機動戦艦ナデシコ

 

〜ILLEGAL REQUEST〜

 

 

 

 

 

第10話    「女らしく」が危ない・・・・・・俺はある意味幸せなのかもしれない

 

 

 

「24時間、戦えまっすか〜♪・・・・っと、後は仕上がりを待つだけっと・・・・・・」

 

ナデシコの自室――――物置、持込部屋、とも言う――――にて、
簡単なメールをとある人物に送ったところで冷めたコーヒーに口を付ける。

 

「・・・・・・苦い」

 

そこで先程のメールのことでほんの少し苦笑いを浮かべる。
大人気なかったかな、とも思わないではないのだが、色々とこそこそと嗅ぎ回ってくれているので
しないわけにもいかなかったんだが。

 

宛先はクリムゾンの古狸こと、ロバートの爺さん。
商売敵のネルガルの戦艦から、あんな内容のお手紙を貰えば目先は自然とネルガルに向かうだろう。
そう、俺ではなく。
発信場所も隠さなかったし、間違いなくナデシコからと思うだろう。
あちらもオモイカネの演算能力は知っているはず。
ハッキングがそう簡単に出来ないということを見越して・・・・・・・・・。

 

「あれじゃあ、宣戦布告だったかな・・・・・・・・・・」

 

その内容は、簡略化すると・・・・・・・・・・

 

‘そちらの勝利の女神は俺が貰った。首を洗って待ってろよ’

 

ってな物だった。ついでにウイルス付きで。明日のクリムゾンの株は大暴落していることだろう。

 

 

 

 

 

 

ひとしきり笑ったところで前回下船した時に貰ってきたレポートの類に目を通す。
設計したうちの2機がロールアウト。調整次第、実践テスト。

 

「‘Snow Drop’はまだ起動せず、か。」

 

本名アーク・I・ストラティ。通称アキ。
果たして聖櫃の名を持つ彼女は希望の女神となるか、
それとも任務遂行を優先させる破滅の女神となるか・・・・・・・難しいところだな。柄じゃないし。

 

「‘DEATH=REVERSE’・・・・・・死神の化身は兵士達の命を刈り取る」

 

キャシアス・クリスティン。
陽気な口調の裏に憎しみを隠している軍人は死神の鎌を右手に、左手には何を持つのだろう?

 

「‘BLUE BREAKER’・・・・プログラムが未完成。火気は既に装備済み。」

 

アレス・ケントロピーゲ。
強襲爆撃用の機体を駆る自分と、沈着冷静な指揮官であった自分とのジレンマが何を生むか・・・・。

 

「・・・・・・・・・ホタル・ミギワ。‘EMBRACE’の起動、長時間の稼動に成功、か。」

 

まだ、時間は山のようにある。
他のメンバーも追々仕上がってくるだろう。
それに仕上がらなくても特に何か問題があるわけでもないのだ。
その気になればゼラニウム一機だけでもこの戦争は終わらせることが出来る。
手段を問わなければ、という問題は常について回るのだが。

 

というか、木連側の望む勝利の形は既に実現し得ないといった方が正しいのだろう。
短期集中、一気に地球まで制圧しなければそれは成らなかったのだが、現在制宙権は連合軍が握ってる。
後一歩で彼らの<正義>が実現するって状況まで追い込んでおいて、だ。
まぁ、だからこそ経済界の大きなシェアを占めるネルガルを追い落とすことを条件に
クリムゾンと手を組んだりするのだろうが。何がどうなろうと、どっちにしろ無駄の一言。

 

 

 

「・・・・・・・ふぅ。問題はこれをどうするか、だ」

 

俺がいなかった時のアキトの実戦データ。
DFSの初登場だったわけだが恐怖を本能的に感じさせる物だったのだそうだ。
俺から見たら、感嘆するものだったのだが。
ぎりぎりを掠めて行くミサイルの雨を感じさせずにさらに先へ進むエステバリスの姿は綺麗としか表現できなかった。
その後でアキトの未熟ぶりが露呈した。

 

一つは自己制御。感情のまま突っ込んでいく場面ではないし、全くといって利にならない。
二つ目は間合いの問題。
ライフルを持って出ていればミサイルを斬るなんて危険な真似をせずに打ち落とすことも出来た。
ちなみにこれは結果的に状況を把握できなかったということで一つ目に繋がる。
三つ目。あの場面では殲滅はベストではない。任務の目的を考えて行動すべきだった。
四つ目。技術は認めるが何様?

 

技術だけなら超一流にはなるが、精神面は三流だ。
これじゃどこぞの政治家にいいように踊らされて飼い殺しに合うのが目に見えてる。
その過程で犠牲者も出て行くのだろう。それだけは回避せにゃいかん。たとえアキトを殺そうとも・・・・・・。

 

「・・・・・・アキトの成長次第で俺の役が変わるわけだ。
 さて、俺の役は勇者か従者か、・・・・・・それとも魔皇か」

 

レポートをゴミ箱に向けて投げると、甲高い音を立てて消えていった。

 

 

 

 

夜食がてら、何か食べようと食堂に向かうとなにやら熱血している団体を目にした。
肩組んで、雄叫びを上げる、見慣れたといえばそれまでだがあからさまに頭のネジが数本飛んでしまっている連中だ。
街角でやっていれば猥褻物陳列でしょっ引かれても文句は言えないだろう。
俺としては同僚なので溜息をつかざるを得ない。

 

「この夜中に何やってるんですか。・・・・・・・・傍迷惑な。苦情が来ても俺は関与しませんよ?」

 

ゆらりと妖しげな群れから進み出てくるウリバタケチーフに思わず俺は一歩退いていた。

 

「・・・・な、なんです?」

 

「お前も、俺達の仲間だよな?」

 

要領を得ない問いに俺は唖然とするが何となく集まっている集団から湧き上がる妙なオーラから、
ここで素直に頷くことは死に繋がると直感的に悟った。
目の前のウリバタケチーフの目の奥で揺らぐものが、ある意味で怖すぎる。

 

「・・・・・ど、どう、いう意味でしょう?」

 

冷や汗が流れていくことを自覚しても止める術がないことが俺には少し恨めしい。

 

「・・・・・・夜食が欲しいんだよ(ぽそっ)」

 

「それが原因なら俺が作りましょうか?どうせついでですし。」

 

腹が減ってるなら食堂で何か食えば・・・ってもう閉まってるから自販機になってしまうとの考えから
飢える男達に解決案を出す。俺は知らなかった。彼らがいったい何に飢えているのか・・・・・。

 

 

「「「「「誰が野郎の夜食で喜ぶものかっ!!!!!!」」」」」

 

 

そんなに大きな声で叫ばれても。でも結構いけると思うんだけどなぁ。

 

「お、俺はサブでも・・・・・」

 

ばきゃっ!

 

「誰だ今言った奴っ!!!!前に出ろっ!!!!!修正してやるっ!!!!!」

 

「もう殴ってるじゃないですかぁぁーーーー!!!!」

 

・・・・・・・何やってんだか。

 

 

 

 

「じゃあ、女の子なら良いんですか?作って貰えばいいじゃないですか。
 職場恋愛は規制こそあるものの不許可ではないじゃないですか」

 

規制といっても艦内の自販機に避妊具らしき物体が売られている事が公然の秘密となっている現状だ。
会社のほうも責任と自己管理の中ならある意味しょうがないとでも思っているのだろう。
もしそれが原因で暴動が起こったりしたらその方があほらしい。

 

鋭い視線が俺を貫いた。小首を傾げて見せる俺だが意味はない。意味はないのだが、何となく、間が痛かった。

 

「・・・・・貴様も敵か?」

 

「・・・・・は?」

 

「もう一度確認する。貴様も敵か?」

 

「・・・・・・・詳しい説明を。」

 

前後関係もなく突発的にそう言われても俺だって困る。戦闘可能な状況に思考を持っていきながら再度訊ねる。

 

「職場恋愛っつー意味だよ、クサナギ」

 

「ウリさんあんた既婚者じゃ・・・・・・・」

 

「うるせーっ!!俺はまだ若いし自由なんだよ!」

 

「何とち狂ってるんですか!それじゃ人間失格じゃないですか!」

 

もう、やだ(泣)なんでここってこんな奴ばっかりなんだ・・・・・・。
道徳という言葉はいったいどこに消えたんだ?
そうだ。こういう奴らがいるからか?だからこの戦艦は史上稀に見るスチャラカばっかりなのか?

 

 

 

 

「・・・・・・・・・ふふふふふふふふふ」

 

今度は彼らが怯えているようだ。おやおや・・・・さっきまでの勢いはどうしたんだろ?

 

「まさか・・・・・・‘スイッチ’が換わったのか!?」

 

「こ、こういう時は新入りに!?」

 

「あ、ジュンのやろーっ!既にいないじゃないっ!!!??」

 

副長がどうのこうのって言った奴は言い終わる前に数メートル吹き飛んでいった。
やだなぁ。ちょっと撫でただけなのに。ふふふふ・・・・。

 

「・・・・・・・・・くすくすくす・・・・・・」

 

「そ、総員退却!!!皆死ぬなよ!!」

 

「いやだなぁ♪死ぬわけないじゃないですか♪死ぬより痛いかもしれませんけどね♪」

 

蜘蛛の子を散らすように逃げていく人達を見ながら一人の肩を掴んで引き摺り倒すと
鳩尾あたりに靴の踵をめり込ませる。おまけとばかりにそのまま踏み躙る。

 

「っ!!!!」

 

「骨の折れる音はいいね〜〜〜〜♪人体の織り成す音の極みだよ♪」

 

鈍い音とほぼ同時に口の端からなにやら赤い泡を吹き出しながら白目を剥く。
それを邪魔にならないように通路の端あたりに蹴り転がすと、まだ見える後姿を追って俺は駆け出した。

 

「〜〜〜〜〜〜♪〜〜〜〜〜〜〜〜〜♪〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜♪」

 

 

 

 

 

 

笑顔の暴帝君臨す。その死線より逃れる事あたわず。覚悟せよ。

 

‘某組織闘争記、SSS危険的状況における心構えの章’より抜粋。

 

 

 

 

 

 

「ちょ、ちょっと!どうしたのトウヤ!?貴方血まみれじゃない!!」

 

気が付いたら医務室だった。
目の前のイネスは何故か慌てているようで普段とのギャップから可笑しさを誘わずにいられない。
かといって声に出して笑えば彼女自慢のメス投げがごく当然な事の様に行われるのだろう。
だから俺は喉の奥で笑っていた。

 

「ちょっ、どうしたのよ?頭でも打ったの?」

 

「さぁな・・・・・・・」

 

「まぁいいわ。出血はって・・・怪我・・・・・・じゃない。返り血、ね」

 

どうやら俺は拳と顔と服に血痕を付着させているようだ。
一応剣術家でもある俺だからして拳を痛めるかもしれない格闘をしたことには反省が必要だな。
うむ。パーフェクトだ。

 

「朝からいったい何やってるのよ・・・・・。今日はビーチで・・・・・・・ぶつぶつ・・・・」

 

ん?朝?

 

「朝なのか?」

 

「もうボケたの?現在の時刻は9時30分。朝の時間帯ね」

 

「朝食食いっぱぐれたということか。」

 

「そうでしょうね」

 

相槌を打ちながらそれでも怪我はないかしっかり調べているようだ。
触れる指先がくすぐったいのだが一応診察であるので我慢する。

 

「怪我はないし・・・・・・・・・・・シャワーでも浴びて着替えれば普段と変わらないわ」

 

「そう。どうも、ドクター」

 

「トウヤ。聞きたいことがあるわ」

 

真剣な顔でイネスはそう告げた。

 

 

 

 

 

 

「アキト君のことよ」

 

 

 

 

 

 

 

周囲に人がいるかどうか念入りに確認して、備え付けの椅子に腰をおろすと
イネスは俺を逃がさないようにするためか、俺とドアの中間点に立っている。本気の目で。
俺は本気の人には本気で応じたい。
たとえそれがどんなに些細なことでも、それだけの理由があるということだからだ。

 

「それで?」

 

「聞きたいことは概ね3つよ。
 アキト君のあの異常ともいえる戦闘能力。肉体強化、対G訓練・・・・・・
 そうね、エステバリスの操縦もかしら・・・・・・あれはあなたが関与しているの?」

 

「・・・・・・・」

 

「黙秘は肯定ととるわよ」

 

「直接的な介入はない。だが、動かなかったことを関与というのなら、俺はしている」

 

「・・・したのではなく、しているのね?」

 

「・・・・・・ああ。たぶん、そう」

 

「随分曖昧ね・・・・・・・・。まぁいいわ。
 二つ目・・・・・・・。何故、アキト君との接触を避けようとするの?
 あなたの今の立場からお互いに名乗りあって、感動の再会劇をしていても可笑しくないはずよ?
 ・・・・・・・一度、アキト君に昔のことで探りを入れたわ。
 けど、彼はそのことであなたの名前を出そうとはしなかった」

 

「・・・・イネス」

 

「いえ、アキト君だけじゃないわね。同じ立場の艦長もそれは同じ。
 もっと考えていけばこのナデシコのクルーの誰に聞いても世間話的なものしか会話というものはない。
 なにより、黙っていても必要以上に存在感を周りに振りまいている人間がこれじゃあ疑いたくもなるわ。
 まるで、自分が何時何処に行き、何時いなくなっているか気付かせないように・・・・・・・・・・」

 

俺は目を閉じてイネスの言葉を聞き流す。
どれも正解。この艦に染まりきれない自分。当然だ。俺の居場所はここじゃない。
ナデシコの存在は俺にとっての手段でしかないのだ。
この艦に・・・・・いや、ナデシコという場所に還る所を持つ他のクルーとは違う、特異な存在が俺だ。
そう、違うのだ。

 

「・・・・・・・見極めなければいけなかった・・・・・・・・・未来への道筋を・・・・・・・・
 ただ、それだけのことだ」

 

 

俺とアキト。その二つのあり方だ。
今の俺は、アキトを容易く屠る能力を持つ反面、変わっていくアキト程の柔軟性はない。
俺は多分、完成されている。
俺の手からは至高を誇る名画は描き出せても、想像もつかない絵画の構成はありえない。
だからだろう。俺が近づくことで変えないために、それに関わる事を首尾一貫して排除しているのは。

 

だが、イネスの存在。こいつの存在はその考えで行けば危険だ。
何らかの方法でアキトに伝わるのを防がなければいけない。
だが、俺はそのための行動をとらない。勘ともいえる感覚が、それで構わないといっている。
こいつは、絶対に喋りはしないのだと。そして俺はその感覚に笑うのだ。
科学者の俺が勘だと?理論と道理で埋められた世界で生きる人間がそんなものに頼るとは、と。

 

「それで、三つ目は?」

 

「・・・・・そうね。何故、ここにいるの?」

 

 

 

 

 

「・・・・・・成り行きさ。
 今俺がここにいるのも、この戦争が起こっているのも、全部馬鹿馬鹿しい・・・・・
 けど、通らなければいけない成り行きなんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

「話したくないならそれでもいいけど・・・・・・・・話せる時がきたら話してくれるんでしょ?」

 

「その時は・・・・・・・・きっと、最悪な状況だろうけどな」

 

それはアキトの、いや人類の可能性の敗北を意味するのだから。

 

 

 

 

 

 

 

〜あとがき〜

 

GROWTH OF DEVOLUTION・・・・・・・まぁ特に意味ないんですけど。
無駄な機能を愛し、無駄な時間を嫌悪する矛盾と誤解、悲喜交々に翻弄される駄作者こと久遠の月です。
テストは終わり、漸く自由の身。落ちようが受かろうがもう知ったこっちゃありません。

 

近況はさておいて・・・・・最近違う文体で書いていたせいか異様に書き辛いんですよね、この一人称。
周囲の状況が解りにくいような気が・・・・・・・
読者の方々に何名か突っ込みを入れられていたので治そうとはしているのですが・・・・・・・善処します。

 

ともかく!執筆時間も増える(だろう)と思いますので、これからもよろしくお願いします。
   

 

 

 

管理人の感想

 

 

 

久遠の月さんからの投稿第十二話です!!

う〜ん、アキト君の行動が酷評されてますね〜(笑)

まあ、人格的に完成されているとは言えませんからね。

と言うか、そんな完璧な主人公だと話が面白くないですよね(苦笑)

しかし、トウヤ君・・・君も妻帯者になるんじゃないんかい?(笑)

それにキレて整備班を血祭りにすあたり、君もヤバイって(爆笑)

 

それでは、久遠の月さん投稿有難うございました!!

 

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