「なぁなぁ、ハーリー?」

「何ですか、サブロウタさん?」


いつものようにサブロウタさんが僕に話しかけてきた。

んで、トラブルに巻き込まれるのは大体のパターン・・・いわゆる『お約束』というやつだ。


「今年のクリスマスはどーすんだ?」

「はい?」

「はい?じゃねーだろ、今年のクリスマスの予定はあるのか・・・って訊いたんだよ」


まだ一ヶ月も先のこと・・・僕はどーしよかと考えていたけれど、たまには父さんや母さんと過ごすのも

悪くないと思う。

でも・・・サブロウタさんに言うと絶対に

『艦長誘ってみろよ』

とか言われるのは目に見えてるし・・・はぁ・・・


「特に予定は入ってませんよ」


結局こう答えるしか無かった。

するとサブロウタさんはニヤリと笑う。

この笑みが出る時は大抵・・・僕の感が最大限の警報を鳴らす。

これは絶対にトラブルに巻き込まれる!!

世の中に絶対はない・・・こう言われているけれど、僕の場合これは『絶対』にトラブルに巻き込まれる予兆

なんだ。

どうにかして逃げよう。

そう決意した瞬間だった。


「うん。よしよし。俺さ、ダブルブッキングしちゃったんだよ、クリスマス・・・」


それによるとどうやら事情はこうらしい。

先約があるのを忘れていて他の女の子とも予定を入れてしまった・・・いかにもサブロウタさんらしい。

これで元木連の軍人だっていうから、木連の軍人さんて実は・・・なんて思ってしまう。

サブロウタさんだけじゃなくて、アララギさんとか、源八郎さんとか・・・実は元ナデシコクルーに負けず劣らず

『濃い』・・・じゃないや、一癖ある人ばかりなんじゃないかな?

うん。多分僕の考えは合ってるよ。


「って事で、頼んだぞ、ハーリー」

「はい・・・って、何をですか?」


僕がちょっとした考え事をしているとサブロウタさんは話をまとめちゃったらしい。


「ん?だから、俺の代わりにもう一人の子とデートしてやってくれ」


え・・・でーと?デートって僕が?って・・・


「エエェェェェッ!?」

「何だよ、急にでっかい声出すなって・・・」

「い、いや、サブロウタさん!?」

「何だよ?」

「何で僕がその女の子のお相手をしなくちゃならないんですか!?」

「まぁまぁ、俺とハーリーの仲じゃんよ?」

「理由になってないですっ!!」


僕が大声を張り上げるのは誰が聞いても当然の事だろう。

それにそんなのは相手の女性に失礼だよ。

第一、僕なんか相手にしてくれるわけないじゃない。

僕が思った事を口に出そうとした瞬間に、サブロウタさんのコミュニケに着信が入る。

音声オンリーになってはいるけれど、この声は・・・


『ちっ・・・何だよ、伝言メモか・・・ま、いいや。

 おい、サブ!お前があんまりしつこいからクリスマスの予定、空けといたからな!

 用件はそれだけだ、じゃあな』


僕がサブロウタさんの顔を見ると、こーゆー訳なんだ。と言う顔をしていた。

僕は思わず納得。

なるほど、リョーコさんを放っておくわけにはいかないよね、サブロウタさん・・・

ちょっとだけサブロウタさんに同情・・・というか憐れみを覚えてしまう。


「分かりましたよ・・・」


結果、いつもの如く僕が折れた。


「おお、流石はハーリー!んじゃ宜しく頼むわ。場所とか時間とかはコミュニケに後で送っておくから!」

「はぁ・・・分かりましたよ。でも、どんな結果になっても知りませんよ?」

「分かった分かった、そんじゃまた後で」


上機嫌に僕の前から去って行くサブロウタさんの後姿を見て、僕はため息を一つ吐く。

はぁ・・・

どーして僕は甘いんだろ?

甘いんじゃなくて・・・うーん、お人好しって言うべきかなぁ?

自分で考えてもしょうがない。

ちょっと自己嫌悪に苛まれながら自分の部屋へと戻る。

何にせよ、クリスマスまであと一ヶ月・・・どうなるんだろ?

そんな事を考えているうちにあっという間に一ヶ月は過ぎてしまい約束の日を迎えてしまった・・・


「えぇっと・・・待ち合わせ場所はここでいいんだよな・・・」


僕は周りをキョロキョロしながらその場でお相手を待っていた。

どうしよう・・・どんな人なんだろ・・・

サブロウタさんが声をかけるくらいだから、やっぱり大人の女性なんだろうな・・・

やっぱり、僕なんかじゃつり合わないよなぁ・・・

って、何を考えているんだ、僕は!

つりあうつり合わないじゃなくて、僕はサブロウタさんの代理なんだから・・・

それに、僕にはルリさんという人が・・・


「私がどうかしました?」


そう、この声だよ。僕にはルリさんという心に・・・

そこまで考えて僕は気付いた。

ここに居るはずのない人の声が聞こえた事を。

僕は恐る恐る、ゆっくりとぎこちなく後ろを向く・・・

するとそこに居たのは・・・


「か、艦長!?」


思わず大声をあげてしまう。

ヤバイ、ヤバ過ぎだよ!

艦長にもし見られたら・・・

あぁぁぁぁぁ・・・どうしよう、どうしよう・・・


「ハーリー君?」

「ひゃ、ひゃい!」


突然名前を呼ばれて声が裏返る。

この状況をどう説明したらいいんだろ・・・

というか、悪いのはサブロウタさんで僕じゃないし・・・

でも、サブロウタさんを売ったらそれはそれで後が・・・あ〜ッもう!!

そこで逆に僕が艦長に訊いてみる事にした。


「あ、あの〜、艦長?」

「はい、何ですか?」

「かかか艦長は何でここに居るんですか?」

「待ち合わせです」

「そうですか・・・」


そっか・・・艦長も待ち合わせなんだ・・・

しかもクリスマスにってくらいだから、女の人とじゃないよね・・・

あぁ、最悪・・・

知りたくなかった、来なきゃ良かったこんなトコ。

僕がうなだれていると一通のメールがコミュニケに送られてきた。


『うまくやれよ
 
 byサブロウタ』


これはどういう事なんだろ?

さっきまでの落ち込み気分はとりあえず置いておいてメールの意味を考える。

やっぱり、サブロウタさんに聴き返すのが一番早いよね・・・

サブロウタさんに聴き返そうと返事を書き始めた時、ルリさんのコミュニケに着信が入った。

この声はユキナさんだ。

そっか・・・ルリさんの相手ってユキナさんだったんだ・・・

ちょっと・・・いや、かなりホッとした僕。

会話の内容までは聞き取れないけれど、何だかユキナさんが謝っている感じがする。

もしかしたら今日の予定が無くなったのかも・・・

話が終わったみたいでルリさんが『じゃあ』と言ったのが聞こえた。

そこで僕はルリさんにきいてみる。


「あの、今日の約束の相手ってユキナさんだったんですか?」

「そうですよ。ハーリー君は誰を待ってるんですか?」


しまった・・・ヤブヘビだった・・・

どうしよう、ここはやっぱり誤魔化すしかない・・・けど、ルリさんに嘘はつけないよ・・・

えい、ままよ!!

僕は今までの経緯をルリさんに説明した。

するとルリさんはポツリと一言。


「はめられました」


何がはめられたんだろう・・・僕はさっぱりと訳が分からぬまま、ルリさんに尋ねた。


「何がはめられたんです?」

「タカスギさんとユキナさんにやられましたね・・・

〜ルリの述懐〜

なるほど・・・そういう事ですか。

しかし、サブロウタさんもハーリー君を代理に使うだなんて、考え方が安易すぎますよ。

彼が私に全部バラす事が念頭になかったんでしょうか・・・

それ以前にハーリー君がサブロウタさんの代理だなんて
誰が考えても不自然でしょうが。

まぁ、それを不自然と思わないハーリー君もハーリー君ですが。

ふぅ・・・サブロウタさんへの仕返しは今の会話をリョーコさんに送れば後は自動的に
制裁が発動しますし、

ユキナさんは・・・ミナトさんの手前もありますし、今回は大目に見ましょうか。

ハーリー君も・・・今日くらいは甘えさせてあげましょう。

今回は彼も被害者と言えば被害者ですし。私から二人へのプレゼントです・・・クスッ


 ・・・ま、いいでしょう」


僕の問いかけに答えるでもなく、下を向いて呟くルリさん

やおら僕の方を振り向くとルリさんは言った。


「ハーリー君、私と出かけましょう」


ルリさんからのお誘い・・・でも、僕にはサブロウタさんとの約束が・・・

僕はそれを言い出そうとするとルリさんが先に言った。


「ハーリー君の相手は来ませんよ。というか、真っ赤な嘘です」


はい?

真っ赤な嘘ですか?

多分僕は、マヌケな顔をしていたのだろう。

ルリさんは僕の顔を見てクスリと笑うと僕にきいてきた。


「私と出かけるんですか、出かけないんですか?」


一も二も無く僕は答えた。


「もちろん行きます!」

「じゃあ、行きましょう」


ルリさんが僕の手を取って歩き出した。

空は曇って寒い日だけど、ルリさんの手はほんのりと温かい。

僕はその手を少しだけ強く握り返すとこの瞬間がいつまでも続けばいいなと思った・・・





後日。

ブリッジに居るサブロウタさんの顔には真っ赤な手形が付いていて、ルリさんを見る視線が少し

恨みがましかった。

でもルリさん曰く・・・


「私をはめようなんて十年早いです」


だそうです・・・

女性って・・・怖いです・・・















あとがき

初めての方、初めまして。

お久しぶりの方、お久しぶりです。

自分の書いた作品のあらすじすら覚えてなくて、一作丸々ボツにしたマヌケな町蔵です(滅)

久々に書いてみましたが、主役はハーリー君です。

たまには彼にも幸せを・・・って事で、オチにはサブちゃんに回ってもらいました(笑)

ハーリー君で落そうかとも思ったんですが、やっぱり最後まで幸せなのもありなんじゃないかなぁ

という事で。

ハーリーダッシュの披露の機会が無い事が悔いって言えば悔いですが、また別の機会に披露して

頂くことにしましょうか(爆)

ハーリー君とルリがどう過ごしたのかは皆様のご想像にお任せして(笑)

真ん中の妙な空白は見たい人だけ見て下さい(笑)

ではまた次回・・・・って、その次回はいつになるのやら(汗)

 

 

 

管理人の感想

町蔵さんからの投稿です。

一足早い、クリスマスネタですね。

ま、こういうほのぼのとした話も良いものですよね。

それにしても、本当に騙されやすい奴だなハーリー(苦笑)

頭はいい筈なんですけどねぇ