冥王星は、かつて太陽系の最果てと言われていた星だった。
 200年以上も前に議論の末に惑星の定義から外され、準惑星として太陽系近隣の天体として扱われるようになり、自然と話題に上り難くなった星である。
 その半分忘れられた星に、ガミラスは太陽系攻略の前線基地を設けていた。
 現在の冥王星はガミラスの手で惑星改造を施され、表面積の半分以上にもなる海洋が持たされている。
 その海洋の下に基地施設を設けることで、ガミラスの冥王星前線基地は地球からの発見を免れていた。
 ガミラスは戦火を開く前に2年をかけて冥王星に拠点を作り上げ、その準備が整った瞬間から地球侵略を開始していた。
 無論、地球が内紛で外部に対して意識が向いていないことを承知した上で、ガミラスは準備をしていたのである。

 海洋の下の透明な耐水圧ドームの中に、冥王星前線基地の様々な施設が収められている。
 地上に近い部分に設けられた宇宙船ドックに、生活を支える食糧生産工場など、複数の施設がドーム毎に区分けされて連なっている。
 基地司令のシュルツは、その施設の中の1つである司令室の中で腕組をしながらモニターを睨みつけている。

 「ヤマト確認、方位PX703からOP6へ」

 モニター上には宇宙を悠々と航行するヤマトの姿が映し出されている。
 この宇宙戦艦には既に幾度となく煮え湯を飲まされている。
 あの大氷塊の中に隠れていた事さえ事前に掴めていればと、後悔の念に苛まされた事は1度や2度ではない。

 「ヤマトめ、本気でこの冥王星基地を攻略するつもりか」

 モニター上のヤマトを睨むシュルツに、副官のガンツは逸る自分を抑えて報告する。

 「シュルツ司令、部隊はすでに配置についています。如何されますか?」

 ガンツの言葉にシュルツは気持ちを固める。
 事前に出来るだけの準備は整えた。後は実行に移るのみ。

 「よし! ガンツ、遊星爆弾を発射してヤマトを誘え。母なる星を痛めつけられれば向こうから勝手に来てくれる。あのタキオン波動収束砲は脅威だが、デスラー総統から賜ったデータと、ヤマトの使用記録を検証する限り、あれはチャージに相応の時間が必要で、正面にしか撃てないようだ。さらに、エネルギーを使い尽くすため使用後の隙も甚大とされる。ならば今までの地球艦隊同様、包囲して接近戦を仕掛ければ使用を封じることも出来るはず――冥王星にまで引きずり込めば使いたくても使えまい。冥王星の破壊に巻き込まれて自滅するだけだからな」

 と、シュルツはヤマトのタキオン波動収束砲を封じる策を披露する。
 実際、ヤマトのタキオン波動収束砲は混戦状態では“機能し辛い”ため、シュルツの目は確かだと言える。
 ヤマトのタキオン波動収束砲がその威力を発揮するのは、強いて言うならアウトレンジからの強烈な一撃にあり、対象が宇宙要塞や基地施設、まとまった艦隊なら最大の威力を披露出来る。
 シュルツはそれを避けたかった。
 艦隊でなら対処することは出来る。しかし、身動き出来ない基地施設はタキオン波動収束砲の格好の獲物だ。
 それ故に慎重な、それでいて大胆な作戦を練るのは骨が折れる。

 「奴が所定のラインを越えたら、まずはステルス塗装を施した超大型ミサイルで後ろから煽る。その後は艦隊を小ワープでヤマトの至近距離に出現して混戦に持ち込み、冥王星の領空に入った後は、反射衛星砲で止めだ」

 シュルツは自信も露に笑みを浮かべる。
 先のタキオン波動収束砲によって破壊された木星の市民船と、そこに駐屯していた艦隊を纏めて損失したのは大きな痛手だった。
 が、デスラーの一声で冥王星前線基地にはそのキャパシティー限界までの艦艇が配備されたので、兵力的に不足は感じない。
 ガミラスの技術力なら、危険を伴う最短コースでガミラス星から太陽系まで1週間程度、安全な迂回路を通っても数十日程度の時間で到達出来るとは言え、すぐに都合出来る戦力には限りがある。
 強いて言えば、空母を全て喪失してしまったのが痛い。
 あれがあれば航空戦力と合わせて攻撃出来るのだが、今や基地防衛の為の最低数しか航空機が残存していないのだ。
 デスラーの予定した増援の中には宇宙空母も含まれていたのだが、すぐに出撃出来る空母の中に高速十字空母が無く、ガミラスの主力空母である多層宇宙空母は足が遅く、ヤマトの進行速度の速さもあって間に合わなかったのだ。
 尤も、あのヤマト相手に航空戦力がどの程度有効なのかはわからず、艦隊での包囲殲滅を目論むと流れ弾での撃墜が気になる艦載機が使い難いのも事実だったが。

 ガミラスは地球侵略の目的の関係から、冥王星前線基地に試作兵器のテストの役割を与えていた。
 それが反射衛星砲だ。
 惑星全体を防衛する最新鋭の防空システムの雛型で、衛星軌道上に大量に反射装置を備えた衛星を打ち上げて、基地の砲撃を幾重にも屈曲させて目標に確実に命中させる恐るべき兵器であった。
 攻撃範囲内に入ったが最後、破壊されるまで逃れることは叶わない。
 だが、試作品故に弱点もある。

 「問題は上手くヤマトを追い立てて、反射衛星砲の射程内に入れられるかどうかにかかっている。反射衛星砲はあくまで拠点防衛兵器……射程距離はヤマトの砲を下回っている。それに、ヤマトの砲は副砲クラスですら我が軍の艦を一撃で破壊する威力がある……追い立てに失敗して最大射程から砲撃されては、反射衛星砲も宝の持ち腐れだ。また、反射衛星砲は我がガミラスの艦艇なら、戦艦であろうとも一撃で破壊する威力を持つが、ヤマトの防御性能に関しては不明瞭な点が多い――少なくともタキオン波動収束砲の反動に耐える以上、決して柔な艦ではないはずだ。1撃で決められれば良し、さもなくば沈むまで何発でも命中させるまでだが、エネルギーのチャージには相応の時間が掛かる……その間に反撃の機会を与えてしまわないかが心配だ」

 シュルツなりにヤマトを分析する。
 如何せんヤマトとの交戦機会は少なく、その性能を推し量ることは出来ない部分が多い。
 艦載機戦力を使用して別動隊を派遣する可能性も無くは無いが、こちらの基地の所在は掴まれていないのは地球艦隊の動きから推し量れる。それに、ヤマトの艦載機の火力で基地施設の破壊は困難極まるだろう。ましてや水中の施設だ。
 少なくとも最初の攻撃で艦載機兵力の投入が無ければ、艦載機による基地襲撃を警戒する必要があるが、全部でなくても今まで確認され、推測されているヤマトの最大搭載数に近い数が出撃していれば、過度に警戒する必要な無い。

 1機や2機程度でどうにか出来るほど柔な基地ではないし、ヤマトの艦載機は恐らく単独で長時間・長距離の任務に対応出来るものではないはずだ。
 これまでの地球との交戦データでそれは判明しているし、比較的データの少ないあの宇宙戦闘機もどきの追加パーツを装備してからも、性能向上は著しいが対処出来る程度の能力に留まっている。

 やはり、警戒すべきはタキオン波動収束砲であり、ヤマト自身の戦闘能力だろう。
 ――持てる力の全てを叩きつけなければ勝てぬ相手だと、シュルツはヤマトを高く評価していた。

 「だが、我らとて誇りあるガミラスの軍人だ! デスラー総統への忠誠に誓って、必ずやヤマトをここで打ち取って見せるのだ!」

 シュルツの鼓舞にガンツら部下達も闘志を奮い立たせてモニターに映るヤマトを睨みつける。

 ガミラスの誇りにかけても、必ずやここでヤマトを叩き潰す! この命に代えてでも!



 新宇宙戦艦ヤマト&ナデシコ

 第一章 遥かなる星へ

 第七話 ヤマト沈没! 悲願の要塞攻略作戦!!



 時は少し遡る。

 宇宙戦艦ヤマトは土星を発った後、通常航行で冥王星を目指して飛行していた。

 「では、コスモタイガー隊のパワーアップは成功したんですか!」

 ユリカが目を輝かせて真田に確認する。

 「ええ、エステバリス側にGファルコンとの合体に干渉しないスラスターユニットを搭載しました。完全追従とはいきませんでしたが、これでGファルコンDXにも置いてきぼりを食らう事は減るでしょう――それに対艦戦闘を考慮して、ダブルエックス用に用意されていた武装の幾つかをエステバリスで使えるようにしました。ビームジャベリンとロケットランチャーガンの2つです。ビームジャベリンは消費エネルギーに対して威力が高く、試算ではハイパービームソードに匹敵するフィールド突破力があるはずです――勿論、エステバリスの出力では使用が制限されますが、補助バッテリーを併用すれば何とかなります」

 と真田が答える。地味に次世代機であるダブルエックス用のオプションを汎用装備に改造する辺り、相変わらずの万能っぷりである。

 「それでも無いよりも全然マシです! これで皆が生き残る確率が上がるんなら万々歳ですよ! さっすが真田さん! いよっ! ヤマトの切り札! 生きるご都合主義!」

 ユリカは素直に喜んで真田を煽てる。パチパチと拍手のおまけも付いた。
 煽てられて真田も悪い気はしないのか、珍しく照れ笑いを浮かべている。
 艦橋の全員が、そんな光景を疑問を挟まないあたり、全員毒されているのがわかるというものだ。

 「ありがとうございます、艦長。他にも、試作品ですが、通常の炸薬の代わりにタキオン粒子を封入した弾頭も用意してみました。波動エネルギーに比べると破壊力は大きく劣りますが、それでも従来のロケット弾やミサイルよりも火力が増しています。テスト結果も良好で、対フィールド用弾頭としては申し分ない威力を持っています――勿論、全機に配備出来るだけの数は用意しています」

 真田の言葉にユリカも大いに頷く。今は少しでも戦力が欲しい時だ。有難く配備させてもらおう。

 「本当に頼もしいですね、真田さんは! この間のエステバリスの強化要望を受理して正解でした!」

 実際問題、この強化案を実現するためにあまり余裕の無いヤマトの資材在庫はまた少し厳しくなった。
 だが、それに見合うだけの成果は得られた様子で一安心である。

 「艦長、3日後には冥王星に接近します。航路はこのままで良いんです?」

 操舵席に座る大介が艦長席を振り返って形だけの確認を取る。
 今回の冥王星攻略作戦自体は航海班も納得済みではあるが、攻略にどれほどの時間がかかるのか、そもそもヤマトの被害がどのくらいになるのか、その回復にどの程度の時間がかかるのか見当もつかない。
 ヤマトの運航責任者としては、出来る事なら回避していきたい戦いでもある。――職務上は、だ。

 「このままで良いよ。下手に進路を変えても意味が無いし。どうせ向こうはこっちの動き何てお見通しだろうしね」

 ユリカはあっさりと肯定する。
 ならばと、大介は視線を隣の席の進に向ける。

 「古代、お兄さんの敵討ちはわかるが、勢い余って空回りするなよ」

 大介は親友に対して心ばかりの助言を送る。
 大介とて進が、ユリカ達がこの宇宙で辛酸を舐めたことは理解している。自分だって悔しかった。
 だからこそ、この戦いを止めることはしない。多少の遅れは、それこそ航海班の総力を挙げて取り返して見せる所存だ。

 「ああ、わかってる――ガミラスの奴ら、今度こそ叩いて見せる。兄さんの敵討ちだ」

 大介の言葉を受け入れつつも、進は静かに闘志を燃やしている。この宇宙で兄はやられた。
 あの時は成す術無く敗退するしかなかったが、今度は違う。
 この宇宙戦艦ヤマトなら、ガミラスに太刀打ち出来る。

 「――やれやれ。まあ、僕も冥王星基地だけは叩かないと気が済まないから、ここは古代君に習うべきか」

 ジュンも冥王星海戦では苦い思いをさせられた1人だ。今回ばかりは気合の入り様が違う。

 「――私にとってもリベンジです。あの時の悔しさ、ここで全て晴らして見せます」

 ルリも闘志に満ち溢れた顔でシステムチェックに余念が無い。
 あの時システム掌握がもう少し上手く行っていれば、敵の行動を読めてさえいれば。そう思わずにはいられないのだ。
 あの海戦に参加した全員が、あの時の悔しさと憤りを全て、冥王星前線基地に叩き返してやるつもりだった。

 「よし! じゃあ作戦を煮詰めようか。中央作戦室に集まって!」

 ユリカの号令に第一艦橋の面々は力強く頷いた。






 「これが、冥王星です」

 今回は中央作戦室で直接データを操作しているルリが、床の高解像度モニターに冥王星の姿を映し出す。

 「これは先の冥王星海戦の時に撮影された映像です。御覧の通り、ガミラスによるものと思われる環境改造を受けた様で、今の冥王星は海洋を有しています」

 映し出される冥王星の姿はかつて地球からの観測などで得られた姿と異なり、水によって青々とした姿に変貌している。

 「今までの調査で冥王星にガミラスの前線基地がある事だけはわかっていますが、残念ながらそれ以上の事は不明です。ハーリー君、ヤマトのタキオンスキャナーで得られた、最新の映像データを表示してくれませんか?」

 「わかりました」

 ルリの隣でアシスタントを務めるハリがコンソールを操作、冥王星の姿をより鮮明に映し出した。
 ヤマトには波動エネルギーを構成する超光速粒子、タキオンを応用したセンサーシステムが各所に設けられている。
 光よりも速いその粒子を利用したレーダーや光学測定システムは、使い方次第では数千光年先をも捉える事が出来る(ワープ計算に必要な時差の無い天体観測が限界だが)。
 幸いにも冥王星は恒星を背にしていないため、恒星風等で解析が阻害されることもない。

 「……ん? やけにデブリが多いな」

 表示されたデータを見て真田が疑問を抱く。
 最初はてっきり撃破された艦艇の残骸かと思ったが、考えてみれば地球側が冥王星の近海で戦ったのは先の海戦のみで、残骸がデブリとして冥王星を回り始めるには少々時間が足らない。そもそも数の絶対数が違う。

 「ガミラスの偵察衛星か何かか? だがそれにしても数が多い。何らかの衛星兵器の可能性があるな」

 ゴートが自分の意見を言う。
 ゴートはかつてのバリア衛星や、サテライトキャノンの初期案を知っているため、衛星軌道上に何らかの武器を設置している可能性を指摘する。
 その指摘は結果から見れば正しかったのだが、情報不足からその正体を推測することは出来なかった。

 「だとすると、迂闊に冥王星に接近するのは危険ですね――波動砲を使えない以上ロングレンジ攻撃で一気に撃滅、といかないのが難点ですね」

 進が難しい顔で情報を分析する。
 この作戦の本格的な立案は木星で波動砲の試射を行ってから行われたが、その結果を踏まえて波動砲は使用せずに作戦を実施する事が確定していた。

 「そうですね。波動砲を使えば冥王星自体を破壊してしまう可能性がありますし、もしそうなったら、冥王星の破片や影響を受ける小惑星帯が地球に降り注ぐ危険があります……それに、波動砲で星を砕くなんてマネは、したくないです」

 ラピスも波動砲の使用に反対する。その気持ちはヤマトのクルー全員の気持ちでもある。
 もしそうするとしたら、それは本当に生き残るための最終手段という事になる。

 「そう、波動砲は使えない。でも基地攻略を成し遂げるためには大火力の運用が必須。つまり切り札は……」

 ユリカの視線がこの場に呼ばれていたアキトに向けられる。

 「ダブルエックスの、サテライトキャノンか」

 「そう、僕たちが保有する最小サイズの戦略兵器。これに賭ける」

 ジュンが補足しながらも、アキトに信頼の眼差しを向ける。

 「うん、この作戦のカギになるのはダブルエックス。サテライトキャノンの火力なら基地制圧に十分な火力を叩き出せる――何せ、火力はヤマトの波動砲に次ぐ、私達の切り札その2だからね」

 ユリカが断言する。

 ダブルエックスのツインサテライトキャノンは高圧縮タキオン粒子収束砲、言わば波動砲の一種だ。
 とは言え波動エネルギーではなく、それよりもエネルギー順位の低いタキオン粒子を使用しているため、破壊力と言う点では本家波動砲には遠く及ばない。そもそも相転移エンジンからの出力ではこれが限界だ。
 だが、それでも重力衝撃波砲を遥かに凌ぐ火力を有していて、大型のスペースコロニーすら一撃で消滅に導く破壊力を有する、まさにコスモタイガー隊の切り札である。
 波動砲と違って出力調整の幅も広く、対象の破壊規模に合わせることも比較的簡単であるため、今回の様に過剰火力は求めないがそれでも並外れた火力が必要と言う時には適切な装備である。
 そもそも半ば技術的挑戦から開発された兵器とは言え、小回りの利かない波動砲の穴埋めとして用意された艦隊決戦兵器としての側面もある。

 要するに、強力過ぎる波動砲は最後の手段として極力使用を控え、波動砲のような艦隊決戦兵器が必要とされる状況下では、可能であればサテライトキャノンによる撃滅を図る事で想定される被害を極力抑え込み、それすらも困難な状況下であれば信濃の波動エネルギー弾道弾を使う。
 それが新生ヤマトの戦略の1つである。

 ただし、サテライトキャノンも急造であることや、その要求される破壊力を満たすため等の理由から様々な制約が課せられている。
 まず第一に、発射の為に必要なエネルギーを単独では用意する事が出来ず、外部からの供給を必要とする。
 そのためにはヤマトから重力波ビームによる外部供給か、Gファルコンと合体し、かつGファルコン側に追加エネルギーパックを装備が求められる。
 第二に、発射後は機体のエネルギーがゼロになり機能低下、さらには放熱に時間がかかる為連射が出来ない。
 ダブルエックスには勿論強力な冷却装備が備わっているため単発なら問題は無い。しかしデータ不足で更なる要求であった連射にまで対応出来ていないのが実情だ。
 第三に、機体の破損状況次第では反動に耐えられないため、発砲自体が封じられてしまうと言う点だ。
 ダブルエックスは両手両足に冷却装備を、肩に砲身マウント兼スコープユニットを、背中にはエネルギーの受信と変換の為に必要なリフレクターユニットと砲身が装備されている。
 このため、手足の1本を失っただけでも発砲出来なくなるし、十分な装甲が施されているとはいえ、背中に背負ったリフレクターユニットと砲身が破損しても当然発射出来なくなる。
 人型機動兵器に無理に戦略砲を搭載した皺寄せとも言えるのだが、人型としての機能と信頼性を極限しつつ、戦略砲を装備すると言う矛盾した要求を満たした結果、装備の大半が外装式になり、発射寸前までの保護がやや難しくなっているのが欠点だ。

 そのため、地球圏最強の人型機動兵器としてその高い性能を存分に発揮するとサテライトが活かせず、サテライトを活かすと最強の機動兵器としては活かせぬという、ある意味では究極の矛盾を内包する機体として完成されている。

 ダブルエックスの運用の難しさと言うのは、単に高性能で周りが付いていけない以上に、この矛盾が一番影響を与えている。
 よって、コスモタイガー隊はヤマトだけではなく、サテライトキャノンの使用を考慮した場合はダブルエックスの護衛も担当しなければならないため、その負担が急激に増えている有様なのだ。
 幸いなのは、アキトのパイロットとしての技量の高さと単独行動に慣れている異色の経験が、ダブルエックスの運用思想と上手い具合に噛み合っている事と、想定以上にダブルエックスが強く、敵航空兵器に対して極めて高い優位性を持っている、という事だろうか。

 「Gファルコンに追加エネルギーパックを装備したダブルエックスは、サテライトキャノンを最大出力で1発だけ撃つ事が出来る。この火力を冥王星の前線基地に叩き込めれば、形勢は一気にこちらに傾くはずだ」

 ゴートが期待を寄せる。現状基地攻略の手段としては最良と言えるのだから当然とも言えるのだが、問題が無いわけではない。例えば、

 「冥王星基地の具体的な規模、構造などが不明であり、基地の所在もわかっていません。また、サテライトキャノンの実戦使用が初めてであるため、波動砲同様、その威力も厳密には未知数です。ガミラスへの露見を避けるため、小天体等を相手にした試射も無く、その威力は発砲した時の観測データとエネルギー量から来る推測に過ぎない。ですので、使用の際は確実を期するため事前調査を怠らないよう心掛ける必要があります」

 それらの不確定要素を挙げて、真田が釘を刺す。相手はこちらの戦力をおおよそ把握しているが、こちらは全く把握出来ていない。
 それこそがこの作戦の一番の問題なのだ。

 「そこで、今回の作戦ではヤマトとダブルエックス以外の航空部隊を全て囮として使います。敵は恐らく波動砲の使用を警戒して、包囲しての接近戦を挑んでくる可能性が高い。それにもしこのデブリが敵の装備の一角であるとすれば、敵はヤマトを冥王星にまで誘き寄せる可能性もある――何しろ、僕たちの心情を抜きにしたとしても、冥王星に接近した状態で波動砲を使用すれば、冥王星の崩壊に巻き込まれて自滅の恐れがありますからね」

 ジュンは事前に立案されていた計画を再確認しつつ、改めて波動砲は使えないと強調した上で続ける。

 「この作戦ではヤマトはわざと敵の術中に嵌まり、冥王星に慎重を重ねながら、それでいて確実に接近します。基地攻略はダブルエックスのサテライトキャノン単独での成功がベストではありますが、場合によっては特別攻撃班を選定して、基地への破壊工作作戦への切り替え、または両者の同時進行も考えられるため、臨機応変な対応を心掛ける事が求められます。何分敵の兵力も基地の所在も含め、情報が決定的に不足した状態での作戦になります――無謀以外の何物でもない本作戦を成功するカギは、ヤマトクルー全員の臨機応変さに掛かっていると言っても過言ではないでしょう」

 と締める。改めて口に出してみても、無謀としか言い表せない作戦だと思う。
 計画そのものを立案したのはユリカで、ジュンがそれに色々と質問をして纏め上げた代物なのだが、やはり不安は尽きない。
 ――と言うのもユリカは最初から「基地攻略はダブルエックスで決まり! アキトが失敗するはずないもん!」と言い切った為、それでは他が納得しないとジュンが色々と付け足したのである。
 ナデシコだろうがヤマトだろうが、ユリカに振り回されることに変わりはない様だ。尤も、ユリカの突飛な発想に理屈付けしたり、理解を示せるようになったのは、ジュンが経験を重ねた分だけ成長したという事なのだろう。
 ……これで人間としても大きくなっていれば良いのだが、相も変わらず他人の玩具にされたり不遇な部分は一向に改善されていないのである。

 「――敵の術中にわざと嵌まらないと敵の本拠もわからない、か。かなりハイリスクな戦闘になりそうね」

 エリナも渋い顔をしている。戦闘畑の人間ではない彼女でも、この作戦の無謀さは理解出来る。というよりも、理解出来ない奴は正真正銘の阿呆だけだろう。
 しかし、「本当に勝てるのかしら?」という言葉を心の中で留める辺り、彼女なりに不安を煽らないように気を配っていることが伺える。
 ナデシコ時代なら、それこそ「こんな戦い勝てるわけないでしょ! もう少し考えてから物を言いなさい!」等とヒステリックに騒いでいただろう。

 「確かに、いくらヤマトが凄まじい艦でも、要塞の大型火器の類に直撃されたら、耐えられない可能性も十分に考えられますからね」

 ハリも懸念材料を口に出して確認する。
 実際、冥王星基地が大型の惑星間ミサイルを装備している事は判明している。ヤマトの火砲なら迎撃自体は可能だが、艦隊戦の最中に撃ち込まれたら脅威になる。
 他にも未確認の武器があってもおかしくない以上、警戒するに越した事は無いのだ。

 「でも、ヤマト以外に囮が務まらない以上、やるしかないよ――真田さん、艦のコンディションはどうですか?」

 「全艦異常ありません。望み得る限り最高のコンディションです」

 「エンジンも正常です。タイタンでの改修は上手く行きましたので、想定される激戦にも耐えてくれるはずです」

 真田とラピスが自信たっぷりに宣言する。
 先のトラブルから知恵を絞りに絞って改修を加えたヤマトだ。早々に故障することはあり得ないと胸を張る。
 技術者の誇りにかけて、と胸を張る2人に全員が頼もしさを感じる。

 「だったら思い切ってぶつかって行きましょう。この戦い、尻込みしていては絶対勝てません! 私達の、ヤマトの力を十全に引き出して戦えば勝てます! 全員、気合入れて行きましょう! おぉーーーっ!」

 てな感じで気合たっぷりに拳を突き上げるユリカに、アキトはとても心配になる。
 ――つい先日同じことをして全身が攣った姿を見ているからだ。
 それを知らない他のクルーは完璧に乗せられて「おぉーーーっ!」と気合いも新たにしている。珍しい事に普段は乗らない真田まで乗せられている。気に恐ろしきユリカの影響力だ。

 「じゃあ解散! 関係各員に詳細を連絡した後、決戦の日まで英気を養いながら準備して下さい!」

 ユリカの号令でスタッフ一同解散してそれぞれの持ち場に戻る。
 が、エリナとアキト、そしてアキトに止められた進と不穏な気配を察したルリがその場に残る。

 「ユリカ」

 真剣なアキトの声に居住まいを正したユリカが正面から向き合う。

 「何?」

 「ダブルエックスに、進君を同乗させても構わないか?」

 「俺、ですか?」

 と予想外の発言に進も怪訝そうな顔をする。

 「ああ。出来ればサテライトキャノンの引き金を譲りたい――進君、お兄さんの敵討ち、ここで果たして、けじめを付けるんだ」

 と真剣な表情のアキトに進も真剣な顔で応じる。

 「けじめ、ですか」

 「そうだ。ガミラス全体が憎い気持ちはわかる。俺だって、火星の後継者が憎かった。だけど、特に憎かったのは俺とユリカを誘拐した実行犯の、北辰だ――弄んでくれた科学者連中もそりゃ憎かったけど、直接討ち取ってやりたい、譲れないと思ったのは、あいつだった」

 アキトから漂う狂気と形容しても遜色ない暗い気配に、全員が痛ましい顔になる。

 「火星の後継者を直接抑え込んだのはルリちゃん達ナデシコだったけど、もしもあの時、あいつまで一緒に逮捕されていたら、俺はきっと復讐を終われなかったと思う。どんな形であれ、討ち取ったって事実が復讐を終える合図になった事には違いない……進君、君は大丈夫かもしれないけど、もしもこのままガミラス憎しが強くなると、俺と同じ轍を踏まないとも限らない――だから、せめて直接の仇と言える冥王星基地だけは、君の手で叩くべきだ。それで敵討ちは終わらせて、後はヤマトの使命の為に、地球を救うって目的の為に全力を尽くすように気持ちを切り替えるべきだと、俺は思うんだ」

 アキトの言葉に進はしばし考えた後大きく頷いた。

 「わかりました。ここは、先輩のアドバイスに従います」

 応じる事にする。確かに進はガミラスが憎い。いや、今の地球でガミラスを憎まない者などいないだろう。
 とは言え、以前ルリに言われたことも、自分を慰めてくれたユリカの事を思えば、アキトが言う所の「後悔の無いようにする」ためには、けじめが必要だろう。
 アキトが自分の事を心配してくれているのは痛いほどよくわかった。だから止めるのではなくけじめを付ける、と言う形で終わらせてくれようとしている。
 この好意は、受け入れるべきだと思う。

 正直に言えば、かつて憎んだ木星の市民船を波動砲で消し飛ばした時に、薄々と感じていたことだ。
 もしも自分が木星の事を消化出来ずに憎み続けていたら、きっと喜んで波動砲を撃ちこんでいただろう。
 そんな自分を連想した事が怖かった。ガミラスは憎い、復讐を果たしたい。でも、そのまま突き進むのは怖い。
 そう考えていただけに、アキトの提案は有難かった。

 それで自分の気持ちにある程度区切りを付けないと――どうにかなってしまうかもしれない。

 ユリカもそんな進をとても嬉しそうに見つめている。
 最近のこの人は、本当に母親同然の位置に収まってしまった。だけど、それがとても嬉しい。この間は大分甘えてしまったし、彼女の存在が進の心の闇を払ってくれているのは事実だ。ルリが慕うのも良くわかる。
 この人は本当に周りの人を明るく染め上げる。ある意味では、この人の下に付けたからこそ、自分は暗い感情に囚われ続けずに済んでいるのかもしれない。

 「じゃあ出撃に向けての準備は怠らないように。アキト、しっかりレクチャーしてね」

 「わかってる。俺はGファルコンの方に乗るよ。合体中ならGファルコン側からの操縦を受け付けるから、急な戦闘は俺が対応する事にする。サテライトキャノンの発射だけは、ダブルエックス側からしか操作受け付けないから、進君にはダブルエックスのシミュレーションも受けてもらう事になるけど、構わないだろう?」

 アキトが先程までの雰囲気を捨てて進に促すと「では、早速お願いします」と揃って格納庫に向かう。
 が、退室前に進はユリカに向かって「では、アキトさんをお借りします」と会釈をしていく。
 ユリカは我が子を見送る母親の顔でVサインを突き出し、「いってらっしゃい!」と快く送り出した。
 何故そこでVサインなのかはよくわからないが。普通に手を振るだけで良いのではないか、と考えながらも進はアキトと一緒にダブルエックスの元へと向かう。

 「古代さん、意外とアキトさんのアドバイスを受け止めてくれていますね」

 「――この戦争が今後どうなるのかなんて予想もつかないけど、憎しみを抱いた戦いの果てがどういうものなのか、アキト君っていう解り易いお手本が目の前にあるしね――特に古代君は、肉親を殺された直後だし、その無残な姿を目の当たりにしてる。だから、互いの姿が重なって見えるのよ、きっと」

 分析するエリナの脳裏には、ユリカを奪われ、五感に障害を抱えて自暴自棄になったアキトの姿が、徐々に黒衣の復讐者となっていく過程が思い起こされる。
 もう、あんな光景は見たくないものだと思う。
 人が壊れて闇に飲まれていく姿何て、本当に見るものじゃない。

 「でも、私もアキトも、進君をそんな道には絶対歩ませません。確かに戦争は続いていますし、私だってガミラスに怒りや憎しみが無いと言えば嘘になる。勿論、今は亡き火星の後継者にだって……でも、私達も、進君もまだまだ明るい未来が掴めるんです! だから、私達なりの方法で導いて見せます」

 ユリカの決意は固い。
 並行世界の、ヤマトと共に戦い抜いた進はそのようなことも無く、最後は愛する人と一緒になった様だが、この宇宙の進がどう転ぶのかはわからない。
 来歴も恐らく違うだろうし、性格や人間性も全く同じではないだろう。
 だから、しっかりと導かなければならない。

 そう、沖田艦長の代わりに自分が。

 ユリカは改めて“母親として”進に向き合っていく決意を固めてしまう。もはや、ユリカの中では「古代進は息子である」という考えが完璧に定着してしまい、書き換え不可能になっていた。
 そして進もすっかりユリカに毒されて、その事を当たり前と感じるようになってしまっていたのだった。






 その日の夜、ユリカはルリとラピス、今日の世話役であるエリナと食卓を囲んでいた。
 今回アキトは進に操縦のレクチャーをしているため、格納庫に入り浸っており来れなかった。作戦前という事もあってユリカも「そっちを優先して良いよ」と気持ちよく送り出して終わりだ。
 
 ヤマトに乗艦してからユリカがルリとプライベートを過ごすのは、これが初めてになる。
 ユリカの食事内容は相変わらずだが、ルリはユリカと食卓を囲めること自体が幸せだった。隣には出来たばかりの妹分のラピスに、この間の一件で打ち解けたエリナもいる。
 かつて失ったはずの家族の温もりは、人の輪を広げてルリの元に帰ってきた。
 後はイスカンダルの助太刀で地球を救い、ユリカを救い、ガミラスとの戦いを終わらせれば、アキトとユリカの生存を知って以来、火星の後継者との戦いを終わらせてからずっと望んでいた平穏な生活に戻る事が出来る。
 そう考えると、ルリは気分が高揚するのを止められない。

 慎ましやかな夕食を終えた後は、色々と雑談に花を咲かせる。

 「ガミラスの空母を解析した事で、少しですけどシステムの理解が進みました。まだまだ不完全ですが、解析がさらに進めば、限定的ですがシステム掌握も可能になると思います」

 ルリがやや明るい顔で報告する。
 タイタンで回収した空母の残骸から得られたデータは、ルリにとっては喉から手が出るほど欲しいものだった。
 おかげでガミラスのシステムを不完全ではあるが解析することに成功し、システム掌握や相手のシステムの攪乱等の制度と成功率が、随分と向上出来た筈だ。

 嬉しくないわけが無い。これでユリカの負担をまた一段と減らせることだろう。
 敵をルリが無力が出来れば、そこまで行かなくても弱体化させる事が出来れば、艦の指揮を執るユリカは幾分気が楽になるだろうし、そうすればストレスも減って、あのような発作を起こすことも無くなるはず。

 「そうなんだ! 流石ルリちゃん!――でも、あまり使わない方が良いかもしれないなぁ」

 最初は驚いて喜んだものの、すぐにやや浮かない顔になったユリカにルリは少し傷ついた。
 システム掌握が出来ればユリカの負担を減らせると思って必死に頑張ってるのに、その言い方はないのではないだろうか。ちょっとだけルリは拗ねる。

 「これでヤマトがシステム掌握と波動砲を両立出来るなんて知れたら、相手がどんな対策を練ってくるのかわからなくなっちゃうよ。掌握は本当に最後の切り札として温存しちゃって、それ以外は純粋な戦闘艦として戦った方が却ってやり易いかも知れないね――ヤマトは外見的にもナデシコと違って純粋な戦闘艦だから、そういう先入観を与えた方が付け入り易いかも知れない。幸いと言うか、ヤマトには波動砲って言う凶悪過ぎるほど凶悪な武装があるわけだし、先入観は与えやすいのよね……その、別にルリちゃんが私の負担を考えてくれてるのを無視してるわけじゃないの――でも、切り札を残しておかないと今後どう転ぶかわからないから、その、ごめんね」

 そう言われてルリも納得する。
 確かにナデシコCの時点でも敵は対策を始めていた。相手の基礎技術力は地球を上回っている以上、通用するのは恐らく1回だけ、運が良くても数回程度だろう。
 温存したがるユリカの意見も納得出来る。――それに、ヤマトはシステム掌握を前提にシステムを構築していないので、ナデシコC程融通が利かないのは確かだ。

 自分の能力を最大限に発揮出来る戦法だ、かつて火星の後継者に対して決定打に成った手段だと、ルリは知らず知らずの内に思い上がってしまっていたのかもしれないと、自省する。
 とはいえ、この事でルリに非は無い。彼女とて、ガミラスとの戦争が始まってからは自身の無力さで追い詰められる日々を送っていたのだ。
 そんな中で、敵に対して通用する数少ない戦法だったのだから、磨きをかけて決定打に持ち込みたいと考えるのはある意味では自然である。
 だからこそユリカはさらに補足する。

 「だから解析作業はこのまま続けて、例え1度きりでも完璧に出来るように準備だけは進めておいて欲しいな……もしかしたら、本当に切り札になるかもしれないからね。使用の判断は私がするから、ルリちゃんの独断では使わないように。ただし、私が指揮を執れない状況だったり、もしくは判断を仰いでからじゃ遅いっていう超緊急事態の時は、ルリちゃんの裁量に任せる……でも、ギリギリまで我慢してね?」

 しっかり釘を刺されてしまった。
 「わかりました、艦長命令に従います」とルリも素直に応じる。
 一応とは言え使用の判断を委ねて貰えればそれで十分だ。それに考えてみれば、冥王星基地攻略に掌握を使わないという事は、その来るべき日に備えて入念な準備が出来るという事でもある。
 これからは、暇を見つけてはより手段を研鑽し、いざと言う時にどでかい一撃を見舞えるように備えるべきだと、ルリは頷く。

 自惚れるわけでも、その身に施された遺伝子操作を肯定するわけでもないが、それこそが自身の、そして友人たるオモイカネの能力を最大限に発揮する戦法であるのは明白だ。
 ならば、今度使う時は絶対に決定打にして見せる。そして、ヤマトを必ず勝たせて見せる。
 ルリは新たな決意を固め、今後のプランをハリと検討しようと考える。

 ラピスは最近、この手の話題に乗ってくれないし、協力が消極的なので声を掛けないようにしている。
 今だって、嬉しそうにシステム掌握について話すルリを複雑な顔で見ている。その瞳には素直な称賛の他にも、自己嫌悪等が見て取れる。
 ルリは1度だけ理由を尋ねたことがあったが、ラピスは「IFSを使いたくない。私はみんなと同じようにヤマトと接したい」としか答えてはくれなかった。
 何故そのような考えに至ったのかは聞けなかったが、ならばそれ以上は聞くまいと、ルリは望み通り深入りせず、話題も極力降らないように心掛けている。
 姉としてその考えを尊重したいのだ。無論、彼女なりに答えが出て、その上でIFSを含めた自分の在り方を定められたのなら、それに応じて手を借りればいい。
 きっとラピスはかつての自分同様、自分の居場所を自分の手で掴みたいと考えているのだろう。

 「問題は冥王星でどの程度の損害で切り抜けられるかに掛かってるわね。出来るだけ最小の被害で切り抜けたい所だわ」

 とエリナはため息を吐く。正直敵基地攻略作戦を単独で実行するなど正気の沙汰ではない。確かにヤマトにはそれを実現する性能があるのかもしれないが、その切り札と言うべき波動砲は封じされている。幸いにもダブルエックスという切り札は健在だが、果たしてうまく機能するのかどうかは未知数なのだ。

 「最前は尽くします。でも、どうなるかはやってみないとわかりません――私は、絶対にイスカンダルに行きます。そして必ず、アキトやルリちゃん達と一緒の生活に戻るんです」

 ユリカはそう力強く宣言して拳を握る。小刻みに震える拳が決意の強さと同時に不安を現している。
 元より苦難は覚悟の上だ。楽にイスカンダルに行けるなんて最初から思っていない。
 だが、諦められない理由がある。

 例えそれが個人的なものだとしても、ユリカには諦められない夢がある。だから、どんな苦難も力尽くで通るのみ!
 その夢を実現するために世界を救って見せるのだ!



 「あっ! 折角だからルリちゃん今日は一緒に寝ない? ハーリー君との進展が気になるし、もしかしなくても恋人一歩手前?」

 「……え゛ぇっ!?」

 結局捕まって根掘り葉掘り喋らされた。この辺は結局いつも通りである。






 2日後。ヤマトは冥王星空域に到達した。自ずと艦内の緊張が高まる中、戦い始まりを告げる合図が静かに現れた。

 「十時の方向、レーダーに感20……遊星爆弾です!」

 ルリの報告に第一艦橋の全員の顔が引き締まる。

 「くそっ! 俺達を誘うための見せしめか!」

 進がいきり立って座席の肘掛けを叩く。だが進の言葉はヤマトクルー全員の気持ちだ。
 すでに瀕死の地球にこの仕打ち。
 地球に住む者として決して看過出来るようなものではない。

 「……へぇ〜。そう、そこまでしてくるんだ……」

 艦長席でユリカも怒りで頭が煮えてくるのを感じる。
 ガミラス、こいつらが侵略などしてこなければ、地球はあんなことにならなかった。
 木星も滅ぶ事は無かった、誰も彼もが絶望に打ちひしがられる事はなかったのだ!
 地球侵略の目的は知っているが、物には限度と言うものがある! この悪行は決して許せない!

 冥王星前線基地だけは、今日で終わりにして見せる。

 「――コスモタイガー隊発進準備。敵さんこちらに気付いているみたいだから、ダブルエックスの出撃は慎重にね。進君も早く格納庫に行って……戦闘指揮は私が執る。席を借りるよ」

 彼女らしくないと感じるほど低く落ち着いた、底知れぬ迫力のある声で宣言する。
 ユリカはすぐに艦長帽を脱ぎ、杖を突いて立ち上がってからコートも脱ぎ捨てて座席に引っ掛ける。
 そのまま席を離れ、同じく席を立ち艦橋中央で立ち止まった進と手を打ち合わせる。

 何時に無く真面目だ。本気と書いてマジと読む。ユリカの超シリアスモードの発現である。
 だからこそ進もユリカの子供(?)としてではなく、一人前の戦士として応じる。

 「しっかりね」

 「はい、艦長!」

 短く言葉を交わすと進は主幹エレベーターに駆け込んで格納庫に、ユリカは進の代わりに戦闘指揮席に着く。
 再建の際、戦闘指揮席は艦長席の機能を活用出来る様にダイレクトリンクが組み込まれている。所定の操作と認証を済ませれば、艦長席代理(ユリカ命名)の出来上がりだ。
 これはかつてのヤマトにおいて、艦長代理の任に着いて以降、艦長になっても戦闘指揮席を使い続けた進の記憶を垣間見たユリカの希望で与えられた機能だ。
 最悪自分が倒れても、すぐに進が引き継げるようにするために。と言っても、まだ彼には伝えられていない機能ではあるが。

 「全艦戦闘配置! 各砲座位置につけ!」

 ユリカがマイクを手に取って各部署に指示を出す。一斉に艦内が慌ただしくなり、戦闘班・砲術科の面々は各砲座に次々と着席する。
 並行世界の宇宙戦艦を復元した、と言うだけあってヤマトは従来の宇宙戦艦と違って艦砲毎に制御するシステムが残されている。
 一応第一艦橋からの集中制御も出来るようには造られているので、その気になれば砲手はいらない。

 だが、砲手を配置した方が各砲ごとに任意の敵を任意のタイミングで攻撃出来るし、戦闘指揮席や砲術補佐席もターゲットの選定や敵部隊の把握に全力を注げるようになって柔軟性が増すのだ。

 それ以上に、人の血肉が通ってこそヤマトは真の力を発揮する。物理法則の限界を超えた力を発揮出来る。
 そのためにも、過度な自動制御方式の導入な極力避けなければならない。
 それが時にアキレス腱になる事もあるだろうが、それが宇宙戦艦ヤマトなのだ!

 「防御シャッター降ろせ! 全艦、砲雷撃戦――用意!」

 ユリカの指示でヤマトの全ての窓に防御シャッターが下ろされる。
 ヤマトは所謂CICに相当するような装甲で囲まれた発令所が存在しない為の処置だ(厳密には大和には装甲内の司令室があったのだが、ヤマトには無い)。
 第二艦橋内部に新設する事も考えられたが、「艦体に収まってないなら誤差レベル」と言う意見から廃案となり、装甲シャッターで戦闘時に窓を多い、多重展開するフィールドで防御すると言う方式を採用している。
 無論、フィールドが消失した後の防御力は艦体部分に比べて劣るのは仕方ないが、艦体内部に発令所を設置する余剰空間が無いのだから仕方が無い。
 防御シャッターを下ろされた第一艦橋は有視界での索敵が出来なくなるところだが、シャッターで覆われた後の窓がそのままスクリーンとして機能し、コスモレーダーが乗っかっている測距儀のカメラ等が捉えた映像がそのまま投影される。
 そのため意外なほど閉塞感は感じない。

 ヤマト自身が戦闘準備を進める中、下部の大型格納庫でも慌ただしく出撃準備が繰り広げられている。今回は大規模な艦隊戦が予想されているため、機体の半分は重爆撃装備に換装して待機している。

 準備が出来た機体から順次出撃していく中で、Gファルコンと合体したダブルエックスも収納形態の姿で左舷カタパルトに乗せられる。

 「よし、Gファルコンからの制御が有効になった。進君、心の準備は?」

 「勿論終わっています」

 計器類を確認し終えた進がアキトに力強く答える。シミュレーターでは何度も座った席だが、実戦ともなるとやはり感覚が違う。
 アルストロメリアとは桁違いのパワーを、進は操縦桿越しに感じ取って身震いする。

 これが、地球圏最強の機動兵器の鼓動か。

 「古代、しっかりやれよ! 兄さんの敵討ちだ!」

 通信で大介が進を鼓舞してくる。本当にありがたい親友だ。そう言われてはますます気合いが入ると言うものだ。

 「島、しっかりやろうぜ! 今日から遊星爆弾は地球に落とさせん!」

 気合がさらに増した進に、アキトもますます気合いが入る。

 「よし、発進!」

 左舷カタパルトに乗せられたGファルコンDXが、カタパルトの勢いで一気に加速して冥王星めがけて突っ込む。

 今回は特別に光学迷彩を可能とする装備と、ステルス処理が徹底的に取られている。そして、サテライトキャノンを撃つために必要な、2本の機体全長にも匹敵する巨大なエネルギーパックが、コンテナユニットの下に装着されている。

 最悪基地に潜入しての破壊工作も考慮した装備もコンテナ詰めて装着した。加速が終了した後はエンジンも切って最低限の航法システムを使って冥王星に飛ぶ予定だ。
 ヤマトとの連絡は極力避けたいが、万が一に備えてボソンジャンプ通信機も設置した。ユリカとイネスが考案した秘匿システムのおかげで、ボース粒子反応を検知され難くなっている。
 短文程度なら問題無く送れると思うが、使用は最終手段にしておきたいところだ。

 ダブルエックスは今回の艦隊戦には不参加で、冥王星基地をピンポイントに発見して叩くのが仕事になる。
 勿論、現状最強の機動兵器であるダブルエックスを艦隊戦で動員出来ないのは相当な痛手だが、ヤマトと違ってその威力を見せつけていない分注目度は低いはず。
 基地さえ叩ければ、ヤマトの勝ちが見えるのだ。失敗は許されない。



 発進したコスモタイガー隊は、半数ずつヤマトの両翼を固めるように編隊飛行を開始した。コスモタイガー隊を従えたヤマトは、慎重かつ大胆に冥王星に向かって直進する。






 その姿を冥王星前線基地のモニターで捉えたシュルツは、迫り来る強敵を前に不敵な笑みを浮かべる。
 相手にとって不足無し、今日が地球との戦いに終止符を打つ日だと、戦意を高揚させる。

 「やはり動いたか、ヤマト。ガンツ、超大型ミサイルでヤマトを後方から煽れ!」

 「はっ!」

 シュルツの指令に従ってガンツはすぐに基地の制御パネルから事前に配備して置いた超大型ミサイルに指令を送る。
 これでヤマトを後方から煽り、冥王星領空圏内に、反射衛星砲の射程内に納めなければならない。

 さあ、勝負だヤマト!






 電算室で警戒任務を務めているルリは、緊張で額に浮かぶ汗を何度も袖で拭いながらレーダーで周囲を監視する。敵の発見が早ければ早い程ヤマトが優位に立てる。念のためにプローブも3基ほど発射しているが、まだ目立った動きは見つけられない。

 じっとレーダーに目を凝らしていると、ヤマトの後方に放った探査プローブが何かの影を捉える。距離1万q、高速でヤマトに接近してきている。

 これは!

 「こちら電算室! ヤマト後方10万q地点に超大型ミサイル群を発見! 数は推定20、どうやらステルス塗装を施していたようです。長距離用のコスモレーダーでは探知出来ませんでした」

 ルリの報告に第一艦橋にも緊張が走る。最初からなかなか激しい歓迎だと、ユリカは口元に笑みを浮かべる。
 さあ、戦闘開始だ。
 高ぶり切った戦意も露にユリカは戦闘指揮を執る。全力で迎え撃ってこい、こちらも全力で叩き潰してやると言わんばかりの顔だ。

 「第三主砲、第二副砲は大型ミサイルの迎撃を開始! 艦尾ミサイル発射管開け! 通常弾頭装填! 発射した後はすぐに再装填して追撃に備えて!」

 戦闘指揮席からの指示に、即座に第三主砲・第二副砲と艦尾魚雷発射制御室が迎撃態勢を整える。
 第三主砲が重々しく、第二副砲が軽やかに回転して後方から迫り来る大型ミサイルに照準を合わせる。
 鼓型で全長が500mにも達する巨大なミサイルだ。直撃したら如何にヤマトでも耐えきれるものではないだろう。
 第三主砲と第二副砲から送られてくるデータが、目標を捉え発射準備を終えたことを知らせる。

 「撃ち方始め!」

 ユリカの号令で第三主砲と第二副砲が火を噴いた。
 各砲時間差で発射された6本の重力衝撃波は、狙い違わず大型ミサイルに命中する。
 しかし1射では破壊出来なかった。
 続けてもう2射撃ち込んで1発迎撃に成功。大都市を1撃で吹き飛ばしてしまいそうな超特大の爆発が発生する。
 あの爆発の規模だと、至近距離での破壊も避けなければならないだろう。すぐに次の目標に向けて砲撃を行う。
 だが手数が足りない。徐々にヤマトとミサイルの距離が徐々に詰まってくる。
 しかし、距離が縮まれば艦尾ミサイルの有効射程に入る。それで手数は足りるはずだ。いざとなれば煙突ミサイルも足せる。

 「艦長、増速しますか?」

 「まだ駄目。敵の狙いは冥王星にヤマトを追い込む事。まだダブルエックスが予定の地点に全然届いていないから、ギリギリまで粘る。第一戦速を維持、このまま迎撃を続ける。各砲攻撃の手を緩めないで!」

 ユリカは大介の提案を却下して粘る事を決める。
 早々に敵の術中に嵌ってやる必要はない。
 ギリギリまで粘ってダブルエックスが冥王星の上空に侵入するまでの時間を稼がないと。

 「艦尾ミサイル、全門発射!」

 ヤマト艦尾喫水部分にある6門の61p魚雷・ミサイル発射管。その全てから6発の対艦ミサイルが発射される。
 艦砲では狙いにくい、甲板よりも低い位置にある大型ミサイルに向けて、ヤマトの対艦ミサイルが煙の尾を引いて襲い掛かる。
 対艦ミサイルが命中しても超大型ミサイルは破壊出来ていない。その結果を知るが早いか、速やかに再装填した艦尾ミサイル発射管から再度6発の対艦ミサイルが放たれる。
 命中、超大型ミサイルの撃墜に成功する。

 その事に喜ぶよりも先にハリの鋭い声が艦橋に響く。

 「後方よりミサイルの残骸が接近。このままではヤマトに直撃します」

 ハリの報告にユリカは即座に命令する。

 「艦尾ミサイル、バリア弾頭装填! 装填完了と同時に発射! 諸元データの入力はこっちでやるから!」

 命令に従って艦尾ミサイル発射管に新配備のバリア弾頭に換装したミサイルが装填され発射される。
 バリアミサイルはヤマトと残骸を隔てるようにディストーションフィールドを展開。
 フィールドに命中した破片は一瞬拮抗した後、フィールドを貫通してヤマトに迫る。だがその勢いは幾分の衰えている。これならば艦のフィールドで十分に防ぎきれる。

 「フィールド、艦尾に集中展開! 衝撃に備えて!」

 ヤマトの艦尾方向に集中展開されたフィールドがミサイルの破片を辛うじて食い止める。
 元々質量兵器に対しては強固とは言い難いディストーションフィールドだが、持ち前の高出力で何とか防ぐ。辛うじてではあるが、ヤマトは超大型ミサイルによる被害を受けずに済んでいる。
 この調子で全て叩き落とすと、戦闘班の士気もどんどん上がっていく。

 一方、ヤマト周囲を固めるコスモタイガー隊にも破片が襲い掛かるが、機動力に富んだ艦載機達は、その破片を易々と、編隊を維持したまま回避して凌ぐ。
 こちらも破片が直撃しようものなら1撃で木っ端微塵だ。余裕を持って避けているがパイロット達は幾分緊張した面持ちだ。
 尤も、ヤマト航空隊でも特にエース級の腕前の数人は涼しい顔だったが。



 第三主砲と第二副砲は休む間もなく砲撃を続け、次々とミサイルを沈めていく。
 艦尾ミサイルも通常弾頭での迎撃と、バリアミサイルでの防御を交互に使い分けてヤマトへの損害を抑える。
 超大型ミサイルの猛攻を全力で凌ぐ最中、航法補佐席のハリが叫ぶ。

 「重力振、ヤマト周囲に多数! 包囲されます!」

 ハリの報告と同時に、小ワープでヤマトの周囲にガミラスの駆逐艦隊が出現、包囲する。
 総数120隻にも及ぶ大規模な艦隊だ。ここまでの規模は今まで見たことがない。
 その数にレーダーを睨んでいたハリは勿論、電算室でルリ達オペレーターも声の無い悲鳴を上げる。
 初手からこの数とは、敵は本気で、恥も外聞も無く全力でヤマトを沈めつもりだ。

 ほぼ唯一冷静さを保ったユリカは、すぐにその意図が波動砲の封殺であることを看破する。
 予想通りと言えばその通りだが、やはり類似した装備であるグラビティブラストや相転移砲に対応しただけあり、即座に運用上の弱点を突いてきた。
 流石にこれだけの数が来るとは予想していなかったが、だからそれがどうしたと言うのだ。
 やることは変わらない、例え1000隻で掛かって来ようが返り討ちにして冥王星基地を叩く。それだけの事だ。
 最初から容赦などするつもりが無い。徹底的に叩き潰すのみ。

 地球とそこに住まう全ての命の未来を背負ったこの宇宙戦艦ヤマト、そう簡単に討ち取れると思うな!

 「全砲門開け! 主砲とミサイルは距離がある敵を、副砲は近くの敵を優先します! パルスブラストは対空防御に集中! 各砲ターゲットの選定はこちらで行います!」

 ユリカが各砲室に向けて指示を出す。

 それまで沈黙していたヤマトの第一主砲と第二主砲、第一副砲が、艦橋の両脇を固める様に装備された2連装から4連装までの12.7p対空重力波砲――通称パルスブラスト砲が、その下側に設置された両舷8連装61p短ミサイル発射管が、艦橋後方にある8連装61p上方迎撃ミサイル――通称煙突ミサイルが、艦首喫水付近の6門の61p魚雷・ミサイル発射管が、それぞれ起動する。

 「コスモタイガー隊はヤマトの死角の敵に向けて攻撃開始! 全砲門、撃ち方始め!」

 ユリカの号令でヤマトの全兵装が一斉に放たれる。
 ほぼ同時にヤマトを取り囲むコスモタイガー隊が各々に定めた獲物に食い付いていく。
 そして、負けじとガミラス駆逐艦もヤマトに向かって主砲とミサイルを次から次へと叩き込んでくる。

 「第二戦速に増速! 進路3-3-7、降下角7度で水平降下、右に8度ロール!」

 ユリカの命令を復唱して、大介の巧みな操艦を受けてヤマトの体を捻り、攻撃を避け、受け流していく。
 装甲表面を覆うディストーションフィールドに敵艦の重力波が命中して発光、迎撃を免れたミサイルが命中して爆炎を上げる。
 避弾経始を意識した曲面構造の艦体と、敵艦の推定8倍以上の出力で展開されるディストーションフィールドの組み合わせは、ヤマトに命中した数十を超えるガミラス艦の砲火を見事耐え凌ぎ、ヤマトを護りきった。

 爆炎の中から悠然と姿を現すヤマトに、ガミラス兵士達が「化け物か……!?」と恐怖を覚えて引き攣り、目を血走らせて徹底攻撃を決意する。
 これではっきりした。相手は正真正銘の化け物。気後れしていたは絶対に勝てない相手だと、歴戦の兵である兵士達は血気盛んに砲撃を撃ち放つ。

 大介の操縦で敵の多くを射程に捉えたヤマトは、今までの借りを返すと言わんばかりの怒涛の勢いで弾薬を吐き出し、次々と敵艦を葬っていく。

 主砲の一撃は敵艦を粉砕、射線上で重なっていれば2隻纏めて撃ち抜き葬り去る。
 副砲も1撃で敵の駆逐艦を葬るに十分な威力を見せつけ、主砲を上回る旋回速度と連射速度で確実に戦果を重ねる。
 主砲も副砲も、時に砲身を扇状に開いて少しでも命中率を稼ぐ。
 砲撃の邪魔になる艦首ドームのフィンや、左右に伸びるマストアンテナ、メインノズルの垂直尾翼等は、引き込まれたり根元から回転したり、ノズル外周の冷却ジャケット毎回転するなどして邪魔にならないように動く。再建の際に追加された機能だ。
 飛び交うミサイルは互いに迎撃し合うため決定打にはなり難いが、ヤマトのミサイルは命中すれば確実にガミラス駆逐艦を痛めつけ、撃沈を免れても一度姿勢が崩れれば、主砲や副砲が射貫く。
 または本来当たらなかったであろう味方の流れ弾に被弾して沈んでいく。

 並行してヤマトは、まだ数発残っていた超大型ミサイルも片付け、そちらに割いていた火力をガミラス艦隊に向け始めた。
 連続発射の出来ないミサイルに変わって主砲は4秒に1発、副砲は2秒に1発のペースで次々と火を噴き、確実に敵艦を葬り去っていく。
 対空砲であるパルスブラスト砲は、隣り合う砲身から交互にパルス状に青白く見える重力波を吐き出しつつ旋回、迫り来るミサイルを撃ち落とし、時には敵艦の横っ腹に片舷38門の集中砲火を浴びせて手傷を負わせ、当たりが良ければそのまま撃沈に持ち込む。

 6連波動相転移エンジンの大出力を存分に活用し、両用砲(対艦と対空の兼用砲)として使えるように改造された結果だ。
 元々ヤマトは最終時の大和をベースに建造されているため、初期状態の大和の様に副砲を4基備えた艦隊決戦仕様を参考にしていない。
 しかし、従来のヤマトの航海で火力はともかく手数が足りない局面はあったため、出力強化に託けて思い切った改造が施されたのである。

 その火力や凄まじく、主砲や副砲では真似出来ない高密度の弾幕と合わせて対空防御と対艦攻撃をシームレスに切り替えての大活躍。
 射程距離も副砲に迫るほど長く、ミサイルや敵航空戦力の早期撃墜を図るに十分なスペックを持つ。
 それでも、あまりの標的の数に砲身の冷却が追い付かなくなって来た。発射間隔の調整やローテーションを組むなど、あの手この手で対処して何とか持たせる。
 今は火力を少しでも落とせない状況なのだ。

 宇宙を飛び交う砲火も騒がしいが、ヤマトの艦内も騒がしい。

 電算室のルリは敵艦の位置、エネルギー反応、射撃レーダーの照射等を目まぐるしく解析して艦橋に送る。
 ルリ達オペレーターは縁の下の力持ち。
 彼女らが解析したデータが無くては各部門のプロフェッショナル達もその実力を発揮しきれない。そして時には実力以上の力を出せるのだ。
 そう言い切れるほど、ルリを頂点としたオペレーター達のデータ捌きは神懸かっている。

 データを受け取ったハリが、ゴートが、ユリカが、各々必要とするデータを読み取る。

 ハリは敵の行動に応じた回避行動データを作成しては操舵席に送り付ける。

 ゴートは敵の正確な位置データを改めて読み取って、適切な火器に振り分けて攻撃指示を出す。さらにはミサイルの諸元データの入力や各武装のコンディション管理、さらにはフィールド担当班と連携してフィールド強度の維持と出力分配を行う。

 ユリカは敵艦隊の行動データ等を読み取って脅威度の高い敵に優先して攻撃する様に指揮すると同時に、コスモタイガー隊との連絡を取り合ってヤマトと密に連携出来る様に心掛け、コスモタイガー隊が弱らせた敵の止めや、優先攻撃目標の指示、損耗具合に応じた交代指示などを出す。

 艦内管理席の真田は、被弾個所の具合を見て必要に応じたダメージコントロールの指示を次々と飛ばす。部下達を手際良く分担させ、ヤマトの機能を落とさないよう、戦闘班にも迫る大活躍を見せる。

 通信席のエリナもコスモタイガー隊や艦内通話の回線を次々と操作して、指示漏れが発生しないようにする。彼女の手際の良さに助けられ、ヤマトとコスモタイガー隊の連携は破綻すること無く、同時に艦内の被害報告も漏らさず伝わってくる。

 機関制御席のラピスも主砲や副砲、パルスブラストにディストーションフィールドと、凄まじい勢いで消費されていくエネルギー管理を徹底し、ヤマトが息切れしないように細心の注意を払ってエネルギー分配を制御する。
 エンジンの出力を落とさないように機関室に檄を飛ばす事も忘れない。
 全力戦闘中のヤマトのエネルギー消耗は激しく、推力に分配する出力が落ち込み機動力が鈍りつつある。
 おまけに技術的背伸びを承知で改造された6連波動相転移エンジンは、予想を超える激戦で動作が不安定になりつつあった。
 機関室もエンジンの出力を落とさないよう、コンピューター制御やエンジンの直接管理と、八方手を尽くしてヤマトを支える。

 副長席に座るジュンはユリカが戦闘指揮で手一杯になっているため、代わりに各部署の情報を統括してヤマトの状況を正確に把握し、敵部隊の動きを解析して全体の戦況把握のために尽力する。
 合わせてヤマトの進路の修正案を幾つも提示する。
 それに何とかユリカが目を通しては理想に近いものを採用して隣の大介に送り、ヤマトの進路を細かく修正していく。

 クルー全員がとにかく必死の顔で、額に汗を浮かべながら刻一刻と変化していく状況に対応し、確実にガミラスの艦隊を駆逐していく。

 だが、ヤマトも無傷では済まない。

 負荷で弱ったフィールドを抜けた重力波が、ミサイルがヤマトの装甲に傷を刻んでいく。それでも再建の際に施された反射材混入の装甲と表面コートの頑強さ、そして装甲の空間に張り巡らされたディストーションブロックの不可視の隔壁で、何とか内部へ貫通される事だけは防いでいる。
 だが衝撃が内部に少なからず抜けて、内部構造にダメージが生じる。被弾の度に艦体が軋む音が耳に入り、クルー達の不安を煽る。
 ヤマトの威力は凄まじいが、回避行動や被弾の衝撃で主砲も副砲も照準がずれて命中を逃すことも多く、すでに50隻余りを撃沈せしめたとは言え、危機を脱したとは言い切れない。
 第一艦橋にも各所から被害報告が引っ切り無しに届くようになり、ガミラス艦の必死の猛攻の前にヤマトは、徐々に損傷を蓄積しつつあった。



 「ガミラス! あの時の借りを返しに来たぜ!」

 コックピットで吠えるリョーコは愛機を巧みに操って狙いを定めた敵艦に接近する。ヒカルとイズミもそれに続く。

 「相変わらず熱いねぇ〜リョーコは。でも、私も漫画家廃業の危機に追い込まれて、怒ってるんだからね!」

 「山の頂上、それは、いっただき〜」

 ヒカルとイズミも続く。全員がビームジャベリンを右手に、左手にはロケットランチャーガンを携え、機動力を増した愛機を駆ってガミラス駆逐艦に接近する。

 まともに撃ち合っても防御を抜けることは困難なので、3人娘は比較的防御が薄く、破壊すれば指揮系統を混乱出来るブリッジに狙いを定めて急接近。
 対空砲火を潜り抜けて装甲表面を覆うフィールドにジャベリンを突き立てる。
 ジャベリンは急激にエネルギーを消耗しながらも周辺のフィールドを押し分けて僅かな穴を開けていく。
 そこに至近距離からGファルコンの拡散グラビティブラスト(収束モード)とロケットランチャーガンを連続で撃ち込んで、何とか撃沈に成功する。

 ブリッジを破壊されたガミラス艦は制御を失って蛇行し始める。
 そのまま味方の射線に入り込んでヤマトを襲うはずだった重力波を代わりに受け止め、撃沈する。

 「よっしゃぁ! この調子でいくぜ! ヒカル、イズミ!」

 「いいよ、いいよぉー! 堪りに堪った鬱憤をぶつけちゃんだからぁ〜」

 「同感。今までのツケをたっぷりと払って貰うよ!」

 気合たっぷりの3人娘は、新しい獲物に次から次へと襲い掛かる。勿論ロケットランチャーガンの弾頭を再装填するのを忘れない。
 Gファルコンのカーゴスペースに搭載した予備弾頭を、ラックに併設されたサブアームで引き出して、銃口に差し込んで再装填完了。大型で威力が高い弾頭な分、どうしても携行数が限られてしまうのが難点だが、この火力は悪くない。
 他のパイロットとは一線を画した活躍に、全隊の士気も上がっていく。



 「よっしゃっ! 頂きだぜ!!」

 威勢の良い掛け声と共にサブロウタが駆るスーパーエステバリスは重爆装備で出撃していたが、落ち込んだ機動性を感じさせず、巧みな操縦でガミラス艦の機関部に大型爆弾槽を叩きつけることに成功した。
 2基の大型爆弾槽、計512発の高性能爆弾の破壊力の前にガミラス艦もあっさりと装甲に大穴を開け、損傷して暴走した機関部が弾け飛んで爆発炎上、そのまま味方艦にあわや衝突しかける。

 「三郎太!」

 月臣の叫びに応えるように衝突を避けようとして横っ腹を見せたガミラス艦にスーパーエステバリスとアルストロメリアが果敢に襲い掛かる。
 スーパーエステバリスは左手に持ったビームジャベリンで、アルストロメリアはフィールド中和機能を有している両腕部のクローを使って機関部周辺のフィールドを中和。
 弱った所に2機分の拡散グラビティブラストを叩き込んで、何とか戦闘能力を奪うことに成功する。

 「くっ、ダブルエックスが居ないと火力が足りんな……っ」

 流石の月臣も弱音が口を吐く。
 短距離ボソンジャンプを駆使しながら的確に弱点を攻撃しているはずなのに、アルストロメリアの火力では中々致命傷を与えられない。

 相転移エンジン2基で動くGファルコンDXは、とにかく火力がエステバリス系列機とは段違いなので、本来ならこういう戦闘でこそ活きてくる機体でもあるのだが、如何せんより適切な目的で運用されているから愚痴しか言えない。

 「確かにキツイっすね。でも、負けてられませんよ少佐! この戦いの果てに人類の未来が掛かってるんです! くぅ〜っ! 卒業したはずの熱血が疼くぜぇ!」

 サブロウタは勢いを緩めずに敵艦に食い付く。右手のロケットランチャーガンと両肩の連射式カノンとマイクロミサイル、Gファルコンの火砲と持てる火力の全てを出し惜しみせずにぶつけていく。
 まさに動く弾薬庫の様相を呈している。

 「確かにな。だがこんな熱血なら悪くない! これこそが本当の木連魂だ!」

 叫んで月臣もさらに勢いを増して攻撃に転ずる。
 短距離ボソンジャンプを駆使して攪乱しつつ、両腕のクローを突き立ててフィールドを弱らせ、拡散グラビティブラストをしこたま撃ち込んでダメージを与える。

 コスモタイガー隊は当初の指示通り、ヤマトの砲撃が届き難い位置にある敵艦を優先して攻撃しているが、その攻撃力からヤマト程ハイペースでは潰せていない。
 それでも用意されたビームジャベリンやロケットランチャーガンの火力を併用する事で以前よりも決定打が増しているのが救いで、部隊全体で10隻を屠った。重爆装備の機体が幾つか健在なので、まだまだスコアが伸ばせる。
 以前の装備なら5隻程度が限界であっただろうが、地道な改良が功を奏している。

 ヤマトとガミラス艦隊の一進一退の攻防が続く。
 双方余裕など無い熾烈極まる激戦が、静寂の宇宙に喧騒をもたらしていた。






 その頃、慣性飛行で冥王星に向かうGファルコンDXも、パッシブセンサーでヤマトの状況はおおよそ把握していた。

 「苦戦してるな……と言うか、戦艦1隻にこんな仰々しい戦力をぶつけてくるなんて……流石のガミラスも、波動砲は怖いんだな……」

 アキトはGファルコンのコックピットの中で歯噛みする。
 わずか1年とは言え地球を散々打ちのめしてきたガミラスだけある。波動砲の存在があれど、単艦のヤマト相手に全く容赦してくれない。

 「くそぅっ! これじゃあ、俺達が基地を潰す前にヤマトが沈んじまう!」

 進はダブルエックスのコックピットで操縦桿を握り締める。元が血気盛んなので、こういう時に冷静さを失い易いのが、進の欠点である。

 「落ち着くんだ進君。ヤマトを、ユリカを信じるんだ」

 アキトは平静を保った声で進を宥める。
 実際はアキトも気にはなっているが、作戦を台無しにするわけにはいかない。
 ここは、ヤマトのタフネスとユリカの采配に全てを託す。
 最初から、ヤマトとユリカを信じて挑んだ航海だ。今は自分が成すべきことを成せば良い。






 「ヤマト、冥王星に依然接近中! 艦隊の半数以上が撃破されました!」

 司令室のオペレーターが驚愕の声を上げる。
 まさか120隻にも及ぶ艦隊と真っ向からやり合えるとは、常識外れにも程がある。
 艦も凄いがこちらの艦隊行動を読み切り、最小限の被害で最大の効果を上げる指揮官の采配も見事だと、シュルツは敵ながら素晴らしいと内心称賛する。

 「攻撃の手を緩めるな! 超大型ミサイルを追加で撃ち込め! ありったけだ!」

 シュルツの指示を受けて副官のガンツはすぐに自らオペレートして、基地に用意されている超大型ミサイルをありったけ発射する。
 先発してヤマトに送ったミサイルと合わせて計40発。
 ――たった1隻でここまで戦える。正真正銘の化け物だ。だからこそ、ここで潰さねば!

 「ワシは反射衛星砲の管制室に行く。ガンツ、ここは任せたぞ」

 そう言うと、シュルツはエレベーターに乗り込んで基地の下層にある反射衛星砲の管制室に向かう。
 決着の時が、じりじりと近づいているのを感じた。






 「レーダーに感! 冥王星から超大型ミサイルが接近! 数20!」

 ルリの悲鳴に近い報告にユリカはギリッと歯噛みする。
 まだそれだけの余力があるか。
 一筋縄ではいかないと覚悟はしていたが、大した戦力だ。
 面白い、我慢比べで早々負けるつもりはない。こちとらこの1年、毎日のように死を覚悟しながら抗い続けてきたのだ。
 ユリカの闘志がさらに燃え上がる。

 「進路変更、面舵30、ピッチ角プラス5、左に10度傾斜!」

 ユリカは大介に操艦の指示を出すと、続け様に艦砲制御室に怒鳴りつけるようにして指示する。

 「火力を左舷に集中、目標超大型ミサイル! 左舷ミサイル発射管は全門通常弾頭発射、発射後バリア弾頭に切り替えて防御幕を形成!」

 ヤマトはその巨体を捩るようにして回頭し、超大型ミサイル迎撃の構えを見せる。
 巻き込まれることを恐れてか、ガミラス艦隊はヤマトからやや離れるような姿勢を取っていて、攻撃の手が僅かに緩んだ。

 「大介君、信濃で出撃してコスモタイガー隊と連携、ガミラス艦隊に当たって! 操舵はハーリー君が変わって! ゴートさんも同乗して攻撃を担当してあげて下さい!」

 「了解!」

 3人は余計なことは言わずに了承すると、持ち場を入れ替えて戦いを続ける。
 ハリの体格では操舵席のコンソールは少々持て余し気味だがこの際仕方が無い。
 ユリカも操舵は出来るが、そうすると戦闘指揮を執るものが居なくなってしまう。
 ジュンはバックアップにてんてこ舞いで戦闘指揮をする余裕が無い。

 此処が温存しておいた信濃の使い所だ。
 信濃とコスモタイガー隊との連携は、新生ヤマトの戦術の要だが、信濃は正面切っての戦闘よりも闇討ちの方が向いている。
 元々24発の波動エネルギー弾道弾以外に武装を持たず、生産性の悪さから補充が困難で継戦能力が極端に低く、小型故に耐久力でヤマトに劣り、波動エンジン未搭載故に最高速と防御力で劣る信濃は、むやみに出しても戦果を挙げられないのだ。
 信濃の強みは小型艇特有の運動性能の高さにあって、それを活かせなければ何の役にも立たない。
 つまり、このような混戦で、ヤマトが別の何かに注力しなければならない時こそが信濃が活きる場面なのだ。



 ミサイルの迎撃態勢を整えたヤマトの主砲と副砲が同時に斉射され、1つ、2つと超大型ミサイルを破壊していく。
 続け様に左舷8連装ミサイル発射管から対艦ミサイルが放たれ、直後にバリア弾頭を装備したミサイルが乗組員の懸命の努力で速やかに再装填される。
 少しでも破片を撃ち落とすためにとパルスブラスト砲も大量の弾を吐き出して懸命に弾幕を張る。
 ヤマトの火器も幾らか被弾して機能障害を発生しているため、開戦直後に比べると攻撃の密度が薄くなっている。
 それでも懸命に弾を吐き出し、徹底抗戦の構えを持ってヤマトは戦う。

 全ては帰りを待つ人々の為に、そして自分達を含めた全ての人類に未来を与えるために。



 黙々と砲撃を続けるヤマトの艦底部から信濃が発進、ミサイルの迎撃に全力を注いでいる無防備なヤマトを攻撃しようとしたガミラス艦隊に猛然と突っ込む。
 全長81mと相手よりも小柄な体格と小回りを活かして、回避行動を取りながら24発の波動エネルギー弾道弾を次々と放つ。
 大介の巧みな操縦技術と、冷静沈着なゴートの正確な照準と発射タイミングの組み合わせは絶妙で、迎撃の隙を極力与えず、そして敵の迎撃を巧みに掻い潜って肉薄し、確実な攻撃を加えていく。
 その威力や凄まじく、1発で容易くガミラス艦を粉砕し、余波だけでも損傷を与えることに成功している。
 信濃の攻撃でさらに19隻のガミラス艦が轟沈し、弱った艦を最後の力を振り絞ったコスモタイガー隊が喰っていく。消耗が激しいコスモタイガー隊には、もう満足に対艦攻撃出来るだけの弾薬は残っていない。
 これが正真正銘のラストアタックだ。

 この攻撃で残存僅かとなったガミラス艦隊は、これ以上の戦闘継続は無理と悟ってか、冥王星へと下がっていった。

 ヤマトも辛うじてミサイルの迎撃に成功し、バリア弾頭の防御幕や艦体を覆うフィールドを突き抜けた破片の衝突で傷を負ったが、戦闘能力を保つ事には成功していた。
 弾薬を使い果たして戦闘継続が困難になった信濃とコスモタイガー隊は次々とヤマトに帰艦していく。
 ヤマトも収納が完了するまでは迂闊に動けず、不本意ながら無防備な姿を晒す羽目になる。
 そしてこの隙を逃すほど、冥王星前線基地は甘くなかった。






 反射衛星砲の管制室に到達したシュルツはモニターに映るヤマトの姿に不敵な笑みを浮かべる。
 敵ながら見事な戦いぶりだ。これほどの戦いは、軍歴の長いシュルツとてそう経験出来るものではない。
 ――そして今からその強敵を討ち取れるのだ、頭脳で地球人に勝るガミラスの叡智の結晶によって。

 「ヤマトは今、こちらに脇腹を見せています」

 部下の報告に笑みをますます深めると、

 「よぉし……反射衛星砲発射用意」

 と静かに命令を下す。今、雌雄を決する時が来たのだ。

 「反射衛星砲、制御装置準備完了!」

 「エネルギー充填、150%」

 部下が命令に応えて反射衛星砲を目覚めさせる。
 海底に走ったエネルギーチューブの中を膨大なエネルギーが駆け巡り、反射衛星砲に集中する。
 驚異の艦、ヤマトを屠るために余分にエネルギーをチャージして必殺に一撃を見舞う。
 これならヤマトがどれほど強力であろうと、確実に息の根を止められるはずだ。

 「ヤマト、お前は素晴らしい強敵だ。その実力に敬意を表して、我が冥王星前線基地の切り札を持って沈めて見せよう」

 シュルツは獲物が刻一刻と罠に近づくのを待ちかまえながら、祖国の為に決死の覚悟で挑んで来たヤマトに最大限の敬意を表する。
 願わくば、敵としてではなく戦友として会いたかったと、柄にもなく考える。
 きっと彼らとは、美味い酒が交わせただろう。
 いや、妙な感傷はよそう。この強敵を沈めぬ限り、ガミラスに安寧は無いのだ。
 そう、地球とガミラスは相容れない、相容れるわけが無いのだ。

 「発射用意!」

 シュルツは発射装置を右手に構えてヤマトに照準が合う瞬間を待つ。
 モニター上のヤマトは着々と反射衛星砲の射程に近づいてくる。あと少し……。

 「反射衛星砲、発射!」

 シュルツは発射装置を押し込んだ。
 その瞬間に、チューリップを彷彿とさせる砲身から強力なエネルギービームが打ち出される。
 砲を保護している透明な保護ドームはこのエネルギービームを透過するため、砲を保護したまま発射出来る。
 この仕様が原因で重力波砲を採用出来なかったのだが、基地施設と直結した大出力砲の威力は、決して重力波砲に引け劣らない。
 海中を突き進むビームは、凍り付いた海面をぶち破って天に向かって飛び去って行く
 砕かれた氷はすぐに凍り付いて、僅かな痕跡を残すのみとなる。
 そのまま宇宙へと飛び出したビームは、真っすぐに無防備なヤマトの横っ腹めがけて突き進む。





 その頃ヤマトはようやく信濃とコスモタイガー隊を格納し、体勢を立て直そうとしていた。
 ガミラスの艦隊が離れたわずかな隙に、ユリカはポケットに忍ばせておいたタブレットケースを振って、錠剤を2つほど口の中に放り込む。
 薬の吸収効率の良い舌下で舐めて、コンディションが悪化しないように気を配る。つい先日の反省が活きていた。
 戦闘指揮で熱くなり過ぎた。
 頭がズキズキと痛み始めてきたし、胸も苦しくて動悸が収まらない。指先がかすかに痙攣をするようになった。
 このままでは指揮を執れなくなる。承知していた事とはいえ、弱り切った体に憤りを感じずにはいられない。

 「艦長、大丈夫ですか?」

 隣のハリが気遣わし気に尋ねてくるが、ユリカは笑顔と右手のVサインを作って応える。
 正直余裕は無い。だが引けない。
 ――この戦いだけは絶対に、散って逝った仲間達の為にも。

 「左舷方向! 強力なエネルギーが接近中っ!」

 悲鳴染みたルリの報告にユリカは即座に反応した。

 「フィールド左舷に集中展開! 右ロール20度!」

 命令が下るとフィールド制御担当は、即座にヤマトの左舷に集中展開して被弾に備える。ハリもすぐに反応してヤマトを右にロールさせる。
 対応がギリギリで間に合った直後、反射衛星砲の一撃がヤマトの横っ腹に突き刺さった。

 ヤマトの艦体が激しく揺れる。集中展開したフィールドの妨害に遭い、曲面装甲に一部が受け流されながらもフィールドを抜けて複合装甲と、装甲下のディストーションブロック数枚をも貫通し、内部構造を露出する大打撃を与えた。
 幸い装甲貫通までで威力を失ったが、もしもフィールドの集中展開が遅れていたら、艦をロールして装甲面に垂直に命中させないようにしなかったら、機関部にまで達してヤマトは終わっていたかもしれない。

 ヤマトは、左舷錨マークの前付近、左舷搭乗口部分に直径7mにも達する大穴を開けたまま、冥王星に向かって突き進む。



 「左舷ミサイル発射管付近に損傷。装甲を全て貫通されました!」

 真田の報告に第一艦橋の全員が顔を青くする。
 強力な要塞砲の存在は考慮していたが、まさかヤマトの防御を意図も容易く突破する程とは。

 「艦長、推進機の出力制御装置に損害発生、出力の制御が効きません!」

 ラピスが機関制御席で悲鳴を上げる。機関部近くまでダメージが及んだため、各ノズルへの出力制御装置を破損してしまった。

 「駄目です! このままだと冥王星に突っ込んでしまいます!」

 ハリは半泣きになりながらも懸命に立て直しを図るが、舵が言う事を聞いてくれない。
 出力制御系が破損した事で逆噴射に上手く出力が回らない。メインノズルへの供給は何とか停止したが、これではやがて冥王星に墜落して大破炎上だ。

 「艦長! 右上方15度方向に冥王星の衛星らしき天体があります!」

 ルリの報告にユリカが視線を向けると、そこには冥王星の衛星らしい小天体を認めた。
 地球からの観測データには無い非常に小さな、最も長い所で20q程度の楕円状の岩石。
 冥王星にかなり近い軌道を回っているようだ。ロシュ限界の僅か手前といった所だろうか。
 もしかしたら彗星か何かが一時的に冥王星の軌道を回っているだけで、衛星ではないのかもしれない。
 その姿を認めた瞬間ユリカは即断する。

 「ロケットアンカーを使います! ハーリー君は左舷スラスター全力噴射の準備をして!」

 「は、はいっ!」

 ユリカは戦闘指揮席からの制御でロケットアンカーの目標を入力、衛星に最接近したタイミングで発射する。
 洋上艦を模したヤマトはその姿に偽らない主錨を艦首の左右に備えている。海上停泊時に投錨する本来の使い方は勿論、このような状況下で天体に撃ち込むことで艦を固定する目的でも使われる。
 発射命令を受け取った右舷ロケットアンカーは、各部を変形させて鋭い銛となり、ロケット推進で岩石に向かって突き進み、その表面に深々と突き刺さる。

 同時にヤマトはアンカーを起点に振り子のように振り回される。遠心力が生み出す激しい横Gに、艦内の全員が近くの物にしがみ付いて堪える。
 そのままあわや衛星に激突しようとしたところで、ハリとラピスと機関士達の懸命な努力で最大噴射を果たした左舷スラスターの推力が、寸での所でヤマトを停止させる。
 噴射の圧力で衛星表面に生じた粉塵が、ヤマトがどれほど接近していたのかを如実に表していた。

 ヤマトが停泊に成功したところで全員がほっと胸を撫で下ろす。

 「はぁ〜……もう駄目かと思った」

 とハリが弱音を漏らし、

 「機関室の皆さん、お疲れさまでした。何とか命拾い出来ましたね」

 ラピスが青い顔で部下に感謝の意を表する。我らが妖精の言葉に汗と油で汚れた機関士達がニッと笑って親指を立て、それはもう頼もしく応える。

 「あ、危うく交通事故だったね。ペチャンコにならなくて良かったぁ〜」

 疲労でシリアスモードが解除されたユリカがボケると、「シャレにならない例えは止めて! 想像しちゃったじゃないか!」と艦橋の面々から総突っ込みを受けて「ふみぃ〜……」とへこむ。

 そこでようやく信濃から戻ってきた大介とゴートが、それぞれの席に戻っていく。

 「変わろうハーリー。よく頑張ったな」

 大介が出来るだけ余裕がある様に見せながら、ハリを称賛する。

 「ぬうぅ、これが冥王星基地の切り札か。恐ろしい威力だ……!」

 砲術補佐席で武装の稼働状況を調べながらゴートが呻く。
 駆逐艦とは言え、それまで容易く地球艦を破壊してきたガミラスの砲撃に対して圧倒的な防御力を示したこのヤマトが、それまでの損害があるにせよ、たった1発でここまで追い込まれるとは。
 やはりガミラスは油断ならない敵だと、ゴートを始め艦内の全員が気持ちを引き締める。

 「艦長、補修作業を指揮します」

 と真田がユリカに告げる。この損傷はすぐにでも応急処置しないと、艦の機能に影響が出ると真田は警戒も露にしている。

 「わかった。でも気を付けて、必ず追撃が来る。船外作業は最小限に留めて内側の応急処置を優先して。今迂闊に外に出ると、犠牲者を増やしかねないから」

 ユリカの言葉に真田も「はっ!」と応じて第一艦橋を飛び出していく。
 そのまま真田は被弾個所周辺の隔壁の閉鎖を指示しつつ、今の攻撃でダメージを負ったフィールド発生装置の応急処置を始める。
 幸いにも機能停止には至っていないが、それまでの被弾と合わせて相当な負荷が溜まっている。
 艦の各所に分散されたフィールド発振装置のコイルやヒューズなど、フェイルセーフ用の交換部品を、部下達と協力して手早く交換していく。
 ヤマトの技術班の大部分は、ヤマトの再建作業に携わった技術者が多い。勝手知ったる何とやら、驚異的なスピードでヤマトの機能を回復させていく。
 地味にここで大活躍するのがウリバタケ・セイヤその人で、出航からずっと艦内を駆けずり回って色々探求していたことと、持ち前の技術力を思う存分披露して、真田でもすぐには手が付けられないような、破損の大きな部位を瞬く間に応急処置していく。
 頭脳では真田が勝るが、技術ではウリバタケが勝る。
 似た者同士と言うか、互いに多くを語らなくてもこの手の作業で相手が何を求めているのかがわかるので、最小のコミュニケーションで最大の効果を挙げる、地味に凶悪なコンビが生まれていたのである。

 なお、一部からは「あ〜あ。出会っちまったよ」と嘆きの声が聞こえたとかいう噂が流れたらしいが、真偽のほどは定かではない。






 「ヤマト、冥王星の反対側に隠れたからと言って、安全ではないぞ」

 反射衛星砲の、しかもオーバーチャージの一撃を耐え抜いたばかりか致命傷すら与えられなかったことに、内心計り知れない衝撃を受けているシュルツであったが、動揺を表に出さず次の指示を出す。
 強力な反射衛星砲の一撃からヤマトを保護したのは、同じ反射衛星砲から生まれた保護メッキ技術であることを、幸か不幸かシュルツが知る事は無かった。ついでにヤマトクルーも。

 「次弾装填急げ。反射衛星、反射板オープン。目標、ヤマト!」

 シュルツの指示に従って部下達がヤマトを狙うために必要な反射衛星を選択する。

 「反射衛星2号、10号、11号、6号、用意。微動修正開始」

 司令室の命令を受諾した、軌道上の反射板搭載衛星――通称反射衛星の稼働状態になる。
 花弁とも表現出来る4枚の反射板を展開し、角度を微調整してヤマトへの射線を通す。
 勿論基地の所在が判明し難いよう、一直線ではなく数回に屈曲させることも忘れない。

 「反射衛星、準備完了!」

 部下の報告にシュルツは笑みを深くする。

 「さあヤマト、冥王星基地が誇る反射衛星砲の真の威力、とくと味わうが良い――発射!」

 シュルツが発射装置を押し込むと、反射衛星砲から放たれたビームが再び天を貫き、軌道上の反射衛星に命中してその進路を屈曲させていく。反射衛星は起動と同時に反射フィールドを展開し、それを利用して屈曲させる。
 数回の屈曲を経たビームが、ヤマト目掛けて突き進む。
 その事ヤマトはまだ気づいていない。






 戦闘指揮席でユリカが呻く。流石にこの遠心力は中々辛かった。
 安全ベルトこそ装着していたが、腹部に食い込んだベルトが痛いし、視界が揺れる。
 大激戦で消耗激しいとはいえ、本当に弱った体が恨めしい。
 自分がしっかりしなければ、艦長がぶれたらヤマトは駄目になってしまうと言うのに。

 「艦長、これを飲んで下さい。栄養ドリンクです」

 と、何時の間にか第一艦橋に上がって来ていた雪が栄養ドリンクのビンを差し出している。キャップは開封されていて、すぐに口を付けられる様に配慮されているのがニクイ。ユリカは「ありがとう雪ちゃん」と受け取って一気に煽る。

 「ぷはぁっ! くぅ〜、五臓六腑に染みわたる〜!」

 大袈裟なリアクションを取るユリカに雪が苦笑する。
 ……でも最近は水と何時もの栄養食くらいしか口にしていないのだから、こんな栄養ドリンクでもご馳走なのだろうと考えると、ちょっと胸が痛い。

 「他の皆には?」

 「もう配りました。私も負傷者の手当てに戻ります」

 足早に艦橋を立ち去る雪。勿論空き瓶を全部回収して持ち帰る事は忘れないプロの鑑だ。
 忙しい中第一艦橋の面々、すなわちヤマトの頭脳達を激励するために何とか抜け出してきたのだろう。
 ――良いお嫁さんになりそうだ、ますます進を任せたいと、ユリカはちらりと考えた。

 「……ここで停泊すると、的にならないかしら?」

 栄養ドリンクで幾らか気力を回復したエリナがもっともな疑問を口にする。停泊した艦艇など、確かに的にしかならない。

 「ここは先程の砲撃地点から冥王星を挟んで、丁度反対側ですよ。あの大砲がすぐさま飛んでくる事は無いと思いますが?」

 大介が暗に心配は無いだろうと言った直後だった。本当に直後だった。

 「右舷より高エネルギー反応! 先程の大砲です!」

 というルリの無慈悲な報告が第一艦橋に響き渡る。

 「フィールド右舷に集中展開! 右ロール急いで!」

 慌てて指示を飛ばすユリカに応えたフィールド制御担当の早業と大介の反射神経により、ヤマトの右舷に命中した反射衛星砲の一撃は、またしても致命傷にならずに済んだ。
 しかしそれでも右舷展望室の直下付近にまたしても直径8m程になる大穴が空き、内部構造が露出する大損害を被ってしまった。

 なお悪い事に、その衝撃でロケットアンカーが抜けてしまい、ヤマトは再び冥王星に向かって墜落を始める。
 エンジンの出力制御系がまだ回復していないため、逆噴射は最低限しか使えず、メインノズルの点火もままならない。

 「もう! 大介君が余計なフラグ立てるから!」

 「お、俺のせいですか!?」

 ユリカのボケに悲鳴に近い声で大介が反応する。
 その顔には「理不尽だ!」と言う言葉が浮き出ていたが、コントに付き合う余裕の無い他のクルーは、それぞれの部署の損害確認と衝撃で投げ出されないように体を固定する事に全力を注ぐ。
 可哀想だと思われながら、大介は放置された。

 でも「フラグ回収乙!」とかしょうもない言葉が脳裏に浮かんだ者が居たらしいことが、後の雑談で判明したのであった。

 「くそっ、減速しきれない……このままでは墜落する!」

 「主翼展開! 重力波放射機能で滑空しつつ減速掛けて! ハーリー君、冥王星の海洋の位置を島君に! 着水させれば何とか耐えられるかも!」

 「は、はい!」







 冥王星に墜落を始めたヤマトを見て、司令室は喜びの歓声が上がる。
 あれほど手強かった強敵が、冥王星基地の切り札を前に右往左往している。そして、確実にダメージを与えているのだ!
 ――しかし、本来なら木っ端微塵になっていなければおかしいのに、2発も耐えた事に青褪めた者も多かった。

 「ヤマトは赤道付近の海に向かっています」

 「よし、もう一息だ。完全に息の根を止めてやる。反射衛星砲発射用意!」






 主翼を展開したヤマトは主翼から放たれる重力波に乗る形で何とか減速をかけていた。
 艦内では破損個所付近の隔壁を全て閉鎖して浸水に備える。

 「島さん、出力制御装置が一部回復しました、逆噴射出来ます」

 ラピスの報告に応じると、大介はすぐに姿勢制御スラスターの噴射操作を行う。
 ヤマトの艦首のスラスターがタキオン粒子の奔流を噴き出してヤマトの落下速度が低下し、艦首を持ち上げることに成功する。合わせて主翼を畳んで着水の体勢に入る。
 減速出来たとはいえそれでも相当な速度が出ているため、操縦桿を握る島の手にも力が入り、額に汗が浮かぶ。
 眼下には、凍り付いた海面がぐんぐん迫ってくる。

 「着水するぞ! 全員、衝撃に備えろ!!」

 着水まであと少しと言う所で島が艦内通信機に向かって叫ぶ。それから10秒もしない内に、凄まじい衝撃と共にヤマトが着水する。
 艦内に衝撃音と乗組員の悲鳴が轟く。
 ヤマトは氷を砕き、激しい水飛沫を上げながら数qに渡って海面を滑走し、1度は完全に水中に没して、大きく艦首を跳ね上げて水面から飛び出し、再び着水してようやくその勢いを失った。
 艦内の慣性制御機構をフル稼働してもこの衝撃、慣性制御機構が無かったり破損していたら、乗員は残らずミンチになっていただろう。
 着水したヤマトは、被弾個所から浸水が続いている。
 隔壁で閉鎖されているため、広範囲の水没は免れているが、破損個所の修理作業が完全に停滞してしまった。さらに通気口などからも少なくない浸水が発生し、電装品等を痛めつけていく。
 第一艦橋の面々もほっと胸を撫で下ろしながらも、はっとして戦闘指揮席の様子を伺う。
 戦闘指揮席のユリカはぐったりとした様子でコンソールに突っ伏している。

 「艦長! 大丈夫!?」

 すぐに通信席から駆け出したエリナがユリカの肩を掴む。

 「うぅ……」

 突っ伏したユリカから呻き声が聞こえると全員の顔が青褪める。今の衝撃で容態が悪化してしまったのではないだろうか。
 もしもそうだとしたら、これからの航海はどうなる。無傷で済まないのは承知の上とは言え、もう少し自分達に力があれば。
 等と思考が混乱しているとユリカは小さな声で「気持ち、悪いぃ……吐き、そう〜……」と呻いている。
 「え?」と言う感じでエリナがユリカを抱き起すと、両手で口を押えて青白くなっているのが確認出来た。何だか頬が膨らんでいるような。

 「ちょ! え、エチケット袋どこ!?」

 エリナが慌てる。こんなところでリバースされたら堪ったもんじゃない。

 「え〜と、ってその前に、各部署は被害状況報告を!」

 ジュンが副長としての仕事を果たす。
 艦長が指揮出来ないのだから当然の振る舞いなのだが、想定外の事態に声が上ずり気味でやや頼りなく感じるのが玉に瑕。

 「ユリカ姉さん、大丈夫? エリナ、後ろのトイレを使って!」

 ラピスが浮足立ってエリナを促す。
 一応第一艦橋の後方、左右のエレベーターの内側には艦橋要員用のトイレが設置されている。通常勤務中に催しても持ち場から余り離れずに済むのはとても有難い。
 無論、事前にわかっていれば戦闘中は全員おむつ着用である。当然今回は全員がそうである。
 ユリカはすぐにエリナと手伝わされたゴートに連れられて、艦橋後部のトイレに連れ込まれた。
 すぐに「おえぇっ〜!」と思い切り嘔吐する声が聞こえる。
 固形物を食べていない事もあって、先ほど飲んだドリンク剤と少量の胃液を吐くに留まったが、もの凄くしんどそうだ。

 「うぅ……ベルトでお腹をぐってされたし、滅茶苦茶揺れたから、耐えられなかった。うぷっ……」

 青褪めた顔でわざわざ報告する。
 正直言わないで欲しい。釣られそうだ、と誰もが思った。
 ひとまず落ち着いたユリカを戦闘指揮席に戻した直後。

 「真上から着ます!」

 ルリの絶叫が響き渡る。

 「え? 金ダライ?」

 相次ぐ不調ですっかり平常モードのユリカに対して、

 「んなわけあるかぁ〜!!」

 全員でノリ突っ込みしながらもフィールドだけは上部に集中展開して備える。

 凄まじい衝撃音と共に第二副砲横、右舷搬入口付近に着弾。
 傍にあった連装対空砲1つを全壊させながら大穴が空き、ヤマトはバランスを崩して左に傾き始める。

 「ああっ、ヤマトがボケた!……じゃなくて傾斜が止まりません!」

 大介が操舵席で必死にバランスを取ろうとするが操縦系にも支障をきたしたのか、いう事を聞いてくれない。
 ――ユリカのせいでヤマトが本当にボケたのかと一瞬真剣に考えてしまった。

 「島君、何とかならないの!?」

 戦闘指揮席のシートにしがみ付いて傾斜に耐えるエリナに、「駄目です!」と大介が操縦桿とスイッチ類を操作しながら答える。
 完全にコントロールを失ってしまった。

 「金ダライなんて落ちてくるものなんですか!?」

 パニックに陥ってピントがずれた問いかけをするラピス。

 「大昔のコントですよ! 専用のタライを使って――」

 こっちもパニックに陥ったのか律儀に答えるハリ。

 「お前達落ち着かんか!」

 ゴート叱責するも効果なし。

 「ああもう滅茶苦茶だぁ〜!!」

 溜まらず絶叫するジュン。
 そうこうしている内にヤマトは完全にひっくり返り、艦尾を天に向けてそのままゆっくりと冥王星の海に沈没した。



 ヤマト、どうしたのだ?

 かつては切り抜けた苦難に屈してしまうのか?

 それとも本当にボケを体得したと言うのか!?

 しっかりするのだヤマト!

 人類絶滅と言われる日まで、

 あと357日しかないのだ!



 第七話 完



 次回 新宇宙戦艦ヤマト&ナデシコ

    第一章 遥かなる星へ

    第八話 決死のヤマト! 冥王星基地を攻略せよ!



    愛の為に戦え!



 あとがき

 と言うわけで第七話終了。

 ヤマトが強くなった分原作よりも激戦になっております、はい。物凄く数盛ってます。

 最初に超大型ミサイルが後ろから襲ってくるのはPSゲーム版のイベント戦闘です。3発襲い掛かって来て、接触したら一発ゲームオーバーの戦闘。ガン逃げで第三主砲撃ってれば終わります。冥王星に到着する直前のイベントで、実際に冥王星に到着するとすぐに反射衛星砲ぶち込まれて白兵戦に移行するので、ゲーム版でも冥王星前線基地艦隊とは戦えなかったり。

 その後はボソンジャンプ戦闘よろしく小ワープで囲んでの袋叩きに対して、全火力を使って反撃するヤマトの図。
 復活篇では、ヤマトは単独で200隻の艦隊を相手に足止め成功している程強いので、凌ぎました。復活篇設定なので追加されたバリアミサイルもそこそこ使いました。この武装好きなんですけど、結局BH-199海戦でしか使わなかったのが残念。

 初期構想では反射衛星砲の被弾以外はノーダメだったんですけど、気が付いたら細かい損傷は色々蓄積していることになりました。とにかく復活篇ヤマトは「硬い、強い、頼もしい」がインプットされているので。それにあんまり派手に壊すと修理がね。資材問題に触れているから派手に壊し過ぎると修理不能になっちゃうし。実写版みたいに損傷が復元されないまま、っていうのは流石に避けたい。

 そしてエステバリス部隊は大苦戦。とにかく火力不足に悩まされます。原作ではブラックタイガーの銃撃で沈むデストロイヤーですが、冥王星基地攻略戦では、ヤマト側の攻撃力と防御力がかなり過剰に描かれているので、原作よりも苦労する羽目に。
 一応テコ入れとして、ダブルエックスの劇中未使用オプション、ロケットランチャーガンとビームジャベリン登場。本当はフィールドランサーの予定だったんですが、後の展開を考えるとわざわざ用意する意味が無いので変更されました。
 本作ではどうしても射撃戦主体になるので、格闘専用武器は不遇になりがちです。

 で、ダブルエックスは戦闘では出番無し。でもサテライトキャノンの使い所ってここを除外すると精々七色星団まで先延ばしだから、初の大規模戦で事実上の不参加とはね。泣けるぜ。と言ってもその分エステバリスが活躍してはいるのですがね。

 今回は最初はユリカもマジモードで戦闘指揮を執りますが、書いてて私が疲れたので最後はボケ倒します。今回は島が相手役なので不憫。

 ちなみに初期案では着水の衝撃でユリカ心肺停止&背骨を折って以降半身不随のダメージも想定されていたんですが、ナデシコらしい軽さを求めて嘔吐からのボケ倒しに変更。こっちの方がらしいや。要するにギャグ補正で致命傷を回避した、的な。

 その分ガミラス側はシリアスなんですけどね。そもそもこの時点ではナデシコ組と一切かかわらないから当たり前なんですが。その代わりただでさえ青い肌がさらに青くなっております。
 ――直接対峙するドメルとかデスラーがどうなるのやら。

 ロケットアンカーの下りはとても大好きなシーンなのでそのまま採用。2199でオミットされて凄く不服だった部分でもあります。あの振り回されるシーンの重量感、堪らぬ。
 まあ架空の衛星な上、物凄く冥王星に近い位置を回ってるんで、非現実的なのは事実ですが。

 

 







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代理人の感想
真田さんも順調に染まってるなあw
などと思って読んでたら「ヤマトがボケた?!」で大爆笑。
いやー、KITTさんセンスあるわーw うらやましいw

いや、次回が楽しみだ。
大ピンチなのに全然ピンチって気がしないぞこの野郎!w

ではでは。




追伸
ガチビビリしてるシュルツたちとボケ倒してるユリカたちの対比、本当にひどいw
いやユリカたちもそれなりにシリアスなんだけどw


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