「ハーリー君、火星への最短ルートを」

「はい!タケル、カグヤマ、サヨリ、ウズメを通って火星に辿り着くことができます」

ルリの質問にすぐにハーリーが最短距離を導き出す。
それを了承したルリが許可を出す。

「そのままタケルに侵入。火星に向かいます」

目前にサヨリのチューリップが迫る。

「ディストーションフィールド、出力最大!」

「光学障壁展開!」

「各員最終チェックをよろしく」

「通信回線閉鎖、生活ブロック準備完了!」

「エネルギー系統OK!」

「艦内警戒体制、パターンBへ移行」

「フィールド出力異常なし、その他まとめてオールOK!」


ピンポンピンポ〜ン

<火の用心>


                    <頭上注意>


      <よくできました>





オモイカネはオールグリーンと結果を表示する。ジャンプの準備は全て滞りなく行われている。

「フェルミオン=ボソン変換順調」

「艦内異常な〜し」

「7、8、9、レベル上昇中」

次第にルリの顔にナノマシン特有の紋様があらわれて、ぼんやりと輝き出す。
その紋様がはっきりと浮かぶようになる。

「じゃんぷ」



機動戦艦ナデシコ





A Story after the Movie...





“E”s from Venus






第9話 火星への途上

















ルリの声とともに、何処かのチューリップから通常空間に復帰したナデシコであったが・・・。

「現在位置を確認・・・。艦長!やっぱり火星じゃありません。ここは・・・ウズメです!」

「ちっ、またかよ!奴等ヒサゴプランのシステムをまた乗っ取るつもりだぜ」

現在位置を告げたハーリーの言葉にサブロウタが舌打ちして答える。

「ウリバタケさん、以前みたいなエンジンの異常は?」

以前に起こったエンジンの異常を心配して、ルリは整備班に連絡を取る。

<大丈夫だ!前みたいなエンジン異常は全くねえから安心してくれ!!>

「よかった〜・・・」

取り敢えず、エンジンに異常のないことを確認したブリッジクルーはホッと胸をなで下ろす。南雲の反乱の時には、エンジン停止というとんでもないピンチを迎えたからだ。

「ルートの強制変更・・・?ヒサゴプランにハッキングしてるんやろな・・・」

アユムは自分が艦長だったときのことを思いだし、思わずしかめっ面をする。その時は相転移エンジンに異常な負荷がかかって、ナデシコは墜落寸前にまで陥ったのである。

「ルリちゃん、もう一度ウズメから火星にジャンプできないかなぁ?」

「多分無理です。システムがいじくられている以上は、全く別の所に飛ばされる危険の方が高いです」

ユリカの問いに、ルリは否定で応える。低確率の行き先の分からないジャンプよりも、確実に火星に向かった方がよい、と判断したのだろう。

「でも、ここからは通常航行でしか行けないね」

ユリカののその言葉にコクンとうなずいたルリが通常航行で火星に向かうことを指示する。

「艦内の警戒体制はランクBで。エステバリス隊は緊急時に備えておいてください」

統合軍の艦隊がここを通ったはずであろうが、敵の警戒を怠ってはいけなかった。

「最大船速で火星へ!統合軍艦隊に追いつくように!!」

ユリカの発令でナデシコは最高速で火星に向かう。
流石に火星で起ころうとしている惨状のことなどは予想していなかったが。










「いよいよ敵の勢力下に入るって訳や。さっきのウサバラシはさせてもらううで〜・・・」

アユムは物騒なことをパイロット仲間に話していた。

「おいおい、アユム。勘弁してくれって」

リョーコは心底勘弁してくれ、といった顔をしてアユムに缶コーヒーを投げ渡す。
プシュ、という心地よい音とともにプルタブが起こされる。

「さっきの人、強かったもんね〜」

ヒカルはドリンクを飲みながら先程の戦闘を思い起こした。

「サミュエル、怪我する・・・サムケガスル・・・ゾッとする・・・」

イズミはドリンクの缶をお手玉しながらダジャレを捻る。ちなみにスポーツドリンクのホット缶だ・・・。

「やってウチのエステのお初披露目のはずが・・・」

アユムはガックリと肩と頭を落とす。その姿はさながら新しいオモチャを買ってもらったのにすぐに遊べなかった子供のようだ。
リョーコはそんなアユムの背中をパンパンと軽く叩きながら、さっきの戦いを反芻する。

「でも、マジで強かったぜあの夜天光のパイロット、・・・何つったけ?」

「えーっと、確かウエスギ・ヒロアキとか。でも結構かっこよかったよね〜♪」

ヒカルは軽口を叩いて平気な様子を装っているが、その肩や手は震えていた。戦闘が終わって初めて、恐怖が湧き出てきた感じであった。

「ホント・・・よく生きてるわ・・・」

イズミが正直な感想を洩らす。
正直、リョーコ達は実際危ないところまで追い込まれた場面もあった。4対1、しかも相手は本気でないといっているのだ。
その言葉を鵜呑みにするわけにはいかないが、1対1で勝てるような相手でないことは嫌と言うほど理解できた。
アユムは飲みかけの缶コーヒーをプラプラと左右に振っていたが、残りの中身をグッと飲み干す。

「それは見てた感じで10も20も承知やて。あの男の腕、ウチよりも上や・・・」

飲み干したまま握っていたコーヒーの缶を、ぺこっとへこますと、少し離れたところにあるクズカゴ(缶専用)へと投げた。缶はきれいな放物線を描いて、ガランと音を立てながら見事にクズカゴに入る。

「もっと楽かと思ったんだけどなぁ。どうしてナデシコっていつもいつもこうなのかな?」

ヒカルは飲みかけのドリンクを置くと、ベンチに仰向けに寝転がった。

「薬味抜きで・・・ネギ、ワサビ、生姜・・・しょうがない・・・くくく

イズミが仕方のないダジャレをひねり出しているが、リョーコ達は無視する。

「俺は久々に腕が鳴るけどな。統合軍から宇宙軍に飛ばされてから、久々に暴れられるんだからよ、っと。じゃあ、俺は少し休んでくるから。当直はアユムでいいよな?」

「出撃できなくて不満そうだったもんね〜」

リョーコはデッキの休憩所のベンチを立ち上がると、手を振りながらデッキを出ていく。
デッキに出たリョーコとヒカルに整備班が声をかける。

「おう。リョーコちゃんお疲れ!」

「エステは完璧に整備しておくぜ」

整備班は先程の戦闘で酷使されたエステバリスを急ピッチで整備している。
敵勢力下に入ったので、のんびりと整備をしているわけにも行かなかったのだ。

「ああ、頼んだぜ!」

リョーコ達を見送ると、整備班は再び急ピッチで作業を再開した。
ウリバタケも作業員に指示を送るのに忙しそうだ。

「ウチの換装システムはパーペキに把握したんやろねぇ?」

恨めしそうな声で、アユムはウリバタケの背後から声をかける。いつの間にかウリバタケの死角に回り込んでいたらしい。

「うわっ!!」

突然背後から声をかけられたウリバタケはビクッと体をのけ反らして背後を振り向く。

「なぁ?今度は出られるやんなぁ・・・?」

「あ、ああ。もう完璧に把握したよ・・・。すまなかったな、アユムちゃん」

背後に火の玉が浮かんでいそうな様子のアユムに、ウリバタケは心底申し訳なさそうに謝った。
先程出撃できなかった原因はウリバタケ達にある。
整備班は仕様書を見ながらアユムのエステバリスを完全分解してしまったのだ。
いつもながらのことではあるし、もちろん整備には必要な作業なのだが、完全分解をしてしまった為に組み立てに手間取ったのである。
パーツ換装を確認しながらだったことも重なってか、出撃時に組み立てができていなかった事実は事実である。
かいつまんで話すと以上のようになる。
バラバラになったエステを見たアユムが、ハリセンを振り回しながら逃げまどう整備班をナデシコ中追いかけ回した話は、機会があればしよう。

「もう完璧だからさ、いい加減勘弁してくれよ・・・」

「そうだぜ、アユム。いい加減に勘弁してやれよ」

両者の様子を見てか、戻ってきたリョーコが珍しくも整備班に助け船を出す。流石に、あの惨状を再び見るのは、リョーコや他のクルーにとっても精神衛生上悪いのだろう。

「わかったって。あんだけひっぱたき回ったんやから、もうええわ」

目を泳がせて頬をポリポリとかき、横を向きながら整備班の面々を赦免する。
そして再びウリバタケの方を向く。

「で、後はパーツ換装のデフォをどうするかやんなぁ」

「そうそう、アユムちゃん用にハリセンなんてないの?」

デッキから出ていったはずのヒカルも、いつの間にかアユムの機体の設定に加わっている。
おいおい、エステがハリセンを持つってのは聞いたことがないぞ・・・。

「ならアレを使ってくれ。威力は保証するぜ」

ウリバタケはデッキの一角を指さす。そこには大きな刀というか、槍というか、奇妙な刃物が立てかけられている。

「アレは何やの?」

「アユムちゃんが持ってきた装備の中に入ってたシロモノでな、フィールドランサーを強化改造したものってことだ」

「でも、デカ過ぎだろ・・・あれは」

それにしても刀身が異様に大きかった。何せエステバリスを超えるその長さのうち、その3分の2までが刀身になっているのだ。その刀身の幅も異常なほどにあった。

「ふうん、変な形・・・」

「なんでも、設計者が20世紀末に流行った維新劇風のマンガを参考にしたらしいぞ」

「ていうかぁ、○馬刀そのまんまじゃん。設計者もよくそんなマンガ知ってるよねぇ」

ヒカルが感心しているが、いや、全くである。
大きさこそ違え、その形は某斬○刀にそっくりであった。

「設計者による命名は『機斬刃』だとよ。普通のエステじゃあジェネレーター出力が足りなくて使えないだろうが、3つも積んでいるアユムちゃんのエステなら心配ねえだろ」

「なら、接近戦はそれとナイフでええとして、あとの装備やけど・・・」

アユムは仕様書のディスクからウインドウを開いて、次々と装備を指定していく。

「肩部内蔵のミサイルポッドに連装式キャノンか。それから背部にレールカノンをつけるのか?わかった」

スーパーエステバリスを基本にしたような装備を指定するアユム。

「アユム、一応連射可能の装備はつけといたほうがいいんじゃねえか?」

「そうやんなぁ・・・。ほんなら頭部にバルカンポッドを・・・」

「わかったわかった。じゃあこれを基本セットに設定していいな?」

アユムの装備の指定を完了させてから、ウリバタケは今度はリョーコ達に向かい直す。

「で、リョーコちゃん達にもプレゼントがあるんだよ」

「ん?何だよ、プレゼントって?」

「ウリピー奥さん居るじゃん〜。もしかして浮気〜?」

「違う違う!俺からのじゃねえって・・・まあ詳しくはこのビデオメールを見てくれ」

ウリバタケはビデオメールを再生にかける。

そこに映し出されたのは・・・。

<や〜、久しぶりだね〜。ナデシコパイロットのみんな>

「アカツキじゃねえか!」

「アカツキ会長?なんで?」

「あ〜!落ち目の元大関スケコマシ!」

「目が落ちる、目尻が下がる・・・そりゃタレ目・・・」

いつの間にやらみんなビデオを見にきていた。

<おやおや、ひどい言われようをしているみたいだね。ま、今さらって感じだけどね>

ライブではないのだが、アカツキはお決まりのセリフが出てくるのを読んでいたようである。

<このビデオを含めてアユム君に搬入してもらった武器はね、君たちナデシコのパイロットへのプレゼントだよ。ま、僕からのささやかな愛だと考えてね>

スライドショーで次々に試作品の兵器が映し出される。目まぐるしく移っていくので、詳しい内容の確認はできない。

<詳しくはウリバタケ君から聞いてくれ。それでは僕はこれで。落ち目とはいえ色々と忙しいんでね>

<<再生終了>>

ピッ

電子音とともにビデオの再生が終了する。

「ウリバタケ、はやいとこ新兵器の紹介をしてくれよ」

「おうよ!この新兵器群を見ろ、と言いたいとこなんだがよ・・・」

そういって言葉を詰まらせる。

「何?問題でもあるの〜?」

「ああ。ほとんどが現行兵器に取り付けるオプションみたいなもんでな・・・。ほれ、実質的にはこんなもんだ」

頭をガシガシと掻きながらのウリバタケが出したウィンドウに映っている兵器はわずかであった。
しかし。

おお!これいいじゃねえか!!フィールドブレード、っていうのか!?」

リョーコの指した新兵器は剣の形状をしている。

「そりゃあフィールドランサーの強化版でな、アユムちゃんの機斬刃と並行して作られていた代物だとよ。軍の次期制式採用が決定しているらしい」

「ハーイ、私はこれ!」

「肉・・・ミートゥ・・・Me too・・・くくく」

ヒカルとイズミが指したのは大型のレールカノンだった。

「ああ、こいつはマルチレールカノン。弾倉はでかいがショットガンとかインパクトした時に内部のエネルギーが放出される特殊弾なんかを撃てるということだ。」

他に表示される兵器は、ラピッドライフルのオプションパーツや多弾頭ミサイルというものだった。

「最後のコイツ。これはな・・・」

「こんな形の感じ見たことあるぜ!・・・そうだ、Xバリスだな!

最後の映像を見たリョーコが思い出して叫ぶ。

そうとも!あの時のXバリスはエネルギーの暴走が問題点だったが、システムそのものは良くてな。ネルガルで開発許可が下りたんだよ。で、俺が開発を続けた結果コイツができあがったわけだ」

嬉しそうに解説するウリバタケによると、出力系統の問題を解決できたのだという。もちろんながらエネルギーチャージに時間がかかる、他の武装が極めて少ないなどの問題点はあるが、小型とはいえグラビティーブラストはそれを補って余りある威力を持っているのだ。

「今んとこは何とも言えねえけど、コイツは大きな戦力だな!」

満足げにリョーコが話す。

「とはいえ、これを誰が付けるかやね・・・?」

「私はやだよ〜。こんなの付けるの」

「俺も嫌だ。かといってイズミも嫌がるだろうから・・・」

「・・・当然いやよ」

4人は顔を見合わせると、目が怪しくキラリと光る。

「アイツしか」

「いてへんよなぁ・・・」

「そうだよね〜」

「・・・同感・・・」



「というわけで、サブ。お前がこれを付けることに決定したからな」

コミュニケでサブロウタを呼び出して、事情を説明するリョーコ。

<ちょ、ちょっと待ってくださいよ、中尉!!>

いきなり変なユニットを付けろと言われ、サブロウタは慌てて抗議をする。

「いんや、これはもう決定事項やで。もう換装もしとるしな、ほれ」

そして映し出されるサブロウタのエステバリス。
すでにその美しい調和のとれた姿(元)には背部から大きなユニットが取り付けられている。

<あ゛あ゛〜!!俺のスーパーエステがぁぁッ!!>

以前より不格好な姿になった自分のエステを見て、絶叫するサブロウタ。

<頼みますって!元に戻してくださいって>

ついに泣きが入るサブロウタである。あんな動きにくそうなものを付けられたのでは、泣きを入れるのも仕方ないであろうか。

「だめだめ〜。もう艦長、じゃなくて提督にも許可貰ってるもんね〜」

<マジすか!!提督、提督〜!!>

急いでユリカに連絡を取るサブロウタ。
ピッと映し出されるのはユリカ。

<うん、許可出したよ。戦術が広がるしね。何か問題あるの?>



がちょーん



サブロウタはそんな擬音がとっても似合いそうな顔をしている。しかも劇画調になってしまっていた。

「まあ、毎回って訳じゃねえし、気を確かに持ってくれよ」

「いざとなれば取り外しできるし〜」

「ま、せいぜい大事につこうてや〜」

一件落着とばかりに、サブロウタとの通信を切って解散していく4人であった。

「・・・哀れサブ 背中に重い モノ担ぎ・・・お粗末」

ベベン









あとがきの後で書いたまえがき

今回のあとがきは力入れました。
長いです。マジでめちゃ長いあとがきです。
未だかつてここまで長いあとがきがあったでしょうか?いや、ないでしょう。
長いですが、お気に召すでしょうか?
特に未登場のイネス先生が獅子奮迅の大活躍。説明しまくっております。
構想1週間、執筆4時間あまりの大作あとがきですので、イネスファンの方はもちろん、イネスファンでない方もお楽しみ下さい。

敬具