火星にナデシコCが到着した頃・・・。





・・・月宙域・・・





統合軍艦隊のほぼ全ては火星の後継者の制圧に火星へ向かっている。

「あ〜あ、俺も行きたかったよなぁ・・・火星の後継者の討伐ぅ」

月艦隊の巡洋艦スミレの艦長のタカハラが愚痴る。コロニーの制圧戦に参加したが、火星には行けなかったのだろう。



コロニーの戦闘において、火星の後継者はその殆どを無人兵器に頼っていた。
無人兵器のルーチン強化を行っていたとはいえ、統合軍の大艦隊の猛攻の前にはとても耐えられなかった。

「あんだけ弱かったんだからよ〜、俺も行って手柄を立てたかったぜ」

「ま、仕方ないでしょ。我々は月の警備が本来の任務ですからね〜」

副長と会話をしながら、艦長席のコンソールパネルに脚を投げ出す。
彼らの巡洋艦スミレは月宙域を巡回していた。先日のコロニーでの戦いで逃亡した火星の後継者に対して警戒行動をとっているのだ。


ピッ

<注意>

<正体不明機接近>


「ん?なんだ」

「正体不明機です。どうしますか、艦長?」

オペレーターが報告する。

「んん、おおかた先の戦闘の生き残りだろう。機動兵器で除去しとけ」

タカハラは正面パネルもろくに見ずにそう答えた。
しかし、一瞬の後にその顔は恐怖で引きつることになった。

「正体不明の反応増大!!これは・・・カトンボ・ヤンマクラスが多数出現!ダメです、数え切れません!!

「んな!?ディストーションフィールド最大!機動兵器全部出ろぉぉ!!同時にグラビティーブラストのチャージもだ!」

「敵艦よりグラビティーブラスト発射!」



ズガァァン



船体が大きく揺れる。そして数千のグラビティーブラストの光芒がスミレを貫く。

「う、うわぁぁぁぁぁっっ!」

そしてスミレは・・・消滅した・・・。


機動戦艦ナデシコ





A Story after the Movie...





“E”s from Venus






第11話 Moon Crisis









「月艦隊巡洋艦、スミレの反応が消失!」

「敵艦隊の反応を確認・・・計測完了!」

巡洋艦スミレの反応が突如消失したため、月艦隊は大わらわとなっていた。
混乱状態と言い換えてもらっていい。

「くっ、月艦隊の全部隊を出撃させろ!!地球艦隊と火星に向かった主力艦隊にも打電!」

「敵の数は!?種類はどうだ!!」

艦隊司令官のリュウは次々と適宜な指示を出す。流石に統合軍も無能者に司令を任すような愚を幾度も犯してはしていない。
しかし、今回ばかりは相手が悪かった。

「敵戦艦数、カトンボ・ヤンマが12178、木連型有人艦が119、無人機動兵器の数は計測不能です!!」

「な・・・それだけの艦隊が、どうやって近づいたというのだ・・・」

今の統合軍月艦隊には絶望的な数であった。大半が火星に向かった為、現在の艦はあまりに少ない。
しかし、リュウはただ呆然とするだけの無能な司令官ではなかった。

「いいか!全艦に告げる!できるだけ有人艦をねらえ!無人兵器の操作ユニットが積んであるはずだからな!
それから一カ所に集中するな!広がって陣形をとれぇ!!」

リュウの指令で陣形をとった月艦隊は、一斉にグラビティーブラストを発射した。
カトンボ・ヤンマがその光芒に貫かれて爆発する。それに巻き込まれた無人機動兵器の数も決して少なくはなかったが、絶対数が違いすぎた。

「続けて撃て!休ませるな、連射し続けろ!」

タカハラはそう叫ぶが、戦局が絶望的であることは誰もがわかっていた。
と、不意に旗艦と思われるような、明らかに形状の違う戦艦が前方に出てきた。

「司令!敵艦隊の前方に正体不明の戦艦が出てきています。・・・スクリーンに出します!」

その戦艦は古風な形状をしていた。
目を引くのがその艦首部。航空機を発射するような巨大な甲板兼カタパルト。
後ろのエンジン部はこれといった特徴はなかったが、戦艦と言うよりは空母という表現の方が正しいかもしれない。











「全操作権を僕に。本艦はこれよりワンマンオペレーションモードに移行。戦闘形態をBモードにするから、乗員は所定の位置に」










リュウの目の前に映し出された戦艦はさらに奇妙な形になってきていた。

「なんだ・・・?あれは?」

その場にいた全員がその艦に目を奪われた。
後ろのエンジンと思われる部位が前にせり出てくる。
甲板部と側面の2門のグラビティーブラストが左右にスライドしていく。

「何だというのだ?変形・・・?」

その間にも月艦隊は砲撃を続けているが、無人艦には命中しても有人艦は後方にあり、最前線の現在変形をしている戦艦には強力なフィールドで遮られている。
甲板下の艦首が2つに分かれて下がっていき、人で言うならば足と呼ぶ形になる。
後部エンジンは肩に当たる部位に、左右に分かれた甲板の裏からは腕が出現する。
丁度艦橋が頭部に当たる形となった。
艦首が手足になって、頭部となった艦橋の下から拡がり、胸部には巨大な砲門が形成されていた。

「あはははは!信じられるかね、君!!変形戦艦だよ変形戦艦!まるでマンガの世界じゃないか!?」

あまりの戦力差と次々に沈んでいく味方艦、そして変形する戦艦を見てリュウは壊れてしまった。

「敵戦艦停止!エネルギー値が異常に上昇しています!!」

もはやオペレーターの声はリュウには聞こえていなかったが、斜め後ろに異常にせり出たような形をした相転移エンジンから凄まじい量のエネルギーが発生していた。

「そのままなんだい?エネルギーキャノンでも発射してくるのかい?あははははははは

壊れたリュウが言ったとおりのことが起ころうとしていた。
胸部の砲門に巨大なエネルギーが集ってきたいた。あまりのエネルギーの量に砲門から青く輝く放電現象が起こっている。






「・・・次元砲、発射」





すさまじいエネルギーの奔流がタカハラ率いる月艦隊を襲う。
広がった陣形の艦隊は、放射して放たれたその砲撃に一瞬にして蒸発した。

「デ、デ・カルチャー
っ!!!」

リュウは蒸発していく艦内でそう叫んでその生を閉じた・・・。





<さあて、統合軍月方面軍の人達?>

統合軍月本部に通信が入る。
通信に映っているのは黒い髪のアジア系の男だった。20代半ばくらいの若い男だ。
ただ一つの異様なところ。それはそのアジア系の顔にはそぐわない、いや通常の遺伝子上あり得ない銀色の瞳であった。

「よ、用件は何だ・・・」

統合軍官僚将校が歯をガチガチと震わせながら通信に答えた。

<うん、なかなか物わかりがいいね。そういう奴等は僕は嫌いではないよ>

統合軍の月本部の者は生きた心地がしなかった。何しろ上空で機動兵器が脱出できないように見張っているのである。

<僕はね、月の住民達には何もしないよ。絶対に手を出さないように通達してあるから、そこは安心していいよ。反抗しなければ、と言う制限付きだけどさ>

月全域に対してこの通信は配信されている。その発言に月の住民はホッと胸をなで下ろしただろう。皆、度重なる戦乱に疲れているのである。

<今から月は僕らの支配下にはいるからね。怪しい動きをしなかったら、今まで通りに生活できるから安心していいよ>

通信が入った時点から、相手は笑顔を崩さずに話しかけてきている。統合軍にはかえってそれが怖い。

「き、君たちは何者だ?」

たまらずに1人の官僚が質問する。

<知りたい?>

「・・・うむ・・・教えてくれないか?」

時間とともに緊張感も少し解けたのか、統合軍の幹部達は少し落ち着いてきたようだった。

<僕はね、金星軍事機構・太白の総司令官ウエスギ・タカアキ>

「金星・・軍事機構・・・たいはく・・・?」

金星と聞いて何人かの上級幹部が顔色を変えた。

<フン、何人かは思い出したみたいだね。僕たち金星の民が地球連合に何をされたのか!>

「き、金星には人類は植民していないはずだ!記録にも記憶にも全くない!!」

1人の若い男がタカアキに向かって叫び、食ってかかる。何も知らない者達はそれに同調してそうだそうだ、と叫ぶ。しかし一方で一部の将校・官僚は顔を引きつらせていた。
タカアキは彼等に一瞥をくれると話し出した。

<いいだろう。教えてあげるよ、僕ら金星の民の話をネ・・・冥土の土産に、フフッ

含み笑いをするとタカアキは語り出した。

<金星はね、20年くらい前から極秘に植民計画が進んでいたんだ。
でも、火星で古代遺跡が発見されて、その技術が研究されていくにつれて金星の計画はおろそかになっていったんだよ。
そしてボソンジャンプという技術が発見されると、地球の連中は金星植民計画を中断、破棄したんだよ・・・。金食い虫の金星植民よりの火星の遺跡の方が利益になるって判断だよ。いっさいの記録、記憶を消し去ることによって金星植民の存在を消し去ったんだ。そう、何もなかったことにね・・・。
今もだけど金星はろくにテラフォーミングなんてされてない。小さいコロニーがあるだけの存在だったから、見捨てられた僕たちは滅び去るしかなかったはずだったんだ。
でも僕たちは滅びなかった。金星を見捨てた地球への復讐を糧に生き続けた。
そして今、行動を開始したんだ。地球の奴等に復讐する為にね!!

統合軍の者達は信じられないといった顔でヒロアキの説明を聞いていた。
一部の者の顔はもはや蒼白になってしまっていた。生きた心地は・・・、しなかった。

「い、一体どうやって接近したのだ・・・?」

無駄な時間稼ぎをしようと画策する。もはや助けなど来ないというのに・・・

<どうって、機関停止を行って惰性航法でやって来たに決まってるよ。これならレーダーには引っかからないからね>

「だ、惰性だと・・・」

惰性航法。
推進装置を最初の加速でしか使わずに航行を行うということである。
目的地への到着は遅くなり、戦闘能力はもちろんのこと航行能力も落ちるが、レーダー網に引っ掛かりにくくなる。
レーダーに頼りすぎた統合軍の監視システムが逆にアダとなった。惰性航法と機関停止を行えば光学装置による視認くらいでしか確認ができない。
先の蜥蜴戦争でもナデシコは機関停止という荒技を使って奇襲作戦を行っている。

<さて、話も聞かせたことだしそろそろ・・・>

「わ、分かった。戦力差も考えて、こちらは降伏しよう・・・」

官僚達がそう提案する。やはり、誰だって命は惜しいものである。生き残るために降伏をするというのは戦争においての権利であろう。
しかし、無情にもタカアキはその提案を断った。

<何言ってるんだい?これから君たちは死ぬんだよ>

「な!?」

<自分たちの死ぬ理由も知らないで逝くのは可哀想だからね。あ、でもさっきの現場の艦隊の人たちは可哀想だったのかな?現場だけ死んで背広組は死なないってのも何だか不公平だからね、でも>

彼等にとって、突然の死刑宣告は理解できなかった。ただただポカンとした顔で、中には口を開けたままかたまっている者もいた。

<死は誰にでも平等なんだよ?そう、どんな奴等にとってもね!>

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

<待たない。じゃ、死んでよ>

焦る月本部の統合軍幹部をしりめに、タカアキは通信を切る。
通信が切れると同時に上空の機動兵器から、統合軍月本部に向かってミサイル群が発射される。
そして月本部は爆発の炎と煙とに覆い尽くされた・・・。
















〜久々の作者のあとがき〜

約一ヶ月ぶりですか?「ナデシコE」をお送りしました。今回は私一人のあとがきを久しぶりにお送りします。

まず、断っておきますが惰性航法なんて私のでっち上げです。「電車でG○!」の『惰性走行』をヒントにして勝手に創った航行方法ですので、信じないで下さいね。本当にはあるかも知れないんでしょうが、その辺に詳しくないので、あしからず。

さて、今回は沢山人が死んでいます。私自身が書いていたとはいえ、。本当はあんまり人を殺したくないんですよ、この話では。
するにしても、ドラマをなるべく創りたいと思っていますけども、今回の太白の月侵攻作戦は最初からプロットに加わっていた、どうしても外せない部分なので、月の統合軍には全滅していただきました。合掌・・・

大量虐殺なんて、あまり好きこのんでやる作家さんはいないでしょう?
まあ私、考えてますけども。

『ナデシコメインクルー全員死亡』って話とか・・・



さて、今回のお話、実は今までで一番時間がかかってます。
流れそのものと、本文自体はそんなに時間かかってないんですが、問題の部分は変形戦艦のところです。
ほんとにわずかな部分ながら滅茶苦茶に時間がかかっています。元ネタはわかるでしょうけども、その変形の仕方が全くわからないのです。マク□ス7のビデオ持ってないですから。
それで、プレステのVFX2のマク□ス13の変形の動画部分を何十回となく見て、想像しました。更に妄想とヘタ絵で変形機構を考えて、ようやく納得できるものにたどり着いたわけです。
恐らく、その構想の総時間は100時間近いものと思われます。もちろん、そのなかには脳内の妄想や補完計画なんかが含まれますが。大学の授業中なんかも講義を聴かずに『こーすればここがアカン・・・でもこうしたらここは・・・』なんて事を考えていました(マジ話)。
まあ、苦労を少しでも分かっていただけたら嬉しいです。そこ!ビデオを借りてみればいいだろというツッコミは無し!!

リュウの今際のきわのセリフは遊んでいます(笑)。
というか、戦艦が変形する時点でおもいっきし遊んでいますね(爆)。



一応の設定らしきもの。
この変形戦艦の名前は『盤古』。盤古とは中国古代神話に出てくる混沌というべき存在ですかね。地球圏に混沌をもたらす存在なので、この名前にしました。
装備は相転移エンジン6機、グラビティーブラスト6門といったとこです。その他諸々、これ以上の詳しい設定無し。
形に悩みましたが、決定稿は空母みたいな形状になりました。
後付けの設定ですが、何故変形しないと次元砲を撃てないかというのは、タカアキのIFSリンクレベルを最大にしないといけないからです。
ところが、戦艦のままでレベルを最大まで上げてしまうと、エンジンの熱暴走とリンクレベルの高さに艦が操作不能に陥ってしまう。また、人型の方がIFSのリンクと操作がしやすいという事もあります。






カンの良い方、そうです!!



タカアキはこの戦艦を機動兵器として扱うことができます!!



・・・小回り利きませんけどね・・・
まあなんだ、サイコガン○ムを二周りか三周り大きくしたような凶悪なもんだと思って下さい。





「でかいんだよ!」





「かたいんだよ!!」





「・・・黒くないですよ〜」







それでは、次回は火星です〜。
いよいよ本格的に(名前入りで、ということ)敵の、太白の人間達が動き出します。

でわでわ〜。

 

 

代理人の感想

「慣性航法」とかそう言う名前で、似たようなアイデアはSF作品に時々出てきます。

もっぱら作中のように奇襲等を掛ける時に用いられますね。

直接的に元ネタになってるとおぼしいのは潜水艦のそれだと思われます。

潜水艦の戦いでは「音を出さない」ことが非常に重要なので

エンジンを切って音を出さないように惰性で移動するという戦術がしばしば用いられるわけです。

ちなみにナデシコ本編20話「深く静かに『戦闘』せよ」もタイトルの元ネタは

「深く静かに潜行せよ」という潜水艦対駆逐艦の戦いを描いた名作映画から来ています。

これも実にいい映画なので興味のある方はどうぞ。

 

 

>盤古

イッパツですな、イッパツ(爆笑)。

 

ちなみに、色は主砲だけでも黒ければオッケーです(核爆)。