俺は、とても臆病だ。

両親が死んでから施設に預けられた。

そのためか、俺は酷く内向的な性格になり、好きな人ができても、その気持ちを伝えるなんてことはなかった。

どうせ、俺のことなんて誰も好いてくれないと勝手に決め付けて。

でも、それはただ、自分に言い訳していただけだった。

本当は、返事を聞くのが怖かっただけだったんだ。





ナデシコに乗っていたころ、俺はなぜかもてた。

はっきりとは言われなかったけど、皆、俺に好意以上のものを持っていたと思う。

でも、それがすごく怖かった。

彼女たちにとっての俺はどういった存在なのか。

それを知るのがすごく怖くて、結局俺は逃げていた。






ネルガルが用意したとあるホテルの一室。

今、机の上には手紙がある。

ルリちゃんからだ。


『会いたい…

 帰ってきて欲しい…』


俺のことで、いろいろと根回しをしたことも書いてあったが、この一文が一番印象に残った。

あの子のことは今でもよく覚えてる。

あの子はナデシコに乗っていた頃、独りだった。

そんな風だったから、俺は親近感を覚えていろいろとちょっかいをかけたものだった。

悪い言い方をすれば、自分好みに調教をする、といったところだろうか。

彼女の中に俺を印象付ければ、きっと捨てられることはないと。

あの頃は単純に心配していたつもりだったが、今思うと本心はこんなとこだ。

今思い出すだけで、あの頃の自分のずうずうしさに腹が立つ。

あの子に下手に情を教えてしまったからこんなことになっている。

だから…いっそのこと教えるべきじゃなかったんだ。

もう、あの頃の俺に戻るなんてことはできないんだから。







今でも心の奥深くに印象付けられている彼女との思い出の中にこんな一面がある。

彼女が詩集を読んでいる場面だ。

その詩集は、星を――空を題材にしたものが多くあった。

届かないから…手に入れられないから、人は空に憧れてきた。

そんな空を、彼女は飛んでみたいと言った。

自分に翼があれば飛べるのに…と。

だから、俺は彼女の背中にも翼があり、きっと飛ぶことだってできると言った。

そんな俺に、彼女は、その時は、俺も一緒に飛んでくれるかと聞いてきた。

そのとき俺は頷いた。

彼女となら…空も飛べるはずだと思ったんだ…





今、俺は夢を見る。

鳥になって、大空を自由に飛びまわる夢だ。

空を飛ぶ夢というのは、自由を表すらしい。

なら、今の俺は自由ではないということなのだろう。

当たり前だ。

こんな、できそこないの、いつ死ぬかわからない身体。

自分ひとりでは、満足に動かすこともできない。

動かすことができたとしても、全く働かない味覚。

色彩を失った―――灰色の日常。

だが、それは、復讐のみに囚われた、俺自身が選んだ選択だ。


『会いたい…』

俺は会いたくない。

『帰ってきて欲しい・・・』

俺は帰りたくない。

どうして、会うことができようか。

俺は、あの子が期待するような男じゃない。

あの子を悲しませたくない・・・傷つけたくない・・・

………………

……………………

…………………………………

でも、それは嘘だ。

本当は、あの子が傷つくことじゃなくて、自分が傷つくことが怖いんだ。


傷つくことが怖い…

だから、もうこれ以上傷つきたくない…

彼女の知ってるテンカワ・アキトは死んだ。

それでいいじゃないか。

それで、彼女の思い出は楽しいだけのものになる。

美しいだけのものになる。

俺は、そんなものを壊したくない。

だから…こうするしかないんだ……

何、別に俺が気に病む必要はないさ。

これから俺がすることは自分勝手かもしれないが、彼女だって充分自分勝手なんだから。

自嘲の笑みを浮かべながら、手紙を持って部屋を出る。



ずる…ずる‥…


まともに動かない身体を引きずって、階段を上がっていく。



優しくして欲しいなら

傷つけられたくないなら

自分から愛すればいい?


はっ、そんな台詞は、充分に幸せな奴にしか言えない。

口先だけの奇麗事だ。

もしそうだったら、この世の中、不幸な奴がいるはずがない。

誰だって愛されたいさ…

だから、そんなことは無理なんだ…


そんなことを思いながら、屋上のドアを開ける。


が、鍵が掛かっている。


チッ

震える腕で、懐から銃を取り出す。

それから、手探りで鍵穴を探し、そこに銃口を押し付け引き金をひく。

サイレンサーをつけてあるが、それなりに音はした……はずだ。

俺の耳にはほとんど聞こえないがな。

まあ、これでこの銃はいかれてしまったが、もう用はない。

そうして銃をその辺りに捨てる。


屋上に出る。

風は……吹いているだろう。

感じることはできないがな。

空は…晴れているんだろうか?

抜けるような青空が広がっていて欲しい。

そう思って、空を見上げる。

でも、そこには、灰色に滲んだ、空とは呼びがたいものが別の何かが見えた。

でも…俺の目は見えていない。

だから…これは幻。

そう幻なんだ。

本当は、抜けるような青空が広がっているんだ。

キレイナ、キレイナ、視界が霞むくらい眩しい綺麗な青空が…

綺麗な…青空…

あの子が…俺が憧れた綺麗な青空。

それを汚すこの俺の目。

こんな目はいらない。

この目がなければ、綺麗な青空が還ってくる。

だから…俺は……コノ目ニ爪ヲツキタテタ………



抉り出した目を棄てる。

空を見上げると、そこには綺麗な青空が広がっていた。

ほら、やっぱり思った通りだ。

今日は大切な日なんだから、天気はよくないと。

手紙を握り締めながらそんなことを思う。

今まで、ずっとできなかったことを俺はこれからしようとしている。

今までは、死ぬことは逃げだと、俺には死ぬことすら許されていないと思ってた。

苦しみながら生きることが、俺の罪だと逃げていた。

だけど、彼女の手紙が、俺に逃げない勇気を与えてくれた。

そんな大切な日なのに、天気が悪いと困るだろう?







屋上のフェンスをよじ登る。

そのフェンスを登り終え、降りた後、俺の心は思いのほか落ち着いてた。

死刑執行前の受刑者はこんな気持ちなんだろうか?

そんなことを思いながら、俺は大空へと飛び立った。







空を飛んでいく最中、彼女の顔がすぐ目の前に写った。

とても悲しそうな顔だ。

そんな悲しい顔をしないでくれ。

俺にはもう翼がある。

ほら、見てごらんよ!!空を飛んでるんだ!!

どうだい?すごいだろう!!

一緒に空を飛ぼうって約束…

その約束は守れなかったわけじゃない。

一足先に待っているだけだから。

今の俺、空を飛べる俺なら、君に逢うことができる。

だから・・・君が空を飛べるようになるまでの少しのお別れだ。

そうだ!!君が空を飛べるようになったら、俺が君をエスコートしてあげるよ!!

人の――街の――山の――海の――色んな場所の上の空を案内してあげよう。

ああ、今から思うだけで楽しみだ。

あまりにも楽しみすぎて…気が狂ってしまいそう…

だから…早く来てくれよ?


……………できれば、ユリカも一緒にね?………………





感じないはずの風を感じながら、俺は彼女に別れと再会の約束を告げた。







俺は……………


鳥になったんだ……………








後書き

まず初めに…

U悠G適さん、Sakanaさん、核乃介さん、試読していただき、ありがとうございました!!

いや、人の意見を聞くというのは、本当に参考になるものです。


ところで、前回の、教えて!!代理人!!のコーナーで、シエルの人気の低さがわかったわけですが…

地味?

いいじゃないか!!

むやみたらに目立ちまくるよりかは。

それに、わざわざゲームの中で日常にあふれている刺激を求めてどうするんだ!!

種族・蒲鉾の方々が憧れながらも決して現実では手にすることのできない平穏こそ、ゲームに期待すべきではなかろうか!?

大体、レン!!

お前も猫なら、四次元ニーソックスぐらい持っておくべきではないのか?

ご主人様のアルクェイドも、妄想具現化を使えるんだから。

あるいは、その馬鹿でかいリボンに刃物を仕込んでおくとか!!

そうすれば、もっと好きになれると思うんだが…


ところで、誰か、「教えて!!知得留先生!!VSなぜなにナデシコ」とかやってくんないかなぁ。


それでは、蒲鉾たちが自爆したり、ダークになったりするのは、ハンペン衝動と言うんではなかろうか?などと最近思ってるラルでした。




代理人の感想

まずユリカ、そしてアキト・・・・・・・・・・・・・・次はルリかラピスか(爆)。

 

 

>ハンペン衝動

座布団一枚(笑)。

 

・・・デモ、アアイウ刺激ガ日常ニ溢レテイルノハ、ゴクゴク一部ノ人タチダケダト思イマス(笑)。