早い・・・








「ハーリー君、早いです」

「ハーリー、早すぎ・・・」


見ると呆れたような二人の顔。

えっ・・・そうですか?


「入れてからまだ1分も経ってませんよ?」

「これじゃ三こすり半突きつけられる」


ラピス、それ、三行半じゃ・・・

ラピスに心の中でツッコミを入れつつもその言葉は僕のハートに突き刺さる。


「ラピス、それは違いますよ?早い男性に言うのはあってますが・・・」

「じゃあ、OK」

「いえ、ラピスが言いたいのは三行半ですよ」

「そう、それ。どっちにしろ満足させてあげられないよ?」


それを聴いていて何故か目から涙が溢れてきた・・・


「う、う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」

「あ、ハーリー君・・・」

「ハーリー・・・」


二人の制止も聞かずに思わず外に飛び出した。

そんな事って・・・そんな事ってあるもんか・・・

必死に色々と覚えてきたのに・・・

だけど、どこへ行く当ても無く、とぼとぼと町を歩くしかないんだけどさ・・・

横断歩道の信号が赤だという事に気付いて足を止める。

そんな僕に気付いた一人の人物が僕の方に寄ってきた。


「ハーリー君・・・だよね?」

「えっ・・・」


いきなり街中で声を掛けられた僕はビックリして顔をあげた。

そこに居たのは、買い物帰りと思しきテンカワさん。

紙袋一杯に食材を抱えている。

声を掛けてきてくれた嬉しさに、僕はテンカワさんに抱きつくと思わず泣き出した。

周囲の視線がテンカワさんと僕に突き刺さるがそんな事には構っていられずに思わずワンワン泣いた。

そんな僕をあやしながら僕達は近くの喫茶店に入る。


「アイスティーを二つ」


テンカワさんがオーダーするとウェイトレスのお姉さんは奥に注文を入れに立ち去る。


「すみません・・・」


僕は初めて気恥ずかしくなりテンカワさんに謝った。


「いいさ。それで、何が原因で泣いていたんだい?」


テンカワさんが僕に訊いてきた。

テンカワさんなら分かってくれるかもしれない。

そう思った僕はとりあえず話す事にした。


「あの、笑わないでくれますか?」

「ああ、もちろんだとも」


テンカワさんは優しげな微笑を浮かべると僕に続きを促してきた。

この辺りはテンカワさんには敵わないよ。

だからルリさんは・・・と思うと少し自分が情けなくなってくる。

ウェイトレスのお姉さんが持ってきてくれたアイスティーを眺めながら僕は決意した。

今は僕の問題を解決するほうが先決だ。

恥を忍んで話し始めた僕に、話を聴き終えたテンカワさんは


「練習あるのみだね。一朝一夕で身に付くもんじゃないからさ。それに、個人の感じ方も違うから」


と答えてくれた。


「でも、練習って何をどうすれば良いんですか?」


その問いにテンカワさんは基本は教えるから後は自分でと僕を励ましてくれた。

そして・・・次の日から特訓が始まった。

テンカワさんから個人の感じ方は違うと言われたので、ミナトさん、エリナさん、イネスさん、

リョーコさんにヒカルさんにイズミさん、メグミさん、ホウメイさん・・・

皆さんに事情を話して練習に付き合ってもらう。

でも、一番キツかったのはやっぱりホウメイさんかな。

『やるからにゃ徹底的に教えるよ』って一睡もさせてくれないんだから・・・

でもお陰で僕にも自信がついたし。

手や腰、足をそれぞれ使うんじゃなくて全部一連の動きとして動く事が出来るようになったのも皆さんのお陰かな。


「それじゃ行ってきます」

「頑張ってくるんだよ?」

「はい!」


最後に協力してくれたホウメイさんの所を出てルリさん達の家に向う。

時間も丁度良い頃合だ。


「こんばんわ!」


ドアを開けて出てきたのはテンカワさんだった。


「いらっしゃい。二人とも待ってるよ」

「はい。失礼します」


予め二人には行く事を伝えておいたから待っていてくれている。

僕はそのままキッチンへと向うと用意してきた食材を並べて切り始めた。

ここまでは順調。合わせ調味料も良い感じに仕上がっている。

あとは・・・ここからだ。

前回早いと言われた食材の炒め。それと鍋の振り。

しっかりと火を通しつつ食感も大切にしなきゃね。

腕だけじゃなく、足腰を使って一連の動作を滑らかにしなきゃならないってホウメイさんは言っていた。

皆さんに付き合ってもらって分かった事だけど、味覚の感じ方はやっぱり人それぞれ。

自分が一番美味しいと思ったものでも、個人個人によって違うという事。

その中で万人受けする味や食感ってのはある程度決まっているからそれを守ればいいって事も教えてくれた。

前回はここで『早い』って言われたんだよな・・・と思い出しつつ鍋を振るう。


「できました!」


二人の前に出来たチャーハンを置くととりあえず一口目を口に頬張る。

緊張の一瞬・・・

二人の感想は・・・


「まずいです」

「まずっ・・・」


二人して蓮華をテーブルに置く。

呆然としている僕の前でテンカワさんは一口そのチャーハンを口にすると憐れみを浮かべて僕に言った。


「ハーリー君・・・塩と砂糖、間違えたね?」


再び僕は泣きながら走り出した。

夜の街を当ても無く・・・


「やっぱりハーリー君、早いですね」

「うん。料理を人に出すにはまだまだ早いね」


なんて会話が交わされていた事を僕が知ったのはまた後日。

それ以降、僕は『早い』って言葉がトラウマになった・・・









〜後書き〜
東京では梅雨も明け、暑苦しい毎日が続いていますがいかがお過ごしでしょうか?

お久しぶりです、町蔵です。

上手く書ききれた自信・・・ないです。

オチがイマサンだったかなと。

前回、言われてるのがハーリー君だったって事で今回はハーリー君を主役にしてみましたがいかがでしたでしょうか?

本編は思う事があって、少しお休みを・・・というか、サイドストーリーみたいなそうでないような、ちょっとした短編を登場人物ごとに書いていまして・・・

中々筆が進まないです・・・

それでも、出来た分から投稿させていただきますので、待っていてくだされば幸いです。

それでは、代理人様宜しくお願いします。

 

 

代理人の感想

ん〜〜(苦笑)。

この場合オチそのものも問題ですが、それ以上にまずいのは導入じゃないかなぁと思います。

例えばこの冒頭を読んで、ハーリーとルリラピが本当に○○してる、と思う人はいないわけで。

思いはしないけど、ネタがネタだけに身構えちゃうんじゃないかと思うんですよ。

オチというのは相手の不意をついてこそ綺麗に決まります。

だからことさらにオチが弱いように見えるんじゃないかなと。