時ナデ・if
<逆行の艦隊>

第19話その3 英雄なき戦場




「欧州におけるカキツバタ、そして以前のナデシコ。

 両者の活躍は聞き及んでおりますわ」



「会長なんて退屈なものでね。

 スタッフの頑張りのおかげだと思ってるよ」



世辞を軽く受け流してアカツキは改めてアクアを観察した。

フルネームをアクア・クリムゾン。

彼女はネルガルにとって宿敵とも言えるクリムゾンの会長、ロバートの孫だ。

最後に会ったのは、彼女のお披露目パーティーの会場だった。

要するに、社交界デビューという名目で、将来の夫を今のうちから目星をつけておこうというわけだ。

もちろん、そこにアクア自身の意思が介入する余地は極めて少ない、いっそ皆無といってよかった。

古典的な政略結婚の構図がそこにあった。



だが、彼女はクリムゾンにコネを作りたい中小企業の代表たちや祖父まで、周囲の思惑をあっさりと裏切った。

招待客に振舞われた酒の中に薬物を混入。

それを飲んだ客たちが手足の痺れで身動きが取れないままその場に崩れ落ちるのを横目に、

ただ一言、「不幸な事故でしたわ」と告げるとさっさと退室していった。

それは裏で“不幸な事故"を演出しているロバートへの当てつけともとれる言葉だった。



以降、アクアが公にその姿を見せることはなく、噂では“別荘”という名目で与えられた孤島に軟禁状態ということであった。

そして真相はともかく、ネルガルの情報収集衛星(隠さず言うなら偵察衛星)によってそれは確認されたから、噂の確度は相当に高いはずだ。

だとすれば、そのアクア・クリムゾンがいきなり欧州に現れ、企業を起こしたというのはどういうことだろうか?



「でも、こうして来てはみたけど、どうしたものかな?」



「どう、とは?」



軽薄な笑みを浮かべ ―― 半分は演技だが、半分は本音だ ―― 告げる。



「ネルガルは欧州へカキツバタを派遣している。

 もちろん、軍の要請によって。

 民間企業としての営業にきているわけじゃないんだ」



それは事実ではあった。

現在のカキツバタは完全に軍の編成に入れられているし、指揮系統も宇宙軍司令部にある。

したがって、カキツバタは連合宇宙軍所属の戦闘艦艇として、戦争をしに来ているのだ。

それは間違いない。

(もちろん、カキツバタの優秀性を示すことでネルガルのイメージアップを図る意味もある)



「だから、ネルガルとしては君らに要求するものなんてないのさ」



交渉の基本はギブ・アンド・テイク。

持ちつ持たれつ。

組織同士の交渉とは友情や信頼とは無縁の世界である。

そこにあるのは純粋な利害のみだ。



「そうでしょうか。

 でも ―― いえ、では、先にこちらからの要望を提示させていただきます。

 我が社、スカーレットとの技術提携です」



アクアは明確に“我が社、スカーレット”と言い切った。

それは即ち、クリムゾングループとは無関係という意思表明だろうか?

アカツキは判断しかね、しかし、別の言葉を口にした。



「技術提携、素晴らしいね。

 協力し合うことで人は今日の発展を手にしたんだ。

 日本にはこんな言葉がある。 『三人寄れば文殊の知恵』ってね。

 でも……」



一旦言葉を切り、笑みを消す。



「さっきも言ったはずだよ。 君らに要求するものなんてない。

 技術提携って言ってもさ。 ネルガルに何の得があるんだい?」



それは厭味でもなんでもない。

伊達や酔狂でネルガルもアジア最大のコングロマリットを謳っているわけではない。

明日香インダストリーのことを除けば、アジア全域に影響力を有し、

『ゆりかごから墓場で』ならぬ、『靴下から戦艦まで』といわれる巨大な企業グループだ。

傘下の企業は優に500を越え、子会社まで含めれば1000に達する勢いだ。

いまさら欧州の片田舎にぽっと出ただけの企業に価値を見出せるわけがない。

今回こうして赴いたのは、アクア・クリムゾンという名前があったからこそだ。



しかし、それくらいのことはアクアも承知している。

交渉のカードの一枚を切る。



「まず、欧州という地理があります。

 逆にお尋ねしますが、カキツバタへの補給はどこが行っていますか?

 いくら軍に編入されているとはいえ、相転移エンジン搭載艦の補修部品はネルガルが提供しているはずです」



「それは確かに。 軍へ艦艇用の相転移エンジンを供給しているのはうちだからね」



特別隠すことでもないので、頷いて認める。

まあ、そうは言ってもネルガルは半分で、残り半分はAGIが行っているのだが、それは黙っておく。



「では、その部品はどこから運んでいるのでしょうか?

 中国から? あるいは日本から? もしかしたらフィリピンからかもしれませんわね。

 でも、それは容易ではないはずです。 欧州へ物資を運ぶには、インド洋を経由するか、パナマを抜けるのが近道ですが、

 インド洋ルートは遠く、パナマは現在、利用できる状況ではありませんもの」



今も昔も物資の長距離輸送の要は海運だった。

10万トンクラスの輸送艦が宇宙まで行くようになってもそれは変わらない。

なぜなら、そんな輸送艦は月や宇宙に存在する各拠点への物資輸送に忙しいからだ。

それにやはりコストがかさむ。



一度に大量の物資を運ぶとしたら、一番コストパフォーマンスに優れるのは海上艦艇による輸送だ。

航空機は早いが、気象条件に大きく影響されるし輸送量は少ない。

何より航空優勢が敵の手中にある欧州を飛ぶのは危険極まりない。



陸上輸送は鉄道を使っても艦艇に比べてやはり輸送量は少ない。

更には長距離輸送には向かないと言うこともある。

クルスク戦で勝利したとはいえ、ロシアの道路や鉄道網といったインフラは徹底的に破壊され、ようやく復興が始まったばかりだ。



残されたのは海上しかない。

とはいえ、これも安全とは言い切れない。

制海権は連合が握っている(と言うか、海のない木連では、制海権と言うものがいまいち理解されていないようだった)ので、

護衛をつければいくらか対応できてはいるがそれも程度の問題であり、根本的解決にならない。



現在の輸送艦は省力化が進んでいるために乗員は20人ほどで済んでいる。

それにしたって事故のときに対応するだけで、普段は居眠りしていてもいいくらだ。

しかし、人が乗っているからには危険手当を出す必要があるし、死者が出たら遺族年金に少なくない額を支払う。

もちろん、ことが戦争であるので保険は利かない。

そのしわ寄せは当然、製品の価格に上乗せされる。



「技術提携でライセンスが頂けるなら、輸送コストを抑えて部品を提供できると思います。

 ええ、珍しいことでありませんわ。 AGIが日本において行っていますもの。

 相手は明日香インダストリー。 アジア方面における相転移エンジン関係の一部パーツはすでに明日香へ完全に委託したようで」



おかげで明日香インダストリーの保有するドックでも機動母艦や戦艦の補修ができるようになっている。

大神工廠ではダイアンサス級機動母艦の10番艦<ボイデイ>が建造中だった。

そのパーツの半分以上が国内で調達されたライセンス品だった。

出所は言うまでもなく、明日香インダストリー。

アジア1と言う肩書きは不動であるが、ネルガルと2番手の間隔が徐々に詰まっていることは確かだ。



「ネルガルにも同じことをしろと?」



「わたくしは提案させていただくだけですわ」



確かにそれ自体は悪い話ではない。

欧州に覇を唱えようとしているAGIに対して喉元に突きつけるナイフとなるかもしれない。

だが、それだけでは不足だ。



「検討に値する提案だと思う。  でも、対価としては不足だな。

 こちらは虎の子の技術を提供せざるを得なくなるからね」



GB、DF、相転移エンジンのどれをとってもネルガルにとっては最高機密に属する。

しかし、欧州における補給拠点としての役割をスカーレットに期待するなら、

間違いなくそのうちのどれか(あるいは全て)をある程度は開示しなければならない。

その他の技術なら他で何とかできてしまうからだ。

それなら敢えてスカーレットと技術提携を結ぶ必要もない。



「つまり、ネルガルの方針としては、現状維持。

 これに尽きるのさ。 こと欧州ではね」



「なるほど。 分かりやすい答えですわ。

 現状維持。 確かに悪くはないでしょう」



アクアは上流階級の人間に特有の優雅さを失わない口調でそらんじた。



「それが可能なら」



「可能なら?

 まるで、僕らにはできない、と言っているようだね」



アカツキは眼前の少女に問い返した。

アクアは頷きもせずに続ける。



「本気でそう思っているほど、愚かではないという前提で話してきましたが、違いますか?」



「はっ、意外と手厳しいね。 こちらと友好を結ぼうとしているとは思えないほどに」



現状維持、と言う方針に嘘はない。

それを真っ向から否定されたことに僅かな不快感を示す。



「友好というのは語弊がありますわ。

 組織同士には友好はありませんもの。

 個人的にはまた別ですが」



「……まあ、いいさ。

 現状維持が不可能な理由を聞きたいね」



「理由は2つ」



ぴっと指を立ててアクアは断言した。



「一つは近い未来のこと。

 欧州で新型の試験を行ってることは調べさせていただきました。

 当然、カキツバタで運用されている以上は軍も注目しているでしょう。

 宣伝効果としては悪くないでしょうね」



静かな言葉。

アクアは2枚目のカードを切った。



「新型のが完成すれば当然、情勢は動きます。

 前向きか、後ろ向きかは別問題ですが。

 まさか、それを考えずにカキツバタで新型の運用試験を行っていたわけではないのでしょう?」



「確かに……ね。 よく調べているみたいだ。

 もちろん、僕はこの計画はネルガルにとって有益な結果を生むと信じている」



挑発されたか、と言う思いがある。

しかし、パイロットでもあったアカツキにとって、新型エステの話題は無視できるものではなかった。



「二つ目は少し遠い未来のこと。

 この戦争は永久に続くわけではありません。

 戦争の夏はいつしか過ぎてゆくものです。 嵐とともに」



「戦後、と言うわけだね」



アクアは微笑んだ。

魅力的だが、アカツキに罠に捕らえられたことを自覚させる類の笑みだ。



「戦後、間違いなく民需の需要は増大し、かわりに軍需は減少するでしょう。

 戦時体制の膨大な軍備を維持できる財政余裕はどこにもないのですから。

 むしろ、インフラを整備し、人々の生活を立て直すためにこそ急務となるでしょう」



「軍は動員を解除。 兵たちは家庭人にもどる、というわけか」



誰もが忘れかけていることではあるが、戦後は必ずやってくるだろう。

それがいつになるのか、あるいはどんな結果で戦争が終わるのか誰にもわからないだけで。



戦後の軍は現状から大幅な縮小を迫られることになる。

湯水のように使われている資金もなくなり、新型の開発計画なども打ち切られるだろう。

そうなった場合、ネルガルの軍需部門もおなじく変わらざるをえない。

AGIとネルガルが(誰も頼んだ覚えのない)熾烈な開発競争を繰り広げているのはそれが理由だった。

互いに戦後のシェアを獲得するために少しでも有利となろうとしているのだった。



「現状維持。 便利な言葉です。

 それを唱えれば何もかもが平和的に解決できるように思えるほどに」



「だが、言い換えれば現状打破の案を思いつかないだけだと、

 そう言いたいわけだ」



「あら、それは邪推と言うものですわ」



どうだか、と言う呟きは胸の内に留めた。



「なるほど、確かに現状維持というわけにはいかなさそうだ。

 だけど、ネルガルも黙っているわけじゃない。

 先ほど君が指摘したように、新型の開発も行っている。

 それでも現状打破にはいささか不足かな?」



「不足、とは申しません。

 ただ、わたくしたちにもそのお手伝いができる、と」



「具体的には?」



ある意味でここが勝負どころだ。

アクアは最後の……文字通りの切り札を出す。



「百の言葉よりも実物をお見せいたします」









それの正体は簡単に予想がついた。

パイロットでもあるアカツキが知らないはずもない。



「機動兵器……ッ!」



しかし、彼の知っている機体よりもだいぶ大きい。

組み立て途中なのか、未塗装の鈍色を放つ上半身が無造作に吊るされている。

その上半身だけでも5mくらいはありそうだった。



「我が社で開発中の機動兵器です。

 まだ名前もありませんが、技術者たちはコンストレーション計画と」



「大したものだね。 僅かな期間で機動兵器まで自社開発なんて」



機動兵器は最新鋭技術の集大成と言うべき代物だ。

自主開発できるような組織はそう多くない。



「ありがとうございます。 次はあちらを」



アクアが次に示したのは円盤状の物体だった。

キャットウォークの上から見ていなければ円盤状だと気づけなかったほど大きい。



「相転移エンジンです。 あの機動兵器に搭載予定の」



今度こそアカツキは絶句した。

今の言葉が本当なら、ネルガルよりも早く相転移エンジンの小型化に成功したと言うことだ。

ネルガルでも研究は行っているものの、月面フレーム案が潰れたことで基礎研究に留められているのが現状だった。

それが実物を見せられるとは。



「現状では機体の大型化は避けられませんが。 あの1号機と、同型の2号機では約10mです」



「その場合は地上での運用に支障が出るんじゃないか?」



パイロットの性としてその疑問を口にしていた。

大きいと言うのはそれだけ重量も増し、結果として構造負荷が大きくなる。



「ええ、ですから基本的には月面、もしくは宇宙での運用が前提となります」



ネルガル会長としてはあるまじきことだが、アカツキは目の前の機動兵器への興味を隠すことをしなかった。

と言うよりは、隠し切れなかった。

何しろ、自分の趣味で専用のカスタム機を用意させたほどである。

こうなると、おもちゃを前にした子供と大差ない。



「それとは別に6〜7m級の人型機動兵器の計画も進めていますが、そちらはなかなか。

 ご覧のように零細企業ですから」



「なるほど。 それで技術提携か」



「はい。 とりあえず、そちらは先行してエンジンの開発には成功していますが、

 プラットフォームとなる機体に関しては方向性を模索中です」



そう告げてから、ご覧になりますか、と資料を手渡す。



「GRF-1300型エンジンです。

 技術提携の暁には、このエンジンを提供させていただく用意もあります」





○ ● ○ ● ○ ●





初回の交渉としてはまずまず、だろうか。

アカツキからは「前向きに検討する」という実に日本人的なあいまいな返答しかなかったが、

次回へ繋ぐことができただけでもいいだろう。



「よろしかったので?」



執事の問いには頷くに留めた。

緊張の糸が切れたせいで全身を気だるさが包んでいる。

悲劇のヒロインになるための道は険しそうだ。



「嘘はついていないわ」



「しかし、真実全てでもない」



アクアは微笑を浮かべた。

まさしくその通りだったからだ。



開発中の機動兵器は現在2機。

試作機にしても少なくともあと2機は必要とされる。

しかし、今のところ予備機を生産する予定はなかった。

理由は単純明快。

予算がないから。



エンジンの開発とフレーム2機分を調達しただけでスカーレットの財政は真っ赤になった。

そもそも、新技術の常として、相転移エンジンは非常に金がかかる。

現物そのものは木連から調達した物があったが、小型化のためにかけた予算は少なくない。

そもそも、コンストレーション計画とは木連の新型機動兵器開発計画<星辰計画>を欧州の技術者にも

わかるように適当な意訳をしてコンストレーション(星座)としただけのものだ。



その目的はジンタイプの小型化。

現時点では実戦投入されてはいないものの、火星での運用試験から、ジンタイプはその巨体から地上での運用に大きな制限があると判明していた。

施設などの制圧には従来の虫型を投入するとしても、連合軍の人型を相手するのにはいささか力不足となってきている。

一式戦<尖隼>はスノーフレイクやスーパーエステの登場で早くも旧式化しつつある。

二式局戦<飛電>が思ったような結果を残せなかったこともあり、新たな機動兵器の開発は木連でも急務だった。



そのための計画は大きく分けて二つ。

一つは素直に尖隼や飛電の後継となる機体を開発すること。

これは実に無難と言える。

元々、尖隼や飛電の原型となった零式は初期型のエステバリスに手を加えただけのほぼメイド・イン・ネルガル。

尖隼でもエステバリス2と比較して、防御力以外ではさほど性能的に見劣りするものではない。

スノーフレイクが相手でも運動性能なら勝っている。

この優れた基礎設計を生かして、次なる機体を開発しようと言うのはそう悪い考えではない。



が、それはそろそろ限界だった。

それはエステバリスの現状を見ればわかる。

なまじ出来がよかっただけにエステに拘り続けたネルガルでさえ、スーパーエステ以降は従来機の改善を放棄した。

既にスーパーエステからして、フレームの6割を再設計しているため、中身はほとんど別物である。

無駄を極力省いた設計のエステは、それ故に新たな装備を積み込む余裕がどこにもなかったのだった。

ネルガルは既に次世代機動兵器開発計画AV-Xをもって、エステの後継機を模索しはじめている。



木連もそのことはわかっているらしく、完成すれば三式戦となる予定の機動兵器は従来機の設計を参考にしつつも完全に木連の独自設計としていた。

また、固定兵装を減らし、外部兵装の換装によって多目的な運用にも耐えられるような設計を目指している。

(これは北極海で回収されたスノー系の試作機2機と、スノーフレイクの影響が大きいとされる)



一方、軍部にはそもそも地球人の設計した機に乗ることを潔しとせず、聖典たるゲキガンガーにこだわる声もあった。

言うまでもなく、自他ともに認める木連軍人のエリート、優人部隊のパイロットたちである。

彼らが求めたのはアニメの中にあるような質実剛健な男の魂の具現である“スーパーロボット”であって、消耗品扱いの兵器ではなかった。

優人部隊の彼らから見れば、6m程度の小型な機動兵器などロボットとしては頼りなく、いかにもちゃちな代物だった。

装甲はほぼ無きに等しい脆弱さ。 こんなもので戦争ができるのか。

そう主張して彼らは尖隼の配備に抗議し ―― 基本的にパイロットに機体の選択権の無い(希望は出せる)連合軍から見れば信じられないことだが ――

それは通ってしまった。



結果としてジンの配備が遅れに遅れたこともあり、尖隼が配備された優華部隊が先に実戦に参加することになったのは彼らにとっては大きな誤算だったかもしれない。

何しろ、優華部隊は火星でナデシコに多大な損傷を与えた上に、8ヵ月後の月の戦いでは初の戦死者まで出している。

婦女子は守るべきものという優人部隊が、本来は後方支援部隊であったはずの優華部隊を矢面に立たせていると、内外から非難が集中したのも無理なからぬことだった。

慌てた上層部はジンの配備を急がせたものの、相転移エンジン、グラビティブラスト、ディストーションフィールドを装備する30m級の兵器が早々に増産できるはずもない。

かと言って、今さら尖隼を配備するものも……と言うわけで、白羽の矢が立ったのが失敗作と断じられた二式局戦<飛電>。



ヤマザキ博士の元にも引き渡された数機の飛電を参考にしつつ、ジンタイプの縮小コピーを作ったらどうだろうか?

ジンならパイロットからも文句は出ないだろうし、小さければ必要な数も揃えやすいだろう。

(これは艦艇にも言える。 戦艦1隻をより、駆逐艦4隻が必要な局面もある)

これならいける!

と言うようなことがあり、星辰計画と名付けられたジンの小型化計画は始まった。

無論、ジンタイプの建造コンセプト「単機で敵宇宙戦艦・施設に大打撃を与える」は継承された。 

更に仕様要求は以下の通り。



1.ゲキガンガーを模した強力な武装

2.強固な装甲と時空歪曲場

3.単独有人次元跳躍

4.テツジンより良好な量産性



これを聞いた担当者が辞表を提出したのも頷けるほどの無茶っぷりだ。

そもそも1〜3の条件を満たすべく重力波砲、相転移炉、時空歪曲場を搭載したら30m級になったというのに、

それに加えて小型化、量産性の向上を満たせたらその方がどうかしている。

意気込んで取り掛かったものの、あっさり限界を迎え計画は行き詰まった。

ついには3人目の担当者が重責に耐えかねて首を括る事態となって、ようやく軍は要求を緩めた。

「新型機は1.2.3の条件のうち、いずれかをジンタイプより劣らざるとすること」と言う条件に変更し、

かわりに「機動性能・運動性能は一式戦に劣らざること」とした。



結局、1〜3の条件を満たす3通りの試作機を作成することとなり、うち2機がスカーレットに委託された。

木連の財政も逼迫していたからだった。

三式戦となる予定の機体を開発しつつ、星辰計画まで進める余裕はどこにも無かった。

スカーレットで目指されたのはグラビティブラストの搭載する機体とジン並に強固なDFをもつ機体の2種類。

単独有人次元跳躍可能な機体はさすがにことが最高レベルの機密にかかわることなので本国での開発となった。



アカツキに見せたのはその2機であり、実際にはスカーレットの正社員だけでなく木連の技術者も多く関わっている。

従って、厳密にはスカーレットの自社製機動兵器というのは無理がある。(間違いではないが)

相転移エンジンも、木連技術者たちのジンタイプへの使われた技術の転用が利いたからこそだった。

この辺はまだまだ木連に一日の長がある。

また、月でスカウトしたかつてのネルガル所属の技術者の活躍もあった。

月面フレームの関係で小型化の基礎理論は確立されていたのである。

その2つがなければ、相転移エンジン小型化は到底間に合わなかったであろう。



「使えるものは何でも使う。

 例えそれが客からの預かり物だとしても、ですな」



「ずべては予算確保のため。

 こうなると私個人の貯金なんてすぐに底を着いてしまうわ」



「おいたわしい限りです。 お嬢様」



「ええ。 でも、これでネルガルからの資金援助は受けられそうよ。

 新型機動兵器のエンジン開発に四苦八苦しているらしいのは本当のようね」



機動兵器と同じく、アカツキに見せたGRF-1300型エンジンも完全に自社開発ではない。

あれは北極海で回収されたAGI製のYTM-17<スノーウィンド>とYTM-18<スノーストーム>に搭載されていたエンジンのコピーだ。

恐らくはスノーフレイクのものと同型か、出力向上型と目されるそれらはバッタのエンジンを原型としている点で木連の機動兵器と同じだった。

既に零式からその手の応用をしている木連から見れば、コピー程度ならそう難しいことではない。

基礎工業力の差からいささか信頼性で劣るのは仕方ないにしろ、ほぼ同性能のものである。

無論それは真っ先に自分たちの兵器への転用が検討され、三式戦の主機関となる予定である。



では、なぜアクアがアカツキに対してエンジンの提供を約束できたのかと言えば、それが元々AGI製のものだからだ。

自分たちの最新鋭機に使う予定のものを敵に漏らしてどうすると言う反対ももちろんあったが、

元々が敵の装備であるし、制御装置やジェネレータを外した素の状態であれば問題ないだろうということで説得できた。

木連に提供されるものは、エンジンにそれらをつけてパワーパック化された状態のものである。



「ネルガルがライセンス料を払ってくれるなら、こちらはその資金で開発を続けられますな。

 星の海の向こうの方々はロマンチシズムが現実にとって代わっている面があるようで。

 夢は金で実現できますが、夢見ても金は生み出せません」



「お互いの存亡を賭けた戦争にまで電卓と帳簿が必要だなんて、それこそ悲劇ではないかしら?」



「世知辛い話ですな」



実際問題として木連は外貨を稼ぐ術がない。

よって、スカーレットに支払う金がない。

今のところは技術提供で代替しているが、経済が古典的な物々交換ですんだのは遥かな昔の話だ。

いずれ限界がくる。



「……でも、その時こそが、チャンスなのでしょうね」



気だるさに任せてイスに体重を預ける。

ポツリと呟き、微苦笑。



「アルフレッド。 私は歴史家になんと言われるのかしら?

 売国奴? 戦争を悪化させた大悪人? それとも祖国を勝利に導いた英雄?」



「お嬢様の望むように。 そして、望まれたままに」



「あら、それじゃあ、こんなのはどうかしら」



忠実な執事に向け、歳相応の無邪気さでアクアは告げた。



「運命に翻弄され、家族に裏切られ、それでも戦い続けた、悲劇のヒロイン」



これをもってアクア・クリムゾンとスカーレットは世界の構造を決定付ける要因の一つとなった。

後世にそう評価されことになる少女は、しかしまだその先の悲劇に向かっている途中だった。





<続く>






あとがき:


俗世間はクリスマス一色ですが、無神論者の私には関係ないことです。




……関係ないんだってば! ヽ(`Д´)ノウワァン


それではちと早いですが、皆様よいお年を。

管理人の感想

黒サブレさんからの投稿です。

思いっきり目立ってますね、アクアお嬢。

なんか、アカツキの影がひたすら薄いし(苦笑)

欧州では色々な思惑が蠢いているみたいですね。

今後、どんな騒動が巻き起こるのか・・・実に楽しみですw