「タキオン波動収束砲だと……!」

 冥王星基地司令、シュルツは目の前に映し出された映像に驚愕し、つい先程本星からもたらされた情報と照らし合わせてヤマトが木星で見せた威力を把握し、その対応に追われていた。
 長く軍に在籍しているシュルツではあったが、ここまでの威力を秘めた大砲など見たことが無い。
 髪の薄くなった頭頂に汗が浮かび、流れ落ちる。

 「いかん。ヤマトを野放しにしては、いずれガミラスにとって無視出来ない脅威となる。何としてもここで潰さなければ」

 シュルツは本星へ一部始終の映像を送り、その対応についての協議を求めていた。

 シュルツとて誇りあるガミラスの軍人であり地球攻略作戦の最前線を任された立場だ。相応の覚悟を持って務めているし例え本国からの救援などが無いとしてもここでヤマトを叩き潰すために必死の策を練っている。
 とは言えヤマトの脅威を知らせないわけにはいかない。ガミラスに万が一にも敗北をもたらさないためにも、打てる手は全て打つ。
 それがシュルツのガミラスへの、デスラー総統への忠誠心だった。






 「デスラー総統。冥王星基地のシュルツ司令より入電です。ヤマトがタキオン波動収束砲を使用したとの事です。それも、6連射したと」

 ヒス副総統の報告を受けてデスラーはくつくつと笑う。
 その様子に不安げな表情を見せるヒスではあったが、彼が何かを言う前にデスラーは言葉を紡ぐ。

 「やはりイスカンダルからの技術提供を受けていたか。それも6連射――如何にイスカンダルの技術を得たと言っても、あの未熟な文明では一朝一夕でそのような物は作れまい――ヒス君、確か地球とその月の間に、得体の知れない氷塊があったと思ったのだが?」

 デスラーの発言の真意を汲み取ったヒスははっとした顔で肯定する。

 「はい総統。地球とその月の間には正体不明の氷塊があります。最も古い記録では、地球の内紛に乗じて宣戦布告をした段階で確認されていますが、それ以前の偵察段階では発見されていませんでした。また、宣戦布告とほぼ同時刻にわずかな時間だけ強烈な時空間の歪みを計測したとの報告があります」

 当時の資料を思い出して告げる。
 あの時はすでに地球攻略作戦が開始されていたこと、発見された氷塊には何の動きも無く、それを調査する時間的余裕も無かった事から放置されていたのだが……。
 どうやら失策だったようだ。

 「なるほど。そう言う事か……どうやらヤマトは純粋な地球艦ではないらしい」

 「は?」

 「ヤマトはその氷塊に乗って地球に漂着した艦なのだろう。恐らくは我々の侵攻と氷塊の出現は同時期で、その中にあったヤマトを引き上げて使っているのだろう。その機能を使えている事と、イスカンダルとの繋がり――もしかしなくても、あのヤマトは並行世界から漂着したのかもしれないな」

 「並行世界、ですと?」

 突拍子の無いデスラーの言葉にヒスは困惑するが、並行世界の存在そのものはワープ等の研究からある程度立証されている。
 無論、ガミラスにそれを意図して渡る術は無いし、特別研究もされていない。
 ただ、次元の狭間を利用した戦術は研究中だ。それに点在する次元断層の幾つかは、ガミラスの大演習場として使われている。
 次元断層の中は通常空間からは観測出来ないため、艦載の新兵器のテストを秘匿したい時などにも使われる。

 「それだと全ての辻褄が合う。恐らくヤマトは並行宇宙の、あの未熟な文明が短期間に運用を学んでいることからすると、並行宇宙の地球から送り込まれたか、それとも何らかの事故で流れ着いたと考えるべきか――氷塊、水、もしや。伝説のアクエリアスか」

 デスラーは顎に手を当てて記憶の中にある情報を引っ張り上げ推論を並べていく。

 「アクエリアスと言えば、かつてイスカンダルとガミラスの祖先が住んでいたと言う星に、水と生命の息吹を与えたと言われる、あの回遊水惑星の事でしょうか?」

 ヒスも記憶の中にある情報を引っ張り出してデスラーの言葉を理解する。

 ガミラスにとっても遥か昔の記録に残されているだけで、詳細は無いに等しい文字通り“伝説”とされている惑星。
 それは銀河の中を自由に巡り、近づいた星を水没させ、何もない星なら水と命の種子を、文明があればそれを押し流して水没させると言われている。
 もっとも、そのような星が実在していたとしても、現在までに残っているかは定かではないが。

 イスカンダルもガミラスも、元々そこに誕生した生命ではなく、別の星で生まれた文明が宇宙に広がっていった過程で移民し、国を作ったに過ぎない。
 だが、度重なる内紛等で詳細な資料は失われていて、その原点がどこにあるのかはすでにわからなくなって久しいのだ。

 「その通りだ。かつて我がガミラスを内包する大マゼラン雲は、地球を含む銀河の傍にあったと聞く。その際に移民を行った民族の末裔が、イスカンダルとガミラスに国を作ったと伝えられている。アクエリアスはあの銀河の中を回遊しているとの記述も残されていた。という事は、その並行世界の地球は実在していたアクエリアスに接近され、水害に晒されようとしていた。それを防ぐためにヤマトが、恐らくはタキオン波動収束砲を使用した何らかの策を講じて防ぎ、それが生み出す時空間の歪みに落ち込んで並行世界間を超えた、と考えるのも当たらずとも遠からず、と言ったところだろう。ワープ技術に転用されている様に、波動エネルギーには時空間を歪める作用がある。何かの弾みで並行世界間の壁に穴を開ける事も無いとは言えない――そうか、だからイスカンダルに……」

 「総統?」

 急に黙り込んだデスラーにヒスが心配になって声をかける。
 デスラーはしばらく考え込んだ後、ニヤリと笑うと合点がいったと言う顔でヒスに言い放った。

 「どうやら連中を少し見くびっていたようだ。ボソンジャンプを高度に使いこなせる何者かがいるらしい」

 「ぼ、ボソンジャンプでございますか?」

 「そうだ、誰かは知らないがヤマト出現の時空の歪みを利用した超長距離ボソンジャンプで、イスカンダルにコンタクトを取ったのだ。だからスターシアは地球に使者を送ったのだろう。恐らくヤマトは破損していてすぐには使えなかった。そして出現の遅さを見る限り修理に必要なデータ――推測だが波動エンジンとタキオン波動収束砲が破損していたのだろう。だから、イスカンダルの使者無しでは出現出来なかった。そして、コスモリバースシステムに必要なシステムとして、6連射可能なタキオン波動収束砲のデータを送ったのだろう」

 デスラーの推測は恐ろしい事に的を得ていた。
 わずかな情報から己の知識を最大限に活用して、ヤマト出現の真相をほぼ見抜いていたのだ。

 「しかし、そのようなことが本当に可能なのでしょうか? 如何にボソンジャンプと言えど、16万8000光年もの距離を覆すようなものでは――」

 「可能でなければヤマトは出現していないだろう――もっとも、地球にヤマトの後に続く艦を作る余力はあるまい。ヤマトの出自がどうであれ、あの艦さえ粉微塵に粉砕すればそれで終わりだ。シュルツに全力でヤマトを潰せと命じろ! 冥王星前線基地に援軍を送れ! ヤマトはイスカンダルに行く前に必ず冥王星基地を叩きに来るはずだ。冥王星をヤマトの墓場にしてやるのだ!」



 新宇宙戦艦ヤマト&ナデシコ

 第一章 遥かなる星へ

 第六話 氷原に眠る



 宇宙戦艦ヤマトは一路土星に向かって進路を取っていた。

 案の定波動砲の反動でヤマトは傷を負っていた。
 発射口周辺の装甲板に亀裂が入ったのもそうだが、波動エンジンのエネルギー伝導管が焼け付いたり、コンデンサーの融解が発生。このままではエンジンそのものが致命的な損傷を被りかねない危機的状況にある。
 そのため初速を稼いだ後は波動エンジンを停止し、相転移エンジンから得られるエネルギーのみでの片肺飛行を余儀なくされていた。

 元々ヤマトのメインノズルはタキオン粒子の噴出による反動推進と、タキオン粒子の持つ空間歪曲作用を利用した、フィールド推進機関を併用した複合推進装置だ。そのため、タキオン粒子を生み出せない相転移エンジンからの供給だけでは作動しない。
 また、波動エネルギーの転用によって機能している重力波兵器やディストーションフィールドも、相転移エンジンからの電力供給のみでは十全な機能を発揮出来ない。

 一応、波動エンジン停止時に相転移エンジンからの供給で最低限の機能を維持出来るバイパス回路が用意されていたので、ヤマトの機能が失われるという事だけは避けられているが、それでもヤマトの消費に釣り合うエネルギーを、6連相転移エンジンが生み出す事は無い。

 そのため、ヤマトは現在まともな戦闘能力が無いに等しい。出力不足で火器も防御も機動にも著しい制限が掛かっているのだから当然だ。

 土星到着まで約2日を想定しているが、その間ガミラスの攻撃が無い事を祈るばかりと言う、大変心許ない状況に置かれていた。






 「ガミラスの追撃が無いのは不幸中の幸いだね……あちらさんも、波動砲が相当怖いみたい」

 と艦長室でアキトと雪と一緒の食卓を囲んでいるユリカが溜息と共に独り言ちる。波動砲の試射から数時間。流石に食事が喉を通らないが、いやでも摂取しなければあっと言う間に駄目になる体なので、無理やり胃に流し込む。
 食べ慣れたはずの栄養食が、何時にも増して不味く感じる。アキトが傍にいてくれるのにこれだという事は、自分の決断ながら相当堪えているな、と考える。

 アキトも雪も食の進みは遅かったが、同じ気持ちなのか食べ物を口に運ぶことを止めない。アキトはプレートメニュー(白米、合成肉のステーキ、ミニトマトの入ったレタスのサラダ、コーンポタージュ、ヤマト農園産トマトジュース)を、雪は手軽に食べられるタマゴサンドと野菜サンド、それに紅茶パックを夕食として持ち込んでいる。
 食の進みも遅いが会話も弾まない。波動砲で市民船を消滅させたことを、誰もが気に病み艦内の空気を悪くしていた。

 「確かにな。今まともに戦おうとしたら艦載機しかないけど、ダブルエックスと重爆装備のエステバリス以外じゃまともな対艦攻撃出来ないし、結構不味いよな」

 アキトは合成肉のステーキを齧りながら、ユリカの意見に賛成する。
 ユリカの前で普通に食事するのが申し訳ないアキトだが、一緒に食べる事をユリカが喜んでくれているし、こっちが遠慮すると却って気にしてしまうので、我慢して食べる。

 ヤマトも食糧事情は決して豊かではないため、食品の一部が早くも合成食品になっている。
 今齧っているステーキにしても人工的に培養したたんぱく質をそれっぽく固めているだけなので、勿論本物の肉には味が及ばない。
 味覚を失っている間はそれこそ栄養食だけで過ごしたアキトだが、せっかく味覚が戻ってもこれでは嬉しさ半減。いや、自分が閉じこもっている間にここまで状況が悪くなっていたのだと改めて思い知らされた。
 今はまだ野菜もその形を保っているが、そう遠くない内に食用プランクトン等を固めた、野菜代わりのペースト食か固形食に切り替わる。

 それでも農園が稼働している限りは多少なりとも形を保った野菜が得られるのが、せめてもの救いだ。
 と言うか、ユリカが言い出したある要望のおかげで予定よりも早くに合成食品を使わざるを得なくなったのだ。内容が内容なので反対意見よりも賛成意見が勝ったため、結局こうなっている。

 「でもガミラスが慎重になるのもわかるわ……あの威力、使った私達自身が一番怖いのだもの」

 雪が自分の気持ちを吐露する。
 あの力に頼らなければヤマトの航海の安全は無く、今後の地球の安全問題にも関わってくるかもしれないと知らしめられた直後なだけに、ついつい波動砲の事を考えてしまいがちだ。

 その後も会話は弾まずただ食事を口に運ぶだけに留まり、ユリカが入浴する段階になるとアキトは食器を引き取って艦長室を後にする。
 夫とは言え自分がユリカの入浴介助をするのは流石に風紀的に不味い。

 それに、欲望を抑えきれずに襲い掛かってしまったらユリカの体に大きな負担をかけることになる。
 今の彼女のコンディションでそんな負担を掛けたら大変なことになりかねないので我慢するしかない。
 夫として、妻を苦しめる行為だけは避けたいのである。

 ――もの凄く残念だけど仕方が無いのだ!



 「ねえ雪ちゃん」

 「何ですかユリカさん?」

 ユリカの髪を丁寧に洗いながら雪は応対する。

 「進君とは進展無いの?」

 「えっ!?」

 ユリカの突拍子もない言葉に動揺してつい手に力が入る。髪を引っ張られたユリカが「いだっ!?」と呻く。ついでに首が勢い良く後ろに倒れる。油断していたから殊更ダメージが大きい。

 「す、すみませんユリカさん。でも、いきなりそんなこと言うから」

 動揺を隠せない雪はドギマギしながら洗髪を続ける。
 ユリカは痛む首を摩りながらも追及の手を緩めない。

 「だって、案外そういう話が聞こえてこないし。やっぱり職場が違うとなかなか厳しいのか――私の時は結構アキトに会いに行ったけど、雪ちゃん忙し過ぎるよねぇ」

 と、ナデシコ時代を思い返してみる。
 ユリカの時はジュンが日頃の雑務の多くを引き受けてくれていたし、むしろ押し付けてアキトに会いに行っていた。

 ……今思うと艦長としてどうかとも思うが、その結果アキトと結ばれたのだから個人的には良かったのだろう。
 ――艦長としてはやっぱり減点だろうが。

 対して雪は真面目に責務を果たしているし、艦内での仕事はむしろかなり多い。

 300人もの人間が日々生活しているとなればどうしても消耗品の消費も激しく、様々な問題も発生する。
 生活班としてそれらに対応する事は勿論、クルーの健康を日々気遣い食事のメニューの決定や健康診断の実施、怪我人が発生すればその治療だったり場合によっては手術の有無、さらには艦内の食糧プラントの管理運用に各部署から要求される生活必需品や常備薬の補填や交換等々。
 それらの統括責任者である雪の仕事は中々に大変なものだ。

 無論生活班と一口に言っても部門毎に分かれていて個々に責任者がいる。
 イネスも生活班医療科の責任者であり艦医の立場にあるし、食堂の管理を任されているのは炊事科の平田一という古代と島の同期の1人だ。結構腕が立つので合成食品が使われているヤマトの食事も割と好評だ(ナデシコ組には物足りない様子だが)。
 ――密かにアキトは料理人として尊敬していたりするので、暇を見つけては少し話をして、どのような創意工夫を持って美味な料理に仕上げているのかを色々訪ねてはメモしたりしている。
 復帰後に反映すべく座学に余念が無い様子だ。

 「そ、そんなこと言われても。今の古代君はそんな余裕が無いですし……」

 てな感じでテレテレしながら雪が反論する。
 実際今の進は何としてでも冥王星基地を叩いて見せると意気込みも露にゴートやら月臣やら、さらには基地攻略の要になるであろうアキトを交えて戦術論争に余念が無い。
 それ以外でも日々の日課であるトレーニング全般に愛機の整備作業の手伝いなど、忙しく過ごしているため雪と遭遇する回数は片手で数えるほどしかない。

 「出航して3日目にしてそれじゃあ体が持たないのに……ねえ雪ちゃん、仕事を増やすようで悪いんだけど、タイタンでお仕事頼んで良い?」

 にっこりと微笑んだユリカの提案に、少し悩んだ後雪は応じた。

 (これで少しは進展すると良いなぁ。ヤマトの記憶とか関係無く、お似合いに思えるしね)

 てな事を考えながら、ユリカは進と雪をくっ付けようと色々画策し始める。完全に下世話なのだが彼女は全く気にしていない。
 お似合いだと思うのは本当だし、進にはこういったしっかりした女性が一緒にいた方が良いだろうという、完全な親目線の思考が定着している。

 それが進にとって良い事なのか悪い事なのか、神のみぞ知る。






 入浴を終えたユリカは、少し涼んでから雪に手伝ってもらいベッドに入った。

 だが、全く寝付けない。

 頭上に広がる宇宙空間を何とも無しに見ている。
 体は疲れ切っているはずなのに意識だけははっきりと覚醒して眠れない。

 脳裏を駆けまわるのは波動砲で消滅した市民船の姿。
 そして、熱い涙を流して自分を擁護した月臣の姿。

 強烈な罪悪感に胸が苦しい。かつて故郷を奪った相手、自分達の幸せを奪った相手の故郷とは言え、こんな結末は望んでいなかったと言うのに。
 ガミラスとの戦いが終わったら、再建は無理でも思い出の品の回収くらい出来たかもしれないのに。

 その機会を永遠に奪ってしまった。許されないことをしてしまった。

 思い返されるのは自分の判断ミスが原因で死なせてしまったユートピアコロニーの生き残り。あの時の光景と波動砲で消し飛ばした市民船の姿が重なる。

 ――気持ち悪い、吐き気がする。

 後悔渦巻くユリカの胸を突如として激しい痛みが貫く。体を内側から引き裂かれるような、まるで寄生生物か何かに食い荒らされて突き破られるような、到底堪えられない程の激痛にユリカは絶叫する。

 「あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁーーーーーーっ!!!」

 両手で胸を抑えてエビ反りになって苦しむ。
 痛みで霞む視界の中から何とか右側の壁に据え付けられている艦内通信パネルを見つけて、ユリカの為にわざわざ用意された医務室への緊急コールボタンを渾身の力で叩くが、上手く叩けなくて2度3度と叩いてようやく押すことに成功した。
 パネルの点灯を見届けたユリカだが、安堵する間も無く絶え間なく襲い掛かる激痛に身を捩って堪えようとするが痛みは収まらない。

 むしろ強くなっているような気すらする。

 ベッド横の棚に置かれた薬に手を伸ばすことも考えられず悶え苦しみ、とうとうベッドから転がり落ちる。両目から止めど無く涙が溢れ、口から泡を飛ばし、ビクビクと手足が痙攣を起こす。すでに視界は焦点が定まらずまともに像を結ばない。
 それでも何とか意識を保つ。意識を失ってしまったら2度と覚めないと思い、激痛に吹き飛びそうになる意識を何とか繋ぎ留めて耐える。

 「た……助け、てぇ……だれ、かぁ……あ、あき、とぉ……」

 霞む視界の中、ドアに向かって手を伸ばし、救いを求める。度重なる死神との死闘で弱り切った体と心がさらに疲弊していく。

 それでもユリカは戦い続ける道を選ぶ。

 全てはこの先にある未来の為。

 地球を救い、この戦いを終わらせて、もう1度アキトと一緒にラーメン屋をするため、アキトの子供を産むため、ルリに今一度暖かい家庭を与えるため、ラピスに家庭と言うものを教えるため、エリナやミナトら友人達と楽しい時間を過ごすため。
 そして息子同然と愛情を注ぎ始めた進の為にも。

 負けられない。その一心で必死に生にしがみ付く。

 緊急コールを聞きつけた当直のイネスが、第二艦橋の下にある医務室から緊急セット一式を詰めたカバンを下げて、2分もしない内に駆け付けてくれたのは、彼女にとっての救いだった。






 その後イネスの懸命の処置で何とか落ち着いたユリカは、ぐったりとした様子でベッドに身を委ねている。
 半分だけ開かれた瞼から覗く目は、焦点が合っていない、薄く開いた唇からは呻き声が漏れ、汗に塗れて青白くなった顔が痛々しくて見ていられない。
 痛みとの戦いで力を使い果たしたのか、意識もはっきりしていなくて、こちらの呼び掛けにもあまり反応してくれない。

 教えておくべきだろうと呼び出しを受けたアキトとルリ、エリナとラピスも青褪めた顔でユリカの容態を伺っている。

 「おそらくストレスが原因ね。波動砲の件、想像以上のストレスだったみたい」

 イネスの診断に全員が納得しつつも、慰めの言葉が無い事実に気落ちする。あの状況ではあれ以外に選択肢が無いのは事実だ。だがそんなことは彼女自身が一番良くわかっている。
 仕方なかった、で納得出来るほど小さな問題でもない事も、身に染みている。

 彼女は自身の決断で、滅ぼされたとはいえ木星市民が還るべき場所の一画を永遠に奪ってしまったのだ。

 「ここ最近は薬で落ち着いていたけど、やっぱり過度のストレスがかかると抑えきれないのね……」

 イネスの表情も暗く、悔しそうだった。彼女の力を出し切っても、イスカンダルの医療技術を活用しても、現状では救う手立てが無い。
 そしてこの一件で、今後ガミラスの妨害で激戦に晒されたら、大宇宙の自然が牙を剥いてきたら……それを乗り越える度に、そのストレスでユリカが苦しむ可能性示された。
 それはすなわち、彼女の遺された時間が急激に減っていくという事を意味している。

 その残酷な事実がこの場にいる全員を打ちのめす。

 「ユリカ……」

 涙声で妻の名を呼ぶアキト。
 彼にとっては初めて見るユリカの姿に胸が騒めく。
 自分の知らぬところで彼女は幾度もこのような苦しみを味わい、そして耐えてきたのだろう。
 滅んでもなお彼女を苦しめ続ける火星の後継者に改めて怒りが湧いてくるが、組織としてはすでに影も形も無く、荒廃した地球で死に絶えた連中にアキトが出来る事は何一つ無い。

 そしてアキト自身も、ユリカにしてやれることは殆どない。
 ストレス解消のために日々の生活を共にすることしか出来ないのに、彼女がこうなったのは自分がその役割を果たせなかったからではないかと後悔が胸に渦巻く。

 「イネス、彼女の傍に誰かおいていた方が良くないかしら。せめて今日だけでも」

 そう提案するエリナにラピスが手を挙げる。

 「私が残ります。ルリ姉さんよりも体が小さいから、一緒に寝ても負担に成り難いと思う。本当はアキトが一番だと思うけど、風紀上の問題があるんでしょ?」

 何時に無く積極的なラピスに全員が頷く。

 「頼むよラピス。ユリカを見ててやってくれ」

 「私からもお願いします。ラピス、何かあったらすぐにイネスさんを呼んでね」

 「頼んだわよラピス。でも、貴方もしっかり休まないと駄目よ」

 各々が頭を下げ、名残惜し気に艦長室を後にする。これ以上ここに居ても邪魔になるだけだ。
 帰りのエレベーターの中で我慢しきれなくなったルリはついに泣き出してしまう。
 地球帰還後は、薬のおかげで以前のような発作を起こさなくなっていたユリカに安心していただけに、今回の発作が殊更ルリの心を乱している。

 「ルリちゃん、貴方も今日は私の所に泊まりなさい。放っておけないわ」

 「――は、い。お、願い、します」

 しゃくり上げながらエリナの提案に応じたルリはそのままエリナの部屋に連れられて行った。アキトも自分の部屋に戻りベッドに身を投げ出す。

 「――大丈夫だったのか?」

 同室になった月臣が声をかけてくる。
 ヤマトの乗組員は各班・各科のチーフなどを除けば基本的には2人部屋か3人部屋で生活する。
 出航直後は月臣は2人部屋を1人で使う形になっていたが、これはアキトを意地でも送り出してヤマトに乗せようとしたアカツキの配慮だ。
 こういう事態の時、見ず知らずの人間よりは行動しやすいだろうと、気遣ってくれたのである。
 つまり月臣もその点では共犯者である。

 「何とか」

 「発作の原因は?」

 月臣が訪ねてくるが、アキトはすぐに答えられない。沈黙で誤魔化そうとしたが、駄目だった。

 「――俺に言えない事なのか?」

 「――波動砲の、ストレスだろうって、イネスさんが言ってた」

 これを月臣に告げるのは酷だろうと思ったが、そこまで食い下がられては言わないわけにはいかない。
 「そうか」と言葉少な気に受け入れた月臣は続ける。

 「気にするな、と口にするのは簡単だ。だが、慰めにはならないだろうな」

 月臣とてユリカが心配だ。彼女を、そしてアキトを苦しめたのはかつて自分が信じた上官であり、正義なのだ。その犠牲者を目の前に突き付けられ、もがき苦しむ様を伝えられては平気ではいられない。
 それに、ヤマトの再建計画やダブルエックスの開発で多少なりとも接点を持っている以上、月臣とて関係者の1人と言っても良い。

 「ああ」

 2人の間を沈黙が支配する。これ以上交わすべき言葉思い浮かばないし、交わしたところでユリカが救われるわけではない。
 彼女自身の決断が招いた事なのだ。酷なようだが彼女自身が乗り越えるしかない。
 願う事があるとすれば、他の木星出身のクルーが彼女を責めたりしないことだけだ。

 だが、それすらも虫の良い話だと2人は自己嫌悪に苦しむ。

 結局2人はそれ以上言葉を交わすことなく互いに眠りについた。
 その胸に、この状況を生み出した暴走した正義と、ガミラスへの怒りを燻らせながら。






 エリナの部屋に案内されたルリは、エリナに向かって胸に溜まっていた感情をぶつけていた。
 迷惑だろうと残された理性が訴えていたが、そうでもしなければ自分が壊れてしまいそうでどうしようもなかった。

 「どうして、どうしてユリカさんがあんな目に遭わないといけないんですか? 戦争に参加したから? A級ジャンパーだから? どちらにしたって理不尽じゃないですか……! 私たち家族が何したっていうんですかぁ……!」

 泣きながらしがみ付いてくるルリを優しく抱き留めて背中を摩るエリナは、黙ってルリの感情を受け止めあやし続ける。
 しばらくそうしていると、ルリがエリナから離れて両目の涙を拭う。
 無言で差し出されたティッシュを「ありがとうございます」と受け取って鼻をかんで、ようやく落ち着きを取り戻した。

 「御免なさいエリナさん。エリナさんに当たってもしょうがないのに」

 「構わないわ。下手に抱え込んでしまうよりも、吐き出してしまった方が楽よ」

 可能な限り明るく応対するエリナ。本当は自分だって無情な現実への不満を喚き散らしたい。
 だが、今はその時ではない。ここは堪えなければならない時だ。

 「ありがとうございます。今晩は、お世話になります……」

 「どうぞ、遠慮しなくて良いわよ」

 と受け入れる。
 その後は、エリナが個人的に持ち込んでいた嗜好品の紅茶を1杯頂いて、気持ちを落ち着ける事にする。

 「美味しいです――エリナさん、淹れるのが上手ですね」

 ルリはティーカップから漂う芳醇な香りを放つ琥珀色の液体を一口、また一口と口に運ぶ。
 口の中一杯に広がる香りと、熱い感触が荒れていた心を沈めてくれる。
 それにしても、良くこのご時世でこのような嗜好品を確保出来たものだと感心しつつ、ルリは紅茶を堪能する。

 「そりゃ会長秘書も務めましたからね。お茶くみだって立派なスキルよ――個人的な嗜好の追及でもあるけどね」

 答えながらエリナも自ら淹れた紅茶を一口。うん、上出来だ。

 「今度、私にも淹れ方を教えてくれませんか? ユリカさんが回復したら、淹れてあげたいんです」

 「私で良ければ何時でも教えてあげるわよ」

 断る理由も無いので快く応じる。
 どのような形であれ、前向きなのは良い事だ。

 「と言っても、貴重な茶葉なんだから、失敗したら承知しないわよ」

 冗談めかして告げるとルリの体がびくりと跳ねる。
 あれ、そんなにきつい言い方だっただろうか。

 「そ、そそそそうですよね。貴重なんですよね……ど、努力します」

 ルリの態度から「ああ、この娘普段料理とかしないし、お茶もティーバックとかインスタントで済ませてるんだな」と知れた。

 「大丈夫よ。付きっきりでみっちり教えてあげるから」

 朗らかに笑いながら宣言しただけなのに、ルリは恐縮した様子で「お願いします」と返事をする。
 こういう恥じらいの表情も可愛いではないか、とエリナは率直な感想を思い浮かべる。

 ナデシコA時代の彼女からは想像も出来ない感情豊かな表情に、当時を知る1人として成長を、時の流れを実感する。

 かつて大人のエゴで生み出された命は、その枷を振り切って健やかに成長した。そんな当たり前の出来事が嬉しく思える辺り、自分も丸くなったものだと苦笑する。

 そうやってお茶を楽しんだ後は、夜も遅いので寝支度を始める。明日の仕事に差し支えては本末転倒だ。
 ルリはエリナの寝間着を借りて一緒にベッドに入り込む。

 「――エリナさんと一緒に寝るなんて、想像もしていませんでした」

 「私もよ」

 ルリは子供のようにエリナの体にしがみ付いてその胸に顔を埋める。今は無性に人肌が恋しい。

 「ユリカさん、助かりますよね? イスカンダルを、信じて大丈夫なんですよね?」

 ルリは先程の一件で浮かんだまま払拭出来ない不安をエリナに打ち明ける。
 イスカンダルは確かにコスモリバースシステムと、優れた医療技術の一端を提供して地球に希望を与えた。

 ――だがユリカの体を治せるなどとは当然ながら言われたわけではない。

 そもそも彼女の事をイスカンダルが知るはずも無いし、知っていたとしても助ける理由が無い。
 彼女の体を蝕む病魔は地球人同士の内紛が原因でありガミラスが関与しているわけではない。

 これは、ルリ達が勝手に言っているだけの事なのだ。

 「――助かるわよ。イスカンダルの技術なら、きっとあの娘を元通りに回復させて――子供だって産めるようになる。そうしたら、貴方とラピスも含めた5人での生活が始まるのよ。信じてルリちゃん。そこに確かな希望があるのよ」

 らしくない物言いだとエリナは内心自嘲する。だが嘘は言っていない。イスカンダルに行けばユリカが助かる可能性が生まれるのだ。

 そう、“全てが上手く行けば”。

 だが、全てを知って行動する自分と、何も知らずにあるかどうかも定かではない希望に縋るルリとの間に、温度差を感じないわけではない。

 「大丈夫。彼女は必ず昔の儘の元気な姿を私達に見せてくれるわ。信じるのよルリちゃん」

 それは自身に言い聞かせた言葉でもある。例え万に一つの可能性でも0でないのなら縋るしかない。
 それはユリカだけなく、地球にも言える事なのだ。

 今はただ、信じるしかない。






 「ごめんねラピスちゃん……」

 非常に弱々しい声で謝るユリカにラピスは、

 「全然大丈夫だから心配しないで、ユリカ姉さん。私、ユリカ姉さんと一緒に寝れて嬉しいよ」

 左手を抱えるように抱き締めて慰める。
 イネスが去った後も顔色が優れず、薬が効きピークを過ぎたとはいえ苦痛が残っているのか呻くユリカを、ラピスは30分くらいはベッドの傍で額に浮かぶ汗を拭ってやったり手を握って励ましたりしながら様子を見続けた。
 少し具合が良くなったのを見定めてから自分もベッドに潜り込む。余り夜更かしをすると自分の仕事にも差し支える。
 元々1人用でそれほど広くないベッドだが、小柄なラピスが抱き着く格好になれば何とかなる。互いの体温を感じて、ユリカもラピスも安らぎを覚える。

 「何時でも頼って欲しいの。戦闘指揮とか、皆の鼓舞とかは私じゃ務まらないけれど、機関長としてユリカ姉さんを支えることは出来ると思う。だから抱え込まないで。私も、ユリカ姉さんの家族なんだから」

 ラピスははっきりと自分の意見を告げる。アキトに助けられて火星の後継者と戦い、それが終わったらヤマトの再建と、平穏な時間を過ごせているとは言い難いラピスではあるが、これまで出会って来た人達との絆の大切さはわかる。
 だから教わって来た事を今度は自分が実践する番だとして、機関長の職務を懸命にこなし、そしてユリカの家族として彼女を支えるのだ。

 「うん――ラピスちゃん、暖かいね」

 「ユリカ姉さんも、暖かいよ……大好き、ユリカ姉さん」

 「私も大好きだよ、ラピスちゃん」

 互いの体温と鼓動を感じながら2人は次第に夢の世界へと旅立っていく……。



 ……前に。

 「でもここ結構怖いんですね。外丸見えで」

 頭上に広がるのは、無限に広がる大宇宙。

 星々の煌めきの中にあると、自分の小ささが身に染みる思いだ。

 と言うか、本当に吸い込まれそうな広大さと暗さにマジで恐怖が走る。
 ラピスは身を縮こまらせて恐怖を露にする。

 「うん……シャッター降ろそっか?」

 ユリカもラピスの意見に賛成する。この部屋ですでに3日生活しているわけだが、最初の1日は幼少時代を過ごした火星だったから問題無かった。
 だが、2日目に初めてこの部屋で、窓を開いた状態で就寝した時は真面目に怖かった。

 だって透明な硬化テクタイトを3枚隔てた(実は放射線除去や防御の都合で3枚重ねで、その間にフィールド等が展開されている構造)先に真空の宇宙があるのだ。それは恐怖である。
 ついでに星の明かりが室内に入り込むため、場合によってはそれで目が覚める事があるのも、すでに経験した。

 素直に再建の際、艦長室を移動しておけば良かったとつくづく後悔したものだが、衰えた体で緊急事態に即応し、艦橋に移動する事を考えると、旧来の構造を再現した方が都合が良かったのも事実だ。
 しかし、何故ヤマトは宇宙戦艦として生まれ変わる際にこのような場所に最高司令官の部屋を用意したのだろうか。考えれば考える程不思議だ。

 「勿論降ろしましょう」

 ラピスはユリカの提案にそれはもう眩い笑顔で応じた。
 ユリカは返事を聞くが早いか防御シャッターの開閉スイッチに手を伸ばして、シャッターを下ろす。

 艦長室の窓が装甲シャッターで覆われて、広大な宇宙空間が視界からシャットアウトする。
 一応弱い室内灯が点灯するので、完全真っ暗と言うわけではないが、これで部屋の中には安寧な光景が与えられたと言えよう。

 「それじゃ、改めてお休み、ラピスちゃん」

 「おやすみなさい、ユリカ姉さん」






 次の日、ユリカはラピスと雪と一緒に朝食を摂る。何故ラピスが艦長室にいるのか雪は疑問に思ったが「寂しかったから一緒に寝て貰った」とユリカが誤魔化したためラピスも本当の事は打ち明けなかった。
 その理由も事前に聞かされていたので多少呆れたが、特別反抗する理由もないので。

 「いやぁ〜。艦長室って剥き出しだから偶に怖くなるんだよねぇ〜。やっぱり再建の時に別の場所に移せばよかったかなぁ〜」

 ケラケラ笑っているユリカだが、雪は顔色が悪い事を即座に見抜いて、ラピスが一緒にいたのは彼女の様子を観察するためだと察した。だが、本人達が隠したがっているようなので余計な詮索はせずに、

 「そうですね。プライバシーがあってないようなものですし、女性の部屋としては不適切ですね」

 と話題に乗っかる。

 でも、艦長室のシャッターが下りていたことを考えると案外怖かったのは事実なのだろうと思う。
 景色は良いが暗い宇宙空間はじっと見つめていると、吸い込まれそうな錯覚を起こすこともあるので気持ちはわかる。

 「本当に怖かった。ユリカ姉さんもよくここで生活する気になったと思います――でも、プラネタリウムと考えれば大丈夫なのかな? 星の海はとても奇麗ですし」

 今は解放されている艦長室の窓の外を見て、ラピスがうっとりとした顔で感想を述べる。
 確かにドーム状の窓ガラスから観察出来る星の海は吸い込まれそうなほど奇麗だ。

 こういう席では、この景色を一望出来るのは悪くない。とてもムードがある。

 (何時かアキトとこんな場所で思う存分イチャイチャして、朝を迎えてみたいなぁ)

 等と凄まじい妄想をしながらユリカはスプーンを加える。

 本当に、弱り切った体が恨めしい。






 身支度を終えたユリカはラピスを伴って、と言うよりはラピスに同行する形で機関室に顔を出した。
 相も変わらず杖を突いて、ゆったりとした足取りで歩くユリカを心配そうに見ながらもラピスは止めない。
 いや、止めようとはしたのだが「空気が重いから巡視を兼ねて明るくしに行こう」と言い出したユリカを、例によって止める事が出来なかった。

 一応ユリカ自身も「艦内巡視に出るから随伴よろしく」とラピスを従えたり、機関室を見た後は途中でアキトと落ち合ってそのまま他の部署も見て回るつもりのようだ。

 本当は昨日の今日なので大人しくして欲しいのだが、言い出したら聞かなくて困る。

 機関室に足を踏み入れた2人。ラピスは近くにいた徳川太助の姿を認め、挨拶ついでに現状確認をしようと声をかける。

 「おはようございます徳川さん。エンジンの様子はどうですか?」

 「あ、おはようございます機関――」

 長と続くはずだった言葉が途切れる。その隣に制服をビシッと着た最高責任者の艦長が立っていれば無理も無いだろう。

 「か、艦長!?」

 太助の絶叫が機関室に響き渡る。
 その声に驚いた機関士達が一斉に出入り口に視線を向ける。
 確かにそこに艦長と隣に立つ我らが妖精の姿があった。

 「艦長! どうなされたのですか?」

 機関士の中ではベテランで副機関長の立場にある山崎奨が傍に駆け寄って用件を尋ねる。
 ユリカが(一応)重病なのは艦内周知の事実。それがわざわざ足を運んだという事は、何か重大な案件があるのかもしれない。
 もしかして、予定が変わって土星に行けなくなったとでも言うのだろうか。

 「いえ、皆の様子を見に来ただけです。エンジンも気になりますけど、私の知識と技術じゃどうにも出来ませんし、そこは皆さん頼みです。ははぁ〜」

 と言って機関士一同を拝むユリカの姿に全員が何とも言えない気分になる。
 仮にも最高責任者なのに、こんなに簡単に頭を下げて良いのだろうか。しかも拝まれてるし。

 「それに、艦橋と艦長室だけ行き来してるのも息が詰まりますし、顔を出しておかないと忘れられちゃうかもしれませんしから!」

 と言うユリカに対して、

 「いえ、それだけは無いでしょう……」

 と山崎は苦笑いを浮かべる。後ろで機関士達も似たような顔をしている。
 その脳裏に浮かぶのは当然なぜなにナデシコ――時折クルーの間でリピートされているので忘れられることだけは絶対に無いと思う。
 機関部門でも、ワープの回は理解を深めるためにとこの4日間でも結構な頻度で繰り返し見ているのだし。

 そもそも出航してまだ4日目なのに艦長の存在を失念するような者がいるのだろうか……居たらそいつは叱責確定だな、と山崎は考える。

 生真面目で頑固者の気がある山崎も、最初ユリカがなぜなにナデシコを始めた時は面食らったものだが、艦長として部下のケアに努めているのだと思えばまあ大丈夫――実際受けがいいし。
 ただ、視聴して部下がはしゃぐ姿は正直見ていて胃が痛む。
 お前らもう少し真摯に仕事に向き合えないのかと文句が口から出そうになるが、せっかくユリカやルリ、生贄1名が体を張って艦内の空気を明るくしようとしてくれているのにそれではいかんと、山崎は自分を抑え、仕事でミスをしたら叱責するに留めている。

 「あの、艦長」

 山崎の隣を抜けて数人の機関士がユリカに向き合う。その姿を見て山崎は眉を顰める。

 全員が木星出身のクルーだ。

 まさかユリカに腹いせをするつもりじゃないだろうかと疑うが、そのような気配も無いし決めつけて遮るわけにもいかない。
 ユリカも木星出身者であることを承知しているのだろう。先ほどまでの軽い雰囲気が消えて背筋を伸ばす。

 「冥王星前線基地を叩くとは、本当なのですか?」

 「本当だよ。最初からそのつもりだった。放置しておいたらヤマトが帰る前に地球が滅んじゃうかもしれないからね――それに、あそこを潰すことが、今まで散って逝った仲間達に対する弔いだと思う。例え反対されたとしても、私は艦長命令を持ってあそこを叩く――これだけは絶対に譲れない」

 これは本心だ。ユリカは別に争いを望んでいるわけではないし復讐とかにも興味は無い。だが愛するモノを護るために全身全霊をかけて戦い、今日まで希望を繋いでくれた英霊達に報いるためにも、あそこだけは叩き潰す。

 それを手向けとしてヤマトはイスカンダルに行く。この戦争の先にどのような結末が待っていようとも、仮にあそこを叩くことで今後の妨害がより苛酷になるとしても構わない。

 散って逝った、そして今も生きている仲間達の為にも、冥王星前線基地だけは絶対にこの手で叩き潰す。

 それがユリカの偽りならざる想いだ。

 「――それが聞ければ満足です。我々木星人一同、我々を受け入れてくれた地球の皆さんの為にも、そして地球に残してきた同胞たちの為にも、誇りと名誉にかけて任務に尽くします! 艦長、我々も共に戦います! 我々の想いは1つです!」

 全員が敬礼を持って熱い想いをユリカにぶつける。不覚にもユリカは胸が熱くなった。
 罵倒されてもおかしくないのに、着いてきてくれるのか。

 「わかった。ならもう一度言うよ。皆さんの命、私が預かります。ヤマト共に、必ず地球を――愛する家族の未来を救いましょう!」

 ユリカの言葉に合わせて木星人クルーの周囲にもウィンドウが展開、敬礼した同じ木星人のクルーの姿が映っている。
 その中には月臣とサブロウタの姿もある。
 どうやらコミュニケをサウンドオンリーで起動して全員に聞かせていたようだ。恐らく、彼らの内誰かがユリカに遭遇したらこうするつもりだったのだろう。
 ユリカは全員に向けて答礼して応える。もうこれ以上の言葉は余計だ。

 隣で不安そうな顔をしていたラピスも、今は笑みを浮かべてユリカの姿を見守っている。良かった、これでもうユリカは市民船の問題に潰される事は無い。

 その後は機関士全員を改めて1人1人激励し、エンジンの具合を聞いて頭を悩ませた。
 幸いラピス率いる機関班と真田率いる工作班の間ではすでにエンジンの改修案が固まっているらしく、後はコスモナイトを手に入れてエネルギー伝導管やコンデンサーを新しいものに置き換えるだけと言う段階まで言っていると聞いて、ユリカも顔を綻ばせる。

 「ただ、部品の交換作業には半日以上、部品製造にもその程度はかかると思われるので、改修後のテストも含めると1日、余裕を見ても1日と6時間は欲しい所です」

 とは山崎の意見だ。

 「わかった。後で大介君達と相談して日程の調整をするね――ベテラン機関士の意見だから無下にはしないよ。私は皆を信じてるから!」

 満面の笑みで言い切るユリカに機関士達も頼もしい笑顔で応じる。

 「じゃあ私他の部署見てくるね。ラピスちゃん、山崎さん、太助君、後よろしくね」

 手を振りながら踵を返す。ベテラン機関士である山崎奨はとても頼りになるのだが、名字の関係で自分達を弄んだあの科学者の事を思い出すのが辛い。
 まあ人を食った笑みを浮かべるあの科学者と違って、こっちの山崎はナイスミドルなおじさんと言った感じで頼もしいのだが。
 強いて言えばガミガミ五月蠅いのが玉に瑕か。恐らく内心ではユリカ達ナデシコのノリに馴染めない部分もあるのだろう。

 でも、自分が指揮する艦で沖田が指揮したヤマトの様な雰囲気はあり得ないので我慢して下さいと、ユリカは声に出さず山崎に諦めるように願う。

 ユリカはアキトと合流すべく廊下を進み、次の目的地である格納庫に向かう。心配させないように事前に連絡は入れておく。
 また怒られたくないし。

 「艦長、おはようございます」

 前から歩いてきたクルー達が挨拶してくる。うむ、ここは変な心配をさせないように1発ビシッと決めるとしますか。

 「おはよう、今日も頑張って行こうー!――っ!?」

 元気よく右手を振りかぶってみた時、異変が彼女を襲った。






 ユリカが機関室を立ってからしばらく、アキトはリョーコに断ってからユリカの様子が気になって待機室を出た。
 「すぐに行くよ〜」と連絡が来てから5分も経つが一向に姿が見えない。心配になったので迎えに行くことにしたのだ。
 一応コミュニケに連絡しよう。もしかしたらどこかで休んでいるのかもしれないし。






 その頃、ルリはハリを呼んで電算室で色々と相談を持ち掛けていた。

 「――やっぱり今のままだとガミラス相手にシステム掌握を仕掛けるのは無理だと思いますよ。ヤマトの通信システムの規格は、ガミラスのそれに近づいた物なのでナデシコCよりその点はマシだと思います。でも、ヤマトはナデシコCみたいに電子戦特化ではなく、極々オーソドックスな、直接相手と打ち合う正真正銘の宇宙戦艦です。オモイカネもヤマトでは全力を出し切れませんし、無理をすればその分ルリさんの負担も大きくなります」

 「――わかってはいても、残念です。システム掌握が出来れば戦闘の負担も減ると思ったんですけど……やっぱり無い物ねだりなのかなぁ」

 そう、ルリはハリに協力して貰って、ヤマトでも何らかの形でシステム掌握が実施出来ないかを再検証していたのだ。ユリカの負担を少しでも減らせないかと考えての事だったが、やはり今のヤマトでは難しい事が分かっただけだ。
 ヤマトの通信システムはガミラスの物に類似したタキオン粒子を使用した超光速タキオン通信波システム。ガミラスもどうやら似た様な物を使っていることが、ヤマトの完成に伴うデータ比較で判明している。
 なのでもしかしたら、と淡い期待を抱いたのだが、そうは問屋が卸さないようだ。

 「真田さんに相談して、ヤマトに改造を加えてもらうか、それとも何かしらの手段を講じれば限定的には出来ると思いますよ。対策されるとどんな攻撃だって通用しなくなって行くと思いますから、ルリさんが気落ちするようなことはありません!」

 ハリはルリを励まそうと力強く意見する。
 だが何の保証もないわけではない。ハリとてルリの落ち込みを放置出来ずに色々と知恵を絞り続けていた。
 以前の様に通信回線を利用したハッキングが出来ないのなら、直接相手に端末を打ち込んで強制介入するとか、もしくはハッキングではなくウイルスを送り込んで攪乱してしまうとかだ。
 とは言え、ガミラス艦のシステムのデータが不足気味なのでどの手段も有効とは言い切れない。

 「ありがとうハーリー君。励ましてくれて――せめて、ガミラスの兵器のサンプルでも手に入れる事が出来れば、徹底解析して対策を立てることも出来るのに……」

 ガミラスとの戦争が始まってすでに1年が経過しているが、一方的に打ち負かされ続けている地球はガミラスの兵器を直接鹵獲する機会には恵まれていない。
 無論地球とてガミラスの兵器を撃破はしているのだが、広大な宇宙空間での戦闘では中々回収出来るものではない。
 有効打になるのが相転移砲という事もあって、撃破した兵器は破片も残らない事も多かったのも、それに拍車をかけていた。
 ルリのハッキングによって得られた成果もあるのだが、全貌を解明するにはデータが不足気味だ。

 やはり、現物を抑えて徹底的に解析する他ない。出来れは基地施設とか軍艦のシステムを解析する機会が欲しい所だ。

 「これ以上根を詰めても意味がなさそうですね。オモイカネもご苦労様でした……ハーリー君、付き合わせたお詫びにお茶をご馳走するね。一緒に食堂に行こう」

 無理にでも笑顔を作ってハリを誘う。ハリも笑顔を作って応じるが内心では泣きたくて仕方ない。これではヤマトに乗る前の、ユリカが無茶をしていた頃のルリに逆戻りだ。

 多分、昨晩ユリカに何かあったのだろうとハリは見当をつけた。波動砲で市民船を吹き飛ばした事が負担になったんだと思う。あれは、自分にとってもとても辛くて、正直言えばまだ飲み込めてないし、昨日の夜はよく眠れていない。
 しかしハリはそれを顔を出さないように懸命に堪える。今ルリの前で泣くわけにはいかない。不満を言うわけにもいかない。敬愛するルリの為にも自分が我慢しなければ。
 ハリはその一念で涙を堪えて笑顔を浮かべる。

 電算室を出て食堂に向かう途中でサブロウタに遭遇した。

 「お、デートですか2人とも」

 「茶化さないで下さいよ、サブロウタさん!」

 サブロウタの軽口にハリはいつも通りの反応で応じる。
 こういう時サブロウタの存在が有難い。こうやっていつものノリを演じることがルリにとっての救いになると、ハリは信じている。
 だからこそからかって貰えたことを安堵してそれに乗る。

 サブロウタもそんなハリの心中は察しているし、ルリは彼にとっても敬愛する上官だ。だからハリが望む通りからかい、場を盛り上げるのだ。
 ――内心では宇宙の塵と消えた故郷に思う所がある。が、先程のユリカの答えでサブロウタも自分なりにケジメを付けた。
 ――全てのツケは、ガミラスに払わせる。

 「――まあ、そんなところですね。それともハーリー君は、不満?」

 心なしか頬を染めたルリの態度にハリもサブロウタもぎょっとするが、こういう時ハリの反応は光よりも速い。

 「め、めめめ滅相もありません! ぼ、僕はる、るるるルリさんとデート出来て大変こここ光栄です!」

 予想外のサプライズ(?)にすっかりのぼせ上がったハリはどもりながらも喜びの言葉を紡ぐ。完璧に地が出ているが取り繕う余裕なんてない。
 まさに天にも昇るような気持だった。
 こういうご褒美があるからこそ、ハリは普段我慢出来るのである。

 (これはこれは……)

 予想外のルリの言葉にサブロウタもたいそう驚いた。
 ルリなりの冗談、場を盛り上げるためのリップサービスなのかもしれないが、テンパってるハリを見るルリの目は優しく愛おしいものを見ているようだ。
 無論、これが今まで通り可愛い弟分に向けている視線とも取れるが、もしかするともしかするのかも。

 (まあこの1年、一番彼女を傍で支えてきたのはハーリーだもんな。もう少し男を磨けば案外チャンスあるんじゃねえか?)

 そう思うとサブロウタも嬉しくなってくる。可愛がってきたハリが着実に男に成長している。
 サブロウタもこの1年ハリのフォローやアドバイスをしてきた甲斐があったと言うものだ。

 「んじゃあ、お邪魔無視は去るとしますかね。楽しんで来て下さいよ、ルリさんにハーリー」

 と頭の後ろに手をやって飄々とした態度でその場を去ろるサブロウタ。

 (頑張れよハーリー。もしかしたらお前、ルリさんの一番星になれるかもしれないぜ)

 と、弟分にエールを送りながら持ち場に戻る。こんな日常を護るためにも、絶対に旅を成功させなければ。
 サブロウタなりに、改めてヤマトの使命の重みを実感しながら足を進める。
 その姿に何時もの軽薄さは無く、かと言って木連時代ほど堅苦しい物でもない、だがサブロウタらしい実直さが表に出ていた。
 敬愛する上官の為にも、可愛い弟分の為にも、より一層腕に磨きをかけて如何なる窮地も乗り越えて見せる。

 サブロウタは今、熱血していた。






 ルリとハリが食堂でお茶を楽しんでいた頃、アキトはユリカと医療室で合流していた。
 その理由は至って簡単で、ユリカが他のクルーによって医療室に運び込まれて処置を受けていた、ただそれだけの事だ。

 「――で、背中とか脚とか腕とかが攣って、動けなくなったと?」

 「……うん、心配かけてごめんなさい」

 雪に体を解して貰いながら消え入りそうな声でユリカが謝る。あの時元気よく挨拶をしたところ、全身が「ビキッ!」と言った感じで攣ってその場で動けなくなったのだ。
 声も無く青くなって硬直するユリカに驚いたクルーは、そのままコミュニケで医療室に連絡。迎えに来た雪や医療科の人間に運び込まれて治療と相成った。
 ――アキトがすぐにそのクルーに謝罪と感謝を伝えて、せめてものお礼として飲み物を奢ったのは自然な流れだっただろう。

 「多分筋力の低下が原因で姿勢が悪くなって、あちこちに負担が掛かっているんだと思います。それに、どうしても運動不足になりがちですから」

 ユリカの整体をしながら雪が説明する。本当に多芸な娘である。

 「ぅ……んっ……はぁ〜……気持ち良いぃ〜」

 整体して貰っているユリカも心地良さそうにしているが、アキトは心配が尽きない。果たしてこのままユリカに艦長を続けさせるべきなのだろうか。
 いや、代わりを務められる人間が居ないことは重々承知だ。このヤマトは従来の地球艦艇のノリで運用すると全く力を出し切れない。正しく乗組員の意思を纏め上げる象徴としての艦長が必要であり、それ足りえるためには優れた指揮能力と人間的な魅力が要求される。

 今のヤマトにはユリカに変わってそれが務まる人間がいない。
 ジュンは型にハマってこそ力を発揮するタイプから、こんな特殊な運用を必要とする艦の指揮官には向いていない。
 ただ、副官としてなら問題ない。むしろ型外れな指揮官をある程度抑えたり常識的な見地からの指摘は必要な事だから。

 ルリもどちらかと言うと駄目だろう。残念だがルリはその容姿から来る人気は絶大だが、人間的な魅力で人を纏めるカリスマには大きく欠けている。
 この人に付いていけば何とかなる、と思わせるような魅力と安心感が不足しているのだ。ただ、やはり副官と言うか縁の下の力持ちとしては必要な存在だ。

 後、ヤマトでユリカに変われそうな人間は――進だけだ。あの熱い人間性と意外なほど柔軟な思考を持ち、これと決めたらやり通そうとする意志の強さ。
 彼なら、ユリカの代わりにヤマトを引っ張っていく事が出来るはずだ。

 だが、彼は経験が大幅に不足しているし、熱血直情型の性格が少し落ち着かない限りは却って自滅しかねない危うさがある。

 「はいっ! これで終わりですユリカさん。後は湿布を張りますから、出来るだけ安静にしてて下さい」

 「えぇ〜。艦内見回るって言っちゃてるのに、ここで止めたら信用無くしちゃうよ〜」

 唇を尖らせるユリカの姿を「ちょっと可愛い」とか思いながら、アキトは助け舟を出すことにする。

 「雪ちゃん、車椅子用意出来ない? 俺が押して回るから」

 「用意出来ますけど。それだと艦長の具合を却って心配されませんか?」

 「言い訳なら考えてあるから問題無いよ。ユリカの体調が周知の事なら、夫の俺が過度な心配をしてそうしたって言えば誤魔化せるさ。それに、どっちにしたって病状の悪化じゃないんだから、バレてもそこまで深刻じゃないよ……笑い話にはなるかもだけど」

 朗らかに笑いながら告げると雪も「それもそうですね」と応じて、壁の収納庫に仕舞われている車椅子を引き出してアキトに渡す。その後はあまり匂わない湿布を貼って貰ったユリカを車椅子に座らせて艦内を練り歩く。
 予想通りユリカの具合が悪いのかと心配されたが、本人が至って元気なのとアキトが心配そうな顔をして見せればそれで大体納得して貰えた。

 そもそもヤマト艦内でこの2人の扱いは“ヤマトきっての熱愛(バ)カップル”であって、こういう組み合わせにさほど違和感を抱かないのである。
 痴話喧嘩に医務室でのアッツ〜いラブシーンに、先日のなぜなにナデシコでのアキトの行動は、すでに艦内に知れ渡っているのだ。

 そうでなくてもこの2人に何があったのかを概ね察しているクルー一同なので、アキトの心配もわからないでもないと考えているのも事実である。
 それだけに、この夫婦を救う事も、密にヤマト艦内では地球を救う事と並んで大切な使命である、と言う認識が定着しつつあった。



 でも、巡視中にイチャつくのは勘弁して下さい。口から砂糖が出てしまいます。壁に大穴を開けたくなってしまいます。

 お願いだからピンク色な空気を出さないでぇ〜。特に艦長自重して〜。

 と言うクルーの心の叫びは、残念ながら色々我慢し過ぎたせいでタガが外れているこの夫婦には、微妙に届いていなかった。






 翌日、ヤマトはようやく土星の姿を視界に捉えていた。

 太陽系第5惑星の土星。
 誰もが知る特徴的な巨大なリングが生み出す神秘的な姿は、ヤマトのクルーの心にも感銘に似た感情をもたらす。
 今まで人類が直接訪れた事の無い未知の惑星だ。太陽系内では著名な惑星で、映像資料や写真等で知らぬ者がいない程知名度があるとはいえ、実際にその姿を肉眼で確認したのはユリカが初めてである。

 当時、コスモナイトを手に入れるために土星圏に足を踏み入れたユリカは、あまりに凄い景色にコスモナイトの事も忘れてはしゃいで、危うく宇宙服の酸素残量が足りなくなるところだった。
 幸いにもそうなる前に我に返って事前に調べていたコスモナイトの鉱脈を探し出し、所在を確認した後ボソンジャンプでぶっこ抜いて帰還した。

 が、その時念のためにと持ち込んでいたカメラで思う存分周りの景色を撮影し、帰還後ジャンプの後遺症で具合が悪くなっているにも拘らず「スッゴイ感動的だったよ! みんなも見て見て!」とテンションも高くカメラを振り回して、案の定「安静にしてなさい!」とエリナとイネスに怒られたのである。

 ヤマトが立ち寄るのはその数多い衛星の1つ、タイタンだ。土星の衛星の中では濃密な大気を持ち、生命が存在する可能性を示唆されていた。
 太陽から遠いため、表面の温度は低く氷に覆われているが、多くの金属元素が眠っているとされている。

 ヤマトはこの星に微量ながら埋蔵されている、コスモナイトを必要としている。
 ヤマトは主翼を展開しつつ、補助エンジンを使ったタイタンの軌道に到達。上空から地表の様子を調べた後、降下していく。

 軌道上にヤマトを留める事も考えられたが、まともに戦えないヤマトを宇宙に置き去りにしたところで的になるだけだと判断し、それなら起伏に富み、クレバスなど身を隠せる場所のあるタイタン地表の方がマシである。






 そんなヤマトの姿を遠くから捉える影がある。ガミラスの高速十字空母だ。ヤマトに気づかれぬよう土星の輪の陰からそっと様子を伺っている。
 そして捉えたヤマトの映像とパッシブセンサーが拾った情報を、悟られぬよう慎重に冥王星前線基地に送り届けていた。






 「ヤマトが土星のタイタンに降下しただと?」

 「はいシュルツ指令。偵察の高速十字空母から報告です」

 発令所のモニターには空母が送り届けたヤマトの姿が映し出されている。
 今ヤマトは横っ腹からデルタ翼を広げ、タイタンの大気を滑空するようにして地表付近に降り立とうとしている。

 「ガンツ、解析データを出せ」

 「はっ!」と応じて副官のガンツが、送られてきたヤマトのデータをコンピュータにかけて速やかに解析、モニターに表示されたヤマトの解析図を読み上げて報告する。

 「エネルギー極度に微弱」

 「何? エネルギー極度に微弱だと?」

 シュルツが解析データに頭を捻る。

 「故障かも知れません。直ちに我が艦隊を繰り出して――」

 「待て、油断するな」

 シュルツは顎に手を当てて思案する。ヤマトには今まで散々煮え湯を飲まされている。
 功を焦っても勝てる相手ではない。
 これまでの解析データからして、悔しいが単艦での性能では我がガミラスの戦闘艦を大きく上回る化け物であることが明白なのだ。
 これが攻撃を誘うための演技の可能性すら捨てきれない。それに、今はヤマト迎撃の為戦力を冥王星基地に集中して作戦を練っている最中。
 迂闊に動かせばこちらが隙を見せることになりかねない。

 「しかし連中は、タイタンで何をするつもりだ?」

 シュルツはまだ現状を把握しきれてはいない。ガミラスが太陽系に侵入して1年が経過しているが、流石に全ての天体を掌握しているわけではない。

 地球人の居住区のある木星や火星等は制圧して支配下に置いたが、目当てだったボソンジャンプ関連の施設は勢い余って破壊してしまい、価値を失った火星は放棄が決定した。
 幸い過去のデータを基にジャミングシステムは形にしたが、あれとて完全ではない。ジャンプ時の座標を狂わせるのが精一杯で、ジャミング範囲内からの離脱に関しては止める事が出来ない。

 木星は地球への上陸作戦用の準備拠点として使っていたが、ヤマトのタキオン波動収束砲で吹き飛ばされてしまった。

 土星とその衛星にはまだ手を付けていない。

 資源を手に入れるだけなら開発が進んでいた木星圏を手に入れればそれで事足りたし、連中は手を付けていなかったが、衛星の幾つからかコスモナイトも手に入れることも出来たため、わざわざ貴重な時間と労力を割いてまで他の星を開発する必要も無かった。

 そんなことは地球を手に入れてからゆっくりとすれば良い。

 強いて言えば、この間の戦闘で撃沈した地球の駆逐艦1隻が墜落したので、それの捜査に部隊を送り込んだことはあった。おかげで何人か貴重な地球人のサンプルを手に入れることに成功し、本国に送還して1ヵ月。
 もしかして、タイタンに友軍艦が墜落したのを知って、その捜索にでも向かったと言うのだろうか。

 「探らせましょう。ヤマト偵察中の高速十字空母、応答せよ。高速十字空母、応答せよ」

 「こちら高速十字空母、どうぞ」

 「ヤマトのタイタンでの活動の目的を探れ。状況は逐一報告せよ。偵察を悟られない様に慎重に事に当たれ」

 「了解」

 冥王星前線基地からの指令を受けた高速十字空母は土星の輪から抜け出してタイタンに接近する。
 ヤマトに発見されないよう反対側から回り込みつつ、偵察のための艦載機を発艦させた。






 「よし、手早く作業しちゃいましょう! ヤマトの停泊理由を悟られたら大問題だしね」

 第一艦橋でユリカが明るい声で意気込む。今第一艦橋にはいつものメンツの他にも雪が呼ばれていた。
 ヤマトは現在地表のクレバスに身を隠し、ロケットアンカーを左右の崖に撃ち込むことで艦体を固定している。

 「2班に分けます。進君と雪ちゃんとハーリー君は信濃で発進して周囲の偵察をお願いします。真田さんは工作班からチームを作ってコスモナイトの採掘、出来れば他の有用そうな資源も確保しちゃって下さい。作業を迅速にしたいのでダブルエックスを忘れずに! 場所は渡したメモにばっちり書いてありますから。と言っても、コスモナイトだけ抜き取ってきたから表面から見てもわからないと思うので、超音波探知とかで不自然な空洞を探してもらえると一発だと思います!」

 ユリカは楽しそうに指示を出す。波動砲の一件以来沈みがちだった第一艦橋の空気が目に見えて明るくなって、気分が楽になるのを感じる。
 これは、この人にしか出来ないな、と誰もが受け止める。

 「ただし、ヤマトは今とても不調でまともに機能していません。ですので、行動は慌てず急いで正確に、状況判断を間違えないで下さいね」

 と締めてパンと柏手を打ち鳴らす。

 「はいっ! 『コスモナイトを手に入れてヤマトを元気にしよう作戦』開始です!」

 ユリカはそれはそれは楽しそうに宣言する。

 ――ネーミングセンスどうにかならなかったのか、とは誰もが思ったが疲れそうなので突っ込む者はいなかった。
 まあ、解り易いのは良い事だろう。と、強引に納得する。

 「よし、偵察は任せたぞ古代!」

 「了解! そっちこそ手早く頼みますよ真田さん!」

 互いに頼もしい笑顔で応じる進と真田にユリカも満面の笑みで見送る。



 真田たちが各種運搬船や作業艇、ダブルエックスを引き連れて発進した後、進、雪、ハリの3人は艦首底部に格納された“特務艇(または重攻撃艇)信濃”に乗り込んでいた。
 全長81mにもなる大型の搭載艇でヤマトの作戦行動の幅を広げるために貴重な艦内スペースを割いてまで搭載した新装備だ。

 潜水艦の様に凹凸が少ない艦体を持ち、艦首に引き出し式のT字型安定翼(スラスター内蔵)を装備し、艦尾には取り外し可能なブースターユニットを装備している。
 武装は上面の24発の垂直ミサイル発射管、艦橋もほぼ埋没している。
 優れたステルス性能や対電磁波シールドを持ち、先行偵察や敵陣に突入してかく乱を主目的としている。
 積載された24発の波動エネルギー弾道弾は、ヤマトのミサイルや主砲以上の火力を発揮する、波動エネルギーを転用したミサイルだ。封入された波動エネルギーは、トランジッション波動砲の1/80と、波動カートリッジ弾よりも多い。
 その火力や生産性の低さ等から使い所はやや難しいが、上手く使えればヤマトの火力支援としては申し分ない性能を持つ。

 しかし懸念材料として、旧ヤマトの波動カートリッジ弾をベースに開発しただけあって、波動エネルギーの安定封入には成功しているが、如何せん発射試験すら碌にしていないため、実際の効果が未知数なのだ。
 そもそも波動エネルギーを実際に扱えたのが2週間前、ヤマトの波動エンジンが組み上げられ、テストを始めた段階の話なので致し方ないが。

 波動エンジンを搭載していないため、単独でワープも出来ず、構成素材こそヤマトと同じだがフィールド出力でも見劣りすると、総合的な戦闘能力ではガミラスの艦艇には及んでいないが、それでも旧来の艦艇よりはマシだ。
 そもそもがヤマトの専属支援艦なので、用途に合わせた運用をすれば相応に役立つだろうと思われている。
 貴重な艦内スペースを食い潰してまで搭載した艦なので、役に立ってもらわないと困るのだが、後は実戦でどうなるかと言う所だろう。
 如何せん、試験運用はしているが実戦投入はこれが初めてなので仕方が無い。

 「よし、火器管制システムは異常無しだ。雪、レーダーはどうだ?」

 「こちらも異常無し、通信システムも正常、ハーリー君、そっちはどう?」

 「航法システムにも異常ありません。何時でも発進出来ます」

 信濃の点検は済んだ。続けて全員が長袖の手袋にヘルメットを身に付け、隊員服を簡易宇宙服として機能する様にしていることも確認する。
 「よしっ」と全ての準備を終えた進はすぐに管制室に連絡してハッチを解放させる。
 ヤマト艦首底部の大型ハッチが観音開きに開いて、そこからゆっくりと信濃の姿が現れる。オレンジを基調に青のアクセントの艦体色で、安定翼の側面にでかでかと漢字で艦名の信濃と書かれている他、艦尾にはヤマトと同じ白い錨マークも施されている。

 格納庫から完全に表れた信濃はゆっくりと安定翼を展開して加速、ヤマトから離れていく。このままタイタンの地表付近をアクティブ・ステルスを発動しながら飛び回り、パッシブセンサーで周辺を警戒する予定だ。






 ヤマトを離れた真田率いる工作班は、かつてユリカがコスモナイトを発掘した場所に来ていた。ユリカによれば、元々ヤマトの天文データの中にあった座標を実際に確かめてみたら本当にあった、と言う流れで発見したらしい(ヤマトの“記憶”も参考にしたのだが)。
 早速真田も各種探査装置を駆使して探ってみると、あった。ユリカが掘り当てた後だ。

 「あったぞ。手早く表面の岩を砕いてしまおう。アキト君、早速頼む!」

 「了解! しかし、よくこんな装備考えますね……これセイヤさんの仕事か?」

 「お? 気に入らねえかテンカワ。棘付き鉄球は男のロマンだろ?」

 と三者三様のやり取りを繰り広げる。現在ダブルエックスは専用バスターライフルの代わりに右手に巨大なハンドガード付きのグリップの先端に、スラスター付きの棘付き鉄球――Gハンマーを携えている。
 対ディストーションフィールド対策の一環として考案された装備で、「質量攻撃に弱いんだから鋭く尖った重量物なら突破しやすいんじゃね?」という発想とウリバタケの「男のロマン」によって試作されたイロモノ装備。
 地味にダブルエックスの開発に関与していた時から考えていたのだとか。

 ――なんでも、「ハイパービームソードのアイデアを真田に取られた」とウリバタケが敗北感を感じたのがきっかけで、よりロマン特化の武器を開発したのだと言う。
 ありがた迷惑な話だ。どうせ作るならもっと使い易そうな武器にして欲しいとアキトは真剣に考える。とは言え、ロマンを感じる気持ちはわからないでもない。

 グリップと鉄球の間はカーボンナノチューブワイヤーで結合されていて、最大で15mほど伸びる。
 伸びた状態でスラスターやダブルエックスの腕を使って勢いをつけて、フィールドコーティングも施した鉄球を相手に叩き付けると言う、シンプルイズベストな武器。
 まさしく鈍器、“ドタマかち割りトゲボール”の名に相応しい破壊力を期待出来る。

 なのだが、如何せん鉄球自体が重く、相転移エンジン搭載型のダブルエックスの強靭な骨格とパワーが無いと満足に扱えない困ったちゃんでもある。当然エステバリスじゃまともに使えない。
 ぶっちゃけ対機動兵器戦闘には向いていないと思われている。こういう破砕作業とか対艦攻撃で使い道があるか無いかと言う所か。
 おまけにサテライトキャノンの砲身と胸部に着くAパーツが邪魔になる為、GファルコンDXの姿ではまともな運用すら出来ないので、今後使い道があるのやら……。

 一応、他にもダブルエックス用のオプション装備として、柄の上下からビームソードを出力する“ツインビームソード”や、ビームソードよりも間合いが長く投擲にも対応した“ビームジャベリン”に、大型の弾頭を発射するカンフピストル風のロケット投射機“ロケットランチャーガン”等が用意されているが、今の所テストも碌に出来ていない。
 なんでも完成したのがヤマト発進の直後らしく、アキトらのテストに間に合わなかったのだとか。

 「じゃあ行きますよ。下がってて下さい!」

 アキトはGハンマーのワイヤーを伸ばして頭上で思い切り旋回させて勢いをつける。

 「フィールド出力安定、砕け!」

 ハンマーにフィールドを収束してスラスターに点火! 凄まじい勢いで岩壁に激突したハンマーは容易く岩壁を打ち砕いて周りに凄まじい土煙と礫をまき散らす。
 ダブルエックスもあっという間に土煙に飲み込まれて礫に全身を打たれるが、流石ダブルエックス何ともないぜ! 全くの無傷でセンサー類の保護グラスにすら傷が無い。

 湧き上がった凄まじい土煙もディストーションフィールドを上手く使って吹き飛ばして視界をすっきりさせる。
 成果のほどはまずまずで、岩壁を砕いで奥にあるコスモナイトの金色の輝きがわずかだが伺える。

 「よしっ! アキト君、この調子で続けてくれ」

 「はいっ! これは――病みつきになりそうだ!」

 と一気にテンションの上がったアキトが、ハンマーを岩壁に叩きつけては煙を吹き飛ばす作業を何度も繰り返す。
 2日前に苦しんだユリカの姿を見てから、溜まりに溜まっていた鬱憤を全て岩壁に叩き付けてやる、と言わんばかりのアキトの猛攻に、哀れ岩壁は粉々に打ち砕かれしまったのである。
 ――合掌。

 なお、その鬼気迫ると言っても過言ではないアキトの猛攻撃に、傍で見ていた真田とウリバタケを始めとする工作班の面々は背筋がぞっとしたとか。

 ――ああ、あいつもストレス溜まってるんだな。

 と同情もされたらしいが、その要因もどうせ我らが艦長だろうと考えると、普段目の毒になる程イチャイチャしてるのだから、これと言って言葉をかける必要は無いか、と投げ出された事を、アキトは終ぞ知る事は無かった。






 タイタンの地表付近、クレバスや山間を極力発見されないよう、推力を抑えながら飛んでいる信濃の中では、雪が幻想的な景色に心を躍らせていた。

 「うわぁっ! 古代君見て、凄く奇麗な景色よ!」

 ブリッジの窓から除く景色は一面に広がる氷の大地と、地平線から顔を覗かせる土星の姿。
 地球では決して見ることの出来ない神秘的な景色は、見る者を魅了すると言っても過言ではないだろう。

 「こら雪、遊びに来てるんじゃないんだぞ――でも、確かに奇麗な景色だ。こりゃ、偵察任務に出た甲斐があったかもな」

 進も一応叱りながら、同調する。紛れもなくユリカの悪影響だ。

 そもそも雪を信濃に乗せて偵察任務に就かせたのはユリカのお節介である。
 ちょっとでも関係が進展したらなぁ、という余計なお世話だ。

 この任務に託けたデートに水を差さないためにも、雪に自分の病状を正確に伝えたくなかったのである。とんだ親馬鹿思考だ。

 「確かに凄い景色ですね。宇宙ってホントに凄いんだなぁ」

 宇宙の神秘を体感したハリも、感動を顔に張り付けている。
 彼も同行しているのは勿論任務のバックアップの為でもあるが、彼なら人の恋路をむやみに邪魔しないだろうと言う思惑と、完全に2人っきりにするのは大介に悪いという、これまたユリカなりの配慮である。

 でも大介を同行させない辺り贔屓が出ているのは間違いない。

 「まあ、向こうの世界でも振られてるし、脈は無いから」

 と、ユリカは心の中で合掌して進と雪をくっ付けに掛かっているのである。
 進に比べて自立している分、大介は割を食っているのだ、いろんな意味で。
 多分彼は泣いても良いと思われる。

 「ルリさんにも見せてあげたいなぁ。きっと今頃電算室の中でデータと睨めっこしてるんだろうし。こういう景色を見てリラックスして欲しいなぁ」

 てな感じでハリがついつい本音を漏らすと、進は悪い笑みを浮かべて、

 「おやおや、愛しのルリさんとデートの妄想かぁ。ハーリーも隅に置けないなぁ」

 とからかう。顔を一気に赤くしたハリを見て、

 「古代君やめなさいな。人の恋路を邪魔すると、馬に蹴られちゃうんだからね!」

 と言って雪が庇う。「へいへい申し訳ございませんでした」と進が表情を変えずに形だけ謝る。
 しかし唐突に顔を引き締めて、

 「ん? 今何か見えたぞ!」

 2人に警戒を促す。雪もハリもすぐに計器を確認して痕跡を調べる。

 「これは、ガミラスの航空機です。恐らく我々を偵察に来たと思われます!」

 ハリが報告すると同時に雪は無線機を手に取って、

 「こちら信濃、タイタン上空にガミラスの航空機を確認! 繰り返す――」

 速やかにヤマトに連絡を取り、詳細な座標を転送する。






 「こちらヤマト、了解。信濃はそのまま警戒を続けて――工作班に告ぐ、タイタン上空でガミラスの航空機を補足、厳重注意の上、作業を急いで!」

 通信席でエリナが真田率いる工作班に注意を求める。
 艦長席のユリカも険しい顔で信濃から送られてきたデータを睨みつけている。

 「艦長、念のため航空隊の出撃準備をしておきますか?」

 ジュンが確認を取ると「そうだね、お願い」とユリカも短く応じる。

 「艦長、バイパスを通せばショックカノンも3発までなら保証します。しかし、ヤマトのエネルギーもほぼ空になります。場所が場所なので、武器は煙突ミサイルが最適かと」

 砲術補佐席のゴートが報告する。相転移エンジンの出力だけでは満足に戦えないヤマトにとって、ミサイルはエネルギーを抑えつつ使用出来る最後の切り札だ。
 とは言え、余裕を持って使える程の弾数は無い。
 ヤマトの場合、他の装備で内部容積が圧迫されている事と、艦内工場で資材さえあれば補充が出来るという変わった特性を有していることから、各ミサイルの弾薬庫の規模はやや抑えめなのだ。
 そこに、バリア弾頭の追加で通常弾頭の数がさらに減っているため、ヤマトはミサイルを攻撃の主体にする事が出来ない状況にある。

 「ヤマトの所在を明らかにするのは得策ではないので、直接攻撃は最後の手段とします。コスモタイガー隊はヤマト発艦後は距離を取って潜伏し、万が一に備えて下さい」

 ユリカはそう指示を出す。

 今襲撃されたヤマトは一巻の終わりだ。何としても凌がなければ……。

 「こうなると、信濃が頼りだなぁ」






 「くっ。まだ予定量のコスモナイトを採掘出来ていないと言うのに……!」

 工作船の中で真田が歯噛みする。アキト(の八つ当たり)のおかげで手早く岩壁を除去してコスモナイトの確保作業には入ったが、必要量にはまだ足りていない。
 ヤマトの航海に時間が無い事を考えると、何としてもここで確保したいところだが。

 「真田さん、俺が警戒に回ります。工作班の皆はそのまま作業を続けて下さい」

 アキトがダブルエックスで周辺の警戒を担当することを進言し、「頼む」と真田も頷く。
 アキトは機体を素早く岩陰に隠して、ちょっとした裏技を使って本来はサテライトキャノンの砲身を固定と照準に使う、両肩に内蔵されたマウント兼スコープユニットを展開して警戒に当たる。
 アクティブセンサー類を使うのは見つけてくれと言わんばかりなので、パッシブ光学センサー頼みでの警戒になる。
 一応電波の逆探知も出来るが、恐らく向こうも発見を避けるためにアクティブセンサーは必要最低限以下に抑えているだろう。

 「先制出来ればめっけものだけど、そうも言っていられないか……」

 今ダブルエックスは固定武装の大小合わせた6門の機関砲以外に飛び道具が無い。果たしてこの装備でどこまでやれるのやら。

 何せ棘付き鉄球だし。

 アキトは緊張で額に汗を滲ませながら警戒を続ける。
 こうなると、敵の不意を突いて先手必勝を狙うしかない。上手く行けば良いのだが。

 上手く行かなかったらとりあえず変な武装を考えたウリバタケを殴る。






 「雪、母艦の反応はまだないか?」

 「ええ、まだ見つからないわ」

 ガミラスの偵察機を発見した信濃は、ステルスを継続しながらタイタンの空を飛んでいた。とにかく本隊に連絡される前に叩き潰してしまわないとヤマトが危険だ。
 逆にここで手早く片付けて本隊との連絡を絶つ事が出来れば、幾許かの時間を稼げるかもしれない。

 「ハーリー、敵の母艦がいるとしたらヤマトの索敵範囲の外のはずだ。タイタンの地形データをもう一度確認して、隠れられそうな場所を探してくれ」

 「了解」

 と応じたハリが改めてタイタンの地形データを参照する。今の所地球が遭遇した空母タイプは高速十字空母だけだ。
 あの形状とサイズから隠れられそうな地形を算出するが、如何せん候補が多い。

 「――仕方ない。高度を上げて探索しよう。一刻も早く探し出さなければ」

 進は操縦桿を引いて高度を上げる。胸中には焦りが渦巻き、額に汗が滲んでいた。






 同時刻、ガミラスの偵察機はついに真田率いる工作班の一団を見つけていた。

 「あれは……コスモナイトか!」

 偵察機のパイロットは地表から露出する金色に輝く鉱石を見て即座にヤマトの目的を察した。

 「そうか、コスモナイトはエネルギー伝導管とコンデンサーに使う物質。ヤマトの不調は機関トラブルか」

 と唇の端を歪める。そうとわかれば話は早い。機関トラブルでは、あのタキオン波動収束砲も使えないはず。速やかに本隊に連絡してヤマトを叩く絶好の機会だ。
 そう考えて彼は通信機に手を伸ばした。






 「思い通りにはいかないぞ、ガミラス!」

 偵察機の姿を確認したアキトは脇目も振らず最大戦速で接近して、頭部バルカンで牽制を掛けながらGハンマーを思い切り振り抜く。
 ガミラスの偵察機はダブルエックスには気づかなかったようで、好都合な事に頭上を飛んでくれた。
 Gファルコンが無くてもダブルエックスの推力は桁外れに高い。戦闘機相手ならいざ知らず偵察機如きに後れを取るような事は無い!

 アキトの気合と共に射出されたハンマーはそのままガミラス偵察機の翼に命中して粉砕する。辛うじて機体を捻る事で、胴体への直撃は避けた様だ。
 中々良い腕をしている。
 しかしバランスを失った偵察機はそのまま錐もみ状態で墜落を始める。
 アキトはダブルエックス胸部に備わった4門の機関砲、ブレストランチャーを撃ち込んで容赦なくハチの巣にする。

 ブレストランチャーは近・中距離での使用を想定した“攻撃用”内臓機関砲である。頭部に備わったミサイルの迎撃と牽制、対人攻撃を目的としたヘッドバルカンとは火力が桁違いに高い。
 その威力はスーパーエステバリスの連射式カノンと同等と言うのだから、内蔵火器としては破格にも程がある火力を有しているのが伺える。

 万が一にもヤマトの状況を悟られぬようにと、徹底した攻撃だった。






 「偵察機124号、偵察機124号、応答しろ。偵察機124号!」

 ガミラスの空母では突如として連絡を絶った偵察機の行方を求めていた。

 「最後に反応のあった地点はどこだ?」

 艦長の指示に応じて部下の1人が座標を報告する。

 「よし、すぐに艦載機を向かわせろ! 何としてもヤマトの動向を掴むのだ!」






 「あれは……!」

 進は山の陰から飛び出すガミラスの艦載機の姿を見つけた。とすればそこに母艦があるはず!

 「よし! 母艦を叩くぞ!」

 「ヤマトに連絡しないの?」

 「通信を傍受されるかもしれない。奇襲で一気に叩く!」

 進は言い切ると操縦桿を操って信濃を敵母艦の予想潜伏地点に向かわせる。
 大型艦のヤマトと違って軽快な運動で信濃は山間を駆け抜ける。

 「見えた!」

 ついに信濃はガミラスの空母を捉えた。
 進は出力を食うアクティブ・ステルスをカットして火器管制システムを立ち上げる。まだ試験もしていない波動エネルギー弾道弾だが、威力は十分なはず。

 「これでも食らえっ!」

 発射レバーを下げると、信濃甲板の垂直ミサイル発射管(VLS)のハッチが2つ解放されて2発の大型ミサイルが発射される。白い弾頭はロケット噴射で加速してガミラス高速空母に接近する。
 空母側も信濃に気づいて迎撃態勢を取り、上部に備わった5連装ミサイルランチャーを起動して撃ちかけてくるが、古代は懸命に操縦桿を捻って信濃の巨体をまるで戦闘機の様に操り、追いすがってくるミサイルを何とか躱す。
 ガミラス高速空母も持ち前の快速で波動エネルギー弾頭弾を回避しようとするが、近接信管で起爆した波動エネルギー弾道弾の爆発に煽られてよろめき、脚の様に伸びだ艦載機射出口4本の内2本をもがれて錐もみしながら墜落する。

 直撃でもないのに凄まじい威力だ。波動エネルギーを兵器転用する事の恐ろしさを、改めて伝えているような気持になる。

 しかし、墜落した空母は小規模な爆発を繰り返して炎上しているが、奇跡的にもほぼ原形を留めているではないか!

 「ん? どうやら爆発しなかったようだな……これは、資料を得るチャンスかもしれない!」

 と進は沸き立つ。長い事その正体が謎に包まれてきたガミラスだ。その資料を得ることは今後のヤマトの戦いにおいても決して無駄な事ではない。

 「雪! すぐにヤマトに報告だ! 俺達はこのまま――」

 偵察を続ける、と言うはずだった進の言葉は途中で止まってしまった。

 「どうしたの古代君?」

 「古代さん?」

 雪とハリも進の様子がおかしいことに気付いてどうしたのかと尋ねてくるが、進の耳には入らない。

 空母が墜落したすぐ近くに、巨大な氷塊がある。
 
 いや、炎上する空母の熱に晒されてその表面がわずかに溶けているではないか。

 「あ――あれは、あれは兄さんの艦だ! 兄さんの!!」

 進の絶叫に雪とハリも慌てて確認する。

 そう、そこにあった氷塊は墜落した駆逐艦アセビ。冥王星海戦で進の兄、古代守が乗っていた艦だったのだ。

 進は止める間も無く信濃をアセビと墜落した空母の近くに着陸させる。
 着陸を確認するとすぐにブリッジの後ろに向かって駆けだして、ジェットパックを掴むと後部にある搭乗員口を開いて外に飛び出す。

 進の眼前には破壊され、穴だらけになったアセビの無残な姿が晒されている。冥王星空域で撃沈された後タイタンに不時着したのか、その艦体はまだ原形を保っている。

 ――もしかしたらまだ生きているかもしれない、と根拠の無い期待を抱いた進はジェットパックを背負って信濃から飛び降り、アセビに駆け寄る。

 「兄さん! 兄さん! 居たら返事してくれぇーっ! 兄さぁぁ――ん!!」

 進はアセビの周辺を駆けまわり、何とか内部に入れないかと探るが、破損個所も含めたあちこちは凍結してしまっていて、侵入口が無い。
 堪えきれなくなった進は侵入口を作ろうとコスモガンを抜いて凍り付いたアセビを撃つ。抑えきれない衝動をぶつけるかのように撃つ。
 砕かれた一際大きな氷塊が足元に転がって来て、慌てて避けると凍り付いた地面に金属片が埋まっているのが見えた。

 その金属片を見て、進は愕然として膝をつく。



 それは、氷中に埋まった――守のドッグタグだった。



 守は、もうここにはいない。

 墜落の衝撃で体がバラバラになってしまったかもしれない。もしかしたらそれ以前に宇宙に投げ出されて――。



 呆然とその場に座り込んでしまった進に、雪もハリも掛けるべき言葉が無かった。






 その後、出撃したガミラスの航空隊を難なく退けることに成功したヤマトは、停泊地点を移動しながらも念願だったコスモナイトの回収に成功していた。

 早速真田はラピスを伴って艦内工場にて波動砲とワープの負荷を考慮したエネルギー伝導管とコンデンサーの製造を始める。
 さらにコスモタイガー隊の力を借りてコスモナイトを余分に回収しつつ、いくつかの鉱物資源も採掘して、ヤマトの倉庫を潤わせる。今後どこで補給出来るかわからない以上、ここで倉庫を満載にする覚悟であった。

 さらに、信濃が撃沈したガミラスの空母の解析も並行して行われる。残念なことに内部は火災で酷く焼けていて、生存者も無くまともな遺体の回収も出来なかった。

 しかし、無事だった幾つかのコンピューターを回収することに成功し、今まで全く不明瞭であったガミラス艦のメカニズムについても理解を深めることに成功したのは行幸だった。



 「――進君が戻ったら、艦長室に来るように言っておいて」

 ユリカはそう言うと座席毎艦長室に上がっていく。心なしか元気が無い。

 「ユリカ。もしかして、アセビの事かな……」

 ジュンが心配そうに艦長席を見上げるが、そこにすでにユリカの姿は無い。

 「そうかもしれません――ユリカさん、凄く気にしてましたから」

 沈んだ声でルリも同調する。
 あの場でアセビと、守を見殺しにしたのはユリカで、それを止めることも出来なければアセビを、守を助けることも出来なかったのはルリだ。

 「思いつめなければ良いんだけど……」

 昨日の今日なのでまた体調を崩してしまわないか心配になるエリナだが、冥王星海戦に参加していないエリナでは慰めようもない。






 「すまん、少し外の空気を吸ってくる」

 「わかりました。こちらで作業を進めておきます」

 真田はラピスに断って艦内工場区を出ると、その足で右舷の大展望室に入る。展望室から除くタイタンの景色は寒々としていて、今の真田の心境を現しているようだった。

 「守……」

 行こうと思えばアセビの傍に行くことも出来た。
 だが、真田にはその勇気が無かった。
 親友の墓標と言うべき艦に向き合うには、心の準備が出来ていない。

 「……お前の弟は、よくやっているよ。俺が、お前の代わりに見守っていこう――守、安らかに、な……」

 真田は視界の先にあるであろう守の墓標に敬礼する。
 その目には珍しい事に、涙が流れていた。






 「古代です」

 艦長室のドアの前で声を張り上げる。
 あの後進はコスモガンの銃把で氷を砕いてドッグタグを回収、最低限の調査を行ってから信濃に戻り、しばらく周囲を偵察した後ヤマトに帰艦した。
 雪もハリも必要なこと以外は喋らず、そっとしておいてくれたことに感謝しながら進は何とか任務を終え、報告の為に第一艦橋に上がった所で艦長室に呼ばれていると言われ、この場に来た。
 用件はおおよそ見当がついている。

 彼女にも、関係のある内容だ。

 「入って」

 重い気分を引き摺ったままドアを開けた進は、艦長席に座ったまま窓の外を向いているユリカを見つける。

 「報告して――駆逐艦アセビの事を」

 「は、はい――タイタンに不時着したと思われる駆逐艦アセビに……生存者は、生存者は……無く……っ!」

 無残なアセビの姿を思い出して涙を、嗚咽を堪えて黙る進。
 その手には、守のドッグタグが握り締められている。

 「生存者は、無く、か――」

 進の報告にわかっていたにも拘らず、涙を流さずにはいられない。
 あの戦いで負けるのはわかりきっていた。だからこそ、ユリカは早々に撤退を促して1人でも多く助けるつもりであの戦いに参加した。
 無論、サーシアと合流するためにも必要な陽動も兼ねていたが、それは彼らの与り知らぬ事で、ユリカもそれを踏まえた上で全力で臨んだ戦いだったのだ。

 まさか、ヤマトの乗組員候補としていた守が残るとは思わなかった。本当なら進と守の兄弟を乗せて、ヤマトで旅立つつもりだったのに。

 結局守は死に、進は心に深い傷を負った。

 それが悔しい。自分の無力さが情けない。

 「進君」

 そこでユリカは進に向き直る。涙を拭い去り、毅然とした顔で進に向き合う。

 「地球を、アセビみたいにはしたくないよね」

 「……はい!」

 進は涙を堪えた顔で力強く頷いた。ユリカは渾身の力で立ち上がると、杖を使わずよろめきながらも進に近づき、そっと抱き締める。

 「――冥王星基地を叩こう。守さんが護り抜いてくれた私達が、このヤマトで」

 「はい……! 兄さん仇は、必ず!」

 ユリカの言葉に、とうとう進は堪えきれず泣き出す。
 力が抜けて崩れ落ちる進を支えられず、ユリカも一緒に膝をつくが、改めて進の頭をその胸に抱いて、優しく髪を鋤き、背中をぽんっぽんっと叩く。

 「今はたくさん泣いて良いんだよ。悲しみを吐き出して。私が受け止めてあげるから――だから、泣き終わったら前を向いて歩くんだよ、進。ここで立ち止まったら駄目だからね。貴方には、まだまだ色んな未来があるんだから」

 ユリカに母の温もりを感じながら、進は大いに泣いた。ユリカの体にしがみ付いて、声を出してわんわん泣いた。流した涙がユリカの胸元を濡らしていく。
 ユリカは黙ってその涙を受け止め、優しく進をあやし続ける。

 進はそんなユリカに甘えてしばらく泣き続けた。ここで悲しみを洗い流し、来るべき戦いに備えるために。

 より力強く、明日を歩いていくために。






 翌日、修理を終えたヤマトは静かに土星を後にする。

 地球を発ってすでに5日が過ぎている。

 地球で待つ人類は、冷え切った地球で刻一刻と近づく破滅の時を恐れながら耐えている。

 急げヤマトよ、33万6000光年の旅を。

 人類滅亡の日まで、

 あと、360日しかない。



 第六話 完



 次回、新宇宙戦艦ヤマト&ナデシコ

    第一章 遥かなる星へ

    第七話 ヤマト沈没! 悲願の要塞攻略作戦!!



    愛の為に戦え!



 あとがき

 はい、6話終了です。

 今回は土星のエピソードでしたが、ぶっちゃけヤマト原作部分がほぼおまけとなりました(半分以上がオリジナルパート)。おかげで島はセリフが無くなったぜ。雪の割食ったなぁ。

 原作ではこの時点で残り359日ですが、本作は1日早く出発しているので360日の残りです。ただ、原作ではこの終了時の残り日数で辛うじて時間経過がわかるのみで、具体的な時間の消費については触れられていません。それだからヤマトの時間経過は謎だらけなんだよなぁ……。
 と言うか太陽系出るのに何故50日も必要なのか未だに謎だしね。
 一応本編を見返しながらある程度の目安は付けてますけど、本作は色々とイベントとかに改変があるので必ずしも同じにはならないと思います。

 ぶっちゃけるとこの辺考えるのも面倒な部分でもあります。日常パート挟むと特に。



 そしてユリカの発作でまたルリが余裕をなくしつつあります。本作のルリはこればかりで可哀そうです。

 と言うかここでミス発覚。医務室と医療室の位置関係を逆にしちゃってたぜ(笑)。  新生ヤマトは、第二艦橋の下側後方にある医務室(本編に登場したのはこっちで、DC版では上条が治療を受けている場所)、居住区前方の下層部(展望室より前)に医療室・冷凍睡眠室が設定されているんですが、うっかり逆にしちゃった。
 これは痛恨のミス。位置関係が全然違うからね。
 改定で修正しましたが。

 後デスラー有能。何でかほぼばっちりヤマトの素性を推理してしまいました。ちょっと暴走が過ぎるで?

 真田と守の関係は二次ではほぼお約束の展開ですね。元々親友設定自体が後付けっぽいので、この時点では特にリアクションも無いです。
 そもそも真田さんって本来は謀反の首謀者だったのが、脚本家の勘違いで徳川機関長にされて(だから中盤以降は機関室に引き籠りまくって、藪に焚きつけられてた)、間違いだと指摘された頃には変更出来なくなって、藪が割食ったんだよなぁ。



 で、信濃初登場。原作では実質特攻用とまで揶揄される信濃ですが、私結構好きなんですよ。最初は「無駄な容積使ってまあ」とか思ってたんですけど、何か可愛い。
 ちなみに原作にはないアクティブ・ステルスが追加されているのはご愛敬。ステルス自体は形状から考慮されていると思うんですが、如何せん登場即特攻で、仮に2部以降が制作されても再登場があるかわからない可哀想な子なんで。せめて本作だけでも活躍してってね!

 本作ではコスモナイトの位置も判明しているから探索の必要も無い、かと言って2199みたいに救難信号も、と考えた結果、信濃のお披露目を兼ねて調査任務でデートさせようかと思ったらこの様に。
 ガミラス側の描写が割と適当だけども気にしないでマジで。あんまり書くと尺が伸びるし、2199みたいにどっちが主役かわからなくなっても困るのよね。

 さらに初登場、Gハンマー。男のロマンの棘付き鉄球に相応しい破砕作業だったと思います。こういうのにやたらと使い易いのでダブルエックスが出ずっぱりに。
 やたらと頑丈でハイパワーを謳うと作業用として使い易い事使い易い事。と言うかこいつ出したいがためにダブルエックスにこの役振ったんだけど。今後再登場するかは知らぬ。

 そのせいで真打のGファルコンDXがまだ戦闘してないよ。ついでに今回パイロット勢サブと月臣がモブで出ただけで活躍してないよ!
 まあ原作のパート1の初期はとにかくサブキャラが固まってなくてセリフも碌に無いのが多くてねぇ。特に南部と太田。ハリはルリ絡みで出番あるけどゴートはとにかく出番が無い。これを見越してこいつを配役したんだけどな。スパロボでも(主にミナトと九十九の邪魔になるせいで)出番少ないし。

 ちなみに原作だと初期限定でガミラスの時間経過が地球の倍であることが伺えるセリフなどがあるのですが、本作では解り易さを優先して基本的に宇宙のどこに居ても地球時間と変わらない扱いにしています。
 と言うか、これやウラシマ効果を大々的に持ち出すと時間制限が切られてるヤマトの物語が凄まじくややこしくなるのでご了承ください。この辺は原作も基本的に同じだけど。

 そしてユリカが着々とお母さんになっていきます。古代もそういう意味では甘えている当たりが原作との人物関係の微妙な違いですね。原作の古代は沖田に甘えているような描写が無いので。でもしっかりとリスペクトしたり、沖田も古代の背中を押したりと、あの距離感と関係も素晴らしい。



 んで、プレイ再開したBX、クリア。Xエステバリスもゲット。
 うむ、合体攻撃無い以外はめちゃ強いじゃないですかこれ。今んところアキト以外乗せてないけど、専用ボイスが用意されてたとは……。
 対して月面は不遇だなぁ。合体攻撃の演出は良いけど、性能が残念過ぎる。砲戦よりも最強武器の弾少ないし、MAPWも無いし、単独だと飛べるけど武器の空適正Bだし。
 正直がっかり。使える時季に見合った性能じゃないよこれ。スキルパーツの地形適応で補填すれば少しはマシになりそうだけど、使用期間に見合わないのは変わらないしねえ。

 う〜む。ユニットに個性が出てるのは良いんだけど、やっぱりいろいろ遊びやすい強化パーツシステムの方が好きだなぁ〜。搭載換装が無くなった分エステ全般が割食った印象が拭えぬ。

 そして、地獄公務員良いねぇ。是非とも次はチェンゲとかと絡んでもらいたい所。



 次回はとうとう冥王星前線基地攻略戦。旧作ベースだけども色々と手が入っているので書くのが大分シンドイ。お楽しみに。



 前回投稿した5話、代理人氏の粋な計らいでリンクが追加されているのにはパソコンの前で噴き出しました(笑)。一応補足しておきますけど私は頼んでません、代理人氏のサプライズです(笑)。

 また、6話の投稿を持って、「ハーメルン」にもマルチ投稿する事にしました。許可は頂いています。

 







感想代理人プロフィール

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代理人の感想
何このデスラー超有能。
まあ2199でも序盤は超有能でかっこいい敵役だったし、
是非ともこのまま格を落とさず行って頂きたいところ。




>――もの凄く残念だけど仕方が無いのだ!
おい                        おい


>艦長室
まあ旧軍の大和の構造を模してる以上お約束と言えばお約束なんですけど・・・
でもあそこはないよなあw



>第五話のリンク
あれにはやはり、あの音楽が必要でしょう?(満面の笑み)




後ウリバタケは自重しろw

 


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