_唐突な質問で恐縮ですが、黒いんですね中尉殿のエステバリスは

 

ああ、これはおまじないみたいなものなんです、私が私らしく居られるように、
戦場で生き延びられるように、そしてもう一度「あの人」に会えるように、そんな願いを込めて・・・。

 

_そうですか、それではお名前と自己紹介からお願いします

 

アイシャ・バーナード中尉、西欧方面軍のエステバリスライダーです

 

 

 

 

 

「漆黒の戦神」アナザー
                         アイシャ・バーナードの場合

 

 

 

 

_確か、以前は黄金色のエステバリスに乗っていらしたそうですが?

 

(苦笑しながら)あれには色々複雑な事情があったんです、撃墜数がそこそこに伸びて
エースパイロットとして0G戦フレームが拝領されたその日、一緒についてきたネルガルの技術者が

 

「このフレームは通算100台目の0G戦フレームなんです、
 ですからボディーカラーはメモリアルの意味もこめて黄金色に決めさせてもらいました」

 

って・・・、最初はぜんぜん意味が分かりませんでしたね、なぜ100台目なら黄金になるのか、
ですから何とか別のカラーにしてもらおうと基地司令にまで掛け合ったんですが、
間の悪いことに私のパートナーがパーソナルカラーを白銀色にしてしまっていたもので

 

「黄金と白銀、いいではないか、わが方面隊の旗印にふさわしいカラーだ、
 戦意の高揚にもなる是非このままいってくれたまえ」

 

なんて司令まで乗り気になっちゃって(笑)

 

_そのパートナーさんとはもしや現在あのナデシコに所属する「白銀の戦乙女」ですか?

 

ええ、「白銀の戦乙女」ことアリサ=ファー=ハーテッド中尉です。
恥ずかしながら二人で「黄金と白銀の戦乙女」とか「バイヴ・カハとワルキューレ」
なんて異名で呼ばれていたんです

 

_どちらもヨーロッパ方面の神話に出てくる戦の女神のことですよね

 

私の二つ名は彼女のそれのついでについたものですよ、
彼女はまさに天才の名にふさわしい乗り手でしたから・・・、
私が今こうして生きているのも彼女とコンビを組んでいたおかげだと思います。

 

実際彼女がこの基地を去ってからの私の被弾率は大幅に上がっていきましたからね、
安心して背中を任せられるパートナーが居ないとどうしても臆病になってしまうんです、
依存心が強いんですね(苦笑)、戦果が落ちていくのと同時に回りの皆からも
「一人じゃ何にも出来ない」とか「金は金でも所詮はメッキか」なんて陰口たたかれて・・・
そんなときでしたね、アリサの所属する遊撃部隊「Moon Night」が
救援のためにこちらに向かっているとの情報が入ってきたのは、

 

うれしかったです、また二人で戦える、心にわだかまっていたものを振り払えるって・・・
でも再会したアリサはその頃の私では到底届かない高みに上ってしまっていたんです。

 

最初に見たときは誰か分かりませんでした。
だって私の見たことが無い輝くような笑顔を浮かべていたんですから、
私は彼女のことを冷静沈着な完璧な女性だと思っていました、あんな風に嬉しそうに笑ったり、
些細なことに腹を立てたり、嫉妬したりなんて、しない女性だと思ってました。

 

なんとなく近づき難くって距離を置いてしまっていたんです。

 

そのことが気になっていたんですね、
戦闘の最中いつもなら軽い損傷ですむものが完全撃墜されてしまったんです。
とっさにアサルトピットの切り離しに成功したためこうして無事に居るんですけど。
なんか落ち込んじゃって戦闘終了後、食堂の隅でいじけていたところに「あの人」が現れたんです。

 

あとから聞いた話ですけど、アリサ達から逃れて目立たない場所を探していて
偶然私のいた場所にやって来たんだそうです。
「あの人」は私を見ると

 

「すいません、少しの間で良いんです、かくまってください!!」

 

って、勢いに押されてつい「うん」といってしまったんです。
「あの人」を机の下にかくまってしばらくたったとき、アリサがこちらに走って来たんです。

 

「アイシャお久しぶりですね、さっきの戦闘、調子が悪かったようですが、
 あまり無理をしないでくださいね・・・、ところで、このへんで黒い髪にりりしい顔立ちの
 東洋系の男性を見かけませんでしたか?」

 

私が見てないと答えると

 

「せっかく、私が”二人っきり”で基地の中を案内しようと思ったのに・・・」

 

なんてブツブツ言いながらどこかへ去っていってしまったんです。

 

アリサが去っていったのを確認してから「あの人」が机の下から這い出してきました。

 

「ふぅ、助かった・・・、たまには一人でゆっくり羽を伸ばしたいよな」

 

なんて、大きく伸びまでして、「あの人」のことはアリサからのメールで知っていたはずなんですが、
目の前に居る人物とはなぜか重ならなかったんです。

 

「アイシャ・バーナードさんだよね?、さっきの戦闘見てたけど、怪我のほうは大丈夫?」

 

そのときの私はこの人物が「あの人」だとは気づいていませんでした、
ですがぜんぜん警戒心の沸いてこない不思議な空気につつまれてつい和んでいました、
気が付くと自分が抱えていた悩みから劣等感まで、すべて打ち明けてしまっていたんです。

 

「良いんじゃないかな?、ムキになって無茶をやって自滅するより臆病なぐらいのほうが長生きで
 きるよ、死んでしまえばそこまでだけど、生きていればきっとやり直せるんだから」

 

そう語る「あの人」の顔にはなぜか悲壮な表情が張り付いていました、暖かい空気と悲壮な表情、
いつのまにか相反する二つが私の心の中に染み付いて離れなくなっていたんです。

 

_パーソナルカラーを黒にしたのはその後ですか

 

ええ、周りからは「今度はマネっこかと」散々馬鹿にされましたけどね、

 

_ところで、先ほどからもてあそんでいるその黒いバイザーは?

 

これですか(嬉しそうに)、「あの人」からのいただき物なんです、
結局私って「あの人」が「漆黒の戦神」だと気づいたのは「あの人」が基地を去るときだったんです。
色々相談に乗ってもらったりしていたのに名前をまだ知らなかったんで
聞いてみたらまぁびっくりというか、このまま何にも知らないまま離れ離れになるのが悔しくて
何か記念に下さいって・・・、「あの人」は苦笑しながら自分のかけていたこれをくれたんです。
ですから、これは私の宝物なんです。

 

_「彼」になにか言いたい事はありますか

 

私は私らしくがんばっています、ですから安心してください。

 

_本日はどうもありがとうございました

 

 

余談ではあるがアイシャ中尉は現在「黒い魔女」の二つ名で
西欧戦線の象徴とまで呼ばれる活躍をしているそうです。

 

民明書房刊「漆黒の戦神、その軌跡」2巻より抜粋

 

 

 

何やら必死の表情でハードカバーの書籍を片手に我らが主人公テンカワアキトが走っている

 

「やばい、やばい、やばい、こんな物が見つかったらルリちゃん達にまたお仕置きされる、
 セシリアさんのときはリョーコちゃんと二人っきりでツイスターゲームさせられたんだよな、
 リョーコちゃんって鍛えてるから体とか引き締まってたし、そのくせ出るとこ出てたし・・・、
 て、違う!、そうじゃないだろう俺!!」

 

どうやら、また何か怪しい本が出ていたらしい

 

「とにかくこの本を何とかしなきゃ、シュレッダーにかけて粉々に・・・、だめだ!、
 そんな大雑把なやり方じゃ絶対にばれる、・・・相転移エンジンに放り込んでみるのはどうだ?
 だめだ、あそこはそれこそルリちゃんのテリトリーだ、
 ・・・そうだブローディアのラグナランチャーだ!
 あれで素粒子レベルまで砕いて事象の地平線に送ってしまえばさすがのルリちゃんといえど・・・」

 

どうやらかなりヤバイレベルまで追い詰められているようだ、
彼を囲む複数の殺気にさえ気づいていない

 

「アキトさん、ちょっと良いですか?」

 

「(ギクゥッ!!)なっ何かなルリちゃん」

 

恐る恐る振り向いた彼が見たものは毎度おなじみの某同盟メンバーだった

 

「アイシャ・バーナードさん・・・、こう言えばお分かりですか?」

 

ルリの手にはアキトが持っているものと同じ本が握られていた

 

「なっなんでルリちゃんがその本を!?」

 

「アキト君よっぽど追い詰められてたんだね、
 それ一冊だけ守ってても購買部に行けばまだまだいっぱい売っているのよ」

 

ミナトさんの同情交じりの一言がアキトに止めを刺す

 

「しっ、しまった〜!!」

 

「浮気だけならまだしも私達に隠し事までしようとは良い度胸です(怒)」

 

「そう・・・、アイシャにまで手を出していたんですか、アキトさん(怒)」

 

「ひどいよアキト、身につけているものをプレゼントだなんて、私でもまだ無いのに(怒)」

 

「お仕置きのレベルを上げる必要がありますね、オモイカネ」

 

『なに、ルリ?』

 

「お仕置き室のヴァーチャルシステムのR指定プロテクトを解除してください」

 

『本気?、だってあれは・・・』

 

「かまいません、良いからやっちゃってください」

 

『僕は知らないよ、どうなっても・・・』

 

オモイカネが何を言いたかったのかはともかくそういうことらしい

 

「さてアキトさん、おトイレは済ませましたか? 神様にお祈りは? 
 部屋の隅でがたがた振るえて命乞いをする心の準備はOKですか?」

 

答えるべきアキトはすでに放心状態だ

 

「では教育してあげましょう、本物の嫉妬とラブラブ(笑)というものを」

 

 

 

 

ドナドナド〜ナドォ〜ナ〜、アキトをの〜せ〜て〜♪
何やらBGMを口ずさみながら影から見守っている一団が居る、某組合の主要メンバーだ

 

「なあ・・・、俺達勝ったんだよな?、あいつにギャフンと言わしたんだよな?」

 

「何か・・・彼に良い思いをさせているだけな気がするんですけど・・・」

 

「艦長〜(泣)」

 

「イヤーさすがはテンカワくんだ、まさかこんな結果になるとは・・・(怒)」

 

「(気を取りなおして)ところで会長、
 第2弾は女性関係を中心にした暴露本になるんじゃなかったのか?」

 

「ああ、それならオブザーバーからの助言にしたがって、方針を変えたよ
 一気にとどめを刺すより、じわじわ追い詰めるほうが僕らの気も晴れるというものだろ」

 

「オブザーバー、そんなのいたのか?」

 

「ああ、実はこの企画はその人物の提案なんだよ、西欧方面出向時代の彼をよく知る人物で、
 大変な切れ者さ」

 

「どうりでアカツキさんの企画にしては、隙が無いと思いました」

 

「マキビ君・・・君も言うね(苦笑)」

 

 

 

 

 

 

 

ブリッチでは提督に昇進したシュン隊長が何やらご機嫌な様子で読書などしている

 

「隊長、何やらご機嫌ですね? 何か良いことでも合ったんですか?」

 

「おお、カズシか、何ちょっとしたいたずらが成功したんで気分が良いだけさ」

 

付き合いが長い為だろう、カズシには彼の微笑の裏に何か黒いものが見えたようだ

 

「余りやり過ぎないようにしてくださいよ、俺はどうなっても知りませんからね」

 

「ああ、分かっているよ、引き際も見分けられんようでは長生きできんからな」

 

 

おわり

 

 

 

 

管理人の感想

 

 

黒貴宝さんからの投稿第二弾です!!

・・・本当に、手当たり次第だなアキト(汗)

何だか自業自得と思えてきたぞ(苦笑)

それにしても・・・さり気無くバイザーを渡すあたり、既に意識的にしてないか? おい?(笑)

もしかして、既に俺の予想を超えている?

・・・流石だぜ、テンカワ アキト。

作者すら騙すとは・・・な。

 

それでは黒貴宝さん、投稿有り難う御座いました!!

 

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