時ナデ・if
<逆行の艦隊>

第15話 『異邦人』たちの午後・その1








ナデシコの格納庫に純白の機体が降り立ち、ハッチが開いた瞬間のことを彼は生涯忘れなかった。

6m級機動兵器を30機搭載できる広さを持つ格納庫を埋め尽くさんばかりに集まっていたクルーから歓声が上がる。

肩膝をついた状態のスノーフレイクから3人が降り立つと、その歓声は一瞬おさまり、イツキが駆け寄った。



「心配したんですよ」



「ああ、心配かけた」



「………ほんとに心配したんですよ」



「わるかった」



「もう戻ってこないんじゃないかって、不安で……」



「それも悪かった」



「でも、帰って来てくれて……」



「ああ」



「……おかえりなさい」



「ただいま……って言えばいいのか、このばあ ――― 」



ヤマダは『い』の発音を最後まで続けることができなかった。

イツキから奇襲にも近い抱擁。

とっさに踏ん張らなければ後頭部を床にぶつけていたかも知れない。



せっかく生還したのに、女の子に抱きつかれた事による後頭部強打とかいう

情けないのか羨ましいのかわからない死因を記されたくはない。

きっと兄弟連中の笑いのネタにされる。



「本当に……よかった……」



イツキの肩が震えていた。

流石に無粋を濃縮還元したようなヤマダでも「泣いているのか?」などは聞かなかった。

ただし、やはり無粋と純情を1:2の割合でミキサーにかけた後に冷蔵庫で1時間冷やして完成を見たような男であったため、

その両の手は所在なさ気に宙をさ迷っていた。



漂流中より精神的には追い詰められている気がしないでもない。

至急の救援を求めて、少なくともこんな状況なら対応策を熟知していそうなアキトへ視線を向けるが、

それがヤマダの偏見に過ぎないことを裏付けるように親友は苦笑を浮かべるだけだった。



ちなみにその隣の艦長も、戦闘で見せた有能さはきっと諸葛孔明あたりが降臨したに違いないと思わせるほど、

この状況の打開に関しては役立ちそうもなかった。

この際、これの対処法を教えてくれるなら司馬仲達でもいい。

何となく、漫画やアニメの方面で趣味の合う友人であるヒカルの笑顔も怖いし。



しかし、けっきょくのところ自分の行動は自分で決めるしかない。

救いを他人に求めるのは責任転嫁の愚行でしかない。



それが逃避に近い思考だと自覚し ――― 彼は考えるのをやめた。

行動あるのみというのが彼の基本だ。



そして、今度は歓声の代わりに怒号が格納庫に満たされた。





○ ● ○ ● ○ ●





何となく ――― それは女の直感とでも言うべきものだったが、とにかく腹が立って

万葉は手にしていたゼリー飲料の袋を握りつぶした。

中身はとっくに万葉の血となり肉と……なるかは微妙だが、胃袋に納められていたために直接的な被害はない。

が、コクピットで機体を操っている男がぎょっとしたように万葉を見る。



「………なんでもない」



腹の虫の居所が悪かったのだろうと自分では思う。

何しろ今日だけで2回も“地球人の”、しかも、“男”に助けられた。



「どちらにせよ、元気そうで安心した」



「それは私か? それともガイか?」



「ガイ? ……ああ、ガイね。

 うん、それもある。

 だけど、お兄さん的には美少女という人類共通の財産を失わずにすんだことを喜びたいな。

 もちろんここで言う美少女ってのは ――」



「うるさい、だまれ」



「イエス」



まるで(三姫には悪いが)高杉某がもう一人増えたような感じだ。

地球の男がすべてこうだとは思わないが、身近にいる地球人がこうなのは何とかして欲しい。

いや、もしかしたら高杉某が木連では特異な存在であるように、ガイの方が地球では特異な存在で、

残りはこの男のようなろくでなしかもしれない。



ガイ ―― 本名はヤマダ・ジロウだが、本人が名乗らなかったために万葉の中では魂の名前の方で認識されているその男が

地球では特異なほうというのはあながち間違いでもなかったが、目の前の男も別のベクトルで特異な存在だと言う可能性に

万葉はついに思い至らなかった。



「貴様は自分の立場を理解しているのか?」



「もちろん。

 人質をとられて、いうことを聞かないと愛しい後輩があーんなことやこんなこと、

 果てには『いや、許して。 それだけはいやぁ!』みたいな詳しく描写すると裏へ送られかねないことをされちゃうから

 涙を呑んで、ついでに自分の保身とあったい寝床とそれなりに食える食事と、実はこれが一番大きな理由だったりするんだけど、

 可愛い女の子しかいない地上の楽園……この場合は宇宙の楽園か?

 とにかくそんな楽しい職場で働けるから、渋々ながらに協力している立場」



「………一度、じっくりと現実を教えてやる必要があるようだな」



「とりあえず火星の大学で予備士官過程と地球でも基礎訓練しか受けてない俺でさえ

 『銃口をむやみに人に向けちゃいけない』って教わったぞ」



「私は『必要と感じたら躊躇なく撃て』と教えられた」



「…………やっくでかるちゃ」



「………………」



無言で拳銃のスライドを引く万葉。



「ごめんなさい」



やはり無言で銃をしまう万葉。

実のところガイが撃ちつくしていて弾は入っていないのだが、

この男にそこまでわかるはずもない。



「貴様は私を上弦まで連れ帰ることに集中すればいい」



「ヤー、ヘル・コマンデル」



時々わけのわからない言葉を混ぜるのは難儀だが、概ね木連での共通語である日本語が通じるので

意思疎通に関しては(ある部分を除き)問題はない。



ただ、日本語以外に英語やドイツ語、果ては地球人でも存在を知らないんじゃないかと思えるほどマイナーな言語や、

ある種のコンピューター言語まで使いこなす琥珀や翡翠あたりにも謎な単語が混じることもあるらしい。

琥珀曰く、「日本語の、しかもごく一部の人種に見られるスラングの一種」らしい。



……『萌え』ってなんだろう



しかし、考えてみれば、万葉がこの機体に移乗した時点で操縦を代わってもよかった。

試作機で正規のナンバーすら振られずに単に『14試長距離跳躍試験機』などと呼ばれているこの機体に関しては

万葉もかなり初期の頃から開発に関わっている。



名前からもわかるように長距離のボソンジャンプ ――― しかもチューリップを介しない単独のジャンプを

可能とするために開発されたはずの機体だった。



“はず”“だった”というのは、それが失敗に終わったということである。

長距離の跳躍は遺跡へのイメージ伝達率がネックとなっていた。

後天的に処置したものは、所詮は天然のジャンパーを模倣しようとした養殖に過ぎず、

質的なものでは隔絶された差がある。



要するに後天的にジャンパー処置を施した者(いわゆるB級ジャンパー)では誤差が大きすぎて使いものにならないのだ。

天然のジャンパー、いわゆる後にA級ジャンパーと呼ばれる人員はなぜか木連には万葉しかいない。

必然的に跳躍の生体跳躍のデーター収集は万葉がメインとなるわけだが、サンプルとしては少なすぎる。



プラントの中には人造人間をつくる施設もあって、そこで人工的にA級ジャンパーが生み出されているなどと言う

それこそMMRあたりにでも任せておきたいような噂まであったが、それは噂の範疇を出ない。





だいたい、そんな便利なものがあれば木連の人材不足は一気に解消されるだろう。

しかもそのすべてがA級ジャンパーと言うのは、軍事的には大きなプラスとなる。

単独で長距離侵攻、及びに完璧な奇襲が場所を選ばずに行えるならミリタリーバランスは一気に木連に偏る。

いわゆる究極のジョーカー。

が、実際は未だに戦争が続いている点からもわかるように、単独の長距離跳躍は失敗した。

もっと厳密に言うなら、それをB級ジャンパーに行わせることに失敗した。



『14試長距離跳躍試験機』の機構はその実、ほとんど原型のエステから変わっていない。

火星陥落時に確保した純正部品を使う方が性能を100%発揮できるのだ。

ただし、これには限りがあるし、クリムゾン経由で入ってくるにしても、過剰な期待はできない。



木連の規格品よりも地球製の純正部品を多く使っているのも試作機ならではの贅沢だった。

遺憾ながら、生産のほとんどをプラントに頼っている木連の基礎工業力はかなり低い。

カタログスペックならスノーフレイクにも辛うじて対抗できそうな一式戦でも、

その稼働率の統計を取れば恐ろしい数字がでることだろう。



とにかく、そんな状況ながら可能な限り贅沢につくられた『14試長距離跳躍試験機』、

略称を『14試』は合計で5機。

現在残っているのは2機。



失われた3機は共に跳躍はしたものの、それっきりだった。

残骸も、パイロットみつかることなくそれは消失した。

さすがに青くなった上層部は開発を中断。

以降は機械式の短距離跳躍の開発に邁進することになる。



残った2機はジンタイプの研究用として1機が引き渡され、もう1機も保存されているはずだった。

この機体がそのどちらに属するかはわからないが、システムそのものは同じだ。

よって、操縦できないことはない。



「代われ。 私が操縦する」



「いや、いいけどな。 もう目の前だぞ」



余計なことを考えている間に上弦が……数時間しかたっていないはずなのに

ひどく懐かしいその姿が見えた。



格納庫に直接跳躍しなかったのは、この男が上弦の格納庫を知らないからだろう。

外観くらいは資料で知っているだろうから至近へ跳躍してそれからふつうに着艦するつもりだったのだろう。



「ナデシコと違って格納庫が変なつくりしてるから着艦しにくいな」



「おい、しくじるなよ」



試験機だけあって、この機体には自動着艦誘導装置などという気の効いたものはついていない。

航空機から航宙機、そして人型機動兵器に変わっても母艦への着艦が難易度が高いことは変わらない。

しかし、男は不敵な笑みを浮かべて答えた。



「下っ端とは言え、これでも元ナデシコのパイロットだ」



それはさきほどの減らず口を叩いていた人物と果たして同一なのかと疑わせるほど自信に満ちたものだった。





○ ● ○ ● ○ ●





一転して揉みくちゃにされているヤマダ・ジロウの姿をファインダー越しに捉え続けていた。

アナクロと言われればそれまでだが、彼は好んで旧式の、フィルムを使うタイプのカメラを好んだ。

別にデジタルカメラ(現在はカメラと言えば一般にこちらを指す)でもいいのだが、

動画として記録しておいてあとから使えそうな場面をチョイスすると言うのは、カメラマンの信念にもとる。



一瞬を捉えるからこそ意味があるのだ。

それを怠っていては、いずれ腑抜けてしまうと言うのが彼の持論だった。

別にこれが本職と言うわけでもないが、一度は目指した道である。

それなりに拘りはあった。



「貴方は参加しないんですか?」



カメラのファインダーを覗いているところに声をかけられた。

おっとりとした、柔らかい声だ。



「仕事がありますから」



滅多に使わない敬語で答える。

自分の立場を擬装する意味でもそれは必要なことだった。



「あら、でも……トランペットを前にした少年みたいでしたよ?」



黙ってカメラを下ろす。

相手のほうが一枚上手らしい。

仕方無しに振り返った。



「面白いご意見です。

 心に留めておきます」



「参考にはなさらないんですね」



残念そうに相手は言った。

本当に世間話をしにきたとでも言うような自然体で。



「仕事の話でしたら場所が悪い」



かまわずに彼は本題を口にした。

しかし、相手の反応は相変わらず。



「いえ、単なる世間話です」



そう言いながら軽く自分の耳を指で叩き、然る後にピンと立てた人差し指を唇に当てる……

要するに『秘密です』とか『静かに』いう仕草をしてみせる。

盗聴器の類は殺したという意味だった。

おそらくはどうやったかは不明ながら、オモイカネの監視も誤魔化しているのだろう。



「ナデシコは軍へ編入されます。

 恐らくは極東海軍へ編入され、単艦での遊撃任務に就くでしょう」



「そいつは希望の持てそうな未来図だ」



皮肉そのものの口調で告げる。

要するに前回と同じ展開と言うことだ。



「ただし、今回は私が提督として乗り込みます。

 そして、貴方たちもいる。

 上層部は大きなイレギュラー要素になると考えています」



「……上層部?

 上官の間違いだろ。 このシナリオを書いたのはあの男だ」



「それと貴方のクライアントも」



内心で舌打ちする。

情報管理が甘い。

どこまで知られているのか微妙だ。



「そろそろ貴方宛にも次の指令がくると思いますよ?」



「メールチェックはこまめにしますよ」



「ええ、今時、紙の手紙は珍しいですからね」



……演技か? それとも偽装工作が効いているのか?



だが、これで少なくとも相手が指令の内容まで知っている可能性は低くなった。

彼に関しての指令書は手紙に擬装されて送られてくる。

しかも今時、紙の郵便物で。



紙を使う手紙は電子メールに比べてコストや資源の観点から今ではほとんど使われない。

あえて使うのは、よほど暇と金を持て余している人間がステータスとして使うか、

裏の仕事にかかわる人間がネットワーク上での盗聴を防ぐためかだ。



彼がどちらに属するかは言うまでもない。

プライバシー保護機能や暗号化キーがあるから安全などという謳い文句を信用する気にはなれない。

前回の彼が死んだ時、プロテクトを施してあるはずのシステムがあっさり乗っ取られたこともある。

そして知己の中にも化け物じみた電子戦能力を発揮する連中がいる。



安全を考えるなら文書の方が確実だろう。

ただし、それは簡単に気付かれる。

誰でも思いつくような手だからだ。



したがって、彼はもう少し手の混んだ真似をした。

それっぽい手紙を送らせる。

当然内容もそれっぽいもの。

特殊な薬品を使わないと文字が浮かんでこないタイプ。



しかし、本命は切手の裏に張られた薄さ0.1mmのメモリーチップ。

これほど薄いと逆に単体では失くしそうで怖いが、誤魔化しは効く。



「そう警戒なさらないでも、今は味方なんですから」



「軍から放り出された爪弾き者だからな。

 どうしても……」



「それは嘘ですよね。

 いえ、貴方は自分以外の何者も信用してはいない。

 でも、同時に信頼の置ける仲間をもてる彼らを羨む心もある。

 だからここで遠巻きに彼らを見ている」



「皮肉を言いにきたのか?

 それとも精神分析をするつもりなら……」



「休暇のお誘いに」



その答えはあまりに予想外だった。

ゆえに冗談の一種かとも思ったのだが、



「ナデシコはドック入りしますから、その間は乗員にも上陸許可が出るでしょう。

 そうしたら、少しはお時間も取れますよね?

 あら、それともこんなおばさんのお誘いではダメかしら?」



言葉の意味を少し考える。

とりあえず最後の一行は間違いなく謙遜だ。

どう見ても16歳の娘を持つようには見えない。

見た目年齢はせいぜい20代後半。



ついでに言うなら柔和な物腰の美人。

裏がなければ是非にといいたいところだ。



「それは言葉通りと受け取ってよろしいのか、ミナセ少将?」



「もちろん……カタオカ・テツヤさん」



もちろん、何なのか?



どちらなのかは答えない。

やはり喰えない相手だ。

だが、彼は頷いた。



……どうせ暇なのだから





○ ● ○ ● ○ ●





ヤマダ・ジロウは医務室へ来ていた。

そこは今やナデシコの中ではウリバタケの私室と並んで『行きたくないところランキング』でTOPを争う人外魔境である。

一時は負傷が多くて医務室に世話になっていたこともあるが、それ以来寄り付こうともしなかった場所でもある。

もともと艦医がいて、医療班があったのだが、なぜか今はイネスが占拠していた。

しかも医療スタッフを自分の部下のように使っている。



ただし、それに関して文句を言う人間はいなかった。

イネスの腕と知識は『性格はともかく腕は一流』という基準で選ばれたはずの艦医を上回っていたし、

何より疑問を挿もうものならその後、数時間に渡り説明と説得を聞かされる羽目になるのだから。



「あら、無事に戻って………ないようね」



主に整備班の『熱烈な歓迎』を受けた彼は明らかに帰還直後より疲弊していた。

マンガのようにくっきりと付けられた足跡がポイントだ。



「手当ては?」



「いや、こんなの唾でもつけときゃ治る」



苦笑しながらきくイネスに、蒼白となって首を振る。

何かがあったらしい。



「それより、命の恩人に挨拶でもと思ってよ」



「そう、残念ね」



何が残念なのかと訊く勇気はその場の全員になかった。

訊いたら人として何か大切なものを奪われそうな雰囲気があった。



「本当は手術終えたばかりだから安静にしておきたいところだけど、いいわよ」



「いいのかよ!?」



「頑丈なのよ、彼。

 ふつうなら体表面の10%に三度の火傷を負ったら皮膚呼吸が阻害されて危険なのに、

 30%に三度の火傷を負いながら手術を耐え切って、しかも麻酔からわずかに3時間で目覚めた。

 手術は成功したけど、痛みまで消せるわけじゃないからかなりの激痛が伴うはずなのに、しっかりしてるし」



「それは既に頑丈の域を超えてると思いますけど……」



イツキの意見はもっともだったが、ガイもそれくらいなら大丈夫そうだし、

ハーリー君って言う例もあるしなー、などとアキトは考えていた。



「………ふふふっ、本当に興味深いのよね」



………マッド



奇しくもその時、4人の心は一つとなった。

今なら合体ロボットであろうとも操れそうだ。



「そ、それじゃあ、長居してもなんですから、挨拶だけしていこうね」



「そうだな、ユリカ、それがいい」



「そうしましょう。 ええ、是非」



「気が合うな、イツキ」



不気味に含み笑いをするイネスにこれ以上関わるのは危険と判断。

戦術目標の達成に目的を絞り、素早く危険領域からの離脱を図る。

この辺はさすがは現役パイロットと現役艦長だった。



カーテンで仕切られただけの簡素な『病室』へ向かう。



「あー、あんたか?」



確かに患者用の服の間からのぞく包帯がなかったら、怪我人には見えなかった。

顔色は悪くないし、落ち着いた雰囲気を持った青年である。



「何かよくわからねえけど、助けてくれたって聞いてな」



「いえ、たまたまですよ。

 信じてもらえたのは僥倖でした。

 何しろ、理由が『夢で見たから』なんですから」



「まあ、それでも助けてくれたことにはかわりねえんだ。

 ありがとうな」



「いえ、いいんです。

 

 ………今度は助けることができたから



後半部分は呟くような声だったので、4人は聞き逃した。

それに気付くことなく今度は立ち代りにイツキも礼を述べる。



「本当に、ありがとうございました」



「恐縮です。 よかったですね、あなたの大切な人が無事で」



「えっ!? えっと、ええ、はい」



赤くなってうろたえるイツキだが、生憎と愚鈍を絵に描いたようなヤマダは意味を図りかねたようだ。

ついでに鈍感キングと言われた某戦神も、自分とアキト以外の色恋沙汰にはとことん疎い艦長もだ。



「ナデシコ艦長のミスマル・ユリカです。

 この度はご協力感謝します」



「おれは……ほんの少し手を貸しただけです。

 ほとんどはあなたたちの功績です。

 諦めなかったことも含めて」



「それでも、ありがとう。

 ああ、紹介が遅れたけど、俺はテンカワ・アキト。

 コック兼パイロットだ」



「パイロットの……って、まあ、知ってるかもしれないけどな。

 とにかく、ダイゴウジ・ガイだ」



「ちなみに魂の名前だそうです。

 本名はヤマダ・ジロウさん」



「イツキ、それは世を忍ぶ仮の名前だって言ってるだろうが」



「それならこれからも忍んで下さい。

 私はイツキ・カザマです……どうかしました?」



イツキが名乗った時点で青年は明らかに動揺したようだった。

それを気に止めたイツキが尋ねるが、彼は軽く首を振った。



「えっと、おれは…………」



言いかけて青年の動きが止まる。

何かを思案するように黙り込み、俯く。



「……………」



たっぷり、カップ麺なら食べ頃になるくらいの時間が流れて、彼はようやく口を開いた。



「おれは………誰なんでしょう?」



疑問形だった。



「「「ええ〜〜!?」」」



そしてナデシコは新たな厄介事を抱え込むことになる。









<続く>






あとがき:

インターミッションです。
単独ジャンプができる機体の秘密の一端を公開と
実は正体バレバレっぽい彼の顔見せです。

代理人様にはA級ジャンパーの脳でも組み込んであるのかなどと言われている
長距離跳躍用の機体ですが、そんなダークなことは思いつきませんでした(汗
単にA級ジャンパーが使ってるからですよー。

ひょっとして私、ダーク路線だとか思われているんでしょうか。
もしかしたらこれが噂に聞くスカラーじゃなくてBen波なんでしょうか。


それでは次回また。

 

代理人の感想

私は特にダークだとは思ってませんが、戦記物である以上ノリはそう遠くならないのではないかなと。

人が死なない戦争なんてありえませんしね。(ガ○ダムファイトならまた話は別ですが(爆))

 

後気になったのはやはり「彼」。

原作同様本気で記憶喪失なのか、それとも何か訳あって記憶喪失を装っているのか?

う〜む。