Ben様 作 『<時の流れに>』

The Another Edition 


T O K I N A D E  P L U S
〜All’s  fair  in  love  and  war〜



第一話 「三次創作」でいこう!


 




・・・・・・風が俺の頬を優しく撫でていた。
頭の後ろを柔らかい感触で包み込んでいるのは恐らくは草だろう。
何をバカな事を考えているんだろう、と俺は自嘲気味に思った。俺の触覚――いやそれどころか五感のすべてが奪われているというのに。

「・・・・・・?」

サワサワ、という草や葉が風に揺れている音が、どこからか聞こえてくる。それは紛れも無い、俺自身の聴覚を通してのものだった。
分けがわからない。何故『聴』こえる?、何故『感』じられる?。
そんなことを思いながらも、俺は今度は、嗅覚――いや鼻に草たちの青々とした香りが漂ってきたことを自覚した。
どうやら俺は仰向けに倒れているらしい。拳を握り締めると、その指先に草の感触がまじまじと感じられた。
――では、視覚は?
俺はそう思い、今までその機能を停止していた双眸を開いた。視覚補助用のバイザーがないことは分かっていた。

「星が・・・・・・・見える」

俺は、嬉しさも、驚きも含んでいない、淡々とした声で呟いていた。
夜空に煌々と白銀に輝く満月。
かつて、こうして夜空を眺めたとき、隣には二人の女性がいた。
一人は、俺が愛した女性。そして、もう一人は守りたいと思った女性。――俺の大事な家族だ。
その三人で眺めたんだ。お互いの幸福を祈りながら。
そんなことを思いながら、ぼーっとしていた俺はようやくこの異常事態に気づき、はっと上半身を勢い良く起こした。そしてすかさず周りの状況を確認する。

「・・・・って視覚が戻っている!?」

俺は半ば叫ぶような驚いた声で回りの風景を、俺自身の体を見回した。そして、両手を握り締める。

「感覚がある・・・・・・」

馬鹿な・・・・・・・・感覚が戻っている!?夢にしては余りにリアルすぎるだろっ!?
俺は呆然としていた。
どういうことだ?――何度、自問自答していたのだろうか。数多くの疑問が思い浮かぶが、それに対する満足の行く答えは浮かんでこない。
それに俺がいま身に付けている服が、黒い戦闘服ではなく、かつてコックを目指していた時に着ていた服装だった。そして、俺がなんとなく後ろに振り向くと、草むらに半ば沈みこむように置いてある、これまたかつて乗っていた自転車。それと調理器具が飛び出ている大きなザック。
そう、すべて俺が地球にいた時に――過去に俺が身に付けていたものだ。
ますます混乱の境地に立たされていた俺だったが、そんな時、脳裏に懐かしい少女の声が響いた。

(アキトっ!!!)

(ラピスかっ!!!)

(うん!!・・・・でも、私、昔いた研究所にいるの・・どうして?)

昔の研究所だとっ!!。まさか・・・・・やはり、か。
俺はある結論にたどり着いた。だが、まだ納得できないこともあった。

(アキト、私、なんか幼児化してるんだけど・・・6歳ぐらいに)

――決まりだな。ここは『過去』だ。まちがいないだろう。今のラピスの言葉が決定的だ。だが何故、こうして今もリンクが繋がっているんだ?
それが現時点での納得のいかない点だった。
もしや、身体的ではなく、精神的にも繋がっているということなのだろうか?。しかし、考えていても答えが出るわけでもないので、俺はひとまずその考えを打ち切った。

(どうやら、『過去』へとジャンプしたらしいな。ラピスの幼児化、俺自身の身体的変化、信じられんがそれが唯一納得のいく理由だからな)

(・・・・・やっぱり、そうなんだ)

どうやらラピスも同じ考えだったらしい。
それにしても、俺の心の願望にはまだ、幸せな過去へ戻りたい、というものがあったらしいな。
――もう一度、あの頃へ、か。
俺は微かに笑う。
その願いが叶うとはな。すべては白紙へと戻ったのか?――違うな。俺の身勝手な願望が、白紙に戻したんだ。
なら、同じことを、あのような悲劇を繰り返すわけにはいかないっ!!!
俺はそう強く思いを込めて決意すると、ラピスへと思いを繋げる。

(ラピス!!・・・・今の年月月日は分かるか?)

(え〜と・・・・・2196年――)

やはり、か。
ユリカと再会し、そしてナデシコAに乗る時。今から見れば、これがすべての始まりだったのかもしれないな。
俺は懐古の念に一瞬だけ捕らわれたが、すぐにそれを振り払う。前回のように、過去の二の舞を演じてたまるか、と強い思いを滾らせて。

(ラピス。必ず、北辰より早く助け出す。だから、これから頼む事を地球でやってくれないか?)

(・・・・・うん、分かった。私は信じるよ)

(・・・・ありがとう。ラピスには世話ばかりかけているな)

――そして俺はラピスに、とある計画を託した。この計画は、この先どうしても必要だった。
そして、何時間が経ったのだろうか。すべての計画を話し終えたときには、頭上で煌々と夜空を照らしていた月が、地上に沈みかけている。

(――以上だ。俺はこれからナデシコAに向かう)

(うん・・・・・ねぇ、アキト?)

(なんだ?)

(何時でも話し掛けていいよね?)

ラピスの問いに、俺はなるべく安心させるような優しい思いを込めて、

(もちろんだ)

と返した。
・・・・・寂しいんだろうな、ラピス。済まんな、謝っても済む問題じゃないだろうが。俺は傍に付いてやれる事は、今はできない。
話し相手としてしか、お前と接する事はできないんだ。
俺はそんな思いを胸に秘めながら、ユリカとの再会の地へと向かった。。

(じゃあ、行ってくる)

(うん。頑張ってね)






俺はネルガルサセボドックへと続いている道を自転車で走りつづけていた。
もうそろそろ夜が明けるという時間帯なので、道路沿いにある店、民家などは大半がその生活の灯を消し、眠りに付いている。

(そろそろ、か)

俺は背後から聞こえてくる車の音を耳にして、そう思った。
その黒塗りの車は俺の隣を猛スピードで駆けていき、そして、記憶どおりに、半ば開きかけたトランクから、ぎゅうぎゅうに詰め込んでいた荷物が、俺に向かって弾丸の如く突っ込んでくる。
その荷物――スーツケースを俺は冷静に自転車を止めて、余裕で受け止めた。
その直後、黒塗りの車が急ブレーキをかけて、止まった。そして、その中から一人の女性が済まなそうな顔をしながら走り寄ってきた。

「すいません!すいません!!・・・・・あの、怪我とかはありませんでしたか?」

一瞬、何もかもが止まったような感覚を覚えた。・・・・そして、直後。俺の心の中から、目の前の女性――ユリカの姿が思い浮かぶ。
俺が逢いたくて、逢いたくて。すべてを捨ててまで取り戻そうとした女性。俺の愛する人。

「ああ、・・・これ、君のかな?」

俺は震える声を隠しつつ、平静を装って、両手で持っているスーツケースを渡す。
俺の両手は震えそうだったが、俺の意志はそれをどうにか防いでいる。なにごともなく、スーツケースを手渡す事ができた。

「・・・・・あの、ぶしつけな質問で申し訳ないんですけど、どこかでお会いした事ってありませんか?」

しばし、俺の顔を見つめていたユリカだったが、ふと思いついたように口を開く。

「気のせいでしょう・・・・」

俺はその視線に耐えることができずに、視線を横にずらした。
そのまま、俺は横に向いたままで返事を返していた。

「そうですか?」

「・・・・・・ユリカ〜、早くしないと。もう遅刻ギリギリなんだからさっ!!!」

車の横でジュンが叫んでいた。・・・・気苦労が耐えないな、ジュン。

「解ったよ!!ジュン君。・・・・では、御協力感謝します」

そう言い残して、ユリカとジュンは去っていった。
その去っていく車を目で追いながら、俺は、さっきユリカを抱きしめようとする衝動が表れたことを思い出した。
やがて、その車の姿すら見えなくなった時、俺は俯きながら低い、自嘲気味な笑い声を微かに上げた。

「・・・・・ははは。『忘れた』などと口で言っても、身体はユリカを求めてる、か」

どれほどそうしていたのだろうか。俺は、ユリカを不幸にしないためにも、すべてに終わりを告げる為にも、決意を新たにし、ナデシコへと向かった。






「はてさて。あなたはどこでウチの艦長とお知りあいになられたのですかな?」

通された暗い部屋で、俺はパイプ椅子に座りながら、斜め後ろに立つプロスさんに問われていた。
結局のところ、俺はサセボドックに着いた良いものの、中に入ることはできなかった。前回と同じように。なので、詰め所にいた見張りの人に半ば無理矢理に頼み込み、プロスさんとの交渉の場を作ったのだ。

(とはいえ、向こうはプロのネゴシエーター。さて、どうする?)

そんなことを考えていた俺だったが、だいたいの展開が前回と同じだったため、俺も前回と同じセリフでこの場を切り抜けることにした。

「実はユリカとは幼馴染なんです。聞きたいことがあって、ここまで来ました」

時間を超えてまで追いかける男か。思わず、苦笑してしまうな。
俺は自分自身に呆れつつもそれは表に出すことなく、真摯な光を込めた瞳を、俺の顔を覗き込むようにするプロスさんへと向けた。

「ふむ。ではちょっと身元を照会させてもらいましょうか・・・・・」

そう言って、プロスさんは何処からとも無くハンドタイプコンピュータ出した。それを左手に持ち、そこから伸びている鉛筆のような右手に持つと、再び口を開く。

「では、舌を出してください。こういうふうに・・・・・んべぇ〜〜〜」

・・・・・・そんな舌をびろんと伸ばしたプロスさんを見て、俺は呆然としたが、すぐに我を取り戻しそれにならって舌を出す。

「はあ・・・・んべぇ〜〜〜」

俺の出した舌に、プロスさんは右手に持つ鉛筆のようなもので刺した。

「つっ!」

電流が走ったような痛みに思わず顔をしかめる俺。しかし、プロスさんはそんなことはお構い無しという風に、その鉛筆のようなものを本体であるハンドタイプコンピュータに近づけた。

「あなたのお名前なんてぇ〜の・・・・ってこれは、全滅したはずの火星からの出身ですか。・・・・・どうやって地球に?」

プロスさんにしてみれば驚愕すべき事実だろう。しかし、そんなことはおくびにもださずに俺に向かって淡々と語りかけてきた。
俺を品定めするような目で見るプロスさんに、俺は心の中で苦笑いをしつつ、答える。

「覚えてないんです。気づいたら、何時の間にか地球にいました」

プロスさんが俺の話を信じたかどうかはわからない。でも、俺はどうしてもナデシコに乗らなくてはならないんだ!

「・・・・・・おや?、あなたはコックさんですか?」

黙り込んだ俺を見ていたプロスさんだったが、俺の足元に置いてあるザックを見て呟く。
ザックには飛び出た調理器具――おたまと、紐で括りつけられているフライパンがあった。

「はい。今のところ見習いですけどね・・・・」

苦笑する俺。
そんな俺を見て、プロスさんはしばし考え込んでいたようだったが、ある案が思いついたのか、すたすたと歩いて俺の目の前に立った。
俺は椅子に座っている為、そんなプロスさんの姿を見上げる形になる。

「あいにくとユリカさんは重要人物でしてね・・・・部外者においそれと簡単に会わせる訳にはいかないのですよ。しかしネルガル社員とならば話は別です」

そこまで言ってプロスさんは右人差し指をピンと立たせた。

「実は今、わが社はあるプロジェクトを進めているのですが、コックが不足しておりまして・・・・。そこでテンカワさん、あなた今無職ですよね?」

ぐぐっと詰め寄るプロスさん。
いきなりドアップになったその顔に俺は冷や汗をたらりと流しつつ、少し身を引く。

「どうです。この際ですから我が社に就職しませんか?・・・・住むところもありますし、給料もいいですよ」

住むところってナデシコのことか?。
プロスさんは俺が火星の生き残りということもあって誘っているんだろう。
それにしてもナデシコのことを一言も口にせず事を進めるとは、・・・・・さすがだな。

「こちらも無職で途方にくれていたところなんですよ。願ってもないことです」

「・・・・・それは良かった。では、この契約書にサインを」

プロスさんが何時の間にやらハンドタイプコンピュータを懐に仕舞い、代わりにペンと一枚の書類を俺に渡す。
そして、渡し終わるとこれまた懐から取り出した謎のソロバンらしき電卓(後に『宇宙ソロバン』と判明)を取り出し、なにやらピポパと打ち込んでいる。

「あ、給料はこれぐらいで・・・・・もちろん、夏・冬ボーナスもでますからね」

「・・・・・それって手取りですか?」

謎のソロバンに映っている数字を見た後、俺はプロスさんの顔を見て、言った。
まあ、それはともかく。こうして俺は再びナデシコに乗ることになった。






俺はプロスさんに案内されて自転車を引きながら、艦内を案内されていた。
とりあえず、俺の部屋がまだ決まっていないため、荷物などを置くこともできずに、こうしてザックを背負い、自転車を引いているわけだ。
ちなみに今、俺は通路を歩いている。これからブリッジに案内してくれるらしい。
だいたいの艦内の各ブロックの配置はおぼろげに覚えてはいる。が、何も知らない『筈』の俺がすたすたと歩いていってはまずいだろう。
そんな時だった。

「こんにちは、プロスさん・・・・」

あまりに聞き慣れた声がした。

「これはこれは・・・・ルリさん。どうしてこんなところに?」

プロスさんが答えを返すのを聞きながら、俺は目の前の少女をただただ見つめていた。
――ホシノ・ルリ。それが、目の前の少女の名だ。
俺とユリカが引き取った少女。過去において仲間であり、そして家族でもあった少女。
そういえば、あの事故に巻き込まれた彼女と、そしてそのクルー達はどうなったのだろうか?
――やはり死んでしまったのだろうか。
そう思うと、俺は、やるせない気持ちで一杯になった。

「こちらは、誰ですか?」

ルリちゃんはプロスさんの質問を無視し、というかプロスさんの方を見ずに俺に視線を合わせていた。
しかし、その表情(かお)はなんだ?。なんで、そんな、懐かしい者をみたような表情(かお)をしている?

「ああ、この方は先ほど我がネルガル社に就職した――」

プロスさんの説明がどこか遠いところで行われているような錯覚を覚えながら、俺は一つの疑問が浮かんできた。
何故、ルリちゃんがここにいる?、というものだ。
なぜなら彼女の役職はオペレーターだ。ならばブリッジにいなくてはならないだろう。自由時間とならば話は別だが、もうそろそろ出航の筈だしな。

「ええ、知っています。・・・・・こんにちは、アキトさん」

プロスさんの言葉を遮って、ルリちゃんはそう言った。

(――何っ!?)

俺はルリちゃんから放たれた驚愕の一言に思わず、目を見開く。

「おや・・・・?ルリさんはテンカワさんをご存知のようですな・・・・・・」

「ええ」

意外そうなプロスさんの顔に、ルリちゃんは笑顔を浮かべて答えた。
俺は呆然としたまま立ち尽くしていた。
馬鹿な・・・・俺とルリちゃんが知り合いだとっ!?。ルリちゃんが俺の事をそう呼ぶのは、家族として暮らして始めてからだ!
そして、俺はあることに気がついた。
あの事故、ランダムジャンプでジャンパー体質の俺やラピスが、過去へと来てしまったのだとしたら――。

「ま、まさか・・・・ルリちゃん?」

俺は確認する意味も込めて、かすれるような声で囁く。

「ええ、そうですよ。・・・・アキトさん」

微笑を湛えてルリちゃんが頷いた。
間違いない、ルリちゃんも俺達と同じように――いや、俺達のジャンプに巻き込まれて過去へと飛ばされたのか・・・・。

「どうやらほんとにお知り合いのようですな、・・・私は邪魔者みたいなので去りますか。では、ルリさん、テンカワさんの艦内の案内、よろしくお願いしますよ」

今まで蚊帳の外にいたプロスさんが呟く。

「はい」

笑顔で頷くルリちゃん。

「じゃ、お願いしますね。・・・そうそう、テンカワさん。これを渡しておきます。」

渡されたのは腕時計タイプのコミュニケだった。
そうか、そういえばまだ支給されてなかったよな。

「部屋割りはあとでお教えしますので、では。・・・・それにしてもルリさんはあんなに明るい方でしたっけ?」

「分かりました」

俺も頷いた、・・・・・・でもやっぱりガイと同部屋になるんだろうか?
俺は頭を捻りながら去っていくプロスさんの後姿を眺めながら、そんなことを思っていた。

「案内、しますか?・・・・アキトさん?」

そう悪戯っぽく笑って俺を見上げていたのはルリちゃんだった。・・・・この頃のルリちゃんだったら絶対にできない表情だ。
そんな顔を見ながら、俺はルリちゃんの問いに苦笑しながら答えた。

「必要ないのは解ってるんだろ?・・・・・それにしても驚いたよ、ルリちゃん。まさかルリちゃんまで過去へと戻ってるなんてね」

そして互いの視線が絡み合った。
かつて守りたいと願い、そして、すでに会うことは無いと思った人。
俺はそんなことを考えながら、ルリちゃんを見ていた。

「私も驚きました。あの後、気がついたらナデシコのオペレーターシートに座ってるんですからね」

詳しく話を聞いたところ、どうやら『今』のルリちゃんは一週間前に『飛んだ』らしい。
ナデシコのオペレーターということもあり、他の乗組員よりも早く乗り込んでいた彼女は、ずっと待っていたそうだ、俺を。
一縷の望みを胸に秘めて。

「もう一度、乗るつもりかい・・・・ナデシコに?」

俺の問いにルリちゃんはためらいもせずにはっきりと頷いた。

「ええ、ここはアキトさんやユリカさん、それにたくさんの仲間が集った大切な場所です。それにみんなと出会った、――いえ、これから出会うはずの場所です。だからこそ、アキトさんなら必ず来ると信じていました」

そうして再びルリちゃんは微笑んだ。
信じていた、か。
今度こそ俺はその笑顔を守る事ができるのだろうか?
――いや、守らなくてはいけないんだ!!
俺はルリちゃんの笑顔を見て、心の奥底でそう誓った。

「そういえば、アキトさん。そろそろ、格納庫に向かったほうがいいですよ」

笑顔のままでそう呟くルリちゃん。そっか、そういえばそうだったな。

「そうだな、まだガイには会ってないしな。・・・・ちょっと行ってくるよ」

そう、この後無人兵器による攻撃が始まるのだ。
俺はルリちゃんにさっと手を振ると自転車を引いて後ろへと向いた。・・・・確か、格納庫はこっちだったはず。

「・・・・・アキトさん、頑張って下さい。それと――」

「それと・・・・?、なんだい?」

「格納庫はこっちです」

ルリちゃんが指した方向は、俺の向かおうとしていた方とはまったくの逆だった。

「ははははは・・・・・ありがと、ルリちゃん」

何故かルリちゃんの視線が痛かった。






『くぅぅっ!!!最高だぜぇ!!!・・・レッツゴー!!!ゲキガンガーっ!!!!!』

そんな聞き慣れた声が格納庫に響き渡っていた。
俺は格納庫のタラップの上でピンク色のエステバリスがなにやら踊っているような動きをしているのを見ていた。

(相変わらず・・・・ってそりゃそうか。過去だもんな)

そんなことを思っている俺をよそに、そのエステバリスの足元で、一人の中年男性がハンドマイクを口元に当てて叫んでいた。

「勝手に動かすなーっ!!そいつはまだ調整がすんでねぇ〜だよっ!!!それにそいつはゲキガンガーじゃなくてエステバリスだっ!!!」

(あ、ウリバタケさん)

俺はその男性を見て、思った。
これから相変わらずのマッド振りを遺憾なく発揮するんだろうな。あの人、まさに馬鹿となんとかは紙一重、っていうのを地でいってるような人だからな。いや、馬鹿じゃ失礼か『マッド』に変えたほうがいいかな?
そんなことを思っていると、エステバリスがウリバタケさんに向かい直って、頭を掻きながらへコヘコとしているのが目に入った。

「たく、なんでパイロットがいるんだよ?、合流はまだ先だろうが」

『いえね・・・本物のロボットを動かせると聞いてね。こりゃもういくしかないって感じで来ちまいやした』

「はぁ〜〜〜〜、とりあえず早く降りろ」

思い切りうなだれ、ため息をついたウリバタケさん。

「てめぇが暴れてちゃこちとら仕事が進まねぇーんだよ!!」

そしてウリバタケさんは顔を上げ、目を吊り上げた形相で叫んだ。が、そんなウリバタケさんを横目にエステバリスがぐぐっと背筋を伸ばした。

『ふふふっ。ならば最後にお見せしよう!!!このガイの超ウルトラスーパーグレイトな必殺技を!!!』

その言葉を聞いて、ウリバタケさんと整備員一同がその目をエステバリスに向ける。

「何だ!何だ!!何をする気だよ!!!おい!!!!!」

『人呼んでぇ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!』

「お、おい!!やめろ、そのエステバリスはまだバランサーの調整が・・・・・」

ウリバタケさんの目の前でエステバリスが両手を伸ばし、片足立ちする。・・・・あれじゃ、バランス崩すぞ。
その光景を目にしていたウリバタケさんは顔を青くして、周りに叫ぶ。

「逃げろーーっ!!コケるぞーーー!!!」

『ガァァ〜〜イ・スゥ〜〜パァ〜〜〜・・・・・ナッパァァァァ〜〜〜〜ッ!!!!』

そう叫ぶと、エステバリスは見事な片足立ちでアッパーを決めたポーズをとると、数秒後、轟音と共に見事なまでに背中からぶっ倒れた。
俺は、その一部始終を見ていて苦笑いを浮かべた。

(あ〜あ、完璧にコケたよ)

「よ〜し!!・・・・あいつをエステから引き離すぞっ!!!野郎ども!!準備はいいかぁ〜〜!!」

ウリバタケさんが後ろにぞろぞろといる整備員達に向かって、大きく右手を掲げて叫ぶ。

「「「「「おーっ!!!!」」」」」

整備員達もそれにつられるように右手を大きく掲げて、エステへと向かっていくウリバタケさんの後を追いかけていく。
・・・・・ははは、息ぴったりじゃん。
その時ぶっ倒れたエステのコクピットハッチが開き、一人の男が姿を現した。その男は掛け声を共に、大きくジャンプし、床へと着地する。

「とおりゃー!!・・・・ふふふ、はははははははっ!!!!凄えよなっ!ロボットだぜっ!!手があって、足があって・・・・しかも思い通りに動くっ!!マジ凄すぎって感じっ!!」

(ガイだ・・・・・)

俺は旧友のあまりに暑苦しさに、懐かしさを感じた。
・・・・・そうだ、こんな奴だったな。

「・・・・お前が付けてるIFS。それさえありゃ動かすだけなら誰でも出来るんだよ」

ウリバタケさんはすでに呆れ果てているようだ。気持ちは分かるけどな。
今、思うとガイってナデシコ内でもかなり濃いキャラだった気がするし・・・・・。

「ふっ・・・・。俺はガイ、ダイゴウジ・ガイ。まっ、ガイって呼んでくれ」

「あれ?そんな奴いたっけ?」

立たせた右親指で自分を指し示したガイを見て、ウリバタケさんは、先ほどプロスさんが使っていたものと同型のハンドタイプコンピュータを取り出し、なにやら操作を始めた。

「あれ?おたくの名前『ヤマダ・ジロウ』ってなってるけど?」

「・・・・ふっ。・・・それは世を忍ぶ仮の名前。しかしダイゴウジ・ガイは真実の名前!!魂の名前なのだァ〜〜〜!!!!来るなら来いっ!!木星トカゲめっ!!このガイ様が・・・・ぐあっ!!」

(あっ・・・・)

俺はふと気づいた。・・・・ガイの右足が、あらぬ方向に向いている事を。

「どうした?」

「いやね・・・・なぁ〜んか、右足が痛かったりするんだな、これが・・・」

青ざめるガイと、それを見てガイの右足を診るウリバタケさん。

「コレ・・・折れてるよ。・・・・お〜い、だれか担架持ってきてくれぇ〜」

「にゃ、にゃにーっ!?」

ガイの声が格納庫すべてに響き渡った。
・・・・・・・数分後。
担架で運ばれるガイを見つつ、俺はそろそろ行くか、と思い、下に降りようとした時、担架の上でもがくガイに声をかけられた。

「お〜い!!そこの少年!!!俺のゲキガンガーの中に大事なものが置いてあるんだっ!!それを取ってきてくれないか?」

「え?俺?」

思わず自分の顔を指さす俺。

「頼むぅ〜・・・・・・」

そう言ってガイは運ばれていった。俺はそんなガイに向かって苦笑すると、改めて下に降りようと振り返った。






「懐かしいな」

俺はさきほどまでぶっ倒れていたエステバリスの前で一人呟いていた。立っているところを見ると、誰かが立たせたんだろう。ご苦労さまです。
前回と同じように、そろそろバッタ達の襲撃があるはずだな。
周りには、さきほどのガイの大暴れのせいかあまり人がいない。なので、エステバリスのコクピットに入ろうとしても、咎められることはなかった。

「さて、と。・・・・・これか」

エステバリスのコクピット内に入り込んだ俺は、ゲキガンガーの人形を見つけて、手に取った。
これって、いくらぐらいするんだ?・・・・・木連の奴らなら高く買いそうだよな。プレミアとかついたりして。う〜む、結構良い商売になるかもしれん。
そんなことを思っていたとき、不意に格納庫内に警報が鳴り響いた。

「来たな」

俺はそう呟いて、コクピットのシートに座った。そして、横にゲキガン人形置いてハッチを閉める。
一瞬目を閉じていた俺だったが、すぐに双眸を開き、エステバリスを起動させた。真っ暗だったコクピットに灯がともり、目の前のモニターに格納庫が映りこむ。
そして、外に通じている資材運搬用エレベーターにまで行こうとしたとき、目の前にウィンドウが開いた。
映っていたのはルリちゃんだった。

「そっちはどう?」

『今ちょうどマスターキーが届いて、差し込んだところです』

「分かった。・・・・・・今から地上に行く」

俺はルリちゃんの言葉に頷いて、エステを操作し、地上に繋がるエレベーターへと向かう。

『今さら、バッタやジョロ如きにアキトさんが負けるとは思いませんが・・・気を付けてくださいね』

「ああ、・・・・まだ先は長いからね」

そう言って俺は通信を切った。
そして、俺は地上へと繋がるエレベーターに上にエステバリスを載せた。軽い振動と共に、エレベーターが動き出す。

「じゃ、行こうか」

俺は自分自身に言い聞かせるように、小声で呟いた。






「・・・・・テンカワ・アキト、コックです」

昔どおりの言い訳だ。俺の目の前のコミュニケウィンドウには、ナデシコのブリッジが映し出されている。
その向こうで、右足をギプスで固定されているガイは俺に向かって叫ぶ。
骨が折れてるというのに元気な奴だ。

『なんで俺のゲキガンガーにコックが乗ってるんだっ!!』

俺のほかにいないからだよ。IFS持っててエステ動かせる奴が。

『もしも〜し、危ないから降りたほうがいいですよ?』

そう言うわけにはいかないんだよ、メグミちゃん。

『君、操縦の経験はあるのかね?』

はい。ゴートさん、嫌になるほどにね。

『参りましたな。コックに危険手当てはないのですが・・・・』

危険手当てなんて・・・・・・・・・・・・・・・・少しは惜しいが、別に無くても構いませんよ。
俺はそんなことを内心思いながら、この面々と再び会えたことの懐かしさで、思わず笑みがこぼれそうだった。
しかし、戦闘前だというのに笑みはまずいからな。それをどうにか内に押し込める。
そして・・・・・。

『あー!!アキト!!!アキトなんでしょうっ!!!!』

ユリカ。

「・・・・ああ、そうだよ。久しぶりだな」

『ほんとうにアキトなんだねっ!・・・・それよりそんなところにいると戦闘に巻き込まれちゃうんじゃない?』

ガクッ。
俺はこけた。
・・・・・こ、こいつは。俺がどうしてここにいると思ってんだ。前回は、こちらの話をまったく聞かずに、囮役をほぼ強制的に任命したくせに。
少しムッとした、が、俺はそんなことをおくびにも出さずに言う。

「・・・・・囮役、必要なんだろ。IFSを持ってるし、それぐらい引き受けてやるよ」

『ほんとう〜?うん分かったよアキトっ!!私はアキトを信じる!!やっぱりアキトは私の王子様だねっ!!!!』

満面の笑顔を見せるユリカ。
君は知る由もないだろう。俺の手が、見えない鮮血に染まりきっているということを。
君は知らないだろう。その笑顔が俺を苦しめるということを。
君の存在は、今の俺には眩しすぎる。そして、過去を思い出させる。
俺は自虐的な笑みを内心で浮かべ、ユリカの顔から目をそむけた。
そして、思う。俺は・・・・・・

(今度こそ、君を、ユリカを・・・・)

『絶対戻ってきてね!!怪我なんかしたらプンプーンだからね!!』

『ああ』

俺は思考を打ち切り、ユリカに頷いた。そして――。

『エレベーターレベル5通過・・・・・・・・・ゲート開きます。テンカワ機、地上に出ます』

『作戦は10分間。とにかく敵を引き付けてくれ。・・・健闘を祈る』

「了解」

ルリちゃんの声の後にゴートさんが続く。そに答えると俺はコミュニケを切り、目の前のモニターに思考を集中させる。
・・・・・・・・囲まれていた。
だが・・・・・。

「その程度の数じゃ・・・・だめだな」

俺は無人兵器の群れを見て、呟いた。






俺は目の前のジョロをジャンプで飛び越えた。そして、すかさずローラーダッシュで距離を置く。
俺の後を追いかけて、ジョロが迫る。

「殲滅のほうが楽なんだが・・・・、ここは実力隠しておくか」

俺が呟いていた時、俺の周囲をミサイルが降り注ぐ。・・・・・バッタか!

「狙いが甘いんだよ!!」

俺はそのミサイル群を左右にひらりひらりと回避し、そして振り返り様に、背後にいたジョロにパンチを放つ。距離はあるがワイヤードフィストの射程範囲内だ。その有線式ロケットパンチもといワイヤードフィストは見事にジョロにぶち当たる。
そのジョロをひっつかみ、俺はワイヤードフィストを戻すと、さらに空中からバッタ達から放たれていたミサイルの雨に、そのジョロを投げ込んだ。
見事にそのジョロにミサイルが着弾し、大きな爆発音と共に空中に見事な火の玉を作り出す。さらに残りのミサイルが、その火の玉になだれ込み、俺の予想通りにすべてが誘爆した。

「・・・・やり過ぎかな?」

俺はそんなこと思いつつ、ローラーダッシュを唸らせナデシコとの交差ポイントを目指す。
背後にいたジョロ達はバッタたちと文字通り合体した。さきほどのことで地上からの攻撃は無駄だと悟ったんだろう。
そしてさらにバッタから放たれるミサイルを俺はダッシュしたりしなかったりの緩急や、左右への横移動を駆使し駆け抜けた。

そして――。

結局、俺は実力の10パーセントほど使った。
浮上してきたナデシコの上で、グラビティブラストの黒い稲妻に飲み込まれて、爆発四散していったバッタやジョロを見ながら俺は思った。

(・・・・歴史を変えられるかどうかは分からない。でも、俺は――)

拳を握り締める。

(――他人に罵られようと、誰がなんと言おうと、俺は絶対にあんな未来は認めない!!)

自分勝手な思いだって事は分かってる。歴史を変えてはまずいとも分かってる。
でも、俺は変えたい。だれもが、死なずに済む未来に――。











次回予告


ハンマー一発!!ワニワニパニック!!(古っ!!)

素晴らしい原作に迫る新たな展開を模索する作者の魔の手!!!

何故、三次創作してしまうのか。

同じような展開に悔しさを覚えつつも、それを変えるネタが思いつかない作者っ!!!

そして、運命のAction投稿!!

行き詰まる作者の苦悩の連続!!

そして、<時ナデ>の新たな分岐が始まる・・・・・かも。

次回っ!TOKINADE PLUS、第二話。

「『悔しさ』いっぱい梅干すっぱい」

をみんなで読もう!!!

(注:この予告とあくまで作者の実情であり、実際のお話はまったく違うものです、ちなみに原作とは<時の流れに>のことです)









代理人の感想

ん〜?

時の流れにの丸写しと言うわけではないですが・・・・・と思ったら。

以下次回。

 

 

・・・ところでこのページのタイトルは一体(笑)。