『機動戦艦ナデシコ』
Another Dimension Story

「さよなら、いつかまた逢う日まで」

―第二話―

 



ヨシノはテンカワ・アキトの寝顔を見ていた。まだ手は額に置いたままだ。ゆっくりとしたリズムの寝息が彼の口からこぼれている。ヨシノは、彼を起こさないようにとゆっくりと手を離すと、先ほどまで座っていた机へと向かっていった。そして、ゆっくりと椅子に腰を下ろす。

(ミズキは・・・、彼がテンカワ・アキトだと知ったら、恐らく――)

ヨシノは机に両手を置いて俯きながら考え込む。目の前にはディスプレイが光輝いているが、それはただヨシノの顔をぼんやりと照らしているだけだ。患者用のデータを入力しなければならないのだが、そんな気分ではない。

(――やめよう。これは、私には何も出来ないことだから・・・・)

そう思って思考を止め、ディスプレイに視線を移動させた。そして、手元にあるコンソールパネルに両手を乗せてデータ入力を始めるが、どうもいつも以上にペースが上がらない。・・・・原因は分かっていた。彼とミズキのことだ。

「ふぅ」

ため息をついてヨシノは椅子の背もたれに思い切り寄りかかって天井を見上げた。金属で作られた汚れ一つ無い真っ白な天井である。その一点をぼんやりと眺めながら、数十分間をそのままの姿で無駄に過ごした。それは、彼女にしては実に珍しい行為だった。

◇◆◇◆◇



データベースルーム。それはこの艦の『CIC(Central Information Centerの略で艦の全情報を司っている中央区画のこと)』と一部データを共有し、その名の通り『アフラ・マズダ』のクルーがある程度自由に使えるデータベースである。しかし、艦長の趣味によって集められた、今はあまり見ない紙の本が多く置かれている事から『図書室』とも言われている。

その資料室の五つある内のコンソールを使いタクマはあることについて調べていた。それは先ほどの黒い機動兵器のことだ。

「ネルガル兵器カタログ、アクセス、と」

あの黒い機動兵器を良く調べてみると、黒い部分は追加装甲ユニットらしく、それを分離させるとエステバリスというネルガルの作り出した人型機動兵器が現れたのである。しかもその型式は20年以上前のものだ。エステバリスはネルガルの製品である。ならば、あの黒い追加装甲ユニットもネルガル製ではないのか、とタクマは考えたのだ。

「・・・・・・・・・おかしいな」

兵器カタログのデータを一個一個クリックして探してみるが、どうやら『追加装甲ユニット』自体が存在していないようだった。あるのは、昔のエステバリス、アドバンスドエステバリスの代表的なフレームのスペックデータだけである。それを過ぎると、こんどは『ナデシコ』などの戦艦のページへと変わってしまう。

「じゃあ、あれは試作型で実用化されなかった奴か?」

タクマは呟いた。自分が勤めるABF社の『YIMA』とおなじように、試作されたが欠陥が見つかり、機動兵器としての実用化は不可能という烙印を押されたもの、ということなのだろうか?、ならばこのデータベースに乗るはずも無い。

「だけど、なぁ」

タクマは納得のいかない顔をした。なぜなら、あの追加装甲ユニットは完成度が高すぎるのだ。実戦すら耐えるだけの能力は持っている、とタクマは確信する。しかも、エステバリスに装着するというコンセプトは実に見事である。一から高性能な機動兵器を作るよりぐっとコストは低いだろう。

「直接聞いたほうが早いか・・・・?」

そう呟いて、タクマはコンソールのディスプレイをを初期画面に戻すと、立ち上がった。乗っていたパイロットに話を聞くために。

◇◆◇◆◇



『ゾロアスター』の旗艦である『アフラ・マズダ』は、独航艦であり、そしてナデシコシリーズ以外で初めて自律型AIと呼ばれるものを搭載している艦でもある。これは、ナデシコシリーズに搭載されたシステムであるが、マシンチャイルドと呼ばれる遺伝子操作によって情報伝達に特化したIFSを持つ者が操れるという、ある意味非効率的なシステムである。しかし、その力は過去のナデシコシリーズを見れば分かる通り時には絶大な力を発揮している。

そしてゾロアスター唯一の――いや更に言うなら人類唯一のクラスAマシンチャイルドであり、アフラ・マズダの自律型AI『イェユーカ』と『親友(この概念はナデシコシリーズから広まったもの)』ともいえる関係なのが、下の艦橋の真ん中の席で静かに座しているセレネ・ヒュぺリオン中尉である。連合軍の制服をしっかりと着ている彼女は、ライトできらきらと輝く透けるような蒼銀の髪を、長く腰にまで届くほど伸ばしている。そしてその顔立ちは、13歳という少女の年齢にふさわしく、瞳は黒い真珠のようで、とても優しい光を湛えた温和なものである。

そのセレネは自分のオペレーターシートで、右手にIFSを輝かせながらゆっくりと瞳を閉じていた。これは、イェユーカと話(オペレートとも言うが)をしている時にするものであり、こうすることによってより深くイェユーカと話すことができるのだ、とセレネは言う。

(ねぇ?、イェユーカ・・・。医務室の映像って出せる?)

<・・・無理だよセレネ。医務室のデータベースはプライバシーの塊なんだよ?、CICの中でもA級ガードプログラムで保護されてるんだ。そう簡単にアクセスできるわけ無いじゃないか>

そう言葉を返すイェユーカ。イェユーカはまさに人間のような言葉使いをするが、これには理由がある。このイェユーカにはネルガル重工の協力によって初代ナデシコにあったオモイカネの自律型AIの経験データ(正確にはオモイカネはナデシコBと共に行方不明になった為、本社に残されたバックアップデータが元)から生み出された存在である。 とは言うものの、最初はただの人工知能のように機械的な作業をこなすことだけだったが、セレネとの2年半にも及ぶ会話などの経験によりその思考パターンはすでに人工知能というより、人間に近いものが形成されている。

(そんなプライバシーのところまでいかないよ。ただ、医務室の映像を映してくれればいいんだから・・・)

<だから、医務室自体がA級ガードプログラムに守られているんだってば。・・・まあ、映像も受信するのは無理すればどうにかできるけどね、でもCICからの監視も厳しいし・・・・まず、覗き見ってことでバレるよ?>

(・・・・・・)

拗ねるセレネ。恐らく、外から見た現在の彼女は、瞳を閉じたまま頬を膨らませている事だろう。

<・・・直接行けば良いじゃないか>

そんな彼女の様子を見て、一拍の間の後、イェユーカがそう言った。

(・・・・・・・)

<少しの間なら艦長も許してくれると思うよ?・・・それにレーダーにも何も映ってないし>

(・・・・そうかな?)

そう心の中で答えて、彼女は先ほどのコミュニケ越しに見ていた格納庫のことを思い出した。黒い機動兵器のコクピットから引き摺られるように出てきた、黒いマント、黒いバイザーで身を包んだ青年。その人は、すぐに医務室へと運ばれてしまったが。

<そうそう、レーダーはボクが見ていてあげるから>

<行っておいで>と言われセレネは双眸を開く。そして、オペレーターシートから立ち上がると、思い切り振り向いて艦長であるオキタを見上げ、そして言う。

「艦長っ!」

「なんだ」

そう言って視線を前のモニターからセレネへと下げるオキタ。

「少しの間、ブリッジを留守にしますっ!!!」

「分かった。・・・・良いだろう」

一瞬考えるような素振りを見せて答えたオキタは、再び視線を上へと戻す。それを見たセレネは走ってブリッジを後にした。



セレネは丸っこい字で『医務室』と書かれたプレートが掛かっている扉の前にゆっくりとした歩調で近づいていく。このプレートを作ったのが、意外にもあのゲラルトだということをセレネは知っていた。そして、扉の前で立ち止まると電子音と共に、その扉が開いた。

「・・・・こんにちは」

そう言いながら足を進めるセレネ。そして部屋に入って、左の壁に並ぶように置かれている五個のベッドの内の、一番奥側に寝ている人の姿が目に入った。多分、さっきの黒い人だろう。そのベッドのちょうど横にある台に、彼が着ていたであろう黒い服とマントがきちんと畳まれて置かれていた。そして、その上にはバイザーも。

「あら、セレネちゃん、どうしたの?」

ベッドの方をぼんやりと見ていたセレネは、そう声を掛けられてビクッと一瞬だけ肩を震わせた。そして振り向くと笑顔のヨシノがいる。

「ヨシノさん・・・。いや、そのですね・・・。さっき運ばれた――」

「何?・・・ああ、さっきの人のことね」

ヨシノは微笑むと、そう言った。そして、さきほどセレネも見ていたベッドに視線を向ける。

「いまさっき目を覚ましたけど・・・また寝ちゃったわ」

「・・・・見ても良いですか?」

セレネもベッドの方を見ながら、真剣な眼差しをして呟いた。彼女自身、何故こんなに彼を気になるかは分からなかった。今まで、何人もの男性と会った事はあるが(13歳とはいえ精神年齢は高い)、こんな気持ちになったことは無かったのである。しかし、コミュニケ越しに彼を見て、唐突にこう思ったのだ。

――会いたい、と。

「・・・・いいけど、起こさないようにね」

そんなセレネの様子を見て、少し間を置いてヨシノは答えた。それを聞いて、頷いたセレネはゆっくりとそのベッドへと近づいていった。そして、台の上に置かれた黒いバイザーに一瞬視線を送りながら、すぐにその持ち主へと向いた。

「・・・・・・」

その青年はゆっくりとしたリズムの寝息を立てながら、仰向けに眠っていた。その青年の顔をじっと見つめるセレネ。その時であった、不意にその青年の双眸が開かれたのは。

「!?」

声も出さずに微かに驚くセレネ。目を覚ました青年は、横にいるセレネを見て驚いた顔をする。そして、微かな消え入りそうな声でこう呟いた。

――『ユリカ』と。

◇◆◇◆◇



白を基本色とした壁に、観葉植物とジュースの自販機が数個立ち並び、そして丸いテーブルが5個、まるでどこぞの喫茶店のように置かれていた。そこはラウンジという区画である。そこは食堂に次ぎ、休憩時間などにクルーがよく溜まる場所である。

そこにパイロットのカズマ、ユーゴ、ティタニアの3人はいた。丸いテーブルに3人がそれぞれ向かい合うような形で座っている。そして、それぞれの前には缶のジュースが置かれていた。

「・・・・で、何が聞きたいんだ?」

そう言って缶ジュースを手にとり口へと運ぶカズマ。ごくり、と一口飲んで再びテーブルへと戻した。

「今、我々が向かっているところです」

「・・・・・」

ユーゴがそう言って、ティタニアは無言でカズマを見つめる。

「何故だ?」

ユーゴとティタニアの視線を真っ向から受けたにも関わらず、少しもひるんでない調子のカズマは、何事も無かったかのようにジュースを手に取り口へと運ぶ。

「知っているんでしょう?。我々は本来ならばこのまま木星まで行く筈でした。しかし、今の進路はどうです?、明らかに地球に向かっている」

「そうデス。まダワタシ達が地球を出てトゥーウィークしか経っていないノデスヨ?。モドるにしたって、早スギじゃないですか?」

ユーゴが喋り、それに頷きながらティタニアもたたみ掛けるように言った。それを見て、カズマは両目を瞑りながらため息をつき、持っていたジュースをテーブルに置いた。そして口を開いた。

「上からの命令だ。“ただちに地球に帰還せよ”、だとさ」

「トライアルも終わっていないのにですか!?」

ユーゴが声を少し高くして言った。それを、一瞬見ながらカズマは興味なさそうに視線を横に送る。

「・・・・・ナゼです?」

ティタニアはそっぽ向いたカズマに問う。トライアルも、そして木星付近に出没する海賊の鎮圧も始まってすらいないというのに急遽中止である。軍に入って経験が浅いとはいえ――いや浅いからこそ、ティタニアは疑問に思ったのだろう。

「・・・救助者のデータを送った途端、すぐだよ。その命令が届いたのは」

「データ・・・って、あの黒ずくめの人ですか?」

「ああ」と頷いてカズマは視線をユーゴへと向けた。そして、すでに空となった缶を握りつぶすと立ち上がった。

「・・・・ま、詳しい事はじきに説明されるだろうよ」

そう言いながらカズマは手を後ろでひらひらとさせながらラウンジを後にした。

◇◆◇◆◇



「・・・・ユリカ?」

アキトは最初、自分の目がまだ機能していなくただの妄想を映したのだ、と思った。なぜなら、今、自分の目に映っている少女があまりにも似ていたからだ。かつて愛した人―――ユリカに。

「・・・・ヨシノさんっ!」

その少女――セレネはしばしアキトを見つめていたが、すぐに我をとり戻したかのように、ヨシノがいる方へと振り向いた。それと同時にヨシノもアキトの呟きに気づいたようで、それに頷く。

「早いわね・・・・(・・・ナノマシン過剰投与の後遺症で回復能力が高いのかしら・・・)」

ヨシノはそんなことを思いながら、アキトに近づいていく。すでにアキトはベッドから上半身を持ち上げて、周囲を見回していた。

「おはよう、テンカワ・アキトさん・・・」

「俺の名を?」

微笑んでヨシノは言った。突然自分の名を呼ばれたアキトは少し驚いたような顔をする。そんな二人の様子を見てセレネが口を開いた。

「ふ〜ん、あなたアキト、って言うんだ」

セレネはアキトのいるベッドにどんっ、と座った。その衝撃でベッドが揺れる。それを見てヨシノはため息をついた。

「セレネちゃん、艦長に報告してきて。救助者が目覚めましたって」

「え〜、そんなのコミュニケ越しに言えば良いじゃないですか?」

「セ・レ・ネちゃん?」

微笑みながらもどこか暗いモノを感じさせるヨシノのその物言いに、セレネは言葉を発さずに、まるで人形のようにコクコクと頷いて、そしてすぐさま脱兎のごとく部屋を後にした。

閉まるドアの向こうにセレネを消えるのを見届けたヨシノはアキトの方へと振り向く。

「これでやっと落ち着いてあなたと話せるわね・・・・テンカワさん」

「・・・・ここは何処だ」

アキトは再び見えるようになった視力でヨシノの姿を捉えながら、かつ睨みつけるようにして口を開いた。

「――単刀直入に言うわよ。あなたはボソンジャンプによって2221年に飛ばされたの。そしてここは新地球連合軍第七独立任務部隊旗艦アフラ・マズダの医務室よ」

「何?」

アキトは一瞬彼女が何を言っているのか分からなかった。

◇◆◇◆◇



タクマは医務室に向けて歩いている。それは先ほどデータベースで得られなかった黒い機動兵器の情報を、それから出てきたパイロットから得るためであったが。

「とはいっても、まだ眠ったままだったら・・・・ん?」

腕を組みながら難しい顔をしていたタクマであったが、そんな時、前から歩いてくる意外な人を見つけた。それはセレネである。ほとんどがブリッジにいる筈の彼女がなぜここに?、などという疑問が頭に浮かび、とりあえず声を掛けてみる事にした。

「よっ、セレネちゃん。どうしたんだい、こんなところで?」

「タクマさん・・・・あなたこそどうして?」

逆に聞き返され、笑ってタクマは答える。

「いや、救出したパイロットに話を聞こうと思ってね。医務室に行こうとしたんだが」

その言葉を聞いてセレネは引き攣った顔で、その上乾いた笑い声を出した。

「ははは。やめといたほうがいいですよ。いま、ヨシノさんがその彼に色々質問してるみたいですから・・・」

「そ、そうだな、・・・・やめとくか」

一瞬迷ったタクマだったが、ヨシノの目が笑っていない極上の微笑みを思い出し、何か背筋に寒いものが走るのを感じながら、自分とって賢明だろうと思える答えを出した。ヨシノは普段は優しい医者なのだが、時間を無駄にするという行為が何よりも嫌いで、特に自分の仕事が他人のせいで進まないのが一番嫌いなのだという。その為、彼女が仕事や作業しているところに話し掛けられるものは、この艦で親友とも言える関係のミズキ、ある意味無頓着なカズマ、艦長であるオキタぐらいしかいないのだ。ちなみに、タクマは出向してきたばかりの頃、故意ではないが一度だけヨシノの邪魔をしたことがあり、その時彼は「・・・メデゥーサを見た」と一言だけと語っている(もちろんヨシノには内緒であるが)。

「・・・・そういえば、セレネちゃん。確かアクセスレベルAだったよね?」

「はい、まあイェユーカ担当のオペレーターですからね。本気出せばS級の情報を見られますよ、なんたってクラスAですから」

「なんちゃってね」とセレネは悪戯っぽく舌をだした。それにタクマは苦笑しながらも言う。

「そいつは頼もしいな。その力を見込んで一つ調べて欲しい事があるんだけど、いいかな?」

「なんです?」

どこか挑戦的な眼差しでセレネは聞く。

「あの黒い機動兵器のことなんだ・・・・調べてみてくれないか?」

「・・・・・いいですよ。・・・・お代はランチ三日分で」

「・・・・・・・しっかりしてるね」

にやりと笑うセレネを見ながら、タクマはやれやれとため息をついた。

「あ、もちろんデザートも付けて下さいね」

「・・・・・・ははは、ほんとにしっかりしてるね」

◇◆◇◆◇



ミズキは暗い部屋で――というよりライトを点けていないからなのだが、ただ静かにベッドに横たわっていた。すでにパイロットスーツから制服に着替え終えてはいるが、特にやることもなく、ただヒマを持て余している――という感じである。

「・・・・・・」

何の気なしに横へと転がる。そして視線の先には、ベッドの横にある台の上に置いてあるフォトスタンドが目に入った。そのフォトスタンドに収められている写真は部屋自体が暗いため、よくは見えないが、二人の子供の姿と、その後ろに大人が二人並んで立っているのが微かに見て取れた。

「・・・・・・・・・・ミオ」

まるで何かから逃げるように逆へと転がったミズキは、体を丸め込ませて、そして静かに、呟いた。

◇◆◇◆◇



「・・・・2221年だって!?」

ベッドの上のアキトは一瞬呆けたが、すぐに気を取り直す。そして目の前のヨシノに叫んだ。

「そうよ。太陽系標準歴にして2221年6月18日。そして現在は地球に向かっている」

アキトの叫びにも動じすに、ヨシノは冷静に言った。そして、壁に立てかけられているパイプ椅子を手にとり、座った。

「・・・・俺を捕まえる為か・・・?」

コロニー連続破壊の犯人として、とこれは内心で呟く。

「違うわ、保護したのよ。私たちはね」

アキトのさらに睨むような視線を真っ向から受けながらも、ヨシノは首を振った。

「保護?」

アキトの言葉に、ヨシノは「そうよ」と頷いて、

「確かにあなたは2201年のコロニー連続破壊事件の重要参考人として太陽系内で手配されている、20年近くたった今でもね。でもそれは『犯人』としてじゃない」

と言った。それを聞いてアキトは怪訝な顔をして口を開く。

「何故だ?あの時は確か、俺がコロニーを破壊した『大量殺人犯』として広まっていたはずだが?」

そう言ってアキトは口をつぐんだ。確かに、アキトはユリカを見つけるためにコロニーを一つ一つ潰していった筈である。関係のない民間人、コロニー警護のパイロットなどは極力巻き込まないようにしていたが、犠牲者はさすがにゼロではないはずだ。

「2207年、今から14年前、すべてが明らかになったのよ。コロニー破壊事件の真実、そして火星の後継者と呼ばれる集団が何を行ってきたか、ということをね」

「真実・・・・だと」

「ええ、あと統合軍の一部が火星の後継者と繋がっていた事。すべてが暴露されたの―――ナデシコクルーによってね」

「ナデシコクルー・・・・まさか」

アキトの脳裏に懐かしい顔が思い出される。

「あの蜥蜴戦争で最強といわれた戦艦ナデシコに駆り、そして休戦へと導いた・・・あなたも――いえ、あなたがもっとも良く知る人達」

「今も、生きて――」

いるんだな、とアキトは言葉を最後まで言えずに、だが、胸に喜びが溢れてきたのを確かに感じていた。

「もちろんよ。地球に帰れば、・・・会えるわ。(・・・・悲しいことあるけど、ね)」

ヨシノは誰から見ても、微笑んでいる顔をしながら俯むアキトを見ながらも、けして表には出さないが内心では悲しんでいた。それは、まだ彼に告げれなかったことに由来していた。

◇◆◇◆◇



艦長室。それは、その名の通り艦長のプライベートルームであるが、その主である人物はほとんどここを利用していない。何故なら、艦長であるオキタには、プライベートで入ってくる通信などもなきに等しかったし、それ以前にプライベートの時間自体が他の乗員に比べて少ない、などの理由からだった。しかし、今日は珍しく――というか本来ならばブリッジにいる時間でありながら、オキタは自室である人物と専用の通信回線で話をしていた。

『いやぁ〜、オキタくん。久しぶりだね。確か、去年の忘年会以来じゃないかい?』

オキタと話している男は、愉快そうに笑いながらそう言う。長い髪の、軽薄そうな顔をしたその男は、地球圏ではその名を知らない者はいない、と言われているほどの人物だった。

「ええ、そうですね。アカツキさん、ふふふ・・・さらに白髪が増えてきてますね」

オキタも笑みを浮かべながら答える。

『ははは、人の心の傷をえぐるようなジョークかますねぇ。・・・周りにはその性格を隠しているみたいだけど?』

アカツキ・ナガレ――地球圏最大規模を誇る巨大企業“ネルガル重工”の会長を務めるその人は、オキタのその言葉を聞いて愉快そうに笑う。

「・・・人にはイメージってのがありますから」

オキタは苦笑した。

『ナデシコクルーは全員知ってる事だけどね。・・・まあ挨拶はこれぐらいにしておいて、だ』

ここでアカツキの顔が笑顔から、『会長』としての真剣な顔つきになった。それを見て、オキタも普段の――艦長としての顔に変わる。

「ええ、さきほど送ったデータ、間違いないですよね」

『ああ、すでに君たちには地球帰還命令が出ているだろう』

「ええ、総司令からの直々でね。まあ、総司令は世間と一緒で『亡くなった』テンカワ・アキト寄りですからね。あなたが圧力かけなくてもこうなったとは思いますけど」

『僕もそう思ったが、念には念を入れなくてはね。統合軍にはまだ知られたくないし。それに未確認だが・・・・“ブルートヴァイン”が動いてるという情報も入ってきている』

そう言い終えたアカツキの顔がさらに険しくなった。

「ブルートヴァインが!?」

くっ、とオキタは歯をかみ締める。

『テンカワ君のことを探しているみたいじゃないようだけどね・・・それ以前にテンカワ君が見つかったこと自体知らないだろう。ならば、おそらく狙いはセレネ君だ』

一瞬だけぎらついた瞳をしたアカツキは、それを隠すように手を目元へと持っていく。そして、再び軽い感じで笑顔へと戻る。

「・・・・そうでしょうね」

それに頷くオキタ。

『とりあえずは様子見。・・・それとオキタ君。セレネ君にハッキングはもう少しバレないようにやれ、と言っておいてくれないかい?』

「は?」

『さっきからネルガル重工の兵器データベースがハックされてるんだ。君の艦からね。・・・・まあ、いいんだけどね。どうせ、クラスAマシンチャイルドには並の防壁は役に立たないし』

そう言い終えたアカツキは苦笑した。オキタは「またか」と額に手を当てて下を向いた。そして、顔を上げたオキタは疲れた様子でアカツキに言う。

「・・・・・はあ、言っておきますよ」

『そういえば・・・・ミズキ大尉にはどう話すつもりだい?、彼女は反テンカワ・アキトだろ?・・・まさか隠し通す気じゃ?』

そんな疲れた顔のオキタにアカツキは試すような感じの口を開いた。

「・・・・いつまでも隠し通せるとは思っていませんよ」

少し悲しげに、考え込みながらオキタは言う。

『・・・じゃ、どうするんだい?。彼女が知ったら、テンカワ君を殺すかもよ?』

「多分そうでしょうね。・・・ならあえて会わせますよ」

『何故だい?』

「・・・下手に会われて、そのまま殺人事件になるよりは、目の前の暴行だけで済ませたほうがマシってもんです」

そう呟くオキタはどこか自嘲気味だった。

「つらいね・・・君も」

そのアカツキの言葉はまぎれもなく本心だった。

◇◆◇◆◇



ブリッジにあるセレネのオペレーターシート。それを無数の情報ウィンドウがシートを球状に包み込んでいた。それはウィンドウボールと呼ばれるもので、その中で数々の操作をすることによって従来のものに比べ、より高度な情報処理が行えるというものである。

「・・・・・・」

そのウィンドウボールの中にセレネはいた。見開かれた双眸には周りにあるウィンドウが数多く映りこんでおり、そして両方の手の甲に付けられているIFSがきらきらと輝いていた。

このウィンドウボールであるが、先天的に遺伝子操作を受けたもの――過去ではホシノ・ルリやマキビ・ハリ(本来はラピス・ラズリもだが、非公式の為データが存在しない)などの、この時代で言うクラスAマシンチャイルドのみが使える高度な技術である。後天的に情報処理能力特化ナノマシンを打ち込むクラスB、Cなどのマシンチャイルドも使える事には使えるのだが、その情報量の多さをコントロールすることができず、現在のところ使えても、使いこなせないというのが現状である。

(・・・・ちょろいものよね)

セレネはにんまり笑いながらそんなことを思っているのだが、ハッキングという行為自体が実はネルガルにはバレバレで、むしろ『させてやっている』という事実を彼女はまだ知らない。というか、本来ウィンドウボールというのは、一個艦隊クラスとの戦闘中に使用されるものなのだが、セレネはそれほど厳しくないレベル(ネルガルなどの企業系列のデータベースなど)でもハッキングをかます度にこれを使用する。それは何故か?

(余裕、余裕)

――簡単である。彼女はハッキングがあまり得意ではないのだ。クラスAマシンチャイルドでありながら、ハッキングが得意でない・・・。しかし、そんな彼女をゾロアスターでは、誰も『役立たず』の烙印を押さないし、彼女自身も別に気にしていない。それは彼女がいつもほがらかに笑い、艦内を温かい何かで包み込んでいるような気がするからだ、とクルー達は言う。

「・・・・・セレネ中尉。・・・・もう終わったかね?」

セレネの後方で野太い声が聞こえてきた。

「あ・・・あともうちょっとですよ。あと、ここのコードを解除して・・・・こうすれば・・・」

セレネは後ろを見ずに(というか今はウィンドウボールの所為で見えないのだが)、余裕の口振りで答えた。もちろん顔は笑顔だ。

「ほう・・・・それは良かった」

「ええ、あと5秒、4・・3・・2・・1・・通信断線。ログ消去、と」

ふぅ、とセレネはウィンドウボールを消し、後ろへと振り返った。

「まあ、ちょろいもんで・・・す、よ?」

そこにいたのは艦長のオキタであった。思わず引き攣るセレネ。

「・・・・・ネルガルから伝言だ。“もう少しバレないようにやれ”だそうだ」

◇◆◇◆◇



「そうだっ!!、俺の他に・・・生存者はいなかったのか!」

ヨシノにアキトベッドから飛び出さんばかりの勢いでそう叫んだ。忘れていたわけではなかった、でもそれ以上に、自分に五感が戻ったことや、自分が未来に飛ばされていた事などの衝撃のほうが大きかったのだ。

「・・・・・」

ヨシノは顔に悲しみを浮かべて首を振った。

「いなかったわ。ナデシコB・・・そしてかつてあなたが駆っていたユーチャリスもね」

「・・・・・・・くそっ!、なんでいつもこうなんだっ!!」

「・・・・・・」

アキトは悔しそうに歯噛みしながら、両手をベッドへと叩きつける。それを、ただ静かに、ヨシノは見つめていた。

「なんで俺じゃないんだっ!?・・・・・・・・・・死ぬべき存在は俺の方なのに」

かすれるような声で拳を握り締めるアキト。その握り締めている拳からは血が滲んできていた。

「・・・・・・ちくしょう」

俯きながら呟くアキトに対して、ヨシノにできることは何もなかった。できるのは、ただ、見つめる事のみ――。





The 2nd chapter...end.

To be continued










<第二話を終えての後書き>


どうも、KOUYAです。

はははっ。ウィルス警報発令〜!!
・・・・・・・・投稿した2日後(ぐらい?)に連続できましたからね。謎の添付付きRe:のみメール。もちろん、即消去ですが。
大分沈静化しましたが・・・・・。

まあ、これは置いといて、と。

ふと思ったんですが、相転移エンジンっていくらぐらいするんでしょう?
やっぱり高いんだろうなぁ〜。それ以前にナデシコ世界の金の単位ってなんでしたっけ?
よければ、教えてください。

ではでは、KOUYAでした。


<はみだしメカ設定その二>


正式名称:
YIMAseries−code01
呼称:
スラオシャ(Sraosha)
動力機関:
ABF社製第五世代型小型相転移エンジン『月下美人』×1
ABF社製サイクルエンジン“疾風迅雷738DbisV”×3(大気圏内用動力)
アビオニクス:
ボイス応答タイプ総合支援AIコンピュータ『昂練電子東晋社製 龍欄LUN098“Ariel”』×4(その存在は関係者を除いて極秘となっている)
兵装:
アームスーパーレールガン×2
対空ハイマニューバミサイル[アルバレスト]×2×3基
ショルダーブレイカーキャノン×2(追加オプション)
リニアレールキャノン×1(追加オプション)
パーソナルカラー:
ダークグリーン
DATA:
YIMAシリーズ弐番機にして、可変システムを備えた機動兵器。高機動モード(ABF社が開発した戦闘機F/A−29『シュヴァイツァー』がモデルになった飛行形態。開発者の中では『ジブリール』と呼ばれている)に変形する事によって、バリュートなどのデバイス無しで単機での大気圏突入を可能とする。
宇宙/大気圏内で戦闘可能な汎用機動兵器だが、その変形時の機動力は宇宙空間よりも大気圏内において真価を発揮する。オプションパーツの一つである『ブースターパック』を装着する事によって、単機での大気圏脱出も可能。
可変システムを備えた為、火力、耐久力が弱まってしまったが、ミサイルジャマーなどの防御システムを搭載する事によって防御に関しての一応の処置はとられた。
火力に関してはブースターパックとは別のオプションパーツである“アームドパック”を装着することにより解決はしたかに見えたが、アームドパックを装着中は、本機最大の特徴である可変システムを阻害してしまうという弊害が生まれた。
このため、オプションパーツを任意で着脱するシステムにすることで解決している。
メインパイロットはカザミ・ユーゴ少尉。
――7年後の2228年。この発展・量産タイプである“スラオシャmk-V”が各独立任務部隊の正式機として運用されていく事になる。






代理人の感想

総司令・・・コウイチロウかな? 案外ジュンだったりして(笑)。

老けた女顔にカイゼルヒゲ生やしてたりすると・・・・いや、期待大ですね(爆)!