古代守は暖かな温もりの中で目を覚ました。
 眼前にはベッドの天蓋の様な物が見え、体は柔らかく温かい、すべすべした手触りの布団で包まれていた。

 (確か俺は――タイタンでガミラスの捕虜になって……)

 ナデシコCを始めとする地球艦隊を――最後の希望たるヤマトに欠かせない人材を逃がすために囮となって――撃沈されたのだ。

 大破したアセビは物凄いスピードで太陽系内を突き進み、土星の衛星タイタンに不時着した。
 幸運な事に、その時点では守を始め数名のブリッジクルーが負傷しながらも生き延びていた。
 守はヤマトが発進した場合、資源採取のためにタイタンに立ち寄ることを知らされていた。だからヤマトが資材を求めてやって来るまで、何としてでも生き延びるつもりであった。

 元々古代守は宇宙戦艦ヤマトの戦闘班長か副艦長の任に着く事を望まれていた。勧誘の際、ある程度の情報は知らされていたのである。
 若いが思い切りが良く戦況判断も良い。蜥蜴戦争の末期から火星の後継者の事件――それにガミラスの開戦直後から経験を積んでいるだけあって、実戦経験も十分豊富と言え、ヤマトのクルーとしては申し分ないと判断されていた。
 無論、それはあくまでヤマト再建の中心人物であるユリカ個人の要望であり、まだ内定にも至っていなかったが(ヤマトの人員配置が確定したのは存在が公になった発進の1月前)。

 ヤマトへの乗艦が叶わなかったことは残念に思うが、それでも発進さえしてくれれば良し。散って逝った仲間達の為にも、今を生きている人々の為にも、希望の灯を消さない事が肝要と、守は囮となって散る事を選んだのだ。
 結果として守は生き残った。ならばヤマトに合流を図るのが、彼がすべき最善の選択であろう。
 過酷な航海に挑むヤマトには、1人でも人材が多い方が良いと。そう言って生き残った部下達を励まして何とか命を繋ごうとしていたところ、彼らはガミラスのパトロール部隊に囚われたのだ。

 それからの事は、あまり覚えていない。生き残ったとはいえ守達は負傷していたし、連中はその場で殺したり尋問したりもせず、本国に輸送するつもりだったらしい事しか記憶にない。
 守は少なからずヤマトについての情報を持っていた。それが露呈する事は避けねばならない。何としても情報を護らなければならない。その思いだけが強く記憶に残っている。
 結局、すぐに冷凍睡眠装置に放り込まれてしまったので、自決による機密保持すら出来ずに守は永い眠りについた――はずだったのだが。

 「お気づきになられましたか?」

 左隣から聞こえてきた柔らかく美しい声に、守はゆっくりと頭を向ける。それだけの動作なのに、体中が悲鳴を上げる。
 ――どうやら、命拾いはしたが重傷を負っている様子。寝返りすらままならないとは……。

 苦痛に呻きながら首を向けた先には――絶世の美女がいた。
 床まで届きそうな煌びやかで美しい、柔らかそうな金髪。
 愁いを湛えているかのような眼差しに長い睫毛に美しい顔立ち。
 まるで絵画の中から飛び出して来たかのようなその姿に、守は思わず見入ってしまった。

 「どうかなさいましたか?」

 反応が無い守を気遣う美女の姿に、「いえ、何でも無いです」と当たり障りのない返答で濁す。まさか見惚れていました……と正直には言えない。

 「あの、ここは一体何処なんですか?」

 「ここは惑星イスカンダルのマザータウン――私の宮殿の一室です、地球の人」

 女性の口から出た“イスカンダル”という単語に守は強く反応した。聞いた事の無い星だ。

 「イスカンダル? 地球ではないのですか?」

 守の問いに女性は静かに首を振った。

 「ここは地球から約16万8000光年の彼方、大マゼラン星雲の中にあるサンザー太陽系の第八惑星――私はこの星の女王、スターシアと申します」

 想定外の事態に、守は理解が追い付かなかった。



 新宇宙戦艦ヤマト&ナデシコ

 第二章 大自然とガミラスの脅威

 第十七話 浮かぶ要塞島! ヤマト補給大作戦!?



 「――それで、ヤマトはワープに成功したというのか?」

 「は、はあ……ヤマトはタキオン波動収束砲でワープの航路を強引に押し開いたようで……その、申し訳ございません」

 ゲールは怯えも露にデスクに座るドメルに頭を下げていた。
 作戦は見事に失敗。無人艦とは言え貴重な艦隊を丸々損失したばかりか、あれほど恵まれた状況で失敗したという事実は、申し開き様も無い大失敗である。
 ガミラス軍の在り方を考えれば、即極刑ものだ。

 「――その時のデータは取れているのか?」

 「は……何とか観測衛星のデータを回収する事には成功しましたので、タキオン波動収束砲を使ったワープの瞬間やその直前の戦闘データも含めて、観測したデータの損失はありません……」

 「なるほど。わかった」

 欲しい答えを発したゲールにドメルは安堵する。彼はちゃんと与えられた役割を完璧にこなして来たのだ。
 確かに戦果だけ言えば見事なまでの大失態。ゲールが戦々恐々としている様に、通常なら速やかに極刑に処すレベルの失態だ。――普通の作戦なら。

 (次元断層の戦いでもヤマトの甲板上から砲撃していた、それまでの報告に無い新型機動兵器――その実働データが取れた。そして、ヤマトの搭載艇からと思われるあの強力なミサイル兵器のデータにタキオン波動収束砲の新たな使い方……十分過ぎる戦果だ)

 データは十分に得られたし、“ヤマトに早々に沈んでもらっても困る”のだから、これは恐らく最上と言える結果だ。
 今は表立って褒められないが、ゲールは良くやってくれたと言って良いだろう。

 インテリアの趣味が致命的なまでに合わないのが残念この上ないが、彼は宇宙の狼ことドメル将軍の副官たる能力は十分にある。是非このまま副官を続けて貰いたいところだ。――インテリアの趣味が合わないことが本当に残念で仕方ない。

 「ご苦労だったな、ゲール。ヤマトを撃滅出来なかったのは残念だが、十分に目標を達成している。作戦は一応の成功を見たと言って良い……今日はゆっくりと休め。明日からはまた頑張ってもらうぞ」

 ドメルの意外な言葉に、ゲールは我が耳を疑った。

 「し、しかしドメル司令――」

 「ゲール、ヤマトは手強い。仕留められなかったのは残念だが、それでもヤマトの手の内を垣間見る事が出来た。そのデータを損失無く持ち帰る事が出来た事で、今後の戦略にも大きな影響をもたらす事だろう。気に病む事は無い――それに、ヤマトが無傷で済んでいないのは君の頑張りによるものだ。本当に良くやったぞゲール」

 ドメルの言葉に、ゲールは彼の指揮官としての器の広さを感じた。
 自分には無い度量に嫉妬は感じるが、汚名返上のチャンスを与えてくれたドメルに感謝し、素直に応じる事にした。

 「はっ! それでは休ませてもらいます。明日から、またよろしくお願い致します」

 ゲールはドメルに敬礼を送ると、身を翻して退出する。

 (ヤマトめ……今度相対した時は必ず仕留めてくれる! 俺のプライドと――何よりドメル司令とデスラー総統の為に!)

 退出するゲールの後姿を見送った後、ドメルは改めて提出された戦闘記録に目を通す。

 デスラー総統が果たしてヤマトをどうしたいのかは――未だに不明だ。
 しかし、ドメルはデスラー総統に――ガミラスに忠誠を誓った軍人。やはりどちらに転んでも良い様に手を打っておく必要があると考えた判断は間違っていない。
 それにドメル自身も、2度も自身の作戦を切り抜けたヤマトに対して強い敬意を抱くに至っている。
 デスラーがどちらの選択をしても良い様に、ドメルなりに行動していかねばならないだろう。

 (さてヤマト。ビーメラで水と食料を得ると良い。その前に、私の差し向けた玩具と対面して貰う事になるがな――攻略出来ねば宇宙の藻屑、攻略すれば資材と――我が軍の資料が手に入るぞ)

 ドメルは唇に薄く笑みを浮かべる。
 ヤマトが万全の状態であれば、主砲の一撃で終わってしまうような脆く無価値な罠。
 だが脈動変光星の衝撃波に翻弄され、その直後にイレギュラー要素の強いワープとなれば、かなりの被害を受けている事が容易に想像出来る。艦隊に対して砲撃を確認出来なかった事から察するに、艦砲が全滅している可能性も高い。例の新型2機もゲールの働きで損壊している。外部からでは成す術がないはずだ。
 とはいえヤマトの事だ。外部から壊せないなら内部から壊すに決まっている。
 あれは軍用兵器ではないから自衛装備は無く、侵入者を撃退するセキュリティーも無い。
 ――それでは話にならないので、気休め程度に小型のガードロボットは大量に置いておいたが。
 それでも彼らの技量をもってすれば容易く解体して終了だろう。その後はきっとおいしく資源として活用するはず。

 だがそれで良い。ヤマトに対するデスラーの選択は――まだ定まっていない。

 だからこそ、手を取り合える可能性が潰えない内は……ヤマトには健在であって欲しい。
 無事にこの罠を突破すれば、得られた資料でバラン星に我が軍の基地がある事を知らされながらも、“タキオン波動収束砲で攻撃するわけにはいかない事実も知るだろう”。

 (この程度の障害、君達なら傷ついていたとしても容易に突破出来るはずだ。ヤマト、万全の状態をキープして航行を続けたまえ。ガミラス存亡の為には、恥も外聞も捨てて君達に縋る他無いはずだ……)

 ヤマトの今後がガミラスの未来を決定付ける。それはドメルだけが得た確信ではない。デスラー総統すらも漠然とそれを理解していた。

 果たして討つべき存在か、誇りを一時投げ捨ててでも味方とすべき存在か。
 ガミラスの苦境を確実に乗り切るためにはヤマトの――あの6連射可能なタキオン波動収束砲が必要なのだ。

 ――決断の時が迫っている。

 今ドメルがすべきことは、ヤマトを倒す戦略を練り、そのための戦力を整える事と、ガミラスが折れた時ヤマトが手を貸してくれるよう、こちらの情報を適度に流し、ヤマトが万全の状態になれるようにそれとなく補給の機会をくれてやる事だけだ。

 例えこの戦に負けても、ガミラスの誇りに傷が付いたとしても、祖国を護る為ならどんな汚名を着ても構わない。
 どちらにせよ、ガミラス最強と謳われるドメルを破ったとあれば――ヤマトに正面切って戦おうとする気概を持てるのはデスラー総統ただ1人だろう。
 後はギリギリタラン将軍辺りが交戦の意思を示せるかどうかだが、国を破滅に導きかねない愚策を取るようなことはしないはずだ。

 当然、デスラーも。

 ドメルを破れば士気はガタ落ち、イスカンダルとガミラス本星が二重惑星である以上、ヤマトが接近すればタキオン波動収束砲の脅威が嫌でも頭を過る。
 そう、迂闊にヤマトを刺激して万が一にもタキオン波動収束砲をガミラス本星に――本星から逃げ出す国民達に向けさせるわけにはいかないのだ。

 (ミスマル艦長、そしてヤマトの戦士諸君。君達は誇り高い戦士達だ。決して無抵抗の人間を虐殺するような真似はしないだろう。矛を交えた私にはわかる。君達は撤退を優先したとはいえ、我が艦隊をタキオン波動収束砲とあの戦略砲に巻き込まなかった)

 ドメルの脳裏にタキオン波動収束砲の反動で急速離脱するヤマトの姿が浮かぶ。
 狙う余裕がなかったのと、1発でどうにか出来る状況でもなかった事が大きいにしても、1隻も巻き込もうとしなかったのは恐らく彼らの気質だろう。

 甘いと言えば甘いが、超兵器と言う絶対的な力に溺れず自制する心を持つ彼らを、ドメルは高く評価している。

 だからこそ、和解の道筋が残されているのだ。

 もしもヤマトがガミラスを怨敵と憎み切っているのなら、その威力に物言わせて殲滅しても良かったはずだ。
 それをしないという事は、ヤマトは終戦の手段として講和を視野に入れていると考えても、そう外れてはいないはずだ。

 「ヤマト、身勝手は承知している――だが願わくば、私の全力を乗り超えて、君達の祖国と――ガミラスを救って欲しい。君達の戦いに、地球とガミラスの双方の未来が掛かっているのだ……」






 凄まじい衝撃と共に、宇宙戦艦ヤマトは艦体を覆う閃光を割れた氷の様に四散させながら通常空間に復帰した。
 波動砲で強引に押し広げたワープ航路を通過する際の衝撃は凄まじく、ほとんどのクルーが安全ベルトを腹に食い込ませ、激しい頭痛に呻き、悶絶する羽目になっていた。

 「うぅ、ワープ……終了……」

 それでも生真面目な大介は根性でワープの成功を口頭で報告する。
 揺れる視界で何とか捉えた計器の数値を見る限り、ヤマトは無事に通常空間に復帰した事が見て取れる。

 「さ、流石だな、島……」

 こちらも波動砲トリガーユニットを握りしめたまま俯いていた進が大介を称賛する。
 ――しかし、気持ち悪い。

 「ぬ……うぅ……自己診断システムによると、今のワープでの損傷は一部の装甲板に亀裂が生じたくらいの様だな……恐らく衝撃波の直撃を受けて弱くなっていたところが裂けたんだろう……良く、この程度の被害で済んだものだな」

 呻きながらもしっかりとヤマトの損害を確認する真田。彼も大概タフな男である。

 ――耐えるのは慣れている、と申しました。私が直接話せるのは……今はここまでの様です。フラッシュシステムの助力を借りても、意思の疎通が出来るのは極限られた時間だけ……しかし、流石は私の自慢の乗組員達。前の乗組員達にも、勝るとも劣りません――

 「――やっぱり、フラッシュシステムが関わってたのか……なるほど、艦長が言っていたヤマトの意思って奴がシステムを介して俺達の頭に直接語りかけてた、って寸法なのか」

 頭を押さえながら進が確認すると、ヤマトは応えた。

 ――その通りです。イスカンダルからの援助で、私は――

 声はそこで途切れた。限界が来たらしい。

 「――う〜む。提供された資料には無かったが、どうやらフラッシュシステムは精神波を拾うだけではなく、自身の精神波を直接相手にぶつける発信装置としても使えてしまうのだな。なるほど――だから最初から情報が解禁されていなかったのか」

 幾分回復した真田が顎に手を当てながら自身の推測を口にする。

 「……確かに、これって使い方次第だと洗脳とかに使えますもんね――もしかして、最初に封印されてたのは、それを恐れていたからかもしれませんね……」

 若さの力か、何とか復活しつつあるハリが率直な意見を述べる。
 言われてみれば、と真田も眉をしかめる。

 確かに使い方次第では、システムを使った発信者の思考を強制的に他人に押し付けて強引に洗脳したり、思考を誘導して遠隔操作出来る危険性がある。
 こんなシステムを下手な権力者が手に入れてしまえば――波動砲とは別の意味で最悪の事態を招くだろう。

 「そうだな――最初はヤマトが使命を果たすために艦長を洗脳したとかも噂されてたしなぁ……」

 と、進が最初にその意思を示した時に流れた噂をボソッと呟くと……。

 ――い、一応こういった使い方は想定外ですので! わ、私は洗脳とか誘導とかはしていな――

 先程までと違って凄く力の籠った――と言っても怒鳴ってるとかじゃなくて無理やり言葉を発している時特有の力んだ声に、第一艦橋の面々は失笑する。

 「あ、誤解を招かないようにって必死になってる」

 ハリの率直な感想もまた笑いを誘う。
 ここまでの様、と言っていたにも拘らず気合いで意思の疎通を図るヤマトが何か可愛い、と思ったのは進だけではないだろう。

 そうか、これが艦船とかの擬人化萌え文化に繋がるのか。

 と盛大に誤解していそうな感想が、艦内にしばらく蔓延し、(某眼鏡技術者を中心に)「ヤマト擬人化計画」等というものが裏で進行し始めたのは、丁度この時期であった。



 嗚呼、ヤマトの祖国日本が生んだ萌え文化は、この時代にあってもなお健在であった。



 ――そういうつもりではなかったのに……――

 もはやシステムの力を借りても意思疎通が出来なくなったヤマトが、上手く伝わらなかったとしょげる。

 フラッシュシステムは基本的に精神波を“機械制御”に反映させるのがお仕事なので、搭載した機体の操縦や、無線遠隔装置のコントロール等に使うのが一般的――らしい。
 ヤマトの場合は、どうして出来るのかは良くわかっていないが、わかっている範囲では波動エネルギーの生み出す空間波動に言葉を乗せる事で意思の疎通を図っているのであって、洗脳紛いの強制力は無い。
 拡張次第では出来なくは無いらしいが、イスカンダルから提供されたシステムにそのような機能は含まれていない。
 とは言え、全く的外れではないので疑われても無理は無いと思いつつも、複雑な気分だ。

 ――言葉を交わすのって、難しい……――

 ヤマトは人間が言葉のみで分かり合えず衝突する理由がわかった気がした。
 相手の受け取り方次第では違った意図に取られてしまう。これでは誤解を招いて争いが起こるのも無理はない。
 意思疎通と言う手段に目覚めたばかり、人間に近い自我を構築したのがユリカと接触してから、さらには自身は人間に使われる道具でありその役割を果たす事を至上としてきたヤマトは、言葉によるコミュニケーションの大切さを存分に理解すると同時に、些細な事で諍いが起こる理由を痛感するのであった。

 ――誤解……されていないと良いなぁ……――



 それからしばらくして。
 機能が大幅に低下したレーダーの代わりに射出した探査プローブ2基がもたらしたデータによって、ヤマトは目的地であった恒星系のすぐ傍にワープアウトした事が判明した。
 恒星系としては太陽系よりも小さいようなので、ヤマトの速力ならワープ無しでも2日半あれば横断出来そうな位だった。
 プローブがもたらしたデータによれば、この恒星系の第四惑星が件のハビタブルゾーン内にあり、豊かな水と植物を有する地球型惑星である事が判明。

 ヤマトは補給を実現すべく可能な限り速力を上げて第四惑星に接近する事となった。



 そんな中、ユリカがようやく意識を完全に取り戻した。

 視覚と聴覚に深刻な障害を抱えたユリカ用の補装具もユリカの覚醒に何とか間に合った――まだ試作段階だが。
 何分本人の意識が戻らないとテストも碌に出来ないので、こればかりは致し方が無い事であった。
 が、それでもいきなり使えるものを用意する辺り、この3人の技術力と発想力の高さが伺えるというものだ。

 そして現在、ユリカは医療室のベッドに横たわったまま視覚と聴覚を補うための補装具を身に付けていた。

 しかし補装具とは言っても彼女の視力と聴力は完全に破壊されてしまっているため、衰えた機能を機械で増幅して補助する従来の方式では意味を成さない。
 そこでウリバタケが着目したのが、ユリカがIFSを体に入れていて、その機能が未だ損なわれていないという点だった。
 まずは彼女の目と耳の代わりになる補装具を造る事から始めた。
 彼女の耳朶の形に合わせて成形された青い聴覚センサー(ネックバンド型ヘッドフォンにそっくり)ですっぽり耳を覆う。
 そこにアキトと同じタイプの薄緑色(目を隠す意味もあるので半透明)のバイザー型の視覚センサーユニットの蔓を、ヘッドフォンの耳当て部分に差し込む。
 その後、バイザー型視覚センサーユニットと聴覚センサーの得た映像データと音声データを、聴覚センサーの耳当て部分に内蔵したアンテナから送信。
 右手首に取り付ける上品な青いブレスレット型の受信機(これも緑色の宝石を模した受信ユニットが付いている)に送りこみ、一体になった白いフィンガーレス・ドレスグローブ型IFSコネクターからIFSを通してユリカの脳に情報を送ることで、失われた機能を再現するという方法を構築した。
 システムを構築した後、次に取り掛かったのはデザインだ。実用性重視の無機質な外見では物々しいし、何より妙齢の女性が身に付けるものとして相応しくないだろうと、派手さを抑えた装飾品を模して印象を落ち着かせる。
 同時に、頭や右腕が重くなって負担が増えるのはユリカの状態を鑑みるに絶対に避けなければならなかったので、徹底した軽量化を施している。

 このちょっとした気遣いと遊び心を含めた品は――ヤマトマッド3人組の自信作だ。これで、失った視覚・聴覚の補填は何とかなったと断言して良いだろう。

 ただ、病状が悪化したユリカは筋力の低下も進み体温調節にも障害を抱えているため、それをカバーするための補装具も完成版を鋭意制作中だ。
 試作品は持ち込んだが、まずは視力と聴力だけを補い、リクライニングさせたベッドの上で進の報告を聞く事になった。

 「申し訳ありません艦長。無茶を繰り返した結果、ヤマトを損傷させてしまいました」

 進はユリカに向かって頭を下げた。
 結果的にユリカが倒れてからヤマトの進路を決めたのは進だ。
 危険なのはわかっているのだから、航路上の赤色巨星をもっと詳細に調査してからワープしても遅くは無かったはずだ――全ては気負い過ぎた事と航海の焦りが生んだ失態だ。

 「別に構わないよ。大体ヤマトから事情を聞いてるし」

 すでに周知の事実とは言え、しゃらっととんでもない事を言っている。

 ヤマト艦長のミスマル・ユリカさん。実はシステムの助けが無くてもヤマトと精神感応出来る事があるのだ。事実冥王星の海の中でも瞬間的に繋がって、コントを演じたりもしていた。
 ヤマトの自我形成はユリカとの精神的接触によって生じた事例であるので、恐らくそれが原因だろう。
 当然眠っている間もそういった瞬間が幾度かあり、その中でフラッシュシステムにまつわるコントもちゃんと聞かされている(正確には泣きつかれた)。

 ユリカがこうして意識を取り戻し、表面上は普通にしていられるのも、ヤマトとの精神的繋がりに影響されている部分もあるのやもしれない。特に命と自我を持つ物体ににフラッシュシステムを取り付けた事例は過去にないと聞く。その影響で本来精神波を受信するインターフェースに過ぎないシステムが、何らかの物理的現象を引き起こしてしまっているのかもしれない。
 システム無しでも“根性”で耐久力と防御力が微上昇するヤマトだから、その作用がより強化され、ユリカにも恩恵があっても不思議はない――かもしれない。
 実証は極めて困難であるが。

 「――進、人は失敗を繰り返しながら成長していくものなんだよ。私だって失敗した――取り返しのつかない失敗も。最初から完璧にやるなんて、出来っこない。特に人の上に立って指揮するって言うのは、ね?」

 ユリカの言葉に進は力無く頷いた。ユリカの指導を受けて、最低限は出来るつもりだったのにこの様だ。
 ――やはり、まだ未熟と言わざるを得ない。

 「それに、フライバイワープの決断に超新星からの離脱って成果も挙げてるんだから、気落ちしないで。それから……言うまでもないと思うけど、もう私は艦長としての職務を十全に果たす事が出来ないから、今後はジュン君と一緒に私の副官として補佐を務めて欲しいの。出来る?」

 ユリカの言葉に、今度は力強く頷いた。
 本当は艦長代理として指揮権を譲り受け、非常時にのみユリカが指揮を執った方が幾分楽なのだが、それをするにはまだ進は経験が足りていない。
 というよりも、ユリカが音頭を取らないとクルーがまだ不安がるのだ。

 戦果だけ見れば進はユリカの代わりをしっかりとやってのけたのだが、発進から次元断層までの間ヤマトを操っていたユリカと、教育されているとはいえフライバイワープの決断と超新星からの手早い逃走くらいしか指揮官としての成果が無い進とでは、やはり信頼度に差が出てしまう。

 尤も、進がユリカの代わりを務められるようになるのは時間の問題だろう。彼はユリカの期待に見事応え、成果を上げているのだから。

 「艦長、急場凌ぎではありますが、日常生活を補助するスーツを用意出来たので、着用して具合を見て下さい。その運用データを基に本命の仕上げに掛かるので」

 ユリカの様子に安堵した表情の真田がそう言うので、ユリカも気軽にOKしたのだが――傍らにいたウリバタケが取り出した1品を見た時は、流石に絶句してしまった。



 んで、ヤマトはそのまま修理作業を継続しながら通常航行で恒星系――イスカンダルの宇宙図によればビーメラ星系――に接近した。
 コスモタイガー隊を総出で駆使した事で、姿勢制御スラスターの修理作業は予定よりも早く6時間程度で完了した。
 結構派手に壊れていたが、比較的短時間で修理出来たのは日頃の訓練の賜物だろう。動作テストも良好だ。
 ついでに波動砲ワープの反動で破損した装甲板も張り替え始め、破損したコスモレーダーのアンテナも倉庫にあった予備に置き換える作業を開始する。

 勿論修理作業で剥がした装甲や部品は艦内工場に運び込んで、補修部品の生産や弾薬の補充のため可能な限り再利用。リサイクル精神は大事。無くそう、無駄遣い。

 ついでに、前々から囁かれていたヤマトの自我についてもよりはっきりとした形で接触した事で、クルーもよりヤマトに愛着を抱くようになったという。
 人柄も実直で(かわいく)我々クルーを信じてくれているとなれば、共に戦う仲間として頼もしい限りだ。

 そう、“宇宙戦艦ヤマト”と言う“存在”は、艦とクルーが1つとなって初めて完成する“存在”なのだと、はっきりと理解する段階に至った。
 これはもはや、1つの生命と言っても過言ではない――はずである。



 「主砲と副砲は変わらず機能停止中、パルスブラストとミサイル発射管の半数は何とか使えるようになりましたが、完全ではありません。修理作業は継続中、予定では主砲はあと4日、副砲が2日後には完了の見込みです。コスモレーダーはアンテナの交換を終了し、現在調整作業中です。装甲板の張替は3時間ほどで終了を予定しています。コスモタイガー隊はガンダムを除いて万全の状態にありますが、ガンダムは損傷が激しく修理完了には最低12時間を要します」

 簡潔にまとめた被害報告をする真田。
 駆逐艦とはいえ艦砲射撃を正面から受け止め、あちこちを粉砕されたガンダム2機は、共に右側の手足を失う被害を被っていた。
 特にダブルエックスはサテライトキャノンの砲身とリフレクターを半ばから失い、GファルコンはBパーツが半壊。ジャンクになった。
 エックスも2本のエネルギーパックが破壊された時の爆発の影響で、バックパックに損害を受けているなど、損害は重かった。

 交換部品の用意にも時間が掛かるし、全体の被害の大きさを考慮した結果、今はオーバーホールに近い整備作業を実行中である。

 「ビーメラ恒星系まで後3時間を予定しています。機関部の修理中の為、メインノズルの推力は40%が限度ですが、航行に支障はありません」

 「は、波動相転移エンジンの復旧作業の進展は50%。応急修理はあと10時間程で完了の見込みですが、応急修理だけでは波動砲とワープの使用は不可能です……」

 島、ラピスが続けて報告する。
 ただし、ラピスだけ様子がおかしい。どこか落ち着きが無く、頬を赤らめてもじもじしている。

 「そう。それじゃあヤマトはこのまま目的地のビーメラ第四惑星に接近して。真田さんは主砲の復旧を優先しつつ、ヤマト全体の検査を続けて下さい。フライバイに波動砲ワープと、とにかく無茶を繰り返したので、補給ついでに腰を据えて作業をお願いします。勿論、ラピスちゃんと協力してワープシステムの再調整もお願いしますね」

 艦長職に復帰したユリカも、休んでいた分を取り戻すかのようにキビキビと指示を出す。
 そんなユリカの姿を見てラピスが「はわわわわ……」と右手を口元に当てて目を見開き、わなわなと震えている。
 「ん?」とラピスの様子に気付いたユリカが悪魔の一言告げる。

 「カモ〜ン!」

 と。ラピスはその一言でストッパーが完全に瓦解した。機関長としてのプライドや自制も働かず、ふらふらと席を立って艦長席に赴き、ユリカの“白くてもふもふした”体に抱き着く。
 丁度時同じく、雪がユリカの為に栄養ドリンクを入れたボトルを差し入れに来たが、こちらもくすくすと笑いが堪えられない様子。
 だが、ユリカは気にした風も無くボトルを受け取って「ありがとうね、雪ちゃん」と口を付ける。

 そう、もうお気づきだろう。

 ユリカは今「ウサギユリカ・はいぱぁ〜ふぉ〜む」と化していたのだ!

 オクトパス原始星団のなぜなにナデシコを思い出してほしい。
 あの時彼女は「こんなこともあろうかと」とやけっぱちに真田が明かした改良で、全身のパワーアシスト機能を搭載、IFS制御で自身の体同然に動けるぱわぁ〜あっぷした「ウサギユリカ・ばぁ〜じょんツゥー」と化していた。

 今回さらに衰えたユリカの日常生活を助けるため、また介助の負担を少しでも軽減すべしとマッド3人組が取り組んだ試みの1つが「第二の筋肉と皮膚を兼ねるパワードスーツの開発」であった。
 とはいえ、そんな未知なるアイテムをすぐに用意出来るほどご都合主義を極められなかった3人は、試作品も兼ねてユリカウサギの衣装をベースに改良を加え、その場凌ぎをすることを思い立ったのだ。

 改良で取り付けられたパワーアシストはそのままに、耳の部分には聴覚センサーの補助システムを内蔵。
 体温の調節用のヒーターやクーラーの装備、さらには着ぐるみでは脱ぐも着るも大変なので、そこそこ大きい排泄物パックを内蔵し、清潔さも保つための工夫も凝らた。
 さらにさらに、IFSを視覚と聴覚の補助に使ったので、代わりに開示された資料に含まれていたフラッシュシステムの受信装置と変換器を搭載し、よりレスポンスを改善するなど、さらなる改良が加えられた結果、「はいぱぁ〜ふぉ〜む」が君臨したのだ!

 そこに視覚センサーであるバイザーを装備している事もあって、傍から見ると不良なウサギにしか見えないため、「悪ウサギユリカ」のあだ名が付けられた。

 ついでに艦長職である事を示すため、普段付けている艦長帽を耳の間に置き(マジックテープで固定)、コート……は流石に着れないので「艦長」と書かれた腕章を付け、ヤマトを表す錨マークに、ナデシコを表す撫子の花びらとユリカを表す百合の花が添えられた、3p程の大きさのブローチが胸元に付けられている。

 このブローチは、重病の身をおしてまでヤマトを今まで導いてくれた彼女に対するクルーの感謝の気持ちとして用意されたもので、進が指揮を執るようになってから「艦長が目覚めた時、少しでも励みになる様に感謝の印を送ろう」と裏で進言して実現したものだ。
 クルー全員がアイデアを出し合った結果、すぐに用意出来て邪魔にならず、何時も身に付けていられるアクセサリーの類が選ばれ、最終的に彼女の名と、ナデシコとヤマトの艦長に因んだデザインで纏められた。
 このブローチを渡した時、感極まって号泣したユリカの姿を見て、進達も嬉しかったものだ。

 ――まさか最初に付ける場所が着ぐるみ衣装になるとは想定外だったが。

 雪が渡したドリンクのボトルも、3人の遊び心満載で可愛らしくデフォルメされたニンジン型の保温ホルダーに入れられ、ストローが付いている部分がニンジンの先っちょ、艦長席の小さな作業机においても簡単には倒れぬようにと、置く時にはスタンドとして機能する葉っぱが3枚。
 これを飲むウサギユリカの姿は、さながらニンジンを齧っているかの様。

 そして今は、光悦とした表情の美少女を侍らせて椅子にふんぞり返った性悪ウサギの様な様相となり、第一艦橋に明るい(あ、軽い)空気を広げているのだ!

 「まあ、皆の気分が明るくなればそれに越した事は無いけどさ……」

 とはウサギユリカ・はいぱぁ〜ふぉ〜むの弁。すでに何かしら達観した様子を見せている。

 「はぁ〜……もふもふ……」

 ウサギユリカ・はいぱぁ〜ふぉ〜むの左わき腹付近に抱き着いているラピスは本当に幸せそうで、手でビロードのような手触りの白い毛を撫でたり頬擦りしたり、ぎゅっと抱き着いてみたり――年相応かより幼い印象すら受ける仕草に、誰も「任務中」と注意しようとはせずほっこり顔だ。
 これにはユリカも敵わず、左手で頭を撫でてあげる。ラピスの顔がさらに崩れた。

 つい1年前まではあまり表情の変わらない、とても無機質で人形のような印象を与えていたとはとても信じられない変貌振りに、エリナは目頭が熱くなる思いだ。

 ――よし、艦橋内のカメラを使って写真を撮っておこう。勿論個人フォルダーに保存して、彼女の成長の1ページとして永く残す所存である。

 「エリナ!」

 そんなエリナの心情も知らず、至福の表情で居たラピスが何か思い立ったらしく、鬼気迫る表情でエリナに叫んだ!

 「私も着ぐるみを着る!」

 流石にこの発言には全員がずっこけて「おいおい……」とツッコミを入れる。
 そしてエリナも超速で反応してラピスを嗜める。

 「駄目に決まってるでしょラピス! 貴方の着ぐるみは椅子に座れないのよ!」

 「そっちかよ!?」

 エリナの少々論点がずれたダメ出しに思わず突っ込む大介。最近ノリツッコミに磨きがかかってきた様子だ。



 そう言えば、エリナ・キンジョウ・ウォンは“コスプレが趣味”と聞いた気がする。
 嗚呼、その教育を受けたラピス・ラズリもその影響をばっちり受けてしまっていたのだな……。
 島大介は1人納得するのであった。



 「……ええぇ……」

 まだ療養生活が解かれていないルリが、ハリとアキトから聞かされたユリカの状況に何とも言えない声を上げる。
 かなり具合が良くなったルリではあるが、まだゆっくりしなさいと言われ自室のベッドで腐っていたのだが、まさかアキトとハリが同時に見舞いに来るとは流石に予想してなかった。

 (嗚呼――彼氏を父に会わせる娘の心境をこんな形で味わうとは……)

 特に問題が発生したわけではないが、妙に居心地が悪い。
 あの、アキトさん。私決してショタじゃないですよ。

 「しかし、補装具が付いたとはいえユリカさんは艦長職に復帰して大丈夫なのですか?」

 「本人も無理はしないって明言してるからね。とりあえず艦橋には居るけど、実務の殆どはジュンと進君がするんだってさ。一応エリナも雪ちゃんも付いててくれるから、そんな心配は無いと思いたいね」

 そういうアキトも心配が顔に出ている。
 とは言えユリカが倒れた後、進が音頭を取るまでのヤマトの沈み方を思い返すと、大人しく寝ていろとも言い難いのだろう。

 実際――過酷極まるヤマトの航海においてユリカの役割はあまりにも大きかった。
 戦闘指揮の手腕も然ることながら、艦内の空気を少しでも良くするためにと自ら道化役すら買って出たりと――普段から気を遣っていた(たまに砂糖を吐かせていたが)。

 勿論、死に至る病に侵された自身の事を極力心配させまいとする考えもあったのだろうが、良くも悪くもクルーから注目され、肩の力を抜かせてきたのも事実。

 ――あれは、性格上ルリの真似出来る事ではない。というか真似したら最後、頭の病気を疑われてしまう!

 「僕達も目を光らせて、少しでも具合が悪そうだったらすぐに医務室に連れて行けるようにはします。ですから、ルリさんは万全の体調に戻してから戻って来て下さいね――正直、僕達だけでどこまで抑えられるか……」

 不安げな口調のハリだが、これに関してはルリも責めることは出来ない。
 だって自分も抑えきれないんだもの、普段のユリカは。
 そんな事を考えていたら……。

 「ルッリちゃぁ〜ん! お見舞いに来たよ〜!」

 と元気のいい声でユリカがやってきた。傍らには離れられなくなったであろうラピスがしがみ付いている。――顔面崩壊して幸せそうであった。

 ついでに心配でついて来たのであろうエリナも傍らに居て――個室だとしても少々人数オーバー気味であった。

 でも、賑やかなのは決して嫌いじゃない。
 ……とりあえず、もふもふして癒されておこう。可愛いは正義。実に名言だ。



 ビーメラ第四惑星を光学カメラで捉える距離に達したヤマトの眼前には、まるでサツマイモのような形をした深緑色の物体が漂っていた。
 本体には無数の穴が開いているし、周囲にはトゲのあるこん棒の様な物体が12個ほど浮遊している。

 「なんだろうね、あれ?」

 ユリカがマスターパネルに映し出される物体に首を捻る。物体までの距離は現在2万q。
 ビーメラ星が背後にあったため、緑豊かな星の色と同化して光学カメラでの発見が遅れたのと、例によってステルス塗装されているらしくレーダーに映らなかったので、見落としてしまったのだ。
 ――ユリカの口調は至って普通なのだが、格好が格好なのでイマイチ緊張感が無かった、と後にエリナは語っている。

 「人工物である事だけは確かです。ただ、ガミラスの物と断定するにはデータが不足しています。もしかしたら、このビーメラ星系にも宇宙に進出した文明が存在していて、防衛の為の要塞を設置していたとしても、不思議ではありません」

 真田が慎重な意見を述べる。
 目下の所ヤマトに直接害を及ぼす異星人はガミラスだけだが、宇宙にどの程度の文明が栄えているかの資料は無い。
 ……ここは慎重に行動すべきだろう。

 「そうだね……雪ちゃん、探査プローブを」

 「わかりました――プローブを発射します」

 ユリカの指示で雪は電探士席のパネルを操作、第三艦橋の発射管から探査プローブが1つ発射される。
 発射されたプローブはロケットモーターで加速しながら先端部の電磁波探知アンテナ群を展開、先端に突き出たままの天体観測レンズと合わせて物体の探査活動を始める。

 プローブは徐々に物体に接近していく。その距離が5000qを過ぎたあたりで異変が起こった。
 プローブから送られてくるデータは、磁気の様なものを捉えた事を示していたが、詳細な解析をする前にプローブがバラバラに分解されてしまったのだ!

 「!? これは……一体……」

 「雪! こっちにデータをよこしてくれ!」

 真田の鋭い声に雪は慌てて艦内管理席にデータを転送する。真田は真剣な表情でデータを何度も見返し、測距儀で捉えた映像も繰り返し視聴して分析し、低く唸る。



 真田は第一艦橋で分析結果を報告せず、中央作戦室を使って説明する事にした。
 こればかりは高精度の立体投影装置を備えた中央作戦室の方が説明しやすいと考えての事だ。

 説明――と聞いてイネスもふらりとやってきたのだが、今回は申し訳無いがアシスタントに回って貰った。
 不服そうではあったが、真田の様子から以前聞かされたトラウマが刺激されたのだろうと察して、素直に身を引いてくれたのがありがたい。色んな意味で。

 中央作戦室にはウサギユリカを始め、各班の責任者と、事態に関係する各班の責任者とクルー数名が集められた。
 ただし第一艦橋を留守には出来ないので副長のジュンと砲術科長のゴート、存在感薄い組がお留守番をしている。

 「まずはこの映像をご覧下さい。探査プローブが破壊された時の映像です」

 硬い表情の真田がパネルを操作すると、中央の立体スクリーン映像が投影される。クルーの位置関係に合わせて四方にスカイウィンドウが向いた状態だ。
 流れる映像は、ヤマトの光学カメラが捉えた探査プローブの後姿だが――異様な光景が映し出されて全員が思わず息を飲む。

 物体に接近していた探査プローブはバラバラに分解されていくのだが、爆発したわけではない。それどころかビームだったりミサイルだったりが飛んできたわけでもない。
 突如として全体が振動したかと思うと、プローブを構成しているパーツがまるで引き剥がされるように次々と分解され、ビス一本に至るまで完全に解体されてしまったのだ。

 「どうです、わかって頂けましたか? この分解の異様さが」

 真田の問いかけにも全員が難しい顔をする。

 「う〜む……破裂したというよりは――継ぎ目が外れた……としか形容出来ませんね。溶接個所は勿論、ビス止めされた部分までもが徹底的に」

 進の言葉に真田は頷いた。

 「そうだ。もう一度見て欲しい」

 今度はスロー再生された映像が流れる。
 スローにされると尚更異質さが際立つ。艦橋測距儀の光学カメラはその光景を鮮明に記録していたのだ。
 プローブ全体が細かく振動したかと思うと、プローブを構成していたであろう細かな部品が急激に振動して次々と分解されていくのだ。
 それでいて、天体観測レンズの様な部品は脱落の際の応力で割れた事が確認されるが、割れた後のレンズが更に分解される事は無かった。
 他の金属部品も、過度に分解されずパーツの原型を比較的保ったまま散らばっていく。

 「……マグネトロンウェーブと思われます」

 真田が発した単語に全員が首を捻る。聞き慣れない単語だった。しかし、マグネトロン――という事は磁力か何かが関係するのだろうか。

 「推論を含むところはありますが、大雑把に言ってしまえば範囲内に入ったある種の金属を滅茶苦茶に揺さぶる事で解体する作用を持つ……程度に考えて戴ければ良いと思われます。そしてそれはヤマトは勿論、宇宙戦艦等に使用される金属に合わせて調整されているようです――そしてこのマグネトロンウェーブは、あの物体から放出されていると見て間違いないでしょう」

 真田の説明に一同さらに首を捻る。何となく言いたい事はわかるような気がするが、果たしてそんなことが本当に可能なのだろうか。

 「原理上、ミサイルによる破壊は不可能です。そして、安全圏から砲撃可能な主砲と副砲は修理が完了していません――勿論、波動砲も駄目です」

 「艦長、あれからヤマトの航路を右方向に100q程ずらしてみましたが、追尾してきています。こちらとの距離も徐々に詰めて来て居るのが確認されますが、現在のヤマトの速力なら十分に引き離すことも出来ます」

 大介の報告にユリカも頷く。主砲――いや副砲でも健在なら、距離を取って粉砕してやれるのだが――現状では距離を離すと攻撃手段が無くなるし、マグネトロンウェーブ以外の攻撃手段を持っている可能性もある。
 しかし、あまり悠長な事はしていられないとユリカの第六感が警鐘を鳴らす。

 「そのマグネトロンウェーブは、ディストーションフィールドで防げないんですか? 防げるんなら、機体の修理完了後にサテライトキャノンで吹き飛ばせば良いと思うんですけど……」

 アキトの控えめな発言に真田は頷いた。

 「理論上は可能だが、発生機がマグネトロンウェーブの影響圏内にあると発生機が変調してフィールドの維持が出来なくなる可能性が高い。勿論、あの物体との距離が近づいて受ける影響が強くなればなるほどそれは顕著になる。とは言え、ヤマトの発生機はまだ大丈夫だな……完全修理は時間がかかるが、とりあえず1発撃てる程度の応急修理が完了したら波動砲口にでも陣取って貰って――」

 そこからサテライトキャノンで撃ってもらう、と続けようとした真田の言葉を非常警報が遮った!

 「前方の不明物体からミサイルが発射された! 迎撃するぞ!」

 第一艦橋からゴートの緊迫した声が届く。ユリカもその判断を尊重して迎撃作業を一任したが――まさかこれすら罠だったとは、流石に気付く事は出来なかった。



 ヤマト目掛けてこん棒のような形をした物体――ミサイルが12基、高速で接近してくる。
 高速で接近するミサイルに向かって、ゴートは艦首ミサイル発射管からバリア弾頭のミサイルを6発放った。
 主砲も副砲も使えない現状では遠方で迎撃するにはこれしかない。

 しかし、バリア弾頭が炸裂して生成した円盤状のフィールドを避けるかのように、棘の部分が本体から分離して回り込むようにヤマトに向かって突き進んでくる。
 ヤマトを上下左右に包み込むようにして接近する子弾に向かって、自動制御のパルスブラストで応戦。砲塔要員の配置を待つ猶予は無い。
 レーダーで捕捉した子弾に向かって、稼働してはいても完全とは言い難いパルスブラストが断続的に重力波を吐き出す。そのせいで命中精度はかなり悪い。
 ジュンはアーマーモードで展開したディストーションフィールドも使ってミサイルを受け止める事にした。ゴートと二人三脚では手が足りないのでこれ以外に対処しようが無い。
 2人の必死の努力もあって、ミサイルは全て撃ち落とされるかフィールドで防ぐことが出来たのだが――様子がおかしい事に気付く。

 あまりにも威力が低いのだ。フィールドにも殆ど負荷が掛からず、それでいて弾頭が爆発すると何やら粉末の様な物質を周囲にばら撒いている。
 これは……ジュンもゴートも直観的に察した。
 このミサイルはヤマトへの攻撃が目的ではない。この物質でヤマトを包み込むことが目的だったのだと。

 異変はすぐに起こった。
 ヤマトのコンピュータが強力な磁場による干渉を受けて狂い始めたのだ。
 その影響を真っ先に受けたのはレーダーやディストーションフィールドなど、比較的艦の外部に近い装置。
 瞬く間に制御装置にエラーが頻発、外壁に耐磁コーティングされている第三艦橋ですらECIにエラーが発生して、その機能を著しく落としていった……。






 「強磁性フェライト……ですか?」

 ゲールの問いにドメルは「そうだ」と短く応えた。ゲールも見ているモニターには、ヤマトを迎えるべくビーメラ星系に設置した宇宙要塞の図面が表示されている。

 「このマグネトロンウェーブ発生装置は、廃棄された宇宙戦艦と言った人工物を解体する事を目的として開発された処理施設だ。勿論今回の様な作戦に導入するには少々性能不足気味なので、そのままではヤマトに通用しないだろう」

 「しかし」とドメルは続ける。

 「この強磁性フェライトで対象を包み込むことで、マグネトロンウェーブの影響を増幅し、別途照射する磁力線で捉え逃走を許さず、ヤマトの反抗そのものを奪うという三段構えの効果が期待出来る」

 ドメルの説明にゲールも唸る。まさか宇宙船の解体用に開発された処理施設をこうも有効活用するとは……。
 ドメルが言う通り、この装置はガミラスの“民間会社”が開発した宇宙船の処理設備をバラン星に回して貰ったものの1つだ。
 特、前線基地ともなれば損傷して修復困難になった艦艇も出てくるし、手っ取り早く資源に出来れば、その分軽症な艦艇の為にもなる。中間補給基地も兼ねるバラン星では意外と重宝する装置だった。
 移民後不要になる移民船を資源にする上でも大いに役立つ事だろう。

 最初こそ疑問視されたものの、実際には結構効果的で、人やアンドロイドや作業機械でちまちま解体するよりも早くて楽、遠隔操作で停止出来るので誤解体の危険性も小さく、単独移動可能とこれからガミラスが宇宙にさらに拠点を広げていく上で、頼れる宇宙の解体屋になるのでは、と期待されてはいたが……まさかそれを兵器転用するとは思わなんだ。

 「しかしドメル司令、それでもヤマトに通用するのでしょうか? あの艦は――」

 「わかっているさゲール。それに通用しなかったとしても構わんのだ。ビーメラ星と撃破したあれの資材で補給を済ませようとすれば、その分時間をロスする。その間にバラン星基地を隠蔽してヤマトの目から逃れ、攻撃を回避するのが目的だ。時間の限られた旅故、星を1つ1つ入念に調査する余裕など無いだろうし、腹が膨れているのなら猶更だ。必要な行動とは言え時間的損失が生み出す焦りも加われば、隠蔽は上手くいくはずだ……ヤマトを早急に討ちたい君の気持ちはわかる。だが、このバラン星基地だけは護り抜かねばならんのだ。堪えてくれ」

 ドメルが示した対応は、ゲールにも理解出来るものだった。
 バラン星近隣ではヤマトと戦わない。万が一にもバラン星前線基地を破壊されてしまえば、併設されている“民間施設”にも被害が及ぶ。

 ――それだけは軍人として避けねばならない。ゲールとてその程度の認識はある。全てはガミラス帝国――デスラー総統のかけがえのない財産なのだから。

 問題は、ヤマトがこのバラン星を都合よく素通りしてくれるかどうかにかかっている。 万が一発見されたりしたら……後願の憂いを立つため、そして何より地球を守る為、ヤマトはタキオン波動収束砲を撃ち込んで基地を壊滅させるだろう。

 ――願わくば、そのような事態は確実に回避したいものだが……怨敵ガミラスの基地を、見す見す見逃してくれるだろうか……。






 一方、強磁性フェライトの霧に包まれたヤマトでは――。

 「くそっ! 強磁性フェライトでヤマトを包み込むとは……っ! フェライトでマグネトロンウェーブの作用を強くしつつ電子機器を狂わせ、磁力線で捉えて逃がさないつもりか……!」

 語調も荒く真田が吠える。どうにもマグネトロンウェーブによる探査プローブの破壊を見てから穏やかではない。
 今も悔しそうに中央作戦室の壁を殴っている。だが気持ちはわからないでもない。

 これではサテライトキャノンで遠距離から破壊することも出来ないだろう。
 ダブルエックスもエックスも、先の戦闘での被害を回復出来てはいない。
 応急処置ではマグネトロンウェーブの影響を回避出来ないし、本来の威力を発揮する事も出来ない。
 それをカバーするためにヤマトのフィールドで保護して、直接ケーブルを引っ張る等の措置で強引に発砲させる予定だったのが、強磁性フェライトで全て流れた。
 ボソンジャンプで影響圏に離脱して狙撃するには、修理を完了した万全の状態でなければならない。が、完全修理を待っている間にヤマトはバラバラになってしまうだろう。

 それどころか、ヤマトは右も左もわからない状況に置かれてしまったので、物体から距離を距離を置こうにもどっちに進んで良いのか全く分からなくなってしまった。
 おまけに強磁性フェライトに向けて照射された磁力線によって拘束され、嫌でもあの物体に引き寄せられているはずだと、真田は推測している。
 こうなると、時間稼ぎすら満足に出来はしない。

 「真田さん、イネスさん、この状況を打開するにはどうすれば良いと思いますか?」

 真田が激昂している理由がトラウマだと見当をつけたユリカは、そこには触れずに知恵だけを求める。

 「そうね……この状況で強磁性フェライトを除去するのは難しいわ……二重三重にフィールドの発生が阻害されていては……このままだと、ヤマトを十分に解体出来る距離まで接近されて一巻の終わりよ……最も確実で手早い手段は、あの要塞を無力化、つまりマグネトロンウェーブを停止してヤマトの解体を防ぐことだけね」

 「急がないと取り返しがつかなくなる。この瞬間にもヤマトへの影響を計算してマグネトロンウェーブの調整を行っている可能性がある。これ以上状況が悪くなる前に、何とかしなければならない」

 イネスも真田も深刻そうな表情を崩さない。今この瞬間もヤマトは解体待ちの廃品同然の状態なのだ。気が気でないのも当たり前である。
 ――あるのだが。

 「――あの物体を解体したら、不足してる鋼材関連の補充が出来るよねぇ」

 とユリカが余計な事を呟いたことで事態が一転した。

 「そうだな……ヤマトの鋼材関連は何時でも火の車状態だしなぁ……あの物体、ヤマトよりもでかいんだ……つー事はだ。かなりの量の鋼材の補充が出来るし、もしかしたら機関部のどこかに貴重品のコスモナイトだってあるかも……!」

 ウリバタケも現在までに確認されている物体のデータを改めて確認して、色々と不足しつつあるヤマトの物資補充が可能である事に気付いた!

 「となったら、何とかしてあの物体を解体して、資源にしないと……! いやそれだけじゃない。あれの後ろには緑豊かなビーメラ4……生野菜として食べられる食料も合わせれば、ヤマトの備蓄が一気に改善される……! これは天の恵みだ! 何としてでも確保しなければ!」

 色々と毒され切った進の認識も変化。一気にあの物体が「ヤマトを解体しようとしている脅威」から、「ちょっと反抗的だがヤマトが必要としている補給物資の塊」に変換されてしまった。
 そして、ここ最近の食糧事情の厳しさから、普段はあまり好んでいると言い難い生野菜への羨望すら首をもたげる!

 「……おいおい……っ!」

 気が気ではない真田の声も届かず、すっかり空気が変わってしまっていた。
 傍らにいたイネスも気遣わしげではあるが、諦めてと言わんばかりに苦笑している。

 「真田さん、あのマグネトロンウェーブの影響圏ってどの程度に及ぶと思いますか?」

 「――そうですね、恐らくヤマトを破壊する威力を発揮出来るのは、探査プローブが破壊された5000q以下だと思います。ただ、強磁性フェライトをこの距離でヤマトに使った事から考えると、磁力線そのものはこの距離でも届くものだと考えて間違いないでしょう……」

 努めて冷静に答える真田にユリカは腕組して考える。
 それ自体は自然な動作なのに、ウサギユリカ・はいぱぁ〜ふぉ〜むの格好では威厳もへったくれも無い。

 「……」

 手っ取り早く改造出来て、無理なく様々なアシスト機構を仕込めると用意したのは自分達だが、やっぱり止めておけば良かったかもしれないと内心後悔する。

 緊張感帰って来い。欲しいのはシリアルではなくシリアスだ。

 「う〜ん。データ不足だから断言不能だけど、あの物体がボソンジャンプ対策までしてないんだったら、ジャンプで接近出来るね。向こうにはA級ジャンパーは居なくて、座標入力は全部機械入力だったって聞いてるから、このコンディションなら入力も妨害出来てるって勘違いしてくれる可能性もあるし」

 「だったら、あの物体に直接取り付くまで行かなくても、近くにジャンプアウトしてから宇宙遊泳で取り付いて進入するってのもありじゃないか? そうすれば、あの物体を鹵獲して色々解析したり資材も手に入る」

 凄く乗り気なアキトも色々と手順を考え始めている。

 「だとすると、ヤマト内部のジャミングシステムをオフラインにしないといけないわ。貴重な補給資源を見逃すなんてありえない!」

 エリナも乗り気だ。常識人だと思っていたのに。

 「真田さん、あの物体はマグネトロンウェーブの影響を受ける事は絶対に無いのですか?」

 進が真田に問い合わせてくる。正直データ不足で何とも言えないのだが……。

 「断定は出来んが、マグネトロンウェーブの影響を回避する手段は幾つかある。まずは継ぎ目のないシームレス構造を採用する事だ。変動磁場を使って振動させているにしても、一体構造なら構造体全体が振動するだけで破壊される事は無い。他にもマグネトロンウェーブの影響を受けない非磁性の素材で作るというのもあるし、対象を選べるのなら対象外、または影響が少ない素材を使うとか。後はそうだな……発振装置が外部にあって、影響を受ける外層だけシームレス構造を採用して、何らかの手段で遮蔽して影響を受けない内部は普通に組み上げる――とかが考えられるな。だが、直接調査してみない事には何とも……」

 「だったら直接乗り込んで調べれば良いんですね?」

 ドアの方から聞こえた声に全員が驚き振り返る。
 そこに立っていたのは艦内服をばっちり着込んだ療養中のルリの姿だった! 右手には飲み干したばかりのドリンク剤の空き瓶が握られている。
 ――ドーピングしているのが丸分かりだ。

 「話はオモイカネが聞かせてくれました。今こそ私の出番だと思います。ハーリー君のアシストもあれば、今まで研究を続けてきたガミラスのコンピューター……見事に掌握してご覧に入れます」

 ラピスの名前を出さないあたり、IFSを忌避している彼女の心情を重んじるルリのやさしさが垣間見える。

 「だったら私も同行します。こんな状況下では意地なんて張っていられません。3人掛かりで徹底的にやった方が確実です」

 己の悩みを打ち明けて気持ちの整理が付いたラピスはもう躊躇わない。
 この場に及んでは封印を解いてでもあの物体を資源に還元して見せる。そんな気合いが全身から迸っていた。
 一応、ハリとラピスもジャンパー処置は受けているのでジャンプには耐えられる。同行には問題が無いが、強いて言えば敵地潜入の経験が皆無で戦力には全くならないことが問題か。

 「おっとルリルリにラピスちゃんにハーリー。クラッキングのための機材は現地で調整必須だろう?――ここは、この俺ウリバタケ・セイヤも同行して現地で端末の調整をば――」

 「セイヤさんはジャンプに耐えられないでしょ?」

 ウリバタケの名乗りはアキトに防がれた。
 「む、無念……!」と撃沈されたウリバタケを尻目に、資源云々はともかくあの物体をどうにかしたい真田が名乗り出た。

 「俺が同行しよう。ヤマト再建時、ドックと外を自由に行き来したくてジャンパー処置は受けてるんだ。俺なら同行してあれの解析が出来る」

 「だとするとぉ……運搬役がアキト、万が一の護衛役とか労働力として進と月臣さん、解析担当にルリちゃんとハーリー君とラピスちゃん、システムエンジニアとして真田さん――」

 「私も同行させてもらうわ。アキト君とセットで行けば、いざと言う時の補完もし易いわよ」

 珍しくイネスが声を上げる。最近は艦内での発明はともかく、艦外作業をしてまで解析担当を務めることは殆ど無かったのだが……。

 「あら? 私だって技術者の端くれよ。ウリバタケさんが駄目な以上、私が行かなくて誰が行くというのよ」

 自信たっぷりに宣言するイネスの姿にこれは止められないと一同確信する。
 そして、除け者になったウリバタケが床に“のの字”を書いて拗ねていた。



 話が纏まったとなれば行動するのみ。
 ユリカは物体攻略部隊として編制した進、アキト、月臣、ルリ、ラピス、ハリ、真田、イネスに合わせ、「ルリさんとハーリーが行くなら俺が行かないと」と名乗りを上げたサブロウタを含めた計9名が一緒に作戦を煮詰める。

 「そもそもあの物体って攻撃用の要塞とは思えないんだよね。どう考えても宇宙戦艦の解体用っていうか、処理施設の一部みたいって言うか――」

 「あり得ますね。もしかしたら今ヤマトを包んでる強磁性フェライトも、本来攻撃用ではないマグネトロンウェーブを攻撃用途で使おうとした、苦肉の策なのかもしれません」

 呼び出された雪が今までに得られたデータから推測を重ねる。
 コンピューターが全部沈黙してしまったわけではないので、反応の悪いコンソールを操りながらデータを表示し、後は自前の頭脳でどうにかする。

 「プローブが解体される直前までに送られてきた映像データからも、あれが要塞の類とは考え難いと思います。このフェライトを封入したミサイルもあの物体の周囲に浮遊していて、物体に備え付けられていたわけではありません。最初から軍事用に開発されていたのなら、本体に発射管の類があっても良いものですが、無いという事は別の用途で造られた装置を強引に兵器転用した可能性があり得ます」

 と、ルリが雪の説明に捕捉する形で推論を述べる。

 「私もそう思う。多分今ヤマトに仕掛けてくるとしたら次元断層で戦った指揮官だろうし、あんな凄腕の指揮官がこんなヘンテコな手段に期待するとは考え難いよ――多分嫌がらせかヤマトの足止めが目的で、撃破は考えてないよ」

 ユリカももふもふの腕を組んで思案する。あの凄腕の指揮官がこんな奇抜なアイデアを駆使してヤマトと戦うとは正直考え難い。
 これは絶対に足止めが目的だ。恐らく解体されて資源になる事すら想定されているはず。
 ――となれば。

 「という事は、ガミラスはヤマトが航路変更してこのビーメラ4で補給するって読んでたって事になるな……あの赤色巨星の罠を考えるとそうだろうとは思ってたけど、やっぱりガミラスはこの周辺の宙域にも精通していると考えた方が良いな」

 アキトも今まで得られた情報からそう推測する。
 ユリカもルリも進も妥当な推測だと考える。そうでもなければヤマトの航路を読むことも出来ないし、当然適切と思われる場所に罠を張ることも出来はしない。
 となるとますますバラン星が怪しい。ユリカと共犯者はもはや確信を得たと言ってもいい。

 彼女らはガミラス星の所在を知っている。
 所在を知っていれば、現宙域から最も近くガミラス星と地球を結ぶ上で拠点とし易い場所は――。

 (バラン星か……)

 裏付けるだけの情報は得られていないが、恐らくそれで間違いないはずだ。
 それならば、ヤマトの進路上にこうも容易くトラップを仕掛けられる手際の良さが頷けるというものだ。

 (……何か企んでるのは間違いないけど……それがヤマトにどう作用するのかが全く読めない。ガミラスの事情からすれば、トランジッション波動砲は喉から手が出るほど欲しいとは思うけど……だからヤマトを極力万全の状態にしておきたい?)

 今ガミラスが置かれている状況――カスケードブラックホールによる母星消滅の危機。それを乗り越えるには、カスケードブラックホールの破壊が理論上可能と思われる波動砲が不可欠。
 ――ヤマトはそれを6連射で備えている。
 カスケードブラックホールの破壊を抜きにしても、ガミラスが戦争によって版図を広げようとするのであれば波動砲の破壊力は魅力的な筈。

 そういう意味では、(相当)運良くヤマトを仕留められたとしても、解体に留められ、比較的原形を留めたまま回収可能なマグネトロンウェーブによる破壊を目論むのは、わからないでもない。
 だとしてもあまりにも脅威として小さ過ぎる。これだったら以前の機雷網をもう1度敷いた方が余程確実だろうに。

 ――とすれば、これを置いた指揮官はヤマトの撃滅を出来るだけ先延ばしにしようとしている事になる。大方「失敗前提。むしろ突破させる事でわざと補給の機会を与え、時間を使わせる」とか嘯いて部下を納得させつつ、本命はヤマトが万全の状態を極力保てるように一計を案じたのだろう。――トランジッション波動砲を維持させるために。
 ――となれば、トランジッション波動砲を欲するあまりガミラス内部でもヤマトに対する方針が割れている、と考えるのは都合が良過ぎるだろうか。
 もしそれが事実なら、付け入るスキがあるかもしれない……。

 「ふ〜む。やはり、映像から見る限りではあの要塞はシームレス構造の外郭を持っている様だな。それに外殻に開いているあの穴……恐らくあそこからマグネトロンウェーブを照射していると見て間違いないでしょう」

 「そうね。内部構造がどうなっているのかはこれじゃわからないけど、本体がシームレス構造だとするなら、あの穴の中にメンテナンス用の通路の類が設置されている可能性があるわね。マグネトロンウェーブの発生装置がどの部分にあるのかはわからないけれど……内部までシームレス構造ないし防磁処理がされていないのなら、発射口のすぐ奥ね。されているのなら物体の深部って事もあり得るけど……情報が少な過ぎて確定出来ないのがもどかしいわ。アキト君と古代君が収集した冥王星基地の内部構造も、あまり参考になりそうにないわね」

 こっちは真田とイネスが仲良く物体の分析を続けている。
 持ち前の知識を総動員してあの物体の構造を可能な限り推測して、少しでも突入作戦のプランを綿密にしようと努力を重ねている。

 「こちらウリバタケ。突入部隊運搬用に、非磁性素材をメインで使ったシームレス輸送機の制作は80%完了だ。と言っても、非磁性素材とシームレス構造のせいで必要最低限以下程度の性能しかないけどな。計器も推進装置も簡素なものだから、情報の信頼性が一段と劣るし、速度も持久力も足りねえ。マグネトロンウェーブの影響の事を考えると、一気にジャンプで接近するのも心配だから、1度艦外に出た後はスラスターで接近してくれ。ただ、帰りはジャンプ頼みになるから確実にあいつを沈黙させてくれよな。あと、防磁性を強化した宇宙服も用意が間に合うぞ。普段のと感じが違うから注意してくれよな」

 ウリバタケは作業の手を休める事無く進展の報告をする。
 今工場区で開発しているのは急場凌ぎのシームレス輸送機。
 マグネトロンウェーブで影響を受け難いと思われる非磁性の素材や、磁場の影響が小さいと考えられる軽合金にエステバリスの構造材にも使われていたセラミックや強化樹脂等を使用して、何とか輸送機の形にでっちあげている代物だ。
 外殻はシームレス構造の合金製だが、それ以外の部品は先に挙げた素材で何とか形にしている程度。ジャンプフィールド発生装置は2回使えるだけのバッテリーが接続され、防磁素材で厳重に梱包されている。一応影響が小さいと目される素材で出来ているから大丈夫だとは思うが、心配の種は尽きない。

 だが、マグネトロンウェーブに分解されない事とヤマトがバラバラにされる前に対応するという制約がある以上、これが最上の出来だった。
 ウリバタケも簡素の中にもキラリと光る職人魂を詰め込み、想定される状況下で100%の動作を保証される出来栄えにすべく、腕を振るっている。

 「ありがとうウリバタケさん。マグネトロンウェーブの影響を考えると、持ち込む道具も選ばないといけないわね……コミュニケやパソコンは大丈夫かしら?」

 「宇宙戦艦の構造材に対して特効になる様に調整されているのなら、その程度の物は大丈夫だと思います。念のため、武器共々非磁性トランクに厳重に梱包して持ち込みましょう」

 「実包を使う銃器があれば、動作だけは保証されるんだけどなぁ〜」

 真田の言葉にアキトがぼやく。
 ヤマトではクルー全員に配られたレーザー銃・コスモガンを中心に、レーザーアサルトライフルやコスモ手榴弾、コスモガン用のアタッチメントでショットガンとグレネードランチャーが用意されている。が、実包を使用する古き良き銃器はあまり用意されていない。
 ヤマトの場合、白兵戦があるとしたら艦内に侵入を許した場合の防衛戦、または敵施設内に進入しての破壊工作が想定されている。
 宇宙戦艦や宇宙要塞の場合、外も中も金属素材をメインにした構造体である事が多いと考えられ、跳弾の危険が高い実体弾を使用した銃器は自損の危険が高いと判断され、ヤマトのデータベースから回収されたレーザー銃を制式化した経緯がある。
 他にも、民間出身のクルーでも反動が少なくて使い易く、ガミラスの科学力で造られるであろう防弾装備に通用するとしたら、並行宇宙でヤマトのクルーが白兵戦で存分に使った実績があるコスモガンなら間違いは無いだろう、と言った理由もあった(外見は新調されたが中身はきっちり模倣されている)。

 「流石にグレネードは持ち込めないな。密閉空間での影響もそうだが、マグネトロンウェーブの影響で信管が誤作動したら自爆するだけだし、下手に壊して止められなくなったら不味い」

 「だとすると、レーザーアサルトライフルはともかく散弾は不味いですね。一応アサルトライフルを分解してコスモガンと一緒に梱包しましょう。後は、どちらもダメな時に備えた装備を幾つか用意しないと……」

 「そうだな……一応ナイフや警棒の類も持って行こう。俺も木連式の武術を幾つか修めている。敵の兵士がいるとすれば、それは俺が打ちのめそう」

 サブロウタと進と月臣が持ち込む武器について議論を重ねる。

 「ラピスさん。パソコンが持ち込めるにしても、ヤマトとの連絡が絶たれた状況だとオモイカネのサポートも受けられません。マグネトロンウェーブの影響を考えると持ち込める機材にも限りがあります。どういった物を持ち込みましょうか?」

 「そうですね……あまり欲張っても仕方ありません。最初はマグネトロンウェーブの停止に注力してヤマトの解体を阻止しましょう。その後でオモイカネの力を借りて完全制圧するのがベターだと思います――あまり褒められた事ではありませんが、アキトと一緒に火星の後継者相手に工作した経験もありますから、ルリ姉さんとハーリーさんとオモイカネが今まで積み立ててきた対ガミラス・ハッキングデバイスがあれば、何とか出来ると思います」

 こちらも顔を突き合わせて、物体攻略のために不可欠なコンピューターの制圧手段の計画を煮詰めていた。

 「今回の作戦は敵施設への侵入ですし、経験の多いアキトさんにリーダーを担当して貰った方が良いでしょうか?」

 「ううん。アキトは確かに経験値が多いけど、今回はあの物体の無力化が最優先だから真田さんかイネスさんがリーダーの方が良いと思う。単純に火力で破壊する事が難しい状況だから、やっぱり専門知識のある人の知恵を借りて堅実に解体していくしかないと思う」

 ルリとユリカの話し合いの結果、今回のリーダーは真田が担当する事になった。
 一番機械に対する理解力と解析能力が高く、多少羽目を外したり激昂する事もあるが、感情のコントロールに優れる人柄を鑑みての事である。

 「そう言う事でしたら、今回の突入部隊の指揮官を拝命いたします」

 「サポートはばっちり任せてね。何、私達が一丸となって掛かればあんな物体すぐに資材に早変わりさせてみせるわ!」

 イネスの言葉に全員が頷く。
 ガミラスが何を企もうがどんな罠を仕掛けてこようが、ヤマトは全てを打ち破ってイスカンダルに行く!

 「それではこれより! マグネトロンウェーブ発生装置解体を兼ねたヤマト補給大作戦を開始します!」

 選ばれた9名の特別工作隊が出来たてほやほやのシームレス輸送機に乗り込み、ボソンジャンプ対策を一時カットしてからアキトのナビゲートでボソンジャンプ。
 工場区からその姿を消したのであった。

 全ては、資材を得るために!



 そしてヤマトの艦外にボソンアウトしたシームレス輸送機は、ヤマトと物体の現在位置をざっとではあるが確認した。

 「ふむ、現在地はヤマトから推定2q、物体との距離は推定1万と4000qか……いかんな、このペースだとあと4時間ほどでヤマトはマグネトロンウェーブの影響をもろに受け始めるぞ」

 「そうね、発進前の検査でも主砲や副砲を始め、損傷個所で振動が見られるようになってたし、あんまり悠長に構えてると補給の前にヤマトの修理作業が長引く事になるわね」

 もうすっかり資源獲得作戦に変貌している事がその言葉からも伺える。
 普通ならヤマトが解体されてしまう事が最も気掛かりであるはずなのに、ヤマトの修理作業の延長による時間的損失にしか目に入ってない。

 あの物体が本質的には単なる解体用機材で、攻撃用要塞ではないと見抜いたが故の事ではあるが……。

 「シームレス輸送機で接近するのに約1時間、となると、作業時間は3時間程を目安にしないといけないな。スラスターを噴射、物体への接近を開始するぞ」

 操縦桿を預かるサブロウタが簡素なレバーを引くと、後部に据えられた2つのスラスターが点火、物体に向けて加速を始める。
 その姿は本当に簡素なもので、艦内工場の能力をフル活用した一体成型のボディは、以前のヤマトで散々活躍した救命艇に近い代物であった(今のヤマトの救命艇は形状が異なっている)。ただ、ティルトウイングタイプではなく、後部に取り付けられたボンベのような形の推進器で飛行する。
 そのため第一印象は“ティッシュ箱”であった。

 「時間なかったんだから文句言うな。性能は保証する」

 とは、その姿に突っ込んだアキトに対するウリバタケの反論である。

 ともかく、シームレス輸送機は徐々に速度を上げてマグネトロンウェーブを発する物体に接近していく。
 念のために持ち込んだ機材のチェックも継続しながら、各々これからの作業に備える。
 しばらくして、シームレス輸送機はマグネトロンウェーブの影響をもろに受け始めるであろう物体との距離5000qの地点に達した。
 シームレス輸送機は全体が振動に見舞われたが、何とか持ちこたえている。突貫工事で不安が残っていたが、何とかなった様だ。
 ホッと胸を撫で下ろしていると、窓の外に解体されたプローブの残骸が漂っているのが見えた。
 ビスの1本に至るまで解体されているようで、細かな部品と成り果てている。
 それは自分達が失敗した時のヤマトの末路だと思うと、緊張を煽られてソワソワした気持ちになった。

 そんな中で真田はプローブの残骸を辛そうに見ていた。傍目にも、嫌な記憶とダブらせてみているのが伺える。

 「真田さん……どうしたんですか?」

 隣に座っていた進が尋ねると真田は渋い顔で「少しな……」とだけ答えて黙り込んでしまう。
 あまり話したくない話題だという事は確定した。事情を知っているのであろうイネスは心配げな表情だが、承諾も得ず口に出すつもりは無いようだった。
 しかし、口にしてしまった方が楽になると考えたからか、真田はぽつりとぽつりと話し始めた。
 あまり思い出したくはない、しかし決して忘れられない、過去の惨劇を。

 「――俺はな……子供の頃は絵が好きでな。大きくなったら画家になりたいと思っていたんだ……だが、15年程前に遊園地で事故に遭って、そこから人生が一変したんだ」

 真田が語ったのは15年ほど前に地球の遊園地であった痛ましい事故だった。
 その遊園地では、機械トラブルによるジェットコースターの事故が発生、何と乗客を乗せた小型のコースターが宙に飛び出し、乗っていた子供2名が宙に放り出される痛ましい事件が発生したのだ。
 その乗っていた子供2人と言うのが、幼き日の真田志郎とその姉だったのだ。

 「俺はその時姉を亡くした。あの時、コースターに乗りたい乗りたいとわがままを言ったのは俺でな……姉は地面に叩きつけらるその瞬間まで、俺の手を握ってくれていたのを今でも鮮明に思い出す……あのバラバラになったプローブを見た時、地面に叩きつけられたコースターの残骸と、その傍らで亡くなった姉の姿がフラッシュバックしたんだ……」

 真田の告白に、事前に知っていたイネスも含めて沈痛な面持ちになる。

 肉親の死。

 これ以上に生々しく思える“死”は無いだろう。
 両親の理不尽な死を見たアキトも、つい最近守を亡くした進も、真田に共感して薄っすらと涙が浮かんでくる。

 「酷いものだったよ……姉は俺の自慢だった。綺麗で明るくて優しくて――そうだな、そういう意味では艦長に近い人となりだったかもしれん。もし俺が、あの時我儘を言わなければ、もしも、あのコースターが事故を起こさなかったら――今でもそう思う事があるよ」

 真田は自身の両腕と両足が視界に入ると、さらに続けた。

 「なあ古代。俺の手足をどう思う?」

 「え? どうって言われても……普通じゃないんですか?」

 普段の真田の姿を何とか思い出しながら進は応える。なぜなにナデシコのキャラクターイベントで共演した時に互いの肩を抱き合ったりしたが、特別違和感は――。

 「この手足は作り物なんだよ。あの事故は、姉の命だけじゃない、俺の手足も奪っていったんだ」

 真田の告白に、やはり知っていたイネス以外の全員が驚く。
 普段の挙動に、作り物の手足を思わせるような仕草は無い。それに、あれほど精巧な工作作業もしているというのに――。

 「俺の両親は技術者でな。特に俺みたいに四肢を欠損した人が苦も無く日常を過ごせるようにと、安価で精巧な義肢を作ることに情熱を燃やしているんだ。俺の手足も、元々は両親が設計した物だ。おかげで日常生活においては不便さは感じないし、皆も見ている様に精密作業もこなせる。むしろ生身だった頃よりも器用になったくらいさ」

 自嘲気味ではあったが、言葉の端々に両親に対する確かな敬意と感謝が感じられる。

 「この一件以来、俺は科学畑の道を進むことに決めたんだ――科学とは、人の幸せのために生み出されたもののはずだ。生活を豊かにし、より高みを目指すためにこそあるはずだ。だが、現実はどうだ! 姉の命や俺の手足を奪ったような事故は枚挙が無い! それどころか科学に心奪われ外道に走る人間もなんと多い事か! 俺は、科学とは人の為にあり、人は科学に勝るものだという事を証明するために――科学を屈服させ、人の幸せを冒さないようにしたいと願って、科学者になったんだ!」

 握り締められた拳に、真田の決意の固さが伺える。

 「――屈服、ですか」

 真田の告白を聞いてから、ルリはぽつりと呟く。
 真田の過去に対する同情があっても、科学というもの自体に向けられる憎しみに対する反発を覚えずにはいられない。
 コンピューターを友達として成長したルリにとって、機械はとても身近な存在な存在であり――対等な関係だった。だから、何となく友人を貶められた気がして、気分が悪くなる。

 「わかっているよ、ルリ君。君とオモイカネの関係はこの目で見させてもらった。君達の様な関係こそが、俺の目指すべき本当の答えなのではないかと、ヤマトに乗ってから思うんだ」

 先程までの感情の荒ぶりを抑え、出来るだけ優しく真田は告げる。

 「しかし人が科学を制すべきというのは――正しいのだと今でも思う。科学で生まれた全ての機械が――オモイカネの様に人と歩み寄れる存在ではないからね。それに……人が裏切らない限り、科学もまた人を裏切らないものだと、誰かの言葉を耳にした事もある。俺は、誰もがそう在れるようにするためにも科学を制し、同時に科学と接する人の在り方についても模索していきたいと考えている――そのきっかけは間違いなく、君達の関係だ」

 「真田さん……」

 「つくづく、俺は君達に救われたり道を示されているのかもしれないな…………アキト君、実は今まで話していなかったんだが――君は俺の命の恩人なんだ」

 「え?」

 いきなりそんな事を言われてアキトは戸惑う。ヤマト以前に、何か真田との接点があったのだろうか。

 「まだ艦長にも言えてはいないんだが、君達がヨコスカで自爆寸前のジン・タイプを1機、何とかしてくれただろ? あの時、俺もヨコスカに居たんだ。ナデシコが暴れていたジン・タイプと戦ってくれなかったら、君がボソンジャンプを使ってまであの機体を放り出してくれなかったら、俺はあそこで死んでいただろう」

 思わぬ告白に、あの場で自爆して果てようとしていた月臣がぎくりと硬直する。
 真田はあの時のマジンのパイロットが月臣だったとは知らないようだが、まさか自分が殺しかけた民間人の中に、今ヤマトを支えている科学者が居ようとは思いもしなかった。――超居心地が悪くなった。

 「だからこそ、君達の訃報を新聞で見た時には悲しかったし、プロスペクターさんを通してヤマトの再建計画に誘われて、真実を――君が五感に障害を抱えて復讐鬼となり、艦長がボソンジャンプの制御装置にされたと聞かされた時には、腸が煮えくり返る思いだったよ。俺が最も唾棄すべき存在――科学に心奪われ人間性を失った連中の玩具にされたなんて……だから俺は、命を救われた者として、科学者として……恩人の君達に少しでも報いたいと思ってヤマトの再建を手伝う覚悟を――兵器開発に携わり、俺が生み出した兵器で血を流す覚悟を決めたんだ」

 「真田さん――そんな事があったなんて、俺、知りませんでした」

 「あまり語る必要を感じなかったのでな。恩を着せたいわけでもないし、俺個人が納得していれば済む話だった。しかしな……再建したヤマトが君にも明日への希望を与え、ダブルエックスが君達の再会の懸け橋になってくれたと知った時は、感無量だったよ。どちらも俺が関わっていたからな……」

 目を閉じた真田の脳裏に、ダブルエックスに乗ってヤマトの危機を救い、ユリカと痴話喧嘩を繰り広げた後、医務室で感動の再会を果たした2人の姿が――そしてその姿を喜びも露に見ていたルリ達の姿が浮かぶ。
 理不尽で愚かしい思惑で引き裂かれた恩人達の幸せそうな姿に、筆舌し難い感動を味わったのは記憶に新しい。ある意味、真田の努力が報われた瞬間だった。

 「他にもヤマトにナデシコCから移動になったルリ君が乗ると聞いた時も、出来る限りの時間を割いてオモイカネの搭載の調整や、IFS対応のインターフェイスを組み込んだり、要望に応じたハードウェアの改造もした」

 「――道理で、親切だと思いました」

 実際第三艦橋への直通エレベーター問題でも妙に狼狽えていたし、日々の調整でもかなり細かく要望に応じてくれていたり、強面によらず親切で人当たりが良い人だとは思っていたが――そういう裏もあったのか。

 「という事は、ユリカ姉さんの着ぐるみの改良を頼まれてもいないのにやってくれたのって……」

 「勿論、艦長が少しでも楽になる様にと気遣ったんだ。幸いイネスさんの協力も仰げたから楽なものだったよ。俺も両親から義肢関係の技術は伝授してもらっているし、アイデアも幾つか使わせてもらっているんだ。あのパワードスーツ化も、両親が考えた半身不随になってしまった人や、欠損はしていなくても麻痺などで体が自由に動かない人の為にと考案していた技術を使わせてもらっているんだ。形にする上では、ウリバタケさんの協力も大きかったと付け加えさせてもらうよ」

 思いがけない事実にアキトもラピスも開いた口が塞がらない。
 ごめんなさい、人が良いけどマッドだなんて思ってしまって。

 「正直な気持ちを言えば、どんな形であれ兵器開発に携わり血を流した以上、科学で人を幸せにするという願いに土を付けたという思いはあるんだ。だが、綺麗事だけ並べて眼の前の犠牲を見過ごすのは耐えられない。俺の信念の為にも、例えガミラスの血を流す事になったとしても……ヤマトの航海は成功させる。ヤマトを生み出したのも科学だ。科学者としての俺が手塩にかけて甦らせ、改良も重ねてきた。ヤマトの成功は、少なくとも地球に残された人々の幸せに繋がるのは確実なんだ!――本音を言えば、ヤマトの力が侵略者とは言えガミラスに向けられ、多くの血を流す結果になっているのには、心苦しくもある」

 それは真田の本音だった。地球を追い込んだガミラスを恨まずにはいられない。だがそれでも、自身が開発した兵器でガミラス人が死んでいくというのは気分がよろしいものではない。
 ガミラスとて人なのだと、あの冥王星基地の残存艦隊が教えてくれたのだ。
 向かって来るのなら退ける。綺麗事で済まないのなら、降りかかる火の粉を払うことにためらいはない。
 だが、戦いが終わった後に感じる虚しさは――消す事が出来ない。

 「それに詳細はわからないが――艦長の言葉を聞く限りでは、イスカンダルには確かに彼女の未来を拓く何かがあるよう思えるんだ。俺のカンが囁くんだが、もしかしたら艦長の命を救うのは医学ではなく、科学技術によるものかもしれない」

 進とアキトとイネスは表情に出す事は辛うじて堪えたものの、真田の言葉に内心舌を巻いた。ズバリ的中だ。ユリカの体は医学では治せない。彼女も承知の事だ。

 「医学では治せないって――でも治療と言ったら医学なんじゃ!?」

 ユリカの事には過剰反応するようになったルリが声を荒げるが、真田は極力冷静に推論を離す。

 「俺も医学にはそれほど詳しく無いが、あそこまで破壊された体を元通りにする事は不可能だと思う。例えば、クローン体の様な新しい体を用意して脳髄を――もしくは記憶や人格と言った彼女を形作るパーソナルを移植して事態を解決する、という事もあり得ない話ではないし、その場合は医学と言うよりも科学が救うと言える。もしくは――」

 ひぃ〜!

 進とアキトとイネスは真田の推論に肝が冷える。推論は大体当たっていた。気に恐ろしきは天才科学者といった所だろうか。

 「全ては推論に過ぎない。真相はイスカンダルに辿り着き、向こうの人間か艦長が真相を語ってくれることを祈るしかない。だが俺は、あの人は自分の命と引き換えに地球を救って俺達を置き去りにするような事は考えていないと信じている。必ずイスカンダルに何かがある。あるからこそ、彼女は命を削る事を躊躇わなかったと、俺は信じているよ」

 そう真田が締めた所で、目的の物体が大分近づいてきていた。――彼が真実を知るのはそう遠い話ではないのだが、真実を知った時の反応が容易に予想出来て……震えあがった。

 「ん? どうやら着いたようだな。長話に付き合わせて悪かった。さあ! 接舷してあの物体の制圧に掛かろう! ヤマトが解体される前に終わらせないとな!」

 吐き出すものを吐き出してすっきりした真田が音頭を取ると、真田の口から語られた出来事にショックを受けて意気消沈した一名を除いて、全員が元気に応えるのであった。



 「ユリカ、マグネトロンウェーブの影響が強くなってきているみたいだ。修理中の装甲板の剥離が始まったよ」

 強磁性フェライトの影響で計器類はあまり信用出来ないものの、工作班の面々が損傷個所を中心に目視と艦内通話を使って艦橋に報告してくれているので、何とかヤマトの状況を知る事が出来ていた。

 「う〜ん。まあ間に合うだろうけどこれ以上解体されるのもねぇ。ヤマトぉ! 気合で耐えてくれないかなぁ!」

 すでに周知となっているから語りかける事に躊躇が無い。他のクルーには返事は聞こえなかったがユリカには確かに返事が届いた。

 「――頑張ってみます!」

 と。

 頼もしい限りだが、ちょっぴり泣きが入ってた気がする。――トラウマでもあるのだろうか。



 一方でマグネトロンウェーブ発生装置に取り付いた9名は、ワイヤーでシームレス輸送機を係留した後、マグネトロンウェーブの発射口と思われる開口部から侵入を試みていた。
 シームレス構造である以上、外部にメンテナンスハッチの類があるはずも無いという考えから、少々危険を感じてはいたが時短の為に突撃を決意した。

 「良かった。手を加えた宇宙服はマグネトロンウェーブの影響を退けられるようね」

 「帰ったらウリバタケさんに何か奢らないといけませんね」

 イネスの安堵の声にハリも同意する。ウリバタケは同行こそ出来なかったが、確かな仕事振りで自分たち突入部隊を支えてくれていた。

 全員慎重に発射口と思われる開口部にその身を潜らせる。人が入るのに十分な大きさの穴ではあるが、9人も入るとなると流石に手狭だ。
 互いに装備を引っかけないように順序立てて慎重に進んでいく。奥行きは15m程と短く、直ぐに行き止まりに達してしまう。
 真田とイネスは周囲を検分しながら少しの間歩き回り、互いに意見を交わして結論を出した。

 「ふむ、どうやら発射装置よりも奥にはマグネトロンウェーブ自体が届かないようだ。案外指向性があるんだな。この奥の隔壁も、防磁コーティングされてはいるようだが直に作用したら長くはもたんだろう――よし、このまま最深部に侵入して、マグネトロンウェーブを内部に反転させられないかを試してみよう。上手くいけば、この物体自体を解体出来るはずだ」

 真田の発案もあって、一行は慎重に内部を進むことにした。全員が防磁性の小型トランクを腰に吊るし、各々の装備品を入れてある。これで機能を保ててくれていればいいが……不安を残しながらも、隔壁の傍にあった防護扉をハッキング(物理)して開放、内側に入る。
 その先には予想通り、メンテナンス用と思われる通路が伸びていて、その様相はアキトと進が持ち帰った冥王星基地の構造に酷似した有機的なものだ。
 どういった意図なのかは読めないが、ケーブルが絡み合ってまるでトンネルのような構造を作り出している。
 戦闘担当の4人はトランクからコスモガンを取り出して構える。機能に問題は無いようだ。レーザーアサルトライフルも問題ない。スリングを肩に通して構える。

 「行くぞ。このケーブルを辿っていけば、心臓部に辿り着けるはずだ」

 アキトと進が前衛を担当し、そのすぐ後ろの真田とイネスが道を示し、中衛にサブロウタ、サブロウタの近くにルリとラピスとハリ、後衛に月臣という陣形で、慎重に先を進んでいく。
 通路は正直言って狭く、人がすれ違うのがやっとと言った具合で入り組んでいる。まるで迷路のようにあちこちに通路が伸び、真田とイネスが主要のケーブルを見極めて先導してくれなければ迷子確定だ。
 進みながら冥王星でも使ったマーキングを残して退路を確保しつつ、9名は慎重に進んでいく。
 不思議と防御装置の類が見受けられず、何の妨害を受ける事が無いまま進んでいくが、如何せん構造が複雑で階層も分かれている。
 人口重力が働いているので一行はケーブルで出来た通路を歩かねばならず、病み上がりで(ただでさえ無い)体力が不足気味のルリを気遣って、周りがフォローする事は欠かせなかった。

 そうやってかなりの距離を歩いた。時にはケーブルで出来た壁面を這い上って階層を移動する。
 途中、60p程度の赤い4つ足ガードロボットに遭遇して少々焦ったが、物陰に隠れてやり過ごしたり、発見される前に破壊して切り抜ける。
 案外脆くて助かった。

 「もう5qも歩いてるのか……真田さん、イネスさん、まだ中心部には着かないんですか?」

 「もうすぐだ古代。この物体は完全に無人で動いている、言わばこの物体自体が巨大なロボットのようなものだ。イネスさんとも結論が共通したが、どうやらこの通路も一種の電気回路のような構造をしている様だ。内部には作用していないが、恐らくこの物体全体がマグネトロンウェーブの発生装置になっているんだろう――そして、その構造を鑑みた上で俺とイネスさんが導き出したゴールが……ここだ!」

 真田が示した部屋の中の様子は、それまでの通路とは一変していた。
 円形の部屋の中央には、球形の巨大な電子頭脳と思しき物体があり、その四方からオレンジ色のケーブルを伸ばして床や壁、天井に繋がっている。
 周囲には平らな床もあり、一目見てわかる、ここが心臓部であると。

 「では、手早く無効化してしまいましょう。ハーリー君、ラピス、私達の出番です」

 ルリの呼び掛けにハリもラピスも頷く。吊るしていたトランクから端末を取り出すと電源を入れる。どうやら、マグネトロンウェーブの影響は受けていないようだ、正常に機能している。

 「アクセスポイントを探すのは私達に任せて、アキト君達は周辺の警戒をよろしく」

 イネスに言われて4人は技術者組を固めるように周囲を警戒する。あのガードロボットが大挙して襲い掛かってくるかもしれないので、備えを怠ることは出来ない。

 真田とイネスはすぐにアクセス出来そうな端末を発見、地球の物とはだいぶ規格が違うが、過去の解析データからでっち上げたコネクターを調整して接続、後は真田達のバックアップを受けたルリ達3人の仕事だ。
 携帯端末では全力を出すには少々物足りないスペックではあるが、ルリがハリや部下達と一緒に構築したガミラス用のハッキングデバイスの出来栄えは見事だった。苦戦していたヤマト出航前とはうって変わってスムーズに掌握していく。

 作業が順調に進む中、案の定と言うべきか、警報システムが発動した。やはり完全回避はまだ出来なかった。真空の物体内では音は聞こえないが、あちこちで赤色灯火が点滅している。ガミラスも共通の警戒色らしい。今までやり過ごして来たガードロボットが大集結。一挙に襲い掛かってくる。
 上部のカバーが開いてレーザーガンを発射。施設の破損を気にしてか出力はやや低めだが、それでも命中すれば宇宙服の気密が危うい。
 進達はコスモガンとアサルトライフルを二挺持ちして応戦。とにもかくにもルリ達の邪魔をさせるわけにはいかない!
 入ってきた入り口は勿論サービスハッチの類からも飛び出すガードロボットを、4人は代わる代わる立ち位置を入れ替えて応戦していく。

 飛び交うレーザーを防ぐべく、真田とイネスが持ち込んでいたらしい個人携行用のディストーションフィールドを展開して持ちこたえる。内部にマグネトロンウェーブの影響があったら使えない代物なのに、念には念をと持ってきた周到さに感心させられる。
 とは言えバッテリーはそう長くは続かないし、応戦中の4人は無防備なままだ。

 「ルリさん達、急かす様で申し訳ないけどさ、早い所頼んますぜ!」

 余裕が無くなってきたサブロウタが堪らず急かす。
 月臣は宣言通り、宇宙服を着ているとは思えない凄まじい体術を見せつけてガードロボットを蹴り飛ばし、レーザーの火線を見切って縦横無尽の大活躍。
 他の3人はそこまではいかないが、必要に駆られて蹴ったり撃ったりエネルギー切れの銃を投げつけたりナイフや電磁警棒で応戦したり。必死で抵抗しているがやはり多勢に無勢。
 溢れるように出て来る大量のガードロボットの群れと残骸に埋もれてしまいそうな錯覚すら覚える。

 「ルリさん、こっちは準備出来ました!」

 「ルリ姉さん、こっちも行けます!」

 「それじゃあ、ポチっと行きましょう」

 3人はタイミングを合わせて最後の仕上げを完遂する。
 それでセキュリティーシステムは勿論、マグネトロンウェーブの発射システムも掌握する事に成功し、この物体の制御を完全に手中に収めていた。

 「ふぅ〜。クラッキングは久しぶりでしたけど、腕は鈍っていませんでしたね」

 「私も久しぶりですけど、務まって良かったです」

 「良い経験値でした。今後に是非とも反映したい所ですね」

 3人は清々しい表情だった。制圧までの時間は15分。オモイカネの助けも無く、ガミラス製のコンピューター相手にこの程度の時間で済んだのだから、大金星だろう。
 今まではそもそも掌握すら出来なかったのだから。

 「無人で稼働していたらしく、生身の人間は誰もいませんでした。この物体はもう我々の物です。真田さん、外部コントロールシステムも掌握したので、外部からコントロール可能です。マグネトロンウェーブも内側に向けての照射が可能の様です」

 ルリはとっても嬉しそうだった。ようやく彼女個人としてガミラスに一矢報いたと思っている事は、表情から容易に察する事が出来る。

 「よし! 1度脱出してヤマトに戻ろう! 外部からコントロール出来るのなら、わざわざ内側から壊す必要は無い。この忌々しいジャンク製造機をジャンクに代えて、我々の航海の足しにしようではないか!」

 「さんせ〜い!」

 と皆が挙手で同意を示す。
 手早く帰り支度をしてガードロボットの残骸を踏み越え、心臓部を後にする。
 9人はまた足場の悪いケーブルのトンネルを進んでいく。構造が判明したので工程が多少楽になったのが幸いだった。ついでに人口重力も切ってスイスイ泳ぐから早い早い。
 疲れと心地よい達成感を感じながら、一行はシームレス輸送機に乗り込み、ボソンジャンプでヤマトの艦内に帰艦する。

 格納庫でジャンプアウトしたシームレス輸送機の姿に、待ち構えていたクルーが歓声を上げ、ウサギユリカ・はいぱ〜ふぉ〜むも駆けつける。
 そして一同を代表し、真田が報告する。

 「艦長、マグネトロンウェーブ発射装置の無力化に成功しました! あのジャンクはたった今から我々の補給物資です! データの吸出しが終わったら、早速解体しましょう!」



 ビーメラ星系第四惑星で補給が出来ると喜びも露にした矢先に襲い掛かったガミラスの罠。

 立ち塞がったマグネトロンウェーブ発射装置の脅威を切り抜け、貴重な資源をゲットしたヤマト。

 しかしヤマトよ、油断は禁物だ。君の行く手にはガミラスの妨害と、神秘なる宇宙の大自然が立ちはだかっているのだ。

 人類滅亡と言われる日まで、

 あと、265日。



 第十七話 完



 次回、新宇宙戦艦ヤマト&ナデシコ

    最終章 自分らしくある為に!

    第十八話 新たなる脅威! 暗躍する第三勢力!

    ヤマトよ、奇跡を起こせ!



 あとがき

 第十七話終了〜。
 毎度の事ですが、疲れました。半分書いた者の義務として完結を目指す事が優先されているので、書くのが若干苦になりつつある今日この頃。

 今回のマグネトロンウェーブはとにかく難題でした。その原理が!

 なので、あまり頼りっぱなしでも迷惑かと思ったのですが、思い切ってゴールドアーム師匠にアイデアを求め、本編に採用と相成りました。
 お師匠、本当にありがとうございました。

 で、今回のエピソードは実質ドメルからの援助という原作ではまずありえない展開に。
 まあ本作ではデスラーとドメルはヤマトと言う存在を非常に買っている上、トランジッション波動砲が欲しくて仕方ないので、問答無用で撃破を狙えずにいるという立ち位置だから仕方なし。
 というか、このエピソードオミットしても代替え立てるのが難しいのでますます苦労する羽目に。

 守には触れませんでしたが、真田さんの過去にちょろっと触れられるのはここ位しか無いですし、「2199」の超空間ゲートは採用出来なかったので、結局何らかのトラップを真田さん主体で抜けるとなると、アイデアが枯渇しましたよ、はい。

 まあ、ご都合なエピソードですけど、好きなんですよこのエピソード。真田さんの掘り下げもそうですが、ツッコミどころ満載でも妙に緊張感溢れる、初代ならではのエピソード。
 ただ、本作ではドメルが事実上の支援を送ったに過ぎず、ヤマト側も復活したユリカの暴走で罠から補給物資という認識にすり替わったり、大所帯での攻略になったり、何故かパトレイバーの箱舟戦が混じったり、やりたい放題になりましたとさ。

 最初は原作通りのつもりだったんですけどねぇ〜。どうしてこうもお笑いに走るのか。
 え? ナデシコクロスしたら当たり前? 大体合ってる。

 とりあえず、真面目に考えると「距離を取って砲撃すればOK」な展開で面白みも無く終わってしまうので、例によって発見が遅れる状況を作り出すべく色々考えましたが、時間経過の関係で14話で受けた損傷が回復せず、16話でさらに壊れたので遠距離から対応する手段を喪失した事と、ガミラス本土決戦の強磁性フェライトとマグネット発振器のシーンを交えて強引に成立させました。
 その煽りで、ガンダム2機が初の大規模破損という憂き目にも合いましたが。まあ時期的に良いでしょう。

 元々ヤマトのメインは冒険譚なので、障害を知恵と勇気で突破するのは王道ですね。2以降は高頻度で戦闘が発生する構成になったので、相対的に少なく感じるのですが。

 さて、次回からは大幅にプロット変更して物語が変貌してしまいます。

 お楽しみに。



 んで、Xのカイザーの事よ。
 うむ(ほぼ満足)。正直カイザーの為だけに買ったスパロボだからね。でも……

 俺のギガントミサイルとジェットブーメランはどこ!?

 好きな武装が2つもオミットされたのは解せぬ。

 んで、書いてて気づいたことなんですが、本作のヤマトってストーリーが進行すればするほどに“在り方”がマジンガーに近くなっていってる気がします。

 神にも悪魔にもなれる強大な力を人の心で制する

 っていう点において。それも明確な自我を持つという点では、カイザーにも近づいているような気が……。

 

 







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代理人の感想 
冒険もののキモは知恵と勇気ですよねー。
バトルものは力と勇気ですが。
(そう言えば「ブルーシティ」の解説だかあとがきで、「少年漫画の王道は冒険漫画だったと思うのだが、いつの間にかバトル漫画になってた」と星野先生が嘆いてた気がします)

思惑のあるドメルとそれをほぼ完璧に読むユリカ。
頭のいい人同士は通じ合えるもんですなあw


> ウサギユリカ・はいぱぁ〜ふぉ〜む
(爆笑)
いや、最高ッスwwwww
まあナデシコだからしょうがないよねw


> 超居心地が悪くなった。
ワロスwww
過去は追い払おうとしてもひょっこり顔を出しますな!
悔しかろう、たとえ鎧をまとおうと心の弱さは守れないのだ!(ぉ


> カイザー
あれは近年のスパロボで最も燃えるシーンの一つでしたな。
ダブルマジンガーのその上を行くダブルマジンカイザー!
復活と共に久々に鳴り響く魔神皇帝のテーマ! やべえクッソ燃える。





なお、その直前にレベル99気力210アタッカーマジンパワー地形適応SマジンガーZの攻撃一発で
ZEROがHPの二倍近いダメージ喰らって爆発四散したのは忘れてやろう(ぉ


>武装オミット
まあダイナマイトタックルも消されてるし・・・(目逸らし


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