「敵艦隊、フィールドを強化しつつ接近してきます。おそらくグラビティブラストによるビーム兵器への干渉を避けるため、接近戦に持ち込むつもりと思われます」

 一早く敵の意図に気付いたルリが報告すると、進はわずかに悩んだ。

(どうする? 敵の意図に乗ればこちらも早急に敵の撃滅を図れるが……)

 主砲の命中率は徐々に改善されているが、敵も棒立ちしているわけではない。回避行動を取りながら撃ち合い続ければ、消耗戦にしかならないだろう。
 敵艦のフィールドが強化されたため、主砲の効果も目に見えて衰えている。ヤマトの主砲をここまで減衰させるとは、驚くべきフィールドだ。
 距離を詰めればこちらも直撃弾を生みやすくなるので、敵の数を減らせるがグラビティブラストの干渉が相対的に減ってこちらも被害を被り易くなる。
 ――どちらを選んでも損害を被るというのなら、いま欲しいのは時間だ。
 しかし――。

「艦長代理。バラン星のときに比べると、敵艦隊が異様なまでに積極的です。冥王星基地防衛艦隊同様波動砲封じを図っているにしても、これほどまでに前に出てくる必要は感じません――なにか裏がある可能性もあります」

 ルリに指摘されるまでもなく進も同じ懸念を抱いている。

「僕も同感だ。もしかしたら波動砲封じだけじゃなくて、冥王星残存艦隊同様差し違える覚悟で挑んで来ている気がしてならない。慎重に対処しよう」

 ジュンの助言も受けて、進は決断した。
 先輩たちの判断は間違ってなどいない。安全策を取ったほうがいい局面なのだ。

「よしっ。敵艦隊との過剰な接近は避けるぞ! 多少時間が掛かってもいい、敵の思惑に乗って余計な被害を出すわけにはいかない!――俺たちはガミラスとイスカンダルに向かい、地球を含めた三つの星の未来を救うという重大な使命がある!……ここでやられるわけにはいかない!」

「――古代艦長代理の判断を尊重しよう。ハイデルン、ヤマトに続け! このまま距離を取りつつ砲撃戦を継続する! 敵の接近を許すな!」

 進の決断をドメルも薄く笑みを浮かべて支持。交戦を続けている戦闘空母に指示を出してくれた。
 戦闘空母のハイデルンも獰猛な笑みを浮かべて「了解しました! 連中にわれわれの実力を見せつけてやりましょう!」と大変乗り気だ。

「島、ゴートさん。隙を見て信濃を発進させる、備えておいてくれ。攻撃のタイミングはこちらから指示をする」

 信濃に乗艦している二人からすぐに返事が返ってきた。あとは発進のタイミングだが、敵の眼前でハッチを開放しては狙い撃ちになる。
 だからこそ、地形を使うべきだ。
 ――ちょうど活用できそうな暗黒ガス雲が、ヤマトの左舷方向にあるではないか。
 そのままヤマト自身が突入してもよさそうに思える巨大なガス雲。これを利用しない手はない。

「ハーリー、左舷の暗黒ガス雲に接触する進路を取ってくれ。あの足のように伸びている一角だ。戦闘空母に死角を作ってもらいながら、ガスを通過するときに信濃を発進させて紛れ込ませる。ここで伏兵を作っておくぞ」

「は、はい! 取り舵三五、ピッチ角一〇、第三戦速でガス雲上方を通過します!」

 命令を受けてハリはヤマトの操縦桿を操る。大介に比べると手際が悪いが、キャリアに差がある。当然だろう。
 ヤマトは進路を変更、左舷にある暗黒ガス帯に向かって進路を取った。
 戦闘空母もヤマトに追従、自然と敵艦隊が右舷方向に来るので火力を右舷にのみ集中して応戦を継続。

「ハイデルン。聞いてのとおりだ。信濃発進の瞬間を隠すため、タイミングを合わせてヤマトと敵艦隊の間に入って死角を作ってくれ」

「了解です、ドメル司令、古代艦長代理!――俄然、楽しくなってきましたなぁ!」

 歴戦の猛者はアドレナリンで脳内を満たしていることが一瞬でわかるような笑みを浮かべ、敬礼。
 進もドメルもそれに応えつつ、敵に気付かれずに信濃を放出できるかどうかが勝敗の分かれ目になりそうな予感を感じていた。

 ガス雲に進路を向けながらも、右舷側から敵艦隊の猛攻が続く。
 舷側ミサイルも弾頭をリフレクトディフェンサーに変更して防御シールドを展開し、ヤマトと戦闘空母に向かってくるビームを遮り、ミサイルを防ぐ。
 ヤマトの進路に交わるように接近してきている敵艦隊なので、徐々に距離が詰まってきている。
 おかげで互いの砲撃が命中しやすくなるが、それでも互いに妨害し合っているので命中率は四割にも満たない。
 ヤマトと戦闘空母は、じりじりと詰まってくる敵艦隊との距離に注意しながら、目当ての暗黒ガス雲に侵入した。
 同時にヤマトの右舷側に位置している戦闘空母が動き出した。
 事前に作戦を了承している戦闘空母はベストのタイミングでヤマトと敵艦隊の間を通過するように進路を取って、開いたヤマト艦底部の発進口を隠す。
 ガスの濃淡と戦闘空母が、敵艦隊の目からなかなかいい具合に隠してくれた。
 発進準備を終えていた信濃が素早く格納庫から飛び出して、ガス雲の中に溶け込むように消えていく。
 発進完了と同時にすぐにハッチを閉鎖、格納庫内に侵入した暗黒ガスを排出。

「増速、第四戦速! 進路修正左五度、ピッチ角マイナス七!」

 すぐにヤマトの速度と進路を修正。
 信濃放出地点からかなり離れた、よりガスが濃くて視界も悪く、レーダーも機能停止しかねない密度のガスの中へと身を潜めていく。
 ヤマトと戦闘空母を見失なってなるものかと、敵艦隊からの砲撃も激しさを増した。
 このままガス雲の中で追いかけっこをするつもりはない。
 ヤマトも戦闘空母も盲目のままでは敵艦隊とは戦えないし、このままガス雲の中を航行し続けるのはリスクが大き過ぎる。

「フィールド艦首に最大出力で集中展開! 最大戦速に加速!」

 進はさらなる増速を指示。
 抵抗を減らして増速すべく、艦首に集中展開したフィールドで濃密なガスを押しのけつつ、10分近くをかけてガス雲を突き抜けた。
 ガス帯に突入されたことでヤマトと戦闘空母の姿を一時見失った敵艦隊は、その動きに追従しきれなかった。
 それでもこちらの行動をある程度予測していたようで、増速してヤマトと戦闘空母が飛び出すであろう地点目掛けて猛然と突き進んでいた。
 だが行動が予測されるのは想定内。計器飛行すら満足にできない暗黒ガス雲の中に留まり続けることが危険であるというのは、共通の認識であろう。
 ましてやここは七色星団。タランチュラ星雲の中でも特に危険なスターバースト宙域。ガス雲の中でなにが起こっているかなど、容易には知れない。
 いずれガス雲から飛び出すことも、下手に進路変更して迷子になることを避けると判断されるのも、想定内。
 ガス雲を飛び出したヤマトと戦闘空母はそのまま急速上昇、宙返りの要領で敵艦隊の頭上を取り、互いに艦の上部を向け合ったまま高速で交差した。

「全兵装、攻撃始め!」

 進の号令でヤマト、そして戦闘空母の全火器が一斉に火を噴いた。
 主砲と副砲が重力衝撃波を、パルスブラスト全門から重力波を、艦首・艦尾ミサイル発射管、両舷のミサイル発射管と煙突ミサイルといったすべてのミサイル発射管からありったけのミサイルが発射され、ルリとオモイカネの制御でECMの妨害に抗いつつ、七色星団の空を舞う。
 戦闘空母も持てる限りの火力を艦の上部――敵艦隊の頭上目掛けて放出した。
 計四基の大口径三連装有砲身グラビティブラスト、艦体側面の小口径三連装有砲身グラビティブラスト、隠蔽式砲戦甲板にある口径違いの三連装無砲身グラビティブラスト六基、対空パルスブラスト三六門、艦橋後部の六連装ミサイル発射機二基から、指揮戦艦級すらも上回る火力をひたすらに撃ちかける。
 その火力によって全力で展開しているであろうフィールドを力尽くで食い破り、何隻かを火達磨にしてガス雲に飲み込ませた。
 だが必然的に敵艦隊も全火力をヤマトと戦闘空母に集中する。干渉や相対速度の差で命中率は低かったが、それでもかなり接近した状態の砲撃なので命中したときのダメージが大きかった。
 ディストーションフィールドを最大出力で多重展開して攻撃を減衰しながらも、防ぎきれなかったビームの弾痕を装甲に刻みながら進むヤマトと戦闘空母。
 傷を深めながらも敵艦を十数隻も沈め、敵艦隊後方にまで到達。
 そこで見つけた一際大きな戦艦に向かって主砲を撃ち込むが……。

「なっ!? ショックカノンが弾かれた!?」

 守が思わず声を上げる。
 眼前に躍り出てきた敵旗艦と思しき巨大戦艦。
 ここぞとばかりにヤマトは自慢の四六センチ(威力換算は四八センチ)三連装重力衝撃波砲が二基、その火力を集中させるが近距離で命中したにも関わらずフィールドにわずかに拮抗しただけで弾かれ、明後日の方向に飛んでいってしまう。
 巡洋艦クラスであっても減衰されていたのだから不思議ではないかもしれないが、まさかこの距離で正面から弾かれるとは思ってもみなかった。
 対する巨大戦艦の砲撃はヤマトの多重フィールドをあっさり貫通し、右舷に被弾。装甲を半ばまで貫通され、安定翼の開閉システムに深刻な障害を受けた。
 負荷で弱っていたことを加味しても、ヤマトの多重展開フィールドをこうもあっさりと撃ち抜くとは……敵艦の主砲はドメラーズ級の斉射に匹敵――あるいは凌駕する威力だ。
 装甲の薄い部分に命中したら、ひとたまりもないだろう。

「艦尾ミサイル、目標敵旗艦!――てぇっ!」

 守はすぐに艦尾ミサイルを艦橋からの制御で発射。
 すれ違いざまに七番から一二番までの発射管から撃ち出された対艦ミサイルは、狙いどおり巨大戦艦に命中するが、目立った効果が見られない。

「――強力なエネルギー偏向フィールドの一種だ。解析データを見る限りでは、ディストーションフィールドと同じ空間歪曲フィールドの一種のようだが、異なる性質を持ったフィールドを多重展開することで効率的にエネルギーを受け流しているようだ……ショックカノンでは接射かつ全火力を狭い範囲に集中でもしないと、突破は難しいな……」

 真田は分析結果に険しい表情。
 あの円盤型の巨大戦艦のフィールド出力はヤマトと同等程度なのに、異なる性質のフィールドを多重展開することでヤマトを凌ぐ防御性能を得ているのか……。
 エネルギー反応を見る限りでは、機関出力はドメラーズ級と同等程度でヤマトのほうが上回っているのだが――。

「不味いぞ……この推定強度だと波動砲――いやサテライトキャノンクラスの威力がないと貫通できん……ミサイルのフィールド中和機能は機能しているようだが、出力が桁違いだ。もっと残弾に余裕があれば主砲と併用して火力を集中させれば突破できたと思うが、現状では数が足りん。一番手っ取り早いのはモード・ゲキガンフレアだが、安定翼を損壊してしまった。使えない」

 一見すると手詰まりになってしまったような状態だ。
 七色星団への影響を無視して波動砲を使うにしても、接近されたこの状況では発射する前にヤマトはハチの巣にされる。
 サテライトキャノンもエックスは既に使ってしまっている。使えない。
 ダブルエックスのツインサテライトキャノンは――砲身を破損している。砲身の交換と再調整、機体の損傷状況を考えるとすぐに発砲可能に持っていくのは難しい。
 モード・ゲキガンフレアも、肝心の安定翼の開閉システムを損傷してしまっては使うに使えない。
 だが!

「――信濃の波動エネルギー弾道弾なら、通用する。中和システムと併用した波動エネルギーの空間歪曲作用は、あの出力の空間歪曲場なら突破可能だ」

 進は信濃放出が決め手になるという感が当たっていたことに笑みを浮かべる。
 波動エネルギー弾道弾もフィールド中和機能を有しているし、なにより通常の対艦ミサイル弾頭とは桁違いの火力を持っている。
 仮にフィールドを突破しきれずに起爆したとしても、波動エネルギーならあのフィールドをも突破して本体に打撃を与えられるだろう。

「エリナさん、信濃にヤマトの合図に合わせて波動エネルギー弾道弾を発射するように指示してください。真田さん、波動エネルギー弾道弾もヤマト側で誘導可能でしたよね?」

「もちろんだ。信濃はヤマトの補助兵装と言ったほうが適切な存在だからな。相応の用意はしてある。ボソンジャンプ通信を利用した誘導方式なら、暗黒ガス雲の中でも正確に誘導できるし、妨害を考慮すればまず気付かれんとは思う。だが奇襲である以上タイミングが命だ。信濃の存在に気付かれたら一巻の終わりだぞ」

 真田の答えに進は大きく頷く。
 たった四発しか残されていない波動エネルギー弾道弾。無駄撃ちしたらあとがない。
 それに信濃も所詮は相転移炉式艦艇。波動エンジンやそれに匹敵する動力を持つ暗黒星団帝国の艦艇に正面対決を挑まれてしまっては、虫けら同然に捻り潰されてしまう。
 勝利するためには、奇襲以外に術はない。
 この奇襲作戦がこの戦いに勝利するために残された、最後の手段だ。

「エリナさん、戦闘空母のハイデルン艦長に連絡を。波動エネルギー弾道弾の爆発の影響を避けるため、発射と同時に最大戦速で敵旗艦から距離を取るように伝えてください――構いませんね、ドメル司令」

「もちろんだ、古代艦長代理。ヤマトの武器の威力は、私よりも君たちのほうが断然詳しい。君たちの判断を尊重しよう」

 ドメルは進たちの判断を尊重する姿勢を崩さない。彼ほどの将に支持されていると思うと、自信が持てる。

「ルリさん、信濃の放出地点の正確な座標をマスターパネルに表示してくれ。確実に命中させるためにも、タイミングをしっかりと計らなければ……」







 その頃デーダーは、プレアデスの艦橋で勝利を半ば確信してほくそ笑んでいた。
 予測どおり、ヤマトの主砲ではプレアデスの防御を突破できない。
 だが当然だ。暗黒星団帝国でも数が少ないこの艦艇は艦隊旗艦として運用するために開発された。
 だから過剰な武装こそ施されていないが、艦載機運用能力はもちろん生半可な攻撃では傷つかないよう、徹底した防御力が与えられている。
 武装も数が少ないだけで、破壊力は暗黒星団帝国の艦艇の中でも最強を誇る。
 こちらも予想どおり、プレアデスの火力ならヤマトの防御フィールドも紙切れ同然。装甲を貫通できなかったのは誤算だったが、通用することは確認された。
 このまま砲撃戦を続ければ、プレアデスが勝利を掴むだろう。
 ヤマトがこちらのフィールドを突破できるとしたら、さらに接近して自身のフィールドをぶつけて中和しつつ、横っ腹を見せた斉射を行う必要がある。
 だが、向こうが中和できるということはこちらもできるということ。
 砲撃をする前にヤマトの倍はあるプレアデスの体格を活かして弾き飛ばして、隙を見せたところを撃ち抜くのみ。
 それに、どうやらヤマトはこちらが過度に接近戦を挑みたがっていることを警戒して距離を取る戦法を選んだらしい。
 となれば、接射による強引な防御の突破は心理的に選択し辛いだろう。
 仮にその手段で撃沈されたとしても、デーダーの予想が外れていなければヤマトを道連れにできる可能性は残されている。
 どちらにせよ、分はこちらにあるのだ。
 そして敵のミサイルの火力ではこちらのフィールドと装甲を撃ち抜くには、少々火力が足りていない。
 おまけにヤマトの艦体サイズとここまでの戦闘で使用した分を考えれば、残弾も残り少ないはず。
 これでは主砲にミサイルの火力を足して遠距離から強引に突破、という手段すら取れまい。
 デーダーはそう考えてヤマトに砲撃を集中させることを指示。早急にヤマトのフィールドを瓦解させ、この戦いの勝利を収めるつもりだった。

 だから彼は、ヤマトがどうしてわざわざ暗黒ガス雲に突入したのか、深く考えることはなかった。
 単に体勢を立て直すための苦し紛れと自己完結してしまっていたのだ。
 そのせいで命を失うことになるとは、このときは露ほども考えていなかったのである。






 巨大戦艦への攻撃はひとまず無意味と判断したヤマトと戦闘空母は、できるだけ敵艦隊と距離を離すようにしながら信濃が身を潜めるガス雲に向かって、回避運動を行いながら進んでいた。
 ボソンジャンプを利用したボソン通信で信濃の位置情報を確認しつつ、信濃もガス雲の中をヤマトからの位置情報を頼りに進んでいる。
 ガンダムやA級ジャンパー単独のジャンプは誤魔化す術はないが、通信程度の用途で使うのなら、アクエリアスドックの秘匿のために使われていた隠蔽シールドで十分に隠蔽可能だ。
 それでも多少の重力異常などは検出される危険性があるにはあるのだが、この七色星団の環境下ではそれすら紛れてしまうだろう。
 七色星団の環境は、決してヤマトに不利のみをもたらしたわけではない。環境さえ事前に把握していれば、むしろ利用できる部分もあるのだ。
 それにはこの場を決戦場として選んでいたドメルの協力が得られていることも大きい。
 彼が事前に調べ上げた最新のデータにその頭脳が加われば、最小限の通信で連携できるのだ。
 敵艦隊はヤマトが自慢の主砲を無力化されて逃げに転じたと盛大に誤解してくれたのだろうか。巨大戦艦を前面に押し出しながら逃げるヤマトと戦闘空母を追撃している。
 逃走しながら艦尾の武装を使用して、巨大戦艦の陰に隠れていない端のほうの敵艦を撃沈しながら機会を伺い続ける。
 巨大戦艦はもとより、ほかの艦艇からの砲撃もヤマトと戦闘空母に幾度も突き刺さり、ときにはフィールドを貫通して装甲に傷を残していく。
 フィールド発生装置も負荷が蓄積され、このままでは長くは持たない。
 焦って失敗してしまうことは避けたい。だが焦りが募るのを避けることができない。
 まさに根競べ。
 クルーの心労も溜まっていった。

 ヤマトは艦尾ミサイル・舷側ミサイル・煙突ミサイルから残り僅かなミサイルを牽制も兼ねて放出、戦闘空母も後部の主砲やミサイルランチャーを使用して抵抗を続けながら、敵艦隊の接近を少しでも阻む。
 敵艦隊はヤマトと戦闘空母が暗黒ガス帯に逃げ込もうとしていると考えているのか、ガス帯との間に砲撃を通して牽制してくる。
 最初からその気はないのだが、それで牽制されたフリをしてタイミングを見計らう。信濃との合流予定地点までもう少しだ。
 …………。
 ………。
 ……敵巨大戦艦が暗黒ガス帯に――まるで触腕のように伸びた一角に近づく。その飛び出した部分を通せば、波動エネルギー弾道弾を確実に命中させられる。
 ドメルの助言を基にルリが算出した最良のポイント。
 進は迷わず信濃に打電、発射準備を整えさせた。
 そして……最良と思われるタイミングで発射を指示した。

「てぇぇぇっ!!」


 ゴートは命令どおり眼前の発射レバーを引き倒す。
 同時に解放されたVLSのハッチ。
 飛び出す波動エネルギー弾道弾が四つ。
 信濃のありったけが敵艦に向かって襲い掛かる。
 ……起死回生の一打は、ヤマトから誘導されながら暗黒ガス帯の中を突き進み――敵巨大戦艦に直撃した。






 デーダーはヤマトと戦闘空母が這う這うの体で逃げ出していると思い込んで、なおさら躍起になって追撃を指揮していた。
 この状況ではタキオン波動収束砲はもちろん、あの人型の大砲も満足に使えないはずだ。このまま消耗させて捻り潰すべく、決死の攻撃を続ける。
 暗黒ガス雲に逃げ込もうとするような素振りを見せれば、砲撃で遮り逃げ込むことを許さない。
 なんとしてでももっと距離を詰めて決定打を与えるべく、ヤマトと戦闘空母を追尾する。
 そんな風に視野が狭くなっていたこともあり、プレアデスの進路上にガス雲から延びた『触腕』の存在など気にも留めなかった。
 濃度が薄く規模も小さい、あっという間に通過してしまうので目暗ましにもならないという先入観があったからだ。
 そして運のないことに、ヤマトには小型の艦載艇が存在し、タキオン波動収束砲のエネルギーを広域に拡散させるほどの威力を持ったミサイルを搭載していたということを失念していたのである。
 プレアデスが暗黒ガス帯から触腕の様に伸びた一角に最接近。
 その中から四発のミサイルが飛び出してきたのを確認して、初めて艦載艇の存在を失念していたことに気付いた。
 ミサイルがプレアデスの艦体と艦橋に命中、対フィールド弾頭の力でプレアデスの強固なフィールドを中和しながら艦体に接触。
 直後、眩い閃光が弾けた。
 いまわのときになって、デーダーは思い出した。
 そういえば昔誰かに言われたことがあった、「お前は優位に立つと詰めが甘くなる」と。
 そのとおりとなってしまった。
 そしてこの距離ではデーダーがヤマトを道連れにできるだろうと考えていた、波動エネルギーと暗黒星団帝国のエネルギーの過剰融合反応による爆発でヤマトを巻き込める保証すらない。
 自省する間もなく、デーダーの意識は光の中へと消え去っていった――。

 暗黒星団帝国が誇る巨大戦艦――プレアデスは、ヤマトが、ガミラスが予想だにしなかった巨大な閃光と共に爆ぜ、残った艦に次々と誘爆。
 まるで波動砲の直撃を受けたかのような凄まじい爆発と共に、七色星団の一角を照らしたのであった。






 巨大戦艦に波動エネルギー弾道弾の直撃を確認して、その効果を確かめようとしていたヤマトと戦闘空母は予想だにしない大爆発に狼狽えていた。
 十分に距離を取っていたつもりだったのに、激しい爆発が生み出した衝撃波に揺さぶられ、押し流され、危うく近くにあった宇宙気流に飲み込まれてしまうところであった。
 各種センサーや構造上脆弱な部位に損傷が生じ、各部から被害報告が殺到する。

「また爆発オチか〜〜〜!!」

 などという悲鳴が各所から聞こえたとも言われているが、真偽は定かではない。

 予想外の事態にうろたえながらも、ヤマトと戦闘空母は大きな被害を受けずに済み、何とか体勢を立て直して現状維持に努めた。
 暗黒ガス雲に紛れていた信濃も巻き込まれた事が予想され、一時は大介とゴートの生存も危ぶまれた。
 が、ボソン通信装置を利用した救難信号を意識を取り戻したユリカが察知。「ヤマト右舷の濃い雲の中、距離と方位は――」と詳細を語ってくれたおかげで行方が掴めた。
 それを聞いたアキトとリョーコが疲労を押してGキャリアーで出撃。暗黒ガス帯に突入、爆発によって撹拌されたガスの淡い部分に漂う大破した信濃を発見、重傷を負いながらも生存していた大介とゴートを救出する。
 ――しかし、安定翼や追加ブースターも全損、機関部も全損し竜骨も折れてしまった信濃は修理不能判断され、ここまでヤマトの航海を陰から支えていた信濃の放棄が決定。

 放棄された信濃はすぐそばを流れる宇宙気流に飲み込まれ、バラバラに分解されながら彼方へと去っていった……。

 その後、ヤマトと戦闘空母は後方に避難していた第一空母と指揮戦艦級二隻と合流――ついでにドリルミサイルでブレード部分に大穴が開きながらも現存していたナデシコユニットも回収。まだ使えそうなので再装着しつつ被弾個所の応急処置を続けながら、七色星団を突き進む。
 損害は決して軽くはなかったが、腰を据えて修理をするほど時間的余裕もなく、外装の応急処置が完了次第ワープでガミラス星とイスカンダル星を擁するサンザー恒星系の手前にある、ライネック星系に向けてワープすることとなった。


「真田さん、イネスさん。あの爆発はいったいなんだったんですか?」

 中央作戦室に集まったドメルたち。
 艦長代理の進はヤマトの頭脳とされる二人に問うていた。
 ヤマトのはるか後方では、さきほどの大爆発の影響で混沌としている空間が広がっていた。
 ハリの懸念どおり、波動砲に匹敵する威力となってしまった波動エネルギー弾道弾の爆発の影響で、凪であった空間は荒れ狂う嵐の空間へと変貌してしまっている。
 そう、余波によってもともと不安定だった気流の流れが変化してしまったからだ。

「――艦長代理、ドメル司令。これを見てほしい」

 真田はマスターパネルに表示させたのは、サテライトキャノンの効果やさきほどの波動エネルギー弾道弾の効果を観測したデータと、予想されていた被害規模の比較データだった。

「数値を見てわかるとおり、一見なんの問題もなかったとされるサテライトキャノンによる被害も、想定値より二割ほど上回っている。波動エネルギー弾道弾に至っては数十倍もの劇的な反応を見せている。――推測ではあるが、もしかしたら敵の動力エネルギーとタキオン粒子――いや、波動エネルギーは過剰反応する性質があるのかもしれん」

 真田の報告に最初に反応したのはドメルだった。

「過剰反応?――ふむ、ガミラスも宇宙に進出して久しいが、このような劇的な反応を起こす文明とは遭遇したことがな無いな……。真田工作班長、念のため本国のデスラー総統に至急連絡を入れたい。具体的な推論は、そのあとでも構わないか?」

「構いません。むしろすぐに本国に知らせるべきでしょう。ガミラスの兵器事情には詳しくありませんが、波動エネルギーを転用した兵器をすでに実用化しているのであれば、事は一刻を争います……」

 真田は深刻そうな表情でドメルの判断を肯定した。
 ドメルもさすがにデスラー砲に関しては口を噤んだが、すぐにエリナに戦闘空母に繋ぐよう願い出て、ハイデルンに戦闘空母を中継して本国への緊急ラインを繋げるように指示を出した。
 これは――予想よりも事態がまずい方向に流れているやもしれない。



 ヤマト・ガミラス混成艦隊が七色星団に到着した頃、デスラーは艦隊旗艦であるデウスーラの艦橋で戦況を見守っていた。
 敵の主力兵器であるビーム砲はグラビティブラストの干渉で多少逸れてくれるので、前衛艦隊は戦線の構築のみならず、大量の砲撃を放って敵の攻撃に干渉して逸らす盾の役割をも担うこととなった。
 しかし戦線は膠着状態のままだ。
 互いにまだ様子見の段階を逸しておらず、攻勢が互いに緩い。損傷艦はすぐに下げて戦線を維持することに注力し続けている。
 いまはグラビティブラストの干渉という利点を活かして抑えているが、長くは続かないだろう。
 本土防衛戦という状況ゆえ、損傷した艦艇の応急修理や弾薬の補充が容易であることは優位に働いているが、一歩でも間違えれば市街地に敵弾が届いてしまう。
 これは数多くの戦いを制してきたガミラスと言えど、あまり経験のない戦いだ。
 だがヤマトとの戦いで移民計画が遅れ気味であったことが幸いもしている。
 本来ならバラン星基地に移動させた民間人の護衛やら太陽系各所に配備して新たな本星となる地球の防備を固めるための戦力が、丸々本星に残されているのだ。
 もしヤマトが出現せず、もしくは早々に叩き潰せていたとしたら、ガミラスはここまで余裕をもって戦うことはできなかったであろう。
 皮肉な話だ。
 そして、そのヤマトとの戦いを経て多少の改良が施された装備も、もう間もなく準備が整う。

 一進一退の攻防は、その後数時間続いた。
 デスラーは時間が経つにつれ、妙な違和感を覚え始めた。
 敵があまりにも慎重すぎる。これほどの兵力とあれほどの自信を見せた相手にしては、不自然なほど慎重なのだ。
 デスラーが疑いを深め続ける中、突然敵黒色艦隊が緩やかに後退を始めたではないか。
 これは――。

「総統、敵艦隊が後退を始めています――第二波攻撃の準備でしょうか?」

「おそらくそうだろう。しかし解せん。敵も本気で攻め込んでは来ていない……なにを企んでいるというのだ?」

 さて、どういう出方をするつもりだ。
 数の上ではこちらが優位だが、性能面では敵が優勢。
 グラビティブラストの干渉による攻防一体の戦術でイーブンに持って行ったが、それ自体が想定外の出来事であったのか、または想定されていたことなのかが読み辛い。
 敵は間違いなく、ある程度の時間をかけてこちらの分析をしていたはずだ。にも拘らず、どうしてこうもこちらを探るような行動をしてくるのか。
 グラビティブラストによる干渉も、多少戦局を優位にはしたが絶対的な優位性とは言い難い。
 だからこそバラン星を襲撃してこちらの浮足を立たせて、本土襲撃という作戦を立案したはずだ。
 にも関わらず進行は緩やかでまるで防衛線を構築するのを待っていたかのようにも見受けられ、その意図が掴みにくい。
 連中にとってもイレギュラーと言えるのはヤマトの存在くらいだが……。

(このデスラーですら最後の最後まで悩み続けたヤマトとの和解――地球との共存共栄の道を選ぶなど、連中が予想していたとは考えられん)

 だとすれば、本来のプランではヤマトへの警戒も疎かにはできないこちらの弱みに付け込んだ奇襲によって一気に制圧するつもりだったと考えるのが自然だ。
 ヤマトにしても、最初は瞬間物質転送器やドリルミサイルを鹵獲したときに得られたデータ以上のことは知らなかったはずだ。
 知り得た情報は「ガミラスが追い込んだ地球から突然湧いて出た超兵器搭載の戦艦」以上のものではないはずだ。
 ヤマトが波動砲を理由に襲撃を受けたという報告で裏付けられる。
 ――だとすれば、バラン星の戦いでヤマトが偶然居合わせる可能性は想定していても、ガミラスと共同戦線を行ったことは想定外だったはず。
 そこに自ら促したとはいえ、波動砲の絶大な威力を目の当たりにしたことで、技術レベルに大差ないガミラスが同様の装備を持っているかどうかを警戒するようになった、というのだろうか。

(……情報を整理してみよう)

 ――暗黒星団帝国と名乗る軍勢の存在をガミラスが認知してまだ二ヵ月程度。
 ガミラスの国境付近で確認された最も古い記録がそれなのだから、もしかしたらもう少し前から調査をしていたかもしれないが、デスラーはガミラスが彼らの存在を掴んだ時期と彼らがガミラスに目を付けた時期に大差はないと考えている。
 その要因の一つがグラビティブラストの干渉だ。
 もっと前から入念に調査していたというのなら、相応の対策を練っていても不思議はないのに、それが成されていない。
 それどころか、連中はより強力な兵器であるグラビティブラストを所有していない。
 それ自体はガミラスも他文明が開発したものを利用しているに過ぎない(デスラーは後にシャルバートから現在までに連なる歴史をスターシアから聞かされた)が、ワープ航法を開発する過程で空間歪曲関連の技術はどうしても開発する必要がある。
 たとえば、自力でそれらの技術を開発したのではなく、地球のようにほかの文明からの技術付与という形で得たのであれば、段階的に発展していく過程で得られる技術を素通りしてしまう、歪な技術体系もありえるだろう。
 現に地球が最後の希望として送り出したヤマトも、その性能バランスは歪だ。
 六連波動相転移エンジンという、イスカンダルしか技術を有していなかったガミラス製のエンジンすら上回る超高出力機関を持ちながらも、密接な関係にあるはずのワープエンジンの性能が目も当てられないほど低いのがいい例だ。
 しかしここまで大規模な艦隊を整備して他国に侵略戦争を仕掛けられるだけの文明が、はたしてこんな初歩的な見落としをするのだろうか。
 空間歪曲フィールドやワープ航法。いずれも開発の過程でそれらに関わる技術を兵器転用する発想は、一定以上の技術力があれば出てきそうなものなのだが……。
 ……それとも、技術的には可能でも有用性を見出せなかったということだろうか。

(……彼らは目的から探ってみてはどうだろうか?)

 目的はあくまで『資源」 と言っていた。
 その『資源』に『人間』が含まれているのはほぼ確実。
 そうでなければバラン星を攻撃する理由がない。
 こちらの動揺を誘うだけなら奇襲だけで済む。彼らはガミラスの移民計画についての情報を掴んでいたからこそ『逃がさないため』にわざわざ行った。それ以外で本星から遠く離れたバランを襲う理由などない。
 事実そのせいでデスラーは警戒を強め、艦隊を配備させている。
 加えてこれ見よがしな進軍……。
 まるでこれは、わざと艦隊戦力を用意させ、残らず退けるのが目的と言わんばかりではないだろうか。
 言い換えればガミラスの前線力を相手取りながら侵略できるだけの自信――すなわち切り札を有しているということを意味するのではないだろうか。
 しかし、それでも腑に落ちない点が多い。
 それほどの切り札があるのなら、最初から投入してしまえばいい。戦力の出し惜しみや逐次投入は愚策であるというのは、万国共通の戦術論のはず。
 ――気に入らない。
 切り札ならこちらにもデスラー砲がある。
 あるのだが……相変わらずデスラーの第六感が訴えるのだ。
 気易く使ってはならない、と。
 そして、敵艦隊の行動にはなにかしらデスラーが知り得ない思惑がある、と。

「デスラー総統。ヤマトのドメル将軍から緊急の通信が入っています」

 通信士からの報告に頷くと、考え込んでいたデスラーはすぐに気持ちを切り替え繋げるように命じた。

「デスラー総統、ドメルです」

 緊迫した様子のドメルにデスラーは眉をひそめながら先を促す。
 ――嫌な予感がする。最高の機密レベルの秘匿回線を使用しているという時点で、とてつもなく重大な案件が生じたことが伺えるが、その予感がますます強くなった。

「われわれは七色星団において予想どおり敵艦隊の襲撃を受け、これを退けることに成功いたしました。しかしその戦闘で思わぬ事態に遭遇し、至急総統のお耳に入れるべく連絡致した次第です」

「――思わぬ事態?」

「はっ、われわれは敵艦隊と一進一退の攻防を展開した末、ヤマトの主砲ですら破壊困難な敵旗艦と思しき巨大戦艦に対し、波動エネルギーを封入したミサイル四発用いて撃破を図りました。それ自体は目論みどおり成功したのですが、その際敵艦が波動エネルギーとの過剰反応と思われる大爆発を生じるという異常事態に直面致しました」

 ドメルの報告にデスラーは顔が強張るのを自覚した。

「波動エネルギーと――過剰反応だと?」

 デスラーの様子に事態の深刻さが伝わったと判断したドメルは「ヤマトの真田工作班長が私の代わり、事態の説明を行いたいと訴えています」と伝えてきた。
 デスラーはすぐにそれに応じた。

「ヤマト工作班長の真田志郎です」

「真田工作班長。説明をよろしく頼む」

 デスラーに促され、真田が重々しく口を開いた。
 ――だが真田を映した映像の端のほうで、亜麻色の髪の女性が必死に片腕を抱え込むようにして抑えている金髪で白衣を羽織った女性の姿が一瞬移ったのを、デスラーとタランは見逃さなかった。

 その女性――イネス・フレサンジュのことを、彼女が『説明』という行為に反応して出たがっていたことを二人が知ったのは、もう少しあとのことだった。

「できるだけ手短に説明致します。われわれが敵巨大戦艦に対して使用したのは、波動エネルギーを封入した波動エネルギー弾道弾と呼称しているミサイルの一種です。これはヤマトの波動砲の八〇分の一に相当するエネルギーを封入しています」

 まず最初にヤマトが使用した武器についての説明を受け、デスラーはヤマトに関する報告の中にその武器を積載した小型の艦載艇があったことを思い返した。

「七色星団という不安定な環境に配慮した結果、われわれはより威力の高い波動砲の使用を禁じ、ガンダムエックスのサテライトキャノンと、この波動エネルギー弾道弾を切り札として敵艦隊と交戦しました。しかしこの二つを使用した際、どちらも通常とは異なる反応を示したのです。ドメル将軍が報告された、過剰反応と思しき威力の増大現象のことです」

「これをご覧ください」と、真田はその二つの兵器を使用したときの観測データをいくつもこちらに転送してきた。
 ガミラス最高レベルの暗号通信とはいえ、なかなか思い切った行動だと感心させられる。

「気分を害されるかもしれませんが、これはガミラス艦に対して使用したときのデータと比較したものです。艦艇のサイズや防御性能の違いは、多少の推測を交えながら補正しています。――ご覧のとおり、サテライトキャノンで約二割、波動エネルギー弾道弾に至っては数十倍もの威力の向上が見られています。サテライトキャノンに関しては観測機器の精度による誤差の範疇かもしれませんが、波動エネルギー弾道弾に関しては到底誤差では済みません」

「たしかに――このデータに間違いがなければ、連中は波動エネルギーに対して異様な反応を示すということになるな……」

「そのとおりです。交戦によるセンサー類の破損、ECMによる妨害を受けていたため具体的になにが過剰反応を引き起こしたのかが不明ではありますが、このデータを信じるのであれば敵のなんらか物質――またはエネルギーはタキオン粒子に対して反応を起こすと判断できます」

 真田はそこまで言ってから新しいデータを送ってきた。これは――。

「ご覧のとおり、タキオン粒子に対して反応は起こしているようですが、われわれの機動兵器が使用しているタキオン粒子を封入したロケット弾は過剰反応と思しき反応を見せていません。反応を見せるようになったのはタキオンバースト流にまで加工したサテライトキャノンからです」

 サテライトキャノン――あのガンダムという人型が保有している戦略砲。その存在がガミラスに知られたろきは、デスラーすらも驚かされた。
 艦載機に戦略兵器を搭載する前時代的な発想はもちろん、艦載機に搭載できるサイズであれほどのシステムを纏め上げた発想と技術力には、素直に感服せざるをえなかった。
 そうか、いままでは波動砲の亜種とまでしか判明していなかったが、あれは波動エネルギーに至っていないタキオン粒子を同じように高圧化・収束して打ち出すタキオンバースト流を利用した兵器だったのか。
 ガミラスでは波動エネルギーやタキオン粒子の兵器への直接転用は積極的でなかった(不思議とそういう発想があまり出てこなかったり、既存の戦力で十分であるなどの理由)。
 実際デスラーもカスケードブラックホールの一件がなかったら、デスラー砲――タキオン波動収束砲の開発に手を出していたとは思えない。
 たしかに優れた武力ではあるが、威力が高過ぎて加減がし難いのはあくまで版図を広げることを目的としているガミラスにとってデメリットも大きかったのである(手に入れるべき星を吹き飛ばしてしまっては本末転倒)。

「それを踏まえて考察するに、『未加工の波動エネルギー』であれほどの反応を生み出したというのであれば、『より威力を発揮するように加工した』波動砲を使用すれば、どれほどの被害が生じるのか皆目見当もつきません。われわれはガミラスの兵器開発事情に詳しくはありませんが、艦長から教えられたガミラスの状況を考えるに、独自に波動砲を開発していると考えています。もし完成しているのでしたら――」

 真田の言葉を遮るようにデスラーは疑念に応えた。

「疑念はもっともだ。そちらの推測どおり、ガミラスもカスケードブラックホール対策としてタキオン波動収束砲の開発を試み、つい先日完成したばかりだ。切り札を最初から切るつもりはなかったので使わないでいたが――どうやら正解だったようだな」

 これも最高軍事機密に属する内容ではあったが、いまはそんなことを言っていられない。
 正確な情報を共有し合って対策を立てなければ最悪な事態を招きかねない状況に直面している。
 そんなデスラーの含みを持った言葉に真田は自分の推測が当たっていたことに呻いていた。
 和解が成立していなければ、その矛先がヤマトに向いていたであろうことは想像に容易いだろう。

「そのとおりだと思われます。もしも波動砲が敵艦隊を直撃した場合、直撃を受けた艦が強烈な反応で爆発、最悪周囲の艦艇にも大爆発で飛散したタキオンバースト波動流の影響を受けて誘爆を重ね――極めて広範囲を吹き飛ばす危険性があります。言い換えれば、周辺への被害を考慮しなくていい環境下であれば、波動砲は暗黒星団帝国の艦隊に対して絶対的な威力を発揮できるということであり、逆に周辺に考慮しなければならない環境下では――波動砲は絶対に使えません。二次被害があまりにも大きく、予測がつきませんので」

 断言する真田にデスラーも苦々しい顔を隠せない。
 不可解な連中の行動の意図を、自ずと察したからだ。

「――連中が距離を詰めて交戦してこない理由はこれか……!」

「彼らがこのことを知っているのなら、過剰反応を恐れてのことと考えて間違いないでしょう。これまでの戦いでガミラス艦もヤマトと同じ波動エンジンを搭載しているとわかっているはずです。だからこそ、影響を受ける可能性がある至近距離での交戦を避け、どの程度の距離ならば問題ないのかを推し量っているのでしょう。迂闊に撃沈して波動エネルギーが漏洩し、それが連中の『なにか』に過剰反応してしまえば、最悪一帯が吹き飛んでしまう恐れがあります。――もちろん連中が欲しがっているであろうガミラスとイスカンダルも纏めて吹き飛んでしまう可能性もありえるでしょう。……おそらくヤマトがバラン星で波動砲を使用した際にデータを取得し、その可能性に気付いたのではないかと思われます。バラン星の時と七色星団では、敵艦隊の動き方に違いが感じられましたので……」

 これは――ますます辛い戦いになるやもしれない。
 これではこちらも迂闊に接近できない。
 接近戦に持ち込めば敵艦隊は過剰反応を恐れて攻撃の手が緩むかもしれないが、反撃を受けてこちらが撃沈された場合、敵味方問わず甚大な被害を被る可能性が出てきてしまった。

「確認される限り、敵艦隊もディストーションフィールドと同じ空間歪曲場による防御装置が装備されています。それが撃沈で漏洩した波動エネルギーを遮断して反応を防ぐに足る性能があるかどうかまでは判明していません。しかもこちらの検証の限りでは、波動エネルギーはディストーションフィールドに対する中和効果が確認されています。だからこそ、波動エネルギー弾道弾を開発したのですが……」

「なるほど。敵艦隊の動きが奇妙なほど慎重なわけだ……」

 デスラーも腕を組んで考え込んでしまう。
 この問題に気付いたのは連中のほうがだいぶ先だ。となれば、今回の交代から察するにこの場でできる限りの対処法を見出したのかもしれない。

「――われわれは既に何十隻も敵艦を撃破し、こちらも同等の被害を被っている。敵艦隊の攻撃が消極的だった理由がエネルギーの過剰反応を警戒しての情報収集だったとすれば、すべて辻褄があう。だとすれば……」

 敵はこれまでの戦いで十分な情報を得て、それに合わせた対策を構築している最中と考えていいだろう。
 だとすれば――。

「古代艦長代理に代わってもらえないか?」

 デスラーの要求に真田はすぐに応じて、艦長席に回線を繋いでくれた。
 そして、回線の秘匿性を確かめ直してから尋ねた。

「古代艦長代理、ヤマトの到着予定はどうなっている?」

「七色星団での損傷の応急修理の時間を考えると、本来の予定よりも数時間ほど遅れると思われます」

 進は淀みなく答えた。
 当初の予定では七色星団での戦闘は避けられないとし、受けた損害の修復と補給をガミラスの支配下にあるライネック星系で行い、イスカンダル・ガミラスへのワープを行う手はずとなっていた。
 戦闘があると最初から想定していたので、当然そこでの修理や補給による時間的損失はスケジュールに含まれてはいるのだが、思った以上に損害が大きいらしい。
 それほどの激戦であったのなら、撃沈された艦が出ずに済んだのはむしろ運がよかったのかもしれない。
 ――ならば。

「古代艦長代理。私はさきほどの説明を聞いて、サテライトキャノンは使用しても問題ないと解釈したが、サテライトキャノンのコンディションに問題はないだろうか?」

 率直な問い掛けだった。
 現状、過剰なエネルギー反応を気にせず使える兵器としては最大の破壊力を誇るサテライトキャノンは、文字どおり戦局を左右する一手になる。
 もちろんガミラスにもまだ切り札は残されている。残されているが、切れる手札は多いほうがいいのは言うまでもない。
 だからこそ、救援に向かっているというヤマトの誇るサテライトキャノンの威力が――どうしても欲しい。

「……現在両機ともに損傷しており発砲不能です。エックスは予備がありませんのでもう使えませんが、ダブルエックスは砲身の交換作業と再調整さえ終えれば使用できます。そちらに到着するまでには間に合うでしょう。また、ご理解頂けていると思いますがサテライトキャノンは人型機動兵器の搭載火器です。艦載の波動砲に比べるとどうしても脆く、使用に伴う制約も大きい。エネルギー確保はなんとかなりますが、エネルギーのチャージと変換で生じる無防備な瞬間を狙われてしまえば、発砲どころではありません――波動砲とまったく同質の兵器と考えて頂く必要があります」

 進の率直な答えにデスラーは「わかった。そのように捉えておこう」と返事をする。
 なるほど、そういった制約があったからこれまでの戦闘でもその威力を前面に押し出してこなかったのか。
 冥王星や次元断層での解析データからすると、威力は波動砲には及ばないが艦隊決戦兵器として通用する威力があることは間違いない。
 この威力であれば、敵が巨大な機動要塞を投入してきたとしても対処できるはずだ。
 問題は敵の巨大戦艦はヤマトの主砲すら無力化する防壁を持っていたということ。言い換えれば要塞クラスの兵器ともなればサテライトキャノンすら防ぐ防壁であっても不思議ないということだ。
 その場合は防壁を無効化する策を考えなければならないが、出てきてもらわないことには考えようがない。
 臨機応変に行くしかないか……。
 敵にまだ動きはない。
 ヤマトの到着のタイミング次第で戦局を大きく左右されるかもしれないと、デスラーは漠然と考えながら、情報交換を続けた。







「ふむ……予想よりも手強いな。奇襲の成功程度で少々思い上がっていたか?」

 メルダーズは座席に深く身を沈めながら戦況モニターを見詰めていた。
 バラン星での戦闘記録と比較すると随分と練度も士気も高い。
 おそらくヤマトが敵ではなくなったことでこちらにだけ集中すればよくなり、当初の思惑に比べて心理的余裕が出ているのも影響しているだろうが、やはり本星を背にした戦いでは気合が入るものなのだろう。
 ――それはどこの国も同じだな、と述懐する。

(それにしても、まさか連中が使う波動エネルギーとわが軍のエネルギーが過剰融合反応を起こすとは……予想すらしていなかった。このようなことがあろうとは……)

 腕を組み、目を伏せて頭の中で考えを巡らせる。
 当初の予定ではバラン星の攻撃成功と同時にガミラス本星に奇襲を敢行するつもりだった。
 だが、あの戦場に現れた思わぬ乱入者――ヤマトの存在がその予定を狂わせた。
 メルダーズとしても、単艦でここまでガミラス相手に抗ったヤマトのことは高く評価せざるをえない。
 その要因となったであろうタキオン波動収束砲が、ここまでわが暗黒星団帝国にとって危険極まりない物であったとは思わなかったが……。
 そのためバラン星からの報告が上がった直後に予定を変更し、ガミラス艦艇を撃破したときに炉心から漏洩する波動エネルギーによる影響の有無、ガミラスがタキオン波動収束砲を装備していないのかどうかなどを改めて調査する必要性が生じてしまった。
 迂闊に奇襲を仕掛けて星の近くでこの現象を誘発してしまっては――得られるものがなくなり、損失だけが重なってしまう。
 おかげで予定されていた奇襲作戦は破綻し、わざと警戒網に引っかかって艦隊を宇宙に上げてもらい、実際に戦いながら情報を集めて対処する手間を強いられている。
 この現象さえなければ、奇襲攻撃で抵抗力を根こそぎ奪い、最後はこの機動要塞ゴルバの威力を持って完全に鎮圧できていたのだが……これでは迂闊にゴルバを近づけるわけにはいかない。
 ――もっとも、タキオン波動収束砲と言っても粒子ビーム砲の一種であるなら、最大出力で展開したゴルバの偏向フィールドで防ぐことは不可能ではない。が、ミサイルの弾頭などに波動エネルギーを封入していないとも限らない。
 事実ヤマトはそのような兵器を使ったと報告を受けている。
 それにあの連射式は厄介だ。あの性能だと、最悪防御を力尽くで抜かれてしまう可能性が否定できない。
 ――ガミラスのみならず、わが帝国すらもたった一隻で窮地に追い込むとは――。

「さて――どう攻めたものか……」

 いまのところタキオン波動収束砲の装備が確認されているのはヤマトだけだ。
 そのヤマトも七色星団でデーダーが迎え撃っているはずだが――未だに撃沈の報がないことを考えると仕損じたが、相打ちのいずれかだろう。
 となれば、遅くとも明日か明後日には到着し、戦線に加わると見たほうがいいだろう。
 またこの戦場で新たに確認された大型艦――おそらく敵艦隊の旗艦――の艦首にも、大口径エネルギー砲と推測される装備が確認されている。
 連中がブラックホール対策にタキオン波動収束砲に目を付けていたとするなら、ヤマトと共闘する以前から開発に着手していたことは確実。
 あの大砲がガミラス製のタキオン波動収束砲である可能性は高いか……。
 ガミラスとヤマトがこの現象について知っているかどうかはわからない。
 が、もしもヤマトがデーダーを打ち破ったのなら、タキオン波動収束砲や波動エネルギー封入弾頭のミサイルを使用していたのなら、気付いているだろうし同盟関係に至ったガミラスにも知らせているはずだ。
 ――さて、どうしたものか。
 解析の結果、動力エネルギーにさえ直接触れさせなければ劇的な反応を起こさないことがわかっている。
 装甲に直接触れるのもまずいが、脆くなるだけで済むなら安いもの。
 飛躍的に難易度が上がったガミラス・イスカンダル攻略作戦ではあるが、だからと言って引くわけにはいかない。
 ガミラスとイスカンダルで得られる資源は暗黒星団帝国の未来を考えれば必要なものだ。みすみす諦めらめるわけにはいかない。
 ましてや本国はいまも熾烈な戦いの最中であり、時間をかけて部隊を再編する余裕すらない。
 そしてなにより波動エネルギーへの脆弱性を露呈したまま撤退してしまえばガミラスも――そして地球も波動エネルギーを転用した武装で身を固め、暗黒星団帝国の干渉を避けようとするだろう。
 ――ヤマトとガミラス旗艦にしかタキオン波動収束砲が搭載されていないいまが絶好の機会なのだ。
 これを逃せば、現在の帝国の状況を考えるに二度目はないと言い切っていい。
 イスカンダリウムとガミラシウムを逃せば、いま行っている宇宙戦争でも苦しい戦いを強いられる可能性は高い。もう一つの資源も得られる機会はわずかとなれば――。
 メルダーズに失敗は許されていないのだ。

 彼は攻略計画を練り直しながら、遥か遠くの祖国に思いを馳せた。



 辛くも七色星団の死闘を制したヤマトではあったが、予期せぬ形で波動エネルギーと暗黒星団帝国の相性の悪さを知ることとなった。

 波動砲という決定打を封じられたヤマトとデスラーは、はたして暗黒星団帝国の軍勢を退け、迫りくるカスケードブラックホールを葬り去ることができるのだろうか。

 ヤマトよ、三つの星の命運は君の肩に掛かっているのだ!

 人類滅亡と言われるその日まで、

 あと、二四三日!



 第二十四話 完

 次回、新宇宙戦艦ヤマト&ナデシコ ディレクターズカット

    第二十五話 ヤマトの戦い! 驚異の暗黒星団帝国!!

    ヤマトよ、退くな!

 

 

第二五話 ヤマトの戦い! 驚異の暗黒星団帝国!? Aパート







感想代理人プロフィール

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代理人の感想 
今にして思えば、この波動エネルギーに超弱い設定、
波動ミサイル地球艦隊が装備してたらそれだけで滅びてましたよね暗黒帝国w


>ヒーロー番組のラスボスだ!
というか、スーパーマンに勝つために無駄な努力を続ける一般人レックスルーサーというかw






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