの敵機を血祭りにあげていた。
 右手に握っていたロケットランチャーガン。撃ち切った。投げ捨てる。
 ディフェンスプレートの裏に固定していた専用バスターライフルを代わりに握らせ、左手にはビームジャベリンを構える。

「……いい反応だよ、ダブルエックス。最初は戦略砲搭載とか言われて嫌悪感もあったけどさ、俺たちって本当にいいコンビなのかもしれないな」

 嬉しそうに呟きながらアキトはGファルコンDXを操る。
 この間のオーバーホールで、ダブルエックスは細かい部分でアップデートを受けてポテンシャルを増していた。
 駆動系や推進系、マザーボードやCPU、ついでに相棒として付き合いの長いラピスがOSを微調整と、あまり目立たないが機体の応答性が多少なりとも向上し、よりアキトの感覚に繊細に着いてきてくれるようになった。
 おかげでいままでよりも少し余裕をもって、この猛攻に対処できる。
 多少の被弾は持ち前の頑強さで耐え凌ぐ。
 敵機の攻撃は強力だが、ダブルエックスの装甲を一撃で破壊するほどではない。それにダブルエックスにはディフェンスプレートという優秀なシールドがある。シールドで防げれば機体へのダメージは抑えられた。
 何発か被弾したディフェンスプレートの表面には弾痕が幾つも刻まれているが、もう少しくらい持つ。
 左手のビームジャベリンを眼前の敵機に投擲。コックピットらしき場所に被弾。制御を失った敵機に左手に持たせたGハンマーをぶちかまして軌道変更。基地にだけは墜とさない。
 ――サテライトキャノンを使えないのが微妙にしんどい。
 この機体は戦略砲撃機。こういった状況下で真価を発揮するというのは、単機での戦闘能力以前に広域破壊、大量破壊に適した装備を有しているからだ。
 それを封じた状態でここまでやり合えているのは、アキトの実力がなせる業だ。

「連中におまえみたいな装備が施されてなくて安心したよ。おかげで俺たちが介入する余地が残されたんだからな」

 もしも敵がGファルコンDXのような装備を備えていたなら、バラン星基地はもう落ちていた。
 ボソンジャンプにすら対応しているGファルコンDXは、自分にとって都合のいいポジションに苦もなく出現し、超長距離砲撃を可能とする有効射程と、スペースコロニーすら一撃で消滅に導く威力を兼ね備えたツインサテライトキャノンを装備している。
 つまり、いま黒色艦隊が行っている奇襲攻撃をより完璧な形で、しかもただの一機で実現するポテンシャルを秘めた、決戦兵器の名に恥じない超兵器。
 波動砲を――場合によっては戦闘能力を失ったヤマトを護衛するために造り出されたそれは、状況次第では彼らが行っている作戦を行うためにこそ造られた。
 アキトは思う。
 こいつらと同じことは、したくない。
 もちろんそれは、己の過去の過ちを繰り返すことだからというのもある。ガミラスが話の通じない無情な侵略者であるのなら、アキトは罪を背負ってでも、ユリカたちと生きる世界のために……サテライトキャノンの引き金を引ける。たとえあとで良心の呵責に苦しみのた打ち回ることになったとしても。
 だがまだ希望の灯は残されている。
 彼らは地球に対しては無慈悲な侵略者であったが、祖国のために命を懸けて戦える忠誠心や愛国心を持っている。
 ヤマトと、自分たちと同じ『心』を持っていると、いまは自信をもって言える。
 だからこそそれに掛けたい。
 もう――罪なき人が住まう場所を襲撃するようなことは、したくない。

「希望の灯は消さない! 出し惜しみはなしだぞ、ダブルエックス!」

 アキトはコンソールパネルを操作、フラッシュシステムのスイッチを入れる。
 結局改修で搭載してからも、IFSとの微妙な干渉が見られ、あまり機体制御に有効とはいえなかったフラッシュシステムだが、アキトは本来二人乗りで連携するのが前提のGファルコンとの合体に着目した意見を工作班に提出し、改めて調整を重ねたことである意味ではフラッシュシステムの真骨頂と言うべき使い方を確立した。

「ドッキングアウト! コンビネーションで行くぞ! Gファルコン!」

 普段なら出撃中は合体したままで運用されることが多いGファルコンをドッキングアウト。ダブルエックスはGファルコンの上に立ち乗りする形で敵陣に突っ込む。
 合体していないためスラスターの完全な同期もできず機動力は低下するが、ダブルエックスの足や腰の動きを利用してGファルコンをサーフボードのように乗りこなす。姿勢制御スラスターと合わせてアクロバティックな機動で攻撃を掻い潜りつつ、発砲。
 ヘッドバルカンやブレストランチャーを駆使して牽制をかけ、機体を後方宙返りさせてGファルコンだけを先行させるようにして飛ばす。
 当然先行したGファルコンに火力が集中するが、『フラッシュシステムを介してアキトのイメージで制御された』Gファルコンは、それを軽やかな機動で回避しつつ、機首の大口径ビームマシンガンと拡散グラビティブラストを発射して敵機を撃墜、または回避行動を誘発させる。
 回避行動で乱れた敵に、後方のダブルエックスからブレストランチャーと専用バスターライフルの銃撃を浴びせた。
 地球製機動兵器用の火砲としてはどちらも最強クラスの武器。暗黒星団帝国の兵器にも見劣りしていない。
 攻撃しながら敵陣を突き抜けたGファルコンは、ダブルエックスの攻撃中にターンして今度は後方からミサイルも交えた攻撃を繰り出し、さらに敵の混乱を誘う。
 混乱した敵陣に突っ込むダブルエックスは、Gハンマーをリアスカートのマントに戻すと、代わりにようやく実戦投入された不遇のオプション兵器――ツインビームソードを左手に握らせてビームを出力、すれ違いざまに敵爆撃機を力任せに両断した。
 グリップとハンドガードでφのような形を作るツインビームソードは、上下に備わった発生機からハイパービームソードをも上回る出力のビームを出力する、最強の近接戦闘兵器だ。
 上下の刃の扱いが少々難しい武器だが、上下から刃が出ている形状を利用した連続攻撃は、刀身が一つしかないビームソードよりも『決まりさえすれば』遥か上をいく威力を叩きだす。
 寝かせた状態で正面に構えるなどすれば、左右に位置する敵機をすれ違いざまに同時に斬れたり、手首を高速回転させて簡易ビームシールドとしても使えるなど、少々燃費が悪いことを除けばかなり利便性が高い武器だ。
 本体が小さいので軽量でもあるし、当初はなかった仕様なのだが、実戦投入されなかった間に真田の手で改造され、ハンドガード部分にもビームを誘導して巨大な弓のような大剣としても使えるようにされていた。
 なんでも対艦攻撃用のごり押しモードであるだけでなく、「本当はロケットパンチと組み合わせて……」とか言っていたので、「元ネタはなんだ。ゲキガンパンチにそんな仕様はなかったはずだ」とツッコミを入れたら真田は「大昔、初めて人が乗ったロボットにそういう武装があった」と回答。
 ダブルエックスにロケットパンチは付けられなかったので代わりに――。

 アキトはツインビームソードのビームをカット、マウント状態のGハンマーの鉄球部分にもっていく。
 すると、鉄球の先端にあるスパイクが開いてツインビームソードのハンドガードを加えこんで固定した。――ロケットパンチの代わりにGハンマーを使うことでアイデアを実現したのだと、真田は妙に自慢げに語っていた。
 ――あんたもウリバタケの同類かよ。
 と口に出さず、いまさらなツッコミを加えたことを、彼は察しているだろうか。
 ともかく、アキトはツインビームソードを接続したGハンマーを改めて左手に装備させ、鉄球部分に内蔵されたスラスターを吹かして射出。同時にビームソードも出力させる。
「それ! アイアンカッター!」

 というのがこのコンビネーションの名前。元ネタの名前らしいが、ビームなのにアイアンはないだろう……。
 弓状にビームを発生させたハンマーが、正面から敵機に激突する。
 スラスターの推力にハンマーの質量が加算されたツインビームソードは、さきほどよりもいくぶん簡単に敵機を両断した。
 ……うん、威力は十分すぎるほどあるみたい。
 趣味の産物の威力に驚愕する間もなく、ダブルエックスにビームが降り注ぐ。最大出力のフィールドを纏ったディフェンスプレートで受け止めるが、度重なる被弾にディフェンスプレートもボロボロになり、シールドの接続部がギシギシと軋みを上げている。
 これ以上ディフェンスプレートによる防御は無理と判断して、振り抜きざまに左腕との接続を解除して敵機の眼前に投げ飛ばす。
 投げ飛ばされたディフェンスプレートは回転しながら慣性で宇宙を飛翔した後、機体への直撃コースだったビームと相打ちになって宇宙に散る。
 なおも降り注ぐビームを、手元に引き戻した鉄球ごとツインビームソードを回転させて巨大なビームシールドを形成、凌ぎきる。
 位置関係的に背後にビームが抜けると施設に被害が出てしまう。回避行動ができない。
 アキトは右手のバスターライフルで反撃しつつ別方向からGファルコンを襲わせて反撃する。
 ――ライフルのエネルギーパックの残量が心許なくなってきた。出撃中に急速チャージできない仕様が恨めしい。要改善と訴えておこう。

 アキトはダブルエックスと平行してフラッシュシステムでGファルコンを操り、敵編隊を翻弄していたが、そろそろ限界が近い。
 フラッシュシステムによる遠隔制御は思った以上に使えるのだが、搭乗機の制御と並行して別の機体を思考コントロールするのは負担が大きく長続きさせられない。
 人間、なかなか別のことを並行して考えていられないものだ。
 負担を軽減するために無人機のAIシステムも補助として組み込んでいるのだが、まだまだ万全とは言えないようである。
 これ以上の無理は危険と判断したアキトは、Gファルコンを呼び戻して再合体。再びGファルコンDXの姿へと戻した。

「オートを併用しても、五分が限界か……!」

 もっとこの連携の持続時間を延ばせれば有益だと思うのだが。
 合体したGファルコンDXに敵機が群がる。
 両翼の拡散グラビティブラストを矢継ぎ早に発射して弾幕を張りながら、エネルギーが空になるまでバスターライフルを撃ち続ける。空になったライフルは思い切って敵機の進路上に投げ捨てる。
 敵機が避けた。その一瞬のスキを狙ってミサイルポッドのハッチを開放、残された三発をすべて打ち尽くす。命中。だが仕留めきれない。左手のハンマーを射出。命中、切り裂いた。
 敵弾を簡易ビームシールドで防ぎながら急上昇して射線から逃れつつ、空いた右手で右腰のハイパービームソードを抜刀。最大出力。突撃。正面からビームソードを突き立てて沈める。

「――くそっ。装備が――!」

 いまのでハイパービームソードも一本損失した。残された武器は左手のハンマーと、固定武装だけ。
 幸いというか、受け持ったエリアの敵機はいまので最後だった。後続はまだ見えない。いや、エネルギーを使い果たしたらしい機体が帰っていくのが見える。補給に戻っただけのようだ。

「リョーコちゃん、装備の大半を使い果たした。補給に戻らせてくれ!」

「……わかった! すぐに戻って来いアキト! 無理して撃墜されたらシャレにならねえ!」

 苦戦しているのか、語気も荒く合流を認めたリョーコに返事をすると、アキトは機体を収納形態に変形させ、最高速で部隊と合流を図る。
 戦術モニターに映るヤマトはドック内に入り込み、救助活動を開始しているようだった。

第二〇話 三つ巴? バラン星の攻防! Bパート