機動戦艦ナデシコ

 

〜ILLEGAL REQUEST〜

 

 

 

 

 

 

第5話      「航海日誌」はいずこへ?

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ・・・・・・・」

 

ピンク色の可憐な唇から溜息が一つ・・・・。

 

「大丈夫かなぁ・・・・・?」
街に出れば男なら振り返らずにはいられないだろう。それだけの容姿をその少女は有している。

 

「トウヤのバカ・・・・」

 

気だるそうにモニターの前に座る少女。カスミである。

 

カスミはちょっと特殊な状況に置かれている。
自称古代火星人の精神体であるシズク(トウヤ命名)との身体の共有。
簡単な話が解離性同一障害、平たく言うと多重人格の症状を起している。
尤も記憶も共有しているので何をしていたか覚えていないというお約束な状況は起きてはいなかった
が・・・・。それが原因かここ最近細かに体調がおかしい。

 

「こんな時くらい傍にいてくれたって・・・・」

 

カスミは自身の体調の異常に気付いていた。
だからこそ不安である。
未だ誰も経験した事もないのでどんな症状が起きているか皆目見当もつかなかった。
だからトウヤに傍にいて欲しかった。彼といると、不安を感じなかった。
例え死が間近に迫っていたとしても・・・・・。

 

「どうかしたの?」

 

「アヤナさん・・・」

 

「カスミさん?貴方、顔色が・・・・」

 

「そんなに悪いですか?」

 

「ええ、真っ青だわ」

 

「そうですか・・・。じゃあ少し休憩します」

 

「その方が良いわね。そっちの仕事はこちらでやっておくからゆっくり休みなさいね?」

 

「ありがとうございます。それじゃあ休みます・・・・」

 

 

研究室から自室へと帰る途中に猛烈な吐き気に襲われ、慌てて化粧室に駆け込む。

 

「うっ・・・・。どうしたの?私・・・・。怖いよ・・・・。怖いよ、トウヤぁ・・・・」

 

青い瞳から止めど無く涙が零れ落ちる・・・。
その涙を拭うことの出来る人物は遥か遠く、火星を目指している。
化粧室には小さな嗚咽と、水の流れる音が、長い間支配していた・・・・・・・・・。 

 

 

 

「ん?」

 

俺は振り返る。食堂に向かう通路で・・・・。

 

「・・・・・・。気のせいかな?」

 

今、誰かに呼ばれたような気がしたんだけど・・・・。
上を見て、左右確認して、もう一度前を見て、念の為足元も見る。
やはり誰もいなかった。

 

「随分か細い声だったような・・・・・」

 

気のせいにしたくなるくらいに。でも、振りほどけない儚さを感じた気がした。

 

「誰が俺を呼んでるんだ?」

 

もう確信している。そうやって俺はこの運命に足を踏み入れたのだから・・・・。

 

「・・・・・・・カスミ?」

 

俺を呼んだ人物は他に思い浮かばなかった・・・・。

 

「な、なんだこの臭いは・・・・」

 

厨房に来た俺を襲ったのは異臭だった。

 

「この臭い如何したんですか?」

 

ホウメイさんはどこか呆れたような、諦めたような視線でこちらを見ている。

 

「いや、ちょっとね・・・。一途なのは良いんだけどね〜」

 

「それじゃ分かりませんよ・・・・・・」

 

言っている事がよくわからなかった。

 

「クサナギさん?」

 

「アマノさん?君も食事かい?」

 

「はい。リョーコとイズミも一緒です」

 

「おいヒカル、こいつ誰だ?」

 

ショートカットで気の強そうな女の子がこちらにちらりと視線を向けていた。

 

「俺はクサナギ・トウヤ。サブメカニックチーフ」

 

「オレは・・・・。」

 

「知ってる。君がスバルさん。そっちがマキさん」

 

「そ、そうか。よろしくな」

 

「・・・・よろしく・・・・」

 

「ああ、よろしく。それで何か用かい?」

 

「あ、はい。お食事一緒にどうかと思って・・・・」

 

誘ってくれてるのかな?まあ断る理由も無いけど・・・。

 

「いいよ。エステの整備についてリクエストも聞きたいし・・・」

 

注文していた火星丼を受け取り、席につく。

 

「それで?」

 

「それでって?」

 

「だからリクエスト・・」

 

それを聞くために一緒にいるんだけど・・・・。
話を聞くとスバルさんは接近戦、アマノさんは中距離、マキさんは中距離から遠距離がお好みだそうだ。

 

「ところで〜」

 

アマノさんの眼鏡が一瞬怪しく光ったような・・・・。

 

「何?」

 

俺としては某アニメの少女のように極力冷たく返した。
嫌な予感がしたからそれでその質問を引っ込めてくれるのが俺的ベストな結果だ。

 

「彼女、いるんですか?」

 

無駄だった。
まあ良い若い者が隔離された空間にいるんだから、決まって娯楽は色恋沙汰になるんだろうが
俺はその渦の中に巻き込まれたく無かったよ・・・・・。

 

「いるような、いないような・・・」

 

いるといったら間違いなく整備班の連中に吊るされるだろう、格納庫に。独り身の奴が多いし。
いないといったら?
どこかのラブコメのような展開になるとは思えなかったが、俺に近づきすぎると俺の秘密がばれる
可能性がある。

 

「「「どっち?」」」

 

3人の同時攻撃。そこまで知りたいかね?

 

「とりあえずもう少し仲良くなったら教えるよ・・・」

 

そう曖昧に誤魔化した。誤魔化されたのかどうか分からんけど・・・。

 

「リョーコはいいよね〜」

 

「「テンカワがいるから〜」」

 

「バ、バカ!アイツはかんけーねーだろ?」

 

「どうかしら?リョーコちゃんテンカワ君を見つめる目が違う事に気付いてる?」

 

「そ、そんなのかんけーねー!」

 

「やれやれ・・・」

 

ターゲットが代わった事にこれ幸いと火星丼の征服を速めていく俺だった・・・。

 

 

ゴロンと展望室に寝転ぶ。

 

「なんか習慣になってきちゃったよな・・・・」

 

展望室で星を見ること。

 

「星の数ほど人がいる。人の数ほど想いがある。・・・・・・誰の言葉だったっけ?」

 

今、俺とナデシコの、いやアキトの目的は究極的に一致している。とりあえず今は・・・・。
もし立ち塞がるなら蹴散らすまでだ。何が相手だろうが・・・。

 

テンカワアキトとクサナギトウヤ。
両者は似ている。
だが、今に至る経緯は正反対といっていい。
片や絶望と悔恨の中で、魂の半分を闇に染め、復讐という刃を鍛えた者・・・。
もう一人はただ純粋な決意の元、過去の英雄に揉まれ、自身の持てる才能を限界まで磨き上げた
時の流れに抗う者。
一人は闇に、一人は光に。
そして求めるものは、辿り着こうとする境地は歴史の向こう側。かつて交差した道。
そしてこれからは?

 

「大切な人の笑顔が見たいんだ・・・」

 

それが俺の想い。

 

「哀しさでその瞳が曇らないように・・・・」

 

俺は誓った。

 

「足掻き続けるよ、シズク」

 

もう、迷うのはやめだ・・・・・。

 

「これから未来を生きるものの一人として」

 

これが俺の挑戦状だ!

 

フイン!

 

おや、誰か来客か?

 

「ふう・・・・」

 

見た事ある人。ミスマルユリカ・・・なぜここに?

 

「何でなの、アキト・・・・」

 

独り言を言う癖は直っていないようだ。人間進歩無いなーとも思う。
考え事らしいので匍匐前進で場所を移動する。無様と言いたければ言うがいい。
努力の甲斐あって気付かれずに部屋の隅まで移動する事に成功。
心の中で賞賛するも虚しくなったので一瞬で止める。

 

〜数時間経過〜

 

(御篭り?)

 

その言葉が脳裏に浮かんだのは僥倖といえた。
どうやって考え事の邪魔をせずこの部屋を脱出しようかと思案を開始すると、

 

フイン!

 

「・・・・何やってるんだよ、ユリカ?こんな所で一人でさ」

 

アキト襲来。あいつ俺に気付いてねーな?修行不足だ、及第点・・・・。

 

「・・・・星、見てるの」

 

それ以外の一体なんだと言うんだろうか?あ、考え事って言う手があるか。

 

「で、何を悩んでるんだ?」

 

ストレートに聞くね・・・。かなりいい度胸。

 

「アキトはさ、私をどうして避けるの?私なにか気に障る様な事アキトにしたの?」

 

言わなきゃわかんないし・・・・。ん?誰か見てる?

 

「ユリカ、お前が今やってる事は何だ?」

 

「え、私のやってる事・・・・・。ナデシコの艦長、かな」

 

「そうだ、艦長なんだよ。そして俺はパイロットでもあるんだ。
 俺はユリカの命令に従って出撃するんだぞ?
 今のお前に私情を挟まずに、俺に激戦区に出撃命令が出せるか?」

 

それを言っちまったらパイロットは艦長と親しく出来ないって事になるんだぞ?
分かってて言ってるんだろうか?

 

「・・・・そんな、アキトは元々コックなんだし」

 

「そんなこと言ってる場合か!
 もう俺はパイロットになることを承知したんだ。
 俺が出撃しなくてもリョーコちゃんやガイは出撃するんだ。
 なら一人でも数は多い方がいい・・・・・。
 ユリカ、お前はこのナデシコの全責任を負ってるよな?」

 

「うん・・・」

 

「俺と仲が良いからと言って特別視するな。
 それが・・・・俺が今迄ユリカを避けてきた訳だ。
 お前はナデシコを導かないといけないんだよ。
 俺のせいで判断を誤るわけにいかないんだ」

 

(だったら最初っからミスマル艦長とでも呼べば良かったのに)

 

思わず突っ込みそうになっているあたり少し自分が変人連中に毒されていると感じ、
思わず自己暗示をかける。

 

(俺は普通だ。俺は平常人だ。俺は常識人だ。俺はまともだ。俺はノーマルだ!)

 

自我境界線をしっかりと引きなおす。

 

「じゃあ、私がプライベートと艦長の仕事を区別していれば。
 アキトは・・・・私を避けないのね!」

 

「う!!そ、そうだな・・」

 

いつまでそれが続くか見物だが。感情ってやつはどうにもならないことがあるし・・・・。

 

「で、出られ無い!!何故だ!!ま、まさかルリちゃんか!!」

 

他にはいないよな?俺はここに居るし。

 

「ア〜キ〜ト〜!!今は5時過ぎだから艦長の仕事は終わりだよ!!
 プライベートだと私の事避けないんだよね?」

 

「・・・・・怒ってるのかルリちゃん」

 

(怒ってたらこの程度じゃないと思うけど?)

 

この俺の推論は後々証明される・・・・。
俺はドアが開くまで二人の攻防を見続けることとなった。

 

 

「はぁ〜。酷い目にあった。」

 

格納庫に向かう俺。やけに静かな艦内に少々の疑問を持つ。格納庫に入ってみると・・・・。

 

「我等は〜!ネルガルの〜!悪辣な〜!」

 

拡声器片手に断固拒否の旗を持っている男(26歳独身)がいた。

 

「何やってる、テメ」

 

後ろから蹴り飛ばすと面白いくらい見事にすっ転ぶ。

 

「な、何するんですか!ってサブ?」

 

「その言い方は止せ・・。違うものを連想するから・・・」

 

「どうでもいいです!」

 

「何やってるんだお前等?」

 

「叛乱です。我等の自由を手にするために!」

 

「自由?ネルガルの契約書には衣食住の完備、労働時間の制限とかかなり好待遇だと思ったけど」

 

おまけに金払いも良かった。

 

「違います!我等の目指すのは・・・恋愛の自由!!」

 

「・・・・・・・・。自由恋愛大いに結構。で?」

 

「男女交際は手を繋ぐまでなんです!」

 

「・・・・・・・・・・はぁ。」

 

「何溜息ついてるんですか!切実な問題でしょうが!」

 

「良いじゃないか、地球に帰ってからしたい事すれば・・・」

 

「それはそうですが。だからサブも一緒にネルガルに抗議しましょう!」

 

「だからも何も、どないせーちゅうんだ」

 

「我等は〜っ!」

 

バキッ!

 

五月蝿かったのでとりあえず黙らせる。
物理的手段しか取れない俺を許してくれ・・・・。今だけ。

 

「ウリバタケ班長は?」

 

こちらを見ていたクドウ・リョウイチ(25歳結婚済み日本国籍)に尋ねる。

 

「ブ、ブリッジに行きました!」

 

何も敬礼までしなくても良かったんだけど・・・・。

 

「さ〜て俺も行くとするか〜♪」

 

鼻歌とスキップを標準装備してブリッジに向かった。

 

 

「我々は断固ネルガルに抗議する!」

 

抗議してどうする?契約書にサインしちゃったんでしょうに・・・。

 

「ちょっと、急に何を言い出すんですか?」

 

「これを見てみろ艦長!!」

 

契約書を付き付ける。

 

「え〜っ!男女交際は手を繋ぐまで〜!!」

 

見えないところでやれば良いだろ?
部屋でもどこでも好きにしろよ・・・。見張りがついてるわけでもないんだから・・・。

 

「そう言う事だ。お手手繋いで、ってここはナデシコ保育園か?」

 

繋がなければいけないという話は無かったはず・・。
アマノさんとスバルさんの手を取った報復として鳩尾に肘鉄を食らって蹲る。

 

「「調子に乗るな!!」」

 

無様だな・・・。

 

「くっ!俺はまだ若い・・・」

 

「若いか?」

 

俺は当然の質問をした。

 

「若いの!若い二人が見詰め合い」

 

・・・・ここから先は良く覚えていない。
何かあったんだろうけど思い出そうとすると嫌な感じがするので止めている。

 

「それは契約書にサインされた方が悪いのです!!」

 

プロスさん・・・。
それは詐欺師の言い分だよ・・・。ライトアップまでして言う事がそれですか・・。

 

「何だと!!あんな細かい項目まで誰が目を通すって言うんだ!!」

 

その言葉を尻目に俺はブリッジを後にした・・・。

 

「やっぱりバカばっかだ。まともな人はどこにいるんだろ?」

 

通路で呆然と呟く。

 

ドゴォォォォォオオンンンン!!!

 

「くっ!攻撃?もう火星か!?」

 

衝撃にバランスを崩しそうになるが踏み止まる。

 

「俺達の故郷、始まりと終わりの地、か・・・・・」

 

格納庫へ向けて走りながら感傷に浸るのだった・・・・・。

 

 

 

 

続く

 

 

 

〜堕作者のあとがき〜

 

トウヤ:俺ってこんな設定だったか?
 作者:他のSSでも使ってるからね、君の名前と設定の一部。
トウヤ:まあ良い。俺は何時になったら表舞台に出るんだ〜!!(トウヤ暴れる!)
 作者:わしの機嫌次第じゃ。最近はストレスも溜まるのでの〜。
トウヤ:くっ!テメ〜屑作者の分際で脅迫するのか!?
 作者:誰が屑・・・・。屑作者は無いんじゃないの?せめて堕作者って言ってくれ・・・・
トウヤ:すまん。気にしてたのか・・・・。

 

作者は精神攻撃を受けて以下返答がありませんでした・・・・。
  

 

 

 

 

管理人の感想

 

 

 

久遠の月さんからの投稿第六話です!!

おお、なんだかさり気無く本編の台詞が使われてますね(笑)

改め読むと、トウヤの突っ込みも頷けますね〜

まあ、ユリカを艦長呼ばわりするアキト君は想像し難いんですけどね(苦笑)

さて、次は火星攻防戦ですか。

アキトの突貫はみれるのかな〜

 

でも、カスミさんもしかして・・・なんすかぁ〜?

 

それでは、久遠の月さん投稿有難うございました!!

 

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