時ナデ・if
<逆行の艦隊>

第1話 『戦場』に踊るモノ・その2






電子作戦艦<ビスカリア>

艦橋




一度指令を出してしまえば指揮官にできることなどそう多くはない。

細かな戦闘指揮にまで口を挟むのは、階級の持つ組織的な意味を失わせかねない。

それを理解しているからこそ、クロフォード少将はただ黙って戦況の推移を見守っていた。



ビスカリアがその能力を注ぎ込んで作りあげた俯瞰図は艦隊の状況を的確に捉えていた。

恐らく、まともな作戦家ならさじを投げていたに違いない。

戦艦だけでも敵は倍の数がある。

唯一幸いと言えるのは、チューリップがないためにこれ以上は増えない事くらいだが、

それは同時に敵はこれで十分と考えているからだろうと推測できる。

第1艦隊の火星会戦での大敗北を考えるなら確かにそうだろうが、

今回はそれなりに時間があったのが幸いした。



『殴られっぱなしで済ませるものかよ』



参謀長のササキ・タクナ大佐はそう言って凄絶な笑みを浮かべた上官を見つめていた。



ササキ・タクナ大佐とファルアス・クロフォード少将の付き合いは長い。

彼がまだ少尉候補生だった時に良き先輩としてアドバイスをくれたのがファルアスだった。

その時のファルアスは特務大尉。

簡単に言って軍の特殊部隊員の1人だった。

しかもあまり表沙汰にできないような部隊の。



それをタクナが知ったのは彼自身もその特殊部隊に抜擢され、

部下と上官という関係で再会してからだった。

以来、その関係は10年にも渡って続いている。

仕事中は部下と上官、プライベートでは昔のように後輩と先輩の間柄で。



そんな彼だからこそ、先程のムネタケ大佐とのやり取りも意外とは感じなかった。

むしろ、あそこで殴り倒さなかっただけ性格が丸くなったかもしれない、とさえ思った。



彼から見てファルアス・クロフォードという男は、とてつもなく有能だった。

贔屓目かもしれないが、統合的戦略シュミレーションで現役の将官を完膚なきまでに

叩き潰したこともあるのだから、少なくとも兵士よりは指揮官に向いているはずだ。



もっとも、その過激とも言える性格のせいで大いに出世は遅れたし、こんな実験部隊に飛ばされたりもした。

本人はむしろ楽しんでいるような節もあったが。



何にしろ、並みの男ではない事だけは確かだ。



「機動部隊の展開状況は?」



「正規空母は5分前に完了。 ただ、改装空母の方はあと7分はかかります」



正味12分の差。

1分1秒を争う機動戦でこの差は致命的となりかねないが、

練度の差、と言うよりはカタパルト装備の有無である。

やはりこの辺の差は大きい。



1艦隊いっかんたいからも6隻分の機動部隊が展開しています。

 ですが、すべて旧式のデルフィニュウムです」



「こちらからも部隊を出すさ」



「はい。 直掩を残して後は全力攻撃ですね」



それ位のことは確認するまでもないだろうが、

あえてそう言ったのはこの場には彼らだけでなく、

何かと口を挟みたがる第1艦隊の参謀たちも居るからだ。

ちなみにその筆頭はムネタケである。



まったく皮肉な話だが、

彼らは同時に味方とも戦わねばならなかった。



指揮権を一任されたとは言え、共同作戦を行っている第1艦隊の参謀たちの意見を

まったく無視するわけにはいかないからだ。



「それじゃあどうするわけ? こっちは戦艦くらいしか出せないわよ」



明らかに嫌味な口調でムネタケが言う。

こちらに戦艦がないことを揶揄しているのだ。



「ならばそれを借りうけたい。

 頼む、ムネタケ大佐」



あえて淡々とササキ大佐は返した。

こちらのプライドなど実際に命を懸けて戦っている者達の苦労に比べれば安いものだ。

土下座しろと言われれば躊躇なくそうしただろう。

それが副官でもある彼の仕事だ。



「ふん、いいわよ。

 その代わり、戦隊指揮はあたしが執るわ」



「……いいだろう」



しばらく考えてクロフォード少将は答えた。

微かに苦渋を滲ませた表情で。



ムネタケはそれを満足そうに受ける。



こんな場所でなければ殴り倒していたかもしれない。

やりきれない怒りを押し込めつつ、ササキ大佐は任務へ戻った。



今は何よりも生き残る事、守り抜く事こそが最優先だ。

そう自分に言い聞かせ、同時にそれすら理解していない参謀連中に内心で罵声を上げながら。





○ ● ○ ● ○ ●





機動母艦<クリナム>所属

連合軍第436機動小隊

<デルフィニュウム> ムラタ・シゲアキ中尉機





彼がビスカリア艦橋でのやり取りを知る事ができたとしたら、どんな反応を示しただろうか?

幸い、と言っていいものか、彼はそんな事を知りたいとは思わなかったし、知るすべもなかった。



彼が求めたのは生き残る術。

旧式とは言え、このデルフィニュウムはそのための武器であった。



パイロットスーツは重く、重厚な印象を受けるヘルメットからはいくつものチューブが伸びている。

正面のウインドウとヘルメットのバイザーに投影された情報を的確に読み取り、

最適と思われるコースを選択していく。



今回、彼らに与えられた任務は対艦攻撃。

大型対艦ミサイル2発を搭載しているために動きは鈍い。



その為にエステバリス隊が護衛についていいるが、どこまで効果があるかは疑問だ。

何しろエステは外部からのエネルギー供給がなければ5分と活動できない。

バッテリーを付ければ伸ばせるものの、足が短いと言う欠点に変わりはない。



AGIのスノーランドもその点は同様だ。

確かにジェネレータをオミットすることで機体の軽量、コンパクト化は可能になった。

小型の機体にも関わらず高出力を発揮できるのも良い。

しかし、機動兵器の攻撃可能範囲は恐ろしく狭まってしまった。

装甲の薄い脆弱な空母(正確には機動母艦)が戦艦の射程に入らなければ攻撃隊を出せないようでは

機動部隊の意味が半減してしまう。



だがそれは許容された。

理由はある。

現段階で機動兵器はあくまで補助戦力。

艦隊のエアカバーに使うのが一般的戦術で、それならばエネルギー供給を受けられるため、

エステやスノーランドの方が長時間の活動が可能である。



新型機動兵器に対艦攻撃能力が求められなかったのは

まず第一に、機動兵器で戦艦を沈めることの困難さがある。

大型の対艦ミサイルが当たれば十分沈められるが、その為にはまず敵の護衛の機動部隊の攻撃をを掻い潜り、

護衛艦の対空攻撃を掻い潜り、最後に戦艦自体の個艦防空攻撃を掻い潜らなければならない。

レーダーや射撃システムの発達した昨今ではECMやステルス能力を駆使してもそれはかなり難しい。

もっとも、ディストーションフィールドの登場によって、機動兵器側の被撃墜率が著しく低下したが。



第二の理由として、まったく身も蓋もないが、その方が安上がりだったからだ。

エステバリスは従来機を遥かに上回る運動性能と機動性能を発揮しながらも、コストは半分と言うまさに夢のような代物だった。

限られた予算で装備を充実させなければならない軍にとってはまさに福音。

少しくらいの欠点には目をつぶったのだ。



ムラタ中尉らがデルフィニュウムで対艦攻撃をやる羽目になったのも、

これくらいしか使い道がなかったのと、他に対艦攻撃ができる機体がなかったからという2つの理由からだった。



彼はそこまで新型機について知っていたわけではないが、もしその辺の事情を聞いたらこう言っただろう。

だからその分俺たちが苦労する、と。



「ターゲット確認。 全機続け!」



レーダーに映った駆逐艦に狙いを定めると通信機に怒鳴る。

彼の機体は光の奔流をひきながら更に加速した。



しかし ――



『バッタ、ジョロ合計40機が接近!』



「くそ、護衛の連中は何をしてる!」



基本的に対艦攻撃用の装備を付けた状態では対機動兵器戦闘は不可能と言っていい。

宇宙空間に空気抵抗は存在しないし、ここなら重力も無視できるが、

質量の増加は慣性を増大させ機動力の低下を招く。



それに、デルフィニュウムでは敵機動兵器 ―― その外見からバッタやジョロと呼ばれているそれらに

対抗できないのは過去の戦闘からも明らかだ。

そのために増槽をつけたエステバリス隊が護衛についている筈だった。





○ ● ○ ● ○ ●





機動母艦<神鷹> 所属

教導団第037試験小隊

<プロトタイプ・エステバリス> カンザキ・マモル大尉機




彼らは使命を忘れたわけではなかった。

接近する敵部隊を確認すると、機体の脚部に取り付けられた増槽をバージ、

身軽になったエステはその本来の姿を取り戻した。



「カザマ、ダイゴウジ、応答しろ」



間髪いれずに答えは返ってきた。



『おう、何だ?』



『はい、カザマです。 何か?』



「お前たちは2機でそのまま攻撃隊を援護しろ」



『了解。 成功を祈ります』



カザマはすぐにそう答えてきた。

が、もう1人は納得がいかないようだ。



『ちょっと待った! 敵は――』



「心配ない。 俺たちで片付ける」



『無理だぜ、7機で40機を相手にしようってのか!?』



無理、ときたか。

確かに新型とはいえ無謀と言えるかもしれない。



うん、ヤマ ―― いや、ダイゴウジ、お前は良い奴だよ。

正義を信じ、仲間の為に戦うことを是とする。

人間的には善良に属するんだろうな。

だがな。



「繰り返す。 ダイゴウジ、カザマ両機は攻撃隊の護衛だ。

 敵機は俺たちが引き受ける」



『でもよ ――』



「変更は認めん」



更に言いかけたのを遮る。



「交戦まで1分を切った。 繰り返すが、変更は認めん。

 それとも、これ以上無駄な時間を過ごさせて俺たちを不利にするのか?」



『……了解。 幸運を祈る』



この一言は効いたらしい。

ダイゴウジが苦しげに応じる。



『ただ、オレよりカッコいい死に方しないでくれよ!』



「おう、祈ってくれ。 まだ死ぬつもりはないしな。

 また会おう」



2機のエステが引き返すのを視界の隅に捉えつつ、

カンザキ大尉はさらにスロットを押し込み、機体を加速させた。



バッタを照準に捉えると引き金を絞る。

軽い反動と共にラピッドライフルから高速の徹甲弾が吐き出される。



1000メートルは離れているバッタの群れが

本当の虫の群れのように分散した。



「攻撃隊に近付けるな!」



『了解!』



残った7機のエステはさながら何時の意思で統一された一体の生物であるように

一糸乱れぬ編隊機動で敵部隊に襲い掛かる。



無音の宇宙空間に戦いの号砲が響き渡った。





○ ● ○ ● ○ ●





<プロトタイプ・エステバリス> イツキ・カザマ准尉機



反論したいのは自分も同じだった。

ただ、それをしなかった理由は1つ。

彼女は軍人、そして彼は民間人。

この差だ。



『……すげぇ』



繋がったままのコミュニケーター、通称コミュニケのウインドウに映った

ヤマダが感嘆の声を漏らす。

それは彼女も同感だった。



完璧な編隊を組んだ状態で遠距離射撃。

敵編隊が分散したところへ先行した3機が上昇急旋回をかけ、

敵機の誘導を誘った後で反転。

残りの4機が上方から一撃離脱を仕掛けて一撃で8機を撃破した。



IFSはデルフィニュウムにも採用されていたが、

それに遥かに勝る運動性能を持ったエステは人型ゆえの柔軟な機動性能が評価されている。

大気摩擦や重力と言った制限のない宇宙空間では特に。



カンザキ大尉らはそれを実証しつつあった。

更に下から突き上げるような形で3機を屠る。



機体の性能もあるだろうが、それを差し引いても彼らベテランパイロットの

腕は凄まじいものがあった。



そして彼らは視界から消えていった。

攻撃隊から少しでも敵機を引き離す為だ。



それを確認すると彼女は我に返った。

彼らの行動を無駄には出来ない。



「ヤマダ機、私たちは攻撃隊より先行します」



『おう、了解だ。 ただ1つ言わせてもうとな』



「何ですか?」



『俺の名前はダイゴウジ・ガイだ!』





○ ● ○ ● ○ ●





艦隊付近宙域

機動母艦<ハーミス>所属

教導団第053試験小隊

<スノーランド> グレアム・カーク少尉機




全体的に見て味方は優勢だった。

機動兵器単体の性能差もあるだろうが、

敵の思考ルーチンがお粗末だったこともある。

加えてこちらはビスカリアを筆頭にした電子作戦艦から的確な管制を受けることが出来る。



火星会戦では主力と考えられてきた戦艦が欠片も役に立たず、

補助戦力として冷遇されてきた空母と機動兵器が今は頼みとは、なんとも皮肉なことだ。

一時はその建造費から無用の長物と罵られた電子作戦艦は今や切り札だった。



ウインドウに表示されたデータを元に機体に最適のコースを取らせる。

視認は出来ないが、照準が敵機を捕らえたことを示した。



「喰らえ!」



一瞬の迷いもなく引き金を絞る。

コンマ数秒の間を置いてスノーランドの全長ほどもある長大な砲身から

電磁誘導で加速された弾丸が吐き出される。



音速の10倍にまで加速さた徹甲弾の前にはバッタ程度のDF(ディストーションフィールド)では紙も同然だ。

容易くDFと装甲を撃ち抜き、内部回路を破壊しながらめり込み、信管を発動。

一瞬の後、バッタは火球と化していた。



このスノーランドの特徴として、機動兵器では初めてレールガンを装備したことがある。

エステと同じく動力を外部供給に頼ることで機体サイズに関係なく高出力を発揮できるようになったことが大きかった。

また、AGIは技術的に困難とされたレールガンの小型化を成し遂げたのだ。



ただ、“小型”とは言ってもその全長は6m。

つまり機体と同じくらいで、パイロットの評判はあまり良くない。

重力波エネルギー変換ユニットに直結したケーブルの存在もあって、取り回しも難しい。

重力下での使用はほぼ不可能だった。

早い話、重たすぎて腕にかける負担が半端ではないのだ。

複雑な機構ゆえの整備性の悪さもあって、この武装は整備が完璧に得られる状況で、

かつ宇宙空間でのみ使用可能というえらく半端な物となってしまった。



しかし、条件さえクリアーできればスノーランドの優秀なセンサー系もあって今のように

遠距離狙撃の一撃で敵を撃破できた。

コンデンサのチャージに時間がかかる為、それほど連射性能は良くないが、

それを補うために左腕にマシンキャノンが固定兵装としてある。

運動性能はエステに劣るとは言え、デルフィニュウムよりは上だし、

加速性能ではエステより勝るのだ。

一撃離脱の戦術を取るならバッタやジョロを十分圧倒できる。



ただ、エステ以上にエネルギーを喰うため、エネルギー供給範囲から出て戦える時間は限られる。

外部バッテリーや増槽程度ではレールガンの使用も不可能だ。



様々な欠点はあるものの、それは運用を練ることで解決していた。

今回に限って言うなら、スノーランドは直掩にのみ投入し、

攻撃はデルフィニュウム、その護衛はエステバリス、といった具合に。



しかし、機動部隊が優勢といっても、艦隊そのものは相変わらず危機的状況にある。

戦艦の主砲は通じないのだから、敵艦を攻撃できる手は限られてくる。



機動兵器による対艦攻撃もその残された手段の1つではあるが、

どこまで戦果を挙げられるか疑問だ。

決定的な火力が不足している。



それをどう補うつもりなのか?

そもそも敵のバーリアーを突破できるのか?



疑問と不安は尽きないが、それは自分の考えることではないと割り切る。

それ以上に敵の攻撃が烈しくなってきていた。

余計なことを考えている余裕はない。



「くっ! きりがない!」



接近してきたバッタからのバルカンが脇を掠める。

直撃してもスノーランドのフィールドなら弾いただろうが、やはりかわす。

そして機体の左腕に固定されたマシンキャノンを向け、引き金を絞った。



曵光弾、徹甲弾、焼夷徹甲弾、炸裂弾といった数種類の弾丸が効果的な配列でブレンドされ

紙屑のようにボロボロにバッタを撃ち抜いた。



その残骸を蹴り飛ばし、反動を使って距離をとる。

一瞬後にはそれは残骸から火球へと変わっていた。



再びレーダーを確認、周囲に敵影なし。

が、次の迎撃指示はきていた。

休む暇もない。



「ポイントを移動する。 全機続け」



部下の無事を確認するとそう告げる。

完全に思考を切り替え、戦うためのマシーンとなる。



自分はパイロットだ。

そう、自分には自分の仕事がある。

余計なことを考えるのは艦隊指揮官の仕事のはずだ。



カーク少尉は自ら定義したようにあくまでパイロットだった。

だから彼は気付かなかった。

艦隊が盾にしている岩礁帯域、その中に小惑星や岩礁、残骸以外のモノが漂うことに。

そして、それを愛機のレーダーは捉えていなかったことを。





<続く>




あとがき:

はぁ、機動兵器戦の描写って難しいです。
えらく時間がかかりましたが、第1話その2をお届けします。

実は全体的な技術レベルを上げています。
スノーランドがレールガン装備だったり、エステがナデシコ就役の1年以上前からあったり。
これも伏線ってことで。


今回も少し専門用語と機体を解説。

直掩  :艦隊を戦闘機で防衛すること。今回は機動兵器。
ECM :電子対策(Electronic Counter Measure)。 ジャミングのことです。
ECCM:対電子対策(Electronic Counter-Counter Measure) ジャミング対策。

YTM-12<スノーランド>:
AGI(アームズ・ギア重工)製機動兵器。
エステバリスと次期主力の座を争い敗北。
大型大出力のスラスター、小口径ながらレールガンが装備可能など、
エステに勝る部分も多かったが、それ故に高価で整備性も悪く、
カタログスペックでは一流、実用では二流の機体となってしまった。

標準武装 :マシンキャノン(左腕固定兵装)、イミディエットナイフ
オプション:専用レールガン(宇宙戦専用)、ラピッドライフル
備考   :エステと同じく重力波推進、ディストーションフィールド装備。


それでは、次回もお付き合い頂けると幸いです。
感想、ツッコミ、疑問等、募集しています。

結構ツッコミどころ満載なのでちょっとドキドキ(汗







圧縮教授のSS的



・・・おほん。

ようこそ我が研究室へ。

今回も、活きのいいネタSSが入っての、今検分しておるところじゃ。


・・・・・・ほほう、これは珍しい。戦記物じゃな。

ナデシコSSではそう珍しくはないようじゃが、時ナデ系統では初めてではないかの?


・・・ふむふむ。戦記物にありがちな専門用語過多による読み辛さもなく、テンポ良く頁をめくることができるの。

「過去の軍事常識」の象徴としてムネ茸を配することにより、それが覆って行く様が「今現在の戦争」とシンクロしてありありと描かれておる。見事じゃ。


・・・じゃがそれだけに、戦闘描写にもう一歩踏み込みが欲しいところじゃ。

例えば、デルフィニュウムフェーズの前に、こんなシーンを挿入してはどうじゃろうかの?



「くっそー! 未だ発進できねぇのかよ!?」

「落ち着け、ヤマダ。あと4分だ。トイレに行きたいなら止めやしないが、場所取りはしてやらんぞ?」

「違う! 俺の名はダイゴウジガイ!」

「・・・そこにしか反応せんのか、お前・・・」

「しかし、非効率なのは確かですね。攻撃隊の方はとっくに展開済みのはずなのに・・・・・・」

「あちらさんにはカタパルトがあるからな。ないものねだりをしても始まらん」

「しっかしよー。ちょっとくらい待っててくれてもい〜んじゃね〜か?」

「馬鹿。何のためにカタパルトがあると思ってるんだ? それにデルフィニュウムはロケット推進だ。そんな事で推進剤を無駄にしてみろ、後でくびり殺されるぞ?」

「おしゃべりは其処までだ。先頭から順に、発進位置へ!」

「「「了解!」」」

(まったく、少したるんできてるか? ・・・いや、みんな疲れてるんだ。何時まで支えてられるか・・・)



どうじゃな? 直前シーンの「12分の差」を受けて現場の感情を表現し、かつ次シーンでの「護衛は何やってる!」へと繋がって行ったはずじゃがの。

このように、話の『流れ』を作る繋ぎのシーンは、意外と重要なのじゃ。

繋ぎがないと時間軸が実感できないために、各シーンがてんでんバラバラの印象を持たれてしまいがちじゃ。特に、あちこちの場面が同時進行する戦記物では頻出する恐れがある。


では、繋ぎを作るには如何したら良いか?

コツは意外と簡単での、「他の場所への言及」を受ければ良いんじゃ。


今回の例は「改装空母の方はあと7分はかかります」を受けたモノじゃ。

実は他にも、同じようなとっかかりがこのシーンにはあっての。ムネ茸の「戦隊指揮はあたしが執るわ」もそうじゃな。そこから派生して別の流れを作ることも可能じゃ。もしかしたら何処かでムネ茸フェーズが用意されているかも知れんから、参考にしておくれ。


ついでに使用上の注意点も述べておくと、関連性の薄いシーンに繋ぎを入れても効果は薄いので気をつけてくれたまえ。

デルフィニュウムとエステバリスは「攻撃隊とその護衛」と言う関係で、画面を想定するなら同時に映っていることが多いじゃろう? しかしスノーランドは直掩であり、場面転換をしなければ画面に映ることはない。

よって、スノーランドフェーズの前に繋ぎは不要、と言う訳じゃよ。


・・・どうじゃったかな? シーンは有機的に結合してこそ「流れ」となり、ひいては「物語」へと昇華するのじゃ。今回のやり方は一例に過ぎず、まだまだたくさんの手法がある。機会があったら、その内紹介しよう。



さて。儂はそろそろ次の研究に取り掛からねばならん。この辺で失礼するよ。

儂の話が聞きたくなったら、いつでもおいで。儂はいつでも、ここにおる。

それじゃあ、ごきげんよう。