>ご注意

・本作品には月姫格闘ゲーム「MELTY BLOOD」のネタを使用しております。ネタバレがお嫌な方はご注意ください。

・ナイツは登場する各キャラクターに一切の偏見、悪意を持っておりません。これはあくまで「ギャグ」SSです。その点をご理解下さい。

 

 では、お楽しみいただければ幸いです。

 

 

 

 「……何ィッ!」

 草壁の驚きの声が、彼の執務室内で響き渡った。……わずかに裸電球一つのみがかすかに部屋の中を照らしている。

 「……うむッ、早速派遣するッ! うむ…… そうしておいてくれ。……お、おい! 命令の復唱はどうしたッ!」

 顔を真っ青にしながらもそう電話の相手に言ったのだが、通話は向こうから途切れてしまった。彼は使っていた受話器を電話機本体に戻す…… 10円を入れないと使えない、昔懐かしいピンク色の電話である。

 「閣下…… 如何なされましたか?」

 草壁の顔色を気にしながらも、傍に控えていた南雲が草壁に尋ねる。

 「細かい事情は後だッ! 至急『彼奴等』を集合させいィ! 大至急にだッ!」

 「ははッ!」

 南雲に指示をしながらも草壁自身は座っていた椅子から立ち上がり『彼等』との集合場所に急ぐ。その表情は、先の戦争中にさえ見せた事の無い焦りという感情に彩られていた……


 



マーダーライセンス北X

 『暁の救出作戦』


 



 『諸君ッ! 先の戦争で鳴らした我々木連執行部は、舞歌の奴に濡れ衣を着せられ強引に地球との和平を結ばれた! 
 我々はそして! 刑務所を脱出し! 廃棄コロニーに潜った!
 しかし、ここでくすぶっているような俺達じゃァないッ!
 筋と萌えさえ通れば筋肉とか色々次第でなんでもやってのける命知らず、不可能を可能にし我々以外の悪を粉砕する、俺達、木連野郎Aチーム!』


 先程とは別の部屋で草壁が大声で『会合』の開始を宣言した。部屋の中は暗く辺りの様子は分からない

 「私はリーダー、草壁春樹中将。通称魔女にやられた男! 人心誘導とゲキガンガーの名人! 私のような完璧超人でなければ百戦錬磨のこやつ等のリーダーは務まらんわ!」

 暗い室内に突然、スポットライトが点灯し、草壁の姿を映し出した。「激我」と書かれた真紅の越中のみを着けている。

 「我は北辰! 通称外道王! 自慢の五光斬で、敵はみなイチコロなり! マッスルかまして、○女からアニキまで、誰でも落としてみせるものなり……」

 草壁の次に北辰が高らかに宣言する。己が肉体を誇示するかのように、「漢」と筆書きされたどどめ色の越中以外は身につけていない。

 「お待ちどうである! 我こそ南雲義正! 通称中ボス(DC版)! 主人公のライバルとしての腕は天下一品! 雑魚? シャロンより印象が無い? だから何?」

 南雲がDC版ナデシコを知らないと訳が分からない内容の名乗りを挙げる。「紳士」と書かれた黄色の越中を締めている。

 「東野(旧姓:遠野)秋葉です…… 通称万年2位。即死コンボとヤク○キックの天才です。必要なら吸血鬼にでも蹴りを入れてさしあげます。ですけれどナイムネと呼ばれるのだけは我慢なりません……」

 名乗りを挙げるのが慣れていないのか、顔をうっすらと赤く染めながら小声で話すのは……! 美しい川の流れのような長い髪ッ! そしてその髪を優しく受け止める白のヘアバンドッ! お嬢様・妹属性を完全に満たしたその顔ッ! 神が造形したとしか思えないその肢体を包むのは白のスクール水着! 胸の部分に大きく『しほうてん あきは』と書かれているのもポイント高しッ! 彼女こそッ! 彼女こそッ!! 舞歌亡き後(死んでません)、新たな四方天となった東野 秋葉であるッ!!!

 全員が個別に名乗りを上げた後に、改めて全員で唱和する。

 「「「「「俺達(私達)は、正義の通らぬ世の中にあえて挑戦する。 頼りになる神出鬼没の、木星野郎(乙女) Aチーム! 助けを借りたいときは、いつでも言ってくれ(下さい)!」」」」

 何故か背後で大爆発が起こる、ここが密室にも関わらずである…… 爆発が収まると、草壁は満足げな笑みを浮かべつつ椅子に座る。それに倣い、残りの三人も席につく。

 「東野…… まだ恥じらいが残っているようだな……」

 草壁が秋葉に問いただす。……その口調は優しいものであるが。

 「申し訳ありません閣下…… いまだこういう事には慣れなくて……」

 「いや、責めているのではない。ゆっくりと慣れるが良い。我等を裏切り、憎き地球側についた旧東家を超える働きを期待しておるぞ……」

 しおらしく謝罪する秋葉に対し、草壁は激励した。まるで可愛い自分の娘か孫に対する話し方である。

 「はっ、永きに渡り『東』の傍流にいた遠野家を『四方天の東野家』にして頂き、閣下には感謝の言葉もございません。……兄も病床で喜んでおりましょう……」

 1年前の「事故」から未だ目を覚まさない兄を思いながら、秋葉は草壁に礼を返す。

 「……して閣下、本日の議題とは……?」

 先程の草壁の動揺ぶりを知っている南雲が草壁に尋ねる。あの驚き様は並の事態ではないと悟ったからだ。

 「……そうだったな…… では、まずこれを見てくれ……」

 草壁はそう言いながら正面の大型モニターのスイッチを入れた。2人の少女の写真が映し出される。

 「……!!! 閣下、これは……!?」

 写真の中に5人の少女を確認し、秋葉が草壁に問う。……顔色は青くなりつつある。

 「知ってのとおり、この5人は『あの』ピースランドへ派遣した我等が優秀なスパイである。……それが先日突然解雇され、その後の行方が分からないのだ……」

 「何ですと! 『究極のメイド』の翡翠と!」

 「『至高の割烹着』の琥珀と他の者達がッ!?」

 「行方不明ですって!?」

 草壁の答えに南雲、北辰、秋葉の順に絶叫する。特に秋葉の顔は蒼白になっていた。

 「うむ…… 先程の工作員からの連絡ではそうらしいのだ。あそこには我等が怨敵テンカワ・アキトとその付属物共がいる所であるというのは、皆も知ってのとおりであろう。」

 一息置いて、草壁は周囲を見回す。

 「そ奴等に正体が発覚し、拉致された可能性もある。……この事を連絡してきた者とも通信は途絶しているのだ…… そこで北辰ッ!」

 「……承知。彼女等を助け、奴等に『牙』を突き立てましょうぞ……!」

 「うむッ! 頼んだぞッ! ……イネスなる外道学者がなにやら怪しげな実験を行っているという情報も入ってきている。……彼女達を頼んだぞッ!」

 草壁に皆まで言わせずすかさず返答を返す北辰。期待を込めて激を飛ばす草壁。

 「北辰様、翡翠と琥珀を宜しくお願いいたします。……あの子達が帰ってこないと兄も悲しみますので……」

 北辰を上目遣いかつ涙目で見つめ、懇願する秋葉。……こうまでお願いされて奮い立たない漢が居る訳が無いッ!

 「……任せておけい。そう、全ては……」

 「「「我等がビッグ・メイド様のためにッ!!!」」」

 突然、秋葉以外の3人が先程のモニターとは反対の壁に向かって起立する。……そこには「メイド服を着たゲキ・ガンガーのナナコさん」の絵が飾ってあった。その絵に向かって敬礼する秋葉以外の3人。

 「「「ジーク、メイド!!!」」」×数10回

 呆気にとられる秋葉を他所に、同じフレーズを連呼する3人。……感極まったのか、涙まで流し始めている。

 (……こんな下賎な輩に取り入らなければ兄さんを治療できないなんて…… しかし兄さんに質の高い治療をしてもらう為には、私は何でも致しましょう! ……後は琥珀が『アレ』さえ入手できれば直にでも地球に移住して……)

 秋葉の脳裏にあるシーンが描かれる。

 (そう! 目が覚めた兄さんはあの2人に囚われた私に『お前が欲しいぃ!』と叫ぶんだわ。そしてあの2人の呪縛から解き放たれた私と兄さんは愛のラブラブ天驚拳であの2人を倒し、その後そっと私の……)

 涙を流してメイド神を褒め称える野郎3人と、だんだん妄想が裏ページ行き確定進化していく秋葉。……宇宙の片隅にひっそりと存在する秘密結社・木連野郎Aチーム「火星の後継者」のいつもの光景であった。




 「……ジャンプは奴等に押さえられて使うことは出来ないが、シャトルを用意しよう。」

 「いえ閣下、シャトル等は不要です。」

 「……何? まあいい、お前なら大丈夫であろう。……ではこれをもってゆけい。『本当の』ピンチに陥った時に開けるが良い……」

 北辰を地球へ向かわせるべく、ドック内で会話を交わす草壁と北辰。その後草壁は北辰に何やら布袋を渡した。それを仕舞う北辰。南雲、秋葉を含めた全員がノーマルスーツを着用している。布袋を仕舞い終わった北辰は南雲に声を掛ける。

 「この鉄棒を頂いても宜しいですか?」

 「ああ、それは廃材だから構わんが……?」

 北辰の言葉に疑問を抱きながらも、彼が指差したマジンの動力シャフトであった直径2メートル、長さ10メートル程の鉄棒の使用許可を出す南雲。

 ズズゥッ!

 それを北辰は片手でいとも簡単に持ち上げた。呆気にとられる北辰以外の3人。

 「では、行って参ります、閣下。」

 「それで何を……? ……ともかく北辰様、戦果を期待いたします。」

 「はっはっは、焦らずとも良い…… 待っておれい。」

 秋葉のハモン様どこかの情婦めいた見送りの言葉に『緑とは違うのだよ緑とは』という名言を残した某隊長風の返事を返す北辰。

 「フッ!」

 裂帛の気合と共に北辰は持ち上げた鉄棒をエアロック出口へ向けて投げた。凄まじい速さで飛んでいくそれにすぐさま飛び乗る。あっという間に北辰の姿はドックから消えた。

 「この風…… この肌触りこそ戦争よ……」

 風など吹かない真空中を地球へ向けて飛びながら、木馬突撃前の有名な台詞を口にする北辰。あっという間に地球の姿が大きくなってきた。

 「ふん…… ピースランドへはこの進入角度で問題ないな…… 間もなく大気圏か……」

 完璧なATフィールド肉のカーテンで摩擦熱を遮断しながら北辰はピースランド…… 先の戦争で自分達を負かしたテンカワアキトとその1党が巣食う拠点…… そこを目指す……!




 「あ、流れ星……」

 「あなたは何をお願いしたの?」

 「うん! 怪力の運転手さんが早く帰ってくるようにって。お姉さんは?」

 「あなたと同じよ…… それと『もうこんな思いをしなくてすむように。』ってね……」

 この話とは全く関係ないところで、少女(&ライオンの子供)と看護婦さんが悪の秘密結社の保有する赤い箱舟との最終決戦に向かった大切な人達を心配していた……




 「……ふむ、被害はあまり無いな、良好だ……」

 背後に出来た直径1キロ程のクレーターを眺めながら北辰は呟いた。地面に激突した際に起こった爆発とそれに伴う火災も沈静化しつつある。無論彼自身もアフ……にはなっていない。……彼自身の肉体にはいささかの損傷も無い。

 「……アフロは最後から2番目の武器なのでな…… さて、準備をせねばな。」

 誰とも無く呟いて北辰は自身の体中に氣を巡らせる。彼の体が一瞬だが明鏡止水状態黄金色に輝いた。その光が収まると、彼は先程の爆発のドサクサで入手した衣類等を身に付けた。布袋は下着の中に隠した。……全ての準備を整えた彼は地面に横たわり目を閉じる。

 「さて、獲物に食らいつくが良い…… 未熟者共め……」

 そう呟き、北辰はエネルギー回復の為、本当に眠りについた。








 「……で、この女性だけが見つかったのね……?」

 「ええ、周囲には他に誰も居ませんでした、イネスさん。」

 「そう。で、身体データの方は?」

 ピースランド王宮内のとある研究室で、イネスはルリと謎の爆発事故とその場にいた女性について調べていた。ルリの報告書に目を向けるイネス。

 「ふーん、女性なのにこの体脂肪率か…… 他のデータも極めて興味深いわね。」

 「そうですね、遺伝子バンクにも情報は存在しません。つまり……」

 「良い木人形(デク)として使えるという事ね……」

 かなりアミバ様なヤヴァイ台詞を口にするイネス。

 「……一応、程々にしてくださいねイネスさん。」

 相手がその程度の台詞でやめるはずはないと知りながらも、一応投げやりに忠告するルリ。

 「何を言ってるのルリちゃん。……あの娘達だって進んで『協力』してくれているんだし、この女性だってきっと『協力』してくれるわよ……」

 「ま、良いですけどね…… では、私はアキトさんと夕食をとってそのまま寝ますので、後はよろしくお願いします。」

 「ああ、ちゃんと『薬』を飲ませておいてね…… そうしないと皆が困るからね。」

 「はい、分かってます。たくさんして欲しいですからね……」

 これから訪れるであろう甘い一時(ルリ視点)を想像しているのか、別の世界を見ながらルリはイネスラボを後にする。残ったイネスは空になったカップにコーヒーを注ぎながら手元のコンソールを操作した。すると部屋の一部の壁が音も無く開いた。そこには全裸の男性が5人、巨大な培養槽の中で眠っていた。……部屋の隅にはこの王宮のメイド服が3着分、乱雑に置かれている。

 「……基礎データはあの娘達で取れたから、後はあの2人とこの人で最終チェックをしてから実戦投入って所かしらね…… そうなれば又ハーリー君が来ても安心ね……」

 そう呟いて何かのチェック作業に没頭し始めるイネス。それ故に、コンソールに点灯した警告表示に気づかずにいた……




 「……ふん、正に外道共の巣窟だな……」

 ルリとイネスの会話をデビルイヤーは地獄耳卓越した聴覚で聞いていた。一旦聴覚を通常に戻し、しばし思案に暮れる。

 (……そうなると、あの2人の身もそう長くは持たんか…… 急がねば……)

 急いでベッドから起き上がり、自身が幽閉されている部屋の扉の前に来た。扉の横にある電子ロックに目をやる。

 「……デビルビームは熱光線北辰ビームッ!」

 そう言うが否や北辰の両目から赤い光線が電子ロックに向けて飛ぶ。電子ロックはその光線を受けて瞬く間に溶け落ちた。それを確認し、強引にドアをこじ開け外に出る。

 「……ふん、あっちか……」

 軍用犬も裸足で逃げ出すほどの嗅覚で翡翠・琥珀のニオイを感じ取った北辰は、警報がやかましくがなりたてる中、走り出した……!




 「……姉さん……」

 「あはー、やっと来たようですね♪」

 とある薄暗い部屋の中で、2人の女性が鳴り響く警報に気がつきお互いに声を掛けあった。もう1人を姉と呼んだ女性は赤みがかかった髪を肩のあたりまで伸ばしており、白のレース付カチュ−シャを身に付けている。服装はメイド服である。名前は翡翠という。
 姉と呼ばれたもう1人の容姿は翡翠と驚くほど瓜二つである。但し、瞳の色が水色の翡翠とは異なり金色の瞳である。服装は洋風のメイド服ではなく、「割烹着に見えなくも無い」和風のエプロンを身に付けている事だろう。頭にはリボンを付けている。彼女の名は琥珀、翡翠の姉である。
 冷静に表情を変えることなく淡々と呟く翡翠に対し、明るく話す琥珀。この2人こそ、東野秋葉の使用人であり、草壁が派遣したスパイ、そして北辰の捜索目標であった。

 「姉さん、そろそろ部屋を、脱出です。」

 翡翠が微妙に助詞を間違えながら琥珀に話す。

 「全く翡翠ちゃんったらまた間違えて…… まあ、いろいろデータをかっぱぎましたからそろそろ脱出しましょうか。……秋葉様や志貴様も心配されていらっしゃるでしょうし……」

 そう言いながら、壁に掛けていた箒を手に取りながら翡翠に話す琥珀。軽く箒を2、3度振ることで感触を確かめる。そして部屋の扉の前に陣取った。

 「ていっ!」

 「はっ!」

 琥珀は素早く箒の柄の部分で扉を2回切りつける。……箒の中には刀が内蔵されていた。彼女が刀を鞘(というか箒に)に戻すと同時に、扉は真っ二つとなり崩れ落ちた。

 「うーん、流石に良い切れ味ですねー♪ あの13代目石川さんからマキ(真剣勝負)で勝ち取った甲斐がありました♪」

 斬鉄……もとい仕込み刀の切れ味に満足げな琥珀。一方の翡翠は、

 「どこに逃げますか、姉さん。」

 と冷静に扉の外を窺いながら姉に尋ねる。

 「そうですねー、とりあえず北辰さんと合流しましょう。いざとなれば囮に出来ますし、あのふざけた科学者さん達にもお灸を据えて貰わないと。」

 さらりととんでもない事を言いながらも琥珀は昨日までの事を思い出す。突然メイドを解雇され、今の部屋に閉じ込められた4日前。そして昨日まで1人ずつ部屋から運ばれていった同じ仲間のメイド達の事を……。

 「……彼女達の生命反応はこの城で感知を出来ません。」

 いつの間にやら腕につけた装置で何かを確認しながら、翡翠は姉に報告する。

 「……そう、やっぱり……」

 捕まっている間に不正アクセスでイネスの研究データを盗んでいた琥珀には、その理由が理解できた。だからこそ、妹にそこから判明した事実を伝える訳にはいかなかった。

 「とにかく、急いでここから脱出しましょう、翡翠。」

 暗くなりそうな表情を改めて、琥珀は翡翠を促す。

 「はい、姉さん。」

 琥珀の思いを知っているのか知らないのか、翡翠は淡々と姉に応じる。

 「それじゃ、だーっしゅ♪」

 「いきます。」

 琥珀は箒を持ってマリネラ国王もしくはマリアベルのように軽快に走りだし、翡翠はエプロンの前を両手で少し持ち上げながら走りだした。自分達の帰りを待ってくれている2人のために……!

 「その為には多少の犠牲は止むを得ませんね♪」

 前方に警備兵達を確認した琥珀はそう呟くと、速度を落すことなく翡翠とそこへ突撃する……!




 「……むうッ?」

 翡翠と琥珀を探して王宮内第1廊下を失踪していた北辰は、前方で爆発音と悲鳴が上がるのを聞いた。その中に彼女達の声が聞こえた気がした彼はその場所へと急ぐ。……そこは(ある意味)地獄絵図と化していた……

 『燃え尽きろっ! マジカル・アンバー・ミサイル(EX)!』

 目をうすた調に輝かせた琥珀が、何故か黒いフードを纏い箒に乗って空を飛んでいる。そこへどこからともなく発生した36発のミサイルが警備兵に降り注ぎ、炸裂した。吹き飛ぶ警備員達。

 『明日がおでかけです。』

 『貴方を、犯人です。』

 『今朝はもう夜ですが。』

 『お休みはなられたほうが。』

 『愚鈍です、愚鈍です、愚鈍です……』

 『好きで間違えているわけではありません。』


 翡翠が警備兵達に対して何事かを呟きながら右手の人差し指をぐるぐると回転させている。彼女の背後からは奇妙な文字の群れと、謎の渦巻きが発生していた。それを見た警備兵達はふらふらと身体を回転させた挙句、気絶した。……北辰が駆け寄る前に、彼女達は敵を全滅させていた。

 「はい翡翠ちゃん。指出して指!」

 敵の全滅を確認した琥珀が翡翠に指示を出す。

 「あ、はい。こうですか姉さん?」

 おずおずと翡翠が右手を姉に向かって差し出す。

 「はい。せーのっ!」

 妹の手を取り、Vサインを作らせて琥珀は合図する。

 「「ぶぃなのだー。」」

 琥珀と翡翠の声が重なり、勝利を宣言する。その声と仕草のあまりの可愛さに作者と北辰は動きを止める。

 「あはー、北辰さんじゃないですかー。助けに来てくださったのですか?」

 「ね、姉さん…… この女性が、ですか?」

 いち早く北辰に気がついた琥珀がいつもの調子で声を掛ける。反対に翡翠は目の前の女性がマッスル蜥蜴男北辰と信じられない様子で姉に尋ねる。その声で北辰は再起動を果たした。

 「……うむ、無事で何よりだ…… 早くお前達は脱出しろ、後は我が始末を付けよう。」

 そう言って2人を逃がそうとする北辰、しかし……

 「そうは行かないわね、3人とも。」

 いつのまにか、イネスが3人の目の前に立ちはだかっていた。両手には合計8本の注射器を握りながら。

 「……ぬうっ! いつの間に……?」

 流石に驚く北辰。自分に気配を悟らせずにここまで接近する人間に会ったのは久しぶりの事であったからだ。

 「3人共貴重な木人形(デク)なんだから、逃げてもらっちゃ困るのよ。貴方達はあの娘達よりも役に立ちそうだし。私のラボで栄光あるテンカワ王国の礎になってもらうわね。」

 表情を変えずに淡々と宣言するイネス。その言葉にどこか既視感を感じながらも表情を変える北辰。

 「ま、まさか……」

 「はい、北辰さん。残りの3人はもう……」

 「……!!」

 言葉を失った北辰に悲痛な表情で答える琥珀。翡翠に至っては言葉が出ない。

 「……何を言っているのかしら? あの3人は立派に役割を果たしたのよ? 普通なら私達の役に立てない人間でも、それなりに役立つ方法で貢献できたのだから幸いと思うけど? ……ま、貴方達ほどは役には立たなかったけどね…… 分かったら……」

 「……それ以上喋るな、この○犬めが! 下がっていろ、二人とも……!」

 イネスの言葉を遮り、翡翠と琥珀に下がるよう促す北辰。今までの流れを無視したシリアス気味の雰囲気の中、北辰は……

 『変ッ身ッ! ……かーいわれまきまき! ねーぎとろ、まきまきィッ! あ、とぉッ!』

 「いけない翡翠ちゃん! 見たら目が……!」

 北辰は叫びながら両手をくるくる回転させた後、高らかにジャンプした。琥珀は急いで翡翠の目を閉じさせる。空中で北辰の体が驚異的な変化を遂げる……!

 北辰の身体を包んでいた女性モノのワンピースが音を立てて破れていく! 誰が見ても女性のそれであった肉体が、屈強なボディービルダーのそれへと変化していくッ!! と思った瞬間、閃光が部屋を満たす……!!!

 ……光が収まると、そこへは1人の男が立っていたッ! 胸を厚く覆うギャランドゥッ! ギリシャ彫刻を彷彿させる完成された肉体ッ! そして見事なウェストの逆三角形っぷり! それを引き立たせるブーメランパンツッ! 仮面ノリダー立派な英国紳士『北』の降臨であるッ!!!

 「……前戯名乗りは無しだッ! このまま涅槃へ旅立つがよいわッ!」

 そう宣言するや否や、自分に対して顔色一つ変えないイネスに飛び掛った……! 翡翠は目を瞑り、琥珀は結果の成り行きを見守っている。

 「ひとつッ!」 そう言いながら『ダブルバイセップス・フロント』を決めるッ!
腕の筋肉と上半身を強調する事で、前面から見える全ての筋肉を強調するッ!

 「ふたつッ!」 続けて一気に『サイドトライセップス』に移行するッ!上腕三頭筋(トライセップス)を強調する事で、自らを誇示するのだッ!

 「みっつッ!」 更に『アドミナブル・アンド・サイ』へのコンボを入力するッ! これで腹筋(アドミナブル)と脚(サイ)の筋肉を強調するッ! ここの入力作業は拷問だッ!

 「よっつッ!」 『サイドチェスト』を決めるッ! 横から見た胸(チェスト)の厚みを強調するッ!

 「いつつッ! 奥義ッ! 五光ざーんッ!」 最後の決め技は、ポージングで最も最強とされる物、『モスト・マスキュラー』であったッ! もっとも力強く見えるポーズと笑顔で歯を煌かせるッ! 北辰のそれはまさに強烈の一言ッ!




 ビッカーッ!!

 強烈な閃光が辺りを包み込むッ!




 「……終わったな……」

 北辰の呟きと共に強烈な光が周囲を包み、そして消えていった。最後の眩しさと見苦しさに流石に目を瞑っていた琥珀はその言葉で目を開けようとした。彼女が知る限り、北辰のアレを見て生き残った人間は居ない。

 「……翡翠ちゃん、終わったわよ……」

 そう言って翡翠に声をかけた瞬間、琥珀は自らの首に注射器が刺さった事に気が付いた。翡翠の首にもそれを確認する。

 「ひ、翡翠ちゃん……」

 そこまで言いかけたが、注射器から流れ出す薬物によって琥珀の意識は奪われてしまった……

 「ぐ……な、何故だ……!?」

 床に倒れる二人に手を伸ばそうとするが、北辰もまた首に注射器を受けていた。必死にイネスの方へと顔を向ける。……彼女は黒く、大きなゴーグルを顔に掛けていた。そしてゴーグルに写る自らの姿に愕然とした……

 「ま、まさか…… それは……!!」

 「ふふっ、コレが何かを知っているようね…… そう、とある星に宇宙掃除機を取りに行った人達が波動○から目を守った『対閃光防御用のゴーグル』よ…… その程度なら全く問題なく防げるわ……」

 「抜かったわ…… 紳士の要のネクタイを忘れるとは…… ふ、不覚……!!」

 「女性の体格からアニキ系へ変化した……? 中々興味深い身体構造ね…… 後でじっくりと調べる事にしましょう……」

 己の英国紳士としての致命的なミスを悔やみつつ、イネスの声を聞きながら北辰の意識も闇に閉ざされていった……!








 「……はっ!(キュピピィィンッ!)」

 草壁の執務室で彼の仕事を手伝っていた秋葉は、翡翠達が意識を失ったのと同時に新しい形式の人達の如く額に閃光を走らせた。

 「どうしたのだね、東野?」

 目ざとく閃光に気づいた草壁が秋葉を気遣う。

 「閣下…… 私も地球へ参ります、いえ行かせて下さい!」

 「何……?」

 突然の秋葉からの願いに戸惑う草壁、なおも秋葉は懇願する。

 「悪しきオーラ力良くないモノを今感じました…… あの3人に何かがあったように感じます……今行かないと手遅れになる、そんな感じがするのです……!」

 「ふむ……」

 唐突ながらもただならぬ秋葉の願いを聞き、草壁はしばし熟考する。諜報面では彼女の使用人(姉)に劣るものの、人智を超えた『カン』が彼女を火星の後継者にとって無くてはならない人材にしていた。

 (この危機察知能力と『あの』戦闘力があれば問題は無いか……)

 草壁は自らが危うく地球側に囚われかけた時のことを思い出していた。目の前の少女が髪の毛を赤く染めて、敵兵100名余りを相手に大立ち回りを演じた時の事を……

 「……分かった、南雲に早速用意をさせよう。気を付けて行って来るが良い。」

 「有難うございます閣下! 申し訳ありませんが早速出発いたします!」

 そう言うことで許可を与える草壁。それに謝辞を述べ、秋葉は急いで準備をする為に部屋を出て行った。

 「……しかし、『北』が苦戦する相手だと……? まさかな…… そうなれば『アレ』の用意をせねばならんか……?」

 それだけを口にして、草壁は南雲に指示を出すべく通信回線を開いた。

 


 「もうじき準備は完了しますぞ。……しかし秋葉殿、ノーマルスーツを着ては頂けないですか?」

 「有難うございます、南雲様。……ですが私はMSに乗ってもどんな状況でも必ず帰ってくる主義でして……必要ありません。」

 それから20分後、身支度を手早く済ませた秋葉は機内の人となっていた。手馴れた様子で機内のチェックを行っている。

 「マウンテンサイクル『遺跡』から発掘された最新型兵器、通称「コア・ブースター」だ! 作品にズレがあるが大気圏突入用のバリュートも装備しているから問題ない! これならば間に合うはずだ!」

 「はいっ! 感謝させていただきます!」

 そう南雲に礼を言いつつ、パイロットシートの後ろに仕舞ったトランクに目を向ける秋葉。あるるかんでも入りそうな大きなトランクである。

 (まさかこれを又使うことになるとはね…… まあ、しょうがないか。ここで琥珀に借りを作っておくのも悪くは無いし……)

 そう思いながらも準備の手は休めない秋葉である。

 「よし! ハッチ開け! コア・ブースター発進! 味方MSを攻撃されないように気をつけろ!」

 「はいっ! セイラ秋葉006(マルマルロク)、行きます!」

 何故かブラ○ト口調で指示を出す南雲に従ってカタパルトへ機体を移動させ、すかさず発進するアルテイシア秋葉。発進による強烈なGに身体を押し付けられる。

 「シュミレーションでは完全に覚えたつもりだけど……」

 南雲の前では見せなかった不安を呟く秋葉。そう言いながらも操縦の手を休める事は無い。機体は素晴らしい加速を見せながら、地球へとまっすぐに突き進んでいった……!








 ぴちゃーん…… ぴちゃーん……

 「……ぬ…… こ、ここは……?」

 顔に水滴が当たる感触で、北辰は意識を取り戻した。だが、周囲の様子は暗くて分からない。……というより拘束具で身体はがっちりと固定され、顔も口以外の部分は布のようなモノで覆われていた。まるで暴走した後の某汎用人型決戦兵器の封印のようにである。下着に隠した袋の無事を確認したが……

 (……これは無事か…… だが我ともあろう者が…… 不覚の極み……)

 「……目が覚めたようね? 『北辰』さん?」

 何とか拘束具を外そうと奮闘する北辰に、イネスが声を掛ける。

 「……何故その名を……?」

 まさか、という不安を隠し切れないまま北辰は尋ねる。

 「あの2人が『色々と』教えてくれたわ…… とても協力的になってくれたので助かってるわ。……あ、一応今は無事よ。『今は』だけどね。……分かるかしら? この意味が?」

 「……ぬうッ!」

 拘束具を解き放とうと力を込めかけた北辰であったが、イネスの「脅迫」に屈するしかなかった。

 「物分りが良くて助かるわ…… じゃ、色々と……」

 「答えてもらいます……」

 イネスの言葉を継ぐ形でルリが部屋に入ってきた。何やらリモコンを手にしている。

 「貴方ごときに時間を割いてはいられないのです。ちゃっちゃと喋るか、そうでなければ死んでください。」

 そう言いながらルリは手元のリモコンを操作した。

 プシュッ!

 小さい何かを発射した音が天井から発せられ、

 「ぐうっ!」

 北辰は身体に発生した久しぶりの『苦痛』に身悶えた。

 (馬鹿な…… 我の肉体を貫く弾丸だと……? それにこの痛みはまさか?)

 「後14箇所です。最後の秘孔『アンタレス』にこの弾を打ち込まれれば、確実に貴方は死にます。……尤もそこまで耐え切った人間は今まで居ませんが。」

 北辰の疑問にルリが答える。表情は普段どおりである。

 「……ま、死ぬ前に喋るか、このまま死ぬかは貴方の自由です。こっちは好きに続けるので貴方が好きに選んでください。」

 そう言いながらもルリは北辰の身体にスカーレットニードル弾を撃ち込んで行く。部屋の中はくぐもった発射音と北辰の呻き声しかしなくなった。

 「……ちょっと待ってルリちゃん。」

 6発の弾を打ち込んだところで、イネスがルリを制した。少々不満げに彼女を見るルリ。

 「どうせこのタイプの人間は喋らないわよ、それよりも例の『アレ』を移植してみたいんだけど……」

 「それは構いませんけど……制御できるんですか?」

 「ま、面倒くさい自我を消してやれば問題ないだろうし、最強になると思うんだけどね。」

 そう言いながらイネスは何処からか注射器と厳重に封が施された試験管を取り出した。注射液はどす黒く、試験管の中では何かが蠢いている……

 「ぬ、ぐぐ……」

 その中身の危険性を本能で悟り、逃げようとする北辰。しかしその意思に反して身体は全く動かない。

 「ふふ、怖くないわよ…… 貴方は『ここ』を守る最強の兵士になるんだから……」

 そうイネスが囁き北辰に一歩を踏み出した瞬間、

 ズドォォーンッ!!

 爆発音と強烈な振動がこの部屋を襲った……!








 北辰がルリに拷問を受けている最中、大気圏内を無事突破した秋葉はピースランド王宮付近にまで接近していた。

 「アル? 3人の位置は把握できる?」

 『スキャン中…… 発見しました。ポイントA−1に反応2つ、B−5に一つです。』

 秋葉の問いにコア・ブースターに搭載されたAI”アル”が応答する。

 「分かりました。両ポイント付近に攻撃します。」

 『警告、警告。ディストーションフィールド(以下DF)が展開されています。当機の通常兵装での有効度は1%以下。』

 「え? じゃ、じゃあ何か他の武器は無いの?」

 『ラムダ・ドライバ使用許可は下りていません。』

 「何なの、それは?」

 『お答えできません。』

 「もうっ! 訳が分からないじゃないの!」

 謎めいたAIとの会話を打ち切る秋葉、草壁達からは冷静沈着と思われている彼女だが、この時ばかりは焦燥感に駆られていた。翡翠と琥珀を失う可能性にである。

 (そりゃ琥珀は勝手に監視カメラを設置するし、怪しげな薬の研究もやめない。翡翠は兄さんにベッタリな所が気に入らないけど……)

 彼女達の気に入らない部分ばかりが思いつく秋葉。

 (でも……)

 それとは別に湧き上がる大切な記憶。

 『屋敷』の庭で摂った4人での昼食。

 自分で反故にした夕食後の七並べ。

 楽しかった皆とのかくれんぼ。

 今までも、そしてこれからも守らなくてはならないモノ。

 「3人で兄さんにまた逢うんだからっ!」

 ドクン

 ドクン

 ドクン

 そう叫んだ瞬間、秋葉の心臓が大きく鼓動した。目の前が赤く染まっていく……

 (いけない、『反転』が……!)

 AIが敵機動兵器の発進を警告するのを無視し、強引に秋葉は持ち込んだトランクの蓋を開けた……!








 「「くっ!」」

 突然の大きな地震によって、ルリとイネスは床に転びそうになるのを何とかこらえた。イネスは注射器と試験管を急いで何処かに仕舞う。同時に警報がピースランド王宮内に響き渡る。

 「オモイカネ、どうしたの?」

 『正体不明の戦闘機の攻撃を受けています。DF出力装置沈黙、フィールド展開ストップしました。迎撃兵器の稼働率、10%を切りました。』

 ルリがコミュニケでメインコンピューターに確認する。その報告は俄かには信じられないモノであった。

 「何ですって? エステバリス隊はどうしたの?」

 『エステバリス隊の90%が既に撃墜されました。残存部隊もほぼ戦闘不能。』

 イネスの疑問に対しても冷酷な現実を伝えるオモイカネ。しばし呆然とする2人。

 「……そうです、アキトさんはどうしました?」

 いきなりの凶報に驚いたもののルリは、本来ならば最優先で確認すべき事項を口にする。

 『他の方達と既にシェルターに避難を完了しています。避難パターンXに則り、意識を失わせています。』

 2人をひとまず安心させる回答を出すオモイカネ。……ちなみに『食事』によりアキトの意識を失わせる事をパターンXと規定している。

 「まあ……」

 「ひとまずは安心ですね……」

 最大の不安が取れたことに安堵するイネスとルリ。ほっとする余り、厳重にロックされた部屋のドアが切り裂かれたことも、そこから2つの人影が進入してきた事にも気が付かなかった……!




 自分に近づく気配にルリが気付いた時、既に自分の目の前には拘束していたはずの洋風メイドが立ち塞がっていた。彼女は両手を自分の前に突き出している。

 『暗黒翡翠・御奉仕翠晶波ーっ!』

 見る間に目の前の両手には見たことも無い光の塊が生まれている。何故か危険を感じたルリは横に飛ぼうとする。が、それより早く

 『サタデー・ナイト・フィーバー!』

 メイド=翡翠が叫ぶとその塊がルリを直撃した。そのまま反対側の壁に激突死し、ルリは気を失った。

 「ルリちゃん?!」

 メイドに吹き飛ばされたルリを見やるイネス。そこへ

 『出番アルネッ!』

 怪しげな中国風の叫びを耳にしたイネスはその方向に振り返った。そこには先程頑丈に拘束したはずのもう1人のメイド=琥珀がこちらを挑戦的に見ていた。







 何故かチャイナ服姿で。








 その格好のまま箒の上に乗ると、箒ごとイネスの方に突進してきた。スリットから見え隠れする左足が非常に艶かしい。

 「……くっ!」

 避けようとするイネスを琥珀はきっちりと捕捉し、イネスに箒ごとぶつかった

 『ふっ!』

 まずは蒼く輝く右アッパーがイネスに刺さる。

 『はっ!』

 続いて鉄山靠(てつざんこう)がクリーンヒットする。

 『そりゃぁぁぁ!』

 一旦しゃがんでうすた調に目をキュピーンと光らせた後、万歳の格好に似た形でジャンプをし、ハイキックをイネスにお見舞いした。着地する前に赤い煙が彼女を一瞬覆った瞬間には、彼女の姿は元の和風メイド姿に戻っている。……イネスはルリ同様に吹き飛び、気を失った。

 「……ふぅ、これにてお仕置き完了です。こんな所に巣くう悪魔はこうしてストーンオーシ○ン行きになるんですー。」
 
 「はい……姉さんも気をつけるべきだと思います。」

 意味不明な勝ち台詞を喋る琥珀と翡翠。

 「……強くなったな2人共…… 翡翠、見事な暗黒翡翠拳だ…… 琥珀、また功夫に磨きが掛かったようだな……」

 痛みに顔を顰めながらも満足げな呟きを漏らす北辰。

 「あはー、ありがとうございます♪ 北辰さんのおかげですー。さ、これでとりあえずは問題ないと思いますよー。」

 礼を言いながらも琥珀は素早く北辰の拘束具を切断する。その後直に北辰に3本ほど注射を施す。

 「……フンッ!」

 気合と共に北辰は全身の筋肉に力を入れ、体内にめり込んでいた7発の弾丸を排出する。琥珀が自分に何を注射したのかは、無視する事にした北辰。……さそり座状に打ち込まれるはずの銃創は、何故か北斗七星の形になっている。傷と体の具合を確認し、自らを拘束していた布を器用に身に着けた。

 「……姉さん、早く脱出しましょう。秋葉様が『反転』されたご様子ですので……」

 翡翠が油断無く外の様子を伺いながら姉に警告する。

 「はい、大丈夫ですね北辰さん。それでは早く脱出しましょう♪」

 「……秋葉様が『反転』された以上、ここはもう滅びるだけです。お急ぎを。」

 2人の言葉に頷き、北辰が最初に部屋を後にし翡翠・琥珀がそれに続いた。




 3人が部屋を出てきっかり2分後、

 「……くっ…… 逃がさないわよ……!」

 イネスが奇跡的に復活した。気絶を続けるルリに向かってよろよろと歩き出す。その途中で彼女は白衣からスイッチを取り出し、3秒ほど考えた後にそれを押した……!








 『警告、警告。この兵装ではDFを貫通できません。』

 「煩いっ! そんな物はミノフ○キー粒子が全て解決よ! 空だって飛べるし、レーダーも無効化できるのよ! 命中率95%のスペシャルアタックだって当たらないんだから!」

 『……了解、メガ粒子砲、発射します。』

 秋葉の台詞に根負けしたのか、コア・ブースターは真紅のビーム砲を王宮B−7ブロックへ発射した。イネスによる強化の結果、理論上は核爆発をも防ぐと謳われたDFはビームの直撃を受けた瞬間、何故か『消失』した。

 秋葉機目掛けて襲い掛かる地対空ミサイルも命中する前に燃料切れを起こしたかのように失速し、地上に落下していく。

 秋葉機の攻撃が当たる度に、

 DFは消失し、

 迎撃用エステバリスを含めた兵器群は墜落もしくは破壊され、

 王宮自体は破壊されていく。

 「アーッハッハッハ! 敵がちっちゃく見えるって事はッ! アタシが勝つって事だッ!」

 ジェリル様のように元の人格を崩壊させながら秋葉が攻撃を続ける。その髪の毛はいつの間にやら真紅に染まっている。

 『理解不能、理解不能、理解不能……』

 入力された戦術プログラムの理解を超えた事態に、AIの機能は崩壊しかけていた。とその時

 『説明しよう!』

 イネスではなく懐かしの富山ボイスが辺りに木霊する。

 『”赤いと通常の3倍”の法則は良い子の皆も知ってると思うけど、こうなった彼女は自分以外のモノから様々なものを ”奪う”ことが出来るんだ。今回はDFや各種兵器のエネルギーがそれに当たるかな? 危ないから全国の女子高生の皆さんチビッコは真似しちゃ駄目だぞ!』

 それだけ一気に説明すると声は消えた。それに併せるかのようにAIも機能を回復する。

 『……敵兵器稼働率1%を切りました。目標確保行動に移行して下さい。』

 「……あ、そうだったわね。アル、翡翠達は生きている?」

 『検索中………… 生存を確認。エリア88にて交戦中の模様。』

 「い、急がないと! 適正な地形を検索した上で着陸よ!」

 『了解、着陸モードに移行します。」

 素に戻り、秋葉は急ぐ。大切な人(2名)を守る為に……!








 「ふう。秋葉様にも困ったものですねー。」

 「……姉さん、そんな呑気な事を言っている状況ではないと思いますが。」

 「うう、翡翠ちゃん、容赦ないよ……」

 懐にマイク(音声変換機能付)を仕舞いながら呟く琥珀にツッコむ翡翠。

 「……今のは遺言なのかしら? ならさっさと実験がてらに逝って貰おうかしら?」

 「そうですね、賠償金は貴方達の命で勘弁してあげます。」

 ピースランド王宮正門前に至る途中の中庭で、北辰達は再びイネス&ルリと対峙していた。先程と異なるのは、黒いコートを纏った身長2M以上の大男が5人、イネス達の前に立ち塞がっている点である。

 「この間ハーリー君から回収したH・M細胞をこの5人には移植してあるの。身体能力と超回復能力は確認できているんだけど、実戦訓練が足りないのよね。……アンタ達の所の雑魚スパイクラスじゃ役に立たなかったし、死ぬ前にデータを沢山提供してね。」

 「……ああ、提供してやろう……」

 翡翠と琥珀を背後に庇いながら北辰が低く呟く。

 「失敗データをなァッ!!」

 と叫ぶや否や前方に向かって疾走する北辰。

 「やっちゃって下さい、皆さん。」

 ルリの命令によって大男達も戦闘体制を整える。中央に立っていた1人が北辰に向かって一歩を踏み出す。

 「……笑止なり。」

 男の緩慢な動きに侮蔑の言葉を漏らしながらも、恐るべき俊足で男の目前に迫る北辰。

 「……滅。」

 素早く繰り出された北辰の手刀は、男に反撃の暇を与えずに左胸に吸い込まれた。

 (……む?)

 普段の『仕事』の時と異なる感触に違和感を一瞬感じた北辰だが、その手をすぐさま引き抜き次の目標へ向かおうとする。が、

 「……!」

 自分の背後の空気の流れに異変を感じ、瞬時に真横へ飛ぶ北辰。自分が今居た場所を巨大な両腕が通り過ぎた。すぐさま体勢を整え、自分が ”殺した” はずの男を見やる。

 「……」

 その男は無表情ながら、北辰に叩き付けようとした両腕を体の横に戻す。……胸からはゴボゴボとどす黒い泡が発生している。そんな状態でも男はこちらへ向かってきている。その様子にイネスは口元に僅かながら笑みを浮かべる。

 「……姉さん……」

 「……」

 翡翠が真っ青な表情で辛うじてそれだけ呟く。その身体を抱きしめる琥珀にはいつもの陽気さは無く、蒼白であった。

 「……2人共! そこから下がっていろ! こっちを見るでない!」

 北辰はそう声を掛け、再び先程の男に突進する。

 「……殺!」

 自分の顔面めがけラリアートを仕掛ける男の腕をやすやすと回避し、その額めがけ手刀を見舞う。手刀は相手の頭を易々と切り裂いた。これで脳組織は破壊されたはずである。が、

 「何……! ぐ、ぐぐ……!」

 逆に男の両腕に北辰の胴体ががっちりと抱きかかえられた。その締め付ける力は次第に強くなり、北辰の肋骨が悲鳴を上げ始める。

 「……素晴らしい性能だわ…… 流石はH・M細胞ね……」

 目の前の惨劇を見ながらイネスは感嘆の声を上げた。……流石にルリは顔をそむけている。

 「不死性、回復力、そして膂力か…… 傘社のバイオ兵器『暴君』にちょっと移植しただけでこれほどとはね。 まだまだ改良の余地があるかしら……」

 「……! ……!」

 強烈に締め付けられながらも必死の反撃を試みる北辰であるが、相手にまるで応えた様子は無い。

 「ま、テスト段階ではこれで十分かな。そうそう、そっちの娘達相手にもテストしなくっちゃね。」

 そう言ってイネスは指をパチンと鳴らした。それに反応するかのごとく翡翠と琥珀に向けて歩き出す2体の『暴君』。ゆっくりと両手を前に出しながら次第に距離を詰めていく。

 「ね、姉さん……!」

 「ひ、翡翠……!」

 その様子を見ても二人はその場から動けなかった。自分達に迫る圧倒的とも言える『死』を前にして身体が石になったようであった。

 「……くっ! ふ、2人とも……! (くそっ、あの男のような『眼』があれば……!)」」

 自身を引き千切らんとする力と戦いながら、北辰が叫ぶ。




 と、その時。

 



 「……遊びはそこまでよ!」



 どこからか女性の声が響いた。それと同時に北辰、翡翠、琥珀を追い詰めていた3体の暴君から赤い火が立ち上った。

 『……!』

 表現しがたい奇声をあげ、その3体はイネスの方へ逃げ帰った。

 「だ、誰っ?」

 突然の事態に狼狽したイネスが先程の声の主を探す。

 「うふふふふっ……」

 その笑い声は上の方から聞こえたとイネスは感じた。その方角に目を向けるが、

 カカァッ!

 何故か逆光が発生しており、何やら高い所に人が立っている事しか分からなかった。

 『世の為、兄の為! 外道の野望を打ち砕く巨乳外道ハンターァAッ! この日輪の輝き赤髪の美しさを恐れぬならば! あ、かかってこォいッ!!』

 その人物は高らかに名乗りを上げた。

 「ね、姉さン……」

 「あはー、『ピンチの時に現れる謎の助っ人』ですかー。美味しい所を持っていきますねー。」

 つい先程までのドキドキするほどの大ピンチを忘れたかのような翡翠と琥珀。

 「ぬう、何奴……?」

 大胆なロボットのパイロット風の名乗りに誤魔化され、人物の特定が出来ない鈍感1名。

 「とぉっ!」

 下界の様子に関わり無く、秋葉外道ハンターAは地上に降り立った。白のニーソックスを履き、赤のスカートに白のブラウス、背中には書き殴ったように『Z』と描かれている。ワンポイントの胸の青い宝石のついたスカーフ。そしてその人物のトレードマークとも言える頭のヘアバンド。……目線を隠す様に大きな黄色のゴーグルを掛けている為に、顔付きが良く分からない。

 「……」

 何とその人物に言って良いのやら、と顔に書いているような表情の翡翠。

 「良くお似合いですよ…… ズバットスーツファ○ィマスーツに匹敵する性能ですからねー。ぱっと見ではそれと判らないほどの胸のサイズまでばっちりアピール出来ています、我ながら上手く作れました♪」

 「……琥珀、後で小一時間程問い詰めますからね……」

 そんな外野のコメントに返答して秋葉さン謎の助っ人はイネスとルリに向き直る。ゴーグル越しに強烈な殺意を感じ、2人とも思わず後ずさる。

 「……貴女達の所業は全て知ってるわ。ふっふっふっ……有象無象の区別無く、この赤い檻髪は誰であろうと逃しはしないわ。」

 「「くっ……!」」

 目の前の人物と自分達との間にある根源的な力量の差を察知し、じりじりと後退するルリ&イネス。

 「さあ、見せて貰おうかしら? 連邦のモビルスーツのその人達の性能とやらを…… 私、残酷でしてよ。」

 「……フォーメーションG!」

 敵の宣告に抵抗するかのように暴君達に指令を出すイネス。その指令を受け、2体がイネスとルリの護衛に回り、3体の内1体が秋葉に向かって歩き出す。が、彼女に近づくにつれその動きが緩慢になっていく。

 「……お馬鹿な子。」

 秋葉はゆっくりと敵に歩み寄っていく。彼女が敵の目前まで接近した途端、暴君は何故か地面に膝を突いた。そのまま身動きをしない暴君。

 「「何(ですって)?」」

 イネスと北辰の声が見事にハモる。

 「だからさっき富山ボイスで言ったじゃないですかー、ああなったあの人は周囲のあらゆるモノを奪う事が出来るんですよー。その人は『体力』を奪われたんじゃないですかー。」

 北辰すら圧倒した敵が少女?に手も足も出ないという、傍から見ると不可解極まりない現象に琥珀が説明を加える。

 「……じゃあ、ここが簡単に攻略されたのも……」

 「そうですよー、あき……ゲフンゲフン、ハンターAさんの特殊能力です。あの力があれば何でもかんでもグンバツです♪」

 イネスの呟きにも丁寧に応対する琥珀さン。

 「シャアだ!あの悪魔ですね! 赤い彗星髪の……」

 ルリが何かに気づく。

 「はい、そうです。ルウム戦役先の戦争で5隻の戦艦を沈め、とある将軍を捕虜にしたお方です。」

 「違うよー翡翠ちゃん。捕まえたのは黒い三ツ星さん達ですよー。」

 これまたルリに丁寧に応対する翡翠に琥珀がツッコミを入れる。

 そんな周囲の状況を無視して、無防備な敵の右胸めがけ両腕を組みながらヤク○キックを放つ秋葉さン。その蹴りを受けて、5メートルほど吹き飛ぶ暴君。

 「……ふん、ロケットランチャー1発で死ぬような雑魚如きが私に何をしようと無駄なのに……」

 退屈げに呟く秋葉。その強さに目を見張る北辰。倒された1体はのろのろと立ち上がり、秋葉に向かって再び歩き出す。

 「まだKOされないの……?あのアーパーとカレー魔神並に丈夫なのかしら?」

 秋葉が呆れたように呟くと、

 ピシュンッ!

 どこからかともなく効果音が鳴った。

 「……ゲージが300%になったようね。じゃあ、終わりにしましょうか。琥珀、頼んだわよ。」

 「はい、りょーかいしました♪」

 秋葉は琥珀に何やら指示をする。一方の琥珀は袂から何やら色んなボタンのついたゲーム用のコントローラーを取り出した。

 ヒュッ!

 それを確認した秋葉は素早くダッシュし、暴君との距離を縮めた。手を伸ばせば相手に触れる事が出来るほどに近づいた。

 ピキィンッ!

 左手を天に向けて伸ばし、右手を交差させる事で十字を形成する秋葉。その背後には無い胸を張り、前に伸ばした左腕を肘のところで上に向け挑戦的なポーズをとる彼女の姿が浮かび上がった……!

 「あはー、カットインもばっちりですね。投げ間合いだし♪」

 「すべて奪い尽くして差し上げます…… 

 『赤主・檻髪(せきしゅ・おりがみ)ッ!』

 そう宣言しくるっと体を回転させた後、右手で暴君の体を掴む秋葉。とその瞬間、

 ドドドドドドドドドドドドドドドドドド…………!

 謎の効果音と共に、暴君の足元から赤い強烈な光が天に向かって伸びる。……琥珀は先程のコントローラーのボタンを一生懸命連打している。

 『K.O』

 またもや何処からか声が響いた後、赤い光は止んだ。秋葉の手を離れ、車田ぶっ飛びをしつつ、暴君は地面に落ちた。その後はピクリとも動かない。ついでに北辰も目の前の出来事に着いていけないのか気絶している。

 「まったく、無謀にもほどがあります。次からは相手をみて喧嘩を売ることですね。」

 「あはー、70HITまで行きましたー。」

 「姉さんにはまだまだ連打が足りません。76まで逝くそうですから。」

 倒れた暴君では無く、ルリとイネスを見ながら話す秋葉。何やら呟いている翡翠と琥珀。

 「……さて、録音(音入れ)は済ませましたか? 神様にお祈りは? そこの隅でガタガタ震えて命乞いをする心の準備はOKですか?」

 そう言いながら2人に近づく秋葉。

 「何てこと…… 『暴君』がこんな簡単に……」

 イネスはそう呟きながらも逃げようとするが、足が動かない。ルリも同様である。三者の距離が後5メートルまでになったその時、

 ビィーッ! ビィーッ! ビィーッ!

 「ちィッ!」

 「秋葉様! ズバットスーツその服は3分以上身に付けると……!」

 突然秋葉の胸のタイマー宝石から警報が鳴り響き、秋葉は舌打ちを漏らす。琥珀が秋葉に何やら警告する。

 「……しょうがないですね…… 罪を憎んで人を憎まず!

 突然態度を翻しルリとイネスに宣言する秋葉。突然の状況の変化に彼女達はついていけない。

 「……2人とも、後はその方にお任せして帰るわよ。……頼みましたわ……」

 一方的に北辰に告げ秋葉は翡翠と琥珀と共に踵を返した。次第に3人の姿は遠ざかっていく。

 「『赤い悪魔』って女性だったんですね…… ショートカットにして黙っていたら男性と間違えたかもしれません。」

 「そうね、あの胸のサイズの無さじゃそう思うでしょうね。」

 ピタッ。

 安心したのか何やら感想を呟いたルリとイネス。そこから50mほど先にいた秋葉の足が止まる。

 「『三つ編み』さんより小さいんじゃないですか……?」

 「あそこまで小さいとね…… 同じ女性としては何もコメント出来ないわね。」

 ビービ−ビービー……

 先程とは別のブザー音が鳴り始める。それに気づかずに、ルリとイネスはなおも話に熱中し始める。

 「そう言えば、さっき『兄の為』とか言ってませんでしたっけ、イネスさん?」

 「そうだったわね。ナイムネでブラコンか…… 女性としてはヤヴァィわね、あーゆー人は。」

 ビービ−ビービー……

 次第に大きくなっていくブザー音、秋葉の瞳が点滅を始める。翡翠と琥珀はその場から避難を始めた。

 「あんなサイズでは男性のウケが悪いでしょうね、イネスさん。」

 「そうね、さっき『何でも奪える』って言っていたけど、それならバストのサイズを奪っちゃえば良いのにね……」

 ビービ−ビービービービ−ビービー…………

 ♪ちゃーちゃーちゃちゃちゃー ちゃーちゃーちゃちゃちゃー


 ブザー音はより大きくがなりたてる様になった、加えて何かしらのBGMも鳴り始める。

 「……ま、あんなナイムネは無視しましょう。イネスさん、アキトさんの所に行かないと。」

 ♪ちゃーらーらーらーらー…………

 BGMとブザー音が盛大鳴り響き、既に秋葉は何処からともなく出した弓を構えていた。無論、矢は既に装填している。

 ゴォォッドォ・ゴォォォガンッ! 大! 激! 怒ーッ!』 

 そう叫んで矢を射る秋葉。放たれた矢はあっという間にルリとイネスの目前に迫った……!

 「「え?」」

 ドゴォォォン! 

 バッカァァァン!! 

 ドッカァァァァァァァン!!!  

 2人が「迫り来る何か」に気づいた時には既に大爆発が起こっていた。

 ヒュルルルルルル……

 爆炎と煙は次第に髑髏の形をとり始める、最終的には髑髏の眼から涙が流れているように見えた。

 「……ふん、愚かな人達ですこと……」

 ゴーグルを外し弓を翡翠に渡しながら、秋葉はそううそぶく。その後、琥珀の方へ向き直る。

 「それはそうと琥珀。……さっきのコメントに対しての弁護の時間を10秒あげるわ…… 好きに弁明して御覧なさい。」

 笑顔を琥珀に向けながら話す秋葉。もっとも「ゴゴゴゴゴゴゴ……」と効果音を伴ってはいるが。

 「あはー秋葉様。『例の薬』に関するデータが集まったので、帰ったら精製出来ますよー。」

 その迫力にも臆せず琥珀はあっさりと防御手段を講じる。

 「……そんな事で許されるとでも…… ……って何ですって琥珀!?」

 ガバッ!

 光の速さで琥珀に接近し、胸倉を掴む秋葉さン。

 「はい♪ 色んなデータをゲットできましたので、これでバッチ☆グーです♪」

 「ま、まあそう言うことなら今回は不問にしても構わないかしら……?」

 「そうですねー。ここでお仕置きを受けちゃうと、記憶が混乱しちゃうかも知れません☆ ちょーっと精製は難しいモノですから♪」

 動揺を隠すかのように振舞う秋葉と台詞に星を入れ明るく話す琥珀。

 「……」

 その姉の背後で事態の推移を見守る翡翠。今彼女の眼には、悪魔の尻尾を生やしつつある姉の姿が映っていた。

 「……分かりました。今回は不問にしてあげるわ琥珀。でも……」

 「皆まで言わなくても結構ですよ秋葉様。その代わり……」

 「……分かっているわ、屋敷の監視カメラの増設と新薬研究予算のアップでしょう? 約束した以上、東野家当主としてきちんと履行します。」

 「はい☆ じゃあ、後は北辰さんに任せて帰りましょう♪」

 いつの間にやら秋葉がトランクに積んできたTVカメラと集音マイク、そして通信機器を設置しながら琥珀が残りの2人に促す。

 「それでは北辰様、失礼致します。」

 北辰に対し翡翠が優雅に一礼する。それを合図とするかのように3人の女性達は北辰に構わず、堂々と王宮正門を出て行った。








 「……はっ!」

 秋葉達が立ち去って30秒後にようやく北辰は再起動を果たした。

 「むっ! 奴等はどうした?」

 急いで爆発の方向に目を向ける北辰。アフロになっていれば良いが、自転車で脱出を果たしているかも知れないからだ。

 「そーれ、おしおきだべー!」

 北辰は悪の首領を装い、実はその正体がドクロ惑星XYZ星人の口調を真似ながら爆心地へ近づく。炎と煙が次第に消え視界が明瞭になる。が、そこには……




 アンドロイドらしき機械の残骸しかなかった。




 「ば、馬鹿な……!」

 「愚かなのはあなた達の方じゃない? 敵を目の前にして普通、私達があんな会話をすると思う? ……安全だからに決まってるじゃない。本物の人間と勘違いされてウリバタケも光栄でしょうね。」

 「……ウリバタケさんに『お願い』しておいて正解でした。『キャストの魔術師』の異名は伊達ではないですね。」

 北辰の目の前の地面が割れ、地下からイネスとルリが現れた。無論周囲を4人の『暴君』が固めている。

 「『こんな事もあろうかと』って事よ。精巧な影武者用ロボットだったのよ、あなた達が相手にしていたのは。」

 「ここからが本番です。さあ、れっつ・ごー。」

 イネスがカラクリを説明し、ルリは暴君達に指示を下す。その指示を受けて4人の暴君は北辰へ向けて歩き出す。

 「ぬうっ! こうなれば…… 『まじかる☆ステーッキッ』!」

 シャリーン……

 北辰が叫ぶと同時に、尺杖が某神宮の巫女の如く右の掌から現れる。

 『まじかる☆アターックッ!』

 技名を叫び、北辰は暴君達へ突撃すべく駆け出した……!








 
 『草壁様!』

 「おお、東野! 無事であったか! 5人はどうした?」

 『はい、翡翠と琥珀は無事でした。……後の3人は……』

 「そうか……」

 草壁は自らの執務室で、秋葉からの通信を受けていた。覚悟が出来ていたの範囲とはいえ、犠牲になったメイド達に追悼の意を示した。

 『それで北辰様なのですが…… ご覧のように苦戦しております。』

 「……ぬうっ!」

 秋葉がそう言うと、モニターの映像が変化して北辰の姿が写った。4人の大男相手に戦っており、一目見ただけでも圧倒的に不利な状況であった。

 『このままでは北辰様が…… 秋葉様も先程の戦いで消耗されておりますし……』

 姿は見えないが、琥珀が草壁に警告する。

 「……分かった、それについてはこちらで何とかしよう。君達は早急に避難したまえ。あ、北辰の様子は分かるようにしておいてくれ。」

 そう言って草壁は一旦秋葉達との通信を終える。

 「南雲か……『アレ』を行う。至急皆を集合させいッ!」

 「……!! りょ、了解いたしました! ……5分ほどお時間を下さい……」

 「遅いッ! 3分で集合させいッ! 北辰に時間は無いのだ……ッ!」

 「わ、分かりました……!」

 南雲に指示を行い、草壁もまた「その場所」へと走り出した。

 「北辰……! 無事で居ろよ……!」

 彼の無事を祈りながら……!




 それから2分53秒後、火星の後継者一同は訓練用のグラウンドに8時だョ!全員集合していた。

 「よーし皆の者、オィーッスッ!」

 「「「「「「オィーッスッ!」」」」」×多数

 「何だ皆、元気が無いぞ。オィーッスッ!」

 「「「「「「オィーッスッ!」」」」」×多数+大声


 「よーしッ! これより『北辰激励の儀』を執り行うッ! ……これを見よッ!」

 「「「「「「オオ……!」」」」」

 草壁がいかりや風に挨拶を行った後にモニターに苦戦する北辰の姿が映し出される。それを見たメンバー達から驚きの声が漏れる。……一番関わりたくない人物『最強』とされる『北』の苦戦する姿は彼等にとってありえない光景であった。

 「……残念ながらッ! これは現実であるッ!! だがッ! 彼を皆で救おうではないかッ!!! では皆の者、行くぞッ!!!!」

 そう言って草壁は朗々と謡い始める。

 『その心は腐○子を払う銀の剣
  東鳩と一の海から生まれでて
  眼鏡ッ娘の作った萌えの池で
  猫耳萌えで編んだ鎖を引き
  妹ハァハァで鍛えられた軍刀を振るう
  秋○原のだれかの未来のために
  日○橋に希望を、コミ○に夢を取り戻そう
  我等は そう 萌えるために生まれてきた。』


 
 「「「「「「オオオオオオオオオッ……!」」」」」

 

 それを受けて、そこにいる全員がガンパレード状態になった! 尚も草壁は謡い続ける。

 『それは子供のころに聞いた話 誰もが萌えるおとぎ話
  でも私は萌える 私は萌え続けられる
  マ○チの横顔を見ているから
  遥かなる人気投票第1位を目指そうとする
  シ○ル先輩の瞳を知っている』


 徐々に草壁以外の人間も謡い始める。先陣は南雲が切った。

 『今なら私は信じられる
  加○タンが元気なEDが見える
  で○この差し出す手を取って
  皆も一緒に萌えあがろう』


 ここに至り、その場にいる全員が大声で唱和する。

 『幾千万の私とあなたで
  あの○女子に打ち勝とう
  ア○バのだれかの未来のために
  マーチを歌おう
  そうよ萌えはいつだって
  このマーチとともにある
  ガンパレード・マーチ
  ガンパレード・マーチ……!』

 全員の歌声が大きく一つになっていく。

 「オール! ハンデッドガンパレード!
  オール! ハンデッドガンパレード!
  北辰突撃!
  例え奴が敗北しようともこの戦争、最後の最後に鍵と葉っぱが生き残れば我々の勝利だ!
  全軍熱血! どこかの誰かの萌えのために! ……ごふっ!


 草壁は絶叫すると同時に血反吐を吐いた。画面には北辰が地面に打ち倒される姿が映る。

 「……草壁閣下ッ!」

 全員が驚いて斉唱を止め、南雲が駆け寄ろうとする。が、草壁は片手でそれを遮った。

 「……この位でへこたれるものかッ! 北辰の為、我等の萌えの為、血反吐を吐こうが歌いつづけるのだッ!」

 そう叫んで草壁は再び謡いだす。

 「……草壁閣下…… ようし皆ッ! 斉唱再開ッ!」

 南雲がそう指示を下し、再び詩は始まる……!

 『そうよ未来はいつだって
  このマーチとともにある
  私は今一人じゃない いつどこにあろうと
  共に萌える仲間がいる
  雪をも超える萌えを探そう
  TY○E−MOONをも超える萌えを叫ぼう
  ガンパレード・マーチ
  ガンパレード・マーチ……』


 草壁や南雲、そして後継者達は血の涙を流しつつ、己が魂を込めて歌いつづける。……その魂が通じたのか、北辰の体が白く光りだした……!!








 「まじかる☆ファイナル・アターックッ!!」

 草壁達が歌い始める少し前に、そう叫びながら北辰は暴君達に突撃していた。自分を捕まえようとする腕をすり抜け、力任せに尺杖で殴りつけた。そして吹き飛ぶ暴君の1人。……だが。

 「……ええいッ! 連邦のモビルスーツあやつ等は化け物か!」

 すぐに起き上がり、自分に向かってくる敵。肩で息をし始めながら毒づく北辰。

 「……ふふっ。全然魔法なんて使ってないけど……」

 「オモイカネの予想以上に粘っていますね、データ収集も順調のようです。」

 いつのまにか地面にシートを敷き、お茶を飲みながらイネスとルリが寛いでいる。

 「くっ……! 貴様等……!」

 怒りに満ちた眼で彼女達を睨む北辰。その隙をついて

 ドガァッ!

 「ぐうッ!」

 暴君の1人が北辰の背後に回り込み、強烈な一撃を浴びせた。堪らず地面に倒れ付す北辰。

 「……あら? チェックメイトかしら? よく持ったと思うけど。」

 「……肉体損傷率、推定で98%…… これで立てれば奇跡ですね。」

 「じゃあ、そろそろ終わりにしましょうか……! (パチンッ!)

 イネスが指を鳴らすと、暴君たちは揃って北辰の方に歩き始めた。それに対し体が自分の言う事を聞かない状態にまで追い込まれた北辰。

 (動け……! 動け……!! 動け……!!!)

 北辰は自分の体に命令を続ける。だが体はピクリとも動かない。

 (今動かなければ、意味が無いんだッ! 翡翠が、琥珀が危ないんだッ! 動け……!!!! 動いてよッ!!!!!)



 ドックン ドックン……!!

 

 北辰が内向的な3番目の子供のように内心で叫ぶと同時に、ダミープラグ起動彼の耳に聞こえてくるものがあった。

 『そうよ未来はいつだって
  このマーチとともにある
  私は今一人じゃない いつどこにあろうと
  共に萌える仲間がいる
  雪をも超える萌えを探そう
  TY○E−MOONをも超える萌えを叫ぼう
  ガンパレード・マーチ
  ガンパレード・マーチ……』


 (み、皆……!)

 本来ならば聞こえるはずも無い歌声。だが北辰は確かに聞いていた。草壁、南雲、その他後継者達の歌う男塾名物・大鐘音魂の声を……!

 (ぐっ、まだ倒れるわけにはいかんッ…… そ、そうだ……ッ! アレがあった……っ!)

 思い出した北辰は急いでブーメランパンツに仕舞ってあった草壁からの布袋を開ける。その中には……!








 汚れた1足の靴下があった。だが北辰はソレに普通とは違うニオイと『氣』を感じた。








 (こ、これは……ッ! ま、まさか伝説の『1年靴下』……?)

 木連で最高機密とされる1年靴下…… 人間国宝が1年間脱がずに履きつづけた逸品。某ス○ンド使いを生み出す『弓と矢』に匹敵する力を人にもたらす品……!

 (閣下……! 有難く使わせて頂きます……!)

 草壁に感謝し、素早くそのニオイを嗅ぐ北辰……! その瞬間彼は気絶した白い光に包まれるのを自覚した……!!








 (……ここは……?)

 北辰が目を覚ますと、一面には白い光しか見えなかった。自分自身以外には誰も居ない。

 (そうだ、我は伝説の1年靴下のニオイを嗅いで……)

 直前の自分の行動を思い出す。そこに……!

 『あんたは、真実を知る勇気があるね?』

 何者かに声を掛けられた。

 「……ぬうっ! 誰だ?」

 素早く背後を振り返る北辰。そこには1人の男らしき人物が立っていた。白い髪の毛を短く刈っており、少々小太りでどこかの制服らしきものを着ているとしか判別できなかった。その人物は尚も北辰に尋ねる。

 『……本当の世界を知って、それでもなお、立ち向かう勇気があるかどうかを聞いている。……答えろ。』

 「……勇気と萌えは我が誇りだ…… だが、それを知った所で我はあやつ等に勝てるのか?」

 九州弁ではなく標準語で尋ねてくる男に逆に聞き返す北辰。

 『……無論だ。覚醒したソックスハンターに敵は無い…… 答えよ、「力が欲しいか?」』

 男はジャバウォックのように改めて尋ねた。

 「そうか……あやつらを許すわけにはいかぬ…… 偉大なるメイドを汚した罪は償うべきなのだッ! その為ならば我は答えよう…… それは『YES』だッ!」

 最後は戦車兵に志願した少女のようにそう答える北辰……!

 『……力が欲しければ…… くれてやろう!!』

 「……ぐうッ!」

 そう男が言った瞬間、北辰の体に未だ経験したことの無い『力』が流れてくるのを感じ取った……! そして靴下『あるモノ』への狂おしいまでの欲望も……!!



 パァァァァァッ……



 『力』に押し潰されそうになるのに耐えながら、再び北辰の意識は白く染まっていった……!








 「……オモイカネ! 何が起こっているの?」

 『……原因不明…… 解析不可能……』

 北辰の体が白く光りだしたと感じた瞬間。ルリとイネスも視界を奪われた。慌ててルリはオモイカネを呼ぶが、AIにも今の現象は理解し得なかった。

 「一体何が起こったというの……?」

 『正体不明のエネルギー、収束します。』

 イネスの疑問に答える前に状況を報告するオモイカネ。……その言葉どおりに光が消えていく。

 「「えっ?」」

 慌てて周囲を確認するルリとイネス。そこには倒れていた北辰の姿は無く、4人の暴君が立っているだけであった。

 「オモイカネ! あの男は?!」

 すかさずオモイカネに命令するルリ。それにオモイカネが答える前に……



 『HAHAHAHAHA……!』



 何処からともなくアメリカン(笑)な笑い声が響いてきた。

 『後方、高度20メートル地点より音源発生』

 オモイカネの報告にそこに目をやるルリとイネス。そこには……



 カカアッ!!



 2度目となる逆光が発生しており、人が立っているとしか判別できなかった。

 『……どんなモノにも役割がある。人々の足を守り、時に芳しきニオイを放つ……
  喩え迫害されようと、風紀委員には屈しない心、やがてそれが大いなるニオイを呼ぶ。
  人それを「靴下」という……!』


 その立っている人物は何処にでも現れる謎の拳法継承者風に喋った……!

 「「あ、あなたは一体誰……?」」

 分かってはいるのに、自然と正体を尋ねるルリとイネス。……彼女達はこの時空に囚われつつあった……!

 お前達に名乗る名前は無いッ!……『北』は死んだ。今居るのは、一人のフェダイーン。靴下を得るという、己を汚された後に残った灰から蘇ったフェニックス一輝!』

 そう叫んで男は地上に舞い降りた。

 頭には麦わら帽子。
 顔にはサングラス。
 首にはイカスネクタイ。
 更に漢臭さを増した体を包むのは若宮のビキニパンツ。
 そして足には善行の20日モノ靴下……!


 完全に武装を固めた北辰がそこにいた。

 『新たなるソックスハンター、我が名は「ソックス・アニキ」ッ! 月に靴下に代わってお仕置きよ貴様等を撃つッ!』

 1年靴下によって生まれ変わった北辰がそこにいた……ッ!!

 「……くっ! 全員、突撃!」

 目の前の変態北辰に動揺しながらも暴君達に命令を下すルリ。その命を受けて彼等は北辰へと進みだす。

 北辰は目を光らせながら、5本の指の間に4つの塩大福をはさんで彼等の向かい風に向かった。

 『塩大福を一度に8個食わされたら、どうなるか分かっているか……?』

 「……何ですって?」

 唐突な北辰に返答できないイネス。

 『窒息するしかない。……強いて言うなら月光蝶大福死である!』
 
 謎の言葉を月の御大将風に発する北辰。

 『大福死 ……大福による窒息死の事。古代中国の偉人達は自決の方法にこれを用いたという。なお、今でも熊本に残る河内の塩たこ焼と塩大福は全然関係ない。……民明書房刊「中国面白大辞典」より抜粋……』

 「……オモイカネ……? あなた何を言ってるの……?」

 「……そんなもので暴君を倒せるとでも……?」

 ズシャッ、ズシャッ……!

 突然謎の解説を始めるオモイカネ、ルリは困惑し、イネスは小馬鹿にしたように北辰を見る。構わず北辰に向かう暴君たち。

 『させるか!』

 北辰は高く飛びあがり、塩大福ごと両手を組んで突き出した。暴君達の額に謎の稲妻が走った。

 「「「「……」」」」

 口を閉じて大福が口に入らないように防御を固める。

 『愚かなリ未熟者……それが分からない我だと思ったか! 見ろ!』


 
 北辰は、ビキニパンツを脱いだ。


 
 思わず目の前に写った『最優先で服従すべき人物』に対して硬直し、呆然と口を開けた暴君達に北辰の両手が突っ込まれる。何処からともなく大福を出しては、次々に暴君達の口に詰めていく……!


 
 カキーン! カキーン!! カキーン!!! カキーン!!!!




 大 ・ 福 ・ 死 完成。


 

 ドサッ!


 効果音と共に北辰が暴君達の口に大福を叩き込むシーンがカットインされた。……そしてゆっくりと暴君達の体は地面に崩れ落ちた。
 
 唾液でべとべとになった手を一振りし、北辰は『アキトの顔』がお尻にプリントされたインナーパンツをゆっくりと、ビキニパンツで隠した。

 「「「「……」」」」

 サラサラサラ……

 口に大福を詰め込まれた暴君は、次第に砂となりすぐに跡形も無かった……!

 「「……嘘……!」」

 余りに現実離れした光景にルリとイネスはそう呟く事しか出来なかった……

 『分かるまい!! 色々なモノを遊び物にしているお前達には!! この我の体を通して出る靴下のニオイ力が!!!』

 北辰の体から感じる得体の知れないパワーにおののく2人……

 『……後は貴様達だけだ。3人のメイド達の敵を受けるが良い……!』



 ♪V V V! ビクトリー!!



 北辰の宣告と同時に、身長57メートル、体重550トンを誇る超電磁ロボのテーマソングが流れ始める。



 『超ーアニキィィィ! タァァツゥゥマァキィィィ……!』

 

 北辰の足から善行の靴下が何ともいえぬニオイが大量に発生させ、北辰の周りに集まりだした。北辰が両手を振りかざすと、そのニオイの奔流がイネスとルリを襲う……!

 「「……臭っ!」」

 蝶のような形を描く臭気に纏わりつかれ、自分達を襲うニオイに嗅覚が破壊される恐怖感で、身動きが出来ないルリとイネス……!

 

 『超ーアニキィ スピィィィィィンッ!!』



 それを確認した北辰は両手に1年靴下を付け、体を回転し始めた。たちまち強烈な一つの竜巻になった北辰の体は大空高く舞い上がる……!
 


 シュウン シュウン シュウン…… 



 それを確認も臭気に縛られて避ける事も出来ないルリとイネスに向かって竜巻は突撃する……ッ!

 


 ガシュウッッ……! 



 竜巻とイネス&ルリが激突した瞬間。




 ちゅどーん!


 

 大爆発が発生した


 「……」

 回転を止めた北辰は、爆心地を見やる。……そこにはルリとイネスがいた。

 

 


 無論 2人共 アフロだ(核爆)。
 

 



 「……敵は取ったぞ…… 3人共……」

 呟く北辰の目には一筋の涙…… しばし黙祷をささげた北辰は、秋葉達の残した通信機へと歩き出した。




 『……スカルワンよりデルタワンへ……』

 謡い+絶叫し過ぎで気絶していた草壁の耳に、「北」の声が聞こえた。……南雲を含めた残りの人間は気絶を続けている。

 「こちらデルタワン……」

 ようやくそれだけを通信機越しに伝える早瀬美沙草壁。

 『任務完了、これより帰還します……』

 簡潔に要件を伝える北辰。……それに対して草壁は

 「了解……」

 としか伝える事が出来なかった。

 北辰からの通信を一旦終わり、南雲や他の者達を起こし始める草壁。……その5分後にグラウンドは大歓声に包まれたのであった……!








 「……で、二人の様子はどう?」

 「ええ、命に別状は無いけれど…… しばらくは立ち直れないでしょうね……」

 「じゃあ……」

 「ええ、アキト君へのローテーションは後で皆で話すとして……」

 「後はあの人が目覚めるまでに色々と直しておかないと……」

 「そうね、それは私の方で手配するわ。それとハーリー君だけど……」

 「それは北斗さんに任せるしか無いでしょう…… セキュリティ関係はもう1人が無事だし、何とかなります!」

 「……じゃあ、以上の方向で進めるわね……」

 ピースランドのとある部屋の中で、元某戦艦艦長と元民間企業会長秘書は、何やら打ち合わせた後で、その部屋を出て行った……








 「……で、これが兄さんを目覚めさせる事が出来る薬なのね……」

 「はい♪ ニガヨモギ、ブランデー、ホタテ、翡翠ちゃん特製の梅サンド。……あとは過去5年にわたる余りモノのケミカル物質やこの間手に入れたデータを足して2で割った新製品『まききゅーX』です♪」

 「……本当に大丈夫なの……? 私だったら絶対拒否したいけど……」

 ……木連内の秋葉の屋敷内で、秋葉は琥珀から「兄を治す」薬に着いての説明を受けていた。その怪しさ大爆発な薬の原料に異論を唱える秋葉。

 「……そんな秋葉様! 投薬する事で体の新陳代謝を活発にし、男性には回復力アップを、女性にはボディラインの向上が確認されたこの『まききゅーX』をお疑いになられるんですか?」

 下を向いて涙を流しながら嘆く琥珀。

 「……ちょっと琥珀? 今何と言いました?」

 「……ええ、ええ。秋葉様はいつもそうです。私の薬は全て怪しいと決め付けられる…… 私はただ志貴や秋葉様の事を思っていつも薬を作っていると言うのに……!」

 「……だから悪かったわよっ。もう薬関係は琥珀の好きなようにして良いから……」

 「本当ですか、秋葉様?」

 「ええ、東野当主の名に賭けて約束するわ。……で、その薬の効果をもう一度教えてくださらないかしら?」

 何故か普段使わないような丁寧語で琥珀に話す秋葉お嬢様。

 「ハイ。ですから身体の回復機能を向上させることで、志貴様の回復を早めようと考えて作ったのですが?」

 「……そうじゃなくて女性に対する効能の事よっ。」

 「ええ、女性に対する効能はプロポーションが40%近く向上することが確認出来ました♪ 無論、注射した部分に対してのみです。」

 「……じゃ、じゃあ、兄さんに投薬する前に私でもう一度試すのは駄目かしら、琥珀さん?」

 目をやったらめったら光らせながら琥珀ににじり寄る秋葉さン。本当に泣いていたのですか?と尋ねたくなるほど笑顔で話す琥珀姐さン。

 「……」

 その横で事態の推移を黙って見守る翡翠。……姉が手に隠し持っている目薬や、何で実験をしたのか。それらを正確に把握していたが、秋葉にその旨を告げはしなかった。……姉の報復が怖いのが一点、「面白そうだから」と思ったのが二点目。以上の理由からである。

 「あはー、秋葉様がそう仰ると思ってました♪ では、早速!」

 ぷすっ!

 「あんっ(はあと)。」

 素早く秋葉さンの胸に刺さる注射器。中の液体はすぐに秋葉の体内へ消えていく。

 (うふふふふっ…… これで各方面からナイムネとネタにされる事も無くなるわ…… そして唯一にして最大の欠点を克服した私はネプチューンマン完璧超人へと進化するのね。これで人気投票も兄さんも独り占めに……)

 ドクン

 ドクン


 秋葉は自身の体が膨張する感覚を確かめた。


 ググググググッ……!


 (ああ、この体中が大きくなる感触! 私が完璧になる過程なのね……)

 「……って体中がっ?」

 自分の思いに陶酔していた秋葉であったが、何か違和感を感じて目を開けた。








 遥か真下に翡翠と琥珀の姿があった。秋葉が上を見ると、高さが10メートルあるはずのロビーの天井が間近にある。

 「……ってこれは何事なの、琥珀?」

 秋葉がそう詰問した瞬間、

 ドォォォン!

 巨大な音がロビーを満たし、窓ガラスを破壊する。……翡翠と琥珀は何時の間にか耳栓を着けていた。

 「あはー、どうですか秋葉様? おおよそ体のサイズが5倍増しになっているはずですから、身長や体重、スリーサイズまでばっちりです♪ ……これで各方面から馬鹿にされる事も無くなりましたー。」

 「……実験した女性って今どうなってるのかしら……?」

 ゴゴゴゴゴゴ…… と効果音を発生させながら秋葉さンはお尋ねになられます。

 「あはー、雌のネズミのリリーちゃんですよー。多分今ごろは下水道のヌシになっているかも知れませんねー♪」

 私人間の女性なんて一言も言ってないじゃないですかーとあっけらかんに言ってのける割烹着の悪魔琥珀さン。

 「……兄さんの事は心配しなくて良いわ琥珀…… 遺書は私が代筆してあげるから、安心して良いわよ……!」

 ♪ちゃーらん、ちゃーらん……



 ずしーん、ずしーん……!



 サメに襲われる昔のパニック映画のBGMを引き連れて、ジャイアント秋葉(以下G秋葉)様はゆっくりと琥珀に向かって歩き出す。

 「……あはー、戦略的撤退です♪ 行くよ翡翠ちゃん。」

 そう言って2人の姉妹は逃走に入った。それを追跡に入るG秋葉様……!




 「草壁様! 一大事です! 秋葉様が、秋葉様が……! ご乱心ですっ!」

 執務室で今夜のえちぃゲームゲキガンガーを選んでいた草壁と北辰、南雲は突然入ってきた琥珀と翡翠に驚かされられた。

 「「「……何?」」」

 男性陣3人の声が見事なハーモニーを奏でる、が。



 ずしーん、ずしーん……!




 異様な外部からの物音に気がつき窓を見る3人。そこには


 全長8メートルほどの秋葉様。


 「「……きゅう……」」

 いち早く草壁と南雲は賢明にも夢の世界に逃げる事を選択した。

 「こ、これは一体……?」

 北辰のみが不幸にも意識を保っていた。

 「はい、秋葉様が私の実験中の薬を勝手に試されて…… 元々は食糧難解決用の薬だったのですが……」

 涙目で北辰に訴えかける琥珀。喩え背中に悪魔の尻尾が付いていたとしても、その言葉を否定できる漢は居ないであろう……!

 『あら…… 草壁様に守って貰うつもりなのかしら、琥珀……? 逃がさないわよ……!』

 薬によって身体機能が大幅に強化されたG秋葉様は、積極的でいらっしゃいますネ……

 『さあ、往生しなさいっ……!』

 目標を発見し、ダッシュで距離を詰めるG秋葉様…… 道に所々足跡状の穴を空けながらであるが。……そしてお約束にも、

 『きゃっ!?』

 道端の車に足を引っ掛けるG秋葉様。

 『あ、あらら……』

 そしてたたらを踏みながら草壁の官邸へ突撃をかけるG秋葉お嬢様。

 『あーれーっ!』

 そして官邸に衝突。



 
 何故か起こる大爆発。

 

 




 無論 全員 アフロだ(死)。

 

 




 「な、何でこうなるの……?」

 「あ、あはー…… 東野家乗っ取り計画は今回は失敗ですねー……」

 「「「「……」」」」

 今の衝撃で体が元のサイズに縮みつつある秋葉、巻き込まれた琥珀やその他メンバー達は仲良く、現実世界から逃避した……





 




(終わります。……非実体化、逃走します。)





<「マーダーライセンス『北』」次回予告(信頼度50%ですが)>
 過ぎ去った爛れた日々栄光は断ち切れ 妾達後悔はナデシコに置き去りにしろ 明日のために考えなければならない 自ら奴に襲いかかるための作戦を さすらう去勢されたアキトにはハーレムよりも”北”を倒す方が重いのだから 次回『”北”から奪え』

 Not even justice I want to get truth! 真実は、見えるか。 






後書きお詫び>

 ……どうも、ナイツです。ここまで読んで頂きありがとうございます! ……元々は影人様の作品のイネスとルリがやらかしたようなので、そのお仕置きSSのはずだったのですが…… アフロが書きたかったので最終的にこんな作品に仕上がりました(爆)。最初は単純に五光斬で終わる予定だったのですが、せっかくなので、ガンダムネタやタイムボカンネタ等自らのパトスを作品に盛り込んでみました(汗)。一応、前作とは設定が異なる為、タイトルを若干変えての掲載です。管理人様、ありがとうございました。

 ……ノリで登場人物達を問答無用でアフロにした以上、文句や批判、ツッコミは当然お受けさせて頂きますが、ウィルス等の妨害工作はご容赦下さい……

 許可を頂いたり、メールで報告させていただいた影人様、BA−2様、黒サブレ様、WRENCH様、更には普段感想を下さる方々……平にご容赦を……

 ネタについてですが、余りに多く詰め込みすぎましたので、元ネタが分からずに不快になられたかもしれません。一応作品構成共々なるべく理解して頂く様調整はしたのですが…… そうなられた方には申し訳ないです。……ナデシコキャラも月姫キャラも皆大好きですよ?自分。一番は秋葉様ですが。

 一応、次回はまともな作品になります。いえ、します。……これに懲りずに次回以降もお読みいただければ幸いです。では、失礼します。






管理人の感想
ナイツさんからの投稿です。
いやぁ、お腹一杯です(笑)
一応、月姫とガンパレはプレイしてたので、全部分かりましたが・・・それ以外も結構ありましたね。
つまり、分からないネタも結構あったという事で(苦笑)
私も秋葉は結構好きですよ、面白いキャラですしね。
しかし、今回・・・主役クラスの二人(アキト、志貴)は名前だけですか(汗)
どんな扱いを受けているんだか。