「状況は悪化する一方ですなぁ……」

 「ですなぁ……」

 連合宇宙軍司令部の一室で、ムネタケ・ヨシサダと秋山源八郎は向かい合って薄い茶を味わっていた。
 ヤマトが地球を発って既に4ヵ月余り。
 順調に予定を消化出来ているのならもう大マゼラン星雲に到着しているはずだが、何かしらのトラブルが生じているのならまだ中間地点のバラン星付近にあるかもしれないし、下手をしたらもっと後方にいるかもしれない。
 何より、イスカンダルへの接近はガミラスの懐に飛び込む事を意味している。
 ヤマトは無事だろうか。
 大きなトラブルに直面していないだろうか。
 トラブルがあっても航行を続けていれば良いのだが、ヤマトが無事でもユリカが死んでしまっていたら地球の未来は――。

 「にしても、ミスマル艦長も中々思い切った事を考えておりますなぁ〜。ガミラス星の救出を対価に和平を結ぼうだなんて」

 「――ええ。しかしその選択が出来る意思の強さが、スターシア陛下の心をも動かしたんでしょうなぁ……」

 実際大したものだと感服させられる。
 火星の後継者から救出されて殆ど間を置かずに訪れたガミラスの脅威。ある意味それに真っ先に立ち向かったのは彼女だ。
 イスカンダルに渡りをつけて、転移してきたヤマトの再建を始めて――。
 その頑張りのおかげでまだ地球は――絶望の淵に立たされながらも抗い続けている。

 「エネルギーは余裕があるとはいえ、そろそろ暖房と空気清浄設備の維持が大変になってきましたねぇ。何とか、当初の宣告通りには持たせたいものですが、生産力を失っている以上、予備パーツの調達が難しいのが困りますねぇ……」

 地球の状況は深刻だ。
 暴動やデモの類は連日の様に起こっている。ヤマトを信じている人間もいれば、信じていない人間もまた。多い。
 いや、正確には信じていないのではない。絶望から抜け出せないでいるのだ。
 だから疑心暗鬼に陥って攻撃的になり、治安を急速に悪化させていく。
 今はヤマトが太陽系を離れる前にガミラスの拠点という拠点を潰してくれたおかげで、地球圏にガミラスの姿は無い。
 だがそれも何時まで続くか……ヤマト以外にガミラスの戦力には通用しないのだから、留守の間を付け込まれたら一巻の終わり。
 ヤマトの成功を信じる者ですらその不安を抱えながら日々を生きている。
 そしてヤマトが無事戻ったとしてもガミラスとの戦争は何時まで続くのか。結局ヤマトにしか縋れないのなら、ヤマトが敗北したら全てが終わる。
 そして、ガミラスを退けたとしてもその先また侵略を受けやしないだろうかといった不安も――尽きることが無い。

 そういった不安が常に蔓延している。それが少しづつ、そして確実に人々の心を蝕んで疲弊させ、希望を削いでいく。
 果たして本当にヤマトは間に合うのだろうか。
 間に合ったとしてコスモリバースシステムは確実に起動するのだろうか。
 コスモリバースシステムで地球が回復しても、生き残った人々で文明をちゃんと再建していけるのだろうか……。
 不安の種は尽きない。

 「しかし――ミスマル艦長をコアにしなければ動かす事すらままならないとはねぇ。結局我々も火星の後継者と似たような手段を取る事になるとは――皮肉じゃないか」

 「ですな。また、彼女は勿論テンカワ君やホシノ君にも辛い思いをさせてしまって……年長者としては、不甲斐なくて涙が出てきそうですよ」

 そう思いつつも何も出来ない自分の非力さが恨めしい。

 「――頼ってばかりなのは図々しいかとも思いますが、ガミラスがヤマトとの交渉に応じて戦いを止めてくれることを願うしかないのも、体に良く無いです。ヤマトがカスケードブラックホール破壊に成功さえすれば、地球を早急に攻略する必然性は失われる。それでも、版図拡大のために地球を欲するというのであれば……」

 「ヤマトは戦うでしょう。勝てるかどうかはわからずとも、ただ暴力に屈するくらいなら死を覚悟してでも抗い続ける……あの艦はそういう艦なのでしょう」

 2人はコウイチロウは勿論、同僚達や1年前までは良好とは言い難い関係にあった統合軍とも手を取り合ってひたすらこの状況を凌いできた。
 極寒の星となった地球で生活するには、密閉された室内で暖房を使わなければならない。電力こそ相転移エンジンに依存する事でどうにか賄えているが、常に最大稼働状態にある暖房器具は日々の手入れが欠かせない。
 それに空気の清浄機能にだって限度がある。
 外気を取り込む吸気口は雪や氷ですぐに塞がってしまうので頻繁に掃除しなければならず、詰まってしまった時でも大丈夫なように圧縮空気ボンベの類も増設するなどして備えてはいる。
 とはいえ、工業製品の生産は辛うじてネルガルが頑張ってくれているだけで、あのクリムゾンですら今はままならない状況にある。
 食料の生産もヤマト用に試作された合成食糧プラントや早期収穫用の遺伝子改良野菜が細々と生産されているだけで、決して潤沢とは言えない。

 せめて食糧さえもう少し潤沢に得られるのなら、今よりはマシな状況になるのだろうが……。

 「ヤマトが生まれた世界の地球は7年も持ったというのに。我々は1年で滅びるかもしれないとは……」

 悲嘆に暮れる2人。今はまだ統合軍とも良好な関係を維持出来ているが、ヤマトが帰艦した後はどうなるかわからない。
 ヤマトは書類上連合宇宙軍所属の艦艇だ。つまり、ヤマトの手柄はそのまま宇宙軍の手柄として扱われ、またしても統合軍は蚊帳の外に置かれるという認識が覆せてはいない。
 対策は考えてはいるし一部の連中にはすでに了解を取り付けているので、ヤマトが予定通りか少し遅れたくらいに帰還する頃には目途が立っているはずだ。

 薄いとはいえすっかり貴重品となったお茶の残りを啜り、まだ希望を失うまいと抗っていた2人の元に、コウイチロウから緊急の呼び出しがあった。



 それはまたしてもヤマトがもたらした、一筋の希望の光の報告であった。



 新宇宙戦艦ヤマト&ナデシコ

 第三章 自分らしくある為に!

 第二十三話 七色星団の死闘!



 「こちら、宇宙戦艦ヤマト。艦長代理の古代進です」

 司令室のモニターに大きく表示されたのは、ヤマトの戦闘班長として乗艦したはずの進の姿。ユリカと同じようなコートと帽子を身に纏い、艦長席に座してこちらを見詰めている。
 まさかヤマトから直接通信があるとは予想だにしなかった事態だ。
 イスカンダルに到達して、向こうの通信設備を使わせてもらっているのだろうか。いや、その場合一方的な送信は出来てもこちらの声を聴く事は出来ないはずだ。
 つまり!……期待に胸が膨らむが、まず最初に問い質したいのは――。

 「こちら連合宇宙軍総司令、ミスマル・コウイチロウだ。あ〜……ミスマル艦長はどうした?」

 少々――いや大分私情が混じった質問に進も苦笑。その後表情を引き締めて答えた。

 「艦長は戦闘で負傷し、状態が悪化したため入院されておられます。今は、私が艦長代理として指揮を引き継ぎ、ヤマトを運航しています」

 進の報告にコウイチロウの顔がはっきりと強張る。元々何時死んでもおかしくない程弱り切っていた娘が怪我をして、入院にまで追い込まれたとは。
 ……運命はどれほど娘を苦しめれば気が済むのだと悲嘆に暮れる。

 「艦長から総司令当てのメッセージを預かっています。『お父様、私は大丈夫。必ずコスモリバースを成功させて、元気な姿に戻ります』――以上です」

 進は預かっていたレコーダーを再生して、ユリカのメッセージをコウイチロウに伝えた。
 ――本当はもっと長くてユリカらしいメッセージだったのだが、場の空気を考えて簡潔なメッセージで自重してもらった裏話がある。
 それから進は、道中に起こった出来事について簡潔に報告する。
 その中には、暗黒星団帝国と名乗る連中から波動砲を狙った攻撃を受け、止むなく反撃した事も含まれていた。
 最悪その帝国が地球に牙を向く可能性も示唆すると、流石に司令室の空気も悪くなる。
 今の地球に別の国と戦争をする余力等無い。かと言って、ヤマトが反撃した事を咎めるのは筋違いだ。事前に話し合ったにも拘らず、相手が聞いてくれなかったのだから。
 だが、吉報もあった。

 「お喜び下さい。デスラー総統と直接会談する機会に恵まれ、彼らはヤマトの意思を認めて下さいました。そして――和平による戦争終結を約束して戴けました」

 その報告に一瞬時が止まり……そして次の瞬間歓声や困惑の合唱が司令室の中で巻き起こった。

 「ほ、本当か!? この戦争が終わるのか!?」

 思わず身を乗り出したコウイチロウに、進は笑顔で応えた。

 「はい、司令。この通信もガミラスが発見していた、太陽系の第十一番惑星に設営されてた非常用の通信設備を使わせてもらう事で実現しています。今ヤマトにはガミラスの将校が乗艦し、イスカンダル星並びガミラス星までの案内をしてもらう予定です」

 進は事の次第を簡潔に伝える。
 それはガミラスの地球侵略の目的であったり、どうやってガミラスとの交渉に至ったかの報告であった。
 ガミラスについては、大体はユリカがスターシアから聞かされ、コウイチロウ達に伝えたものと同じだった。
 被害者である地球側からは身勝手な理由と断じる事しか出来ないが、今はそれを論議している場面ではない。
 進がガミラスの将校から聞いたところによると、ヤマト出現から冥王星基地攻略までの間はガミラスはヤマトを脅威と見なし、排除する方針であったことも告げられる。
 しかし、ヤマトが太陽系を飛び出してプロキシマ・ケンタウリに差し掛かったあたりで変化が生じたのだという。

 「デスラー総統が、ヤマトを気にかけてくれた?」

 「はい。デスラー総統はコスモリバースシステムを求めて旅立ったヤマトが波動砲を装備している事を察して脅威と考えていたようですが、冥王星基地の生き残りが持ち帰ったデータからその戦いぶりを見て、滅びゆく祖国の運命を背負って戦う者同士としてのシンパシーを感じたそうです。そこにガミラスとイスカンダルを脅かし、地球侵略を後押ししたカスケードブラックホールの脅威があり、その脅威を取り除くに十分な威力を持ったトランジッション波動砲の存在故に、ヤマトを障害として排除するか、それとも和解し、その威力でガミラスを救う対価として地球との戦争終結を目指すかで、悩んでおられたそうです」

 なるほど、そのような経緯があったとは。
 ユリカは「かつてのヤマトの航海において、波動砲の威力が航海上の安全保障に繋がっていた節がある」とは言っていたので、如何に強大なガミラスといえど6連発可能になった、トランジッション波動砲を装備したヤマトに迂闊に仕掛けてはこないだろうとは考えていたが、当たらずとも遠からずだったという事か。
 ――つまり、たった1隻に搭載しただけで大国が恐れるほどの威力……イスカンダルが封じたがるわけだ。

 「決定打になったのは、ヤマトが暗黒星団帝国によって襲撃されたガミラス・バラン星基地を護る為に尽力し、多くの民間人を救った事でした。その行動によって、地球人はともかくヤマトは信用に値すると判断されたことが切っ掛けで、この度の交渉へと至ったのです」

 完全無欠な利敵行為にコウイチロウを除いた面々が顔を覆う。
 確かに和平を求めるのであれば――こういう形で恩を売る事は間違ってはいないのかもしれないが、交渉の“こ”の字も無い内から突飛な行動に出るというのは正直感心出来たものではない。
 ――結果オーライだったようだが。
 無茶苦茶な行動までユリカの真似をしなくても良いというのに……。

 「地球に対する賠償などの詳細は、今後の交渉で決定される事でしょう。しかし、デスラー総統はすでに地球との戦争継続を望んでおられませんし、地球の復興にも尽力して下さると約束して下さいました――今後ガミラスと地球の関係がどうなるかは私にはわかりません。ですが、この和平への道を閉ざさぬためにも、ヤマトは全力を挙げて挑む所存です」

 進の言葉にコウイチロウもひとまずは納得する。
 感情が納得しない部分はあるが、感情任せに戦争を継続しても地球に利益などない。滅ぶだけだ。
 ――それに、ヤマトがガミラス相手にここまで戦ったという事実が他の国家に知れた場合、特に波動砲の存在を理由に地球に武力行使を仕掛けてくる国家が出てこないという保証はない。更なる爆弾、時間断層の存在もある。
 ガミラスにその気があれば――という前置の上ではあるが、真実が知らされてから3ヵ月余りの間に、地球連合政府は勿論統合軍も「感情的な部分はともかく、ガミラスと同盟を築くメリットは大きい」という結論に達している。

 「……わかった、ご苦労だったな、古代艦長代理。よくやってくれた……あ〜、ガミラスの将校が乗艦していると言ったな? 少しで良い、話せるだろうか?」

 コウイチロウに請われて進は断ってから一度モニターの前から消える。しばらく待つと、進が再び顔を覗かせて「大丈夫です」と応える。

 「ご紹介します。彼がガミラスのドメル将軍です」

 「お初にお目りかかります。ご紹介に預かった、ドメルと申します」

 進に促されてモニターにその姿を映したドメルに、司令室の面々が緊張も露にする。
 ――報告通り、肌の色以外は地球人と全く同じに見える。――彼らもまた、アクエリアスの生命の種子から生まれた存在……。

 「私は地球連合宇宙軍総司令、ミスマル・コウイチロウです」

 通信機越しとはいえ、ついにガミラスとの対面が果たされた。
 社交辞令的な挨拶の後ドメルは、現在ガミラス星が暗黒星団帝国の軍勢に襲撃されており、彼らはイスカンダルをも狙っている事、そしてヤマトは両惑星を護るため、防衛線に参加しようとしている事、敵もまた波動砲を警戒してヤマトを狙ってくるであろう事を告げる。そして――

 「ヤマトという存在が出現してからの急な方針の変更……我らの都合で貴方方を振り回した事……ガミラスの将校としてではなく、1人のガミラス人として、謝罪させて頂きます……」

 立場上、軍人として言えないのであろう言葉を届けられ、コウイチロウは確かに彼らが“人”なのだと実感した。

 「……それを聞けて、安心しました――古代艦長代理に代わって頂けますかな?」

 ドメルは頷いた後、脇に控えていた進に交代する。

 「古代艦長代理、ユリカの代わりとして不足無く頑張ってくれているようだな」

 「はい」

 「地球帰還まで、ヤマトの事を頼む。ユリカが選んだ君の事を、信じて待っているよ。どのような事態が起こったとしても、我々は――ヤマトを信じている」

 優しく微笑み若者を激励する。
 出航前にヤマトの指揮を引き継ぐとしたら彼だと聞かされていた(最早我が子同然だとも)。
 彼は愛娘の期待に不足無く応え、地球とガミラスの和平の礎を築く助けまでしたとは。
 色々な意味で、今後に期待の持てる若者だ。

 「了解しました。古代進、以降も艦長代理としてヤマトを地球帰還まで指揮します。ただ今よりヤマトはバラン星基地を出港、ガミラス星防衛戦に参加。これを退けた後、カスケードブラックホール破壊任務を遂行し、コスモリバース受領の為イスカンダルに向かいます。以上、通信終わります」

 進の敬礼にコウイチロウも応えて通信は終了した。
 暗転したモニターから視線を外すと、皆興奮冷めやらぬと言った様子だ。

 「ミスマル司令――ヤマトがやってくれましたね」

 隣に控えていた秋山が感涙しながらコウイチロウに言葉を掛ける。

 「ああ……ヤマトが――子供達がやってくれたよ!」



 その後、コウイチロウからの報告を受けた政府は予想されていた中でも最高と言っても良い展開に狂喜乱舞。
 一部調子に乗った高官も居たが、すぐに「ガミラスが気変わりしたら終わり」と窘められて冷静となり、あくまで講和による終戦協定という形でまとめる事になった。

 ヤマトからの朗報を受けた地球政府と軍高官は、いよいよ戦後を見据えた仕事をこなしていかなくてはならなくなった。
 ヤマトは確かに最後の希望であるが、彼らの活躍無くして、日々の平和はあり得ないのである。






 「――お疲れさまでした、ドメル将軍」

 艦長室で大役を果たして貰ったドメルを労いつつ、自ら淹れた紅茶(エリナから譲ってもらった)を入れてドメルに手渡す。

 「お口に合えば良いのですが……」

 「ありがとう、古代艦長代理。そう言う君もかなり緊張していた様じゃないか。ああいった場に立つのは初めてと見受けられたが?」

 「ええ、即席教育を受けたのはヤマトに乗る1ヵ月前からですし、私はビーメラを発つまでは、一介の戦闘班長に過ぎませんでしたから」

 言いながら進も自分で淹れた紅茶を一口啜る。我ながら上出来だと思う。

 「……今は、君がこの部屋の主か。艦長の具合がここまで悪かったとは……これも、和平路線を押し切りたかった理由かな?」

 「ええ。即席教育の私では、どれほど素質があると煽てられても貴方には勿論、ガミラスには勝てません……勝てるとしたら、艦長も含めた皆が一丸となって粘りに粘って、生じるかどうかもわからない僅かな隙を突くか、貴方達の想像の斜め上を行く奇策を考え付いた時だけです」

 「――そうかもしれないな。あの次元断層での戦いでも、私が出来るだけヤマトを傷つけず、クルーを1人でも多く捕えたいと欲をかいていなかったら、艦橋に主砲を直撃させていた。つまり、その時ヤマトは終わっていたという事になる」

 進はドメルの言葉に静かに頷いた。結局あの時ヤマトがどうにか逃げ延びられたのは、ドメルがデスラーの気持ちを汲んでヤマトを出来るだけ撃沈しないよう、手加減してくれていたからに過ぎない。
 本気で挑まれていたらあそこで沈んでいた。

 「今となってはそれが功を奏したという事になりますな――そうだ、あの時サテライトキャノンと波動砲を外してくれた事のお礼がまだでした。多くの部下を預かる身として、感謝しております」

 「そう言われると困ります。あの時は本当に狙ってる余裕が無かった事の方が大きかったんですから――直撃させたくなかったのも事実ですが」

 直撃させなくて良かった。聞けばあの時直撃を意図して避けた事がデスラーとドメルが和平路線に傾くきっかけになっていたらしいし。

 「力に溺れない事は素晴らしい事だ。これからも、その気持ちを忘れないでくれ。まあ、力に溺れていた我らガミラスが言えた事では無いかも知れないがな」

 「いえ、ガミラスには理性が残っていました。決して溺れてなんていませんでしたよ」


 その頃アキトは格納庫でダブルエックスと向かい合っていた。と言ってもベッドに寝かされているダブルエックスの胸元に腰かけて、その顔を見下ろしている形だが。

 「ガイ、ムネタケ提督……ガミラスとの戦いは終わったぞ。見ててくれたか? 俺達の戦いを」

 アキトは何となくだが、ダブルエックスを通してガイとムネタケが自分達を見ていてくれているのではないかという錯覚を何度か覚えていた。
 やはりこの機体が、Xエステバリスの後継だと聞かされた事や、ゲキ・ガンガーみたいな強力なロボット兵器だから、というのが関係しているのかもしれない。

 「……なぁ〜にやってんだテンカワ」

 「げっ!? セイヤさん……」

 何時の間にか収納庫の入り口にウリバタケが立っていたではないか。
 ……恥ずかしいところを見られてしまった。

 「こいつがエクスバリスの後継だから、あの提督を思い出したのか?……まあヤマダに関しちゃ俺もわからんでもないな。こいつはゲキ・ガンガーみたいとは、よく言われてるしな」

 ズバリ言い当てられてしまった。恥ずかしくて後頭部をポリポリ掻くアキトに、ウリバタケは納得したと言わんばかりに1度鼻を鳴らすと、背中に隠していたジュースの入ったボトルをアキトに放り投げる。
 慌てて受け取ったアキトを見て、

 「俺もこいつを見て、偶にあいつらを思い出す事があってな……あの2人を知っててこいつと縁深いのは、俺とお前くらいだからな。今日くらいは、感傷に浸るのも悪くないさ」

 言いながらウリバタケもダブルエックスの体をよじ登ってアキトの隣に座る。
 2人はしばらく無言でジュースを飲みながら今は亡きかつての仲間達の事を思い出していた。

 そんな2人を見上げるダブルエックスの瞳は、どこか優し気に見えた――。






 七色の光に照らされた“雲海”の中に赤いボディの戦闘空母がワープアウト、同じ閃光の中から間髪入れずにヤマトの姿が現れ、僅かな間を置いて2隻の指揮戦艦級と第一空母がヤマトを囲い込むような隊列を組んで空間から飛び出した。
 直後、雷雲煌めく厳しい大自然の洗礼を受けて大きく揺らぐ。

 「ワープ終了!――くそっ! 思った以上に荒れてるな!!」

 大介は宇宙気流の余波を受けて激しく振動する艦の安定を保つのに必死だった。ナデシコユニットの追加で推力と防御力は強化されたが、代わりに安定翼が開かなくなってしまったので姿勢制御スラスターのみで艦を制御せねばならず、大介もあまり余裕が無い。
 元々急造の追加パーツという事もあって舷側ミサイルと安定翼が使えなくなってしまっているが、ワープ問題に関しては曳航して貰う事で解消されているし、舷側ミサイルの代わりはディストーションブレード内蔵のVLSで補填出来ているのが救いだった。

 「くっ! フィールドをバリアモードに変更して気流をコントロールする!」

 大介はフィールド担当官に手早く指示を出し、ヤマトの身を包むディストーションフィールドを変更して安定を保とうとする。

 「どうやら、一際荒れている時に通過しなければならなくなったようだな……! ゴート砲術長、ヤマトの艦載機はこの状況下で出撃出来るのか?」

 ドメルが問うと、ゴートは振動で生じる騒音に負けない程度の声で「この状況下では、ガンダムが出せるかどうかと言った状態だ!」と答える。

 「そうか……残念ながら、こちらの艦載機も似たようなものだ。連中の艦載機は大型で出力も高い、もしかしたら一方的に攻撃される危険性もある。古代艦長代理、空間スキャニングを実行して“凪”を探そう!」

 ドメルの進言に進も頷き、ルリは勿論先導してくれている戦闘空母や多層式宇宙空母と指揮戦艦級にもスキャニングを要請する。
 ――なお、ドメルの乗艦であったガミラス最強の戦艦――ドメラーズ三世は足が遅いのとバラン星攻防戦の被害が大きかった事から置いてかれた。

 そうやってヤマト&ガミラス艦隊はタキオンセンサーを使用した空間スキャニングを実施。荒れている宙域故ノイズも多く正確さにはやや欠けてしまったが、それでも嵐の先に凪を見つけ出し、全速力でその空域に突き進む。
 嵐に流されそうになる艦を押さえつけ、駆け抜けた先には――

 とても美しい雲海が広がっていた。

 眼下には七色のスペクトルに照らされまるでスモークを炊いた舞台の様な情景を醸し出すと同時に、その上にはまるで本当に海上にあるかのような神々しさすら感じる光の世界。
 雲海に反射した七色の光、前方に広がる穏やかな空間とその周囲を囲う星間物質の雲や気流の対比が生み出す一大スペクタルな光景に、大宇宙の神秘とある種命の息吹を感じたヤマトクルーが感嘆の溜息を漏らす。

 「おお……! これほど雄大な大自然を拝める機会はなかなか巡ってはこない。今の内に、少し楽しんでおいた方が良いと進言させてもらう」

 決して気を緩めたいわけではないが、それがヤマトの流儀だと理解したドメルが促す。
 進も異議を唱えず手すきの者は展望室で、それ以外の者にもせめて映像でと艦内中にこの大自然の雄大な景色を流す。
 安全の為閉じられていた防御シャッターもこの時ばかりは解放して、その目にこの雄大さを焼き付ける。

 「――地球の人達にも、見せてあげたいね」

 ジュンの漏らした一言に誰もが頷き、気を利かせたルリがヤマトの光学センサーが捉えた映像を最大画素で録画して非圧縮で保存する。

 本当に、綺麗で雄大な景色だった。






 「デーダー司令、ヤマトとガミラス艦の姿を捉えました」

 「うむ」

 デーダーはメインパネルに映し出されたヤマトとガミラス艦の姿を見てニヤリと笑う。
 最大望遠でも豆粒のような大きさでしか映らない程遠距離から捉えている。この宙域の特性を考えてレーダー等には映り難いよう、雲海を上手く利用して隠れている。連中もまだ気が付いていないようだ。

 「やはりガミラスに与したか、ヤマト。もっと骨のあるやつかと思ったがな」

 デーダーはヤマトが軍事力では敵わないからガミラスに与したと考えていた。あれだけの力を持ちながら、故郷を死の縁に追い込んだ連中に与するとは何と愚かしい。
 ヤマトが全力を尽くせばガミラスを滅ぼす事も出来るだろうに――力を持って他者を従わせる事に躊躇するとは弱腰にもほどがある。

 「だが、あのタキオン波動収束砲はあまりにも脅威。ここで確実に潰すぞ」

 デーダーの激励に部下達も緊張の面持ちを隠せない。タキオン波動収束砲と暗黒星団帝国の技術はあまりにも相性が悪い。

 「デーダー司令。ヤマトは何らかの追加パーツを装着しているようで、見慣れぬパーツが両舷に追加されています。また、タキオン波動収束砲の発射口にも装甲板が追加されているようです。ドリルミサイルによる封印は難しいかと……」

 「連中がガミラスに与した以上そうなっても不思議はあるまい。元々連中がヤマト用に用意していた装備だ。だが、策が無いわけでもない」

 デーダーはこういった事態も予測してドリルミサイルにちょっとした細工を施していた。それが機能すればどのみちヤマトのタキオン波動収束砲はドリルミサイルで破壊され、ヤマト本体も吹き飛ぶ。
 そうなれば、ガミラスの少数戦力など敵ではない。
 怖いのはヤマト、タキオン波動収束砲だけなのだ。

 「戦艦はヤマトと他2隻に空母が2隻……内1隻は戦艦クラスの武装を備えているのか、変わった艦だな……転送戦術の前に空母主体の機動部隊は相性が悪いと判断して防空能力に優れた艦艇を中心に纏めたか――よし、爆撃機部隊と戦闘機部隊を発進させろ! 転送戦術に備え!」






 その頃、ヤマト&ガミラス艦隊でも艦載機の展開が進められていた。
 ドメルの進言もあり、雲海のすぐ上を航行する事で警戒すべき方向を前後左右と上方のみに絞る。
 嵐同然の雲海の中に転送するのが艦載機や対艦ミサイルでは、即座にバラバラにされてしまうはずだ。さしもの転送戦術も転送する物体によって色々と制約が生まれるもの。決して万能ではない。
 そして、直接的な戦闘能力が乏しい空母は転送戦術によって距離の概念が曖昧になってしまっていることを受け、何時でもフォロー出来る程度の距離を置きながらヤマトと同じ方向に進んでいる。

 「戦闘機部隊は直ちに出撃だ! 先行して敵艦隊の捜索が我々の任務だ!」

 第一空母からはゲットー隊長率いるDMF-3部隊が次々と発艦していく。元々対ヤマト戦においてコスモタイガー隊を引きつけて防空網に穴を開ける事を目的とした部隊なので、航続距離もレーダーも通常の機体よりも強化されている。
 こういった斥候任務に向いているのだ。

 「戦闘空母は砲雷撃戦用意だ。隠蔽式砲戦甲板展開、対空警戒を怠るな! 敵艦隊発見の報が入り次第、艦載機を発艦させる事になる。空襲中の出撃を余儀なくされるだろうから覚悟しておけ!」

 一方でハイデルンも戦闘空母の艦橋で攻撃指揮を出す。
 元々は重爆撃機と呼ばれる旧式だが積載量に優れた大型機を搭載する予定があったが、その機に積む予定だったドリルミサイルを奪われ役目を失った事もあり、現在戦闘空母はバラン星基地で積みなおした第二・第三空母の爆撃機隊と雷撃機隊の一部を腹に抱えつつ、特徴というべき上下の隠蔽式砲戦甲板を展開してずらりと並んだ艦砲を見せつける。


 「爆撃機隊出撃準備だ! 何時でもどデカい花火を上げられるようにしておけよ!」

 バーガーが自身の愛機のコックピットに収まりながら部下達を激励する。
 本来はDMF-3がコスモタイガー隊を引きつけた後、ヤマトの目と耳を奪う事を目的として用意されていた部隊。
 対ヤマト用に打撃力を強化した武装なら、敵艦隊にも有効だ。

 「雷撃機部隊も出撃準備を整えておけ。ゲットーの部隊が敵艦を発見次第、速やかに攻撃任務に就く」

 クロイツも愛機に収まったまま出撃に備える。
 やはり本来は対ヤマト用に構成された部隊。
 ゲットーの戦闘機部隊がコスモタイガー隊を引きつけて防空網の穴を生み、そこをバーガーの爆撃機部隊がヤマトの目と耳を奪う。コスモタイガー隊が引き返してきたところを爆撃機隊が囮となって引きつけ、雷撃機部隊が特徴というべき宇宙魚雷の火力を持って一気に大打撃を与える為の部隊構成になっている。
 転送戦術を前提にしているとはいえ、数で劣るヤマトの航空隊の手数の無さを突いた戦術だ。
 護衛艦の数が制限されたうえ、転送戦術を考慮した護衛艦としては不向きと判断された第二空母と第三空母はバラン星に置いていくことになり、バーガーやクロイツといった腕利きをさらに厳選して戦闘空母に移動させ、対艦攻撃の要として備えている。
 空母を多く連れていけないし、戦闘空母の積載を余らせるのも勿体無いという場当たり的な対処であることは疑いようがないが、無いよりはマシだった。

 「コスモタイガー隊は全機発進後、艦隊の直掩に着け! 敵艦隊への攻撃は航続距離の長いガミラス機に一任する!」

 守の指示を受けてコスモタイガー隊も次々と発進していく。
 元来が母艦を中心とした狭い範囲での戦闘を前提としたエステバリス。改修を重ねたとはいえ元々がそういった代物なので、未知なる広大な宇宙を駆け巡って活躍したコスモタイガーIIやブラックタイガーやコスモゼロと言った名機達に比べると、(Gファルコン合体時限定の)火力と人型特有の多様性以外、殆どの性能が劣っている。
 そのため、この戦闘においては艦隊の直掩部隊として防空戦に終始する事が最初から決まっていた。
 例外なのは、最初からヤマトの旅を支えた名艦載機同様の任務に就く事を前提に開発されたガンダムのみだが、完全無欠な宇宙戦闘機とは運用法が違うためお留守番となる。

 「敵は転送戦術を駆使してこちらを撹乱して痛めつけてくるはず。ヤマトがガミラスと手を組んだ事を知ったのなら、ドリルミサイルにも何らかの細工を施しているかもしれません。が、敵の詳細がわからない現状では何とも言えない……やはり、早期に敵の母艦を見つけて撃破する事が大事でしょう」

 ドメルの指摘に進もジュンも頷く。敵は十中八九ヤマトの波動砲の封殺を前提とした行動を展開するはず。一応装甲ハッチは取り付けたが、それを破壊されてドリルミサイルを撃ち込まれる危険性は十分に考えられるだろう。

 「コスモタイガー隊は艦隊の防空任務から逸脱しないように注意してくれ」

 進はマイクを掴んで出撃したコスモタイガー隊にそう警告する。
 ドメルが考えていた七色星団での戦法について聞かされているコスモタイガー隊はすぐに応じてヤマトとガミラス艦の周囲を固める様に展開した。
 少なくとも、戦闘機や爆撃機の攻撃ならこれで対応出来るはずだが、やはりこちら側の戦力の少なさが目立つ。
 何しろ元々はヤマト撃滅の為に編成された部隊編成であり、瞬間物質転送器ありきの編成である為防空戦に適した編成とは言い難い。普通に考えればもっと構成を変更した方が良いのだが、ドメルも進もユリカも変更の必要性を感じなかった。
 その答えは簡単……転送戦術はヤマトも使えるからだ。
 敵艦隊の所在さえわかればこちらも仕掛ける事が出来るのだ。
 特にダブルエックスには、最長射程が40万qにも達するツインサテライトキャノン(ガンダムXが単装なので区別の為に名称変更された)がある。
 いざとなれば先遣隊の情報を基にボソンジャンプからのサテライトキャノンで一気に勝負を決める事だって出来る。ゲームだったら反則待ったなしの極悪殲滅兵器。という事もあって、寧ろ下手に損傷させるよりはコンディションを維持しやすいとしてお留守番なのだ。
 射程や威力が半減以下になっているが、ガンダムXのサテライトキャノンとて同様の決定打を持つため温存されることになる。

 こういった情報の共有が成された事でドメルはともかく他の同行者の面々は「大量破壊兵器積み過ぎだろう……」と戦々恐々したという。

 「そういう訳だから、同乗させてもらうわよリョーコさん。こっちは本職がパイロットじゃないんだからあんまり無理に振り回さないでね」

 「んなこと言われたって、本格的な空戦になったらぶん回さないと死ぬぞ」

 Gファルコンのコックピットに収まったイネスは、そのGファルコンと合体しているGXのリョーコに切実なお願いをしたが、ばっさりと切り捨てられて口の端がピクリと恐怖に震える。

 「まあまあ、私達もフォロー頑張るから気楽にね、イネスさん!」

 「大丈夫、万が一の時は死に水を取ってあげるから」

 「ちょっ! 不吉なこと言わないでよ!」

 ヒカルはともかくフォローと言うには不穏過ぎるイズミに内心怖がっているイネスが悲鳴を上げる。
 今回の戦闘では瞬間物質転送器の代わりをボソンジャンプで担う。となれば、必要とされるのは長距離ボソンジャンプの方なのでA級ジャンパー。
 勿論この戦術を提唱した瞬間、誤魔化していたA級ジャンパーについてもドメル将軍にだけは打ち明ける羽目になったが……まあ彼なら悪いようにはしないだろう、うん。
 他の連中には「ボソンジャンプの研究者で機器の扱いに長けている」とだけ説明して誤魔化す。多分疑われているだろうがそうそう公に出来る代物ではないのだ。人権的な意味で。

 「後は、ゲットー隊長達の索敵次第か。俺達とアキトのボソンジャンプで爆撃機と雷撃機の連中を敵母艦の近くに運んでやれば、状況的には五分に持って行けるかもしれねえんだよな」

 「恐らくね。転送戦術の威力を噛みしめて驕っているだろうし、こちらにボソンジャンプがある事を認識している保証が無いものね。バラン星での戦闘でも使用したのは月臣君が帰艦した時の1度だけでそれ以降は使っていないし、状況的につぶさに観察出来たわけでもないでしょうから。それに、連中のエネルギー反応を見る限りではタキオン粒子は検出されていない。つまり、ガミラスやイスカンダルが開発したジャマーは備えていない可能性が高いって事だしね。至近距離に出現する分には通用すると思うわ」

 イネスの推論にリョーコも頷く。ジャンパー処置はしていないリョーコでも、GXのフィールド出力なら肉体を保護してジャンプが可能だ。
 アキトは勿論単独で跳べるので、サテライトキャノンと合わせて今回の要としてこき使われる事が確定している。

 「アキト、いざって時は転送頼むぜ。嫁さんの為にもこんな所で終われねぇだろ?」

 「わかってるよバーガー。後はゲットー隊長次第か……こっちが仕掛ける前に戦闘空母が発艦不能になる被害を受けなければ良いんだけど」

 転送戦術の厄介な点は前線という概念が事実上消滅してしまう事だろう。これはボソンジャンプ戦術を考案していた地球側は勿論、特にその存在を警戒していた火星の後継者――草壁春樹も重々承知していた事だ。
 空母はその性質上どうしても軽装甲になってしまっている。甲板の大部分は飛行甲板になってしまうため重武装は備える事が難しく、カタパルトだったりエレベーターだったりブラストリフレクターだったり着艦用ワイヤー等の設備のおかげで重装甲化も難しい。
 また飛行甲板は性質上武装を取り付ける事が難しいため、精々甲板の端か艦体の側面に対空砲を装備するのがやっとであり、実は単独では攻撃どころか対空防御もままならない。
 これは地球の空母も似た様な物であり、空母の基本戦術はその運用が確立した頃から一貫して航空機の航続距離を活かして戦場の後方に位置して、直接戦場に出ないのが常識だ。
 それはガミラスとて変わりは無い。戦艦としての役割がメインのヤマトは勿論、両者の機能を複合した戦闘空母はむしろ例外に近い存在だ。
 だからこそ、貴重な航空母艦として戦闘空母が同行を許可されたというわけだ。

 「何、戦闘空母はこれでもガミラスの最新鋭艦だ。空母としては積載がちょっとばかり少ないが、その分戦艦としての分厚くて頑丈な装甲と対空装備がある。ちょっとやそっとの損害で機能を失うほど軟じゃねえよ」

 「わかった。要するに被害を被らないように立ち回れば良いって事だな。何時も通りに」

 バーガーに言われてアキトも笑みを浮かべて戦意を奮い立たせる。
 GファルコンDXは例の重装備仕様。
 Gファルコンに追加された安定翼に空対空ミサイル14発と宇宙魚雷4発、脚部ラジエータープレートカバーにマイクロミサイル8発、右手には何時もの専用バスターライフルを携え、左手に大型レールカノン、Gファルコンのカーゴスペース内にハイパーバズーカ2挺にロケットランチャーガン1挺に予備弾薬5発を懸架。専用ライフルはビームナイフを追加装備して銃剣仕様にしてある。
 さらにリアスカートに増設したマウントには、ビームジャベリンにツインビームソードにGハンマーが懸架されるなど、過去最高の重武装具合だった。
 ビームマシンガンとディバイダーはエステバリス用に回したかったため、選択肢から外している。

 GファルコンGXも似た様な物で、携行武装が右手にレールカノン、左手にラピッドライフルであること、サテライト装備では空いている事が多い左下のハードポイントにビームジャベリンを、サイドスカート両側にマウントを増設して対艦ミサイルの弾頭を改造したグレネード――Xグレネーダーを4基装備している以外はGファルコンDXに準じている。

 ガンダムが攻撃の要という事もあってとにかく重武装だった。

 「こちらエアマスター、配置に就いたぞ」

 「レオパルドもOKだ。何時でも乱れ撃っちゃうぜ」

 月臣とサブロウタも準備を終えた。
 勿論最終調整を終えた2機も、Gファルコン装備のGファルコンバーストとGファルコンデストロイへと変貌を遂げている。
 Gファルコンと合体して宇宙戦闘機としての性能が大幅に強化されたエアマスターは、(最初から戦闘機で設計しておけというツッコミを受けつつ)敵航空部隊を引っ掻き回す遊撃機としての役割が期待されている。
 ノーズビームキャノンの下には、キャリングハンドル付きの水平2連装ショットガン(ソードオフモデル)のような形をしたビームライフル――ミサイルライフルが懸架されている。その名の通り、側面に多弾頭ミサイル2基を搭載したライフルだ。
 さらにGファルコンに安定翼とそこマウントされるミサイルと魚雷、そして大型爆弾槽を装備した重攻撃機仕様である。

 レオパルドの方も、他のガンダムに比べて見劣りしがちな機動力を補うGファルコンの追加で機動力が大きく向上している。
 何より本体の重武装にさらにGファルコンの武装が追加され、さらにさらにそのGファルコンに追加武装を加えたまさに動く弾薬庫。
 Gファルコンに追加した装備はエアマスターとほぼ同じだが、機体自体には追加が無かったエアマスターと違ってレオパルドは左足側面に4発ミサイルを内蔵したセパレートミサイルポッド、左サイドスカートにヒートアックスを追加装備している。
 合体中はツインビームシリンダーの格納が上手くいかない難点があるが、それでも一応マウントアームに預けて脇の下に懸架することは出来る。
 コネクターの形状と機能が特殊でエステバリス用の武装や他のガンダムの装備が使えないが、持ち前の重武装から瞬間火力はコスモタイガー隊最強を誇っている。

 「対空火力の要は俺、敵部隊の撹乱は月臣少佐、いざと言う時に切りこみ役にして俺達のフォロー担当がアキトとリョーコちゃん、合わせてエステちゃん達一同。全力で当たれば何とかなるかな?」

 「何とかなって貰わないと困るがな……こちらの戦力にも限りがある」

 月臣も流石に緊張を滲ませた声でサブロウタに懸念を示す。
 暗黒星団帝国の戦力はガミラス以上に底が見えない。この七色星団で仕掛けてくるとしてもどの程度の戦力が配備されているのかがわからない。
 無論ヤマトがおまけで本命がガミラスとイスカンダルなら、戦力の大部分が向こうに行っているとは思うが、人口太陽まで使ってヤマトの波動砲の威力を図ったのだ。相応の戦力を用意している可能性は高い。
 月臣に言われるまでも無くサブロウタも緊張に口の中が渇くのを感じる。
 さて、どう出るか……。






 「――なるほど、転送戦術を警戒して防空網に穴を開けないつもりだな」

 デーダーはモニターに映るヤマトとガミラス艦の様子にデーダーは薄く笑う。
 その程度戦術はあの艦隊構成から予想していた。驚くに値しない。
 それにこの装置の開発者はガミラス。ガミラスに与したのなら詳細を得ているだろうし、そもそも1度使った戦術だ。初見ならまだしも2度目なら多少なりとも対策されるのは計算の内よ。

 「ならば、嫌でも防空網に穴を開けてやろうではないか――対艦ミサイルの準備は終わったか!?」

 デーダーの声に部下が「間もなく終わります」と答える。
 艦隊に同行させた輸送船と数珠繋ぎにした大量のコンテナから、本来は移動要塞や本土の防空用に配備されている大型対艦ミサイルが大量に吐き出された。ヤマトを仕留めるため、メルダーズ総司令に直訴して大量に融通して貰ったのだ。
 恐らく開発したガミラス側も認知しているであろう運用法だが、知っているからかならず防げると言う訳でもないのが転送戦術の真の恐ろしさだ。
 極々普通のありふれた大型対艦ミサイルとて、転送戦術に絡めて使えば恐ろしい未知の兵器として機能する。

 「瞬間物質転送器作動! 目標! ヤマトとガミラス艦の周囲! 雲海内には転送しないように注意しろ! 上方から前後左右、逃げ場を与えるな!」

 作業艇がミサイルを掴んで瞬間物質転送器の眼前に運んでくる。
 瞬間物質転送器はガミラスの白い円盤型の宇宙船ごと鹵獲して運用している。わざわざ移植する手間をかけるのも馬鹿らしい。
 今はそちらに移譲した部下達が制御下に置いている。
 転送装置本体は長方形状の物体で、円盤上部に1対装備されている。正面にはハニカム状のパターンのある発射口からワープ光線を照射、照射範囲内にある物体を指定した座標に送り込む。
 有人機を送り込む場合は片道一方通行というデメリットがあり、それを補う戦術を行使する必要があるが、今回の様に無人のミサイルや機雷等を送り込む分にはデメリットは無いに等しい。
 そして――。

 「如何にヤマトがタフな艦でも、至近距離で対艦ミサイルが雨あられと降り注げば迎撃出来ても無傷では済むまい」

 そう、例えミサイルが直撃出来なくても至近距離でミサイルが爆発すれば破片や高温のガスを吹き付けられて必ず被害を被る。
 如何に空間歪曲場を防御装置に使っていたとしても、あの手の防御装備は質量兵器に弱いと相場が決まっている。

 「そして、幾ら艦載機で防空網を作ろうとも四方八方から絨毯爆撃されれば、逃げるしかあるまい」

 あの人型は人型の癖に我が軍の宇宙戦闘機に勝るとも劣らない絶大な威力があるようだが、所詮は艦載機。対艦ミサイルの爆風に煽られればあっという間に宇宙の藻屑と消える。
 それを避けるためには母艦に匿って貰うか影響圏から離れるかの二択しかない。

 「転送戦術がある限り、貴様らは後手に回るしかないのだ……攻撃開始! ヤマトをこの雲海の一部にしてやれ!」

 デーダーの指示を受けて瞬間物質転送器から1対のワープ光線が照射、ワープ光線に包まれた大量の対艦ミサイルが次々と転送されていった。






 その頃ヤマト・ガミラス艦隊は、艦載機の展開を終了して襲撃に備えていた。
 戦闘空母とヤマトの航空隊は艦隊の直掩に専念し、第一空母のDMF-3部隊は全力で艦隊前方の哨戒任務に就いている。今の所、敵艦隊発見の報は無い。
 後は敵艦隊を補足した後、ダブルエックスとGXがボソンジャンプで爆撃機と雷撃機の部隊を運搬して敵艦隊を空襲する手はずになっている。
 今艦隊はヤマトを中心に前方を戦闘空母、左右に指揮戦艦級、艦載機を発艦し終えた第一空母は後方に距離を取りつつ雲海や暗黒ガス帯に隠れながら艦隊についてきていた。
 直接的な戦闘力が乏しい空母が攻撃に晒されては一溜りもないため、こういった状況では逃げに徹するしかない。
 万が一の時にはヤマトの対空火器でフォロー出来る様、適度な距離を保って同行してもらっているのだが、場合によっては離れて隠れてもらうしかない。
 そうやって何時瞬間物質転送器による空襲に見舞われるかもわからない恐怖に晒されながら、レーダー要員は監視を続けていた。

 「ルリさん、周辺の状況はどうですか?」

 進の問いに電算室のルリは「今のところ目立った変化は観測出来ません」と答えた後で、

 「しかし、この場所は凪にあるとは言っても、周辺には荒れ狂った宇宙気流やら強烈な放射線嵐が吹き荒れているため、星間物質の密度変化や動きの変化が激しくて細かいデータの算出が極めて困難です」

 「この場所を決戦の地に選んだ将軍の判断は正しかった」とルリも険しい顔だ。
 瞬間物質移送器による転送戦術は、周囲にワープ反応――つまり重力振や空間歪曲反応といった兆候を見ることで一応の察知が可能だ。
 とはいえその反応は微弱なものであり、環境の変化が激しいと計測に失敗することはままある。
 そういう意味では七色星団の環境は転送戦術を行使するのに適していると言って良いだろう。

 「……このまま地道に続けるしかないだろう。如何に瞬間物質移送器とはいえ、まだまだ経験不足のシステムだ。必ずどこかに付け入る隙がある」

 苦戦するルリの様子に真田がついフォローを口にする。
 真田の指摘通り、現状ヤマトが転送戦術の要である瞬間物質転送器搭載母艦を発見する手段は地道な哨戒任務以外に無いと言っても過言ではない。
 ただ……

 「確実とは言えないけど、今の私だったらもしかしたら何かつかめるかもしれないよ」

 医務室のベッドの上からユリカが進言してきた。本日は体調が微妙なので、艦橋には上がらず進達に全てを任せている。

 「ユリカ、大丈夫なの?」

 ジュンが心配そうに問うが「平気平気」とユリカの調子は軽い。

 「だって、演算ユニットに繋がっちゃってる状態だから周りの変化に割と敏感になっちゃってるんだもん。意識して活性化させてるわけじゃないから特に問題はないよ。まあ、その分確実性が損なわれれるんだけど……」

 と言われたらそれ以上のことが言えない。今まではイスカンダルの薬で抑えきれていたのにそれすら出来なくなった。つまり彼女は今、先が長くないとルリを絶望させていたヤマト完成直前頃にまで戻ってしまっていると言っても良い。
 だがそんな状態だからこそ、この局面を打開するきっかけをもたらす事が出来るかもしれないのだ。

 「わかりました。何かあったらすぐに連絡してください」

 進は艦長代理として腹を括った。今は少しでも勝算を上げる方が先決であると。しかし――。

 「雪、艦長がちょっとでも無茶をしたら、引っ叩いても良いから必ず鎮圧するように! これは艦長代理としての命令だ」

 「任せて艦長代理! その時は一切遠慮なく黙らせますとも!」

 雪を煽って極力無茶させないように歯止めを作る。本人が言っても聞かぬなら周りを使って黙らせる。
 進は人を使うことをしっかりと覚えたのだ!

 「――上官に対して……しかも重病人に対して暴力はいかんと思うぞ、古代艦長代理……」

 常識人のドメルが突っ込みを入れる。
 ――しかし声が呆れがあっても進の命令を撤回させようとしないあたり、やっぱりドメルも少々毒されていた。というより付き合いの長い進達の判断が正しいのだろうと直感的に判断していたのだろう。
 そうして少しだけ緊張が和らいだ空気の中、力が抜けていたが故に気付けたわずかな痕跡を見つけてルリが吠えた。

 「空間歪曲反応多数! 艦の周囲に何かが転移してきます!」

 来たか!
 一気にクルーの思考が戦闘モードに切り替わる。そうして転移してきた物体を確認して進・ジュン・守・ドメルの4人が舌打ちする。

 「対艦ミサイル……! こちらが転送戦術に対応するため直掩を展開すると見越した戦術か……!」

 守がすぐにフィールド管制官に最大出力のフィールドを展開させ、拡散射撃モードでパルスブラストの用意を進め、ナデシコユニットのVLSに装填された“ガミラス製の対空ミサイル”の諸元データ入力を矢継ぎ早に指示する。

 「了解! 各砲それぞれ目標を追尾! 撃ち漏らすな!」

 ゴートも砲術補佐席のスイッチやレバーを操作して、これから次々と送り込まれるであろうミサイルの迎撃準備を進める。
 そうやって準備が進められる中、転送された先端が黄色く本体が赤く塗られた円筒状の対艦ミサイル――そのロケットエンジンが点火、艦隊中央のヤマトに狙いを絞る形で突っ込んでくる!
 進行ベクトルを変更出来ないワープ航法における問題を考慮してだろう、ミサイルは最初から艦隊を包囲した向きで転送され、ロケットエンジンに点火すればすぐに艦隊の中央――ヤマト目掛けて直進出来るように周到に準備されていた。

 「くっ! この短時間でここまで使いこなしてくるとはなっ……! 敵の指揮官はなかなか頭が回るようだ!」

 この混成艦隊の総司令の立場にある(民主的な多数決の結果)ドメルは、

 「全艦対空戦闘用意! 航空部隊は直ちに現空域を離脱して体勢を立て直せ! 艦隊増速!」

 そう指示を出した。
 それが敵の狙いだと理解していたがそうしなければ壊滅的な被害を被ってしまう。
 ヤマトを始め艦隊全体が増速して全周から襲い掛かるミサイルを引き剥がしにかかる。
 転送戦術とて座標の指定は必須。増速して転送範囲から大きく逸脱すれば、時間稼ぎは出来る。だが――。

 「くっ、対艦ミサイルの集中爆撃で防空網を崩してから航空攻撃を仕掛けるつもりか!」

 守も敵の狙いに気付いたが、航空隊をヤマトのフィールドの中に収容してカバーするという選択は取れない。敵のミサイルの威力が未知数であるし何よりフィールドの展開範囲を広げると出力の都合からフィールドの強度がどうしても低下してしまう。
 もしもフィールドを突破されたら、ヤマトは自前の重装甲とディストーションブロックの相乗効果で耐えられても航空隊は壊滅してしまうだろう。
 ――敵の思惑通り、艦隊とコスモタイガー隊の距離が開いていく。しかし、現状これ以外に取れる手段は無かった。




 「くっそー! 連中の思惑に乗るしかねぇのかよ!」

 GファルコンGXのコックピットの中で毒づくリョーコ。自身でも部下達に全力で退避を指示しながら自分も安全圏に逃げる。逃げながら収束モードの拡散グラビティブラストをヤマト目掛けて突き進む対艦ミサイルに向かって砲撃する。
 ヤマトも驚異的な対応力で拡散モードのパルスブラストで弾幕を形成し始めたが、前後左右上方と多方向からの攻撃にとても手が足りていない。
 迎撃を免れたミサイルがナデシコユニットが発生させたアーマーモードのフィールドに次々と着弾。ヤマトの姿が爆発に飲まれて見えなくなる。
 ただ、勢いが衰えぬパルスブラストの砲火とナデシコユニットから撃ち出されたであろう対空ミサイルが爆炎の中から飛び出して、襲い来るミサイルを片っ端から撃ち落としていく。ヤマトはまだ健在だ。
 ヤマト前方を固める戦闘空母も砲戦甲板や艦橋前後の3連装砲に後部のミサイルランチャーを駆使して迎撃に全力を注ぎ、左右を固める指揮戦艦級2隻も対空砲を全力運転させてヤマトにミサイルが着弾するのを少しでも防ごうと努力している。
 しかし、艦隊の中央にいるヤマトに照準されたミサイルの数は多く、また艦隊の外周に転送された後直進してくるため、前方と左右のミサイルの一部は戦闘空母と指揮戦艦級にも襲い掛かり、その姿を爆炎の内に沈めつつあった。

 「戦艦時代の、それも最終仕様の大和だったら、もっと対空砲の数が多かったんだけどね」

 とGファルコンのイネスがさらりと戦艦大和の対空砲の数がヤマトよりも上回っていたと雑学を披露するが、それに耳を傾ける余裕はない。
 モニターの端に同じようにミサイルの迎撃を始めたGファルコンDXとGファルコンデストロイの姿もある。特にGファルコンデストロイは拡散グラビティブラストだけでなく、両腕のツインビームシリンダーをマウントアームで固定した高出力モードを使って頑丈な対艦ミサイルのボディをハチの巣にしている。
 対照的に戦闘機形態でほぼ固定状態のGファルコンバーストは迎撃には参加せず、追撃で現れるかもしれない航空戦力を警戒していた。

 「悪いけど私達は迎撃に参加出来そうにないよ!」

 「ごめんリョーコ! アルストロメリアとエステバリスじゃ無理そう!」

 ヒカルとイズミは無念に思いながらも距離を取る。ガンダム各機は小型艦艇クラスの防御力を有しているので多少の無茶が出来るが、こっちが同じ事をすれば余波で被害を受ける可能性が高い。
 それに、相転移エンジン2基搭載で回復も速く総エネルギー量も多いガンダムなら、ビーム兵器や重力波兵器を多少無駄打ちしても構わないだろうが、エステバリスはエネルギーパックを使い切ったらGファルコンのエンジンだけでは足らない。
 ここは逃げの一択しか選択出来なかった。



 「ちっ! 最初の攻撃がミサイルの雨とはな! つくづくむかつく連中だぜ!」

 愛機のコックピットでバーガーが激しく毒づく。予想されていた敵の攻撃の中でも最も苛烈で、転送戦術の強みを最大限生かした戦い方だった。

 「落ち着けバーガー。この程度で沈むほど我が艦隊は脆くはない。何せ、あのヤマトが旗艦なのだからな」

 諫めるクロイツも少々不安な様子だが、それでもここまでガミラスと渡り合ってきたヤマトが容易く沈むとは考えておらず、もちろん対ヤマトを目的に召集された自分達の実力も疑っていない。
 開発には紆余曲折あったとはいえ、戦闘空母は十分な性能を持って完成しているし、ヤマトと戦うために同行している指揮戦艦級も装甲を中心に改修されている。だからこそ簡単に沈むことはないと確信を持てるのだ。

 「……ああ、すまねえクロイツ。隊長ともあろうものがこの程度で動揺してちゃだめだよな」

 頭が少し冷えたバーガーはクロイツにそう返すと、腕を組んでシートに身を預ける。そして、今この空間を紹介している同僚を思う。

 (――頼むぜゲットー。早い所敵の本体を見つけ出してくれ)



 ヤマトとガミラス艦は必死に対空砲と対空ミサイルを打ち上げ、対艦ミサイルを迎撃する。
 回転速度が高く大型のミサイル程度なら迎撃出来る副砲も動員して、1つでも多く撃ち落とすべく奮戦。
 勿論艦隊の速度や進路を変更しつつ移動し、転送座標を変化させ、少しでも攻撃の頻度を落とさせようと努力しているのだが、喰らい付いてくる。
 ――想像以上に使いこなしている様子だ。

 すでにヤマトには10発以上の対艦ミサイルがフィールドに接触して爆発している。増設されたナデシコユニットによって展開されるフィールドはガミラス製の発生装置だ。
 エンジン出力の高さでガミラス艦以上の防御力を叩き出したヤマトではあるが、単純な装置の性能はガミラスの方がやはり上だった。
 今はその装置にナデシコユニット内のエンジンの全ての出力を注ぎこみ、ありったけの発生装置を並列させる事でヤマト本体にも引けを取らない防御力を発揮している。
 しかい強力な対艦ミサイルの直撃もそうだが、迎撃したミサイルの破片や衝撃波までは防ぎきれない。

 「いかん……! フィールド出力が60%にまで低下しているぞ……!」

 「不味いな……ナデシコユニットとヤマトは通路で繋がっているわけではないから、戦闘中の修理作業は絶望的だ。それにあれはバラン星の戦いで出たジャンク品の寄せ集め。このままでは長くは持たん……!」

 額に汗を浮かべるゴートと真田。急増のオプションパーツでしかないナデシコユニットは欠陥も多いし信頼性にも難がある。真田は制作者の1人として熟知しているだけに、不安を隠せないのだろう。

 「爆発の影響でセンサーの乱れも激しく、これではとてもワープ航跡の特定は無理です!」

 電算室のルリも溜まらず悲鳴を上げる。被弾の衝撃も相まってセンサーの感度低下が著しい。爆炎のせいで光学カメラも役に立たない。

 「直撃してないだけマシとはいえ、何とか打開策を見つけないと持たないぞ……!」

 ジュンも何かしら打開策が無いか思考を巡らせるが、状況的にかなり厳しいと言わざるを得ない。
 この対艦ミサイルはヤマトの鐘楼程の大きさがあるだけに、破壊力も高い。集中砲火を浴びればヤマトの防御でもあっという間に瓦解してしまうだろう。
 データリンクによると、ヤマト程攻撃が集中していない戦闘空母も指揮戦艦級も何とか持ち堪えているようだが、このままでは消耗しきってしまいそうだ。

 「――進、聞こえてる」

 そんな中、第一艦橋にユリカの声が届く。

 「聞こえています艦長。どうかしたんですか?」

 「ヤマトの正面11時18分、上下角プラス20度、距離推定4光秒の地点で何かしらの空間歪曲が起こったよ。確定は出来ないけど、調べてみる価値はあると思う」

 妙に落ち着いた声で話すユリカに一抹の不安を覚えながらも、進はすぐにその情報を各艦と先行しているDMF-3隊に転送する。
 出所については事前に考えていた内容で誤魔化す事も忘れない。

 「ありがとうございます艦長。何とか、反撃の糸口を見つけて見せます」

 「頑張ってね……ふ、あぁぁ〜〜〜。悪いけど、お眠みたいだからお休みさせて〜……」

 返事をするより早く規則正しい寝息が聞こえてきた。傍から見ればとてもマイペースな行動にも思えてしまうが……。

 「やはり、無茶ではない程度に探ってくれたとみて間違いないだろうな。今後に影響しなければ良いのだが」

 戦闘指揮を続けながらも守が心配そうな声を出す。

 「ミスマル艦長……あのような体でここまで……! 私にもガミラス最強と謳われた意地がある。頂いた情報を頼りに必ず逆転して見せよう!」

 ボロボロの体でも未来を諦めないユリカの姿勢に感動したドメルが気合を入れなおす。無論今までだって黙ってやられていたわけではない。彼なりに敵の次の手を読んでいた。

 「古代艦長代理、航空部隊が離れヤマトの防空網に穴が出来た。敵はすぐに爆撃機と護衛の戦闘機を差し向けてくるはずだ。そして、これらの行動で艦隊行動を乱した最大の目的は――」

 「ドリルミサイルですね。艦長の示唆した方向に敵がいるのなら、敵はヤマトの波動砲が装甲で守られていることも知っているはず。ドメル将軍、ドリルミサイルであの装甲を突破可能ですか?」

 進の問いに「出来ると考えた方が良い」と答えた。

 「敵も無能ではないだろう。バラン星の戦いを経験すれば、遠からずヤマトとガミラスが手を組むであろう事は明白だ。となれば、限られた時間の中でヤマトの波動砲を封じるための手段として、あのドリルミサイルを活用しない手はない。それに、あのドリルの刃はガミラスでも最高強度の超合金で出来ている。元々探査用の特殊削岩弾を改造した代物だ。試算では、波動砲の発射口に食い込ませるだけなら十分と出ている。特に奥にあるシャッター部分はどう考えても構造上他よりも強度が低いはずだ。我々としても波動砲を完全に破壊してしまうのは今後を考えると都合が悪かったので、そこを貫通して食い込めればそれでよしとしていたのだが……」

 ドメルの目の確かさに進達は唸るしかない。波動砲の発射口は巨大な開口部であるし発射の負荷に耐えるため、かなりの強度を持たされている。だが、指摘通り奥にある装甲シャッターは他に比べると強度が低く、滅多に無いだろうとされながらもヤマトの急所として懸念されていた部位だった。

 ――あああぁぁぁぁ……!――

 ドメルを除いた面々の脳裏にヤマトの悲鳴が木霊する。あれ、もしかしなくてももしかすると……。

 ――早々にガミラスと和解してドメル将軍も味方に付いてくれたのに、また“あの”ドリルミサイルがぁぁぁ……勘弁してくださいぃぃ〜!――

 やっぱり元の世界で喰らってたのか。それも相当トラウマの様子。
 まあ、最大の武器を封じられた挙句そこから内部にゴリゴリと侵入され、何時爆発するのかわからないとなれば、そりゃトラウマにもなるだろう。



 「ヤマトにドリルミサイル……船は昔から女性名詞……ドリル……掘る……ヤマトには自我……擬人化と合わせて……ムフフ……」

 応急処置に備えて絶賛待機中の技術者1名、眼鏡を怪しく光らせながら良からぬ事を考えていた。
 ちなみに彼は「ヤマト擬人化計画の会」の会長でもあった。



 「被害状況は!?」

 戦闘空母の艦橋でハイデルンが損害報告を求める。戦闘空母も少なくない被弾で激しい揺れに見舞われていた。

 「左舷に2発、右舷に1発被弾! 第7、第10区画に火災発生!」

 「第1主砲に障害発生! 現在対処中です!」

 このサイズの対艦ミサイルの被弾は流石に堪える。
 戦闘空母は最新鋭艦であるし、対ヤマト用としてドメルが引っ張り出してきただけあって、ヤマトの攻撃に少しでも耐えられるようにと装甲が強化されている。そのおかげで何とか耐えられているが……。

 「ヤマトの状況はどうなっている!?」

 「健在です!」

 流石はヤマト、ここまでガミラス相手に単艦で抗ってきた実力は伊達ではない。ハイデルンは素直に感心しつつもままならぬ状況に唇を噛む。
 幸い指揮戦艦級も健在のようだが、ヤマトや戦闘空母に比べるとやはり装甲もフィールドも劣っているので被害は徐々に蓄積されている様子。このままではなぶり殺しにされるだけだ。



 必死に対空砲を全開にしていたヤマトに突如静寂が訪れた。

 「ミサイル攻撃が止んだ……?」

 必死に対空砲の指揮をしていたゴートが不審がって思わず天井を仰ぐ。ナデシコユニットのフィールドは発生装置はオーバーヒート寸前で、冷却のため数十分は使えそうにない状況にある。
 そんな緊迫した状況にあったためかつい気を緩めそうになるクルーが出てきてしまう。

 「油断するな! おそらくこれは航空攻撃への切り替えだ!」

 すぐに進が叱咤して気を緩めないようにする。するとすぐにレーダーを睨んでいたハリから警告が飛んだ。

 「ヤマト直上に空間歪曲反応多数! エネルギーパターンから敵の航空部隊と思われます!」

 「対空戦闘! コスモタイガー隊は迎撃開始だ!」

 進の怒鳴るような指示にすぐに応えるクルー達。先程までミサイルを迎撃していたパルスブラストが、冷却もままならないまま再度稼働させられる。だが、オーバーヒート寸前まで追いやられているためその弾幕は疎らであり、先程までの威勢はない。
 仕方なく特に排熱が必要な砲を停止して、穴埋めのために煙突ミサイルからバリアミサイルを8発打ち上げてヤマトの直上に8つの円盤状のディストーションフィールドを展開する。さらに戦闘空母と指揮戦艦級2隻も勢い衰えた対空射撃を開始した。
 これで、敵の攻撃はもちろん突入コースを変えられれば御の字なのだが……。
 出現した100には届こうかという戦闘機の群れと、その中に混じる20機程の爆撃機。数の上では少数の爆撃機であっても、ミサイル攻撃で消耗した今のヤマトには途方もない脅威となる。
 結局、ミサイル攻撃の余波を避けるために距離を取らざるを得なかったコスモタイガー隊の迎撃はギリギリのところで間に合わず、急激に衰えた弾幕と円盤状のフィールドに攻撃や軌道を逸らされながらも食らいついた10機の爆撃機の砲火が、ヤマトを襲った。

 「右舷コスモレーダーに被弾! 機能低下!」

 「第一主砲被弾! 損害軽微!」

 「第17対空砲損壊! 使用不能!」

 「煙突ミサイル被弾! 異常は認められず!」

 第一艦橋内に次々と被害報告が届く。ヤマトも自身のフィールド発生装置を使用して防御を固めていたが、敵爆撃機の攻撃力は極めて高く、至近距離で撃たれたこともあって減衰しきれず本体に到達する。
 元々防御力の低いレーダーアンテナや対空砲の一部が破壊され、表面に塗られた防御コートが劣化して白くなる。
 さらに3本の触角のようなビーム砲は相も変わらずプレキシブルに動き、機体の向きに関係なくヤマトを追尾して至近距離から強烈なビームを打ちかけてくる。おまけにバラン星では搭載されていなかった強力な爆弾も追加装備されたようで、巨体に似合わぬ俊敏さで迎撃を掻い潜ってヤマトに叩きつけてくる。
 敵爆撃機は全てヤマトのみをターゲットとして、他の艦艇には目もくれない。
 俊敏なイモムシ型戦闘機も対空砲のターゲットを自ら取りに来るような動きで翻弄し、爆撃機への迎撃を許さないように立ち回っていた。

 「コスモタイガー隊に迎撃を急がせろ!――ゲットー隊長からの連絡はまだ無いのか?」

 「まだありません」

 エリナの報告に進は1度目を閉じてからドメルに、

 「何時でも爆撃機と雷撃機は出せますか?」

 と問う。

 「ミサイルの雨が止んだ今なら出せる」

 ドメルも力強く答えた。
 しばし考えた後、進はドメルに発進させるように願い出た。

 「――なるほど、ゲットーとミスマル艦長を信じて賭けに出るというのだな……何時までも敵に主導権を取られるというのは不愉快でもあるし、ここは1つ、賭けに出るのも悪くない」

 とても獰猛な笑みを浮かべて応じるドメルに進も頷く。
 DMF-3隊の速力なら、もうそろそろ艦隊に接近出来ていてもおかしくはない。位置情報さえ送ってもらえればこちらから打って出る事が出来る。それは連中の大編隊に勝るとも劣らない猛反撃となって、この戦局を一変する事だろう。
 ――転送戦術の威力を噛み締めてしまったが為に、彼らはきっと艦隊の防空を疎かにしているに違いない。また、こちらが同じ戦法で逆転を狙う事も考えてはいないだろう。
 強過ぎる力を持たされると、どこかに必ず驕りが出るものだ。まして手に入れてから1度たりとも痛い目を見ていなければ、なおさらだ。

 戦場において慢心は命取りになると、改めて伝授して進ぜよう。
 その授業料は、恐らく高くつくだろうがな。






 デーダーはヤマトの前方を航行中の武装空母が甲板の武装をひっくり返して格納し、次々と艦載機を出撃させているのを見て嘲笑した。

 「ふん、今更艦載機の追加か。それも爆撃機と雷撃機とは――よほど艦載機に余裕が無いらしいな」

 デーダーはヤマトがまだこちらを発見していないという確証があった。もしも発見していたら、あのタキオン波動収束砲を使っているに違いないと確信していたのだ。
 あれほど素晴らしい威力を持つ大砲を死蔵するなどまずありえない。我々だったらもう使っている。
 それにあの増設ユニットも、解析した限りでは単なるミサイルユニット兼防御フィールド発生機に過ぎないようだ。ドリルミサイル対策は、発射口を塞ぐあの装甲板だけと見て間違いは無いだろう。

 「デーダー司令。ガミラスの戦闘機部隊を補足しました。まっすぐこちらに向かっています」

 部下の報告にデーダーは鼻で笑ってから「適当にあしらっておけ」と指示を出す。とはいえ心の中では少々の――いや結構な驚きがあった。

 「……もうこちらを見つけたのか。思ったよりも早かったな。だがここまでは予想通り……敵から奪い取った兵器の優位性など過信してはいない。ワープ航跡を追えたかたまたま哨戒部隊が正しい方向に進めたかは知らぬが、こちらを見つけた以上ヤマトが取る行動は……」

 「デーダー司令、ヤマト艦首をこちらに向けました。装甲板も展開しています」

 やはりだ! ヤマトは形勢逆転の為にタキオン波動収束砲を使うつもりだ! ドリルミサイルの存在を知っていても、その威力に縋るしかないだろう。
 あれだけ対艦ミサイルの雨に晒されたのだ。決して損害は軽くないはず。そして、焦りも生まれただろう。
 何より連中はイスカンダルとガミラスに行きたがっている。そのイスカンダルとガミラスに我が暗黒星団帝国の大艦隊が攻撃を仕掛けたことくらいすでに知っているはずだ。
 ならばなおさら我々に構っている時間も惜しければ、損害を抑えたいと考えるが必至。タキオン波動収束砲の威力で一気に戦局をひっくり返そうとするのは当然の選択。
 読み通りだ!

 「ドリルミサイル転送開始! 撃たれる前に封印してやる!」

 予め待機させておいたドリルミサイルと撹乱用の爆撃機20機にすぐワープ光線を照射して転送する。
 これで、ヤマトは終わりだ。このドリルミサイルがヤマトの波動砲を封じて一発逆転を奪い、そのまま内部から粉々に粉砕してくれることだろう。
 ――そして、こちらには旗艦プレアデスがある。
 基礎技術で劣るガミラスなど物の数ではない。
 そして、連中の戦艦クラスに劣らぬ火力の巡洋艦が計90隻。そこに巨大空母10隻からなる大量の航空戦力。

 これだけ圧倒的な戦力差があれば負けるはずがない。勝ちは決まったも同然だ。






 「ルリさん、ワープアウト反応には細心の注意を払ってくれ。失敗したらヤマトは一巻の終わりだ」

 「任せてください。絶対に見逃しません!」

 進の発破にルリも真剣な面持ちで答える。
 敵艦隊発見の報を受けた時、進はすぐに波動砲を準備――する“フリ”を指示した。

 「しかし古代、敵にはドリルミサイルが……」

 説明を飛ばして指示した進に大介が疑問の声を上げる。
 進はそれに答えるべく、作戦を語り始めた。

 「それが狙いさ。敵はヤマトがミサイルの雨に晒されて焦れたと考えたはずだ。戦力でこちらに勝っていて気が大きくなり、“直接ヤマトと対峙した経験のない指揮官”ならなおさらそういう結論に至るはずだ。先遣隊やバラン星での交戦経験があるにしても、それが正しく指揮官に伝わっていなければ、有利な状況に立てば立つほどに驕りになる」

 進はゲットーが送ってきた敵艦隊の画像データを見た瞬間、今まで戦場で直接相見えたことのない大型戦艦が艦隊の中央に位置していることに気付いた。
 恐らくあれが敵の旗艦。今まで見たことが無いということは、バラン星での戦いでも離れた場所で戦況を見ていただけだったのだろうと推測出来る。

 「そして、そんな状況で波動砲の威力だけを見せつけられればそちらに気を取られ、波動砲さえ封じれば勝てると必ず思い込む――かつて冥王星のシュルツ司令が、超大型ミサイルや艦隊戦力でヤマトの波動砲を封じて、反射衛星砲で仕留めようとした事を思い出してくれ。あれはヤマトの戦艦としての力を知りつつも、波動砲に注意が向き過ぎたが故の戦術だったんだ。何しろ堅牢強固な宇宙要塞や惑星上の基地施設であっても、規格外に近い防御装置でなければ防げない威力を、波動砲は持っている。恐れて当然、意識が向いて当然なんだ」

 「――古代艦長代理の言う事には一理ある。私とてヤマトの波動砲が恐ろしく、ドリルミサイルや瞬間物質転送器を用意して、如何に波動砲を封じるか、封じた後ヤマトをどうやって追い込むかを戦術の要として見ていた……波動砲はそれほどまでに脅威に映るものだ。前線の指揮官や拠点の指揮官程、その威力で一挙に壊滅させられる事を恐れるのだ」

 進とドメルの言葉にクルー一同納得する。
 確かにヤマトの航海における安全保障としても役に立った波動砲の威力。味方として見れば頼もしいが、敵に回せばこれほどの脅威は中々無いだろう。そこに、こちらが付け入る隙も見いだせるという事か。

 「恐らくあの黒色艦隊も同じだ。そして、波動砲を封じる策を手に入れている。さっきのミサイルの真意は航空隊を剥ぎ取ってヤマトの防空網に穴を開けることだけが目的じゃない。あれだけの爆撃を受ければ消耗を強いられる。そこに敵艦隊発見の報を聞けば、最も強力で射程の長い波動砲で一発逆転を図るに違いない、そういった思惑があったはずだ」

 「……なるほど。なら、その思惑に乗るフリをして波動砲を構えてやれば、相手は貴重なドリルミサイルを勝手に使ってくれるというわけだな」

 真田も右手を顎に当てて納得する。

 「とすると、ドリルミサイルを無力化した後に波動砲を使うのか?」

 封印の危険性さえ回避出来れば波動砲で一気に撃滅するという選択肢も取れる。今の状況ではそれが最善と思ったゴートが訪ねてみたが、ハリが指摘する。

 「この七色星団の中で安易に波動砲を使うのは賛同出来ません。ここはスターバースト宙域――それもかなり活動が活発な部位にあたりますから、波動砲の余波がどんな被害をもたらすのか予測がつきません」

 ハリが手元のパネルを操作してマスターパネルにヤマト周辺の宙域図を写す。

 「このように、ヤマトの周辺は“凪”にあたる空間となっていますが、その範囲は全体から見ると極々僅かなもので、周囲には星間物質の嵐があちこちに点在しています。もし波動砲を使用した場合、タキオン波動バースト流がもたらす空間歪曲の干渉によってこれらの流れが変わったり新しい流れが生まれて、ヤマトが飲まれてしまう可能性もあります。予期せぬトラブルを避ける為にも――波動砲の使用は控えるべきだと進言します」

 「……確かにそれらに波動砲が作用した場合、どうなるか予測が付きにくいな……敵艦隊を撃滅するには、この広がり方だと6発使った広域破壊を行う必要があるだろうし、撃滅出来ても敵艦隊の爆発でより広範囲に影響をもたらす危険性も否定出来ないか……マキビ君の言う通り、波動砲の使用は控えた方が良さそうだ」

 「確かに、自重した方が良さそうね」

 ハリの指摘を受けて守も波動砲の自粛を進言、エリナも同調する。

 「そうだな……なら波動砲に頼る必要はない」

 進はあっさりと、何の未練も無く波動砲という選択肢を捨てた。
 確かに一発逆転の威力は魅力的ではあるが、無ければ無いで他の選択肢を選ぶだけだ。何しろヤマトには、威力こそ格段に劣るとはいえ、戦局を左右するに足る威力の武器が、あと3つ残されている。

 「ハーリー、サテライトキャノンの場合はどうだ?」

 「今解析してみます――そうですね、あれは波動砲に比べると格段に作用が劣りますし、恐らくGXの単装タイプなら大きな被害は無いと思われます。それと、使用数を制限すれば信濃の波動エネルギー弾道弾も大丈夫かと」

 「なら、敵艦隊への決定打は予定通りガミラス爆撃機・雷撃機部隊とGXのサテライトキャノンとし、そこに信濃の波動エネルギー弾道弾を加えるものとする――島、ゴートさん。ドリルミサイルを躱したら信濃に移譲して発進に備えてくれ。ヤマトの操舵はハーリーに任せる」

 進は迷わずサテライトキャノンの使用を決断した。
 使わずに済めば越した事は無い力だが、使わずにクルーを、ひいては地球の未来を危険に晒すわけにはいかない。
 ――指揮官として、辛い選択だと常々思う。

 「……わかった。任せたぞ、艦長代理」

 島もゴートも心得たと信濃の格納庫に出撃準備の指示を出し、ハーリーも「了解しました」と緊張した面持ちで応じた。
 バラン星の戦いで全部撃ち尽くしてしまっているので、補充が間に合ったのはたったの4発。かなり少ないが、戦艦の2隻くらいなら十分始末出来る威力はある。
 今はこれに賭けるしかない。

 「あとは、信濃出撃のタイミングだな。敵の行動がもう少し読める何かがあれば良いんだが……」



 第一艦橋でドリルミサイル排除の流れが決まった時も、コスモタイガー隊は敵航空部隊と派手な空戦を演じていた。
 度重なる強化改修で性能を増したエステバリスとはいえ、やはり本質的には星間国家が使用している戦闘機に比べると見劣りするのが実情である。
 それでもここまで戦い抜いてきた歴戦のエースとしての意地と、ヤマトが誇る技術者の改修で得た新装備の数々を駆使して渡り合っていた。

 「すまん! そっちは任せる!」

 「おうっ! 任された!」

 コスモタイガー隊の面々は互いに声を掛け合いフォローし合いながら、群がる爆撃機とその護衛の戦闘機に果敢に立ち向かう。
 いずれもエステバリスよりも大きい、現在の地球では大型機動兵器と言われる部類の機体はやはり相応に頑丈だ。
 バラン星の攻防でも痛感していたが、爆撃機相手では通用する武装が大型レールカノンとガンダム用に開発された武装のみで、ラピッドライフルや連射式キャノンは少々威力不足であった。
 しかし、現在でもディバイダ―とビームマシンガンの在庫が10機分を上回っていない。なので、必然的により大型で頑強な爆撃機にはディバイダ―とビームマシンガンを装備した機体が、それ以外の機体が戦闘機という風に役割分担して対処する事になった。

 戦闘機を担当したGファルコンエステバリスは両肩の連射式キャノンを撃ちかけ牽制し、両手で構えた大型レールカノンとGファルコンの拡散グラビティブラストを時間差で放ち1機、また1機と敵戦闘機を撃墜する。
 爆撃機担当の機体はそれに合わせてビームマシンガンとハモニカ砲の多連装照射モードを駆使して撃墜していく。
 計7本の細い重力波を扇状に打ち出す多連装照射モードの状態でディバイダ―を振り回して薙ぎ払う。そうする事で広範囲に加害領域を生み出し、爆撃機の突入コースを乱して攻撃を防ぐと同時に、線の攻撃で切り裂くようにして敵機を撃墜するのだ。

 そうやって奮戦するコスモタイガー隊にあって、やはり一際目立つ活躍なのはアルストロメリアと――ガンダム。
 ヒカルとイズミが乗る2機のアルストロメリアは互いの死角をフォローしながらエステバリスに混じって爆撃機迎撃任務に勤しんでいる。

 「うぇ〜ん! 相変わらず触角がグネグネ動いて気持ち悪いよぉ〜」

 まるで虫のような――しかも触角がわさわさ動いて黒いボディーとあって――生理的嫌悪感を感じながら、ビームマシンガンを撃ちこんで目障りな触角を切断し、各所に備わった連装機銃が撃ちかけてくるビームを避けながら急接近、ビームマシンガンをGファルコンから延びるサブアームに一時託してから、久方ぶりに出番が巡ってきたビームジャベリンを機首の下側に備わっているコックピットに向けて容赦なく突き刺す。

 「……機体の下の方にコックピットがあるってことは、やっぱり対地爆撃も考慮してるって事かなぁ?」

 漫画のネタ探しだったりウリバタケの蘊蓄だったりで、そこそこのミリタリー知識を持っているヒカルがぽつりと感想を漏らす。
 ――すっかり戦争に慣れてしまったと頭の片隅で自虐的な感想が浮かんでくる。
 ナデシコ時代にも思ったが、あの時よりもさらに深刻で容赦のない戦いに足を踏み入れてしまった。
 勿論ヒカルなりに理由があってヤマトに乗って戦う道を選びはしたが――まさかここまで容赦のない攻撃が出来るほどになってしまうとは……。

 (ま、コックピット外したって撃墜するんなら同じことだけどね)

 今更そんなことを考えている自分に冷ややかに突っ込みながらも手は休めない。少し離れた敵に向かってハモニカブレードを撃ちこんで敵機を切断する。相変わらず惚れ惚れする切れ味だ。

 「ヒカル、右舷のガミラス戦艦がちょっとヤバ目だ。支援に行こう」

 「りょーかい!」

 イズミに促されて素直に応じる。幸い他の機体も頑張ってくれるし何より――

 「オラオラァッ! 近づく奴ぁ、容赦しねえぞ!!」

 開きっぱなしの通信機から聞こえてくるサブロウタの威勢の良い声にちらりと視線を向けると、そこには大量の弾薬を惜しみなく吐き出しているGファルコンデストロイの姿がある。
 Gファルコン側に増設した対空ミサイルと宇宙魚雷も、左足に増設したセパレートミサイルポッドもさっさと撃ち切って、スタビライザーやポッドを切り離して身軽にしつつ敵陣の真っただ中に突撃。
 両腕のツインビームシリンダーから、両肩のショルダーランチャーからビームを吐き出しつつGファルコンに懸架された巨大な大型爆弾槽のハッチをオープン、中から片側268発の高性能炸裂弾を吐き出して機体の両側面に眩いばかりの花火を咲かせる。
 その中に突っ込んでしまった不運な機体はたちまち撃墜され、慌てて避けた機体は突入コースを著しく逸脱して――。

 「もらった!」

 レオパルドのおこぼれを狙ったエアマスターが撃ち落としていく。
 Gファルコンバーストとなったエアマスターの機動力や凄まじく、DMF-3やイモムシ型戦闘機と言った異星人の宇宙戦闘機すら引き剥がす圧倒的な速度、そこにノーズビームキャノンと拡散グラビティブラストの火力が加わったとあれば、並大抵の戦闘機ではまるで歯が立たない。
 何とか後方に回り込んでビームを撃ちかけたイモムシ型戦闘機も、軽々と回避された挙句後方に向けられた拡散グラビティブラストから放たれた重力波の散弾でコックピットを射抜かれて宇宙に散った。
 まさかGファルコンバーストが後方射撃にも対応しているとは思わず虚を突かれたのか、不用意な隙を晒した機体を他のエステバリスが撃ち落としていく。
 数の上で絶対的な不利を抱え、性能面でもついていくのがやっとという有様でありながら、コスモタイガー隊はガンダムを起点として懸命の反撃を続けていた。

 ――しかし数の暴力というのは中々覆しがたいもので、奮戦しながらも徐々に徐々に損傷を蓄積していく。
 特に今は戦闘空母が本体攻撃用の爆撃機と雷撃機を懸命に吐き出している最中。ヤマトから譲渡されたバリアミサイルをありったけ使って爆撃機と戦闘機の接近を阻止しているが、完全ではない。
 それをカバーするコスモタイガー隊の負担は急激に増大していた。
 そして――。

 「ぐあっ!?」

 一瞬判断を迷った1機のエステバリスが、イモムシ型戦闘機と接触事故を起こして弾き飛ばされてしまった。
 接触したイモムシ型戦闘機はGファルコンエステバリス程度の質量との接触でどうにかなるほど軟ではないらしく、すぐに軌道修正して吹き飛ばされたエステバリスを撃墜しようとしたが――。
 ビームが一閃。
 真上から撃ちこまれたビームに機体を貫かれ、明後日の方向に飛び去り雲海へと突っ込んでいく。恐らく無事では済まないだろう。

 「大丈夫か? 帰還出来そうか?」

 イモムシ型戦闘機を容易く仕留めたのは、ヤマト最強の地位を揺るがぬものとしたGファルコンDX。
 増設された武装の内、ミサイルと魚雷とレールカノンは使い切っている様だ。機体表面には何度か被弾したであろう“擦過傷”が見られるし、左手のディフェンスプレートも脱落しているが、エステバリスとは比べ物にならない程奇麗な状態だった。

 「な、何とかな……でも右腕が駄目そうだ、切り離す」

 右肩の付け根で起こった小規模の爆発で右腕が丸ごと切り離される。爆発ボルトを使った強制排除機構が作動したのだ。
 右腕は肘から下は無傷だが、肩のあたりが大きく拉げている。どう見ても作動出来そうにない。

 「護衛するからすぐに戻って応急処理を。このままの戦闘継続は危険だ」

 「言われなくてもそうさせてもらう――隊長、修理と補給のため帰還させてもらいます!」

 パイロットはすぐに隊長のリョーコに報告を入れる。勝手に戻って戦線に穴を開けてしまうわけにはいかないのだ。

 「わかった! 命あっての物種だからな!」

 許可も取れたのでヤマトに引き返そうとしたエステバリスに敵機が迫る。
 アキトは咄嗟に切り離されたエステバリスの腕を空いていた左手で掴んで、Gハンマーの要領でグルグルと回して勢いをつける。
 そして!

 「ゲキガンパンチッ!」

 と叫んで敵機の眼前に放り投げる。
 まさかまさかの手動式ロケットパンチが炸裂!
 破損した機体の部品を放り投げるとは思っても見なかった敵機はつい慌ててしまって姿勢を乱す。命中こそ避けたが無防備な姿をダブルエックスの眼前に晒す結果となった。
 そこに頭部バルカンとGファルコンの大口径ビームマシンガンを全力で叩き込んでハチの巣にする。
 防御フィールドとそこそこ頑強な装甲を持つとはいえ、そこは最強の代名詞ガンダムの攻撃だ。敵機は耐えきる事が出来ずに爆ぜて消えた。
 今の攻撃で頭部バルカンの弾を使い切ってしまったようで、空しい作動音が微かにコックピットに響く。
 対空防御に有効な装備を1つ失ってしまった。意外と使い勝手が良いのがいかん。つい使い過ぎてしまう。

 「おまっ、ゲキガンパンチて……」

 「いや、つい――」

 木連出身のパイロットから突っ込みが入る。
 ついガイの事が頭に過ってしまったが故の言動だったが……冷静になってみると気恥ずかしい。

 「まあ、ヤマトはある意味ゲキ・ガンガーそのものだよな……あの時なれなかった者になれたのか……今は考えても時間の無駄か。ありがとうテンカワ、今度何か奢らせてくれ」

 言いながら彼は傷ついた機体を労わりつつ、ヤマトの下部発着口へと滑り込んでいく。

 「……ヤマトはゲキ・ガンガー、か」

 人型――ワンオフ生産のスペシャル機――その誕生経緯故にガイの事を重ねたダブルエックスの事しか目に入っていなかったがなるほど、確かにヤマトの立ち位置を物語に置くのであればまさしくゲキ・ガンガーの様なスーパーロボットそのものだろう。
 悪の大軍相手に孤軍奮闘、しかもそれ以外の戦力はあまり役に立たないとくればまさしくその通りになる。
 ある意味では、かつてアキトが、ガイが、木連の人々が焦がれたゲキ・ガンガーの現身なのかもしれない。
 ならば、物語の結末はハッピーエンドが望ましいのだが……。
 敵機の迎撃を続けるべく振り返ったダブルエックスのメインカメラが、ヤマトの周囲に出現した新しい爆撃機の編隊と、遅れて出現した件のドリルミサイルの姿を捉えていた。


 「ワープアウト反応! 敵爆撃機さらに追加!」

 ハリの報告に守とゴートはすぐに対空迎撃を指示する。
 ヤマトからの対空攻撃はミサイルに止め、パルスブラストは使わない。傷ついたコスモタイガー隊も、残された力を振り絞って必死に艦隊上空を飛び回って攻防を続ける。

 正面に陣取っていた戦闘空母を右に移動させ射線を確保、如何にも波動砲で狙っていると示した瞬間にこれだ。確かに波動砲に追加した装甲板を開放しているとはいえ所詮はブラフ。これは――

 「さらに正面にワープアウト反応!――ドリルミサイルです!!」

 ワープアウトした物体の形状と質量からヤマトにとって最大の脅威――ドリルミサイルが撃ち込まれた事を確認する。

 「島!!」

 「全速後退!! 波動砲口よりエネルギー噴射!!」

 波動砲からタキオン粒子が猛烈な勢いで噴出され、ヤマトが全速で後退を始める。
 ベテルギウス以来となるヤマトの全力逆噴射。吹き出すタキオン粒子の奔流は逆進して距離を取り、ドリルミサイルの進路から逃れるためのものだ。
 少々エネルギー効率が悪いが、メインノズルと同等の推力を持つ噴射はヤマトを急加速で後退させる事に成功、予想通りドリルミサイルとの着弾を遅らせる事が出来た。

 ――が。






 「――ふん、ブラフだったか。だがその程度で逃げられると思うなよ」

 デーダーはヤマトに謀られた事を不愉快に思いながらもドリルミサイルの制御を部下に命じる。
 こういった事態を想定して簡易ではあるが改造してある。すでに撃ち放ってしまった以上命中させなければこちらが終わりだ。なにがなんでも命中させなければ……。






 「ドリルミサイル増速を確認! 追尾してきます!」

 ハリの報告に苦い顔をしながらも大介は操縦桿を操ってヤマトの進路を左に変更するが、ドリルミサイルは食いついてくる。

 「どうやら爆撃機に積まない代わりに本体にエンジンを増設したようだな。部品が増設されている」

 マスターパネルに映し出される拡大映像を冷静に分析するドメル。
 ドメルが発注した時のドリルミサイルは探査用の特殊削岩弾に爆薬を追加したり、侵入者対策を施した程度であまり大規模な改造は施されていなかった。
 だが、今のドリルミサイルは後部にエンジンユニットが、本体に固定用のマニピュレーターと思われる部品が増設されているのが見て取れる。恐らくあれでヤマトの艦首をがっちり掴んで確実にドリルミサイルを波動砲口に送り込むつもりなのだろう。
 なかなか考えている。鹵獲品とはいえ使えるものは有効に使う姿勢は素直に評価すべきだろうか。

 波動砲からのリバースで全速後退を続けるヤマトにドリルミサイルが迫る。このままでは直撃は避けられない。

 「真田さん、Nユニット分離! 盾にするんだ!」

 「わかった! ユニット分離! ヤマト前方で交差させて盾にするぞ!」

 ヤマトとの接続は重力制御と磁力によって行われているので、離脱そのものは速やかに実行出来る。
 真田は艦内管理席からの操作でナデシコユニットをヤマト両舷から切り離すと、後部エンジンに点火。切り離されたナデシコユニットは、先端のブレード部分をヤマトの艦首前方で交差するように前進してヤマトの盾となる。
 そのナデシコユニット――前方に出ていた左ユニット目掛けてドリルミサイルは正面から激突、激しい火花を散らす。同時に先端のドリルを回転。トルクを相殺すべく姿勢制御スラスターを噴射して本体の回転を防ぎつつ、ナデシコユニットの装甲をガリガリと削る。さらに先端からプラズマトーチを出力して掘削スピードを上げる。
 本来備わっていなかった機能だ。制御室があるドリル中心のスペースにこれほどの出力を持つプラズマトーチを内蔵するとは……!
 その勢いのまま左ユニットのブレードを貫通し、後方にあった右ユニットのブレードに食い付いて火花を散らす。想像以上の掘削力に第一艦橋の面々も緊張を隠せない。やはり急増品のユニットの装甲で防げる代物ではなかった。
 ドリルミサイルはそのまま右ユニットのブレードを貫通してヤマトに迫ってくる。
 しかし、ヤマトはドリルミサイルがナデシコユニットを突破するまでの時間を利用して大きく艦尾を左に振って波動砲をドリルミサイルの正面から退けることに成功した。装甲も閉鎖完了。
 ドリルミサイルは依然ヤマトに向かって突き進み、増設された4本のマニピュレーター(爆撃機の触角型ビーム砲と形状が似ている)を展開してヤマトの艦首を抱え込もうとする。
 ついにヤマトに追いついたドリルミサイルの先端が、波動砲を覆い隠す装甲板に接触、プラズマトーチと頑強なドリルが激突して激しい火花を散らして装甲を削り取っていく。
 激しい振動に揺さぶられながらも、ヤマトはなおも艦尾を左に振って、艦首を軸に艦を回転させる。
 ミサイルのマニピュレーターがヤマトの艦首を抱え込もうと伸びる。
 左舷のロケットアンカーをドリルの根本付近に撃ち込んで強引に進路を変更させる。
 熾烈な攻防の末、ドリルミサイルは波動砲を隠す装甲板を剥ぎ取り発射口右側に接触して削り取りアンカーのチェーンを引きちぎりながら、波動砲に突き刺さる事無く通り過ぎてしまった。
 追加された装甲は、時間稼ぎという宿願を見事果たして七色の宇宙の藻屑と消え去る。
 通り過ぎやドリルミサイルは懸命に方向を修正しようと宙を泳ぐが、ヤマトは回転を止めて右舷スラスターを全開して水平移動。ドリルミサイルから距離を取りながら第一主砲を旋回。ドリルミサイルを狙う。
 ドリルミサイルが速いか。主砲が速いか。緊迫して1秒が10秒にも感じられる攻防が続く。

 その結末は――ヤマトの第一主砲から放たれた重力衝撃波が、ドリルミサイルを射抜いた時に決した。

 確実にヤマトを破壊すべく爆薬を増やしていたのだろう、至近距離で激しい爆発に晒されたヤマトは大きく揺れ、破片の直撃を受けた右舷コスモレーダーアンテナがもぎ取られ、艦長室右側のアンテナもへし折られ、右舷パルスブラスト数基の砲身が折れ曲がる被害を被りはしたが、最大の懸念であった波動砲の封印と破壊を回避する事に辛うじて成功したのであった。






 「ばっ、馬鹿な……!!」

 デーダーは思わぬ結末にシートから立ち上がって驚愕する。
 まさか、あの増設ユニットが切り離し可能な作りになっていたとは――!

 (ガミラスに与した以上、対策を取られることは想定していた……! あの発射口を塞ぐ装甲板がそうだと思っていたが……あれはこちらの誤認を誘うためのものだったのか……! あの増設ユニットも単なる武装とフィールド発生装置ではなく、これすらも視野に入れた装備だったとは……っ!!)

 実際はデーダーの推測通り、装甲板だけがドリルミサイルの対策で、進が咄嗟にナデシコユニットを盾にする事を思いついたに過ぎないのだが、デーダーにそれを知る術は無い。
 ギリリッ! と歯軋りしながらも艦隊に散開を指示する。こうなれば少しでも間隔を取って一気に壊滅する事を避けなければならない。

 「デ、デーダー司令! 艦隊後方に未知の粒子反応を検出! 重力場の変動も確認しました! これは――!」

 オペレーターの報告よりも早く、デーダーは艦隊の後方――空母が隊列を組んでいた付近に先程武装空母から出撃したばかりの爆撃機と雷撃機――そして一際活躍が目立っていたヤマトの人型2機が出現したのを見た。

 「ヤ、ヤマトの転送戦術だと!?」

 瞬間物質移送器の反応ではない! デーダー達の知らない未知の転送技術をもってヤマト・ガミラス艦隊はこちらの心理的有利に付け込んだ反撃を開始したのだ。
 デーダーがそう理解した時には、爆撃機・雷撃機編隊の雷撃で空母が5隻も沈み、残された5隻もヤマトの人型の1機が放った(機動兵器としては異例なまでに)巨大なビームの奔流に貫かれ、呆気なく四散してしまっていた。
 想定外の事態に思考停止仕掛けたデーダーの耳に、オペレーターから悲鳴に近い報告が飛び込んできた。

 「デーダー司令!! ヤマトが向かってきます!!」

 声に反応して頭上のメインパネルを見ると、艦首を真っ直ぐこちらに向けて前進してくるヤマトとガミラスの艦艇の姿が映し出されている。

 そう、増設ユニットを全て使って守り抜かれたヤマト最大の兵器。
 そして、我が暗黒星団帝国にとって致命的な威力を発揮するであろうタキオン波動収束砲の砲口が、真っ直ぐこちらを向いている。
 それを塞ぐはずだったドリルミサイルは仕損じ、砲口の端っこを削るだけに終わった。

 デーダーは死神に心臓を鷲掴みにされたような冷たい感覚を腹に感じながらも、即座にヤマトとの砲撃戦を指示する。
 こうなれば距離を詰めて至近距離で撃ち合うしかない。チャージの暇も与えず力押しするしかないと悟る。

 こうして、暗黒星団帝国優位に進んでいた戦局は一変しヤマト・ガミラス艦隊と正面からの砲撃戦に移行するのであった。



 予想されていた七色星団の艦隊戦は熾烈を極め、一時は暗黒星団帝国が優位に立ちまわっていた。

 しかし、切り札であるドリルミサイルを辛くも退けたヤマトとガミラス複合艦隊の猛反撃が、今まさに開始されようとしていた。

 ヤマト行け! 危機に窮している3つの惑星を救えるのは君しかいないのだ!

 人類滅亡と言われるその日まで、

 あと、243日。243日しかない!



 第二十三話 完

 次回、新宇宙戦艦ヤマト&ナデシコ

    第三章 自分らしくある為に!

    第二十四話 激戦! 封じられた波動砲!?

    全ては――愛のために!



 あとがき

 ドリルミサイル、まさかの不発! な二十三話でした。

 まあ、ガミラスと和解しちゃった時点で直撃したらヤマトが馬鹿過ぎる事になってしまうので止むを得ない展開でしたね。
 と言ってもナデシコユニットをこういう形で使うのは想定外でして、どうやってドリルミサイルを凌ぐか、を考えている時にふと思いついた展開を採用した次第でして。まあノリは大事だよって事で納得しつつ、次のお話を描いてるわけでございますよ。

 んで、本作の七色星団は結果的にですが2199とオリジナルシリーズの折半として扱われています。
 

 で、瞬間物質移送器は暗黒星団帝国に渡っているので敵は継続して暗黒星団帝国に。
 使い方は色々思案した結果、ドメルと同じだと味気ないと考えていたところに2202のPVで面白いのを見たので、それを使わせてもらっています。
 出てきた対艦ミサイルは「ヤマトよ永遠に」のクライマックスで登場した水晶ミサイルの中身ですね。大きさ的にイメージぴったりだったので。

 んで、冒頭では地球の様子をちょっぴり書きつつヤマトとガミラスが休戦した事を伝える、という形に。
 今回は2202の要素の取り込みもあり、そっちでは2202開始まで影も形もなかった「時間断層」が周知の存在として扱われていることや、2199とは違った形で「最終兵器」として強調している波動砲の“呪い”の事もあり、出向前にユリカが出来る範囲で考えていたプランを採用する形で地球も動いてます。
 こういう形になったのは、ぶっちゃけると新たなる以降のガミラスは敵ではないためですね。シリーズでも唯一、地球と争いながら最終的に和解した(?)存在はガミラスくらいなので、原作通りに一度滅してしまうのが憚られた、もちろんユリカ達ナデシコ勢の選択としても違和感があることから、こういう形を採用しています。

 また、本作では登場が前倒しになった事などが原因となり、原作では永遠にの要素である波動エネルギーと暗黒星団帝国の過剰反応について触れております。
 原作ではこの時点では永遠にの内容が決まっていなかったであろうことから、プレアデスが波動砲で消滅しても特にそれらしい描写も何もなかったのですが(これは再構成したはずのPS2版でもそう)、例によって敵方が終始波動砲にビビる要因となっています。

 では、また次回お会いしましょう。

 

 







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代理人の感想 
手が生えたドリルミサイル・・・グラップラーシップ@アウトロースターだこれー!?
これで遠隔でも人力操作だったら本当にグラップラーシップ戦みたいな感じになってただろうなあw
本編の丁々発止のやり取りも面白かったけど、それはそれで見てみたかったようなw


> 手投げゲキガンパンチ
パトレイバー(&ダイガード)ナツカシスw


> ガミラスが技術で劣る
えっ。・・・・と思ったけど、新旅見てるとそんな感じなのかなあ。



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