<提督!ルリルリ!搬入作業完了したぞ>


ウリバタケが搬入作業の完了をブリッジに報告する。アユムのエステ用換装パーツなどの搬入が完了したのだ。


「分かりました。それでは出航してナデシコDの探索・捕縛任務につきます」


「よ〜し、それじゃナデシコ発進!!」


ユリカの掛け声でエンジンに火が点った。


「エンジンの出力安定。30%・・・40%・・・安定して上昇中!」


「浮上開始ししてください」


ルリがそう発すると、ナデシコはヨコスカドッグから浮上しはじめた。


「浮上しつつ太平洋に向けて進みます!」


海水を滴らせながらナデシコは上昇し、完全に海上に浮上する。
進路の南東に艦首を向け、ナデシコはトウキョウ湾を南下していった。







機動戦艦ナデシコ





A Story after the Movie...





“E”s from Venus






第7話 Le Rouge et le Noir















ボウソウ半島が水平線の向こうに消えたところでルリがユリカに切り出した。


「ユリカさん、そろそろ準備をしてください」


「うん、わかった。みなさ〜ん、準備してくださ〜い」


艦内放送で全員に呼びかける。クルーも慣れたもので、それぞれ所定の位置に待機してボソンジャンプに備えた。


「ディストーションフィールド出力最大!」


「光学障壁展開」


「各員、最終チェック」


艦内のチェックを次々と済ましていく。


「フィールド出力異常なし!そのほかまとめてオールOK!!」


「ジャンプフィールド展開します」


ジャンプフィールドがナデシコの周囲に展開していき、不思議な色を発して輝きはじめた。


「ジャンプフィールド展開率99%!フィールド安定しています!」


「それではいきま〜っす!目標、ターミナルコロニー・タケル!!」


ユリカがそう叫ぶと、フィールドに囲まれた空間が不思議な光を宿す。そしてナデシコC全体にその輝きが広がった。


「じゃ〜んぷ!!」


ユリカの声とともにナデシコは太平洋上からその姿を消した。













ターミナルコロニー・タケル。
そこに一隻の戦艦が在る。



ナデシコD



アンジャベル、と強奪した彼らは呼んでいる。


「前方100kmにてボソン粒子増大!この質量は・・・戦艦クラス!!」


通信士官が叫ぶ。


「データ検索・・・照合しました!ジャンプアウトした戦艦はナデシコCの確率が97.6%!」


そうしているうちにも、ジャンプアウトした戦艦は形をあらわしてきている。その独特のフォルムをしたナデシコシリーズの、特徴ある艦首がはっきりと映像に映ってきた。


「やはり来たか・・・ナデシコC、ホシノ・ルリ。ふっ、A級ジャンパーを乗せているのは好都合・・・。ミスマル、いやテンカワ・ユリカかイネス・フレサンジュかはしらんが」


確認を済ますと、素早く次の指令を出す。


「サンゴ!即刻プロテクトをかけろ!何もしないままシステムを掌握されたのでは計画が破綻するからな」


そうオペレーターの少女に強い口調でいう。


「もうやってるわよ。・・・ホシノ・ルリ・・・あなたにだけは絶対に負けない・・・」


サンゴと呼ばれた黄金の瞳と流れるような黒髪を持った少女は、そういって決意を新たにする。
手の甲のナノマシンの模様が輝く。メインコンピューターのオオナムジにアクセスを行い、システムにプロテクトをかける。


<アタシらはどうするんだい?>


「いや、四神衆は警戒体制のまま待機だ。オレは夜天光で挨拶をしてくる」


そういってその男は踵を返すとブリッジを飛び出していった。










「ナデシコC、正常にジャンプアウトしました」


「ユリカさん、お疲れさまです」


ジャンプを行ったユリカに対し、ルリが声をかける。


「うん、やっぱり戦艦クラスを跳ばすのは疲れるね・・・何度やっても」


ジャンプをナビゲートしたユリカが、疲れを隠せずに話す。戦艦クラスを跳ばすのは、精神にも肉体にも多大な疲労を与える。

周囲を確認していたサブロウタが叫んだ。


「前方にターミナルコロニー・タケルを確認!ついでに戦艦も確認!おい、ハーリー」


「わかってます!
データ検索・・・照合しました!間違いありません、ナデシコDです!」


ウインドウに大きく前方の光景を映し出す。サヨリをすぐ後ろに配し、ナデシコDがその威容を映していた。
しかし、ナデシコDのその白いはずの船体は、血のように紅い色と漆黒の闇の色とに塗られていた・・・。


「あ、紅と黒のナデシコ!!」


「元々ナデシコは白いはず・・・何の意図があってあんな色に?」


「・・・とにかくさっさと捕まえてしまいましょう!そうすれば敵の意図も分かります!」


ユリカには珍しく、もっともな意見であった。
しかし、ナデシコクルーにも幾分かの慢心があったのだろうか?明らかに不自然な敵の配置を考えれば、何かを企んでいることくらいは分かっただろう。ナデシコD以外には敵の姿の見えないことに・・・。
未だにこの事件は、敵の描いた台本通りに進められる演劇であった。







<おう、ルリ!どうする?>


<ウチらは出やんでええの?>


このパイロット2人組は血気盛んなことである。出撃指令を今か今かと待ちかまえているのだ。
後ろではヒカルとイズミが走っている。背景が流れているところを見ると、4人は格納庫に向かって走って移動しているようである。


「てことは俺もちょっくら準備しとかないと。で、今日はどういうのがお好みです、中尉?」


サブロウタは自分のシートからぱっと飛び上がると、リョーコをからかった。
命がけのからかいではあるのだがサブロウタ曰く、

「リスクが大きくなけりゃ、ゲームなんてつまらないっしょ?」

とのこと。


<ば、バカ!こんな時に何言ってやがる!!>


リョーコは相も変わらず、サブロウタの言動に照れている。
そんなリョーコを放っておくヒカル&イズミ&アユムではない。


<おやおや〜?リョーコちゃんはオアツイですことぉ、イズミさん♪>


<・・・私のギャグはいつも冬・・・リョーコの頭はいつも春〜>


<オ、おめーら!人をおちょくるのもいい加減に・・・>


「ああ、中尉に嫌われたら俺はどうすればいいんだろう?この心を癒すには、新しい恋を見つけるしか」


<さ、サブ!!テメェ、手当たり次第に手を出すのもいい加減にしやがれ!!>


ウインドウが特大になってリョーコの半分怒った、半分は照れた顔が大写しになった。
こんな状況でも、リョーコという火に油を注いで楽しむサブロウタであった。
そんないつものような微笑ましい風景を見ているルリだったが、今はそんな悠長に構えてもいられない。


「皆さん急いでください。敵もバカではないでしょうから手を打ってきますよ」


<わかっとるわかっとる。ほんなら、もうちょい急ぐわ。以上、おあついリョーコさんの様子を、アユムと>


<・・・イズミと>


<私ヒカルがお送りしました〜♪>


<だぁぁっ!!オメェらもいい加減にしろぉ!!>


リョーコのセリフを最後にしてウインドウが閉じる。
どうやら4人は格納庫の近くに到着したようであった。


「さて、艦長。オレも念のため行ってきますね」


「お願いします、サブロウタさん。時間稼ぎを目的に、被害をなるべく出さないようにしてください」


サブロウタは敬礼をすると、ブリッジを出ていった。
その様子を見送ったルリは、システム掌握をする為に動き出した。


「さて、今からナデシコDのシステムを掌握します。ハーリー君、ナデシコCは任せますね」


「もちろんです!任せてください、艦長!!」


ルリのIFSシートが全面にせり出し、IFSのレベルを最大にする。


「機動兵器一機が接近中。これは・・・、夜天光です!エステバリスで迎撃してください!」


ハーリーが叫ぶ。


<りょーかい!!行くぜ、オメエら!>


<は〜い、お仕事お仕事〜>


<・・・>


先に到着して準備のできた3人のエステが動き出す。


「時間を稼げばいいですから、無理はしないでください」


ルリはそういってハッキングをはじめようとした瞬間。


「ルリルリ!敵機から通信が入ってるよ。どうするの?」


ユキナがそう伝えるが、ルリがそれに答える前に強制通信が入った。


<ナデシコの諸君よ、よく来たな>


ウインドウに映っているのは20代半ばくらいの若い男。黒い髪に大きな黒い瞳を持ち、アジア系の顔立ちをしている。


「アンタ誰よ?いいからナデシコDを返しなさいよ!」


ミナトがその男に向かって叫ぶ。
男はおやおや、といった顔をしてそれに答えた。


<確かに、こちらから名乗るのが礼儀というものか?いいだろう、オレはウエスギ・ヒロアキ。今世間を騒がしている事件、統合軍月基地とネルガル月ドックを襲撃した主犯だ>


「いきなり自白したね?よ〜しルリちゃん、さっさと逮捕だ〜!」


ユリカは先程の疲れもどこにやらの勢いであるが、ルリはそれを否定せざるを得なかった。


「無理です・・・システムにプロテクトがかかっています。後しばらくは必要ですね」


「艦長!僕も手伝います!」


「ダメです!!」


ハーリーがプロテクト解除の手伝いを申し出たが、ルリに即座に断られる。


「どうしてですか!僕だって腕を上げて・・・」


ハーリーが抗議をしようとしたところを、ユリカが諭す。


「ハーリー君、ルリちゃんはねキミの力が要らなくて断った訳じゃないよ」


「ならどうして・・・」


「ここでハーリー君がルリちゃんを手伝ったら、誰も艦を使える人がいなくなっちゃうんだよ。
相手はボソンジャンプが使えるかもしれない。それにどれくらいの戦力を持っているかも全く分からないんだよ。
だから、ここはハーリー君は艦の防御に回らなきゃ」


泣きっ面になりそうなハーリーをユリカが優しく諭す。


「がんばれよ、ハーリー君。ナデシコは守って見せなよ」


ミナトもハーリーの背を押して、ナデシコの防御に専念させようとする。


「わかりました、艦長!絶対にナデシコは守りきってみせます!!」


瞳を少し潤ませながらも力強く言い切り、IFSレベルを最大にして艦を制御するハーリー。


<よ〜し、ハーリー!任せるぞ!>


デッキに着いたサブロウタがハーリーに檄を飛ばす。

まだ、ヒロアキの夜天光は戦闘区域に入ってきてはいない。
エステの発進もできていない危機的状況だったが、ナデシコはそれに助けられていた。
それどころか、夜天光はまだ戦闘区域に入る気もないようであった。


<ふむホシノ・ルリよ、正しい判断だな。それからいっておくが、もはやあの
艦はナデシコDという名前ではない>


「なら、なんていうのよ!」


少々ムキになって、ミナトがヒロアキに問いかける。


<アンジャベル・・・。我が艦の名はアンジャベルだ。嫌でも覚えることになるだろうがな。
・・・さて、一応紹介もすんだことだ、そろそろ行こうか?
後10分弱・・・挨拶には丁度いいだろう。さあ、オレを楽しませてくれよ!!>


通信がとぎれ、夜天光はまっすぐに向かってくる。


<くっ、まずい!リョーコ機出るぜ>


真っ先にリョーコがカタパルトから飛び出していく。ヒカル、イズミ、サブロウタもそれに続く。
が、アユムのエステだけは、出撃準備に手間取っていた。


<ウチはこういう役回りなんか!こらぁ(作者)!!>


アユムの叫びは格納庫に虚しく響き渡るのだった・・・。










〜あとがき座談会〜

こーそんおう「さて、いよいよ敵さんの登場です」


ルリ「で、ようやく私の出番ですか・・・。どうしてこんなにも登場が後なんですかね?遅すぎです」


こ「だって、リョーコ局長の方が好きやからなぁ」


ル「・・・これは、お仕置きが必要ですね・・・」


こ「ちょ、ちょい待ちや。昔から言うやろ?『いや、まあ、まて』って・・・」


ル「言いません、待ちません、ダメです。私少女ですから」

スチャ


こ「アカン・・・しょ、少女に何の関係がぁぁぁ!!よしてぇぇぇっ!!」


ル「だいじょぶです。死なない程度にスタンガンの電圧は調整してありますから」


バリバリバリバリバリッ


ピーッ







−放送上不適切な部分があったので、放送を中断しております。しばらくお待ちください−








ル「ようやく敵役の本格的な登場ですね。で、紅と黒に塗られたナデシコですか・・・」


こ「はわわ・・・。それはスタンダール原作の『赤と黒』から」


ル「スニーカーとか以外は、ほとんど読んだこともないくせに・・・」


こ「バカにすんな!他にも色々読んでるで!!」


ル「そうですか?では何を?」


こ「・・・マンガとか」


ル「・・・哀れですね・・・」

スチャ


こ「あぎゃがぎゃがぎゃがぎゃぎゃ!」

バリバリバリバリバリバリバリッ


ル「さて、これで愚か者は居なくなりましたね。
え?放送時間いっぱいですか・・・?消去に時間がかかりすぎましたね。
締めは一応礼儀と決まりですからね・・・。
感想、誤字・脱字・誤植、批判等意見は気軽に出して下さい。では」

 

代理人の感想

人間、疲れてると物を考えるのが億劫になりますからねぇ(笑)。

まぁ疲れてるのはユリカだけですが。

ともあれナデシコCの最大の武器は封じられ、残る選択肢は真っ向のガチンコ勝負のみ。

ここに炸裂するであろうウエスギ君の秘策はいかなるものか? とゆーのが今の所最大の見所ですね〜。

 

・・・しかし、今回は本当に無思慮だなユリカもルリも(苦笑)。