その日の出来事は、新聞やニュースでひっきりなしに報道され、数日の間収まる事は無かった。

ここは月のネルガル第0ドッグにほど近い、通称イネス・フレサンジュ秘密研究所である。


「・・・・・おもしろくないですね。実際。」


「・・・・・死人扱いになって面白いことがあると思っていたわけじゃないだろ。」


そう答えたのは、宇宙軍や統合軍などの天敵であり漆黒の死神とも呼ばれる

テンカワ・アキトであった。













機動戦艦ナデシコ≪確かな明日を≫












その間にも、ルリはナデシコ関係者の動向や自分の葬儀の模様などを集められるだけ

集めてゆく。ユリカのやつれ悲しみに満ちた顔やミナト、ユキナらの悲痛な表情が映されるたびに、

ルリの胸は思っていたよりも遥かに激しい痛みが襲っていた。

自分の取った選択がいかに彼らを苦しめているか、今更ながらに思い知らされていた。






だから、過去に同じ事をしたアキトにわざと話を振ったのだ。

しかし目論見は見事に外れ、肩透かしをくらった気分のルリは危うく拗ねモードに入る所だった。

それを制御して、アキトの方に振り返り真正面から話し掛けた。


「アキトさん。保護して頂き、ありがとうございます。擬装用の死体コピーまで

作っていただく念の入用・・・・イネスさんまで協力してくださったのですね。

で、ここまで派手にやってくれるのはありがたいのですが、ネルガルの私への課題は何ですか?」


ルリの瞳は濁り無く、澄み切っていた。

アキトは正視できず、うつむき加減に言葉を発した。



「ネルガルからの要求は・・・・・・・・・・無い。」













「は?」

つい間抜けな返答をしてしまうルリ。






「・・・・・だから、ネルガルからの要求は無いといっているんだ。」


「・・・・・・・・・本当にですか?」


「・・・ああ。」


ルリにとってはまったく予想外の言葉であった。普通はそう思うだろう。

あれだけのことをやったのだから、当然それだけの要求があるはずだ。

しかし、無いというのだから不思議である。



すると、それに答えるようにアキトが説明をはじめる。


「今回の事に関しては、アカツキの独断で行われたんだ。だからこのことを知っているのは

アカツキにエリナ、ゴートさん、プロスさん、それにドクターだけだ。

重役たちは何も知らない。だからネルガルからの要求は何も無い。」


「・・・・・・・では、アカツキさんからは何かあるんですね?」





「・・・・あるというかなんというか。」




「?」




「『好きにやればいいよ。』だそうだ。」



「・・・・・・アカツキさんらしいというか、なんと言うか・・・」



「まったくだ。」



「御都合主義と言うやつですか。」



「たぶんな。」



といい、苦笑いを浮かべるアキト。

そこで一つのことを思い出したルリは、早速アキトに聞いてみる。


「たしかラピス・ラズリという子が居たと思いましたが・・・・・・」


その言葉にぴくりと反応するアキト。


「・・・・・・・ラピスは、俺の記憶を消して普通に暮らさせている。」


「え、でもラピスとのリンクによって五感を維持していたんじゃ?・・・」


「たしかにそのとおりだ。だが、もう俺にはその必要がなくなったのさ。」


「・・・・・ということは、つまり。」


「ああ。五感が元に戻った。」


そう言った瞬間、ルリが飛びついてきた。涙を流しながら。



「本当ですね! 本当なんですね!!アキトさん!?」



アキトの胸にしがみついて震える声で確認する。するとアキトは


「心配かけてごめんね。ルリちゃん。」


と、バイザーをとり普段の冷たい声ではなく昔の優しい声で

笑顔を作りながらいった。



その昔のままの姿にルリの涙は止まることなく、ずっとアキトの胸の中で泣き続けていた。
















あとがき

今回はあまり物語が進まなかったなー。

しかし、ルリは生きてるし、アキトは五感治ってるし

ま、いいこと尽くしってことでいいか。



次回はとうとう火星の後継者が動き出す!

・・・・・本当は動かなかったりして。

これからアキトとルリはどこへ行くのか

というか、この先どうしようかと思案してます。

過去に行こうか、このままこの時代で進めようか

それとも…………………



まあとにかく次回に期待してください。