「状況は悪化する一方ですなぁ……」

「ですなぁ……」

 連合宇宙軍司令部の一室で、秋山源八郎はムネタケ・ヨシサダと向かい合って薄い茶を味わっていた。
 ヤマトが地球を発ってすでに四ヵ月余り。
 順調に予定を消化できているのならもう大マゼラン星雲に到着しているはずだが、なにかしらのトラブルが生じているのならまだ中間地点のバラン星付近にあるかもしれないし、下手をしたらもっと後方にいるかもしれない。
 なにより、イスカンダルへの接近はガミラスの懐に飛び込むことを意味している。
 ……ヤマトは無事だろうか。
 大きなトラブルに直面していないだろうか。
 トラブルがあっても航行を続けていればいいのだが、ヤマトが無事でもユリカが死んでしまっていたら地球の未来は――。

「にしても、ミスマル艦長もなかなか思い切ったことを考えておりますなぁ〜。ガミラス星の救出を対価に和平を結ぼうだなんて」

「――ええ。しかしその選択が出来る意思の強さが、スターシア陛下の心をも動かしたんでしょうなぁ……」

 実際たいしたものだと感服させられる。
 火星の後継者から救出されてほとんど間を置かずに訪れたガミラスの脅威。
 結果としてそれに真っ先に立ち向かったのは彼女だ。
 イスカンダルに渡りをつけて、転移してきたヤマトの再建を始めて――。
 そのがんばりのおかげでまだ地球は――絶望の淵に立たされながらも抗い続けていられる。

「エネルギーは余裕があるとはいえ、そろそろ暖房と空気清浄設備の維持が大変になってきましたねぇ。なんとか、当初の宣告どおりには持たせたいものですが、生産力を失っている以上、予備パーツの調達が難しいのが困りますねぇ……」

 地球の状況は深刻だ。
 暴動やデモの類は連日のように起こっている。
 ヤマトを信じている人間もいれば、信じていない人間もまた、多い。
 いや、正確には信じていないのではない。絶望から抜け出せないでいるのだ。
 だから疑心暗鬼に陥って攻撃的になり、治安を急速に悪化させていく。
 いまはヤマトが太陽系を離れる前にガミラスの拠点という拠点を潰してくれたおかげで、地球圏にガミラスの姿はない。
 だがそれもいつまで続くか……。ヤマト以外はガミラスの戦力には通用しないのだから、留守の間を付け込まれたら――。
 ヤマトの成功を信じる者ですらその不安を抱えながら日々を生きている。
 そしてヤマトが無事戻ったとしてもガミラスとの戦争は終わらない。結局ヤマトにしか縋れないのなら、ヤマトが敗北したら――。
 仮にヤマトがガミラスとの戦いを終わらせたとしても、疲弊した地球にさらなる脅威が襲い掛かろうものならいったいどうなってしまうのか。
 そういった不安が常に蔓延している。それが少しづつ、そして確実に人々の心を蝕んで疲弊させ、希望を削いでいく。
 はたして本当にヤマトは間に合うのだろうか。
 間に合ったとしてコスモリバースシステムは確実に起動するのだろうか。
 コスモリバースシステムで地球が回復しても、生き残った人々で文明をちゃんと再建していけるのだろうか……。
 考え出せばキリはなく、不安が不安を呼び人々を荒ませていく負の連鎖が止まらない。

「しかし――ミスマル艦長をコアにしなければ動かすことすらままならないとはねぇ。結局われわれも火星の後継者と似たような手段を取ることになるとは――皮肉じゃないか」

「ですな。彼女はもちろんテンカワ君やホシノ君にも辛い思いをさせてしまって……年長者としては、不甲斐なくて涙が出てきそうですよ」

 そう思いつつもなにもできない自分の非力さが恨めしい。

「――本当に彼女らには頼ってばかりなのは精神衛生上、よろしくないですねぇ。結局ガミラスとの交渉すらも任せっきり。本来の戦艦の艦長に背負わせるべき責任ではない。それだけでなく、交渉に失敗してしまった場合ガミラス本星を叩き、民族を滅ぼす決断すらも一任しなければならないとは――」

「本当に、無力さを噛みしめさせられます。せめて地球を支え、帰ってきた彼女らを支えて上げられれば、この無力感も拭えるのでしょうかね?」

 二人とコウイチロウは、同僚や一年前までは良好とは言い難い関係にあった統合軍とも手を取り合って、ひたすらこの状況を凌いできた。
 極寒の星となった地球で生活するには、密閉された室内で暖房を使わなければならない。電力こそ相転移エンジンに依存することでどうにか賄えているが、常に最大稼働状態にある暖房器具は日々の手入れが欠かせない。
 それに空気の清浄機能にだって限度があった。
 外気を取り込む吸気口は雪や氷ですぐに塞がってしまうので頻繁に掃除しなければならず、詰まってしまったときでも大丈夫なように圧縮空気ボンベの類も増設するなどして備えてはいるが、保守点検用の部品や技術者は、どんどん減っていく。
 一年というのもは食料だけではなく、こうした部分も含めて万策尽きてしまうまでのタイムリミットである。
 工業品はいまもネルガルが必死に賄ってくれてはいるが、生産量は極めて少ない。クリムゾンに至っては沈黙してしまっている。
 食料の生産もヤマト用に試作された合成食糧プラントや早期収穫用の遺伝子改良野菜が細々と生産されているだけで、決して潤沢とは言えない。
 せめて食糧さえもう少し潤沢に得られるのなら、いまよりはマシな状況になるのだろうが……。

「ヤマトが生まれた世界の地球は七年も持ったというのに。われわれは一年で滅びるかもしれないとは……」

 ついつい悲嘆に暮れてしまう。
 いまはまだ統合軍とも良好な関係を維持できているが、ヤマトが帰艦したあとはどうなるかわからない。
 ヤマトは書類上連合宇宙軍所属の艦艇だ。つまり、ヤマトの手柄はそのまま宇宙軍の手柄として扱われ、またしても統合軍は蚊帳の外に置かれるという認識が覆せてはいない。
 対策は考えてはいるし一部の連中にはすでに了解を取り付けているので、ヤマトが予定どおりか少し遅れたくらいに帰還する頃には目途が立っているはずだ。
 ……薄いとはいえすっかり貴重品となったお茶の残りを飲み干し、まだ希望を失うまいと抗っていた二人の元に、コウイチロウから緊急の呼び出しがあった。

 それはまたしてもヤマトがもたらした、一筋の希望の光の報告であった。



 新宇宙戦艦ヤマト&ナデシコ ディレクターズカット

 第二十三話 七色星団の死闘!



「こちら、宇宙戦艦ヤマト。艦長代理の古代進です」

 司令室のモニターに大きく表示されたのは、ヤマトの戦闘班長として乗艦したはずの進の姿。ユリカと同じようなコートと帽子を身に纏い、艦長席に座してこちらを見詰めている。
 ……まさかヤマトから直接通信があるとは予想だにしなかった事態だ。
 イスカンダルに到達して、向こうの通信設備を使わせてもらっているのだろうか。いや、その場合一方的な送信はできてもこちらの声を聴くことはできないはずだ。
 つまり!……期待に胸が膨らむが、まず最初に問い質したいのは――。

「こちら連合宇宙軍総司令、ミスマル・コウイチロウだ。あ〜……ミスマル艦長はどうした?」

 少々――いやおおいに私情が混じった質問に進も苦笑している。だがすぐに表情を引き締めて答えた。

「艦長は戦闘で負傷し、状態が悪化したため入院されておられます。いまは私が艦長代理として指揮を引き継ぎ、ヤマトを運航しています」

 進の報告にコウイチロウの顔がはっきりと強張る。
 もともといつ死んでもおかしくないほど弱り切っていた娘が怪我をして、入院にまで追い込まれたとは。
 ……運命はどれほど娘を苦しめれば気が済むのだと悲嘆に暮れる。

「艦長から総司令当てのメッセージを預かっています。『お父様、私は大丈夫。必ずコスモリバースを成功させて、元気な姿に戻ります』――以上です」

 進は預かっていたレコーダーを再生し、ユリカのメッセージをコウイチロウに伝えた。
 ――本当はもっと長くてユリカらしいメッセージだったのだが、場の空気を考えて簡潔なメッセージで自重してもらったのだと、補足が加えられる。
 それから進は道中に起こった出来事について簡潔に報告を続けた。
 その中には暗黒星団帝国と名乗る連中から波動砲を狙った攻撃を受け、止むなく反撃したことも含まれていた。
 最悪その帝国が地球に牙を向く可能性も示唆すると、司令室の空気も悪くなる。
 ――いまの地球に別の国と戦争をする余力などない。かと言って、ヤマトが反撃したことを咎めるのは筋違いだと理解する程度の理性は残されていた。
 事前に話し合ったにも拘らず、相手が聞いてくれなかったことくらい、レコーダーの記録を見せられれば嫌でも理解させられた。
 だが、吉報もあった。

「お喜びください。デスラー総統と直接会談する機会に恵まれ、彼らはヤマトの意思を認めてくださいました。ヤマトの成功が絶対条件ではありますが、和平による戦争終結を約束してくださいました」

 その報告に一瞬時が止まり……次の瞬間歓声や困惑の合唱が司令室の中で巻き起こった。

「ほ、本当か!? この戦争が終わるのか!?」

 思わず身を乗り出したコウイチロウに、進は笑顔で応えた。

「はい、司令。この通信もガミラスが発見していた、太陽系の第十一番惑星に設営されてた非常用の通信設備を使わせてもらうことで実現しています。いまヤマトにはガミラスの将校が乗艦し、イスカンダル星並びガミラス星までの案内をしてもらう予定です」

 進は事の次第を簡潔に伝えてくる。
 それはガミラスの地球侵略の目的であったり、どうやってガミラスとの交渉に至ったかの報告であった。
 ガミラスについては、大体はユリカがスターシアから聞かされ、コウイチロウたちに伝えたものと同じだった。
 被害者である地球側からは身勝手な理由と断じることしかできないが、いまはそれを論議している場面ではない。
 進がガミラスの将校から聞いたところによると、ヤマト出現から冥王星基地攻略までの間はガミラスはヤマトを脅威と見なし、排除する方針であったことも告げられる。
 しかしヤマトが太陽系を飛び出してプロキシマ・ケンタウリに差し掛かったあたりで変化が生じたのだという。

「デスラー総統が、ヤマトを気にかけてくれた?」

「はい。デスラー総統はコスモリバースシステムを求めて旅立ったヤマトが波動砲を装備していることを察して脅威と考えていたようですが、冥王星基地の生き残りが持ち帰ったデータからその戦いぶりを見て、滅びゆく祖国の運命を背負って戦う者同士としてのシンパシーを感じたそうです。またガミラスとイスカンダルを脅かし、地球侵略を後押ししたカスケードブラックホールの脅威を取り除くに十分な威力を持ったトランジッション波動砲の存在ゆえに、ヤマトを障害として排除するか、それとも和解し、その威力でガミラスを救う対価として地球との戦争終結を目指すかで、悩んでおられたそうです」

 なるほど、そのような経緯があったとは。
 ユリカは「かつてのヤマトの航海において、波動砲の威力が航海上の安全保障に繋がっていた節がある」とは言っていたので、いかに強大なガミラスといえど六連発可能になったトランジッション波動砲を装備したヤマトに迂闊に仕掛けてはこないだろうとは考えていたが、当たらずとも遠からずだったということか。
 ――今回はカスケードブラックホール案件が重なっていたとはいえ、搭載しただけで大国が恐れるほどの威力……イスカンダルが封じたがるわけだ。

「決定打になったのは、ヤマトが暗黒星団帝国によって襲撃されたガミラス・バラン星基地を護るために尽力し、多くの民間人を救ったことでした。その行動によって、地球人はともかくヤマトは信用に値すると判断されたことが切っ掛けとなり、この度の交渉へと至ったのです」

 完全無欠な利敵行為に周りの人間(秋山とムネタケ除く)が顔を覆ったのが視界に映った。
 無理もない。
 だが和平を求めるのであれば――こういう形で恩を売ることは間違ってはいないのかもしれないが、交渉の『こ』の字もない内から突飛な行動に出るというのは正直関心できたものではない。
 ――結果オーライだったようだが。
 無茶苦茶な行動までユリカの真似をしなくてもいいというのに……。

「地球に対する賠償などの詳細は、今後の交渉で決定されることになるでしょう。しかし、デスラー総統はすでに地球との戦争継続を望んでおられませんし、地球の復興にも尽力してくださると約束してくださいました。――今後ガミラスと地球の関係がどうなるかは私にはわかりません。ですが、この和平への道を閉ざさぬためにも、ヤマトは全力を挙げて挑む所存です」

 進の言葉にコウイチロウもひとまずは納得する。
 感情が納得しない部分はあるが、感情任せに戦争を継続しても地球に利益などない。避けられぬ滅びが訪れるだけだ。
 ――それに、ヤマトがガミラス相手にここまで戦ったという事実がほかの国家に知れた場合、特に波動砲の存在を理由に地球に武力行使を仕掛けてくる国家が出てこないという保証はない。さらなる爆弾、時間断層という存在も忘れてはいけない。
 ガミラスにその気があれば――という前置の上ではあるが、真実が知らされてから三ヵ月余りの間に地球連合政府はもちろん統合軍も「感情的な部分はともかく、ガミラスと同盟を築くメリットは大きい」という結論に達している。

「……わかった、ご苦労だったな、古代艦長代理。よくやってくれた。……あ〜、ガミラスの将校が乗艦していると言ったな? 少しでいい、話せるだろうか?」

 コウイチロウに請われて進は大きく頷きモニターの前から消えた。
 しばらく待つと、進が再び顔を覗かせて「大丈夫です」と応える。

「ご紹介します。彼がガミラスのドメル将軍です」

「お初にお目りかかります。ご紹介に預かった、ドメルと申します」

 進に促されてモニターにその姿を映したドメルに、司令室の面々が緊張も露にする。
 ――報告どおり、肌の色以外は地球人とまったく同じに見えた。
 彼らもまた、アクエリアスの生命の種子から生まれた存在……地球人の兄弟。

「私は地球連合宇宙軍総司令、ミスマル・コウイチロウです」

 通信機越しとはいえ、ついにガミラスとの対面が果たされた。
 社交辞令的な挨拶のあとドメルは、現在ガミラス星が暗黒星団帝国の軍勢に襲撃されており、彼らはイスカンダルをも狙っていること、そしてヤマトは両惑星を護るため、防衛線に参加しようとしていること、敵もまた波動砲を警戒してヤマトを狙ってくるであろうことを告げた。
 そして――

「ヤマトという存在が出現してからの急な方針の変更……われらの都合であなたがたを振り回したこと……ガミラスの将校としてではなく、一人のガミラス人として謝罪させて頂きます……」

 立場上、軍人として言えないのであろう言葉を届けられ、コウイチロウはたしかに彼らが『人』なのだと実感した。

「……それを聞けて、安心しました――古代艦長代理に変わって頂けますかな?」

 ドメルは頷き控えていた進に交代してくれた。

「古代艦長代理、ユリカの代わりとして不足なく頑張ってくれているようだな」

「はい」

「地球帰還まで、ヤマトのことを頼む。ユリカが選んだ君のことを、信じて待っているよ。どのような事態が起こったとしても、われわれは――ヤマトを信じている」

 優しく微笑み若者を激励する。
 出航前にヤマトの指揮を引き継ぐとしたら彼だと聞かされていた(もはやわが子同然だとも)。
 彼は愛娘の期待に不足なく応え、地球とガミラスの和平の礎を築く助けまでした。
 いろいろな意味で、今後に期待の持てる若者だ。

「了解しました。古代進、今後も艦長代理としてヤマトを地球帰還まで指揮します。ただいまよりヤマトはバラン星基地を出港、ガミラス星防衛戦に参加。これを退けたあとカスケードブラックホール破壊任務を遂行し、コスモリバース受領のためイスカンダルに向かいます。以上、通信終わります」

 進の敬礼にコウイチロウも応え、通信は終了した。
 暗転したモニターから視線を外すと、みな興奮冷めやらぬと言った様子だ。

「ミスマル司令――ヤマトがやってくれましたね」

 隣に控えていた秋山が感涙しながらコウイチロウに言葉を掛ける。

「ああ……ヤマトが――子供たちがやってくれたよ」


 その後コウイチロウからの報告を受けた政府は、予想されていた中でも最高と言ってもよい展開に狂喜乱舞。
 調子に乗ってやや欲張りな要求を出すべく意見した高官もいたが、すぐに「ガミラスが気変わりしたら終わり」と窘められて冷静となり、あくまで講和による終戦協定という形でまとめることとなった。
 ヤマトからの朗報を受けた地球政府と軍高官は、いよいよ戦後を見据えた仕事をこなしていかなくてはならない。
 ヤマトはたしかに最後の希望であるが、彼らの活躍なくして、日々の平和はあり得ないのである。







「――お疲れさまでした、ドメル将軍」

 艦長室で大役を果たして貰ったドメルを労いつつ、自ら淹れた紅茶(エリナから譲ってもらった)を入れてドメルに手渡す。

「お口に合えばいいのですが……」

「ありがとう、古代艦長代理。そう言う君もかなり緊張していたようじゃないか。ああいった場に立つのは初めてと見受けられたが?」

「ええ、即席教育を受けたのはヤマトに乗る一ヵ月前からですし、私はビーメラを発つまでは、一介の戦闘班長に過ぎませんでしたから」

 言いながら自分で淹れた紅茶を一口啜る。われながら上出来だと思う。

「……そんな君が、いまやこの部屋の主か。艦長の具合がここまで悪かったとは……これも、和平路線を押し切りたかった理由かな?」

「ええ。即席教育の私では、どれほど素質があると煽てられてもあなたはもちろん、ガミラスには勝てません……勝てるとしたら、艦長も含めたみんなが一丸となって粘りに粘って、生じるかどうかもわからないわずかな隙を突くか、あなたたちの想像の斜め上を行く奇策を考え付いたときだけです」

「――そうかもしれないな。あの次元断層での戦いでも、私ができるだけヤマトを傷つけず、クルーを一人でも多く捕えたいと考えていなければ、わが艦の主砲はヤマトの艦橋に直撃させていただろう」

 進はドメルの言葉に静かに頷いた。
 結局あのときヤマトがどうにか逃げ延びられたのは、ドメルがデスラーの気持ちを汲んでヤマトをできるだけ撃沈しないよう手加減してくれていたからに過ぎない。
 本気で挑まれていたらあそこで沈んでいた。

「いまとなってはそれが功を奏したということになりますな――そうだ、あのときサテライトキャノンを撃たず、波動砲を外してくれたことのお礼がまだでした。多くの部下を預かる身として、感謝しております」

「……面と向かってそう言われてしまうと、困惑を隠せません。思惑はどうであれ、勝つため、生き残るための最善と言える手段を自ら蹴った、甘い決断ですからね。……結果オーライでしたが」

 直撃させなくてよかった。
 聞けばあの時直撃を意図して避けたことがデスラーとドメルが和平路線に傾くきっかけになっていたらしいし。

「そうだ。君たちの決断は、結果として正しかった。あの極限状況下でその選択を選んだことは、君が言うように生き残ることだけを優先するのであれば悪手であったかもしれない。だが物事は結果がすべてという考え方もある。恥じることはない。君たちはその行動をもってわれわれを動かした。それを誇るといい」

「ありがとうございます、ドメル司令」




 その頃アキトは格納庫でダブルエックスと向かい合っていた。
 と言ってもベッドに寝かされているダブルエックスの胸元に腰かけて、その顔を見下ろしている形だが。

「ガイ、ムネタケ提督……ガミラスとの戦いは終わったぞ。見ててくれたか? 俺たちの戦いを」

 アキトはなんとなくだが、ダブルエックスを通してガイとムネタケが自分たちを見ていてくれているのではないかという錯覚を何度か覚えていた。
 やはりこの機体が、Xエステバリスの後継だと認識していること、ゲキ・ガンガーみたいな強力なロボット兵器だから、というのが関係しているのかもしれない。
 どちらも二人に関係している話題、と言えなくもないだろう。

「……なぁ〜にやってんだテンカワ」

「げっ!? セイヤさん……」

 いつの間にか収納庫の入り口にウリバタケが立っていたではないか。
 ……恥ずかしいところを見られてしまった。
 アキトは右手で後頭部を掻きながら照れ笑い。

「こいつがエクスバリスの後継だから、あの提督を思い出したのか?……まあヤマダに関しちゃ俺もわからんでもないな。こいつはゲキ・ガンガーみたいとは、よく言われてるし。つーか開発者としても同意してるっつーかなんつーか」

 ズバリ言い当てられてしまった。
 そんなアキトの態度にウリバタケは納得したと言わんばかりに一度鼻を鳴らすと、背中に隠していたジュースの入ったボトルをアキトに放り投げた。
 慌てて受け取るアキト。
 ウリバタケはアキトの仕草にひとしきり笑う。

「俺もこいつを見て、たまにあいつらを思い出すことがあってな。……あの二人を知っててこいつと縁深いのは、俺とお前くらいか。……今日くらいは、感傷に浸るのも悪くないだろ? 旅路は半ばなれど、一区切りついた瞬間でもあるんだからよ」

 言いながらウリバタケもダブルエックスの体をよじ登ってアキトの隣に座る。
 二人はしばらく無言でジュースを飲みながら、いまは亡きかつての仲間のことを思い出していた。
 ――そんな二人を見上げるダブルエックスの瞳は、どこか優し気に見えた。



 七色の光に照らされた『雲海』の中に赤いボディの戦闘空母がワープアウト、同じ閃光の中から間髪入れずにヤマトの姿が現れた。
 わずかな間を置いて二隻の指揮戦艦級と第一空母がヤマトを囲い込むような隊列を組んで次元のはざまから飛び出す。
 ワープアウト完了。
 直後、雷雲煌めく厳しい大自然の洗礼を受けて、すべての艦が大きく揺らいだ。

「ワープ終了!――くそっ! 思った以上に荒れてるな!!」

 大介は宇宙気流の余波を受けて激しく振動する艦の安定を保つのに必死だった。
 ナデシコユニットの追加で安定翼が開かなくなってしまっているヤマト。この大嵐の中、姿勢制御スラスターのみで艦を制御すのは骨が折れる。
 ナデシコユニットの追加によって艦のバランスそのものが大きく変わってしまっているのだ。ユニット側の推進装置で推力の総計は増えているが、バランスの悪さだけはどうしようもない。
 急増ユニットの難点と言えよう。

「くっ! フィールド制御を変更して気流をコントロールする!」

 ヤマトの身を包むディストーションフィールドを変更して安定を保つべく、大介は手早く管制官に指示を出した。

「どうやら、ひときわ荒れているときに通過しなければならなくなったようだな……! ゴート砲術長、ヤマトの艦載機はこの状況下で出撃できるのか?」

 ドメルが問うと、ゴートは振動で生じる騒音に負けない程度の声で「この状況下では、ガンダムが出せるかどうかと言った状態だ!」と答えている。
 そりゃそうだろう。ヤマトですら振り回されているのに艦載機がまともに動けるはずがない。

「そうか……。残念ながら、こちらの艦載機も似たようなものだ。連中の艦載機は大型で出力も高い、もしかしたらこの環境でも飛べるかもしれないな……。古代艦長代理、空間スキャニングを実行して『凪』を探すべきだろう」

 ドメルの進言に進も頷いている。
 すぐに先導してくれている戦闘空母や多層式宇宙空母と指揮戦艦級にもスキャニングを要請、七色星団の探査活動を開始した。

 しばらくの間、ヤマト&ガミラス艦隊はタキオンセンサーを使用した空間スキャニングを実施。
 荒れている宙域ゆえノイズも多く正確さには欠けてしまったが、それでも嵐の先に凪を見つけ出し、全速力でその空域に突き進んだ。
 嵐に流されそうになる艦を押さえつけ、駆け抜けた先には――

 とても美しい光景が広がっていた。

 広々と眼下に湛えられた雲海と、その雲に反射した七色の光。その上にきらめく七色の空模様。
 前方に広がる穏やかな空間。だがその周囲を囲うは激しく渦巻く星間物質の嵐。
 凪と嵐の対比が生み出す一大スペクタルな光景に、大宇宙の神秘と星々の生命の息吹を感じる、すばらしいとしか表現のしようがない美しさであった。

 思わず息をのんでその景色に見惚れていた進だが、はっとわれに返る。

「そうだ……! ルリさん、この映像を録画しておいてくれないか? これほど雄大な大自然を拝める機会はなかなか巡ってはこない。貴重な資料でもあるし、激戦を終えたあと、大自然の神秘に心癒されることも必要だと思う」

「いいんじゃないかな。――地球の人たちにも、見せてあげたいからね。ヤマトが帰還すれば、いままで撮ってきたものと合わせていい旅土産になるだろう」

 ジュンの一言に頷き、さっそくルリがヤマトの光学センサーが捉えた映像を最大画素で録画して非圧縮で保存する。
 また一つ、無事に戻らねばならない理由ができた。
 ヤマトの旅路は決して苦難と戦いに満ち溢れていただけではない。
 こうして宇宙の神秘との遭遇でもあったのだと、改めて気付かされた瞬間であった。







「デーダー司令、ヤマトとガミラス艦の姿を捉えました」

「うむ」

 デーダーはメインパネルに映し出されたヤマトとガミラス艦の姿を見てニヤリと笑う。
 最大望遠でも豆粒のような大きさでしか映らないほどの遠距離からの撮影だ。連中もまだ気が付いていない様子。
 まあ無理もないだろう。この宙域はあまりにも荒れていて、レーダーなどの電子的なセンサーの感度低下が著しい。光学カメラですら、障害物の多さから遠方を見渡すには不自由としか言えない空間なのだ。

「やはりガミラスに与したか、ヤマト。もっと骨のあるやつかと思ったがな」

 デーダーはヤマトが軍事力では敵わないからガミラスに与したと考えていた。あれだけの力を持ちながら、故郷を死の縁に追い込んだ連中に与するとはなんと愚かしいことか。
 ヤマトが全力を尽くせばガミラスを滅ぼすことも不可能ではないだろうに――力を持って他者を従わせることに躊躇するとは、弱腰にもほどがある。

「だが、あのタキオン波動収束砲はあまりにも脅威。ここで確実に潰すぞ」

 デーダーの激励に部下たちも緊張の面持ちを隠せない。タキオン波動収束砲と暗黒星団帝国の技術はあまりにも相性が悪いことが、つい先日わかったばかりだからだ。

「デーダー司令。ヤマトは艦体の左右に正体不明の追加パーツを装着しているようです。また、タキオン波動収束砲の発射口にも装甲板が追加されていることが確認されました。ドリルミサイルによる封印は難しいかと……」

「連中がガミラスに与した以上そうなっても不思議はあるまい。もともと連中がヤマト用に用意していた装備だ。だが、策がないわけでもない」

 デーダーはこういった事態も予測してドリルミサイルにちょっとした細工を施していた。それが機能すればどのみちヤマトのタキオン波動収束砲はドリルミサイルで破壊され、ヤマト本体も吹き飛ぶ。
 そうなれば、ガミラスの少数戦力など敵ではない。
 怖いのはヤマト、タキオン波動収束砲だけなのだ。

「戦艦はヤマトとほか二隻に空母が二隻……内一隻は戦艦クラスの武装を備えているのか、変わった艦だな……。転送戦術の前に空母主体の機動部隊は相性が悪いと判断して防空能力に優れた艦艇を中心に纏めたか――よし、爆撃機部隊と戦闘機部隊を発進させろ! 転送戦術に備え!」







 暗黒星団帝国が攻撃準備を進めていた頃、ヤマト&ガミラス艦隊でも艦載機の展開が進められていた。
 ドメルの進言もあり、雲海のすぐ上を航行することで警戒すべき方向を前後左右と上方のみに絞る。
 瞬間物質転送基はたしかに厄介極まりない装備だ。だが転送する物体は既存の兵器、付け入る隙がないわけではない。
 今回の場合はこの七色星団の環境そのものが味方だ。眼下に広がる雲の中は一定以上の深さとなれば荒れた嵐も同然、その雲海の中に艦載機や対艦ミサイルの類を直接転送してしまえば、即座にバラバラにされてしまうだろう。この嵐は宇宙戦艦ですらバラバラにされかねない暴力。小型艇に匹敵する大きさの艦載機と言えど、耐えられるものではない。
 そして隊列だ。
 艦隊の中で最も防空性能が優れているのはヤマトだ。増設した対空火器も威力は伊達ではない。事実上の旗艦であることも含め艦隊中央に。
 戦闘空母はヤマトの前方、指揮戦艦級が左右を固め、自身の戦闘能力が乏しい空母は転送戦術によって距離の概念が曖昧になってしまっていることを考慮し、いつでもフォローできる程度の距離を置きながらヤマトと同じ方向に進んでいた。

「戦闘機部隊は直ちに出撃! 先行して敵艦隊の捜索がわれわれの任務だ!」

 第一空母からはゲットー隊長率いるDMF-3部隊が次々と発艦していく。
 搭載しているDMF-3は対ヤマト戦においてコスモタイガー隊を引きつけて防空網に穴を開ける事を目的として改修を受けている機体だ。航続距離もレーダーも通常の機体よりも強化されている。
 なので、こういった斥候任務に一番向いている機体なのだ。

「戦闘空母は砲雷撃戦用意だ。隠蔽式砲戦甲板展開、対空警戒を怠るな! 敵艦隊発見の報が入り次第、艦載機を発艦させる。空襲中の出撃を余儀なくされるだろうから覚悟しておけ!」

 戦闘空母の艦橋でハイデルンも攻撃指揮を出した。
 戦闘空母は本来重爆撃機と呼ばれる旧式だが積載量に優れた大型機を搭載する予定であったが、その機に積む予定だったドリルミサイルを奪われ役目を失ってしまっている。
 代わりに転送戦術では格好のエサでしかない空母の同行を抑えつつ、空いた積載を活かすためにバラン星基地で積みなおした第二・第三空母の爆撃機隊と雷撃機隊の一部を抱えている。
 いまは出撃準備だけを進めさせ、飛行甲板を裏返して特徴というべき上下の隠蔽式砲戦甲板を展開、戦艦の名に恥じないずらりと並んだ艦砲を見せつけていた。

「爆撃機隊出撃準備だ! いつでもどデカい花火を上げられるようにしておけよ!」

 バーガーは愛機のコックピットに収まりながら部下を激励する。
 本来はDMF-3がコスモタイガー隊を引きつけたあと、ヤマトの目と耳を奪うことを目的として用意されていた部隊。
 対ヤマト用に打撃力を強化した武装の数々。いま披露のとき。

「雷撃機部隊も出撃準備を整えておけ。ゲットーの部隊が敵艦を発見次第、速やかに攻撃任務に就く」

 クロイツも愛機に収まったまま出撃に備える。
 やはり本来は対ヤマト用に構成された部隊。
 ゲットーの戦闘機部隊がコスモタイガー隊を引きつけて防空網の穴を生み、そこをバーガーの爆撃機部隊がヤマトの目と耳を奪う。コスモタイガー隊が引き返してきたところを爆撃機隊が囮となって引きつけ、雷撃機部隊が特徴というべき宇宙魚雷の火力を持って一気に大打撃を与えるための部隊構成。
 転送戦術を前提にしているとはいえ、数で劣るヤマトの航空隊の手数のなさを突いた戦術であった。


「コスモタイガー隊は全機発進後、艦隊の直掩に着け! 敵艦隊への攻撃は航続距離の長いガミラス機に一任する!」

 守の命令でコスモタイガー隊も順次発進していく。

「敵は転送戦術を駆使してこちらを撹乱して痛めつけてくるはず。ヤマトがガミラスと手を組んだと知ったのなら、ドリルミサイルにもなにかしら細工されている可能性もあります。対してこちらは相手をあまりに知らなすぎる。しり込みしない程度に慎重に対処していかなければ、足元をすくわれるでしょうね」

 ドメルの指摘に進もジュンも頷いた。
 敵は十中八九ヤマトの波動砲の封殺を前提とした行動を展開するはず。装甲ハッチは取り付けたが、それを破壊されてドリルミサイルを撃ち込まれるか危険性は十分に考えられるだろう。

「コスモタイガー隊は艦隊の防空任務から逸脱しないように注意してくれ」

 進はマイクを掴んで出撃したコスモタイガー隊に警告する。
 ドメルが考えていた七色星団での戦法について聞かされているコスモタイガー隊は、ヤマトとガミラス艦の周囲を固めるように展開した。
 少なくとも、戦闘機や爆撃機の攻撃ならこれで対応できるはずだ。問題は物量で攻め込まれたときに戦力が足りるかどうかだ。
 ガミラス側の航空部隊はヤマト撃滅のために編成された部隊編成であり、瞬間物質転送器ありきの編成であるため防空戦に適した編成とは言い難い。
 なので普通に考えればもっと構成を変更したほうがいいのだが、ドメルはもちろん進もユリカも変更の必要性を感じなかった。
 その答えは簡単……転送戦術はヤマトも使えるからだ。
 敵艦隊の所在さえわかれば、こちらもボソンジャンプで兵力を送り込んで攻撃することができる。
 特にダブルエックスには、最長射程が四〇万キロにも達するツインサテライトキャノンがある。
 いざとなれば先遣隊の情報を基にボソンジャンプからのサテライトキャノンで一気に勝負を決めることだってできるだろう。
 そしていまはそのサテライトキャノンが増設されていた。

 バラン星基地で協議した結果、研究用に持ち込まれていた試作の単装型サテライトキャノンを形にすることになったのだ。
 ツインサテライトキャノンの半分以下の性能ではあるが、それでも当て方さえよければスペースコロニーに一撃で致命傷を与えられるだけの威力はある。
 身丈ほどにもなる砲身と四枚二対のリフレクターがセットになったサテライトキャノン。砲身の尾部には大型ビームソードが一基マウントされている。
 本来切り捨てたはずの仕様を強引に復帰させた影響で火器管制システムの書き換え必須となり、ディバイダーとビームマシンガンが使えなくなったため、代わりに試作段階で放置されていた小型の展開式シールドとビームライフルが一体になったシールドバスターライフルが用意された。
 加えてバックパック左上のハードポイントからは本来非対応であったGファルコンとの合体を補助するドッキングコネクターが伸びている。普段は左肩の後ろに置かれ、バックパック中央に刀のように斜めに背負われた砲身と正面から見るとL字型に配されたリフレクターに干渉しないようになっている。
 合体するときには右肩後方に移動して正面に向いた砲身と正面上から見ると逆L字型に配されるように移動したリフレクターの代わりにバックパック中央に移動して、Bパーツと接続される。
 サテライトキャノンを撃つときにはリフレクターとBパーツが干渉してしまうため、コネクターが回転してBパーツを左肩後方に移動させて展開する形式を採用している。
 Aパーツは規格がダブルエックスと異なるエックス本体には接続できないため、収納形態のときはBパーツに、展開形態ではカーゴスペース内に仕舞われることで対応していた。
 性能的にはGファルコンDXの下位互換に過ぎないが、総合力では決してディバイダー装備には劣っていない、GファルコンGX。
 本体たるエックスも、原型、ディバイダーに加えたサテライト仕様という仕様変更を受けたとして、両肩が青く塗られて識別された『Vel.3』の名が与えられていた(パイロット的にはどうでもいい)。

「そういう訳だから、同乗させてもらうわよリョーコさん。こっちは本職がパイロットじゃないんだからあんまり無理に振り回さないでね」

「んなこと言われたって、本格的な空戦になったらぶん回さないと死ぬぞ。おまけに急造で慣らしもろくにしてない装備に換装されてんだ、文句言うな」

 Gファルコンのコックピットに収まったイネスは、そのGファルコンと合体しているGXのリョーコに切実なお願いをしたが、ばっさりと切り捨てられて口の端がピクリと恐怖に震える。

「まあまあ、私たちもフォロー頑張るから気楽にね、イネスさん!」

「大丈夫、万が一の時は死に水を取ってあげるから」

「ちょっ! 不吉なこと言わないでよ!」

 ヒカルはともかくフォローと言うには不穏過ぎるイズミに、内心怖がっているイネスが悲鳴を上げる。
 今回の戦闘では瞬間物質転送器の代わりをボソンジャンプで担う。となれば、必要とされるのは長距離ボソンジャンプのほうなのでA級ジャンパー必須。
 この戦術を提唱した瞬間、誤魔化していたA級ジャンパーについてもドメル将軍にだけは打ち明ける羽目になったが……まあ彼なら悪いようにはしないだろう、うん。
 ほかの連中には「ボソンジャンプの研究者で機器の扱いに長けている」とだけ説明して誤魔化した。

「あとは、ゲットー隊長たちの索敵次第か。俺とアキトのボソンジャンプで爆撃機と雷撃機の連中を敵母艦の近くに運んでやれば、状況的には五分に持って行けるかもしれねぇんだよな」

「おそらくね。転送戦術の威力を噛みしめて驕っているだろうし、こちらにボソンジャンプがあることを知っているとは考えにくいわ。バラン星での戦闘でも使用したのは月臣君たちが帰艦したときの一度だけでそれ以降は使っていないし、状況的につぶさに観察できたわけでもないでしょうから。それに、連中のエネルギー反応を見る限りではタキオン粒子は検出されていない。つまり、ガミラスやイスカンダルが開発したジャマーは備えていない可能性が高いってことよ。至近距離に出現する分には通用すると思うわ」

 イネスの推論にリョーコも頷く。ジャンパー処置はしていないリョーコでも、エックスのフィールド出力なら肉体を保護してジャンプが可能だ。
 アキトは単独で跳べるのでサテライトキャノンと合わせて今回の要としてこき使われることが確定している。

「アキト、いざってときは転送頼むぜ。嫁さんのためにもこんなところで終われねぇだろ?」

「わかってるよバーガー。あとはゲットー隊長次第か……こっちが仕掛ける前に戦闘空母が発艦不能になる被害を受けなければいいんだけど」

 転送戦術の厄介な点は前線という概念が事実上消滅してしまうことだろう。これはボソンジャンプ戦術を考案していた地球側はもちろん、特にその存在を警戒していた火星の後継者――草壁春樹も重々承知していたことだ。
 空母はその性質上どうしても軽装甲になってしまっている。
 甲板の大部分は飛行甲板になってしまうため重武装は備えられないし、航空機運用の設備のおかげで重装甲化も難しい。
 武装なんてせいぜい甲板の端か艦体の側面に対空砲を装備するのがやっとであり、単独では攻撃どころか対空防御もままならない艦種がほとんどだ。
 これは地球の空母も似たようなものであり、空母の基本戦術はその運用が確立した頃から一貫して航空機の航続距離を活かして戦場の後方に位置して、直接戦場に出ないのが常識だ。
 それはガミラスとて変わりはない。が、戦闘空母が開発されたという点からうかがえるように、この戦術そのものが前時代的であり宇宙戦争の激化には即さないという意見も出ていないわけではないが。

「なに、戦闘空母はこれでもガミラスの最新鋭艦だ。空母としては積載がちょっとばかり少ないが、その分戦艦としての分厚くて頑丈な装甲と対空装備がある。ちょっとやそっとの損害で機能を失うほど軟じゃねえよ」

「わかった。要するに被害を被らないように立ち回ればいいってことだな。いつもどおりに」

 バーガーに言われてアキトも笑みを浮かべて戦意を奮い立たせている様子。
 GファルコンDXは例の重装備仕様。
 Gファルコンに追加された安定翼に空対空ミサイル一四発と宇宙魚雷四発、脚部ラジエータープレートカバーにマイクロミサイル八発、右手にはいつもの専用バスターライフルを携え、左手に大型レールカノン、Gファルコンのカーゴスペース内にハイパーバズーカ二挺にロケットランチャーガン一挺に予備弾薬五発を懸架。
 専用ライフルはビームナイフを追加装備して銃剣仕様。
 さらにリアスカートに増設したマウントには、ビームジャベリンにツインビームソードにGハンマーが懸架されるなど、過去最高の重武装具合だった。詰め込み過ぎで機動性に悪影響が出ているくらいなのだが、奇襲で確実に敵艦を潰すことを目的として、こうなったのだ。
 GファルコンGXも似たようなもので、携行武装が両手にレールカノン、バックパックの左下のコネクターに銃身とスコープとグリップを格納したシールドバスターライフルをマウントし、反対側にはビームジャベリンを急増のマウントで懸架、サイドスカート両側にマウントを増設して対艦ミサイルの弾頭を改造したグレネード――Xグレネーダーを四基装備している以外はGファルコンDXに準じている。

「こちらエアマスター、配置に就いたぞ」

「レオパルドもOKだ。いつでも乱れ撃っちゃうぜ」

 月臣とサブロウタも準備を終えたようだ。
 最終調整を終えた二機もGファルコン装備のGファルコンバーストとGファルコンデストロイへと変貌を遂げている。
 Gファルコンと合体して宇宙戦闘機としての性能が大幅に強化されたエアマスターは、(最初から戦闘機で設計しておけというツッコミを受けつつ)敵航空部隊を引っ掻き回す遊撃機としての役割が期待されている。
 ノーズビームキャノンの下には、キャリングハンドル付きの水平二連装ショットガン(ソードオフモデル)のような形をしたビームライフル――ミサイルライフルが懸架されている。その名のとおり、側面に多弾頭ミサイル二基を搭載したライフルだ。
 さらにGファルコンに安定翼とそこマウントされるミサイルと魚雷、そして大型爆弾槽を装備した重攻撃機仕様である。
 レオパルドのほうも、(もとが悪いというほどではないが)機動力を補うGファルコンの追加で機動力が大きく向上している。
 なにより本体の重武装にさらにGファルコンの武装が追加され、さらにさらにそのGファルコンに追加武装を加えたまさに動く弾薬庫。
 Gファルコンに追加した装備はエアマスターとほぼ同じだが、機体自体には追加がなかったエアマスターと違ってレオパルドは左足側面に四発ミサイルを内蔵したセパレートミサイルポッド、左サイドスカートにヒートアックスを追加装備している。
 合体中はツインビームシリンダーの格納が上手くいかない難点があるが、それでも一応マウントアームに預けて脇の下に懸架することはできる。
 防空戦には結局ツインビームシリンダーが有効と判断され携行武装は特に持っていないが、それでも自前の重武装によって通常火力はコスモタイガー隊最強と豪語できる、火力の鬼であった。

「対空火力の要は俺、敵部隊の撹乱は月臣少佐、いざと言うときに切りこみ役にして俺たちのフォロー担当がアキトとリョーコちゃん、合わせてアルストロメリア一同。全力で当たればなんとかなるかな?」

「なんとかなって貰わないと困るがな……こちらの戦力にも限りがある」

 月臣も流石に緊張を滲ませた声でサブロウタに懸念を示している。
 暗黒星団帝国の戦力はガミラス以上に底が見えない。この七色星団で仕掛けてくるとしてもどの程度の戦力が配備されているのかがわからない。
 無論ヤマトがおまけで本命がガミラスとイスカンダルなら、戦力の大部分が向こうに行っているとは思うが、人口太陽まで使ってヤマトの波動砲の威力を図ったのだ。相応の戦力を用意している可能性は高い。
 さて、どう出るか……。
 イネスはナビゲーター役とはいえ初めて航空戦の真っただ中に放り出させる緊張に唾液を飲み込んで喉を鳴らし、珍しく両手を眼前で組んで安全を祈るのであった。







「――なるほど、転送戦術を警戒して防空網に穴を開けないつもりだな」

 デーダーはモニターに映るヤマトとガミラス艦の様子にデーダーは薄く笑う。
 その程度戦術はあの艦隊構成から予想していた。驚くに値しない。
 それにこの装置の開発者はガミラス。ガミラスに与したのなら詳細を得ているだろうし、そもそも一度使った戦術だ。初見ならまだしも二度目なら多少なりとも対策されるのは計算の内よ。

「ならば、嫌でも防空網に穴を開けてやろうではないか――対艦ミサイルの準備は終わったか!?」

 デーダーの声に部下が「間もなく終わります」と答える。
 艦隊に同行させた輸送船と数珠繋ぎにした大量のコンテナから、本来は移動要塞や本土の防空用に配備されている大型対艦ミサイルが大量に吐き出された。ヤマトを仕留めるため、メルダーズ総司令に直訴して大量に融通して貰ったのだ。
 開発したガミラス側も認知しているであろう運用法だが、知っているのならかならず防げると言う訳でもないのが転送戦術の真の恐ろしさだ。
 宇宙戦争では距離の概念が惑星間戦争のそれとは違いどうしても膨大化する。艦載機もミサイルも、障害物のない空間を延々と飛行することのリスク、そして航続距離の問題はどの国家も悩みの種だ。
 転送戦術はそのリスクを限定的とは取り除けてしまう。それこそが最大の強みだ。

「瞬間物質転送器作動! 目標! ヤマトとガミラス艦の周囲! 雲海内には転送しないように注意しろ! 上方から前後左右、逃げ場を与えるな!」

 作業艇がミサイルを掴んで瞬間物質転送器の眼前に運んでくる。
 瞬間物質転送器はガミラスの白い円盤型の宇宙船ごと鹵獲して運用している。わざわざ移植する手間をかけるのも馬鹿らしい。
 いまはそちらに移譲した部下が制御下に置いている。
 転送装置本体は長方形状の物体で、円盤上部に一対装備されている。正面にはハニカム状のパターンのある発射口からワープ光線を照射、照射範囲内にある物体を指定した座標に送り込む。
 有人機を送り込む場合は片道一方通行というデメリットがあり、それを補う戦術を行使する必要があるが、今回のように無人のミサイルや機雷を送り込む分にはデメリットはないに等しい。
 そして――。

「いかにヤマトがタフな艦でも、至近距離で対艦ミサイルが雨あられと降り注げば迎撃できても無傷では済むまい」

 そう、たとえミサイルが直撃できなくても至近距離でミサイルが爆発すれば破片や高温のガスを吹き付けられて必ず被害を被る。
 空間歪曲場を防御装置に使っていたとしても、あの手の防御装備は質量兵器に弱いと相場が決まっている。

「艦載機で防空網を作ろうとも四方八方から絨毯爆撃されれば、逃げるしかあるまい」

 あの人型は人型の癖にわが軍の宇宙戦闘機に勝るとも劣らない絶大な威力があるようだが、しょせんは艦載機。対艦ミサイルの爆風に煽られればあっという間に宇宙の藻屑と消える。
 それを避けるためには母艦に匿って貰うか影響圏から離れるかの二択しかない。

「転送戦術がある限り、どうあがいても貴様らは後手に回るしかないのだ……攻撃開始! ヤマトをこの雲海の一部にしてやれ!」

 デーダーの指示を受けて瞬間物質転送器から一対のワープ光線が照射、ワープ光線に包まれた大量の対艦ミサイルが次々と転送されていった。






 その頃ヤマト・ガミラス艦隊は、艦載機の展開を終了して襲撃に備えていた。
 戦闘空母とヤマトの航空隊は艦隊の直掩に専念し、第一空母のDMF-3部隊は全力で艦隊前方の哨戒任務に就いている。いまのところ、敵艦隊発見の報はない。
 いつ、瞬間物質転送器による空襲に見舞われるかもわからない恐怖に晒されながら、各艦のレーダー要員は監視を続けていた。

 ヤマトの改良コスモレーダーが最大稼働を示す赤い光の往復運動を繰り返している。だが進の手元のモニターにはまだ目立った変化が映っていない。

「ルリさん、周辺の状況はどうですか?」

 進の問いに電算室のルリは「いまのところ目立った変化は観測できません」と答えたあとで、

「この場所は凪にあたるとは言っても、周辺には荒れ狂った宇宙気流やら強烈な放射線嵐が吹き荒れています。星間物質の密度変化や動きの変化が激しくて、どうしても観測データのノイズが多くて困ります。小規模物体のワープアウト反応程度なら、見落とす危険はかなり高いですね」

「この場所を決戦の地に選んだ将軍の判断は正しかった」とルリも険しい顔だ。
 瞬間物質移送器による転送戦術は、周囲にワープ反応――つまり重力振や空間歪曲反応といった兆候を見ることで一応の察知が可能だ。
 とはいえその反応は微弱なものであり、環境の変化が激しいと計測に失敗することはままある。
 七色星団は隠ぺいするには本当に最適としか言えない環境だ。

「……このまま地道に続けるしかないだろう。いかに瞬間物質移送器とはいえ、まだまだ経験不足のシステムだ。必ずどこかに付け入る隙がある」

 苦戦するルリの様子に真田がついフォローを口にしている。
 真田の指摘どおり、現状ヤマトが転送戦術の要である瞬間物質転送器搭載母艦を発見する手段は地道な哨戒任務以外にないと言っても過言ではない。
 ただ……

「確実とは言えないけど、いまの私だったらもしかしたらなにか掴めるかもしれないよ」

 医務室のベッドの上からユリカが進言してきた。本日は体調が微妙なので、艦橋には上がらず進にすべてを任せている。

「ユリカ、大丈夫なの?」

 ジュンが心配そうに問うが「平気平気」とユリカの調子は軽い。

「だって、演算ユニットに繋がっちゃってる状態だから周りの変化に割と敏感になっちゃってるんだもん。意識して活性化させてるわけじゃないから特に問題はないよ。まあ、その分確実性が損なわれれるんだけど……」

 と言われたらそれ以上のことが言えない。
 いままではイスカンダルの薬で抑えきれていたのにそれすらできなくなった。つまり彼女はいま、先が長くないとルリを絶望させていたヤマト完成直前頃にまで戻ってしまっているのだ。
 だがそんな状態だからこそ、この局面を打開するきっかけをもたらすことができるかもしれない。皮肉なことに。

「わかりました。ないかあったらすぐに連絡してください」

 進は艦長代理として腹を括った。いまは少しでも勝算を上げる方が先決であると。しかし――。

「雪、艦長がちょっとでも無茶をしたら、引っ叩いてでも必ず鎮圧するように! これは艦長代理としての命令だ」

「任せて艦長代理! そのときは一切遠慮なく黙らせますとも!」

 雪を煽って極力無茶させないように歯止めを作る。本人が言っても聞かぬなら周りを使って黙らせる。
 進は人を使うことをしっかりと覚えたのだ!

「――上官に対して……しかも重病人に対して暴力はいかんと思うのだがな、古代艦長代理……」

 常識人のドメルに突っ込みを入れられてしまった。
 ――しかし声が呆れがあっても進の命令を撤回させようとしないあたり、やっぱりドメルも少々毒されていたのだろうか。
 少しだけ緊張が和らいだ空気の中、力が抜けていたがゆえに気付けたわずかな痕跡を見つけ、ルリが吠えた。

「空間歪曲反応多数! 艦の周囲になにかが転移してきます!」

 来た!
 艦内に警報が鳴り響いて戦闘開始を告げる。
 転移してきた物体は――くそっ!
 進はつい舌打ちしそうになった。

「対艦ミサイル……! こちらが転送戦術に対応するため直掩を展開すると見越した戦術か……!」

 守がすぐにフィールド管制官に最大出力のフィールドを展開させ、拡散射撃モードのパルスブラスト、ナデシコユニットのVLSに搭載された対空ミサイルの準備を進めさせる。

「了解! 各砲それぞれ目標を追尾! 撃ち漏らすな!」

 ゴートも砲術補佐席のスイッチやレバーを操作して、これから次々と送り込まれるであろうミサイルの迎撃準備を進めていた。
 転送されたミサイルは先端が黄色く、本体が赤く塗られた円筒状、サイズはヤマトの艦橋と同じくらいだった。
 ――ミサイルのロケットエンジンが点火、艦隊中央のヤマトに狙いを絞る形で突っ込んでくる。
 進行ベクトルを変更できないワープ航法における問題を考慮してだろう、ミサイルは最初から艦隊を包囲した向きで転送され、ロケットエンジンに点火すればすぐに艦隊の中央――ヤマト目掛けて直進出来るように周到に準備されていた。

「くっ! この短時間でここまで使いこなしてくるとはなっ……! 敵の指揮官はなかなか頭が回るようだ!」

 この混成艦隊の総司令の立場にあるドメルは、

「全艦対空戦闘用意! 航空部隊は直ちに現空域を離脱して体勢を立て直せ! 艦隊増速!」

 そう指示を出した。
 それが敵の狙いだと理解していても、そうしなければ壊滅的な被害を被ってしまう。
 ヤマトを始め艦隊全体が増速して全周から襲い掛かるミサイルを引き剥がしにかかる。
 転送戦術とて座標の指定は必須。増速して転送範囲から大きく逸脱すれば、時間稼ぎはできる。だが――。

「航空隊を引きはがされたか……! ミサイルの次の手は航空隊による集中攻撃と見た! コスモタイガー隊はそのつもりで備えろ!」

 守も敵の狙いに気付いている。
 予想はしていたが実際にやられてみると厄介だ。
 各艦のフィールドの内側に匿うことはできるが、そうすると対空砲を使えなくなってしまう。これだけの数のミサイルをもろに被弾してしまえば、艦隊最強のヤマトのフィールドですらあっという間に決壊してしまうのは目に見えている。
 ――敵の思惑に乗せられるしかない。艦隊とコスモタイガー隊の距離が開いていく。

 戦いのイニシアチブは、やはり敵に取られてしまったらしい。

第二三話 七色星団の死闘! Bパート