時ナデ・if
<逆行の艦隊>

第13話 第四次月攻略戦・その3




Veni, vidi, vici.

(来た、見た、勝った)




ユリウス・カエサル





○ ● ○ ● ○ ●





戦艦<睦月>





東 槙久の苛立ちはピークに達しようとしていた。



大規模な敵艦隊が動いていることは状況的に疑いようがなかったが、その正確な位置がまったくつかめないのだ。

レーダーはどうしたと思うかもしれないが、レーダーで敵を捕捉できるのは交戦距離まで近づいてからのことだ。

いきなり奇襲を受ける可能性は低下したものの、基本的に宇宙空間は広大だ。

遠距離の索敵はあらかじめ警戒用の人工衛星をばら撒いておくか、艦を使って索敵するしかない。



実際はそれでも足りずに木連では偵察用の無人兵器(バッタの亜種やハチ型など)、

地球側でもEWACS (Early Warning and Control Systemの略。 早期警戒管制機)や

戦術偵察戦闘機<メイヴ>を母艦から飛ばして索敵網を形成していた。



しかし、偵察機のレーダーやセンサーの索敵能力は大型艦艇には及ばず、艦艇のほうは何よりも数に限界がある。

広大すぎる宇宙空間で見つけられるかどうかは運の要素もある。

そして、それ以上に敵の目的を洞察し、動きを読むことが重要となる。



「まだ見つからないのか?」



「はっ……上弦よりの報告では……」



「それはさっきも聞いた! こちらの索敵機はどうしている!」



「……失礼しました。 それもまだ発見には至っておりません」



あからさまに不満げな通信士を怒鳴りつけて彼は再び椅子に戻った。

軍艦の艦橋が狭いと言うのは仕方がないとは思うが、苛立ちを発散する術がないと言うのも考え物だ。



槙久の計画(?)では、敵艦隊はまっすぐに月を目指してくるはずだった。

そこを月防衛艦隊の総力を集結して待ちうけ、艦隊決戦で打ち破る。



事前のスパイからの情報では敵の戦艦は新型と改修型を含めた40隻前後。

対するこちらは乗艦の睦月を含め、ヤンマ級無人戦艦を中心とした戦艦50隻。

たかが10隻の差と思うなかれ。

『兵力の自乗が戦力に相当し、兵力の消耗は両者の自乗の平方根で求められる』という

ランチェスターの法則に単純に当てはめた場合、

兵力の差が5:4だと、戦力の消耗は“5×5−4×4=9”で、この平方根をとると“3”。

つまり“5”の側がまだ“3”の余裕を残すのに対し、“4”の側は文字通り全滅してしまう。



これはあくまで単純化した式であり、実際は戦術の差や兵力の質によってかなり結果は変わる。

とは言え、ゆうがお級とヤンマ級の性能は大差ないため、正面から撃ち合えばこれと類似した結果になるだろう。

さすがに全滅するまで戦い続けるなど物理的にも精神的にも無理だから、兵力の半数を失った時点で撤退するか、

酷ければ壊走するかだ。



だから槙久はほとんど勝利を確信していた。

しかし、敵艦隊を見つけないことには根本的に戦いようがない。

彼は派手な戦闘に目を奪われて、索敵や情報戦の重要性を見落とすいい例だ。



槙久にとって待つ時間は苦痛以外の何物でもなかった。





○ ● ○ ● ○ ●



第11独立艦隊(カシワギ艦隊)旗艦

戦艦<ドレッドノート>






カシワギ・ケンジ少将はかねてから自分の処遇に悩んでいた。



いや、別に待遇に関して不満があるわけではない。

第1艦隊の同僚の多くが火星会戦での大敗北の責任を取らされて(一部はスケープゴートとして)更迭されたことを考えれば、

今の上官であるクロフォード中将は可能な限りの温情処置を与えてくれたと考えられる。

降格もなく(実際は降格されたあとに昇格された)、この機動艦隊の中で戦艦隊を任せてくれている。



もちろん本音を言えば生粋の鉄砲屋(砲術の専門家のこと)である彼は敵艦隊との壮絶な艦隊決戦を望んでいた。

無残に成す術もなく火星で散華した同僚や部下の仇討ちをしたいと言うのもあった。



しかし、第1機動艦隊は機動母艦が戦力の中心であり、戦艦はその護衛でしかない。

もちろん機動部隊の重要性は彼なりに理解していた。

地上では戦艦よりも機動兵器同士の戦闘が主になるからだ。

それに、無人兵器から戦艦隊を守るという役割もある。



意外かもしれないが直接防御力という点では意外と機動母艦は優れている。

戦艦ですら重装甲を持たない昨今で、直接的な防御力を決めるのはDFの出力だった。

機動母艦はグラビティブラストにエネルギーを回さなくてすむ分をDFと推進に回している。

だから基本的に同じエンジンなら機動母艦のほうが速力も速く、DFの出力も高い。



だが、直接の撃ち合いでは機動母艦は脆い。

戦艦の砲力に対して反撃の術がないからだ。

目の前に敵がいる時に悠長に艦載機を発進させている暇などない。

だからあらかじめ戦艦隊や護衛艦艇に守られながら戦う。

戦艦隊もエアカヴァーなしでは戦えないから、一種の共生関係とも言えるかもしれない



それでもカシワギは自分の中に何かわだかまりがあるのを感じていた。

何か、くすぶり続けている何かがあった。

理性とはまた別のその何かは彼を苛み、苦しめた。



第1艦隊時代の同僚の墓を訪ねるたびにそれは熱を持った疼きとなった。

部下の遺族に頭を下げながら、人殺しと罵倒され、夫を、息子を、父を帰してくれと哀願された時、

深い哀惜とと共にそれは燃え上がった。



――― それは『憎悪』と呼ばれるモノだった。



憎い。

俺をこんな状況に追い詰めた奴らが。



憎い。

大切な仲間を殺した奴らが。



憎い。

何よりも、無力だった己が。



だからこの任務を告げられた時、カシワギは狂喜乱舞しそうになった。

辛うじて自制したものの、恐らくこの感情は皆、気付いた事だろう。



正気とは思えないほど生還率の低い任務だったが、むしろ彼は感謝した。



木星蜥蜴どもを殺せるなら大歓迎だ。

奴らを倒して、殺して、駆逐し、殲滅するまで死ぬつもりはない。

生還率が低かろうと、そんな無味乾燥な数字は無視できる。



それが人間だ。

血の通った、貴様らのような機械ではない、人間だ。



だから、待ってろ糞野郎ども。



「目標地点に到達。

 あとはゼロアワーまで待機するだけです」



「了解、艦長。

 奴らに、くそったれの蜥蜴野郎どもに人間の意地を見せてやる時だ。

 全員気を引き締めていけ」



艦橋の全員が傾注する中、カシワギは平静な声で宣言した。

今はまだ待つ時間だ。

熱狂はいらない。



かわりに静かな闘志と憎悪を燃やす。

この艦には第1艦隊からのベテランが揃っていた。

同時に彼らも大なり小なりカシワギと同じ想いを抱いている者たちだった。



「俺たちは2年待った。

 耐え難いほどの汚辱にまみれ、それでも生き恥を晒してきた御一同」



静かなものだった。

カシワギは満足する。

本当によく訓練されている。



宇宙軍の至宝と言うべきベテランたち。

機械化と自動化が進み、今では一握りしかいない本物のプロたち。



「……奴らに戦争と言うものを教えてやるぞ」



「提督に、敬礼!」



艦長の号令で全員が最敬礼をとった。

ウインドウ越しに2番艦のダンテ・アリギエリや他の随伴艦艇の兵も倣う。



彼らにとって、この時の待つ時間は至福だった。





○ ● ○ ● ○ ●





第12独立艦隊(タカマチ艦隊)

重巡洋艦<アルメリア>




すぐ間近には僚艦のコスモスが居るはずだった。

隕石に擬装するためのカモフラージュバルーンによって隠されたその姿は確認できないが、

IFFと衝突防止用のレーダーには確かに応答がある。



「便利やなー。 うちはなにもせんでもいいわけやし」



「お前、いちおう将官だろ」



「うっさいでー、居候」



「艦長だ」



重巡洋艦<アルメリア>の艦橋ではカミオ・ハルコ准将と艦長との間にそんなやり取りがなされていた。

アルメリアは巡洋艦の船体で初めて相転移エンジンを装備したブルースター級の7番艦。

現在はコスモスと共に第12独立艦隊に属し、巡洋艦戦隊の戦隊旗艦となっていた。



重巡洋艦と言うからには軽巡洋艦もあるのだが、実は排水量などはほとんど変わらない。

単に呼び分けのために武装で区別しているに過ぎない。

すなわち重巡は砲撃戦メインで、軽巡はミサイル戦メインと。



アルメリアは相転移エンジン1基に核パルスエンジン4基を搭載し、艦の外周に中口径グラビティブラスト4門と

艦首にも30cm六砲身レールガン ――― つまり、ガトリング式のレールガンを装備していた。

その他にも艦首には6門のミサイル発射管が装備されており、200m級の船体には不釣合いなほどの重装艦だった。

それでも駆逐艦と同程度の加速力と機動性は確保されている。



反面、武装と機動力を優先したためにDFの出力は弱く、戦艦クラスの大出力ならレーザーでも貫通できた。

ようするに、無人艦隊に多く含まれる駆逐艦に対抗するための艦である。



「誰のコネで艦長にしてやったと思ってるん?

 ぷーたろが」



「俺は元パイロットだぞ。

 『人形遣い』とまで言われたんだ」



「で、訓練中にヘマやらかして第3艦隊から放り出されたと」



「お前が!

 お前が突っ込んできたからだ!」



「巡洋艦にはねられたんに、よう無事やったな」



「お前が言うな!」



アルメリア艦長のクニサキ・ユキト大佐は本人の言うように元パイロットだ。

第一線で活躍し、その舞うような動きと、優れた編隊指揮で『人形遣い』と称えられたエースだった。

が、出る杭は打たれると言うのが現在の軍組織の悪しき風習であり、彼はとある事件に巻き込まれることとなった。



それは従来型の小・中型艦艇に核パルスエンジンを8基搭載して出力を補い、

ナデシコのようなGB・DFを装備しようと言うどう考えても無謀な計画だった。

当時はAGIもネルガルも戦艦や機動母艦のような大型艦艇にしか相転移エンジンを搭載できずにいた。



その理由は様々だが、大きすぎて大型艦艇以外は搭載できなかったのと、エンジンの製造に手間がかかり、

大型艦艇に優先して積んだらあとには回ってこなかったと言うの主な理由だ。

そんな事情と黒星続きなうえにナデシコにまで防衛ラインを突破されるという大失態を演じた宇宙軍は、

半ば意地と面子だけでこの実験にGOサインを出した。



結果は無残なものだった。

開始早々に暴走した巡洋艦が護衛に当たっていた機動部隊の中に突っ込むという事故を起こし、

最終的に巡洋艦が海面に衝突してバウンド、浜辺で見守っていたお偉いさんを轢きそうになってようやく止まった。

そもそも8基もの核パルスエンジンの同期をとることすら難しいのに、そのうえろくな研究期間もとっていなかったのだ。

これで成果が上がると思う方がどうかしている。

よしんば、これがうまくいったとしても相転移エンジンのかわりとして使えたかは大いに疑問が残る。

エンジンが多いと言うことは、それだけ整備にも手間がかかるし金もかかると言うことだ。



研究の責任者はもちろんクビ。

巡洋艦の側にも重軽傷者多数(幸い死人は無し)。

機動部隊はパイロットはベイルアウトして無事だったものの、高価な機体が1個中隊分12機まるごとおしゃかにされた。

これが俗に言う『第3艦隊事件』の顛末である。



これがネルガルと軍の和解をすすめる原因の一端となったことは言うまでも無い。

この事件を契機に現在は巡洋艦と護衛艦クラスまで相転移エンジンが普及していたが、

木連側は駆逐艦ですら相転移エンジンを搭載していることを考えると、いささか寒い話だ。



いくら技術を手に入れたとは言え、プラントで黙ってても製造される木連と違い、

一から生産ラインを構築し、製造技術を確立させ、生産技術を磨く必要がある地球側ではそう簡単に量産できるものではない。

いくら生産力に優れると言っても、それはどうしようもなかった。



そして、この事件のスケープゴートにされたのが日頃から何かと問題(主に飲酒)を起こしていたカミオ・ハルコ少将(当時)であり、

運悪くその日の護衛にかり出されていたクニサキ・ユキト少佐(当時)だった。



2人は第3艦隊から放り出されハルコは降格された上に左遷ですんだのだが、ユキトは宇宙軍をクビになった。

ユキトはその後、日本全国を放浪しながら人形劇で大道芸人のような真似をしていた。

(ちなみに火星ではメジャーだったIFSを使った無線式操り人形を使用)



最終的には何の縁かハルコの養女に拾われてカミオ家に居候する身となり、

ハルコがミナセ少将の紹介で第1機動艦隊へ異動するまで居候で無職という立場に甘んじる事となっていた。

宇宙軍に復帰した今でも、ユキトはそのことでからかわれていた。



「艦長、機雷散布終わりました」



ある意味不毛な会話に終わりをもたらしたのは副長の報告だった。



「ご苦労。 機雷の動作を確認。

 それがすみ次第、次のポイントへ移るぞ」



「イエス・サー」



敬礼。

再び職務に戻る。



「IFFは正常に働いとる?」



「当たり前だ。 そうでないと、機雷でこの艦ごとドカンだぞ」



「あんたと心中はごめんやで」



「俺だってごめんだ。

 お前が死ぬとあいつがうるさい。

 職務は果たす、戦争には勝つ、お前を連れて帰る、俺も生き残る、給料は多めに。

 このどれも省略する気はない」



「簡単に娘はやらんで」



「簡単じゃなきゃ貰っていいんだな」



そんな2人の会話を聞きながらブリッジクルーは思った。

この人たちなら、そしてこの人たちの下なら自分たちも生き残れるのではないか、と。



彼らにとっては待つ時間は少なくとも退屈はしないものだった。





○ ● ○ ● ○ ●





戦艦<上弦>

―― 機動兵器格納庫




上弦は木連の有人艦の中でも特異な存在といえた。



外観からして他の艦とは違う。

まず特徴的なのが船体を構築する一番大きなパーツ。

4つの円筒状の格納庫だった。



本来は物資の輸送やジンタイプの格納庫として使われるものだが、

この艦ではそこに6m級の機動兵器がすし詰め状態となっている。

一つの筒に一式戦が24機搭載できる。

それが4つで合計は96機。



もともと機動母艦として設計されたわけではないが、これは中々の数字だ。

搭載機数だけ見れば地球側のダイアンサス級にも見劣りしない。



ただ、これで十分かと言われれば首を傾げざるをえないだろう。

敵の機動母艦は事前の情報でも20隻以上が投入されていた。

直掩部隊専門の軽空母まで含めるならかなりの大部隊だ。



とは言え、彼女らには無人兵器もある。

バッタやジョロは無人戦艦にも大量に搭載してきたし、必要とあれば跳躍門から増援をよこす事もできる。

彼女らの役割は艦の直掩と無人兵器と連携しての敵機動兵器の撃破。

無人艦艇はこのさい無視して母艦である上弦の守りに徹する。



「落ち着かない?」



「そうでもない。 ただ、ここの方がいい。

 とっさの事態にも対処できるから」



百華は後ろからの声に動揺した様子もなく答えた。

声の主……万葉はわずかに溜息をついて百華の隣に腰を下ろす。



「みんなは?」



「千沙、京子、三姫は部屋。

 婚約者の写真でも見てるんじゃないかな。

 飛厘は医療班の指揮で大忙し。

 今回は出撃なしだって」



「後任が決まるまではしかたないわ。

 零夜と北斗殿は知らない?」



「……さあ、朝霧と違ってこの艦は広いから」



百華の言葉の意味を悟って苦笑を洩らす。

北斗はまったくの方向音痴で、狭くてほとんど通路の分岐もない朝霧の内部ですら迷っていた。

上弦は朝霧の数倍は大きい。

結果、零夜の案内なしでは一歩も部屋の外に出られないと言う事態になっていた。



「出撃までに格納庫に来れればいいけど」



「……そうね、でも間に合わない方が幸せなことだってあると思う」



「万葉?」



「ごめん、忘れて」



「不安?」



百華の言葉は図星だった。

らしくもなく弱気になっている事は自覚している。



「ねえ、百華は家族のことって覚えてる?」



「覚えてない。 知りたいとも思わなかったし。

 万葉は……少しは覚えてる?」



「少しだけ。 なんていうか、漠然としたイメージみたいなもの」



顔も知らない父親と、温もりだけしか思い出せない母親。

家族と言う概念はいまいち理解できなかった。

自分が家庭を持つと言うことも、母親となる事も含めて。



だからかもしれない。

舞歌や八雲が持ってくる縁談の話をことごとく断っているのは。



「でも、火星で戦って……えっと、なんていうか戦争とか、死を身近に感じたっていうの?」



「何となく言いたいことはわかるよ」



死を身近に感じると言う感覚は理解できた。

百華は優華部隊に来る前は暗殺者として教育を受けてきた。

彼女にとって死は当たり前にその辺に転がっているものだった。

身近に感じたといえばそうかもしれないが、万葉の言いたいこととはまた違う気がする。

だから彼女はそんな曖昧な答え方をした。



「なんかさ、死んだら『生きた証』みたいのは残らないのかなって」



「残らないと思うよ」



事実、自分の周囲で死んでいった人間は何も残さなかった。

もちろん物理的な意味ではなく、精神的な意味だ。

殺した後の死体処理にはなかなか頭を悩ませたものだ。



「そうだよね」



「そうだよ」



特に明確な答えや賛同を求めていたわけでもないだろう。

万葉はまた黙って思考に没頭しているようだった。



そしてポツリと呟く。



「私が死んだら……」



言いかけて口をつむぐ。

笑えるくらいありふれた言葉と思ったからだ。

らしくないと思う。

戦闘前に感傷的になるなんて。



「悲しいと思うよ」



「え?」



「言いかけたことの答え。

 万葉が死んだら悲しいと思う」



それは何となくの想像だった。

何しろ、実際に起こっていないこと、体験していない事なのだから。

だから、それがどんな感覚なのかは想像するしかなかったが、百華はたぶん悲しいと思った。



「友達がいなくなったら、悲しいよ」



だって、前もそうだったから。

たぶん、今度もきっと悲しい。



「ありがとう、百華。

 みんな無事だといいね」



それは難しいんじゃないかと思ったが、あえて口にはしなかった。

万葉もその程度のことは理解しているだろう。



上弦のパイロットは火星でナデシコと戦った面子を除けばほとんど実戦初体験だ。

できすぎた脚本のアニメ(例えばゲキガンガー)でもない限り戦えば確実に死人は出る。

否、ゲキガンガーでさえ激戦でパイロットを失った。



そしてそれと同じことがこの戦闘でも起こることだろう。

しかも、もっと大規模に。

ただ、アニメと違うのは最終回で何の脈略もなく復活しない点だ。



彼女らの待つ時間は、叶うことのない祈りと共に過ぎていった。





○ ● ○ ● ○ ●





第22任務部隊旗艦

電子作戦艦<アルビナ>




それはもう何度目のことだったろうか。



「敵の偵察機らしき機影2」



オペレータの報告と共にウインドウボールの一端に状況が表示される。

すでに艦隊の96%が集結を終えていた。

十分に戦える数だ。



「撃墜しますか?」



テレサ・テスタロッサ大佐が代表して質問する。



電波状態はクリアー。

ECMも位置まではともかく、そこに何かあると言う存在を暴露する事になるのであまり使っていない。

必要な時にのみ短時間使用するのだ。

レーダーも同様だった。



偵察機の進路は確実にこちらを向いている。

このまま行けばかなりの確率で艦隊は発見される。



「撃墜しますか?」



もう一度彼女は繰り返した。

そして彼は全力で考えた。



このタイミングで発見されて大丈夫か?



敵艦隊との距離、方位、攻撃隊の航続距離と速度。

さまざまなファクターを盛り込んだ上で決断する。



「偵察機は撃墜するな。

 頃合だ。 こちらも敵に発見されるぞ」



「了解」



各セクションが再び活動を再開する。

一度決断してしまうと逆に彼のような立場の人間はやることがない。



「順調、と評していいでしょうね、長官」



「長官か。 まだ慣れないな」



第1機動艦隊司令長官、ファルアス・クロフォード中将はそう言って苦笑を浮かべた。

呼んだ方のササキ・タクナ大佐も「そうでしょうね」とあっさり同意する。



「全直掩機に通達。

 偵察機に手出しは無用です。

 それから……」



そこでテッサはちらりとファルアスのほうを見た。

頷く。



「偵察機が発見の第一報を撃った時点で撃墜します」



「無線封鎖を解除。

 各種センサー、レーダー、火器の使用自由。

 攻撃隊に発進準備を下命」



こちらの偵察隊はとっくの昔に敵艦隊を発見していた。

それは偵察機の能力の差と言うより、双方の立場の差によるものだ。



木連は月を守るために布陣している。

当然のことながらチューリップで艦隊を運んでだ。

それはまったく擬装も何もあったものではなく、

月に残っている戦略情報軍のエージェントから情報を得るのは容易だった。

もっとも防衛側がこれ見よがしに艦隊を展開するのは威嚇の意味もあるのだが。



「長官、訓示を行いますか?」



ササキ大佐の言葉に頷く。

艦隊の士気を高めるのも指揮官の務めだ。

ウインドウを開き、告げる。



「兵士諸君。 私が伝えることは少ない。

 諸君らならなすべきことを承知しているからだ。

 守るべきものを理解した上でここにいるからだ。

 だから私はこれだけ宣言する」



いったん言葉をきり、意味を自身でも吟味する。



「我々は来た。 見た。

 そして、勝つ。

 以上だ」



こうして待つ時間は終わりを告げた。

そして流血の時間が始まる。





<続く>






あとがき:

ユリウス・カエサルって言うのとジュリアス・シーザーって英語読みするのと
どっちがメジャーなんでしょう?

さて、ようやく戦闘が開始されます。
はっきり言って長いです。
しかも登場人物多いです。

少なくとも木連側2つに地球側3つの視点はぜったい必須になっているので
あきらめて覚えてください<無理


それでは、次回また。

 

 

代理人の感想

え〜と、第一艦隊生き残りのベテランたちに、重巡の親子漫才と司令長官。

見るからにアレな木連司令官に木連の一般パイロットたちと。

この程度ならどうということもありませんが、

それぞれの場面で時間の経過がはっきりわからないとちょっと読みにくいだろうとは思います。