※注意:本作には、18歳未満のおともだちが知っていてはイケナイ知識による描写が若干あります。故に
      「えっちなのはいけないと思います。」と考える
まほろさん方はお戻り下さい。


 

 






























<前編のあらすじ>

 
ナイトライダー外道ハンターA

 筋肉と同盟とアフロが渦巻く現代に甦る正義の
貧乳騎士
 
 原素子直伝の大型作業用ナイフと共に、自分の目を逃れる同盟メンバーを追う若きヒロイン、東野秋葉

 人は彼女を
巨乳外道ハンターAと呼ぶ

 翡翠と琥珀、東野秋葉の良き使用人

 
横島忠男志貴、人外の存在様々な女性に好かれやすい秋葉の兄

 巨大な同盟に立ち向かう現代の騎士 外道ハンターA

 次回以降 彼女を待ち受ける同盟メンバーは果たして誰?

 : 

 : 

 :

 答:まだ未定です(汗)。






 


 

マーダーライセンス北XII 後編
 

  〜すたーだすと☆くるせいだーず〜
 









 ドッガァァァァンッ!


 「!」

 東野秋葉の勝利を眺めていた不確定名:?きんぱつのじょせいは突然の爆発音を聞き、背後を振り向いた。そこには船体の一部が爆発する『木馬』があった。

 「……!!」

 驚く間もなく彼女の目は、1キロほど先に次々と着地するパラシュート部隊の姿を捉えた。慌しく警報が鳴り響いている戦艦を無視し、?きんぱつのじょせい(以下「女性」と表記)は彼らめがけて走り出した……!

 走りながら視線をパラシュートの更に上方に向けると、

 (B−52!)

 B−52胴体下部が開いており、そこから細長いミサイルが顔を覗かせていた。

 (これ以上はさせないっ!!)

 すかさず女性は自分のコート内に手を入れ男物の帽子を取り出し、被った。ちなみにソレは
サイズが58.25、つばの長さが8.6cm、厚さ1.5ミリ、材質は雄のゾウアザラシ4歳の腹の皮である。

 「……」

 彼女は次元の帽子のつばの部分でミサイルとの照準調整を行う、が……

 「あんな拳銃でミサイルなんて落せるのかしら?」

 「拳銃弾では射程、威力共に不足しています。秋葉様、私が『ハルコンネン』で……」

 「大丈夫ですよ秋葉様、翡翠ちゃん。よーくあの人を見てくださいな♪」

 「「??」」

 女性の射撃体勢を見て秋葉は疑問に思い、翡翠は先ほどリョーコ機に対して使用した武器を取ってこようとする。が、琥珀が二人を制した。秋葉と翡翠が琥珀の指差す方向を見ると……


 ズゴゴゴゴゴ……!


 いつのまにか、女性の右脇腹が物凄い音と光を発していた。

 「ぬうっ!あ、あれは……」

 「あれを知っているの? 雷電翡翠?」

 「い、いえ……志貴様の部屋にあった本で見たような気がしまして……」

 「あはー、『浪漫回路』が作動しているんですよ♪」

 「『浪漫回路』?」

 翡翠が何かを口にしようとした。それに気付き質問しようとする秋葉だったが、琥珀がその二人の会話に割り込みをかけた。琥珀に対しオウム返しに尋ねる秋葉。

 (お、おのれー)

 と翡翠が思ったかは不明であるが、琥珀が説……いや、解説を行う。『彼女』は戦闘不能=リタイアしているので余計な配慮は不要であるが。

 「昔、中国という国で三国時代という時代があったそうなんです。そこで不敗を誇った『楼慢』という名前の人が女性の事を色々と考えながら戦ったという故事から生まれたようですねー。」

 「「……わっつ?」」

 いきなり話が古代中国の怪しげな歴史に飛んだので、翡翠と秋葉はタカヤマ&オオシタ風にしか言葉を発する事が出来なかった。そんなあぶない刑事二人に構うことなく、

「その故事を基に17世紀の科学者、フランクリン・ボナバルトによって研究がなされ、最近になって東堂源三郎氏によって理論化されたそうです♪ ……男の人の右脇腹にはあの回路が内蔵されていて、それが『萌え』や『ときめき』によって作動する事で凄い力を発揮できるそうですよー。」

 琥珀さンはそう告げます。

 「……じ、じゃあ兄さんにもアレが……?」

 「そうですよ♪ 志貴様はまだお気づきになっていらっしゃらないようですが♪」

 医者にガンを宣告されたかのような驚きの表情で尋ねる秋葉に琥珀さンは明るくお答えになられました。それを聞いた秋葉様の内心に一つの妄想考えが浮かびます。

 (じゃ、じゃあ兄さんもいずれ私に萌えるようになってコスプレを迫るようになるのかしら? 草壁閣下達のように……)

 鼻息を荒くしながら自分に水着(北X参照)を渡した時の草壁、南雲、北辰を思い出す秋葉さン。

 (で、でも兄さんになら……!)

 対消滅機関、起動

 (ああっ! 兄さん、そんな喪服なんてマニアックな!? どうせならふりふりエプロン一枚で……!)

 縮退炉、準備オーケー

 (ああっ、お姉さままでそんなっ! こ、心の準備が………………………………OKです!)

 出航準備完了。逝くぞ、ガーゴイルッ!

 バリアーを展開し、更にオーバーブーストを使用してレッドノア妄想世界に突入するνノーチラス号のネモ船長秋葉様。

 「本当ですか、姉さん?」

 「勿論よ翡翠ちゃん。もし志貴様が私達に萌えて下さったなら、その時は3人で『たなとす』しましょうねー♪」

 「……(真っ赤っか=レッドッド赤面)」

 三者三様の反応をしている内に……!


 ドッギャァァァァァァンッ!


 ヒロヒコ・アラキ調の効果音が女性の方から聞こえた。




 (『にいさま』、『おにいたま』、『おにーちゃん☆』…… 呼ばれ方は多々あれど……)

 秋葉、翡翠、琥珀の東野家三面拳3人があれこれ喋っている頃、女性は脳裏に偉大なる妹神達を思い浮かべていた。某ひまわり幼稚園園児仲間外れな呼ばれ方も混じっているが。

 

 ズゴゴゴゴゴ……!
 


 それに呼応するかのように、彼女の右脇腹の浪漫回路は心のトキメキにより回転、すさまじいエネルギーを生み出す。ちなみに現在のエネルギー量は10万浪漫/時(1浪漫/時=東京ドーム一個分)である。

 (やはり最後はッ!)

 カッ!

 閉じていた目を開く彼女。

 

 「やはり『兄さん』がこれ最強ッ!」



 そう呟き、トリガーを絞る。当の秋葉は妄想空間に入っているので、それを聞くことは無かったが。


 ドッギャァァァァァァンッ!


 凄まじい萌えエネルギーと共に弾丸が発射された。白い光は一直線にミサイルへと向かい……!


 ギュキュウ――――ン


 波紋の流れるブ厚い鉄の扉に流れ弾丸が当ったような音を立ててミサイルに命中した……ッ!


 ドッカーンッ!


 ミサイルは爆発し、加えてその爆風によってB−52も爆発した。

 「……フッ。」

 目標を片付けた女性は満足げに息を吐き、改めて地上に降り立った部隊を眺めた。

 歳は20歳から30歳前後の私服姿の男性達である。どう見ても軍人には見えない。しかも全員、上空の爆発を信じがたい様子で見ていた……

 「「「「「「ああッ!」」」」」

 ようやく現実を認めたのか、彼等は悲痛な悲鳴を上げた。

 




 「う……」

 ホウメイガールズ達の乗るB−52が爆発した丁度その時、テンカワ・アキトは泥のような眠りから目覚めた。自分が寝ていたベッドから上半身を起こして、やつれた様子で部屋の中を見渡そうとした。そこへ、

 「あ、アキトさん。ようやくお目覚めですね♪」

 琥珀と同じ聞き慣れた声がアキトの耳に入ってきた。聞こえた方向へ顔を向けるアキト。そこにはテンカワ・メグミがいた。両手を背後に隠しながら。

 「ああ、メグミちゃんか…… オ、オレは今まで何を……?」

 「何言っているんですか…… 私の部屋に入ってくるなり倒れちゃったのは、アキトさんじゃないですか…… まあ、最近のアキトさんは疲れ過ぎてますから…………しょうがないですけどね?」

 「あ、ああ(そういえば、ラピスの部屋からそのままここに来たんだっけ)…… そっか、メグちゃん、ゴメン。」
 
 一瞬メグミの顔に陰りがさしたが、それをすぐに改め、彼女は笑った。それを見て律儀にアキトは謝るのであった。

 「……だ・め・で・す♪ コレを飲んでくれないと許しません♪ 」

 そう言って両手をアキトの前に差し出す。そこには

 クスハ製特性ドリンク黒い色をした『モノ』が入ったコップ

 があった。瞬時にアキトの脳裏に過去のテニシアン島へ至る途中の出来事が甦る。

 「……」

 旨い、旨すぎる、十万石饅頭苦い、苦すぎる記憶に一瞬顔を顰めるアキト。

 「むーっ、大丈夫です。私だってあれから実家でしっかりみっちり花嫁修業をこなしたんですからね!」

 「は、ははは……(あ、あのお母サマにですか。)」

 アキトの表情を見て可愛らしく拗ねるメグミに対し、アキトはメグミの実家に結婚を許してもらいに行ったときの60分3本勝負を思い出しながら、乾いた笑いを返すだけしか出来なかった。

 「なので問題無いと思います、多分♪ さあ、飲んでみて下さい♪」

 「わ、分かったよ(ええぃ!『男ならやってやれ』だ!)。」

 何故か声色をミナミ・タカヤマ風に変えながらメグミは再びアキトに飲むように促す。意を決したアキトはソレを一気に飲み干した。




 「……アレ?」

 結局味は多少苦かったものの、ごく一般レベルであった。気絶するほどの衝撃に備えていたアキトは、思わず拍子抜けした。その様子を見てメグミはくすくす笑っていた。

 「もうっ、だから問題ないって言ったじゃないですか。あ・な・た(はあと)。」

 そう言いながら右手の人差し指でアキトの額をツンと突くメグミ。伝説の『アヤメ・フジエダ・スペシャル』である……!

 「……ああ。で、今のはどんな飲み物だったんだい?」

 大劇場のモギリですら撃墜しうる強力なメグミの攻撃に顔を少し赤くしながら、誤魔化すようにアキトは尋ねた。

 「ふふっ、レイナード家の秘密です♪ そういえば……少し顔色が良くなったかなぁ?」

 すこしお姉さんぶった口調で話しつつ、メグミはアキトの顔を覗き込んだ。

 「あ、ああ。さっきより少し楽になったよ。ありがとう、メグちゃん。」

 近づいてくるメグミに何故か恥ずかしさを覚えたアキトは、横を向いてだが礼を言った。

 「ふふっ、どういたし……」

 「そうね、私からも礼を言わせて貰おうかしら? ……アキト君を元気にしてくれて。」

 「「!!」」

 突然メグミの部屋に第三者の声が響いた。慌てて入口のドアの方を見た二人の前に、テンカワ・エリナがいた……!




 「……で、まずはメグミ、『ありがとう』。」

 エリナはまず誠意というものが全く感じられない口調で、メグミに対し礼を言った。

 「それはそれとして、貴女は5分も私の『旦那様との時間』を奪ったのよ? これは同盟内規約15条第5項に抵触する行為ね。 規約に則り、『発言力5000』を貰うわね? 無論、異論はないと思うけど。」 

 発言力とは、同盟内での『交渉や取引等』に用いられる一つの通貨形態のようなものである。地球圏の98%の政治・経済を握ったテンカワ家内において、もはや貨幣を用いた手法では収拾がつかなくなっていた。その為にオモイカネが考案・同盟に提案し、採用されたのがこの制度である。

 現在、この発言力という単位でメンバーは主に『アキトとの時間』を取引している。では各人がどの様に発言力を貯めているかといえば、

 1.テンカワ家に対する功績(政治・外交・軍事や商品開発等による収入)
 2.自身の収入・資産等を対価にする事で、オモイカネ(テンカワ家資産管理係)から発言力を購入

 主にこの2点である。今回のリョーコ&ホウメイガールズの1件は他に希望者が居なかったので、問題は無かった。無論、今回の事例は稀少なケースであり、通常は発言力を使ってのオークション形式で『会議』は開催されている。ちなみに『発言力5000』を現在の我々の貨幣価値に換算すれば、普通の家族が50年は楽に生活できる基準であると考えて欲しい。

 「発言力に関しては異論なんて無いです。でもこれだけは言わせてください! 私を含め皆アキトさんの事を愛しているのは分かります。 でも………もっと……もっとアキトさんに優しくしてあげてください!」

 メグミが了承した瞬間、発言力取引のウインドウが現れた。それに構わずにメグミはエリナに対しそう叫んだ。

 「今更何を言っているの? 私もアキトもお互いを『大事に』しているわ…… こんな風に、ね。」

 シュッ!

   プスッ!

 そう言ってエリナは右手の親指から『何か』を中国拳法の指弾の要領でアキトに向けて飛ばす。『ソレ』はアキトの首筋に突き刺さった。極々小さい針のようなものである。

 「……!!」

 「きゃっ!」

 ダダッ!

 まずアキトの目から焦点が失われた。

 次にメグミを突き飛ばし、エリナの元へ向かうアキト。

 そして……




 ズキュゥゥゥゥンッ!


 常識ではありえない効果音を出しながら、エリナ・ペンドルトンディオ・ブランドーアキトはキスをした。

 「……ほら、こういう風に『優しく』……ね。」

 普通の女性ならドロ水で口を洗いたくなるような荒々しいキスであったが、それに満足したかのように艶然とエリナはメグミに告げた。

 「そうじゃなくって『普通』に出来ないのかって言ってるんです! エリナさん!」

 スゥッ……

 無論、メグミはそのキスを見てシビれたり、憧れたりはしなかった。そんな彼女の感情に呼応するかのように、先程までアキトが飲んでいたコップが宙に浮いた。コップからハサミへと姿を変えながら……!

 ズアッ……

 そんな女教皇メグミを見たエリナの右手に何時の間にか拳銃が出現し……!

   メギャン!

 彼女の右手に握られていた。エリナは銃口をメグミに一瞬向けかけたが、

 フッ

 唐突に拳銃が消えた。皇帝エリナが何事も無かったようにアキトに向かって頷くと、彼はエリナをお姫様抱っこ形式で抱えた。

 「まあ、いいわ。私と貴女では若干意見の相違があるようだけど、『アキトへの想い』という点では一致しているものと考えるわ。じゃあね。」

 バタンッ!

 アキトに抱えられたままメグミに告げ、エリナとアキトはメグミの部屋を後にした。

 コトンッ!

 ハサミが床に落ちるのにも構わずにメグミはしゃがみ込んだ。そして顔を両手で覆い、しばらく動かなかった。小声でアキトの名を呼びながら……







 


 再び舞台はオデッサ高山基地に戻る。

 「……」

 女性は空中で爆発するB−52と、地上でそれを呆然と見ている私服の男達を交互に眺めた。こちらに向かって来る者が居ない事を確認した上で踵を返そうとする、が……


 「「「「「ブラボー オオ ブラボー!」」」」」


 複数の女性達の声が辺りに木霊した……ッ!

 「……!」

 動揺した様子で女性が上空に目をやると……

 ポルナレフ5人の女性が何故か宙に浮いていた。無論、アフロにもなっておらず、何かしらの装備を付けているわけでもない……!


 「……な、何!」

 自分の想像を越えた光景に、衝撃を受ける女性であった……!

 「全く、この程度で私達をどうこう出来ると考えるなんて、無様ね。」

 サユリが侮蔑の呟きを漏らす。そして宙に浮いたまま、



 「「「「「この世に他のアイドルがはびこる限りホウメイガールズは現われる!」」」」」」

 「「「「「萌えのカタマリ、ホウメイガールズ、只今参上!」」」」」
 

 改めて全員で名乗りを上げるホウメイガールズであった。



 「「「「「「ウォォォォーッッ!!!!」」」」」」


 彼女たちの無事を確認したファン達が、宙に浮いている事に何の疑問を抱かないまま、名乗りに対して大歓声をあげた。


 スタッ!


 ホウメイガールズ達は男たちの歓声に手を振りつつ、地上に降り立った。間髪を入れずに


 「「「「「さあ、みんな! あそこに居る『北辰』さんをやっつけよー!!」」」」」

 全員で崖の上にいる女性を指差すホウメイガールズ達であった。彼女達のテンションに引っ張られるかのごとく、歓声をあげ始める男達。だが、

 「ほ、北辰……?」

 1人の男が『その名』を知っているかのごとく小さく呟いた。ただ、そこには恐怖という感情が多分に込められている。


 
 ざわ・・


 その言葉をきっかけに、その場に小さな変化が生じる。

 「そ、そう言えば聞いたことがある……っ 確か某国の大統領に……『EDAJIMAHOKUSINが後10人いたら地球は負けていた』と言わせた人物じゃ……無いのか……っ?」


 ざわ・・ ざわ・・


 前編に引き続き次第にその場を支配しつつある福本調の雰囲気……っ!

 「だ、ダメだ……っ そんな奴を相手にしては、死んでしまう……っ 死んだら勝負はそこで終わり……っ」

 「そ、そうだ……っ 俺たちは嵌っている……っ 既に泥の中…… 首まで……っ!」

 その内の何人かが地面に膝をつき、涙を流しながら利根川先生何者かに許しを乞うている。すこぶる福本調である……っ!

 「そんな事はありませんっ!」

 このままだとキリが無いのでその場の雰囲気をサユリの声が変えようと試みた。

 「そうです! みんなであの人をやっつけて一緒に旅行に行きましょう、ね♪」

 ミカコもサユリの援護射撃を行う。無論、彼等と旅行に行くのはウリバタケ作の影武者ロボットにやらせようと彼女達は考えている。

 「「「そうですよー、早く片付けて皆で行きましょ?」」」

 
 残りの3人も後方支援を行うが、一度発生した場の雰囲気は簡単に戻りそうにない……っ!

 「……ちっ……………………あ、もしもし?

 『はいもしもし?シャレコウベリースネルガル重工下請会社 株式会社マシンフレンズですが?』

 あ、今井さん?『アレ』転送して下さい。

 自分達の攻撃でも変わる事の無い状況に業を煮やしたのか、サユリは後ろを向いて小さく舌打ちを漏らした。そのまま袖から通信機を取り出し、通信を行う彼女であった。通信先からは千葉繁中年男性の声が聞こえてきた。

 『あ、サユリさんですか。いや、今回はいい出来ですぜ。なんせあの……」

 「講釈は良いですから早く送ってくださいっ!」

 「……へいへい、りょーかいですぜ、すぐに送りやす。  (ほわ〜〜ん ひゅ〜〜ん)           あ、ネジが取れてら……イマイチだな。

 何かが落ちる音を確認すると、サユリは相手のメッセージを最後まで聞かずに通信機から耳を離した。その直後、

 ♪ぱっぱっぱら ぱっぱっぱっぱー ぱっぱっぱら ぱっぱっぱーぱっ
 
 ♪ぱらりらぱらりらぱらりら……

 と少し不気味げなBGMが辺りに鳴り響いた。そして、空に穴が空き、


 突然、梱包された荷物が降ってきた。一応、ネルガルのロゴが包みにはある。

 

 ボウッ!

 

 炎を発生させながら、荷物の梱包部分が燃え尽きッ!



 ザザッ!


 それに合わせるように彼女達の背後から西暦1966年に日本に来日したビートルズ某有名バンドのコンサート時に前座を務めたドリフターズ『彼等』を模したロボット達が現れた……! その内の1体が、サユリに1枚の紙を差し出した。それには『納品書』と書かれている、ちなみにその文末に書かれた社名は先程の社名と

 『担当:今井市太郎』

 と担当者の名前がある。通信を最後まで聞けば決して使わない状況であるが、コスイネンサユリはそれを素早く懐に収めた。
 

 「じゃあ、今から私たち『ホウメイガールズ』の『コンサート』を始めまーす!」

 その後笑顔で男達に宣言したサユリの右手には、いつのまにか『小さい穴が沢山開いたおたま』が握られている。ごく普通の調理する時に使う台所用品である。

 「「「「はじめまーす!!」」」」

 それに続いて残りの4人も唱和した。

 スウッ……

   ブワッ!


 サユリが手に持ったおたまを一振りした瞬間!

 「くっ!!(こ、これは……!)」

 女性の聴覚を一瞬であるが、超高音域音波が襲った。常人には聞き取る事など不可能なレベルである。それを聞いた途端に力が抜け、ホウメイガールズ達に意識が引き寄せられそうになる女性であった。

 「「「「「「!!」」」」」」

 同時に福本調の雰囲気がピークに達し、何時の間にか4人一組になって麻雀勝負をしていた男達の瞳から焦点が失われた。よろよろと立ち上がり、ホウメイガールズへ虚ろな視線を向ける彼等であった。

 (超高音による催眠か……! む、昔『ルパ○3世(新)』を見ていなければ危なかった……! だ、だがッ! こ、このままでは奴等に操られてしまう……っ!)

 サユリの持つおたまから発した超音波は、女性をも操ろうとしていた。無数に空いたおたまの穴から発せられた音波は、指揮棒から発せられるそれとは比べ物にならない威力である。その支配を逃れる為に女性が取った行動は、




 ドンッ!


 「くっ!」


 痛覚が一番集中しているという自らのつま先をエンフィールド改で撃ち抜いた。箪笥の角に足の小指をぶつけるのとは比べ物にならない痛みで、彼女は辛うじて意識を取り戻した。足の傷を気にもせずにホウメイガールズの方を向くと、

 ♪ 美味しい料理が食べたいね

 ♪ 一日三食じゃ足りないね

 ♪ メニューの数だって多すぎて


 ♪ ちゃ ちゃ ちゃ ちゃ


 ♪ 食べても食べても飽きない 足りない


 ドリフターズロボットによる前奏を経て、ホウメイガールズ達はTV版ナデシコで披露した『Delicious Island』を歌っていた。

 「「「「「「……」」」」」」

 その様子を黙って見ていた男達であったが、歌の1番を歌い終えたミカコが自分達の背後を指差しながら、

 「さあ、皆! 私達のオリコン第1位を邪魔する人はあの人だよーっ!」

 と言った刹那……!


 ギンッ!



 一斉に崖の上の女性の方を向き、全員同時に目を光らせた。次第に彼らから殺気が生じてくる……!

 「ゆ、許せん!」

 「我らが天使達を邪魔するとはッ!」

 「あ、あのトンチキがァ――――っ!」

 口々に呟きつつ崖の上の女性を目指して、民間人ズは歩き出した……ッ! その様子を見て女性は、

 「そちらの被害の状況は?」

 
 『機関部に被弾しました! 現在消火活動中ですッ!』

 『しばらくこの場より動けませんッ! 御指示をッ!』

 女性は空中で船体の一部から煙を上げている『木馬』の状況を確認すべく通信を行ったが、返答は思わしくなかった。3秒ほど考えた後に女性は、

 「試作戦艦『斬時羽琉』の脱出を優先させよッ! そちらは復旧を急げッ! その後……」

 
 ドン!


 そう言いかけた途端、男の一人が自らの手の骨や肉を破壊しながらも、崖に直径5メートルほどの巨大な穴を開けた……!


   グボン!


 「うげえッ!」

 崖の上にまでその衝撃は伝わり、ディオ女性は後方に吹き飛ばされた。思わず通信機を手放してしまう女性。

 (な……なんだこのパワーはッ!)

 女性はその破壊力に驚愕したッ!

 (骨針あの催眠波は、この人間離れした獰猛な力を脳から呼び醒ましたというのか!)

 (し……しかし肉体はこのパワーについていけず、骨や肉を破壊しながら攻撃してきた……!!)

 先程の攻撃を分析する女性であった。崖下に目をやると、常人には登ることすら出来ないであろうその崖を男たちが上がって来ている。目には憎悪と狂気を宿しながら……!

 (やるしかないようだな……!!)

 先程落した通信機を見つけ、女性は改めてスイッチを押した。


 
 

 

 女性が通信機のスイッチを入れた直後、火星の後継者陣営の草壁の執務室内では、

 ♪ AFRO  JUSTICE! AFRO  JUSTICE! AFRO  JUSTICE! AFRO  JUSTICE!

 ♪ I’m justice.  I’m the law.

 ♪ Everyone  obey  my  judgment (以下略).



 『PANORAMA AFRO』の『AFRO JUSTICE』が流れ出した。なお、このバンドと曲は実在する。

 「閣下!」

 「うむ……」

 その曲を聴いて南雲の表情に緊張の色が浮かぶ。一方草壁は顔の皺すら動かさずに自分の机の引出しを開けた。

 『ムスタング2、ムスタング2、こちらコズン。』

 「草壁だ、何かあったのか?」

 引出しの中にあった古の技術を復刻した機械『GAKKEN 電子ブロック』から女性の声が聞こえてきた。それに答えるランバ・ラル草壁。

 『同盟がオデッサに侵攻して来ましたが、東野が撃退しました。フィニッシュホールドは一文字斬りです。』

 「ほう、流石だな。初めての実戦でそれほどまでのシンクロ率を示すとはな。」

 草壁は『戦果』に満足しているようであった。が……

 『しかし、私が第2波と現在交戦中です。』

 「「な、何ィッ!」」

 うって変わっての凶報に高橋調で驚く草壁と南雲であった、更に報告は続く。

 『敵はホウメイガールズ、通称”五花”です。加えて民間人を多数動員しています。』

 戦いながら交信しているのか、銃声等様々な雑音も草壁と南雲の耳に入ってきた。

 『私がオデッサに到着した直後に基地は包囲され、この有様です。同盟の手は思ったより長い様ですね…… 嫌ンなりますね、全く。』

 「閣下ッ! 民間人を害するのは現状では危険すぎますッ! 万一、連合の介入を招く事になれば……!」

 南雲に指摘されるまでも無く、オデッサでの戦闘の結果次第では後継者側は不利な状況になってしまう可能性があった。 現在の火星の後継者の保有戦力(一部の人外除く)では、同盟と連合双方を敵とした二正面作戦は不可能なのである。

 「同盟を倒した上で、有利な条件で連合に対し講和なり徹底抗戦を仕掛ける。 これが我等の基本戦略であったはずですぞ!」

 (南雲の言う通りだ。 だが、もう一つの道も悪くは無い……!)

 それが北辰と琥珀の諜報活動の結果導き出された『同盟と連合は一枚岩でない』という事項から決定された、火星の後継者の基本戦略であった。しかし今の草壁には別の感情も湧いてきていた。

 「それでお前はどうしようと言うのだ? 『北』よ……!」

 相手が『退く』という言葉を吐く訳が無いと知りつつ尋ねる草壁。この時点で撤退命令を出さなかった事で、すでに彼の腹は決まっていたのかも知れない。それに対し……


 『殲滅しましょう。唯の一人も残さずに我らが『正義』の為に……!

 草壁にとっては予測できた答えが返ってきた。黙したまま語らない草壁に対し、通信機からは歌声と怒号、そして打撃音が聞こえてくる。

 『さあ草壁様、ご命令を。』

 改めて声は草壁を促す。

 『私を攻囲し命令をただ実行しようとしている連中…… 私がアフロにし、これから筋肉地獄を見せる連中は、ただの、普通の、何も分からない一般人達です。』

 『私はアフロに出来ます 微塵の躊躇も無く 一片の後悔も無くアフロにできる この私はアニキだからです。』

 草壁に言い返す間を与えずに言葉を続ける通信機からの声……!

 『ではあなたは……インテグラ草壁閣下……』

 「「………………」」

 言葉も無く立ちすくむ草壁と南雲。それに構わずマリア・タチバn……ではなく『北』は言葉を紡ぐ。

 『私が変身しましょう。ポージングは私が行いましょう。筋肉の張りを確かめ、血管の浮き具合を見届けましょう。』


 『……ですが……』


 通信機ごしの口調が厳しいものになる。

 『アフロにするのは貴方の男気です。』

 残酷に草壁に宣告する声。

 『さあ、どうします? ご命令をッ!』

 更に追い討ちをかける通信機ごしの「北」。草壁は無言のままである……!



 『草壁・ノリダー・フェスティボー・アーンド・カーニボーッ・デ・巫女スキー・ノ・春樹ッ!』

 舌を噛まずに「北は」一気に草壁の本名を呼んだッ! 

 「ウォルター南雲……」

 「はッ。」

 沈黙を守っていたインテグラ様草壁は南雲を呼んだ。それに緊張した面持ちで答える南雲。

 「煙草を。」

 「はッ、ただいまッ! ………………どうぞ。」

 それに最敬礼で答え、南雲は草壁にマル○ロライト・メンソールを差し出す。

 シュボッ!

 受け取るや口にくわえて近所のパチンコ屋の余り玉でゲットしたライターで火を付け、一息吸う草壁。その後に、器用に下の前歯と唇の間に煙草を挟み、口の中へ向けてソレをゆっくりと傾けていく…… そして口を完全に閉ざし、煙草の煙を鼻の穴から出しながらポルナレフ草壁はしばしそのままの状態を保った。後継者のナウなヤングに大人気な煙草の吸い方である。中には5本同時に吸うことの出来る承太郎猛者もいるそうであるが……




 ブスブスブスブス……


 草壁が吸い始めて1分も立たない内に、何かが焦げる音が執務室に響き、

 

 「ウッギャアアアーッ」

 

 オインゴ草壁の悲鳴が部屋に響いた。




 しばし悶絶した後に彼は……ッ!


 バンッ!


 音高くテーブルを掌で叩いた。古典的な漫画のように大きく、赤く腫れ上がる掌からの痛みを無視し、

 「私を舐めるなッ! 『北』よッ! 私は命令を下したぞッ!何も変わらないッッ!!」

 大声で通信機に叫ぶ草壁。

 「『牙を突きたてろ。』!! 『牙を突きたてろ。』だッ!! 我らの邪魔をするあらゆる勢力は叩いてアフロにしろッ!!!」

 「逃げも隠れもせず変身して打って出ろッ! 全ての障害は ただ進みッ 押しつぶしッ アフロにしろッ!」

 『……はッ ははッ ははは はは ははははッ』

 「北」は笑い声をあげた。

 『そうだ。それが最後のいちじくの葉だ…… なんとも素晴しい! 股ぐらがいきり立つ! 『開け! ポッキンキン』のようにだッ! 閣下……ッ!』

 笑いながらも次第に興奮してきたのか、アーカード北のテンションは上がってゆく。

 『ならば我は打って出よう。特とごらんあれ、閣下。』

 通信は切れた。

 「…………私の、私の判断は正しいのか? 間違っているのか? 南雲? 我等木連の当初の目的に安易な妥協は無かったはずだッ!」

 通信を切った後に誰ともなく呟く草壁に、

 「正誤の判断など…… ただ私は執事四方天でございますれば、私が仕えるべき指導者はここにおられます。」

 そういって淡々と答える南雲。

 「それではアメリカン(笑)でもお入れしましょうか? ドクターペッパーとジョージア・マックスコーヒー、それとルートビアーとかバドワイザー、クリームソーダ、チェリーコークといった至高の食材がございます。」
 
 そう言って南雲は1リットルは優に入るであろうジョッキを取り出した。そこへドクターぺッパーとコーヒー等を注いでゆく。これもある意味六神合体である……!

 「さあ、草壁様。特製うどんはないですが、これも特上の『アメリカン(笑) ?』です。どうぞお飲みになってください。」

 「う、うむ……」

 黒だか茶色なのか…… にわかには判別しがたい液体を見て、躊躇する草壁であった。その様子を見て南雲は……

 「草壁さンのッ! ちょっとイイとこ見てみたいッ!」

 作者が大学生の頃の手法でもって草壁を煽った。加えて同じアメリカン(笑)を別のジョッキに作り、草壁に渡すと……ッ!

 ♪ ぱらぱっぱぱららら ぱっぱっぱ

 彼は小・中学校で定番のフォークダンスのBGMである『オクラホマミキサー』 のメロディーを口ずさんだ!

 「……ふっ、そのメロディを聞いた以上はッ!飲まなくてはなあッ!」


 そう叫んで草壁は南雲の手からもう一つのジョッキを取り、彼が口ずさむメロディーに合わせて……ッ!


 右手のジョッキから少し飲む。

 左手のジョッキから少し飲む。

 右手のジョッキから少し飲む。

 左手のジョッキから少し飲む。

 (中略)

 ♪ ぱらぱっぱぱららら ぱっぱっぱッ!


 バッ!


 メロディーが終ると同時に両方のジョッキを空にした草壁は、素早くそれを頭の上に載せた……ッ!

 「さすが閣下ですな、完璧なテーブルマナーです。」

 「……無論だ。しかし……」

 「しかし、何でしょうか?」

 「……このような形で我が闘争が終るとはな。我が屍を越えてゆけいッ、南雲ッ!」

 「閣下ッ!」

 ドサッ

 口の端に黒っぽい泡を浮かべつつ、笑顔で草壁は逝った……!

 草壁(略)春樹、一時戦線離脱……?

 

  「か、閣下ッ!」

 横たわる草壁(略)の手を取り暑苦しい涙を流す南雲。自分が手を下した事はアウトオブ眼中のようである。

 「ハル坊北辰殿からのピンチ通信は、この豪速球南雲義政が確かに受けましたぞッ!」

 そう呟いて、彼は執務室を後にした。とある通路に走って向かう。

 カッ カッ カッ カッ カッ カッ……

 2分ほど走り、南雲はとある通路の行き止まりに着いた。

 (琥珀殿が作ったという『アレ』、今こそ使う時ッ!)

 そう内心で呟き、通路の壁に背中を向けて立つ。すると……!


 ばびょーんっ!


 特殊な効果音と共に通路の壁が南雲ごと180度回転し、彼の姿は通路から消えた。
 
 数分後、”何か”が後継者陣営から飛び立ったが、後継者陣営でソレに気付いた者は居なかった。








 ドドドドドド……!

 女性=北辰の背後で”斬時羽琉”が大気圏めがけ発進していった。”木馬”は依然上空で煙を上げつつ宙に浮かんでいる。

 「3人はそちらで収容したか?」

 『はッ! 秋葉様、翡翠様、琥珀様の3人共御無事でありますッ!』

 「ふむ、奴等は我がしばし食い止める故、修理を急がせい。」

 『了解致しましたッ!』

 木馬との通信を終え、彼(女性モード)は改めて前方を見渡した。わずかな通信時間の間に男達が崖を登り終え、北辰を包囲していた……! 彼等を平然と眺めつつ、

 (もしもしカメよ警察よ SOS SOS カシン・カシン・カシン 我は今ドキドキするほど……


 ゴンッ!


 ……大ピンチであるッ!)

 目を瞑りイメージトレーニングを行う北辰。一流の暗殺者ともなれば、目を閉じた隙にアッパーカットを喰らって宙を舞おうが、セルフ・コントロールを万全に行うのだッ!

 (丁度良いッ! 良い具合でピンチであるッ! 逝くぞッ!)

 

 

 動物は危険が迫ったりケガなどをすると、副腎髄質という内臓器からアドレナリンという物質を分泌し、体を緊張させるッ!このアドレナリン量を脳に寄生する寄生虫バオー右脇腹の浪漫回路が感知し、浪漫回路は主人である橋沢育郎北辰を生命の危険から守るべく無敵の肉体に変身させるのだッ!これがッ!


 
バオー『北』武装現象アームド・フェノメノン」だッ!


 『浪漫回路』の麻酔作用開始!

 地面に叩きつけられる瞬間、体内の浪漫回路は「女性部分」の精神を麻酔し、”彼女”の精神を完全に支配した。「北」への変身を促すッ!

 女性型から男性型への肉体構造の切り替え!

 女性から男性のそれへ肉体が変化し、同時に足の傷口が何故か塞がれるゥッ!

 胸には帰らざるの森(=ギャランドゥ)、発生ッ!

 寄生虫バオーの分泌液浪漫回路のトキメキ(はあと)エネルギーは血管を伝って細胞組織を変化させ……

 皮膚を特殊なプロテクターに変え、ワセリンを塗ったかの如く肉体を輝かせる!

 筋肉・骨格・腱・ギャランドゥに強力なパワーをあたえるッ!

 バル

 「北」がジャンプしたッ!

  バル!

 ジャンプした姿勢のまま、男達の方へ向かうッ!

    バル!

 これがッ!

  これがッ!

   これが「北」だッ!

 そいつにふれることはアフロを意味するッ! 武装現象アームド・フェノメノン
 

 体の血管が良い具合に浮き上がり、てらてらと輝く肉体は漢気を解き放たんと躍動するゥッ!


 「「ウォォォーッ!」」

 「北」の背後から二人の敵が襲いかかるが、彼は素早く回避した! 

 ……感覚はすべて頭部の触覚でまかなう!! 訳ではない。某塾生とは異なり、生来「北」の目は見えるッ! そして彼の左手では、

 『ありんこ』が余裕で出来るほど生い茂った体毛が変化し、刃渡り30センチほどの刃が形成された。

 軽く腕を振るうだけで、敵は二人ともアフロになるッ! これがッ! 

 『北・リスキニハーデン・セイバー・フェノメノン ”Kita Reskini Harden.Saber.Phenomenon.”』だッ!

 「ウオオオオ〜ム! バルバルバル!」

 暴走した某汎用人型決戦兵器(CV:メグミ・ハヤシバラ)の如き咆哮をあげ、先程とは別の男達の頭を両手で掴む「北」。すると……!
 
 「ヒイッ! 人間がこんなにもアフロになるものなのか!」

 奇妙な音と共に掴まれた男の髪がアフロになっていく。それを見た他の男から恐怖の呟きが漏れる。

 「フンッ!」

 その呟きを無視し、いつの間にか『漢』と描かれた純白の越中の身に付けて己が三角筋を震わせる漢……!

 これが『バオー北』だッ!

 

 「ふうん…… あなたがおヴァさ……じゃなかったイネスさんとルリちゃんを沈めた『敵』かぁ。」

 ザザッ!

 サユリの言葉と共に、北を包囲していた男達の一角がくずれ、そこからホウメイガールズ達が現れた。

 「……貴様等がこやつ等を……?」

 「そうだとしたら、どうするの? どうせあなたはここで消えるんだし、関係ないじゃない。」

 「……消えるのは貴様等也。」

 「ふうん、こいつ等をなんとかすればそれも出来るかもね。」

 サユリに対し淡々と呟く北。常人なら気絶しかねない殺気を浴びている筈のサユリであるが、その北を嘲るような表情に変化は無い。

 「じゃあ、精々頑張ってねー。」

 バッ!

 ミカコが手を振りながら北に”さよなら”をすると同時に、男達がホウメイガールズを己が集団内に隠した。それと同時に、北への距離を詰め始める……!

 「来るか。 ……滅!」

 それを見た北の呟きで、戦闘は始まった……!

 

 

 

  「”戦況”はどうなってるの、琥珀?」

 「うーん、芳しくないみたいですねー。あの人達は凄く頑丈ですねー。ちょっとばかし北辰様は苦労されていらっしゃるようですね。……っと、こんな感じですねー。」

 ”木馬”内のブリッジで戦いの疲れを癒していた秋葉が、オペレーター席に座ってあれこれ作業をしている琥珀に問い掛けた。コンソールを操作しながら琥珀は応える。

 「……確かに大変そうね。」

 琥珀の操作によって、正面モニターには”戦況”が映し出された。琥珀の言葉どおりの状況を確認しつつ、秋葉は他人事のように呟いた。

 「ええと、支援の準備は出来ましたが、いかがなさいますか秋葉様?」

 「……支援? あの人を? 必要と思えないけど?」

 2本目の輸血パックを飲み終わり、3本目にストローを刺そうとしている秋葉に対し、琥珀はそれがさも当然の如く進言した。

 「四方天相手ならば、”貸し”はいくらでも作っておくべきと思いますよ、秋葉様。ああ見えて、借りはきちんと返すんですよ、北辰様は。」

 「そう、それならば良いのだけれど。……あんな人達に対抗する手段があるの、琥珀?」


 「ふふふふ……」


 この時、『琥珀の瞳に形容しがたい一筋の閃光を見ました』と秋葉は後に語る。

 「秋葉様、『こんなこともあろうかと』ですよ。ああいう人達にも効果グンバツな手段があるんです♪」

 「そうですか…… お願いします。」

 目をやったらめったら輝かせている異様な琥珀さンの雰囲気に呑まれ、つい敬語を使う秋葉さン。

 「了解です、秋葉様。ふふふふふ…… さて効果はいかがなものでしょうか?」


 シュババババッ……!


 先程とは比較にならないほどの速さで、琥珀の手は動き出した。今にも大気との摩擦熱で、火を噴きそうな程である。
 
 「ほ、炎のコマ……!?」

 謎の言葉を呟く翡翠。おそらく志貴が秋葉の目を逃れて買った漫画等で、見たのであろう。後日、翡翠は

 「あの時の姉さンは、野球帽?を被り、2本の前歯が異様に大きく見えたような気がしました。

 と秋葉に語ることになる。どーでもいい話であるが。

 「さて、準備は整いましたー。……北辰さーん、今から援護をしますから、空から落ちてくるモノをじっくり見ては駄目ですよ、死んじゃいますから♪」

 『……?! ……!!』

 「大丈夫ですよ、『直視しなければ』人体に影響は無いですから、ではご武運を! (プツッ!) ……それでは、いっきますよー、ぽちっとな♪ 」

 琥珀は一方的に事態を相手に告げ、

 一方的に対処法を告げ、

 一方的に通信を終了し、

 勝手にスイッチを押した。

 「さあ、これで北辰様は大丈夫ですね、多分♪」

 「そ、そう……」

 「…………(これが、在庫切れです)。」

 ”笑顔”で秋葉と彼女の背後に立つ翡翠に話す琥珀さンであった。その表情を見て秋葉は少し怯えた様子で呟き、翡翠は秋葉達に背を向け、胃薬を素早く水無しで服用した。




 「くっ…… 何が始まるというのだ。あ奴の考えはこの我でも読めん……!」

 男たちは、倒しても倒しても立ち上がってくる。最初の敵とは異なり、容易にアフロにならないのである。頑強に抵抗を続ける敵の様子を見て”本気”を出そうかと考慮していた北辰であったが、琥珀の一方的な『援護』の為にそれを断念した。少し男達とは距離を取り始める北辰。それを追撃する敵達。

 そこへ、


 ひら……


  ひら……


   ひら……



 そんな北辰や男達の頭上に、無数の赤い紙切れが落ちてきた。

 「上から来るぞぉ! 気をつけろぉ!」

 男達の内の一人がそれに気がついた。北も上を見上げるが、なにやら字が書かれているようであったが、内容までは判別出来ない。

 (我が『目』を持ってすれば容易いが、琥珀の警告は無視できん。それに”赤”は漢を惹き付けるからな。我も逃げねば魅了される……!)


 バッ!


 紙を直視することなく、北辰はバックジャンプで男達との距離を開けた。

 「「「「何だァ? この紙切れはァ?」」」」

 北辰に襲いかかろうとしていた男達は、頭上に舞う紙を見て、全員で見事に越前ボイスで疑問を発した。

 「だが!」

 唐突に一人の男が叫ぶ。

 「せっかくだから!」

 「「「「俺達はこの”赤い扉を選ぶぜ紙”を見るぜ!!」」」」

 それに唱和する形で、全員が絶叫する。全員、見事なクリムゾナーであるッ!

 「「「「「……」」」」

 そして全員が無言で紙を眺めていたが、

 「ひゃーっはっはっは!」

 「ぶほぉぉっ!」

 「だーはははは!」

 「クックク……」

 「わ、脇腹がァッ!」

 なぜか、紙を見た全員が大爆笑モードに入った。その笑い方は尋常ではない。

 ドサッ!

 笑い過ぎる余り、男達は次々と転倒した。身体のあちこちに擦り傷を作りながらも爆笑する。そして、1分ほどで全員が動かなくなった。

  「……何が書かれていたのだ?」

 その異常事態は、北辰をしてこう言わしめた。
 

 「……琥珀、アレは一体何だったの?」

 「良くぞ聞いてくださいました、秋葉様。あれは昔ですね、BBC……じゃなくて英国のとある兵器開発部門で開発された『ジョーク爆弾』って兵器ですよ。」

 「ジョーク?」

 「爆弾?」

 北辰と同様の疑問を持った秋葉に対し、奇妙な単語を口にした。聞きなれない単語の組み合わせに、翡翠と秋葉は疑問の声をあげる。

 「はい♪ 昔発明された『見ると死んでしまうほど面白い』ジョークを様々な言語に翻訳したものが、あれには書かれているんです☆ ……どうも意識を失っているだけのようですので、まだ改善の余地はありますねー。」

 「……屋敷でそんな物を研究しないでね、琥珀。」
 
 「もちろんですよ秋葉様。……って秋葉様、”五花”の方々が現れましたー。」

 「あら、本当。……見たところ、そんなに強くなさそうだし、どうするのかしら?」

 木馬内ブリッジ正面のモニターに、ホウメイガールズ達の姿が映る。だが、彼女たちの表情に不安さは無く、逆に不敵ですらあった……!
 


 「「「「「フフフフフ……」」」」」

 5人揃って、北辰に不敵に笑うホウメイガールズであった。

 「アキトさんが作り上げた地球のこの平和 ハッピネス!

 「乱す奴らは!」

 「許せないですー。」

 「ステキー ステキー ステキテキテキ ムテキン……」

 「……その辺にしておきなさい、ミカコ。」

 いつの間にやら、ローラースケートを履いている某竜の子謹製のヒーローの主題歌になりそうだった場面を、サユリは強引に止めた。

 「……貴様等だけで我に勝つだと?」

 「余裕なのは、今のうちね。私たちの”スタンド”の”正義ジャスティス”で死んでもらうわ!」

 「”スタンド”? ”正義”?」

 聞きなれない言葉にほんの少し戸惑う北を他所に、ハルミの言葉を皮切りとして、ホウメイガールズの全員は、両手を天にかざした。

 ドム ドム ドム

 謎の効果音と共に、彼女達の背後から無数の黒い線のようなものが溢れていく。それは先ほどのジョーク爆弾のダメージによって地面に横たわっている男達に降りかかり……!
 

   グシュウウ

 その傷口に差し掛かった、すると……!

 シューウー

  シューウー

   シューウー

    シューウー

 各々の傷口から赤色の霧が漏れ出した。

 「ぬうっ! 奴等の血がッ! 霧の中に舞い上がって行くッ!」

 ホル・ホース北の台詞通りの現象が男たちを襲い、

 ボゴ〜ン

 彼らの手足に巨大な穴が開いた。何故か、それ以上の出血は見られない。

 「!! こ、これは……?」

 「きれいな穴が開いたようですねェ……」

 「ハイ、私たちの”スタンド”、『ジャスティス』は霧状の”スタンド”……」

 「この霧に触れた傷口は全て、このようにカッポリ穴が開きます。」

 「そして!」


 ドャホホホホホホホ


 北は男達の背後に強烈なエネルギーを感じた。それは髑髏が王冠を被り、己が両手を男達にかざしているように見えた。

 「『ジャスティス』が遊んで欲しいそうなンだけど、付き合って貰えるかなー?」

 ミカコが表面上はにこやかに北に告げると同時に、

 ズオン

  ズオン

   ズオン

 手足、そして胴体が穴だらけになった男達が立ち上がり、北に向かい始めた……!

 「か……渇く…… なんか知らねえがよォ………… 渇いて渇いてしょうがねえんだ……」

 「グァヴォー あったけェー血ィイイ! ヴェロヴェロなああめたァアアイ 血ィイイイイイッ!」

 「あの男を殺るのはおれだぜーッ! 軟骨がうめーんだよ軟骨がァ――――ッ!」

 口々に常人が話すことはあり得ない台詞を口にしつつ、狂気を孕みながらである……!

 「くっ!」

 その光景は暗殺者として、ビルダーとして数々の修羅場を潜り抜けてきた北をして、恐怖という感情を引き起こすには十分であった。それほどに目の前の事態は異様であった。
 
 バッ!

 北の恐怖を感じ取ったのか、男のうち1人が一瞬のうちに北との間合いを詰めた。彼の額に右手を添える。

 「何ッ! 疾いッ!」

 「でェッケケケ――――ッ! 血ィイイイ吸ったらいいだろォなァ!!」

 ガバ・・ッ

 北の額に右手をぴったりと付けながら、男は不気味に呟いた。それに伴い、男の口が裂けながら大きく開く……!

 「ちぃッ(こ、これは我の想像を超えた事態だッ)!」

 舌打ちをしながらも、男の腹に蹴りを入れ間合いを離す北。

 「さあ、この力を相手にどうするのかしら?」

 「ふふふ…… これジャスティスは私達の”アキトさんへの愛”という生命エネルギーが作り出すパワーのある像(ヴィジョン)です!」

 「これを破ることなど、貴方には不可能でーす!」

 「さあ、さっさと覚悟を決めたらどうなのかなぁ?」

 「……貴方に私達を破る策なんてあるのかしら?」

 口々に北に話しかけるホウメイガールズに対し、

 「ああ、ある。」

 北は自信を持って答えた。

 「ふーん、あるんだ。」

 「ああ、たったひとつ残った策がな……!」

 「へえ、それって?」

 「とっておきのやつだッ! こいつは”足を使う”ッ!」

 得意げに自らの足を叩く北進。

 「……足をどうやって使うのかなぁ?」

 ミカコの問いに対し、

 「それはな…………逃げるんだよォ!(常識を超えた敵だッ! 時間を稼いで策を見つけねば……!)」

 ジョセフ・ジョースター北はそう言って猛ダッシュで走り出した、オデッサ基地内の施設に向かう……!

 「「「「「フフフフフ……」」」」」

 その逃げ出す様子を嘲笑いながら、ホウメイガールズと男達はゆっくりと北を追いかけ始めた……!

 

 

 

 

 「……問題は、どこで奴等を迎撃するかだが……」

 オデッサ基地内に入り、外敵進入阻止用のセキュリティシステムを作動させつつ、北は作戦を思案していた。

 (あの女どもを倒さぬことには、おそらく我には勝ち目はない。問題は、あの骸骨と男どもをどうするかだが……)

 思案に暮れながらも、基地の奥に向けて逃げ続ける北。各扉の施錠も忘れない。

 (何とか分断するか? こちらが基地内部に逃げていると見せかけて一気に中心を強襲するか?)

 様々な戦術が北の脳裏でシミュレートされるが、有効な手段を構築できずにいた。

 ドォォォンッ!

 遠くで爆発音が聞こえた。

 (ちィッ! 防壁もさほど保たぬかッ! ならば……!)

 毒づきながらも地下司令部に辿り着いた北は、先ほどまで秋葉が居た席に向かった。キーボードをすばやく操作する。

 ≪自爆プログラム作動を要請されました。20分後に当基地は爆発します。作動後の解除はできませんが宜しいでしょうか?≫

 AIが”命令”を確認する。

 「承認だッ! 急げッ!」

 ≪了解です。自爆プログラム、作動開始します、爆発まで後20分。全スタッフはマニュアルナンバー”あー309”に従い、避難を開始してください。≫

 それを機に、基地内には警報が鳴り響いた。北も司令部を後にして地上を目指す。

 (この隙を見て逃げるしかあるまい。自分達は逃げることを選択し、男達には我に対する追跡を継続させたとしたらあるいは……!)

 警報が鳴り響く基地の廊下を走りながら、可能性を考慮する北。

 (しかし…… 我が手で確実に始末をつけねば…… あのような力を他の同盟メンバーも持っているとしたら、我ら後継者は……!)

 ザッ!

 考えているうちに、北は地上へと戻った。周囲に人影は見えない。

 「ふむ、早く木馬に戻って…………ッ!」

 ズバッ!

  ザシュッ!

   ドシュッ! 

 彼が”気配”に気づくのと彼への攻撃は、ほぼ同時に行われた。一瞬のうちに北は、自身の両腕と背中を斬りつけられた! たまらず地面に倒れ付す北。

 (ば、馬鹿な……ッ!)

 「……人間って無意識に自らの動きを抑制しているのよ。過剰に動いて自らの身体を痛めないようにね。」

 「でも〜今の彼らにはその抑制が無いから〜」

 「ええと、”けん”が伸びきる限界まで身体を使えるンだって〜」

 「その結果が今の攻撃ね。」

 いつの間にかホウメイガールズと男達が、どこからともなく現れた。

 「……ご丁寧に解説とはな、痛みいる……!」

 苦痛を気合でねじ伏せ、不敵に笑う北。

 「貴方がこちらの説明役をアフロにしてくれたからじゃない。もっとも、そのおかげで私達は”ローテーション”を手に入れることができるし、アキトさんにも喜んでもらえるわ。その点は感謝しても良いわね。」

 サユリがこともなげに言ってのける。

 「……何?」

 「だって、後は貴方達”火星の後継者”だけですもの、アキトさんの作った”平和”を邪魔するのは。」

 北の質問にジュンコが答える。

 「この世界はアキトさんが平和にしたんだから、アキトさんに逆らう人がいる資格って無いと思います。」

 ハルミが続く、そして

 「私達は!」

 「「「「アキトさんの使徒なり!」」」」

 「ただ伏して!」

 「「「「アキトさんに愛を乞い!」」」」

 「ただ伏して!」

 「「「「アキトさんの敵を打ち倒す者なり!」」」」

 「外の世界で!」

 「「「「アキトさんを探し!」」」」

 「この世界で!」

 「「「「敵を打ち滅ぼす者なり!」」」」

 「我ら”同盟”なり!」

 「「「「”同盟”の”五花”なり!」」」」

 サユリが先導し、名乗りを改めてあげる彼女達……!

 「くっ(こ、こやつ等……!)」

 改めて、同盟の存在に恐怖を覚える北であった。

 「さあ、そろそろ死んでもらおうかしら? 私達が葬送曲を歌ってあげるから……!」

 その言葉をきっかけにして、ドリフ型ロボが演奏を始める。どうやら”銀河のクリスマス”のようである。

 「そ、その曲はホウメイとかいう女がメインボーカルの筈だが……?」

 北のツッコミは無視され、男達が北との間合いを詰めていく……! 

 (ま、拙い…… 身体が動かぬ……! 毒でも入っていたのか?!)

 身動きができずに男達の接近を見守るしかない北。前奏が終わり、彼女達が歌いだそうとする刹那……!

 

 ドッカーンッ!

 

 演奏中のドリフメカ付近で爆発が発生した。

 「「「「「な、何?!」」」」」

 歌うのを止め、彼女達はメカのほうを見る。メカ達は演奏を中断し、突っ立っているだけになった。

 「は、早く演奏を再開しなさいッ!」

 動揺し、操作スイッチをあれこれいじるサユリであったが、メカ達は動こうとはせず、逆に……!

 バラバラバラ……

 突如、メカ達の身体がバラバラに壊れていった……! ネジが外れたらちょっとの衝撃でボディがバラバラになるのは、常識ともいえるのである……!

 「「「「「ええっ!」」」」」

 そんな”常識”を知らない彼女達は動揺するばかりである。それに連動するかのように、男達の動きが止まる。

 (な、何が起こった……?)

 不思議に思った北が空を必死の思いで見上げると……!

 キラァンッ!

 一筋の光がこちらへ向かってきた……! それは次第に姿を明確にし、クワガタのような独特の”角”が印象的な戦闘機が現れた

 ウィーン……!

  ばッ!

 その飛行機のキャノピーがあき、何かが空へ飛び立った! 次第に地上に、ホウメイガールズの元に接近する。それを見て、

 「あ、あれは!? 株の仲買人?」

 「計量の専門家?」

 「教区委員?」

 「違うわ! 自転車修理員よ!」

 「シビビン シビビ…… くッ!」

 同僚の英国風のボケに、思わずその付近を縦横無尽に飛びたくなるという反転衝動を、サユリは気合で押さえつけた。その時、空からやってきた人物が地上に降り立った。

 

 

 ぴっちりむちむちな全身タイツとマントに身を包み、赤い触角?が印象的なヘルメットを被った南雲である。

 無論、全身くまなくぴっちぴちである

 その勇姿を晒しながら、彼は

 「待ちに待ってた出番が来たぜ! ここはおまかせ逆転イッ……」

 「良くぞ来たッ! 早く我に解毒剤を……!」

 北はその名乗りに割り込みをかけた。

 「あ、そうですな。では早速……」

 「すまん(そうそう好きにはさせんッ!)……」

 (お、おのれー)と思うことなく北に走り寄る南雲。それを上空から見ていた琥珀が「いい人ですね……」と呟いたと言われるが、真偽のほどは定かではない。

 プシュッ!

 無針式注射器を北の首筋に当て、中の液体を注入する南雲。中身は琥珀製の薬品であるが、彼はその真実を知らない。

 「……すまん、南雲。」

 「いえ、北辰殿のお役に立てて光栄の至り。しかし北辰殿、あの奇妙な骸骨姿は一体……?」

 「貴様にも見えるか南雲、”生命エネルギー”と奴等は言っておったが……」

 「! ならば北辰殿ッ! ”目には目を 歯には歯を”ですな……!」

 「!! そうか、その手があったかッ! ならば……!」

 南雲との会話の中で、北は何かを掴んだ様である。

 「南雲ッ! ”ひっつけ”ッ!」

 突如、命令する北。

 「え、ひっつく? くっつくンすか?」

 なぜか頬を薄桃色に染めながら確認する南雲。

 「そうだッ! 分かるなッ! 貴様もスタンド……じゃなかったビルダーの端くれならば……!」 

 「……! 分かりましたッ! では、”ジャケットアーマーッ パージッ!

 そう言って全身タイツを脱ぎ、己がバディを惜しげもなく晒す南雲。

 「くッ! 何かする気だわ! 退避しましょう!」

 南雲の脱衣を見て、動揺したサユリが撤退指示を出すが、

 「「遅いッ!」」

 漢二人は……ッ!

 「逝くぞッ! 熱血・必中・直撃ィッ!」

 シュンッ!

 「うっすッ! 狙撃・努力・祝福ゥッ!」

 シュシュンッ!

 声を掛け合い、ポージングを決めながら空高く舞い上がる……ッ!

 『1ッ!』

 フロントラット・スプレッドをしながら北が叫び、

 『2ッ!』

 完璧なサイドチェストをキメつつ南雲も叫ぶ。

 『『3ッ!』』

 二人同時に声を揃え、 


 ダァーッ! アニキ・エクステンションッ!』

 『シュゥゥゥトォォォォォッ!』


 『北』と南雲の体から発せられる暑苦しい『漢気』は、混じりあうことで強力なエネルギーとなるッ! 洗剤同士を混ぜると危険であるようにッ!


 ギュワワァァァァァァァンッ!


 その混合エネルギーの奔流は、ホウメイガールズ達を始めとする敵を飲み込み……っ!


 「「「「「「「ウワワワァァァァァッッ!!」」」」」」」

 「「「「「キャアアアアアアアッ!」」」」」


 何故か大爆発発生


 スタッ!

 「やりましたな、北辰殿…… (ギュムッ!) あっ(はあと)

 「クックク、汝の漢気、YESなりッ!」

 勝利を喜ぶ南雲のとある体の部分を握りながら呟くヤザン『北』。二人で爆心地に視線をやる。

 

 無論、彼女達全員、アフロだ。

 

 「任務完了ですな、北辰殿。」

 「うむ、早く帰還するとするか。」

 そう話していた二人であったが、

 「フフフフフフ……」

 不意に笑い声が周辺に響いた。

 ズシャアッ!

 一人の男が二人の前に現れた……!

 「き、貴様はッ!」

 「アララギか…… 久しいな。我等に何用か?」

 アフロになった男達を盾にしていたのであろう、全く無傷のアララギ立っていた。驚く南雲と、冷静な北。

 「何、大した用ではありませんよ、”ソックス・アニキ”?」

 「……その名を出すということは、貴様も……?」

 アララギは北の”別の名”をあっさりと口にした。北が問い返す。

 「無論ですよ、この”ベヘリット”で、これからね……!」

 アララギはそう言って、懐から黒の靴下を取り出した。模様ではなく、目、鼻、口がバラバラにプリントしてあるという不気味なデザインである。

 「北辰様、あれは一体何なのですか?」

 「我にも分からぬ……」

 「ソックス・アニキッ!」

 アララギの取り出した靴下からただならぬ力を感じるものの、その正体が分からない北辰を尻目に、アララギは叫んでいた。

 「貴様の1年靴下を貰い受けるッ! そのために……!」

 5秒ほど悩んだ後にアララギは、

 「私はッ! 捧げるッ!」

 天に靴下を掲げ、絶叫した。目から赤い液体を流しながらである。
 
 「我が秘蔵のコレクションッ! 『電子の妖精 生写真集』と『妹 第三幕 〜愛と悲しみの晩御飯〜』を! そしてェッ!」

 『兄貴 第二幕 〜紫陽花の咲く庭で……〜』をッ!」

 カッ!

 その魂の叫びに反応したのか、バラバラであった筈の靴下の顔のパーツがきちんと並び、”閉じた目”が開いた……!

 ズゴゴゴゴゴゴゴゴ……!

 「こ、これは……! (この我がプレッシャーを感じているのか……!?)」

 「い、一体何が起きているのです……?」

 百戦錬磨の『北』ですら経験した事の無い強烈な何かが北と南雲を包み込み……

 ♪絶対筋肉黙示録

 ♪絶対筋肉黙示録

 ♪出生登録・洗礼名簿・死亡登録

 ♪絶対筋肉黙示録

 ♪絶対筋肉黙示録

 ♪兄貴の誕生・絶対誕生・黙示録

 どこからともなく女性の声がメインの合唱団風の歌声が聞こえてきた……! 若干男性の声も混じっているが。
 

 

  世界アニキをッ! 革命する力をッ!」

 

 ♪もくし くしも しもく くもし もしく しくも……

 アララギが叫んだ直後から謎のリフレインが始まり、周囲は光に包まれていった……!

 


 ……光が収まり、周囲には元の光景があった。ホウメイガールズと、男達がアフロになっている光景に変化は無い、が……!

 「……ほう。」

 ”北”が自分の目に映る漢に感嘆したかのごとく、呟きを漏らした。


 黄色のネクタイとビキニパンツ、そして先ほどの靴下以外は、何も身に付けていないアララギを見て。


 「……さあ、『ソックス・アニキ』よ。私とデュエルしようじゃありませんか?」

 ビキニパンツに手をやり、その中から黄色のバラの花を一輪取り出しながら、アララギは優雅に呟いた。

 「フ…… では、」

 「待って下さいッ! 北辰殿ッ! ここは私が……!」

 やる気を出していた北を南雲が止めた。

 「よかろう、やってみるがいい。」

 「了解ッ!」

 北の許可を受け、アララギに立ち向かう南雲であった。
 

 「……いくぞ、アララギッ! 貴様ごとき、北辰殿の相手ではないわッ!」

 「ククク…… ”ヤムチャ”がほざいてますねェ……」

 アララギは侮蔑の表情を浮かべた。

 「……なんだ、それは?」

 「”かませ犬”ってことですよ、すごい南雲様!」

 「!! ならば食らえイッ! メンズ・ビィィィムッ!」

 南雲は己が腰を3秒ほどシェイクさせるッ! 腰からエネルギーの奔流が生まれ、アララギに向かう……ッ!

 ガシィッ!

 だが、南雲から発したエネルギーは、アララギの体に達する前に六角形状の『何か』にぶつかって飛び散った。

 「ふっふっふ、その程度のエネルギーでは私の”A・T(Aniki Tamaran)フィールド”を破る事は出来ませんよ。」

 「何ィッ!」

 ありえない事態に高橋調の表情で驚く南雲。

 「今度はこちらの番ですね……!」

 ヒュッ!

   ガシィッ!


 そう呟くや否や、アララギは南雲との距離を詰め、自らの右手で南雲の頭を掴んだ。

 「は、速いッ! それにその技は……!」

 「そうです、マユミ・キンニク直伝の”アイアンクロー”です。」

 (い、何時の間に『直伝』されたのだ……?)

 驚く北にこともなげに応えるアララギ、内心で突っ込む南雲。

 ググググググ……!

 「ううっ!」

 そう言っている間にアララギの握力はどんどん上がっていく……! 辛うじて体をブリッジ状にする事で耐える南雲。

 「ふふふふふ……! 無駄ですよ、耐えたところでね……!」

 グイッ!

 ブリッジ状で耐える南雲の体をフリッツ・フォン・エリック直伝の握力で引き起こすアララギ。

 (くっ…… もう少し、もう少し耐えれば三冠王が……!)

 圧倒的な力に耐えていた南雲であったが、

 「あはー、南雲さーん、聞こえますかー?」

 琥珀から通信が入った。

 「ええとですね、胴体部分はまだ出来ていないんですけどー。っていうかそこまで草壁様と秋葉様に予算を頂いていないんで、開発はまだ無理です♪ なので、自力で頑張ってくださいね☆。」

 「……」

 琥珀の無常ともいえる言葉が、南雲の聴覚を潜り抜けていく。この時の彼の表情を某大型掲示板風に表現するならば、どの様になるであろうか……!

 「…………」

 通信内容が聞こえたのであろうか、北が南雲に対し敬礼を行った。無言のままである。  

 「…………」

 南雲は無言のまま、

 アララギにアイアンクローをされたまま、敬礼を返す。

 男達に言葉は要らなかった。

 その敬礼で全てを理解しあえたのだから。

 そして 


 パキッ!


 なぐも の こころ は おれた。


 「ふふふふふふ、 我が技に参ったようですね。ではとどめを……!」

 地面に膝を付き、愕然としている南雲を心地よさげに眺めていたアララギは不意に、

 「………………♪」

 「!(我が耳で聞き取れぬだと?)」

 南雲の耳元で何事かを呟いた。自らの聴覚でその内容を拾うことが出来ずに愕然とする北。

 「あふうッ!」

 ドサァッ!

 不意にアララギの囁きを受けた南雲が、奇妙な声色で絶叫した。地面に横たわり、ピクリとも動かない……!

 「……如何です? そのままでは私には勝てませんよ、”北”さん……!」

 「……確かにそのようだ。ならば見るがいいッ! ”奇跡”をなァッ!」

 そう言って北は越中から1足の靴下を取り出した。その匂いを嗅ぎだす。

 「……来た来た来たァッ! 逝くぞッ! 変ッ身ッ! とおッ!」

 パァァァァッ……!

 北はジャンプした。その身体を白い光が包む! 彼は改造人間ソックスハンターであるッ! 彼は1年靴下の匂いを嗅ぐことにより、”ソックス・アニキ”へと変身するのだッ!そしてッ!

 

 「ソックス・アニキッ! 見ッ参ッ!」

 見よッ! 雄雄しく大地に立つその勇姿をッ!

 頭には麦わら帽子、顔にはサングラス、首にはネクタイ、ビキニパンツでボディを包み、足には靴下……!

 これがッ! ボク等のヒーローッ、”ソックス・アニキ”だッ!
 

 


 「アララギよ…… 南雲に何を?」

 「ふふふふふ…… 今に分かりますよ、ソックス・アニキ。貴方には本気でイカせて貰います……!」

 恍惚の表情を浮かべて横たわる南雲を一瞥して、アララギはアニキへ向かって一歩を踏み出した。両腕を不気味に動かしながらである。

 「フフフ…… アニキに我が秘技は防げますかな……!」

 「……やって見るがいい、アララギ。」

 傍から見れば、脳がバグっているとしか思えないアララギの動きであったが、それを見つめる アニキの瞳には緊張の色があった、いささかの油断もない。喩えるならば、火付盗賊改方の長官が”水をも漏らさぬ警備”を行うときにする目付きに似ている。

 「逝きます、秘技 ”Safety zone”……!!」

 そう言ってアララギは突然マイクをどこからともなく取り出した。そして……!
 

 

 ♪すぅっきさぁ〜 しぃびぃれぇるほぅどぉぅ

 ♪すぅっきさぁ〜 くぅやぁしぃほぅどぉぅ

 ♪おぅそぅれるぅもぅのぅはぁ なぁにぃもぉなぁいぃ

 ♪すぅっきさぁ〜 わぁすぅれぇられなぁいぃ〜

 

 アララギは『好きさ』を歌いだした。彼は歌いつつ、驚異的なスピードで アニキにのしかかろうとしたッ! 辛うじてそれを回避するアニキ。

 「な、何ィッ!」

 「……避けるのが精一杯ですか、そうでしょうねェ…… 今の貴方と私のアニキ強度はほぼ10倍以上も違いますから……!」

 「ば、馬鹿なッ! 我が100万パワーを超えるだとッ! 木連最強のアニキであるこの我をかッ!?」

 「……この”ベヘリット”を使えば容易なことです。もはや過酷なトレーニングを自らに課さなくても、人は立派なビルダーに、そしてアニキに成れるのですッ!」

 「まさかッ! それはビルダー達への侮辱だッ! 鍛錬をせずにマッチョになれるなど……!」

 「それが現実ですよ、”アニキ”? 現に貧弱なボウヤだった私が、すぐに木連最強といわれたあなたをも上回る……! 我らの時代が来たのですッ!」

 「やらせはせんッ! やらせはせんぞぉぉッ!」

 「ならば味わうことですね、己の無力さを……!」

 ドズル・ザビアニキに対し、アララギは歌を再開した……! 

 ♪きぃりぃがなぁぁぃ(なぁぁぃ) あまい くぅちぃづけぇを 

 ♪かぁぜぇが むぅりぃいに ほぉぅどぉくぅ
 

 「さあ、避けられますかな?」

 「……!!」

 再度のアララギの攻撃をアニキは避けることができなかった……! なす術もなくポジションを取られるアニキッ!

 ♪とまらなぁい あつぅい とぉきぃめきぃにぃ 

 ♪なぁみぃだぁ をぅ みぃせぇなぁいでぇぇぃ 

 「くッ! そ、そこはッ!」

 アニキの体をアララギはある時は激しく、はたまたある時には時に優しく、アニキの身体中に手を配置する……! さらに自分の腰を北のそれに密着させたまま、器用にグラインドさせ始めた……!

 「ちぃッ! 我が左手に当たっているのは貴様の……! まだだッ! まだ終わらんよッ!」

 ナニカに抵抗している様子のクワトロ・バジーナアニキであったが、

 「ふふふふ…… 台詞がピンク色では説得力に欠けますよ、ア・ニ・キ(はあと)」

 アララギは攻撃?の手を緩めない……!

 ♪すぅっきさぁ〜 しぃびぃれぇるほぅどぉぅ

 ♪すぅっきさぁ〜 くぅやぁしぃほぅどぉぅ



 「く、くうッ……!」

 「さて、”アニキは生き残ることができるか?”ですな……!」

 

 ♪おぉもぉいつぅうめぇえればぁっ くぅぅるぅいそぉぉっ 

 ♪すぅっきさぁ〜 はぁなぁしぃたぁくぅなぁいぃ〜
 

 「あ、あふうぅぅぅんっ(ちゅうはあと)!」

 ドサッ!

 アニキ、アララギに対し沈黙……!

 「フフフ…… こんな所でしょう。では、私はあの靴下達の所へ……!」

 横たわったアニキを一瞥し、アララギは宙に浮かぶ”木馬”めがけジャンプした……!

 

 

 

 「……ちいッ! こ、これしきのことでッ! 負けるわけにはッ!!」

 アニキはアララギが飛び去った後に意識を回復した。しばらく彼はダメージの回復を優先することにした……!

 

 

 

 

 「……秋葉様! 北辰様、沈黙! アララギさんが本艦に侵入しました!」

 「拙いわね…… 狙いはやはり”アレ”なのかしら?」

 「そのようです秋葉様、靴下を積んだ格納庫を目指しています!」

 木馬内では警報が鳴り響き、秋葉は琥珀に状況を確認した。

 「靴下はどうでもいいけれど、奪われると閣下への心証が悪くなるわね……」

 「秋葉様。迎撃準備が、完了です。」

 誰ともなく呟く秋葉に、コルトパイソン357マグナムを持った翡翠が報告する。

 「しょうがないわね、翡翠、琥珀! 行くわよっ、私が指揮を執ります!」

 秋葉の命令を皮切りに、3人は格納庫へ向かった。

 

 

 

 

 

 「……おや、秋葉さんじゃあないですか…… メイドのお二人もお変わりないようで……」

 格納庫に着いた3人を待ち受けていたのは、床に横たわる兵士達と、コンテナの上で仁王立ちしているアララギであった。その側面には大きな穴が開いており、靴下がこぼれ出していた。

 「……あら、しばらくお会いしない内に随分趣味が変わられました? アララギさん? 木連内ではまともな方と思っていましたが?」

 英国紳士なアララギに対し、秋葉はそう挨拶した。

 「……美の本質が分からないようですね、やはり貴女では”東”の役目はできそうにありませんな?」

 「!!」

 どこぞのアララギと似たような台詞を口にするここのアララギ。一瞬であるが青筋を浮かべる秋葉。

 「秋葉様、即座に排除いたしますが?」

 油断なくコルトパイソンをアララギに向けながら、翡翠が秋葉に告げる。

 「そうね、じゃあ……」

 「ああ、そんな武器に狙われているなんて怖いですねー。先手必勝と逝きますか。」

 攻撃を許可しようと秋葉が命令しようとした瞬間、アララギがそれを遮った。

 「チェェェェンジッ! モード1ッ!」

 叫ぶアララギが光に包まれ……

 

 

 

 ワンレングスの髪型

 ボディコンルック

 右手に羽状の扇子

 という装備を施したアララギが居た……!!! 立っているコンテナをお立ち台にでも見立てているのだろうか?

  

 !?

 

 某週刊少年誌で定番の表現をしつつ、秋葉達3人は硬直した。それに追い討ちをかけるかのごとく、

 「ミュージック、スタートッ!」

 ♪ぱーぱーぱーぱーぱーぱーぱらっぱ ぱーぱぱーぱぱ(ポゥッ!) 

 ♪ぱーぱーぱーぱーぱーぱーぱらっぱ ぱーぱぱーぱぱ(ポゥッ!)

 かつて一世を風靡したディスコミュージックが流れ出した。

 狸穴ジュリアナTOKYO!

 そう叫んで扇子を振り、腰をグラインドさせセクシー?に踊るアララギ……!

 下から見上げるとスカートの中の?アララギのビキニパンツが見える……! 

 もう表現のしようがないほどぴっちりむきむきである……!

 「「「…………」」」 

 秋葉、翡翠、琥珀の3人の意識は途絶しかける……!

 「ほう、まだ耐えていますか…… ならばこれならばどうですか? ふん! ふん!! ふんッ!!!」

 アララギが三連続で扇子を振ると、その風圧なのかコンテナの中から3足の靴下が飛び出した。それが秋葉達に向かうが、ぴっちりむきむきを見てしまった彼女達が動けるはずがないッ!

 その結果、

 秋葉、翡翠、琥珀の3人は、頭に載った靴下の臭いを嗅いでみた。否、嗅いでしまった……!

 ガクッ。

 3人は、気を失った。

 

 




 ……星空は、辺りに明かりがない所為か、どこまでも奇麗で、透き通っていた。少なくとも3人にはそう見えた。
何時の間にか仰向けに大の字で寝ていた秋葉は、そのまま空を見上げながら、何故か痛む後頭部に顔を歪めた。

 「ほっといて下さい。……私は……好きでやっているのです。」

 「そうです、その通りです。」

 「……」

 星にむかってそう言った秋葉は、顔を動かして、手に握った靴下を見つめた。秋葉の言葉に同意した琥珀、無言のままの翡翠も秋葉同様の動きをした。

 「……気が遠くなるほどの快楽ですね。ふふふふふ……」

 「「ふふふふふ……」」

 秋葉、翡翠、琥珀の3人は、笑った。笑って、笑いつづけた。そして靴下を持ったまま顔に手を当てて、再び気を失った。
 
 東野秋葉 暗号名:ソックスレッド

 翡翠   暗号名:ソックスメカ

 琥珀   暗号名:ソックスマジカル

 
新たなるソックスハンターの誕生である
 
 星は、小さな星の、そのまた小さなオデッサの、そのまた小さな人間達を見て、一度だけ瞬いた。……それだけだった。

 

 




 「……ほう、まさかとは思いますが、秋葉さん達まで”覚醒”したのでしょうか?」


 ドカァッ!


 顔に靴下を載せたまま気絶する3人を見たアララギであったが、自身の当初の目的を達成すべく先程とは別のコンテナを蹴破った。

 「………………ほう、これはこれは。”彼”もまだ屈していないようですね……!」

 常人には耐えかねるニオイと共に現れた靴下と、その中で気絶する少女を見てアララギは感心した呟きを漏らした。







 「ようやくお目覚めですか、”ソックス・アニキ”?」

 「…………くっ……」

 アララギの”安全○帯”によって気を失ったアニキであったが、そのアララギの声によって意識を取り戻した。

 「そ、その娘は一体?」

 「貴方達のコンテナで可愛らしく眠っていましたよ。……今は恐怖に怯えているようですが。」

 アニキの目の前には、アララギに左手で体を拘束された少女がいた。サトミ・コオロギボイスが似合いそうな、くりくり巻き毛の10歳ほどの少女である。その瞳は恐怖で見開いており、声も出ない様子である。そして……!


 ガシャコン ガシャコン


 アララギは右手で少女の目の前に『72分の1 ダグラム@デュアルモデル』をかざしていた。その無骨なボディデザインの背後に装備された、ターボサックのリニアカノンが少女を狙う……!

 「これで分かって頂けましたか? 早く1年靴下を渡して貰わないと、このダグラムがこの娘に色んなえちぃ事をしますよ……!」

 「あ、ああ……!」

 徐々に少女の体にリニアカノンの砲身を近づけるアララギ。少女の口からは言葉にならない悲鳴が漏れる!

 「くっ(アレを奴に渡しては拙いッ! だ、だが美少女は世界の宝ッ! 『美少女ハ神聖ニシテ侵スベカラズ』と我らが法でも定めていると言うに……!)」

 傍からみればそンなおもちゃで一体どんな事をするのか不明な状況であるが、この場の三者にとっては緊迫した状況であるようだ。

 「……ふう、しょうがない方ですね。ならばこれはどうですか……!」

 苦悩するアニキを小馬鹿にしたように見ながら、アララギは何故かビキニパンツの中から大きな缶を取り出した。

 「それをどうするつもりだアララギ……!」

 彼が取り出した「プロテイン(お徳用)」の缶を見て問いただすアニキ。

 「簡単ですよ。この完成された我がバディにこんなモノは最早不要なのでね。こうするだけですよ。おっと、うかつに動けばこの少女がどうなるか分かりますよね……!」

 ザザーッ!

 「き、貴様……!」

 缶の中身のプロテインを地面に流すアララギに対し、憤怒の表情を浮かべつつも身動きの出来ないアニキ……!

 「貴方もいい加減に1年靴下をこちらに渡して楽になりましょうよ。このベヘリットを使えば辛い修行などしなくても、『捧げる』だけで全ての人がマッチョになれるんですよ?」

 「否ッ! それは断じて否ッ!!」

 アララギの誘いをアニキは否定した。

 「何が違うというのです? 無駄な時間をかけなくても、ヒトはここまでの筋肉をマスターできるのですよ? ハッ、鍛えに鍛え上げた筋肉? 人生を消費してまで創る筋肉なんてバカ過ぎるとは思いませんか?」

 「…………(それは違う。筋肉とは……そうでしたよね、師匠……!)」

 アララギの言葉を聞いたアニキの脳裏に突如、かつて師匠と語り合った時の事が鮮明に甦った……!


 (ほわんほわんほわんほわぁぁぁぁん)






 「ふっ、相変わらずよのう。お前の考えは。」

 「しかし師匠ッ! バーベルを使わないというゴッチ主義にも評価を与えるべきではないかと……!」

 夕焼けが柔らかく照らす川原で、アニキと『師匠』は暑い議論を交わしていた。事の発端は『高橋名人と毛利名人のどちらがすごいか』であったが。

 「……なあ、北辰よ。お前は何のために自らを鍛えるのだ?」

 不意に話題を変える師匠。

 「それは無論、世界を革命する為です。いずれはこの筋肉で”薔薇の花嫁兄貴”を……!」

 ドカッ!

 「この痴れ者がぁ!!」

 北辰の言葉を最後まで聞かずにタイガージョー師匠は彼を殴り倒した。

 「……がはっ!  し、師匠……?」

 「それもまた”ある意味では”良しッ! だがァッ!」

 「ワシは、飛び散る汗、光る肉体、輝く笑顔ッ! それを目指して己を鍛え上げるのは何の為かと聞いておるのだァッ! 北辰よッ!」

 師匠からパンチを喰らって吹き飛ぶ魔神勇二北辰に対し、目から何か光線でも出るンじゃないかという形相で叫ぶ”師匠”。

 「は」

 その言葉に北辰はテツオ・ハラ調の表情になって何かに気付いた……!

 「……申し訳ありませんでした、師匠。我が目的は”筋肉が、肉体の輝きが昨日の自分を超えたという純粋な悦び”と”守るべき者のための力”を得るためですッ!」

 ガシィッ!

 「そう、その通りだ北辰よッ!」

 北辰の言葉を聞き、一変して満足げな表情を浮かべて師匠は互いの手をクロスさせた。古の”バロム・クロス”である……!

 「そうだッ! マッチョとは、ヒトの進化の果てッ!」

 「はい師匠ッ! マッチョとは、ヒトの最後の憧れ、希望ォッ!」


 大映時空に囚われたかのごとく熱い涙を流す二人。どこぞの説では進化の果ては自滅とゆーのが説明されていたが、熱い、暑い筋肉の前ではどうでも良いのであるッ!

 「分かってくれてワシは嬉しいぞおッ! よおし北辰ッ! 一つアレをやるかッ!」

 「勿論です師匠ッ!」

 声を掛け合い、揃って筋肉を強調するための準備に入る二人ッ!


 『流派ッ! 当方腐敗はァッ!!!!」


 師匠が大胸筋をピクピクさせ、 


 『王者の筋肉ニクよッ!!』


 北辰が腹直筋の八分割を協調する。


 『全身筋力ッッ!!』


 師匠は背後のビキニパンツ越しにも判るほど、大殿筋をこれまたピクピクさせ…… 


 『兄貴狂乱ッ!!』


 北辰は背中の広背筋を強調する……!


 『『見よっ!』』


 『『当方(の筋肉)はぁぁッ、熱く燃えているうううッ!!!!』』


 無論、最後は完璧なモスト・マスキュラーで決まりである。

 「……それが分かれば良い。筋肉は基本にして奥義、奥義にして基本…… 我が教え、ゆめゆめ忘れるでないぞ……」
 
 「はいッ、師匠ッ!」

 「よおしッ! ならば”ロイヤルキング 覇王究極らうめん(チャーシュー100枚入り)”でも行くか?」

 「望む所です、今日こそ師匠より早く……!」

 「ふあっはぁっはぁっ! 言いよるわ未熟者めが! ならばその意気込み、見せてみいッ!」
 

 (ほわんほわんほわんほわぁぁぁぁん)

 



 
(……『筋肉は基本にして奥義、奥義にして基本』…… あの時師匠はそう仰られた。……いつの間に忘れていたのだろうな、この教えを……)

 ソックス・アニキは過ぎ去りし過去を思い浮かべていた。自らの師匠と一緒に何の悩みも無く己を磨いていた日々を……

 (ならばッ!)

 アララギに拘束されたままの少女を見るアニキ。

 (その”基本”と”奥義”にて、我は少女を助けるッ!)

 (そのためならば、”自ら”!”使おう”ではないかッ! 1年靴下の力をッ!)

 改めて、本当に改めて、アニキは手の中の1年靴下を握り締めた。

 (ならば…… 後は試すのみ……ッ!)

 そう腹を括ったアニキは思わず、

 「ふ、ふははははははは……!!」

 「……何?」

 突如笑い出した。その様子をいぶかしむアララギ。

 「我も未だ未熟であったと言う事よ、アララギ。」

 「その通りです、ようやく分かりましたか。ならば我等と共に……!」

 
 「否ッ!」


 ソックス・アニキは大声でそれを否定した。アララギが声を発するより早く、


 「我が技量、未だ未熟ッ!」


 「なれど我、筋肉と靴下の果てを求め、追う者なりッ! ……それは全てッ!」
 


 
”守るべき者”の為にッ!」


 「この我が願いに応えよ、そしてッ! 我に力を、”1年靴下”ッ!! 我を認めぬならば、我に裁きを下すが良いッ!」


 右手に靴下を持ち、声高らかに宣言するアニキ。その瞬間……!



 カッ! ドドーンッ!



 アニキの頭上に巨大な落雷が炸裂した。

 「ふ、フハハハハハ……! この私に勝てぬと知って、諦めたか……!」

 その様子を見てうそぶくアララギであった。が……!

 

 

 「それは違うぞッ! アララギィッ!」

 「!?」

 

 何故か突如発生した岩山の上にアニキは立っていたッ!

 おおッ! 見よッ! 聞きなれたフレーズではあるが、作者は初めてな故にとくと見よッ!

 先ほどより30%ほどマッシヴ感が増えたナイスなバディッ(推定体脂肪率5%)!

 ブレストファ○アーも発射可能なほどに鍛え上げられた大胸筋ッ!

 背後の尻えくぼがセクシーさをさらに引き立てるッ!

 そしてッ! そしてェッ!! 

 首にはネクタイ+猫の首輪ッ

 これがッ! これがァッ!

 
 「ソックス・アニキ”G”ィッ! ここに推ィッ!! 参ッ!!!」

 漢ならば引き込まれずにはいられない”無駄に爽やかな”微笑みと共に、アニキが復活したッ!

 「アララギよッ!」

 「!?」

 「いいか、良くきけいィッ!」

 アニキはアララギを指差したッ!

 『”天はマッチョの上にマッチョを創らず、マッチョの下にマッチョを創らず”だッ!』

 『故にッ!筋肉に貴賤の上下など無ぁいッ! そこにあるのはッ!!』

 『昨日の自分を超えた純粋な悦びだけだァッ!』

 
『故に勝負だッ! アララギッ! 己が肉体とプライドを賭けて……!』

 勝負を申し込むアニキ……ッ!

 「ふッ。良いでしょうッ! 貴方を倒し、私が唯一無二の兄貴となるッ!」

 アララギはそれを受けたッ!

 「ならば行くぞ、アララギッ!」

 そう言ってアニキは両手に1年靴下をはめ、自らの”猫の首輪”に手を触れた。

 「我が100万パワーに加え、首輪の100万パワーで200万パワー! そしてェッ!」

 空高くジャンプするアニキ。

 いつもの2倍のジャンプが加わって200万×2の400万パワー!

 そう叫んだ後に……

 ギャリリリリリリリリリリィィィッ!

 その体が凄まじい速度で回転を始める!

 「そしてェッ! 通常の3倍の回転を加えれば、400万×3のバッファローマンアララギィッ! おまえを上回る1200万パワーだッ!!! 喰らえィッ!!!!」


 「真・超アニキスピンッ! またの名をッ!」

 その回転の中心部分に、アニキの顔が徐々に浮かび上がる……!

 

 『超級ッ! 覇王ッ! 電ッ影だぁぁぁぁぁぁぁんッ!』


 

 アニキの完全な計算から生み出されたパワーによる攻撃がアララギに迫る……ッ!

 ギィィィィンンッ!

 「…………くッ!」

 アララギのA.Tフィールドは辛うじてその攻撃を防いでいるように見えた。苦しげな呟きを漏らす彼。

 「アララギよ……」

 自身も強烈な回転に耐えながらであるが、彼の様子を見て悲しげにアニキは呟いた。

 「……ヒトという生き物がいきなり”実戦用”のポージングを行なえると思っているのか?」

 「何ですって?」

 「筋肉とは、毎日の絶え間ないトレーニングによって作り上げるのが最も良いのだ。トレーニングを通して自らの筋肉と語り合い、友情を育む。それによって『自らにふさわしい筋肉』を作り上げるのだ。」

 「で、では私は……!」

 「確かに貴様の筋肉は素晴らしい。だが、それを本当に生かす方法を今の貴様が分かる筈がない。日々の鍛錬をしていない貴様ではな……!」

 シュウゥゥゥゥッ……!

 その瞬間、ウォーズマンアララギの体から大量の蒸気が噴き出した。

 「こ、これは一体……?」

 「10分、たった10分だッ! それが貴様の筋肉の現在での限界だッ! 己が筋肉の稼働時間を把握できなかった貴様の負けだ……!」

 ピシ、ピシ、ピシ……

 アニキの言葉に呼応するかのごとく、アララギのフィールドにひびが入りつつあった……!

 「まだ間に合う。もう一度、鍛えなおすのだアララギ……!」

 「くっ、せっかく貧弱なボウヤから卒業出来たのだ! わ、私はッ! か、簡単に負けるわけにはッ!」

 己が体の痛みに必死に耐えながらアララギは叫ぶ。北辰の説得を無視して……!
 

 パァァァァァァッ!

 

 不意に、攻撃に耐えていたアララギの目の前に光が走った。

 

 

 「ふ、フフフ…… 耐えたッ! アニキの攻撃に耐えたのだ、俺は……!」

 アララギの視界がはっきりしてきた。目の前に”敵”はいない。それによって自身の勝利を感じた彼であったが、

 「それは違うぞアララギ……!」

 「!!」

 彼は背後から声をかけられた。怯えた表情で振り向くと、

 

 ソックス・アニキが平然と立っていた。

 

 「良く我が技に耐えたな。だが…… 踏み込みの速度なら負けんッ!」

 謎の台詞を呟いたアニキは、フィニッシュに入ったッ!

 「零距離、取ったぞ……ッ!」

 そう叫び、アニキは背筋を伸ばして体の力を抜いた。足を肩幅よりも広く開き、両手を頭の後ろで組んだ。すると、

 ドドドドドドドドドドド……!

 厚い胸板から無数のクレイモアギャランドゥが発射された……!

 「くッ!」

 アララギはそれを防ぐべくガードを固めようとする。

 それを見て『アニキ』は頭に1年靴下を一つ乗せた。それが角のようにしっかりと屹立し、赤く光りだす!

 そして相手に向かってツィーンと接近するアルトアイゼンソックス・アニキッ!


 ガスウッ!


 強引にアララギに突撃し、頭の靴下を使って彼の体を宙に浮かせて相手の菊門臀部中心部分に……!

 ズドンッ!

 
ズドンッ!

 
ズドンッ!

 
ズドンッ!

 
ズドンッ!

 一拍おいて

 ズドンッ!

 カンチョー『7年殺し』を続けざまに決めるッ!

 「これがッ! 我のッ! 『切り札』だッ! ……肉を食ったな、昨日。

 右手の人差し指のニオイを一瞬嗅いだ後、ビキニパンツから懐紙を取り出し指をぬぐう『ソックス・アニキ』……!

 
 ジ、ジジジ……

 謎の音を上げつつ、自身の尻を両手で抑えていたアララギであったが……



 「あ、亜美アララギ……飛んでっちゃう!」


 ヒロシソックス・アニキの『技』を受け、車田ふっとびを披露した! く、くりーむ☆れもん……っ!


 ズサァッ!!

 

 「アララギよ、喋ってもらおうか? 貴様の組織について……!」

 地面に落下したアララギに詰問するアニキであったが、

 「フフフ…… 喋る訳にはいかないですヨ? 我等が某組k…… はっ!」

 「”ぼうそしk”……何だ、それは?」

 「HA! HAHAHA! サラバデス! 」

 

 ドッカーンッ!



 悪魔的嘲笑”を浮かべ、何故か岩山をバックにして、アララギは爆発した。

 

 無論、髪型は、アフロだ


 

 「何かが動いているのか……? 我以外のハンターが……」

 アフロになったアララギを見ながら、アニキは一人呟いた。そこへ

 「たすけてくれてありがとうございますっ! ひがしはら ののみです!」

 先ほどの少女が近づいてきた。自分の名をアニキに告げつつ、頭を下げた。

 「そうか……」

 何を言っていいか分からないまま、少女を見るアニキ。そんなアニキを見て

 「どこをみてるの? ののみのこれ?」

 と少女は自分の目の部分を指差した。

 「えへへ。ののみね、まつげながい? えっとね。まきちゃんがいってたんだよ、ののみは、しょーらいすごいびじんになるんだって。うれしい?」

 「あ、ああ…… それは嬉しいな(ぬぅっ、この少女には嘘がつけん……?)。」

 正直な気持ちを口にするアニキであった。

 「でも、だめなんだ。」

 少し寂しそうに、少女は呟く。

 「?」

 「ののみねえ、おおきくなれないんだ。”けんきゅーじょ”のね、”じんこーちょーのーりょく”と”ふろーふしのじっけん”のけっかだって。ざんねんだなあ。おおきくなったら、”がっこうのせんせい”になったりね、”およめさん”になったりね、いろいろやりたいことがあったんだけど。」

 (こ、この少女は、一体どのような人生を……)

 この年齢の少女から聞くことは無いと思っていた単語が、次々とアニキの聴覚を通り抜ける。”外道”として”息子”を育て上げた自身とは全く違った状況でこの少女は育ったのだろう。そうアニキは感じた。

 「でもいいんだ。いまは、おじさんがいるから、ののみをたすけてくれたおじさんがいるから。えへへ。」

 少女はそう言って、アニキを見つめ微笑んだ。

 アニキの心臓に矢が刺さる。

  アニキの目玉は飛び出してしまう。

   祝福の鐘が鳴り響き、

    天使達が祝福する。

 ぶっちゃけ、少女の表情は作者彼のストライクゾーン一杯なのであった。

 「……お、おじさんとは酷い言われようだな、我が名は”北辰”だ。」

 内心のドキドキを悟られぬよう、アニキは冷静さを装った。先ほどの彼女に対する評価を無視して。

 「……ええと”ほくちゃん”ってよんでいいですか?」

 「……それは色んな意味で拙いから駄目だ。」

 「それじゃあ”ほく(きた)ぴん”はいいですか?」

 「……我はあそこまで色モノではない。」

 少女=ののみの呼び方を否定するアニキ。自覚症状がないのも甚だしいが

 「ええと、じゃあどうよべばいいですか。」

 「”北辰”でいい、何なら親分”父上”でも構わんぞ。」

 平仮名ばかりの台詞に少々疲れた作者アニキは、多少冗談を交えてこの話題を終わらせようとした。だが……!

 「”ちちうえ”……? じゃあいいやすい”おとーさん”でいいですか。」

 ドォォォォンッ!!!


 (何? 冗談半分で言ったのに我を”おとーさん☆”だと? そ、そりゃ”あやつ”に呼んで欲しかったものの、諸般の事情が許さずに泣く泣く断念した”おとーさん☆”をこんな美少女に? こ、これは盆と正月がいっぺんに来たようではないかッ! そうだな、さすれば家の改築を行わねば、そしてゆくゆくはののみとの結婚を認めてもらうためにやってきた男との決闘、そして和解! あぁ、”息子”と酒を飲むのが夢だったンだよな…………)

 「ちょっと北辰殿? どうなさったんです? それにこの少女は一体?」

 「………………東野か、どうしたのだ(こやつ等も”覚醒”したか……)?」

 脳内で今後の人生設計をプランニングしていたアニキに、いつの間にやら地上に降りて来た秋葉が声をかけた。翡翠、琥珀も一緒にである。

 3人とも、靴下を頭に載せたままだが

 「どうしたもこうしたもないです、連絡が途絶えたので見に来たんですっ。……見たところ勝たれたようですが。」

 「あはー秋葉様、それよりこの可愛らしい女の子の件はどうされます?」

 「そ、そうね。……お嬢ちゃん、お名前は?」

 琥珀の指摘を受け、少女に目線と身長をあわせる秋葉。

 「えっとねー、ひがしはら ののみです!」

 ののみはにこやかに名乗る。

 「そう、いい子ね。どこから来たの?」

 「ええと………… ”けんきゅーじょ”からきました、さっき”おとーさん”にたすけてもらいました!」

 「「「……………………」」」

 アニキを見ながら話すののみの台詞に、秋葉、翡翠、琥珀は動きを止める。

 「……ええと、ののみちゃん、でしたよね? お、”おとーさん”って誰ですかぁ?」

 2分ほど固まった後に、琥珀が辛うじてののみに聞き返す。

 「うーんと、このひとです! ののみをへんなおじさんからたすけてくれました!」

 そう言ってアニキの手を握るののみ。

 「…………ま、待って下さい……」

 「となると、この可愛らしい少女が…………」

 「影護北辰(自称30)の」

 「「「娘?!」」」

 

 YOUはSHOCK!

 

 秋葉、翡翠、琥珀は愛で空が落ちてくるほどの衝撃を受けたク、クリスタル☆キング……ッ!

 「ま、待ちなさい! そ、そったら事はこのアタスがゆるさんべ……!」

 動揺するあまり、何県人か分からない方言を話し出す秋葉。北辰に掴み掛るが、

 「駄目です秋葉様! 邪魔をする奴は指先一つでダウンです!」

 訳が分からない台詞で秋葉を引き止める琥珀。

 「離しなさい琥珀! こんなことを認めるわけには……!」

 等と大騒ぎになったのだが、

 「……あ、秋葉様。まもなく時間ですが。」

 何かに気がついた翡翠が興奮状態の秋葉に声をかける。

 「何? 翡翠? 今はそれどころじゃないわよ……!」 

 バーサク状態の当主様は気にも留めなかったが、

 「……!! 北辰様! 何分経ちました?」

 何かに気がついた琥珀が真っ青な表情でアニキに問う。

 「……? 何がだ?」

 「だから、自爆装置を仕掛けてから何分経ったのですかっ!」

 頭の中がウカレポンチになっているアニキを正常にするべく大声で怒鳴る琥珀。

 「………………………………すまん、後3秒だ。」

 「「「!!!」」」

 全てを覆すには、何もかもが遅かった……!

 

 そして自爆装置による大爆発

 

 無論、全員、アフロだ。

 

 「……だめだこりゃ。」

 煙を口から出しながら、ののみ(アフロ)はいかりや風に呟き、倒れた。

 :

 :

 :

 そして、オデッサに静寂が戻った……

 

 

 

 

 

 「……”彼女達”の収容は終わったわ。」

 「そうですか、ご苦労様です。」

 「……でも、あの子達の能力でも勝てないなんて、どうするの、これから?」

 「……所詮は大昔のなまくら刀と、操縦系のスタンドでは無理だったって事ですね。」

 「……今回のデータは”調査”に回しておくわね。」

 「お願いします。 北斗さんが”力”をまた上げているので問題は無いと思いますけど、保険は必要ですからね!」

 「じゃあ、そのように手配をしておくわ。あ、それと”欠員”分のオークションは3時間後に開催で良いかしら?」

 「それで良いです、連絡お願いしますね?」

 「ええ、分かったわ。」

 ”部屋”から”元民間企業会長秘書”が出て行った。

 「ふーん、今回もまずまず、かな?」

 自身の机の上の何かの表に印をつけながら、”元機動戦艦艦長”は世間一般でいう『笑顔』を浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 ……”元機動戦艦艦長”が笑顔を浮かべたのとほぼ同時刻、ピースランドのとある地下。
 そこには黒服の人間ブーメランパンツに裸ネクタイの英国紳士達が延々と整列するホールがあった。

 その中の壇上で一人背を向けて、パイプオルガンを弾く白いネクタイをした英国紳士が居た。ネクタイについた名札には『AN』と書かれてある。

 ♪タンタカタッタ タンタンタン

 ♪タンタカタッタ タンタンタン

 ……古の某土曜8時からの番組内で使われたセクシーミュージック『ちょっとだけよ』のBGMであった。

 天井には世界地図が映され、それが次々とピンクに染め上げられていく。


 「作戦その4、ベルアフロ作戦は失敗。アフリカ地区への介入は成功。実質的な操作は成功ですな。」

 「続いて作戦その2ですが、東方不敗『白髪のおさげがステキなおじさま』と接触しました。主要なシャッフル同盟はアフロにしました。今後、彼との接触を開始します。」

 ネクタイに『PP』と名札をつけた英国紳士が二つの報告をする。

 「作戦その6、靴下品質管理会社の株式を5倍のエネルギーゲインで掌握したぜェ……。まだ何人か個人株主が粘っていやがるが、じきに制圧できるだろーよ。」

 名札に『US』と書かれた英国紳士もまた報告をする。

 「……第5世界作戦は、どうしたんだい?第5作戦は。」

 パイプオルガンを演奏するのを止め、『AN』は誰とも無く尋ねた。

 「……GH。」

 『PP』が担当者の名を呼んだ。

 「……第5作戦、完全失敗です。1年靴下は奪取できず、派遣した全マッスルワーカーは全滅しました。」

 『GH』は淡々と答える。

 「……どういうことだい?」

 「……申し訳ありません。原因も不明です。奴……AJが裏切った可能性もあります。」

 『AN』の問いに対し、『GH』は可能性を示唆する。

 「……ったく、馬鹿だねェ……」

 「全くです。」

 「愚か者だねェ、君の管理責任を言っているんだよ! …………ぽちっとな。」

 『AN』の愚痴に、『GH』は他人事のように同意した。それに怒声を浴びせた『AN』は、自分のビキニパンツからボタンを取り出し、押した。
 


 バカンッ!   



 ひゅるるるる〜〜〜     ぼちゃん!



 「ひーぃ! ああっ!  な、なめこは嫌ぁぁぁぁぁッ! わ、我が神よォォォッ!」



 その瞬間『GH』の足元の床が無くなり、断末魔の悲鳴をあげながら彼は消えた。

 「騒ぐ必要はありませんかな。まあ、『裏切り者&愚か者にはなめこを』が我らのモットーですし。」

 目の前の惨劇に表情一つ変えることなく『PP』が呟く。

 「……同盟や火星の後継者以外に我等に刃向かう組織があるのですかな。いかがなさいましょう、白……いや『AN』様。」

 『PP』の問いに白ネクタイ……『AN』は、静かに微笑んだまま彼は天井を見上げた。そこにはどどめ色に染まっていく一つの星があった。

 「プロ……いや、PP。」
 
 「はっ。」

 「指揮ユニット『ハヤト・タニ』を使用せよ。我等選ばれし『BM(Black Muscle)団』の精鋭達と共に、たけし城を攻略……ではなく敵を潰せ。」

 「御意。早速手配いたします。」

 『AN』は『PP』に命を下した。それを受ける『PP』。

 「我が心の友のび太友よ。……悲しいねェ…… この程度の反抗とはサ。」

 「は?」

 「It’s(始まるよ)!」


 厳かに『AN』は呟いた。自分の呟きに反応した『PP』を無視してジャイアン『AN』は、パイプオルガンを再び弾き始めた。曲名は「Liberty Bell March」である。

 

 ……ホールに音楽が、流れていった。

 

 ……それがかつて全時空を『同盟』との抗争に巻き込み、人々を恐怖とアフロのどん底ズンドコに叩き込んだある組織の復活の狼煙であった。……その後パイプオルガンのメロディーに合わせて歌いだした『AN』の歌声でその場に居た全員が死亡状態を越えて『灰』になったのは、それも世界の選択である。




 




 (無謀ですが、続いちゃいます。)

 

 

 

 

 

 

 <後書き>

 ヤッターマンや北斗の拳、シティーハンターと我々を楽しませてくれた作品がギャンブルの対象になっている昨今ですが、皆様いかがお過ごしでしょうか、ナイツです。……4.5号機になってスペックが厳しいンですよね。元々AT機とは相性悪いし……

 と、健全な方には何のことだか分からないネタはともかく ……こンだけ書くのに半年以上もかかってしまいました。”頭に浮かぶネタ”と”それを文章にする”との間のギャップに苦しんだ半年デシタ。……ンでこンな作品ですが(切腹)。待っていらっしゃった方(がいれば)には申し訳ないです。こンな作品ですが、続けたいと思います。コンセプトは3つ!

 1つ、スタンド!

 2つ、靴下!

 3つ、筋肉!

 4つ、せっかくだから!

 ……あ、4つか。 アフロを入れれば5つですが(殴)。とまあ、おやくそくはともかくとして、せっかくなので色々とやってみました。新たなハンターの誕生や、新たな”敵”の登場とか、”娘”とか(爆死)。……ちと勢いに任せた部分とか、強引に書いたという自覚はありますが(切腹)、笑って許して頂ければ幸いです。

 あとは、K−999氏のようなネタ解説を付けようかと思いましたが、面倒なのでせっかくなので今回の形式を取りました。師匠、リンクのご許可、ありがとうございます! かのしぐまさん、ご容赦下さい(土下座)。ジョジョ&ジャンプ系とかガンダムネタはデフォルトで皆さんご存知と考えてますが(死)? それはともかく、ジョジョは3部までは文庫化されているので、読まれることをお勧めします。『”スタンド”は一人につき一体では?』の質問には、『”ホウメイガールズ”で一くく……

 

 (ナイツ帰還まで、しばらくお待ちください)



 (ナイツ帰還まで、いましばらくお待ちください)



 (ナイツ帰還まで、もうしばらくお待ちください)
 

 

 エエト、ナンノ話でしたっケ?

 アア、ソウデスネ! アイ変わらずBA−2氏や黒サブレ氏、影人氏、かのしぐま氏、WRENCH師には作風&設定&ネタ借用許可を頂いてますが、今回はッ! せっかくなのでEYE96@筋肉首領氏とichi@筋肉団長氏に筋肉関連の描写許可を頂きましたッ! ”エヴァ筋肉天国”でぐぐればOKですが、これまたエヴァをネタにされるのが容認できない方はやめましょう。破壊力は半端じゃないです(滅)。

 という訳で? 長々とお付き合い頂きありがとうございましたッ! 「わんす・あぽん・あ・たいむ」か「北XV 〜きゃっする おぶ ぴーすらんど」(仮称)」でお会いできればと思います。ではッ!

 

 

管理人の感想

ナイツさんからの投稿です。

あー、ネタがガンダム系とジョジョ以外に分からない部分が多くて多くて(苦笑)

でも安全地帯は分かりましたよ、あのグループのファンなのでw

それにしても、濃い世界だなぁ(汗)