「……それでは東 舞歌クン、明朝10:00に、とある場所へ出頭するように。
詳細はキミのあにう……いや東少将から聞きたまえ。」

 上官である自分の兄に部下からの決裁書類を届けようとした東舞歌は
兄の執務室のドアの前で木連の最高指導者である草壁 春樹から声を掛けられ、そのまま命令を受けた。

 「……了解いたしました閣下。それと……」

 舞歌は命令を受託した後、非難めいた口調で自分達の指導者に詰問した。

 「恐れ入りますが、その『クン』という呼び方はおやめいただけないでしょうか?
私も女性の身ではありますが、木連の事を思う気持ちは他の殿方にも負けないと思っているのですが?」

 「……ほう、ではどう呼べば良いのかね?東 舞歌『クン』?」

 ことさら相手を挑発するかのように、草壁は嫌味たらしく質問する。無論、舞歌自身も
これ位で目の前の相手が言葉遣いを改めるとは思わない。何かに付け兄と自分を
挑発する男の事である。少し感情的になった自分を抑えつつ、舞歌は草壁に対し
辞去してもよいかを問う事にした。

 「…………いえ、今のままで結構です。……出過ぎた事を言って申し訳ありません。
……先程の命令の件で上官に詳細を伺いたいので、行ってもよろしいでしょうか?」

 「ああ、構わん。……それとキミの木連に対する気持ちに嘘偽りはないと私も
『信じたい』な…… これからも『今の木連』に上官共々力を貸して欲しいものだ……」

 一部口調を変えつつ草壁は舞歌に対し話した後、その場を後にした。

 (……ふんッ! あーのムッツリ助平がッ! 『クン』だとォ?おめーは
木連ス○ーツ新聞のえちぃ記事を担当する記者かってーの!)

 内心で草壁を罵倒する舞歌。……少し落ち着いたので、先程の命令の意味を改めて考える事にする。

 (「とある場所」って何処なのかしら? 兄様に聞けという事は、兄様は知っていて
私が知らない場所よね……四方天のナンバーワンで、いっちばん皆からの信頼も
厚くて、いっつも優しくてステキなんだけど実は納豆と塩辛が大嫌いという私しか知らない
お茶目な秘密を持っている偉大なる八雲兄様の直属の副官である私でも知らない場所?)

 いつの間にやら、舞歌の左脇腹に装備された浪○回路(形式:ブラ○ン弐型改)が
セカンドギアーに入った。こうなると周りが止めない限り、ギアーは際限なく切り替わっていく。駄目な方向へ。

 (そうよッ! 小さい時に私がおねしょをしてときも庇ってくれた兄様、小さい頃は
私が身を張っていじめっ子達から守ってあげた兄様ッ!最近バイオハ○ードを
やった後に寝る時に『私が舞歌の怖い夢を追い払ってやるからね』と一緒に
手を繋いで寝てくれた兄様がッ!このアタシに隠し事なんてッ! するはずがなあアァァァァァァァィッ! )
 
 気力+50、ステータス「らん」に変化。スーパーモードへ強制移行。
 
 舞歌のテンションが上がると共に、回路のギアはサードからオーバードライブモードに
突入した。回路は1分間に6000回転の運動量を維持しつつ、主の行動を待っている。

 「うふふふ負府腑婦fufu…… 兄様にきちんと確認しないとねぇ……」

 回路のエネルギーを自分の右手に集め、その手を光って唸らせながら、舞歌は兄の執務室に音も無く入っていった……








 一方、舞歌が入ろうとしている部屋の主は目から赤い液体を流しながら、ぶつぶつ呟いていた。

 「……ま、まさか閣下がこんな強硬手段を取るなんて……ッ!
 閣下は一体何をお考えなのだッ! き、君はどう思うかね氷室君ッ!」

 突如傍に控えていた舞歌の副官に問い掛ける。副官の氷室が答える前にまたぶつぶつと話し始める。

 「あああぁぁ……舞歌が、舞歌がッ! 嫁入り前の国宝級の美少女があの野獣共の視線に汚されてしまうのだよッ!
 だが、だがしかしッ! ご命令に逆らうわけにもいかんッ!
 この時期に閣下に無用な疑いを受ける事だけは避けねばいかんのだ……ッ!」
  
 「八雲様……」

 上司の置かれている状況とその苦悩を理解している氷室は言葉が出ない。もちろん
「舞歌様が『美少女』という年ですか?」等と場を和ます訳にもいかない。
『東舞歌を明日の会合に参加させよ』という一見何でもない命令に、木連の
ヤ○・ウェンリーと称される戦略立案能力、実戦指揮能力、そして穏やかな人格と、
草壁直属の特殊部隊を除けば圧倒的に木連兵士の信頼が厚いとされる東八雲がここまで悩むわけがない。

 (命令を受けるにしても何とか拒絶するにしても、東家は厳しい状況に
置かれるな…… もっとも『あの会合』はまともな人間の行く所ではない。あれに
自分の家族を出せと言われれば、誰だって拒むだろうが……)

 ひたすら悩む上官の隣で、氷室はさらに思案を続ける。

 (……草壁閣下はこれをきっかけに東家の軍部での勢力を削ぎ落とすつもりなのだろう。
悩んだ所で八雲様が命令を拒否なさる訳がない。そして舞歌様が出席なされば、東家の
閣下への敵愾心は決定的なものになるかもしれないが…… 八雲様の仰るように
地球や撫子との戦争が本格化するこの時期に木連内部で政争を起こしても何の得にもならん……)

 氷室はそう考え、ふと自分自身の考えに苦笑する。

 (結局、草壁閣下は私の報告を信じては下さらなかったのか…… もはや閣下は
私を東派とみなしていらっしゃるかも知れん…… 閣下や木連のためと思い
草壁閣下の『草』となってきたがな…… そろそろ俺もこの半端な立場を改めるべきなのかな?)

 氷室は自身の心の中で自問自答を試みるが、容易に答が出るものではない。

 (幼少の時の兵器製造プラントの事故で両親を失った俺を、草壁閣下は拾って下さった。
だが、それも今日のような状況になった場合の「草」の育成と確保としての行動
なのだろうがな……。最初は俺もその立場に納得していた。草壁閣下のために行動する、
それがひいては木連のためと信じていたからな。だが今は……)

 そこまで考えて、ふと氷室は未だ悩みつづける「今」の上官をそっと横目で
見ながら、自分の半生を思い起こす。幼い頃から草壁を「自分を助けてくれた恩人」と
徹底的に脳裏に刷り込まれ、「草壁閣下をお守りするため」と木連式柔と暗殺術である
その裏奥義、諜報・破壊工作についてのノウハウ身に付けさせられた。
 そして軍に入隊した後での反草壁派の士官に仕えての情報収集と、それに伴う彼らの草壁派への懐柔工作や排除任務。
 それらの任務を「草壁のためなら軍部の闇に生きる事も辞さない」と淡々と
こなしてきた。それが草壁の、ひいては木連のためと信じていたからだ。
 そんな氷室に与えられた最新の任務が「東 八雲の副官となり、彼に関する情報を逐一報告せよ」という物であった。
 
 (……そうだ、最初は簡単な任務だと思っていた。どんな人間にも弱点や大切な物がある。
それを突き止めることができればどんなに階級が偉くても、あとはこちらの思うが侭に操る事ができたからな…… 
例えそれが木連のヤン・○ェンリーが相手としてもだ。……俺はそう考え、八雲様に接してきた……)

 (だが、このお方は「木連のため」ではなく「木連に住む人々のため」に考え、行動しておられる…… 
この俺をも魅了する『東 八雲』か…… このお方の傍にいる方が俺は「草」ではなく「人間」として生きる事ができるかも知れん……
 ふん、人として生きる事など、とうの昔に諦めたはずだったのだが……)

 そう考え、氷室は自分の「本当の上官」の今の心情を思い遣る。

 (そうだ、今の俺には八雲様の気持ちが痛いほど分かるッ! 
舞歌様を『会合』に出席させれば、あの方のお心はずたずたに引き裂かれてしまうだろう。
そうなれば極力木連の政治には介入しなかった八雲様だが、妹想いのこの方が草壁に敵愾心を抱かれてしまわれるだろう。
そうなれば草壁派と東派で政争となり、下手をすれば双方で内戦を始めるかも知れん。
そんな事態を受け入れるわけにはいかないッ!俺の命が尽きるとしてもッ! 何とかしなければッ!)

「八雲様ッ……!」

 「人」として生きる事を決意し、その一歩を踏み出すべく己の決意を八雲に
話し掛けようとする氷室。だが、突然入ってきた闖入者がその決意をまた振り出しに戻す。

 「おにいぃぃぃぃぃiiiさまあぁぁぁぁaaaaaaa……!」

 音も無く、実体を見せて忍び寄るシャイニングガンダム舞歌。八雲も氷室も、舞歌の
右手が真っ赤に燃えているのを見て思わず硬直する。

 「ま、舞歌! 一体どうしたんだっ! 右手が火傷しちゃうじゃないか! 早く火を消しなさいッ!」

 何故妹の右手がそうなっているかを全く知らずに八雲は妹に呼びかける。氷室は
上官よりも冷静に状況を把握しようと内心で試みた。

 (もしかして、舞歌様はここに来る前に閣下と会ったのでは……? ……となると
八雲様より先に明日の事を聞いたのでは……!)

 ここまで考えを巡らせた上で、氷室は一つの仮定を頭の中で構築する。



 草壁閣下は舞歌に「命令」のことを伝えた
   ↓
 多分、詳細は「八雲に聞け」と言った筈(東兄妹の性格を熟知しているなら、自分でもそうする)
   ↓
 
世界ランカークラスのブラコン兄想いの舞歌は、「兄に隠し事をされた」と勘違いする筈、となれば……
   ↓
 絶望の宴は今から始まる


大正解


 (……!!! い、嫌だッ! 死ぬのは怖いッ! 戦争反対ッ!)

 氷室は自分たちが自分たちが招待されようとしている「宴」の発生を予感し、
八雲に対し注意を呼びかける。少々錯乱しながら。

 「八雲様ッ! ここは危険ですッ! 1ターン以内に脱出早く非難をッ!」

 だが八雲は目の前の状況が分かったらしく、逆に氷室の肩を優しく叩く。吹っ切れたようなさわやかな笑顔で。

 「……頼んだぞッ! 氷室京也君ッ!」

 「……何を頼まれるというのですかッ!」

 「大丈夫、聖闘士氷室君は一度見た技は二度と喰らわないだろう?

 「……あれは無理ですッ! っていうかそれはなんのことですかッ!」

 氷室を身代わりにしようとする八雲と、必死で拒否する氷室。その様子を見ながら、
舞歌は謡っていた、目の前の2人が聞こえない位小さく、そして美しい声で。


♪〜幾千万の私とあなたで あの運命に打ち勝とう
♪遥かなる未来への階段を駆け上がる 私は今 一人じゃない
♪オール ハンデッドガンパレード! 未来の為に マーチを歌おう 
♪ガンパレード・マーチ ガンパレード・マーチ……


 ……斉唱完了。八雲と氷室は撤退不可になった。


 「……お兄様ァ…… 舞歌に隠し事をしていらっしゃったのですね……」
謡い終わった舞歌は兄にゆっくりと問いかける。

 「い、いやそれは違うッ! だから落ち着いてくれッ! 舞歌ァッ!」

 「いいえ、違いませんわお兄様……」

 兄の弁解を妹は一言で封じる。

 「……私は、私はッ! お兄様のことなら何でも知っていると信じていたッ! 今日の
越中の色もッ! 歯磨きの時何処から磨くかもッ! ご飯の時にどのおかずからお箸を
つけるかもッ! あなたは私の大切なッ! かけがえの無いお兄様だと信じていたッ!」

 「……舞歌……」

 自分の気持ちをまくし立てる舞歌と「そんなに自分のことを気に掛けてくれているのか」
的に感動している八雲を見て頭を抱える氷室。

 (そうだッ! これがあるからこの2人はッ! これさえなければッ! ど、どうして
俺が……? ……そういえば、胃薬が切れかかってたなぁ…… ヤマサキセンセに今度は
何色の薬にしてもらおうかなぁ…… ぴかぴか光るのがいいかな…… 
あ、せっかくだから俺は赤の薬を選ぼうかなぁ……)
 
 徐々に目の前の現実から逃避を始める。

 「……氷室君ッ! あなたがッ! あなたが―――ッ!」

 舞歌の突如の呼びかけが氷室を現実に引き戻す。そしてそれは唐突に訪れた。


 「あなたにッ!! あなたにアタシの苦しみが分かるか〜〜〜〜ッ!!

  喰らえッ!! 

  愛とォッ!!

  怒りとォッ!!

  憎しみのォォォォoooooッ―――!!」

 舞歌の右手の光が収束し剣を形作るッ! そいつに触れることは死を意味するッ! 
それがッ! それがッ!! 『舞歌48の必殺技』の一つッ!!! 


 「な……何故に俺ですか?」

被害者の意向は無視して話は進むッ!





 『シャァァァァァァァァイニングゥ! マァァァァイカッ!!』
 


 声優本人も舌を巻くほどの見事な関ボイスで氷室に飛び掛るッ!





 そして手の剣は突如、ドリルに変わるッ!




 『ドォォォリルッッッ!! アタァァァァクゥッ!』


 そして声もこれまた見事なキートンボイスへと変化し、氷室めがけてドリルを突き出すッ!

 「な、何でこの俺がァ―――ッ!」
 
 理不尽な死に方をする悪役の様な叫びを氷室があげると同時に、ドリルが氷室の胸元に突き刺さったッ!

 
 『……爆発ッ!』



 舞歌が秋元ボイスで呟くと同時に、氷室は10点満点の車田ぶっ飛びで放物線を描き、落下した。

 「な……何故にドリル? そして何故俺は空を……?」

 と呟いて……

 「……うむッ! 見事なりッ! 舞歌ッ!」

 感涙の涙を流しながら、八雲は舞歌を手ばなしで褒め称える。

 「見事な声ッ! そして最後はドリルッ! わが妹ながら見事であったッ!」

 「お兄様…… 申し訳ありません、私ったら何て事を……」

 兄の賞賛に可愛らしく頬を染めながらもしおらしく兄に謝罪する舞歌、

 「いや、お前に隠し事をしてしまった私が悪いのだ…… 済まなかったな、舞歌。」

 「お兄様……」

 「あ、あれが『にんげン』なのかッ……? ならば俺は「草」のままで良いッ……!」

 駄目兄妹のやり取りを聞きながら、池上調で呟いた氷室はそのまま意識を失った。







 「……それで草壁閣下は、明日の『会合』への出席をお前に対して要請したのだ。」

 ようやく落ち着いた執務室で、八雲は事の顛末を舞歌に対しせつめ……もとい
話していた。ちなみに「説明」の2文字は禁断の召還呪文として、木連法で使用が
禁止されている。

 「それは分かりましたが…… 何故そこまでおにい・・・・・・司令はお悩みなのですか?」

 舞歌は自分の疑問を率直に尋ねた。自分の兄がたかが会議ごときにここまで悩む筈が無いとは思いながら。

 「……それはだな……」

 思い出すだけでも吐き気がする、そんな苦悶の表情を浮かべながら八雲は話し出す。

 「草壁閣下も私以外の四方天もみんなマッパなんじゃよー!!」

 「はあ……」

 突然、血涙を浮かべて妹に訴えかける八雲。舞歌は「マッパ」の意味が分からず
訳がわからないといった様子で兄を見た。

 「だーかーらーァッ! 皆素っ裸なの! 『スペインの情熱』が剥き出しなの!
それで最初から最後まで会議をするの! しかも密室で! 閣下はこれを
『お互いの信頼のためだ』とか言ってるけど! ボクはもういやなの!
挙句のはてにかいぎのぜんごにはみんながボクをみてはぁはぁいってるし!
そんなトコにまいかをいかせたくないの!!」

 ぜぇ……ぜぇ……と荒い息をつきながら一気に話し終わる八雲、木連の智将をも
幼児化させるほどの威力がその場所にはあるようだ。

 「……そう、そんな事があったの…… 何も知らなかった舞歌を許してね……お兄様……」

 優しく兄の頭を両手で抱きながら、舞歌はそっと兄に囁く。

 「ま、舞歌……?」  

 その言葉に八雲の目に正常な光が戻る。

 「……要するに、その場所では何も『身に付けてはいけない』のね? お兄様?」

 兄の頭を抱いたまま、何かを考え込むようにして舞歌は尋ねる。

 「……あ、ああ…… その通りだ。」



 ♪むりすーんな むりすんーな 呼ばれたら ハイ! お返事ッ!
 

   どこからかタンゴ調の歌が聞こえてくる中、舞歌はさらに思案にふける。



 ♪〜オイラは花のおちこぼれ!



 「閃いたわッ!」

 歌(1番のみ)が終わった直後、舞歌は大声を出した。

 「……何がだい? 舞歌?」

 歌の懐かしさに思わず聞き入ってしまっていた八雲は、唐突の妹の言葉に嫌なものを感じつつも、一応聞いてみた。

 「『こんなこともあろうかと』用意していたものがあるのよッ! くううぅーッ!
苦節2X年、ようやくこの台詞を言う事が出来たわッ! これなら私が行っても何の問題も無いわッ!」

 「そ、そうか……」

 舞歌のテンションに半ば呆れつつも、とある事に気がついた八雲は真面目な顔になって、妹に注意を促す。

 「……分かった、『一度決めたら邪魔するものは神をも殺す』お前の事だから最早心配はしない。」

 内容がちょっと引っかかったものの、いつに無く真剣な兄の表情を見て次の言葉を
待つ。無論、内心では(ああ、お兄様ぁ……)とハートマークが竜虎乱舞している。

 「だが、間違っても草壁閣下や他の四方天と事を構えるような事態を
起こすんじゃないぞ。……今の木連の上層部は微妙なバランスで成り立っている、
……ご先祖が見たら嘆かわしいだろうがな…… ここでこのバランスを崩して
しまったら、勝てるはずの地球との戦争も勝てなくなる。私達木連軍部は
『木連に住む人々のため』に戦うのであって、『一部の上層部』の為に戦うのではない。
……まずは地球との和平を構築し、その上で皆が平和に暮らす事の出来る世界を
模索しなくてはならないだろう。……頼むから、つまらない挑発には乗らないでくれよ、舞歌。」

 「……分かっております、司令官閣下。」

 兄の木連に対する思いに感動しながらも、舞歌は敢えて『軍人』口調で応じる。

 「うむッ! 頼んだぞッ! 東 舞歌ッ!」

 八雲も軍人口調の中に、妹への最大限の思いを込めて返事を返す。
それから数分後……

 「……では、飛厘と対策を練るため、失礼致します。……明朝10時に
『あの』場所でよろしいんですね?」

 「……うん、そこからの手順はさっき話したとおりだからね。……気を付けるんだよ、
舞歌……」

 明日の段取りについて打ち合わせた後、舞歌と八雲はいったん別れの挨拶を交わす。
パタン と舞歌が退出した後にドアが閉じられると、八雲はまだ床で再生途中の
氷室の傍に屈みこみ、優しく手をかざして一言「バディアルマ」と呟いた。

 ……突然、全身から「まだ残っていたのか」と思わせるくらいの血が氷室の体から
噴出した。その様子を見て八雲は少々考え込み、はたと何かを思い出したように
今度は「マディ」と呟いた。すると氷室の体から出血が止まり、苦悶に満ちていた
表情が穏やかなものになる。

 「……済まなかったね、氷室君。明日にでも大盛りねぎだくギョクを奢らせて貰うよ。
もちろん、御新香とけんちん汁もね……」

 その言葉は氷室には当然聞こえず、執務室の時間は穏やかに過ぎていった。

 




嫌動戦艦 ナデシコ『風』馬鹿ストーリー


「マーダーライセンス北」外伝

第XX話 「季節はずれのお祭り騒ぎ? 目標はテンカワアキト!」



※この作品は黒サブレ様の許可を頂いております。
※この作品の作風に関しては、WRENCH様の許可を頂いております。



 




 氷室が戦いで倒れたその翌日、東舞歌は「北辰スイミングスクール」の前にいた。

 「この『場所』にこんな形で来る事になるとはね……」

 それだけ呟き、建物の中に足を踏み入れる。しばらく周囲の様子を伺いながら歩きつつ、更衣室を目指す。

 ……5分ほどして更衣室を見つけた舞歌は周囲に人が居ない事を確認してから中に入る。……さすがに他の女性は居ないようだ。……かつて、この場所は木○スイミングスクールと呼ばれており、若い男女のインストラクター(何故か二人一緒には出てこない)とちょっとHな老人の3人が勤務していた。
 ここには木連の少年少女や若い男女、有閑マダムが頻繁に練習に訪れ、正月には男女別の木連大水泳大会(ポロリもあるよ)も開催されるという、 由緒ある場所だったのである。
 しかし2年前に四方天の一人である北辰がここを買収し、改修工事が行われた後は草壁直属の親衛隊がここを拠点に訓練を行うようになった。勤務していた三人の行方も分からずじまいであった。……それからはここを利用する一般客は居なくなったのである。

 (ここで着替えるのも懐かしいわね…… 小さい頃はよく兄様に連れてきてもらったわね……)

 懐かしさに浸りながらも着替えを行う前に、監視カメラや盗聴装置の有無を確認する。
小学生の時に兄と2人で泳ぎに来て、帰りにかき氷を食べて帰ったあの頃の場所とは違う。
もはやこの場所は東家の人間にとっては「敵地」も同様になっていた。
 何も仕掛けられていないと確信し、入口のドアの鍵を掛けた上で作者が描写する間もなく、水着への着替えを完了させる。
……最終的には何も身に付けないとはいえ、その場所に行くまでの準備は必要だと考えたからである。

 (さてと、後は飛厘が用意してくれた「コレ」次第ね…… 今更だけど大丈夫かしら?

 予め持ってきていたリュックサックから本を1冊取り出し、ロッカーの隅に置いておく。
その動作で全ての準備が終わったらしく、舞歌はドアを開けプールに向かって歩いていった。
……残された本の表紙には、「がーでぃあん Hear○s」と書かれていた。
 



 水が張られたプールの前についた舞歌は、周りに人が居ないかを確認した後にプール内に飛び込んだ。
そして潜水しながら、プールの底のある場所を目指す。
5秒ほどでプールの底にある奇妙なマンホール状の蓋の上にたどり着き、蓋の表面に付いたテンキーに暗証番号を入力した。
音も無く開いた蓋の中から、内部へと入ってゆく……
 ……プールに飛び込んで数分後、舞歌はとある扉の前に立っていた。一旦深呼吸を行い、
身に付けていた水着を脱ぎ始める。一糸纏わぬ姿は………………とても綺麗であった。
筆者に詳しく描写する能力が無いので、一つ舞歌の容姿についての証言を掲載すると……

 優華部隊所属 K.Tさん(仮名)
 「ええ、時々お風呂でご一緒させて頂くのですが、同じ女性から見てもとても羨ましく思えます。
やはり、地球から密輸してお使いになってらっしゃる矯正下…………(以下音声途絶)」

 ……と言う事である。

 上の状況には関わりなく、舞歌は淡々と作業をこなしている。脱いだ水着を
リュックサックに仕舞い、代わりに3つの小さな球状の物体を取り出す。その球体は
何故か舞歌の手の上から音もなく浮き上がり、彼女の周囲を守るように止まった。

 「よし、後はこれで準備完了ね……」

 舞歌はそう呟くと、再度リュックに手を伸ばし中から小型の通信機を取り出しスイッチを入れ、小声で話し始めた。

 「……こちらマサル、当方に迎撃の準備あり。そちらはどう?」

 『……こちらメソ。核……ゲフン!ゴフン!え〜っと……『装置』の準備は完了です。まい……いやマサル。』

 通信機から返事が返る。

 「……結構です、これからパーティーを始めます。お客様を失望させないよう、
ちゃんと牛鮭定食ギョクを用意してね。……以上で通信を終わります、では」

 『ラバーメン!』

 舞歌は通信を終え、スイッチを切った上で再びリュックにしまう。通信機の見た目は
女性が使うコンパクトのような外観をしているので、そうそう分からないだろう。
そう考えながらも彼女は髪の毛を整え、深呼吸をした上で目の前の扉に手を掛ける。

 「何を考えているかは知らないけれど、この私を舐めて貰っては困りますわ、閣下。
……! それじゃ逝くわよッ! 蒸着ガァーツ!」

 宇宙刑事ギャバン東舞歌が コンバットガーディアンスーツを蒸着するタイムは、
わずか0.05秒にすぎない。では蒸着変身プロセスをもう一度見てみよう。

「ガァーッ!」 舞歌がキーワードを叫ぶッ!

「リョウカイ・ガーディアンスーツ・デンソウ・シマス」 その魂のキーワードを
認識したメソ飛厘がデータを転送ッ! 核……もとい『装置』が光のエネルギーを生み出し、舞歌の体を覆うッ!


 ……舞歌が叫んだ後一瞬強烈な光が通路を満たしたが、すぐに光は消え去り舞歌の姿だけが残された。

 「……ぶっつけ本番の割には上手く逝ったわね、飛厘にはけんちん定食を奢らなきゃね。
…………さて、邪悪なドン・ホラー草壁ッ!このアタシに萌え狂うが良いわッ!」

 そう言いながら扉を開ける。舞歌の目の前に4人の漢が座っているのが見えた……!


 



 「……遅いですな、彼女は。」

 舞歌が「メソ」と通信を行っている頃、四方天の『南』となり木連の行政全般を
担当する南雲義政は、誰に話し掛けるでもなく呟いた。プロテインを服用した
若い頃からの修練の賜物によって、その体つきは一言で言えばとてもごっつい。

 「……それはそうでしょう、私だって未だに慣れない部分があるのですから……
女性がここに入るのには相当な決意が必要かと思いますし、……案外今ごろは新しい
自分を発見する怖さと恍惚感に悶えているかも知れませんぞ?」

 自らの髪の毛をいとおしげに触りながらも南雲の呟きに反応したのは初老の男。
四方天の『西』を名乗る木連の財政担当の西沢学であった。若い頃から軍部でも
補給や人事等の後方担当であったため、普通の同年代の男性と変わらぬ体つきである。

 「……ふん、年○女の体如きに興味はない。……閣下、何故八雲を今回は
呼ばれなかったのですか? あ奴の方がよほど見る価値があると思いますが……」

 ……八雲が聞いたら又子供帰りになりそうな台詞を喋ったのは、北辰。
四方天の「北」を名乗る暗殺者である。ボディビルダー顔負けの強靭な筋肉と
ギャランドゥに無数の傷跡に覆われた肉体から、独特の迫力を発している。

 「……お前の気持ちは十分に理解できるが、これは東家に対する試練であるッ!
舞歌には我々木連の『裏』の部分を実際に見せなければならん。……奇麗事では
済まされない部分が政治にはあるということを分かってもらわなければな……」

 北辰を宥める様に話すこの場に居る最後の漢、それが木連首相である草壁春樹中将で
あった。元々単なる避難民の寄せ集めであった木連を一つに纏め上げ、地球に対して
宣戦布告を行える状況にまで復興を成し遂げたのは、彼の政治・軍事手腕と地球の
一般財界人が敵わないほどの経済感覚が大きい。その手腕で首相の座に就任し、
「木連中興の祖」として名を馳せている。

 「……そうなのですか? 私にはいつもの策の延長にしか見えませんが……?」

 すかさず西沢が草壁に対して質問する。その瞬間、草壁は西沢を鋭い目つきで
貫いた。その視線に驚いた西沢の体が小刻みに震えだす。加えて何処からか
エレキギターのやかましい演奏が始まった。その鼓膜に突き刺さるような演奏は
西沢だけでなく、草壁以外の3人の耳に聞こえてくる。

 (ま……拙い。気まずい雰囲気だッ! か、閣下にお仕置きを受けるのか?
あ、『アレ』だけは嫌だッ! な、何とか誤魔化さないとッ!)

 恐怖に震える西沢を一瞥した後、しばし考え込む草壁。10秒ほど考えに耽っていたが、
その体が震えだす。その様子に不審を感じた西沢と南雲であったが、今の草壁から
発している気まずい雰囲気のせいか、提案する事が出来なくなっている。

 「そうだッ! さっきのは建前だッ!」

 エレキギターの演奏が止むと同時に、草壁は大声で叫んだ。
ちなみにこの部屋は防音仕様なので、外の舞歌には聞こえなかった。

 「これは偉大なる計画の第一歩だッ! そうッ! 我々が八雲から『兄やん』と呼ばれるためのなァッ!」

 立ち上がり、両手を腰に当てて絶叫する草壁。それを聞いた西沢は顔に縦線を
10本ほど浮かべ、南雲と北辰は驚いた表情で草壁を見る。

 「なるほど、草壁様はそこまでお考えでしたか…… 私はまだまだ未熟、未熟ゥッ!」

 己の不明を恥じ、涙を流す南雲。

 「……『将を得るにはまず馬から』か…… 我が外道の道もまだまだ先は長い……」

 草壁の言葉に感服した様子で、北辰が呟く。

 「……そうだッ! 憎っくきあの年○に反逆の意思を持たせッ! わざとクーデターを起こさせッ! 
鎮圧した後にあの女は○○屋にでも○めるッ! これで八雲の生殺与奪は我らの思うが侭ッ! 
見たかッ! 我が深謀遠慮をッ!」

 「「うぉぉぉッ!! あ、あンた最高じゃーッ!!!」」

 駄目熱血トークを繰り広げる草壁と、感動のあまり涙を流す2人の肉ダルマ。
その光景を見ながら西沢は、今夜の晩酌で何を飲もうかを考えていた。
 ……とその時、入口のドアが開く気配を、西沢以外の3人はそれぞれ額から光を発しながら察知した。
3人がすぐさま表情を改めた途端に、マクー駄目空間は消え去り、重苦しい雰囲気が漂い始めた。

 「……遅れてしまってすみませんですぅ。やくもさんのかわりにあずま まいかが、参上いたしましたぁー。」

 凛としていない舞歌の声があまり広くない部屋に響き渡る。

 某電子の妖精を彷彿させるツインテールッ! 漢心を奮わせるニーソックスッ!
胸元と両腕に付いた謎のクリスタルッ! 何故かバスト部分が強調されているッ!
そして何故か下半身部分はレオタード風にッ! 最後はオプションで装着したメガネッ!
……無論、おでこは丸見えだァッ!
……これ以上の描写は上手く描写できないのでご容赦いただきたいッ!

 これがッ! 宇宙刑事ギャバン舞歌の真の姿であるッ!かも知れない


 「……何の冗談か……? 東 舞歌……! ここの掟を知らんとは言わさんぞ……!」

 静かに殺気を出し始めながら北辰が舞歌を睨みつける。

 「え…… こ、これは……キャッ!」

 普段とは違う声色で何か言いかけた舞歌であったが、突然何もないところでスッ転ぶ。

 「「!!」」

 その姿に草壁と西沢は思わず息を飲んだ。

 「……い、痛ッたーい! ……あ、あれッ? メガネはどうしちゃったかなあ……?」

 「「!!!!!!!!!」」

 転んだ拍子にメガネが額にずれた事に気づかずに辺りを探し始める舞歌、もちろん、
目の形は数字の3の逆である。草壁、西沢両者の目は次第に充血を始める。

 「……貴様…… その年でコスプレだと…… それに年齢不相応の声……!我らが
外道道を汚しおって……! その身をもって己が罪の重さを知るがよいッ!」

 北辰が立ち上がりながら静かにメガネを探しつづける舞歌に近づいてゆく。
身に付けたスペインの情熱も次第に戦闘体制をとり始める。

 「い、いやーッ! う、うらすじってこんなにばっちりなのーッ! す、スペインの
情熱が、上がっていく……!?  あ、南雲さんのが大きくなったり小さくなったりしている。
大きーい。薄けしかなあ。いや、違う、違うなあ。薄けしならはもっとバーッとみえるもんな……」

 初めは素に戻った声で声で嫌がる舞歌であったが、後半の台詞は飛田ボイスを
再現させつつ、静かに壊れていく……

 「笑止、そのような駄ネタに惑わされるものか……!」

 弾丸発射準備を完了させたスペインの情熱を構え、ギャランドゥを蠢かせながら北辰は
舞歌の目前にまで迫った。女性格闘家をさば折りにする力士の如く舞歌に手を伸ばす。

 「……もう良い、北辰……」

 何故か「めぐりあい」を小声で歌いながらうずくまる舞歌を、血の涙を流しながら
凝視していた草壁が、北辰に命令を下した。

 「しかし閣下……! 冗談はともかく、これでは我らの信頼が……!」

 北辰はなおも食い下がる。彼の脳裏には、かつてこの部屋に来る立場にありながら、
信頼を裏切った事によって北辰自ら生命を絶った漢達の顔が浮かぶ。

 「……青山、矢吹、高橋、椎名、ボブ、貴、ニック…… ここでッ!草壁様が
掟を破る事になればッ! 彼らに何と申し開きをするのですかッ!」

 普段の時代劇めいた雰囲気はどこへやら、大映時空めいた雰囲気を醸し出しながら北辰がマジ顔で草壁に叫ぶ。

 「……大丈夫ッ! 『信は力なり』だッ! 北辰ッ! お前も漢字の書き取りでもやるか?」

 その時空に囚われたのか、草壁は滝沢ボイスで北辰に応える。

 「……閣下…… まさか……」

 急に素に戻って北辰が愕然と呟きながらも考えを巡らせる。どうやら舞歌の格好と
言動が、草壁の浪漫回路にバックスクリーン直撃級のホームランを与えたようである。



 ガァーツ(ガーディアンハーツ)のひ○たん
  +
 メガネ
  +
 ドジっ娘
  +
 なぜかおでこがでている
  ↓
(草壁にとっての)完・璧・超・人・完・成



 「……流石だな…… 東 舞歌…… 今日の所は109対0で我の完敗だ……」

 急に吹っ切れた表情になって呟く北辰、その表情に先程までの怒りはない。己の外道の道にまた一つ一里塚が刻まれた、そんな気分であった。

 「ところで……彼女はこのままにしておいて宜しいのですか?」

 周りの者が今まで見たことも無い程の満ち足りた表情をした西沢が、誰にともなく尋ねた。

 「そのままにしておくがいい。……今回は我の負けだが、いつか必ず奴から『兄くん』と呼んで貰うわ…… 」

 「かしこまりました。……ところで、写真を撮っておいてもよろしいでしょうか?」

 草壁の指示を了承しつつも、自ら提案を行う西沢。

 「うむ、撮っておけい。……全方向からまんべんなくだぞ、後は眼鏡の『つる』がばっちり入ったアングルも頼む。」

 自らの確固たるこだわりを含めて草壁は指示を下す。その指示を受けて写真を
撮り出す西沢、未だ己が外道について思いを馳せる北辰、そんな3人からおいてきぼりに
されていた南雲が、とあることに気が付く。

 「草壁様! そろそろお時間ですぞ!」

 「……そうか、私としたことが我を忘れてしまったな…… 南雲、準備を頼む。」

 草壁の命を受け、本田先生南雲は先生は、かばんから装置を取り出した。
部屋の北側の壁に向けて、スイッチオン装置のボタンを押す。

 音もなく壁からモニターが現れ、画面にはちょび髭を生やした眼鏡男の姿が映し出された。意味もなく笑顔を浮かべている。

 「……木連の最高指導者であらせられる草壁閣下ですな。こちらはネルガルの火野
……げふんッ! プロスペクターと申します。こうしてお会いすることができて
光栄の極みですな。」

 西洋スーツプロスペクターと名乗る男が挨拶をする。

 「……草壁に挨拶は無用だ、用件を言え。」

 先ほどまでとはうって変わり、冷徹な表情で草壁はプロスペクターに答える。

 「なるほど…… それならば話は早いですな、早速こちらの要件をお伝えいたししましょう。」

 笑顔を消し、こちらも厳しい顔つきになったプロスペクターが話し始める。

 「……ご存知かとは思いますが、当地球の英雄でもある『テンカワアキト』のマスケット銃に『牙』を突き立てて頂きたい(ピカッ)!」

 なまめかしくも微妙に左右にずれた視線をしながらプロスペクターが言い終えた時、雷光が走ったような衝撃が木連側に走った。

 「……『漆黒の戦神』に『牙』をか……」

 誰に話すわけでもなく、草壁が呟く。

 ……地球との開戦当初、木連側は圧倒的に優位な立場で戦争を進めていた。
通常のビーム兵器を無効化する能力を有した無人兵器の大量の戦線投入が、
無人兵器を持たない地球側の戦力をずたずたに引き裂いたのである。
 木連側は制宙権をほぼ入手し、あとはじわじわと地球との戦力比を拡大するだけに思われた。

 その戦況を一変させたのが、テンカワアキトと彼の乗る戦艦「撫子」である。
木連側からは地球側の単なる試験型戦艦と思われていたが、テンカワ率いる
人型兵器部隊は木連無人兵器をたやすく撃墜していった。
 この撫子出現を機に、地球との戦争は徐々に膠着状態に陥っているのが現状である。
木連側も撫子に対し様々な謀略を用いての撃墜を試みたものの、全てが失敗に終わり、現在に至っている。

 「……しかし、『マスケット銃に「牙」』を突き立てるとは何か?」

 沈思に暮れる草壁をよそに、北辰がプロスペクターに尋ねる。

 「そう、そこなのですよ最大の問題点は……」

 本当に困った様子でプロスペクターが呟く。

 彼いわく、テンカワアキトは戦闘面では頼りになるものの、それ以外の
面ではネルガルや地球にとって扱いに困り果てているというものであった。
 今のナデシコは主な女性クルーは全てアキトに忠誠?を誓っており、ほとんど
ハーレムと化しているのが現状であるという。そのハーレムの中にホシノ・ルリと
ラピス・ラズリという少女がおり、彼女たちの力でネルガルの株式の半数以上が
テンカワ名義になっており、又他の企業や連合政府も同様に株式やスキャンダルを
握られているというのが今の地球の現状であった。

 「ぬぅっ! そんな幼女までもハーレムに…… うらやま……もといそのような奴はさっさと塵にしてしまうわッ! この我がッ!」

 怒りに震えながら北辰がそう呟く。

 「いえいえ、事態はそう簡単なものではありませんので、これが。」

 プロスペクターは北辰を宥める。

 「……仮にテンカワさんを暗殺した場合、暴走した彼女たちがどのような行動を取るのかが予測できないのです、これが。」

 プロスペクターはさらにアキトを殺せない理由を話す。

 「テンカワさんのハーレムに所属している女性たちは『同盟』を名乗る
各分野のプロフェッショナル集団でもあるのですな、彼女たちを有効に使うためにも
テンカワさんを殺すわけにはいきません。そのような訳でテンカワさんと
彼女たちの力が必要でもあるのですな、今の我々には。」

 「……それは我らを根絶やしにする為にテンカワを生かしておくのか?」

 南雲が皮肉げに呟く。

 「とんでもない! 地球はともかく、我々ネルガルは木連さんとの友好を望んでおりますので、ハイ。
 ……商売をするには戦争も良いですが、購買人口が減ることは長期的にネルガルには不利益になりますからな。」

 しれっとした態度でプロスペクターは南雲に答える。

 「……それはありえんな、我らが正義は地球やネルガル如きに分かる物ではない。
ましてや我らに多大な損害を与えた撫子に乗る者の依頼を大人しく聞くと思ったか?
こうして話を聞いただけのことで、交渉の第一歩と思うのは愚者の発想だな。」

 「……しょうがありません、先に報酬の話をした方が宜しそうですな。」

 草壁の宣言に対し、報酬のことを話し出すプロスペクター。

 「えー経費でこの程度、任務遂行者に対する各種保険、これを原価にして利益率を
これ位と考えまして……この位ではいかがですかな?」

 木連側に見えるように電卓を操作し、とある金額を算出するプロスペクター。

 「……愚かな…… ゼネで『牙』を使おうとするとは…… 所詮愚かな地球人と言う訳か。」

 提示された金額を見ようともせずに南雲が吐き捨てる。

 「……そうですか…… このように追加ボーナスもご用意させていただいたのですが、
お気に召しませんか……いや残念、それではしょうがな……」

 「「……ちょっと待てィ!」」

 草壁と北辰が慌てて、右手に電卓を持ち左手にとあるパッケージを2つ持っている
プロスペクターに叫ぶ。そのパッケージには、様々な女性や女の子が描かれている。
……「月媛」、「初留守」とタイトルには書かれている。

 「……ま、まさかシ○ル先輩だとォッ!」

 「し、し○りタンだとォッ!」

 草壁と北辰がほぼ同時に絶叫する。木連で言い伝えられる「失われた13聖典」の内の2つだと分かったからである。

 「草壁様ッ! あの聖典がそう簡単に見つかるはずがありませんッ! 
きっとこれは我々を使おうとする卑怯な罠に違いありませんッ!」

 周りを気にせずにひたすらモニターを凝視する二人を止めるべく、南雲が警告を発する。

 「おお、そうでした。こんなものもありましたかな……」

 そんな南雲を一瞥した後に、器用に3つ目のパッケージを画面に映す。
そのタイトルは「砲」であった。

 「ぬうっ! あ、あ○たんとはッ!」

 南雲要塞……沈黙。

 「ネ、ネルガルよ……」

 西沢も負けじと声をあげる。「傷跡は無いのか?」そう言いかけたが

 「煩いわッ! 黙っておれッ!」

 草壁からテンプルへのコークスクリューブローを受け、あえなく沈黙した。

 (お、おのれー)

 草壁以下3人への気持ちが「運命の敵」になるのを感じながら、西沢の意識は薄れていった……

 




 「……そうすると、テンカワ アキトのマスケット銃の根本を絶てばよいのだな?」

 その後ネルガルの依頼を受ける方向で話は進み、北辰が最終確認を行っていた。

 「そうなりますな。ただし、戦闘機能自体は残しておいて頂かないと……
同盟の女性たちのコントロールがつかなくなりますからな、その点は遵守して頂きたい(ピカッ)!」

 背後に雷光を発生させながら、プロスペクターが答える。

 「……その点は問題ない。ただ、最後に確認しておきたい。先ほどの報酬はきちんと払うのだろうな?」

 草壁が改めて確認する。

 「はっはっは、ペテン師は口で勝負するものですが、我々資本家は金と誠意で
勝負するものです。きちんとその場でお支払いいたしますよ。」

 プロスペクターも約束する。

 「……承知した、後は我々に任せるが良い。……では結果を期待するがいい。」

 草壁が答え、南雲が通信を切る。

 「それでは、草壁様……」

 「……うむ、早速『北』を突き立てろッ! 我らが正義と栄光のためにッ!」

 草壁の命を受けた北辰は音もなく消えた。それをみて草壁は南雲と共に部屋を後にする。
……静かにガン○ムメドレーを口ずさむ舞歌と、耳から血を流して痙攣する西沢を残して……

 




 「……ここが撫子か…… 早速行動を開始せねばな……」

 北辰はそう呟くと、頭から火星遺跡から発掘された「てんいのかぶと」を外し、どうぐぶくろにしまった。

「まずはテンカワアキトに接触せねばな…… まあ、すぐに見つかるだろうがな。」

 そう言いながら、体中に氣を巡らせる。体中に氣が満ち渡るのを確認すると、北辰はその場を後にした。


 



 「……で、捕獲したのがこの人ですか。」

 それから3分もしない内に、北辰はネルガルSS(シークレットサービス)に捕らえられ、尋問室に連れて行かれた。
部屋にはプロスペクターとSS現場指揮のゴート・ホーリーがいる。プロスペクターに確認され、ゴートは無言で頷く。

 「ふむ、中々殺気の篭った目つきですな…… 我々では危険すぎますのでここは
テンカワさんに尋問をお願いしますかな。」

 「それは構わんがミスター、我々で尋問しなくても良いのか?」

 早々とアキトに任せようとするプロスペクターに、ゴートは一応確認する。

 「勿論です。こんな怖そうな方を尋問なんて私には出来ません。あ、テンカワさんに繋いでください。」

 ゴートに通信回線を開いてもらうプロスペクター、3分ほどしてアキトとの回線が開いた。

 「……どうしたプロス、このオレを呼び出すとは…… 変な用事なら……分かっているだろうなァ?」
 
 札束が沢山入った浴槽の中からアキトがモニター越しに話す。
……アキトの両隣にはホシノ・ルリとラピス・ラズリがいる。
その様子は…… 大人の雑誌によく掲載されている「幸運のお守り」の広告にある「成功者」の様であった……

 「いえいえ、先程この侵入者を捕らえまして…… アキト様に尋問して頂きたく通信を差し上げた所存でございます。」

 木連に通信した時以上に恭しく返事をするプロスペクター。

 「……ふん、中々殺気の篭ったいい目をしているなァ? よし、10分後に行くから、俺の部屋に放り込んでおけ。」

 自分をすぐにでも殺しそうな怒りの篭った視線を北辰から受けながらも、アキトは平然と指示を下す。

 「畏まりました……では、これにて。……ゴート君、早く行きますよ。」

 アキトとの通信を終了し、プロスペクターはゴートと共に北辰を運ぶ。

 (ふむ……さすがは木○一族の血を継ぐ者ですか…… これなら上手く行きそうですな。)

 内心でそう考えながら……




 それから15分後、北辰はアキトと対面していた。バスローブを羽織っただけのアキトが北辰に近づいていく。

 「ふん、何が目的でここに来たんだァ? 素直にしゃべれば手荒な真似はしないんだがなあァ……」

 アキトが嘲るように北辰に喋る。

 (○女を二人も侍らすとはッ! この外道は殺したくらいでは飽き足らぬが
仕方が無い…… せいぜい殺さぬ程度にいたぶってくれるわ……)

 北辰は一言も発しない。今の彼の心には怒りが渦巻いていた。頭の中では
どの様にこの男を料理しようか、それを考えていた。

 「……私の負けだ。何も話さぬから、そちらの好きにするがいい。」

 アキトへの仕置き方法を決めた北辰はアキトにそううそぶく。

 「ヒャーッハッハッハーァッ! 初めのうちは皆そう言うんだがなあッ!
 その内俺のテクに参らなかったはいねェ! 天国に連れて行ってやるから、気が向いたら話すんだなァ!」

 世紀末覇王伝説に登場する雑魚チックな話し方で、アキトは北辰にそう告げる。

 「……顔は泪姉似か……今まで見てきたの中でも胸はいいカンジじゃねェか。
……おっとここもチェックしねェとな。何を持ってるか分からなねェからな。」

 そう言いながらも手をわきわきさせながら、アキトは北辰の下半身に伸ばす。
そこの感触を確かめるつもりであったが、突如手に感じた異物感に思わず硬直する。

 「な、なんだァ? この感じはァ?」

 女性の体ではありえない感触に、思わず越前ボイスで喋るアキト。

 「くっくっく、我が術に驚いているようだな…… 愚かなり未熟者よ……」

 素早く手の拘束具を外し、硬直するアキトを哀れみながら、北辰がゆっくりと
立ち上がる。そして、先程の術とは異質の氣を体に巡らせる。

 その瞬間、爆発的な筋肉の収縮と反発が発生し、完全に女性の顔つきと体格だった北辰の体が
屈強なボディービルダー男性のそれへと変貌を遂げる。胸を厚く覆うギャランドゥッ! 
「ありんこ」が出来そうなスネ毛ッ! どこから見ても
デビルガンダム最終形態パーフェクトな戦士だッ!

 「あ、ああ……」

 自身を襲ったあまりの衝撃に、アキトは声が出ない。

 「目には目をッ、外道には外道をッ! 喰らえイッ! 我が奥義ッ!」

 間髪を入れずに、北辰はアキトに攻撃を仕掛けるッ!



 「ひとつッ!」 そう言いながら『ダブルバイセップス・フロント』を決めるッ!
 腕の筋肉と上半身を強調するスタンダートなポージングながらもその実力が如実に 現れるポージングッ!

 「ふたつッ! みっつッ!」 続けて一気に『サイドトライセップス』から
 『アドミナブル・アンド・サイ』への連係をアキトに叩きつけるッ!

 「よっつッ!」 『サイドチェスト』を決めるッ! ……気の毒だがッ!、今のアキトに大気圏突入戦闘機能は付いていないッ!

 「いつつッ! 奥義ッ! 五光ざーんッ!最後の決め技は、ポージングで
最も最強とされる物、『モスト・マスキュラー』であったッ!



 おふぅぐふうッ!」



 ボディビルのポージングをされただけなのに、アキトの体は冒頭の氷室と同じく
車田ふっ飛びで宙を舞い、地面に叩きつけられた。

 「ふっ…… この奥義を見て生き残ることは聖闘○でも不可能であろう……さて、仕上げに入るとするか……」

 白目で気絶するアキトを見ながら、右手を掲げる北辰。……その掌に突然目が現れた。

 「さて、我からの進呈物だ……達者で暮らすが良い……」

 そのまま北辰は右手をアキトのマスケット銃の弾装に近づけ、それを握り締めた。
5秒ほど握り締めた後に、その手を離す。……するとどうだろうか、アキト自身の
弾装にも同じ目が付いていた。……アキトは気絶したままである。

 「……任務完了」

 緑川ボイスで呟くと、北辰はその場から姿を消した。

 


 「いやー、お見事ですな北辰さん。……先程テンカワさんの検査を行ったのですが、
見事に生殖機能が死んでおりますな。おまけに精神的にもかなりのダメージを
受けている様ですし…… ネルガル社員としては不謹慎ながら、嬉しい気分ですな。」

 それから30分後、ここはプロスペクターの私室である。普段からよほどの仕打ちをアキトから
受けているのか、プロスペクターは爽やかな笑顔で北辰に話しかける。

 「契約でやったことだ。……我々と貴様等は戦争をしていることを忘れるのでない。」

 表情を崩すことなく、北辰が淡々と告げる。

 「まあ、『それはそれ、これはこれ』でして…… そうでしたな、報酬ですがゼネの
方は既に指定口座に振り込ませて頂きました。これがその控えです、あとは『聖典』
ですな、お荷物の中に入れましたのでご確認下さい。

 「……」

 受け取った自分の荷物の内容と『聖典』のディスクの損傷具合を北辰は確認する。
10分程確認した後、どうぐぶくろからてんいのかぶとを取り出し、装備した。

 「……確認した。」

 そう言い残して北辰は兜の力を開放する。……北辰の姿は部屋から消えた。

 「ま、これで一件落着ですな…… 一人の人間が後世にまで過大な影響を及ぼす
訳にはいきませんからな…… それも悪しき影響を……」

 誰に告げるでもなく、プロスペクターは呟いた。
 





 「……先程口座とディスクを確認した。……確かに『聖典』だッ!」

 喜びを隠そうとせずに、草壁は北辰、八雲、南雲、西沢に告げた。南雲だけが
喜んでおり、八雲は無関心な表情をしており、西沢は憮然とした表情である。

 「草壁様ッ! 木連の敵である撫子一党の弱体化、それに『聖典』の復活を祝い、
ぜひ『祭り』の開催をここに提案いたしますッ!」

 興奮した面持ちで南雲が草壁に進言する。

 「……そうだな、南雲ッ! 北辰と共に早速用意をせィ!」

 草壁が決断し、西沢と八雲を除いた3人は意気揚々と草壁の執務室から出て行く。
残された二人はしばし無言であったが、先に西沢が口を開いた。

 「……東殿。貴殿は地球との和平を望んでいたはずであったな……」

 「……その様なことは考えておりません。……私は四方天の一人として、草壁様にお仕えする所存です。」

 妹以外に話すことの無かった自分の思いを聞かされ驚愕しながらも八雲は平然と返事を返す。

 「隠すことはございません。……先日、小1時間程舞歌殿と話をさせて頂きました。
私もあなた様のお考えに賛同いたしますぞ! 今はまだ難しいでしょうが、いつかきっと成し遂げようではありませんか!!」

 「……はあ。」

 突然の西沢の言葉に声も出ない八雲。……無論彼が知る由も無い。除け者にされた人間の気持ちを……
 唐突な西沢の反応に戸惑いながらも、八雲は考えを巡らせる。
 
 (理由は分からんが、木連の財政を扱う西沢殿の協力が得られる可能性が出てきたのは非常に大きいな……
 過去の事に拘るよりも、未来を見るべきこの時期にはありがたいことだ…… 
これならば血を流すことなく和平を行える可能性が増えるからな……)

 そう思いながらも西沢と八雲は意味も無く笑いあった。
舞歌とどんな話をしたのかは決して聞くまいと八雲は誓っていたが。






♪生まれて生きてッ!
♪殺して死んでッ!
♪オーライ オーライ オーライ オーライッ!
♪(オーライ オーライ オーライ オーライィッ!)

 



 木連中央大通りには花火が上がり、特別ゲストの矢○先生と女性ボーカルの叫びが
こだまする。「『聖典』が遺跡から発見された」ことを祝う 「第218回豊年ムキムキ祭り」である。

 ……マッチョな兄貴をモチーフとした山車が大通りを練り歩き、草壁直属の
アニキ衆精鋭部隊のみが参加する祭りである。中央の山車で笑顔を振りまきながら、
草壁は喜びと勝利を味わっていた……

 それから数百年後、「木連穏健派と強硬派の争いはこの日から始まった」と後世の歴史家は揃って
主張するが、当の歴史を生きる本人たちにその声は届かない……
 
 とにかく、今日の木連はおおむね平和であった。

 




 (終わります、こういうオチにさせて下さい)



 

 

 





<後書き>
 ふう。……ここまで読んで下さった方、お疲れ様でした。そして有難うございます。
……しかし、代理人様以外にいらっしゃるかな(爆)?

 それはともかく、黒サブレ様、WRENCH様、こんなのしか出来ませんでした。

 ネタ使用許可有難うございます、そしてすみません。

 ……後、舞歌・アキト、というか登場人物達のファンの方、すみませんでした(爆死)。

   
 自分では、読者層を考えないネタの配置と「小説?」としてのバランスを自分なりにとった
つもりですが、どうでしたでしょうか?

 自分的には少しでも頬の筋肉が緩んだり、元ネタに想いを馳せて頂ければ成功なのですが……

 古いものを挙げさせていただくと「あば○はっちゃく」、「ウィザー○リー」
後は「スクールウ○ーズ」、「宇宙刑事ギャ○ン」でしょうか、あとは比較的新しいかと。 

……五光斬のポージングだけはノーコメントです。
Webで調べましたが、あれ以上の描写は勘弁してください……

 こんな作品ですが、読んでいただいて本当に有難うございました。では、失礼します。
 

 

 

代理人の個人的な感想

コスプレ舞歌・・・・・・元ネタの方は知りませんけど、

「セラムンのコスをする葛城ミサト」くらい無理がありませんか?(核爆)

 

(世間様にいる〜〜なのとか○○なのとかに比べれば素材がいいぶん随分マシでしょうけど(爆))

 

 

しかしまー、毎度ながらこの手の作品を読んだ後は頭が痛い(笑)。

 

 

 

追伸

http://club.pep.ne.jp/~mikami1/bodybuilding_posing.htm

参考資料です(笑)。