夜空に月が円を描いていた。

その月光の下に一人の少女がいた。

 

父と娘

 

 

ここは連合宇宙軍少将ミスマル・コウイチロウの屋敷。

そこは美しい日本庭園が広がっていた。

その庭に面した縁側で、一人の少女が月を見上げていた。

年のころは6,7歳の桃色の髪をしたどこか儚げなまさに妖精のような少女だった。

しかし、その横顔はあまり優れていない。

 

 

「ふう、なんか今日の月は冷たい感じがする。」

 

少女の口から溜息とともに鈴の音のような透き通った声が漏れる。

その言葉が漏れると少女は見上げていた月から視線をすぐ隣の空間へと移す。

 

「やっぱりアキトがいないからなのかな。」

 

その言葉を発するとたちまち少女の目が潤む。

 

「いけない、こんなことじゃ、アキトに笑われちゃう。」

 

そう言って目を拭うと月をまた見上げる。

おそらくそれは涙を堪える為であろう。

 

その時、背後から少女に声がかけられた。

 

「どうしたのかね、ラピス君。」

 

それはこの家の主であるミスマル・コウイチロウであった。

 

「あっ、ミスマルのおじさん、お帰りなさい。」

 

ラピスと呼ばれた少女が振り返って返事をする。

 

「ただいま、それにしてもこんな時間に何をしていたのかね?

 こんなところにいたら風邪をひいてしまうよ?」

 

「うん…」

 

それきり少女は黙ってしまう。

 

フウ

 

コウイチロウが溜息をつくとラピスの隣に座る。

 

「何か悩み事があるようだね。

 良かったら私に話してみてくれないかな?

 少しは楽になると思うのだが。」

 

そう言って優しく話し掛ける。

 

「うわぁぁぁあああん。」

 

その優しい言葉に今まで抑えてきた気持ちが溢れてきたのだろう。

コウイチロウに抱きつき大声で泣く。

コウイチロウは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに優しい顔になってその体をやんわりと抱きしめ、背中をゆっくりとさすった。

 

 

 

 

 

 

「落ち着いたかね?」

 

しばらくしてラピスが落ち着いた頃を見計らってコウイチロウが声をかける。

 

「・・・ヒック、うん。」

 

まだ多少涙声ではあるがラピスがそれに応える。

 

「どうしたんだね、学校で何かあったのかね?」

 

心配そうにコウイチロウが尋ねる。

 

「ううん、そうじゃないの。」

 

首を横に振りつつ応える。

 

「では、何で泣いていたのかね?」

 

「ううん、大したことじゃないの。

 心配かけてごめんなさい。

 ミスマルのおじさんもお仕事で疲れているでしょう?

 早く寝なきゃ。」

 

そう言ってラピスは立ち上がろうとする。

 

「無理はしなくても良いよ。」

 

それを遮ってコウイチロウが言う。

 

「無理?私は無理なんてしてないよ。」

 

「フフ、そういうところ、ユリカにそっくりだ。」

 

「ユリカさんと!?」

 

その言葉はそれなりにショックだったのだろう。

なかなかに笑える表情をしている。

だが、そのことには触れずにコウイチロウは続ける

 

「ああ、昔のユリカにそっくりだ。」

 

「…聞いてもいいかな?」

 

「ああ、いいとも。

 …そうだな、あれはまだユリカがラピス君ぐらいの年の頃に今と同じようにここで泣いていたことがあったんだ。

 それを偶然見かけて声をかけたらユリカのやつも泣きついてきてね。

 それで泣き止んだと思ったらこれもまたラピス君と同じ様に無理をしてなんでもないと言ったんだ。」

 

「それで?」

 

今ではまったく想像もつかないその姿に興味を持ったのだろう。

ラピスが続きを聞いてくる。

 

「ははっ、そう慌てない。

 ・・・何処まで話したかな、ああっ、そうそうユリカが無理をしたというところまでだったな。

 その後にどうにかして事情を聞き出したんだが…」

 

「どうしてだったの?」

 

「…どうして自分には母親がいいないのかと言うことだったよ。

 どうやら学校で母親がいないのをからかわれたらしくてね。

 それまでずっとそのことに関して寂しさを感じていたらしかったんだがその頃も仕事が忙しくてね。

 私に心配をかけまいと我慢していたらしいんだ。

 そのことを聴いた時は本当にそれまで気付けなかった自分が恨めしかったよ。」

 

「それが私に似ている?」

 

「ああ、私に心配をかけまいとしているように見えるよ。」

 

「そんな・・・」

 

「おそらく君はアキト君のことで何か悩んでいたんじゃないのかね?」

 

「!!」

 

ラピスが絶句する。

 

「すまないね、本当は君の口から話させようと思っていたんだが・・・」

 

「・・・どうしてわかったの?」

 

「どうしてと言われてもね。

 強いて言うなら感かな。これでも一応父親をやっているのだからね。」

 

「話しても・・いいかな?」

 

「勿論良いとも。そのために此処にこうしているのだからね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「少し怖くなったの。もしかしたアキトはもう死んじゃってるんじゃないかって。

 ううん、もし生きていたとしてももう帰ってこれないんじゃないか。

 それじゃなくとも、もうどこか別のところで他の人と一緒になって私たちのことをもう忘れて幸せに暮らしているんじゃないかって。」

 

ラピスはコウイチロウに悩んでいたことを打ち明けた後、一つの問いかけをした。

 

「どうすればこの不安は無くなるのかな?」

 

そのといにコウイチロウはしばらく目をつぶって考えた後こう答えた。

 

「私が知っている限りその不安を無くす方法は二つある。」

 

「どういう方法?」

 

「一つは全てを忘れることだ。」

 

「そんな!!」

 

ラピスがあまりのことに大声をあげる。

 

「そんなこと出来ないと?

 君は今まで一度もそんなことを考えたことが無いと言えるのかね?」

 

「それは・・・」

 

おそらく心当たりがあるのだろう。

反論しようとするが下を向いてうつむく。

 

「いや、そのことを恥じる必要は無い。

 私だって妻が死んだときは全て無かったことにしたいと思ったことだってある。」

 

「ミスマルのおじさんも!?」

 

少女が先程とは違った意味で大声をあげる。

 

「ああ、でもそれを助けてくれたのがユリカだった。

 『この子のために生きよう』、そう思って頑張ったものだよ。

 もしユリカがいなかったら妻との思いで全てを捨ててしまっていたかもしれないな。」

 

「そうなんだ・・・」

 

「おっと、少し話がずれてしまったかな。

 それともう一つの方法だが・・・」

 

「もう一つの方法は?」

 

「信じ続けることだ。」

 

「信じ続ける?」

 

「そうだ、アキト君はきっと帰って来ると。

 ちゃんともう一度会えると、彼も自分のことを必ず覚えている。

 そう信じ続けることだ。」

 

「信じ・・続ける・・・」

 

その言葉がどんどんと心の内に染み込んでいく。

それの手助けをするようにコウイチロウがさらに言葉を続ける。

 

「それに聞いたところによると彼は君達に頭が上がらないそうじゃないか。

 その彼が君たちの事を忘れてしまうはずが無いだろう?

 帰ってこなかったらこっぴどく怒られてしまうではないか。」

 

もし帰ってこなかったらお仕置きも出来ないだろう,勿論それ位のことコウイチロウにもわかって言っている。

だが、そのことをわかっていてもラピスはコウイチロウの心遣いが嬉しかった。

 

「ふふっ、そうだね。」

 

ラピスにようやく笑顔が戻る。

 

「よしっ、ようやく笑えるようになったね。

 それにアキト君は君のお義父さんなんだ。

 君の事を置いてくはずが無い。親とはそういったものだよ。」

 

「ぶ〜〜う、アキトは私のお義父さんじゃないよ。」

 

「はて、確かそうだったはずだが・・・

 それでは何なのかね?」

 

「それはね〜〜、コ・イ・ビ・ト!!」

 

 

「ははっ、そうか、そうか。

 それならユリカのライバルだな。」

 

おそらく他の人が言ったら怒るであろう言葉もさすがにこの小さな少女が言うとさすがに何も言えず笑うコウイチロウ。

 

「うん、すっきりした。

 いろいろと聞いてくれてありがとう。

 わたし、アキトを信じる。

 それにしてもごめんなさい。お仕事で疲れていたのに。」

 

「はっ、はっは、悩みが解決したのなら全然構わないよ。

 また悩みがあったら相談してくれたまえ。

 聞く位しか出来ないかもしれないがそれでも少しは楽になるだろう。」

 

「うんっ、そうする。」

 

そう言って立ち上がり、自分の部屋に戻ろうとする。

 

「それじゃあ、おやすみなさいパパ。」

 

 

「・・・・・」

 

しばらくコウイチロウはその場で呆けていたが、しばらくしてその顔はどんどんふやけていった。

その後そこで夜が明けるまでニヤニヤしていたらしく、次の日は風邪を押して仕事に出なくてはならなくなった。

 

追記として、その後コウイチロウ氏の親バカぶりはパワーアップし、その対象も増えたそうな。

そのおかげでミスマル邸には同級生の男の子が入れなくなったことも付け加えておく。

 

 

後書き

 

これも一応元は夢で見たものです。

まさかこれも電波とは言いますまい。

そもそも電波とはこの世で最も高貴であり、純粋なる物。

地球の心、宇宙の真理、神の御心、そういったものです。

そのようなものを軽々しく電波、電波と口に出すことがあってはならないのです。

 

・・・ああっ、もう既に何度も電波と口にしている(爆)。

 

 

全然関係ないんですが、学校の化学の教師が、今の時期に授業で熱く爆弾のつくり方について話していました。

 

さらに付け加えると、中等部の教師が、普通に生徒に18禁のゲームを勧めているらしいです。

 

大丈夫か、この学校!!

 

 

 

代理人の感想

 

電波かどうか・・・微妙な所ですな(笑)。

ラストのオチがなければ信じてもいい所ではありましたが(爆)。