「ナデシコが強奪?」


私はいきなり告げられた事件に驚きました。


「だからアカツキさんがこの席にいるんですね」


「おいおい、それはひどいなぁ。まるで僕がここにいるのが場違いと言っているみたいじゃないか?」


元大関スケコマシ、落ち目のネルガルの会長さんは相も変わらぬ飄々さでもって私の一言に応えてくれます。

あ、申し遅れました。私はホシノ・ルリ。ナデシコC艦長で連合宇宙軍少佐です。

ご存じのように、別に同窓会や宴会といった席ならアカツキさんがいるのは、そんなに違和感はありません。だって私たちが関わるお祭り騒ぎには必ず顔を出して来るんですから。
一般的見地から見れば、大企業の会長さんがそういう席に出るのは、考えられないでしょう。でもそこはナデシコですから。

ホント、バカばっかです。










機動戦艦ナデシコ





A Story after the Movie...






“E”s from Venus






第2話 火星の後継者の足音








ここは宇宙軍本部の一室、会議室と呼ばれている部屋です。
いくら規模が小さくなったとはいっても、統合軍に警察や子供のお使いやマスコットとして扱われていても、仮にも軍隊の会議です。
会長とはいえ一企業の人間が参加するなどあっていいのでしょうか?


「そこは私が説明しましょう」



「「「「っ!!???」」」」



『説明』という言葉に反応して電波が飛んできました。イネスさんが飛ばしたんですかね?


「・・・ミスター?続けてくれたまえ」


正面の席に座ったミスマル・コウイチロウ宇宙軍司令がプロスさんに向かって話しかけます。


「ええ、それでは皆さん、お手の資料でもうおわかりかと思いますが、私が順に説明いたしましょう。
えー、この事件は我がネルガルが誇る戦艦ナデシコの最新鋭型『ナデシコD』が何者かによって強奪されたということです。
強奪者はまず統合軍の月基地を襲撃。我が社の月ドックへの救援を断ち切りました。
ほぼ同時に別働隊が我が社の月ドックを襲撃。両方ともアッという間に制圧されたわけでありまして」


「しかし、統合軍の基地には訓練された機動兵器の部隊がいますし、ネルガルの月ドックにだってある程度のエステバリスがあったはずでは?」


ジュンさんがそう尋ねます。
機動兵器が配属されているのは当たり前ですし、警備もそれほど甘くはないでしょうから当然の疑問ですね、ま。


「ええ、まあ。統合軍の月基地は相当数の機動兵器が配備されていました。
しかしそのほぼ全てが戦闘不能状態になっていまして・・・。
我が社についてもエステバリス隊が出動する前に占拠されたようでして・・・。実はエステバリス隊もでたんですが、混乱している最中に全滅。
人的被害がなかったのが不幸中の幸いと申しますか・・・」


その質問にはプロスさんが答えますが、プロスさんは上着のポケットから取り出したハンカチで汗をぬぐいました。プロスさんがこんなに焦っているのを見るのはそうそうありません。


「はいは〜い!で、その後そのナデシコDはどこに向かって発進してったの?」


相変わらずの調子の発言はユリカさん。でもこの人が初代ナデシコの雰囲気をつくったんですからすごい人です、いろんな意味で・・・。


「全くユリカさんといると、緊張感というものが少し薄れますなぁ。そこがユリカさんのいい所なんですがね、まあ。
しかし残念ながらその後ナデシコDの消息は不明です」


「それ以外の目的も今のところ不明というわけだ」


ゴートさんがそれ以上の目的はわからんと結論を出します。
どこに向かったのか、また何の目的でナデシコDを強奪したのかという肝心なことが全然分からないということですね、要は。


「まぁ〜、僕らは情報提供者、というわけだね、つまりは」


納得。統合軍と同時にネルガルも襲われたのだから、その強襲者の情報を提供するためにいるわけですね。


「他に何か手がかりとかはないんですか?」


あまりにも情報が少ないので、ジュンさんがもう少し情報を聞き出そうと質問しています。


「ええそうですな、ジュンさん。
それでは皆さん、これをご覧下さい。これが最も有力な情報でしょうな」


それに応えて、プロスさんは正面のモニターに映像を写し出します。





「「「「「!?こ、こ、これは・・・」」」」」





プロスさんが映し出した画像には、頭部と腕部が破壊された積尸気の残骸が映っていました。
その場にいた全員が驚愕の事実を知ったみたいです。
もちろん私も驚きました。
あらかじめ知っているのはアカツキさんとプロスさんとゴートさんのネルガル組だけみたいです。
ま、ネルガルに起こった事件ですから当然ですけど。


「火星の後継者、ですな?」


すっかり隠居じじいの雰囲気を醸し出すムネタケ参謀長が落ち着いたふうに応えます。


「ま、そう考えるのが妥当だね、断定するのは危険だけどさ。
うちのカメラに写っているのは積尸気の部隊だし、ちゃーんと証言もとれてる」


「統合軍は正体不明の機体といって公表を控えてるが、シークレットサービスが手に入れた情報では、どうやら月基地も夜天光に襲われたようだ」


アカツキさんは、髪をかき上げながらそういって現実的な判断を下します。付け足すようにゴートさんは統合軍の月基地の情報も出してくれました。


「火星の後継者は元木連中将草壁春樹が中心となり、クリムゾングループの後ろ盾で創った組織です。
新秩序の創設の名の下に地球圏の支配を画策しましたが、ルリさんたちの活躍によってそれは阻止されましたな」


「しかし火星の後継者の賛同者は多く、いまだに捕縛しきれていない残党軍も多い。
少し前にも南雲義政率いる残党軍がクリムゾングループの援助で大規模な反乱を起こしたしな」


プロスさんと秋山少将が火星の後継者について説明をしてくれています。ま、誰に説明しているのかは知りませんけど。
その時、ナデシコBは訓練航行中でした。そのときの艦長さんは訓練生でありながらも反乱鎮圧に大きな功績と伝説を残しました。
でも、記録にはほとんど残っていません。大人の都合、ってやつですね。

ともかく、統合軍や宇宙軍はいまだに火星の後継者の残党狩りに手を焼いている状況なんです。


「ふむ、そうするとまたルリ君たちにでばってもらお・・・」


ミスマル司令がそう言いかけたときに緊急通信が割り込んできました。なんでしょう?