ヤマトが衝撃の事実に揺れていた頃、バラン星では。

 「何? ヤマトが正体不明の艦隊と遭遇して交戦しただと?」

 「はい。ヤマトの動向を調べていた偵察部隊によりますと、ヤマトはビーメラ星系で5日かけて修理と補給を済ませた後、大マゼラン方向に向かって進路を取り、3日で7500光年の距離を移動した地点で、報告にあったイスカンダルからの宇宙艇と接触、その直後に司令が気にかけていた、あの黒色艦隊の一派と思われる艦隊と遭遇し交戦、撃退したとの事です」

 ゲールの報告に「ふむ」と頷いてドメルは思案する。

 大マゼランの外縁で度々目撃され、ガミラスの大マゼラン外縁の守備艦隊にちょっかいを掛けて来ていた黒色艦隊がヤマトにも手を出した。

 その意図は恐らく――ヤマトの鹵獲だろう。

 連中が対ヤマト用に準備を進めていた瞬間物質転送器とドリルミサイルを手に入れたのなら、その過程で試験艦を運用していたクルーを捕獲して口を割らせた可能性がある。
 栄光あるガミラスの戦士だとしても、拷問に屈せず情報を護りきれる保証はない。
 だとしたら、ドリルミサイルの用途も知ったはずだ。それならヤマトのタキオン波動収束砲の存在も知り、欲しても不思議はない。
 ガミラスにちょっかいを出してきたという事は、恐らく目的はガミラスへの侵略。大マゼランへ勢力を伸ばす事が目的の可能性は高い。
 それならば、ドメルが今まで遭遇した星間国家の中でも類を見ない破壊力を持つあの砲を欲したとしても、何ら不思議はない。

 「報告ご苦労だったな、ゲール――周囲に展開中の部隊に厳命しろ。もしもあの黒色艦隊がヤマトに再び手を出したのなら、ヤマトよりも黒色艦隊への攻撃を優先しろとな。連中の狙いは恐らくヤマトのタキオン波動収束砲だ。連中に技術を渡す危険を冒すくらいなら、ヤマトを助太刀した方が我が軍には得だ」

 塩を送るのはあのマグネトロンウェーブ発生装置とビーメラの資源採取が最初で最後と考えていたが、これは止むを得ない措置だ。
 あの超兵器を、ガミラスに対して敵意ある勢力に渡すわけにはいかない。

 「はっ! 厳命いたします!」

 ドメルの指示にゲールも素直に応じる。確かに、第三勢力にあの大砲を渡すのはリスクが高い。
 あのヤマトに事実上の助太刀をするのは心底嫌なのだが、ヤマト以上にあの黒色艦隊に渡す方が厄介だ。
 ――ヤマトだけなら1艦で済むが、連中の手に渡って量産でもされたら……!

 ゲールは不満を押し殺してドメルの命令を部下達に伝えた。

 正体不明の黒色艦隊からヤマトを護れ、タキオン波動収束砲を敵に渡してはならない、と。



 新宇宙戦艦ヤマト&ナデシコ 

 第三章 自分らしくある為に!

 第二十話 三つ巴? バラン星の攻防!



 それから2日が過ぎて。
 ドメルは1度バラン星基地を離れ、今後の作戦で共に戦う事になる部下達と合流していた。
 合流先は対ヤマトを前提とした少数先鋭の機動艦隊。
 先日の瞬間物質移送器搭載艦失踪事件の影響もあって、直接顔を合わせたミーティングが必要になったのも事実だが、ドメルとしては“万が一のため”に呼び寄せた感が強い。
 正直、気にし過ぎただけであって欲しいのだが……。

 「ようやく合流出来ましたね、ドメル将軍」

 そう喜んだ部下に敬礼で応えながら、ドメルは対ヤマト用にと引っ張り出して来た試作の戦闘空母の艦内に足を踏み入れた。

 この戦闘空母は、戦艦の砲撃力と空母の航空機運用能力を両立する目的で開発された試作艦で、タキオン波動収束砲の有無を除外すれば、コンセプト的にはヤマトのそれに近い。
 ただヤマトが戦艦をベースに航空機運用能力を与えた艦とするならば、本艦は空母に戦艦の砲撃力を与えた艦だ。

 最大の特徴は飛行甲板の可変機構で、空母として使う時は後部にある艦橋基部のシャッターも開放し、全通式の飛行甲板と格納庫を解放して航空機を運用。
 砲撃戦に備える時はシャッターの閉鎖と合わせ、飛行甲板の一部を反転させ、左右に分割された複数の砲塔とミサイルランチャーを露出した攻撃モードに移行する事で機能を使い分ける。
 同様の構造が艦底にも備わっているので、下方向からの攻撃にも備えがある。

 総合的な攻撃性能は、ガミラス最強と言っても過言ではない新造艦である。

 が、構造の複雑化によって生産コストが増大したり、空母としてみれば艦載機の数が物足りず、戦艦としてみると装甲シャッターで閉鎖されているとはいえ格納庫の耐弾性が――といった欠点が見られるのが玉に瑕。
 機能は保証されているが、それぞれの用途に特化した方が却って運用しやすい、総コストも抑えられるといった意見に押されがちで、既存戦力に足すとしても新鋭艦は保守性に劣り信頼性が……といった理由もあって余り着目されているとは言い難かった艦だが、ヤマトの登場で事態が一変した。

 単艦にあれだけの機能を詰め込み破綻をきたさないばかりか、度重なる戦争で研鑽されたガミラスの艦艇に対してワンサイドゲームを展開出来る、あの優れた性能。
 その性能をより研究する目的もあり、開発が遅延していた戦闘空母をガミラスの兵器開発局が全力を挙げて完成させたのだ。その試作第一号がこの艦になる。
 双方の機能を統合した結果、ヤマトよりも大型で全長400mもある。それでもドメルの乗艦するドメラーズ三世に比べれば小型なのだが、十分大型艦艇の範疇だ。
 また、重装甲・重火力を追求した艦隊旗艦級のドメラーズ三世はどうしても小回りが利かず足も遅いが、それよりも規模が控えめで空母としての展開能力も求めたこの艦は、意外と足が速いのも特徴であった。

 ――試作品故実戦での実力が未知数で、信頼性を重んじる軍隊にあってはお荷物になりがちなのは否定出来ない事実だが。

 基本的に堅実なドメルがこの艦を所望した最大の理由は、機動部隊を率いてヤマトと対峙するにあたり、少数先鋭を実現しつつ航空戦力と砲撃力を少しでも底上げするためである。
 また試作艦艇という事は、言い換えれば損失しても全体としては然程懐が痛くないという事の裏返し。
 移民船団護衛のため、とにかく堅実な戦力が求められる現状では他に使い道が無いのも事実であった。

 ヤマトには、七色混成発光星域――通称七色星団で決戦を挑む予定となっている。
 事前にデスラーから承認を得て、「ガミラスの地球侵攻とヤマトの航海の安全を掛けた最後の艦隊決戦」と銘打ち、文字通りガミラス最後の対ヤマト戦として挑む。
 前時代的だが決闘状も叩きつける。互いに引けない戦いだと認識させて絶対に戦うのだ。
 勝っても負けてもガミラスの未来を守る為に。

 移民船団の事を考えれば、数ですり潰すわけにもいかないし、場所が場所なので少数戦力の方が色々と立ち回りやすい。
 搭載数に優れた多層式宇宙空母3隻に自身のドメラーズ三世とこの戦闘空母、後は指揮戦艦級2隻の計7隻で挑む予定だ。
 ――駆逐艦が含まれていないのは、ヤマトの防御性能に対して火力が足りず、移民船団護衛の為には足が速く多用途に使える駆逐艦は1隻でも多く回してやりたいからだ。

 この戦力に瞬間物質移送器による航空機の転送戦術で撹乱と消耗を図りながら、ドリルミサイルを搭載した重爆撃機を送り込んでタキオン波動収束砲を封じ、その後は航空部隊と連携した砲撃戦にもつれ込んで降伏を図るか、撃沈して終わらせるという考えだった。
 ワープで送り込まれる航空部隊の猛攻を合わせれば、あの戦略砲持ちの人型とてそうそう発砲は出来まい。
 ボソンジャンプを使える彼らの事だから、すぐに持ち直して対応してくるだろうが、初撃で打撃を与えれば十分だ。
 その初撃でレーダーを確実に潰して目暗ましを図る。
 そうやって混乱を誘い、航空戦力を消耗させ、防空能力が一時的に衰えた瞬間を狙ってドリルミサイルでタキオン波動収束砲を封じてしまえば、一発逆転の手段を1つ奪える。
 後は、例の戦略砲持ちを警戒しつつ消耗戦にもつれ込む事になるだろう。そこから先は根気の勝負。どちらが勝っても不思議はないと、ドメルは考えていた。

 しかし、要の瞬間物質移送器とドリルミサイルがまさか行方不明になるとは……テスト無しには使えないと現場に出したのが失策だったか。
 とはいえ、荒れた宙域である七色星団で確実に動作する事を確認しない事にはこの戦術は意味を成さない。テストは必要だった。

 移民の為の行動が目立つからか、最近は異星人の敵対的行動が散見されていたので注意を払わせていたのだが……。
 やはり、ヤマトの脅威や移民政策の遅滞に焦りがあったのだろう。それが油断を招き、致命的な失態に繋がってしまったのだろう。

 兵器局にデータが残っているので、物質移送器もドリルミサイルも再生産自体は可能だが、はたしてヤマトを七色星団に誘導するまでに間に合うかどうか。
 ヤマトのワープ性能が日増しに向上しているのも気になる。どの程度で頭打ちになるのかが読めないので、技術漏洩と合わせて、手痛い損害だった。

 「ドメル司令、お久しぶりです」

 そう声をかけてきたのは紫色の多層式宇宙空母――“第二空母”の航空隊隊長バーガーだった。紫色の髪で細面の男だが、頬に大きな傷があるのが印象に残る男だ。
 まだ27歳と比較的若く非常に血気盛んで直情的な性格だが、切り込み隊長としてこれ以上の存在をドメルはまだ知らない。

 「久しぶりだな、バーガー。元気そうで何よりだ」

 しばらくぶりの対面だが、共に戦場を駆けたことのある戦友であり、ドメルが信を置く凄腕のパイロットだ。
 特に爆撃機の運用に長け、まだロールアウトされて日が浅い新型爆撃機――“ドメル式DMB-87型急降下爆撃機”を早くも物にして、戦果を挙げている。
 優れた戦果を出すドメルは、兵器開発局にも積極的に意見を届ける事が多く、百戦錬磨のドメルの要望に応えるように開発された兵器は評価も高く、正式化される機会が多い。
 ドメラーズ級と名付けられたガミラスが誇る最新鋭宇宙戦艦も発案者はドメルで、艦隊旗艦に求める機能を彼なりに追求していった結果、ああいう形になった。
 最新鋭の空間戦闘機――“ドメル式DMF-3高速戦闘機”と呼ばれる機体も彼の意見を参考にして開発され、正式化された主力戦闘機である。
 高速十字空母に搭載されている専用搭載機を上回る性能を有し、ガミラス全体での機種更新が進んでいた。
 他にも、対ヤマト用にと考案した“ドメル式DMT-97型雷撃機”も存在している。
 発想自体は前時代的な宇宙魚雷を装備した航空機で、巨大な魚雷を包み込むようなボディを持ち、宇宙魚雷を縦列に2本も搭載。自衛用の4連装ビーム機関砲も胴体下とキャノピー後部とエンジンノズルの上下に4基、計16門も搭載している、青色に塗装された機体だ。
 機動性が劣悪だが優れた攻撃力を持ち、宇宙戦艦としては破格の耐久力を有するヤマトに対して有効打を得るために、要塞攻撃用の機体を改修して何とか間に合わせた機体だ。
 自衛装備の多さも、急速に強化されたヤマトの艦載機から出来るだけ身を護りつつ、確実にヤマトに魚雷を撃ち込むために増設された装備だ。

 これらを搭載した空母はバーガーの乗る第二空母の他、ガミラス標準カラーの緑に塗られた“第一空母”と青色に塗られた“第三空母”。
 搭載機はそれぞれの機体の色と空母の色を一致させることで識別を容易にして、母艦を間違えないように配慮されている。
 普段ならここまで気を遣う必要はあまり無いのだが、七色星団内ではレーダーが利き辛く電子機器に頼り切っていては間違いが生じないとも限らない。おまけに多層式宇宙空母は全て同型艦で塗装やマーキング、電子情報による識別を除くと区別が付き難い。
 なので、元々識別のために色を塗り分けていた塗装がDMF-3で緑、DMB-87で紫と、空母の色と偶々合致していたのでDMT-97でも空母側に合わせた青色で塗装されて区分されている。

 この内、七色星団の決戦を考案される前にDMF-3とDMB-87はプロキシマ・ケンタウリ星系でヤマトと交戦した経験がある。
 その時は敵人型を(例の新型を除いて)翻弄出来ていた事は確認されているが、はたしてヤマトの航空隊が当時のままとは考え辛い。油断は禁物だろう。
 そういえば、確かその時――。

 「ドメル将軍と一緒に戦えて光栄ですよ。しかも、相手はあのヤマトって言うんですから――これで、あの時の借りを返せるってもんですよ。あの戦略砲持ちの人形め……」

 やはりそうだったか。
 あの時は、あの戦略砲持ちの人型の砲撃で部隊の半分が消し飛ばされ、後方で待機していたはずの空母の至近を掠めて危うく撃沈されるところだったのだ。
 至近と言ってもビームの光軸から500mは離れていたはずなのに、40万qもの距離を超えて届いた砲撃は3隻の空母の真下を通過しながら艦底部を焼き、溶解させた。
 軽装甲の空母とはいえ、規格外の威力だった。
 強化されたとはいえ散々交戦してきた人型は、状況の助けもあって優位に戦えたが、その戦略砲持ちが参戦したら状況は一変。
 あれだけの火力を有しながら戦術レベルでの戦闘力まで高次元に纏まっているとは……正直ドメルも舌を巻いた。

 「バーガー、貴様の実力でも苦戦を強いられるとは……やはり無視出来ない存在だな。よく無事に帰ってきた。その経験が、きっと役に立つだろう」

 バーガーの腕前は知っている。それにあのDMB-87は爆装を使い切った後に限れば、DMF-3には劣るが空戦を可能とするだけの運動性能を持っている。
 ヤマト登場以前の敵人型機動兵器相手なら十分渡り合えるだけの性能を有しているのだ。
 にも拘らず戦況がひっくり返った切っ掛けが全てあの戦略砲持ちの参入だとするなら、否が応でも最優先ターゲットとして扱わなければならない。
 そもそもタキオン波動収束砲を封じたとして、あの機体がフリーでは1発逆転の可能性を消す事が出来ない。
 それに類似した機体がさらに1機確認されているし、万が一の大逆転の芽を摘むためにも最優先でその動向を追わなければならないだろう。

 それからは金髪で細面で眉が無く、冷静沈着でDMF-3のパイロットとしても優れた技量を有するゲットー、全体的に角ばった顔つきで口数は少ないが、すでに前時代的になった雷撃機を意のままに操るクロイツ、そして負傷して視力を失った片眼を眼帯で隠した歴戦の勇士、ハイデルン。
 いずれも、何度も共に視線を潜り抜けた経験のあるドメルが信頼する戦士たちだ。
 ドメルがルビー戦線で手腕を振るっていた頃は、軍全体の戦力向上と移民船団護衛の際の連携確認も兼ねて、それぞれ別部隊に転属してその技術を振るっていたが、ヤマトという驚異の前に再び集う時が来た。

 近況報告を済ませた後は、彼が乗ってきた戦闘空母、第一空母、第二空母、第三空母、2隻の指揮戦艦級の状態を確かめ、その後は大マゼランから遥々やって来た彼らをゆっくりと休ませ、日を改めてからミーティングに移る。
 盤上のシミュレーションではあったが、七色星団での戦いを想定した編隊行動の確認、レーダーや通信機器の調整、状況の変化を考慮した部隊運用等々、細かく確認する。

 本当なら実機を使った演習もしたい気持ちがあったのだが、胸騒ぎを覚えて指示を飲み込んだ。
 ヤマトが通過するまでの間、バラン星周辺で艦隊を動かすわけにはいかない。
 ヤマトがワープ距離を伸ばしつつある事は報告されていたが、黒色艦隊と遭遇して交戦してから5日程の動向は掴めていない。

 ――もしかしたら、もうバラン星付近に到達している可能性がある。

 そう考えたからこそドメルは“万が一”に備えて基地を立ち、無理なくワープ1回で速やかに帰還出来る場所に艦隊で陣取っているのだ。
 本当なら基地の防衛艦隊同様、バラン星の環の中に隠したかったのだが、ヤマトの動きが掴めないので迂闊に戻れなくなってしまった。

 ドメルがその“万が一”について皆に説明を終え、戦闘配備のまま待機するよう命じて2日、バラン星に残してきたゲールから緊急連絡が届く。

 「バラン星基地が襲撃を受けているだと!?」

 「はい! 行方不明になった瞬間物質移送器を使用しているのか、それとも艦載機単独でのワープ技術があるのかは判別出来ませんが、突如としてワープアウトしてきた爆撃機部隊による奇襲を受け、基地に打撃を受けました! 民間人居住区にも損害が発生していて、今避難を急がせています! 民間船にも護衛を付けて退避させるべく準備を進めております!」

 慌てふためきながらも臨機応変に現場対応して必死に堪えているのが、通信越しでも伝わってくる。
 ――“万が一の事態”が起こってしまった。ヤマトよりもドメルが懸念していたのは例の黒色艦隊の襲撃だ。
 ――隠蔽は、間に合わなかった。

 「あっ!? ド、ドメル司令! 黒色艦隊が接近してきています! 今、艦隊に出撃を指示しましたが、敵艦隊の規模が大きく、基地と民間船を護衛しながらでは長くは持ちません! 至急救援を!」

 「すぐに戻る! それまで何としても踏み止まるんだ!」

 ドメルもゲールを叱咤しながら身振り手振りで緊急発進の準備を整えさせる。
 ドメラーズ三世こそ持ってきたが、ほとんどの戦力は基地に残して来て別に手薄になったわけではない。
 ――敵が上手だった。
 まさか鹵獲した兵器をすぐに実践投入してくるとは――!
 幾らゲールがやり手であっても、完全に虚を突かれた状態では限度がある。
 すぐに救援に向かわなければ!

 「し、司令! や、ヤマトがワープアウトしてきました!」

 ゲールの報告に流石のドメルも一瞬思考が止まった。最悪のタイミングだ。
 ヤマトはドメルの策でバラン星の状況を大凡察したはず。事前に探査プローブの類で確認だって済ませただろう。隠蔽が間に合わなかった事は、この襲撃が証明してしまっている。
 ――それでもドメルが見込んだ通りの相手だとしたら、後願の憂いを抱えたままであっても素通りすると踏んでいたのだが、このタイミングで来たという事は、恐らく襲撃を見てからワープした事になるだろう。

 だとすれば目的は2つに1つ。地球を確実に救う為、障害であるガミラスを徹底的に叩く為に便乗してバラン星基地を攻略するか、または――。

 「ドメル司令! ヤマトが――ヤマトが基地に攻撃中の航空隊と交戦を開始しました! 我が軍を無視して……いえ、一時休戦を訴え、共通の敵の排除に協力すると打電してきました!」

 驚愕に歪むゲールの表情と報告に、ドメルは自分とデスラーのヤマトに対する認識が決して間違っていなかったと、つい安堵の笑みを浮かべてしまう。

 やはりヤマトは気高き戦士達であった。
 例え祖国を滅ぼさんとしている相手であっても、滅ぼすのではなく最期の瞬間まで平和的解決を模索する、大きな器と高潔な精神を持つ戦士たちであったのだ。

 これで、デスラー総統も決断出来るに違いない。

 恥を承知の上で、ヤマトとの和平の道を。
 地球との共存の道を。






 バラン星宙域にワープアウトしたヤマトは、“意図的に”バラン星基地と暗黒星団帝国と思われる航空部隊の間に割って入った。
 傍から見ればワープアウトの勢いで突っ込んだように見えるかもしれないが、勿論これ以上無く狙ったワープアウトである。
 連中のやり方ならすぐにでも――。

 「敵航空部隊からのビーム攻撃! 左舷後部に2発命中!」

 「フィールド出力安定、被弾による被害はありません」

 ルリと真田からの報告に進は会心の笑みを浮かべる。
 航空戦力との戦闘は初めてだったが、すでに1度戦った相手。ある程度の推測も可能だし基地への攻撃を確認している以上、それに合わせた備えも出来るというものだ。
 定型文な勧告も行ったが、応答は無い。
 これで大義名分は立った。
 “ガミラスはともかく黒色艦隊には反撃出来る”。

 「よし! 全砲門開け! 黒色艦隊に向けて応戦する! 対空戦闘開始! 敵機を近づけるな! コスモタイガー隊は全機発進! エリナさん、バラン星基地に一時休戦と基地防衛に協力すると打電願います」

 「了解!――こちらヤマト、ガミラス・バラン星基地に告げます。現在ガミラスと交戦中の敵艦隊は、我が方にとっても脅威であり、基地の民間人居住エリア防衛の為にも、共通の脅威を取り除くまでの間は一時休戦を求めます」

 エリナが進の指示を受けてバラン星基地に向けて通信を送る。ガミラスがこれに応えてくれるなら良し。駄目でもあの黒色艦隊を突破して逃げるだけだ。

 見殺しにしないと決めた以上、戦うのみ。

 バラン星基地に駐屯しているガミラスの艦艇はヤマトが捉えた限りでは推定200隻。環の中にあとどれくらい隠れているかは不明だ。
 対して敵艦隊の総数は約500隻。この差を覆すのは、並大抵の事ではない。
 しかし、やると決めたからにはやるのがヤマトだ。無茶は最初からわかっている。

 暗黒星団帝国艦隊――では言い辛いので、黒を基調にしている事から黒色艦隊と呼称する事にした艦隊に向けて、ショックカノンの砲身が波打つように旋回、狙いを定める。
 同時にパルスブラストも素早く旋回してヤマトとバラン星基地を襲い掛かる敵の大規模航空部隊を視界に捉え、煙突ミサイルと両舷ミサイル発射管も開放する。

 「照準誤差修正。エネルギー充填100%、安全装置解除確認」

 「ショックカノン、発射!」

 ゴートの補佐を受けながら戦闘指揮席に座る守が発射を指示する。この5日の時間を使って進やゴートのレクチャーを受け、ヤマトの戦闘能力はおおよそ把握した。
 知れば知る程に冥王星の時に――いやそれ以前に欲しかった艦だ。ユリカが必死に蘇らせた理由もこれ以上無く理解出来る。

 ――流石は最後の希望の艦だ。

 ヤマト正面方向の敵艦に放たれた6発の重力衝撃波は、最大射程での砲撃にも拘らず敵駆逐艦の1隻に食らい付き、その身を打ち砕いて宇宙の藻屑と変えている。
 初弾で命中弾を出すとは驚きだ。ヤマトの性能もそうだがクルーの練度もすこぶる高い。
 本当に半分民間人なのかと疑いたくなる程に。

 そして、その手応えに微かな違和感を覚えた後、守以外のクルーはそっと頷いた。
 あの秘密の暴露によって、クルー全員の目的意識がより磨かれ、一体感を増した。
 それは勿論我らが乗艦にして最大の戦友――宇宙戦艦ヤマトに対する理解が増した事も意味する。
 それ故か、今まで以上に馴染むのだ。
 ヤマトのメカニズムが。
 言葉を交わさずとも、触れて動かすだけで何となくわかるのだ。
 微妙な、計器にすら表示されないような誤差や機器の個体差といったものが。

 ヤマトはクルーの意志を受けて力を増す。とは聞いていたが、こんなにもはっきりと体感出来るとは。

 ――どうやら、フラッシュシステムがこの間の使用で皆さんと最適化し始めた様です。システムを通して、より交感能力が高まっているようですね――

 最早驚く事も無い。ヤマトの言葉にクルーはこの奇妙な一体感の正体を知る。
 如何に霊性を持つヤマトでも普段からこんな事は無い。
 精々「沈まない」「使命を果たす」等といった気持ちに答え、誤差の範囲内で耐久力と防御力を増す事がある程度。
 それが、クルーとの間でこのようなリンク果たすとは。

 ――これが、人とマシンを繋ぐフラッシュシステムの威力なのか。

 ヤマトは対空火器をフル活用して弾幕を形成しながら宇宙を進む。
 第三艦橋の小型プローブ発射管に装填していたハッキングプローブをバラン星基地に向かって撃ち込み、システムへの干渉と情報の引き出しに掛かる。
 以前ハリが指摘した様に、無線でガミラスのシステムに干渉して掌握する事は未だに難しい。
 ヤマト本体の通信機器の改修が必要であるし、それ専用に特化したナデシコCに比べると、どうしてもヤマトのコンピューターと無線容量の規模が足りない。
 だが、補助端末を搭載してヤマトとの通信を確立したデバイスを打ち込めば話は別だ。
 負担が大きく完全掌握は望めないまでも、こういった状況で情報収集したり部分的に相手を掌握する事自体は不可能では無いのだ。

 「プローブの打ち込みに成功。敵システムに侵入して情報の取得を始めます」

 ワープ前からECIに降りていたルリが、システムと自身の技能をフル稼働させて早速情報取得にかかる。と言っても機密情報には目もくれない。
 欲しい情報は民間人の規模と避難状況。ヤマトが救助活動をするべきか、それともこのまま戦い続けた方が良いのかの判断材料だけだ。

 念のため、波動砲は識別が容易な派手なオレンジ色の封印プラグを差し込んで封鎖している。
 封印プラグは文字通り波動砲を封印するための装備。
 かつてヤマトがアクエリアスの水柱を断ち切る為に使用した閉鎖ボルトと違って、外部から発射口を完全に閉鎖して密閉状態にしてしまう。
 外部から差し込んでいるのと、緊急事態を想定して強制排除出来るようにはしてあるし、嵌めたまま発砲しても暴発のリスクはさほど大きくないが、これは急増品故そこまで徹底して作りこめなかった事と、決意表明として取り付けただけの代物だからだ。

 こうやって波動砲をわかり易く封印すれば、バラン星基地にとって――ガミラスにとって最も恐れる最終手段をヤマトが行使するつもりがないというパフォーマンスが出来る。
 そうすれば、少しはこちらの誠意が伝わるはずだ。

 とはいえ敵艦隊の規模が予想よりも大きい。波動砲無しでこの局面を打開するのはかなり厳しいが、ヤマト側の判断で波動砲を解禁すれば誠意もへったくれも無い。
 何とかして凌ぐ!

 「コスモタイガー隊、発進開始するぞ!」

 解析作業開始と合わせて、やはりワープ前に発進準備を整えていたコスモタイガー隊の発進が始まる。
 あらかじめカタパルトレーンに待機していたアルストロメリア、スーパーエステバリス、エステバリスカスタムのイズミとヒカル機は装備の確認を完了した後、発進準備完了の合図を出す。
 それを受け取った管制室の操作でカタパルトレーンが傾斜してスロープを造り、格納庫と区切るシャッターが閉鎖され、減圧を開始。
 減圧完了後、発進口が開いて4機の人型機動兵器が宇宙空間に踊り出す。
 今回の発進の注意点の1つが、ヤマト下方にあるバラン星の基地だ。
 うっかり勢いよく発進し過ぎると衝突する危険がある。ヤマトは今、基地上空1500m程の至近距離を飛んでいるのだ。

 同時に、格納庫から通路を通って上甲板のカタパルトへと誘導されたGファルコンDXとGファルコンGXの2機が、カタパルトの上に接続される。
 バリエーションが無いダブルエックスはともかく、エックスの場合は防空戦闘に特化するのなら、サテライトキャノンを装備した状態よりもディバイダー装備の方が都合が良いのだが、ディバイダー装備はエステバリスに回したいと考えサテライト装備での出撃と相成った。
 この戦いで使用する予定が無いとはいえ、バランスが崩れる事を嫌ってサテライトキャノンの砲身が付いたままだ。発射口はヤマト同様、簡易ではあるが外部からでも容易に視認出来るオレンジ色の砲栓で塞がれ発砲は出来ないようにしている。
 切り札を使えないのは不安といえば不安だが、元々サテライトキャノンに頼り切った軟弱な思想の元戦ってはいないので、意外と気持ちは落ち着いている。
 いざとなればありったけの弾薬をぶん撒いてどうにかするだけだ。

 ガンダムを乗せたカタパルトが旋回してヤマトの斜め前方に指向する。任務は勿論基地の防空戦闘だ。

 「ヤマトが軍の指揮系統から半ば外れてて良かった瞬間だよな!」

 「ああ。でなきゃ、利敵行為で一気に反逆者だもんな! 反逆経験者だけどよ、俺達は!」

 2人は軽口を叩きながらも手早く準備を済ませ、機体のメインスラスターを点火。カタパルトによってもたらされる加速も活用して、先に出撃したはずの機体をあっさり追い抜いて敵編隊に突っ込んでいく。

 次々と後続の艦載機を放出しながらヤマトは基地上空から決して離れず、外部からの探査で民間人居住区だと判断したグラスドームを有する区画を中心に防空戦を挑む。
 ヤマトに敵の目を引きつけて基地への攻撃を軽減すべく誘導を試みたが、数で勝るからか、それともヤマトが1隻と舐められているのか、あまり食い付いてこない。
 やむを得ずヤマトは、改良されて弾薬投射量が桁違いに増えたパルスブラストを拡散モードで撃ちまくり、とにかく敵爆撃機(用途からそう分類した)の進路を阻み、煙突ミサイルや舷側ミサイル発射管からバリア弾頭を撃ち出して防御スクリーンを展開、時には自ら盾となり、とにかく少しでも被害を抑えるべく奮戦を続けた。
 敵の爆撃機は航空機と言ってもかなりの巨体を持っている。それ故か出力が高く、触覚のような触腕のような形状をしたビーム砲を主兵装として使っているため、多少進路を変えたとしてもフレキシブルに対応して攻撃してくるし一撃が重い。
 それでも重力波砲のパルスブラストなら射線を逸らしたり衝突時に一方的に打ち消せるので、弾幕を形成する価値は見出す事が出来たのが、不幸中の幸いであろうか。






 そんなヤマトの姿を見て、ゲールはギリリと歯を鳴らす。
 自分に恥を掻かせたヤマトをこの場で討ち取ってやりたい衝動に駆られるも、ドメルからの命令もそうだが、今ヤマトと敵対しても何のメリットも無い。

 ――ヤマトが庇ってくれなければ、あの居住区は長くは持たない。
 如何に襲撃を警戒して強固に造られているとはいえ、本来攻撃を凌ぐはずの防御シャッターや防御フィールドの展開も間に合わぬタイミングでの攻撃を受け、防御能力を殆ど活かせていない。
 ――隠蔽用の岩塊が無ければ致命傷だっただろう。
 何度司令室からシャッターを操作しようとしても、構造材が歪んだのか大半が動作不良で使い物にならない。現場に工作隊を送り込んで応急処置したくても火災のせいで遅々と進まず、辛うじて展開したディストーションフィールドも出力が上がり切らない。
 出撃させた防空部隊をもってしても被害をどれだけ抑えられるか……。

 ……ゲールとて誇りあるガミラスの軍人。総統への忠誠心に誓っても、民間人に犠牲を出すわけにはいかない。

 正直な話、ヤマトが助太刀してくれて大助かりなのだ。
 民間施設の防衛に手を貸す、等と断言していた事から察するに、こちらの通信を傍受して解析した事は疑いようが無い。
 ――解析出来たという事は、ヤマトも相当ガミラスに対する理解が進んでいると見える。
 さらなる脅威となる前にここでヤマトも沈めたい気持ちをぐっと抑え、ゲールは防空戦闘機や黒色艦隊を迎え撃つために出撃した艦隊に対しても「ヤマトには絶対に攻撃するな! 今ヤマトに心変わりされたらお終いだ!」と厳命せざるを得なかった。
 敵は恐らくヤマトも狙う。
 敵の攻撃が少しでも分散してくれればこちらとしては儲けものだ。
 それに……今のヤマトは最大の武器であるはずのタキオン波動収束砲を塞いでまで休戦を訴えてきた。
 ……こうなってはこの場限りは共闘するしかない。やけっぱちだ! 

 「ゲール副司令、第15区画と繋がる隔壁が損傷していて、民間人と救助に向かった兵士達が取り残されています!」

 部下からの報告にゲールはすぐに対処する様にと工作班を向かわせることを指示する。
 しかし、そこに至るまでの通路も多くがガレキと炎で塞がれ、このままでは間に合わない。
 ドックには近いのだが、港内には非難に使う予定だった民間船が敵弾によって損傷し座礁してしまった。構造材に食い込んでしまっていて、撤去して別の艦を入れるのにも時間が掛かる。
 非常にまずい状況だ。
 額に青筋を浮かべながらゲールは必死に頭を巡らせる。
 だが残念な事に、地道に努力を続ける以外の策が全く浮かんでこなかった。






 「艦長代理、どうやら第15区画に大勢の民間人と救助に向かった兵士が取り残されているようです。総数は不明ですが、基地の自己診断システムや無線・有線含めた報告を傍受する限り、救助活動が難航しているようです」

 ルリからの報告を受けて、進はさらに詳細な情報が無いかを問い質す。ルリは頷いた後ハッキングによって得られた情報と、内部の構造を報告する。

 「……むぅ。このペースでは手遅れになるやもしれん。艦長代理、ヤマトで近くのドックに入港して救助活動をした方が良いと思う。ロケットアンカーを上手く使えば、座礁した艦を引き抜いてヤマトが入れるはずだ。我々なら小バッタを駆使して迅速に障害物を除去して救出が可能だ。やる価値はあるぞ」

 「エアロックの制御システムへの干渉は可能です。接舷さえ出来ればヤマトに避難させることは難しくはありません――乗ってくれれば、ですが」

 ルリは基地内部の大気成分などを調べてみたが、ヤマト艦内とさほど変わりない、地球型の大気である事が伺える。これなら、接舷してガミラス人を艦内に入れてもヤマトクルーに悪影響を及ぼす危険は小さい。
 とはいえ、兵も入れるとなれば内側から制圧される危険性も十分に出てくる。ヤマトクルーは半分民間で構成されている都合、白兵戦となれば存外脆い。
 ハイリスクではあるが――。

 「やるしかない。見殺しにするのなら最初から来たりしなかったさ……ヤマト、第15区画付近のドックに向けて全速前進! コスモタイガー隊は全力を挙げて防空に努めるんだ! バラン星基地にもその旨を伝えて協力を要請するんだ!」

 「了解! ヤマト、第15区画付近のドックに向けて、全速前進!」

 大介は指示通り操縦桿を操り、ヤマトをドックに向けて進ませる。本当に救助活動をする事になるとは思わなかったが、これも何かの天命であろう。
 幸いと言うか、良いタイミングでガミラスの艦隊がワープアウトしてきた。
 これならこの場は任せても大丈夫だ。結果的に共闘した艦隊と航空隊も壊滅には至っていない。

 ヤマトが動き出す頃にはようやく脅威と認めたか、敵航空部隊もヤマトに合わせて移動してくる。
 正直、今は有難く無いが来たものはしょうがない。丁重に迎撃させて頂く。
 大量の散弾を吐き続けるパルスブラストの、数百にも及ぶ重力波の砲弾が雨あられと敵航空部隊に襲い掛かっていく。

 ヤマトとて、この航空攻撃に晒され続けた事で多少の損害を被っている。
 元よりビーム兵器に対しては異様に頑強なヤマトでなければ致命傷になっていたかもしれない。
 敵がヤマトに攻撃を集中しなかった事と、散弾モードによる圧倒的な弾幕を形成出来るようになったパルスブラストの活躍のおかげで、装甲表面に浅い傷が出来た事と、アンテナやマストが多少欠けたくらいで済んでいるが、異様に頑強なヤマトに短時間でここまで手傷を負わせているという事実から考えれば、敵航空部隊の火力の高さが伺えるというものだ。
 ――近づかれるのはありがたくない。
 収束モードを迎撃に混ぜつつ、コスモタイガー隊と連動して出来るだけ遠くで迎撃したい。
 敵はなおもワープで送り込まれてきて、ヤマトとコスモタイガー隊、そしてバラン星基地を翻弄する。
 幸いな事に、コスモタイガー隊には単機の性能としては彼らすら凌ぐガンダムがある。
 エアマスターとレオパルドは最終調整中でまだ出せないが、ダブルエックスとエックスが懸命に抗っている。

 ヤマトは全力で敵爆撃機の猛攻を凌ぎながら、全速でドックに向かった。



 月臣はアルストロメリアのコックピットの中で迫り来る敵機を見詰め、可能な限り最速で撃墜していく。
 敵がガミラス戦闘機の軽く3倍と大型の機体、火力と射界の広さに攻め難さを感じるが、喰らいつく。
 改修を重ねて強化された機体に、ディバイダーとビームマシンガンの生み出す絶大な威力。そして月臣も異星人の宇宙戦闘機の能力に慣れてきた事もあって、冥王星くらいまで常に感じていた非力さはもう感じない。
 そして今は、何よりも心構えが違う。

 思い返すのは自身の分岐点となった、白鳥九十九の暗殺。
 戦争の行く末をめぐってすれ違いが生じた結果、月臣は草壁春樹の思惑通り、無二の親友だった彼の命を奪ってしまった。

 ――幾度後悔した事だろうか。
 何故もっと理解を示してやれなかったのか。
 あの情勢下において九十九の考えは決して浮世離れしていたわけでもない。地球との和平を模索する声は他にもあったのだ。

 だが、徹底抗戦を訴え遺跡を手に入れさえすれば勝てると考えていた草壁一派と――何の疑問を抱かず、いや、疑問を抱いていたとしてもそれを押し殺して“木星の正義”に固執してただ敵を倒す事しか考えていなかった自分。

 月臣とて現実と理想の狭間で苦しんでいたが、結局“正義”を盲信して過ちを犯してしまった。
 その罪悪感に苦しみ、罪滅ぼしをしたくて――アキトとユリカが火星の遺跡上空での(何故か生放送された)痴話喧嘩からのラブロマンに心打たれて――熱血クーデターを起こして木星を改革した――つもりだった。
 結局一番の危険分子である草壁を取り逃がし、火星の後継者の蜂起を未然に防ぐ事すら叶わなかったが。

 戦いが終わってすぐに始まったガミラス戦においても、最前線に立つ事は無かったが最後の希望を繋ぐべく水面下で手を尽くし続け、今、ヤマトと共にある。

 あの時とは色々と情勢が変わったが、敵国との和解を求めて戦うという状況が記憶を呼び起こす。
 まさか、自分があの時の九十九と似たような立場に立とうとは考えもしなかった。だが、だからこそ……。

 「過ちは、繰り返さん……!」

 呟いて月臣は眼前の敵機に右手のビームマシンガンを発射しつつ接近、左手のディバイダ―からハモニカブレード、拡散グラビティブラスト収束モードを胴体に撃ち込み粉砕する。
 制御を失った機体を居住エリアに墜落させるわけにはいかないので、確実に粉砕するのだ。

 (九十九。俺は2度と過ちを繰り返さない。この戦いの果ての結果が決裂であったとしても、そう断言出来るまでは和平の道を模索する。お前の――親友だった男としてのけじめだ)

 決意を胸に月臣はアルストロメリアを駆る。この戦いの果てに、良き結果がもたらされる事を願って。



 同じような気持ちを抱えながら、ヤマトは奮戦していた。
 戦いを終わらせるための手段では最も難しいともいえる手段。
 多少の裏工作がされているとはいえ、地球連合政府の承認の無い独断専行、反逆にも等しい行為。

 だが、それでも今はやるしかない!

 このままガミラスとの戦争が続けばコスモリバースで地球を一時救ったとしても、いずれ地球は滅ぶ。
 それを回避するためにも今は出来る事をしなければならない。
 旧ナデシコクルーは、かつて木星との和平を考えて連合政府に反旗を翻した時の事を思い出す。

 ――今度は、良き結末に至れることを切に祈って……。



 アキトは仲間達とは少し離れた所で、次々と襲い掛かるビームを避け、時には盾で受け止めながら敵機を退けていく。
 基地施設は広大で、たった26機のコスモタイガー隊だけで全域をカバーするのは不可能だ。
 おまけに敵機が巨大な分本体も頑丈、ディストーションフィールドとは異なる偏向フィールドの類を完備していて、ガミラス機よりも全体的に打たれ強い事も向かい風となっていた。
 さらに防空隊が出てきたことを察知してか、戦闘機と思しき比較的小型で小回りの利く機体も参加する様になってきて、戦局がさらに悪くなる。

 となれば単独で最も優れた戦闘能力を持つGファルコンDXと、単独での作戦行動に慣れているアキトの組み合わせに大活躍して貰う他なかった。
 眼前の敵機はガミラス機と比較しても異質な形状で、円盤だったりイモムシを連想させるような形状かつ、見るも不気味な黒一色の機体だ。
 触覚みたいなビーム砲も生物的な意匠に繋がって不気味さを増している。
 しかも巨体の割に小回りが利くのが嫌らしい。
 しかし――。

 「……本当は、こういった施設を破壊するために造られた機体なんだよな? ダブルエックス……お前、今真逆の事してるぞ」

 嬉しそうに呟きながらアキトはダブルエックスを操る。
 この間の大規模修理の際、ダブルエックスは細かい部分でアップデートを受けてポテンシャルを増していた。
 駆動系や推進系、マザーボードやCPU、ついでに相棒として付き合いの長いラピスがOSを微調整と、あまり目立たないが機体の応答性が多少なりとも向上し、よりアキトの感覚に繊細に着いてきてくれるようになった。
 おかげで今までよりも少し余裕をもって、この猛攻に対処出来ている。

 多少の被弾は持ち前の頑強さで耐え凌ぐ。
 対艦・対施設用と思われるビームはかなり強烈で油断ならないが、ダブルエックスなら1撃程度で沈みはしない。
 それにダブルエックスにはディフェンスプレートという優秀なシールドがある。シールドで防げれば機体へのダメージは抑えられる。
 何発か被弾したディフェンスプレートの表面には弾痕が幾つも刻まれているが、もう少しくらい持つ。

 「――まあ、それが俺達の道なんだけどな。お前も不服無いだろう、ダブルエックス」

 正直な気持ちを述べるなら、やはりこのダブルエックスを任されているのは複雑な気分だった。
 この機体は戦略砲撃機。
 ボソンジャンプにすら対応しているこの機体は、その気になればアキトが行った敵重要拠点の強襲と同じ事を、より容赦ない形で実現し得る機体なのだ。

 ボソンジャンプとサテライトキャノンの組み合わせは、神出鬼没さと戦略砲の絶対火力を同時に行使出来てしまう、ある意味ではヤマトすら上回る危険な組み合わせだ。
 ボソンジャンプはボース粒子反応によってその兆候をある程度捕捉出来るとはいえ、気付いてからでは身構えるのも一杯一杯になる事が多い。
 ワープに比べても跳躍自体の自由度が遥かに高いのも、それに拍車をかけている。
 その気になれば至近に出現することも出来るし、ダブルエックスの場合はサテライトキャノンを安全かつ効果的に使える場所へのジャンプが出来るだけで良い――それなら、ジャンプへの警戒の穴も突け、安全にその大火力を行使して相手を蹂躙する事が出来るのだ。

 ダブルエックスがボソンジャンプに対応しているとは終ぞ知る事は無かったとはいえ、全長が10m程度の小型機が戦略砲を装備して自由に行動出来るという事の危険性に感づいた、シュルツの目は確かだった。

 勿論アキトがその危険性に気が付かない事も無く、その事を敵に察知され、より警戒を強めてしまわないようにと、敵の目を忍んでいたカイパーベルト内での資源回収以外では、ダブルエックスでのジャンプを控えてきた。
 勿論かつての自分の行い――ターミナルコロニーへの襲撃がフラッシュバックしたのも理由ではある。

 言い換えればそういった経験を持っているアキトだからこそ、戦争を一変させる強大な力であるボソンジャンプとサテライトキャノンの戦略級打撃力、ガンダムの他と隔絶した圧倒的な戦闘能力の組み合わせの危険性を制御出来たと言っても良い。
 だからこそアキトは、自身への戒めとして――そして何よりこの強大な力を間違った方向に使わないようにと、ダブルエックスを愛機として使い続けて来た。
 ――今では、それなりに愛着も生まれた。

 (過ちは……繰り返さない)

 1度は間違えた自分だからこそ、こいつには間違いを犯して欲しくない。

 無論、ガミラスが話の通じない無情な侵略者であるのなら、アキトは罪を背負ってでもユリカ達と生きる世界の為に……サテライトキャノンの引き金を引ける。例え後で良心の呵責に苦しみのた打ち回る事になったとしてもだ。
 しかし、ガミラス人との間に友好が結べる可能性を否定出来る根拠は――今は無い。
 彼らは地球に対しては無慈悲な侵略者であったが、祖国の為に命を懸けて戦える程の忠誠心や愛国心を持っている事はわかっている。
 命を投げ出すような戦いを後押ししたのが、独裁政治故に撤退が許されないという背景である可能性も否定出来ない。
 だがアキト達はそれ以上に、祖国の脅威たるヤマトを何が何でも排除しようとする“熱意”の様な物を感じた。
 単に撤退出来ないから自棄になったというのなら、あんな戦い方は出来はしないだろう。

 そんな連中なら、ヤマトと同じ理由で戦える連中だというのなら、もしかしたら和解出来るかもしれないと考えるのだ。
 後は、ユリカがヤマトの記憶の中で垣間見たというガミラスとの共闘の記憶が、この世界でも通用する事を祈るしかない。

 「希望の灯を護るためだ! やるぞダブルエックス!」

 アキトはコンソールパネルを操作して、今までは停止していたフラッシュシステムのスイッチを入れる。
 結局改修で搭載してからも、IFSとの微妙な干渉が見られてあまり機体制御に有効とはいえなかったフラッシュシステムだが、アキトは本来2人乗りで連携するのが前提のGファルコンとの合体に着目した意見を工作班に提出し、改めて調整を重ねた事である意味フラッシュシステムの真骨頂と言うべき使い方を確立した。

 「ドッキングアウト! コンビネーションで行くぞ! Gファルコン!」

 普段なら出撃中は合体したままで運用されることが多いGファルコンをドッキングアウト。ダブルエックスはGファルコンの上に立ち乗りする形で敵陣に突っ込む。
 合体していない為スラスターの同期も出来ず機動力は低下するが、ダブルエックスの足や腰の動きを利用してGファルコンをボードの様に乗りこなす事で、姿勢制御スラスターと合わせてアクロバティックな機動で攻撃を掻い潜る。
 ヘッドバルカンやブレストランチャーも駆使して牽制をかけ、機体を後方宙返りさせてGファルコンだけを先行させるようにして飛ばす。

 当然先行したGファルコンに火力が集中するが、“フラッシュシステムを介してアキトのイメージで制御された”Gファルコンは、それを軽やかな機動で回避しつつ、機首の大口径ビームマシンガンと拡散グラビティブラストを発射して敵機を撃墜、または回避行動を誘発させる。
 回避行動で乱れた敵に、後方のダブルエックスからブレストランチャーと専用バスターライフルの銃撃を浴びせる。
 元々地球製機動兵器用の火砲としては最強クラスの武器だけあって、暗黒星団帝国の軍勢にも通用している。
 攻撃しながら敵陣を1度突き抜けたGファルコンは、ダブルエックスの攻撃中にターンして今度は後方からミサイルも交えた攻撃を繰り出し、さらに敵の混乱を誘う。
 混乱した敵陣に突っ込むダブルエックスは、ようやく実戦投入された不遇のオプション兵器――ツインビームソードを左手に携えビームを出力、すれ違いざまに敵爆撃機を力任せに両断する。

 グリップとハンドガードでφのような形を作るツインビームソードは、上下に備わった発生機からハイパービームソードを上回る出力のビームを出力する、最強の近接戦闘兵器だ。
 上下の刃の扱いが少々難しい武器だが、上下から刃が出ている事を利用した連続攻撃は、刀身が1つしかないビームソードよりも“決まりさえすれば”遥か上をいく威力を叩きだす。
 他にも寝かせた状態で正面に構えるなどすれば、左右に位置する敵機をすれ違いざまに同時に切れたり、手首を高速回転させて簡易ビームシールドとしても使えるなど、少々燃費が悪い事を除けばかなり利便性が高い武器だ。
 本体が小さいので軽量でもあるし、当初は無かった仕様なのだが、実戦投入されなかった間に真田の手で改造され、ハンドガード部分にもビームを誘導して巨大な弓のような大剣としても使えるようにされていた。
 何でも対艦攻撃用のごり押しモードである他、「本当はロケットパンチと組み合わせて……」とか言っていたが、特にダブルエックスにそういった機能は追加は無い様子。
 ……流石に自重したか。というか元ネタは何だ。ゲキガンパンチにそんな仕様は無かったはずだ。

 アキトはダブルエックスに向けられたビームを、最大出力のフィールドを纏ったディフェンスプレートで受け止める。
 ――流石に対艦・対施設攻撃用と思われるビームの直撃だ。度重なる被弾にディフェンスプレートもボロボロになり、シールドの接続部がギシギシと軋みを上げる。
 アキトはこれ以上ディフェンスプレートによる防御は無理と判断して、振り抜きざまに左腕との接続を解除して敵機の眼前に投げ飛ばす。
 投げ飛ばされたディフェンスプレートは回転しながら慣性で宇宙を飛翔した後、機体への直撃コースだったビームと相打ちになって宇宙に散る。
 代わりに左手のツインビームソードを回転させて巨大なビームシールドを形成して何とか攻撃を防ぐ。
 今背後にビームが抜かれると、施設に被害が出てしまう。
 アキトは右手のハイパービームソードをマウントに戻し、再びバスターライフルを再装備する。
 ――流石にエネルギーパックの残量が心許なくなってきた。出撃中に急速チャージ出来ない仕様が恨めしい。改良を要望しておくか。

 アキトはフラッシュシステムで連携したGファルコンとダブルエックスを気合いで操りながら敵編隊を翻弄していくが、如何せん限界が来た。
 フラッシュシステムによる遠隔制御は意外と使えるのだが、搭乗機の制御と並行して別の機体を思考コントロールするのはかなり辛い。
 人間、なかなか別の事を並行して考えていられないものだ。

 これ以上の無理は危険と判断したアキトは、何とかGファルコンと合流して再合体する。

 「オートを併用しても、5分が限界か……!」

 もっとこの連携の持続時間を延ばせるか、状況に応じてより綿密に織り交ぜていけるのならさらにGファルコンDXの戦闘能力を増せるとは思うのだが、如何せんまだまだそれを可能とするだけの経験値がアキトにも工作班にも絶対的に足りていない。

 「リョーコちゃん、そろそろ合流する。これ以上は無理だ……!」

 「わかった! すぐに戻って来いアキト! 無理して撃墜されたらシャレにならねえ!」

 苦戦しているのか、語気も荒く合流を認めたリョーコに返事をすると、アキトは機体を収納形態に変形させ、最高速で部隊と合流を図る。
 戦術モニターに映るヤマトの機影は、ドック内に侵入しようと速度を落としている。

 「くそっ、何とかして港とその周辺の安全を確保しないと」

 アキトは合流した仲間達と一丸になって未だに襲い掛かる敵航空部隊を抑えにかかる。
 アキトは単独行動中に26機もの敵機を撃墜したが、苦労の割に敵の頭数を減らせていない。
 何しろ護衛の戦闘機が鬱陶しいし、爆撃機の頑丈さと攻撃の激しさもある。ガンダムの戦闘能力が無ければ半分も落とせなかった事だろう。

 リョーコもとっくに気付いているが、好き放題攻撃した後の機体は早々に撤退している。
 恐らく補給に戻っているのだろうが、次々と敵機が送り込まれてきているため追撃出来ない。

 ――波動砲やサテライトキャノンといった数の暴力を覆す絶対の切り札が使えない事が、彼らの消耗を否応なく大きくしていた。






 ヤマトが救助活動のため移動を開始した直後、ドメル率いる対ヤマト決戦艦隊がバラン星に緊急ワープで帰艦した。

 「これほどとは……!」

 目を覆う惨状にさしものドメルも悔し気に唇を歪める。
 敵航空部隊が出現した瞬間の観測データから、それが瞬間物質移送器によるものだとすぐに判明した。
 それだけに自身が考案した瞬間物質移送器の威力をまざまざと見せつけられる形となり、自身の発想が正しかったことを証明すると同時に、敵に回した時の恐ろしさを嫌というほど突き付けられる形になってしまった。

 「ドメル司令、あの瞬間物質移送器の対抗策は考案されていないのですか?」

 戦闘空母の艦長であるハイデルンが問いかけてくるが、ドメルは首を横に振るしかない。

 「対抗策は考案していない。あれはボソンジャンプの様に特定範囲内での出現を封じるカウンターが用意されていない。ワープの空間歪曲反応や重力振を検出して使われた事を知ることは出来ても、そこから対処するには並外れた対応力を求められる。ワープの航跡を追跡したくても、規模の小ささもあるしエコーを捉え難い様に転送する考えがあれば、それすらままならない。強いて欠点を上げるなら、片道一方通行故、敵を殲滅出来なければ帰る事が出来ないという程度だ。それも、俺が考えていたように波状攻撃を加え、退却中の部隊への追撃を許さず、ローテーションを組んで相手が倒れるまで攻撃を浴びせ続ける。もしくは最初から撤退が不要な爆弾や機雷の類を送り込んで相手の行動を制限する等、運用次第ではカバー出来てしまう」

 ドメルはゲールから送られてきた敵航空部隊の動きから、自身が対ヤマト用に考案していた戦術とほぼ同じ行動をしている事を見抜いていた。

 「見ろ。あの黒色艦隊所属の航空隊も波状攻撃を続ける事で弾薬を使い切った機体の撤退を助けている。ヤマトの航空隊も攻撃を防ぐのに手一杯で撤退中の部隊を攻撃出来ていない。彼らも防空を優先しているが故に、追撃よりも迎撃を優先せざるを得ないのだ……このままでは相手の弾薬が底を尽きるまで、一方的に蹂躙され続け、我々は壊滅してしまう」

 元々試作兵器だったのだ。十分に研究してカウンター手段を含めた戦術を構築するには圧倒的に時間が足りない。
 だが、運用側ですらカウンターが難しいという性質だからこそ、ヤマトに対しても有用である――というよりはそうでもしなければ少数先鋭の戦力であの強敵を葬り去る事が出来ないと考えたからこそ、引っ張り出してきたのだ。
 それが第三勢力の手に渡ってしまうなど、流石に予想出来なかった。

 「ドメル司令! ヤマトが逃げ遅れた民間人の救助活動をすると言っていますが……」

 流石に判断に詰まったのだろう、ゲールがドメルに助け舟を求めてくる。
 だが無理もない。ヤマトはガミラスにとって最も脅威とみなされている存在なのだから。

 「……要請に応じろ。誘導に向かった兵達にも連絡して、ヤマトに乗れと伝えるのだ……良いか、内部から制圧しようとは考えさせるな。この戦い、地球を救うだけならヤマトにとっては無益でしかない。にも拘らず自ら進んで参戦し、このような振る舞いをしてくれるという事は――」

 「まさか!? ヤマトはガミラスとの講和を求めているとでも言うのですか!?」

 すぐにドメルの言わんとすることを察して驚きの声を上げるゲール。だが、そうとでも考えなければヤマトの行動は説明がつかない。
 あのタキオン波動収束砲を封じているという事も、それを裏付ける。

 「その可能性が高い。ともかく今はヤマトを味方として扱う。向こうの言い分通り、一時休戦して共通の敵を排除するのだ」

 ドメルの命令にゲールも「りょ、了解しました!」と応じてすぐに部下に指示を出していく。



 「……気に入らねえが、あそこの連中を救う為だ。今だけは見逃してやるぜ、ヤマト」

 愛機のコックピットで待機していたバーガーも不満不平を露にしながらも、軍人としての責務を果たす為今だけはと抑え込む。

 これが終わったら、決着をつけてやる。

 この程度の行動でガミラスがヤマトの要求に応じるとは考えていない。たかが戦艦1隻に屈するなど、ガミラスにあってはならない屈辱だ。
 バーガーはそう考えながらも愛機をカタパルトに接続させ、猛烈な加速と共に母艦を離れて敵艦隊に向かっていく。
 基地の防空は第一空母が搭載しているDMF-3高速戦闘機に任せて、バーガーはクロイツが指揮するDMT-97雷撃機の部隊と協力して駐屯艦隊と交戦中の黒色艦隊に対して攻撃を仕掛かけて撃滅する。
 ガミラスの未来のために、この基地を落とさせるわけにはいかない!

 帰還したドメル艦隊と所属する航空部隊は、結局シェルターに入れず、民間船も使って港を出航せざるを得ない状況に立たされた民間人を護るべく防御陣形を敷き、ヤマトと入れ替わりになる形で基地の盾となって戦闘を開始した。






 「ロケットアンカー射出!」

 進の指示で第15区画に最も近いドックに侵入したヤマトは、座礁している艦船をロケットアンカーで引き摺り出そうと悪戦苦闘していた。
 真田の思惑通り、ロケットアンカーで引きずり出すことは出来そうなのだが、破損して脆くなった艦船をそのまま引きずり出す事は難しく、左右のチェーンの長さやらヤマトの姿勢を幾度も微調整する。

 「よし……! 引き出せそうだ……!」

 大介は苦難の末、何とか座礁船を引き出す事に成功した。
 引き出した民間船は乗員の反応が無い事を確かめてからドックの外に放り出し、すぐにリバーススラスターで逆進しながら慎重に連絡橋の位置に右舷後方の搭乗口を合わせ、機能しなくなったドックのガントリーロックの代わりにロケットアンカーを壁面に打ち込む。
 続けて姿勢制御スラスターとアンカーの巻き取りでヤマトの位置を十数p単位で微調整した後、艦体を固定させた。
 ルリもヤマトが固定された後ドックのシステムを遠隔操作して連絡橋を伸ばしてヤマトのハッチに接近させるが、規格の違いからこのままでは安全な接続を確立出来ないと告げる。

 「よし! ここからは俺達の仕事だ!」

 「艦長代理、医療科も準備完了です!」

 艦内管理席から立ち上がった真田と、受け入れ態勢を超特急で完了した雪の声を聴き、進はすぐに救助活動の開始を指示した。
 規格が異なる連絡橋のエアロックに接続するため、工作班は破損部を一時的に覆うためのカバーを持ち出して、エアロックと乗員ハッチの周囲に覆いを作って気密を確保出来るようにする。
 カバーは1気圧程度の圧力で破れたりしないし、接合部は電磁石やあり合わせのパッキンを駆使して密着させている。応急処置だが十分な機能を発揮出来るはずだ。
 覆いが出来た事を確認したルリは、システムに侵入して双方のエアロックを解放する。

 そうやって繋がった連絡橋の中を工作機械を担いだ工作班と、護衛兼労働力の戦闘班にファーストエイドキットや担架を持った医療科、そして建材撤去要員の小バッタの軍団が、道を阻む瓦礫や炎を退けつつ、一斉に駆けて行く。
 全員がルリとイネスが手掛けた翻訳機を身に着ける事を忘れない。上手く動いてくれれば良いが……。

 「そこの通路を右です」

 システムに侵入しているルリからのナビゲートを頼りに、ひたすら施設内を突き進んでいく。そうやって幾つもの分岐を超え、爆発の衝撃で施設が揺れる事に恐怖しながら進んだ先に、民間人の大群とそれを導いていた兵士達の姿が見える。
 ――小さな子供もいるようだ。急がなくては。
 兵士の何人かが驚いてこちらに銃を向けるが「ドメル司令からの命令を忘れたのか!?」と他の兵士が制止する。
 翻訳機も何とか機能しているようで言葉が通じる。これなら何とか誘導出来るだろう。

 「我々は地球の宇宙戦艦ヤマトのクルーです! ここは危険です! 早くヤマトの中に避難して下さい!」

 地球の戦艦と聞いてはっきりと民間人の顔に恐怖が浮かぶ。
 流石に自分達が戦争している国の名前くらいは知っている様子。報復を恐れているのだろうが……。

 「……ドメル司令から指示を受けている。今は、諸君らの厚意に甘えさせてもらう」

 渋い表情ながらも、この隊の隊長と名乗る兵が敬礼をしながら答える。持っていたアサルトライフルらしい銃をベルトで肩に下げて銃口を上に向けている。
 ドメル司令と言うのがどういう人物かは知らないが、どうやらヤマトを信じてくれるようだ。

 案内するにあたって人数の確認もそうだが、負傷者が居ないかを確認しながら少しづつヤマトに誘導しなければ。
 やはりこれだけの攻撃に晒されているだけあって、火傷や切り傷を負った人も多く、骨折して自力で動けない人も居るらしい。
 医療科の面々はそういった負傷者に止血バンドを巻いて止血したり、簡易ギブスを施すなどして応急処置を行うと、消耗の激しい子供や怪我人を持ち込んだ担架に乗せて運搬を始める。
 こういう時、小バッタの頼りになる事なる事。そのパワフルさは障害物の撤去は勿論怪我人の運搬にも威力を発揮した。
 道中出来るだけ丁寧に処理して来た通路を、ヤマトクルーはガミラス人を誘導しながら戻り、何とかヤマトに辿り着く。

 だがヤマトに辿り着いたとしてもそれで済むわけではない。
 今度は戦闘配備中のヤマトの艦内に連れ込んだガミラス人を、邪魔にならない場所に誘導しなければならないのだ。
 連れ込んだガミラス人は総勢259人にも及ぶ。殆どヤマトの乗員数と変わらない人数だ。
 彼らを誘導する場所は予め検討していたが、やはり大きなスペースのある場所に優先して運び込む必要がある。

 とりあえず第一候補として挙げられたのは艦橋の基部にあり纏まったスペースを有する中央作戦室だ。居住区エリアに近く装甲に守られた場所と言えばここ以外に無い。
 それでもスペースは足りないので、外部に近く不安が残るが戦闘の邪魔に成り難い両舷展望室(防御シャッターは降りている)や食堂、挙句は心が痛みながらも廊下にシートを引いてそこに腰を下ろして貰う。
 負傷者は優先して医療室に運び込んで、医療科の面々が代わる代わる処置して必要ならベッドに寝かす。
 幸いヤマトはまだ装甲を貫通するような被害を被っていないので、ベッドを必要とする怪我人は出ていない。
 議論の末、兵士達の武装解除は敢えて行わない事にした。一応は敵国の戦艦である事を考えると、市民の精神衛生上彼らの存在が不可欠と判断しての事だ。
 勿論、彼らが艦内で暴れる事があればヤマトも無視出来ない損害を被る事になる。
 なので銃は許可したが、爆薬の類は引き渡しを訴えた。彼らも立場故か渋々ではあるが引き渡しに応じた。

 「ドメル司令が信じろと仰ったのだ。我々はその指示に従うだけだ」

 苦々しい表情であるが、それでも命令に従うあたりドメルという司令官は相当人望が厚いらしい。こちらとしては願ったり叶ったりだ。

 「第15区画に生存者はもう居ません。救助活動を終了しても良さそうです」

 監視カメラやらを総動員して内部の捜査を続けていたルリの報告を受けて、進も救助活動の切り上げを決定する。
 元よりこの状況下でドックに長く留まり続けることは出来ない。
 敵の攻撃はコスモタイガー隊の必死の活躍とガミラス艦隊の増援によってかなりマシになったとはいえ、なおも継続中でここも何時まで持つかわからない。

 それに外にいる黒色艦隊は、ヤマトが遭遇したよりも遥かに規模が大きい、500隻にも達する大艦隊。
 この区画が射程内に入るのも時間の問題だろう。
 その判断を裏付けるかのように、撤収を決定した直後、施設全体が大きく揺れた。



 「こちらコスモタイガー隊リョーコ! 敵艦隊の射程に基地が捉えられたみたいだ! 早く発進しないとドックが潰されるぞ!」

 リョーコは必死に敵航空隊の足止めをしながら警告する。
 GファルコンGXに合体してからでは抜刀するのが難しい大型ビームソードを常に左手に握らせ、右手に持ったシールドバスターライフルとGファルコンの武装をフル活用して弾幕を形成するが、数の暴力に押し負けて徐々に押し込まれている。
 そこに艦砲射撃が届くようになっては、もう防空戦どころではない。
 砲撃は勿論破壊される基地の残骸からも身を護る為、散り散りになって逃げ惑うしかない。
 それは援軍として現れたガミラスの戦闘機部隊も同じだった。

 サテライトキャノンさえ使えれば……!

 ついサテライトキャノンに頼りそうになって歯軋りする。頼りたくは無いと思いつつもこの有様だ。自分が情けなくなる!

 何度目かの艦砲射撃を回避する中で、破片に煽られて両手の装備を紛失してしまった。Gファルコンの武装が残っているとはいえ、ミサイルを撃ち尽くしてしまった今となってはビーム機関砲とグラビティブラストだけ。少々心許ない。
 見れば、合流したアキトのダブルエックスも同じような状態だった。それに、エックス同様装甲表面には細かい傷が刻み込まれている。
 敵の物量が違い過ぎる。このままでは押し切られてしまう。

 「こちらヤマト、これよりドックエリアを発進してバラン星の環に突入する。コスモタイガー隊は防空任務をガミラスに引き継ぎ、ヤマトに帰艦して補給を行え。これ以上の継続戦闘は危険だ」

 流石パイロット兼任だっただけはある。この戦闘の傍らでちゃんとこちらの消耗具合も図ってくれていたようだ。

 「了解!――野郎共、交代で補給に入るぞ! 消耗の激しい奴からだ! アキトは最初のグループと一緒に補給してすぐに再出撃だ! ガンダムは極力戦線に残す!」

 「了解! すぐに補給を済ませて戻ってくる!」

 アキトは文句も言わずにリョーコに従ってヤマトへの帰艦コースを全力疾走する。
 如何にガンダムと言えど、武器弾薬が枯渇した状況では満足に戦えない。
 Gファルコンのミサイルはともかく、ライフルくらいは再装備しなくては。



 「ヤマト、発進!」

 「ヤマト、発進します!」

 連結橋に繋いだカバーの回収も諦め、ロケットアンカーを巻き上げて艦体を自由にしたヤマトは、すぐに乗員ハッチを閉じて補助エンジンに点火して前進を始める。
 これ以上この場に留まると、構造材に道を塞がれてヤマトも身動きが取れなくなってしまう。
 普段なら頑強さと6連波動相転移エンジンの出力に物言わせた強硬策が取れるが、避難民をたっぷりと腹に抱えた状態では無茶も出来ない。

 ヤマトが動き出してすぐ、多数の敵弾がつい先程までヤマトが停泊していた連絡橋付近に着弾して大爆発を起こす。破片に身を打たれ爆炎に飲まれながらも、ヤマトはそれらを振り切って猛然と加速する。
 煌々とタキオン粒子の噴流をメインノズルから吹き出しながら、ヤマトはバラン星の環の内部に向かって突き進む。
 黒色艦隊もヤマトを逃がすつもりはないようで、航空攻撃はそこそこだが艦砲射撃を雨あられと振らせて来る。
 ヤマトはフィールドを集中展開するシールドモードで艦首に盾を作り、必死に宇宙を突き進んだ。

 しかし帰還の為接近していたGファルコンエステバリスが2機、攻撃に巻き込まれて一瞬で蒸発してしまった。当然パイロットも即死だ、脱出の間が無かった。
 ついに部隊に人的被害を出してしまったとリョーコが悔しがる中、攻撃を避けながら次々とコスモタイガー隊がヤマトに着艦していく。
 その中にはアキトとヒカルとイズミの姿もあった。
 アキトのダブルエックスはともかく彼女らの機体は激戦の末、大きく損傷している。

 「さっすがにシンドイねぇ〜……でも、ピンチからの大逆転は漫画とアニメの王道だし、こっちにはスーパーロボットなガンダムだってあるんだから、何とかして見せないとね」

 軽口を叩くも声に余裕のないヒカル。
 機雷網の時もかなり大変だったが、ある意味それ以上に大変な戦いだ。
 敵が突然出現する戦闘なんて、ジン・タイプとの戦闘以来かもしれない。
 後は――テレビゲームの類。

 「……補給、頼んだよ」

 こちらも余裕が無いのか駄洒落さえ出てこないイズミ。声には拭いきれない疲労が滲んでいる。
 如何に彼女らが凄腕とはいえ、機体は改修を重ねてこそいるが世代遅れの旧式。せめてアルストロメリアだったならと、頭の片隅で考える。
 機体の損傷はヒカル機と並んで激しく、果たして応急処置と武器の補充だけで戦えるのだろうか。不安が尽きない。

 「……せめて、エアマスターとレオパルドが間に合っていれば」

 アキトも険しい表情でこの状況を覆す手段を模索する。サテライトキャノンが使えないなら強力な機体を増やすのが手っ取り早いが、肝心の機体が――。

 とか考えていたら、短距離ボソンジャンプで格納庫に直接帰投したアルストロメリアとスーパーエステバリスから、月臣とサブロウタが飛び出してくる。
 酷く損傷しているスーパーエステバリスに比べると流石最新鋭機、アルストロメリアは月臣の技量もあってか比較的綺麗な状態だ。
 というか、対ジャンプジャマー切ってたのか。

 「隊長、例の2機が組み上がったそうだ。テストも訓練も抜きのぶっつけ本番になるが、出撃の許可をくれ。リスクが高くとも、ガンダムの力が欲しい」

 「俺からも頼むよ中尉。例えトラブルがあったとしても、壊れたエステよりはマシだと思うからさ」

 揃って真剣な表情でリョーコに訴えている。
 絶賛戦闘中で余裕の無いリョーコだが、少し悩んでから苦々しい声で「わかった……でもヤバいと思ったらすぐ逃げ帰れよ」と許可を出す事にした。たぶん、止めても無駄だと感じだからだ。



 「こちらは大ガミラス帝国軍、銀河方面作戦司令長官のドメルです」

 「こちらは地球連合宇宙軍極東方面所属、特務艦、宇宙戦艦ヤマト艦長代理の古代進です」

 進はガミラスの援軍としてワープアウトした艦隊の旗艦から通信を受け、それに答えていた。
 何故だかドメルは少し驚いた顔をしたものの、追及している暇は無いためと理解しているためだろう、簡潔に告げた。

 「貴官らの救援に感謝いたします。進路から、あのアステロイドを使用した戦法で防御を固めるつもりと見受けます。我が軍も支援しますので、早く防御を固めて戴きたい」

 ドメルの読みに進は内心舌を巻いた。
 ヤマトの進路からあっさりとこちらの目的を推察する洞察力、そしてヤマトの戦法にすぐに結びついたところから、こちらの戦力や今までの戦法を徹底的に研究しているであろうことが伺える。
 ――恐らく次元断層で戦った指揮官だ。直感がそう告げる。

 「わかりました。ご理解が早くて助かります。ヤマトは今、波動砲――タキオン波動収束砲を封印しているため、敵艦隊に対して決定打を持ちません。航空部隊の戦略砲も同様です。そちらの不安を少しでも払拭するための措置でしたが……」

 波動砲、というのは地球側の呼び名であって本来の呼び方ではない為、わかり易いようにと訂正しながら「波動砲とサテライトキャノンで事態を打開するのは難しい」と訴える。
 封印の解除は容易だが、それを示唆するわけには……。

 「わかっています。古代艦長代理、貴方方の心遣い、痛み入ります。お互い思う所はありますでしょうが、今この場においては友軍であると考えています」

 「こちらもそのつもりです。共にこの窮地を切り抜けましょう」

 進は少しでも余裕を見せるために、礼を失しない程度に笑みを浮かべて応じる。
 そんな進にドメルも笑みで返し、

 「我が帝国の市民を救助して頂き、本当に感謝しています。この礼は、必ず」

 そこで通信が終わった。
 これ以上話したければ、まず眼前の脅威を取り除く必要がある。折角繋がったガミラスとの細い糸。切らすわけにはいかない。
 あのドメルという司令官は話せる相手だとわかったのも収穫だ。彼を死なせるわけにもいかない。

 ――さて、出来る事をしよう。

 傍らのウインドウに浮かんだコスモタイガー隊の損耗を閲覧して、進は兼ねてから考えていた事を実行するべき時だと悟った。

 「エリナさん、格納庫のイズミさんに俺のコスモゼロを使うように言って下さい。損傷した機体よりは、無傷の機体の方がマシでしょうし、操縦系はエステバリスカスタムと大差ありません。乗りこなせるはずです」

 「了解。すぐに伝えるわ」

 「艦長代理、バラン星の環に突入します」

 ハリの報告に進はすぐに反重力感応基の射出を指示する。
 黒色艦隊からの砲撃を掻い潜りながらバラン星の環に突入したヤマトは、すぐに両舷中距離迎撃ミサイル発射管を解放して、中から7本を1つに纏めた反重力感応基を16発射出、射出後に散らばった計112発の反重力感応基が周囲を漂う岩塊に次々と撃ち込まれる。
 改修で艦内からの再装填を可能とした発射機から、さらに同数の反重力感応基を射出して岩塊に打ち込む。
 合わせてリフレクトビットも同数が次々と打ち出され、ヤマトの周囲を囲む。
 次元断層で使用した時の倍にも及ぶ出し惜しみ無しの徹底した防御姿勢、避難民を抱えて被弾が許されなくなったヤマトの本気であった。

 「アステロイド・リング、形成完了。リフレクトビットも所定の位置に配置完了。防御幕制御を開始します」

 「反重力感応基とリフレクトビットへの動力伝達制御はこちらが受け持ちます。ルリ姉さんは防御幕の位置調整に専念して下さい」

 「リフレクトビットの反射角制御は僕が受け持ちます。任せて下さい」

 すでにバラン星へのハッキングを終了したルリが、全力を挙げてアステロイドリング防御幕の制御に力を注ぐ。
 また倒れられては問題なので、ハリやラピスの助けも借りて3人がかりでの制御で対応する。
 過労から回復した後、時間を作っては制御プログラムの更新はしているが、やはり直接制御した方が精度が良い。

 ラピスはこれからまたエネルギー消費の激しい激戦が始まると判断して、機関室に一報を入れる。

 「機関室、エンジンのコンディションに気を配って下さい。今後は攻撃と防御に相当のエネルギーを消費する事になるはずです――皆さん頑張ってください。頼りにしています」

 「了解、お任せを」

 「了解です、機関長!」

 山崎と太助、それに機関員の面々から「お任せあれ!」と心地良い反応が返ってくる。
 彼らという頼もしい部下達の活躍あってこそ、ヤマトは無茶が出来るというものだ。
 ヤマトの心臓部を預かる機関部門として、ここからの責任は重大だ。

 ――万が一に備えて、波動砲も撃てるようにも備えておかなければならない。



 ガミラスとの激戦を経てより研鑽された戦術であるアステロイド・リング防御幕。
 分厚く構成された防御幕は次々と襲い掛かる敵弾を時に反射、時に受け止めてヤマトを護る。
 敵艦隊が左舷前方にしかいないのだからと、普段使っているヤマトの周囲を旋回するパターンから左前方のみに円盤を形成して盾にする応用パターンで防御を行う。
 これなら無駄なくアステロイド・リング防御幕を活用して攻撃を防げる。

 ビーム兵器とはいえかなり強力な黒色艦隊の攻撃に、かつてない程徹底したアステロイドリング防御幕をもってしても万全とは言い難いものを感じる進は、力の限りの反撃を決意する。

 「艦首ミサイル、両舷ミサイル、目標選定完了」

 ゴートの操作でミサイルで狙う標的の選定が進み、着々と反撃の準備が進む。

 「主砲発射準備。目標、距離5万1000q、方位左37度、上下角プラス19度」

 戦闘指揮席でやや不慣れながらも守が主砲の準備を進めさせる。
 ヤマトから攻撃するためには、リングの制御をしているルリと呼吸を合わせ、射撃の瞬間だけ射線を解放する様にリングの制御をしてもらわなければならない。
 ヤマトに乗って日が浅く交流の乏しい守ではあるが、そこは指揮官としての経験も生かして何とか呼吸を読み、ここぞというタイミングを示して攻撃を開始する。

 守の攻撃指示に完璧なタイミングでアステロイドリング防御幕の一部が最小限の開口部を開き、主砲の重力衝撃波とミサイルが通るゲートを構築、重力衝撃波とミサイルが通過した後速やかにゲートを閉鎖して鉄壁の防御を崩さない。

 敵艦隊が前進した事と合わせて後退せざるを得なかった基地駐屯艦隊も、自然とヤマトに合流する形となり共同戦線を構築する。
 向こうからしても、自国民と同僚の兵士を抱え込んだヤマトを護らない訳にはいかないという気持ちがあるのだろう。
 ヤマトの射線こそ塞ぎはしないが、ヤマトが集中砲火を浴びないよう盾となり、必死の攻防を展開している。
 しかし、両者の間に連携など存在していないのでどうしてもやり難いものがある。
 ヤマトはガミラスへの誤射を警戒して手数がどうしても減り、ガミラス側もヤマトを信じて良いのか納得し切れていないので、警戒も露にした行動を取っている。
 これでは双方足を引っ張り合って敵に付け込まれるだけだ。

 「艦長代理。このままだと足の引っ張り合いで敵に付け込まれるだけだ。向こうと話してヤマトを指揮下に一時組み込んでもらうとかしないと、満足に戦えなくなる」

 「私も副長の意見に賛成です――残念ですが、私達が指揮権を得る事は難しいでしょうし、何より艦長代理は艦隊の指揮経験がありません。こちらからお願いして、一時艦隊に編入して貰う方がやり易いと思います」

 ジュンとルリから進言されて、進は悩んだ。
 進が受けたユリカの即席教育はあくまでヤマト単独での作戦行動を前提としたもの。必要とされていなかった艦隊運用のノウハウは含まれていない。
 こればかりは仕方の無い事だ。
 ジュンとルリもそれを承知だからこその進言ではあったが、表情は険しい。
 一時的であってもガミラスの指揮下に入る事の抵抗はこの際何とでもなる。この場に来た以上、覚悟していた。
 ……問題なのは、指揮下に入れば当然ながらデータリンクの接続等はどうしても避けられない点だ。
 その過程でヤマトの戦闘データや機能に関する情報が流出する可能性は否めない。
 今後もガミラスと敵対関係が続くのであれば、些細な情報でも漏洩は避けたいのが本音である。
 データリンクで流出の危険性があるのは向こうも同じとはいえ、数の違いは如何ともし難いし、相手がドメル司令と仮定した場合、僅かな情報が命取りになりかねないと警鐘が頭の中で鳴り響く。
 ――対してこちらは少しばかり情報を得られとしても数の暴力を覆す手段が波動砲とサテライトキャノンに集約されてしまっていて、どうしても戦術の幅が狭いのが難点だ。
 多少の奇策では覆せないだろう。ユリカも万全の状態とは言い難く、これからどんどん厳しくなっていくのだ。

 とはいえ、この状況下で尻込みしている余裕は無い。
 思い悩んだ末進は、先程話をしたドメル司令に意見しようと通信を決意したのだが、それよりも先にガミラス側から通信を求められた。

 「古代艦長代理、ドメルです。戦線が後退しヤマトと艦隊の距離が大分近づいています。これからは、ヤマトも我が艦隊と連携して戦わねばジリ貧になると考えられます。連携を密にするため、私の指揮下に入ってはもらえませんか?」

 と、そのドメル司令直々にお願いされた。表情から察するに、こちらの懸念材料は全てお見通しなのだろう。だとすれば何と潔く、そして柔軟な思考を持った指揮官なのだろうか。
 ユリカが手玉に取られて撃沈寸前に追い込まれただけの事はある。敵ながら尊敬に値する人物だ。
 それに、彼はヤマトを良く分析している。それ故か、単なる敵というだけでなく、対等な戦士として扱ってくれているような節がある。
 ならば……!

 「艦長代理の古代です。ドメル司令、了解いたしました。宇宙戦艦ヤマトはこれよりガミラス・バラン星基地艦隊の指揮下に入ります。この場においては力を合わせ、眼の前の脅威を取り除きましょう」

 進は決断した。今は情報漏洩を気にしている場合ではない。一致団結して事態の収拾にあたる必要がある。
 進の決意はドメルにも伝わったようで、「感謝します」と言葉短いながらも敵国の将に従う決断への敬意が伝わってくる。
 やはり彼は、とても器の大きな指揮官の様だ。

 すぐにヤマトはドメル司令の乗艦であるドメラーズ三世とデータリンクを開始。双方情報を共有して戦列を立て直す。
 データリンクして初めて分かったが、やはりレーダーの索敵範囲と精度はガミラスの方が上手らしく、ヤマトでは把握出来ていなかった情報も幾つか伝わってくる。
 幸いだが、ルリが構築していた対ガミラスの解析データのおかげでガミラス側から送られてくる情報の翻訳にも支障をきたしていない。
 これにはドメル司令も驚いたようだが、目立った追及は無かった。

 ドメル艦隊に一時編入されたヤマトは避難民を抱えている事もあって艦隊の中央、ドメラーズ三世と戦闘空母のすぐ傍に位置取り、共に長射程を活かした砲撃で前線で戦うデストロイヤー艦を援護する事になった。

 優先すべきは目標は、やはり空母。
 幾らワープで航空部隊を送り込めるとしても、母艦を失ってしまえば補給を封じる事が出来る。そうすれば、撃墜を免れた機体があってもいずれ補給が追い付かなくなって航空攻撃を封じる事が出来るだろう。
 標的となる空母らしき艦艇は、円盤状の艦体の中央にある溝の様な巨大な滑走路で航空機を受け入れ、その両脇にある格納庫に艦載機を出し入れしている様子が辛うじて確認出来る。
 推定全長は800mにも達する超大型の空母は、確認出来るだけでも30隻以上。

 距離もあるし駆逐艦や巡洋艦らしい艦影が邪魔になっているので直接照準に収めることが難しいのが歯痒い。
 そのためヤマトは勿論ドメラーズ三世や戦闘空母の砲撃もそちらに命中して遮られ、肝心の空母にはほとんど届いていない。
 しかし、ヤマトが誇る46p重力衝撃波砲はその巨体さえも容易く貫き、当たりが良ければ容易く撃沈出来ることを確認出来た。
 隣に陣取ったドメラーズ三世や戦闘空母では射程外の標的も苦も無く狙撃し、かつてシュルツを震撼させたその威力を存分に見せつける。

 ガミラス側は脱出した民間船やら脱出艇を、基地を挟んで艦隊の反対側に移動させていた。
 転送戦術がある限り護衛対象を後方に置く事に意味は無いが、艦隊の艦砲射撃に晒されないだけマシという判断だ。
 基地の陰に隠れれば自ずと攻撃方向も限定されて護り易くもある。

 ヤマトと連携を取り始めた事でどうにか戦況を五分に持ち込めた。
 ガミラス側の艦隊総数は500隻と、黒色艦隊と数の上ではほぼ互角。基地の規模を考えるとかなりの保有戦力といえるのだが、如何せん単艦辺りの性能では敵に劣っているらしく、やや押され気味であった。

 膠着した戦局を打開すべく、進は反重力感応基の追加射出を命令し、簡易制御プログラムをガミラス側に譲渡する事にした。
 艦隊への被害を抑えるためにはやはりアステロイドリング防御幕の活用が必要だ。
 簡易制御とはいえアステロイドリング防御幕のシステムを渡すのは苦渋の決断だったが、防衛対象の存在故行動が制限されるこちら側と、とにかく眼の前の敵を全力で叩き潰せば良い黒色艦隊ではどうしても戦い方に差が出る。
 前線の艦が脱落しては、戦線を支えられなくなる。苦渋の決断だ。

 ――敵のビーム攻撃は重力波砲の影響圏を通過する際に屈曲するため、攻撃という点ではこちら側が優位といえなくもなかったが、ヤマトもガミラスも威力を一点に集中する高収束型を採用している。
 これがかつてのナデシコを始めとする地球艦隊の様に、広域照射を可能とするグラビティブラストを装備しているのであれば、攻防一体の戦術を取れたのだが……。






 予想外のヤマトの行動にドメルは大層驚いた。
 まさか、例の戦術に関わる重要な情報をこちらに惜しげも無く提供するとは……。
 全てを明かしたわけではないだろうが、それでも今までの戦いをその柔軟な発想から生み出される奇抜な戦術と艦のポテンシャルの高さで辛うじて切り抜けてきたヤマトにとって、例え1つであっても戦術を明らかにしてしまうのはリスクが高過ぎるはず。
 にも関わらず、こちらの損害を少しでも小さくするために提供してくれたのだ。
 こちらも、応えないわけにはいかないだろう。

 現にヤマトから制御を委譲されたアステロイドリング防御幕のおかげで、前線に立つ艦艇は防御に幾分余裕が生まれ、その分攻撃に力を注ぐ事が出来ている。
 ドメルの見込みが間違っていなければ、これを機に攻勢を強める事が出来るだろう。
 簡易制御とはいえど、ガミラスではアイデアとしても出てこなかったこの追加装甲戦術の有用性は直接対峙したドメルは痛感している。

 「ドメル司令、敵艦隊の中に瞬間物質移送器を搭載した艦艇は未だに発見出来ません。敵艦隊の数が多く、艦影が重複していますので……」

 「捜索を続けろ。あれを発見して叩く事が出来れば、この状況も覆せる」

 この状況を改善するには瞬間物質転送器を止めるのが先決だ。

 (――ヤマトにも情報を与えて捜索への協力を頼むべきか?)

 ドメル個人としてはそれに異論はないが、機密漏洩で極刑に処された場合、デスラーとヤマトを引き合わせる人間が居なくなってしまう。
 それに――ガミラスの将としては情けない話だが、残される家族の事を考えると……。
 結局ドメルはヤマトに何も言えなかった。






 その頃ヤマトも、艦載機のワープ攻撃を阻止するためにどうすれば良いかについて議論されていた。

 「――ふ〜む。収集した限りのデータを見る限り、あの爆撃機そのものにワープシステムが搭載されているという事は無いだろう。幾ら何でも計測されたジェネレーター出力が小さ過ぎる。恐らく外部から強制ワープさせているんだろう」

 ――あの、実は……――

 ヤマトが何か言いたさそうだったが、それを遮るようにして進が、

 「――あった。ユリカさんのファイルによると、ヤマト出生世界においてガミラスとディンギル帝国という国家が外部から物体を強制的にワープさせるシステムを利用していたとある。暗黒星団帝国については記載が無いが、この世界の彼らが開発に成功していたとも考えられる……」

 ドメルの指揮下に入って余裕の出た進が、何かしらのヒントを求めてファイルを捲っていたのが功を奏した。情報があったのだ。

 「なるほど。となれば転送装置を持つ艦艇が居るはずだ。空母にそれらしい動きは?」

 「ありません。恐らくヤマトとガミラスのレーダーに引っかからない位置に待機しているのかと……」

 ジュンの問いにルリが答える。
 流石にこの状況下で敵艦隊の内側を丁寧に解析する余裕はない。
 だが艦載機は次々と襲い掛かってきた。機体の大きさと空母の推定される容積から考えても、間違いなく2順以降の出撃があるはずだが……。

 「……真田さん、敵航空部隊のワープの観測データは余さず記録して下さい。この戦闘中には無理でも、次の戦いを考えて何らかの対策を考えなければ、ヤマトもどうなるかわかりません」

 「うむ。その通りだな、艦長代理。解析は行うが、まずはこの状況を覆さない事には……」

 「艦長代理、ガミラスの前衛部隊が動き始めたぞ」

 「ドメル司令より、ヤマトに優先して攻撃して欲しいターゲットの位置情報と攻撃順序が送られてきました。今マスターパネルに出します」

 守とエリナからの報告を受け、進はマスターパネルに表示された敵と味方の位置情報とドメル司令からの要請を視界に入れる。
 やはり、凄い指揮官だと痛感する。
 ユリカが無茶を承知で現場復帰を望んだはずだ。これは、自分だけではとても及ばない。
 彼女と協力して知恵を絞り、ジュンとルリのバックアップがあって初めて対等に渡り合えるかといったところだ。
 やはり結論は進達と同じで、アステロイドリング防御幕を活かして敵艦隊と距離を詰め、敵の空母を出来るだけ叩いて航空戦力の転送戦術を封じるというものだったが、艦隊運用の指揮の細かさと着眼点は、進の指揮を上回っている。

 やはり、彼の指揮下に入った事は間違いではなかったようだ。



 「それじゃあ、月臣さんの機体は私が使わせてもらうって事で良いんですね?」

 「ああ、調整も半端なままで申し訳ない」

 格納庫では月臣が自身の新しい機体――ガンダムエアマスターバーストを受領し、浮いた機体をヒカルに引継ぎしている最中だった。
 彼女の機体も損傷が激しく、そのまま応急修理して再出撃するよりはアルストロメリアの方が圧倒的に状態が良い。
 操縦系の調整が万全ではないのが残念だが、頭部を損傷した自機のアサルトピットを移植するよりはマシだろう。

 「それじゃあ、あんたの機体を貰うよ。大事に使わせてもらう」

 「頼みます、イズミさん」

 イズミはコスモゼロのコックピットを出来る限り自分に合わせた調整を施しながら、進に確認を取る。
 以前から艦橋で指揮を執る事が多く出撃の機会が少なく、将来の艦長代理に就任すればなおさら出撃する事は無いだろうと考えられ、コスモゼロを他の誰かに譲ってしまう方が戦力を確保出来るだろうと考えつつも、月臣機の予備機として残しておくべきでは、という意見もあって、今の今まで宙吊りになっていたのだ。

 「良いか、月臣にサブロウタ! エアマスターもレオパルドも組み上がった後の最終調整が終わっただけで、稼働試験も終わってねぇ! 合体機構の調整も間に合ってねぇからGファルコンとの合体も出来ない! 機体のコンディションには気を配れよ! 操縦の癖だって全く別物なんだからな!」

 格納庫の喧騒に負けないウリバタケの大声での注意に、月臣もサブロウタも力強く頷いて機体を立ち上げていく。

 「完成度は80%ってところか……少佐、結構な博打になりそうですね」

 「だとしても、ここで凌がねば先は無い。敵航空部隊のワープ攻撃は止んでいないんだ。少しでも肉薄して、空母の1隻でも叩きたい所だな」

 シミュレーターで慣らしたとはいえ実機に乗るのは初めて。最終調整前では無理は禁物、まだまだ先の長い航海なのだから。

 補給を完了して再出撃したGファルコンDXに続く形で、イズミとヒカルも乗り換えた機体でヤマトから飛び出していく。
 月臣とサブロウタも、標準武装のみを施されたそれぞれの新しい機体を発進スロープに進めていく。
 月臣は何度かダブルエックスの操縦を経験しているが、改めてエステバリス系列機とは違う手応えを感じて自然と気が引き締まる。

 この力、必ず使いこなしてみせる。

 「月臣元一朗、ガンダムエアマスターバースト!」

 「高杉サブロウタ、ガンダムレオパルドデストロイ!」

 「発進する!!」

 イスカンダルの支援を受けて新たに生まれた2機のガンダムが、宇宙にその身を躍らせる。
 熾烈極まる防衛戦に、果たして一筋の希望を見出す事が出来るのだろうか。






 一方バラン星基地を襲撃した暗黒星団帝国の艦隊旗艦では、指揮官がモニターに映るヤマトの姿を見てほくそ笑んでいた。

 「……あれがヤマトか」

 「はっ……てっきり例のタキオン波動収束砲とかいう装備以外は大したことない艦だと思っていたのですが……それ以外の装備も含めて恐ろしい性能の艦でした。恐らく、単艦での性能は我が軍のプレアデス級に匹敵、あるいは上回るやもしれません。辺境の星の艦艇とは思えぬ、並外れた性能です」

 5日前、ヤマトを侮って挑んだ挙句呆気無く返り討ちに遭った指揮官が、上司に向かって汗を垂らしながら進言する。
 進言を受けた筋骨隆々の厳めしい風貌と体格の指揮官――デーダーはその性能に脅威を覚える。

 彼の任務は鹵獲したこの転送装置の威力確認と、バラン星基地を攻略してガミラスの動揺を誘う事だ。
 重要拠点を呆気なく潰されたとあれば動揺をしないわけがない。
 ついでに将来の脅威になり得るかもしれない宇宙戦艦ヤマトの捜索、可能であれば鹵獲か撃破をするために部下の1人に小規模ながらも艦隊を授け、遭遇が予想される宙域に差し向けたのだが……どうやら想像以上に手強い。
 我が軍に比べれば格が劣るとはいえ、一国相手に単艦で抗うだけの能力はあるようだ。
 それにしても目立った衝突も無くガミラスと共同戦線を張るとは――連中、ガミラスに与するつもりだろうか。
 ――ならば、もう少しヤマトの力を知りたい。

 「――出来れば、例のタキオン波動収束砲とやらの威力を見ておきたい所だな」

 とはいえ、艦隊に向かって放たれては被害甚大では済まされないはずだ。ガミラスの捕虜から聞いた程度の情報であっても、我が目で見るまでは過小評価は禁物。
 貴重な将兵を徒に損耗させるのは指揮官としては下策中の下策。総司令の顔に泥を塗らないためにも、慎重な行動が必要だ。

 ――バラン星への攻撃は、十分成功したと言っても過言ではないだろう。
 あの様子では、当分の間は基地として満足に機能しないだろう事が伺える。
 となれば、あの正体不明の移動性ブラックホールから逃げ出そうとしているガミラスにとって、寄港地を失ったと浮足立たせるに十分な損害を与えていると判断しても良いだろう。
 ならば、これ以上ここで戦闘を継続して戦力を消耗させる必要は無い。もう十分連中はこちらの力を思い知っただろう。
 それに本星攻略には移動要塞ゴルバを動員するのだ。例え正面からガミラス全軍とぶつかったとしても戦力的に不足はない。
 ――ならば動かせる範囲の戦力を最大限に動員し、イスカンダルに向かっているらしいあのヤマトを出迎え、仕留めるのが得策。
 ――放置するには少々目に余る存在だ。

 この場でテストも兼ねて使ってしまったが、転送戦術の優位性は証明された。多少の対策は立てられてしまうだろうが、完全に対処して覆すには情報も時間も不足しているはず。
 ならば空母を中心にした機動艦隊と駆逐艦隊を同時に差し向け、この旗艦プレアデスの威力も併せて一気に撃滅してしまうのが得策だろう。
 連中がイスカンダルへの最短コースを取るのなら必ず通過しなければならない、例の七色混成発光星域で罠を張るのが良い。
 長距離レーダーが機能障害を起こしやすいあの宙域は、この転送装置の威力を何倍にも増幅させてくれる事だろう。

 とすれば、想定外とは言えこの場にヤマトが顔を出してくれたことは僥倖だ。連中の戦力を例え一部であっても知る事が出来るのならそれに越した事は無い。

 そこまで考えてふと思いついた。これを実行出来れば、被害を出さずにタキオン波動収束砲の威力を見れるかもしれない。
 デーダーはニヤリと悪い笑みを浮かべた。






 その頃ユリカは夢現の中にあった。

 5日前の負傷が原因で衰えた体力が更に低下したせいか、1日で起きていられる時間が8時間を切っていた。
 進がバラン星救援のためにヤマトを動かした事は記憶しているが、そこから先はワープの負荷もあって意識が遠のき、今になって意識が戻りつつあった。
 衰えた感覚でもはっきりと感じ取れる、戦闘の喧騒。
 医務室に居てもヤマト自身の砲撃による衝撃音や、全力運転を続けるエンジンの唸りが感じられる。
 それらを感じながら、ユリカの意識は未だ夢と現の境を彷徨い続けていた。

 そんなユリカは、バラン星の軌道上を巡る人工太陽の軌道が突如として変わり、猛スピードでヤマト・ガミラス混成艦隊に向かって突き進む夢を見た。

 衝撃的な夢に飛び起きたユリカは、感覚を頼りに右手に着けっぱなしになっているブレスレット型受信機のスイッチを入れて聴覚センサーをオン。
 ベッドサイドに置かれているバイザーを慌てて装着してからコミュニケを起動して第一艦橋に警告した。
 あれはただの夢ではない。浸食が進みより演算ユニットに近づいたことで垣間見た、“未来の時間だ”。

 「太陽に、バラン星の太陽に気を付けて! 太陽が――太陽が迫ってくる!」



 決死の覚悟でガミラス・バラン星基地と暗黒星団帝国艦隊との戦いの渦中に飛び込んだヤマト。

 大量の難民を抱えながらもついにドメル司令指揮の下、ガミラスと共闘して事態の収拾にあたるヤマトに、更なる試練が襲い掛かる。

 だがヤマトよ、この困難を乗り越えねば地球を真に救うことは出来ないのだ!

 負けるなヤマト! 人類は君の帰りを、君の成功だけを信じている!

 人類滅亡と言われる日まで、

 あと、247日しかないのだ!



 第二十話 完

 次回、新宇宙戦艦ヤマト&ナデシコ

    第三章 自分らしくある為に!

    第二十一話 未来を切り開け! 決意の波動砲!

    ヤマトよ、奇跡を起こせ!



 あとがき

 はい、大幅に予定変更した第二十話でした。

 本作を続ける中で、異物混入やら意図的に掛け違えた歯車が本格的に噛み合いだしたのが17話執筆中で、そこからあれよあれよと方向が変わっていき、こんな形として現れました。

 元々本作を書いている中で、ドメルとデスラーがやたらとヤマトに共感と敬意を持って行く中で、どうしてもバラン星から七色星団の激戦に繋がる流れが見えてこなくなったというのも、変更の一因になりました。
 本作はガミラスも余裕が無い中の移民政策として地球侵攻が組み込まれているので、ならば中間点にある重要拠点であるバラン星基地にも、移民船団の寄港地としての役割があり、その準備やら移民先での必要な物資の調達なども兼ねて、民間人が住まうエリアがあっても良いのではないか、と考えてしまったのが発端。
 まあ、ご都合主義ですね。

 本来ヤマトが本格的にガミラスと和解する道を選ぶのは、七色星団の後と想定していて、地球制圧は成していないが移民船団はもう出発しなければならない、という状況下で先発隊とヤマトが偶然遭遇、意図せずして睨み合っている最中、第三者(SUSまたは暗黒星団帝国)が襲い掛かり、「民間人の犠牲は看過出来ない」とヤマトが護った事で、デスラーも遅まきながら踏ん切りがつき、戦いの過程で共闘した事を切っ掛けに、遭遇機会が少なくて検証しきれなかったけれど、上手く渡りを付けられたかも。
 という流れからを予定していました。

 が、本作ではバラン星でドンパチをやるとヤマトが本格的にガミラスを追い込んでしまう=ヤマトが和平への意志を示すのが手遅れになりかねない、またバラン星基地を戦場に出来ないのはドメルも同じ(原作とは状況が違い過ぎる為)なので、ヤマトがバラン星を素通りしやすいように策を練らねば――と言った感じでどんどん変わっていって、最終的にこの形に落ち着きました。

 変化する中で、ヤマトとガミラスが共闘するタイミングを前倒ししてバラン星にすると決めたまではよかったのですが、第三勢力をどうするかと悩みました。
 クロスを重ねても不味いのでは、との考えから最初からクロスしている復活篇のSUSとも考えましたが、メッツラーとバルスマン以外は“地球がある宇宙の住人”という設定らしい事が豪華本に書かれていたので、SUS全体を異次元からの侵略者と言う扱いにして使うのを取りやめて、新たなる旅立ちを混成した形でヤマトの物語を追体験する事になりました。

 そのため、暗黒星団帝国に登場してもらい、ドメルとヤマトの対決を無くした事から瞬間物質移送器を使った転送戦術を使って貰う形になったのです。

 ある意味さらに自分の首を絞めた気もしますが、本作らしい結末に突き進むためにも私も行きましょう、茨の道を。

 では、また次回にて。



 >そして前回からの投下感覚が圧倒的に短くて最初は驚いたけど、読んでみて納得。
設定って書き始めると何時間でも書き続けられるよね(真顔)

 実はハーメルンの方の活動報告ではさらっと書いてるんですが、もう最終回まで書きあがってて推敲すれば投稿出来る段階にあるんですよね(汗)。
 ただ、細かい台詞回しだったりご都合過ぎる展開を(大筋変えずに)それっぽく手直しするのにかかる時間がまちまちで遅れてるだけです。

 

 







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代理人の感想 
移動要塞ゴルバ出てくるのか!
印象的な敵メカだったんで結構好きなんですよね。
そしてゴルバと来れば当然・・・あれも大好きなんだ、私。


そして無慈悲な強敵に対して手を組む昨日までの敵同士!
燃えるシチュエーションですわ。

>ツインビームソード
へー。こんなのがあったんだ。
「φ」型でパッと思いついたのはP4のがっかり大神と「スターウォーズ反乱者達」の敵が使う回転式ダブルセイバーでしたがw

>もう最終回まで書きあがって
あ、なるほど。



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