気分さえも重くさせるどんよりと曇った灰色の空
耳をつく、ざあざあという雨音

――――だから、私は雨が嫌い。



ア マ ツ ユ ミ



外は曇り空。
水滴の付いた窓を通して見る景色は歪んで見える。
「ハァ……」
外の天気に負けないくらい曇ったため息を、私はついた。
細かな水滴に曇ったガラスを指でなぞる。キューッという摩擦音でさえも私の神経に触る。
思い切って手のひらで窓を拭う。べっとりと手につく水分は正直気持ち悪い。
「馬鹿……」
濡れた手を眺めた。そして他の誰に言うでもなく私自身に向けて呟く。
拭った跡を通してみても曇った空は何も変わらないというのに……
それ以上何をするでもなく、ただぼんやりと空を眺める。
暗い空から降る雨は一向に止む気配がない。
重く、おもく、沈み、しずむ世界。目に映る何もかもがそう見える。

――――だから、私は雨が嫌い。




空を見上げる。
そこにあるのは太陽の光を遮る分厚い雲。
太陽の光はあまり好きな訳ではないが今だけは恋しく思える。
黙って空を見上げる。
あの人なら今頃きっと部屋で、嬉々としててるてる坊主でも作っているのだろう。
今私がいるのは自分の部屋ではなくとある軒下。
「馬鹿……」
普段なら他人に対して言う言葉をついつい自分に言ってしまう。心がささくれ立っているのが手にとるように分る。
よくよく思えば本当に私が馬鹿だったのだろう。
少し前、天気は晴れ。私は嬉しくなって堪らず外へ出た。傘も持たずこれからの天気のことも確認せずに……。
結果、今は雨、とりあえずここへは逃げ込めたけれども少し濡れてしまった。
持っていた白いハンカチで濡れた髪を拭う。前髪を雨の雫がつたって落ちた。
普段なら銀色に光って見えて綺麗、と言われる髪も、今の私にはただ空の色と同じに見える。
髪同様に濡れた服が肌に張り付く。不愉快。

――――だから、私は雨が嫌い。




帰るべき場所は濡れずに帰るのには遠く、濡れて帰るのには近い。
額にべっとりと張り付いた髪を掻き上げる。そんな他愛もない行為でさえ今の私の神経に触る。
空を見上げていた視線を降ろす。
見上げていても晴れるわけでなく、むしろ変わり映えのしない景色には辟易していたから。
ため息一つついて、ぼうっと前を見つめる。
見えるのは色とりどりの傘、歩を早めた群集。こちらに見向きもせずにせわしなく歩いていく。
私のすぐそばの空気だけが凍りついたように、今いる場所だけがシンと静まり返っている。
そんな暗い世界の中で見えた場違いなほど明るい色。おもわず目を見張る。
蛍光イエロー、雨ガッパの色。
そして母親と一緒に歩く、それを着た幼稚園児。
その子は水溜りを見つけては飛び込み、無邪気に歌っていた。
アメ アメ 降れ 降れ 母さんが……
理由もなく、何もない空を見上げた。

――――だから、私は……




空を見上げる。
目の前に広がる光景も、ただ広いだけの空の景色も、どちらも変わり映えしないというのなら、今の私と同様に何もない空のほうが幾分気は紛れる。
何故だかそう思えた。

「ルリちゃん」
不意に呼びかけられて前を向いた。

――――そこには、あの人がいました。

驚きのあまり口に手をそえます。どうして……、と私が聞くよりも早くその人――テンカワさんは答えました。
「中では見当たらなかったからね。人に聞いたら外に行ったって言われて。迎えに来たよ」
テンカワさんは照れくさそうに頭を掻くと持っていた傘を差し出しました。
安っぽい透明のビニール傘、それでも私には嬉しく思えました。
「馬鹿……」
「えーっと、そりゃどうして?」
私は口に手を添えたままクスクスと笑います。
少しは曇った気分が晴れます。
「だって二人いるのに傘は一つしかないじゃないですか」
「あ、ホントだ。確かに言う通りだね」
テンカワさんも気まずそうに頭の後ろに手をやり笑いました。
「なら……」
胸を少し高鳴らせながら、私は少しドキドキするような提案をしてみることにしました。
「一緒に歩いて帰りませんか?」
「うん、そうだね。それがいい」




ただ黙々と歩く、ある、歩く。たいした会話もせずに私はテンカワさんの歩調に合わせて早足で歩きます。
不思議と体が上手く動きません。
私は言葉もなくただ空を眺めます。
聞こえるのは雨粒が地面を叩く音と、靴が水を跳ね除ける音だけ。
「ねえルリちゃん、もしかしてご機嫌斜め?」
「どうしてそう思いますか」
「いやさ、何となく。ほら、さっきからだんまりだし」
苦笑気味にテンカワさんは続けます。
ここへ来て初めて私は自分の足を止め、テンカワさんの方ヘ向き直りました。それに合わせてテンカワさんの足も止まります。
「なら、逆にお尋ねします。テンカワさんは雨はお好きですか?」
「雨か、そうだね……」
テンカワさんは透明な傘越しにではなく、直接空を見上げました。その後、私のほうを見下ろしてニッコリと微笑みました。
黙って見上げている表情も、ニッコリ笑って覗き込むような顔もどちらもテンカワさんらしく思えて、思わず見ほれてしまいます。
「嫌いじゃない、いや、むしろ好きだな。だってほら何かこう、そうだな、癒されるって感じがしない?」
「癒される……、ですか?」
私は少しだけ、また空を見ました。相変らず灰色の空がそこにはあるだけ。
オウム返しにそのまま聞き返しました。
「そう、恵みの慈雨っていうか。ほら、俺って火星育ちだろ? だから一層のこと雨が好きなのかも」
テンカワさんはゆっくりと歩き出しました。私もそれに歩を合わせます。
「ルリちゃんはどうなの? やっぱり嫌い?」
驚き、不思議そうな目を向けた私に、テンカワさんは優しく微笑みました。
「話をしていたら何となくね。さっきから不機嫌だったのもそれかな?」
「はい、雨は何となく嫌いです。気分が重たくなるというか」
「そっか、少し残念かな。でもそれはルリちゃんの考えな訳だし、俺がとやかく言えることじゃないな」

そしてしばらくまたお互いだんまりになりました。
二人の間に静かな空気が流れます。聞こえるのはただ靴で水をはねる音だけ。
「そうだ、俺が雨が好きな理由がもう一つあった」
テンカワさんは傘を閉じました。いつの間にか雨はすっかり上がり、日が差してきていたようです。
「多分これがなきゃ、俺はこれほど雨が好きじゃなかったと思う。とりあえずルリちゃん目を閉じて」
言われた通りに目を閉じました。
暗闇の中で自分の心臓の音とテンカワさんの声だけがよく聞こえます。不思議と周りの雑踏の音は聞こえません。
「いいって言うまで目を開けちゃダメだよ」
「子供じゃないですから言われなくても分かってます」
「そうだね」
目を閉じていてもテンカワさんが苦笑するのがよくわかります。その仕草までも事細かに。
「えっと……。お、あった。ルリちゃんこっちを向いて」
されるがままテンカワさんが示す方向を向きます。雨で冷えた頬にテンカワさんの手は熱いとさえ感じられます。
「いいかい、まだ開けちゃダメだよ……。よし、目を開けて」
開けた目に飛び込むのは七色に分かれた空の掛け橋。
派手すぎず、かといって儚くもない虹が―――
「どうだいルリちゃん、綺麗だろ?」
その美しさに私は語る言葉を持たず―――
「おーい、ルリちゃーん? 聞こえてる?」
―――ただ、そこにあるだけ。 「あ、はい呼びましたか、テンカワさん?」
テンカワさんの言葉に現実へと引き戻された私の意識は曖昧な返事を返しました。
「うん、さっきから何度も。で、どうだい、あの虹は?」
「……すごく、綺麗です」
ため息混じりに素直な気持ちでそう答えます。
「よかった、『別に、普通です』なんて言われたらどうしようかと思ってたからな」
安堵のため息を漏らしながら、テンカワさんは続けます。
「どうだい、まあ、さっき俺はあんなことを言ったりしたけど、少しは雨が好きになれそうかい?」
「それとこれとは話は別です。でも……」
「でも……、何だい?」
クスリと私は微笑います。
「これ以上は教えてあげません。さあ、帰りましょうか、私たちの帰る所へ」
そう言って私は駆け出しました。足元の水溜りも今は青い空を映しています。
「ちょっと、そりゃないんじゃない?」
テンカワさんも駆け出します。
少し空を見上げて見ました。
雨雲は少しずつ切れ始め、その隙間から日の光が差し込みます。すっかりもう雨は上がって……




私は雨が嫌い。

でも、もしも雨上がりの虹をあの人と一緒に見られるのならば……

――――きっと、私は雨が嫌いじゃない。

〜Fin〜



『教えて! 利尾素先生』
Lion(以下L):さあ、やってまいりました『教えて、裏尾素先生!!』のコーナーです。生徒達の鋭い質問を今日も裁いていこうかと
アシス(以下A):で、私と
タント(以下T):僕が生徒役な訳ね
A:いきなりだけど、あの二作消しちゃったのね
L:ああ、あの二つ? ほら『認めたくないものだな、若さゆえの過ちというものは』ってこと
A:深くは聞かない
T:まあ、僕のことも有ったしね。じゃあ先生、さっそく作品について質問
L:どうぞ、タント君
T:誰、この主人公は?
L:またまた、冗談ばっかり。……冗談だよな?
T:アハハハ〜
L:もしかして、マジ?
A:アハハハ〜
L:ガクッ。まあ自分でも口調が違って『誰、これ?』状態だったし。かといって前半部の口調をですます調に直すと違和感が生じるし、で
T:まあ後半部で『ああ、ルリか』ってわかるからまだいいけど
L:前半部は不機嫌で口調が少し荒れてると脳内補完してくれると助かる
A:じゃあ、一番最初からあって最大の疑問、いい?
L:どうぞ、アシスさん
T:化けの皮はほとんど剥がれてるんだからやめとけばぁ?
L:その申し出は認めません、ついでに最初からほとんど被れてないって意見も
A:で、聞いてもいいのね? タイトルの『アマツユミ』って何?
T:あ、それは僕も思った、何だかんだで毎回タイトルは考えているみたいだからから今回も何かあるとは思うけど……?
A:のワリにいつも『直球真ん中高め外れてボール』みたいだけどね
L:……それは置いといて。聞いてばかりじゃ本当の意味で成長は望めないと思うからその件については宿題ということで
A:誰に対しての?
L:誰に対しても。でもまあ、まず100%正解できる人はいないかなと
T:そんなに難しいの? なら、ヒントくらいあってもいいんじゃないの?
L:もちろんあるさ、ヒントは変換。ちなみに正解者には……、また不正解者の方にも漏れなく……
A:回答は?
L:それはどこかで。次回作当りかもな
T:それって珍しくプロットらしきものから作ってる……
A:こっちよりも先にやり始めたはずなのに途中で止まっているあの?
L:そう、その次回作辺りで。じゃあ、そろそろ“しめ”、ということで
A:うん、了解。では皆さんがとりあえず最後まで読んでくださった事に感謝の意を表すのと
T:あるかないか微妙〜な次回作にてまた会えるという幸運をがあらんことを
L:こらタント、そういう不吉なことは言わない。では、みなさんお元気で

 

 

代理人の感想

ん〜、作者の中の人が秘密にしておきたいみたいなんでバラしませんが、

普通に考えるなら答えは一つしかありませんよねぇ。何かかけてあるのかもしれませんが。