時ナデ・if
<逆行の艦隊>

第13話 第四次月攻略戦・その4




戦艦<睦月>





敵艦隊発見の報告に槙久は喜びを隠し切れずにいた。

敵艦隊の規模は自軍と大差はない。

ただし、主力を勤める戦艦の数では月防衛艦隊のほうが勝っていた。



それはある意味当たり前だった。

何しろ木連艦隊はチューリップを使って簡単に艦を集められるし、

基本的に無人艦艇なのだから造ってしまえばあとは人の手をほとんど煩わせることなく運用できた。

地球の艦船と違って乗員を集めたり、訓練して慣らしたりする必要は無い。

ほとんど即戦力として使うことができた。

しかも、質はほとんど均一。

戦力としてはかなり使いやすい。



しかも人を乗せないから余剰空間も要らない。

事実、ヤンマ級はゆうがお級やナデシコよりもコンパクトだ。

小型チューリップでもぎりぎり通るくらいなのだから。

しかし、逆にこれがこの戦闘においての一つのキーポイントになったのは皮肉な話だ。



今回の戦闘でもチューリップ(木連側で言うところの次元跳躍門)は2つが参加している。

1つは一番スタンダードな小型。

無人兵器の大半はこれを通り抜けられる。(ナナフシなど一部例外あり)



そして小型チューリップと有人戦艦まで通り抜けられる中型が1つ。

そう、有人艦艇は乗員のための艦橋やら居住区やら生命維持のための諸々の装備を搭載するために船体が大型化していた。

よって小型チューリップを通り抜けられない。



特に今回配備された睦月と上弦は他の有人戦艦 ――― 例えば<夢見月>や<立待月>と比べても一回りほどでかい。

上弦は機動兵器を搭載するための格納庫を4つつけているし(通常は1,2個)、

機動兵器運用のためのリニアカタパルトも2基増設されている。

でかくなって当然だ。



また、睦月は睦月でこれもまたいささかキレたコンセプトの元に作られていた。



「地球人どもめ。 来るなら来い!

 この睦月の自慢の逸物で目にモノ見せてくれる!」



槙久がそう豪語するのも頷ける。

睦月は完全な砲撃艦として建造された唯一の有人艦だ。

通常なら2個は装備する格納庫をとっぱらい……当たり前だ、格納庫はジンタイプを搭載するための物なのだから。

槙久はジンタイプを使う気にはなれなかった。

彼はパリパリの艦隊決戦主義者である。



その代わりに大口径の重力波砲(地球で言うところのグラビティブラスト)を単装4基4門装備している。

さらにそれでも足りぬとばかりにリニアカノンまで単装で1基。

当然、そのままでは機関出力が足りないので相転移エンジンを2基追加してまでだ。



砲戦力だけならナデシコやドレッドノートすら上回りかねないとんでもない艦だった。

木連の艦艇は基本的に各部がモジュール化されていて、組み合わせ次第でかなり無茶もできるからこそ実現した艦だ。

地球側が同じようなものを作ろうとしたら、設計から初めてどんなに早くとも1年はかかる。

それを木連では4ヶ月でやってのけた。



総合的な生産力ではともかく、まだまだ一部の技術力では木連が上回っている証左だ。

特に戦艦の分野では戦闘力はともかく、ゆうがお級では生産性の面からヤンマ級には勝てないのは明白だった。

(だからこそ単艦での戦闘力を高めたドレッドノート級のような“無駄に凝った”艦が登場した)



木連にしても総合的な生産力では負けているから、

居住区や諸々などで手間のかかる有人艦艇を量産できないと言うのも事実だが。

まあ、量産ができないから逆に開き直って睦月や上弦のような実験的な艦も造れたのも同様に事実。



しかし、ここで問題発生。

夢見月などですでに判明していたことではあるが、規格外の2艦は小型チューリップを通り抜けられなかった。

無理をすれば通り抜けられない事もないかもしれないが、あえて擬人化して表現するとこうなる。



『いやぁ、そんな大きいの入らないよぉ!

 あたし裂けちゃう! 裂けちゃうってばぁ!』



以上。

ことの深刻さが伝わったと思う。

何事も無茶はいけない。



だったらもっと大型のを使えばいいじゃないかと思うだろうが、中型以上のチューリップは数が限られていた。

『そもそもチューリップとは何ぞや?』と言う疑問の答えも関係している。



そもそもチューリップは正確には『CHULIP』と表記する略語で、

CellularHangover from Unknown Labyrinthine Intelligence of Prihistorical age、

直訳すると『先史時代の謎めいた未知の知性が残した細胞質の遺物』の頭文字をとって『CHULIP』と呼ばれている。

まあ、どう考えてもこの英語は英語に良くある略から考えて元を後からこじつけた代物にしか思えないが、

注目すべきは『細胞質』という言葉。



チューリップは成長するのだ。

植物のように株分けや種から新たなチューリップが生まれ、成長する。

と言っても、やはり植物のようにほっとけば育つようなものでもなく、きちんと栄養を与えて育てる必要がある。

特殊な電磁波と莫大なエネルギーを時間をかけて吸収してチューリップは育つのだ。

もちろんエネルギー供給は相転移エンジンで行う。

そうやって手塩をかけて育てられたチューリップは立派に出陣の時を迎えるのである。



ちなみに『種』と呼ばれる直径1mほどの状態から小型まで成長させるのに半年はかかる。

中型に育てるのはさらに3ヶ月。

大型まで成長させるのには丸1年かかった。



はっきり言って時間との勝負であるこの戦争でそんな悠長な事はしていられない。

時間が経てば経つほど不利になるのは木連の方だった。

何しろ戦時状態は物資の消費が凄まじい。

軍需に回すいくらかでも民間の需要(主に食糧生産)に回せれば生活がどれほど楽になる事か。

下手をすれば軍需に生産力を注ぎ込むあまり、自滅しかねない危険性もあった。



そう言うわけで木連には中型チューリップを育てている余裕などない。

現状で残っているものを使うしかなかった。

しかし、その大半は地球か火星に投入されている。



しかも、重力に魂を引かれた……もとい、重力の鎖に囚われたチューリップはそう簡単には宇宙に戻せない。

だから今回の戦闘に投入できたチューリップは中型1つと小型1つだけだった。

これでも十分と言えばそうなのだが。



「敵艦隊は射程ギリギリでウロウロしていますが?」



「ふっ、この艦隊を見て及び腰になったか。

 やつらの鼻先に一発お見舞いしてやる。

 射撃用意!」



「しかし、この距離で命中は……」



「腰抜けどもに活を入れてやるだけだ!

 早く準備しろ!!」



「はっ、了解しました」



計100隻を越える艦隊が一斉にエネルギーチャージを開始。

それを察知した敵艦隊は慌てて回避行動に入った。



「……無様な」



侮蔑の色を隠すことなく呟く。

やはり地球人は卑怯で臆病者と言うのは本当らしい。

戦いに臨んでこの体たらく。



「3,2,1,はっ ――― 」



砲撃管制官の声はそこで止まった。



ほとんど同時に漆黒の闇よりもさらに深い闇色の濁流が空間を歪めながらはしる。

それは膨大なエネルギーで収束された重力波の一撃だった。

強固なDFの防御も打ち砕き、圧倒的な破壊を撒き散らしながら虚空へ消える。

一瞬遅れていくつもの火球が生じた。



――― しかし、それは木連艦隊のほうで起こっていた。



「何が起こった!?」



「待ってください! 今……わかりました!

 敵戦艦です! ちくしょう! どこに潜んでたんだ!?」



「敵戦艦だと!?」



「あっ、数2! いえ、戦艦2、巡洋艦6、駆逐艦10!」



即座に映像が来る。

それは……





○ ● ○ ● ○ ●





戦艦<ドレッドノート>





擬装用に隕石の外見と質感、そしてレーダー反応を備えたバルーンを脱ぎ捨てたそれは怒りに打ち震えていた。

これまで受けた恥辱、屈辱、それら全てを晴らすべくしてそれはここに存在した。



連合宇宙軍の誇る最新鋭戦艦<ドレッドノート>。

英語では『恐れを知らぬもの』と言う意味をもつ。

300mを越えるその巨躯が猛然と速度を上げて敵艦隊へ吶喊していく。

宇宙戦艦にとっては危険なほどの至近距離だった。



「第二斉射用意……てぇーッ!」



再び2隻のドレッドノート級戦艦が咆哮する。

船体中央に据えられた三連装大口径のグラビティブラストから収束された重力波が発射された。



そのうちに圧倒的な破壊の圧力を備えた漆黒の閃光に飲み込まれて、2隻のヤンマ級戦艦が堪らず爆沈。

威力を減じながらもさらに突き進んだそれに巻き込まれて駆逐艦と無人兵器が次々に崩壊して爆散。

たった2隻の戦艦による攻撃とは思えないほどの威力だった。



「……さすがだな、ドレッドノート」



ACDCでカシワギ・ケンジ少将は呟いた。

その瞳はただ一点を見据えて動かない。

それは他のスタッフも同じことだった。



ACDCには艦内外のあらゆる情報が集中する。

そしてその中には敵艦隊の情報も含まれていた。

戦艦だけでもまだ40隻以上は残っている。

駆逐艦も含めれば100隻は下るまい。

対するこちらは戦艦2隻と重巡洋艦、軽巡洋艦、護衛艦が2隻ずつに駆逐艦10隻の計18隻。



……勝算?



なくはない。

ドレッドノートとダンテ・アリギエリは精鋭中の精鋭。

ヤンマ級のグラビティブラストなら正面からでも弾くほどの高出力ディストーションフィールドを備えている。

そして機動力は駆逐艦と互角に渡り合えるし、主砲のグラビティブラストはナデシコ級に匹敵する。

彼らは『真打の攻撃隊』が到着するまで時間を稼げばよい。



そしてこの奇襲。

基本的に正面に向かってしか砲を撃てない現在の艦艇では、こちらを攻撃しようと思ったら回頭せねばならない。

それを悠長に待っててやるつもりは毛頭なかった。



「グラビティブラストチャージの時間はレールカノンで埋めます」



砲術参謀の言葉に無言で頷いて了解を示す。



敵は至近だった。

したがって、グラビティブラストよりも遅い(と言っても超音速ではある)レールカノンでも

発射から敵艦に到達するまでのタイムラグは無視できるほど少なくなっていた。



「レールカノン用意! グラビティブラストとの交互射撃に切り替えるぞ!!」



艦長の命令がとぶ。



交互射撃とは連装砲なら1門ずつ発砲する事で発射間隔を短くする(かわりに一回の攻撃力は減少する)方法だが、

三連装グラビティブラストと単装レールカノン2門の2種類の主砲を持つドレッドノート級では

その2種類の主砲を交互に使う交互射撃もできた。

ただし、グラビティブラストとレールカノンでは弾道特性や敵艦までの到達時間に差があるので

よほど至近でなければ命中精度に差が出てしまう。



が、幸いにして今は敵艦隊のど真ん中に向かって突撃を敢行中。

見渡す限りの敵が手を伸ばせば届かんばかりの距離にいた。



「レールカノン、徹甲弾装填!」

 諸元入力良し!」



「誘導帯、励磁完了。

 発射準備良し!」



「てぇーーッ!」



双胴に分かれた船体に埋め込まれた誘導帯から41cm砲弾が超音速で発射される。

それは恐るべき精度で回頭中のヤンマ級に襲い掛かった。

基本的に実体弾には弱い性質を持つDFがその莫大な運動エネルギーの塊を受けきれるはずもなく、

わずかな抵抗を示したもののあっさりと貫通を許した。



ドレッドノートから放たれた41cm砲弾のうち一発は艦首を貫通し、右艦首のインパクトレーザーを使用不能にするに留まったが、

二発目が命中したのはヤンマ級にとっては最悪の場所だった。

双胴の船体の間に挟まれるようにして置かれていたグラビティブラストを直撃した砲弾は、

その内部を食い破りながら船体の半ばまで食い込み、遅発信管を作動させた。



内蔵された炸薬が化学エネルギーを開放し、内部の機器を吹き飛ばしていく。

それだけならヤンマ級は戦闘力を喪失しただろうが、船体そのものは耐えられたはずだ。

無人戦艦であるヤンマ級は船体の内部はほとんど真空状態にすることで延焼を防げたからだ。



しかし、男たちの執念がこもった砲弾はそれだけで終わるのを良しとはしなかったようだ。

爆発によって吹き飛ばされたハッチの一部がミサイル格納庫に穴を開けたのだ。



そこからの出来事は一瞬だった。

格納庫内のミサイルが立て続けに誘爆を起こし、砲弾の炸裂とは比較にならないほどの爆発を引き起こす。

内部からの圧力に装甲がめくりあがり、亀裂の入った船体は接合部の脆弱な部分から崩壊を起こし、直後に大爆発を起こした。

弾薬庫誘爆による典型的な爆沈だった。

被害はそれだけに留まらず、至近距離での爆発に晒された駆逐艦も数隻が巻き込まれて大破、もしくは沈没。

飛び散った破片によって損傷した艦は10隻以上にのぼった。



同様にダンテ・アリギエリの放った砲弾も回頭が間に合わなかったヤンマ級の横腹に突き刺さり、1隻を撃沈した。

これでドレッドノート級戦艦2隻による木連の損害は戦艦6隻、駆逐艦10隻、無人兵器多数となった。



怒れる男たちの戦いは続く。





○ ● ○ ● ○ ●





怒りに打ち震えているのはこちらも同じことだった。

奇襲を受けたとはいえ、瞬く間に16隻を撃沈されたのだ。

しかも、実質たった2隻の戦艦に。



「相手はナデシコではないんだぞ!

 何をしているか!!」



「迎撃は!?」



「当たり前だ!

 すぐに沈めろ!」



「しかし、それでは正面の敵に横腹を晒すことになります」



「バカか貴様は! こちらの戦艦隊は敵のそれより数で勝っているのだぞ!

 せいぜい10隻でも迎撃に振り分ければ良い。 それでも足りなければ跳躍門を使え!」



「りょ、了解」



………何たるざまだ!



槙久は喚きたくなるのを必死に堪えていた。

いくら奇襲を受けたとは言え、数で勝るはずの自軍が完全に翻弄されていた。

心理的動揺から、部下の反応も鈍い。

彼らは心理的にも物理的にも完全な奇襲を受けていた。



理由はわかっている。

第一に錬度の不足。

今回の戦闘が初陣と言う者が大半だ。

優人部隊ならともかく、書類仕事ばかりやっていた連中にいきなり艦隊戦をやらせると言うことにそもそも無理があった。



第二に敵艦隊の錬度の高さ。

間違いなく連中はベテランだ。

しかもそんな連中が決死で挑んできている。

手強いのは当たり前だった。



そして第三に敵は2方向から攻撃を仕掛けてきた。

もともと数が少ないのにそれをさらに分散するとは詭道もいいところだが、それ故に完全に意表を突かれた形だ。

こちらもそれに対して戦力を分散して当たらなければならない。



しかし解せないのは、二方向から攻撃する時は正面からの方を助攻とし、

主攻は火力が集中し、防御も厚い正面を迂回して側面から攻撃するはずだ。

となれば、どこかに敵の主力部隊が別にいるのか?



この時の槙久はかつての“冴え”を取り戻していた。

しかし、“冴え”は取り戻してもプライドはそのままだ。



「上弦を呼び出せ」



だから彼は高圧的にこう告げた。





○ ● ○ ● ○ ●





『敵の主攻は別にいるかもしれないから、もっとよく探せ』

槙久の要求を要約するとこうなる。



「探すってどこを!?

 戦闘は開始されているのでしょう?」



敵艦隊と接触したと言う報告を受けて全力で本隊の方へ引き返している最中に再び出た索敵命令に

舞歌は不服と疑問を投げかけた。



<准将、敵の攻撃はいかにも中途半端だ。

 奇襲で大きなのは心理的動揺だ。 それにつけこんでこそ効果がある>



それに関しては全く同感だったが、だからと言って納得したわけではない。

今までも苦労してさんざん索敵を行なってきたのに、敵艦隊の影も見つからなかった。

半ばうんざりし始めた頃に本隊の索敵機が敵を発見したとのことで、

何のために先行して索敵を行なっていたのか分かったものではない。



「奇襲に成功したにも関わらず、敵は積極的攻勢には出ていないのですね?」



<そうだ。 正面の艦隊が主攻だとしたら、奇襲に乗じてしかるべきだ。

 しかし、そうした様子はなく、同時に正面に主攻を置くのは戦術的には誤りだ>



舞歌は同意を示すために頷いた。

同時に東 槙久という人物の評価を少し改める。

高慢で嫌味なだけの無能野郎かと思っていたが、それなりに頭は切れるらしい。

現在の木連軍の生みの親と言われる父の補佐をしていただけはある。



「それでどこかに別働隊がいると?」



<そう考えられる。 だからお前の部隊で索敵を行なってもらいたい。

 そもそも、そのために貴重な兵力を裂いたのだからな!>



前言撤回。

やはり嫌味な莫迦親父だ。

しかし、言うこと自体はそれなりに説得力があった。

それに相手が上官である以上、命令と言われればやらぬわけにはいかない。



「琥珀、翡翠。 事前情報を再度調べて別働隊の可能性を探ってちょうだい」



「舞歌さま、そのことなんですけど」



今回から正式に参謀として参加している琥珀が発言する。



「どうやら敵艦隊の中には例のナデシコ級2番艦が存在しないようです」



一瞬、思考が止まる。



「何ですって!?」



思わず叫んで琥珀ににじり寄っていた。

どうせ木連の戦艦はどれも狭い艦橋しか持っていないので、すぐそこだったが。



「名前は確か<コスモス>とか言う……」



「そんなことはどうでもいいのよ。

 それよりそれ本当!?」



「ドック艦と言うことですから、後方に下がっているのかもしれませんけど、

 とにかく正面及び奇襲の艦隊の中にも姿が見受けられません」



確かに事前情報ではナデシコ級の2番艦はこの戦闘に参加しているはずだった。

あれだけ目立つ艦を隠し通せるものでもないし、第一に隠す意味は……



「……しまったわね。 そっちが本隊ってこと」



2番艦のコスモスがどの程度の艦かは分からないが、少なくとも1番艦に性能で劣ることはあるまい。

未確認情報ではあるが、多連装の重力波砲を搭載しているという話もある。

ナデシコの上げてきた戦果を考えるなら、コスモスも一個艦隊に匹敵するくらいの能力はあるのかもしれない。

新型戦艦2隻の殴り込みよりもこちらの方がよほど恐ろしい。



少なくとも舞歌はそう判断した。

もしこれをコスモスのタカマチ少将が聞けば苦笑を浮かべたことだろう。

『ナデシコは一隻だ。 あの、ただ一隻しかない』と。

しかしながらそれはあくまで仮定の話であって、タカマチ少将はコスモスの艦上にあり、舞歌は上弦の艦橋にいた。

共に意見を交わすような関係ではなく、故に舞歌がその判断の間違いに気付くことはなかった。



ただ、舞歌がナデシコ級の能力を過大評価したのも無理ないことではある。

何しろ、火星ではアルバを撃沈したものの、乗艦の朝霧を撃沈されていた上に、

機動戦でも北斗と互角のパイロットまでいたのだから。



それにナデシコに関してはそう間違った評価でもない。

この後も散々にしてやられる羽目になるのだから、むしろ過小なくらいだ。

ただ、同型艦のコスモスに限って言えば、ナデシコほどではない。

それもまた事実ではある。



「もう一度少数精鋭による殴り込みをかけるとしたら、後方からか左翼から……」



「意表を突いて上方や下方と言うのもありですね」



宇宙戦闘は三次元の動きをする。

故にとれる戦術も多種多様だ。



舞歌は黙してしばし考えると、決然と顔を上げた。



「本隊の左翼を重点的に索敵します」



「根拠は?」



琥珀の問いに舞歌はこれもきっぱりと言い切った。



「女の勘よ」



つっこむ余裕は誰にもなかった。





○ ● ○ ● ○ ●





舞歌の予想は半分は当たっていた。

事前情報ではドック艦となっていたコスモスだが、

軍によって戦闘機動母艦へと改装され木連艦隊の左翼に潜んでいた。



「奇襲成功か、カシワギ少将……」



コスモスにはACDCのようなものはない。

全ての機能は艦橋に集中していた。

ナデシコ級の基本的な設計思想がそうさせたのだろう。

効率はいいが、同時に危うさも含んでいる。



「ですが、敵も建て直しを図っています。

 いずれ数で押し切られるのも時間の問題かと」



艦長のニイザワ・ヤスオミ大佐が遠まわしに確認する。

つまり、『俺たちは仕掛けないのか?』と。

そして、『彼らを見殺しにするのか?』とも。



「現状維持のまま待機だ、艦長。

 対空監視を密にして対機動兵器戦に備えろ」



「……了解。 すず ―― いや、副長」



「対機動兵器戦用意。 監視の密度を3倍にシフトを変えて」



サクラバシ・スズカ中佐が事務的に応じる。

ニイザワ大佐も作戦中とあって、愛称の『すずねえ』を使うのは避けた。

今は軍人に徹するべきだった。



「左舷に重力波反応。 砲撃通過するんじゃないカナ、通過するんじゃないカナ」



それはドレッドノートの放った流れ弾だった。

ほとんど艦隊の端から端まで離れているにもかかわらず相当な威力だった。



「隠れている以上、こちらに向かって撃つなともいえないな」



「下手に動けば感づかれますからね」



落ち着きはらった様子で言うが、シロウもニイザワ大佐も内心冷や汗をかいていた。

いくら豪胆で鳴らした彼らであっても、敵陣の只中に孤立無援に近い状況で放り込まれれば恐怖だって覚える。

それを表に出さないのはひとえに軍人としての矜持の賜物だった。

指揮官が慌てるようでは部下が安心して全力を発揮できるはずもない。



それにしても……



「艦砲としてはとんでもない威力ですね。

 本当に相転移エンジン2基しか積んでないんですか?」



「積んでいない。

 ただし、その2基が特殊なんだ。

 何でも、従来型より真空をより低位まで相転移させることができるタイプだそうだ」



「そんなのができるなら……」



「ただし、開発費込みで値段は通常型 ――― ゆうがお級に搭載しているものの1.8倍だそうだ」



げっ、と思わずニイザワ大佐は声を上げた。

確かに艦政本部がドレッドノートではなく、ゆうがお級の量産をとったのは正解だったようだ。

ドレッドノートはあらゆる意味で特殊な艦だった。

強力ではあるが、使いどころの難しい戦力でもある。



……だからか、だからなのか?



苦いものを噛み潰したような表情でシロウは思い出した。

第四次月攻略戦が始まる前に友人であり、上官でもあるクロフォード中将はドレッドノート級2隻を囮として使うことを決定した。

たった2隻の戦艦を主力とした独立艦隊による隠密接近からの近接戦闘。

控えめに表現してもそれは『殴りこみ』と言えるようなキレた作戦だった。



作戦の全体像を知らされていなければ……否、知らされていたとしても到底承服しかねるものだ。

ほとんど死んでこいと言わんばかりである。

が、カシワギ少将以下第11独立艦隊の将兵たちはそれを承知した。



莫迦野郎。 死んでどうなる?

汚名を雪ぎたかったら生きて果たせばいい。

死ねばそれまでだ。

それがなぜわからない!



そうは思ってもシロウに課せられた任務はただ待つこと。

主攻とあわせて敵艦隊に最大の攻撃力を叩きつけるその時まで、待つこと。

そしてその時まで第11独立艦隊は囮として可能な限り敵の注意を引きつけると同時に敵を漸減する。

自らの犠牲と引き換えに。



「畜生が……死ぬなよ、カシワギ」



彼方を睨みつけながらシロウは呻いた。

その時まで、まだ待つ時間は長かった。





○ ● ○ ● ○ ●





視界が閃光で白く染まった。

しかし、それも一瞬のことですぐに視野は回復する。

光学障壁 ――― いわゆる戦艦のサングラスのようなもの ――― がなかったら眼を焼かれていただろう。

それほど強い光だった。



「敵戦艦より砲撃、弾きました!」



「負けるな、撃ち返せ!」



「イエッサー!

 ドレッドノート、第16斉射……てぇーーッ!!」



グラビティブラストが咆哮し、その度に戦艦や駆逐艦がただの鉄屑に変じる。

もしくは原子レベルで分解されていく。

対して敵艦の砲撃はこちらのディストーションフィールドによってことごとく弾かれていた。

これは単純に物理的な問題だ。



戦艦とは言え、ヤンマ級の主兵装は艦中央部のグラビティブラストを除けば、艦首のインパクトレーザー。

高出力には違いないが、もともとDFはこうした光学兵器に強いのが特徴だ。

それを見越してドレッドノートはグラビティブラストの他にもレールカノンを搭載している。

41センチの大口径砲の直撃は戦艦クラスのDFでも防ぎようがなかった。

ただし、グラビティブラストと違って単体の敵しか狙えないが、戦艦相手にはもってこいだった。



「提督、敵駆逐艦が突撃してきます」



「それは巡洋艦戦隊に任せろ。

 事前の計画では……」



言いかけて気付いた。



「……全滅か」



「重巡<モラエア><ディエティス>は戦艦の砲撃で撃沈されました。

 特に<ディエティス>はミサイルの盾となって本艦を守りました」



「……そうか」



「軽巡<ヘテロトローパ>は弾薬庫誘爆で爆沈。 生存者は確認できません。

 <サルマヘンリー>も被弾して敵戦艦に突っ込みました。

 艦長は私の同期でしたが……駄目だったようです」



「護衛艦は?」



「<キリタ>が大破で航行不能。 <リシノチス>も辛うじて弾薬庫誘爆を防いだと言うところです」



「当艦隊は防空能力のほとんどを喪失したわけだ。

 機動部隊は、期待できんな」



参謀はあえて感情を押し殺した声で続けた。

そうでもしなければ彼自身が押し潰されそうな気分だった。



「スノーフレイクは優れた機体です。

 そしてパイロットも勇戦しました。

 しかし、数の差はいかんともしがたく」



「何機が残った?」



「8機です。 パイロットは辛うじて脱出できたものも含めて13名」



少ない。

あまりにも少ない数だった。

巡洋艦の船体を流用した軽空母も2隻投入されて艦隊のエアカバーを担当していたはずだが、今はそれも見る影がない。

2隻合わせて60機近い艦載機を搭載できたはずなのにだ。





「機動母艦は後方に下げましたが、損傷が激しかったために、<ペトロコスメア>には着艦不能。

 <ラモンダ>の方に全機収容させました」



つまり、防空能力を喪失し補助艦艇の大半も撃沈されて丸裸にされたと言うことだ。

巡洋艦でさえこの有様なのだからそれよりも防御力の劣る駆逐艦は言わずもがなというものだ。



「つまり、当艦隊は本艦とダンテ・アリギエリを残すのみと言うことか」



「はい。 どうしますか、提督?」



どうするか?

うん、いい質問だ、参謀。

いつもならそれを考えるのも仕事だろうと言うところだが、今回のこれは確認の意味だ。



つまり……



「忘れたのか、参謀。

 宇宙軍の伝統は……」



「敵艦隊の方向に突撃せよ、ですね」



「そうだ。 よくわかっているじゃないか」



カシワギ少将は狂気の一歩手前、まさしく“鬼”の二つ名に相応しい凄絶な表情を浮かべた。



すでにどうするかなど決まっている。

最初から ――― この艦に乗った時からやることなど決まっているのだから、

あとは自分の一言でもってそれを確認し、実行するだけだ。



「ダンテ・アリギエリに打電。

 例の大物を喰うぞ!」



そして2隻の、たった2隻の艦隊は突撃を敢行した。

目標は、チューリップ。

木連が次元跳躍門と呼ぶそれだった。





○ ● ○ ● ○ ●





暗愚、無能のそしりを受けながらも、東 槙久は勇気だけは不足しない男だった。

ほとんど特攻のような有様でボロボロになりながらもなおも戦闘を続行する敵艦に感銘すら覚えていた。



「……どうやら地球人にも骨のある漢がいるようだ」



艦橋の人員のほとんどがその修羅のごとき戦闘に及び腰になるなか、彼はそう評する余裕すら見せた。

ただ、彼がそれでも無能の謗りを受けるのは肝心のことを忘れているからだった。



「司令、正面の敵艦隊も当艦隊との同航戦に入っていますが……」



「バカモノ! なぜそれを報告しない!!」



「ですから、今……」



「遅い!」



通信士官はあからさまに不満を示していた。

しかし、槙久はそれを無視し続けた。

この場合、どちらも悪い。



通信士は敵艦隊に動きがあればどんな些細な事でも指揮官に報告するべきだった。

槙久は槙久で、自分の立場をもっとわきまえるべきだった。

指揮官に必要な広い視点が彼には決定的に欠如していた。



しかし、優人部隊や優華部隊を除けば木連士官の現状は概ねこんなものだった。

数少ない人間を危険な艦隊戦に狩り出さずとも、無人兵器で足りていたのだ。

それが逆に実戦向きの士官、下士官の不足を招いていた。



だから、正面の艦隊の動きに気付くのが遅れた。

ただしそれは致命的、と言うほどではなかった。

何しろ敵の戦艦は40隻に対して、こちらは相当数を沈められたとは言え、ほぼ同数を確保している。

それに次元跳躍門が失われた戦力を補うべく戦艦を吐き出している。

何よりこの局地的に投入できる物量の多さが木連軍の最大の強みだ。



総合的な生産力で勝る地球連合でも一回の会戦に投入できる戦力には限界がある。

艦隊の運用には莫大な後方の支援体制が必要となるからだ。

その制約を(ある程度とは言え)取り払える木連軍は艦隊決戦ではそうそう負けるはずがない。

幸か不幸か、今まではそんな事情もあって『指揮官が無能でもごり押しで勝てる』状態にあったのだ。



「それで、戦力比は?」



「相当数が奇襲で叩かれましたが、まだ我が軍のほうが有利です。

 跳躍門から新たに戦艦3隻が追加されました」



「よし、このまま押し切るぞ」



月を神聖視する木連軍はその防衛も絶対死守の構えをとっている。

八雲や草壁などは一時撤退も含めたほうが戦略に幅ができると主張していたが、

それは純軍事的な判断であって、政治的な判断はまた異なる。



何も問題はない。

跳躍門が健在である限りこちらはいくらでも戦力の補充が利く。



それは一部間違いを含んでいたが、概ね正しい認識だった。

ことにこの会戦においてはまったくその通りだったのだから。



――― そう、『跳躍門が健在な限り』は。



彼らはそのことをもっと強く認識するべきだった。





○ ● ○ ● ○ ●





既に何隻の敵艦を屠ったのか、カシワギ少将は17隻目から数えるのを止めていた。

ただ眼前に現れる敵を打ち倒し、次に出てきた敵を打ち砕き、ひたすら前進して行った。



「アップトリム30、レールカノンの交互射撃に切り替え!」



「アイ・サー! 発射!!」



41センチ砲弾が駆逐艦をDFごと貫通して射軸が重なっていた敵戦艦を直撃。

エンジンブロックを直撃した徹甲弾に、一瞬で轟沈するヤンマ級。

対照的に貫通された駆逐艦の方はしぶとく回頭を続けていた。



「堕ちろ、カトンボ!」



しかし、その努力も無駄に終わる。

船体の中心軸上に据えられた155mmの副砲と、艦舷の127mm両用砲が滅多打ちした。

堪らずに沈黙する駆逐艦。

数秒後に爆発。



「左舷より敵駆逐艦接近!」



「ミサイルに任せろ」



「敵機直上!」



「両用砲! 対空レールガンも使え!!」



ACDCでカシワギ少将は矢継ぎ早に指示を出し続けた。



艦長はどうしたって?

残念ながら彼は艦橋ごと敵の砲撃で吹き飛ばされていた。

分散方式の利点が一つ証明されたわけだ。

あまりありがたくはないが。



ドレッドノートもさすがに無傷と言うわけにはいかない。

DFの出力は40%にまで落ち込んでいた。

戦艦のインパクトレーザーなら貫通可能な数値だ。

現に駆逐艦のレーザーが何発かDFを貫通して船体を灼いていた。

特殊なミラーコーティングが施されたドレッドノートの装甲でなければ致命傷を負っていたことだろう。

それほどこの艦は徹底している。



「提督、チューリップです!」



「主砲、準備!」



ドレッドノートの主砲は強力だ。

例えチューリップであろうとも直撃を食らえばただではすまない。

被弾のせいでレールカノンの1基は使用不能になっていたが、主砲の三連装グラビティブラストは完全だった。

だが、敵もその重要性には気付いているようだった。



「敵戦艦、進路上に1隻」



「構うな、発砲!」



2隻のドレッドノート級戦艦からグラビティブラストが放たれる。

FCSと完璧に連動したそれらは完全に標的を捉えていた。

漆黒の奔流が収まった後には敵艦の残骸と、使用不能になったチューリップが………



「……そんな」



呆然と誰かが呟いた。

それは悪夢に近い光景だった。

2隻の弩級戦艦の砲撃はナデシコやコスモスのそれをも上回る。

それを……



「あれを……耐えたのか」



さすがにカシワギも自失呆然となりかけて……すぐに我に返った。



「レールカノンを使うぞ!

 敵のディストーションフィールドも無限ではない!!」



確かに41センチレールカノンなら可能だったかもしれない。

しかし、そううまくいくことばかりでないのも世の中だ。



「レールカノンは全弾撃ち切っています。

 副砲と両用砲ならまだ残弾がありてますが……」



「くそっ! 本末転倒もいいところだな!」



敵艦のDFは強力だった。

しかもまったく見たことない艦影。

艦舷に2門ずつ突き出したグラビティブラストに、艦下部にもリニアカノン。

コスモスやドレッドノートにも匹敵する重装艦だった。



「反航戦を挑むぞ。 副砲と両用砲をスタンバイ。

 主砲は交互撃ち方だ」



カシワギは素早く決断した。

正面から撃ち合うには危険が多すぎる相手だ。

すれ違いざまに撃ちまくる戦術を選択。



レールカノンは弾切れだ。

ダンテ・アリギエリの方にはまだ残弾がいくらかあるようだが、それを使う気にはなれなかった。

チューリップを破壊するのにいくらか残しておきたい。



「機関増速! 敵艦との距離を詰めるぞ!」





○ ● ○ ● ○ ●





東 槙久は(今だその能力を発揮する機会に恵まれていないとは言え)戦術家だった。

大局を見極めて戦略を立案できる八雲や舞歌とは違う。

彼には大きな視点と言うものが欠如していた。



本人がそれをどこまで理解していたかは定かではない。

しかし、どこかではそれを理解していた。

だからこそ自分にない才覚を持つ八雲や舞歌に嫉妬したとも言える。



だが、そんな彼も何の取得もないかと言うと、まったくそうでもない。

戦術レベルであればそれなりに有能で、果断な判断のできる男だった。

チューリップを守るために自艦を盾にしたのだって自己犠牲精神の発露などではなく、

DFを展開した駆逐艦を突っ込ませ、同時に睦月のDFを全力展開すれば耐えられると計算したのだ。



そしてそれは当たっていた。

4基の相転移エンジンのパワーは伊達ではない。

逸らしきれなかった分が“漏れ”となって船体の一部を損傷させていたが、戦闘に支障はない。



「敵艦、吶喊してきます!」



「重力波砲はどうした?」



「時空歪曲場にエネルギーを回したために発砲まで時間がかかります。

 ここは……」



「武器はないのか!?」



「ですから、リニアカノンを使います」



最後まで聞けよ、とでも言いたげな砲術長。

しかし、口にするとまた時間を浪費するので思うだけだが。



「なら、さっさとそうしろ」



言われなくてもやりますよ。

そう言いたいのを堪えて砲術長は命令を下した。



睦月の主砲は重力波砲4門とリニアカノン ――― これは原理的にはレールカノンなどと大差はない。

ただ、レールカノンが電磁誘導の電磁力を利用して弾丸を加速させるのに対し、リニアカノンは磁力を用いる。



リニアカノンの方は加速管内の磁極をS/N交互に繰り返し、反発のキック力で弾丸を次々に加速していくのだ。

レールガンと違って可動体がレールに接触している必要がなく、超伝導磁石、

或いはコイルに発生する誘導電流を利用して砲弾を浮かす事で摩擦によるエネルギーロスを回避できるが、

できるだけ容量の大きいコンデンサなどに電気を貯めて大電流を一気に流せばそれだけ発射速度を上げられる

レールガンと比べ、リニアガンは大電流を交流で(しかも、周波数を可動体の速度に合わせて変化させながら)

流さなければならないためにエネルギーを喰う。



初速を上げるには砲身を延長するしかないと言う欠点もある。

(ただし、制御プログラムはマシンチャイルド2名の活躍もあってなんとかなった)



ただ、リニア方式は摩擦によるロスをなくせる分だけ初速を高められるし、

何よりも大口径レールカノンに必要な莫大な電力を貯蓄しておけるコンデンサなど木連の技術では不可能だった。

小口径(例えば一式戦の25mm)レールガン程度ならともかく、大口径砲には不向きと判断されたのだ。

木連では小口径砲はレールガン、艦砲クラスの大口径砲はリニアカノンとしていた。

電力の供給も相転移エンジンがあれば問題ない。

大型艦艇であれば長砲身砲だって搭載できるのだから、わざわざ技術的困難が大きいレールガンを艦砲とする利点もなかった。



逆にドレッドノートなどはその超大容量コンデンサの開発に成功していた。

比較的短砲身でも電力さえ供給できれば十分な加速ができるレールガンなら

スペースに制限のあるモノコックの船体に組み込めると言うのが採用理由だった。



ただ、リニアカノンにしろレールガンにしろ火薬式とは比べ物にならないほど超高速で弾丸を発射できる。

実体弾に弱いディストーションフィールドがこれを弾けるかは微妙なところだ。

特に睦月のリニアカノンは………





○ ● ○ ● ○ ●





一瞬、ほんとうに一瞬どこかの映像に光が映った。

それが敵艦の発砲を示す画像エフェクトだと気付く暇もなかった。

叩きつけられるような衝撃とともにしたたかに床へ体を打ちつけた。



「被害報告!」



折れたらしい右腕の鈍痛を無視して……否、それを振り払うようにカシワギは叫んだ。

重力制御装置も被弾による艦の損傷時にはあまり役に立っていないようだった。



倒れたままの副長を助け起こそうとして……諦めた。

彼の首は通常ではありえない角度へ曲がっていた。

壊れた人形のように開かれたままの瞳が虚空を見つめている。



「提督、右舷両用砲群からの応答がありません」



「回線は?」



「回復しません。 私が直接見てきます」



戦務参謀の言葉にカシワギは少し考え、



「頼む」



それだけ告げた。



個艦戦闘のレベルになると参謀や提督クラスは途端にやることがなくなる。

逆に下士官たちは被害状況の確認と応急処置のために走り回っていた。



宇宙戦艦は気密が破れただけで大事になる。

空気は限りがあるし、与圧された艦内と外部の真空では気圧差が大きいために

破口から外へと吹き飛ばされる者も出るかもしれない。



対策として気密防護区画を細かく取るなどの処置は施されているが、気休めだ。

場合によっては破口をふさぐために一つの区画をまるごと潰して発砲充填材を流し込むこともある。



「隔壁閉鎖! 各部署の被害程度を報告せよ」



<機関、異常なし>



<航海よりACDC、艦内では軽傷13名。 重傷は4名です>



<砲術より、左舷両用砲が2基使用不能。 他は異常ありません>



よかった。

ACDCの他は案外損害は軽い。

だが、今の衝撃は……



<提督、右舷の両用砲群です>



<戦務参謀か。 状況は?>



『SOUND ONLY』の文字。

映像がこないことに不安を覚えつつ問い返す。

果たしてそれは当たっていた。



<駄目です。 丸ごとやられました。

 右舷についていた者は全員戦死。 現在は自動で隔壁が閉鎖されました>



「くそっ! なんてことだ!!」



ACDCでも副長が戦死。

他のACDC要員も負傷したものが多数。

とは言え、ACDCはその機能を失ってはいなかった。



「航海長、俺が指揮をとる」



「提督が自らですか!?」



「これでも昔は船務だってこなした。

 ダメージコントロールの指揮は戦務参謀に任せる」



どうせ2艦しか残っていないのだ。

この際、提督と艦長を兼任したところでどうだというのか。



「提督、ダンテ・アリギエリが……」



しかし、事態はますます悪化していた。

正面のスクリーンに映し出された映像に凝結する。



「一撃でこれか」



やっとの思いでそれだけ搾り出す。

今の砲撃はドレッドノートを狙ったものではなかった。



たまたま狙いがそれてドレッドノートの右舷を吹き飛ばし、

一瞬で右舷の両用砲群に詰めていた12名を肉片に変えながら

砲弾の威力は落ちることなく後続のダンテ・アリギエリに襲い掛かった。



2隻分のDFを貫通した砲弾はダンテ・アリギエリの中央部、斜め上方の30度から突入。

副砲の155mm砲を砲塔ごと貫通すると船体中枢に埋め込まれた三連装グラビティブラストを全損させた。

この時点でダンテ・アリギエリは攻撃力の半数以上を喪失していた。



止めに砲弾は内部の炸薬をエネルギーへ変換。

グラビティブラストの監視を行っていた砲塔要員を焼き殺した。

幸運だったのは彼らは何も感じることなく死んだ事だろう。



ただ、誰もが『即死』と言う幸運に見舞われたわけではない。

通路のハッチを吹き飛ばしつつ内部を蹂躙した炎に焼かれ、生きながらに灼熱地獄に落とされた者たちもいた。

絶叫を上げたとたんに炎を伴った熱風が肺に侵入して断末魔を止めた。

退避が間に合わずにハッチに叩きつけられて轢かれた蛙のようになった者もいた。



唯一、ダンテ・アリギエリが幸運だったのは中枢部が無事だったことだ。

それと、グラビティブラストは全損したものの、レールカノンは2門とも使用可能だ。



「弩級戦艦は自前のレールカノンを弾けるフィールドを持っているんだぞ。 それを……」



そこで気付く。

確かに可能性としてはありえない話ではない。

ただ、そこまでするかという問題ではあるが。



「敵の砲は16インチ以上……あるいは…………」



16インチはセンチメートル換算で40.6センチ。

ドレッドノート級は41センチだからインチ換算で約16.14。

それより遥かに勝る威力となれば……



「18インチ級のリニアカノンだと!?」



青くなる。

18インチと言えば約45.72センチ。

恐らくは46センチだろう。



有名な戦艦大和などと同じだ。

ただ、あちらの艦砲は火薬式。

こちらはリニアカノン。

初速も炸薬の破壊力も桁違いに上がっている。



感傷に浸る暇などなかった。

即座に打てるだけの手を打つ。



「回避行動に専念しろ。 こちらの方が小回りが効く。

 敵の射軸には絶対に入るな」



「了解。 しかし、そうするとこちらも敵を狙えませんが?」



砲術長が懸念するのは度々変針するのでは敵を正面に捉えられないと言うことだ。

主砲が軸線砲の戦艦にそれは攻撃不可能を意味する。



「副砲と両用砲を使うしかない。

 それと、例のものを用意しておけ」



その言葉に砲術長が固まる。



「使いますか」



「使う。 どの程度有効かは未知数だがな。

 ダンテ・アリギエリにも伝えろ」



どの道、これ以上通用しそうな武器がない。

今はグラビティブラストを撃ってこないからいいようなものの、それまで使われたら勝ち目はない。



「最新鋭戦艦がこの様かッ!」



最強の手駒であっても切り札にはなりえない。

そのことを改めて思い知らされた。





○ ● ○ ● ○ ●





カシワギの予想は当たっていた。

睦月の装備するリニアカノンは65口径46センチと言う化け物じみた代物だった。

長砲身砲と電力の問題さえ解決できるなら大口径の砲弾を加速させるにはリニアの方が適している。



とは言え、運動エネルギーは質量と速度を自乗した値に比例する。

つまり、純粋に威力を高めるなら初速を上げる方が効率が良い。

小口径弾の方が初速を上げやすかった。



しかし、わざわざこんな大口径砲を積むのは宇宙空間には大気がないからだ。

大気中であれば小口径弾でも超音速で物体にぶつかれば衝撃波でその被害は拡大する。

隕石が地表にぶつかった時のクレーターを想像すればいい。

隕石の直径はたった数十センチでも衝撃波で生じるクレーターはその何倍、何十倍にもなる。



ただ、それも大気があればこそであって、宇宙空間ではそんなことは起こらない。

だから内部に炸薬をたっぷり詰めた砲弾を使うことになる。

炸薬量を増やすなら大きい方がいい。



だから大口径の艦砲を使うことになる。

初速を落せないから炸薬量と初速の兼ね合いで妥協点を探す事になる。

そして、その妥協点をいかに高くするかが技術の見せ所。

睦月の46センチリニアカノンはその命題に対する一つの回答だった。



『大口径の長砲身砲を採用すればどちらも問題なし』と言う結論だ。

もちろん、実行できるかどうかはまた難しい問題ではある。



まず確実に砲の体積と重量が増える。

小さな艦では搭載できない。



次に間違いなく弾薬の搭載数が減る。

砲弾自体が大きいのだから当然のことだ。

そして発砲の間隔も大口径砲になるほど長くなる。



しかし、その威力は間違いなくそのデメリットを補って余りある。

反面、敵の攻撃は連射力で勝ろうともこちらのDFを突破できない。



「ふっ、圧倒的じゃないか、我が軍は」



なおも喰らい付いてくる戦艦は2隻。

しかし、どちらも満身創痍といった具合で、戦闘力は目に見えて衰えている。

特に後続の2番艦は……



「2番艦へ火力を集中しろ。 まずは後続から片付ける」



「先頭の1番艦ではなく、ですか?」



慣例によるなら先頭の1番艦がすなわち旗艦であるはずだった。

それに先頭の艦を潰せば後続の艦の足を止めることができる可能性がある。

したがって、砲戦では先頭艦を狙うのが定石だった。



「2番艦のほうを先に片付ければいい。

 どうせやつらの砲では睦月の歪曲場を貫けん!」



「了解しました。

 睦月、第9射、てぇーッ!」



再び睦月のリニアカノンが咆哮し、砲弾を吐き出す。





○ ● ○ ● ○ ●





破局は突然だった。

ドレッドノート級は自前の41センチレールカノンを弾けるだけの性能を与えられている。

他にも多重に区切られた気密区画や、ミサイル対策の高強度モノコックフレームと、

連合宇宙軍の艦艇の中でも屈指の防御力を与えられている。

それは間違いない。



しかし、戦いとは常に相手の存在する相対的なものだ。

敵より劣れば負ける。

それがルールだ。



46センチ砲弾に対し、ダンテ・アリギエリの防御力は不十分だった。

ただそれだけのこと。

それが全てだ。



「ダンテ・アリギエリ被弾! そんな……通信途絶!?」



「構うなッ!」



冷酷なようだが、適切な判断だった。

ドレッドノートも状況としては似たようなものだった。

想定外の猛烈な加速にフレームが軋んでいる。



既に敵艦との距離は危険なほどに接近していた。

ここまで接近してしまうとお互いに相対角度の変化が大きすぎて軸線砲は使えない。

ドレッドノートには砲塔方式の旋回砲があるが、敵のDFを撃ち抜けないのでは意味がなかった。

接近しようともそれは変わらない。



もし、砲戦で敵のDFを抜くとしたら、数を揃えて集中砲火を浴びせて過負荷に陥らせるしか手がない。

逆にそれでは防御で劣るこちらも敵艦の砲撃で撃沈される危険もある。



だから接近した。

こうすれば撃沈される可能性は低くなる。

そして、例のものを使うこともできる。

砲術が専門のカシワギからすれば不本意もはなはだしいが、そんなことを言っていられる余裕もない。



「ミサイル発射管にMk−W装填! 弾頭は例のやつを使うぞ!!」



一般的に宇宙戦闘において艦隊決戦ではミサイルはほとんど使われない。

距離が遠すぎて敵艦に到達する前に対空レーザーであらかた叩き落されてしまうか、

囮(デコイ)やチャフ、ECMなどの対抗手段をとられてしまうからだ。



したがって、宇宙戦闘におけるミサイルの役割は主に対空か、大昔の水雷戦隊のようにギリギリまで接近してから放つしかない。

対艦戦闘では後者だが、その場合でも接近前に撃沈されかねないという危険は同じだ。

ミサイル兵装はあくまで補助的な存在でしかなかった。



しかし、DFの登場とそれに関する諸々の技術が戦場を変えた。

戦艦は高出力のDFを纏い、同じ戦艦クラスの攻撃でも容易に沈まなくなった。

最悪の場合は戦艦に対してそれ以下の艦艇はまったく無力となった。

ようするに存在価値がなくなってしまった。



連合軍は焦った。

せっかく多大な予算をかけて建造してきた艦隊が単なる浮いているだけの箱になってしまったのだから当然だ。

火星会戦での大敗北もあり、てっとり早く何とかしなければならない状況に陥った。

しかし、一朝一夕に新型戦艦を建造できるはずもない。

何とか初期段階は既存の艦艇の改良で乗り切るしかなかった。



そこで彼らが注目したのがAGIが極秘裏に試験していたDF中和装置の存在だった。

<ロザリオ>の秘匿名称で呼ばれていたそれは火星からの撤退戦時に一部の機動部隊で使用され、

戦艦隊との連携で追撃してきた敵艦隊を撃破すると言う快挙を成し遂げた。



そしてそこからの展開は軍も官僚組織と言うことを考えれば異例のものだった。

彼らは(珍しく素直に)AGIに頭を下げてロザリオのライセンス生産を申し込んだのだ。

さすがにそこまでされてはAGIも断るわけにはいかず、かくしてDF中和装置の技術は軍にも渡ることとなる。



しかし、DF中和装置が手に入ったからと言ってそれだけで戦況が有利になったわけではない。

それを運用するとなればまたまったく別の次元の話であり、経験を必要とするものだ。

様々な紆余曲折と試行錯誤を繰り返し、ようやくそれは完成した。



――― 対抗フィールド弾頭<クルセイダーV>



先端部には中和装置を仕込むために誘導部が出っ張っているのが少々不恰好だが、

連合軍では一般的な対艦ミサイルMk−Wに搭載でき、映像式標的識別とパッシブセンサーを併用する方式で命中精度は高い。

これの登場によって駆逐艦などの小型艦艇も戦艦に対してある程度の打撃力を持つことになった。



本来は駆逐艦や巡洋艦用に開発されたそれをドレッドノートは装備していた。

艦尾に設置された汎用の大型ミサイル発射管は6門。



そこから6発の対艦ミサイルが圧搾空気によって発射された。

しかも、その全てがクルセイダーVを搭載していたのである。





○ ● ○ ● ○ ●





発射されたミサイルは6発。

しかし、いくら弾頭が強力とは言ってもミサイル本体の性能が劇的に高まっているわけではない。

至近距離から放たれたためにほとんど対応時間がなかったとは言え、睦月もミサイルを感知した時点で

コンピュータが自動的に対抗策を講じている。



最初の2発は囮のダミーバルーンに突っ込んで爆散した。

また別の1発はデブリに阻まれて虚空へとその破壊の力を解放した。

それでも残った3発はその役割をまっとうすべく睦月のDFへと果敢に挑んだ。

弾頭部の中和装置が作動し、レールカノンですら弾く堅牢なDFに穴を開ける。

が、1基はそこで力尽きたかのように爆発してしまう。

中和装置は内蔵のバッテリーで動作するが、それが初期不良によって十分な電力が確保されておらずに

DFを中和しきれないままに突っ込んだ結果だ。



しかし、残った2発はその任を全うした。

1発は艦舷のグラビティブラストを直撃し、連装砲を丸ごと粉砕。

そしてもう1発はある意味で睦月にとって最悪の場所に直撃した。



それは ―――



「何が……」



槙久は何かが激しくぶつかるようなドンッと言う音で被弾を悟った。

結論から言うならそれは完全な錯覚だった。

なぜなら、その時には睦月の艦橋を直撃したMk−W対艦ミサイルが構造材ごと彼らの肉体を吹き飛ばしていたからだ。

DFを突破されてしまえば睦月の装甲は薄い。

しかも艦橋への直撃となれば防御のしようもなかった。



槙久の聞いた音は被弾の音ではなく、彼自身の肉体が炸薬によって足元から吹き飛ばされていく音だった。

東 槙久はこうして死んだ。



あまりにあっけなく、そして無価値に。

しかし、戦場における死の大半はそうして訪れる。

彼もその中の一例となったに過ぎない。



睦月は現時点ではほとんど最強の兵力ではあったが、

戦場においては最強の兵力が切り札になるような状況はそうそうない。

この戦闘もお互いにそれを証明したにすぎなかった。



そしてもう1つ。

彼の死に関わらず、戦いは続いていた。

そう言うものだ。





○ ● ○ ● ○ ●





それは文字通り最後の一撃だった。



その一撃をもってドレッドノートは今度こそ全ての抗う術を失った。

それでも残る2門のグラビティブラストによる砲撃は中型のチューリップを完全に沈黙させた。

僚艦のダンテ・アリギエリも先程の一撃で中枢をやられて完全に沈黙。

戦闘中であるために生存者の救助も後回しにされた。

これで第11独立艦隊は18隻全艦が戦闘能力を喪失したことになる。



まだ小型のチューリップが残っていたが、それを破壊するのは不可能。

ドレッドノートは全ての弾薬を使い果たし、今はただ死神の鎌が振り下ろされるのを待つだけだ。



しかし、カシワギ少将は負けたと言う気はしなかった。

18隻の艦隊、しかも戦艦はたったの2隻で100隻以上の艦隊に殴りこみをかけて倍以上の敵艦を沈めた。

戦艦だけでも20隻以上だった。

そして課せられた任務……チューリップを破壊し、『真打の攻撃隊』の登場まで敵を引きつけ、

可能な限り漸減に務めよという命令は完璧に果たした。



ただ、心残りがあるとしたら、地球に残してきた息子の事だった。

軍務の忙しさにかまけて家庭をないがしろにしてしまった。

自分はいい父親ではなかっただろう。



妻が病に倒れた時も任務で戻る事はできなかった。

カシワギが帰ったときには妻の葬儀まで終わっていた。

息子とはそれ以来、ろくに話していない。

弟夫婦の所に預けたきりだった。



恨まれているだろう。

当たり前だ。

だが、会って伝えたいことはあった。

ただ一言、「それでも間違いなく愛していた」と。



「提督、前方のチューリップよりボース粒子反応。

 ヤンマ級以上の大型艦がジャンプしてきます」



……年貢の納め時か



無駄かもしれないが、今からでも退艦命令を出すべきだろう。

まだ片肺とは言え機関は生きている。

いざとなったらドレッドノートをぶつけてでもチューリップを沈めるつもりだった。



「今さらかもしれないが……」



「提督、今さら退艦しろなどと言わないで下さいよ。

 どちらにしても、この状況では脱出しても非武装のシャトルでは早々に撃ち落されます。

 軍人であれば、最期のその時まで任を全うしろとは提督の言だと記憶しておりますが?」



「貧乏くじだな」



「それはこの艦に乗り合わせた時から知っています」



考えてみればその通りだった。

端からこの作戦は生還を期したものではない。

ならば……



「艦と運命を共になんてのは海上艦艇が主力だった大昔に滅んだと思っていたが……」



「原点回帰と言えなくもないでしょうね」



「無理に付き合うことはないぞ」



「もとより志願して参加した者たちです」



カシワギは笑みを浮かべた。

本当に久しぶりの感覚だった。



「『なれば、我らはただ義務を果たすのみ』だ。

 機関がいかれても構わん! 全速!

 人間の意地を蜥蜴どもに見せてやるぞ!!」



「――― いえ、待ってください提督!」



オペレーターが叫ぶ。

その表情には驚愕と歓喜が溢れていた。



「チューリップよりジャンプアウトの艦より識別信号あり!」



「友軍だと言うのか!?」



カシワギも叫び返した。

チューリップから出てくるのは基本的に敵だ。

その例外となるものなど……



「友軍、そうですね。

 今はそう呼びたい気持ちです」



大半が沈黙しているスクリーンの中でわずかに生き残ったものが

チューリップから出てくるその艦を映し出していた。



特徴的な2本のブレード。

白亜の船体が徐々に吐き出されてくる。



ボロボロではあった。

しかし、現行の艦艇とはまったく異なるその奇妙な艦影ですら今は美しく見えた。

カシワギは夢でも見ているかのような気持ちでその名を呟いた。



「………ナデシコ」



ヤンマ級でやっとと言う小型チューリップは規格外の大きさのナデシコの跳躍によって想定外の負荷を被っていた。

ナデシコを何とか吐き出したものの、たまらずに爆発。

ドレッドノートを狙っていた艦も含めて周囲の敵艦を盛大に巻き込んだ。



爆炎が白亜の船体を照らし出す。

その姿は今の彼らには北欧の神話に登場する雄々しくも美しい戦女神のように思えた。



機動戦艦ナデシコ。

火星で消息を絶ってから8ヶ月の歳月を経てそれは再び戦場に現れた。

戦局は再び流動化する。





<続く>






あとがき:

夢を見ていたんです……
夢の中の私は、どうにもならないことを、どうにかしようと抗い続けている人になっていました。
その人の痛みはとても強く、その人の思いもとても強かった。私は叫びました。
頑張れ!頑張れ!頑張れ!!
そう強く願い続けていたのです。




……要約すると『今回も長くてごめんなさい』。

Q.戦闘になるとどうしてこう長くなるかな?

A.坊やだから。

とりあえずナデシコ帰還しましたので、次回は『温めの冷たい方程式』の回になります。
以上黒サブレ@墜落中でした。

……デモンペインのアルが萌えるんですよ、ええ。
見た目ょぅι゙ょなのにあの言葉遣いってのがまた(以下略)


それでは、次回また。

 

代理人の感想

ナデシコでは聞いてはいけないことなのかもしれませんが、

現代の戦艦ですらCICに指揮機能を集中させてるのに

一体全体なんで宇宙戦艦に艦橋が必要なんでしょうか(爆)。

目視戦闘をする必要があるわけではなし、艦の装甲の厚い、一番安全なところに

指揮機能を集中させたほうがどう考えてもいいんじゃないかなと思うんですが。

まぁ、艦橋は漢の浪漫と言われれば反論できないんですが、ええ(爆)