「ユキナちゃん後ろ！！」

「え？」

アキトの声に振り向いた私の瞳に飛蝗の無機質な赤い目が映った。

「！！」

驚いて私は呆然と固まってしまった、それが戦場では決定的なミスだって知っていたのに。

「くそっ！

　間に合えぇぇぇぇっ！！」

飛蝗から迫撃弾が放たれるのとアキトがこっちに向かって駆け出すのを視界に感じながらも、なんの反応も出来ない

「馬鹿っ早く逃げるのよ！！」

「　　　　あ？」

イネスが耳元で怒鳴ってくれたおかげで自失から復帰できたが、もう無数の迫撃弾が　・　・　・　

「だめっ直撃するわ！」

「っ！！」

イネスが叫び私は瞳を閉じる、その瞬間何かが私達と迫撃弾との間に割って入ったような気がした。

ドガァアアァアァァァアァッッッ！！！

機動戦艦ナデシコ　ファンタジーストーリー

『Ｗｅｌｓｈ』

第９話『孤軍』

「「キャァァアァァッ！！」」

爆風が私とイネスの体を吹飛ばす　・　・　・　

爆風？

どうして？直撃なら爆風なんて感じる間も無く私は死んでるんじゃ？

ドジャッ！

「かはっ」

背中から壁に叩きつけられ肺に残っていた酸素が搾り取られるっ

「痛っ　どうやら　　生きてるみたいね、ユキナちゃん？」

私の巫女服に掴まっていたイネスが頭を振りながら起き上がる。

「　・　・　・　どうにか生きてるわよ」

「それは結構なことね　・　・　・　じゃぁアキトくんは？」

「え　・　・　・　アキト？

　アキトは、あ　・　・　・　居た」

まだしっかりしてない頭であたりを見回すと、結構離れた所にアキトが居るのが見えた。

「　・　・　・　どんな様子？」

まだ爆発のショックが残っているのかイネスが焦点の合わない瞳を向けてくる。

「えぇぇっと、ずたぼろみたい　うごかない、がれきにうまって　・　・　・　・　・　・　えっ？

　アキト！？」

いきなり冷水を浴びせられたような感覚、それと同時に瞳を閉じる瞬間に見えた姿がよみがえる。

「私をかばったの？そんな！！」

飛び起きて駆け出そうとするが、

「ユキナちゃん　右っ！」

「！？　符よ我が問いに答えよ　汝の名は！」

イネスの声に反射的に符を投げ放つ、

『我は束縛符、あらゆる物を絡め取る呪縛の符』

切れる事の無い呪鎖が飛び掛ってこようとしていた飛蝗を雁字搦めにする。

けど、

「　・　・　・　囲まれてる」

辺りは既に十重二十重と飛蝗に囲まれている、

「そうね、おまけにエステバリスもこっちに来るみたいよ」

ほ〜んと、曼珠沙華が首無し騎士みたいに歩いてくるわ。

「はぁ　・　・　・　

　アキトの真似じゃないけど」

「真似？」

「”ムボー”な事するしかないみたいね」

飛蝗と曼珠沙華を突破して、アキトを助ける　・　・　・　

ムボーどころか、正気の沙汰じゃないわね。ホントにっ

「でも、やってやろうじゃないのっ」

袖から数枚の呪符を取り出し構える、

「待ちなさい、私に考えがあるわ」

「なぁに？　今取り込み中だから話は短めにね」

「う゛　・　・　・　わかったわ、短くね」

　・　・　・　イネス、この状況で長々と話すつもりだったの？

「じゃぁ端的に、私をあそこまで連れて行って」

そう言ってイネスが指差したのは　・　・　・　隣の部屋への扉！？

「ちょ、ちょっとっ　なんでそんなとこに行かなきゃならないのよ？

　ちゃんと説明しなさいよぉ！」

「あら　短めにって言ったから、短く言ったのよ」

あ、根に持ってる？

「っと、あまり話してる暇は無いから簡単に言うけど、あの部屋は此処の制御室なの、

　あそこで保安システムを解除すればバッタだけは止まるわ」

　・　・　・　セイギョ？　・　・　・　ほあんしすてむ？　・　・　・　

「よく　・　・　・　わかんないけど、あそこに行けば飛蝗は止まるってことねっ」

「そう言うことよ」

「おっけ〜　少しは勝機が見えてきたわ」

とわ言ったものの隣の部屋に行くには飛蝗の群を通らないといけないのよね〜

　・　・　・　どちみち相手にしなきゃならない事に変わりは無いか、

「破魔巫女見習いシラトリ・ユキナいざ参るっ」

まずわっ

「符よ我が問いに答えよ　汝の名は！」

『我は雷光符、天駆ける紫電の符』

雷光で数匹の飛蝗を黒焦げにし、そのまま飛蝗の群に飛び込む、

こうすれば同士討ちを嫌って、そうそう攻撃できないはずっ

私が動き出すのを待っていたかのように、飛蝗達が動き出す、

符の残りは　・　・　・　ああもぉっどうして爆裂系がこうも多いのよっ

下手に使ったら生き埋めになっちゃうから使えないじゃないの！

あ、いいのみ〜っけっ

「符よ我が問いに答えよ　汝の名は！」

『我は粘着符　・　・　・　つまりハエトリガミ』

ビシャッ　べとべとべとべとべとぉぉ〜〜〜

らっき〜〜　１０匹近くくっついた♪

「　・　・　・　」

「なによ、文句あるのイネス」

「非常識ね」

「役に立ってるからそれでよしっ」

ハエトリガミに捕まって動きがとれなくなった飛蝗を軽く飛び越える。

「けど、まだたくさんいるぅ」

「仕方ないでしょ『異跡』中のバッタが集まって来てるんだから、

　まだまだ来るわよ」

はぁ〜　わかってたけど　辛いなぁ

向こうもそうやたらと迫撃弾を撃ってこないのが救いと言ったら救いね

「倒すより、道を作る方に徹した方がいいかな」

「そうね、その方がいいでしょうね」

風系の符があれば吹き飛ばすんだけど、持って来てないし。

　・　・　・　いっそ爆裂系使っちゃおうかな、

「変なこと考えたらダメよ」

「ちっ」

「第一考えてる暇無いわよ」

正面にいた飛蝗群が一斉に飛び掛ってきた！？

「このぉ〜〜っ」

走ってた勢いのままスライディングで飛蝗の下を潜り抜け　・　・　・　ぇぇええ！！

ガンッ

「う゛う゛机の柱にぶつかったぁ」

「馬鹿っ　早く立ちなさい！」

「ぶぅ　一生懸命やってるのにっ　　ん？　この机って紙の束ばかり入ってる　・　・　・　

　符よ我が問いに答えよ　汝の名は！」

『我は小爆符、ちょっとした物を吹飛ばす小破壊の符』

ボンッ　　　　バサバサバサバサッ

机に詰まっていた紙の束吹き飛んで部屋中に舞う。

「きれーな　紙吹雪ぃぃ♪」

「目晦ましね　いいアイデアだわ」

「もっと誉めてぇ〜　さっ今のうちに行くわよっ　　って」

キャシャァァ！！

「邪魔するなぁ〜〜〜！」

げしっ

紙吹雪の中から飛び掛ってきた飛蝗を踏み台にして跳躍っ

そのまま空中で一回転して扉の前に着地ぃ〜

「お見事、１０．００　ってところかしら？」

「とーぜん！」

「でも１つだけ忠告しておくわ」

？　なんだろう？

「巫女袴であまりアクロバティックな事しないほうが良いわよ、

　幸い、此処にはそんな事気にするのはいなかったけど」

？　・　・　・　・　・　・　ハッ！！

「う、うきゅぅ〜〜」

「ハイハイ、じゃ　しばらく此処でバッタが中に入らないように守ってなさい」

「え？」

「え？　じゃないでしょ、３分もかからないからしっかりね」

あ、中に入っていった、此処を守るねぇ

ゆっくり　ゆっっっっくりと後を振り返る、

ギャシャギャシャギャシャ　　ガシャンガシャンガシャン

　・　・　・　

「それって今までより大変なんじゃ　・　・　・　ない？」

ヴゥゥゥン　・　・　・　

４枚の透明な羽を羽ばたかせ、イネスは一気に制御室のコンソールに飛びつく。

「エマージェンシーを立ち上げれば自動的に保安システムは停止する、

　早くスイッチを　・　・　・　」

ペチッ

「　・　・　・　」

エマージェンシー立ち上げのスイッチ、当然のことながら間違って押さないようにスイッチの上にガードがかかっている。

人間なら力を込めて押せばなんの問題も無いのだが　・　・　・　

バシッ　ビシッ　ゲシッ　ドゲシッ　ガンガンガンッ

「ハァ　ハァ　ハァ　ハァ　ハァ」

イネスのような非力な妖精には鉄壁の壁となっていた。

「ああっ　もうこんな時だって言うのに！！

　いいわ、これならどうっ」

羽をはためかせ天井付近まで飛び上がると、

「イネスちゃんキィィィィィクッ！！」

ガキンッ！

気合一発鉄壁粉砕

パッ　パパパパパッ

それまで死んでいたかのように沈黙していた制御室内のモニターに一気に光が灯る。

２・３度点滅を繰り返すとエマージェンシーを示す文字がモニターに表示され、同時に警報が鳴り響き始める。

「ふぅ　これでガードロボットのバッタは止まったわ」

モニターをチェックして保安システムが解除されているのを確認すると、息を吐く。

「エステバリスももうバッテリー切れで止まってる筈ね」

後はアキトくんを助けて　・　・　・　っと思考を走らせていると、

ゴガァァン！！

突然制御室の壁の一部が吹き飛んだ、

「な、なに！？」

振り返った先に見えたのは、

壁に突き刺さった鋼鉄の拳　・　・　・　ワイヤードフィストと崩れた壁の向こう側に立つエステバリスの姿。

「痛ぅぅ　・　・　・　」

そして吹き飛ばされてきたであろうユキナが部屋の中央部に倒れていた。

「ユキナちゃん！」

慌ててユキナの元に飛んでいく。

「イ、イネス？」

弱々しくユキナが立ち上がる。

「カハッ　障壁符で防いだから　・　・　・　大丈夫」

「どこが大丈夫だって言うのっ

　立ってるのもやっとじゃないの」

ワイヤードフィストを受けたにしてはダメージが少ないが、イネスの言うとおり立ち上がることすら難しい状態だった。

「そ、それより飛蝗は？」

「それは心配要らないわ、もう止まってる」

「そう、なら後は曼珠沙華だけね　・　・　・　」

そう言ってエステバリスを睨むが、

「そんな状態でどうしようって言うのっ

　だけど、どうしてまだエステバリスが稼動できるの？」

もうバッテリーの残量は無くなっている筈なのに、そう思いあらためてエステバリスを見る、

「　・　・　・　あれは！！」

そして気づいた、エステバリスの外観が変わっている事に、

「バッタの動力炉からエネルギーを得てるって言うのっ！？」

丁度エステバリスの肩や頭部に数機のバッタが取り付き、そしてバッタから伸びたチューブがエステバリスに接続されている。

「くっ　・　・　・　迂闊だったわ、まさかそんな事をするなんて」

安物サブＡＩのくせに、そう呟き唇を噛む、

ヴゥン！

破損した頭部の替わりのように取り付いているバッタの目が赤く光り、

ドシュッ！！

動けないユキナに向かってワイヤードフィストが打ち出された。

「こ、こんな所で　・　・　・　」

「長かったけど薄い一生だったわね」

ゴガァァン！！

「「　・　・　・　？」」

ワイヤードフィストが何かを破壊した音が響いたが衝撃は来ない。

『　・　・　・　それたのかしら？　でもどうして』

閉じていた瞳をゆっくりと開けると、

「計らずも『間一髪』　・　・　・　だったかな」

黒い日本刀を構えた青年が立っていた。

「アキト（くん）っ」

第１０話へ

代理人の感想

ハエトリガミって（汗）。

どこの誰が作ったんだ、そんなお札（爆）

・・・でも日本刀だったんですね、ブラックサレナ。