機動戦艦ナデシコ

 

〜ILLEGAL REQUEST〜

 

 

 

 

 

 

第8話      呆れ果てる「冷たい方程式」

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・んっ・・」

 

掛け布団ごと向かって右側に寝返りを打つ。

 

「・・・・・・すぅ〜・・・・」

 

少々ごそごそして身の置き場に安定感を感じると再び寝息を立て始める。
その寝顔は、まるで・・・・・・「天使の寝顔」。
元の顔ははっきりと女顔である。
それも・・・・駅前で一人で突っ立っていたら女性より男性に声を掛けられる事が多いほどの。
しかも整った顔立ちである。一言で言えば「美人」。
いや、どちらかというと綺麗という方がしっくりクルかもしれない。
救われない事に本人はそれがコンプレックスになっていたが。
成長と共に身長が伸び、背が高くなっていくに連れてそのコンプレックスも少しずつではあるが
ナリを潜めて来ているが、顔の事は彼にとっては禁句であった。
実際ナデシコのこれまでの航行中に不用意にその発言をした命知らずのメカニッククルーを
一人ズタボロにして格納庫に鎮座しているエステバリスから吊るしたぐらいであった。
それ以降彼についてその発言をした者はいなかったのだが・・・・。
更に悪い事は重なるもので彼の声は普通の成人男性よりかなり高い。
女性の声をやや低くしたようなものである。
女装したら・・・女装した男に見えず、普通の格好をした女性に見えるだろう。
タキシードでも着ていようものなら・・・・
多少めかし込んだ男性に見えず、男装した女性に見えるだろう。

 

いと憐れ・・・・。

 

ごとんっ。

 

「っっつーーーっ!!!」

 

だが幸いな事に中身はどっちかって言うと男らしい。
偏見かもしれないがベッドから落ちて床に頭を打ち付けて悶えている姿を見ると男だと再認識できる。
・・・・・・・ほんまにこいつ男なんかいな?

 

 

 

「痛たた・・」

 

俺は何か知らんがベッドから落ちたらしい。
ちょっと前にプロスさんの、「減俸」の言葉はただ事では済まないダメージを俺に与えていた。
実を言うと俺の給料の約9割はカスミ達のいる研究所の研究資金や何かに当てられていた。
俺のナデシコ内の設備による出費はだいたい全体の1割ぐらい。
そして減俸された今となっては・・・・・

 

「・・・・・うどんに卵も入れられない(泣)」

 

実際問題これは如何し様も無く、タンパク質の補給に悩まされる日々を送る羽目になる未来を
如実に現している。

 

「・・・・・ラーメンに野菜炒めも入れられない(泣)」

 

それどころかビタミンも補給に悩むところだ。
ギリギリで炭水化物の摂取が可能と言うところだ。

 

「・・・・・カスミは使用金額上げてくれない(号泣)」

 

金銭の使用に関しては、ほぼ全権をカスミに渡している。
俺が如何こうしても無駄だろう。
あの守銭奴がそう簡単に金に関することで俺に負けるとは思えない。
それこそ絶対と言う事がこれほどしっくりくる事もないだろうぐらいに。

 

「・・・・・人間の尊厳を捨てれば何とかなるかも・・・」

 

ポツリと言ったその言葉が俺には天啓に思えた。
そう、人の道さえ外れてしまえば・・・。
人外の者。
即ち外道。
爬虫類のような面していたいい年のおっさんのような。
別に良いじゃないか、何と呼ばれたって。
俺は生きている。カスミは・・・・多分生きてるだろ。
他はとりあえずどうでもいいや。
些細な事さ。そう、まさに革命の瞬間・・・・。

 

 

 

 

「だ?」

 

自室から急にブリッジに場所が変わる。
目の前には何故かオペレーター席。コンソールに突っ伏している少女が一人・・・・。

 

「えーっと・・・・・何が起きたんだ?」

 

ブリッジクルーは皆寝ていた。
・・・・死んでたとしても分からないけど。おや、艦長がいない。

 

「ま、それにしても危なかった。踏み越えてはいけない一線を踏んだような(汗)」

 

先程までの思考を思い出して思わず冷や汗を掻いた。アレはかなり拙いだろ?

 

「空腹って怖い・・・・ってそうだっ!」

 

とりあえず見た目お坊ちゃんの副長に近づくと懐からカードを取り出す。
ちなみにブリッジクルーで名前を知らないのはこの人だけだったりする。他はまあ、色々と。

 

「悪く思わないでくれ。これも、俺の腹の具合のためだ。
 少しぐらい残高減ってても分からないよなぁ」

 

人は、これを、火事場泥棒とも言う。が!この際忘れる事にした。

 

「デジタルって良いなぁ・・・・」

 

こういうのが楽で。お、結構残高あるじゃないか・・・・・。

 

「良いとこのお坊ちゃんみたいだから俺のように餓えに苦しむような事はないだろう。
 ・・・・許せ」

 

とりあえず合掌してブリッジを後にした。

 

 

 

廊下は暗かった。非常用の赤い照明が点いているだけだったのだ。

 

「・・・・エネルギー消費ミニマム?何やってんだこの艦?」

 

踏み出す一歩ごとに靴の廊下を叩く音が妙に響くような気がする。

 

「ホラー映画じゃあるまいし・・・・・」

 

両手を後頭部に当てて先へ進む。
ブリッジは光学障壁の所為で外の様子が見えなかったので影響のない展望室に向かっているのだ。

 

フィン!
       ムギュッ!

 

「おっ?」

 

なんか踏んだような〜って・・・・白衣。

 

「ふうっ・・・・。落ち付け、俺。これが説明バカなはずないよな。
 あのバカは展望室で昼寝できるような図太いような真似はしなかった。
 じゃあ・・・・この白いのはなんだ?」

 

白衣で連想できる人物は一人しかいなかった。出来れば現実逃避がしたかったのだ。

 

「認めたくはない、が・・・・」

 

もう一度見る。今度ははっきりと。

 

「イネス・フレサンジュ・・・・と、弟、妹。何故3人仲良く寝てるんだ?」

 

アキトとユリカちゃんも一緒だった。まあ良い。これは・・・・・チャンスだ(ニヤリ)。

 

「うけけけ・・・・」

 

ポケットに入っている整備用手袋。見事なまでに油汚れしている。

 

「さらば、俺の知っているイネス。これからお前は黒イネスになるのだ」

 

油で顔に化粧していく。落書き・・・・とも言えなくはない。

 

「ふぅ〜〜〜っ。すっきり」

 

ここにはもう用はない。
目指すは・・・・・格納庫。そう、俺は展望室に行った理由を忘れたのだ。

 

 

死屍累々。

 

「・・・・・見なかった事にしよう」

 

その時ふと、違和感を感じた。

 

「ボソン・ジャンプ?・・・・・・だからか?」

 

クルーが倒れている理由に見当をつける。

 

「イメージが不安定だったんだろうな・・・・。
 何でしっかりとイメージしなかったんだろ?
 イメージが不安定なら何処に行くか、いや何時に行くか分からなかったのに」

 

過去とまるっきり同じ状況が繰り返される確立は正直未知数。
酸素の量から微生物の生死まで同じ状況が作れるわけじゃないのでかなり疑問が残る。

 

「まあ、地球圏に出る事は確かだったんだろうけど」

 

流石に太陽系外のチューリップをイメージできる強者はここにはいないだろう。
もし変な時間軸に出ていたら正体ばらしてでも修正してやる。

 

「おら、起きろ」

 

とりあえず間近にいたメカニッククルーを蹴り飛ばす。

 

「あうっ!」

 

「変な声だしてんじゃねー。おら、起きろ!」

 

今度は蹴り上げる。

 

「・・・・サブ?ここ何処っすか?」

 

「知らん。おら、お前も叩き起こすの手伝え」

 

「分かりました」

 

それからは手当たり次第に起こし始めた。

 

プープープー・・・・

 

アラームが鳴ったのはメカニッククルーを全員起し終わった後だった。

 

「何だ?何かあったのか?」

 

現金ですね、ウリバタケ班長。

 

「退いた退いたー!」

 

スバルさん・・・。何も走ってこなくても・・・・。後ろに二人くっ付いてるし。

 

「出撃か?」

 

俺はエステのハッチの横に捕まって、スバルさんに聞いた。

 

「おう!」

 

「他の奴らは?」

 

ヤマダとアキトの事だ。

 

「テンカワの奴は直ぐ来るさ」

 

「カタパルト用意しとけ!」

 

「ライフルは持たせたかー!?」

 

「そうか。・・・・死ぬなよ」

 

「誰に言ってんだ!」

 

「ごもっとも」

 

しっかりと重力制御が利いているのにあっさり着地を決める。

 

「ブリッジ!どうなってんだ!?戦況をこっちにも回せ!」

 

ブリッジにウインドウを開いたのだが・・・・。

 

「痴話喧嘩じゃねーか・・・・」

 

展望室が如何のこうの・・・・。
正直喧しい。後でやれよ、後で。一応ここも戦場なんだからさ。

 

「テンカワの奴・・・・殺す」

 

「テンカワ〜っ!テメー後で覚えてろよ〜!!」

 

「・・・・・おいおい」

 

こっちはこっちで緊張感が無かった。

 

「・・・・・転職しようかな」

 

俺が変なのか!?いや、俺が普通なんだろ!?
なんで死ぬかも知れねー時にそんな事言ってられるんだよ!

 

「・・・・求人、売ってないよな?」

 

ナデシコに置いてある物なんぞ皆ネルガル関係である。ネルガルと縁は切れそうにない。

 

「敵第二陣着ます。エステバリス隊は発進して下さい!」

 

続々と4機のエステが出撃して行った。
およ?4機?例の3人はいたしアキトもいた。・・・・ヤマダは?

 

「おい、ヤマダの奴いたか?」

 

「いや・・・・。いなかったと思いますけど・・・」

 

「ヤマダではない!!ダイゴウジ・ガイだ!!」

 

「おい、その登場の仕方は飽きた。今度は違うのにしてこい」

 

「くうぅぅ〜〜〜っ!正義は俺と共にあ〜るっ!
 待ってろ木星蜥蜴共〜っ!
 このガイ様が今からやっつけてやる!
 待ってろよ、アキト〜ぉ!」

 

高速で起動させると猛然と出撃して行った。

 

「なあ、クサナギ?」

 

「何です、班長?」

 

「あいつ・・・・・ライフル、持っていったか?」

 

「い〜え。手ぶらでした」

 

「「はぁ〜〜〜〜〜〜っ」」

 

ヤマダは変な人連合の頂点に位置する様だ。絶対止めてやる、こんな仕事・・・・・。

 

 

 

「ふむ・・・・フィールドの強化、か」

 

ナデシコはナデシコ級2番艦コスモスに収容されて俺達メカニッククルーも宇宙服着て
外の装甲板の取り付けをやる事になった。
ちなみにこの2番艦。多連装のグラビティー・ブラストを備えたドック艦であるのだが・・・でか過ぎ。
構想は良いが中身は70点ってところだ。
負担が掛かりすぎるんだよな、実際。
どうせならフィールドの強化を考えた方が良いような気がするんだが・・・・・。
ネルガル会長がパイロットと名乗って自己紹介しているが興味無し。
イネスは調子こいて説明なんぞしているし・・・。
いかん。空腹の所為で攻撃的になってるな・・・。早いところ何か食わなければ。

 

「ホウメイさん。ラーメン大盛り。」

 

「あいよ!」

 

これで九死に一生、だ。

 

「所でトウヤは今回の事についてどう思う?」

 

「ふぁい?」

 

あからさまに欲求不満と顔にでかでかと書いたイネスが麺を啜っている俺に問い掛けてきた。
口に物が入っている時に喋るのは止めよう。ついでに話しかけるのも。

 

「んぐ。さあ、な。自分で考えろよ。俺は俺で仮説(って言うか答え)があるけど、
 もうちょっと考えを纏めたいからな。」

 

イネスは確かに他人に聞いてくる事はあっても他人の思考を邪魔しようとはしない。
それ故の優秀さだ。距離感を知っているって事かもしれないけど。

 

「じゃあ、軍人になることに関しては?」

 

「断固反対だがそれで何かが変わるわけじゃない。もう少し様子を見る」

 

「さっすがクサナギ・トウヤ博士。イネス・フレサンジュ博士も同じ意見ですか?」

 

見るからに軽そうな男が目の前に立った。

 

「おや、会、むぐむぐ・・・」

 

「な、何を言うのかな、クサナギさん」

 

「ちょっとアカツキ君。・・・・キマッテるわよ、それ?」

 

「おおっと、これはすまない」

 

「げほっ。すまないで済むか。・・・・・多分ばれてるぞ、あんた」

 

「そ、そうかい・・・?」

 

「何の話?」

 

「あれ、お前面識なかったっけ?」

 

「ええ、これが初対面のはずよ」

 

「お二方は基本的に静観するつもりですか?」

 

「俺は・・・」

 

「私も、そうね。気になる子がいるし」

 

「おやぁ〜?」

 

「な、何よ」

 

「何でもね」

 

「言いたい事があるならはっきり言ったらどうかしら?」

 

「・・・・・・・・年寄りの冷や水」

 

   ヒュッ!

 

「・・・甘い。メス一本では俺は捉えられんよ。」

 

「くっ!」

 

「あの・・・・掠ってるんですけど」

 

「そう、じゃあ後で医務室に着なさい。しっかり手当てしてあげるから」

 

「はい。それではこれで」

 

アカツキは居住ブロックの方へ歩いて行った。

 

「一般ピープルにメスはいけないな」

 

「何よ、やる気?」

 

 

その後に迎撃戦があったものの一人の遭難者が出た以外これと言って問題無かった。
まあ・・・・ご多分に漏れずヤマダだったんだけど。
それは結局コスモスの艦載戦闘機に乗ったアキトが回収に行った。
ご苦労様です。ヤマダは帰ってくる早々誰かにやられてまたもや入院した。
こっちには情報が降りてこなかったんだが思兼に調べさせたら何が理由か分からなかったんだが
女性クルーの一部が袋叩きにしていた。そりゃあ入院もするって・・・・。

 

 

「何で俺がこんなとこにいなきゃ行けないんだよ」

 

「ブツクサ言わない!」

 

「けっ!」

 

「は〜い、皆さんお久しぶりね〜」

 

おや、この癇に障るカマ言葉は。言い度胸だな・・・・。死ぬ覚悟が御有りのようだ。

 

「今後はビシバシとこのナデシコを鍛えていくからね!!」

 

誰が頼んだわけ?お前の仕事は何だよ?無能・・・だな。

 

横ではアジア系の20代前半らしき女性が自己紹介していた。
だが、その目つきがムカついた。まるで、人間を道具の様に見るその目が。
まあ、その自信がいつまで保っていられるか疑問だな。
ここは、ナデシコは変だ。絶対に。どっちにしろ変わるだろう。
もし変わらないなら胃潰瘍に悩まされる事になるだろう。

 

まあ、それも一興だが。

 

 

 

 

続く

 

 

 

〜堕作者のあとがき〜

 

分量的には余り変わっていないと思いますが・・・どうでしたか?

 

なんか作者のストレスの貯め具合に連れて徐々にトウヤが攻撃的になって来ているような気が
しないでもないんですが。
まあ、今後どうなるか分からないので書ける時に書いている私です。

 

それではまた次回のあとがきで。

 

                        10/23    久遠の月

 

 

 

 

 

 

管理人の感想

 

 

 

久遠の月さんからの投稿第九話です!!

空腹で怒りっぽいトウヤさん。

・・・でも、財布はカスミさんに握られてるのね。

そうか、やはり女性には勝てないのか(爆)

今回のツボはやはりイネスさんの顔に落書きでしょう!!

気が付いた後、どんな反応を返したんだろう?

 

それでは、久遠の月さん投稿有難うございました!!

 

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